説明

アルミニウム及びその合金用変色防止剤及び該変色防止剤を含有したアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤

【課題】 アルミニウム及びその合金は、アルカリ領域においては、腐食・変色を受け易い素材であり、アルカリ領域で変色を防止する剤が望まれている。例えば、一般的に水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤は、防錆性や防腐性を持たせるため、pHは9〜13程度に設定されており、このようなpH領域においても良好な変色防止性能を示すと共に、油剤や洗浄剤への良好な溶解性を示し、製品安定性のよい変色防止剤を提供する。
【解決手段】 炭素数14〜22の不飽和脂肪酸と無水マレイン酸又はアクリル酸との熱による付加反応生成物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有するアルミニウム及びその合金用変色防止剤及び該変色防止剤を含有する水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム及びその合金の変色防止剤及び該変色防止剤を含有したアルミニウム及びその合金用の水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤に関する。更に詳しくは、アルミニウム、及びその合金の加工時や加工後の放置期間に発生する被削材の変色を防止する水溶性加工油剤、加工後の被削材洗浄後の放置期間に発生する変色を防止する水溶性洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは両性金属であり、酸にもアルカリにも腐食を受け易い素材である。水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤は、通常、防錆性や防腐性を持たせるために、アルカリ性領域pH=9〜13程度に設定されているため、アルミニウムやその合金は、腐食され黒色に変色を起こしてしまう。
【0003】
従来から、アルミニウムやアルミニウム合金の変色や腐食防止のための対策が種々提案されてきた。例えば、1)pHを中性領域をpH=7.5〜8.5まで下げて変色を抑制する方法、2)変色防止剤としてメタ珪酸ソーダ等の無機塩を添加する方法、3)フェノール、リン酸エステルあるいは油溶性のアミド化合物等の有機の変色防止剤を用いる方法が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、1)pHを中性領域まで下げた場合では防錆性、防腐性などが低下し、発錆、腐敗の問題が生じ、2)メタ珪酸ソーダ等の無機塩の変色防止剤は、長期の腐食防止性がなく、又原液中でこれらの無機塩の安定性が非常に悪く、析出するという欠点があり現在では使用が少ない。また、3)有機系のフェノールは、消防法の指定可燃物、可燃性固体類、毒劇物取締法の劇物や薬事法の劇薬指定医薬品等に該当し、環境への影響及び作業者に対する安全性の点で問題がある。りん酸エステル等のりん系付加反応化合物は、液のpHが9以上になると効果が低下すること、りんが栄養源となり液が腐敗するという問題がある。また、油溶性のアミド付加反応化合物は、水への可溶化に界面活性剤等を必要とし発泡の危険性がある等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、良好なアルミニウム及びその合金の変色防止性を持つ化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、アルミニウム及びその合金用変色防止剤及び該変色防止剤を含有したアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤に関する。
1.炭素数14〜22の不飽和脂肪酸と無水マレイン酸またはアクリル酸との熱による付加反応生成物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
2.上記項1に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤。
3.上記項1に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤。
4.炭素数14〜22の不飽和脂肪酸が、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸の群より選ばれる少なくとも1種である上記項1に記載のアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
5.上記項4に記載の変色防止剤を含有する上記項2に記載のアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤。
6.上記項4に記載の変色防止剤を含有する上記項3に記載のアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるアルミニウム及びその合金の変色防止剤は、アルカリ性領域pH8.5〜11において良好な変色防止性を示し、水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤への調合においても、良好な溶解性を示し、安定に配合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いる炭素数14〜22の不飽和脂肪酸とは、不飽和結合の数は特に問わないが、一般には、モノエンからトリエンの不飽和脂肪酸である。
【0009】
モノエン不飽和脂肪酸として例を示すと、cis−4−テトラデセン酸(ツズ酸)、cis−5−テトラデセン酸(フィゼテリン酸)、cis−9−テトラデセン酸(ミリストレイン酸)、cis−6−ヘキサデセン酸、cis−9−ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、cis−6−オクタデセン酸(ペトロセリン酸)、cis−9−オクタデセン酸(オレイン酸)、trans−9−オクタデセン酸(エライジン酸)、cis−11−オクタデセン酸(アスクレピン酸)、trans−11−オクタデセン酸(バクセン酸)、cis−9−エイコセン酸(ガドレイン酸)、cis−11−エイコセン酸(ゴンドレイン酸)、cis−11−ドコセン酸(セトレイン酸)、cis−13−ドコセン酸(エルカ酸)、trans−13−ドコセン酸(ブラシジン酸)、cis−15−テトラコセン酸(セラコレイン酸)、cis−17−ヘキサコセン酸(キシメン酸)、cis−21−トリアコンテン酸(ルメクエン酸)等が挙げられる。
【0010】
ジエン不飽和脂肪酸として例を示すと、cis−9,cis−12−オクタデカジエン酸(リノール酸)、trans−10,trans−12−オクタデカジエン酸等が挙げられる。
【0011】
トリエン不飽和脂肪酸として例を示すと、6,10,14−ヘキサデカトリエン酸(ヒラゴ酸)、cis−9,trans−11,trans−13−オクタデカトリエン酸(α−エレオステアリン酸)、trans−9,trans−11,trans−13−オクタデカトリエン酸(β−エレオステアリン酸)、cis−9,trans−11,cis−13−オクタデカトリエン酸(プニカ酸)、cis−9,cis−12,cis−15−オクタデカトリエン酸(リノレン酸)、cis−6,cis−9,cis−12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)、8,11,14−エイコサトリエン酸、7,10,13−ドコサトリエン酸等が挙げられる。
【0012】
脂環式脂肪酸の例を示すと、ヒドノカルピン酸、ショールム−グリン酸、ゴルリン酸等が挙げられる。
【0013】
また、不飽和脂肪酸中にヒドロキシル基をもっていてもよいが、この場合は、まず、定法によりメチル化し、ヒドロキシル基を封鎖した後、無水マレイン酸、又はアクリル酸と反応させ、次いで、ヒドロキシル基に戻すという操作を行う。
【0014】
含ヒドロキシ不飽和脂肪酸としては、12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸(リシノール酸)、18−ヒドロキシ−9,11,13−オクタデカトリエン酸等が挙げられる。
【0015】
特に好ましい不飽和脂肪酸は、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸及びリノール酸である。
【0016】
一般的な本発明による熱による付加反応化合物の合成法を示す。
[合成法]
炭素数14〜22の不飽和脂肪酸と無水マレイン酸、又はアクリル酸との反応は、加熱によって行い、通常、常圧で200〜250℃の無溶媒で行う。
【0017】
炭素数14〜22の不飽和脂肪酸と無水マレイン酸、またはアクリル酸との反応比率は、無水マレイン酸、またはアクリル酸を当量以上、通常は1.3当量から3当量の過剰使用し、反応終了後、過剰分は昇華除去あるいは留去させて除去してもよく、あるいは、クロマトグラフィー等で精製してもよい。あるいは、そのまま後の中和工程で中和してもよい。反応の終点の判定は、H−NMRを用い付加反応により不飽和酸の二重結合のピークが消滅(付加反応化合物に起因するする二重結合のピークが現れる)する時点をもって行った。
【0018】
上記反応物は、定法の方法でアルカリ金属、アンモニアまたはアミンで中和すればよい。
【0019】
アルカリ金属としてはナトリウムおよびカリウムが、特に好ましく、また、これらは所望により適宜併用してもよい。
【0020】
アミンとしては、炭素原子数1〜5のアルキルアミン(例えば、エチルアミン、プロピルアミン等)、炭素原子数2〜10のアルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン等)、モルホリン、炭素原子数5〜20のシクロアルキルアミン(例えば、ジシクロヘキシルアミン等)、3,3-ジメチルプロパンジアミン等から調製される上記二塩基酸のアミン塩が例示されるが、特に好ましくは、アルカノールアミンである。これらのアミン塩は所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0021】
本発明による変色防止剤は、単独で用いてもよいが、好ましくは、中和に用いるアルカリ金属及び/又はアミンと併用して用いるとよい。特にアルカノールアミンが好ましい。本発明による付加反応化合物とアルカリ金属又はアミンとの比率(モル比)は、好ましくは1:2〜1:20、特に好ましくは1:5〜1:10になるように配合する。該モル比が1:2よりも大きくなると可溶化が困難となって十分な変色防止性が発揮されず、また、該モル比が1:20よりも小さくなると、水性変色防止剤のpHが過度に高くなり、アルミニウムまたはその合金の腐食がもたらされるだけでなく、作業衛生上の問題(例えば、呼吸器系等の刺激や肌荒れ等)ももたらされる。
【0022】
本発明の付加反応化合物の塩の使用時の濃度は、一般的に0.01〜10重量%が好ましい。より好ましくは、0.03重量%以上である。特に好ましくは、0.05重量%以上である。0.01重量%より低いと十分な性能が見られず、また、10重量%以上では、変色防止性および潤滑性の効果は増大せず、経済的に好ましくない。
【0023】
本発明によるアルミニウム及びその合金の水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤として用いる場合は、液のpHを8〜11、特に、8.5〜10に調整するのが好ましく、pHが8よりも小さくなると、酸が析出しやすくなり、また、pHが11よりも高くなると、性能が低下する。
【0024】
本発明による変色防止剤を水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤に配合して用いるときは、通常全体の1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%である。尚、水溶性加工油剤、或いは水溶性洗浄剤には、所望により鉱物油、動植物油、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、防錆剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0025】
尚、通常これら水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤は、一般的には水に希釈して使用される。希釈倍率は、一般には5〜100倍に希釈して使用されるが、被削材の材質等に応じて適宜選定すればよいが、希釈時の本発明の付加反応化合物の濃度は、0.05〜10重量%である。濃度が0.05重量%より低いと十分な性能が示されない。また、10重量%を超えると効果は増大せず経済的に好ましくない。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
[付加反応物(略号:E−M)の合成1(エルカ酸と無水マレイン酸の反応)]
エルカ酸5.83g(0.0172モル)と無水マレイン酸2.50g(0.0255モル)を丸底フラスコに取り、無溶媒で230℃〜250℃で還流しながら5時間半攪拌した。この時点で、H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl)を用いて反応物のスペクトルを計測し、エルカ酸の二重結合の吸収5.30ppm−5.38ppmがなくなった時点(この時、エルカ酸の二重結合の吸収は、5.05ppm−5.14ppmと5.36ppm−5.61ppmへの移動が見られた。)を終点とした。ついで、230℃で無水マレイン酸を留去した後、更にシリカゲルクロマトグラフィー(Hexane:EtOAc=2:1)で精製した。
【0028】
[付加反応化合物の合成2〜9]
表1に示した成分を用いて合成1と同様の方法により合成を行った。
【0029】
【表1】

【0030】
表2には表1と同じように比較例に用いた付加反応化合物を示した。
【0031】
【表2】

【0032】
[実施例1〜18]
表3及び表4に示した配合組成の試験液を調製し、以下に示す評価方法により変色防止性を評価した。
【0033】
[評価方法]
表3及び表4に示した試験液に、試験片(ADC−12(アルミダイカスト合金)をアセトン脱脂後、耐水ペーパーで研磨し、再度、アセトン脱脂したもの)を試験液に半浸漬し、24時間後の試験片の変色状態を目視で観察した。結果を表3及び表4に示した。
判定基準
◎:変化なし
○:微変色
△:淡灰変
×:濃灰変〜黒変
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
[実施例19〜27]
表5に示した配合組成のケミカルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表5に示した。
【0037】
【表5】

【0038】
[実施例28〜36]
表6に示した配合組成のソルブルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表6に示した。
【0039】
【表6】

【0040】
[比較例1〜19]
表7から9に示す試験液を調整し、実施例と同様に試験を行い評価した。結果を表7から9に示した。表7は、アルカノールアミンタイプであり、表8は、ケミカルタイプの加工油剤、表9は、ソルブルタイプの加工油剤である。
【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金のアルカリ領域における変色を防止するのに有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数14〜22の不飽和脂肪酸と無水マレイン酸またはアクリル酸との熱による付加反応生成物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項2】
請求項1に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤。
【請求項3】
請求項1に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤。
【請求項4】
炭素数14〜22の不飽和脂肪酸が、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸の群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項5】
請求項4に記載の変色防止剤を含有する請求項2に記載のアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤。
【請求項6】
請求項4に記載の変色防止剤を含有する請求項3に記載のアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤。

【公開番号】特開2006−9105(P2006−9105A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189148(P2004−189148)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】