説明

アンテナ実装プリント配線基板

【課題】周辺に存在するグラウンドの影響を受けにくく優れた指向性を実現するアンテナ素子を実装し、機器の小型化を促進するとともに、レイアウトの自由度を大幅に拡大することができるアンテナ実装プリント配線基板を提供する。
【解決手段】プリント配線基板50には、互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたチップ状のプリントアンテナ10が実装される。そして、プリント配線基板50には、斜線部で示すように、プリントアンテナ10の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うように、1又は複数の他のモジュールに必要とされるグラウンドが配置されて実装される。これにより、プリント配線基板50においては、放射電界が、ダイポールモードとはならず、破線で示すように、バルーン状に1方向に放出するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも通信機能を有する機器に搭載され、各種機能を実現するための各種モジュールが実装されたアンテナ実装プリント配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、例えば、携帯電話機等の移動体通信機やいわゆるIEEE(Institute of Electronic and Electronics Engineers)802.11規格の無線LAN(Local Area Network)といったように、各種無線通信技術の開発が著しく進められているが、これにともない、無線通信を行うために必然的に設けられる部材であるアンテナ素子に関する技術も各種開発されている。
【0003】
アンテナ素子としては、例えば円柱状の誘電体に放射電極や表面電極等を形成したものが知られている。この種のアンテナ素子は、機器本体の外部に設置されて用いられるのが一般的である。ただし、外部に配設して用いるタイプのアンテナ素子においては、機器の小型化の妨げとなること、高い機械的強度が要求されること、及び部品点数の増加を招来すること等が問題になる。
【0004】
そこで、これに替わるアンテナ素子として、機器本体の内部に設けられたプリント配線基板に表面実装し得るチップ状のアンテナ素子が提案されている。
【0005】
このチップ状のアンテナ素子としては、例えば放射電極としての導体を逆F字状に形成したいわゆる逆F型アンテナや導体をコイル状に形成したいわゆるヘリカルアンテナといったように、様々なものが提案されている。このようなチップ状のアンテナ素子においては、基材にセラミック等の高誘電率材料を用いて形成されるものが代表的である。しかしながら、この種のアンテナ素子においては、高誘電体材料自体が高価であることに加えて、その加工が煩雑であるという欠点があり、生産性の低下や製造コストの増大を招来するという問題がある。
【0006】
そこで、近年では、フォトエッチング技術の向上にともない、このような不都合を解消することを目的として、両面に銅箔を有するプリント配線基板を基材として用い、これにフォトエッチング技術を利用してアンテナ導体を形成したいわゆるプリントアンテナが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−347509号公報
【特許文献2】
特開2002−118411号公報
【0008】
特許文献1には、両面基板の上面側の銅箔を用いて少なくともループ状の導体部を含むアンテナ導体層を形成するとともに、下面側の銅箔を用いてアース導体層を形成し、さらに、両面基板における上下銅箔部間の絶縁材部を誘電体層として用いるプリントアンテナが開示されている。このプリントアンテナは、アース導体層側にこのアース導体層とは絶縁して銅箔で給電部を形成し、アンテナ導体層のループ状の導体部とアース導体層とを誘電体層を介して接地用導体で接続している。また、このプリントアンテナは、給電部から誘電体層を介して給電用導体をループ状の導体部内に臨ませ、給電用導体とループ状の導体部との間にアンテナ本体部のリアクタンスを打ち消して帯域幅を広帯域化するインダクタンス素子とキャパシタンス素子とからなる直列共振回路を設けている。特許文献1には、このようにプリントアンテナを構成することにより、リアクタンス補償法を用いて帯域幅を広帯域化することができ、製作後の総合的な組み合わせ調整を不要とし、さらに、アンテナ利得の低下を軽減することができる旨が記述されている。
【0009】
また、特許文献2には、プリント配線基板上に複数のスルーホールを互い違いに平行に形成し、これらのスルーホールの端部を全体が螺旋を描くように接続したヘリカルアンテナが開示されている。この特許文献2には、このようにヘリカルアンテナを構成することにより、小型の移動体通信機用のアンテナ素子を提供することができる旨が記述されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年では、移動体通信機をはじめ、無線通信を行う機器の開発にあたっては、小型化が重要視されている。ここで、アンテナ素子をプリント配線基板上に実装することを考える。
【0011】
アンテナ素子は、通常、例えばRF(Radio Frequency)モジュールといった機器本体の機能を実現するための1又は複数の他のモジュールが実装されたプリント配線基板上に、はんだ等を介して実装される。具体的には、アンテナ素子は、図15に横断面図を示すように、電源200に接続されるアンテナ導体210の端子210’が、同図中破線部で示すプリント配線基板220に直接的に溶着されることにより、プリント配線基板220上に実装される。
【0012】
ここで、アンテナ素子の特性は、次式(1)に示す共振周波数fによって表すことができる。なお、次式(1)において、Lは、インダクタンスを示し、Cは、キャパシタンスを示し、πは、円周率を示している。
【0013】
f=1/(2π(LC)1/2) ・・・(1)
【0014】
また、アンテナ素子においては、最大電圧を生じる端子210’がグラウンドの近傍に設けられた場合には浮遊容量C’が発生することから、共振周波数f’は、次式(2)に示すようになる。アンテナ素子においては、この浮遊容量C’に起因して共振周波数が変動し、これにともない、インピーダンスが変動することが知られている。
【0015】
f’=1/(2π(L(C+C’))1/2) ・・・(2)
【0016】
ここで、アンテナ素子においては、周辺に存在するグラウンドの影響を受けやすく、グラウンドの存在によって特性が変動するという問題がある。すなわち、無線通信を行う機器においては、例えば接地用の電極といったように、各種モジュールの一部としてプリント配線基板220上に実装された他の金属体230がアンテナ素子に近接して存在する場合には、結果として、端子210’と金属体230との間に所定のキャパシタンスが生じることになる。したがって、無線通信を行う機器においては、端子210’と金属体230との間の距離にバラツキが生じることによって共振周波数が変動し、期待されているアンテナ特性を得ることができず、恰も他の特性を有するアンテナ素子を実装しているかのように動作してしまう事態を招来していた。
【0017】
このような問題を回避するために、無線通信を行う機器においては、通常、アンテナ素子を実装する箇所の周辺領域にはグラウンド、すなわち、他の金属体を設けないようにプリント配線基板上のレイアウトを設計する必要があった。換言すれば、無線通信を行う機器においては、例えば図16に示すように、アンテナ素子250を実装するために、同図中斜線部で示す他のモジュールに必要とされるグラウンドが存在しない専用のランド260をプリント配線基板上270に設ける必要があり、アンテナ素子250自体も周辺にグラウンドが存在しないことを前提に設計されていた。このことは、機器の小型化を図る妨げとなるとともに、プリント配線基板上のレイアウトの自由度を極めて制限することを意味している。
【0018】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、周辺に存在するグラウンドの影響を受けにくく、むしろ積極的に周辺に存在するグラウンドを利用してマッチングをとり、優れた指向性を実現することができるアンテナ素子を実装し、機器の小型化を促進するとともに、レイアウトの自由度を大幅に拡大することができるアンテナ実装プリント配線基板を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成する本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、少なくとも通信機能を有する機器に搭載され、各種機能を実現するための各種モジュールが実装されたアンテナ実装プリント配線基板であって、互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたチップ状のアンテナ素子が実装され、上記アンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うように、1又は複数の他のモジュールに必要とされるグラウンドが配置されて実装されていることを特徴としている。
【0020】
このような本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子として、互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたものを実装することにより、開放端に比較的大きなキャパシタンスを生じさせることができる。そのため、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板においては、アンテナ素子における共振周波数の変動を無視できる程度に抑制することができることから、周辺に存在するグラウンドの影響に対する耐性を非常に強くすることができ、むしろ近傍にグラウンドを配置し、このグラウンドを利用してマッチングをとることが可能となる。そして、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板においては、このようなアンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置することにより、アンテナ素子の指向性を所定の方向に制御することができる。
【0021】
また、この本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板において、上記アンテナ素子は、所定の樹脂基板に3次元的な構造を呈する導体パターンが形成されて構成されていることを特徴としている。
【0022】
このような本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子の導体パターンを3次元的な構造とすることにより、誘電率が低い基板を用いてアンテナ素子を構成した場合であっても大型化することがなく、帯域幅の狭帯域化も回避することができる。また、アンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子の開放端にキャパシタンスが生じることに起因してインピーダンスが低下する問題も解消することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
この実施の形態は、例えば、携帯電話機等の移動体通信機やいわゆるIEEE(Institute of Electronic and Electronics Engineers)802.11規格の無線LAN(Local Area Network)といった、少なくとも通信機能を有する機器内部に搭載され、基材となる所定の樹脂基板にアンテナ導体をパターニング形成したいわゆるプリントアンテナと称されるチップ状のアンテナ素子が実装されたプリント配線基板である。このプリント配線基板は、機器本体の機能を実現するための1又は複数の他のモジュールがプリントアンテナとともに実装されたものであり、周辺に存在するグラウンドの影響を受けにくく、むしろ積極的に周辺に存在するグラウンドを利用してマッチングをとり、優れた指向性を実現するプリントアンテナを実装したものである。これにより、このプリント配線基板は、機器の小型化を促進するとともに、レイアウトの自由度を大幅に拡大することができるものである。
【0025】
まず、プリント配線基板の詳細についての説明に先だって、当該プリント配線基板上に実装されるプリントアンテナについて図1乃至図4を用いて説明する。なお、以下では、プリントアンテナとともに機器本体の機能を実現するための他のモジュールが実装されたプリント配線基板と、プリントアンテナの基材として用いられるプリント配線基板とを区別するために、プリントアンテナの基材として用いられるプリント配線基板については、単に基板と称して説明するものとする。
【0026】
プリントアンテナ10は、プリント配線基板の基材として一般に用いられるものであれば、その種類を問わずいずれを用いても構成することができる。具体的には、プリントアンテナ10は、米国電気製造業者協会(National Electrical Manufacturers Association;NEMA)による記号XXP,XPC等として規定されている紙フェノール基板、同記号FR−2として規定されている紙ポリエステル基板、同記号FR−3として規定されている紙エポキシ基板、同記号CEM−1として規定されているガラス紙コンポジットエポキシ基板、同記号CHE−3として規定されているガラス不織紙コンポジットエポキシ基板、同記号G−10として規定されているガラス布エポキシ基板、同記号FR−4として規定されているガラス布エポキシ基板といった両面に銅箔を有するいわゆるリジッド基板を用いて構成される。なお、これらのうち、吸湿性や寸法変化が少なく、自己消炎性を有するガラス布エポキシ基板(FR−4)が最も好適である。
【0027】
プリントアンテナ10は、図1に平面図を示すように、断面の大きさが例えば3mm×8.8mmの矩形状を呈する薄板状の基板をエッチングすることにより、放射電極としての複数のアンテナ導体11,12,13,14,15が基板の表面に露出形成されて構成される。具体的には、プリントアンテナ10においては、基板上に、略コ字状のアンテナ導体11と矩形状のアンテナ導体12,13,14,15とが形成される。また、プリントアンテナ10は、図2に底面図を示すように、放射電極としての複数の矩形状のアンテナ導体16,17,18,19,20,21,22が基板の裏面に露出形成されて構成される。このうち、アンテナ導体21は、給電用の電極として用いられ、アンテナ導体22は、接地用の電極として用いられる。
【0028】
さらに、プリントアンテナ10は、内部に銅箔が施された複数のスルーホール11,11,12,12,13,13,14,14,15,15が基板の表面から裏面にかけて貫通するように穿設される。具体的には、プリントアンテナ10においては、スルーホール11,12,12,14,14が、互いに略等間隔に一列に穿設されるとともに、スルーホール11,13,13,15,15が、互いに略等間隔に一列に穿設され、スルーホール11,12,12,14,14からなるスルーホール群と、スルーホール11,13,13,15,15からなるスルーホール群とが、互いに平行に配列される。
【0029】
そして、スルーホール11は、基板の表面側に設けられたアンテナ導体11における一の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体17における一の端部を終点として穿設され、スルーホール11は、アンテナ導体11における他の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体18における一の端部を終点として穿設される。また、スルーホール12は、基板の表面側に設けられたアンテナ導体12における一の端部を始点とするとともに、アンテナ導体17における他の端部を終点として穿設され、スルーホール12は、アンテナ導体12における他の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体19における一の端部を終点として穿設される。さらに、スルーホール13は、基板の表面側に設けられたアンテナ導体13における一の端部を始点とするとともに、アンテナ導体18における他の端部を終点として穿設され、スルーホール13は、アンテナ導体13における他の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体20における一の端部を終点として穿設される。さらにまた、スルーホール14は、基板の表面側に設けられたアンテナ導体14における一の端部を始点とするとともに、アンテナ導体19における他の端部を終点として穿設され、スルーホール14は、アンテナ導体14における他の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体21における一の端部を終点として穿設される。また、スルーホール15は、基板の表面側に設けられたアンテナ導体15における一の端部を始点とするとともに、アンテナ導体20における他の端部を終点として穿設され、スルーホール15は、アンテナ導体15における他の端部を始点とするとともに、裏面側に設けられたアンテナ導体22における一の端部を終点として穿設される。
【0030】
換言すれば、プリントアンテナ10においては、スルーホール11を介してアンテナ導体11,17が電気的に導通可能に接続され、スルーホール11を介してアンテナ導体11,18が電気的に導通可能に接続される。また、プリントアンテナ10においては、スルーホール12を介してアンテナ導体12,17が電気的に導通可能に接続され、スルーホール12を介してアンテナ導体12,19が電気的に導通可能に接続される。さらに、プリントアンテナ10においては、スルーホール13を介してアンテナ導体13,18が電気的に導通可能に接続され、スルーホール13を介してアンテナ導体13,20が電気的に導通可能に接続される。さらにまた、プリントアンテナ10においては、スルーホール14を介してアンテナ導体14,19が電気的に導通可能に接続され、スルーホール14を介してアンテナ導体14,21が電気的に導通可能に接続される。また、プリントアンテナ10においては、スルーホール15を介してアンテナ導体15,20が電気的に導通可能に接続され、スルーホール15を介してアンテナ導体15,22が電気的に導通可能に接続される。したがって、プリントアンテナ10においては、アンテナ導体11,12,13,14,15,17,18,19,20,21,22が、互いに電気的に導通可能に接続されて構成される。
【0031】
より具体的には、プリントアンテナ10は、図3に基板内部を示すように、複数のスルーホール11,11,12,12,13,13,14,14,15,15を介して蛇行状(櫛歯状)に接続された複数のアンテナ導体11,12,13,14,15,17,18,19,20,21,22を、アンテナ導体11を中心にして略コ字状に屈曲させたような一連の導体パターンを形成して構成される。
【0032】
一般に、誘電率が低い基板を用いてアンテナ素子を構成する場合には、利得を確保するために周辺に存在するグラウンドの影響を考慮して長い導体パターンを形成せざるを得ず、これにともない当該アンテナ素子が大型化してしまう。これに対して、プリントアンテナ10は、3次元的な構造を呈する導体パターンを形成することにより、周辺に存在するグラウンドの影響に耐え得る値までインピーダンスを大きくすることができる。したがって、プリントアンテナ10は、大幅な小型化及び薄型化を図ることができ、帯域幅の狭帯域化も回避することができる。
【0033】
このようなプリントアンテナ10は、アンテナ導体11,16が互いに離隔されて配置されることにより、開放端を形成する。具体的には、プリントアンテナ10は、図4に横断面図を示すように、アンテナ導体16が同図中破線部で示すプリント配線基板50にはんだ等を介して直接的に溶着される一方で、このアンテナ導体16と基板の厚さ分だけ高さ方向に空間的に離隔されてアンテナ導体11が設けられる。これにより、プリントアンテナ10においては、アンテナ導体11,16の間に比較的大きなキャパシタンスが生じる。
【0034】
ここで、プリントアンテナ10においては、アンテナ導体11,16によって形成される開放端に最大電圧を生じ、この開放端が、例えば接地用の電極といった各種モジュールの一部としてプリント配線基板50上に実装された他の金属体60の近傍に設けられた場合には浮遊容量が発生する。
【0035】
しかしながら、プリントアンテナ10は、アンテナ導体11,16を互いに離隔して積極的に大きなキャパシタンスを形成することにより、たとえアンテナ導体16と金属体60との間の距離にバラツキが生じた場合であっても、共振周波数の変動を無視できる程度に抑制することができる。したがって、プリントアンテナ10は、周辺に存在するグラウンドの影響に対する耐性を非常に強くすることができ、むしろ近傍にグラウンドを配置し、このグラウンドを利用してマッチングをとることが可能となる。
【0036】
なお、プリントアンテナ10においては、アンテナ導体11,16の間にキャパシタンスが生じることに起因してインピーダンスが低下するが、上述したように、3次元的な構造を呈する導体パターンを形成することにより、この問題を解消することができる。
【0037】
このようなプリントアンテナ10は、アンテナ導体16,17,18,19,20,21,22が露出形成された裏面側をはんだ等によってプリント配線基板に溶着することにより、当該プリント配線基板上に実装される。
【0038】
さて、以下では、このようなプリントアンテナ10が実装されたプリント配線基板50について説明する。
【0039】
プリント配線基板50においては、上述したように、プリントアンテナ10が、周辺に存在するグラウンドの影響に対する耐性が強く、むしろグラウンドを利用してマッチングをとるものである。そのため、プリント配線基板50においては、例えば図5に示すように、同図中斜線部で示す他のモジュールに必要とされるグラウンドの近傍に、プリントアンテナ10が実装される。
【0040】
ここで、従来のプリントアンテナを含むアンテナ素子がプリント配線基板上に実装される場合について考える。例えば図6に示すように、従来のアンテナ素子100は、通常、プリント配線基板110における隅角付近の領域であって、周辺にグラウンドが存在しない領域に実装されることが多い。この場合、放射電界は、同図中破線で示すように、8の字状のダイポールモードとなる。したがって、従来のアンテナ素子100においては、給電された電力の半分を損失してしまうことになる。
【0041】
これに対して、プリント配線基板50においては、プリントアンテナ10の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置する。例えば、プリント配線基板50においては、先に図5に示したように、断面が矩形状を呈するプリントアンテナ10における矩形断面を形成する4辺のうち、少なくとも3辺の周囲領域を囲うようにグランドを配置する。
【0042】
プリント配線基板50においては、このようにプリントアンテナ10と周辺のグラウンドとを配置した場合、プリントアンテナ10のアンテナ導体に電流が流れることにより、プリントアンテナ10の周囲領域のうち、グラウンドによって囲まれていない領域近傍が励起される。例えば、プリント配線基板50においては、同図に示した配置の場合には、プリントアンテナ10における矩形断面を形成する4辺のうち、グラウンドによって囲まれていない1辺に面した当該プリント配線基板50のエッジ部分が励起される。これにより、プリント配線基板50においては、放射電界が、ダイポールモードとはならず、同図中破線で示すように、バルーン状に1方向に放出するように形成される。すなわち、プリント配線基板50においては、プリントアンテナ10が所定の方向にのみ指向性を有するように動作させることができる。
【0043】
本件出願人は、この指向性の様子を具体的に確認するために、所定のプリント配線基板を用いてシミュレーションを行った。このシミュレーションは、図7(A)に平面図及び同図(B)に側面図を示すように、プリント配線基板50として、材質がFR−4であり、大きさが縦51mm×横38mm×厚さ0.8mmの薄板状のものを用いて行った。また、このシミュレーションにおいては、同図(A)中斜線部で示すように、断面が矩形状を呈するプリントアンテナ10における矩形断面を形成する4辺のうち、3辺の周囲領域を囲うように、プリント配線基板50の表裏面にグランドを配置した。
【0044】
この場合、放射電界の等高線図を求めると、図8(A)及び同図(B)に示すような結果が得られた。なお、図8(A)は、図7(A)に対応してプリント配線基板50を上方から見たときの放射電界を示し、図8(B)は、図7(B)に対応してプリント配線基板50を側方から見たときの放射電界を示している。また、図8においては、プリント配線基板50の横方向をx軸とし、縦方向をy軸とし、厚さ方向をz軸としている。
【0045】
同図から、放射電界は、明らかに8の字状のダイポールモードとは異なり、xy平面において、プリント配線基板50を放射源として+y方向に膨張するバルーン状に形成されることがわかる。なお、この結果から、約2.06dBiの利得が得られた。例えば、このプリント配線基板50をLANカードに適用した場合には、−x方向は損失方向となるが、+y方向に対して小さいことから、プリント配線基板50は、効率的に給電される電力を利用していることがわかる。
【0046】
また、このときの帯域周波数に対する電圧定在波比(Voltage Standing Wave Ratio;VSWR)を求めると、図9に示すような結果が得られた。なお、同図においては、縦軸に電圧定在波比を示し、横軸に帯域周波数を示している。
【0047】
同図から、電圧定在波比は、約2.44GHzの帯域周波数で最も高効率となり、この帯域周波数を中心として折り返される特性を呈することがわかる。また、このときの有効な帯域幅は、約131.72MHzとなった。このことから、このシミュレーションで用いたプリントアンテナ10が実装されたプリント配線基板50は、2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11b規格の無線LANに適用して極めて有効であるといえる。
【0048】
このように、プリント配線基板50においては、プリントアンテナ10の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置することにより、プリントアンテナ10に給電される電力の大幅な損失を回避して有効に利用することができるとともに、優れた指向性を実現し、感度を向上させることが可能となる。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示したプリント配線基板50においては、2つのアンテナ導体11,16によって開放端が形成されたプリントアンテナ10を実装することにより、プリントアンテナ10が周辺に存在するグラウンドの影響を受けにくく、むしろ積極的に周辺に存在するグラウンドを利用してマッチングをとるものとして扱うことができる。そのため、プリント配線基板50においては、レイアウトの設計段階で、他のモジュールに必要とされるグラウンドが存在しない専用のランドを設ける必要がなく、柔軟なレイアウトが可能となる。また、プリント配線基板50においては、このような開放端が形成されたプリントアンテナ10の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置することにより、優れた指向性を実現することができる。
【0050】
したがって、プリント配線基板50は、機器の小型化を促進するとともに、レイアウトの自由度を大幅に拡大することができ、特に携帯電話機等の設計及び電力制限が厳しい機器に適用して有効である。このように、プリントアンテナ10が実装されたプリント配線基板50は、他のモジュールに必要とされるグラウンドが存在しない専用のランドを設けることを不要とするとともに、アンテナ素子自体についても周辺にグラウンドが存在しないことを前提に設計することを不要とし、設計指針に全く新たな概念を提案するものである。
【0051】
また、プリント配線基板50においては、基材に安価なプリント配線基板を用いたプリントアンテナ10を実装することから、アンテナ素子の加工も容易であり、また、当該プリント配線基板50の製造工程を利用してアンテナ素子を製造することが可能となり、全体の製造コストを大幅に削減することができる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、アンテナ素子としてプリントアンテナを用いるものとして説明したが、本発明は、プリントアンテナに限らず、プリント配線基板に表面実装し得るチップ状のアンテナ素子であれば、任意のものを適用することができる。
【0053】
また、上述した実施の形態では、プリントアンテナの断面が矩形状を呈するものとし、この場合には、プリントアンテナにおける矩形断面を形成する4辺のうち、3辺の周囲領域を囲うようにグランドを配置するものとして説明したが、本発明においては、アンテナ素子の断面が矩形状を呈する場合には、例えば図10中斜線部で示すように、アンテナ素子70における矩形断面を形成する4辺のうち、3辺の周囲領域に加え、残りの1辺における一部の周囲領域を囲うようにグランドを配置したプリント配線基板としてもよく、アンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置するのであれば、いかなる配置であっても適用することができる。
【0054】
さらに、上述した実施の形態では、プリント配線基板上におけるプリントアンテナの配置位置として、当該プリント配線基板のエッジ近傍とする例を取り上げて説明したが、本発明においては、必ずしもプリント配線基板のエッジ近傍とする必要はなく、アンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置するのであれば、プリント配線基板上におけるいかなる領域に配置しても同様の指向性を得ることができる。
【0055】
さらにまた、上述した実施の形態では、複数のスルーホールを介して蛇行状(櫛歯状)に接続された複数のアンテナ導体を略コ字状に屈曲させたような一連の導体パターンが形成されたプリントアンテナについて説明したが、本発明においては、アンテナ素子の導体パターンとして、周辺のグラウンドとのマッチングを適切にとることを条件として任意のものを適用することができる。
【0056】
例えば、アンテナ素子としては、図11に平面図を示すように、アンテナ導体81が基板の表面に露出形成されるとともに、図12に底面図を示すように、アンテナ導体82,83,84が基板の裏面に露出形成され、基板の表面から裏面にかけて貫通するように穿設されたスルーホール81を介してアンテナ導体81,82が電気的に導通可能に接続されることによって一連の導体パターンが形成されるものでもよい。このアンテナ素子においては、アンテナ導体81,84によって開放端が形成され、この部分にキャパシタンスを生じさせる。
【0057】
また、アンテナ素子としては、例えば、図13に平面図を示すように、アンテナ導体91が基板の表面に露出形成されるとともに、図14に底面図を示すように、アンテナ導体92,93,94,95が基板の裏面に露出形成され、基板の表面から裏面にかけて貫通するように穿設されたスルーホール91を介してアンテナ導体91,92が電気的に導通可能に接続されることによって一連の導体パターンが形成されるものでもよい。このアンテナ素子においては、アンテナ導体91,95によって開放端が形成され、この部分にキャパシタンスを生じさせる。
【0058】
さらに、アンテナ素子としては、図示しないが、多層基板を用いて開放端を含む所定の導体パターンが形成されるものでもよい。
【0059】
いずれにせよ、アンテナ素子としては、周辺のグラウンドとのマッチングを適切にとることを条件とし、互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたものであればよく、さらに望ましくは3次元的な構造を呈する導体パターンが形成されたものであればよい。また、このとき、アンテナ素子としては、少なくとも2つのアンテナ導体が互いに高さ方向に離隔されて配置されることによって開放端を形成するのではなく、高さは同一で平面的に離隔されて配置されることによって開放端を形成するようにしてもよい。
【0060】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0061】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子として、互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたものを実装することにより、アンテナ素子における共振周波数の変動を無視できる程度に抑制することができることから、周辺に存在するグラウンドの影響に対する耐性を非常に強くすることができ、むしろ近傍にグラウンドを配置し、このグラウンドを利用してマッチングをとることが可能となる。したがって、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、レイアウトの設計段階でグラウンドが存在しない専用のランドを設ける必要がなく、搭載される機器の小型化を促進するとともに、レイアウトの自由度を飛躍的に向上させることができる。
【0062】
そして、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板においては、このようなアンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うようにグラウンドを配置することにより、アンテナ素子の指向性を所定の方向に制御することができることから、アンテナ素子に給電される電力の大幅な損失を回避して有効に利用することができるとともに、優れた指向性を実現し、感度を向上させることが可能となる。
【0063】
また、本発明にかかるアンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子の導体パターンを3次元的な構造とすることにより、誘電率が低い基板を用いてアンテナ素子を構成した場合であっても大型化することがなく、帯域幅の狭帯域化も回避することができる。また、アンテナ実装プリント配線基板は、アンテナ素子の開放端にキャパシタンスが生じることに起因してインピーダンスが低下する問題も解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態として示すプリント配線基板に実装されるプリントアンテナの平面図である。
【図2】プリントアンテナの底面図である。
【図3】プリントアンテナにおける基板内部の導体パターンを説明する斜視図である。
【図4】プリントアンテナの横断面図であり、2つのアンテナ導体によって形成される開放端について説明するための図である。
【図5】プリントアンテナが実装されたプリント配線基板における一部領域の平面図である。
【図6】従来のアンテナ素子が実装された従来のプリント配線基板における一部領域の平面図であり、プリント配線基板上でのアンテナ素子の配置位置とそのときの放射電界の様子について説明するための図である。
【図7】シミュレーションで用いるプリントアンテナが実装されたプリント配線基板の構成を説明する図であり、(A)は、平面図であり、(B)は、側面図である。
【図8】図7に示すプリント配線基板を用いたシミュレーションによって求めた放射電界の様子を説明する等高線図であり、(A)は、図7(A)に対応してプリント配線基板を上方から見たときの放射電界の等高線図であり、(B)は、図7(B)に対応してプリント配線基板を側方から見たときの放射電界の等高線図である。
【図9】図7に示すプリント配線基板を用いたシミュレーションによって求めた帯域周波数に対する電圧定在波比の特性を説明する図である。
【図10】図5に示すプリント配線基板とは異なるレイアウトからなるプリント配線基板における一部領域の平面図である。
【図11】図3に示す導体パターンとは異なる導体パターンが形成されたアンテナ素子の平面図である。
【図12】図11に示すアンテナ素子の底面図である。
【図13】図3又は図11に示す導体パターンとはさらに異なる導体パターンが形成されたアンテナ素子の平面図である。
【図14】図13に示すアンテナ素子の底面図である。
【図15】従来のアンテナ素子の横断面図であり、プリント配線基板に実装された様子を説明するための図である。
【図16】従来のアンテナ素子が実装された従来のプリント配線基板における一部領域の平面図である。
【符号の説明】
10 プリントアンテナ、 11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,81,82,83,84,91,92,93,94,95 アンテナ導体、 11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,81,91 スルーホール、 50 プリント配線基板、 60 金属体、 70 アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも通信機能を有する機器に搭載され、各種機能を実現するための各種モジュールが実装されたアンテナ実装プリント配線基板であって、
互いに離隔された少なくとも2つのアンテナ導体によって開放端が形成されたチップ状のアンテナ素子が実装され、
上記アンテナ素子の周囲領域のうち、一部領域を除いた残りの領域を囲うように、1又は複数の他のモジュールに必要とされるグラウンドが配置されて実装されていること
を特徴とするアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項2】
上記少なくとも2つのアンテナ導体は、互いに高さ方向に離隔されていること
を特徴とする請求項1記載のアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項3】
上記アンテナ素子は、断面が矩形状を呈する薄板状に形成されており、
上記グラウンドは、上記アンテナ素子における矩形断面を形成する4辺のうち、少なくとも3辺の周囲領域を囲うように配置されていること
を特徴とする請求項1記載のアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項4】
上記アンテナ素子は、所定の樹脂基板に3次元的な構造を呈する導体パターンが形成されて構成されていること
を特徴とする請求項1記載のアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項5】
上記アンテナ素子は、上記樹脂基板の表面から裏面にかけて貫通するように穿設されその内部に銅箔が施された1又は複数のスルーホールを介して複数のアンテナ導体が互いに電気的に導通可能に接続されることによって上記導体パターンが形成されていること
を特徴とする請求項4記載のアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項6】
上記アンテナ素子は、上記1又は複数のスルーホールを介して上記複数のアンテナ導体が蛇行状に接続されることによって上記導体パターンが形成されていること
を特徴とする請求項5記載のアンテナ実装プリント配線基板。
【請求項7】
上記樹脂基板は、ガラス布エポキシ基板からなること
を特徴とする請求項4記載のアンテナ実装プリント配線基板。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate



【図3】
image rotate



【図4】
image rotate



【図5】
image rotate



【図6】
image rotate



【図7】
image rotate



【図8】
image rotate



【図9】
image rotate



【図10】
image rotate



【図11】
image rotate



【図12】
image rotate



【図13】
image rotate



【図14】
image rotate



【図15】
image rotate



【図16】
image rotate


【公開番号】特開2004−153569(P2004−153569A)
【公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−316544(P2002−316544)
【出願日】平成14年10月30日(2002.10.30)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル株式会社 (595)
【Fターム(参考)】