説明

アルミニウム塗装材及びその製造方法

【課題】撥水性、耐汚染性、加工性及び塗膜密着性に優れたアルミニウム塗装材を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材と、その少なくとも一方の表面に形成された下地塗膜と、その上に形成された撥水性塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、下地塗膜が、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の少なくとも1種からなるベース樹脂とシリカ微粒子とを含む塗料組成物から形成され、シリカ微粒子の含有量が下地塗膜の5〜50mass%であり、その塗膜量が0.3〜10.0g/mあり、撥水性塗膜がフッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを含む塗料組成物から形成され、ポリエチレンワックスの含有量が撥水性塗膜の0.5〜20mass%であり、その塗膜量が0.01〜3.0g/mであるアルミニウム塗装材、ならびに、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基材の表面に撥水性、加工性及び塗膜密着性に優れ、かつ、油等の汚染物が付着しても染み跡が残らない優れた耐汚染性を有する撥水性塗膜を形成したアルミニウム塗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性塗膜が被覆されたアルミニウム塗装材は様々な用途で提案されているが、本発明においては、厨房付近で使用される部材を例に挙げて述べることとする。特許文献1に記載されるように、従来、厨房のキャビネット、レンジフードなどの各種部材には、表面に付着した水分を弾く撥水性を有する塗膜が適宜形成されている。
【0003】
これらの撥水性塗膜は優れた撥水性を有するものの、水と油が混じった複合的な汚れが付着すると、水によって油が押し広げられて拭き取り難くなる問題があった。また、親水親油塗装の場合は、水のよる易洗浄性に優れるので油汚れも水洗すれば除去し易いが、汚れが固着してしまっている場合には除去し難くなるという問題があった。
【0004】
また、これらのアルミニウム塗装材は塗膜の樹脂そのものが撥水性を有するものであり、その撥水性のために塗膜密着性に劣る問題もあった。具体的には、アルミニウム塗装材に加工を施した場合に撥水性塗膜が剥離したり、塗膜表面における潤滑性が不十分なために加工時において金型によるかじりが発生するなどの問題があった。
【0005】
このようなことから、特に厨房用部材に用いられるアルミニウム塗装材については、プレコート塗装材に求められる加工性だけでなく、撥水性、耐汚染性及び塗膜密着性も同時に満足する材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−342359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における問題点に鑑み、撥水性が高く、表面に潤滑性が付与され撥水性塗膜を形成することにより加工性が良好で、耐汚染性と塗膜密着性にも優れたアルミニウム塗装材、特に厨房用部材として用いられるアルミニウム塗装材を、比較的容易な方法によって提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は請求項1において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された下地塗膜と、当該下地塗膜上に形成された撥水性塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、前記下地塗膜が、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の少なくとも1種からなるベース樹脂とシリカ微粒子とを含む塗料組成物から形成され、シリカ微粒子の含有量が下地塗膜の5〜50mass%であり、その塗膜量が0.3〜10.0g/mあり、前記撥水性塗膜がフッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを含む塗料組成物から形成され、ポリエチレンワックスの含有量が撥水性塗膜の0.5〜20mass%であり、その塗膜量が0.01〜3.0g/mであることを特徴とするアルミニウム塗装材とした。
【0009】
本発明は請求項2において、前記シリカ微粒子の平均粒径を1〜15μmとした。
【0010】
本発明は請求項3において、前記ポリエチレンワックスの数平均分子量を500〜10000とした。
【0011】
本発明は請求項4において、前記撥水性塗膜を形成する塗料組成物の溶媒のうち最も高沸点の溶媒の沸点が、ポリエチレンワックスの融点より低いものとした。
【0012】
本発明は請求項5において、前記アルミニウム塗装材を厨房用部材とした。
【0013】
更に本発明は請求項6において、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装材の製造方法であって、前記撥水性塗膜を形成する塗料組成物が、前記フッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを少なくとも1種の溶媒に溶解又は分散させることによって調製され、前記少なくとも1種の溶媒のうち最も高沸点の溶媒の沸点が前記ポリエチレンワックスの融点より低いことを特徴とするアルミニウム塗装材の製造方法とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るアルミニウム塗装材は、撥水性が高く、付着する水を効果的に排除することができる。また、汚染物に対する耐汚染性や密着性にも優れる。更に、アルミニウム塗装材表面に潤滑性を付与した撥水性塗膜を形成することにより、潤滑性や成形性といった加工性を良好にすることができる。このようなアルミニウム塗装材は、厨房用部材として特に優れた効果を発揮するが、外装用や内装用の建築部材等の用途にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアルミニウム塗装材の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
アルミニウム塗装材とその製造方法
図1に示すように、本発明に係るアルミニウム塗装材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材2と、アルミニウム基材2の少なくとも一方の表面(図では一方の表面のみ)に形成された下地塗膜3と、下地塗膜3上に形成された撥水性塗膜4とを備える。下地塗膜3中にはシリカ微粒子5が含有され、撥水性塗膜4中にはポリエチレンワックス6が含有される。
【0017】
A.アルミニウム基材
本発明で用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム基材」と記す。なお、ステンレス板、鋼板などのアルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0018】
なお、アルミニウム基材上に耐食性皮膜を形成したものを用いてもよい。耐食性皮膜としては、化成処理皮膜、耐食性有機皮膜、陽極酸化皮膜、ベーマイト皮膜等が挙げられ、いずれの耐食性皮膜を用いてもよい。耐食性、密着性、経済性の観点から、化成処理皮膜と有機耐食性皮膜を用いるのが好ましい。
【0019】
化成処理皮膜としては、クロム系、ジルコニウム系の化成処理皮膜が用いられるが、耐食性、塗膜密着性の観点からクロム系の化成処理皮膜が好ましい。化成処理皮膜の形成方法としては、塗布型、電解型、反応型の化成処理方法等が用いられるが、いずれの方法を用いてもよい。温度や雰囲気などの乾燥条件も任意である。上記化成処理皮膜の形成方法のうちクロム系では、成形性、塗膜密着性及び耐食性に優れたりん酸クロメート法(反応型)、塗布型クロメート法によるものが好ましい。皮膜量はCr及びZr元素換算で2〜50mg/mが好ましい。化成処理皮膜量がCr及びZr元素換算で2mg/m未満では、十分な耐食性と塗膜密着性が得られない。また、50mg/mを超えても耐食性や塗膜密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい皮膜量はCr及びZr元素換算で5〜30mg/mである。また、有機耐食性皮膜としては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0020】
B.下地塗膜
撥水性は、一般的に塗装材表面と相関があり、表面積が増加するに従い、撥水性も増加することが知られている。そこで、アルミニウム基材の表面積を増加する方法としては、撥水性塗膜そのものに凹凸を付けて表面積を増加させる方法もあるが、撥水性塗膜自体に凹凸を設けることは通常困難である。本発明では、微粒子によって微細な凹凸形状を下地塗膜に形成してその表面に撥水性塗膜を形成するものである。これにより、下地塗膜の凹凸形状が撥水性塗膜の表面にも反映され、撥水性塗膜の表面積を増加させてその撥水性も増加させることができる。
【0021】
本発明における下地塗膜のベース樹脂としては、一般的な塗料に用いられるものを用いることができる。本発明で用いるベース樹脂は、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂、ならびに、これらの任意の2種以上を混合したものである。
【0022】
エポキシ系樹脂としては、ビスフェノール型、ノボラック型、グリシジルエーテル型などの環状脂肪族型、或いは、非環状脂肪族型などが用いられる。これらの中でも、工業的汎用性及び耐食性が良好である点から、ビスフェノール類を反応させて得られるエポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられ、1種のみを単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。ビスフェノール類の中でも、工業的汎用性から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されるものではないが、エマルジョン化が容易で、かつ、これを塗料として用いた際の防食性に優れている点から、150〜3000g/eqであるのが好ましく、160〜1800g/eqであるのが更に好ましい。上記エポキシ系樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のエポキシ樹脂を2種以上用いてもよい。
【0023】
ポリエステル系樹脂とは、多塩基酸成分と多価アルコール成分との縮重合によって製造される周知のものが用いられる。多塩基酸成分としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸などが用いられる。また、多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコール、或いは更にグリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールの如き3価以上の多価アルコールなどを2価アルコールに少量加えたものが用いられる。
【0024】
アクリル系樹脂としては、α、βモノエチレン系不飽和単量体と、これに重合可能な単量体との共重合体やブロック重合体、或いは、α、βモノエチレン系不飽和単量自体の重合体からなる樹脂が用いられる。α、βモノエチレン系不飽和単量体としては、例えばアクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2エチルへキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2エチルブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸3エトキシプロピル等);メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nへキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸デシルオクチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2メチルへキシル、メタクリル酸3メトキシブチル等);アクリロニトリル;メタクリロニトリル;酢酸ビニル;塩化ビニル;ビニルケトン;ビニルトルエン;及びスチレン等が用いられる。
【0025】
α、βモノエチレン系不飽和単量体と重合可能な単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、エチレン、トルエン、プロピレン、アクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2ヒドリキシエチル、メタクリル酸2ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、Nメチロールアクリルアミドが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等を用いることもできる。
アクリル系樹脂は、上記アクリル系樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のアクリル樹脂を2種以上用いてもよい。
【0026】
ウレタン系樹脂としては、ジイソシアナートとグリコールとの重付加反応により得られるもの、脱塩酸剤の存在下でジアミンにグリコールのビスクロルギ酸エステルを作用させて得られるもの、ジアミンと炭酸エチレンとの反応により得られるもの、ω−アミノアルコールをクロルギ酸エステル又はカルバミン酸エステルに変えこれを縮合させて得られるもの、ビスウレタンとジアミンとの反応により得られるものが用いられる。ジイソシアナートとグリコールとの重付加反応により得られるものが多く用いられ、ジイソシアナートとしては、トリレンジイソシアナート(2,4−及び2,6−の混合物)が多く用いられ、水酸基を有する化合物(グリコール)としては、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレングリコールのようなエーテル系と、アジピン酸とエチレングリコールを縮合させたポリエステル系のものが多く用いられる。
【0027】
下地塗膜にシリカ微粒子を含有させることにより、下地塗膜表面に凹凸形状を形成することができる。シリカ微粒子としては、シリカゾルや微粉末シリカが用いられる。下地塗膜の上に形成される撥水性塗膜の表面にも、上記凹凸形状が反映される。これにより、撥水性塗膜の表面積が増大して撥水性を大幅に向上させることができ、付着した水を効果的に除去することができる。シリカ微粒子の含有量は、下地塗膜の5〜50mass%である。含有量が5mass%未満では、形成される表面の凹凸形状が少ない。その結果、撥水性塗膜の表面積増大に寄与せず、十分な撥水性向上効果が得られない。一方、含有量が50mass%を超えると、下地塗膜中のシリカ微粒子の量が多過ぎて、下地塗膜とアルミニウム基材、ならびに、下地塗膜と撥水性塗膜との十分な密着性が保持できない。なお、シリカ微粒子の含有量は乾燥状態の下地塗膜におけるものである。
【0028】
シリカ微粒子の平均粒径は、1〜15μmとするのが好ましい。平均粒径が1未満では、表面の凹凸形状が形成し難く十分な撥水性を維持できない。一方、平均粒径が15μmを超えると、下地塗膜中にシリカ微粒子を十分に保持できなくなる。その結果、下地塗膜とアルミニウム基材、ならびに、下地塗膜と撥水性塗膜との十分な密着性が得られない。シリカ微粒子の平均粒径は、3〜12μmとするのがより好ましい。平均粒径は、散乱式粒度分布計にて測定される。
【0029】
下地塗膜を形成するための塗料組成物としては、水などの水性塗料組成物又は溶剤性塗料組成物のいずれでも良い。溶剤性塗料組成物の溶媒としては、アセトン等のケトン系溶剤;エタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ならびに、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物;又はそれらの混合物などが用いられる。塗料組成物の濃度は、溶媒1000gに対してベース樹脂50〜600gである。また、このような塗料組成物を用いて下地塗膜を形成する際の塗布方法については、後述する撥水性塗膜と同じ方法が用いられる。
【0030】
下地塗膜の焼付温度(到達表面温度)は、下地性塗膜の形成が開始される150℃以上で、かつ、下地塗膜の分解が顕著となる320℃以下であれば良く、好ましくは200〜300℃である。また、焼付時間は5〜120秒の条件で行うのが好ましい。焼付温度が150℃未満であったり、焼付時間が5秒未満であったりする場合には、塗膜が高分子化しないので耐食性が劣る場合がある。一方、焼付温度が320℃を超えたり、焼付時間が120秒を超えたりする場合には、塗膜成分中の熱分解成分が変性して緻密な皮膜が得られなくなる。
【0031】
アルミニウム基材表面に付着形成される下地塗膜の塗膜量は、乾燥状態において0.3〜10.0g/mである。塗膜量が0.3g/m未満では、下地塗膜中でのシリカ微粒子の保持が困難となる。一方、10.0g/mを超えると、下地塗膜の奏する効果が飽和し不経済となる。
【0032】
C.撥水性塗膜
本発明に用いる撥水性塗膜は、フッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを含む塗料組成物から形成される。フッ素系の撥水性樹脂により、良好な撥水性と耐汚染性が付与される。更に、フッ素系の撥水性樹脂により良好な加工性も付与される。
【0033】
フッ素系の撥水性樹脂としては、フッ素原子を含有するものであれば特に限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等が用いられる。
【0034】
撥水性塗膜には、ポリエチレンワックスも含有される。ポリエチレンワックスは、撥水性塗膜中に残存して主に成形加工の際に潤滑性と成形性を向上させ、かつ、撥水性塗膜中に存在することにより撥水性を向上させる。更に、厨房における油や大気中の汚染物質が撥水性塗膜に付着しても、油や汚染物質がフッ素系撥水性樹脂の隙間へ浸透するのをポリエチレンワックスが防止するので、耐汚染性の向上にも寄与する。このように、ポリエチレンワックスによって、加工性が向上し、撥水性及び耐汚染性が持続可能となる。本発明に用いるポリエチレンワックスは公知の方法によって製造することができ、その製造方法は特に限定されるものではない。ポリエチレンワックスを配合することにより、フッ素系撥水樹脂本来の優れた撥水性や塗膜密着性を損なうことなく、更に加工性(潤滑性と成形性)や耐汚染性を向上することが可能となる。
【0035】
撥水性塗膜におけるポリエチレンワックスの含有量は、撥水性塗膜の0.5〜20mass%である。含有量が0.5mass%未満では、潤滑性が不足して成型加工時にかじり等が生じる。含有量が20mass%を超えると、撥水性塗膜中のポリエチレンワックスの量が多過ぎて、耐汚染性を保つことが困難となる。なお、ポリエチレンワックスの含有量は乾燥状態の撥水性塗膜におけるものである。
【0036】
ポリエチレンワックスの数平均分子量は、500〜10000が好ましく、1000〜8000がより好ましい。数平均分子量が500未満では、塗膜中に分散することが困難となる。一方、数平均分子量が10000を超えると、加工性等を向上することができない。なお、本発明において、数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート換算の分子量をいうものとする。ポリエチレンワックスは、一定の数平均分子量のものを単独で使用してもよく、或いは、2種以上の異なる分子量のものを任意の割合で使用してもよい。
【0037】
撥水性塗膜には、必要に応じて、タンニン酸、没食子酸、ホスフィン酸等の防錆剤;ポリアルコール等のアルキルエステル類やポリエチレンオキサイド縮合物等のレベリング剤;相溶性を損なわない範囲で添加されるポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミド等の充填剤;フタロシアニン化合物等の着色剤;アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩系等の界面活性剤;などを添加することができる。
【0038】
アルミニウム基材又はアルミニウム基材の表面に形成した下地塗膜上に、撥水性塗膜を形成するための塗料組成物を塗装(塗布)し、これを焼付けて撥水性塗膜を形成する。撥水性塗膜用の塗料組成物としては、水性塗料組成物又は溶剤性塗料組成物のいずれでも良い。塗料組成物は、フッ素系の撥水性樹脂、ポリエチレンワックス、必要に応じて上記添加物を、溶媒に溶解、分散させて調製される。溶媒1000gに対して、フッ素系の撥水性樹脂50〜600gが含有される。
【0039】
溶媒には、各成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水等の水性溶媒;アセトン等のケトン系溶剤;エタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物;ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン等のフッ素系溶剤;などが挙げられる。これらの溶媒の中では、環境面からも水性溶媒が好ましく、特に水が好ましい。これらの溶媒は、いずれか1種類を用いることができ、又は、樹脂の分散性や塗装性を改善するため2種以上の溶媒を混合した混合溶媒として用いることもできる。
【0040】
1種類の溶媒を用いる場合には、その溶媒の沸点がポリエチレンワックスの融点より低いことが好ましい。また、2種以上の溶媒からなる混合溶媒を用いる場合には、それらのうち最も高い沸点がポリエチレンワックスの融点より低いことが好ましい。溶媒の沸点が、混合溶媒では最も高い沸点が、ポリエチレンワックスの融点以上の場合には、後述する焼付け温度をポリエチレンワックスの融点以上の高温とすることになる。しかしながら、ポリエチレンワックスの融点以上の温度で焼付けると、溶融したポリエチレンワックスが撥水性塗膜中に均一に分散し難くなり、撥水性を阻害する。
【0041】
撥水性塗膜は、焼付けた下地塗膜の表面に撥水性塗膜用の塗料組成物を塗布し、これを焼付けることによって形成される。焼付け工程において、塗料組成物中の溶媒を蒸発させ、撥水性塗膜を形成することになる。
【0042】
塗膜組成物の塗布方法としては、ロールコーター法、ロールスクイズ法、ケミコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられ、塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコーター法が好ましい。ロールコーター法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。
【0043】
撥水性塗膜の焼付温度(到達表面温度)は、撥水性塗膜の形成が開始される70℃以上で、かつ、撥水性塗膜の分解が顕著となる320℃以下であれば良く、好ましくは100〜250℃である。また、焼付時間は5〜120秒の条件で行うのが好ましい。焼付温度が70℃未満であったり、焼付時間が5秒未満であったりする場合には、塗膜が高分子化しないので耐食性が劣る場合がある。一方、焼付温度が320℃を超えたり、焼付時間が120秒を超えたりする場合には、塗膜成分中の熱分解成分が変性して緻密な皮膜が得られなくなる。
【0044】
下地塗膜表面に付着形成される撥水性塗膜の塗膜量は、乾燥状態において0.01〜3.0g/m、好ましくは0.1〜3.0g/m、である。塗膜量が0.01g/m未満では、所望の撥水性や加工性が得られない。一方、3.0g/mを超えると、撥水性や加工性が飽和して不経済となる。
【0045】
以上のようにして作製されるアルミニウム塗装材に成形加工を施すことにより、所望のキャビネットやレンジフードなどの厨房部材が作製される。
【実施例】
【0046】
以下、本発明例及び比較例に基づいて本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
本発明例1〜17及び比較例1〜12
アルミニウム基材として、アルミニウム合金板(1100−H24材、0.100mm厚さ)を用いた。まず、このアルミニウム合金板に市販のアルカリ脱脂溶液を用いて弱アルカリ脱脂を施し、水洗した後に乾燥した。
【0048】
次に、表1、2に示す下地塗膜用の塗料組成物をロールコーターにて脱脂処理したアルミニウム合金板に塗布し、これを焼付炉中において200℃で20秒間焼付けて、下地塗膜を形成した。焼付けは電気ヒーターで空気を加熱する熱風循環式焼付炉を使用し、風速15m/秒で行なった。なお、下地塗膜用の塗料組成物の溶媒には水を用い、溶媒85gに対してベース樹脂15gの割合とした。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
次いで、下地塗膜上に撥水性塗膜を以下のようにして形成した。表1、2に示す撥水性塗膜用の塗料組成物をロールコーターを用いて下地塗膜上に塗布し、これを熱風炉中において、到達板表面温度(PMT)100℃で20秒間焼付けしてアルミニウム塗装板試料を得た。塗膜の焼付けに用いた熱風循環式焼付炉は下地塗膜形成と同じものを用い、風速は15m/秒であった。なお、比較例1、2及び8の撥水性塗料用組成物では、フッ素系の撥水性樹脂に代えて、下地塗膜のベース樹脂と同じエポキシ樹脂を用いた。なお、撥水性塗膜用の塗料組成物の溶媒は、表1、2に示すものを単独で用い、溶媒85gに対してフッ素系撥水性樹脂15gの割合とした。
【0052】
下地塗膜用の塗料組成物に用いたベース樹脂及びシリカを以下に示す。
(1)エポキシ系樹脂(ビスフェノールAエポキシ樹脂にアクリル樹脂を付与させたエステル型エポキシ樹脂であり、エポキシ当量は約3800g/eq)
(2)ポリエステル系樹脂(テレフタル酸+イソフタル酸/エチレングリコールからなり、数平均分子量は15000)
(3)アクリル系樹脂(ポリアクリル酸であり、数平均分子量は20000)
(4)ウレタン系樹脂(ポリエチレングリコール+ヘキサメチレンジイソシアネートであり、数平均分子量は20000)
(5)シリカA(平均粒径は7μm)
(6)シリカB(平均粒径は3μm)
(7)シリカC(平均粒径は11μm)
【0053】
また、撥水性塗膜用の塗料組成物に用いたフッ素系の撥水性樹脂及びポリエチレンワックスを以下に示す。
(8)フッ素系樹脂D(フロロテクノロジ社製フロロサーフFS−6010)
(9)フッ素系樹脂E(フロロテクノロジ社製フロロサーフFS−6010+ブチルセルソルブ10%添加)
(10)ポリエチレンワックスF(数平均分子量は2000、融点は114℃)
(11)ポリエチレンワックスG(数平均分子量は720、融点は113℃)
(12)ポリエチレンワックスH(数平均分子量は8000、融点は127℃)
【0054】
このようにして得られたアルミニウム塗装材について撥水性、耐汚染性、加工性(潤滑性及び成形性)、ならびに、塗膜密着性を下記方法で測定した。結果を、表1、2に併せて示す。
【0055】
(撥水性)
撥水性は、アルミニウム塗装板試料の表面における純水の接触角を、ゴニオメーターで測定することによって評価した。なお、表1及び2における評価基準は以下の通りである。◎及び○を合格とし、△及び×を不合格とした。
◎:接触角が130°以上
○:接触角が100°以上で、かつ、130°未満
△:接触角が80°以上で、かつ、100゜未満
×:接触角が80°未満
【0056】
(耐汚染性)
耐汚染性は、アルミニウム塗装板試料の表面にサラダ油と醤油をそれぞれ付着させ、付着物を除去した後における染み跡の状態で評価した。30cm離れた距離から染み跡を目視で認識した。なお、表1及び2における評価基準は以下の通りである。◎及び○を合格とし、△及び×を不合格とした。
◎:染み跡が殆ど認識されない。
○:染み跡が僅かにしか認識されない。
△:染み跡が鮮明ではないが認識される。
×:染み跡が鮮明に認識される。
【0057】
(加工性<潤滑性>)
加工性のうち潤滑性は、バウデン式摩擦係数測定器を用いてアルミニウム塗装板試料の表面の潤滑性を評価した。具体的には、AF−2C(出光興産)を塗油した直径1/2インチのステンレス球を用いて、荷重100gでアルミニウム塗装板試料の表面を15回往復摺擦動させた際の動摩擦係数を測定した。なお、表1及び2における評価基準は以下の通りである。◎及び○を合格とし、△及び×を不合格とした。
◎:0.10未満
○:0.10以上0.15未満
△:0.15以上0.20未満
×:0.20以上
【0058】
(加工性<成形性>)
加工性のうち成形性は、ポンチ径50mmφ、肩R5mmRの金型を使用し、BHF600N、成形速度5mm/sの条件で、アルミニウム塗装板試料を用いてカップを深絞り成形し、このカップ成形品における塗膜の外観状態を評価した。なお、表1及び2における評価基準は以下の通りである。○を合格とし、△及び×を不合格とした。
○:外観が良好であった。
△:かじりが発生した。
×:割れ不良が発生した。
【0059】
(塗膜密着性)
塗膜密着性は、JIS H4001に従ってアルミニウム塗装板試料の表面の付着性試験を行い、碁盤目におけるテープ剥離後の残存個数を測定した。なお、表1及び2における評価基準は以下の通りである。○を合格とし、×を不合格とした。
○:塗膜残存率が100%であった。
×:塗膜残存率が100%未満であった。
【0060】
表1に示すように本発明例1〜17はいずれも、撥水性、耐汚染性、加工性(潤滑性及び成形性)、ならびに、塗膜密着性が良好である。その中でも、本発明例1、2、4、7、10、12、14、15は、シリカ微粒子を含んだ下地塗膜を形成しているため、優れた撥水性・加工性を有していた。
【0061】
これに対し、比較例1では、下地塗膜を形成せず、撥水性塗膜にフッ素系の撥水性樹脂ではなくエポキシ系樹脂を用い、ポリエチレンワックスを用いなかったため、撥水性、耐汚染性及び加工性(潤滑性及び成形性)が不合格であった。
比較例2では、下地塗膜を形成せず、撥水性塗膜にフッ素系の撥水性樹脂ではなくエポキシ系樹脂を用いたため、撥水性及び耐汚染性が不合格であった。
比較例3では、下地塗膜中にシリカ微粒子を含有せず、かつ、撥水性塗膜中にポリエチレンワックスを含有しなかったため、撥水性、耐汚染性及び加工性(潤滑性及び成形性)が不合格であった。
比較例4では、下地塗膜中にシリカ微粒子を含有しなかったため、撥水性及び耐汚染性が不合格であった。
比較例5では、下地塗膜中のシリカ微粒子の含有量が少な過ぎたため、撥水性及び耐汚染性が不合格であった。
比較例6では、下地塗膜中のシリカ微粒子の含有量が多過ぎたため、加工性(成形性)及び塗膜密着性が不合格であった。
比較例7では、下地塗膜の塗膜量が少な過ぎたため、加工性(成形性)及び塗膜密着性が不合格であった。
比較例8では、撥水性塗膜にフッ素系の撥水性樹脂ではなくエポキシ系樹脂を用いたため、撥水性及び耐汚染性が不合格であった。
比較例9では、撥水性塗膜中のポリエチレンワックスの含有量が少な過ぎたため、耐汚染性及び加工性(潤滑性及び成形性)が不合格であった。
比較例10では、撥水性塗膜中のポリエチレンワックスの含有量が多過ぎたため、耐汚染性が不合格であった。
比較例11では、撥水性塗膜の塗膜量が少な過ぎたため、撥水性、耐汚染性及び加工性(潤滑性及び成形性)が不合格であった。
比較例12では、撥水性塗料の溶剤の沸点がポリエチレンワックスの融点を超えていたため、ポリエチレンワックスが分散せず、撥水性が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るアルミニウム塗装材は、撥水性、耐汚染性、加工性及び塗膜密着性が良好なので、特に厨房用部材用途として優れる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・アルミニウム塗装材
2・・・アルミニウム基材
3・・・下地塗膜
4・・・撥水性塗膜
5・・・シリカ微粒子
6・・・ポリエチレンワックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された下地塗膜と、当該下地塗膜上に形成された撥水性塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、前記下地塗膜が、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂の少なくとも1種からなるベース樹脂とシリカ微粒子とを含む塗料組成物から形成され、シリカ微粒子の含有量が下地塗膜の5〜50mass%であり、その塗膜量が0.3〜10.0g/mあり、前記撥水性塗膜がフッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを含む塗料組成物から形成され、ポリエチレンワックスの含有量が撥水性塗膜の0.5〜20mass%であり、その塗膜量が0.01〜3.0g/mであることを特徴とするアルミニウム塗装材。
【請求項2】
前記シリカ微粒子の平均粒径が1〜15μmである、請求項1に記載のアルミニウム塗装材。
【請求項3】
前記ポリエチレンワックスの数平均分子量が500〜10000である、請求項1又は2に記載のアルミニウム塗装材。
【請求項4】
前記撥水性塗膜を形成する塗料組成物の溶媒のうち最も高沸点の溶媒の沸点が前記ポリエチレンワックスの融点より低い、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装材。
【請求項5】
アルミニウム塗装材が厨房用部材である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニム塗装材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装材の製造方法であって、前記撥水性塗膜を形成する塗料組成物が、前記フッ素系の撥水性樹脂とポリエチレンワックスとを少なくとも1種の溶媒に溶解又は分散させることによって調製され、前記少なくとも1種の溶媒のうち最も高沸点の溶媒の沸点が前記ポリエチレンワックスの融点より低いことを特徴とするアルミニウム塗装材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−120942(P2012−120942A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271295(P2010−271295)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】