説明

アントラセン骨格を有するエポキシアクリレート及びその製造法

【課題】アントラセン骨格を有し、かつラジカル重合性を有する高屈折率アクリレート化合物及びその製造方法の提供。
【解決手段】例えば9−グリシジルオキシアントラセンとアクリル酸をテトラブチルアンモニウムブロマイドの存在下反応させて得られる、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンと9−(3−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンの二種の異性体及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率材料として有用なアントラセン骨格を有するエポキシアクリレート及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学レンズの分野などにおいてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。たとえば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどがよく知られている。これらプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率の面では無機ガラスより低く、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率プラスチック材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、 TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への応用検討が盛んに行われている。
【0003】
有機化合物の屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く。)や硫黄原子を導入することが有用であることは既に良く知られている。たとえば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル骨格にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化によって、耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。又、ハロゲン以外に高い固有屈折率を示す硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、これらは高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、得られたポリマーの耐光性が著しく劣り、また硫黄特有の不快臭が問題となる欠点があった。
【0004】
一方、芳香族骨格を有するアクリレート化合物の重合物は脂環式アクリレートの重合物に比較し、屈折率が高いことが知られており、高屈折率の重合物を得るための原料として、例えばフェニル基を有するフェノキシエチルアクリレート化合物について報告例がある(特許文献3〜6)。これら芳香族骨格を有するアクリレート化合物は、軽くて透明性に優れ、バランスの良い高屈折率材料となる(特許文献7、8)。導入する芳香族環としては、ベンゼン環より、ビフェニル環がより高屈折率となる。そして、ナフタレン骨格を有するアクリレートについても高屈折率化合物としていくつか報告例がある(特許文献9、10)。また、さらに縮合度の高い環あるいはさらに多環式の環を導入することにより、さらに、高屈折率の材となることが知られており、フルオレン骨格等の導入(特許文献11)やアントラセン骨格の導入(特許文献12)が検討されている。
【0005】
しかしながら、さらに高屈折率が期待されるアントラセン骨格を有する重合性化合物およびその重合物については報告例が少ない。たとえば、ラジカル重合性基を持つアントラセン化合物として、9−ビニルアントラセンが提案されているが、この化合物は一般的なラジカル重合法では重合あるいは共重合がまったく進行しないか、あるいはきわめて重合速度が小さい。そのため、有機アルミニウムハイドライドなどの特殊な金属塩触媒を用いて重合する例が報告されている(特許文献13)。
【0006】
一方、アントラセン骨格を有するアクリレート化合物を光重合用増感剤として用いる例が近年報告されている(特許文献14,15)が、当該文献では、光重合用増感剤としての効果は記載されているが高屈折率を有する重合体合成原料として用いることに関しては記載されていない。また、アントラセン骨格にエチレンオキサイド結合を介してアクリレート基を結合させた化合物が開示されており、その重合体が高屈折率を有することが示されている(特許文献16)が、さらに高屈折率で、生成する重合体の塗膜性能が優れた重合体原料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特表2003−144538号公報
【特許文献4】特表2002−511012号公報
【特許文献5】特表2002−511598号公報
【特許文献6】特開平06−230224号公報
【特許文献7】特開2003−064296号公報
【特許文献8】特開2006−350290号公報
【特許文献9】特開2001−276587号公報
【特許文献10】特開2008−81682号公報
【特許文献11】特開2004−083855号公報
【特許文献12】特開2006−312709号公報
【特許文献13】特許02507889号公報
【特許文献14】特開2007−99637号公報
【特許文献15】特開2007−204438号公報
【特許文献16】特開2009−40811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の解決しようとする課題は、アントラセン骨格を有し、かつラジカル重合性を有する高屈折率アクリレート化合物及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、アクリル基を有するアントラセン化合物の構造と特性について鋭意検討した結果、下記一般式(1)に示されるアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートが高い屈折率を示すことを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下に記載の骨子を要旨とするものである。
【0011】
本発明の第1の要旨は、下記一般式(1)で示されるアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートに存する。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方が水素原子を示すとともに他方は(メタ)アクリロイル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0014】
本発明の第2の要旨は、9−グリシジルオキシアントラセン化合物を(メタ)アクリル酸と反応させることよりなる上記一般式(1)で示されるアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートの製造方法に存する。
【0015】
本発明の記述において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを表し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートは新規な化合物であり、高い屈折率を示す工業的に有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートは、下記一般式(1)に記載の構造を有する新規な化合物で、一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方が水素原子を示すとともに他方は(メタ)アクリロイル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(1)に示す、アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートには、下記の二種の異性体が存在する。すなわち、Zが(メタ)アクリロイル基であり、かつ、Zが水素原子である場合が下記一般式(2)で表される9−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]アントラセン化合物である。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、X及びYで表す置換基の種類は一般式(1)の場合と同じである。
【0022】
さらに、Zが水素原子であり、かつ、Zが(メタ)アクリロイル基である場合は下記一般式(3)で表される9−[3−ヒドロキシ−2−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]アントラセン化合物である。
【0023】
【化4】

【0024】
一般式(3)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、X及びYで表す置換基の種類は一般式(1)の場合と同じである。
【0025】
一般式(1)乃至(3)に於いて、XまたはYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、XまたはYで表されるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、XまたはYで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、XまたはYで表されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、XまたはYで表されるアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、XまたはYで表されるアリールチオ基としては、フェニルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)で表されるアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートとしては、例えば、次のものが挙げられる。すなわち、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等である。
【0027】
更に、上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートのアントラセン骨格に、アルキル基が置換した誘導体としては、2−メチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−エチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−エチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−エチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−エチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−エチル−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−エチル−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−エチル−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−(t−ブチル)−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−(t−ブチル)−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−(t−ブチル)−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−(t−ブチル)−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−(t−ブチル)−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−(t−ブチル)−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−(t−ブチル)−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0028】
更に、上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートのアントラセン骨格に、ハロゲン原子が置換した誘導体としては、2−クロロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−クロロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−クロロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−クロロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−クロロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−クロロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−クロロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−クロロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フルオロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フルオロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フルオロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フルオロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フルオロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フルオロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フルオロ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フルオロ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フルオロ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−ブロモ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−ブロモ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−ブロモ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−ブロモ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−ブロモ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−ブロモ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−ブロモ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0029】
更に、上記アントラセン化合物のアントラセン骨格に、アルコキシ基が置換した誘導体としては、2−メトキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メトキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メトキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メトキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メトキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メトキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メトキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メトキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メトキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0030】
更に、上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートのアントラセン骨格に、アリールオキシ基が置換した誘導体としては、2−フェノキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フェノキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フェノキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フェノキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フェノキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フェノキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フェノキシ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フェノキシ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フェノキシ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0031】
更に、上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートのアントラセン骨格に、アルキルチオ基が置換した誘導体としては、2−メチルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メチルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メチルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メチルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メチルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メチルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メチルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メチルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−メチルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0032】
更に、上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートのアントラセン骨格に、アリールチオ基が置換した誘導体としては、2−フェニルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、2−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フェニルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フェニルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、3−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、3−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フェニルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フェニルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、1−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、1−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フェニルチオ−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フェニルチオ−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、4−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン、4−フェニルチオ−9−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0033】
上記アントラセン骨格を有するエポキシアクリレートの中では、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(下記構造式(4)の化合物)、9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(下記構造式(5)の化合物)が、合成の容易さや屈折率の高さ等から好ましい。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
本発明の化合物は、その構造の中に重合性を示すアクリレート基をひとつ持つことから、光や熱によりラジカル重合をおこし、重合物を作ることが可能である。また、本発明の化合物は、その屈折率が、1.6を超える高い値を示し、当該化合物の重合物もまた、高屈折率化合物となる。また、本発明の化合物は、メチルイソブチルケトンなどの一般的な溶剤あるいはトリメチロールプロパントリアクリレートなどのラジカル重合性モノマーとの相溶性が高く、その意味でも実用性の高い化合物である。
【0037】
[製造方法]
次に、本発明のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートの製造法について記述する。一般式(1)に示す、本発明のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートは、9−アントロン化合物を塩基性化合物の存在下、エピハロヒドリン化合物と反応させて構造式(6)で表される9−グリシジルオキシアンントラセン化合物となす第一反応と、第一反応で得られた9−グリシジルオキシアンントラセン化合物をさらに、アクリル酸もしくはメタクリル酸と反応させる第二反応より得ることが出来る。
【0038】
【化7】

【0039】
第一反応において原料となる9−アントロン化合物としては、9−アントロン、2−メチル−9−アントロン、2−エチル−9−アントロン、2−(t−ブチル)−9−アントロン、2−クロロ−9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン、2−フルオロ−9−アントロン、2−メトキシ−9−アントロン、2−エトキシ−9−アントロン、2−フェノキシ−9−アントロン、2−メチルチオ−9−アントロン、2−フェニルチオ−9−アントロン、1−メチル−9−アントロン、1−エチル−9−アントロン、1−(t−ブチル)−9−アントロン、1−クロロ−9−アントロン、1−ブロモ−9−アントロン、1−フルオロ−9−アントロン、1−メトキシ−9−アントロン、1−エトキシ−9−アントロン、1−フェノキシ−9−アントロン、1−メチルチオ−9−アントロン、1−フェニルチオ−9−アントロン、3−メチル−9−アントロン、3−エチル−9−アントロン、3−(t−ブチル)−9−アントロン、2−クロロ−9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン、3−フルオロ−9−アントロン、3−メトキシ−9−アントロン、3−エトキシ−9−アントロン、3−フェノキシ−9−アントロン、3−メチルチオ−9−アントロン、3−フェニルチオ−9−アントロン、4−メチル−9−アントロン、4−エチル−9−アントロン、4−(t−ブチル)−9−アントロン、2−クロロ−9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン、4−フルオロ−9−アントロン、4−メトキシ−9−アントロン、4−エトキシ−9−アントロン、4−フェノキシ−9−アントロン、4−メチルチオ−9−アントロン、4−フェニルチオ−9−アントロン等が挙げられる。
【0040】
エピハロヒドリン化合物としては、たとえば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等が挙げられる。エピハロヒドリン化合物の添加量は9−アントロン化合物に対して、1モル倍から3モル倍添加する。1モル倍未満では、未反応の9−アントロン化合物残留し好ましくない。また、エピハロヒドリン化合物の添加量が過剰な場合、例えば、3モル倍を越えて添加した場合は、副生物が多く、生成物の純度が低下し、これまた好ましくない。
【0041】
塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。塩基性化合物の添加量は9−アントロン化合物に対して1倍モルから1.5倍モルが望ましい。
【0042】
反応は通常、溶媒の存在下行われる。使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、エチレングリコール、ジメトキシエタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒、ジクロルメタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒が用いられる。これらの溶媒の内でもアミド系溶媒が生成物純度が高いため好ましく、中でも、扱いやすさから特にジメチルアセトアミドが好ましい。
【0043】
反応温度は、0℃以上、60℃以下が望ましい。0℃未満では反応が遅く、60℃を超える温度では副反応による副生物が増加するため好ましくない。反応時間は反応温度によるが、通常2時間から20時間である。
【0044】
このようにして、第一反応で得られた9−グリシジルオキシアントラセン化合物をアクリル酸またはメタクリル酸と反応させる第二反応により、一般式(1)に示すアントラセン化合物となす事が出来る。
【0045】
本発明の一般式(1)に示すアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートは、9−グリシジルオキシアントラセン化合物とアクリル酸またはメタクリル酸との付加反応によって得ることができる。
【0046】
9−グリシジルオキシアントラセン化合物に対する、アクリル酸又はメタクリル酸の付加反応において用いられる触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジブチルアミンなどの有機塩基を用いることができる。また特開昭59−70642によれば、4級アンモニウム塩が優れた触媒効果を持つことが示されている。
【0047】
本反応に用いられる9−グリシジルオキシアントラセン化合物のアクリル酸又はメタクリル酸による付加反応におけるこれら触媒の効果について鋭意検討した結果、活性および選択性の両面から、4級アンモニウム塩および4級ホスオニウム塩が本反応に適していることを見いだした。4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ、4級ホスホニウム塩としては、トリブチルメチルホスホニウムアイオダイド、トリブチルオクチルホスホニウムブロマイド、トリブチルヘキサデイシルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0048】
用いられるオニウム塩の量は、9−グリシジルオキシアントラセン化合物に対して0.3モル%以上、25モル%以下が好ましい。より好ましくは0.5モル%以上、10モル%以下である。0.3モル%未満であれば、反応速度が遅く反応時間がかかりすぎ、25モル%を越えると、生成物の純度が低くなり、いずれも好ましくない。
【0049】
9−グリシジルオキシアントラセン化合物に対するアクリル酸又はメタクリル酸の付加反応において用いられる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等などのケトン系溶媒、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒など各種の溶媒が用いられる。
【0050】
9−グリシジルオキシアントラセン化合物に対するアクリル酸又はメタクリル酸の添加量は1モル倍以上5モル倍以下が好ましい。より好ましくは1.2モル倍以上2モル倍以下である。1モル倍未満であれば、未反応のジグリシジルエーテル化合物が残り、また、5モル倍を越えると、副生物が生成しやすくなり、いずれも好ましくない。
【0051】
反応温度は50℃から150℃の間で行うのが好ましい。より好ましくは70℃から120℃の範囲である。50℃未満では反応時間がかかりすぎ、また、150℃を超えるとアクリル酸またはメタクリル酸の重合が進み、いずれも好ましくない。
【0052】
反応は、窒素雰囲気下で実施することが好ましい。空気雰囲気下では、反応液が着色しやすく、生成物の色調が悪化するので好ましくない。
【0053】
当該反応において、(メタ)アクリル酸又は生成物が重合することを防止するために重合禁止剤を存在させてもよい。重合禁止剤としては、4−メトキシフェノール、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)等が用いられる。重合禁止剤の添加量としては、(メタ)アクリル酸に対して0.05〜5重量%添加するのが好ましい。
【0054】
反応終了後、酢酸エチルなどの抽出溶媒を加えた後、飽和重炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄することで、過剰に用いたアクリル酸またはメタアクリル酸を除去する。次いで水で洗浄後、溶媒を溜去することで、2種の異性体混合物として高純度の目的物が得られる。
【0055】
得られた異性体混合物は、再結晶又はシリカゲルカラムクロマトグラフィー等による分離精製により、それぞれを単離することができる。これらの構造異性体は、分離精製した単独の化合物として重合反応により重合物とすることができるが、混合物のままでも容易に重合反応を起こし、所望の高屈折率の重合物を得ることができる。
【0056】
得られた化合物の同定は、赤外スペクトル、マススペクトル、H−NMRスペクトルを用いて行い、これらの化合物が一般式(1)に示すアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートであることを確認した。
【0057】
生成物の確認に用いた測定機器は次の通りである。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(3)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式GSX FT NMR Spectorometer
(4)Massスペクトル:島津製作所社製、質量分析計、型式GCMS−QP5000
(5)屈折率:ERMA製ユニバーサルアッベ屈折率計ER−7MW
【0058】
下記の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は、重量基準である。
【実施例1】
【0059】
<9−グリシジルオキシアントラセンの合成>
温度計、攪拌機つきの100ml三口フラスコに、窒素雰囲気下、氷水浴に浸けながら、9−アントロン3.84g(20ミリモル)にジメチルアセトアミド18mlを加えスラリーとし、そこに水酸化ナトリウム0.88g(22ミリモル)を水10mlに溶解した水溶液を加え均一溶液とした。次いで、エピブロモヒドリン2.74g(20ミリモル)をジメチルアセトアミド4mlに溶解した溶液を加えた。1時間攪拌後、氷水浴を外し、水を7g加えて放置し、析出したカーキ色の結晶をロ別洗浄して、2.65gの薄黄色の粉末を得た。
【0060】
このものは、下記に示すIR、H−NMR分析により、9−グリシジルオキシアントラセンであることがわかった。生成物の原料9−アントロンに対する収率は52モル%であった。
(1)融点: 95−96℃
(2)IR(KBr、cm−1): 3050,2910,2860,1620,1440,1400,1358,1321,1280,1088,1070,980,902,852,830,736.
(3)H−NMR(CDCl、270MHz):δ=2.79−2.83(m,1H),2.96(t,J=4Hz,J=2Hz,1H),3.54−3.62(m,1H),4.17(dd,J=8Hz,J=4Hz,1H),4.50(dd,J=8Hz,J=2Hz,1H),7.40−7.56(m,4H),7.94−8.05(m,2H),8.24(s,1H),8.30−8.42(m,2H).
【実施例2】
【0061】
<9−グリシジルオキシアントラセンとアクリル酸との反応によるアクリル酸付加体の合成>
窒素気流下、反応器に9−グリシジルオキシアントラセン8.0g(0.032モル)、アクリル酸3.0g(0.042モル)、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド、440mg、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(以下、TEMPOと略す)11mgに、溶媒としてメチルイソブチルケトン70mlを加えた。この原料組成物を反応温度、110℃に保って4.0時間反応を行った。反応液の一部をサンプリングし、液体クロマトグラフィーで分析し、原料の9−グリシジルオキシアントラセンが完全に消費されていることを確認し、反応を終了した。反応液を室温まで冷却し、抽出溶媒として酢酸エチルを30ml加え、この有機層を飽和重曹水で洗浄し、過剰のアクリル酸を除いた。次いで水で洗浄後、溶媒を減圧溜去すると、赤褐色の液体、9.8gが得られた。
【0062】
液体クロマトグラフィーの分析で、アントラセン骨格を有するエポキシアクリレート化合物の異性体と思われる2本のピークが検出された。すなわち、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンと9−(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンの二種の異性体である。液体クロマトグラフィーで分析したところ、異性体を合わせた純度は96.4%であった。また異性体の比は21.8%/74.5%であった。
【0063】
所望により、粗体を再結晶してほぼ優位な異性体のみからなる目的物を得ることもできる。すなわち、粗体をトルエン、20ml、ヘキサン、10mlの混合溶媒から再結晶すると、淡黄色結晶、4.0gが得られる。液体クロマトグラフィーで分析したところ、異性体を合わせた純度は98.9%であった。また異性体の比は6.2%/91.7%であった。再結晶体の収率は38.1%であった。
【0064】
H−NMR分析によって、このものは、優位な異性体、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンが主成分であることが分かった。
【0065】
次に、上記の異性体混合物1.0gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって分離精製した。溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン(容量比、1.0/2.0)を用いた。溶出液を処理し、液体クロマトグラフィーおよびH−NMRで分析したところ、溶出順位の最も早い成分は優位な異性体、9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(major isomer)であり、また二番目の溶出成分は、劣位の異性体、9−(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(minor isomer)であることが分かった。
【0066】
<9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(major isomer)の物理化学的性質>
(1)融点:94.4−99.0℃
(2)質量分析:(M)322
(3)IRスペクトル(KBr、cm−1):3510、3055、2940、1717、1635、1625、1560、1405、1342、1298、1278、1200、1095、975、842、808、740.
(4)H−NMRスペクトル(CDCl、270MHz): δ=8.17−8.32(m、3H)、7.90−8.02(m、2H)、7.40−7.52(m、4H)、6.42−6.53(m、1H)、6.12−6.28(m、1H)、5.84−5.92(m、1H)、4.38−4.61(m、3H)、4.21−4.30(m、2H)、3.01(bs、1H).
【0067】
<9−(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(minor isomer)の物理化学的性質>
(1)黄色液体
(2)質量分析:(M)322
(3)IRスペクトル(neat、cm−1):3450、3060、2940、2880、1720、1708、1638、1620、1560、1405、1342、1298、1277、1195、1060、980、840、808、738.
(4)H−NMRスペクトル(CDCl、270MHz): δ=8.17−8.32(m、3H)、7.88−8.01(m、2H)、7.38−7.50(m、4H)、6.47−6.60(m、1H)、6.17−6.23(m、1H)、5.89−5.96(m、1H)、5.45−5.58(m、1H)、4.32−4.57(m、2H)、4.11−4.22(m、2H)、2.47−2.58(s、1H).
【実施例3】
【0068】
<9−グリシジルオキシアントラセンとメタクリル酸との反応によるメタクリル酸付加体の合成>
窒素気流下、反応器に9−グリシジルオキシアントラセン5.0g(0.025モル)、メタクリル酸2.73g(0.032モル)、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド、273mg、重合禁止剤としてTEMPO5mgに、溶媒としてメチルイソブチルケトン40mlを加えた。この原料組成物を反応温度、110℃に保って3.0時間反応を行った。反応液の一部をサンプリングし、液体クロマトグラフィーで分析し、原料の9−グリシジルオキシアントラセンが完全に消費されていることを確認し、反応を終了した。反応液を室温まで冷却し、抽出溶媒として酢酸エチルを20ml加え、この有機層を飽和重曹水で洗浄し、過剰のメタクリル酸を除く。次いで水で洗浄後、溶媒を減圧溜去すると異性体混合物として黄褐色の固体、一部液体、6.0gが得られた。
【0069】
液体クロマトグラフィーの分析で、アントラセン骨格を有するエポキシアクリレート化合物の異性体と思われる2本のピークが検出された。すなわち、9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(major isomer)と9−(2−メタクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(minor isomer)の二種の異性体である。液体クロマトグラフィーで分析したところ、異性体を合わせた純度は96.6%であった。また異性体の比は76.7%/19.9%であった。
【0070】
所望により、粗体を再結晶してほぼ優位な異性体のみからなる目的物を得ることもできる。すなわち、粗体をトルエン、20ml、ヘキサン、15mlの混合溶媒から再結晶すると、淡褐色結晶、3.02gが得られる。液体クロマトグラフィーで分析したところ、異性体を合わせた純度は97.8%であった。また異性体の比は11.5%/85.8%であった。再結晶体の収率は43%であった。H−NMR分析によって、このものは、優位な異性体、9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンあることが分かった。
【0071】
上記に得られた異性体混合物、0.7gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって分離精製した。溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン(容量比、1/3)を用いた。溶出液を処理し、液体クロマトグラフィーおよびH−NMRで分析したところ、溶出順位の最も早い成分は優位な異性体、9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンであり、また二番目の溶出成分は、劣位の異性体、9−(2−メタクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンであることが分かった。
【0072】
<9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(major isomer)の物理化学的性質>
(1)融点: 66.7−69.1℃
(2)質量分析:(M)336
(3)IRスペクトル(KBr、cm−1):3450、3055、2940、1708、1682、1638、1590、1580、14401410、1338、1305、
1285、1175、1083、938、883、810、720、695.
(4)H−NMRスペクトル(CDCl、270MHz):δ=8.23−8.36(m、3H)、7.92−8.04(m、2H)、7.38−7.51(m、4H)、6.18(d、1H)、5.62(d、1H),4.48−4.62(m、3H)、4.22−4.32(m、2H).2.95(bs、1H)、1.98(s、3H).
【0073】
<9−(2−メタクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(minor isomer)の物理化学的性質>
(1)淡黄色液体
(2)質量分析:(M)336
(3)IRスペクトル(neat、cm−1):3450、3055、2930、1718、1638、1440、1418、1342、1320、1300、1298、1165、1090、1042、942、878、840、810、738.
(4)H−NMRスペクトル(CDCl、270MHz): δ=8.20−8.35(m、3H)、7.94−8.04(m、2H)、7.39−7.52(m、4H)、6.28(d、1H)、5.68(d、1H)、5.44−5.55(m、1H)、4.37−4.53(m、2H)、4.18(t、2H)、2.24−2.37(m、1H)、2.05(s、3H)
【0074】
実施例2における主たる生成物である9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン及び実施例3における主たる生成物である9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンの屈折率を測定したところ、n=1.652及びn=1.649であり、1.6を超える高い値を示した。このことより、本発明のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートは高い屈折率を示す工業的に有用な化合物であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるアントラセン骨格を有するエポキシアクリレート。
【化1】


(一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方が水素原子を示すとともに他方は(メタ)アクリロイル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)
【請求項2】
9−グリシジルオキシアントラセン化合物を(メタ)アクリル酸と反応させることよりなる、請求項1に記載のアントラセン骨格を有するエポキシアクリレートの製造方法。



【公開番号】特開2011−68616(P2011−68616A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222482(P2009−222482)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】