説明

アルミニウム選別装置

【課題】ベルトコンベアプーリの過熱を検出することにより、鉄片のベルトコンベアプーリへの付着を検出し、鉄片の発熱によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制するようにしたアルミニウム選別装置を提供すること。
【解決手段】ベルトコンベアプーリ2の内側に回転ドラム7を回動可能に内挿するとともに、回転ドラム7に複数の永久磁石8を磁極が円周方向に交番するように配設したアルミニウム選別装置において、ベルトコンベアプーリ2の表面の過熱を検出する過熱検出手段13を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に都市ごみやスクラップ等の処理で、破砕品中に含まれるアルミニウム等の非鉄金属を回収するアルミニウム選別装置に関し、特に、ベルトコンベアプーリの過熱を検出することにより、鉄片のベルトコンベアプーリへの付着を検出し、鉄片の発熱によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制するようにしたアルミニウム選別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の大量生産、大量消費型社会から資源リサイクルを中心とした循環型社会への移行が進むなかで、ごみに含まれる資源物を機械的に効率よく選別回収して、ごみの再資源化や減容化が図られている。
なかでも、飲料缶等に広く利用されているアルミニウムは、原料のアルミニウム鉱石から電気精錬によって素材を得るコストが高く、したがって、リサイクル品を再生することで大幅なエネルギコストの節減になることから、環境に負荷を与えないとして積極的なリサイクル活用がされている。
【0003】
ごみに含まれるアルミニウムの選別は地方自治体が運営するごみ処理施設や、民間の処理場で、主に永久磁石式アルミニウム選別装置によって行われている。
鉄片等の磁性体は、例えば、回転するドラム内部に磁石を組み込み、このドラム部に廃棄物中の鉄片がさしかかると磁石の磁力によって鉄片はドラム表面に吸着されたままドラムと共に回転移動し、磁力の影響のない部位に到達して自身の重力によって垂直に落下する。
一方、プラスチックやゴム等の非磁性体はドラムの磁力の影響を受けることなくドラム表面の接線方向に垂直に落下する。この落下位置の差によって鉄片等の磁性体とプラスチック、ゴム等の非磁性体が分離される。
しかし、アルミニウムや銅、亜鉛等の非磁性金属は単なる磁石による磁力の吸引力による方式では、同じ非磁性体のプラスチックやゴム等とは分離できない。
【0004】
そこで、アルミニウム等の非磁性金属の分離には、渦電流を利用したアルミニウム選別装置が広く利用されている。
その構造は、磁石を回転ドラムに組み込み、その磁力によって分離する仕組みは類似しているが、回転ドラム表面の多数の磁石の磁極を円周方向に交番するように配置してある。
【0005】
図7に示すように、FRP製のベルトコンベアプーリ2に掛けてあるコンベアベルト1によって搬送されてきた処理物に含まれるアルミニウム片の内部には、ベルトコンベアプーリ2の内側で高速回転する回転ドラム7から発生する交番磁界によって、渦電流が発生する。
その渦電流によってアルミニウム片自身に反発磁界が起きるため、アルミニウム片は進行方向に加速される。
【0006】
これに対して、鉄片等の強磁性体は、鉄の場合、その電気抵抗率は8.9×10−8Ω・mで、アルミニウムの同抵抗率2.5×10−8Ω・mと比較して3.5倍以上高い。
交番磁界によって鉄片自身の内部にも渦電流は発生するが、電気抵抗値が高いために渦電流による反発磁界の発生も弱く、重量もアルミニウムと比較してその比重は約3倍もあるために回転ドラム7の交番磁界の影響は反発磁界よりも回転ドラム7への吸引磁力が優り、図8に示すように、鉄片は回転ドラム7に掛けられたコンベアベルト1上を回転ドラム7に沿って移動することになる。
【0007】
一般に実用化されているアルミニウム選別装置は、ベルトコンベアプーリの内側に回転ドラムを回動可能に内挿するとともに、該回転ドラムに複数の永久磁石を磁極が円周方向に交番するように配設している。
鉄片等の磁性金属を分離する磁力選別機では、回転ドラムをベルトコンベアプーリとして兼用する例があるが、アルミニウム選別装置の回転ドラムの周速は通常、毎分2000mから2500mであるのに対し、ベルトコンベアプーリの周速は毎分20mから40mで、その回転差によって兼用できない。
【0008】
永久磁石式アルミニウム選別装置に使用するベルトコンベアプーリは、磁力や渦電流の影響を受けることのない材質、例えば、プラスチック等が望ましい。
一般的には、構造強度のあるFRPで製作されており、その形状寸法はアルミニウム選別装置の処理能力によって異なるが、直径が250mmから500mmで長さは300mmから1000mm、厚さ5mmから20mm程度で円筒形状である。
処理物はアルミニウム選別装置で処理する前に、磁力選別機等で予め磁性金属の鉄片等を除去しておくことがアルミニウム選別装置の破損防止や選別性能を維持する上で望ましいが、仮に磁力選別機等によって取り残された鉄片等があってもアルミニウム選別装置の回転ドラムから発生する磁力によって吸引され、ベルトコンベアのベルト上を回転ドラム下方まで運ばれて回転ドラムとの距離が離れるとともに、影響する磁力が減少するために自身の重力によって落下する。
【0009】
しかしながら、アルミニウム選別装置で処理する処理物中に混入した鉄片で、その形状が球状や円筒状、立方体状等である場合、それらの鉄片はベルトコンベアのベルト上を回転ドラム下方まで運ばれ、回転ドラムとの距離が離れて磁力が減少しても、ベルト上で自身が回転して、それ以上磁力の低い部位に到達することができず、その結果、落下することなく、いつまでも自身の回転によって定位置に留まってしまうことが例外的に発生する。
そして、何らかのはずみによって、コンベアベルトの裏面に飛び移ることがある。すると、鉄片はより強力な磁力分布のあるベルトコンベアプーリに吸着され、このベルトコンベアプーリの一点に留まって共に回転を始める。図8は、この動作を模擬した略図である。
【0010】
このような状態で、ベルトコンベアプーリと共に回転を始めた鉄片は、回転ドラムの強力な交番磁界を受け、電磁誘導によるジュール熱を発生する。
ジュール熱による発熱の度合いは、回転ドラムの磁極ピッチ、その磁力、回転数等の要素による交番磁力の強さと鉄片の形状やその容量等によって決定される。
例えば、回転ドラムの直径が30cm、磁極ピッチが3cm、回転数が毎分2000回転で、回転ドラム表面の交番磁界が0.3T(Tesula)の場合、2cm立方の鉄片をベルトコンベアプーリ表面に位置させてその発熱温度を計測したが、10分で最高温度が550℃に達したとの実験データーを得ている。
これよりもさらに回転数が高い場合や磁極ピッチが小さい場合には、高周波磁束密度が高くなり、誘導加熱の表皮効果が増大することで鉄片の表面は赤熱することも考えられる。
【0011】
他方、ベルトコンベアプーリは、FRPを材料として成型されている。
プラスチックは誘電率が高く、磁気や電流の影響を受けないために、ベルトコンベアプーリの材料には適しているが、弾性率や強度が低いために構造用材料には適さない。
そこで、ガラス繊維のように弾性率の高い材料を骨材として、母材には不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用し、軽量で高強度の特徴を持たせた複合材料がFRPである。
【0012】
FRPは不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主原料としているため、その耐熱温度は110℃から120℃程度で、前述の状況下で鉄片が誘導加熱によって発熱した場合、耐熱性の低いFRP製のベルトコンベアプーリは鉄片の極部発熱によって溶融し、回転ドラムの磁力で吸引される結果、鉄片はFRP製のベルトコンベアプーリを溶融貫通し、高速回転している回転ドラム表面に接着されている多数の磁石と接触する。
その結果、複数の磁石に損傷を与え、最悪のケースでは破損した磁石が高速回転の遠心力によって飛散し、回転ドラムの動的バランスが崩れ、振動によって回転ドラム表面の磁石の大部分が剥がれ、ベルトコンベアプーリ、コンベアベルト、回転ドラム全体を破壊する事故が発生したこともあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来のアルミニウム選別装置が有する問題点に鑑み、ベルトコンベアプーリの過熱を検出することにより、鉄片のベルトコンベアプーリへの付着を検出し、鉄片の発熱によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制するようにしたアルミニウム選別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のアルミニウム選別装置は、ベルトコンベアプーリの内側に回転ドラムを内挿するとともに、該回転ドラムに複数の永久磁石を磁極が円周方向に交番するように配設したアルミニウム選別装置において、ベルトコンベアプーリ表面の過熱を検出する過熱検出手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
この場合において、過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリに埋設され、ベルトコンベアプーリの回転により誘導起電力を発生する誘導コイル状の導電線と、該導電線の誘導起電力を計測する電気信号検出器とにより構成することができる。
【0016】
また、過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリの外周面に定着し、表面を樹脂層で保護した測温抵抗体と、測温抵抗体の過熱による電気信号を検出する電気信号検出器とにより構成することができる。
【0017】
また、過熱検出手段によって検出したベルトコンベアプーリ表面の過熱に基づいて、警告若しくはベルトコンベアの運転を停止する制御装置を設けることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム選別装置によれば、ベルトコンベアプーリの内側に回転ドラムを内挿するとともに、該回転ドラムに複数の永久磁石を磁極が円周方向に交番するように配設したアルミニウム選別装置において、ベルトコンベアプーリ表面の過熱を検出する過熱検出手段を設けることから、鉄片がベルトコンベアプーリに吸着され、電磁誘導によるジュール熱を発生すると、過熱検出手段によりベルトコンベアプーリ表面の過熱が検出されることになり、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制することができる。
【0019】
この場合、熱検出手段を、ベルトコンベアプーリに埋設され、ベルトコンベアプーリの回転により誘導起電力を発生する誘導コイル状の導電線と、該導電線の誘導起電力を計測する電気信号検出器とにより構成することにより、鉄片のジュール熱でベルトコンベアプーリ表面が溶融し導電線が破断すると、誘導起電力がなくなることから、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制することができる。
【0020】
また、過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリの外周面に定着し、表面を樹脂層で保護した測温抵抗体と、測温抵抗体の過熱による電気信号を検出する電気信号検出器とにより構成することにより、温度により変化する測温抵抗体の電気抵抗値によりベルトコンベアプーリ表面の過熱を検出し、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制することができる。
【0021】
また、過熱検出手段によって検出したベルトコンベアプーリ表面の過熱に基づいて、警告若しくはベルトコンベアの運転を停止する制御装置を設けることにより、鉄片がベルトコンベアプーリに吸着され、電磁誘導によるジュール熱を発生すると、警告を発したり自動的にアルミニウム選別装置の運転を停止し、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のアルミニウム選別装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明のアルミニウム選別装置は、図1に示すように、ベルトコンベアプーリ2の内側に回転ドラム7を回動可能に内挿するとともに、該回転ドラム7に複数の永久磁石8を磁極が円周方向に交番するように配設したもので、ベルトコンベアプーリ表面の過熱を検出する過熱検出手段を設けている。
【0024】
過熱検出手段としては、機械的な手段と電気的な手段とが考えられる。
機械的手段は、例えば、図2に示すように、FRP製のベルトコンベアプーリ2を成型する場合に、極細の導電線3をベルトコンベアプーリの全周にコイル状に巻き付ける。
FRPの成型は、このベルトコンベアプーリ2等のように少量生産品の場合、ハンドレイアップ法で成型される。例えば、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂とガラス繊維を手作業で型に沿って積層し、硬化した後、表面を樹脂コート層(FRPコート層を含む。)で覆う。
この樹脂コート層は、硬化後真円度を保つためにベルトコンベアプーリ2の内外面共、旋盤等の加工機によって切削加工をするが、最終仕上がり寸法は、導電線3がベルトコンベアプーリ外周面から2〜3mm程度埋没した部位が望ましい。
その理由として、ベルトコンベアプーリ2はコンベアベルト1が掛り、それを駆動していることでベルトコンベアプーリ表面とコンベアベルト1による摩擦力によってベルトコンベアプーリが磨耗するために、予め導電線3を樹脂コート層に埋設させて保護する目的がある。
【0025】
上記手段によって成型したベルトコンベアプーリ2を同軸芯上の回転ドラム7に組み付け、その軸端に軸受を介してスリップリング(回転集電装置)を取り付けて電気信号を取り出す。
回転ドラム7を規定の回転数で運転すると、ベルトコンベアプーリ2に附設された導電線3は誘導コイルとなって交番磁界による電磁誘導を受けて誘導起電力が発生する。
この起電力を取り出し、負荷抵抗により電流に変換し、市販のCTコイルを経由して電圧検出器によって電気信号とする。
【0026】
鉄片がベルトコンベアプーリ2に付着した場合、鉄片が発生するジュール熱によってベルトコンベアプーリ2は溶融され、ベルトコンベアプーリ2に埋設している導電線3を回転ドラム7の磁力による吸引力で破断する。
したがって、ベルトコンベアプーリ2に附設された導電線3が形成するコイルは、断線の結果、電磁誘導による起電力は消滅する。この現象を利用して警告を与えるとともに、その運転を自動的に停止させ事故を未然に防ぐことができる。
なお、電気信号の検出には、ベルトコンベアプーリ2に埋設した導電線3のコイルが回転ドラム7の発生する交番磁界によって約1KHzの交流成分を有することから、市販のパルス検出器を利用してもよい。
【実施例2】
【0027】
しかしながら、上記の構造では、熱溶融によって鉄片がベルトコンベアプーリ2に食い込み、埋設した導電線3のコイルを切断することで電気信号を得るために、事故は防げるがベルトコンベアプーリ2は少なからず損傷を受けてしまう。
そこで、ベルトコンベアプーリ2に温度検出用の温度センサを取り付けて、ベルトコンベアプーリ2が鉄片による熱溶融を引き起こす以前に保護する構造が考えられる。
【0028】
温度センサには、白金測温抵抗体、熱電対、サーミスターの3種類が一般に使用されているが、これらのセンサをベルトコンベアプーリ2に利用した場合、いずれも測温点範囲が点や線上の限られた部分に有効である。
その理由は、ベルトコンベアプーリ2の材料であるFRPは熱伝導率が鉄と比較すると約1/200と非常に低いために、ベルトコンベアプーリ2上で鉄片による熱溶融の位置が特定できないために数多くのセンサを必要とする。
【0029】
さらに、数多くのセンサからの信号を比較検出する方法も容易ではなく、加えて白金測温抵抗体や熱電対型のセンサは、その素子が金属で構成され、リード線によって信号を取り出すことから、これらのセンサをベルトコンベアプーリ2に使用すると、素子やリード線の金属に電磁誘導による高周波の起電力が生じることになり、これが障害となって安定した正確な計測は望めない。
したがって、PTCサーミスター(Positive Temperature Coefficient Thermistor)を利用することが望ましい。
PTCサーミスターはチタン酸バリウム(BaTiO)を主成分とした半導体セラミックで、図3のグラフに示すように、温度によって自身の電気抵抗値が急激に高くなる特徴がある。
これは、チタン酸バリウムの原子価制御型半導体セラミックが加熱によって、その結晶構造が転移し、通常の強誘電体から常誘電体に変わることで、その電気抵抗値が大幅に変化する。
そして、材料の組成によって、任意に、電気抵抗値が著しく増大するキューリー温度が選定できる。
【0030】
このPTC素子に電圧を印加すると、ジュール熱によって自己発熱し、キューリー温度に達するとその電気抵抗値が対数的に増大する結果、電流値が減少し電力が抑えられるために発熱温度が低下する。この温度低下によって電気抵抗値は減少するため、電流値は増大して発熱温度は上昇する。このような行程を繰り返すことで予め材料の組成によって決定されたキューリー温度を保持することができるために定温発熱体として広く利用されている。
PTC素子を定温発熱体として利用すると、他のヒーターのように別途の温度調節器が不要の上、PTC素子が半導体セラミックであることからフィルム等の薄板面に加工できる特徴がある。
【0031】
このPTC素子の原理とその特徴を応用し、ベルトコンベアプーリ2の表面に装着して鉄片の発熱による温度上昇を電気抵抗値として計測することにより、目的を達成することができる。
PTC素子は半導体セラミックで、その物性は強誘電体であることから、回転ドラム7から発生する交番磁界による電磁誘導の影響も受けることがない。
電気抵抗値を計測してベルトコンベアプーリ2の過熱警報とする処理は、例えば、PTC素子に基準電圧を与え、電気抵抗値によって変化する電流値を検出する方法や、図4に示すホイートストンブリッジ(Wheatstone Bridge)回路を応用してPTC素子の温度変化による電気抗値を電位差計によって検出する方法等が考えられる。
【0032】
この測定原理は、図4において、R〜Rの抵抗値を持つ回路とR〜Rxの回路の抵抗値が等価であればVの電位差計はゼロを指す。R、R、Rが既知抵抗であれば未知の抵抗値Rxを知ることができる。
すなわち、Vの電位差計がゼロを示すようにRの抵抗値を調整して、R+R=R+RxによってRxの抵抗値が判読できる。
予め、PTC素子のキューリー温度における電気抵抗値が判っている場合、Rの電気抵抗値をそれと同等に設定しておけば、キューリー温度に達したとき、電位差計はゼロとなり無電圧が信号として利用できる。
逆に、正常運転時の電気抵抗値が判っている場合には、Rの電気抵抗値をそれと同等に設定しておけば、電位差計の電圧の有無が信号として利用できる。
【0033】
以上の説明による永久磁石式アルミニウム選別装置のFRP製のベルトコンベアプーリ2を過熱から保護するための検証を行った。
FRP製のベルトコンベアプーリ2は、ベルトコンベアプーリ2の内径に近い寸法に合わせた型の上に不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂と短繊維のガラス繊維を手作業によるハンドレイアップ方式で層厚が10mm程度に積層する。
なお、ガラス繊維に代えて、アラミド繊維やカーボン繊維を用いることもできる。
【0034】
硬化後、脱型して真円度保持のための旋盤加工を施し、表面にPTC素子を貼り付ける。このPTC素子はチタン酸バリウム(BaTiO)を主成分とする半導体セラミックのPTCヒーターの素材を利用した。
PTCヒーターは、製造時の材料組成によって、電気抵抗値が急激に増加するキューリー温度が決定される。一般的に使用されているPTCヒーターのキューリー温度は40〜180℃程度である。
今回の目的であるFRP製のベルトコンベアプーリ2の過熱保護として利用するにはFRPの軟化温度以下であり、永久磁石式アルミニウム選別装置の稼動環境温度を考慮して、そのキューリー温度が80℃の素材を利用した。
【0035】
このPTC素子を、図5に示すように、両端の電極部と共に幅10mmの短冊状に切断し、短冊型PTC素子13をベルトコンベアプーリ2の円周上に円筒長手方向に15mmのピッチで全周に亘って貼り付けた。
各々の短冊型PTC素子13は、すべての素子が電気回路的に直列になるように接続する。
この理由として、多くのPTC素子を応用した面状のヒーターは、PTCの特性である発熱部位の抵抗値が上昇して自己温度制御するために、従来のニクロム線等を利用したヒーター素子のように直列に配置する必要がなく、ある幅を持った部分の全体を並列的に電圧を与える方式が可能である。
したがって、PTCヒーターは電圧を印加する両端の電極に対し、無数の並列回路が構成されていると考えられる。
もし、この方式で鉄片から生じる発熱による電気抵抗値を計測すると、その計測値の変位量は微少なために正確な電気信号を得ることができない。
【0036】
短冊型PTC素子13が全周に貼り付けられたベルトコンベアプーリ2は、電気信号検出用の信号線15を除き、機械的保護の目的で、同じく不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂とガラス繊維を吹き付けるスプレーアップ法で積層した。
この積層厚さは、再度真円度保持のための旋盤加工後の仕上がり寸法が3mmになるように設定した。
このとき、短冊型PTC素子13の両端の電極を連結する連結線14や、電気信号検出用の信号線15は、回転ドラム7によって発生する交番磁界の影響を防ぐため、図1に示すように、ベルトコンベアプーリ2の長さを回転ドラム7の長さよりも大きくして、その磁界の影響を防ぐ必要がある。
【0037】
以上の手段によって加工されたベルトコンベアプーリ2を、図1に示すような構成で組立てを行った。
なお、ベルトコンベアプーリ2は、回転ドラム7を回動可能に内挿し、回転ドラム7のシャフトとプーリ軸受部9を介して、架台12に設けた回転ドラム軸受部10に支持されている。
ベルトコンベアプーリ2の両端には、プーリ鏡板4が固定され、ベルトコンベアプーリ2とで回転ドラム7を取り囲むようにしている。
【0038】
直列に接続された短冊型PTC素子13の電気信号検出用の信号線15をスリップリング6に結線し、プーリ駆動鎖車5と回転ドラム駆動鎖車11を各々の電動機(図示省略)によって回転を与え、交番磁界を発生させた。
なお、この実証では、ベルトコンベアプーリ2は、鉄片の温度計測を容易にすることと、回転ドラム7の交番磁界が同方向に回転する相対運動により減少するため、最大の交番磁界を得る目的でその回転を停止させ、回転ドラム7の回転数は毎分2600回転に設定した。
回転ドラム7の磁石表面外径は270mmで、N、S極が交番する磁石配列ピッチは30mmであることから、発生する交番磁界は約1.22KHzである。
磁力の測定では、回転ドラム7の回転を停止した状態の静的最大磁力が、ベルトコンベアプーリ2の表面で0.28T(Tesula)であったのに対し、回転ドラム7を毎分2600回転させたときの動的最大磁力は0.24Tであった。
また、ベルトコンベアプーリ2の表面に装着したPTC素子の総合直列電気抵抗値は、室温が25℃のとき、1.71×10Ω・mであった。
【0039】
この条件で、図8に示すような状況をつくるために、停止しているベルトコンベアプーリ2の表面に1cm立方の形状の鉄片をテストピースとして吸着させ、回転ドラム7に上記の回転を与え、交番磁界によるジュール熱を発生させた。
運転開始後、30秒でテストピースの表面温度は70℃に達したが、このときのPTC素子の電気抵抗率は逆に1.52×10Ω・mに低下し、その後45秒経過時点でテストピース表面温度は89℃に達し、PTC素子の電気抵抗率は2.51×10Ω・mに急上昇した。
この場合、鉄片の表面温度とPTC素子のキューリー温度の差は、PTC素子がFRP製のベルトコンベアプーリ2の表面から深さ3mmの部位に埋設されているために、熱電導率が低いFRP層を介して熱源の鉄片からの熱伝播が低いことと、PTC素子自体の構造や素子ケースの材質等による反応速度の遅れが原因と考えられる。
【0040】
PTC素子の過熱による信号の検出方法は、PTC素子に基準電圧を印加し、そのときの電気抵抗値の変化による電流値を検出する方法や、図4に示すホイートストンブリッジ回路を応用してPTC素子の温度変化による電気抵抗値を電位差計によって検出する方法等があるが、今回の実証では自動車に使用されているランプの断線を検出する電圧センサを応用した。
【0041】
図6に、電圧センサの回路構成を示す。
図中のVREFの基準電圧と、検出抵抗Rsの両端に発生する電圧とを、電圧比較器Vcoによって比較し、PTC素子の加熱による電気抵抗値の変動を検出する。
IN端子はPNPトランジスターの差動入力回路構成の検出端子で、IC内部で検出電圧を増幅してPNP差動入力のコンパレーターで検出する方式である。
OUT端子はPNPプッシュプル型の出力端子で、PTC素子の電気抵抗値がRの補正抵抗によって補正された数値を下回っているときはOUT端子がHiモードとなり、出力を得る。
逆に、PTC素子がキューリー温度に達すると抵抗値が急激に増大するので出力はLoモードになる。
【0042】
この出力端子に実証用の警告ランプを結線して、上記の運転条件でPTC素子によるベルトコンベアプーリ2の過熱検出の実証を行った。
実証の結果、電圧センサに付帯している補正抵抗Rの調整によって、PTC素子のキューリー温度点の検出幅は75℃〜95℃で検出可能であることが確認された。
電圧センサの出力端子を利用して、永久磁石式アルミニウム選別装置の運転条件にインターロック信号を組み込めば、ベルトコンベアプーリ2に付着した鉄片の電磁誘導のジュール熱による加熱破損が防止できる。
【0043】
なお、この実施例ではPTC素子にチタン酸バリウム(BaTiO)を主成分とした市販のPTCヒーターを加工して利用したが、PTC機能を有するPE(Polyethylene)等の結晶性ポリマーにカーボン微粒子のような導電性粒子を添加した平板状の自己温度制御性ヒーターや、PTCサーミスター等の温度センサも利用できる。
また、電気信号検出器は、ホイートストンブリッジ回路や電圧センサを一例として説明したが、市販のヒーター断線警報器等も応用が可能である。
【0044】
かくして、本実施例のアルミニウム選別装置は、ベルトコンベアプーリ2の内側に回転ドラム7を内挿するとともに、該回転ドラム7に複数の永久磁石8を磁極が円周方向に交番するように配設したアルミニウム選別装置において、ベルトコンベアプーリ2表面の過熱を検出する過熱検出手段を設けることから、鉄片がベルトコンベアプーリ2に吸着され、電磁誘導によるジュール熱を発生すると、過熱検出手段によりベルトコンベアプーリ2表面の過熱が検出されることになり、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリ2の損傷を最小限に抑制することができる。
【0045】
この場合、熱検出手段を、ベルトコンベアプーリ2に埋設され、ベルトコンベアプーリ2の回転により誘導起電力を発生する誘導コイル状の導電線3と、該導電線3の誘導起電力を計測する電気信号検出器とにより構成することにより、鉄片のジュール熱でベルトコンベアプーリ2表面が溶融し導電線3が破断すると、誘導起電力がなくなることから、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリ2の損傷を最小限に抑制することができる。
【0046】
また、過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリ2の外周面に定着し、表面を樹脂層で保護した測温抵抗体と、測温抵抗体の過熱による電気信号を検出する電気信号検出器とにより構成することにより、温度により変化する測温抵抗体の電気抵抗値によりベルトコンベアプーリ2表面の過熱を検出し、これを異常と判断することにより、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリ2の損傷を最小限に抑制することができる。
【0047】
また、過熱検出手段によって検出したベルトコンベアプーリ2表面の過熱に基づいて、警告若しくはベルトコンベアの運転を停止する制御装置を設けることにより、鉄片がベルトコンベアプーリ2に吸着され、電磁誘導によるジュール熱を発生すると、警告を発したり自動的にアルミニウム選別装置の運転を停止し、鉄片の付着によるベルトコンベアプーリ2の損傷を最小限に抑制することができる。
【0048】
以上、本発明のアルミニウム選別装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、例えば、過熱検出手段に過熱検出手段にベルトコンベアプーリに埋設された導電線と、該導電線の導通状態を計測する電気信号検出器とにより構成したり、赤外線温度センサ等の非接触型加熱検出手段を用いる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のアルミニウム選別装置は、ベルトコンベアプーリの過熱を検出することにより、鉄片のベルトコンベアプーリへの付着を検出し、鉄片の発熱によるベルトコンベアプーリの損傷を最小限に抑制するという特性を有していることから、鉄片の付着による事故を防止し、安定した性能を持続するようにしたアルミニウム選別装置として広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の永久磁石式アルミニウム選別装置の基本構成を示す分解斜視図である。
【図2】ベルトコンベアプーリに導電線を装着する状態を示す斜視図である。
【図3】PTC素子の温度−抵抗特性を示すグラフである。
【図4】ホイートストンブリッジ回路を示す回路図である。
【図5】ベルトコンベアプーリにPTC素子を附設した状態を示す斜視図である。
【図6】信号検出用電圧センサの回路図である。
【図7】永久磁石式アルミニウム選別装置の動作原理を示す概略図である。
【図8】ベルトコンベアプーリに鉄片が吸着される状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0051】
1 コンベアベルト
2 ベルトコンベアプーリ
3 導電線
4 プーリ鏡板
5 プーリ駆動鎖車
6 スリップリング
7 回転ドラム
8 永久磁石
9 プーリ軸受部
10 回転ドラム軸受部
11 回転ドラム駆動鎖車
12 架台
13 短冊型PTC素子
14 連結線
15 電気信号検出用信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトコンベアプーリの内側に回転ドラムを内挿するとともに、該回転ドラムに複数の永久磁石を磁極が円周方向に交番するように配設したアルミニウム選別装置において、ベルトコンベアプーリ表面の過熱を検出する過熱検出手段を設けたことを特徴とするアルミニウム選別装置。
【請求項2】
過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリに埋設され、ベルトコンベアプーリの回転により誘導起電力を発生する誘導コイル状の導電線と、該導電線の誘導起電力を計測する電気信号検出器とにより構成したことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム選別装置。
【請求項3】
過熱検出手段を、ベルトコンベアプーリの外周面に定着し、表面を樹脂層で保護した測温抵抗体と、測温抵抗体の過熱による電気信号を検出する電気信号検出器とにより構成したことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム選別装置。
【請求項4】
過熱検出手段によって検出したベルトコンベアプーリ表面の過熱に基づいて、警告若しくはベルトコンベアの運転を停止する制御装置を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のアルミニウム選別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−104915(P2008−104915A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288293(P2006−288293)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(396005368)株式会社大阪マグネットロール製作所 (8)
【Fターム(参考)】