アレルゲンによって誘導された遺伝子の調節
レジスチン様分子αまたはβ(RELMαまたはRELMβ)の発現の調節によるアレルギー反応の緩和のための組成物および方法。RELMは、アレルギー患者の状態の評価、例えば喘息患者の肺または気道における炎症および/または組織修復のモニタリングのためのマーカーとしても開示されている。RELMの調節は、アレルギー性肺の炎症および他のアレルゲンで誘導される病態の病態形成に関係する。喘息におけるRELMαおよびRELMβの関与の発見は、RELMが関与することが公知のインスリン抵抗性および肥満の病態形成と喘息とが、機構的に関係していることを示すものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府は本発明において支払済みのライセンスを有し、また国立衛生研究所によって与えられた許認可第RO1 AI42242-04号の条項が規定しているように、限られた状況下で特許所有者に対し、他の者に対して理にかなった条件で実施権を与えるように要求する権利を有す。
【0002】
本出願は、参照により完全に本明細書で組み込まれた2003年1月18日に出願され現在係属中の米国特許仮出願第60/440,922号への優先権を主張する。
【0003】
本発明は、レジスチン様分子(RELM)αおよびβの発現を調節する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
喘息は、複雑な慢性炎症性肺障害である。多くの研究にもかかわらず喘息の発生率は上昇しており、小児科で入院が必要と診断される主な原因となっている。
【0005】
喘息の研究では、ヒトなどの感作動物で、アレルゲンへの曝露により誘導された細胞経路および分子経路の分析を主に行ってきた。研究では、IgE生産の増加、粘液過分泌、気道閉塞、炎症および喘息反応におけるスパスモーゲンに対する気管支反応性の増加が特定されてきた。臨床研究および実験的な研究は、CD4+Tヘルパー2リンパ球(Th2細胞)の存在と疾患の重症度との間の強い相関関係を示し、喘息の病態生理学におけるこれらの細胞の役割が示唆された。Th2細胞は、直接的および間接的に炎症性および常在性エフェクター経路を活性化する様々なサイトカイン(IL-4、-5、-6、-9、-10、-13、-25)の分泌を通して喘息を誘発すると考えられる。喘息患者の肺ではIL-4およびIL-13の生成レベルが上昇するので、それらは喘息の特質の多くの重要な調節因子であると考えられる。
【0006】
最近は、慢性気道炎の状況での気道再構築の病原学形成が注目されている。Th2サイトカインによって誘発される間葉系細胞シグナル伝達は、アレルゲンによって誘発された炎症に対する反応としての慢性傷害および修復プロセスにおいて能動的役割をする。このように、おそらく複数の治療薬が特定の炎症性経路を妨げ、喘息表現型の発達は多数の更なる遺伝子およびそれらの多形性変異体の複合的相互作用と関連している可能性がある。
【0007】
サイトカインのレジスチンファミリーは、オリゴマー形態を促進する10または11のシステイン残基を有し分子量が12.5kDa程度のいくつかの保存タンパク質を含む。ファミリーメンバーの1つはレジスチンであり、これは脂肪細胞分泌因子(ADSF)とも呼ばれ、または炎症帯3(F1ZZ3)に存在する。レジスチンは脂肪細胞によって分泌される新規ホルモンであり、肥満とインスリン抵抗性およびII型糖尿病を関連付けている可能性がある。他のファミリーメンバーは、レジスチン様分子(RELM)である。RELMαは、当初実験的なネズミの喘息モデルにおいて炎症帯で発見されたが、その後F1ZZ1と命名された。RELMαは脂肪組織、心臓、肺および舌で発現され、RELMβは腸で発現される。最近、RELMγが特定され、造血組織で最も高いレベルで発現されることが証明された。
【0008】
初期のマウス研究により、インスリン作用に拮抗してインスリンシグナル伝達経路の1つまたは複数の工程を変更することによって、レジスチンがインスリン抵抗性を介在することが示唆された。しかし、レジスチンおよび/またはRELM生産が肥満症で増加するか減少するか、または、チアゾリジンジオン(インスリン抵抗性を減ずることが知られている薬剤)によって増加するか減少するかに関しての動物データには一貫性がない。RELMの機能は、一次的にはインスリン抵抗性を促進するその能力とは無関係である可能性がある。このことは、RELMは脂肪細胞の分化およびニューロン細胞の生残を阻害することを示している予備研究によって示唆されている。RELMは、炎症プロセスとも関連付けされている。
【特許文献1】米国特許仮出願第60/440,922号
【非特許文献1】Rankin他、Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:7821〜5 (1996)
【非特許文献2】Pope他、J. Allergy Clin. Immunol. 108:594〜601 (2001)
【非特許文献3】Zimmermann他、J. Immunol. 165:5839〜46 (2000)
【非特許文献4】Mishra他、J. Biol. Chem. 276:8453 (2001)
【非特許文献5】Wills-Karp、M.、J. Allergy Clin. Immunol. 107:9〜18 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、そのようなメカニズムによって喘息を軽減する組成物および方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態では、レジスチン様分子(RELM)α(RELMα)およびβ(RELMβ)の発現を調節することによって、患者におけるアレルギー反応を減少させる方法を対象とする。この方法により、例えば気道、肺、気管および/または肺液(気管支肺胞洗浄液)における喘息症状を軽減することができ、または、例えば皮膚、眼、鼻、のどおよび/または腸におけるアレルギー症状を軽減することができる。
【0011】
本発明の他の実施形態は、RELMαおよび/またはβの発現エフェクターを、RELMαおよび/またはβをコードしているDNA、RELMαおよび/またはβをコードしているmRNA、ならびに/あるいは生成したRELMαおよび/またはβタンパク質を調節するのに十分な量で製剤中に含む医薬組成物である。このエフェクターは、STAT6の阻害剤および/またはTh2サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)-4またはIL-13の阻害剤でもよい。これらの阻害剤は、低分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤および/または転写阻害剤であってもよい。
【0012】
本発明の他の実施形態は、患者のRELMαおよび/またはβのレベルを測定し、それにより患者の肺の状態を評価する生理学的評価方法である。RELMαおよび/またはβは、肺液、肺生検材料、痰、粘液、鼻の洗液および/または血液で測定することができる。検体を分析して、RELMαおよび/またはβのDNA、mRNA、および/またはタンパク質を測定する。一例として、生検材料のサザンブロット、ノーザンブロットまたはウェスタンブロットを行い、プローブで処理して、それぞれDNA、RNAおよびタンパク質を測定してもよい。他の例として、組織を適当に染色して顕微鏡で調べてもよい。このような方法は当業者には公知である。高いレベルのRELMαおよび/またはβは、炎症プロセスにあること、および/または、慢性修復プロセスにあることを示す。
【0013】
本発明の他の実施形態は、薬剤として許容される組成物に含まれたRELMαおよび/またはβを肺に提供する予防的または治療的方法である。この方法では、肺の酸性度を低くして、肺の炎症を治療することができ、かつ/または肺において上皮の修復を活発にして、肺の炎症を治療することができる。
【0014】
本発明の他の実施形態は、アレルギー患者のための治療方法である。患者には、患者においてアレルゲンによって誘発された遺伝子をディファレンシャルに調節することができる少なくとも1つの化合物を含む医薬組成物のある量および製剤を投与する。この化合物は、アンチセンス化合物、小分子阻害剤または転写阻害剤としてSTAT6に影響を及ぼすことができる。
【0015】
本発明の他の実施形態は、脂肪細胞などにおけるRELMαおよび/またはβの発現を調節することによってインスリン抵抗性を調節する方法である。
【0016】
本発明の他の実施形態は、RELMαおよび/またはβの発現を調節することによって肥満症の合併症、例えば肺合併症を改善する方法である。
【0017】
これらおよび他の利点は、以下の図および詳細な説明に照らして明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
RELMαおよびRELMβは、多様なアレルゲンおよびTh2サイトカインであるインターロイキン4(IL-4)およびIL-13により、タンパク質STAT6(シグナル伝達因子および転写活性因子:signal-transducer-and-activator-of-transcription)に依存したメカニズムを通して、肺で強く誘発された。RELMαおよびRELMβのいずれも、未処置なマウスの肺に送達されたとき、白血球蓄積(最も顕著にはマクロファージを含む)および杯状細胞過形成を用量依存的に誘発した。RELMαおよびRELMβの両方は大量のコラーゲン沈着を誘発した。in vitroでは、RELMαおよびRELMβは特異的なRELM受容体によって媒介される強力な線維芽細胞遊走促進活性を示した。これらの結果は、RELMが、強力な炎症性および再構築活性を有するTH2関連のサイトカインの新しいファミリーであると特定するものである。
【0019】
RELMαおよびRELMβは、インスリン抵抗性に関与しており、したがって肥満に関与した構造的に関係しているサイトカイングループの構成メンバーである。肥満は、いくつかの肺の異常に関与している可能性がある。オボアルブミンおよびAspergillus fumigatusのような呼吸系アレルゲン、ならびに、Th2サイトカインであるIL-4およびIL-13によるRELMαおよびRELMβの誘導は、インスリン抵抗性(肥満)の病態形成と喘息を関連付けした。
【実施例】
【0020】
RELMαおよびRELMβのmRNAレベルは、アレルゲン誘発性喘息の異なるモデルを用いて異なるアレルゲンでチャレンジしたマウスの肺で評価された。
【0021】
肺全体のRNAを、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーションにより分析した。RNAは、Trizol (Invitrogen、Carlsbad、CA)試薬を使いメーカーの指示に従って抽出した。Trizolによる精製の後、RNAをフェノール-クロロホルム抽出およびエタノール沈殿で再精製した。
【0022】
マイクロアレイハイブリダイゼーションは、Cincinnati Children's Hospital Medical CenterのAffymetrix Gene Chip Core施設によって実施された。つまり、RNAを先ずAgilent bioanalyzer (Agilent Technologies、Palo Alto、CA)を使用して評価し、以降は28S/18Sの比が1.3から2の試料だけを使用した。RNAはcDNA合成用のSuperscript choice (Invitrogen、Carlsbad、CA)でcDNAに変換し、その後Enzo High Yield RNA Transcript標識キット(Enzo Diagnostics、Farmingdale、NY)でビオチン化cRNAに変換した。マウスのU74Av2 GeneChip (Affymetrix、サンタクララ、CA)とのハイブリダイゼーションの後、遺伝子チップを自動的に洗浄し、Fluidics Systemを用いてストレプトアビジン-フィコエリトリンで染色した。チップをヒューレットパッカードGeneArray Scannerでスキャンした。この分析は、1チップにつき1匹のマウスの割合で行った(各アレルゲンチャレンジの条件ではn≧3、各生理食塩水チャレンジの条件ではn≧2)。
【0023】
ノーザンブロット分析のために、Rankin他、Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:7821〜5 (1996) (参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)によって記載されているように、RNAを野生型Balb/cマウス、IL-4 Claraセル10ラングトランスジェニックマウスの肺から抽出した。マウスは、STAT6遺伝子の野生型または欠失コピーを含んでいた。Pope他、J. Allergy Clin. Immunol. 108:594〜601 (2001)およびZimmermann他、J. Immunol. 165:5839〜46 (2000) (それぞれ参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)に記載されているように、RNAは生理食塩水または組換えマウスIL-13で処理したマウスの肺からも抽出した。ハイブリダイゼーションは、American Type Culture Collection(ロックビル、MD)から得た、配列が確認されているマウスのTFF2 (I.M.A.G.E. 438574)またはTFF3 (I.M.A.G.E. 1166710)をコードしている32P標識cDNAを用いて実施した。
【0024】
データ画像ファイルから、Microarray Analysis Suite Version 4ソフトウェア(Affymetrix)のアルゴリズムを使用して遺伝子転写レベルを測定した。チップ間で遺伝子を比較するためにグローバルスケーリングを実施した。このようにして、各チップは任意の値(1500)に正規化した。各遺伝子は、一般的には16〜20のプローブ対のプローブセットによって表される。各プローブ対は、完全マッチオリゴヌクレオチドおよび中央位置に1つの塩基ミスマッチを含むミスマッチオリゴヌクレオチドから成る。2つの遺伝子発現測定手段、つまりabsolute callおよび平均差が使われた。absolute callは、各遺伝子がプローブセットとのRNAのハイブリダイゼーションに基づいて存在、境界または不在のcallを割り当てられる定性的な測定手段である。平均差は遺伝子発現レベルの定量的な測定手段であり、あらゆるプローブ対のミスマッチおよび完全なマッチの間の差をとり、プローブセット全体でその差を平均することによって計算される。
【0025】
生理食塩水で処理されたマウスとアレルゲンで処理されたマウスの間の差も、GeneSpringソフトウェア(Silicon Genetics、レッドウッドシティー、CA)を使用して測定した。データは、生理食塩水で処理されたマウスの平均値に正規化した。p<0.05のおよび2倍を超える変化を有する遺伝子を含む遺伝子リストを作成した(ハイブリダイゼーションシグナルに基づき存在コールを割り当てられた遺伝子を使用)。
【0026】
マウスで実験的に喘息を誘発した。Balb/cマウスは米国癌研究所(フレデリック、MD)から得、STAT6欠失またはIL-4Rα欠失マウス(Balb/c)はJackson Laboratory (Bar Harbor、ME)から得た。IL-13が欠失またはIL-4およびIL-13の両方が欠失しているマウスは、アンドリューマッケンジー博士の好意によって提供された。全てのマウスは、特定病原体感染防止条件下で飼育した。
【0027】
喘息モデルは、Mishra他、J. Biol. Chem. 276:8453 (2001) (参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)で記載されているように誘導した。つまり、オボアルブミンによる喘息は、OVAおよび1mgの水酸化アルミニウム(ミョウバン)を2週間おきに腹腔内注射し、2週後に鼻腔内OVAまたは生理食塩水チャレンジを2回行うことによって誘導した。Aspergillus fumigatus抗原による喘息は、3週間にわたって抗原を繰り返し鼻腔内に接種することによって誘導した。
【0028】
より具体的には、マウスはday 0およびday 14にOVA100μgおよび水酸化アルミニウム(ミョウバン)1mgの生理食塩水溶液による腹腔内注射によって感作した。day 24およびday 27に、マウスにイソフルオランを吸入させて軽く麻酔をかけ、OVA50μgまたは生理食塩水で鼻腔内(i.n.)にチャレンジした。他の実験では、マウス鼻腔内にAspergillus fumigatus抗原を3週間にわたって9回投与してチャレンジした。アレルゲン(50μl)は、マウスを仰臥位に保ち、マイクロピペットを使って鼻孔に塗布した。注入後、覚醒するまでマウスを直立に保った。マウスは、アレルゲンによるチャレンジから18時間後に屠殺した。
【0029】
作用剤の気管内投与のために、マウス(22〜25gm)をKetaject (Ketamine HCl、Phoenix Pharmaceutical, Inc.、St. Joseph、MO)500μgの腹腔内注射により麻酔をかけた。麻酔をかけたマウスを、鉛直のプラットフォーム上に60度の角度で立たせ。扁平なピンセットを使って舌を軽く伸ばし、長いピペットチップを直接気管に挿入し、次に、20μlの組換えマウスIL-4をIL-4に対するモノクローナル抗体(10μg)(シンシナティ大学のFred Finkelman博士の好意によって提供された試薬)と共に注入した。これにより、IL-4の半減期は数分から約24時間に延長した。一日おきに6回投薬した。組換えマウスのIL-13 (0.9%生理食塩水20μl中に4μg、Wyeth ResearchのDebra Donaldson博士から寛大に寄贈された)を、気管内送達により麻酔をかけたマウスに投与した。投薬は、5日連続にわたった。組換えマウスのRELM-αおよびβ(0.9%生理食塩水20μl中に10μg、PeproTech、Rocky Hill、NJ、からの寛大な贈り物)を、2週間にわたって隔日に気管内送達により麻酔をかけたマウスに投与した。
【0030】
ノーザン分析のために、メーカーのプロトコルに従ってTrizol試薬(Gibco-BRL、グランドアイランド、NY)を使って、RNAを肺組織から抽出した。各試料からの総RNAの20マイクログラムを1.5%ホルムアルデヒドアガロースゲル上で電気泳動により分離し、×10 SSC(生理食塩水クエン酸ナトリウム)でGeneScreenハイブリダイゼーションメンブラン(Life Sciences Product、New England Nuclear;ボストン、MA)へ移した。メンブランは紫外線照射によって架橋し、42℃で1時間、10%硫酸デキストラン、×5 SSC、×1デンハート液、1%SDS、100μg/mlニシン精子DNAおよび20mMのトリスを含む50%ホルムアミド緩衝液(pH 7.5)中で予備ハイブリダイゼーションを行った。マウスRELMαおよびRELMβのための32P標識cDNAプローブを当業者に公知の方法で調製し、それぞれのプローブ1〜2×106dpm/mlを使って42℃で一晩ハイブリダイズした。メンブランを×2 SSC-0.1% SDS中で42℃で20分、50℃で20分、60℃で20分、および×0.1 SSC-0.1% SDS中で20分間洗浄した。5〜6匹の異なる動物から単離されたRNAを各実験群で使用した。
【0031】
気管支肺胞洗浄液(BALF)採取のために、マウスをCO2吸入法により安楽死させた。その直後、首を正中切開して気管にカニューレを挿入した。肺を3回、1%ウシ胎仔血清(FCS)および0.5mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む1.0mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。回収したBALFは×400gで5分間4℃で遠心分離し、1%FCSおよび0.5mM EDTAを含むPBS200μlで再懸濁した。赤血球は、メーカーの推奨に従ってRBC溶解緩衝剤(Sigma、セントルイス、MO)を使って溶解した。総細胞数は、血球計数器で数えた。5×104細胞のサイトスピン製剤をGiemsa-Diff-Quick (Dade Diagnostics of P.R. Inc.、Aguada、PR)で染色し、細胞分画を測定した。
【0032】
杯状細胞分析のために、肺組織試料を4%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液pH 7.4で固定し、パラフィンに包埋し、5μmの切片に切り、正電荷のスライドに固定した。次にメーカーの推奨に従って組織切片の過ヨウ素酸シッフ反応染色(Poly Scientific R&D Corp.、Bay Shore、NY)を行った。肺切片は各マウスセットの同じ位置から採取し、マウスにつき少なくとも4〜5のランダムな切片を分析した。光学顕微鏡を使い、肺の気管支全部位と関連する組織部位を、上皮細胞総数と比較した粘液産生細胞総数の比率について定量した。
【0033】
上皮細胞の増殖を分析するために、5'-ブロモデオキシウリジン(BrdU)(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、CA)取り込み分析を実施した。要約すると、生理食塩水、RELM-αおよびβで処理したマウスに0.25mlの5'-BrdU (0.75μg)を腹腔内注射し、3時間後に屠殺した。肺組織は10%中性緩衝ホルマリン(Sigma、セントルイス、MO)で24時間固定した。固定後、組織をパラフィン包埋し、5ミクロンの切片を標準の組織学的方法を使用して処理した。組織は37℃で3分間、トリプシン(0.125%)で消化し、その後室温で30分間インキュベーションした。切片をPBSで2分間、3回洗浄し、更にモノクローナルのビオチン化抗BrdU抗体と共に室温で60分間インキュベートした。ネガティブコントロールでは一次抗体をPBSで置換した。ポジティブコントロールはメーカーによって提供された。BrdUを核へと取り込んだポジティブ細胞は、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼおよびDAB基質(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、CA)で検出され、その後ヘマトキシリンによる対比染色を行った。BrdU+細胞の定量は、Metamorph Imaging System (Universal Imaging Corporation、ウェストチェスター、PA)を使った形態測定分析によるデジタル形態計測の助けを借りて行った。このような方法の詳細は当業者には公知である。
【0034】
コラーゲン染色のために、肺組織試料を4%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液pH 7.4で固定し、パラフィンに包埋し、5μmの切片に切り、正電荷のスライドに固定した。切片は、メーカーの推奨に従ってマソンのトリクローム(Poly Scientific R&D Corp)で染色した。コラーゲンは、記載されているように、Metamorph Imaging Systemを使って形態測定分析により定量した。肺切片は各マウスセットの同じ位置から採取し、マウスにつき少なくとも4〜5のランダムな切片を分析した。デジタル式画像キャプチャーを使い、肺の血管周囲または気管支周囲の全領域と関連する組織部位を、組織全域と比較したコラーゲンの全染色領域について定量した。計算したコラーゲンレベルは、組織域mm2あたりのコラーゲンとして表した。
【0035】
NIH 3T3細胞系統は、10%FCS、50U/mlのペニシリンG、50μg/ml硫酸ストレプトマイシンを補ったダルベッコの変法イーグル培地(DMEM、GIBCO BRL、グランドアイランド、NY)(ペニシリン-ストレプトマイシン、GIBCO BRL)で培養した。一次正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)は、線維芽細胞基礎培地(Clonetics-BioWhittaker、Walkersville、MD)を使用して37℃およびCO2 5%-空気95%で培養した。線維芽細胞基本培地には、2%ウシ胎仔血清、ヒト線維芽細胞成長因子B(1μg/ml)、インスリン(5mg/ml)、ゲンタマイシンおよびアンホテリシンBを補った。
【0036】
細胞増殖は、生細胞数を測定するMTS (3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)テトラゾリウムアッセイ(cell Titer96 Aqueous、プロメガ、マディソン、WI)で評価した。2×103〜2×104の細胞を2回洗浄し、100μl DMEMと様々な用量のRELMを含むマイクロタイタープレートウェルで3反復で平板培養した。同じ濃度の試薬を含み細胞を含まないコントロールウェルを平行して準備した。異なる細胞数を使った標準曲線を、ポジティブコントロールとして用いた。MTS (20μl)を各ウェルに加えた。MTSを加えてから2時間後に、マイクロプレート自動読取装置(Dynex Technologies、Billingshurst、英国)を使用してプレートを490nmで読み取った。結果は、RELMの各用量の3-ウェルセットの平均光学密度(OD)で表した。実験の全ては、少なくとも3回繰り返した。細胞の生存も、トリパンブルー染色によって試験した。
【0037】
in vitro細胞移動をモニターするために、1%ゼラチンでコーティングされた5ミクロン孔ポリカーボネートフィルターの24のトランスウェルユニット(コーニング社、コーニング、NY)を使用した。ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Life Technologies)、pH 7.2、中の3T3細胞(5×105)細胞/ウェルを上部チャンバに入れ、異なる濃度(10nMから500nM)のRELM-αまたはRELM-βのHBSS溶液を上下のチャンバに加えた。TGFβは、ポジティブコントロールとして下部チャンバに加えた。トランスウェルユニットは37℃、95%加湿空気、CO2 5%環境で2時間保った。2時間後に、トリプシン(0.05%で0.53nMのEDTAを含む、インビトロゲン社、NY)を上部チャンバに加えてチャンバ下の付着細胞を遊離させた。下部チャンバからの培地を次に250×gで遠心分離し、0.1mlのPBSで再懸濁し、下部チャンバ内の移動した細胞の数を定量した。各アッセイは2反復で設定し、少なくとも4回繰り返した。
【0038】
AlexaFluor488 (Molecular Probes、ユージン、OR)とRELMαとの結合は、メーカーのプロトコルで推奨されているように行った。手短に言えば、炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.2を使用し、AlexaFluor488とRELMαとを室温で1時間、暗所でインキュベートした。遊離のAlexaFluorをCoolum 1800カラム(Pierce、ロックフォード、IL)を通してゲル濾過により複合タンパク質から切り離した。比活性は、495nmにおける励起および519nmにおける放射を使い、AlexaFluorと結合したタンパク質の平均の蛍光読取値によって計算した。比活性は、0.726MF/μgであった。
【0039】
3T3細胞と結合したAlexaFluor結合RELM-αは、FACScan (Becton Dickinson、サンノゼ、CA)を使ってフローサイトメトリー解析で測定した。3T3細胞は、非標識のRELMαの存在下または非存在下で、異なる濃度のAlexaFluor488結合RELMα(50ng/mlから1000ng/ml)と共に氷の上で1時間インキュベートした。4℃下で細胞をPBSで3回、5分間洗浄した。AlexaFluor488結合ウシ血清アルブミン(BSA)との結合を、ネガティブコントロールとして使用した。
【0040】
3T3細胞と結合したAlexaFluor結合RELMαリガンドは、最大励起波長495nmおよび放射波長519nmでフルオロサイトメーターで測定した。3T3細胞は、異なる濃度のAlexaFluor488結合RELMα(1nMから160nM)と共に氷の上で1時間インキュベートした。細胞は、炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.3を使用し、4℃で3回、5分間洗浄した。遊離のタンパク質濃度を測定するために、細胞を含まない上清をプールした。細胞は炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.3で再懸濁し、結合したタンパク質の濃度を蛍光で測定した。遊離のおよび結合したRELMαを計算するために、AlexaFluor488結合RELMαの標準曲線を作成した。
【0041】
メタコリンに対する気道の反応は、意識のある拘束されていないマウスでBuxco (Troy、NY)によって供給された装置およびソフトウェアを用いて気圧プレチスモグラフィにより評価した。このシステムは強化ポーズ(Penh)として知られる無次元パラメータを与え、初期および後期の呼気作用のタイミング比較と組み合わされたプレチスモグラフィチャンバからの圧力シグナルの波形における変化を反映するものであり、観察に基づいて気道機能をモニターするために用いることができる。
【0042】
生理食塩水またはRELMαまたはRELMβの7つの用量の1つで処理したマウスをチャンバに置き、ベースライン値を読み取って3分間の平均を求めた。次に、エアゾール化したメタコリン(3.125mg/mlから50mg/mlの溶液濃度)を入口からチャンバ内に2分間送った。各用量を投与した後に、読取値は3分間で平均した。コントロールとして、IL-13を10μg投与した後のメタコリンに対する気道抵抗も、同様のプロトコルに従って測定した。
【0043】
データ全ては、平均±標準偏差(SD)で表す。マウスの異なるセットを比較する統計的有意差は、スチューデントのt検定で決定した。
【0044】
生理食塩水およびアレルゲンでチャレンジしたマウスから得たRNAで、AffymetrixチップU74Av2を用いてマイクロアレイ分析を行った。このチップは、12,423の遺伝子要素に相当するオリゴヌクレオチドプローブセットを含み、特性の明らかなマウス遺伝子のコレクションとしては市販されている中では最大の1つである。アレルゲンでチャレンジしたマウス(OVAまたはAspergillus)をそれぞれの生理食塩水コントロール(各実験群n=3〜6マウス)と比較し、アレルゲンによるチャレンジの後に少なくとも2倍の統計学的に有意な増加(p<0.05)を示した遺伝子を特定した。
【0045】
生理食塩水でチャレンジしたマウスと比較して、OVAでチャレンジしたマウスは496の誘導された遺伝子を有し、Aspergillus fumigatusでチャレンジしたマウスは527の誘導された遺伝子を有した。誘導された転写産物の過半数(OVAの59%およびAspergillusの55%)は、2つの実験的喘息モデルの間で重複していた。
【0046】
図1を参照すると、定量的グローバルマイクロアレイ分析により、2つの異なるモデルの各々でアレルゲンにより誘導した喘息の期間中、コントロールマウスと比較してRELMβmRNAの有意に増加した発現が明らかになった。OVAでチャレンジしたマウスの肺におけるRELMβの発現は、985倍の増加を示した。Aspergillusでチャレンジしたマウスの肺におけるRELMβの発現は、600倍の増加を示した。
【0047】
図2を参照すると、ノーザンブロット分析では、OVAおよびAspergillusで誘導したモデルの両方においてチャレンジしたマウスの肺でRELMβの発現が誘導されることが確認された。肺RNAのノーザンブロットでは、Aspergillus (図2A)またはOVA(図2B)アレルゲンで誘導された野生型マウスにおけるRELMβmRNAが、生理食塩水チャレンジを投与した野生型コントロールマウスの肺と比較して上昇することが証明された。RNA標準(28Sおよび18S)が示されている。
【0048】
RELMβの誘導がこのファミリーメンバーに特異的であるかどうかを決定するために、同じノーザンブロットをRELMαおよびレジスチンcDNAプローブで厳密に調べた。マイクロアレイチップはRELMαおよびレジスチンをコードする配列を含んでいなかった。レジスチンではなくRELMαが、両方のアレルゲンによるチャレンジによって著しく誘導された(図2Aおよび2B、データは示さず)。OVAで誘導したRELMαおよびRELMβの発現は、実験的喘息の進行期間中は時間および用量依存性であった。図2Bは、RELM mRNAが最初のアレルゲンによるチャレンジの後に誘導され、2度のOVAアレルゲンによるチャレンジの後には更に強く誘導されたことを示す。
【0049】
1度および2度のOVAによるチャレンジの後の肺におけるRELM mRNA蓄積の誘導および低下を調べた。1度のOVAによるチャレンジの後では、RELMαおよびRELMβ両方のmRNAは6〜10時間でピークに達し、2週以内にベースラインに低下した。2度のアレルゲンによるチャレンジの後では、生理食塩水でチャレンジした肺と比較してRELM mRNAは非常に高いレベルで蓄積され、わずか2時間以内にはピーク値に近づき、96時間後でも高いレベルを維持したが、4週後にはベースラインに戻った(図2Cおよび2D)。
【0050】
RELM mRNA蓄積は、BALF内への白血球分画補充と相関していた。OVAによる両チャレンジの後は、RELM mRNAの発現ピークは、総BALF細胞レベルと相関した。しかし、RELM発現の持続は、10〜96時間の間に増加し、2週後にベースラインに戻ったマクロファージおよび好酸球の数とより強く相関した(データは示さず)。RELMαおよびRELMβは、類似した動態学的発現パターンを有していた。
【0051】
喘息は、Th-2関連のプロセスである。したがって、IL-4およびIL-13を薬剤として送達した場合のRELMの誘導に及ぼす影響を評価した。サイトカインIL-4またはIL-13を、麻酔をかけたマウスの気道に繰り返し投与した。このプロトコルは、好酸性の炎症、ケモカイン誘導、粘液産生およびAHRを含む実験的な喘息のいくつかの特徴を生む。
【0052】
両方のTH-2サイトカインの投与により、生理食塩水で処理したコントロールマウスと比較して著しいレベルのRELM mRNAが誘導される(図3Aおよび3B)。in vivoにおけるRELMの誘導におけるSTAT6の役割を試験するために、IL-4を野生型マウスおよびSTAT6欠失性のマウスに投与した。図3Aで示すように、IL-4で誘導したRELM発現は、主にSTAT6依存性であった。IL-13もSTAT6欠失性のマウスに投与した結果、図3Bで示すように、同じくRELM発現は主にSTAT6依存性であった。
【0053】
アレルゲンで誘導したRELM mRNAの発現がSTAT6依存性であるならば、アレルゲンで誘導したRELMが主にIL-4/IL-13シグナル伝達の下流にあるかどうか決定する際に役立つであろう。図3Cで示すように、STAT6欠失マウスは、OVAでチャレンジした野生型マウスと比較して、OVAによるチャレンジ後にRELMの発現を示さなかった。同様に、Aspergillusで誘導したRELMは、主にSTAT6依存性であった(図3D)。
【0054】
アレルゲンで誘導したRELMの発現におけるIL-4およびIL-13の役割を更に検討するために、遺伝的にIL-13が欠失したまたはIL-4およびIL-13が欠失したマウスにおいてOVAおよびAspergillusで誘導した実験的な喘息を評価した。IL-13遺伝子を標的としたマウスでは、RELM mRNAの誘導はほとんど検出不可能であった(図3Eおよび3F)。IL-4およびIL-13が欠失したマウスは、AspergillusおよびOVAで誘導されるRELM mRNA蓄積に対して完全に抵抗性であった。IL-4およびIL-13によるSTAT6シグナル伝達の活性化は通常IL-4Rα鎖によって媒介されるので、機能的IL-4Rαが欠失したOVAでチャレンジしたマウスにおけるRELM誘導を検討した。図3Gで示すように、RELM誘導は、野生型マウスと比較してIL-4Rαが欠失したマウスでかなり弱まった。
【0055】
図3Hは、野生型マウスまたはIL-5が欠失したマウスでAspergillus fumigatusでチャレンジしたマウスの肺からのノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを示す。IL-5は、アレルギー性炎症反応で増加する細胞である好酸球の強い誘導物質である。図3Hで示すように、野生型マウスおよびIL-5欠失(ノックアウト)マウスの両方は、類似した量のRELMβmRNAを発現した。
【0056】
全体で、これらのデータはRELMαおよびRELMβがTh-2関連のサイトカインであることを証明した。特に、RELMαおよびRELMβはIL-4およびIL-13によって誘導され、アレルギーによるRELMの誘導は主にIL-13によって予測された。
【0057】
肺におけるRELM類の過剰発現が少なくとも一部の喘息様表現型を誘導するかどうか判断するために、組換えマウスのRELMαおよびRELMβを気管内送達を通して投与し、BALF内の細胞レベルに対する影響を検討した。RELMα(10μg)を繰り返し投与し、各投与の18時間後にBALF細胞の定量分析を実施した。図4Aで示すように、RELMαはBALF細胞総数の大幅な増加を誘導した。ディファレンシャルな解析により、マクロファージおよびリンパ球が主に影響を受ける細胞型であることが分かった。RELMαによる気管内投与を7回行った後、マクロファージ総数と同様に総細胞数も約6倍増加した(図4B)。コントロールの熱処理された(15分)RELMαタンパク質は完全に不活性化され(データは示さない)、RELM活性のためには正しいタンパク質のフォールディングが必要なことを示している。コントロール生理食塩水(図4C)、RELMα(図4D)およびRELMβ(図4E)で処理した後の肺の代表的組織学的切片は、血管周囲および気管支周囲の炎症性細胞浸潤の存在を明らかに示していた。
【0058】
RELMの気管内投与の後、肺組織の検査により明らかな上皮化生が発見され、これは杯状細胞分化を示唆している(図5Aおよび5B)。粘液産生のために肺切片をPeriodic Acid Schiff (PAS)で染色した結果、RELMαまたはRELMβによる投与の後、生理食塩水による投与と比較して粘液PASポジティブ(PAS+)細胞が大きく増加することが明らかにされた(図5C)。PAS+細胞の定量分析により、RELMαおよびRELMβの投与後、大気道上皮性細胞において杯状細胞がそれぞれ25.6±8.7%および9.4±6.9%(平均±S.D.、n=3)であることが明らかになった。生理食塩水で処理されたマウスにおいて、杯状細胞はPAS組織染色によって検出されなかった。
【0059】
RELM投与後の肺組織検査により、有糸分裂が活発な細胞集団が多いことが明らかになった(図6A-C)。RELM類によって誘導されるin situ細胞増殖を検討するために、マウスにRELM類を7回気管内投与し、その後BrdUを投与してから3時間後に屠殺して肺へのBrdUの取り込みを分析した。
【0060】
分析の結果、RELMα(図6B)またはRELMβ(図6C)の投与後に、生理食塩水で処理したマウス(図6A)と比較してBrdUポジティブ(BrdU+)細胞が大幅に増加したことが明らかになった。BrdU+細胞の定量分析により、1mm2あたりの細胞数が生理食塩水、RELMαおよびRELMβ投与後にそれぞれ2.6±2.4、29.22±7および24±7.9(平均±S.D.、n=3)であることが分かった(図6D)。上皮細胞および炎症細胞を含む複数の細胞型が誘導されて、BrdUを取り込んだ。
【0061】
RELM投与後の肺組織検査により、明らかに厚みのある網様基底膜が見られ、これはコラーゲン沈着を示唆するものである(図7A-7D)。RELM類を7回気管内投与したマウスから採取されコラーゲンのためにトリクローム染色で染色した肺切片からは、トリクロームポジティブ物質からなる気道網様基底膜の明らかな肥厚が確認された(図7A-7D)。気管支近くのトリクロームポジティブの層の定量分析により、生理食塩水、RELMαおよびRELMβによる投与後に、厚みがそれぞれ355±50、1322±429、および8807±1126area/mm2であることが分かった(図7E)。また、血管を囲むトリクロームポジティブの層の定量分析により、生理食塩水、RELMαおよびRELMβによる投与後に、厚みがそれぞれ462±114、17063±2936、および11233±1939area/mm2(平均±S.D.、n=4)に増加していることが分かった(図7E)。コントロールとして、RELMαを投与前に沸騰させたとき、コラーゲン沈着を誘導するその能力は失われた(図6E)。
【0062】
RELMで処理されたマウスの肺におけるコラーゲン沈着は、線維芽細胞に及ぼす組換えRELM類の直接効果のin vitro検査を促した。RELM処理が線維芽細胞増殖を誘導するかどうかを判定するために、マウスの3T3線維芽細胞を全範囲の用量のRELMαおよびRELMβに24〜72時間さらしてその増殖反応を測定した。コントロール処理は増殖を誘導したものの、この露出により3T3細胞の増殖を誘導することはできなかった(データは示さず)。
【0063】
RELM類が肺で線維芽細胞の蓄積の少なくとも一部を誘導することによってコラーゲン沈着を媒介するかどうか決定するために、in vitroで3T3線維芽細胞の化学誘引を誘導するRELMの能力を分析した。RELMαおよびRELMβの両方は、トランスウェルメンブランを通過する、用量依存的な3T3細胞の運動を誘導した。活性は10nmと低い用量でも見られ、プラトーは約100nMから約500nMの間で見られた。ポジティブコントロールとして、公知の線維芽細胞遊走促進因子であるTGFβ(40mM)への露出は、線維芽細胞の運動を8倍増加させた(データは示さず)。TGFβおよびRELMαまたはRELMβの両方の最適以下の濃度の投与により、これらのサイトカインは相加効果を有することが明らかになった(図8B)。
【0064】
RELMが走化性または化学的運動性メカニズムによって3T3運動をin vitroで促進するかどうかを判定するために、in vitroアッセイで異なる濃度のRELMをメンブランの上下に加えた。このチェッカーボード分析では、RELM濃度勾配の変化は細胞運動に影響を及ぼさないことが明らかになった(データは示されない)。このように、RELMは線維芽細胞の走化性よりむしろ化学運動性を誘発した。
【0065】
マウスの系で線維芽細胞の運動を誘導するRELMの能力がヒトの系に適用できるかどうか判定するために、ヒト一次肺線維芽細胞に対するヒト組換えRELMαおよびRELMβの走化活性を検討した。図8Cで示すように、ヒトRELMは、ヒト肺線維芽細胞に対してマウスの系の場合と同様の活性を示した。
【0066】
データは、RELMが線維芽細胞に対して強力な活性を有するサイトカインであることを示唆した;したがって本発明者らは線維芽細胞が特異的なRELM受容体を発現するかどうかを判定した。現在まで特定されたRELM受容体は知られていない。
【0067】
組換えマウスのRELMαをAlexaFluor488プローブで標識し、3T3線維芽細胞への結合を、FACSを使って測定した。図9Aで示すように、RELMαは3T3線維芽細胞との飽和性結合を示した。活性は50ng/mlから1000ng/mlの間で認められ、1000ng/mlより上の濃度でプラトーに到達した(図9A〜9C)。非標識のRELMαの付加により、標識RELMαの結合を完全に取り除いた(図9D)。同様に、非標識のRELMβを付加すると、標識RELMαの結合は減少した(図9E)。RELMαおよびRELMβは互いの結合を妨げ、それらが同じ受容体を共有することが示された。最後に、スキャッチャード分析により、RELMα受容体は19.9±1.2nMのKdを有することが明らかにされた。3T3細胞は、RELMαまたはRELMに対して複数の結合部位を有する(図9F)。ヒト肺線維芽細胞への標識組換えヒトRELMαの結合も検討された。図9Gで示すようなヒトRELMとのヒト肺線維芽細胞の結合特性は、図9Cで示すようにマウスの系と類似している。
【0068】
AHRを誘導するRELMの能力を、アレルギー性気道疾患の特質の一部を誘導するRELMの能力の観点から評価した。ナイーヴな動物にRELMα、RELMβまたはコントロール生理食塩水を日替わりで7回投与した。霧状のメタコリンの全量に対する反応を、RELMまたは生理食塩水の最後の投与から24時間後に測定した。RELMで処理されたマウスは、Penhの変化で測定されたようにAHRを起こさなかった(データは示さず)。コントロールとして、組換えIL-13の5回投与で処理したマウスのメタコリン反応は2倍増を示した(データは示さず)。
【0069】
特定の実験的な投薬計画に特異的でない遺伝子が分析され、したがって喘息の2つの独立したモデルが使われた。これらの2つの独立したモデルで重複した、アレルゲンで誘導した遺伝子は、大局的転写産物プロファイル解析を使って分析した。しかし、両方の喘息モデルは類似した表現型、例えばTh2関連の好酸性炎症、粘液産生および気道過敏(AHR)を有する。
【0070】
1つのモデルでは、マウスを14日間隔で2回、アジュバントのミョウバンの存在下でアレルゲンのOVAで腹膜内に感作させた。その後、マウスを鼻腔内OVAまたはコントロール生理食塩水により3日間隔で2回チャレンジした。最後のアレルゲンチャレンジから18時間後に、肺をRNA分析のために取り出した。他のモデルにおいて、遍在する一般的なエアロアレルゲンであるAspergillus fumigatus抗原により実験的な喘息を誘導した。このモデルは、OVAモデルと比較して独特の粘膜感作経路(鼻腔内)を含んでいた。肺RNAは、9度の鼻腔内Aspergillus fumigatusアレルゲンの投与または生理食塩水によるチャレンジから18時間後に得た。
【0071】
RELM-βをコードしているメッセンジャーRNA (mRNA)は、生理食塩水コントロールを投与したマウスの肺からは検出されなかった。RELM-βをコードしているメッセンジャーRNAは、OVAおよびAspergillus fumigatus抗原で誘導した実験的な喘息の発生後に著しく増加した。OVAでチャレンジしたマウスの肺におけるRELM-βの発現は、時間および用量依存性であった。RELM-βの発現は、IL-4肺トランスジェニックマウスおよびIL-13を気管内投与したマウスの肺でも誘導された。
【0072】
その上、転写因子STAT6はRELM-βの発現に影響を及ぼした。STATS欠失マウスは、OVAアレルゲンまたはAspergillus fumigatusアレルゲンでチャレンジするか、あるいはIL-4またはIL-13を投与した。誘導されたRELM-β発現は、この転写因子に依存性であることが証明された。対照的に、IL-5欠失マウスは、野生型マウスと比較して通常のRELM-β誘導を示した。
【0073】
喘息の発生病理に関係する複合メカニズムを理解するために、転写産物発現プロファイル解析を用いて一組の「喘息サイン」遺伝子を定めた。喘息関連の遺伝子としてのRELMβの発見は、この分子が喘息反応で潜在的に重要な特性を有することを示した。以前には、RELMβが喘息の発生病理と関係していると指摘されたことはなかった。
【0074】
疾患誘導の多様なアレルゲンおよび様式によって引き起こされたアレルギー性肺の炎症は、肺におけるRELMβの著しく、特異的な異所性発現と関係していた。このことは、RELMβが、インスリン抵抗性および肥満と関連する構造的に類縁のサイトカイン群であるレジスチンタンパク質ファミリーの構成メンバーであることを証明した先の研究と対照的である。
【0075】
Th2サイトカインIL-4およびIL-13は、肺でRELMβを誘導した。したがって、アレルゲンで誘導されたRELMβは、少なくともある程度はIL-4およびIL-13によって媒介された。IL-4およびIL-13は、類似したシグナル伝達メカニズム(例えば共通の受容体サブユニット(IL-4Rα鎖)の利用およびSTAT6の活性化)を共有する同族のサイトカインである。これらのサイトカインが両方とも喘息で役割を果たしていることは周知であったが、それらが喘息反応の様々な要素(例えばAHR、粘液産生および気道再構築)を誘導するメカニズムは部分的に理解されただけである。本発明は、IL-4/IL-13に関連した肺のアレルギー性反応の発生病理は、少なくともある程度はRELMβによって媒介されることを証明する。傷害に関連した上皮過形成症および上皮分化(例えば粘液細胞化生)も、肺でRELMβによって媒介される可能性がある。RELMβは、粘液産生も変更する可能性がある。
【0076】
RELMβは、アレルゲンとIL-4およびIL-13の両方によって、STAT6に依存したメカニズムによって誘導された。これらのデータは、実験的な喘息におけるIL-4およびIL-13の関与に関して異なる、また重複するメカニズムを示した研究と一致していた(Wills-Karp、M.、J. Allergy Clin. Immunol. 107:9〜18 (2001))。その上、OVAおよびAspergillusは両方とも実験的な喘息を誘導するが、Aspergillusはアジュバントとは独立してTh2反応を誘導することができた。このことは両アレルゲンが喘息の誘導に対して異なるメカニズムを採用することを示す。
【0077】
RELMβは分泌タンパク質であり、腫瘍の著しい増加を伴う胃腸管、特に大腸で発現されることが特定され、腸管の増殖における役割が示唆された。このことは、RELMβが傷害に対応した上皮の増殖の調節に関係している可能性を示唆した。喘息性の肺の特徴は、上皮の増殖の大幅な増加である。酸分泌の阻害および上皮増殖の刺激を通して粘膜治癒を促進する際に、RELMβの役割がある可能性がある。気道の酸性化および上皮の増殖を含む喘息の発生病理と関連するいくつかの特徴を調節する際に、アレルゲンで誘導したRELMβは役割を果たす可能性がある。
【0078】
診断手段としてRELMβを利用する可能性も、開示されている。RELMβの定性的および定量的な測定は、炎症プロセスのマーカーである。したがって、RELMβの測定は、特許の臨床上の状態、表現型、遺伝子型、薬物反応および/または予後、ならびに一塩基多型を評価するのに用いてもよい。例えば、生検部位から得られるであろう肺組織内のRELMβの増加量は、炎症プロセスおよび/または慢性修復プロセスを示す。RELMβの量は、例えば肺液、肺生検材料、痰、粘液、鼻の洗液および/または血液で調査することができる。検体を分析して、RELMβのDNA、mRNA、および/またはタンパク質を測定する。一例として、生検材料のサザン、ノーザンまたはウェスタンブロットを行い、プローブで処理してそれぞれDNA、RNAおよびタンパク質を測定してもよい。他の例として、組織を組織学的に、例えば適当に染色して顕微鏡で調査してもよい。このような方法は当業者には既知である。
【0079】
RELMβは、喘息性肺でアレルゲンによって誘導される遺伝子である。Th2サイトカインIL-4およびIL-13は、RELMβの発現を誘導した。IL-5は、RELMβの発現を誘導しなかった。誘導は、STAT6依存性メカニズムによって起こった。したがって、RELMβは喘息の発生病理と関係していた。
【0080】
喘息性肺におけるRELMβの関与には、インスリン抵抗性の調節にRELMβが関係していることを示すプロセスが含まれた。これには、脂肪細胞のような様々な成熟細胞型に発達することができる未熟線維芽細胞である間葉系細胞の分化の調節が含まれる。アレルギー性肺の反応は、肥満に関連したプロセスと病原のメカニズム、例えばインスリン抵抗性および糖尿を共有したが、これらはいくつかの肺の異常と関係している可能性がある。
【0081】
RELMβに影響を及ぼす組成物は、小分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤および/またはSTAT6の転写阻害剤またはTh2サイトカイン阻害剤でもよい。組成物中のこれらの阻害剤の濃度は、約0.01mg/kg体重から約100mg/kg体重の範囲の用量で調製することができる。組成物中の阻害剤の量は、製剤の種類によって変えることができる。組成物は、ヒトなどの哺乳類に予防的に、または特定の病態または疾患に応じて投与してもよい。例えば、この組成物は喘息の症状ならびに/またはアレルギー性鼻炎、喘息および/もしくは湿疹などのアレルギー症状の患者に投与してもよい。この組成物は、非全身的に、例えば吸入、エアゾール、点滴、その他により投与してもよく;また経腸または腸管外経路、例えばそれには限定されないが静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、固体または液体剤形(錠剤(チュアブル、溶解性、その他)、カプセル(ハードゲルまたはソフトゲル)、ピル、シロップ、エリキシル、乳剤、懸濁液、その他)の経口投与により全身的に投与してもよい。当業者に公知なように、この組成物は賦形剤、例えばそれには限定されないが薬剤として許容される緩衝液、乳化剤、界面活性剤、塩化ナトリウムのような電解質を含んでもよい;経腸剤は、チキソトロープ剤、着香料および官能特性を強化するための他の成分を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】マウスで実験的に喘息を誘導したときのRELMβの発現をマイクロアレイ分析によって示す図である。
【図2A】Aspergillusで誘導した場合のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2B】OVAで誘導した場合のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2C】1度のOVAチャレンジの後のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2D】2度のOVAチャレンジの後のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図3A】IL-4によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3B】IL-13によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3C】アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3D】アレルゲン(Aspergillus)によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3E】IL-13欠失マウスおよびIL-4/IL-13欠失マウスにおける、アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3F】IL-13欠失マウスおよびIL-4/IL-13欠失マウスにおける、アレルゲン(Aspergillus)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3G】IL-4Rα欠失マウスにおける、アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3H】IL-5欠失マウスにおける、アレルゲン(Aspergillus)によるRELMβの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図4A】気管支肺胞洗浄液へのRELMαの気管内投与の影響を表す図である。
【図4B】気管支肺胞洗浄液へのRELMαおよびRELMβの気管内投与の影響を表す図である。
【図4C】コントロール生理食塩水で処理した後の肺における組織学的切片である。
【図4D】RELMαで処理した後の肺における組織学的切片である。
【図4E】RELMβで処理した後の肺における組織学的切片である。
【図5A】コントロール生理食塩水を用いた場合の肺組織を表す図である。
【図5B】RELMαを用いた場合の肺組織を表す図である。
【図5C】RELMαおよびRELMβ投与後のPAS+細胞の定量分析を表す図である。
【図6A】in situ細胞増殖に対するコントロール生理食塩水の気管内投与の影響を表す図である。
【図6B】in situ細胞増殖に対するRELMαの気管内投与の影響を表す図である。
【図6C】in situ細胞増殖に対するRELMβの気管内投与の影響を表す図である。
【図6D】RELMαおよびRELMβ投与後のBrd+細胞の定量分析を表す図である。
【図7A】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7B】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7C】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7D】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7E】RELMαおよびRELMβ投与後のトリクローム陽性の層の定量分析を表す図である。
【図8A】マウスの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図8B】マウスの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMとTGFβの気管内投与の影響を表す図である。
【図8C】ヒトの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図9A】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9B】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9C】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9D】マウスの系における、非標識RELMαを付加した場合の、特異的な線維芽細胞受容体と結合した標識RELMαを表す図である。
【図9E】マウスの系における、非標識RELMβを付加した場合の、特異的な線維芽細胞受容体と結合した標識RELMβを表す図である。
【図9F】RELMαのスキャッチャード分析を表す図である。
【図9G】ヒトの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【技術分野】
【0001】
米国政府は本発明において支払済みのライセンスを有し、また国立衛生研究所によって与えられた許認可第RO1 AI42242-04号の条項が規定しているように、限られた状況下で特許所有者に対し、他の者に対して理にかなった条件で実施権を与えるように要求する権利を有す。
【0002】
本出願は、参照により完全に本明細書で組み込まれた2003年1月18日に出願され現在係属中の米国特許仮出願第60/440,922号への優先権を主張する。
【0003】
本発明は、レジスチン様分子(RELM)αおよびβの発現を調節する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
喘息は、複雑な慢性炎症性肺障害である。多くの研究にもかかわらず喘息の発生率は上昇しており、小児科で入院が必要と診断される主な原因となっている。
【0005】
喘息の研究では、ヒトなどの感作動物で、アレルゲンへの曝露により誘導された細胞経路および分子経路の分析を主に行ってきた。研究では、IgE生産の増加、粘液過分泌、気道閉塞、炎症および喘息反応におけるスパスモーゲンに対する気管支反応性の増加が特定されてきた。臨床研究および実験的な研究は、CD4+Tヘルパー2リンパ球(Th2細胞)の存在と疾患の重症度との間の強い相関関係を示し、喘息の病態生理学におけるこれらの細胞の役割が示唆された。Th2細胞は、直接的および間接的に炎症性および常在性エフェクター経路を活性化する様々なサイトカイン(IL-4、-5、-6、-9、-10、-13、-25)の分泌を通して喘息を誘発すると考えられる。喘息患者の肺ではIL-4およびIL-13の生成レベルが上昇するので、それらは喘息の特質の多くの重要な調節因子であると考えられる。
【0006】
最近は、慢性気道炎の状況での気道再構築の病原学形成が注目されている。Th2サイトカインによって誘発される間葉系細胞シグナル伝達は、アレルゲンによって誘発された炎症に対する反応としての慢性傷害および修復プロセスにおいて能動的役割をする。このように、おそらく複数の治療薬が特定の炎症性経路を妨げ、喘息表現型の発達は多数の更なる遺伝子およびそれらの多形性変異体の複合的相互作用と関連している可能性がある。
【0007】
サイトカインのレジスチンファミリーは、オリゴマー形態を促進する10または11のシステイン残基を有し分子量が12.5kDa程度のいくつかの保存タンパク質を含む。ファミリーメンバーの1つはレジスチンであり、これは脂肪細胞分泌因子(ADSF)とも呼ばれ、または炎症帯3(F1ZZ3)に存在する。レジスチンは脂肪細胞によって分泌される新規ホルモンであり、肥満とインスリン抵抗性およびII型糖尿病を関連付けている可能性がある。他のファミリーメンバーは、レジスチン様分子(RELM)である。RELMαは、当初実験的なネズミの喘息モデルにおいて炎症帯で発見されたが、その後F1ZZ1と命名された。RELMαは脂肪組織、心臓、肺および舌で発現され、RELMβは腸で発現される。最近、RELMγが特定され、造血組織で最も高いレベルで発現されることが証明された。
【0008】
初期のマウス研究により、インスリン作用に拮抗してインスリンシグナル伝達経路の1つまたは複数の工程を変更することによって、レジスチンがインスリン抵抗性を介在することが示唆された。しかし、レジスチンおよび/またはRELM生産が肥満症で増加するか減少するか、または、チアゾリジンジオン(インスリン抵抗性を減ずることが知られている薬剤)によって増加するか減少するかに関しての動物データには一貫性がない。RELMの機能は、一次的にはインスリン抵抗性を促進するその能力とは無関係である可能性がある。このことは、RELMは脂肪細胞の分化およびニューロン細胞の生残を阻害することを示している予備研究によって示唆されている。RELMは、炎症プロセスとも関連付けされている。
【特許文献1】米国特許仮出願第60/440,922号
【非特許文献1】Rankin他、Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:7821〜5 (1996)
【非特許文献2】Pope他、J. Allergy Clin. Immunol. 108:594〜601 (2001)
【非特許文献3】Zimmermann他、J. Immunol. 165:5839〜46 (2000)
【非特許文献4】Mishra他、J. Biol. Chem. 276:8453 (2001)
【非特許文献5】Wills-Karp、M.、J. Allergy Clin. Immunol. 107:9〜18 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、そのようなメカニズムによって喘息を軽減する組成物および方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態では、レジスチン様分子(RELM)α(RELMα)およびβ(RELMβ)の発現を調節することによって、患者におけるアレルギー反応を減少させる方法を対象とする。この方法により、例えば気道、肺、気管および/または肺液(気管支肺胞洗浄液)における喘息症状を軽減することができ、または、例えば皮膚、眼、鼻、のどおよび/または腸におけるアレルギー症状を軽減することができる。
【0011】
本発明の他の実施形態は、RELMαおよび/またはβの発現エフェクターを、RELMαおよび/またはβをコードしているDNA、RELMαおよび/またはβをコードしているmRNA、ならびに/あるいは生成したRELMαおよび/またはβタンパク質を調節するのに十分な量で製剤中に含む医薬組成物である。このエフェクターは、STAT6の阻害剤および/またはTh2サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)-4またはIL-13の阻害剤でもよい。これらの阻害剤は、低分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤および/または転写阻害剤であってもよい。
【0012】
本発明の他の実施形態は、患者のRELMαおよび/またはβのレベルを測定し、それにより患者の肺の状態を評価する生理学的評価方法である。RELMαおよび/またはβは、肺液、肺生検材料、痰、粘液、鼻の洗液および/または血液で測定することができる。検体を分析して、RELMαおよび/またはβのDNA、mRNA、および/またはタンパク質を測定する。一例として、生検材料のサザンブロット、ノーザンブロットまたはウェスタンブロットを行い、プローブで処理して、それぞれDNA、RNAおよびタンパク質を測定してもよい。他の例として、組織を適当に染色して顕微鏡で調べてもよい。このような方法は当業者には公知である。高いレベルのRELMαおよび/またはβは、炎症プロセスにあること、および/または、慢性修復プロセスにあることを示す。
【0013】
本発明の他の実施形態は、薬剤として許容される組成物に含まれたRELMαおよび/またはβを肺に提供する予防的または治療的方法である。この方法では、肺の酸性度を低くして、肺の炎症を治療することができ、かつ/または肺において上皮の修復を活発にして、肺の炎症を治療することができる。
【0014】
本発明の他の実施形態は、アレルギー患者のための治療方法である。患者には、患者においてアレルゲンによって誘発された遺伝子をディファレンシャルに調節することができる少なくとも1つの化合物を含む医薬組成物のある量および製剤を投与する。この化合物は、アンチセンス化合物、小分子阻害剤または転写阻害剤としてSTAT6に影響を及ぼすことができる。
【0015】
本発明の他の実施形態は、脂肪細胞などにおけるRELMαおよび/またはβの発現を調節することによってインスリン抵抗性を調節する方法である。
【0016】
本発明の他の実施形態は、RELMαおよび/またはβの発現を調節することによって肥満症の合併症、例えば肺合併症を改善する方法である。
【0017】
これらおよび他の利点は、以下の図および詳細な説明に照らして明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
RELMαおよびRELMβは、多様なアレルゲンおよびTh2サイトカインであるインターロイキン4(IL-4)およびIL-13により、タンパク質STAT6(シグナル伝達因子および転写活性因子:signal-transducer-and-activator-of-transcription)に依存したメカニズムを通して、肺で強く誘発された。RELMαおよびRELMβのいずれも、未処置なマウスの肺に送達されたとき、白血球蓄積(最も顕著にはマクロファージを含む)および杯状細胞過形成を用量依存的に誘発した。RELMαおよびRELMβの両方は大量のコラーゲン沈着を誘発した。in vitroでは、RELMαおよびRELMβは特異的なRELM受容体によって媒介される強力な線維芽細胞遊走促進活性を示した。これらの結果は、RELMが、強力な炎症性および再構築活性を有するTH2関連のサイトカインの新しいファミリーであると特定するものである。
【0019】
RELMαおよびRELMβは、インスリン抵抗性に関与しており、したがって肥満に関与した構造的に関係しているサイトカイングループの構成メンバーである。肥満は、いくつかの肺の異常に関与している可能性がある。オボアルブミンおよびAspergillus fumigatusのような呼吸系アレルゲン、ならびに、Th2サイトカインであるIL-4およびIL-13によるRELMαおよびRELMβの誘導は、インスリン抵抗性(肥満)の病態形成と喘息を関連付けした。
【実施例】
【0020】
RELMαおよびRELMβのmRNAレベルは、アレルゲン誘発性喘息の異なるモデルを用いて異なるアレルゲンでチャレンジしたマウスの肺で評価された。
【0021】
肺全体のRNAを、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーションにより分析した。RNAは、Trizol (Invitrogen、Carlsbad、CA)試薬を使いメーカーの指示に従って抽出した。Trizolによる精製の後、RNAをフェノール-クロロホルム抽出およびエタノール沈殿で再精製した。
【0022】
マイクロアレイハイブリダイゼーションは、Cincinnati Children's Hospital Medical CenterのAffymetrix Gene Chip Core施設によって実施された。つまり、RNAを先ずAgilent bioanalyzer (Agilent Technologies、Palo Alto、CA)を使用して評価し、以降は28S/18Sの比が1.3から2の試料だけを使用した。RNAはcDNA合成用のSuperscript choice (Invitrogen、Carlsbad、CA)でcDNAに変換し、その後Enzo High Yield RNA Transcript標識キット(Enzo Diagnostics、Farmingdale、NY)でビオチン化cRNAに変換した。マウスのU74Av2 GeneChip (Affymetrix、サンタクララ、CA)とのハイブリダイゼーションの後、遺伝子チップを自動的に洗浄し、Fluidics Systemを用いてストレプトアビジン-フィコエリトリンで染色した。チップをヒューレットパッカードGeneArray Scannerでスキャンした。この分析は、1チップにつき1匹のマウスの割合で行った(各アレルゲンチャレンジの条件ではn≧3、各生理食塩水チャレンジの条件ではn≧2)。
【0023】
ノーザンブロット分析のために、Rankin他、Proc. Natl. Acad. Sci USA 93:7821〜5 (1996) (参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)によって記載されているように、RNAを野生型Balb/cマウス、IL-4 Claraセル10ラングトランスジェニックマウスの肺から抽出した。マウスは、STAT6遺伝子の野生型または欠失コピーを含んでいた。Pope他、J. Allergy Clin. Immunol. 108:594〜601 (2001)およびZimmermann他、J. Immunol. 165:5839〜46 (2000) (それぞれ参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)に記載されているように、RNAは生理食塩水または組換えマウスIL-13で処理したマウスの肺からも抽出した。ハイブリダイゼーションは、American Type Culture Collection(ロックビル、MD)から得た、配列が確認されているマウスのTFF2 (I.M.A.G.E. 438574)またはTFF3 (I.M.A.G.E. 1166710)をコードしている32P標識cDNAを用いて実施した。
【0024】
データ画像ファイルから、Microarray Analysis Suite Version 4ソフトウェア(Affymetrix)のアルゴリズムを使用して遺伝子転写レベルを測定した。チップ間で遺伝子を比較するためにグローバルスケーリングを実施した。このようにして、各チップは任意の値(1500)に正規化した。各遺伝子は、一般的には16〜20のプローブ対のプローブセットによって表される。各プローブ対は、完全マッチオリゴヌクレオチドおよび中央位置に1つの塩基ミスマッチを含むミスマッチオリゴヌクレオチドから成る。2つの遺伝子発現測定手段、つまりabsolute callおよび平均差が使われた。absolute callは、各遺伝子がプローブセットとのRNAのハイブリダイゼーションに基づいて存在、境界または不在のcallを割り当てられる定性的な測定手段である。平均差は遺伝子発現レベルの定量的な測定手段であり、あらゆるプローブ対のミスマッチおよび完全なマッチの間の差をとり、プローブセット全体でその差を平均することによって計算される。
【0025】
生理食塩水で処理されたマウスとアレルゲンで処理されたマウスの間の差も、GeneSpringソフトウェア(Silicon Genetics、レッドウッドシティー、CA)を使用して測定した。データは、生理食塩水で処理されたマウスの平均値に正規化した。p<0.05のおよび2倍を超える変化を有する遺伝子を含む遺伝子リストを作成した(ハイブリダイゼーションシグナルに基づき存在コールを割り当てられた遺伝子を使用)。
【0026】
マウスで実験的に喘息を誘発した。Balb/cマウスは米国癌研究所(フレデリック、MD)から得、STAT6欠失またはIL-4Rα欠失マウス(Balb/c)はJackson Laboratory (Bar Harbor、ME)から得た。IL-13が欠失またはIL-4およびIL-13の両方が欠失しているマウスは、アンドリューマッケンジー博士の好意によって提供された。全てのマウスは、特定病原体感染防止条件下で飼育した。
【0027】
喘息モデルは、Mishra他、J. Biol. Chem. 276:8453 (2001) (参照によって完全に本明細書に明瞭に組み込まれている)で記載されているように誘導した。つまり、オボアルブミンによる喘息は、OVAおよび1mgの水酸化アルミニウム(ミョウバン)を2週間おきに腹腔内注射し、2週後に鼻腔内OVAまたは生理食塩水チャレンジを2回行うことによって誘導した。Aspergillus fumigatus抗原による喘息は、3週間にわたって抗原を繰り返し鼻腔内に接種することによって誘導した。
【0028】
より具体的には、マウスはday 0およびday 14にOVA100μgおよび水酸化アルミニウム(ミョウバン)1mgの生理食塩水溶液による腹腔内注射によって感作した。day 24およびday 27に、マウスにイソフルオランを吸入させて軽く麻酔をかけ、OVA50μgまたは生理食塩水で鼻腔内(i.n.)にチャレンジした。他の実験では、マウス鼻腔内にAspergillus fumigatus抗原を3週間にわたって9回投与してチャレンジした。アレルゲン(50μl)は、マウスを仰臥位に保ち、マイクロピペットを使って鼻孔に塗布した。注入後、覚醒するまでマウスを直立に保った。マウスは、アレルゲンによるチャレンジから18時間後に屠殺した。
【0029】
作用剤の気管内投与のために、マウス(22〜25gm)をKetaject (Ketamine HCl、Phoenix Pharmaceutical, Inc.、St. Joseph、MO)500μgの腹腔内注射により麻酔をかけた。麻酔をかけたマウスを、鉛直のプラットフォーム上に60度の角度で立たせ。扁平なピンセットを使って舌を軽く伸ばし、長いピペットチップを直接気管に挿入し、次に、20μlの組換えマウスIL-4をIL-4に対するモノクローナル抗体(10μg)(シンシナティ大学のFred Finkelman博士の好意によって提供された試薬)と共に注入した。これにより、IL-4の半減期は数分から約24時間に延長した。一日おきに6回投薬した。組換えマウスのIL-13 (0.9%生理食塩水20μl中に4μg、Wyeth ResearchのDebra Donaldson博士から寛大に寄贈された)を、気管内送達により麻酔をかけたマウスに投与した。投薬は、5日連続にわたった。組換えマウスのRELM-αおよびβ(0.9%生理食塩水20μl中に10μg、PeproTech、Rocky Hill、NJ、からの寛大な贈り物)を、2週間にわたって隔日に気管内送達により麻酔をかけたマウスに投与した。
【0030】
ノーザン分析のために、メーカーのプロトコルに従ってTrizol試薬(Gibco-BRL、グランドアイランド、NY)を使って、RNAを肺組織から抽出した。各試料からの総RNAの20マイクログラムを1.5%ホルムアルデヒドアガロースゲル上で電気泳動により分離し、×10 SSC(生理食塩水クエン酸ナトリウム)でGeneScreenハイブリダイゼーションメンブラン(Life Sciences Product、New England Nuclear;ボストン、MA)へ移した。メンブランは紫外線照射によって架橋し、42℃で1時間、10%硫酸デキストラン、×5 SSC、×1デンハート液、1%SDS、100μg/mlニシン精子DNAおよび20mMのトリスを含む50%ホルムアミド緩衝液(pH 7.5)中で予備ハイブリダイゼーションを行った。マウスRELMαおよびRELMβのための32P標識cDNAプローブを当業者に公知の方法で調製し、それぞれのプローブ1〜2×106dpm/mlを使って42℃で一晩ハイブリダイズした。メンブランを×2 SSC-0.1% SDS中で42℃で20分、50℃で20分、60℃で20分、および×0.1 SSC-0.1% SDS中で20分間洗浄した。5〜6匹の異なる動物から単離されたRNAを各実験群で使用した。
【0031】
気管支肺胞洗浄液(BALF)採取のために、マウスをCO2吸入法により安楽死させた。その直後、首を正中切開して気管にカニューレを挿入した。肺を3回、1%ウシ胎仔血清(FCS)および0.5mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む1.0mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。回収したBALFは×400gで5分間4℃で遠心分離し、1%FCSおよび0.5mM EDTAを含むPBS200μlで再懸濁した。赤血球は、メーカーの推奨に従ってRBC溶解緩衝剤(Sigma、セントルイス、MO)を使って溶解した。総細胞数は、血球計数器で数えた。5×104細胞のサイトスピン製剤をGiemsa-Diff-Quick (Dade Diagnostics of P.R. Inc.、Aguada、PR)で染色し、細胞分画を測定した。
【0032】
杯状細胞分析のために、肺組織試料を4%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液pH 7.4で固定し、パラフィンに包埋し、5μmの切片に切り、正電荷のスライドに固定した。次にメーカーの推奨に従って組織切片の過ヨウ素酸シッフ反応染色(Poly Scientific R&D Corp.、Bay Shore、NY)を行った。肺切片は各マウスセットの同じ位置から採取し、マウスにつき少なくとも4〜5のランダムな切片を分析した。光学顕微鏡を使い、肺の気管支全部位と関連する組織部位を、上皮細胞総数と比較した粘液産生細胞総数の比率について定量した。
【0033】
上皮細胞の増殖を分析するために、5'-ブロモデオキシウリジン(BrdU)(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、CA)取り込み分析を実施した。要約すると、生理食塩水、RELM-αおよびβで処理したマウスに0.25mlの5'-BrdU (0.75μg)を腹腔内注射し、3時間後に屠殺した。肺組織は10%中性緩衝ホルマリン(Sigma、セントルイス、MO)で24時間固定した。固定後、組織をパラフィン包埋し、5ミクロンの切片を標準の組織学的方法を使用して処理した。組織は37℃で3分間、トリプシン(0.125%)で消化し、その後室温で30分間インキュベーションした。切片をPBSで2分間、3回洗浄し、更にモノクローナルのビオチン化抗BrdU抗体と共に室温で60分間インキュベートした。ネガティブコントロールでは一次抗体をPBSで置換した。ポジティブコントロールはメーカーによって提供された。BrdUを核へと取り込んだポジティブ細胞は、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼおよびDAB基質(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、CA)で検出され、その後ヘマトキシリンによる対比染色を行った。BrdU+細胞の定量は、Metamorph Imaging System (Universal Imaging Corporation、ウェストチェスター、PA)を使った形態測定分析によるデジタル形態計測の助けを借りて行った。このような方法の詳細は当業者には公知である。
【0034】
コラーゲン染色のために、肺組織試料を4%パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液pH 7.4で固定し、パラフィンに包埋し、5μmの切片に切り、正電荷のスライドに固定した。切片は、メーカーの推奨に従ってマソンのトリクローム(Poly Scientific R&D Corp)で染色した。コラーゲンは、記載されているように、Metamorph Imaging Systemを使って形態測定分析により定量した。肺切片は各マウスセットの同じ位置から採取し、マウスにつき少なくとも4〜5のランダムな切片を分析した。デジタル式画像キャプチャーを使い、肺の血管周囲または気管支周囲の全領域と関連する組織部位を、組織全域と比較したコラーゲンの全染色領域について定量した。計算したコラーゲンレベルは、組織域mm2あたりのコラーゲンとして表した。
【0035】
NIH 3T3細胞系統は、10%FCS、50U/mlのペニシリンG、50μg/ml硫酸ストレプトマイシンを補ったダルベッコの変法イーグル培地(DMEM、GIBCO BRL、グランドアイランド、NY)(ペニシリン-ストレプトマイシン、GIBCO BRL)で培養した。一次正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)は、線維芽細胞基礎培地(Clonetics-BioWhittaker、Walkersville、MD)を使用して37℃およびCO2 5%-空気95%で培養した。線維芽細胞基本培地には、2%ウシ胎仔血清、ヒト線維芽細胞成長因子B(1μg/ml)、インスリン(5mg/ml)、ゲンタマイシンおよびアンホテリシンBを補った。
【0036】
細胞増殖は、生細胞数を測定するMTS (3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)テトラゾリウムアッセイ(cell Titer96 Aqueous、プロメガ、マディソン、WI)で評価した。2×103〜2×104の細胞を2回洗浄し、100μl DMEMと様々な用量のRELMを含むマイクロタイタープレートウェルで3反復で平板培養した。同じ濃度の試薬を含み細胞を含まないコントロールウェルを平行して準備した。異なる細胞数を使った標準曲線を、ポジティブコントロールとして用いた。MTS (20μl)を各ウェルに加えた。MTSを加えてから2時間後に、マイクロプレート自動読取装置(Dynex Technologies、Billingshurst、英国)を使用してプレートを490nmで読み取った。結果は、RELMの各用量の3-ウェルセットの平均光学密度(OD)で表した。実験の全ては、少なくとも3回繰り返した。細胞の生存も、トリパンブルー染色によって試験した。
【0037】
in vitro細胞移動をモニターするために、1%ゼラチンでコーティングされた5ミクロン孔ポリカーボネートフィルターの24のトランスウェルユニット(コーニング社、コーニング、NY)を使用した。ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)(Life Technologies)、pH 7.2、中の3T3細胞(5×105)細胞/ウェルを上部チャンバに入れ、異なる濃度(10nMから500nM)のRELM-αまたはRELM-βのHBSS溶液を上下のチャンバに加えた。TGFβは、ポジティブコントロールとして下部チャンバに加えた。トランスウェルユニットは37℃、95%加湿空気、CO2 5%環境で2時間保った。2時間後に、トリプシン(0.05%で0.53nMのEDTAを含む、インビトロゲン社、NY)を上部チャンバに加えてチャンバ下の付着細胞を遊離させた。下部チャンバからの培地を次に250×gで遠心分離し、0.1mlのPBSで再懸濁し、下部チャンバ内の移動した細胞の数を定量した。各アッセイは2反復で設定し、少なくとも4回繰り返した。
【0038】
AlexaFluor488 (Molecular Probes、ユージン、OR)とRELMαとの結合は、メーカーのプロトコルで推奨されているように行った。手短に言えば、炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.2を使用し、AlexaFluor488とRELMαとを室温で1時間、暗所でインキュベートした。遊離のAlexaFluorをCoolum 1800カラム(Pierce、ロックフォード、IL)を通してゲル濾過により複合タンパク質から切り離した。比活性は、495nmにおける励起および519nmにおける放射を使い、AlexaFluorと結合したタンパク質の平均の蛍光読取値によって計算した。比活性は、0.726MF/μgであった。
【0039】
3T3細胞と結合したAlexaFluor結合RELM-αは、FACScan (Becton Dickinson、サンノゼ、CA)を使ってフローサイトメトリー解析で測定した。3T3細胞は、非標識のRELMαの存在下または非存在下で、異なる濃度のAlexaFluor488結合RELMα(50ng/mlから1000ng/ml)と共に氷の上で1時間インキュベートした。4℃下で細胞をPBSで3回、5分間洗浄した。AlexaFluor488結合ウシ血清アルブミン(BSA)との結合を、ネガティブコントロールとして使用した。
【0040】
3T3細胞と結合したAlexaFluor結合RELMαリガンドは、最大励起波長495nmおよび放射波長519nmでフルオロサイトメーターで測定した。3T3細胞は、異なる濃度のAlexaFluor488結合RELMα(1nMから160nM)と共に氷の上で1時間インキュベートした。細胞は、炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.3を使用し、4℃で3回、5分間洗浄した。遊離のタンパク質濃度を測定するために、細胞を含まない上清をプールした。細胞は炭酸水素ナトリウム緩衝液pH 8.3で再懸濁し、結合したタンパク質の濃度を蛍光で測定した。遊離のおよび結合したRELMαを計算するために、AlexaFluor488結合RELMαの標準曲線を作成した。
【0041】
メタコリンに対する気道の反応は、意識のある拘束されていないマウスでBuxco (Troy、NY)によって供給された装置およびソフトウェアを用いて気圧プレチスモグラフィにより評価した。このシステムは強化ポーズ(Penh)として知られる無次元パラメータを与え、初期および後期の呼気作用のタイミング比較と組み合わされたプレチスモグラフィチャンバからの圧力シグナルの波形における変化を反映するものであり、観察に基づいて気道機能をモニターするために用いることができる。
【0042】
生理食塩水またはRELMαまたはRELMβの7つの用量の1つで処理したマウスをチャンバに置き、ベースライン値を読み取って3分間の平均を求めた。次に、エアゾール化したメタコリン(3.125mg/mlから50mg/mlの溶液濃度)を入口からチャンバ内に2分間送った。各用量を投与した後に、読取値は3分間で平均した。コントロールとして、IL-13を10μg投与した後のメタコリンに対する気道抵抗も、同様のプロトコルに従って測定した。
【0043】
データ全ては、平均±標準偏差(SD)で表す。マウスの異なるセットを比較する統計的有意差は、スチューデントのt検定で決定した。
【0044】
生理食塩水およびアレルゲンでチャレンジしたマウスから得たRNAで、AffymetrixチップU74Av2を用いてマイクロアレイ分析を行った。このチップは、12,423の遺伝子要素に相当するオリゴヌクレオチドプローブセットを含み、特性の明らかなマウス遺伝子のコレクションとしては市販されている中では最大の1つである。アレルゲンでチャレンジしたマウス(OVAまたはAspergillus)をそれぞれの生理食塩水コントロール(各実験群n=3〜6マウス)と比較し、アレルゲンによるチャレンジの後に少なくとも2倍の統計学的に有意な増加(p<0.05)を示した遺伝子を特定した。
【0045】
生理食塩水でチャレンジしたマウスと比較して、OVAでチャレンジしたマウスは496の誘導された遺伝子を有し、Aspergillus fumigatusでチャレンジしたマウスは527の誘導された遺伝子を有した。誘導された転写産物の過半数(OVAの59%およびAspergillusの55%)は、2つの実験的喘息モデルの間で重複していた。
【0046】
図1を参照すると、定量的グローバルマイクロアレイ分析により、2つの異なるモデルの各々でアレルゲンにより誘導した喘息の期間中、コントロールマウスと比較してRELMβmRNAの有意に増加した発現が明らかになった。OVAでチャレンジしたマウスの肺におけるRELMβの発現は、985倍の増加を示した。Aspergillusでチャレンジしたマウスの肺におけるRELMβの発現は、600倍の増加を示した。
【0047】
図2を参照すると、ノーザンブロット分析では、OVAおよびAspergillusで誘導したモデルの両方においてチャレンジしたマウスの肺でRELMβの発現が誘導されることが確認された。肺RNAのノーザンブロットでは、Aspergillus (図2A)またはOVA(図2B)アレルゲンで誘導された野生型マウスにおけるRELMβmRNAが、生理食塩水チャレンジを投与した野生型コントロールマウスの肺と比較して上昇することが証明された。RNA標準(28Sおよび18S)が示されている。
【0048】
RELMβの誘導がこのファミリーメンバーに特異的であるかどうかを決定するために、同じノーザンブロットをRELMαおよびレジスチンcDNAプローブで厳密に調べた。マイクロアレイチップはRELMαおよびレジスチンをコードする配列を含んでいなかった。レジスチンではなくRELMαが、両方のアレルゲンによるチャレンジによって著しく誘導された(図2Aおよび2B、データは示さず)。OVAで誘導したRELMαおよびRELMβの発現は、実験的喘息の進行期間中は時間および用量依存性であった。図2Bは、RELM mRNAが最初のアレルゲンによるチャレンジの後に誘導され、2度のOVAアレルゲンによるチャレンジの後には更に強く誘導されたことを示す。
【0049】
1度および2度のOVAによるチャレンジの後の肺におけるRELM mRNA蓄積の誘導および低下を調べた。1度のOVAによるチャレンジの後では、RELMαおよびRELMβ両方のmRNAは6〜10時間でピークに達し、2週以内にベースラインに低下した。2度のアレルゲンによるチャレンジの後では、生理食塩水でチャレンジした肺と比較してRELM mRNAは非常に高いレベルで蓄積され、わずか2時間以内にはピーク値に近づき、96時間後でも高いレベルを維持したが、4週後にはベースラインに戻った(図2Cおよび2D)。
【0050】
RELM mRNA蓄積は、BALF内への白血球分画補充と相関していた。OVAによる両チャレンジの後は、RELM mRNAの発現ピークは、総BALF細胞レベルと相関した。しかし、RELM発現の持続は、10〜96時間の間に増加し、2週後にベースラインに戻ったマクロファージおよび好酸球の数とより強く相関した(データは示さず)。RELMαおよびRELMβは、類似した動態学的発現パターンを有していた。
【0051】
喘息は、Th-2関連のプロセスである。したがって、IL-4およびIL-13を薬剤として送達した場合のRELMの誘導に及ぼす影響を評価した。サイトカインIL-4またはIL-13を、麻酔をかけたマウスの気道に繰り返し投与した。このプロトコルは、好酸性の炎症、ケモカイン誘導、粘液産生およびAHRを含む実験的な喘息のいくつかの特徴を生む。
【0052】
両方のTH-2サイトカインの投与により、生理食塩水で処理したコントロールマウスと比較して著しいレベルのRELM mRNAが誘導される(図3Aおよび3B)。in vivoにおけるRELMの誘導におけるSTAT6の役割を試験するために、IL-4を野生型マウスおよびSTAT6欠失性のマウスに投与した。図3Aで示すように、IL-4で誘導したRELM発現は、主にSTAT6依存性であった。IL-13もSTAT6欠失性のマウスに投与した結果、図3Bで示すように、同じくRELM発現は主にSTAT6依存性であった。
【0053】
アレルゲンで誘導したRELM mRNAの発現がSTAT6依存性であるならば、アレルゲンで誘導したRELMが主にIL-4/IL-13シグナル伝達の下流にあるかどうか決定する際に役立つであろう。図3Cで示すように、STAT6欠失マウスは、OVAでチャレンジした野生型マウスと比較して、OVAによるチャレンジ後にRELMの発現を示さなかった。同様に、Aspergillusで誘導したRELMは、主にSTAT6依存性であった(図3D)。
【0054】
アレルゲンで誘導したRELMの発現におけるIL-4およびIL-13の役割を更に検討するために、遺伝的にIL-13が欠失したまたはIL-4およびIL-13が欠失したマウスにおいてOVAおよびAspergillusで誘導した実験的な喘息を評価した。IL-13遺伝子を標的としたマウスでは、RELM mRNAの誘導はほとんど検出不可能であった(図3Eおよび3F)。IL-4およびIL-13が欠失したマウスは、AspergillusおよびOVAで誘導されるRELM mRNA蓄積に対して完全に抵抗性であった。IL-4およびIL-13によるSTAT6シグナル伝達の活性化は通常IL-4Rα鎖によって媒介されるので、機能的IL-4Rαが欠失したOVAでチャレンジしたマウスにおけるRELM誘導を検討した。図3Gで示すように、RELM誘導は、野生型マウスと比較してIL-4Rαが欠失したマウスでかなり弱まった。
【0055】
図3Hは、野生型マウスまたはIL-5が欠失したマウスでAspergillus fumigatusでチャレンジしたマウスの肺からのノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを示す。IL-5は、アレルギー性炎症反応で増加する細胞である好酸球の強い誘導物質である。図3Hで示すように、野生型マウスおよびIL-5欠失(ノックアウト)マウスの両方は、類似した量のRELMβmRNAを発現した。
【0056】
全体で、これらのデータはRELMαおよびRELMβがTh-2関連のサイトカインであることを証明した。特に、RELMαおよびRELMβはIL-4およびIL-13によって誘導され、アレルギーによるRELMの誘導は主にIL-13によって予測された。
【0057】
肺におけるRELM類の過剰発現が少なくとも一部の喘息様表現型を誘導するかどうか判断するために、組換えマウスのRELMαおよびRELMβを気管内送達を通して投与し、BALF内の細胞レベルに対する影響を検討した。RELMα(10μg)を繰り返し投与し、各投与の18時間後にBALF細胞の定量分析を実施した。図4Aで示すように、RELMαはBALF細胞総数の大幅な増加を誘導した。ディファレンシャルな解析により、マクロファージおよびリンパ球が主に影響を受ける細胞型であることが分かった。RELMαによる気管内投与を7回行った後、マクロファージ総数と同様に総細胞数も約6倍増加した(図4B)。コントロールの熱処理された(15分)RELMαタンパク質は完全に不活性化され(データは示さない)、RELM活性のためには正しいタンパク質のフォールディングが必要なことを示している。コントロール生理食塩水(図4C)、RELMα(図4D)およびRELMβ(図4E)で処理した後の肺の代表的組織学的切片は、血管周囲および気管支周囲の炎症性細胞浸潤の存在を明らかに示していた。
【0058】
RELMの気管内投与の後、肺組織の検査により明らかな上皮化生が発見され、これは杯状細胞分化を示唆している(図5Aおよび5B)。粘液産生のために肺切片をPeriodic Acid Schiff (PAS)で染色した結果、RELMαまたはRELMβによる投与の後、生理食塩水による投与と比較して粘液PASポジティブ(PAS+)細胞が大きく増加することが明らかにされた(図5C)。PAS+細胞の定量分析により、RELMαおよびRELMβの投与後、大気道上皮性細胞において杯状細胞がそれぞれ25.6±8.7%および9.4±6.9%(平均±S.D.、n=3)であることが明らかになった。生理食塩水で処理されたマウスにおいて、杯状細胞はPAS組織染色によって検出されなかった。
【0059】
RELM投与後の肺組織検査により、有糸分裂が活発な細胞集団が多いことが明らかになった(図6A-C)。RELM類によって誘導されるin situ細胞増殖を検討するために、マウスにRELM類を7回気管内投与し、その後BrdUを投与してから3時間後に屠殺して肺へのBrdUの取り込みを分析した。
【0060】
分析の結果、RELMα(図6B)またはRELMβ(図6C)の投与後に、生理食塩水で処理したマウス(図6A)と比較してBrdUポジティブ(BrdU+)細胞が大幅に増加したことが明らかになった。BrdU+細胞の定量分析により、1mm2あたりの細胞数が生理食塩水、RELMαおよびRELMβ投与後にそれぞれ2.6±2.4、29.22±7および24±7.9(平均±S.D.、n=3)であることが分かった(図6D)。上皮細胞および炎症細胞を含む複数の細胞型が誘導されて、BrdUを取り込んだ。
【0061】
RELM投与後の肺組織検査により、明らかに厚みのある網様基底膜が見られ、これはコラーゲン沈着を示唆するものである(図7A-7D)。RELM類を7回気管内投与したマウスから採取されコラーゲンのためにトリクローム染色で染色した肺切片からは、トリクロームポジティブ物質からなる気道網様基底膜の明らかな肥厚が確認された(図7A-7D)。気管支近くのトリクロームポジティブの層の定量分析により、生理食塩水、RELMαおよびRELMβによる投与後に、厚みがそれぞれ355±50、1322±429、および8807±1126area/mm2であることが分かった(図7E)。また、血管を囲むトリクロームポジティブの層の定量分析により、生理食塩水、RELMαおよびRELMβによる投与後に、厚みがそれぞれ462±114、17063±2936、および11233±1939area/mm2(平均±S.D.、n=4)に増加していることが分かった(図7E)。コントロールとして、RELMαを投与前に沸騰させたとき、コラーゲン沈着を誘導するその能力は失われた(図6E)。
【0062】
RELMで処理されたマウスの肺におけるコラーゲン沈着は、線維芽細胞に及ぼす組換えRELM類の直接効果のin vitro検査を促した。RELM処理が線維芽細胞増殖を誘導するかどうかを判定するために、マウスの3T3線維芽細胞を全範囲の用量のRELMαおよびRELMβに24〜72時間さらしてその増殖反応を測定した。コントロール処理は増殖を誘導したものの、この露出により3T3細胞の増殖を誘導することはできなかった(データは示さず)。
【0063】
RELM類が肺で線維芽細胞の蓄積の少なくとも一部を誘導することによってコラーゲン沈着を媒介するかどうか決定するために、in vitroで3T3線維芽細胞の化学誘引を誘導するRELMの能力を分析した。RELMαおよびRELMβの両方は、トランスウェルメンブランを通過する、用量依存的な3T3細胞の運動を誘導した。活性は10nmと低い用量でも見られ、プラトーは約100nMから約500nMの間で見られた。ポジティブコントロールとして、公知の線維芽細胞遊走促進因子であるTGFβ(40mM)への露出は、線維芽細胞の運動を8倍増加させた(データは示さず)。TGFβおよびRELMαまたはRELMβの両方の最適以下の濃度の投与により、これらのサイトカインは相加効果を有することが明らかになった(図8B)。
【0064】
RELMが走化性または化学的運動性メカニズムによって3T3運動をin vitroで促進するかどうかを判定するために、in vitroアッセイで異なる濃度のRELMをメンブランの上下に加えた。このチェッカーボード分析では、RELM濃度勾配の変化は細胞運動に影響を及ぼさないことが明らかになった(データは示されない)。このように、RELMは線維芽細胞の走化性よりむしろ化学運動性を誘発した。
【0065】
マウスの系で線維芽細胞の運動を誘導するRELMの能力がヒトの系に適用できるかどうか判定するために、ヒト一次肺線維芽細胞に対するヒト組換えRELMαおよびRELMβの走化活性を検討した。図8Cで示すように、ヒトRELMは、ヒト肺線維芽細胞に対してマウスの系の場合と同様の活性を示した。
【0066】
データは、RELMが線維芽細胞に対して強力な活性を有するサイトカインであることを示唆した;したがって本発明者らは線維芽細胞が特異的なRELM受容体を発現するかどうかを判定した。現在まで特定されたRELM受容体は知られていない。
【0067】
組換えマウスのRELMαをAlexaFluor488プローブで標識し、3T3線維芽細胞への結合を、FACSを使って測定した。図9Aで示すように、RELMαは3T3線維芽細胞との飽和性結合を示した。活性は50ng/mlから1000ng/mlの間で認められ、1000ng/mlより上の濃度でプラトーに到達した(図9A〜9C)。非標識のRELMαの付加により、標識RELMαの結合を完全に取り除いた(図9D)。同様に、非標識のRELMβを付加すると、標識RELMαの結合は減少した(図9E)。RELMαおよびRELMβは互いの結合を妨げ、それらが同じ受容体を共有することが示された。最後に、スキャッチャード分析により、RELMα受容体は19.9±1.2nMのKdを有することが明らかにされた。3T3細胞は、RELMαまたはRELMに対して複数の結合部位を有する(図9F)。ヒト肺線維芽細胞への標識組換えヒトRELMαの結合も検討された。図9Gで示すようなヒトRELMとのヒト肺線維芽細胞の結合特性は、図9Cで示すようにマウスの系と類似している。
【0068】
AHRを誘導するRELMの能力を、アレルギー性気道疾患の特質の一部を誘導するRELMの能力の観点から評価した。ナイーヴな動物にRELMα、RELMβまたはコントロール生理食塩水を日替わりで7回投与した。霧状のメタコリンの全量に対する反応を、RELMまたは生理食塩水の最後の投与から24時間後に測定した。RELMで処理されたマウスは、Penhの変化で測定されたようにAHRを起こさなかった(データは示さず)。コントロールとして、組換えIL-13の5回投与で処理したマウスのメタコリン反応は2倍増を示した(データは示さず)。
【0069】
特定の実験的な投薬計画に特異的でない遺伝子が分析され、したがって喘息の2つの独立したモデルが使われた。これらの2つの独立したモデルで重複した、アレルゲンで誘導した遺伝子は、大局的転写産物プロファイル解析を使って分析した。しかし、両方の喘息モデルは類似した表現型、例えばTh2関連の好酸性炎症、粘液産生および気道過敏(AHR)を有する。
【0070】
1つのモデルでは、マウスを14日間隔で2回、アジュバントのミョウバンの存在下でアレルゲンのOVAで腹膜内に感作させた。その後、マウスを鼻腔内OVAまたはコントロール生理食塩水により3日間隔で2回チャレンジした。最後のアレルゲンチャレンジから18時間後に、肺をRNA分析のために取り出した。他のモデルにおいて、遍在する一般的なエアロアレルゲンであるAspergillus fumigatus抗原により実験的な喘息を誘導した。このモデルは、OVAモデルと比較して独特の粘膜感作経路(鼻腔内)を含んでいた。肺RNAは、9度の鼻腔内Aspergillus fumigatusアレルゲンの投与または生理食塩水によるチャレンジから18時間後に得た。
【0071】
RELM-βをコードしているメッセンジャーRNA (mRNA)は、生理食塩水コントロールを投与したマウスの肺からは検出されなかった。RELM-βをコードしているメッセンジャーRNAは、OVAおよびAspergillus fumigatus抗原で誘導した実験的な喘息の発生後に著しく増加した。OVAでチャレンジしたマウスの肺におけるRELM-βの発現は、時間および用量依存性であった。RELM-βの発現は、IL-4肺トランスジェニックマウスおよびIL-13を気管内投与したマウスの肺でも誘導された。
【0072】
その上、転写因子STAT6はRELM-βの発現に影響を及ぼした。STATS欠失マウスは、OVAアレルゲンまたはAspergillus fumigatusアレルゲンでチャレンジするか、あるいはIL-4またはIL-13を投与した。誘導されたRELM-β発現は、この転写因子に依存性であることが証明された。対照的に、IL-5欠失マウスは、野生型マウスと比較して通常のRELM-β誘導を示した。
【0073】
喘息の発生病理に関係する複合メカニズムを理解するために、転写産物発現プロファイル解析を用いて一組の「喘息サイン」遺伝子を定めた。喘息関連の遺伝子としてのRELMβの発見は、この分子が喘息反応で潜在的に重要な特性を有することを示した。以前には、RELMβが喘息の発生病理と関係していると指摘されたことはなかった。
【0074】
疾患誘導の多様なアレルゲンおよび様式によって引き起こされたアレルギー性肺の炎症は、肺におけるRELMβの著しく、特異的な異所性発現と関係していた。このことは、RELMβが、インスリン抵抗性および肥満と関連する構造的に類縁のサイトカイン群であるレジスチンタンパク質ファミリーの構成メンバーであることを証明した先の研究と対照的である。
【0075】
Th2サイトカインIL-4およびIL-13は、肺でRELMβを誘導した。したがって、アレルゲンで誘導されたRELMβは、少なくともある程度はIL-4およびIL-13によって媒介された。IL-4およびIL-13は、類似したシグナル伝達メカニズム(例えば共通の受容体サブユニット(IL-4Rα鎖)の利用およびSTAT6の活性化)を共有する同族のサイトカインである。これらのサイトカインが両方とも喘息で役割を果たしていることは周知であったが、それらが喘息反応の様々な要素(例えばAHR、粘液産生および気道再構築)を誘導するメカニズムは部分的に理解されただけである。本発明は、IL-4/IL-13に関連した肺のアレルギー性反応の発生病理は、少なくともある程度はRELMβによって媒介されることを証明する。傷害に関連した上皮過形成症および上皮分化(例えば粘液細胞化生)も、肺でRELMβによって媒介される可能性がある。RELMβは、粘液産生も変更する可能性がある。
【0076】
RELMβは、アレルゲンとIL-4およびIL-13の両方によって、STAT6に依存したメカニズムによって誘導された。これらのデータは、実験的な喘息におけるIL-4およびIL-13の関与に関して異なる、また重複するメカニズムを示した研究と一致していた(Wills-Karp、M.、J. Allergy Clin. Immunol. 107:9〜18 (2001))。その上、OVAおよびAspergillusは両方とも実験的な喘息を誘導するが、Aspergillusはアジュバントとは独立してTh2反応を誘導することができた。このことは両アレルゲンが喘息の誘導に対して異なるメカニズムを採用することを示す。
【0077】
RELMβは分泌タンパク質であり、腫瘍の著しい増加を伴う胃腸管、特に大腸で発現されることが特定され、腸管の増殖における役割が示唆された。このことは、RELMβが傷害に対応した上皮の増殖の調節に関係している可能性を示唆した。喘息性の肺の特徴は、上皮の増殖の大幅な増加である。酸分泌の阻害および上皮増殖の刺激を通して粘膜治癒を促進する際に、RELMβの役割がある可能性がある。気道の酸性化および上皮の増殖を含む喘息の発生病理と関連するいくつかの特徴を調節する際に、アレルゲンで誘導したRELMβは役割を果たす可能性がある。
【0078】
診断手段としてRELMβを利用する可能性も、開示されている。RELMβの定性的および定量的な測定は、炎症プロセスのマーカーである。したがって、RELMβの測定は、特許の臨床上の状態、表現型、遺伝子型、薬物反応および/または予後、ならびに一塩基多型を評価するのに用いてもよい。例えば、生検部位から得られるであろう肺組織内のRELMβの増加量は、炎症プロセスおよび/または慢性修復プロセスを示す。RELMβの量は、例えば肺液、肺生検材料、痰、粘液、鼻の洗液および/または血液で調査することができる。検体を分析して、RELMβのDNA、mRNA、および/またはタンパク質を測定する。一例として、生検材料のサザン、ノーザンまたはウェスタンブロットを行い、プローブで処理してそれぞれDNA、RNAおよびタンパク質を測定してもよい。他の例として、組織を組織学的に、例えば適当に染色して顕微鏡で調査してもよい。このような方法は当業者には既知である。
【0079】
RELMβは、喘息性肺でアレルゲンによって誘導される遺伝子である。Th2サイトカインIL-4およびIL-13は、RELMβの発現を誘導した。IL-5は、RELMβの発現を誘導しなかった。誘導は、STAT6依存性メカニズムによって起こった。したがって、RELMβは喘息の発生病理と関係していた。
【0080】
喘息性肺におけるRELMβの関与には、インスリン抵抗性の調節にRELMβが関係していることを示すプロセスが含まれた。これには、脂肪細胞のような様々な成熟細胞型に発達することができる未熟線維芽細胞である間葉系細胞の分化の調節が含まれる。アレルギー性肺の反応は、肥満に関連したプロセスと病原のメカニズム、例えばインスリン抵抗性および糖尿を共有したが、これらはいくつかの肺の異常と関係している可能性がある。
【0081】
RELMβに影響を及ぼす組成物は、小分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤および/またはSTAT6の転写阻害剤またはTh2サイトカイン阻害剤でもよい。組成物中のこれらの阻害剤の濃度は、約0.01mg/kg体重から約100mg/kg体重の範囲の用量で調製することができる。組成物中の阻害剤の量は、製剤の種類によって変えることができる。組成物は、ヒトなどの哺乳類に予防的に、または特定の病態または疾患に応じて投与してもよい。例えば、この組成物は喘息の症状ならびに/またはアレルギー性鼻炎、喘息および/もしくは湿疹などのアレルギー症状の患者に投与してもよい。この組成物は、非全身的に、例えば吸入、エアゾール、点滴、その他により投与してもよく;また経腸または腸管外経路、例えばそれには限定されないが静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、固体または液体剤形(錠剤(チュアブル、溶解性、その他)、カプセル(ハードゲルまたはソフトゲル)、ピル、シロップ、エリキシル、乳剤、懸濁液、その他)の経口投与により全身的に投与してもよい。当業者に公知なように、この組成物は賦形剤、例えばそれには限定されないが薬剤として許容される緩衝液、乳化剤、界面活性剤、塩化ナトリウムのような電解質を含んでもよい;経腸剤は、チキソトロープ剤、着香料および官能特性を強化するための他の成分を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】マウスで実験的に喘息を誘導したときのRELMβの発現をマイクロアレイ分析によって示す図である。
【図2A】Aspergillusで誘導した場合のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2B】OVAで誘導した場合のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2C】1度のOVAチャレンジの後のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図2D】2度のOVAチャレンジの後のRELMαおよびRELMβの発現を求めるために、ノーザンブロットを行いエチジウムブロミド染色を行ったRNAゲルを表す図である。
【図3A】IL-4によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3B】IL-13によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3C】アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3D】アレルゲン(Aspergillus)によるRELMの誘導に対するSTAT6の依存を示しているノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3E】IL-13欠失マウスおよびIL-4/IL-13欠失マウスにおける、アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3F】IL-13欠失マウスおよびIL-4/IL-13欠失マウスにおける、アレルゲン(Aspergillus)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3G】IL-4Rα欠失マウスにおける、アレルゲン(OVA)によるRELMの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図3H】IL-5欠失マウスにおける、アレルゲン(Aspergillus)によるRELMβの誘導を求めるための、ノーザンブロットおよびエチジウムブロミド染色のRNAゲルを表す図である。
【図4A】気管支肺胞洗浄液へのRELMαの気管内投与の影響を表す図である。
【図4B】気管支肺胞洗浄液へのRELMαおよびRELMβの気管内投与の影響を表す図である。
【図4C】コントロール生理食塩水で処理した後の肺における組織学的切片である。
【図4D】RELMαで処理した後の肺における組織学的切片である。
【図4E】RELMβで処理した後の肺における組織学的切片である。
【図5A】コントロール生理食塩水を用いた場合の肺組織を表す図である。
【図5B】RELMαを用いた場合の肺組織を表す図である。
【図5C】RELMαおよびRELMβ投与後のPAS+細胞の定量分析を表す図である。
【図6A】in situ細胞増殖に対するコントロール生理食塩水の気管内投与の影響を表す図である。
【図6B】in situ細胞増殖に対するRELMαの気管内投与の影響を表す図である。
【図6C】in situ細胞増殖に対するRELMβの気管内投与の影響を表す図である。
【図6D】RELMαおよびRELMβ投与後のBrd+細胞の定量分析を表す図である。
【図7A】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7B】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7C】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7D】コラーゲン沈着に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図7E】RELMαおよびRELMβ投与後のトリクローム陽性の層の定量分析を表す図である。
【図8A】マウスの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図8B】マウスの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMとTGFβの気管内投与の影響を表す図である。
【図8C】ヒトの系における、線維芽細胞遊走促進活性に対するRELMの気管内投与の影響を表す図である。
【図9A】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9B】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9C】マウスの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【図9D】マウスの系における、非標識RELMαを付加した場合の、特異的な線維芽細胞受容体と結合した標識RELMαを表す図である。
【図9E】マウスの系における、非標識RELMβを付加した場合の、特異的な線維芽細胞受容体と結合した標識RELMβを表す図である。
【図9F】RELMαのスキャッチャード分析を表す図である。
【図9G】ヒトの系における、特異的な線維芽細胞受容体と結合したRELMを表す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のアレルギー反応を緩和するための方法であって、レジスチン様分子α(RELMα)、レジスチン様分子β(RELMβ)、RELMα受容体結合またはRELMβ受容体結合の少なくとも1つの阻害剤を含む組成物の薬剤として許容される製剤を、RELMαまたはRELMβを阻害しそれによりアレルギー反応を緩和するのに十分な量で前記患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記組成物を気道、肺、気管、呼吸器管または気管支肺胞空間のうちの少なくとも1つに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与が、静脈内、鼻腔内、気管内、皮下、筋内、経口、腹腔内およびその組み合わせからなる群から選択される経路による、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤がRELMαおよびRELMβのうちの少なくとも1つの発現を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤がIL-4およびIL-13のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が更にインスリン抵抗性または肥満の少なくとも1つを調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬剤として許容される製剤内に、RELMαをコードするDNA、RELMβをコードするDNA、RELMαをコードするmRNA、RELMβをコードするmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質の量の少なくとも1つを阻害するのに十分な、レジスチン様分子α(RELMα)の発現またはレジスチン様分子β(RELMβ)の発現のうちの少なくとも1つの阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
STAT6の阻害剤、Th2サイトカインの阻害剤またはその組み合わせを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
小分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤、転写阻害剤、翻訳阻害剤およびその組み合わせのうちの少なくとも1つから選択される阻害剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
喘息患者において気道、肺、気管、呼吸器管または気管支肺胞空間のうちの少なくとも1つに投与するための製剤に含まれた、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
臨床状態、表現型、遺伝子型、薬物反応、予後、一塩基多型およびその組み合わせからなる群から選択される患者のパラメータを評価するために、患者のレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つのレベルを測定することを含む、生理学的評価方法。
【請求項12】
RELMαまたはRELMβを肺液、肺生検、痰、粘液、鼻の洗液、気管支肺胞液、呼吸器官組織、呼吸器官液、血液およびその組み合わせのうちの少なくとも1つにおいて測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
RELMαDNA、RELMβDNA、RELMαmRNA、RELMβmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質のうちの少なくとも1つを測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つのレベルの増加が炎症プロセスを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つを定性的、定量的、または機能的に測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
薬剤として許容される組成物に含まれたレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つの阻害剤を患者の肺に供給し、それによって肺疾患を緩和することを含む、患者の肺疾患を緩和する方法。
【請求項17】
前記緩和が肺白血球蓄積、粘液産生、細胞増殖、コラーゲン沈着、マクロファージ蓄積および線維芽細胞蓄積の少なくとも1つを減らすことを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
気道、肺、気管、呼吸器官または気管支肺胞洗浄液でRELMαおよびRELMβのうちの少なくとも1つの発現を阻害することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が喘息である請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が肺線維症を有する請求項16に記載の方法。
【請求項21】
調節性化合物の医薬組成物を、RELMを抑制するのに十分な量で肺に投与する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、鼻腔内、気管内、エアゾール、吸入、皮下、筋内、経口、腹腔内およびその組み合わせからなる群から選択される経路で投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記調節がRELMの発現を低減させて肺疾患を緩和する、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
肺線維症、肺の炎症、喘息、肺欝血、肺瘢痕化および炎症細胞動員のうちの少なくとも1つが緩和される、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
炎症細胞動員の緩和が線維芽細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球および好酸球の少なくとも1つである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
アレルギーにより誘発された炎症肺組織の修復を増す方法であって、
レジスチン様分子α(RELMα)、レジスチン様分子β(RELMβ)、RELMα発現の調節剤、またはRELMβ発現の調節剤のうちの少なくとも1つを薬剤として許容される製剤内に含む組成物を、RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つの発現を抑制するのに十分な量で患者に投与し、
それにより炎症組織の修復を増すための酸分泌の減少、白血球蓄積の減少、粘液産生の減少、細胞増殖の減少、コラーゲン沈着の減少または線維芽細胞蓄積の減少のうちの少なくとも1つをもたらすことを含む方法。
【請求項27】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がTh2サイトカインである、請求項27に記載の方法。
【請求項28】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がIL-4またはIL-13のうちの少なくとも1つである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤が更にシグナル伝達因子および転写活性因子 (STAT6)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記調節剤がSTAT6の小分子アクチベータ、STAT6オリゴヌクレオチドまたはSTAT6転写アクチベータのうちの少なくとも1つである、請求項30に記載の方法。
【請求項31】
前記炎症組織が気道、肺、気管、気管支肺胞洗浄液、皮膚、眼、咽喉または鼻のうちの少なくとも1つである、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記患者がアレルギーまたは喘息である、請求項27に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺疾患を示す患者のパラメータを評価するために、患者の肺組織におけるレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つのレベルを測定することを含む生理学的評価方法であって、前記パラメータが臨床状態、表現型、遺伝子型、薬物反応、予後、一塩基多型およびその組み合わせからなる群から選択され、少なくとも1つのRELMαまたはRELMβの増加レベルが患者における肺の炎症プロセスまたは慢性的な修復プロセスを示す方法。
【請求項2】
RELMαまたはRELMβを肺液、肺生検、痰、粘液、鼻の洗液、気管支肺胞液、呼吸器官組織、呼吸器官液、血液およびその組み合わせのうちの少なくとも1つにおいて測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RELMαDNA、RELMβDNA、RELMαmRNA、RELMβmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質のうちの少なくとも1つを測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つを定性的、定量的、または機能的に測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
レジスチン様分子α(RELMα)の阻害剤、レジスチン様分子β(RELMβ)の阻害剤、RELMα発現の調節剤、またはRELMβ発現の調節剤のうちの少なくとも1つの、
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つの発現を抑制し、それにより炎症組織の修復を増すための酸分泌の減少、白血球蓄積の減少、粘液産生の減少、細胞増殖の減少、コラーゲン沈着の減少または線維芽細胞蓄積の減少のうちの少なくとも1つをもたらすことによってアレルギーにより誘発された炎症肺組織の修復を増す医薬を製造するための使用。
【請求項6】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がIL-4阻害剤またはIL-13阻害剤のうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤が更にシグナル伝達因子および転写活性因子 (STAT6)の阻害剤を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記炎症組織が気道、肺、気管、気管支肺胞洗浄液、皮膚、眼、咽喉または鼻のうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の使用。
【請求項1】
患者のアレルギー反応を緩和するための方法であって、レジスチン様分子α(RELMα)、レジスチン様分子β(RELMβ)、RELMα受容体結合またはRELMβ受容体結合の少なくとも1つの阻害剤を含む組成物の薬剤として許容される製剤を、RELMαまたはRELMβを阻害しそれによりアレルギー反応を緩和するのに十分な量で前記患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記組成物を気道、肺、気管、呼吸器管または気管支肺胞空間のうちの少なくとも1つに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
投与が、静脈内、鼻腔内、気管内、皮下、筋内、経口、腹腔内およびその組み合わせからなる群から選択される経路による、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤がRELMαおよびRELMβのうちの少なくとも1つの発現を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤がIL-4およびIL-13のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が更にインスリン抵抗性または肥満の少なくとも1つを調節する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬剤として許容される製剤内に、RELMαをコードするDNA、RELMβをコードするDNA、RELMαをコードするmRNA、RELMβをコードするmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質の量の少なくとも1つを阻害するのに十分な、レジスチン様分子α(RELMα)の発現またはレジスチン様分子β(RELMβ)の発現のうちの少なくとも1つの阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
STAT6の阻害剤、Th2サイトカインの阻害剤またはその組み合わせを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
小分子阻害剤、オリゴヌクレオチド阻害剤、転写阻害剤、翻訳阻害剤およびその組み合わせのうちの少なくとも1つから選択される阻害剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
喘息患者において気道、肺、気管、呼吸器管または気管支肺胞空間のうちの少なくとも1つに投与するための製剤に含まれた、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
臨床状態、表現型、遺伝子型、薬物反応、予後、一塩基多型およびその組み合わせからなる群から選択される患者のパラメータを評価するために、患者のレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つのレベルを測定することを含む、生理学的評価方法。
【請求項12】
RELMαまたはRELMβを肺液、肺生検、痰、粘液、鼻の洗液、気管支肺胞液、呼吸器官組織、呼吸器官液、血液およびその組み合わせのうちの少なくとも1つにおいて測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
RELMαDNA、RELMβDNA、RELMαmRNA、RELMβmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質のうちの少なくとも1つを測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つのレベルの増加が炎症プロセスを示す、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つを定性的、定量的、または機能的に測定する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
薬剤として許容される組成物に含まれたレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つの阻害剤を患者の肺に供給し、それによって肺疾患を緩和することを含む、患者の肺疾患を緩和する方法。
【請求項17】
前記緩和が肺白血球蓄積、粘液産生、細胞増殖、コラーゲン沈着、マクロファージ蓄積および線維芽細胞蓄積の少なくとも1つを減らすことを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
気道、肺、気管、呼吸器官または気管支肺胞洗浄液でRELMαおよびRELMβのうちの少なくとも1つの発現を阻害することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が喘息である請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が肺線維症を有する請求項16に記載の方法。
【請求項21】
調節性化合物の医薬組成物を、RELMを抑制するのに十分な量で肺に投与する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、鼻腔内、気管内、エアゾール、吸入、皮下、筋内、経口、腹腔内およびその組み合わせからなる群から選択される経路で投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記調節がRELMの発現を低減させて肺疾患を緩和する、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
肺線維症、肺の炎症、喘息、肺欝血、肺瘢痕化および炎症細胞動員のうちの少なくとも1つが緩和される、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
炎症細胞動員の緩和が線維芽細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球および好酸球の少なくとも1つである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
アレルギーにより誘発された炎症肺組織の修復を増す方法であって、
レジスチン様分子α(RELMα)、レジスチン様分子β(RELMβ)、RELMα発現の調節剤、またはRELMβ発現の調節剤のうちの少なくとも1つを薬剤として許容される製剤内に含む組成物を、RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つの発現を抑制するのに十分な量で患者に投与し、
それにより炎症組織の修復を増すための酸分泌の減少、白血球蓄積の減少、粘液産生の減少、細胞増殖の減少、コラーゲン沈着の減少または線維芽細胞蓄積の減少のうちの少なくとも1つをもたらすことを含む方法。
【請求項27】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がTh2サイトカインである、請求項27に記載の方法。
【請求項28】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がIL-4またはIL-13のうちの少なくとも1つである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤が更にシグナル伝達因子および転写活性因子 (STAT6)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記調節剤がSTAT6の小分子アクチベータ、STAT6オリゴヌクレオチドまたはSTAT6転写アクチベータのうちの少なくとも1つである、請求項30に記載の方法。
【請求項31】
前記炎症組織が気道、肺、気管、気管支肺胞洗浄液、皮膚、眼、咽喉または鼻のうちの少なくとも1つである、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記患者がアレルギーまたは喘息である、請求項27に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺疾患を示す患者のパラメータを評価するために、患者の肺組織におけるレジスチン様分子α(RELMα)またはレジスチン様分子β(RELMβ)のうちの少なくとも1つのレベルを測定することを含む生理学的評価方法であって、前記パラメータが臨床状態、表現型、遺伝子型、薬物反応、予後、一塩基多型およびその組み合わせからなる群から選択され、少なくとも1つのRELMαまたはRELMβの増加レベルが患者における肺の炎症プロセスまたは慢性的な修復プロセスを示す方法。
【請求項2】
RELMαまたはRELMβを肺液、肺生検、痰、粘液、鼻の洗液、気管支肺胞液、呼吸器官組織、呼吸器官液、血液およびその組み合わせのうちの少なくとも1つにおいて測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RELMαDNA、RELMβDNA、RELMαmRNA、RELMβmRNA、RELMαタンパク質またはRELMβタンパク質のうちの少なくとも1つを測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つを定性的、定量的、または機能的に測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
レジスチン様分子α(RELMα)の阻害剤、レジスチン様分子β(RELMβ)の阻害剤、RELMα発現の調節剤、またはRELMβ発現の調節剤のうちの少なくとも1つの、
RELMαまたはRELMβのうちの少なくとも1つの発現を抑制し、それにより炎症組織の修復を増すための酸分泌の減少、白血球蓄積の減少、粘液産生の減少、細胞増殖の減少、コラーゲン沈着の減少または線維芽細胞蓄積の減少のうちの少なくとも1つをもたらすことによってアレルギーにより誘発された炎症肺組織の修復を増す医薬を製造するための使用。
【請求項6】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤がIL-4阻害剤またはIL-13阻害剤のうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記RELMαまたはRELMβ発現の調節剤が更にシグナル伝達因子および転写活性因子 (STAT6)の阻害剤を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記炎症組織が気道、肺、気管、気管支肺胞洗浄液、皮膚、眼、咽喉または鼻のうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の使用。
【図1】
【図2A】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5C】
【図6D】
【図7E】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9D】
【図9F】
【図2A】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5C】
【図6D】
【図7E】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9D】
【図9F】
【公表番号】特表2006−517962(P2006−517962A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502860(P2006−502860)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001139
【国際公開番号】WO2004/067026
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001139
【国際公開番号】WO2004/067026
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】
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