説明

アルミニウム合金のめっき前処理方法

【課題】 平滑なめっき皮膜であって、アルミニウム合金に対して良好な密着性のめっき皮膜を形成することができるアルミニウム合金のめっき前処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明のめっき前処理方法10は、酸として硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物を用いて、被めっき処理物であるアルミニウム合金材を酸エッチングする工程13と、この酸エッチングしたアルミニウム合金材のデスマット処理を行う工程14と、デスマット処理したアルミニウム合金材を第1および第2の亜鉛置換処理する工程15、17と、この亜鉛置換処理の間に、硫酸と過硫酸水素カリウムの混合物を用いて、アルミニウム合金材を酸浸漬処理する工程16を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金のめっき前処理方法に関し、更に詳しくは、アルミニウム合金製シリンダ(AC4B材やAC4C材など)のボア内面へめっきする際のめっき前処理に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金のめっき前処理の代表的なものとして、亜鉛置換処理を2回実施するダブルジンケート法などがある。このようなめっき前処理では、通常、亜鉛置換処理を行う前に、アルミニウム粗材の表面の油分や自然酸化膜を除去するためのエッチング処理や、このエッチングで生じたスマットを除去するためのデスマット処理が行われている。また、ダブルジンケート法では、2回の亜鉛置換処理の間に、酸浸漬処理が行われている。
【0003】
従来のエッチング処理やデスマット処理では、アルミニウム合金粗材を著しく浸食し、素材とめっき皮膜の界面の凹凸が大きくなるため、めっき皮膜を平滑に形成し難いという問題がある。また、粗材表面の浸食反応が大きいために金属組織の影響を受け易く、亜鉛置換処理で形成される亜鉛粒子のサイズが不均一になることにより、めっきの密着性が安定しないという問題がある。
【0004】
また、例えば、特許第3297860号公報や特開平5−65657号公報には、エッチング処理の薬品として、硝酸と硫酸と任意のフッ化アンモンとの混合物を使用することが記載されている。また、特許第3033455号公報には、水酸化アルカリを用いたエッチング処理と、硝酸水溶液への浸漬処理、亜鉛置換処理の間にも硝酸を使用した酸浸漬処理を行うことが記載されている。このようにアルミニウム合金のめっき前処理に硝酸が大量に使用されており、これによる環境影響が大きな問題となっている。排水処理する場合にも、硝酸性窒素の処理に多くの時間とコストがかかっており、これも課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3297860号公報
【特許文献2】特開平5−65657号公報
【特許文献3】特許第3033455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、平滑なめっき皮膜であって、アルミニウム合金に対して良好な密着性のめっき皮膜を形成することができるアルミニウム合金のめっき前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係るアルミニウム合金のめっき前処理方法は、酸として硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物を用いて、被めっき処理物であるアルミニウム合金材を酸エッチングする工程と、前記酸エッチング工程の後、前記アルミニウム合金材を亜鉛置換処理する工程とを含むことを特徴とするものである。前記酸エッチング工程において、酸として硫酸単独の酸エッチング液を使用する場合、酸エッチング液中の硫酸濃度は10体積%以上が好ましい。
【0008】
本発明に係るめっき前処理方法は、前記酸エッチング工程と、前記亜鉛置換処理工程との間に、リン酸と過酸化水素の混合物を用いて、前記酸エッチングしたアルミニウム合金材のデスマット処理を行う工程を更に含むことが好ましい。
【0009】
本発明に係るめっき前処理方法は、前記亜鉛置換処理をする工程が、少なくとも2回の亜鉛置換処理を行うものであり、この2回の亜鉛置換処理の間に、硫酸と過硫酸水素カリウムの混合物を用いて、第1の亜鉛置換を行ったアルミニウム合金材を酸浸漬処理する工程を更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記したところから明らかなように、本発明によれば、酸として硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物を用いて酸エッチングを行うことで、従来の硝酸を用いた技術に比べてアルミニウム合金の粗材表面の凹凸を小さくできるため、めっき皮膜を平滑に形成させることができる。また、アルミニウム合金粗材の金属組織サイズに違いがある場合においても、亜鉛置換処理により析出する亜鉛粒子サイズを微細で均一化できる。これにより、密着性の良好なめっき皮膜を得ることができる。さらに、本発明の酸エッチングでは硝酸を使用しないため、排水処理の負担および環境影響を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金のめっき前処理方法の一実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る前処理方法を行ってめっき皮膜を施したアルミニウム合金の断面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】従来の前処理法を行ってめっき皮膜を施したアルミニウム合金の断面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る前処理方法を行った後のアルミニウム合金の表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係る前処理方法を行った後のアルミニウム合金の表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】従来の前処理方法を行った後のアルミニウム合金の表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】従来の前処理方法を行った後のアルミニウム合金の表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るアルミニウム合金のめっき前処理方法の一実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態のめっき前処理10は、脱脂11、酸エッチング13、デスマット14、第1亜鉛置換15、酸浸漬16、第2亜鉛置換17の順で行われる。めっき前処理10が完了した後、めっき処理20が行われる。なお、被めっき処理物としては、AC4BやAC4C等のアルミニウム合金製のシリンダが好ましい。以下、被めっき処理物をワークと呼ぶ。各工程について詳細に説明する。
【0014】
脱脂11は、機械加工等によりワークへ付着した油分を除去する工程である。例えば、キザイ社製の中性脱脂剤マックスクリーンNG−30を濃度40g/L、液温50℃に調整した水溶液へワークを浸漬し、揺動もしくは超音波洗浄することができる。処理時間は、ワークの汚れ度合いによって調整することができる。
【0015】
酸エッチング13は、ワーク最表面を所定量浸食することにより、アルミニウム合金粗材の表面の自然酸化膜や汚れを除去する工程である。本発明では、酸エッチング液としては、酸として硫酸を単独で用いるか、硫酸とフッ化アンモニウムの混合物を用いる。この硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムの混合物による酸エッチングは、アルカリエッチングに比べて、アルミニウム合金素材を溶解する浸食反応がマイルドであり、スマット発生量が少ない。そのため、後工程のデスマット14への負担が少なく、劣化し難いため、液寿命が伸びる効果がある。また、シリコン含有アルミニウム合金においては、エッチングで溶解できないシリコン相が表面に残留するが、このシリコン上には亜鉛置換処理時に亜鉛粒子が析出しないため、めっき皮膜の密着不良を発生する可能性が高くなってしまう。そのため、シリコン含有アルミニウム合金については、シリコン相が残留し過ぎない硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムの混合物による酸エッチングが有効である。
【0016】
硫酸を単独で使用した酸エッチングでは、めっき皮膜の良好な密着性を得るため、酸エッチング液中の硫酸濃度は10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。なお、硫酸濃度の上限は、特に限定されないが、70体積%以下が好ましい。また、硫酸にフッ化アンモニウムを加えることが好ましい。硫酸とフッ化アンモニウムの混合物による酸エッチングでは、めっき皮膜の優れた密着性を得るため、硫酸濃度およびフッ化アンモニウム濃度はそれぞれ10g/L以上が好ましい。なお、硫酸濃度とフッ化アンモニウム濃度は、異なっていても、同じであってもよい。硫酸濃度とフッ化アンモニウムとの濃度の比は、これに限定されないが、例えば、1:1から1:10の範囲にすることが好ましい。なお、硫酸濃度とフッ化アンモニウム濃度の上限は、特に限定されないが、それぞれ300g/L以下および600g/L以下が好ましい。
【0017】
また、硫酸を単独で使用する酸エッチングでは、めっき皮膜の良好な密着性を得るため、処理液温度は40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。なお、処理液温度の上限は、特に限定されないが、80℃以下が好ましい。また、硫酸にフッ化アンモニウムを追加することで、処理液温度が25℃(室温)でも、めっき皮膜の密着性を良好なものにすることができる。よって、硫酸とフッ化アンモニウムの混合物による酸エッチングでは、処理液温度は25℃以上が好ましい。
【0018】
硫酸を単独で使用した酸エッチングでは、処理時間は、めっき皮膜の良好な密着性を得るため、2分以上が好ましく、4分以上がより好ましい。処理時間の上限は、特に限定されないが、15分以下が好ましい。また、硫酸にフッ化アンモニウムを追加することで、処理時間が1分でも、めっき皮膜の密着性を良好なものにすることができる。よって、硫酸とフッ化アンモニウムの混合物による酸エッチングでは、処理時間は1分以上が好ましい。また、処理時間の上限も、4分以下が好ましい。
【0019】
このように、硫酸とフッ化アンモニウムを混合した水溶液を酸エッチングに使用することで、硫酸単独の酸エッチングに比較して、低い温度で良好な密着性が得られるため、加熱の必要が無く、また、短い処理時間で良好な密着性が得られることより、生産性を高めることができる。
【0020】
なお、ワークの汚れが著しく酷い場合やアルミニウム合金表面の自然酸化膜が強固な場合は、図1に示すように、酸エッチング13の前にアルカリエッチング12を実施してもよい。アルカリエッチング12により、汚れや自然酸化膜が除去され、良好な亜鉛置換処理やめっき処理を実施することができる。アルカリエッチング液としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いることができ、例えば、市販品としては、ヘンケルジャパン社製のエッチング剤P3T651−7等を使用することができる。濃度、温度、処理時間も、特に限定されないが、例えば、濃度50g/L、温度50℃、浸漬時間3分とするができる。
【0021】
デスマット14は、エッチングによってワーク表面に発生するスマット(黒色物)を除去して、清浄な表面にする工程である。デスマット14に使用する薬品としては、リン酸と過酸化水素の混合物を使用する。デスマット液に硫酸や塩酸、フッ酸を混合した場合は、アルミニウム合金表面を浸食するエッチング反応が起こるため、スマットが増加してしまい、スマットの除去はできない。また、本発明のデスマット処理は、従来の混酸処理(硝酸+フッ酸)のようにアルミニウム合金中の共晶シリコン相を溶解しない。そのため、図2のように、アルミニウム合金31の粗材表面から共晶シリコンが突出した状態となる。この突出した共晶シリコンがめっき皮膜との橋掛けの役割をするため、密着性を高める効果が得られる。
【0022】
スマットを適正に除去するには、デスマット液中のリン酸濃度は、85wt%のリン酸水溶液で換算して、100mL/L以上が好ましく、またデスマット液中の過酸化水素濃度は、35wt%の過酸化水素水で換算して、40mL/L以上が好ましい。リン酸と過酸化水素との濃度の比は、これに限定されないが、例えば、10:1から1:1の範囲にすることが好ましい。なお、リン酸濃度と過酸化水素濃度の上限は、特に限定されないが、それぞれ上記のwt%で換算して、500mL/L以下および500mL/L以下が好ましい。
【0023】
デスマットの処理時間は、スマットを適正に除去するために、0.5分以上が好ましく、1分以上がより好ましい。なお、処理時間の上限は、特に限定されないが、15分以下が好ましい。また、デスマット液の温度は、特に限定されないが、20〜40℃の通常の室温の範囲で行うことができる。
【0024】
第1の亜鉛置換15は、アルミニウム材のめっき前処理として一般的に行われており、ワーク最表面へ亜鉛粒子を置換析出させる工程である。第1の亜鉛置換15で使用するジンケート液は、特に限定されず、市販のジンケート液(例えば、水酸化ナトリウム、酸化亜鉛、ロッシェル塩及び塩化鉄の混合水溶液)を用いることができる。ジンケート液の液温も、特に限定されず、例えば、20〜35℃の室温の範囲でよい。また、処理時間も、特に限定されず、例えば、5秒から3分の範囲で良い。
【0025】
酸浸漬16は、第1の亜鉛置換15でアルミニウム合金製のワーク表面に析出した亜鉛粒子を溶解、剥離、除去する工程である。この場合、亜鉛のみを溶解剥離し、アルミニウム合金を浸食しないことが重要である。もしもアルミニウム合金を浸食し、エッチング反応が起こると、スマットが発生し、めっき皮膜の密着性が低下するからである。
【0026】
硫酸単独による酸浸漬処理では、硫酸濃度を著しく薄くした条件においても亜鉛の溶解とともにアルミニウム合金のエッチング反応が起こり、密着性が良好なめっき皮膜は得られない。そこで、エッチング反応を抑制する効果を有する過硫酸水素カリウムを添加することで、上記不具合を改善することができる。硫酸濃度は5〜100mL/Lの範囲が好ましく、過硫酸水素カリウム濃度は5〜100g/Lの範囲が好ましい。なお、これら濃度が高いとエッチングが発生する可能性があるため、硫酸濃度は5〜50mL/Lの範囲がより好ましく、過硫酸水素カリウム濃度は5〜50mL/Lの範囲がより好ましい。
【0027】
硫酸と過硫酸水素カリウムを混合した水溶液の温度は、めっき皮膜の良好な密着性を得るため、25〜70℃の範囲が好ましく、25〜50℃の範囲がより好ましい。また、処理時間は、めっき皮膜の良好な密着性を得るため、30秒以上が好ましい。なお、処理時間の上限は、特に限定されないが、15分以下が好ましい。
【0028】
第2の亜鉛置換17は、再度、ワーク最表面に亜鉛粒子を析出させる工程である。第2の亜鉛置換17で使用する薬品も、第1の亜鉛置換15と同様に、市販のジンケート液を用いることができる。第1の亜鉛置換15と第2の亜鉛置換17とで同じ薬品を使用することができる。第2の亜鉛置換17のジンケート液の液温も、特に限定されず、例えば、20〜35℃の室温の範囲でよい。第2の亜鉛置換17の処理時間は、特に限定されないが、第1の亜鉛置換15の処理時間よりも短くてよく、例えば、5秒から3分の範囲で良い。亜鉛置換を2回行うことで表面電位が均一化し、微細な亜鉛粒子を均一に析出させることができる。
【0029】
このようにしてめっき前処理10が完了したら、引き続いて、めっき処理20を行う。めっきには様々な種類があり、本発明はこれに限定されないが、電気ニッケルめっきの例について説明する。めっき液は代表的なものとして、ワット浴が使用できる。その組成は、硫酸ニッケル200〜600g/Lと、ホウ酸35〜55g/Lと、50%次亜リン酸1〜5g/Lと、サッカリンナトリウム1〜5g/Lを含む。また、エンジン用シリンダへ適用する場合には耐摩耗性を向上させるため、炭化ケイ素(SiC)粒子を添加することが好ましい。めっき液温度は40〜80℃が好ましく、pHは1〜5が好ましい。電流条件としては、例えば、ワークを−極、電極を+極とし、電流密度5〜100A/dm2で5〜50分間通電するとニッケルめっきを施すことができる。
【0030】
このようにめっき前処理10を行った後、めっき処理20を行うことで、特に、酸エッチング13は、従来のようなアルミニウム合金の表面を著しく浸食することなく、油汚れや自然酸化膜の除去が可能なため、図2に示すように、アルミニウム合金粗材31とめっき皮膜33との界面の凹凸を小さくすることできる。これにより、めっき皮膜を平滑に形成することができ、装飾めっきに好適であるとともに、その他めっきにおいてもめっき後の加工代や研磨代を低減することができる。一方、従来の硝酸を用いた酸エッチングでは、図3に示すように、アルミニウム合金粗材31とめっき皮膜33との界面の凹凸が大きく、平滑なめっき皮膜を形成することはできなかった。
【0031】
また、アルミニウム合金鋳物は製品の肉厚や金型温度分布などの影響より、一つのワーク内においても金属組織の大きい箇所と小さい箇所を有している場合が多い。従来は、アルミニウム合金の粗材表面の浸食反応が大きいために、金属組織の影響を受け易く、図6及び図7に示すように金属組織の大きい箇所では亜鉛置換処理で形成される亜鉛粒子のサイズが粗大化し易く、金属組織の小さい箇所では亜鉛粒子が微細になる傾向があった。亜鉛粒子は微細で均一なものがめっき皮膜を密着させる上で適しており、上記のように亜鉛粒子の粗大化する箇所は密着性が低下し、めっきが剥離するという問題があった。
【0032】
これに対し、本発明の酸エッチング13は、アルミニウム合金の粗材表面をほとんど浸食せず、金属組織の大小の影響を無視できるため、図5及び図6に示すように、ワーク内のどの箇所においても微細で均一な亜鉛粒子を形成することができる。これにより、ワーク内の全ての箇所において、良好な密着性を有するめっき皮膜を得ることができる。さらに、本発明のめっき前処理10は、各工程で使用する硝酸を全廃若しくは大幅に削減できるため、排水処理の負担および環境影響を軽減することができる。
【実施例】
【0033】
以下の手順でめっき前処理およびめっき処理を実施して、アルミニウム合金(AC4B)のワークにめっき皮膜を形成し、そのめっき皮膜の密着性を評価する試験を行った。なお、密着性の評価方法としては、JIS H8504押出し試験方法により行った。
【0034】
脱脂は、キザイ社製の中性脱脂剤マックスクリーンNG−30を濃度40g/L、液温50℃に調整した水溶液へワークを浸漬することで行った。酸エッチングは、市販の濃硫酸を濃度30体積%、液温70℃に調整した水溶液へ時間2分を目安としてワークを浸漬することで行った。デスマットは、工業用リン酸(85wt%)を濃度200ml/L、過酸化水素水(35wt%)を濃度40ml/Lとなるように混合した水溶液を使用した。このデスマット液へワークを室温(25℃程度)で処理時間2分を目安として浸漬した。
【0035】
第1の亜鉛置換は、キザイ社製のスーパージンケートプロセスSZIIを、室温(25℃程度)で処理時間30秒を目安としてワークを浸漬することで行った。酸浸漬は、市販の濃硫酸15ml/Lと過硫酸水素カリウム45g/Lを混合した水溶液へ、室温(25℃程度)で処理時間30秒を目安としてワークを浸漬することで行った。第2の亜鉛置換は、第1の亜鉛置換と同じ薬品を使用して、室温(25℃程度)で処理時間15秒を目安としてワークを浸漬することで行った。
【0036】
めっき処理は、電気ニッケルめっきを行った。用いたワット浴の組成は、硫酸ニッケル500g/L、ホウ酸40g/L、次亜リン酸(50wt%)1g/L、サッカリンナトリウム3g/Lである。めっき液温度は65℃、pH4、電流密度100A/dm2で通電した。これにより得られためっき皮膜は、図2に示すように、皮膜とアルミニウム合金との界面の凹凸が小さく、良好な密着性を示した。
【0037】
酸エッチングの処理条件として、硫酸濃度を10〜30体積%の範囲で変化させた場合と、処理液温度を30〜70℃の範囲で変化させた場合と、処理時間を1〜12分の範囲で変化させた場合についても試験を行った。それらの結果を表1〜表3に示す。なお、密着性の評価は、×が不可、△が可、○が良、◎が優を示す。表1に示すように、硫酸濃度を10体積%まで薄くしても、アルミニウム合金に密着しためっき皮膜を得ることができた。また、表2に示すように、液温度を40℃まで低くしても、アルミニウム合金に密着しためっき皮膜を得ることができた。処理時間については、表3に示すように、1分でも可能であるが、処理時間を長くすることで、密着性を向上することができた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
酸エッチングの処理条件として、硫酸にフッ化アンモニウムを加え、硫酸濃度およびフッ化アンモニウムを10〜100g/Lおよび10〜200g/Lの範囲で変化させた場合と、処理液温度を25〜60℃に変化させた場合と、処理時間を1〜8分に変化させた場合についても試験を行った。それらの結果を表4〜表6に示す。表4に示すように、上記の濃度範囲内では、いずれの場合も優れた密着性のめっき皮膜を得ることができた。また、表5に示すように、液温度を25℃まで低くしても、優れた密着性のめっき皮膜を得ることができた。処理時間についても、表6に示すように、1分でも良好な密着性のめっき皮膜を得ることができ、2分で優れた密着性のめっき皮膜を得ることができた。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
デスマットの処理条件として、リン酸(85wt%)濃度および過酸化水素水(35wt%)濃度を100〜400mL/Lおよび0〜300mL/Lの範囲で変化させた場合と、処理時間を30秒〜8分の範囲で変化させた場合について試験を行い、スマットの除去性能について評価を行った。スマットの除去性能の評価方法は、SEM観察及びEDS分析により行った。その結果を表7および表8に示す。なお、スマット除去性能の評価は、△が可、○が良、◎が優を示す。表7に示すように、リン酸(85wt%)濃度を100mL/L以上、過酸化水素水(35wt%)濃度を40mL/L以上にすることで、スマットを適正に除去することができた。また、表8に示すように、処理時間は30秒でも可能であるが、処理時間を長くすることで、スマットの除去性能を向上することができた。
【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【0048】
酸浸漬の処理条件として、過酸化水素カリウムを添加せず硫酸単独とし、硫酸濃度を5〜50mL/Lの範囲で、処理時間を10〜15秒に変化させた場合と、硫酸濃度および過酸化水素カリウム濃度を5〜100mL/Lおよび5〜100mL/Lの範囲で変化させた場合と、温度を25〜70℃に変化させた場合と、処理時間を30秒〜8分に変化させた場合についても試験を行った。それらの結果を表9〜表12に示す。表9に示すように、過酸化水素カリウムを添加しないと、硫酸濃度を増加しても、適切な密着性を有するめっき皮膜は得られなかった。一方、表10に示すように、上記の硫酸濃度および過酸化水素カリウム濃度の範囲内では、いずれの場合も良好または優れた密着性のめっき皮膜を得ることができた。また、表11および表12に示すように、液温度および処理時間も上記の範囲内で、良好または優れた密着性のめっき皮膜を得ることができた。
【0049】
【表9】

【0050】
【表10】

【0051】
【表11】

【0052】
【表12】

【符号の説明】
【0053】
10 前処理方法
11 脱脂
12 アルカリエッチング
13 酸エッチング
14 デスマット
15 第1の亜鉛置換
16 酸浸漬
17 第2の亜鉛置換
20 めっき
31 アルミニウム合金粗材
33 めっき皮膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸として硫酸単独または硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物を用いて、被めっき処理物であるアルミニウム合金材を酸エッチングする工程と、
前記酸エッチング工程の後、前記アルミニウム合金材を亜鉛置換処理する工程と
を含むアルミニウム合金のめっき前処理方法。
【請求項2】
前記酸エッチング工程と、前記亜鉛置換処理工程との間に、リン酸と過酸化水素の混合物を用いて、前記酸エッチングしたアルミニウム合金材のデスマット処理を行う工程を更に含む請求項1に記載のめっき前処理方法。
【請求項3】
前記亜鉛置換処理をする工程が、少なくとも2回の亜鉛置換処理を行うものであり、この2回の亜鉛置換処理の間に、硫酸と過硫酸水素カリウムの混合物を用いて、第1の亜鉛置換を行ったアルミニウム合金材を酸浸漬処理する工程を更に含む請求項1又は2に記載のめっき前処理方法。
【請求項4】
前記酸エッチング工程において、酸として硫酸単独の酸エッチング液を使用し、酸エッチング液中の硫酸濃度が10体積%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載のめっき前処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−137206(P2011−137206A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297852(P2009−297852)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】