アルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料
【課題】 アルミニウム系材料に、高い耐食性をもたらすとともに、環境にやさしく、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する機能性皮膜を提供すること、及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料を提供することを課題とする。
【解決手段】 アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させることにより機能性皮膜を製造する方法、及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料とする。
【解決手段】 アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させることにより機能性皮膜を製造する方法、及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。詳細には、アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる方法及び機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重量軽減、剛性向上あるいはリサイクル性向上などの観点から、アルミニウム系材料の採用が検討され、あらゆる分野で実用化されている。このように、アルミニウム系材料の需要が高まるにつれて、アルミニウム系材料の耐食性のみならず、機能性、例えば、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料の創出が望まれている。
【0003】
アルミニウム系材料の表面処理方法の一つとしては、例えば、クロム酸クロメート法、MBV法等が従来から用いられている。しかしながら、前者クロム酸クロメート法は、有害物質である六価クロムイオンを含むため環境を守る立場から近年使用が規制される傾向にある。
【0004】
また、上記のMBV法は、有害物質が低減される代わりに、得られる皮膜の耐腐食性は低いという問題点があった。さらに、非特許文献1には、『水酸化ストロンチウム浴中で生成するアルミニウム化成皮膜の二次処理による高耐食性化』が創出されている。この方法によると、MBV法の10倍以上の耐食性を有する化成皮膜を生成させることが可能である。しかしながら、この方法を用いて化成皮膜を生成することができるのは、純アルミ系(JIS合金番号1000番系)のみに制限される。即ち、非特許文献1に記載の方法は、合金系(同番号の2000〜7000番系)において化成皮膜を生成しないため、極めて有用性が低いという問題があった。
【0005】
従来のアルミニウム系材料の表面処理方法では、アルミニウム系材料へ十分な耐食性を提供できない、或は有害物質を付加することとなる上、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を付加する機能性皮膜を提供できないという問題点があった。
【0006】
上記現状を鑑みると、高い硬度・耐食性を提供するとともに、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を有する機能性皮膜を製造する方法の確立が期待される。過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用をもたらす一つの手段として、酸化触媒能を有する金属酸化物を用いて、アルミニウム系材料の皮膜を形成することが考えられるが、これら酸化触媒能を有する金属酸化物、例えば二酸化マンガン、五酸化バナジウムおよび酸化ルテニウムは、従来から粉体として使用されているため、金属の表面処理に用いることは困難であると認識されている。
【0007】
一般的に、酸化物の酸化触媒能は、対象となる基質によって異なり、例えば、過酸化水素、オゾン(特許文献1参照)、ダイオキシン(特許文献2参照)の分解は、二酸化マンガンと酸化ルテニウムからなる混合酸化物の皮膜を作製することによって、反応性すなわち分解速度の制御をより容易に行うことが可能となる。さらに、特許文献3には、酸化ジルコニウムおよび五酸化バナジウムなどは過酸化水素の分解には適さないが、抗菌性光触媒として有効な酸化触媒となることが記載されており、その他多数の文献によっても、金属酸化物の過酸化水素分解能又は有害ガス除去能による有用性が証明されている。しかしながら、例えば、特許文献1で開示される浸漬焼成による二酸化マンガンの成膜は、硝酸マンガンを用いた手法で生成されるため、分解によってNO2ガスが発生するという問題があり、やはり望ましい方法であるとは言い難いものである。
【0008】
【非特許文献1】軽金属学会誌;第50巻、第10号、2000年、486〜490頁
【特許文献1】特開2003−311126号公報
【特許文献2】特開2002−361045号公報
【特許文献3】特開2000−095976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する酸化触媒能を有する金属酸化物をアルミニウム系材料の皮膜に固定化させる方法を見出し本発明に至った。
本発明はアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関し、高い耐食性をもたらすとともに、環境にやさしく、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料を提供することを課題とする。詳細には、アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる方法を提供することを課題とする。
本発明の更なる課題は、表面に機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、アルミニウム系材料の表面にベーマイト皮膜を生成する一次工程と、該ベーマイト皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなること特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項2に係る発明は、アルミニウム系材料の表面に水酸化アルミニウム皮膜を生成する一次工程と、該水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなることを特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項3に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム又は酸化ルテニウムから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項4に係る発明は、前記ベーマイト皮膜が、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム又はしゅう酸アルミニウムから選択される一種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧することにより生成されることを特徴とする請求項1又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項5に係る発明は、前記水酸化アルミニウム皮膜が、水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱することにより生成されることを特徴とする請求項2又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項6に係る発明は、前記二次工程が、前記一次工程により得られたアルミニウム系材料をマンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩から選択される一種以上を含む水溶液中に浸漬させ、前記アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項7に係る発明は、前記二次工程が、前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中で加熱する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項8に係る発明は、表面にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜が形成されてなり、該ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化されていることを特徴とする機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項9に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項10に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、その粒径が5〜50ナノメートルで、前記ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項11に係る発明は、前記機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の形状が、線状又はメッシュ状であることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法によると、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料を提供することができる。詳細には、本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法は、アルミニウム系材料に高い硬度・耐食性、且つ有害物質を含まないベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を生成でき、さらに、その化成皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化することにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する機能性皮膜をアルミニウム系材料に施すことができる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料は、前記金属酸化物が固定化されていることにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有している。さらに、基材がアルミニウムであるために取り扱いが簡単であり、有用性が高く、凡庸的に使用できるとともに半永久的に利用できるようになる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料は、前記金属酸化物が、その粒径5〜50ナノメートルで固定化された場合には、比表面積は増大し、酸化触媒能に優れる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が線状又はメッシュ状である場合、顕著に優れた過酸化水素分解能および有毒ガス除去作用を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、アルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
本発明に係る機能性皮膜とは、アルミニウム系材料上に形成されるベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜による高い硬度及び耐食性、及び該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化することにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を兼ね備えた皮膜である。
【0013】
本発明のアルミニウム系材料は高い硬度及び高い耐食性を有し、詳細には、耐アルカリ性試験(JIS H8681に従ったアルカリ滴下試験において、1時間経過後も皮膜の腐食がまったく見られなかったため、さらに80℃一定に保った20%‐水酸化ナトリウム溶液に皮膜を浸漬させたが、30分経過後も皮膜の腐食は認められなかった。
【0014】
本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法は一次工程(水熱加圧処理又は水熱処理)と二次工程(水熱加圧処理又は浸漬焼成処理)とからなる。即ち、一次工程において、高い硬度・耐食性を有するベーマイト(AlO(OH))皮膜又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成し、二次工程において、一次工程で得たベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる。
以下に、まず一次工程について説明する。
【0015】
一次工程は、ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理のいずれかが行われる。
【0016】
ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理について説明する。
一次工程における水熱加圧処理は、アルミニウム系材料をノニオン系界面活性剤によって脱脂を行う前処理段階と、水溶液にアルミニウム系材料を浸漬し、加熱・加圧を行う水熱加圧処理段階とからなる。
前記前処理段階で用いられるノニオン系界面活性剤は特に限定されない。
【0017】
前記水熱加圧処理段階に用いられる水溶液には、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、しゅう酸アルミニウム、その他のアルミニウム塩から選択される1種以上が添加され、これらは単独で用いられても、混合して用いられてもよい。尚、前記硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、又はしゅう酸アルミニウムの水溶液中の濃度は特に限定されないが、0.001〜1.0mol/Lが好ましい。この理由は、一定以上の添加は酸性度が増大しすぎて、増膜効果が低下するからである。
【0018】
水熱加圧処理段階において加熱される温度は、好ましくは、100℃〜250℃であり、厚く密着性の良い皮膜を得るためには180℃以上の温度が望ましい。100℃未満の場合、成膜速度が著しく遅く、一方250℃を超える場合は、アルミニウム母材と皮膜の溶解速度が増すため、材料自体が溶解して薄くなってしまい、いずれの場合も望ましくない。
水熱加圧処理段階において、加熱及び加圧時間については、特に限定されないが、好ましくは、10分〜60分である。10分未満では、膜厚が10μmであり、30分を超えるとほぼ一定の膜厚(30μm)となり増膜効果が望めなくなり、いずれの場合も好ましくない。
【0019】
一次工程における水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理について説明する。
一次工程における水熱処理は、アルミニウム系材料をノニオン系界面活性剤によって脱脂を行う前処理段階と、水溶液にアルミニウム系材料を浸漬し加熱を行う水熱処理段階とからなる。
前記前処理段階で用いられるノニオン系界面活性剤は特に限定されない。
【0020】
前記水熱処理段階に用いられる水溶液には、水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上が添加され、これらは単独で用いられても、混合して用いられてもよいが、水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウムを混合して用いることが好ましい。
水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウムを混合して用いる場合、水酸化ストロンチウムが0.001〜0.1mol/L、硝酸ストロンチウムが0.001〜0.3mol/Lの濃度で混合されていることが望ましい。
【0021】
水熱処理段階において加熱される温度は、好ましくは、25℃〜95℃であり、25℃未満の場合、1μm以下の干渉皮膜しか生成しないため、95℃を超える場合は、硝酸ストロンチウムの分解が起こるため、いずれの場合も望ましくない。
水熱処理段階において、前記温度での加熱時間については、特に限定されないが、好ましくは、30分〜90分であり、30分未満では、必要とされる膜厚が得られない可能性があり、90分を超えると浴劣化が著しくなるため、いずれの場合も好ましくない。
【0022】
二次工程(水熱加圧処理)について説明する。
二次工程において、一次工程で得られたベーマイト(AlO(OH))皮膜或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる。
固定化させる方法としては、水熱加圧処理又は浸漬焼成処理のいずれかが採用される。
前記酸化触媒能を有する金属酸化物は特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化タングステン、二酸化マンガン、五酸化バナジウム又は酸化ルテニウムなどは高い密着性を有する皮膜を作製することができる。それぞれの酸化物の酸化触媒能は、対象となる基質によって異なり、例えば、過酸化水素の分解では二酸化マンガンと酸化ルテニウムからなる混合酸化物の皮膜を作製することによって、反応性すなわち分解速度の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0023】
二次工程における水熱加圧処理による前記酸化触媒能を有する金属酸化物の固定化は以下の方法で行われる。
まず、マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩等を添加した水溶液に、一次工程で生成されたベーマイト(AlO(OH))皮膜或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜が形成されたアルミニウム系材料を入れ、加熱・加圧し、所定時間保持する。
【0024】
前記マンガン塩として、例えば、過マンガン酸カリウム、硝酸マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられ、過マンガン酸カリウムが好適に用いられる。
前記バナジウム塩として、例えば、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジウム、塩化バナジウムが挙げられ、バナジウム酸アンモニウムが好ましく用いられる。
前記ルテニウム塩としては、例えば、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム、が挙げられ、塩化ルテニウムが好適に用いられる。
前記チタン塩としては、例えば、ヘキサフロロチタン酸アンモニウム、四塩化チタン、硫酸チタン、しゅう酸チタン酸アンモニウムなどが挙げられ、しゅう酸チタン酸アンモニウムが好適に用いられる。
前記ジルコニウム塩としては、例えば、ヘキサフロロジルコニウムアンモニウム、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウムが挙げられ、塩化酸化ジルコニウムが好適に用いられる。
前記タングステン塩としては、例えば、塩化タングステン、タングステン酸アンモニウムが挙げられ、タングステン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0025】
前記マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩水溶液の濃度は、0.0001〜1.0mol/Lが好ましい。
前記加熱条件は、100℃〜250℃が好ましく、厚膜の皮膜を得るためには180℃以上が望ましい。一方250℃を超える場合は、アルミニウム母材と皮膜の溶解速度が増すため、材料自体が薄くなってしまうため望ましくない。
【0026】
水熱加圧処理段階において、加熱及び加圧時間については、特に限定されないが、好ましくは、10分〜60分である。10分未満では膜厚が0.1μm以下であり、30分を超えると一定の膜厚(2μm)となり、増膜効果が望めないため、いずれの場合も好ましくない。
【0027】
二次工程における浸漬焼成処理による前記酸化触媒能を有する金属酸化物の固定化は以下の方法で行われる。
一次工程で得た水酸化アルミニウム皮膜又はベーマイト皮膜を、好ましくは酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中にて加熱する。
前記酢酸マンガンの濃度は、好ましくは0.001〜1.5mol/L、前記しゅう酸マンガンの濃度は0.001〜3mol/Lが望ましい。
その他、前記バナジウム酸アンモニウムの濃度は0.001〜1.0mol/L、塩化ルテニウムの濃度は0.001〜1.5mol/L、しゅう酸チタン酸アンモニウムの濃度は0.001〜2.0mol/L、塩化酸化ジルコニウムの濃度は0.001〜1.5mol/L又はタングステン酸アンモニウムの濃度は0.001〜1.0mol/Lが望ましい。
前記加熱温度は、空気中にて、好ましくは130〜350℃の温度で加熱される。130℃未満の場合は、酢酸塩の酢酸が充分に分解されず、350℃を超える場合は、一次工程で作製した水酸化アルミニウム皮膜にクラックが発生し出すため、いずれの場合も望ましくない。
特許文献1に記載の硝酸マンガンではなく、酢酸マンガンを用いることにより、燃焼によって無害な二酸化炭素と水に分解する利点がある。
【0028】
このようにして、一次工程において、ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理、或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理のいずれかが行われ、さらに、二次工程において、該ベーマイト(AlO(OH))皮膜又は該水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜上に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化される。上記皮膜上に固定化された酸化触媒能を有する金属酸化物は、粒径5〜50ナノメートルで固着された場合には、比表面積は増大し、酸化触媒能に優れたアルミニウム系材料皮膜となる。ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に酸化触媒能を有する金属酸化物か固定化される一連の工程を図1に示す。
【0029】
本発明の実施例に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料について詳説する。
本発明で利用されるアルミニウム系材料は特に限定されず、純アルミ系(JIS合金番号1000番系)であっても、合金系(同番号の2000〜7000番系)であってもよい。尚、好ましくは合金系アルミニウム系材料が利用される。
【0030】
図2は、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料(1)の一例の斜視図で、図3は、図2のA’−A線断面図を示す。
図3において、(1)は機能性皮膜を有するアルミニウム系材料、(2)はアルミニウム系材料、(3)はベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜、(4)は酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜を示す。本発明において、「機能性皮膜」とは、このベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム(3)及び酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)の2つの皮膜からなる。
図4において、本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の1実施形態における模式図を示す。
【0031】
本発明に係るアルミニウム系材料(2)の厚みは特に限定されない。
本発明に係るベーマイト皮膜(3)は、AlO(OH)からなり、厚みは、好ましくは20〜30μmである。
本発明に係る水酸化アルミニウム皮膜(3)は、Al(OH)3からなり、厚みは、好ましくは10〜20μmである。
本発明に係るベーマイト皮膜及び水酸化アルミニウム皮膜は、これら皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させることにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を、アルミニウム系材料(1)にもたらすこととなる。
【0032】
本発明に係る酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)は、該金属酸化物の粒径が好ましくは5〜50ナノメートルで、ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に固定化されてなり、その厚みは、好ましくは0.1〜2μmである。酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)は、好ましくは、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンからなり、これらは混合して固定化されても、単独で固定化されていてもよい。
この酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)により、アルミニウム系材料(1)は、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が線状又はメッシュ状である場合、顕著に優れた過酸化水素分解能および有毒ガス除去作用を奏する。前記メッシュ状であるアルミニウム系材料の孔径、孔間距離及び開孔率は特に限定されない。好ましくは、用途、使用目的、対象物に応じて適宜調製される。
【0033】
図5に、二酸化マンガンが固定されたベーマイト皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す。このSEM写真は、二酸化マンガンがナノオーダーの粒子でベーマイト皮膜表面に固定化されている状態を示す。
図6に、水酸化アルミニウム皮膜に二酸化マンガンが固定化された状態を示す。
【実施例】
【0034】
以下本発明の実施例について詳細について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)ベーマイト皮膜の形成と二酸化マンガンの固定化(尚、実施例1における一連の工程を図7に示す。)
(1)一次工程(水熱加圧処理)
a.前処理段階
合金系アルミニウム材(2cm×5cm×400μm)をノニオン系界面活性剤浴中で、50℃で5分間脱脂した。
b.水熱加圧処理段階
さらに、0.04M硝酸アルミニウムを添加し、簡易型オートクレーブ(図8参照)に入れ、210℃(20atm)で処理を行い、ベーマイト皮膜を得た。このベーマイト皮膜は、XRD(X線回折装置)の分析結果を構造解析することにより同定した。図9に分析結果を示す。
(2)二次工程(水熱加圧処理)
a.一次処理で得られたベーマイト皮膜が表面に形成された合金系アルミニウム材を0.05M過マンガン酸カリウム水溶液50mLとともにガラス内筒に入れ、簡易型オートクレーブで180〜210℃(10〜20atm)の条件で30分間保持を行い、二酸化マンガンの固定化を行った。図10は、二次工程で得た皮膜のXRD測定結果であり、マンガナイト(MnO(OH))が生成していることがわかる。副生成物としてMnO(OH)が同時に生成し、このMnO(OH)が非晶質のAl(OH)3やベーマイトとの密着性を向上させていると考えられる。さらに、二次工程を施した皮膜のESCA(X線光電子分析法)の測定結果を図11に示す。この測定結果より、二次工程により二酸化マンガンがベーマイト皮膜上に生成されていることが確認できる。
【0035】
(実施例2)水酸化アルミニウム皮膜の形成と二酸化マンガンの固定化(尚、実施例2における一連の工程を図12に示す。)
(1)一次工程(水熱処理)
a.前処理段階
合金系アルミニウム材(2cm×5cm×400μm)をノニオン系界面活性剤浴中で、50℃で5分間脱脂した。
b.水熱処理段階
さらに、0.01M水酸化ストロンチウムと0.04M硝酸ストロンチウム混合浴中にて、アルミニウム材を90℃で90分間の熱処理を行い、水酸化アルミニウム皮膜を得た。この水酸化アルミニウム皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を図13示す。状態分析により、最表面にギブサイト[α‐Al(OH)3]およびバイヤライト[β‐Al(OH)3]の結晶が同定できる。さらに、水酸化アルミニウム皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)による断面観察を行った結果を図14に示す。最表面にギブサイトおよびバイヤライトの結晶であるような層とその下方に非晶質層であるような層の生成が確認できる。
(2)二次工程(水熱加圧処理)
a.一次工程で得られた水酸化アルミニウム皮膜が表面に形成されたアルミニウム材を0.05M過マンガン酸カリウム水溶液50mLとともにガラス内筒に入れ、簡易型オートクレーブで180〜210℃(10〜20atm)の条件で30分間保持を行い、二酸化マンガンの固定化を行った。
【0036】
(実施例3)水酸化アルミニウム皮膜の浸漬焼成処理による二酸化マンガンの固定化(尚、実施例3における一連の工程を図15に示す。)
(1)一次工程
実施例2の一次工程により水酸化アルミニウム皮膜を得た。
(2)二次工程
b.水熱処理した水酸化アルミニウム皮膜を酢酸マンガンの硝酸水溶液中に含浸せしめる。尚、酢酸マンガンの濃度は、1.0mol/Lであった。その後、空気中にて300℃の温度に加熱することにより、合金系アルミニウム皮膜表面に二酸化マンガンの均一な皮膜が強固に固着する。
【0037】
(試験例1)過酸化水素分解作用試験
上記の実施例3で得られた機能性皮膜を有するアルミニウム系材料を用いて、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の過酸化水素分解作用試験を実施した。
a.試験方法
実施例3で得た本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料(水酸化アルミニウム皮膜を酢酸マンガン水溶液中に浸漬させ、焼成処理を行ったもの)の板状およびメッシュ状(孔径:0.8mm、孔間距離:1.15mm、開孔率:43.8%)の試験片(20mm×20mm;膜厚15μm)の2種類を、297Kの温度条件下で、初期濃度を150ppmとした過酸化水素水500mLに浸漬させた。1時間ごとにホールピペットを用いて10mLずつ採取し、0.05M過マンガン酸カリウム水溶液を用いて過酸化水素の濃度を決定した。試験時間は全6時間で行い、過酸化水素濃度の経時変化を測定した。結果を図16示す。
尚、本試験例1で用いた、本発明のメッシュ状及び板状の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の写真を図17に示す。
【0038】
図16が示すように、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が優れた過酸化水素分解能を有することがわかる。さらに、形状を板からメッシュ状に変えるだけで過酸化水素分解速度は10倍以上向上する。
【0039】
(試験例2)耐食性試験
実施例1の一次工程にて作製したベーマイト皮膜材料を実施例4とし、実施例2の一次工程にて作製した水酸化アルミニウム皮膜を実施例5として耐食性試験を行った。比較例としてMBV法により作製した皮膜を比較例1とした。
a.試験方法
実施例4、5及び比較例1に対して10%の水酸化ナトリウム水溶液を用、JIS H 8681に従い、アルカリ滴下試験を行い、耐アルカリ試験値とした。結果を表1に示す。
b.試験結果
実施例4においては1時間後も全く腐食が確認されず、実施例5においては1490秒で侵食が観察された。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、実施例1及び2の製造方法によって生成された本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料である実施例4及び5は、優れた耐食性を有していることが分かる。一方、比較例1は135秒で侵食が観察されたため実施例と比較して、耐食性に劣ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料を製造する一連の工程を示す図である。
【図2】本発明に係る本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の斜視図である。
【図3】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の斜視図である図2のA’−A線断面図である。
【図4】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の1実施形態における模式図である。
【図5】本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する図であり、二次工程を施し、ベーマイト皮膜上に二酸化マンガンが固定化された皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図である。
【図6】本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する図であり、二次工程を施し、水酸化アルミニウム皮膜上に二酸化マンガンが固定化された皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図である。
【図7】本発明に係る実施例1における一連の工程を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例1、2及び3で用いた簡易型オートクレーブを示す図である。
【図9】本発明に係る実施例1における一次工程(水熱加圧処理)によって生成されるベーマイト皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を示す図である。
【図10】本発明に係る実施例1における二次工程において、ベーマイト皮膜を過マンガン酸カリウム水溶液中で、水熱加圧処理を施した皮膜のXRD測定結果を示す図である。
【図11】本発明に係る実施例1における二次工程(水熱加圧処理)を施した皮膜のESCA(X線光電子分析法)の測定結果を示す図である。
【図12】本発明に係る実施例2における一連の工程を示す図である。
【図13】本発明に係る実施例2における一次工程(水熱処理)で水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウム混合浴中にて生成される水酸化アルミニウム皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を示す図である。
【図14】本発明に係る実施例2における水酸化アルミニウム皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)による断面写真を示す図である。
【図15】本発明に係る実施例3における一連の工程を示す図である。
【図16】本発明に係る試験例1における、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の過酸化水素分解能試験結果である。
【図17】本発明に係る試験例1で用いた、メッシュ状(1)及び板状(2)の本発明の機能性皮膜を有する(二酸化マンガンが固定化された)アルミニウム系材料の写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。詳細には、アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる方法及び機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重量軽減、剛性向上あるいはリサイクル性向上などの観点から、アルミニウム系材料の採用が検討され、あらゆる分野で実用化されている。このように、アルミニウム系材料の需要が高まるにつれて、アルミニウム系材料の耐食性のみならず、機能性、例えば、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料の創出が望まれている。
【0003】
アルミニウム系材料の表面処理方法の一つとしては、例えば、クロム酸クロメート法、MBV法等が従来から用いられている。しかしながら、前者クロム酸クロメート法は、有害物質である六価クロムイオンを含むため環境を守る立場から近年使用が規制される傾向にある。
【0004】
また、上記のMBV法は、有害物質が低減される代わりに、得られる皮膜の耐腐食性は低いという問題点があった。さらに、非特許文献1には、『水酸化ストロンチウム浴中で生成するアルミニウム化成皮膜の二次処理による高耐食性化』が創出されている。この方法によると、MBV法の10倍以上の耐食性を有する化成皮膜を生成させることが可能である。しかしながら、この方法を用いて化成皮膜を生成することができるのは、純アルミ系(JIS合金番号1000番系)のみに制限される。即ち、非特許文献1に記載の方法は、合金系(同番号の2000〜7000番系)において化成皮膜を生成しないため、極めて有用性が低いという問題があった。
【0005】
従来のアルミニウム系材料の表面処理方法では、アルミニウム系材料へ十分な耐食性を提供できない、或は有害物質を付加することとなる上、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を付加する機能性皮膜を提供できないという問題点があった。
【0006】
上記現状を鑑みると、高い硬度・耐食性を提供するとともに、過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用を有する機能性皮膜を製造する方法の確立が期待される。過酸化水素分解作用及び有害ガス除去作用をもたらす一つの手段として、酸化触媒能を有する金属酸化物を用いて、アルミニウム系材料の皮膜を形成することが考えられるが、これら酸化触媒能を有する金属酸化物、例えば二酸化マンガン、五酸化バナジウムおよび酸化ルテニウムは、従来から粉体として使用されているため、金属の表面処理に用いることは困難であると認識されている。
【0007】
一般的に、酸化物の酸化触媒能は、対象となる基質によって異なり、例えば、過酸化水素、オゾン(特許文献1参照)、ダイオキシン(特許文献2参照)の分解は、二酸化マンガンと酸化ルテニウムからなる混合酸化物の皮膜を作製することによって、反応性すなわち分解速度の制御をより容易に行うことが可能となる。さらに、特許文献3には、酸化ジルコニウムおよび五酸化バナジウムなどは過酸化水素の分解には適さないが、抗菌性光触媒として有効な酸化触媒となることが記載されており、その他多数の文献によっても、金属酸化物の過酸化水素分解能又は有害ガス除去能による有用性が証明されている。しかしながら、例えば、特許文献1で開示される浸漬焼成による二酸化マンガンの成膜は、硝酸マンガンを用いた手法で生成されるため、分解によってNO2ガスが発生するという問題があり、やはり望ましい方法であるとは言い難いものである。
【0008】
【非特許文献1】軽金属学会誌;第50巻、第10号、2000年、486〜490頁
【特許文献1】特開2003−311126号公報
【特許文献2】特開2002−361045号公報
【特許文献3】特開2000−095976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する酸化触媒能を有する金属酸化物をアルミニウム系材料の皮膜に固定化させる方法を見出し本発明に至った。
本発明はアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関し、高い耐食性をもたらすとともに、環境にやさしく、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料を提供することを課題とする。詳細には、アルミニウム系材料上にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を形成し、該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる方法を提供することを課題とする。
本発明の更なる課題は、表面に機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、アルミニウム系材料の表面にベーマイト皮膜を生成する一次工程と、該ベーマイト皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなること特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項2に係る発明は、アルミニウム系材料の表面に水酸化アルミニウム皮膜を生成する一次工程と、該水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなることを特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項3に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム又は酸化ルテニウムから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項4に係る発明は、前記ベーマイト皮膜が、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム又はしゅう酸アルミニウムから選択される一種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧することにより生成されることを特徴とする請求項1又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項5に係る発明は、前記水酸化アルミニウム皮膜が、水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱することにより生成されることを特徴とする請求項2又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項6に係る発明は、前記二次工程が、前記一次工程により得られたアルミニウム系材料をマンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩から選択される一種以上を含む水溶液中に浸漬させ、前記アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項7に係る発明は、前記二次工程が、前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中で加熱する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法に関する。
請求項8に係る発明は、表面にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜が形成されてなり、該ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化されていることを特徴とする機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項9に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項10に係る発明は、前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、その粒径が5〜50ナノメートルで、前記ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
請求項11に係る発明は、前記機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の形状が、線状又はメッシュ状であることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法によると、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有するアルミニウム系材料を提供することができる。詳細には、本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法は、アルミニウム系材料に高い硬度・耐食性、且つ有害物質を含まないベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜を生成でき、さらに、その化成皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化することにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する機能性皮膜をアルミニウム系材料に施すことができる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料は、前記金属酸化物が固定化されていることにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有している。さらに、基材がアルミニウムであるために取り扱いが簡単であり、有用性が高く、凡庸的に使用できるとともに半永久的に利用できるようになる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料は、前記金属酸化物が、その粒径5〜50ナノメートルで固定化された場合には、比表面積は増大し、酸化触媒能に優れる。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が線状又はメッシュ状である場合、顕著に優れた過酸化水素分解能および有毒ガス除去作用を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、アルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法及び該機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する。
本発明に係る機能性皮膜とは、アルミニウム系材料上に形成されるベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜による高い硬度及び耐食性、及び該皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化することにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を兼ね備えた皮膜である。
【0013】
本発明のアルミニウム系材料は高い硬度及び高い耐食性を有し、詳細には、耐アルカリ性試験(JIS H8681に従ったアルカリ滴下試験において、1時間経過後も皮膜の腐食がまったく見られなかったため、さらに80℃一定に保った20%‐水酸化ナトリウム溶液に皮膜を浸漬させたが、30分経過後も皮膜の腐食は認められなかった。
【0014】
本発明のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法は一次工程(水熱加圧処理又は水熱処理)と二次工程(水熱加圧処理又は浸漬焼成処理)とからなる。即ち、一次工程において、高い硬度・耐食性を有するベーマイト(AlO(OH))皮膜又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成し、二次工程において、一次工程で得たベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる。
以下に、まず一次工程について説明する。
【0015】
一次工程は、ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理のいずれかが行われる。
【0016】
ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理について説明する。
一次工程における水熱加圧処理は、アルミニウム系材料をノニオン系界面活性剤によって脱脂を行う前処理段階と、水溶液にアルミニウム系材料を浸漬し、加熱・加圧を行う水熱加圧処理段階とからなる。
前記前処理段階で用いられるノニオン系界面活性剤は特に限定されない。
【0017】
前記水熱加圧処理段階に用いられる水溶液には、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、しゅう酸アルミニウム、その他のアルミニウム塩から選択される1種以上が添加され、これらは単独で用いられても、混合して用いられてもよい。尚、前記硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、又はしゅう酸アルミニウムの水溶液中の濃度は特に限定されないが、0.001〜1.0mol/Lが好ましい。この理由は、一定以上の添加は酸性度が増大しすぎて、増膜効果が低下するからである。
【0018】
水熱加圧処理段階において加熱される温度は、好ましくは、100℃〜250℃であり、厚く密着性の良い皮膜を得るためには180℃以上の温度が望ましい。100℃未満の場合、成膜速度が著しく遅く、一方250℃を超える場合は、アルミニウム母材と皮膜の溶解速度が増すため、材料自体が溶解して薄くなってしまい、いずれの場合も望ましくない。
水熱加圧処理段階において、加熱及び加圧時間については、特に限定されないが、好ましくは、10分〜60分である。10分未満では、膜厚が10μmであり、30分を超えるとほぼ一定の膜厚(30μm)となり増膜効果が望めなくなり、いずれの場合も好ましくない。
【0019】
一次工程における水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理について説明する。
一次工程における水熱処理は、アルミニウム系材料をノニオン系界面活性剤によって脱脂を行う前処理段階と、水溶液にアルミニウム系材料を浸漬し加熱を行う水熱処理段階とからなる。
前記前処理段階で用いられるノニオン系界面活性剤は特に限定されない。
【0020】
前記水熱処理段階に用いられる水溶液には、水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上が添加され、これらは単独で用いられても、混合して用いられてもよいが、水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウムを混合して用いることが好ましい。
水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウムを混合して用いる場合、水酸化ストロンチウムが0.001〜0.1mol/L、硝酸ストロンチウムが0.001〜0.3mol/Lの濃度で混合されていることが望ましい。
【0021】
水熱処理段階において加熱される温度は、好ましくは、25℃〜95℃であり、25℃未満の場合、1μm以下の干渉皮膜しか生成しないため、95℃を超える場合は、硝酸ストロンチウムの分解が起こるため、いずれの場合も望ましくない。
水熱処理段階において、前記温度での加熱時間については、特に限定されないが、好ましくは、30分〜90分であり、30分未満では、必要とされる膜厚が得られない可能性があり、90分を超えると浴劣化が著しくなるため、いずれの場合も好ましくない。
【0022】
二次工程(水熱加圧処理)について説明する。
二次工程において、一次工程で得られたベーマイト(AlO(OH))皮膜或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる。
固定化させる方法としては、水熱加圧処理又は浸漬焼成処理のいずれかが採用される。
前記酸化触媒能を有する金属酸化物は特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化タングステン、二酸化マンガン、五酸化バナジウム又は酸化ルテニウムなどは高い密着性を有する皮膜を作製することができる。それぞれの酸化物の酸化触媒能は、対象となる基質によって異なり、例えば、過酸化水素の分解では二酸化マンガンと酸化ルテニウムからなる混合酸化物の皮膜を作製することによって、反応性すなわち分解速度の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0023】
二次工程における水熱加圧処理による前記酸化触媒能を有する金属酸化物の固定化は以下の方法で行われる。
まず、マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩等を添加した水溶液に、一次工程で生成されたベーマイト(AlO(OH))皮膜或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜が形成されたアルミニウム系材料を入れ、加熱・加圧し、所定時間保持する。
【0024】
前記マンガン塩として、例えば、過マンガン酸カリウム、硝酸マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられ、過マンガン酸カリウムが好適に用いられる。
前記バナジウム塩として、例えば、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジウム、塩化バナジウムが挙げられ、バナジウム酸アンモニウムが好ましく用いられる。
前記ルテニウム塩としては、例えば、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム、が挙げられ、塩化ルテニウムが好適に用いられる。
前記チタン塩としては、例えば、ヘキサフロロチタン酸アンモニウム、四塩化チタン、硫酸チタン、しゅう酸チタン酸アンモニウムなどが挙げられ、しゅう酸チタン酸アンモニウムが好適に用いられる。
前記ジルコニウム塩としては、例えば、ヘキサフロロジルコニウムアンモニウム、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウムが挙げられ、塩化酸化ジルコニウムが好適に用いられる。
前記タングステン塩としては、例えば、塩化タングステン、タングステン酸アンモニウムが挙げられ、タングステン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0025】
前記マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩水溶液の濃度は、0.0001〜1.0mol/Lが好ましい。
前記加熱条件は、100℃〜250℃が好ましく、厚膜の皮膜を得るためには180℃以上が望ましい。一方250℃を超える場合は、アルミニウム母材と皮膜の溶解速度が増すため、材料自体が薄くなってしまうため望ましくない。
【0026】
水熱加圧処理段階において、加熱及び加圧時間については、特に限定されないが、好ましくは、10分〜60分である。10分未満では膜厚が0.1μm以下であり、30分を超えると一定の膜厚(2μm)となり、増膜効果が望めないため、いずれの場合も好ましくない。
【0027】
二次工程における浸漬焼成処理による前記酸化触媒能を有する金属酸化物の固定化は以下の方法で行われる。
一次工程で得た水酸化アルミニウム皮膜又はベーマイト皮膜を、好ましくは酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中にて加熱する。
前記酢酸マンガンの濃度は、好ましくは0.001〜1.5mol/L、前記しゅう酸マンガンの濃度は0.001〜3mol/Lが望ましい。
その他、前記バナジウム酸アンモニウムの濃度は0.001〜1.0mol/L、塩化ルテニウムの濃度は0.001〜1.5mol/L、しゅう酸チタン酸アンモニウムの濃度は0.001〜2.0mol/L、塩化酸化ジルコニウムの濃度は0.001〜1.5mol/L又はタングステン酸アンモニウムの濃度は0.001〜1.0mol/Lが望ましい。
前記加熱温度は、空気中にて、好ましくは130〜350℃の温度で加熱される。130℃未満の場合は、酢酸塩の酢酸が充分に分解されず、350℃を超える場合は、一次工程で作製した水酸化アルミニウム皮膜にクラックが発生し出すため、いずれの場合も望ましくない。
特許文献1に記載の硝酸マンガンではなく、酢酸マンガンを用いることにより、燃焼によって無害な二酸化炭素と水に分解する利点がある。
【0028】
このようにして、一次工程において、ベーマイト(AlO(OH))皮膜を生成するための水熱加圧処理、或は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜を生成するための水熱処理のいずれかが行われ、さらに、二次工程において、該ベーマイト(AlO(OH))皮膜又は該水酸化アルミニウム(Al(OH)3)皮膜上に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化される。上記皮膜上に固定化された酸化触媒能を有する金属酸化物は、粒径5〜50ナノメートルで固着された場合には、比表面積は増大し、酸化触媒能に優れたアルミニウム系材料皮膜となる。ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に酸化触媒能を有する金属酸化物か固定化される一連の工程を図1に示す。
【0029】
本発明の実施例に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料について詳説する。
本発明で利用されるアルミニウム系材料は特に限定されず、純アルミ系(JIS合金番号1000番系)であっても、合金系(同番号の2000〜7000番系)であってもよい。尚、好ましくは合金系アルミニウム系材料が利用される。
【0030】
図2は、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料(1)の一例の斜視図で、図3は、図2のA’−A線断面図を示す。
図3において、(1)は機能性皮膜を有するアルミニウム系材料、(2)はアルミニウム系材料、(3)はベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜、(4)は酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜を示す。本発明において、「機能性皮膜」とは、このベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム(3)及び酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)の2つの皮膜からなる。
図4において、本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の1実施形態における模式図を示す。
【0031】
本発明に係るアルミニウム系材料(2)の厚みは特に限定されない。
本発明に係るベーマイト皮膜(3)は、AlO(OH)からなり、厚みは、好ましくは20〜30μmである。
本発明に係る水酸化アルミニウム皮膜(3)は、Al(OH)3からなり、厚みは、好ましくは10〜20μmである。
本発明に係るベーマイト皮膜及び水酸化アルミニウム皮膜は、これら皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させることにより、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を、アルミニウム系材料(1)にもたらすこととなる。
【0032】
本発明に係る酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)は、該金属酸化物の粒径が好ましくは5〜50ナノメートルで、ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に固定化されてなり、その厚みは、好ましくは0.1〜2μmである。酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)は、好ましくは、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンからなり、これらは混合して固定化されても、単独で固定化されていてもよい。
この酸化触媒能を有する金属酸化物からなる皮膜(4)により、アルミニウム系材料(1)は、優れた過酸化水素分解作用や一酸化炭素、塩素、亜硫酸などの有害ガス除去作用を有する。
本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が線状又はメッシュ状である場合、顕著に優れた過酸化水素分解能および有毒ガス除去作用を奏する。前記メッシュ状であるアルミニウム系材料の孔径、孔間距離及び開孔率は特に限定されない。好ましくは、用途、使用目的、対象物に応じて適宜調製される。
【0033】
図5に、二酸化マンガンが固定されたベーマイト皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す。このSEM写真は、二酸化マンガンがナノオーダーの粒子でベーマイト皮膜表面に固定化されている状態を示す。
図6に、水酸化アルミニウム皮膜に二酸化マンガンが固定化された状態を示す。
【実施例】
【0034】
以下本発明の実施例について詳細について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)ベーマイト皮膜の形成と二酸化マンガンの固定化(尚、実施例1における一連の工程を図7に示す。)
(1)一次工程(水熱加圧処理)
a.前処理段階
合金系アルミニウム材(2cm×5cm×400μm)をノニオン系界面活性剤浴中で、50℃で5分間脱脂した。
b.水熱加圧処理段階
さらに、0.04M硝酸アルミニウムを添加し、簡易型オートクレーブ(図8参照)に入れ、210℃(20atm)で処理を行い、ベーマイト皮膜を得た。このベーマイト皮膜は、XRD(X線回折装置)の分析結果を構造解析することにより同定した。図9に分析結果を示す。
(2)二次工程(水熱加圧処理)
a.一次処理で得られたベーマイト皮膜が表面に形成された合金系アルミニウム材を0.05M過マンガン酸カリウム水溶液50mLとともにガラス内筒に入れ、簡易型オートクレーブで180〜210℃(10〜20atm)の条件で30分間保持を行い、二酸化マンガンの固定化を行った。図10は、二次工程で得た皮膜のXRD測定結果であり、マンガナイト(MnO(OH))が生成していることがわかる。副生成物としてMnO(OH)が同時に生成し、このMnO(OH)が非晶質のAl(OH)3やベーマイトとの密着性を向上させていると考えられる。さらに、二次工程を施した皮膜のESCA(X線光電子分析法)の測定結果を図11に示す。この測定結果より、二次工程により二酸化マンガンがベーマイト皮膜上に生成されていることが確認できる。
【0035】
(実施例2)水酸化アルミニウム皮膜の形成と二酸化マンガンの固定化(尚、実施例2における一連の工程を図12に示す。)
(1)一次工程(水熱処理)
a.前処理段階
合金系アルミニウム材(2cm×5cm×400μm)をノニオン系界面活性剤浴中で、50℃で5分間脱脂した。
b.水熱処理段階
さらに、0.01M水酸化ストロンチウムと0.04M硝酸ストロンチウム混合浴中にて、アルミニウム材を90℃で90分間の熱処理を行い、水酸化アルミニウム皮膜を得た。この水酸化アルミニウム皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を図13示す。状態分析により、最表面にギブサイト[α‐Al(OH)3]およびバイヤライト[β‐Al(OH)3]の結晶が同定できる。さらに、水酸化アルミニウム皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)による断面観察を行った結果を図14に示す。最表面にギブサイトおよびバイヤライトの結晶であるような層とその下方に非晶質層であるような層の生成が確認できる。
(2)二次工程(水熱加圧処理)
a.一次工程で得られた水酸化アルミニウム皮膜が表面に形成されたアルミニウム材を0.05M過マンガン酸カリウム水溶液50mLとともにガラス内筒に入れ、簡易型オートクレーブで180〜210℃(10〜20atm)の条件で30分間保持を行い、二酸化マンガンの固定化を行った。
【0036】
(実施例3)水酸化アルミニウム皮膜の浸漬焼成処理による二酸化マンガンの固定化(尚、実施例3における一連の工程を図15に示す。)
(1)一次工程
実施例2の一次工程により水酸化アルミニウム皮膜を得た。
(2)二次工程
b.水熱処理した水酸化アルミニウム皮膜を酢酸マンガンの硝酸水溶液中に含浸せしめる。尚、酢酸マンガンの濃度は、1.0mol/Lであった。その後、空気中にて300℃の温度に加熱することにより、合金系アルミニウム皮膜表面に二酸化マンガンの均一な皮膜が強固に固着する。
【0037】
(試験例1)過酸化水素分解作用試験
上記の実施例3で得られた機能性皮膜を有するアルミニウム系材料を用いて、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の過酸化水素分解作用試験を実施した。
a.試験方法
実施例3で得た本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料(水酸化アルミニウム皮膜を酢酸マンガン水溶液中に浸漬させ、焼成処理を行ったもの)の板状およびメッシュ状(孔径:0.8mm、孔間距離:1.15mm、開孔率:43.8%)の試験片(20mm×20mm;膜厚15μm)の2種類を、297Kの温度条件下で、初期濃度を150ppmとした過酸化水素水500mLに浸漬させた。1時間ごとにホールピペットを用いて10mLずつ採取し、0.05M過マンガン酸カリウム水溶液を用いて過酸化水素の濃度を決定した。試験時間は全6時間で行い、過酸化水素濃度の経時変化を測定した。結果を図16示す。
尚、本試験例1で用いた、本発明のメッシュ状及び板状の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の写真を図17に示す。
【0038】
図16が示すように、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料が優れた過酸化水素分解能を有することがわかる。さらに、形状を板からメッシュ状に変えるだけで過酸化水素分解速度は10倍以上向上する。
【0039】
(試験例2)耐食性試験
実施例1の一次工程にて作製したベーマイト皮膜材料を実施例4とし、実施例2の一次工程にて作製した水酸化アルミニウム皮膜を実施例5として耐食性試験を行った。比較例としてMBV法により作製した皮膜を比較例1とした。
a.試験方法
実施例4、5及び比較例1に対して10%の水酸化ナトリウム水溶液を用、JIS H 8681に従い、アルカリ滴下試験を行い、耐アルカリ試験値とした。結果を表1に示す。
b.試験結果
実施例4においては1時間後も全く腐食が確認されず、実施例5においては1490秒で侵食が観察された。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、実施例1及び2の製造方法によって生成された本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料である実施例4及び5は、優れた耐食性を有していることが分かる。一方、比較例1は135秒で侵食が観察されたため実施例と比較して、耐食性に劣ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料を製造する一連の工程を示す図である。
【図2】本発明に係る本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の斜視図である。
【図3】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の斜視図である図2のA’−A線断面図である。
【図4】本発明に係る機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の1実施形態における模式図である。
【図5】本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する図であり、二次工程を施し、ベーマイト皮膜上に二酸化マンガンが固定化された皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図である。
【図6】本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料に関する図であり、二次工程を施し、水酸化アルミニウム皮膜上に二酸化マンガンが固定化された皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す図である。
【図7】本発明に係る実施例1における一連の工程を示す図である。
【図8】本発明に係る実施例1、2及び3で用いた簡易型オートクレーブを示す図である。
【図9】本発明に係る実施例1における一次工程(水熱加圧処理)によって生成されるベーマイト皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を示す図である。
【図10】本発明に係る実施例1における二次工程において、ベーマイト皮膜を過マンガン酸カリウム水溶液中で、水熱加圧処理を施した皮膜のXRD測定結果を示す図である。
【図11】本発明に係る実施例1における二次工程(水熱加圧処理)を施した皮膜のESCA(X線光電子分析法)の測定結果を示す図である。
【図12】本発明に係る実施例2における一連の工程を示す図である。
【図13】本発明に係る実施例2における一次工程(水熱処理)で水酸化ストロンチウムと硝酸ストロンチウム混合浴中にて生成される水酸化アルミニウム皮膜のXRD(X線回折装置)分析結果を示す図である。
【図14】本発明に係る実施例2における水酸化アルミニウム皮膜のSEM(走査型電子顕微鏡)による断面写真を示す図である。
【図15】本発明に係る実施例3における一連の工程を示す図である。
【図16】本発明に係る試験例1における、本発明の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の過酸化水素分解能試験結果である。
【図17】本発明に係る試験例1で用いた、メッシュ状(1)及び板状(2)の本発明の機能性皮膜を有する(二酸化マンガンが固定化された)アルミニウム系材料の写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料の表面にベーマイト皮膜を生成する一次工程と、
該ベーマイト皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなること特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム系材料の表面に水酸化アルミニウム皮膜を生成する一次工程と、
該水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなることを特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記ベーマイト皮膜が、
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム又はしゅう酸アルミニウムから選択される一種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、
該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧することにより生成されることを特徴とする請求項1又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項5】
前記水酸化アルミニウム皮膜が、
水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、
該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱することにより生成されることを特徴とする請求項2又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記二次工程が、
前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩から選択される一種以上を含む水溶液中に浸漬させ、前記アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記二次工程が、
前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中で加熱する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項8】
表面にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜が形成されてなり、該ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化されていることを特徴とする機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項9】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項10】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、
その粒径が5〜50ナノメートルで、前記ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項11】
前記機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の形状が、線状又はメッシュ状であることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項1】
アルミニウム系材料の表面にベーマイト皮膜を生成する一次工程と、
該ベーマイト皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなること特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム系材料の表面に水酸化アルミニウム皮膜を生成する一次工程と、
該水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物を固定化させる二次工程とからなることを特徴とするアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記ベーマイト皮膜が、
硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム又はしゅう酸アルミニウムから選択される一種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、
該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧することにより生成されることを特徴とする請求項1又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項5】
前記水酸化アルミニウム皮膜が、
水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化リチウム又は硝酸アルミニウムから選択される1種以上を含む水溶液にアルミニウム系材料を浸漬させ、
該アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱することにより生成されることを特徴とする請求項2又は3記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記二次工程が、
前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、マンガン塩、バナジウム塩、ルテニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩又はタングステン塩から選択される一種以上を含む水溶液中に浸漬させ、前記アルミニウム系材料が浸漬された水溶液を加熱・加圧する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記二次工程が、
前記一次工程により得られたアルミニウム系材料を、酢酸マンガン、しゅう酸マンガン、バナジン酸アンモニウム、塩化ルテニウム、しゅう酸チタン酸アンモニウム、塩化酸化ジルコニウム又はタングステン酸アンモニウム水溶液中に含浸せしめた後、空気中で加熱する工程からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のアルミニウム系材料上への機能性皮膜の製造方法。
【請求項8】
表面にベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜が形成されてなり、該ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜表面に酸化触媒能を有する金属酸化物が固定化されていることを特徴とする機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項9】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、二酸化マンガン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化タングステンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項10】
前記酸化触媒能を有する金属酸化物が、
その粒径が5〜50ナノメートルで、前記ベーマイト皮膜又は水酸化アルミニウム皮膜に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【請求項11】
前記機能性皮膜を有するアルミニウム系材料の形状が、線状又はメッシュ状であることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載の機能性皮膜を有するアルミニウム系材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−263625(P2006−263625A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87271(P2005−87271)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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