説明

アンテナ

【課題】 移動体通信機器などの機器に内蔵可能で、比較的波長の長いUHFテレビ帯域における電波を受信可能な、優れた小型アンテナを提供する。
【解決手段】 小型アンテナは、共振点周波数において共振する放射導体及びグランド導体と、放射導体に給電する給電部と、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を放射導体に近接して配置して、該誘電特性及び磁気特性に基づいて得られる波長短縮効果により共振点周波数を所望周波数帯域よりも低い帯域に移動させる波長短縮手段と、磁性体に磁界を印加して磁気的損失を低減させる磁界印加手段とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器などの機器に内蔵可能な小型のアンテナに係り、特に、比較的波長の長いUHFテレビ帯域における電波を受信可能な小型のアンテナに関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、波長短縮効果により共振点周波数をより低い帯域に移動させて使用帯域での定在波比を改善して小型に構成されるアンテナに係り、特に、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体から得られる波長短縮効果を利用して小型に構成されるアンテナに関する。
【背景技術】
【0003】
携帯電話機に代表される携帯用無線機器では、機能向上を図りながらも、さらなるセットの小型化、軽量化が求められており、そのためこれら携帯機器に搭載された送受信を行なうアンテナに対しても、小型化への要求は益々高まっている(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
【0004】
アンテナは、基本的には、放射素子と、これに給電する給電線と、放射素子を接地するグランドで構成される。ここで、送受信を行なうアンテナの大きさ、すなわちアンテナの素子長と動作周波数との間には密接な関係があり、例えば、放射素子をグランド上に設置するモノポール系のアンテナでは、小型化を図った場合であっても、効率などの観点から素子長は動作周波数の1/4波長程度に設定されることが多い。このため、放射素子とグランド導体間の電磁界の波長を短縮し、これによってアンテナの小型化を図ることが一般的である。
【0005】
例えば、誘電体が持つ波長短縮効果に着目して、アンテナの放射素子を誘電体に密接して配置することで、アンテナの素子長を短縮した誘電体アンテナが知られている。これは、物質中では真空中に比べて電磁波の速度が遅くなること(例えば、非特許文献2を参照のこと)に依拠する。電磁波の周波数をf、真空中の電磁波の速度をcとすると波長λ0は下式(1)のように表される。
【0006】
【数1】

【0007】
一方、真空中での電磁波の伝搬速度c並びに物質中の電磁波の速度vは、それぞれ下式(2)、(3)のように表される。ここで、ε0、μ0はそれぞれ真空中の誘電率と透磁率であり、εr、μrはそれぞれ物質中の比誘電率と比透磁率である。
【0008】
【数2】

【0009】
周波数fの電磁波の物質中の波長λは、λ=v/fで求まることから、真空中での波長λ0との比をとると、下式(4)の通りとなる。
【0010】
【数3】

【0011】
例えば、比誘電率εrを持つ誘電体中での電磁波の波長λは下式(5)によって表され、誘電体による波長短縮効果により真空中での波長λ0よりもεr分の1だけ短くなる。
【0012】
【数4】

【0013】
誘電体の表面あるいは誘電体中に放射素子を設けた、いわゆる誘電体チップ・アンテナや誘電体パッチ・アンテナは、主にGHz帯域での小型送受信アンテナとして最近ではさまざまな分野で実用化されている。
【0014】
また、比誘電率εr及び比透磁率μrを持つ磁性体中を伝播する電磁波の波長λは下式(6)のように表される。言い換えれば、誘電特性と磁気特性とを併せ持った磁性体は、誘電体を用いた場合よりもさらにμr分の1だけ波長を短くすることができる。
【0015】
【数5】

【0016】
上式(6)によれば、原理的には、例えば比誘電率が5、比透磁率が5の材料中では、比誘電率25の誘電体と等価な波長短縮効果を示す筈である。しかしながら、本出願時までのところ、磁性体のアンテナへの応用例は極めて限られており、高周波で低損失を示すフェライトであっても、AM放送受信機のバー・アンテナとして用いられているに過ぎず、MHz帯以上での周波数領域での応用例は殆ど知られていない。磁性体が誘電体としての特性を併せ持つ場合、磁気的損失と誘電損失の両方が生じ、放射効率の低下を招くこととなる(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0017】
最近になって、少数例ながら、アンテナの小型化を図る観点から、磁性材料に対する検討も加えられている。例えば、材料特性をパラメータとするシミュレーションを行ない、ある条件を満たす磁性体を用いるならば、パッチ・アンテナやヘリカル・アンテナを小型化し得ることが示唆されている(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0018】
また、大きさ55mm×40mmの900MHz帯の平板逆Fアンテナを基準とし、アンテナの基板を磁性体に置き換えることで、その大きさを34mm×30mm程度まで、すなわち面積比で50%程度まで縮小できることも報告されている(例えば、非特許文献4を参照のこと)。
【0019】
しかしながら、アンテナの基板を磁性体で置き換える場合、アンテナの形状が平板状に限られている。また、周波数のさらに低い、例えば500MHz〜800MHz程度のUHF帯のテレビ放送の受信などを考えた場合には、その占有面積は上記の報告例よりも当然大きくなることが予想される。したがって、携帯機器への搭載を考えた場合には、なお一層アンテナを小型化する技術の開発が望まれている。
【0020】
【特許文献1】特開2004−7510号公報、段落番号0006
【非特許文献1】「携帯機器向けアンテナ『広帯域でも小さく』に挑む」(日経エレクトロニクス 2004.11.22 PP.69−80)
【非特許文献2】高橋英俊著「電磁気学」(329頁 物理学選書3 裳華房 1970年)
【非特許文献3】角 比呂武著「磁性材料を利用したアンテナに関する研究」(2002年度卒業論文 横浜国立大学工学部)
【非特許文献4】田中 智輝、林田 章吾、今村 和史、森下 久、小柳 芳雄著「磁性材料を用いた携帯端末用アンテナの小型化に関する一検討」(電子情報通信学会論文誌 B Vol.J87−B,No.9,PP.1327−1335,2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、移動体通信機器などの機器に内蔵可能で、比較的波長の長いUHFテレビ帯域における電波を受信可能な、優れた小型アンテナを提供することにある。
【0022】
本発明のさらなる目的は、波長短縮効果により共振点周波数をより低い帯域に移動させて使用帯域での定在波比を改善して小型に構成される、優れたアンテナを提供することにある。
【0023】
本発明のさらなる目的は、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体から得られる波長短縮効果を利用して小型に構成される、優れたアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、所望周波数帯域の電波を受信するアンテナであって、
共振点周波数において共振する放射導体及びグランド導体と、
前記放射導体に給電する給電部と、
誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を前記放射導体に近接して配置して、該誘電特性及び磁気特性に基づいて得られる波長短縮効果により、前記共振点周波数を前記所望周波数帯域よりも低い帯域に移動させる波長短縮手段と、
前記磁性体に磁界を印加して、前記磁性体による磁気的損失を低減させる磁界印加手段と、
を具備することを特徴とするアンテナである。
【0025】
携帯機器に搭載された送受信を行なうアンテナに対する小型化への要求は益々高まっているが、効率などの観点から素子長は動作周波数の1/4波長程度に設定されるため、小型化を図るには、放射導体とグランド導体間の電磁界の波長短縮を行なう必要がある。
【0026】
誘電特性と磁気特性を併せ持った磁性体を用いて波長短縮を行なう場合、誘電体を用いて場合に比べ、比誘電率に比透磁率を乗算した分だけより高い効果を得ることができる。ところが、磁性体が誘電体としての特性を併せ持つ場合、磁気的損失と誘電損失の両方が生じ、放射効率の低下を招くという問題もある。
【0027】
そこで、本発明では、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を前記放射導体に近接して配置して、該誘電特性及び磁気特性に基づいて波長短縮効果を得る場合に、前記磁性体に磁界を印加して、前記磁性体による磁気的損失を低減させるようにした。この結果、誘電的特性と磁気的特性とを併せ持つ磁性材料を波長短縮の材料に用い、非磁性誘電体では得られない大きな波長短縮効果を得ることができる。
【0028】
ここで、前記磁界印加手段は、基本的には、前記磁性体に直流磁界を印加する。
【0029】
また、1/4波長接地アンテナの場合、電流分布は給電端が最大であって、開放端では0になる。したがって、磁性体の透磁率を効果的に利用するためには、電流密度の高い部位に磁性体を配置することが効果的であり、また磁性体の損失を低減するために印加する外部磁界も電流密度の高い部位に印加することが効果的である。
【0030】
前記波長短縮手段が前記磁性体を前記放射導体に近接して配置する方法として、例えば、前記放射導体を前記磁性体の内部に形成したり、前記放射導体を前記磁性体の表面に形成したりすることが考えられる。
【0031】
前記放射導体は、導電性金属の印刷、金属箔、金属線のうちいずれかの導体で構成することができる。あるいは、前記放射導体は、導電性金属のスパッタ、蒸着、鍍金又はその他の薄膜プロセスを用いて形成することができる。あるいは、前記放射導体は、樹脂フイルム、又は薄い樹脂基板上の導体パターンで構成することができる。
【0032】
また、前記磁性体の一部を非磁性セラミックスに置き換えるようにしてもよい。
【0033】
また、前記磁界印加手段は、永久磁石を用いて前記磁性体に磁界を印加してもよいし、あるいは電磁石を用いて前記磁性体に磁界を印加するようにしてもよい。
【0034】
また、前記磁性体と前記磁界印加手段の代替手段として、残留磁化を有するバリウム・フェライトなどの永久磁石材料を波長短縮手段として用いることもできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、移動体通信機器などの機器に内蔵可能で、比較的波長の長いUHFテレビ帯域における電波を受信可能な、優れた小型アンテナを提供することができる。
【0036】
また、本発明によれば、波長短縮効果により共振点周波数をより低い帯域に移動させて使用帯域での定在波比を改善して小型に構成される、優れたアンテナを提供することができる。
【0037】
また、本発明によれば、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体から得られる波長短縮効果を利用して小型に構成される、優れたアンテナを提供することができる。
【0038】
本発明によれば、直流磁界を帯びた磁性体をアンテナ導体に近接させることで得られる波長短縮効果により、共振点周波数をより低い帯域に移動させ、使用帯域での定在波比を改善することができるので、アンテナの著しい小型化が可能となる。本発明に係るアンテナは、例えば地上はデジタル放送の1セグ放送(UHF帯)受信用の小型アンテナとして適用することができる。
【0039】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0041】
本発明は、移動体通信機器などの機器に内蔵可能な小型アンテナに関するものであり、とりわけ比較的波長の長いUHFテレビ帯域における電波を受信可能なアンテナに関する。
【0042】
一般に、効率などの観点から素子長は動作周波数の1/4波長程度に設定されるため、小型化を図るには、放射導体とグランド導体間の電磁界の波長短縮を行なう必要がある。誘電体や磁性体などの波長短縮効果のある材料を放射導体の近傍に配置するという方法が従来から知られている。特に、磁性体を用いたときには、比誘電率に比透磁率を乗算した分だけより高い波長短縮効果を得ることができる筈であるが、磁気的損失と誘電損失の両方が生じ、放射効率の低下を招くという問題がある。
【0043】
そこで、本発明では、誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を用いて波長短縮効果を得る場合に、磁性体に磁界を印加して磁気的損失を低減させ、非磁性誘電体では得られない大きな波長短縮効果を得るようにした。
【0044】
図1には、本発明の一実施形態に係るチップ・アンテナの外観構成を示している。また、図2には、同チップ・アンテナの構成部品を図解している。また、図3には、各構成部品の寸法の具体例を示している。
【0045】
放射導体11は、銅箔の逆F字パターンで構成され、2枚の磁性体ブロック12−1及び12−2によって挟持されている。また、F字の突端部は両磁性体ブロック12−1及び12−2から露出し、放射導体に給電する給電部を形成する。
【0046】
1/4波長接地アンテナの場合、電流分布は給電端が最大であって、開放端では0になる。したがって、磁性体の透磁率を効果的に利用するためには、電流密度の高い部位に磁性体を配置することが効果的であり、また磁性体の損失を低減するために印加する外部磁界も電流密度の高い部位に印加することが効果的である。そこで、本実施形態では、給電部の近傍で磁界が加わるように、両磁性体ブロック12−1の外側に磁界印加部13を取り付けた。磁界印加部13は、永久磁石あるいは電磁石で構成することができる。
【0047】
放射電極11を挟持する両磁性体ブロック12−1及び12−2、並びに磁界印加部13は、例えばポリイミド・テープ(図示しない)を巻設して固定されるが、これらの固定・接着方法は特に限定されない。
【0048】
磁性体ブロック12−1及び12−2は、例えば、鉄(Fe)の一部をアルミニウム(Al)、及びマンガン(Mn)で置き換えた、飽和磁束密度1,750Gを有するYIG(イットリウム鉄ガーネット)系フェライトの多結晶体に研削加工を施して作製される、長さ30mm、幅5mm、厚さ1.5mmのブロック材である。
【0049】
放射電極11は、例えば厚さ35μmの銅箔を図示の逆F字に切り出したパターンである。図1及び図2に示した例では、放射電極11は同寸法の両磁性体ブロック12−1及び12−2に挟持された、電極内蔵型のアンテナであるが、磁性体ブロックの表面に放射電極パターンを形成するタイプであってもよい。
【0050】
磁界印加部13に永久磁石を用いる場合、例えば、Nd−Fe−B系のチップ磁石を利用することができる。図1で用いられる角型チップ磁石の大きさは4mm×4mm×1.4mmであり、着磁方向はチップ磁石の板面(すなわち放射電極11の銅箔パターン表面)に対して垂直とした。このチップ磁石の積層枚数を増減することで、磁極近傍の磁界強度はある範囲内で変化する。本実施形態では積層枚数を5枚としたが、この際の磁極近傍の磁界強度は約5,400Oeである。
【0051】
なお、チップ・アンテナは直方体且つ平坦な形のアンテナの総称であり、小型・軽量化に適しているという一般的性質を持つ。但し、本発明の要旨はチップ・アンテナに限定されるものではなく、それ以外のアンテナにも当然適用することができる。
【0052】
図4には、図1に示したチップ・アンテナの動作特性を評価するための評価基板の外観構成を示している。また、図5には、この評価基板を用いて測定を行なう際の結線図を示している。
【0053】
評価基板21は、40mm×70mm×1mmの両面銅貼りガラス・エポキシ基板で構成され、基板の外周に銅箔テープを貼り、さらに半田付けによって両面銅貼り基板21の表面及び裏面の導体が接続されている。この銅貼り基板21は、図4に示すようにチップ・アンテナ10を取り付けた際にグランドとして動作する。
【0054】
図1に示したようにチップ・アンテナ10の放射導体は逆F字の銅箔パターンからなるが、図5に示すように、このF字が持つ2つの突端のうち一方をグランドに接続するとともに、他の一端を100pFのチップ・コンデンサを介し給電端としている。また、給電端には特性インピーダンス50Ωのセミリジッド同軸ケーブル22の中心導体を接続し、同軸ケーブル22の他端には測定器(図示しない)への接続のため、SMAコネクタ23を取り付けている。(SMA(SubMiniature Type A)コネクタは、マイクロ波帯で、最も一般的に使われているコネクタであり、内径が1.27mm、外径が4.2mmで、内導体を支持する絶縁物にはテフロン(登録商標)(比誘電率は約2.0)が用いられている。)
【0055】
評価基板21をネットワーク・アナライザ(図示しない)に接続して、SパラメータのうちS11を測定することができる。S(Scattering:散乱)パラメータとは、2つのポート(出入り口)を持つブラックボックスに交流信号という波が出入りする状況を想定し、その波の反射や透過の具合によりブラックボックスを表わしたものであり、下式(7)のように定義される。但し、a1及びa2は入力電圧、b1及びb2は反射電圧である。
【0056】
【数6】

【0057】
上式(7)において、SパラメータのS11は反射係数、S21は結合係数を表す。反射係数S11が小さいほどアンテナとしてマッチングが取れていることを示す。また、S21は、アンテナの結合特性、すなわち送信機から受信機への送信信号の振幅特性(減衰率)に相当し、所望の周波数帯域で高く且つ平坦であれば、マルチパスの影響が少なくて良い。ここでは、さらにS11から電圧定在波比(Voltage Standing Wave Ratio:VSWR)を求めている。VSWRは伝送線路の電圧の極大値と極小値の比のことであるが、反射係数が0のときはVSWR=1となり、反射係数が1に近づくとVSWRが高くなる。
【0058】
図6には、図1に示したチップ・アンテナについて200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示している。同図から判るように、VSWRは526MHz付近を極小値とする共振特性を示している。また、VSWR≦3となる周波数帯域は、526MHzを中心として53MHzである。アンテナの放射電極が空気中に孤立していると仮定すれば(εr=1、μr=1)、共振周波数である526MHzの1/4波長は143mmとなる。本実施形態に係る放射導体の素子長が27mmであり、この長さが共振周波数の1/4波長であることを考えると、放射導体の両面にフェライトを密接して設けることによって、実効的なアンテナの素子長が約1/5に短縮されたことになる。また、波長短縮をもたらす媒質として誘電特性と磁気特性とを併せ持つフェライトを用い、且つ外部から静磁界を印加するならば、アンテナを小型化し得ることは明らかである。
【0059】
また、チップ・アンテナを取り付けた評価基板21をスペクトラム・アナライザに接続し、対数周期アンテナを接続した信号源より電磁波を輻射することで、チップ・アンテナの受信感度を測定することができる。この測定は電波暗室内で行ない、送信アンテナより3m離れた位置で評価基板を図4に示したX、Y、Z各軸の回りに回転させ、その間の受信感度の変化を測定する。図7には、測定結果の一例として、471MHzから711MHzの間で測定した最大利得の周波数変化を示している。同図に示す例では、最大利得は520MHzで−22dBdであった。
【0060】
図6及び図7に示した測定結果からは、波長短縮をもたらす媒質として誘電特性と磁気特性とを併せ持つフェライトを用い、且つ外部から静磁界を印加するならば、アンテナを小型化し得ることが判った。これは、フェライトが持つ誘電特性及び磁気特性に基づいてより高い波長短縮効果を得ることと、直流磁界を印加することで、フェライトによる磁気的損失を低減させることの相乗効果であると本発明者らは理解している。
【0061】
そこで、確認のために、図1に示したチップ・アンテナ10から永久磁石13を取り外し、フェライトに対して直流磁界を印加しないで同様の測定を行なってみた。
【0062】
図8には、永久磁石13を取り外したチップ・アンテナ10について200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示している。図6と比較して明らかなように、VSWRは周波数の増加に伴い単調に減少する傾向を示すものの、明確な共振点は認められない。
【0063】
また、図9には、永久磁石13を取り外したチップ・アンテナの受信感度の測定結果を示している。同図と図7の比較結果からも判るように、アンテナに磁界を印加しない場合には、VSWRが低下しないのみならず、利得が極めて低く、アンテナとしては全く機能していない。
【0064】
図8及び図9に示した測定結果から判るように、磁性体によって構成されたチップ・アンテナの場合、外部からの磁界を除去した場合には、アンテナとしてはほとんど動作しなくなる。この理由を明らかにするために、図1に示したチップ・アンテナにおいて磁性体ブロック12として使用するフェライト材料の透磁率を測定してみた。
【0065】
透磁率の測定に際して、まず超音波加工機を用いて、磁性体基板から外形7mm、内径3mm、厚さ0.8mmのリング状の試料を切り出す。そして、このリング状試料に直径0.3φの2重絹巻線を5回だけ巻く。ここで、2重絹巻線のインダクタンスをLとし、この2重絹巻線に損失がある場合、それを抵抗Rで表すと、LとRの直列インピーダンスZは下式(8)のように表される。
【0066】
【数7】

【0067】
このインピーダンスZをjωμL’とおき、比透磁率μの実部及び虚部をそれぞれμ’、μ”とおいて複素形式にすると、上式(8)は下式(9)のように変形される。
【0068】
【数8】

【0069】
したがって、L=μ’L’、R=ωμ”L’となることから、インピーダンス・アナライザによって測定し、得られたインピーダンスのインダクタンスLから比透磁率の実部μ’を、抵抗Rから虚部μ”をそれぞれ求めることができる(例えば、大田恵造著「磁気工学の基礎II」(pp304−307、共立全書201 共立出版 2004)を参照のこと)。さらに、これらの値から磁気による損失係数tanδを算出することができる。
【0070】
図10には、磁界を印加しない場合の1MHzから40MHzまでの区間における上記リング状磁性体の透磁率の変化を示している。同図から明らかなように、外部から磁界を加えない場合、1MHz程度の低周波数領域では比透磁率の実部μ’は100前後の高い値を示すものの、周波数の増加に伴いμ’が急激に低下するとともに虚部μ”が急激に増加する。その結果、10MHz以上の周波数領域では、損失係数tanδはほぼ1となり、大きな損失を生じることが判る。
【0071】
また、図11には、直流磁界を印加した場合の1MHzから40MHzまでの区間における上記リング状磁性体の透磁率の変化を示している。但し、直流磁界の印加には永久磁石を用い、また印加する磁界の方向は透磁率を測定する際の磁路方向(リング周方向)に対して直交する方向とし、リング試料表面近傍に約5,000Oeの磁界を印加した。μ’の値は無磁界の場合よりも低下するものの、1MHzから40MHzまでの区間で殆ど周波数に依存せず、ほとんど平坦な周波数特性を示す。さらに特徴的なこととして、広い周波数範囲にわたって透磁率の虚数部μ”の値が極めて小さくなり、その結果、損失係数tanδも1MHzから40MHzの区間でほぼ零の値を示している。
【0072】
これまで示した測定結果を要約すると、アンテナに外部磁界を印加しない場合には高々数十MHzの領域で大きな磁気的損失が生じ、これがアンテナとしての特性を大きく損なうが、磁界を印加した場合にはこの損失が大幅に減少することによって高周波領域におけるアンテナ特性が維持される、と言うことができる。
【0073】
続いて、磁性体が有する磁束密度が波長短縮効果に与える影響について考察してみる。図1に示したチップ・アンテナにおいて、放射導体11を挟持する磁性体ブロック12を、飽和磁束密度400Gを有するMn、Alを添加したYIG系フェライト多結晶体に研削加工を施し、長さ30mm、幅5mm、厚さ1.5mmに作製したブロックに置き換えた。そして、上述と同様に、このチップ・アンテナの放射素子の給電部近傍に磁界が印加されるように永久磁石を設けた。但し、ここでは、フェライト・ブロックと永久磁石との間に空隙を設け、フェライトに印加される磁界が約1,000Oeになるよう調節した。
【0074】
この場合も、図4に示したように、40mm×70mm×1mmの両面銅貼りガラス・エポキシ基板上に取り付けて評価基板21を作製し、この評価基板21をネットワーク・アナライザ(図示しない)に接続し、S11を測定することでVSWRを求めた。図12には、このときのVSWRの測定結果を示している。図示のように、VSWRは645MHz付近で極小値をとり、そのVSWRの値はほぼ1となった。また、この周波数を中心に、UHFTVの放送周波数帯域である470MHzから770MHzの間でVSWRの値は3.5を示した。
【0075】
また、図13には、直流磁界を印加した効果を確認するために、飽和磁束密度400Gを有するMn、Alを添加したYIG系フェライト多結晶体を磁性体に用いたチップ・アンテナから永久磁石を取り外したときに、同様にS11の測定値からVSWRを求めた結果を示している。図12と比較すると、直流磁界を印加したときにはVSWRの周波数特性上に現れる、共振を示すピークは不明確となり、さらにVSWRも4以下には低下しない。
【0076】
また、飽和磁束密度400Gを有するMn、Alを添加したYIG系フェライト多結晶体からなる磁性体ブロックから外形7mm、内径3mm、厚さ0.8mmのリング状の試料を切り出し、このリング状試料に直径0.3φの2重絹巻線を5回だけ巻いて、透磁率を測定してみた。
【0077】
図14及び図15には、リング状試料に磁界を印加しない場合と印加した場合それぞれについての透磁率の測定結果を示している。但し、後者では、印加する磁界の方向は透磁率を測定する際の磁路方向(リング周方向)に対して直交する方向とし、リング試料表面近傍に約5,000Oeの磁界を印加した。図10及び図11に示した場合と同様に、外部から磁界を印加しない場合には、数十MHzの比較的周波数の低い領域から急激に損失が増大するのに対し、透磁率の測定方向と直交する方向に直流磁界を印加することで、磁気的損失が著しく低減することが判る。
【0078】
続いて、誘電特性と磁気特性を併せ持った磁性体を用いたチップ・アンテナにおける透磁率による波長短縮の効果について考察する。ここでは、磁性体の効果を確認するために、磁性体に代えて誘電体を用いて図1に示したものと同様のチップ・アンテナを作製し、その波長短縮効果について確認してみた。但し、誘電体として、比誘電率20を有するアルミナ系セラミックを用いた。
【0079】
この場合も、図4に示したように、40mm×70mm×1mmの両面銅貼りガラス・エポキシ基板上に取り付けて評価基板21を作製し、この評価基板をネットワーク・アナライザ(図示しない)に接続し、S11を測定することでVSWRを求めた。図12には、このときのVSWRの測定結果を示している。同図から判るように、磁性体の替りに非磁性の誘電体を用いた場合には、共振点は1.33GHz近傍の高周波領域に現れるだけであって、図6及び図12に示したような500〜600MHz付近でのVSWRの低下は見られない。
【0080】
比較的低い飽和磁束密度400Gの磁性体を用いて構成されるチップ・アンテナについての200MHzから1GHzの区間におけるVSWRについては、図12を参照しながら既に説明した通りである。ここでは、参考のため、より広い周波数範囲でVSWRを測定し、その結果を図17に示した。VSWRの極小値は既に述べた500〜600MHz近傍に加え、1.55GHz付近にもピークが現れていることが確認できた。ちなみに、比誘電率20の誘電体で構成されるチップ・アンテナでは、1.33GHzに共振点が現れた。
【0081】
また、ここで用いたフェライト材料のGHz帯における比誘電率が14程度であることを考慮すると、このGHz領域でのVSWRのピークは、透磁率が1に近づくものの誘電率が残っているためにもたらされたものであると考えられる。すなわち、誘電的特性と磁気的特性とを併せ持つ磁性材料を波長短縮の材料に用いるならば、非磁性誘電体では得られない大きな波長短縮効果が得られることを示していると言える。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本明細書では、アンテナ素子として基本的と考えられる1/4波長型接地アンテナを例に取り上げ、磁性体による波長短縮の効果を検証した。その結果、仮に空気を誘電体とした場合には12cm程度の長さを要するアンテナを、僅か3cm程度まで短縮可能であることを明らかにした。また、従来から知られている通常の誘電体セラミックによって構成した場合に比べても、さらに長さをその1/2程度まで短縮できることも明らかにした。
【0083】
本明細書では、特定の実施形態を参照しながら本発明について詳解してきたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0084】
例えば、本発明に係るアンテナを例えば携帯用TV受信機に適用した場合、従来からの長いロッド・アンテナを廃することが可能となり、さらには機器への内蔵も可能であることから、機器の携帯性を格段に高めることができる。また、アンテナを内蔵することによって、機器の外観デザインの自由度を高めるとともに、アンテナの折損などへの配慮を不要にするなど、副次的な効果も期待できる。
【0085】
また、本明細書では、1/4波長型の接地アンテナを例に取り、その効果を説明してきたが、波長短縮の効果はここで例示した接地アンテナだけに限定されるものではないことは明白である。
【0086】
本明細書で取り上げた実施形態では、放射導体として銅箔を用いたが、当然のことながら導電性の塗料などによって放射電極パターンを描いても同等の効果が得ることができる。さらには放射電極のパターンをフレキシブル配線板あるいはガラス・エポキシなどからなる配線板上に描いても、同様の効果がもたらされる。
【0087】
また、本明細書で取り上げた実施形態では、外部磁界を印加する手段として永久磁石を用いたが、アンテナの外部から電磁石によって直流磁界を印加しても全く等価である。さらにフェライトとして、残留磁化を有するバリウム・フェライトなどの永久磁石材料で構成した場合には、外部から磁界を印加する手段を省くことも可能である。
【0088】
本発明に係るアンテナは、小型化を実現するための波長短縮手段を、放射導体に密接して波長短縮効果をもたらすための誘電特性を示す磁性体と、この磁性体の磁気的損失を低減させるための磁界印加手段により構成しているが、自発的に磁化される永久磁石材料を波長短縮手段として適用することも可能である。
【0089】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るチップ・アンテナの外観構成を示した図である。
【図2】図2は、図1に示したチップ・アンテナの構成部品を示した図である。
【図3】図3は、図1に示したチップ・アンテナの各構成部品の寸法の具体例を示した図である。
【図4】図4は、図1に示したチップ・アンテナを評価するための評価基板の外観構成を示した図である。
【図5】図5は、図4に示した評価基板を用いて測定を行なう際の結線図である。
【図6】図6は、図1に示したチップ・アンテナについて200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示した図である。
【図7】図7は、図1に示したチップ・アンテナの受信感度の測定結果を示した図である。
【図8】図8は、永久磁石13を取り外したチップ・アンテナについて200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示した図である。
【図9】図9は、永久磁石13を取り外したチップ・アンテナの受信感度の測定結果を示した図である。
【図10】図10は、磁界を印加しない場合の1MHzから40MHzまでの区間におけるリング状磁性体の透磁率の変化を示した図である。
【図11】図11は、直流磁界を印加した場合の1MHzから40MHzまでの区間におけるリング状磁性体の透磁率の変化を示した図である。
【図12】図12は、より低い飽和磁束密度を持つ磁性体に置き換えられたチップ・アンテナについて200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示した図である。
【図13】図13は、永久磁石を取り外したチップ・アンテナについて200MHzから1GHzの間で測定したVSWRを示した図である。
【図14】図14は、磁界を印加しない場合の1MHzから40MHzまでの区間におけるリング状磁性体の透磁率の変化を示した図である。
【図15】図15は、磁界を印加した場合の1MHzから40MHzまでの区間におけるリング状磁性体の透磁率の変化を示した図である。
【図16】図16は、磁性体に代えて誘電体を用いて構成されるチップ・アンテナについてのVSWR測定結果を示した図である。
【図17】図17は、飽和磁束密度400Gの磁性体を用いて構成されるチップ・アンテナについてより広い周波数範囲でVSWRを測定した結果を示した図である。
【符号の説明】
【0091】
10…チップ・アンテナ
11…放射導体
12…磁性体ブロック
13…磁界印加部
21…評価基板
22…セミリジッド同軸ケーブル
23…SMAコネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望周波数帯域の電波を受信するアンテナであって、
共振点周波数において共振する放射導体及びグランド導体と、
前記放射導体に給電する給電部と、
誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を前記放射導体に近接して配置して、該誘電特性及び磁気特性に基づいて得られる波長短縮効果により、前記共振点周波数を前記所望周波数帯域よりも低い帯域に移動させる波長短縮手段と、
前記磁性体に磁界を印加して、前記磁性体による磁気的損失を低減させる磁界印加手段と、
を具備することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記磁界印加手段は、前記磁性体に直流磁界を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記波長短縮手段は、前記放射導体の電流密度が高い部位に前記磁性体を配置する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記磁界印加手段は、前記放射導体の電流密度が高い部位にて前記磁性体に対し外部磁界を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記放射導体は前記磁性体の内部に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記放射導体は前記磁性体の表面に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項7】
前記磁性体の一部は非磁性セラミックスに置き換えられている、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記放射導体は、導電性金属の印刷、金属箔、金属線のうちいずれかの導体で構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記放射導体は、導電性金属のスパッタ、蒸着、鍍金又はその他の薄膜プロセスを用いて形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項10】
前記放射導体は、樹脂フイルム、又は薄い樹脂基板上の導体パターンで構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項11】
前記磁界印加手段は、永久磁石を用いて前記磁性体に磁界を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項12】
前記磁界印加手段は、電磁石を用いて前記磁性体に磁界を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項13】
所望周波数帯域の電波を受信するアンテナであって、
共振点周波数において共振する放射導体及びグランド導体と、
前記放射導体に給電する給電部と、
誘電特性と磁気特性を併せ持つ磁性体を前記放射導体に近接して配置して、該誘電特性及び磁気特性に基づいて得られる波長短縮効果により、前記共振点周波数を前記所望周波数帯域よりも低い帯域に移動させる波長短縮手段を備え、
前記磁性体は永久磁石で構成される、
を具備することを特徴とするアンテナ。
【請求項14】
前記永久磁石は、残留磁化を有するバリウム・フェライトで構成される、
ことを特徴とする請求項13に記載のアンテナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−67994(P2007−67994A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253081(P2005−253081)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】