説明

アンテナシステム

【課題】アンテナ素子群に供給される信号の振幅及び位相の制御が容易で、かつ移動局毎にチルト角度を設定可能なアンテナシステムを提供する。
【解決手段】アンテナシステムは、移動局に送信される信号をビームとして放射する、アレイ状に配列された第1のアンテナ素子群および第2のアンテナ素子群が垂直面内に配列されたアンテナと、第1のアンテナ素子群に供給される第1信号と第2のアンテナ素子群に供給される第2信号の制御ウェイトを、第1のアンテナ素子群および第2のアンテナ素子群から放射される合成ビームが予め定められたチルト角度となるように制御するプリコーディング機能部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の移動局と通信する基地局等に設けられるアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
セルラ移動通信は中心に基地局を設置した複数のセルでサービスエリアを構成し、同一周波数を繰り返し再利用することで周波数の有効利用を図っている。一層の周波数の有効利用を図るためには同一周波数干渉を低減する必要がある。基地局に設けられたアンテナの垂直面内指向性を制御して、他セルへの同一周波数干渉を低減する技術として、図1に示すように基地局アンテナのビームチルト角を機械的または電気的に制御するビームチルティング技術が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。
【0003】
基地局は、送受信機、増幅器(AMP)、基地局アンテナで構成される。機械的ビームチルティングは基地局アンテナを図1Aに示すように傾斜させてビーム方向を制御するものである。一方、電気的ビームチルティングは図1Bに示すように複数の素子を垂直面内に並べて構成するアレーアンテナの各素子の位相を制御することでビーム方向を制御するものである(各素子の位相を制御する装置をチルト角制御ボックスと呼ぶことにする)。
【0004】
図1A,1Bに示すようにどちらの構成も、基地局アンテナ毎に一つの固定的なビームチルト角(固定チルト角)が設定される。この技術は、給電線(フィーダ)及び増幅器(AMP)、基地局アンテナが一つですむことからその構成は簡易である。しかし、この構成では、移動局毎に最適なビームは異なるが、一つのビームしか設定できない。よって、図1Cに示すようにエリア内の様々な場所に存在する移動局毎に最適なビームチルト角を設定することはできない。そこで、セル端の受信電力を向上させるように、例えばセル端にビームが向くように設定されることが一般に行われている。
【0005】
一方、移動局毎にビームチルティングを最適化できる技術の一つとして、図2Aに示す垂直面内アダプティブアレイアンテナ技術がある。アダプティブアレイアンテナは図2Aに示すように複数のアンテナ素子で構成され、各素子は送受信機へ接続される。各素子の振幅と位相を制御することにより様々なビームを形成することができる(各素子の振幅と位相を制御する機能をビーム形成信号処理機能と呼ぶことにする)。この構成では、図2Bに示すように移動局毎に最適なビームチルト角を設定することができる。しかしながら、素子数に応じた給電線(フィーダ)と増幅器(AMP)が必要となる。更に、移動局毎の位置に応じたビーム形成信号処理機能が必要であり、装置構成は非常に複雑である。
特許文献1 特開2001−257527号公報
特許文献2 特開2008−11104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移動局毎に最適なビームチルト角を設定できるアダプティブアレイアンテナは、基地局アンテナを構成するアンテナ素子毎に給電線(フィーダ)および増幅器が必要であり、また移動局毎に最適なビームを形成するためのビーム形成信号処理機能が必要となることからその構成は複雑である。
【0007】
そこで、システム構成が容易で、かつ移動局毎にチルト角度を設定可能なアンテナシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアンテナシステムは、図3Aに示すように第1のアンテナ素子群および第2のアンテナ素子群で構成されるアレイアンテナ100、給電線(フィーダ)101,103、増幅器130,132、プリコーディング機能部110で構成される。
【0009】
アンテナ素子群は、図3Bに示すように複数個(N個)のアンテナ素子を垂直面内に一定間隔ごとに設置して構成するアレイアンテナ構成において、連続するN1個で構成される第1のアンテナ素子群104、N2(=N-N1)個の素子で構成される第2のアンテナ素子群106に群分けを行い、各群の素子をそれぞれ所定のビーム形状(第1のアンテナ素子群で構成される固定ビーム105と第2のアンテナ素子群で構成される固定ビーム107)となるように振幅および位相を調整して合成する。
【0010】
プリコーディング機能は、第1のアンテナ素子群で構成される固定ビーム105と第2のアンテナ素子群で構成される固定ビーム107を合成したビームが予め定められたビームとなるように、第1及び第2のアンテナ素子群の振幅と位相を制御するビーム形成信号処理機能であり、図3Cに示すようにベースバンドで送信信号の振幅と位相を制御する。今、送信信号のベースバンド信号をs(t)とすると、第1及び第2のアンテナ素子群の振幅と位相を制御するための制御ウェイトをw1、w2とすると、プリコーディングされた第1信号はw1・s(t)となり、第2信号はw2・ s(t)となる。制御ウェイト(w1、w2)を適宜設定することにより図3Dに示すように様々なビーム109を形成(合成)することができる。
【0011】
上記のアンテナシステムの第1の態様では、プリコーディング機能は、第1移動局用の第1信号と第2信号の制御ウェイトを、合成ビームが予め定められた第1チルト角度となるように制御するとともに、第2移動局用の第1信号と第2信号の制御ウェイトを、合成ビームが予め定められた第2チルト角度となるように制御してもよい。
【0012】
上記のアンテナシステムの1つの態様では、第1信号と第2信号の制御ウェイトと、アンテナシステムと移動局の間の距離との対応関係を保持する対応関係保持部と、アンテナシステムと第1移動局または第2移動局との間の距離を取得する距離推定部と、をさらに備え、第1移動局用または第2移動局用の第1信号と第2信号の制御ウェイトを、距離推定部により取得された第1移動局または第2移動局の距離に対応する制御ウェイトに制御してもよい。
【0013】
上記のアンテナシステムの1つの態様では、距離推定部は、アンテナシステムと移動局との間の信号の往復伝搬時間に基づいて特定された距離を取得してもよい。
【0014】
上記のアンテナシステムの1つの態様では、図4Aに示すように第1のアンテナ素子群104及び第2のアンテナ素子群106から放射されるビームを予め定められた初期チルト角度だけ傾けるべく、各アンテナ素子の振幅及び位相を前記初期チルト角度に対応するように調整してもよい。
【0015】
上記のアンテナシステムの1つの態様では、図4Bに示すように初期チルト角度だけ傾けるべく、予め定められた角度だけ機械的に傾斜させて固定してもよい。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各アンテナ素子に供給される信号の振幅及び位相の制御が容易で、かつ移動局毎にチルト角度を設定可能なアンテナシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】機械的ビームチルティングの構成例を示す図である。
【図1B】電気的ビームチルティングの構成例を示す図である。
【図1C】従来の基地局アンテナのビームチルティング技術について説明するための図である。
【図2A】従来の基地局アンテナのビームチルティング技術について説明するための図である。
【図2B】従来の基地局アンテナのビームチルティング技術について説明するための図である。
【図3A】本実施形態に係るアンテナシステムの構成例を示す図である。
【図3B】本実施形態に係るアンテナの構成例を示す図である。
【図3C】本実施形態に係るプリコーディング機能部を示す図である。
【図3D】本実施形態に係るアンテナシステムにおいて形成可能なビームの一例を示す図である。
【図4A】本実施形態に係るアンテナシステムの1つの態様に係る構成例を示す図である。
【図4B】本実施形態に係るアンテナシステムの1つの態様に係る構成例を示す図である。
【図5】本実施形態に係るアンテナシステムの構成例を示す図である。
【図6】対応関係保持部に保持される制御ウェイトの組Pi(w1,w2) (i=0, 1, 2,―――)と基地局−移動局間距離との対応関係を示す対応関係情報の一例を示す。
【図7】制御ウェイトの組Pi(w1,w2)の特定及び制御する手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態に係るアンテナシステムのアンテナ垂直面内の指向性の一例を示す図である。
【図9】本実施形態に係るアンテナシステムの伝搬距離特性の一例を示す図である。
【図10】本実施形態に係るアンテナシステムの伝搬距離特性を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
セルラ移動通信では同一周波数を地理的に繰り返し再利用することで周波数利用効率を向上させている。この場合、同一周波数干渉が課題であり、それを低減できれば周波数利用効率を一層向上できる。同一周波数干渉を低減できる技術としては、基地局アンテナの水平面内指向性を制御する技術、あるいは基地局アンテナの垂直面内指向性を制御するアンテナビームチルティングの技術がある。本実施形態では、移動局ごとに基地局アンテナの垂直面内指向性を簡易に制御するためのプリコーディングを提案する。より具体的には、本実施形態では、給電線及び増幅器の数を極力少なくし、かつビーム形成するための特別な信号処理を不要として、移動局毎に最適な主ビームを含む合成ビームを形成可能なアンテナシステムを提供する。
【0021】
図5は、本実施形態に係るアンテナシステムの機能ブロックを示す。図5に示すアンテナシステムは、基地局アンテナ構成の一例を示す。アンテナシステムにおいて、垂直面内に16素子の半波長ダイポールアンテナが間隔dで配列される。本実施形態では、上部のアンテナ素子群104と下部のアンテナ素子群106をそれぞれ位相合成された一つのアンテナと見做して、異なる制御ウェイトのプリコーディングにより指向性を制御する。本実施形態では、プリコーディングの一例として、制御ウェイトの振幅を等振幅、上部のアンテナ素子群104と下部のアンテナ素子群106との位相差をθ1=0、θ2=2π/5、θ3=4π/5、θ4=9π/10の4通りとした場合について検討する。
【0022】
アンテナシステムは、例えば複数の移動局と無線通信を行う基地局に設けられる。アンテナシステムは、アレイアンテナ100を備える。アレイアンテナ100は、垂直面内に等間隔に配置された複数のアンテナ素子102を有する。複数のアンテナ素子102は、垂直面方向上下に、第1グループに属する第1のアンテナ素子群104と、第2グループに属する第2のアンテナ素子群106との2つのグループに分かれる。第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106は、それぞれ半波長ダイポールアンテナで構成されてもよい。また、第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106は、それぞれ8素子の半波長ダイポールアンテナで構成されてもよい。なお、本実施形態では、1つの半波長ダイポールアンテナが1つのアンテナ素子102を構成する例について説明するが、1つのアンテナ素子102が複数の半波長ダイポールアンテナにより構成されてもよい。
【0023】
第1増幅器130は、第1のアンテナ素子群104に供給される第1信号を予め定められた振幅に増幅させる。第2増幅器132は、第2のアンテナ素子群106に供給される第2信号を予め定められた振幅に増幅させる。なお、第1増幅器130および第2増幅器132の振幅の増幅率は同一でもよい。
【0024】
プリコーディング機能部110は、第1のアンテナ素子群104に供給される第1信号と第2のアンテナ素子群106に供給される第2信号の制御ウェイトを予め定められた値に制御する。
【0025】
制御ウェイト選択部120は最適な制御ウェイト(w1,w2)の組を移動局毎に特定し、プリコーディング機能部110に対して特定された制御ウェイトを乗算し、第1信号および第2信号を出力するように指示する。対応関係保持部122は、制御ウェイト選択部120が移動局毎に最適な制御ウェイトを特定するための判断基準として、最適制御ウェイト(w1,w2)と基地局-移動局間距離との対応関係を示す対応関係情報を保持する。距離推定部124は、基地局-移動局間距離rを取得する。距離推定部124は、例えば、基地局と移動局との間の信号の往復伝搬時間Tを推定し、それに基づいて距離rを推定する。または、アップリンクの信号到達時間をコントロールするタイムアライメント機能により往復伝搬時間Tを推定し、それによりに距離rを推定する(不図示)。基地局-移動局間距離rの算出は、往復伝搬時間Tに1/2および光速度(30万km/s)を乗算することにより算出することができる。また、距離推定部124は、例えばGPS機能を備える移動局から移動局の位置情報を取得して、その位置情報に基づいて基地局-移動局間距離rを取得してもよい。
【0026】
図6は、対応関係保持部122に保持される制御ウェイトの組Pi(w1,w2) (i=0, 1, 2,---)と基地局-移動局間距離との対応関係を示す対応関係情報の一例を示す。制御ウェイト選択部120は、例えば、距離rがr0〜r1の範囲に含まれる場合には、制御ウェイトの組P0(w1,w2)を選択する。なお、制御ウェイトの組Pi(w1,w2)と基地局-移動局間距離との最適な対応関係は、基地局のセル半径や基地局のアンテナ高さによって異なる。よって、セル半径および基地局の基地局アンテナ高さの組み合わせ毎に予め用意された複数の制御ウェイトの組Pi(w1,w2)と基地局-移動局間距離rとの対応関係の中から、基地局は自己のセル半径や基地局アンテナ高に応じた制御ウェイトPi(w1,w2)と基地局-移動局間距離rとの対応関係を選択し、選択された対応関係を対応関係保持部122に保持してもよい。
【0027】
図7は、移動局の電源がオンされた場合、または移動局がハンドオーバを行った場合など基地局が移動局と通信を開始する場合に制御ウェイトPi(w1,w2)の特定及び制御する手順を示すフローチャートである。
【0028】
まず、距離推定部124は、基地局が移動局と通信を開始する場合に、その移動局との間の距離rを取得し、制御ウェイト選択部 120に提供する(S100)。制御ウェイト選択部120は、対応関係保持部122を参照して、提供された基地局-移動局間距離rに対応する制御ウェイトPi(w1,w2)を特定する(S102)。例えば、距離rがr2〜r3の間に含まれる場合に、制御ウェイト選択部120は、その移動局に対する制御ウェイトP3(w1,w2)を特定する。制御ウェイト選択部120は、特定した制御ウェイトを信号に乗算するように指示する(S104)。
【0029】
本実施形態によれば、第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106にそれぞれ個別に信号が供給される。さらに、第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106からそれぞれ独立したビームが放射され、それぞれのビームから合成ビームが形成される。このように複数のアンテナ素子を備える第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106でそれぞれ独立したビームを形成し、それらを制御ウェイトで合成することによりアレイアンテナ100から放射される合成ビームの電界強度を増大させることができる。
【0030】
また、本実施形態に係るアンテナシステムは、第1のアンテナ素子群104に供給する第1信号と第2のアンテナ素子群106に供給する第2信号との制御ウェイトを予め複数保持している。アンテナシステムは、移動局と通信を開始する場合に、移動局との間の距離に基づいて移動局の現在位置に適したチルト角度の合成ビームが放射される制御ウェイトを選択し、選択された位相差に基づいて第1信号と第2信号との制御ウェイトを制御する。本実施形態によれば、移動局の距離に応じて予め定められた制御ウェイトの信号を第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106に供給することにより、移動局毎に最適なチルト角度の合成ビームで信号を送信することができる。
【0031】
さらに、本実施形態に係るアンテナシステムは、第1のアンテナ素子群104および第2のアンテナ素子群106のそれぞれに1つずつ増幅器を設ければよい。よって、いわゆるアダプティブアレイアンテナのように、アンテナ素子毎に増幅器を設ける必要がない。
【0032】
また、本実施形態に係るアンテナシステムによれば、アダプティブアレイアンテナのように、増幅器からアンテナ素子群までに至る給電線路もアンテナ素子毎に設ける必要がない。
【0033】
加えて、本実施形態に係るアンテナシステムは、移動局との間の距離rに基づいて予め定められた複数の制御ウエイトの中から1つの制御ウエイトを選択するだけでよいので、アダプティブアレイアンテナのように、移動局毎にチルト角度を制御するための複雑な制御を行う必要がない。
【0034】
図8は、制御ウェイトとして、振幅は等振幅とし、位相差をθ1=0、θ2=2π/5、θ3=4π/5、θ4=9π/10の4通りとした場合のアンテナ垂直面内の指向性の様子を示す図である。θ1=0の場合、アンテナ素子102のすべてが同位相となることから、チルト角度が0度方向のビームが最大利得となる。一方、θ3の場合、チルト角度が3度の方向のビームが最大利得となり、チルト角度が−1度でヌルとなる。このように、第1信号と第2信号との位相差が変化することで、最大利得が得られるビームの方向が変化する。よって、アンテナシステムは、移動局の位置に応じて制御ウェイト(ここでは位相差だけを考慮)を変化させることで、移動局毎に最適な受信電力が得られる信号を送信することができる。
【0035】
図9は、本実施形態に係るアンテナシステムの伝搬距離特性の一例を示す図である。ここで、アレイアンテナ100の基準点からの高さhbを50m、アンテナシステムを備える基地局からセル端までの距離Rを1.5km、アレイアンテナ100の初期チルト角度θtiltを2度とする。なお、初期チルト角度θtiltは、アレイアンテナ100の基準点からの高さhbとセル端までの距離Rとに基づく式、θtilt=tan−1(hb/R)から算出される。
【0036】
また、伝搬距離特性をAr−3.5とし、基地局から移動局までの距離をrとした場合、アンテナ指向性を考慮した受信電力特性は、E(r)=G(tan−1(hb/r−θtilt))×Ar−3.5で表すことができる。図5は、移動局がセル端に位置する場合、つまり、r=Rの場合の受信電力E(R)を1(=0dB)とした場合の相対受信電力の特性を示す。
【0037】
図9において、例えば、1.2km<r<1.5kmの範囲では、位相差θ1の場合の合成ビームが最も受信電力が高い。0.7km<r<1.2kmの範囲では、位相差θ2、r<0.7kmの範囲では、位相差θ3またはθ4の場合の合成ビームが最も受信電力が高い。さらに、位相差θ3またはθ4の場合の合成ビームは、隣接干渉セルのエリアにおいて受信電力が大幅に低下している。よって、位相差θ3またはθ4の場合の合成ビームは他セルへの電波干渉を抑制することができる。加えて、位相差θ3の場合の合成ビームは、2.2km<r<10kmの範囲で受信電力を大幅に低減できるので、2.2km<r<10kmの範囲における与干渉を抑制することができる。また、位相差θ4の場合の合成ビームは、1.5km<r<2.2kmの範囲で受信電力を大幅に低減できるので、1.5km<r<2.2kmの範囲における与干渉を抑制することができる。さらに言えば、基地局と移動局との距離rがr<0.7kmで、かつ当該基地局と隣接干渉セル内の他の移動局との間の距離r'が1.5km<r'<3kmの場合には、位相差θ4を選択することで、他セルへの電波干渉を大幅に抑制することができる。また、距離r'が3km<r'<4.5kmの場合には、位相差θ3を選択することで、他セルへの電波干渉を大幅に抑制することができる。
【0038】
図10は、本実施形態に係るアンテナシステムの伝搬距離特性を模式的に示す図である。
【0039】
例えば、制御ウェイトの振幅を等振幅とし、位相差がθ1〜θ4の場合のアンテナシステムの伝搬距離特性が図10に示すような特性を示す場合、移動局がd1の範囲に存在する場合には、位相差θ1の合成ビームが放射されることで、移動局の受信電力を最も高くすることができる。
【0040】
また、移動局がd2の範囲に存在する場合には、位相差θ2の合成ビームが放射されることで、移動局の受信電力を最も高くすることができる。さらに、位相差θ2の合成ビームが放射されることで、位相差θ1の合成ビームが放射される場合に比べて他セルのへ与干渉を低減することができる。
【0041】
また、移動局がd3の範囲に存在する場合には、位相差θ3の合成ビームが放射されることで、移動局の受信電力を最も高くすることができる。さらに、位相差θ3の合成ビームが放射されることで、位相差θ2の合成ビームが放射される場合に比べて他セルへの与干渉を低減することができる。
【0042】
加えて、移動局がd4の範囲に存在する場合には、位相差θ4の合成ビームが放射されることで、移動局の受信電力を最も高くすることができる。さらに、位相差θ4の合成ビームが放射されることで、位相差θ3の合成ビームが放射される場合に比べて他セルへの与干渉を低減することができる。
【0043】
以上の通り、本実施形態によれば、移動局の距離に応じた最適なチルト角度で放射される電波を利用して、移動局に通信させることができる。さらに、移動局の位置に応じて他セルへの与干渉が低減できるチルト角度で放射された電波を利用して、移動局に通信させることができる。よって、本実施形態によれば、各アンテナ素子に供給される信号の振幅及び位相の制御が容易で、かつ移動局毎に最適なチルト角度を設定可能なアンテナシステムを提供することができる。さらに言えば、本実施形態によれば、給電線及び増幅器の数を極力少なくし、かつビーム形成するための特別な信号処理を不要として、移動局毎に最適な主ビームを含む合成ビームを形成可能なアンテナシステムを提供することができる。つまり、本実施形態によれば、移動局ごとに基地局アンテナの垂直面内指向性を簡易に制御することが可能なプリコーディングを提案することで、干渉低減効果を明らかにした。
【0044】
ところで、一般に、電波強度が最も高いビームがセル端方向に放射されるように、予めアレイアンテナから放射されるビームの初期チルト角度が予め設定されている。この初期チルト角度の設定手法には、アレイアンテナを物理的に傾斜させる機械的手法がある。また、このチルト角度の設定手法には、アレイアンテナを構成する各アンテナ素子にそれぞれ供給される各信号の振幅及び位相を初期チルト角度に対応するように調整する電気的手法がある。
【0045】
そこで、本実施形態に係るアンテナシステムについても、電波強度が最も高いビームがセル端方向に放射されるように初期チルト角度が設定されてもよい。
【0046】
機械的手法により初期チルト角度が設定される場合には、まず、第1のアンテナ素子群104のそれぞれに供給される信号に位相差が生じず、かつ第2のアンテナ素子群106のそれぞれに供給される信号に位相差が生じないようにする。具体的には、第1増幅器130から第1のアンテナ素子群104のそれぞれに第1信号を供給する給電線路の長さ、および第2増幅器132から第2のアンテナ素子群106のそれぞれに第2信号を供給する給電線路の長さを同一の長さにしてもよい。なお、この場合、第1信号を第1のアンテナ素子群104のそれぞれに供給する給電線路群が第1給電線路部として機能し、第2信号を第2のアンテナ素子群106のそれぞれに供給する給電線路群が第2給電線路部として機能する。このように構成することで、第1信号と第2信号との位相差が0の場合に、アレイアンテナ100を構成するすべてのアンテナ素子102が同位相となる。この場合、アレイアンテナ100の垂直面に対して鉛直方向のビームが最も受信強度が高くなる。よって、例えば、アレイアンテナ100の基準点からの高さhbを50m、アンテナシステムを備える基地局からセル端までの距離Rを1.5kmとする場合には、アレイアンテナ100の仰角が2度となるようにアレイアンテナ100を設置すればよい。
【0047】
一方、電気的手法により初期チルト角度を設定する場合には、例えば、第1信号を第1のアンテナ素子群104のそれぞれに供給するそれぞれの給電線路104aの長さを異なる長さにすることで、第1信号を初期チルト角度に対応する位相ずつずらして第1のアンテナ素子群104のそれぞれに供給してもよい。この場合、それぞれの給電線路104aが第1給電線路部として機能する。また、第2信号を第2のアンテナ素子群のそれぞれに供給するそれぞれの給電線路106aの長さを異なる長さにすることで、初期チルト角度に対応する位相ずつずらして第2のアンテナ素子群106のそれぞれに供給してもよい。この場合、それぞれの給電線路106aが第2給電線路部として機能する。
【0048】
例えば、アレイアンテナ100の基準点からの高さhbを50m、基地局からセル端までの距離Rを1.5kmとする場合には、第1のアンテナ素子群104のそれぞれに供給される第1信号の位相が2度ずつずれるようにそれぞれの給電線路104aの長さを調整してもよい。同様に、第2のアンテナ素子群106のそれぞれに供給される第2信号の位相が2度ずつずれるようにそれぞれの給電線路106aの長さを調整してもよい。
【0049】
なお、上記では、給電線路104aおよび給電線路106aの長さを調整することで、アンテナ素子102のそれぞれに供給される信号の位相をずらす例について説明した。しかし、給電線路104aおよび給電線路106aに異なる電気特性を有する抵抗、コンデンサ、コイル等をそれぞれ設けることで、アンテナ素子102のそれぞれに供給される信号の位相をずらしてもよい。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0051】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0052】
100 アレイアンテナ
102 アンテナ素子
104 第1のアンテナ素子群
106 第2のアンテナ素子群
110 プリコーディング機能部
120 制御ウェイト選択部
122 対応関係保持部
124 距離推定部
130 第1増幅器
132 第2増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個(N個)のアンテナ素子を垂直面内に一定間隔ごとに設置して構成する基地局アレイアンテナにおいて、
当該N個のアンテナ素子を連続するN1個の素子で構成される第1のアンテナ素子群と、連続するN2(=N−N1)個の素子で構成される第2のアンテナ素子群との2つのグループに群分けを行い、
各グループの素子をそれぞれ所定のビーム形状となるように各素子の振幅及び位相を調整し、2つの独立した固定ビームを形成できる基地局アンテナであって、
2つの固定ビームの振幅及び位相を調整することにより複数のビームを形成するプリコーディング機能部を備え、
2つの固定ビームに入力する信号の振幅及び位相を制御する制御ウェイトを予め複数用意しておいて、
移動局毎にそれらの制御ウェイトの組の中から一つウェイトを選択して、移動局毎に制御ウェイトを設定することにより基地局アンテナの指向性を制御することを特徴とする基地局アンテナシステム。
【請求項2】
2つのビームの振幅及び位相を制御する制御ウェイトを、送信信号のベースバンド信号に乗算することにより実施する請求項1に記載の基地局アンテナシステム。
【請求項3】
前記プリコーディング機能部は、第1移動局用の制御ウェイトを合成ビームが予め定められた第1チルト角度となるように制御し、第2移動局用の制御ウェイトを前記合成ビームが予め定められた第2チルト角度となるように制御することを特徴とする請求項1、2に記載の基地局アンテナシステム。
【請求項4】
制御ウェイトと、基地局と移動局の間の距離との対応関係を保持する対応関係保持部と、
基地局と前記第1移動局または前記第2移動局との間の距離を取得する距離推定部と、
をさらに備え、
前記第1移動局用または前記第2移動局用の制御ウェイトを、前記距離推定部により取得された前記第1移動局または前記第2移動局の前記距離に対応する前記制御ウェイトに制御することを特徴とする、
請求項3に記載の基地局アンテナシステム。
【請求項5】
前記距離推定部は、基地局と前記移動局との間の信号の往復伝搬時間に基づいて特定された前記距離を取得することを特徴とする、
請求項4に記載の基地局アンテナシステム。
【請求項6】
前記第1のアンテナ素子群と前記第2のアンテナ素子群から放射されるビームを予め定められた初期チルト角度だけ傾けるべく、各アンテナ素子の振幅及び位相を前記初期チルト角度に対応するように調整できることを特徴とする、
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の基地局アンテナシステム。
【請求項7】
初期チルト角度だけ傾けるべく、予め定められた角度だけ機械的に傾斜させて固定することを特徴とする、
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の基地局アンテナシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−54793(P2012−54793A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196188(P2010−196188)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年3月2日付け社団法人 電子情報通信学会発行の「2010年電子情報通信学会総合大会プログラム」に掲載された「プリコーディングによるセルラー移動通信基地局アンテナ垂直面内指向性制御」にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省「異なる大きさのセルが混在する環境下における複数基地局間協調制御技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501440684)ソフトバンクモバイル株式会社 (654)
【Fターム(参考)】