説明

アンテナ装置

【課題】アンテナ装置におけるマグネトロンの出力の種類数及び総数を減らすこと。
【解決手段】 複数のアンテナをN周(N≧2)に亘って正六角形状に配置してなるアレイアンテナのアンテナを3つのアンテナグループに分ける。第1のアンテナグループ10は、中央のアンテナからM周目(1≦M≦N−2)までのアンテナで構成する。第2のアンテナグループは、夫々、M+1周目からN周目まで各周1個ずつ直線をなすようにして選択されたN−M個のアンテナからなる6M個のストレートアレイ20で構成する。第3のアンテナグループは、夫々、(N−M)(N−M−1)/2個のアンテナを正三角形状に配置してなる6個のトライアングルアレイで構成する。このようなアレイアンテナにおいて、第2及び第3のアンテナグループに関しては、ストレートアレイ20又はトライアングルアレイ30毎に一つのマグネトロンを対応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナからなるアレイアンテナと、このアレイアンテナに対して電力を供給する電力源を備えたアンテナ装置に関し、特に、無線電力伝送に利用可能なアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ある地点で発電した電力を他の地点に無線伝送する無線電力伝送技術、特にマイクロ波送電技術が注目を集めている(特許文献1)。この無線電力伝送技術においては、極めてシャープなアンテナ放射特性が要求されており、その実現のために、通常、アレイアンテナが採用されている。
【0003】
この種のアレイアンテナは、同一形状の複数のアンテナを中央(1周目)に1個、2周目に6個、3周目に12個、4周目に18個、n周目に6×(n−1)個(nは2以上N以下の自然数)となるようにして、N周(Nは2以上の自然数)に亘って正六角形状に配置してなる。例えば、N=10の場合を考えると、N周目(正六角形の最外周)は54個のアンテナで構成され、正六角形内には、総計271個のアンテナが配置される。
【0004】
この種のアレイアンテナを備えるアンテナ装置において、中央に位置する1個のアンテナには最大電力が供給されており、外側の周になるに連れて低減された電力が供給される。なお、同一の周のアンテナには、すべて同じ電力が供給される。前述のN=10の場合を例にとると、10周目には中央のほぼ1/10の電力が供給される。
【0005】
外側の周になるに連れてどの程度低減された電力を供給するかは、例えば、正規分布の確率密度関数曲線に従うものとする。詳しくは、中央のアンテナに100Wの電力を供給する場合、2周目には97W、3周目には89W、4周目には77W、5周目には64W、6周目には49W、7周目には36W、8周目には25W、9周目には16W、そして最外周の10周目には10Wを供給する。
【0006】
従来、電力源としては複数のマグネトロンを用いるものが知られている。これに関連して、所定数周目以降のアンテナについては、電力分配器を用いて電力分配を行うことにより、マグネトロンの必要総数をアンテナの総数よりも少なくすると共に、マグネトロンの出力の最大のものと最小のものとの差を小さくするといった手段も知られている。
【0007】
例えば上記のN=10の場合を例にとると、1周目から6周目までは1個のアンテナに対して1個のマグネトロンを対応付け、7周目においては2個のアンテナに対して1個のマグネトロンを対応付け、8周目には3個のアンテナに対して1個のマグネトロンを対応付け、9周目においては4個のアンテナに対して1個のマグネトロンを対応付け、最外周の10周目においては6個のアンテナに対して1個のマグネトロンを対応付けることとしていた。
【0008】
【特許文献1】特開2003−18003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の従来例の場合、マグネトロン間の出力差は小さくすることができる。しかし、そのためには、マグネトロンの出力を多数種類用意しなければならない。また、マグネトロンの総数も多い。
【0010】
加えて、従来例の場合、多数種の電力分配器を用意する必要がある。前述したN=10の場合の電力供給例においては、7周目用として2電力分配器を、8周目用として3電力分配器を、9周目用として4電力分配器を、10周目用として6電力分配器を用意しなければならない。そのうえ、電力分配器をなるべくアンテナ近傍に設けることで電力ロスを極力抑えようとすると、8周目用の3電力分配器に関しては、直線状に並んだ3本のアンテナに電力分配するものと“く”の字状に並んだ3本のアンテナに電力分配するとで形状の異なる電力分配器を使用せざるを得ない。
更には、形の違う電力分配器であっても位相特性などは他の電力分配器と併せなければならないため、各電力分配器毎に様々な固定移相器と可変移相器とを用いなければならない。
【0011】
本発明は、上述した従来例の問題点を解消すべく、マグネトロンの出力の種類数及びマグネトロンの総数を減らしてなるアンテナ装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、同一形状の複数のアンテナをN周(Nは2以上の自然数)に亘って六角形状に配置してなるアレイアンテナと、前記複数のアンテナに電力を供給する電力源手段とを備えるアンテナ装置を提供する。
このアンテナ装置において、前記複数のアンテナは、前記アレイアンテナにおける中央に1個、n周目に6×(n−1)個(nは2以上N以下の自然数)配置されており、中央に位置する1個のアンテナには最大電力が供給され、同じ周のアンテナにはすべて同じ電力が供給される一方で外側の周になるに連れて低減された電力が供給されるように構成されており、且つ、前記複数のアンテナは、第1乃至第3のアンテナグループに分類されており、前記第1のアンテナグループは、前記アレイアンテナの中央からM周目(Mは1以上N−2以下の自然数)までを構成する所定数個のアンテナからなり、前記第2のアンテナグループは、6M組のストレートアレイからなり、前記ストレートアレイの夫々は、M+1周目からN周目まで各周1個ずつ直線をなすようにして選択されたN−M個の前記アンテナからなり、前記第3のアンテナグループは、前記第1及び前記第2のアンテナグループに属さない前記アンテナにて構成された6個のトライアングルアレイからなり、前記各トライアングルアレイは、(N−M)(N−M−1)/2個の前記アンテナを正三角形状に配置してなるものである。
前記電力源手段は、前記所定数個の第1の電力源、前記6M個の第2の電力源及び6個の第3の電力源並びに前記6M個の第1電力分配手段及び前記6個の第2電力分配手段を備えており、前記第1の電力源のそれぞれは、前記第1のアンテナグループに属する前記アンテナのそれぞれに対して一対一で電力を供給するものであり、前記第2の電力源のそれぞれは、前記第1電力分配手段を介して、前記ストレートアレイのそれぞれに属する前記アンテナに共通して電力を供給するものであり、前記第3の電力源のそれぞれは、前記第2電力分配手段を介して、前記トライアングルアレイのそれぞれに属する前記アンテナに共通して電力を供給するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特に、M+1周目以降のアンテナへ電力を供給するためのマグネトロンの出力の種類数を1種類または2種類に減らすことができ、マグネトロンの総数も6(M+1)に減らすことができる。例えば、N=10且つM=6の場合、7周目以降のマグネトロンの総数は42個であり、従来例の53個と比較して少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のアンテナ装置の実施の形態例を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態によるアンテナ装置は、アレイアンテナを有する。アレイアンテナは、同一形状の複数のアンテナを中央(1周目)に1個、2周目に6個、3周目に12個、4周目に18個、n周目に6×(n−1)個(nは2以上N以下の自然数)となるようにして、N周(Nは2以上の自然数)に亘って六角形状、好ましくは正六角形に配置してなるものである。
図1に示されるように、本実施形態におけるアレイアンテナは、具体的には、N=10の場合であって、N周目(正六角形の最外周)は54個のアンテナで構成され、正六角形内には、総計271個のアンテナが配置されている。このアンテナ装置では、中央に位置する1個のアンテナに最大電力が供給される一方で、外側の周になるに連れて低減された電力が供給される。なお、同じ周のアンテナにはすべて同じ電力が供給される。これらの要素自体は、従来例と概略同じである。
【0016】
図1に示されるように、アレイアンテナを構成する複数のアンテナは、第1乃至第3のアンテナグループに分類されている。
【0017】
第1のアンテナグループ10は、アレイアンテナの中央からM周目(Mは1以上N−2以下の自然数)までを構成する所定数個のアンテナからなる。図示された例はM=6のケースである。
【0018】
第2のアンテナグループは、6M組のストレートアレイ20からなる。各ストレートアレイは、M+1周目からN周目まで各周1個ずつ直線をなすようにして選択されたN−M個のアンテナからなる。本実施の形態は、N=10且つM=6の場合であるので、ストレートアレイ20の数は36個であり、各ストレートアレイ20を構成するアンテナの個数は4個である。
【0019】
第3のアンテナグループは、第1のアンテナグループ10にも第2のアンテナグループ(6M個のストレートアレイ20)にも属さないアンテナにて構成された6個のトライアングルアレイ30からなる。各トライアングルアレイ30は、図2に示されるように、M+2周目に1個、M+3周目に2個、・・・N周目にN−M−1個のアンテナを配置して構成されたものであり、総計(N−M)(N−M−1)/2個のアンテナを正三角形状に配置してなるものである。本実施の形態は、N=10且つM=6の場合であるので、本実施の形態のトライアングルアレイ30においては、最外周(10周目)に3個のアンテナが並んでおり、当該トライアングルアレイ30におけるアンテナの総計は6個となっている。
【0020】
第1のアンテナグループ10に属するアンテナには、一対一でマグネトロンが接続されている。すなわち、第1のアンテナグループ10に属するアンテナへ電力を供給するためのマグネトロンの総数は第1のアンテナグループ10に属するアンテナの総数に等しい。各マグネトロンの出力は、接続されたアンテナの位置(何周目であるか)によって異なる。具体的な数値は従来例と同じであり、中央のアンテナに100Wの電力を供給する場合、2周目には97W、3周目には89W、4周目には77W、5周目には64W、6周目には49Wの電力が供給されている。
【0021】
第2のアンテナグループに属するアンテナの場合、ストレートアレイ20に対して一対一でマグネトロンが設けられる。すなわち、第2のアンテナグループに属するアンテナに電力を供給するマグネトロンの総数は、ストレートアレイ20の総数である6M個である。より具体的には、本実施の形態の第2のアンテナグループに属するアンテナには、36個のマグネトロンを用いて、電力供給がなされている。
【0022】
一つのマグネトロンから各ストレートアレイ20に電力を供給するためには、N−M分配器を用いる。本実施形態の場合、四分配器である。
【0023】
四分配器は、図3に示されるように、N−M−1個、すなわち3個の分配器101〜103をパラマストーナメント状又はステップラダー状に接続して構成されている。
各分配器101〜103は、各分配器固有の電力分割比に従って電力を二分割するものであり、分割された電力の一方はアンテナ131〜133に供給され、他方は後段の分配器102,103又は最外周のアンテナ134に供給される。
本例では、ストレートアレイ20用のマグネトロンから分配器101に供給される電力は87Wであり、分配器101は、この電力を二分割して、36Wを7周目のアンテナ131に供給し、残りの51Wを次段の分配器102に供給している。
分配器102は、51Wの電力を二分割し、25Wを8周目のアンテナ132に供給し、残りの26Wを次段の分配器103に供給している。分配器103は、26Wを二分割し、16Wを9周目のアンテナ133に供給し、残りの10Wを10周目のアンテナ134に供給している。すなわち、本実施形態のアンテナ装置においても、7周目のアンテナには36W、8周目のアンテナには25W、9周目のアンテナには16W、そして最外周の10周目のアンテナには10Wが供給されている。この点も前述の従来例と同じである。
【0024】
各分配器101〜103間並びに最終段の分配器103と最外周のアンテナ134との間には、可変移相器(Vφ)111〜113と固定移相器(Fφ)121〜123が挿入されている。ここで、固定移相器(Fφ)121〜123の移相量は、対応する可変移相器(Vφ)111〜113を当該可変移相器(Vφ)111〜113の調整可能範囲の中央に設定したとき、同一のストレートアレイに属するすべてのアンテナ131〜134に供給される信号が互いに同位相を有するようにして設定選択されている。
より具体的には、固定移相器(Fφ)121〜123は、各分配器101〜103、中央設定状態の可変移相器(Vφ)111〜113、固定移相器(Fφ)121〜123の位相の合計θ1、θ2、θ3がすべて2πの整数倍となるようにして設定されている。なお、本実施の形態による同一の分配器内の可変移相器(Vφ)については、すべてが一直線上にあるため基本的には同じ調整を行うことができる。すなわち、各アンテナ間の位相差を同一にすれば足りる。
【0025】
第3のアンテナグループに属するアンテナの場合、トライアングルアレイ30に対して一対一でマグネトロンが設けられる。すなわち、第3のアンテナグループに属するアンテナに電力を供給するマグネトロンの総数は、6個である。
【0026】
各トライアングルアレイ30を構成するアンテナの総数は(N−M)(N−M−1)/2であるので、一つのマグネトロンから各トライアングルアレイ30に属するアンテナに電力を供給するためには、(N−M)(N−M−1)/2分配器が用いられる。本実施の形態の場合、N=10且つM=6であるので、各トライアングルアレイ30用の分配器としては六分配器が用いられる。
【0027】
六分配器は、例えば図4に示されるように、(N−M)(N−M−1)/2−1個、すなわち5個の分配器201〜205を用いて構成される。各分配器201〜205は、各分配器固有の電力分割比に従って電力を二分割する。各分配器201〜205は、所定の法則に基づいて接続されている。この接続ルールについては、後述する。
図4に示される通り、本例では、トライアングルアレイ用のマグネトロンは分配器201に87Wの電力を供給しており、分配器201は、その87Wを二分割して、25Wを8周目のアンテナ231に供給し、62Wを分配器202に供給する。分配器202は、62Wの電力を二分割し、32Wを分配器203に、残りの30Wを分配器204に供給する。分配器203は、32Wの電力を二分割して、9周目のアンテナ232及び233にそれぞれ16Wずつ供給する。分配器204は、30Wの電力を二分割し、10Wを10周目のアンテナ234に、残りの20Wを分配器205に供給する。分配器205は、20Wを二分割し、残りの10周目のアンテナ235とアンテナ236に10Wずつ供給する。
【0028】
ここで図2を参照して、トライアングルアレイ30における電力分配のルールについて、より詳しく説明する。
一つのトライアングルアレイ30当たりの分配器の総数が{(N−M)(N−M−1)/2−1}個であることは既に述べたとおりであるが、ここでは、便宜上、それぞれナンバリングして、第1番目乃至第{(N−M)(N−M−1)/2−1}番目の分配器と呼ぶこととする。
【0029】
この場合、第1番目の分配器は、トライアングルアレイ30用のマグネトロンからの電力を二分割し、一方をM+2周目のアンテナに供給すると共に、他方を第2番目の分配器に供給する(ルール1)。
【0030】
第2番目の分配器は、第1番目の分配器から供給される電力を二分割し、第3番目の分配器と第4番目の分配器に供給する。以降、第{m(m−1)/2+1}番目(mは、2以上N−M−2以下の自然数)の分配器は、第{(m−1)(m−2)/2+1}番目の分配器からの電力を二分割し、一方を第{m(m−1)/2+2}番目の分配器に供給すると共に、他方を第{m(m+1)/2+1}番目の分配器に供給する(ルール2)。
【0031】
最外周以外の各周においては、次のルール3に従って電力分配が行われる。すなわち、第{m(m−1)/2+p}番目(pは2以上m−1以下の自然数)の分配器は、第{m(m−1)/2+p−1}番目の分配器からの電力を二分割し、一方をM+m+1周目に属するm個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{m(m−1)/2+p+1}番目の分配器に供給する。同様にして、第{m(m+1)/2}番目の分配器は、第{m(m+1)/2−1}番目の分配器からの電力を二分割し、M+m+1周目に属する残りの2つの前記アンテナにそれぞれ供給する。
例えば、第3番目の分配器は、M+3周目に対応するものであるが、M+3周目には2本のアンテナしかないので、上記のルールに従えば、第3の分配器にはM+3周目の2本のアンテナが接続されることとなる。ここまでで、最外周以外の周への電力分配についての説明がなされたこととなる。
【0032】
最外周においては、ここに示すルール4に従って電力分配が行われる。すなわち、第{(N−M−2)(N−M−1)/2+1}番目の分配器は、第{(N−M−3)(N−M−2)/2+1}番目の分配器からの電力を二分割し、一方をN周目に属するN−M−1個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{(N−M−2)(N−M−1)/2+2}番目の分配器に供給する。以後、同様にして、第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q}番目(qは、2以上N−M−3以下)の分配器は、第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q−1}番目の分配器からの電力を二分割し、一方を前記N周目に属するN−M−1個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q+1}番目の分配器に供給する。そして、第{(N−M)(N−M−1)/2−1}番目の分配器は、第{(N−M)(N−M−1)/2−2}番目の分配器からの電力を二分割し、N周目に属する残りの2つのアンテナにそれぞれ供給する。
【0033】
この分配ルールについての理解を助けるべく、図5及び図6を用いて、総計10個のアンテナからなるトライアングルアレイに関する電力分配例について更に説明する。
【0034】
分配器201は、マグネトロンからの電力を二分割し、一方をM+2周目のアンテナに供給し、他方を分配器202に供給する(ルール1)。分配器202は分配器201からの電力を分配器203及び分配器204に分配し、分配器204は分配器202からの電力を分配器205と分配器207とに分配する(ルール2)。分配器203はM+3周目の2つのアンテナに電力を供給し、分配器205及び分配器206はM+4周目の3つのアンテナに電力を供給する(ルール3)。そして、分配器207〜209は、ルール4に従い、M+5周目(すなわち、N周目:最外周)の4つのアンテナに電力を供給する。
【0035】
ここで再び図4を参照すると、分配器201〜205のうち、分配器201は8周目のアンテナ231用であり、分配器202及び分配器203は9周目のアンテナ232,233用であり、分配器204及び分配器205は10周目のアンテナ234〜236用であることが理解される。すなわち、分配器201と分配器202とでは対応するアンテナの属する周が異なる。同様に、分配器202と分配器204とでは対応するアンテナの属する周が異なる。このように、アンテナの周を跨ぐような分配器間には可変移相器(Vφ)211〜212及び固定移相器(Fφ)221〜222が挿入されている。この可変移相器(Vφ)211〜212及び固定移相器(Fφ)221〜222の機能は、概略、前述の可変移相器(Vφ)111〜111及び固定移相器(Fφ)121〜123と同じである。すなわち、周間の位相調整である。一方、固定移相器(Fφ)241や、固定移相器(Fφ)242及び243は、同一の周に属するアンテナにおける位相調整用である。同一の周に属するアンテナにおける位相調整用の場合、周間の位相調整とは異なり、可変移相器(Vφ)を用いていないが、これは、対応するアンテナがアレイの外周部に位置しており、もともと電力が小さいので、移相量による電力ロスは極微量として無視できるからである。
【0036】
これら可変移相器(Vφ)及び固定移相器(Fφ)に関する事項は、図6に示される場合でも同じである。すなわち、分配器201と分配器202の間、分配器202と分配器204の間、分配器204と分配器207の間には、周間の位相調整用として、可変移相器(Vφ)211〜213及び固定移相器(Fφ)221〜223が挿入されている。その他の固定移相器(Fφ)241や、固定移相器(Fφ)242及び243、並びに固定移相器(Fφ)244〜246は、同一の周に属するアンテナにおける位相調整用である。
【0037】
以上のようにアンテナ装置によれば、従来例と比較して分配器の設計が容易になるという利点もある。例えば、四分配器は36個すべて同じ思想で設計可能であり、その設計思想も単純である。
【0038】
次いで、電力分配器について図7乃至図10を用いて説明する。図7は、クロスガイドカップラ型分配器を示し、図8は電界分割型分配器の原理を示す。図9及び図10は、電界分割型分配器の一例についての上面図及び側面図である。
【0039】
電力分割比が大きいところにはクロスガイドカップラ型分配器を使用し、電力分割比が小さいところには電界分割型分配器を使用する。目安となる電力分割比は例えば1:10である。
【0040】
図7を参照すると、クロスガイドカップラ型分配器において主電力入力から入った信号は、その殆どが主電力出力へと向かうが一部は分岐出力へ向かう。この割合(分割比)は、結合孔の大きさで自由に決めることができる。
なお、この種の分配器は方向性結合器とも呼ばれる。
【0041】
図8に示されるように、電界分割型分配器は、原理的には、導波管内の電界を切断するような導体隔壁にて電力を分割するものである。この電界分割型分配器においては、導体隔壁の上下の寸法比にて電力分割比が決定される。なお、分割後のサブ導波管は、λg/4のステップ編成器を用いてサイズ調整され、サブ導波管の出力部の断面積は入力部の断面積に等しくなるように構成される。
【0042】
図9及び図10に示されるように、実際の電界分割型分配器においては、サブ導波管の一方はHベンドを経て、主ライン(サブ導波管の他方を含む)から直角方向へ向けられている。このような形状によれば、クロスガイドカップラ型分配器と縦続接続しつつ、任意の分岐電力を取り出すことが可能となる。なお、アンテナに接続されるサブ導波管の出力部の形状は、すべて同じ形状となるようにする。
【0043】
次いで、位相調整について図11も参照して説明する。図11は、固定移相器の構成例を示している。
【0044】
アンテナ装置が受信アンテナの存在する方向に正しく向いている場合は、すべてのアンテナから同位相の信号を送信すればよいが、例えば、風で揺られた場合など、各アンテナの位相を調整しなければならない場合がある。
この場合、アレイアンテナの中央のアンテナから受信アンテナまでの距離と各アンテナから受信アンテナまでの距離との差分に相当する位相を各アンテナから出力される信号に与える必要がある。「差分」は、アレイアンテナの外周に向かうにつれて大きくなり、例えば、最外周のアンテナからの信号には非常に大きな位相調整を行わなければならない場合もある。本実施形態においては、第2のアンテナグループの場合にも第3のアンテナグループの場合にも、内周から外周に向かって電力を分配していっているので、その分配経路を利用し、内周から外周に向かうにつれて徐々に移相させることで、各周には累積した移相量が与えられることとして各移相器に高い能力を求めることなく必要な移相量を得ることとしている。例えば、図3に示される四分配器においては、可変移相器(Vφ)111〜113を用いていることから、最外周のアンテナ134へ与えられる移相量は、一つの可変移相器(Vφ)の3倍とすることができる。
【0045】
なお、上記位相調整を行うと共に、分配器とアンテナとの直接接続を可能とするためには、例えば、図11に示されるような固定移相器を用いればよい。図11に示される固定移相器は、導波管のa寸法を変えることにより、管内波長が変わり、この部分の長さにより位相長を変えることができる。a寸法の異なる所へのインピーダンス整合はλg/4のステップ編成器と同様な方法で行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態によるアンテナのグループ分けを示す図である。
【図2】図1に示されるトライアングルアレイを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態による四分配器を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態による六分配器を示す図である。
【図5】10個のアンテナからなるトライアングルアレイを示す図である。
【図6】図5に示されるトライアングルアレイ用の電力分配手段を示す図である。
【図7】クロスガイドカップラ型分配器を示す図である。
【図8】電界分割型分配器の原理を示す図である。
【図9】電界分割型分配器の一例についての上面図である。
【図10】図9に示される電界分割型分配器の側面図である。
【図11】固定移相器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 第1のアンテナグループ
20 ストレートアレイ
30 トライアングルアレイ
101〜103 分配器
111〜113 可変移相器(Vφ)
121〜123 固定移相器(Fφ)
131〜134 アンテナ
201〜209 分配器
211〜213 可変移相器(Vφ)
221〜223 固定移相器(Fφ)
231〜236 アンテナ
241〜246 固定移相器(Fφ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一形状の複数のアンテナをN周(Nは2以上の自然数)に亘って六角形状に配置してなるアレイアンテナと、前記複数のアンテナに電力を供給する電力源手段とを備えるアンテナ装置であって、
前記複数のアンテナは前記アレイアンテナにおける中央に1個、n周目に6×(n−1)個(nは2以上N以下の自然数)配置されており、
中央に位置する1個のアンテナには最大電力が供給され、同じ周のアンテナにはすべて同じ電力が供給される一方で外側の周になるに連れて低減された電力が供給されるように構成されており、且つ、
前記複数のアンテナは、第1乃至第3のアンテナグループに分類されており、
前記第1のアンテナグループは、前記アレイアンテナの中央からM周目(Mは1以上N−2以下の自然数)までを構成する所定数個のアンテナからなり、
前記第2のアンテナグループは、6M組のストレートアレイからなり、
前記ストレートアレイの夫々は、M+1周目からN周目まで各周1個ずつ直線をなすようにして選択されたN−M個の前記アンテナからなり、
前記第3のアンテナグループは、前記第1及び前記第2のアンテナグループに属さない前記アンテナにて構成された6個のトライアングルアレイからなり、
前記各トライアングルアレイは、(N−M)(N−M−1)/2個の前記アンテナを正三角形状に配置してなるものであり、
前記電力源手段は、
前記所定数個の第1の電力源、前記6M個の第2の電力源及び6個の第3の電力源並びに前記6M個の第1電力分配手段及び前記6個の第2電力分配手段を備えており、
前記第1の電力源のそれぞれは、前記第1のアンテナグループに属する前記アンテナのそれぞれに対して一対一で電力を供給するものであり、
前記第2の電力源のそれぞれは、前記第1電力分配手段を介して、前記ストレートアレイのそれぞれに属する前記アンテナに共通して電力を供給するものであり、
前記第3の電力源のそれぞれは、前記第2電力分配手段を介して、前記トライアングルアレイのそれぞれに属する前記アンテナに共通して電力を供給するものである、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1電力分配手段は、電力を二分割するN−M−1個の電力分配器をステップラダー状に接続するようにして構成されている、
請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1電力分配手段において、直近の2つの前記電力分配器の間及びN周目の前記アンテナと当該アンテナに対して電力を供給する前記電力分配器との間には、それぞれ、可変移相器及び固定移相器が挿入されている、
請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記固定移相器は、対応する前記可変移相器を当該可変移相器の調整可能範囲の中央に設定したとき、関連する前記ストレートアレイに属するすべての前記アンテナに供給される信号が同位相を有するようにして選択設定されている、
請求項3記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第2電力分配手段は、電力を二分割する第1番目乃至第{(N−M)(N−M−1)/2−1}番目の電力分配器を備えており、
前記第1番目の電力分配器は、
前記第3の電力源からの電力を二分割し、一方をM+2周目の前記アンテナに供給すると共に、他方を第2番目の電力分配器に供給し、
第{m(m−1)/2+1}番目(mは、2以上N−M−2以下の自然数)の電力分配器は、第{(m−1)(m−2)/2+1}番目の電力分配器からの電力を二分割し、一方を第{m(m−1)/2+2}番目の電力分配器に供給すると共に、他方を第{m(m+1)/2+1}番目の電力分配器に供給し、
前記第{m(m−1)/2+p}番目(pは2以上m−1以下の自然数)の電力分配器は、第{m(m−1)/2+p−1}番目の電力分配器からの電力を二分割し、一方をM+m+1周目に属するm個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{m(m−1)/2+p+1}番目の電力分配器に供給し、
第{m(m+1)/2}番目の電力分配器は、第{m(m+1)/2−1}番目の電力分配器からの電力を二分割し、前記M+m+1周目に属する残りの2つの前記アンテナにそれぞれ供給し、
第{(N−M−2)(N−M−1)/2+1}番目の電力分配器は、第{(N−M−3)(N−M−2)/2+1}番目の電力分配器からの電力を二分割し、一方を前記N周目に属するN−M−1個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{(N−M−2)(N−M−1)/2+2}番目の電力分配器に供給し、
第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q}番目(qは、2以上N−M−3以下)の電力分配器は、第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q−1}番目の電力分配器からの電力を二分割し、一方を前記N周目に属するN−M−1個のアンテナのうちの一つのアンテナに供給すると共に、他方を第{(N−M−2)(N−M−1)/2+q+1}番目の電力分配器に供給し、
前記第{(N−M)(N−M−1)/2−1}番目の電力分配器は、第{(N−M)(N−M−1)/2−2}番目の電力分配器からの電力を二分割し、前記N周目に属する残りの2つの前記アンテナにそれぞれ供給する、
請求項1乃至4のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記第1電力分配手段又は前記第2電力分配手段は、電力分配比が所定値:1を超える場合には、クロスガイドカップラ型の方向性結合器にて構成され、電力分配比が前記所定値:1以下の場合には、導波管の電界方向と直交する面に導体面を配し且つ当該導体面の上側と下側に電力を分割する電界分割型電力分配器にて構成される、
請求項1乃至5のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記電界分割型電力分配器における前記導体面の位置は、所望とする電力分配比を満たすようにして選択されており、
前記電界分割型電力分配器は、前記導体面により二つのサブ導波管に分割された後、λg/4(λgは前記導波管の管内波長)のステップ編成器にて前記サブ導波管の夫々の高さを拡大することにより、前記サブ導波管のそれぞれの出口の開口面積を当該電界分割型電力分配器の入力側の開口面積と等しくするようにして構成されている、
請求項6記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−13321(P2007−13321A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188577(P2005−188577)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)
【Fターム(参考)】