説明

アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤

【課題】アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療に有効な医薬組成物の提供。
【解決手段】ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有するアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤;ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有するIgE産生抑制剤。ヒスタミンH1受容体拮抗剤が、オロパタジン、セチリジン、ロラタジン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン等から選ばれ、CCR3拮抗剤が、N−4−[[[[[[(2S)−4−(3,4−ジクロロベンジル)モルホリン−2−イル]メチル]アミノ]カルボニル]アミノ]メチル]ベンズアミド等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患は、主としてIgEが関与していることが知られており、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー疾患においても、血清IgEが高値を示すことが報告されている(非特許文献1、2)。IgEの産生には抗原提示細胞、T細胞、B細胞が関与しており、IgEはB細胞(又はBリンパ球)より分泌され、その表面で発現する。IgEは、低親和性レセプターFcεRIIのFc領域に結合し、B細胞と結合する。哺乳動物が抗原(アレルゲン)で暴露されると、抗原が特異的なIgEに結合し抗体を介してB細胞が活性化される。活性化B細胞は増殖しながらIgE産生細胞(プラズマ細胞)に分化し、抗原特異的IgEを産生、分泌する。抗原特異的IgEは血流を通って循環し、高親和性レセプターFcεRIを介して組織中の肥満細胞及び血液中の好塩基球に結合する。この状態で生体が再びアレルゲンに暴露されると、FcεRIの架橋を引き起こし、ヒスタミン、ロイコトリエン、サイトカインIL−4、IL−5等の化学伝達物質が放出され、アレルギー性疾患の原因となる。
【0003】
このように、アレルギー性疾患の発症には多くの反応が関与しており、上記段階におけるいずれかの反応を抑制又は阻害することにより、アレルギー性疾患を改善あるいは軽減できると考えられる。特にアレルギー反応の発生機序の最初の段階であるIgEの産生やその機能を抑制することは有効であると考えられる。近年IgEの産生や機能発揮をブロックする試みがなされており、例えば抗IgEを用いた臨床では喘息、季節性鼻炎に効果が認められることが報告されている。更にその応用で食物アレルギーや減感作療法との併用効果も期待されている(非特許文献3)。
【0004】
ケモカイン受容体の一つとして知られているCCR3(C−C chemokine receptor 3)は、近年の研究より、免疫反応の根幹をなす樹状細胞やTリンパ球、さらにエフェクター細胞である肥満細胞や好酸球等に発現していることが知られている。CCR3は、これらの細胞における遊走能だけでなく、活性化を調節することから、アレルギー性疾患の病態と深い関わりがあると考えられている。
【0005】
特許文献1にはCCR3拮抗剤として有用な化合物が開示されており、中でも下記式(1)で示される実施例54の4−[[[[[[(2S)−4−(3,4−ジクロロベンジル)モルホリン−2−イル]メチル]アミノ]カルボニル]アミノ]メチル]ベンズアミド(以下、化合物(1)ということがある)は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、及びアトピー性皮膚炎の治療薬として有効であることが開示されている。
【0006】
【化1】

【0007】
一方、マスト細胞等から遊離されるヒスタミンは多様な生体反応を惹起する生体アミンメディエーターであり、肺、皮膚、鼻、末梢血管等の標的器官に作用し、アレルギー性疾患特有の症状を引き起こす。ヒスタミンの受容体としてH1、H2、H3及びH4受容体の存在が知られている。H1受容体は広範な組織に分布し、末梢神経、血管内皮、気管支、回腸等における機能が明らかにされており、H1受容体を介して起こる各種アレルギー症状はその受容体拮抗剤により改善されることが知られている(非特許文献4)。
【0008】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤としては、下記式(2)で示される特許文献2の実施例28に記載されているオロパタジン(シス−11−(3−ジメチルアミノプロピリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]−オキセピン−2−酢酸(以下、化合物(2)ということがある))が、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う疼痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚疼 痒症、尋常性乾癬、多形滲出性紅斑)の治療薬として有効であることが知られている。
【0009】
【化2】

【0010】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤は、標的器官におけるヒスタミンの作用を抑制することにより、アレルギー症状に対し優れた治療効果を有する。しかしながら、これまでにヒスタミンH1受容体拮抗剤のIgEに対する作用を検討した報告はなく、更にはヒスタミンH1受容体拮抗剤とCCR3拮抗剤とを併用した場合に、IgEに対してどのような併用効果を示すかは全く知られていなかった。
【特許文献1】国際公開2002/26723号パンフレット
【特許文献2】特開昭63−10784号公報
【非特許文献1】アレルギー・免疫 Vol11、No.6、p14−21、2004
【非特許文献2】アレルギー・免疫 Vol11、No.6、p22−26、2004
【非特許文献3】医学のあゆみ アレルギー疾患研究の最前線 p95−99、2005
【非特許文献4】Iwan J.P.et al.Trends.Pharmacol.Sci.、26、462−9、2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療に有効な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、斯かる実情に鑑み鋭意研究を行ったところ、ヒスタミンH1受容体拮抗剤とCCR3拮抗剤をそれぞれ単独で使用した場合はIgE産生は変化しないものの、ヒスタミンH1受容体拮抗剤とCCR3拮抗剤を併用した場合には、著しいIgE産生抑制作用が認められることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有する、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
また、本発明は、ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有するIgE産生抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薬剤は、優れたIgE産生抑制効果を発揮するので、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患の予防剤及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する物質としては、例えばオロパタジン(化合物(2))、セチリジン、ロラタジン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン等が挙げられ、IgE産生抑制効果の点から、特にオロパタジン(化合物(2))が好ましい。オロパタジンは、BEIJING LIANBEN PHARM-CHEMICALS TECH.CO.LTDより入手することができる。
【0016】
オロパタジン(化合物(2))、セチリジン、ロラタジン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン及びクロルフェニラミンは、塩の形態で使用してもよく、当該塩としては、酸付加塩又は塩基付加塩が挙げられ、薬学的に使用される塩であれば特に制限されない。酸付加塩としては、例えば無機酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等);有機カルボン酸又はスルホン酸付加塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等);酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との塩等が挙げられる。塩基付加塩としては、例えばアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等);有機塩基塩(例えば、アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等)の塩等が挙げられる。
【0017】
CCR3拮抗作用を有する物質としては、例えば前記化合物(1)が挙げられる。化合物(1)は、国際公開2002/26723パンフレット、国際公開2003/82293パンフレット記載の方法により製造することができる。
【0018】
CCR3拮抗作用を有する物質は、塩の形態で使用してもよく、当該塩としては、酸付加塩が挙げられ、薬学的に使用される塩であれば特に制限されない。酸付加塩としては、例えば無機酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等);有機カルボン酸又はスルホン酸付加塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等);酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との塩等が挙げられる。
【0019】
また、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する物質及びCCR3拮抗作用を有する物質、若しくはそれらの塩は、水和物に代表される溶媒和物の形態で存在し得るが、それらの当該溶媒和物も本発明に包含される。
【0020】
本発明は、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する物質とCCR3拮抗作用を有する物質とを組み合わせて投与するものであって、後記実施例に示すように、これらを単独で投与した場合はIgE産生は変化しないものの、両物質の併用投与は血清中の特異的IgEの産生量を顕著に低下させる作用を示した。従って、本発明によれば、抗原特異的IgEの産生を抑制することにより、アレルギー性疾患の発症を予防あるいは改善することができる。
本発明におけるアレルギー性疾患としては、主としてI型アレルギー反応によって生じる疾患、例えばアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹等が挙げられる。
【0021】
本発明のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤、並びにIgE産生抑制剤は、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。その製剤形態としては、軟膏剤、ゼリー剤、パップ剤、貼付剤、ローション剤、クリーム剤、スプレー剤、エアゾール剤、硬膏剤、懸濁剤、乳剤、注射剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤等を例示でき、また、適当な溶剤を選定することにより、液剤としても使用できる。本発明の薬剤を調製するために、その剤形に応じて充填剤、賦形剤、基剤、崩壊剤、増量剤、結合剤、皮膜剤、滑沢剤、着色剤、pH調整剤、可溶化剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、抗酸化剤、分散剤、乳化剤、溶解剤、溶解補助剤等を適宜添加できる。
【0022】
上記製剤用の担体としては、例えば、白色ワセリン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素、セチルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プラスティベースハイドロフィリック、ゼラチン、デキストリン、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ビニルピロリドンを構成成分とする重合体・共重合体、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、塩化ベンザルコニウム、オリーブ油、ツバキ油、ダイズ油等の油脂類、乳糖、水等が挙げられる。
【0023】
本発明の薬剤は、疾患部位や疾患の程度に応じて各種の形態で投与でき、好ましくは経口投与される。
【0024】
本発明の薬剤の使用形態は特に限定されず、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する物質とCCR3拮抗作用を有する物質を同時に投与しても良いし、間隔を置いて別々に投与しても良い。すなわち、ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤は、両薬剤を単一製剤化するか又は両薬剤を別々に製剤化してセット(キット)として使用してもよい。また、両薬剤を別々に製剤化する場合には、両薬剤は同一の剤形としなくてもよい。各成分の投与回数は異なっても良い。
本発明において、両薬剤を単一製剤として投与する場合、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する物質とCCR3拮抗作用を有する物質の配合比は、質量比で1:1〜1:1000の範囲、さらに1:10〜1:100の範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明の薬剤の投与量は、症状、年令、剤型等を考慮して適宜選択できるが、化合物(1)及び化合物(2)を使用する場合、それぞれ、通常1日当たりいずれも0.001〜5000mg、好ましくは0.01〜1000mg、1回又は数回に分けて、投与される。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
A.試験方法
(1)感作及びIgEの惹起
雄性BALB/cAnNCrlCrljマウス(日本チャールズリバー社より購入)を用い、10μg卵白アルブミンを含む2mg水酸化アルミニウムゲルを個体当たり0.5mL腹腔内投与した。感作14日後に同操作を再び行い、追加感作した。感作28日から30日後の3日間、生理食塩水に溶解した1%卵白アルブミンを1日30分間ネブライザーにて吸入暴露させ、IgEを惹起させた。
(2)IgEの測定
惹起24時間後に採血し、血清を回収後、常法に従いIgE量を測定した。
(3)被験物質の調整及び投与
被験物質として、化合物(1)を0.5%メチルセルロース(MC)に懸濁、化合物(2)の一塩酸塩を0.5%メチルセルロース(MC)に溶解してそれぞれ用いた。被験物質は、感作28から30日後の3日間、毎日、化合物(1)を100mg/kg、化合物(2)の一塩酸塩を10mg/kgで惹起30分前に経口投与した。それぞれ単独投与群と両者の併用投与群の他、薬物非投与群(Control)、感作を行なわない群(Normal)をそれぞれ用意した(いずれもn=8)。化合物(1)は前記特許文献を参考に合成したものを、化合物(2)の一塩酸塩はBEIJING LIANBEN PHARM-CHEMICALS TECH.CO.LTD製のものを用いた。
(4)データ処理
結果は、平均値±標準誤差として示した。有意差の検定にはStudent’sのt検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした(**:p<0.01、*:p<0.05、いずれも対Control)。
【0028】
B.結果
図1に示すように、化合物(1)単独投与、化合物(2)の一塩酸塩単独投与ではIgEの産生は変化しなかったが、化合物(1)と化合物(2)の一塩酸塩の併用投与ではIgEの産生を有意に抑制した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】化合物(1)単独、化合物(2)の一塩酸塩単独、及び化合物(1)と化合物(2)の一塩酸塩の併用を経口投与した時のIgE産生抑制効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有する、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤が、オロパタジン、セチリジン、ロラタジン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物から選ばれる、請求項1記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤が、オロパタジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、請求項1記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
CCR3拮抗剤が、N−4−[[[[[[(2S)−4−(3,4−ジクロロベンジル)モルホリン−2−イル]メチル]アミノ]カルボニル]アミノ]メチル]ベンズアミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、請求項1〜3のいずれか1項記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
アレルギー性疾患が、アトピー性皮膚炎、気管支喘息又はアレルギー性鼻炎である、請求項1〜4のいずれか1項記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤及びCCR3拮抗剤を含有するIgE産生抑制剤。
【請求項7】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤が、オロパタジン、セチリジン、ロラタジン、デスロラタジン、フェキソフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン及びそれらの塩並びにそれらの溶媒和物から選ばれる、請求項6記載のIgE産生抑制剤。
【請求項8】
ヒスタミンH1受容体拮抗剤が、オロパタジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、請求項6記載のIgE産生抑制剤。
【請求項9】
CCR3拮抗剤が、N−4−[[[[[[(2S)−4−(3,4−ジクロロベンジル)モルホリン−2−イル]メチル]アミノ]カルボニル]アミノ]メチル]ベンズアミド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である、請求項6〜8のいずれか1項記載のIgE産生抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127365(P2008−127365A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316495(P2006−316495)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】