説明

アンドロゲンによって仲介される疾患を治療するためのエクオールの使用

エクオール(7-ヒドロキシ-3(4’ヒドロキシフェニル)-クロマン)、すなわちフィトエストロゲンであるダイゼインの主な代謝産物は、in vitroおよびin vivoで、5α-ジヒドロテストステロン(DHT)と特異的に結合し、そのホルモン作用をブロックする。エクオールは、循環する遊離のDHTと結合し、これをアンドロゲン受容体から隔離することができ、したがって、アンドロゲンによって調節される増殖およびホルモンの生理学的反応を変えることができる。これらのデータは、エクオールの生物学的性質を説明するための新規のモデルを示唆している。DHTと特異的に結合し、これをアンドロゲン受容体から隔離するエクオールの能力の有意性は、健康および疾患における重要な効果をもち、アンドロゲンによって仲介される病態の治療および予防におけるエクオールの広範かつ重要な使用法を示すことができる。このように、エクオールは、DHTと特異的に結合し、生理学および病態生理学的プロセスにおけるDHTの生物学的作用を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[政府の利益]
この発明は、National Institute of Health(NIH)によって与えられた助成金番号NS39951で、また、U.S. Dept. of Agriculture (USDA)によって与えられた助成金番号NRI 2002-00798で、政府の援助で成された。政府は、この発明においてある種の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2002年10月29日に出願された同時係属の米国仮出願第60/422,469号の優先権を主張する。
【0003】
本発明は、エクオールおよびその作用機序、ならびにアンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態を治療および予防するための治療用化合物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
近年、フィトエストロゲンは、年齢に関連する疾患(例えば循環器疾患および骨粗鬆症)ならびにホルモン依存性の癌(すなわち、乳癌および前立腺癌)に対するその潜在的防護効果のおかげで、その研究への注目が大きくなっている。フィトエストロゲンは主に3つに分類される:1)イソフラボン(主にダイズから得られる)、2)リグナン(アマニ中に大量に括弧トル見られる)、および3)クメスタン(アルファルファのようなスプラウティング(sprouting)植物から得られる)。これらの3つの主な分類のうち、イソフラボンのヒトの摂取は、その有用性、およびダイズを含めた食品の多様性のおかげで、最も影響が大きい。イソフラボンの中で、ゲニステインおよびダイゼインは、最も強力なエストロゲン様ホルモン活性を発揮すると考えられるので、これらの分子が最も注目されている(Knight D.C.ら、Obstet Gyneco, 187:897-904, (1996); Setchell, K.D.R.. Am J Clin Nutr, 129:1333S-1346S (1998); Kurzer, M.S.ら、Annu Rev Nutr, 17:353-381(1997))。しかし、これらのイソフラボン分子は、ダイズ食品において、その生物活性な形では高レベルで存在せず、どちらかといえば前駆体の形が多い。例えば、ゲニステインの前駆体であるゲニスチンは、この分子の糖部分を含む配糖体型である。さらに、マロニルグルコシドおよびアセチルグルコシド型も見られる。これらの抱合体は、糖部分を生理活性なフィトエストロゲン、ゲニステインに加水分解する腸内細菌によって胃腸管内で代謝される。同じ代謝ステップは、配糖体型のダイジンから転換されるアグリコンであるダイゼインについても起こる。ダイゼインは、「エクオールを産生する」哺乳類では、その後さらにエクオールに代謝される。その後、エクオールは、非常に高い濃度で血液を循環する。エクオールは、ダイズが摂取されない限り、大抵の健康な大人の尿中には通常存在しない。in vivoでのエクオールの生成は、無菌のPhyto Free動物はエクオールを排泄しないという発見、また、新生児においてはまだ腸内菌叢が合成しない脂肪が原因で、新生児または誕生時よりダイズ食品のみを与えられた生後4ヶ月の乳児の血漿および尿中には、エクオールが見られないという発見から明らかなように、もっぱら腸内細菌叢に依存する(Setchell K.D.R.ら The
Lancet 1997; 350:23-27参照)。
【0005】
イソフラボンは、フェノール環構造をもつので、こうした化合物は、エストロゲン受容体(ER)およびエストロゲン類似体と結合できる。ゲニステインおよびダイゼインは、ERに結合するが、エストラジオールと比較すると親和性が低く、また、ERaよりもERbに対する親和性が高い。さらに、フィトエストロゲンは、体中の様々な組織部位で、天然の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)のように作用することが報告されている。いく
つかの組織では、フィトエストロゲンが、エストロゲンアゴニストとして作用するのに対して、他の組織では、これが、タモキシフェンやラロキシフェンに匹敵するアンタゴニスト特性を示し、SERM活性は、性ホルモンおよび性別に依存すると思われるという証拠が存在する。
【0006】
科学文献の大半は、ダイズやクローバー中の天然のイソフラボンに焦点を当てているが、腸内で得られるその代謝産物の作用または効果に関する報告はほとんどない。
【0007】
エクオール(7-ヒドロキシ-3(4’ヒドロキシフェニル)-クロマン)は、フィトエストロゲンであるダイゼイン、すなわちダイズおよびダイズ食品中に豊富に見られる主要なイソフラボンの1つ、の主な代謝産物である。しかし、エクオールは、植物の天然の成分ではないので、フィトエストロゲンではない。エクオールは、どんな植物由来の生成物中にも本来存在しない。どちらかと言えば、これは、もっぱら腸内細菌の代謝産物である非ステロイド性のイソフラボンである(比較的少数の個体、約30〜40%が、ダイズイソフラボンをエクオールに転換するのに必要な細菌叢を有している)。エクオールを用いた以前の研究では、エクオールが、多少の弱いエストロゲン様の性質をもち、性ホルモン結合グロブリンと結合し、α-フェトプロテインと結合し、抗酸化活性を有することが明らかにされている。しかし、エクオールは、キラル中心をもち、そのことによって2つの異なる鏡像異性の形、すなわちR-およびS-鏡像異性体として存在する点で、植物から得られるイソフラボンの中では独特である。本発明者らは、エクオールのS-鏡像異性体が、ダイズを摂取している「エクオールを産生する」哺乳類の尿および血漿中に見られる唯一のエクオールの形であり、ヒト腸内細菌によって作られる唯一のエクオール鏡像異性体であることを示した。エクオールに関するすべての以前の研究は、エクオールのラセミ体を用いて行われてきたと考えられる。2つの形のエクオールが存在するという認識が概して欠けており、本発明者らの知る限りでは、それぞれの鏡像異性体の特定の作用または活性に関して報告している以前の研究はない。R-鏡像異性体とS-鏡像異性体は、立体配置的に異なり、それによりその生物活性が影響を受けている。例えば、S-鏡像異性体のエクオールのみが、ヒトで報告されている循環エクオールレベルと結合するのに相当する十分な親和性でエストロゲン受容体(ER)と結合する。17b-エストラジオールと比較すると、ERaに対するR-およびS-エクオール鏡像異性体の相対的な結合親和性は、それぞれ210.6および49.2倍低い。しかし、S-エクオール鏡像異性体は、ERbに対して比較的高い親和性をもち大いにERb選択性であると考えられる。鏡像異性体S-エクオールは、17b-エストラジオールの約20%でERbと結合する[エクオール、Kd=0.7nM対17b-エストラジオール、Kd=0.15nM]が、R-エクオール鏡像異性体は、約100倍低い親和性で結合する。R-エクオールは、天然には存在しないが、その体内におけるアンドロゲン仲介プロセスを調節する能力のため、かなり重要である。
【0008】
前立腺は、その発達および成長についてアンドロゲンホルモンの作用に依存し、ヒトの良性前立腺肥大症(BPH)の発生には、加齢の際の精巣のアンドロゲンの組み合わせが明らかに必要となる。しかし、テストステロンは、前立腺の成長の原因となる主なアンドロゲンではない。前立腺癌の現在の治療が、直接的に、5α-レダクターゼ阻害剤を用いてジヒドロテストステロン(DHT)を減少させることを対象としていることからも分かるように、前立腺の主要なアンドロゲンは、DHTである。ヒトBPHに増加するとまではいかないが、前立腺のDHTレベルは、血漿テストステロンの減少にもかかわらず、年をとっても通常レベルのままである。テストステロンは、前立腺の間質および基底細胞中の5α-レダクターゼによって、DHTに転換される。DHTは、主として前立腺発達の原因およびBPHの病因となる。5α-レダクターゼの阻害剤は、前立腺サイズを20%から30%低下させる。腺組織のこの低下は、アポトーシスの誘導によって実現され、これは管の萎縮によって組織学的に明らかにされる。5α-レダクターゼは、2つのアイソフォーム、すなわち1型および2型として存在し、前立腺は、2型アイソフォームを主に発現し、肝臓および皮膚は、1型アイソフォームを主として発現する。患者は、2型5α-レダクターゼが欠乏しているが、1型は欠乏して
いないことが明らかになっている。2型5α-レダクターゼ無発現変異を伴うノックアウトマウスは、5α-レダクターゼが欠乏した男性において見られるのと同様の表現型を示す。雄の1型5α-レダクターゼノックアウトマウスは、生殖機能に関しては表現型的に正常である。5α-レダクターゼについての酵素活性、または免疫組織化学的検出は、副精巣、精巣、導帯、および海綿体組織などの他の尿生殖器組織で注目されている。
【0009】
女性は、量的には、エストロゲンより多い量のアンドロゲンを分泌する。アンドロゲンとして分類される主な循環ステロイドには一般に、血清濃度の高いものから順に、デヒドロエピアンドロステロンサルフェイト(DHEAS)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステンジオン(A)、テストステロン(T)、およびDHTが含まれるが、最後の2つしか有意な程度でアンドロゲン受容体に結合しない。他の3つのステロイドは、より適切には、アンドロゲン前駆体と考えられる。DHTは本来、テストステロン代謝のあまり重要でない産物である。テストステロンは、その遊離の形で、また、アルブミンおよび性ステロイドホルモン結合グロブリン(SHBG)を含めたタンパク質に結合して循環し、そのレベルは、遊離のテストステロン濃度の重要な決定因子である。閉経後の卵巣は、アンドロゲン分泌器官であり、テストステロンのレベルは、更年期への移行、または閉経の出来には直接的に影響を受けない。
【0010】
いくつかの研究の作業は、多毛症、アンドロゲン性脱毛症、良性前立腺肥大症(BPH)、および前立腺癌などのアンドロゲン依存性疾患を治療するためのステロイド性化合物の開発に焦点を当てている。主に、ステロイド5α-レダクターゼ酵素が遺伝的に欠損している雄の臨床評価を通して、DHTが、これらの疾患の進行における原因因子に関係があるとされてきた。こうした研究の結果、この酵素の阻害が、新規の抗アンドロゲン薬を設計および合成するための薬理学的戦略となりつつある。しかし、5α-レダクターゼ阻害剤を用いる従来の治療の、報告されている副作用から生じる禁忌から分かるように、5α-レダクターゼの阻害が、この系に有害な影響を与えることとなるかどうかは不明である。DHTの影響の阻害を標的にする別の戦略の開発は、アンドロゲンによって仲介される状態の治療法における主要な進歩となるであろう。
【0011】
エストロゲン作用に関係するというような、エクオールの薬理の理解は最近進んではいるものの、エクオールの強力な抗アンドロゲン効果を示す本発明者らの研究は、独自かつ新規であり、アンドロゲン関連状態を予防または治療するための新規の手法を開拓する。DHTを結合または隔離することによって、DHT感受性の組織に対するその影響を抑制するための手段が提供されるであろう。DHTに特異的である知られているリガンドは存在しないが、こうした作用薬は、直接的にアンドロゲン受容体を、あるいはアンドロゲン合成に関与する酵素を標的にする差別的でない化合物に対して、明確な利点をもつであろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって哺乳類における5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体(AR)との結合を抑制し、アンドロゲンによって仲介される状態を仲介するステップを含む、哺乳類においてアンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態を調節する方法に関する。
【0013】
本発明はまた、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって哺乳類における5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制するステップを含む、哺乳類においてアンドロゲン関連疾患を治療および予防する方法に関する。
【0014】
本発明はさらに、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって哺乳類における5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を調節するステップを含む、哺乳類においてアンドロゲンホルモン活性を調節する方法に関する。
【0015】
本発明はさらに、DHTとARの結合の前に、DHTを鏡像異性のエクオールと接触させることによって、ARへのDHTの結合を妨げる方法に関する。
【0016】
本発明は、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物、ならびに遊離の5α-ジヒドロテストステロンおよびエストロゲン受容体とそれぞれ結合可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物を哺乳類に投与し、それによって5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制し、エストロゲン受容体の結合に影響を与えるステップを含む、哺乳類においてアンドロゲン関連状態とエストロゲン関連状態との組み合わせを治療および予防する方法に関する。
【0017】
本発明はまた、下記のステップを含む、年齢に関連するアンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを調節する方法に関する:1)哺乳類の内分泌アンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを求めること、2)5α-ジヒドロテストステロンとエストロゲンのホルモンバランスを仲介可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物を哺乳類に投与すること。
【0018】
本発明はさらに、哺乳類においてアンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態を調節するための、遊離のDHTとin vivoで結合させるための鏡像異性のエクオールの使用に関する。
【0019】
本発明はまた、哺乳類のDHTを鏡像異性のエクオールと接触させることによって、哺乳類におけるLHのレベルをin vivoで調節する方法に関する。
【0020】
本発明は、エストロゲン/アンドロゲンの不均衡によって影響を受けるアンドロゲン/アンドロゲン関連障害によって仲介される生理学および病態生理学的状態の診断薬としての鏡像異性のエクオールの使用に関する。
【0021】
本発明はさらに、競合結合アッセイが下記のステップを含む、競合結合アッセイにおけるエクオールの使用に関する:1)アンドロゲン受容体を提供すること、2)DHT-鏡像異性のエクオールの複合体を提供すること、3)アンドロゲン結合部分を含む試験物質を提供すること、および4)DHT-鏡像異性のエクオール複合体と接触および競合させること。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
エクオールに関する新規の作用機序は、健康および疾患における重要な効果をもつことが明らかになっており、アンドロゲンによって仲介される病態の治療におけるエクオールの広範かつ重要な使用法が示されている。エクオールは、抗アンドロゲンとして作用する。エクオールの抗アンドロゲン的性質は、エクオールが、アンドロゲン受容体(AR)と結合しないが、5α-ジヒドロテストステロン(DHT)と高い親和性で特異的に結合し、それによって、DHTがARと結合するのを妨げるという点で、独特である。さらに、エクオールのR- 鏡像異性体とS-鏡像異性体は両方とも、DHTと特異的に結合し、DHTをARから隔離し、生理的プロセスにおけるDHTの作用をin vivoでブロックする。R-エクオールおよびS-エクオールから構成されるラセミエクオール、ならびに単独のR-エクオールまたはS-エクオールは、DHTと選択的に結合する。
【0023】
哺乳類では、2つの主要なアンドロゲン、すなわちテストステロンおよびその5α還元代
謝産物、DHTが存在する。DHTは、哺乳類の体内で最も強力なアンドロゲンと認識されている。ARは、ヒトX-染色体に位置する単一コピー遺伝子によってコードされ、アンドロゲンの作用を特異的に仲介する。テストステロンとDHTは両方ともARと結合するが、テストステロンによってわずかにしか影響を受けないある種の組織(すなわち前立腺、毛包など)が、DHTによって大きく影響を受ける。さらに、DHTは、いくつかの疾患および障害に関与している。エクオールは、DHTと特異的に結合し、DHTの作用を妨げるので、アンドロゲンによって仲介される病態の治療において、エクオールの広範かつ重要な使用法についての指標(indication)が存在する。
【0024】
エクオールは、ステロイド性のエストロゲンであるエストラジオールと同様の構造をもつ。エクオールは、キラル中心をもち、そのことによって2つの異なる鏡像異性の形、すなわちR-およびS-鏡像異性体として存在するという点で、イソフラボンの中では独特である。エクオールに関するすべての以前の研究は、エクオールのラセミ体を用いて行われてきたと考えられる。2つの形のエクオールが存在するという認識が概して欠けており、本発明者らの知る限りでは、それぞれの鏡像異性体の特定の作用または活性に関して報告している以前の研究はない。R-およびS-エクオールは、5α-ジヒドロテストステロン(DHT)と特異的に結合する。ラセミエクオール、R-エクオールまたはS-エクオールは、アンドロゲン受容体とは結合しない。R-エクオールは、エストロゲン受容体系とは結合しない。S-エクオールのみが、(17b-エストラジオールより約5倍低い親和性で)ERbと結合する。したがって、R-およびS-エクオールは、最も強力な循環アンドロゲンであるDHTと選択的に結合する能力を有する他に、SERM様の性質も有する。
【0025】
ダイズ、ならびにその成分であるイソフラボン、ゲニステイン、およびより低い程度ではあるがダイゼインに対する関心の大部分が、そのエストロゲン様作用か、酵素、成長因子、またはサイトカインに対するそれらの影響、またはそれらの抗酸化作用などの他の非ホルモン的作用かのどちらかに集中していた。今までに、イソフラボンに関する潜在的な抗アンドロゲン作用の議論が存在したことはなく、エクオールの鏡像異性の形が言及されたことすら稀である。本発明は、鏡像異性の形のエクオールの効果、特にS-エクオール、すなわちダイゼインの天然の代謝産物と、R-エクオールとの両方の、強力なアンドロゲンであるジヒドロテストステロン、すなわちDHTの作用と拮抗する能力に取り組む。こうした効果は、強力なアンドロゲンであるDHTが有害な役割を果たす疾患の予防および治療のための食餌的、栄養補給的、および薬理学的手法の新規の可能性を開拓する。これには、それだけには限定されないが、前立腺癌、皮膚疾患、脱毛、および肥満が含まれる。さらに、S-エクオールのエストロゲン様作用はまた、エストロゲン受容体レベルで、また、抗アンドロゲンとして作用するエクオールの複合作用のため、前立腺癌の治療および予防において有益であり得る。
【0026】
エクオールはDHTと結合する
エクオール(7-ヒドロキシ-3(4’ヒドロキシフェニル)-クロマン)は、フィトエストロゲンであるダイジンおよびダイゼイン、すなわちダイズおよびダイズ食品中に豊富に見られるイソフラボンの主な代謝産物に相当し、重要な生理活性分子である。フィトエストロゲンを多く含む食餌を与えられた動物では、主な循環イソフラボンは、エクオールであり、全循環イソフラボンレベルの70〜90%を占める。本発明は、エクオールの生物学的性質の新規のモデルを開示する。結合研究では、エクオール鏡像異性体は、テストステロン、DHEA、またはエストロゲンではなく、5α-ジヒドロテストステロン(DHT)と特異的に結合する。それによって、エクオールは、アンドロゲン受容体自体と直接に結合せずに、DHTをアンドロゲン受容体から隔離する。In vivo研究は、無処置の雄のラットのエクオール治療が、精巣重量ではなく前立腺および副精巣を有意に減少させたことを実証している。エクオールを投与した後にDHTで治療された去勢された雄のラットでは、エクオールは、前立腺に対するDHTの栄養的効果および血漿の黄体形成ホルモン(LH)レベルに対するその負
のフィードバック効果をブロックした。
【0027】
エクオールが、DHTと特異的に結合し、それ自体がARと結合せずにDHTがアンドロゲン受容体(AR)と結合するのを妨げることによって、抗アンドロゲンとして作用できることが判明している。既にARと結合しているDHTが、鏡像異性のエクオールとは拮抗的には結合しないであろうことも示されている。したがって、本発明の一実施形態は、DHT-AR結合が起こる前に、DHTをエクオールと接触させることによって、ARへのDHTの結合を妨げる方法である。鏡像異性のエクオールは、DHTとin vitroでもin vivoでも接触させることができる。DHTをin vivoで接触させる場合、エクオールは、エクオールを血流に吸収させることが可能ないずれの経路でも投与できる。生物学的に利用可能なDHTは、遊離しており、エクオールと結合する前にどんな天然のリガンドにも結合していないものである。
【0028】
前立腺および副精巣などの生殖器官は、アンドロゲンの制御下であることが知られている。以前のデータによれば、思春期前に、循環アンドロゲンレベルが非常に低いとき、ダイズから得られる高レベルのイソフラボンを含有する食餌を与えられたラットは、この食餌の摂取によって前立腺重量が変わらないことが示されている。しかし、アンドロゲンレベルが増大した思春期後は、フィトエストロゲンを多く含む食餌を与えられたラットでは、フィトエストロゲンを含まない食餌を与えられた動物と比較して、前立腺重量が、有意に減少する。こうしたデータは、エクオールで治療された無処置のラットが、(短期間の研究中、精巣または下垂体重量は変化せずに)前立腺および副精巣重量の有意な減少を示すという本発明の発見と類似している。特に、前立腺および副精巣の値を、体重(100グラムあたり)に合わせた場合、エクオールで治療された値と対照の値との比は、有意に異なる。エクオールはまた、テストステロンレベルを有意に変えずに、前立腺および副精巣に対するDHTの、アンドロゲン的な栄養的影響をブロックした。
【0029】
DHTは、黄体形成ホルモン(LH)の循環血漿濃度に対する負のフィードバック効果を有する。エクオールは、DHTと結合し、このフィードバック効果を妨げることによって、LHレベルを有意に増大する。エクオールは、性腺摘出された(GDX)雄において、LHレベルに対するDHTの抑制作用を完全に逆転させるが、DHTプラスエクオールで治療された雄のラットは、対照値と同様のLHレベルを示す。これらのデータは、エクオールが、おそらく血液循環系において、DHTと結合し、DHTの、LH産生または分泌の抑制におけるホルモン作用をブロックする特異的な能力をもつことをさらに示唆する。したがって、本発明の一実施形態は、個体のDHTを鏡像異性のエクオールと接触させることによって、個体におけるLHレベルを調節する方法である。エクオールは、治療対象となる病気の性質および個体のサイズに従って投与される量で、エクオールが血流に吸収可能ないずれの経路によって投与することもできる。
【0030】
エクオールの構造
エクオールは、複素環において二重結合がないことによってキラル中心をもつので、大抵のイソフラボンとは異なる。ダイズ(ダイゼイン、グリシテイン、およびゲニステイン)、クローバー(フォルモノネチンおよびバイオチャニンA)、およびクズ(プエラリン)からのフィトエストロゲンであるイソフラボンは、キラル中心を持たない。図1は、R-エクオールおよびS-エクオールの化学構造を示す。
【0031】
R-鏡像異性体とS-鏡像異性体は、立体配置的に異なり、これにより、エクオール鏡像異性体が、二量体化されたER複合体の空洞における結合部位にどのように適合するか、また、これがどのようにDHTと結合するかが予測される。
【0032】
ヒトでは、エクオールの約50%が、遊離または非結合形で循環しており、これは、血漿中の遊離のダイゼイン(18.7%)またはエストラジオール(4.6%)の割合よりもかなり大きい
。これは、受容体占有(occupancy)に、また、おそらくDHTとの結合に、利用可能な非結合部分であるので、エクオールの全体的な強度の向上に効果的に寄与することとなる。
【0033】
エクオールを含有する組成物
本発明は、(テストステロンまたはDHEAではなく)遊離のDHTと結合し、これを隔離可能な少なくとも生理学的に許容される量のエクオールを含み、それによって個体への投与後にアンドロゲン受容体への遊離のDHTの結合を妨げ、それによって健康および疾患、ならびにアンドロゲンによって仲介される異常の治療における広範かつ重要な使用における重要な効果をもつ組成物を含む。
【0034】
S-エクオール、R-エクオール、ラセミエクオール混合物、または非ラセミエクオール混合物を含有する組成物は、経口摂取のために作ることができる。当該組成物、または当該組成物を含有する製品は、市販用のまたは病院等の食品、医薬品、およびOTC薬であり得る。食品組成物は、1食分あたり少なくとも1mg、通常最高200mgの鏡像異性のエクオールまたはエクオール混合物を含むことができる。経口的に投与される薬物は、1回量あたり少なくとも1mg、通常最高200mgの鏡像異性のエクオールまたはエクオール混合物を含むことができる。局所適用の製品は、重量で少なくとも0.1%、最高10%のS-エクオール、またはR-エクオール、または鏡像異性の混合物を含むことができる。本発明の局所用組成物は、他の化粧品および医薬品用活性剤および賦形剤を含むことができる。こうした適切な化粧品および医薬品用の作用薬には、それだけには限らないが、抗真菌剤、ビタミン、抗炎症薬、抗菌剤、鎮痛薬、一酸化窒素合成酵素阻害剤、昆虫忌避剤、日焼け剤(self-tanning agent)、界面活性剤、保湿剤、安定剤、保存剤、防腐剤、増粘剤、潤滑剤、湿潤剤、キレート剤、皮膚浸透促進剤、皮膚軟化剤、香料、および着色料が含まれる。
【0035】
鏡像異性のエクオールはまた、グルクロニド、サルフェート、アセテート、プロピオネート、グルコシド、アセチルグルコシド、マロニルグルコシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される抱合体と、C-4’またはC-7位置で抱合された鏡像異性のエクオール抱合体であり得る。
【0036】
アンドロゲン関連疾患およびそれに関連する状態の治療または予防のために、あるいは、その傾向を低下させるために、対象に投与するためのエクオールの鏡像異性体または混合物を含む組成物または調製物は、1種または複数の、薬剤として許容されるアジュバント、担体、および/または賦形剤を含むこともできる。薬剤として許容されるアジュバント、担体、および/または賦形剤は、医薬用賦形剤ハンドブック、第二版、米国医薬品協会、1994年(参照により本明細書に組み込む)に記載される通り、当技術分野でよく知られている。この組成物は、錠剤、カプセル剤、加工用の粉末、シロップ、食品(棒状食品、ビスケット、軽食食品、および当技術分野でよく知られた他の標準の食品など)または飲料調合物の形で投与できる。飲料は、調味料、緩衝剤などを含有できる。
【0037】
本発明の組成物は、S-エクオールのEEが、0%より大きく90%未満であるS-エクオールとR-エクオールの非ラセミ混合物を含むことができる。EEが0%の組成物は、2つの鏡像異性体の50:50ラセミ混合物である。当該組成物は、ラセミ混合物からのR-エクオール鏡像異性体かS-エクオール鏡像異性体のどちらかの不完全な分離および除去によって、ラセミ混合物から直接作ることができる。当該組成物はまた、エクオールの混合物(非ラセミまたはラセミ混合物のどちらか)を含む第1のエクオール成分を、本質的にS-エクオールまたはR-エクオールからなる組成物を含む第2の成分と合わせることによって作ることもできる。これは、過剰量のS-エクオールまたはR-エクオールを有する非ラセミ組成物を生じる。組成物中のR-エクオール成分およびS-エクオール成分についての特定の利点または指示に応じて、S-エクオール: R-エクオールの比が約50:50から約99.5:1、より一般的には約51:49から約99:1まで、約50:50から1:99.5まで、より一般的には約49:51から約1:99までの比で
、S-エクオールとR-エクオールを含む組成物を調製できる。
【0038】
経口投与に適した組成物は、カプセル剤、カシェ剤、トローチ剤、または錠剤などの別々の単位で存在することができ、それぞれが、粉末または顆粒として;水性または非水性の液体中の溶液または懸濁液として;あるいは水中油型または油中水型エマルジョンとして、所定量の抽出物を含有する。
【0039】
当該組成物は通常、有意な量のどんな他のアンドロゲン受容体結合化合物も含まない。
【0040】
エクオール産生者および 非エクオール産生者の同定
エクオールは、ダイズ由来のダイゼインの配糖体抱合体、およびクローバー中に見られるメトキシル化イソフラボンフォルモノネチン、またはその配糖体型抱合体の加水分解後に形成される。一度形成されると、エクオールは、肝臓における第II相代謝またはわずかな程度のさらなるヒドロキシル化以外に、代謝的に不活性になると考えられ、さらなる生体内変換を受けない。ダイゼインおよびゲニステインについて、第II相の主な反応は、グルクロン酸抱合、微量の硫酸化である。尿中のエクオールの存在が、ダイズ食品消化と関係があるという当初の発見に続いて、成人個体群の約50〜70%は、毎日ダイズ食品を与えられた場合でも、理由は不明であるが尿中にエクオールを排出しないことが観察された。さらに、純粋なイソフラボン化合物が投与され、それによって食品マトリックスのどんな影響を取り除いても、多くの人々は、ダイゼインをエクオールに転換しないことが示されている。この現象によって、記述したこれらの2つの異なる個体群に対して「エクオール産生者」または「非エクオール産生者」(または「低エクオール産生者」)である人という用語が生まれた。
【0041】
カットオフ値(Cut-off value)は、経験的に得られており、個体の、これらの区分のいずれかへの割り当てが可能になっている。血漿エクオール濃度が、10ng/mL(40nmol/L)未満である人々は、「非エクオール産生者」と分類することができ、レベルが10ng/mL(40nmol/L)を超える場合は、「エクオール産生者」と定義される。この区別は、尿中のレベルからも導き出すことができ、エクオール産生者は、1000nmol/Lを超える量を排泄する人である。エクオールの排泄は、個体間で非常に変動するが、エクオールを産生することが可能なものと、不可能なものとの間には、反応を触媒する酵素動力学における前駆体-生成物関係と一致する、大きな境界が存在する。したがって、尿中のダイゼインとエクオールレベルの間には、逆の関係が存在し、今までのところ、有意な性別差は判明していない。
【0042】
エクオール鏡像異性体の調製および単離
鏡像異性のエクオールは、それ自体を、あるいはラセミ混合物として調製できる。化学合成経路を用いて、ラセミ混合物を優れた収率で生成できる。通常の合成プロセスでは、標準の化学処理を用いて複素環の二重結合を水素化し、C-3位置のカルボニルを除去する。典型的な出発物質は、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、プエラリン、フォルモノネチン、およびバイオチャニンA、ならびにそれらのグルコシド抱合体などのイソフラボンである。いずれの抱合された形も、加水分解によってそのアグリコンに還元されることとなる。この反応に適した溶媒には、氷酢酸などの有機酸、イソプロパノールなどの低分子アルコール、およびそれらの混合物が含まれる。使用される典型的な還元触媒には、活性炭担持10% Pdなどのパラジウムが含まれる。反応は、周囲温度から60℃の温度で、周囲圧力のわずかに上から200psig(14気圧ゲージ)までの範囲の圧力で、30時間以上までの反応時間で行うことができる。
【0043】
反応完了後、触媒を除去し、いずれの濾液も蒸発させる。未精製の残留物を、通常C2〜C4アルコール、C3〜C7アルカン、およびそれらの混合物を含む溶離液を用い、シリカゲルカラムを使用するクロマトグラフィーによって精製する。この精製された残留物を、n-ヘ
キサンから結晶化させて、通常少なくとも75%の収率で、通常少なくとも99%の純粋な生成物として(±)エクオールを生成できる。このエクオール結晶生成物は、無色であり、吸湿性ではなく、大気中で安定しており、最終の濾過手順中に分解しない。
【0044】
ラセミエクオールからR-鏡像異性体とS-鏡像異性体をそれぞれ単離する方法
エクオールのラセミ混合物は、C4〜C8アルキルおよびC2〜C4アルコールを含む移動相を用いてキラル固定相カラムを使用して、2つの異なる鏡像異性体に分離することができる。キラル固定相カラムの代表的な例は、ダイセル化学株式会社によって供給されるChiralcel ODカラムまたはOJカラムである。移動相の好ましい例は、70%ヘキサンと30%エタノールを含むものである。ラセミ混合物を入口に注入してからの第1期間(期間はカラムの種類、溶離液の種類、溶離液の流速、温度、およびラセミ混合物の質量に依存する)後、第1の溶出液を、HPLCカラムの出口から収集する。第1の溶出液は通常、S-エクオールである。ラセミ混合物を入口に注入してからの第2期間後、第2の溶出液R-エクオールが得られる。カラムからのエクオール鏡像異性体の溶出は、260〜280nmでのUV吸収によって、あるいは、質量分析計などのより特定的な検出システム、およびエクオールに固有のイオンを観測することによって検出できる。
【0045】
S-エクオールの生物生成
S-エクオールは、従来の食品技術を用いてバルクで生物学的に生成できる。ダイゼインまたはそこからダイゼインを得ることが可能な別の関連イソフラボンを含むベース培養液、食品、または植物抽出物を提供できる。ダイゼインまたは他のイソフラボンを、標準の細菌性または酵素発酵プロセスによって、S-エクオールに転換し、S-エクオールを含むバルク溶液、食品、または植物抽出物を提供できる。
【0046】
ダイゼインのエクオールへの転換は、3つの主なステップを含む:1)いずれかのグルコシド抱合体基の加水分解、2)イソフラボンアグリコンのジヒドロ中間体への転換、および3)ジヒドロ中間体のエクオールへの転換。必要とされる3つのステップの各々のための代謝経路および酵素は、必ずしも1つの細菌中に存在するわけではない。ヒトの研究の事例証拠では、連携して働くことによりこれらの反応を実施する1種または複数の細菌が存在する可能性があることが示唆される。これは、多くの場合ジヒドロダイゼインは、血漿および尿中に有意な量で存在するが、エクオールは、少量またはほとんど検出されない可能性があるという事実から明らかである。エクオールは、単一の微生物によって、ダイゼインから生成できるが、より優れたあるいはより効率的な転換は、各々が独自の代謝プロフィールをもつ細菌種の混合物が用いられた場合に実現できると考えられる。S-エクオールへの有効な転換のための重要な条件には、細菌性微生物または微生物の混合物の選択、インキュベーションの温度、および微生物に利用できる酸素の量が含まれる。これらの条件は、当分野の技術者によく知られている技術によって最適化できる。この変化を実施するために使用される微生物は、食品工業に用いられる標準の技術によって不活性化することもできるし、製品中で活性な状態のままにしてもよい。
【0047】
通常、ダイゼイン(または他の関連イソフラボン)を、中間生成物を介してS-エクオールに転換するためには、1種または複数の細菌株が必要であり、これは一般に、次の3つの主な反応のうちの1種または複数を含む:イソフラボングリコンのアグリコンイソフラボンへの転換;アグリコンイソフラボンのジヒドロイソフラボンへの転換;およびジヒドロイソフラボンの、産物であるエクオールへの転換。例えば、ウマの糞から単離された微生物の混合培養物、または「エクオール産生者」であることが知られているヒトの胃腸管から得られた微生物混合培養物は、in vivoで行われるように、グリコンダイゼインを最終産物S-エクオールに転換できる。
【0048】
グリコンをアグリコンに(例えばダイゼインをダイゼインに)転換可能な代表的な細菌株
には、Enterococcus faecalis、Lactobacillus plantarum、Listeria welshimeri、「エクオールを産生する」哺乳類の腸管から単離された微生物の混合培養物、Bacteriodes fragilis、Bifidobacterium lactis、Eubactria limosum、Lactobacillus casei、Lactobacillus acidophilous、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus paracasei、Listeria
monocytogenes、Micrococcus luteus、Proprionobacterium freudenreichii、およびSacharomyces boulardii、およびそれらの混合物が含まれる。
【0049】
アグリコンをエクオールに(例えばダイゼインをS-エクオールに)転換可能な代表的な細菌株には、Proprionobacterias freundenreichii;Bifidobacterium lactis、Lactobacillus acidophilus、Lactococcus lactis、Enterococcus faecium、Lactobacillus casei、およびLactobacillus salivariusを含有する混合培養物;ならびに「エクオールを産生する」哺乳類の腸管から単離された微生物の混合培養物が含まれる。
【0050】
グルコシドのアグリコンへの、またはアグリコンのエクオール生成物への細菌性の転換に必要とされる時間は、細菌関連因子、特に濃度、酸素の利用能、ならびにインキュベーションシステムの温度およびpHに依存することとなる。大抵の場合、24時間以内に実質上完全な転換を実現することが可能である。
【0051】
イソフラボングルコシドのアグリコンイソフラボンへの細菌性の転換のためのpH範囲は、約3から約9である。最適pHは、使用される細菌の種類に主として依存し、したがって、選択される必要がある。
【0052】
グルコシドのアグリコンへの、およびアグリコンのエクオール生成物への酵素的転換に必要とされる時間は、酵素関連因子、特に濃度、およびシステムの温度およびpHに依存する。大抵の場合、24時間以内、より好ましくは約2時間以内、最も好ましくは約1時間以内に実質上完全な転換を実現することが可能である。
【0053】
バルクで生成されたS-エクオールは、S-エクオールの細菌生成物の得られたバルク溶液から、結晶化、溶剤抽出、蒸留、および沈殿/濾過を含めた当技術分野でよく知られた方法によって分離することができる。得られたバルク溶液は、未反応のダイゼインまたは使用された他の関連イソフラボン、副産物、および任意の反応物を含有する可能性がある。こうした方法は、逆相または順相液体クロマトグラフィーカラムの使用を含むことができ、これらをキラル固定相クロマトグラフィーと組み合わせることができる。
【0054】
バルク溶液または固相からS-エクオールを取り出す代表的な方法は、抽出によるものである。抽出剤溶液を、S-エクオールを含有する溶液または固相に加える。通常、抽出剤は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、またはプロピル アルコールなどの低分子量アルコール、あるいはpHが3.5から5.5の範囲の水溶液である。通常、アルコール水溶液法が用いられる場合、アルコール/水の比を最低40:60と最大95:5の間にするために、十分なアルコールが加えられる。より一般的には、この比は、少なくとも60:40、さらに一般的には、65:35と90:10の間の比である。
【0055】
酸性水溶液抽出方法が使用される場合、酸性水溶液は、約3.5から約5.5に調整されたpHで、より好ましくは約4.0から約5.0のpH範囲内で調製される。遠心分離または濾過による液体からの固体の分離を可能にするために、十分な水を加えて十分に粘度の低い希釈液を作る。
【0056】
不溶性の固形物が除去された液体を、液体を除去するための従来の方法によって濃縮する。用いられる方法には通常、それだけには限らないが、好ましくは減圧下での、蒸発による溶媒の除去が含まれる。残った液体を、少なくとも約15%から約55%までの固形分に、
より一般的には30%と50% の間の固形分に濃縮する。次いで、この濃縮物を、水で希釈して固体含有量を低下させ、アルコールに対する水の比を増加させる。加える水の量は、広範にわたって変わり得るが、6%と15%の間、より一般的には約13%の最終固体含有量が好ましい。当該混合物のpHは、約pH3.0と約pH6.5の間(好ましい値は約pH4.0と約pH5.0の間)に調節する。通常、温度は、約2°Cから約10°Cの間、より一般的には約5°Cから7°Cである。
【0057】
その後、固形材料を、標準の分離技術(遠心分離または濾過)によって、液体から分離し、エクオールを多く含む固形材料を生じる。
【0058】
このエクオールを多く含む材料を、C2〜C4アルコール、C3〜C7アルカン、およびそれらの混合物を含む溶離液を用い、一般的には、シリカゲルカラムを用いるクロマトグラフィーによって、任意選択で精製できる。精製された残留物を、n-ヘキサンから結晶化させて、通常少なくとも75%の収率で、通常少なくとも99%の純粋な生成物としてS-エクオールを生成できる。このエクオール結晶生成物は、無色であり、吸湿性ではなく、大気中で安定しており、最終の濾過手順中に分解しない。
【0059】
当該S-エクオール生成物は、トリメチルシリルエーテルまたはtert-ブチルジメチルシリルエーテル誘導体、あるいは合成された生成物の他のいくつかの適切な揮発性誘導体のGC-MS分析によって、単一のピークとして確認でき、その質量スペクトルは、標準のエクオールのトリメチルシリル(TMS)エーテル誘導体の公表済の電子イオンスペクトルと一致している。サンプルをHPLCキラル固定相カラムを介して機器に導入した後にエレクトロスプレーイオン化を使用する直接質量分析によって生成物の確認を行うこともできる。
【0060】
S-エクオール、R-エクオール、および混合物を投与することによる疾患の治療
本発明は、エクオール鏡像異性体、S-エクオール、またはR-エクオール、あるいはS-エクオールとR-エクオールの非ラセミ混合物を直接送達し、エクオール産生のための腸内細菌の必要性、または、エクオールの前駆体イソフラボンを含むダイズ食品を摂取する必要性をなくすことによって、個々の対象がin vivoでエクオールを産生できないという問題を克服するための、あるいは特にR-エクオールを供給するための手段を提供する。S-エクオールの送達はまた、「非エクオール産生者」だけでなく、「エクオール産生者」におけるS-エクオールのin vivo産生を補うこともできる。
【0061】
エクオール鏡像異性体または混合物を用いてエクオール産生者の食餌を補充することは、エクオール産生者によって産生されるS-エクオールの通常レベルが、以下の原因で不十分である時に、利益を提供できる:1)エクオールを産生するには不十分なイソフラボンの摂取、2)前駆体イソフラボンからエクオールを作る腸内細菌の活性を一掃する抗生物質使用、または3)例えば短腸症候群や、回腸造瘻術など腸瘻の外科的構築などの、エクオール産生のレベルに影響を与える他の健康因子。さらに、補充レベルのエクオールは、ヒトの健康および福祉に対する効果を増強すると考えられる。
【0062】
本発明は、アンドロゲン関連疾患およびそれに関係する状態に対して健康上の利益を与えるのに十分な量で、S-エクオール、R-エクオール、ラセミエクオール、またはエクオールの非ラセミ混合物を送達する方法を提供する。エクオールの抗アンドロゲン活性は、体中のいくつかの組織に影響を与え得る。特に、DHTの、アンドロゲン活性のブロックは、以下の治療および予防に有益であり得る:(A)加齢に伴う前立腺の肥大、良性前立腺肥大症(BPH)、および前立腺癌;(B)女性および男性型脱毛症、(C)顔面および身体の毛の増殖(多毛症)、皮膚の健康(座瘡、老化防止および抗光老化)、皮膚の完全性(コラーゲンおよびエラスチンの堅牢性);(D)体重増加(および減少)、脂肪組織沈着および脂質の代謝の低下、ならびに食物および水摂取、血圧変化、甲状腺、グルコース、レプチン、インスリン、お
よび免疫系への影響などの一般的な調節性の行動および影響;ならびに(E)アルツハイマー病、ならびに気分、抑うつ、不安、および学習と記憶などの、上の脳特性のすべてに影響を与える、脳におけるGABAA 受容体の強力なモジュレーターである5α-ステロイド代謝産物(アンドロゲンおよびプロゲステロンを包含する)の減少による情緒的、精神的健康問題。
【0063】
通常、エクオールを含む組成物の量は、哺乳類の血漿において一時的なレベルが少なくとも5ナノグラム/ミリリットル(ng/mL)、より一般的には少なくとも10ng/mLまたはそれ以上の鏡像異性のエクオール、または、尿において一時的なレベルが1000nmol/Lを超える鏡像異性のエクオールを産生するのに十分な量で投与される。通常、当該組成物は、少なくとも約1mg、より一般的には少なくとも5mg、かつ最高200mg、より一般的には最高50mgの鏡像異性のエクオールの投与量で経口的に投与される。20mgのR-エクオール鏡像異性体を健康な成体に経口投与した後の血漿中のR-エクオールの生体利用能の通常のレベルは、図2におけるR-エクオールの出現/消滅プロットで示される。
【0064】
十分な量でR-および/またはS-エクオールを送達する能力は、エクオールのラセミ混合物の送達を超えるいくつかの利点を提供すると考えられている。第1に、R-エクオールまたはS-エクオール単独の強度は通常、ラセミ混合物の強度の少なくとも2倍であるだろう。第2に、ヒトの身体は、S-エクオールのみを産生するので、S-エクオールのみを含む組成物は、身体になじみのある成分であるS-エクオールを含む「天然の」生成物に相当する。第3に、R-エクオール鏡像異性体は、独自の性質をもつので、R-鏡像異性体のみ、あるいは実質上R-鏡像異性体のみを含む治療用組成物は、有益な効果および/または治療効果をもたらす可能性がある。そして第4に、R-エクオールの投与は、存在するいずれの内因性S-エクオールも補充し、エストロゲン様作用と抗アンドロゲン様作用の両方が体内で起こるのを可能にするであろう。
【0065】
本発明は、男性および女性型脱毛症に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。DHTは、頭皮の脱毛の知られている原因である。アンドロゲン、特に主要な循環アンドロゲンすなわちテストステロンは、より強力なアンドロゲン、すなわちジヒドロテストステロン(DHT)に(毛包中で)転換され、頭皮の毛包でのDHTのホルモン作用は、脱毛を引き起こす。したがって、例えば循環中(血管中)および毛包内でDHTを結合させるための、エクオールの本発明における使用によって、DHTのホルモン作用をブロックできるならば、頭皮の脱毛は、減少または予防できる。
【0066】
本発明は、顔面および身体の毛に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。顔面および身体の毛は、アンドロゲンによって調節されるが、頭髪の調節とは逆である。特に、より強力なアンドロゲンであるDHTは、顔面および身体の毛を増加させる。DHTはまた、座瘡の増加の一因となる、皮脂腺からの皮脂の生成を増加させる。したがって、エクオールによるDHTの結合は、顔面および身体の毛の、また皮脂(油)の分泌の減少、および座瘡の減少または予防をもたらすことができる。
【0067】
本発明は、皮膚の外観、皮膚の質および完全性、皮膚の老化、皮膚の光老化、ならびに皮膚の色素沈着および美白に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。エストロゲンは、特に閉経後には限らず、閉経前にも、皮膚の特性または堅牢性を向上させるためのエラスチンおよびコラーゲン含有量を増大させることによって皮膚の健康を向上させる。また、皮膚が、座瘡または他の皮膚の破壊(引っ掻き、吹き出物、または小さな切り傷など)によってダメージを受けたとき、エストロゲンまたはエクオールなどのエストロゲン様化合物が存在する場合には、修復機構はより早くなり、皮膚はより良く治癒する。エクオール鏡像異性体混合物、特にS-エクオールは
、エラスチンおよびコラーゲンの優れた刺激因子であり、光老化から防護することもできると考えられている。DHTのホルモン作用を、エクオールがブロックすることにより、皮脂腺からの皮脂産生を減らすことができ、それにより座瘡を減らすまたはなくすことができる。S-エクオール(R-エクオールではないが)は、エストロゲン受容体(1種または複数)(主にERβ)と結合するので、このエストロゲン様分子の防護効果は、皮膚におけるエラスチンおよびコラーゲンを刺激するであろう。さらに、エクオールは、強い酸化防止剤であるので、光老化を含めた老化から皮膚を防護できる。
【0068】
本発明は、前立腺の健康の改善に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。テストステロンの、より強力なアンドロゲンDHTへの転換は、前立腺内の酵素5α-レダクターゼの作用の結果である。DHTは、良性前立腺肥大症(BPH)を引き起こし、前立腺重量を増加させ、こうした状態を治療するための前立腺切除および放射線療法の必要性をもたらす可能性がある。最後に、ダイズ食品の摂取は、前立腺および乳癌などのホルモン依存性の癌を減少させるその「健康上の利益」のおかげで注目が大きくなっている。したがって、エクオールによるDHTの遮断は、動物モデルにおいて前立腺重量を減少し、おそらくBPHをブロックして前立腺癌を予防することとなる。
【0069】
本発明は、脳障害、アルツハイマー型の痴呆、ならびに加齢と関係する、また短期および長期の記憶喪失と関係する他の認知機能の低下または障害を含めて、脳の機能および精神的健康に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。脳の機構はより複雑であり、どの分子および因子が、気分、抑うつ、不安などを調節したりこれらに影響を与えたりするのかを明確にする試みは難しい可能性がある。しかし、エストロゲンまたはイソフラボンのようなエストロゲン様分子が、アルツハイマー病などの状態における認知機能を補助することができ、特に閉経後の女性におけるこうした障害の発症を予防することを助けることが可能であるという概念を支持するいくつかのデータが存在する。
【0070】
気分、不安、抑うつ、および他の精神的健康状態に関しては、2つの基本的な見解が存在する。第1の趣旨の研究は、(特に女性における)エストロゲンが、不安を調節し、不安レベルを低下させるのを助けるという見解を支持する。エストラジオールとプロゲステロンは両方とも、精巣のアンドロゲンであるテストステロンだけでなく不安関連の行動も変化させる(Imhof J.T.ら、Behav Brain Res, 56:177-180(1993))。エクオールの抗アンドロゲン活性は、神経伝達を増進し、シナプス密度を回復させることによって、脳内で作用する。どんな特定の理論にも拘泥することなく、R-および/またはS-エクオールが、脳内で、エストロゲンと同じ部位(1つまたは複数)で活性であり、エストロゲン様の反応を発揮するということが考えられる。
【0071】
第2の趣旨の研究は、より複雑であり、5α還元ステロイド、特にプロゲステロンが、脳内でGABAA受容体と結合し、鎮静を引き起こす能力をもつという見解を支持する。GABAAは、脳における主な抑制性神経伝達物質であり、その受容体は、気分/情動を制御する脳領域に豊富である。鎮静が引き起こされることによって、個人が表す不安は少なくなる。例えば、妊娠中の大抵の女性は、感情面は良好だが、いつも疲れているあるいは眠いと報告する。これは、体内特に脳内で5α-レダクターゼ酵素によってプロゲステロンが5α-ジヒドロプロゲステロン(5αDHP)に転換されることが原因であり、この分子のさらなる代謝により、GABAA受容体と結合し、GABAAの作用を増進することが可能な最も強力な「神経ステロイド」がもたらされる。(てんかんおよびその発作を経験している)てんかん患者の女性(これらの人々は、プロゲステロンの高循環レベルが原因で、妊娠中ほとんどまったく発作が起こらない)では、この5α-ジヒドロプロゲステロン分子(およびその代謝産物)が、脳の活動を低下させる可能性があるということを支持するさらなる証拠が認められる。5
α-DHTのような5α-還元アンドロゲンもまた、5α-DHPと比べるとかなり低いレベルだが、(男性において)GABAA受容体に対する同様の効果をもち、鎮静を引き起こすことに注目すべきである。
【0072】
これらの2つの見解をまとめると、エストロゲンは、一方では、不安を低下させ、したがって活動を増大させる。逆に、5α-DHPの作用をブロックすることもまた、活動を増大し、したがって、行動試験において、不安を低下させると解釈される。例えば、妊娠したラットでは、プロゲステロンの5α-DHPへの転換がブロックされているとき、その歩行活動レベルの有意な増大がもたらされる。
【0073】
これに対する同様の見通しをエクオールに関して行うと、エクオールは、5α-DHP(主に女性に見られる)および5α-DHT(主に男性に見られる)と結合する能力をもつ。これは、GABAA受容体での強力な「神経ステロイド」効果を低下させ、鎮静を低下させ、したがって活動を増大させる、あるいは不安を低下させるであろう。さらに、S-エクオールのエストロゲン受容体(1種または複数)βと結合する能力はまた、活動を増大させるであろう。最後に、若いあるいはまたは中間の年齢の大人のラットを用いる、雄または雌における本発明者らの研究は、食餌によるフィトエストロゲン摂取(Lund T.D.ら、Brain Res, 913:180-184 (2001); Lephart, E.D.ら、Neurotoxicology Teratology, 24: 1-12 (2002))、またはエクオールを用いた注射が、高架プラス迷路試験で表されるように、不安レベルを有意に低下させることを示している。
【0074】
逆に、ある報告は、イソフラボンが、雄のラットにおいて不安を増大させることを示唆している(Hartleyら、Psychopharmacology, 2003, 167:46-53)。
【0075】
高架プラス迷路は、不安関連の行動を定量化し、抗不安薬を同定するために用いられる行動試験である(Pellow S.ら、J Neurosci Methods, 14:149-147 (1985);Current Protocols In Neuroscience (1997) 8.3.1- 8.3.15, John Wiley & Sons. NY, NY)。この試験は、新規の環境の探索と、その回避すべき特徴の回避との間の生来の葛藤に依拠する。通常、動物は、迷路のクローズドアームに比べて、迷路のオープンアームで滞留時間が少なく、迷路のオープンアームへの進入回数は少ない(Imhof J.T.ら、Behav Brain Res, 56:177-180 (1993))。しかし、ベンゾジアゼピン(バリウム)などの抗不安薬で治療された動物は、オープンアーム内での滞留時間がより多くなり、オープンアームへの進入の回数は、不安関連の行動の減少を反映する。(Pellow S.ら、J Neurosci Methods, 14:149-147 (1985); Current Protocols In Neuroscience (1997) 8.3.1- 8.3.15, John Wiley & Sons. NY, NY; Chopin P.ら、Psychopharm, 110:409-414 (1993))。
【0076】
本発明は、体重および体脂肪形成に関連する疾患および状態を治療および予防するための鏡像異性のエクオールの使用を含む。エクオールを含めたフィトエストロゲンは、白色脂肪組織の形成を減少させ、白色脂肪組織破壊を増大させ、したがって体重を減少させる能力をもつ。また、フィトエストロゲン分子のエストロゲン様性質は、LDL(いわゆる「悪玉」コレステロール)、血圧を低下させ、インスリン抵抗性を妨げる(あるいは言い換えれば、糖尿病的状態に有益な効果を提供する)。エクオールは、他のフィトエストロゲンに比べてより強力なイソフラボン分子であるので、おそらく健康上の利益を提供し、上で概説した状態から防護する。
【0077】
エクオールは、DHTと結合するので、エクオールはまた、体重増加を促進するDHTの作用もブロックできる。したがって、抗アンドロゲンホルモン作用、同時に、同じ分子(エクオール)からのエストロゲンホルモン作用が組み合わされたエクオール、特にS-エクオールは、体重減少(および体重管理)という健康上の利益をさらに向上させ、LDLコレステロールを低下させ、血圧を低下させ、糖尿病の甚大な影響を妨げるのを助けるであろう。
【0078】
本発明は、高コレステロール(高コレステロール血症)、高脂血症、脂肪血症、および異脂肪血症(脂質における障害)などの脂質障害を治療および予防するための、鏡像異性のエクオールまたはそれらの混合物としての、エクオールの使用を含む。研究によれば、血漿の総コレステロール濃度が、基準レベルと比較して、エクオール産生者では7.2%(p=0.04)、非エクオール産生者では3.0%(p=NS)低下することが示されている。ダイズタンパク質が、血液のコレステロールレベルが正常な大人における有意なコレステロール低下効果をもたないことは、ほとんど例外なく、おそらく以下が原因である:ダイズイソフラボンの代謝に関する研究集団の不均一性、ならびに、エクオール形成(特に、非エクオール産生者における非形成)の関連性を認識できないこと。これらのデータは、鏡像異性のエクオールが、好都合に脂質に影響を与えること、また、その影響が、アンドロゲンによって仲介されることを示唆している。エクオールを含む組成物は、血流中の脂質のレベルを低下させるのに十分な量で投与する。
【0079】
本発明は、血圧の急激な変化に応答して反応性または柔軟性を増大させること、血流を改善すること、また、血圧を下げることによって、低下した血管の質を向上させるためのR-および/またはS-エクオールの使用をさらに含む。本発明はまた、良性前立腺癌、前立腺癌、および皮膚癌を含めた癌を治療および予防するための、R-および/またはS-エクオールの使用を含む。
【0080】
本発明の別の実施形態は、肥大した前立腺または副精巣を治療するためのエクオールの使用である。エクオールを用いて、精巣、下垂体、または体重を変化させずに、これらの病態の発症の危険があると考えられる個体における前立腺または副精巣の肥大を予防することもできる。エクオールは、エクオールの血流への吸収を可能にするいずれの経路によっても投与できる。
【0081】
DHT-アンドロゲン受容体
本発明の他の実施形態は、アンドロゲン関連障害、ならびにエストロゲン/アンドロゲン均衡の乱れから生じる障害における診断薬としてのエクオールの使用を含む。これらの実施形態では、エクオールは、DHTと結合させ、それによって、アンドロゲン受容体へのDHTの結合を妨げるために、個体に投与される。その後、エストロゲンの均衡の変化を測定する、あるいは、アンドロゲン関連の異常を診断またはさらに解明するために、アンドロゲン結合の変化を評価する。
【0082】
DHTへの結合
問題の治療成分についてのDHTの結合能力を評価するために、他の治療成分の前にあるいは他の治療成分と共に、エクオールを投与してDHTと結合させることができる。また、アンドロゲン結合成分が、DHTの結合が存在しない場合に、アンドロゲン活性を回復させ、エストロゲン活性を均衡させる効力を評価するために、アンドロゲン結合成分を、エクオールの投与後に投与することができる。さらに、エクオールは、これらの天然に存在するあるいは生体異物のDHT結合成分を、DHTから外すために、DHT結合成分の存在下で投与できる。
【0083】
エクオールの投与
ここで述べる本発明の実施形態の各々では、エクオールの投与が、経口であるべきである場合、「エクオールを産生する」哺乳類または「エクオールを産生しない」哺乳類のいずれかに、経口用剤形のエクオールを供給することによって、あるいは「エクオールを産生する」哺乳類に、経口用量のダイゼイン、ダイジン、ダイゼインを含有するイソフラボン混合物、またはダイズタンパク質調製物を供給することによって、エクオールを投与でき、経口用剤形の投与により、エクオールは血流に有効に吸収される。エクオールの投与
は、所望される場合、経口以外の経路によって行うこともできる。例えば、肥大した前立腺の治療のために、あるいは前立腺肥大の予防のためにエクオールを投与するためには、直腸内または尿道への投与を使用できることが予想される。さらに、エクオール分子の活性なリガンド結合部位は、投与のために単離および合成でき、これにより完全なエクオール分子なしでDHT結合を提供できることが予想される。DHT結合能をもつエクオール分子またはそのフラグメントの用量は、投与経路および治療されるべき状態に依存する。本発明者らのin vivo研究に基づくと、比較的低用量のエクオールが、かなり大量のDHTと拮抗することが明らかであり、これは、エクオールの血清タンパク質への結合が、DHTと比較して著しく違うことによって説明できる。DHTは、タンパク質と主に結合して循環しているが、エクオールは、50%遊離である。一般に、レシピエントの血流において、エクオール、またはその活性なフラグメントの濃度を生じるのに十分な用量は、レシピエントの体重1kgにつきエクオール少なくとも約0.2mg、好ましくは少なくとも約0.5mg/kgである。この用量は、用量を制限する有意な副作用を負わずに、約10mg/kg超まで劇的に増加させることができる。経口投与は、薬物の遅延放出または徐放を提供できるマイクロカプセル化された形で行うことができる。
【0084】
エクオールは、ローション、軟膏、(シェービングクリームを含めた)泡、経鼻スプレー、皮膚貼付剤(例えば参照によって本明細書に組み込む米国特許第5,613,958号に記載されるもの)、(マイクロポンプシステムを含めた)電気機械的装置(例えば参照によって本明細書に組み込む米国特許第5,693,018号および米国特許第5,848,991号に記載されるもの)、および皮下インプラント(例えば参照によって本明細書に組み込む米国特許第5,468,501号に記載されるもの)を含めた様々な形で、局所的に、経皮的に、および皮下的に投与できる。
【0085】
実験
(a)「エクオールを産生する」大人におけるエクオール鏡像異性体の決定
あらかじめ「エクオール産生者」と同定された、ダイズ食品を摂取している大人からの尿サンプルを分析した。サンプルを固相Bond Elut C18カートリッジに通過させることによって、エクオールを尿(25mL)から単離した。カートリッジを水で洗浄した後、メタノール(5mL)で溶離することによって、イソフラボンを回収し、メタノール相を、窒素流下で乾燥させた。このサンプルを、Helix pomatiaを用いる酵素的加水分解にかけ、次いで、Bond Elut C18カートリッジで再抽出した。このメタノール抽出液を、窒素ガス下で乾燥させ、HPLC移動相(100μL)に再溶解した。本明細書において上で述べた通りのChiralcel OJキラル固定相カラムを用いるHPLCによって、エクオール鏡像異性体を同定した。選択イオンモニタリングエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)によって、エクオールの検出を実現した。S-エクオールの精製標準物の、およびダイズ食品を摂取している大人からの尿のマスクロマトグラムを、図3に示す。同様の研究は、ダイズから得られるイソフラボンが、同様に、ラット中でエクオールに転換されることを実証しており、したがって、イソフラボン代謝のげっ歯類モデルを実証している。
【0086】
保持指数およびマスクロマトグラムでは、エクオールのR-鏡像異性体は検出できないので、ヒトの尿中に排泄されるのが、エクオールのS-鏡像異性体のみであることを確認する。同じ「エクオール産生者」からの血漿の分析でも、エクオールのS-鏡像異性体のみが示された。
【0087】
(b)ラセミエクオールの化学合成
ダイゼイン(200mg、0.8ミリモル)を、氷酢酸(20mL)とイソプロパノール(20mL)の混合物に溶解し、55p.s.i.g.(3.7気圧ゲージ)で、活性炭担持10% Pd(150mg)で還元する。この反応(2時間、TLC:イソプロパノール/n-ヘキサン1/4)の最後に、触媒を濾過して取り除き、濾液を蒸発させる。未精製の残留物を、溶離液としてイソプロパノールとn-ヘキサン(1:4
v/v)の混合物を用いてシリカゲルカラムのクロマトグラフィーによって精製し、n-ヘキサンから結晶化された純粋な生成物(160mg、収率:82%)として(±)エクオールを得る。この生成物、すなわち無色の結晶は、吸湿性ではなく、大気中で安定しており、最終の濾過手順中に分解しない。この化学合成の生成物は、すべての点で(±)エクオール(ラセミエクオール)の標準サンプルと同一であった。図4は、単一のピークとしての、合成された生成物のトリメチルシリルエーテル誘導体のGC-MS分析、ならびに、標準のエクオールのトリメチルシリル(TMS)エーテル誘導体の公表済の電子イオンスペクトルと一致している質量スペクトルを示す。予想される分子イオンは、m/z 470で、ベースピークはm/z 234である。精製されたエクオール生成物は、HPLCおよび 質量分析によって確認される通り、純度が99%超であった。
【0088】
(c)光学二色性によるS-鏡像異性体およびR-鏡像異性体の溶離順序
S-エクオールとR-エクオールのラセミ混合物を、1.0mL/分の流速で、ヘキサン中のエタノールが10%の初期移動相から、表1に示されたプログラムに従って、15分かけてヘキサン中のエタノールを90%まで増加させる勾配溶出を用いて、Chiralcel OJカラムでキラルクロマトグラフィーによって分離した。
【0089】
【表1】

【0090】
図5は、S-エクオールとR-エクオールのラセミ混合物のイオン記録(m/z 241)のマスクロマトグラムを示す。
【0091】
第1の溶出物(鏡像異性体-1と呼ぶ)と、第2の溶出物(鏡像異性体-2と呼ぶ)を、別々に収集した。各鏡像異性体を秤量し、秤量したサンプルを、1mLの分光グレードエタノールに溶解した。ナトリウムD線の光波長を用いて、20℃で各鏡像異性体の旋光度の測定を実施した。
【0092】
鏡像異性体-1材料(正味重量1.6mg)は、第1および第2の測定で、-0.023および-0.022であり、旋光度は、-14[-0.0225x1000/1.6]となり、これはエクオールのS-鏡像異性体に相当する。鏡像異性体-2材料(正味重量1.7mg)は、第1のおよび第2の測定で、+0.023および+0.023であり、旋光度は、+13.5[+0.023x1000/1.7]となり、これはエクオールのR-鏡像異性体に相当する。
【0093】
d)S-およびR-鏡像異性体の受容体結合能力の決定
S-およびR-鏡像異性のエクオールの、エストロゲン受容体ERαおよびERβとの相対的な親和性を調べるために、in vitro結合研究を実施した。
【0094】
ホルモン受容体タンパク質の合成。30℃で90分の反応中にT7-RNAポリメラーゼを用いるTnT-結合網状赤血球溶解物システム(Promega, Madison, WI)を使用し、全長ラットERa発現ベクター(pcDNA-ERa;RH Price UCSF)およびERb発現ベクター(pcDNA-ERb;TA Brown, Pfizer, Groton, CT)を用いて、in vitroでホルモン受容体を合成した。翻訳反応混合物を、後に使用するまで-80℃で保管した。
【0095】
飽和等温線。ERαおよびERbに対するS-エクオールおよびR-エクオール鏡像異性体の結合親和性を算出および確立するために、網状赤血球溶解物上清の100μL分量を、最適な時間および温度;すなわち室温で90分(ERb)および4°Cで18時間(ERa)で、 [3H]17b-エストラジオール(E2)の濃度を増加させて(0.01〜100nm)インキュベートした。これらの時間は、経験的に決定したが、これは、受容体のエストロゲンとの最適な結合に相当する。平行管内で、300倍過剰のERアゴニスト、すなわちジエチルスチルベストロールを用いて、非特異的結合を評価した。インキュベーション後、結合および非結合[3H]E2を、1mLの親油性のSephadex LH-20(Sigma-Aldrich Co., Saint Louis, MO)カラムにインキュベーション反応物を通すことによって分離した。カラムは、以前に発表されたプロトコル(Handaら、1986年;O'KeefeおよびHanda、1990年)に従って、使い捨てピペットチップ(1mL; Labcraft, Curtin Matheson Scientific, Inc, Houston, TX)を、TEGMD(10mm Tris-Cl、1.5mm EDTA、10%グリセロール、25mmモリブデート、および1mmジチオトレイトール、pH7.4)で飽和させたSephadexで充填することによって組み立てた。クロマトグラフィーのために、TEGMD(100μL)を用いてカラムを再平衡化し、各カラムにそれぞれインキュベーション反応物を加え、さらに30分間カラムでインキュベートさせた。このインキュベーション後に、600μLのTEGMDを各カラムに加え、素通り画分を収集し、4mLのシンチレーション液を加え、2900 TR Packardシンチレーションカウンター(Packard Bioscience, Meriden, CT)で、サンプルをカウント(各5分)した。
【0096】
競合結合研究を用いて、エクオールのS-エクオールおよびR-エクオール鏡像異性体のエストロゲン様性質を評価した。SおよびRがER結合について[3H]E2と競合する能力に基づくと、in vitroで翻訳されたERに対する親和性は、2つの鏡像異性体について非常に異なることが示された。S-エクオール鏡像異性体は、ERbに対して最大の親和性を示した[Kd(nm)=0.73±0.2]が、ERaに対する親和性は、比較すると比較的低かった[Kd(nm)=6.41±1.0]。R-エクオール鏡像異性体は、ERb[Kd(nm)=15.4±1.3]とERa[Kd(nm)=27.38±3.8]の両方に対して親和性がかなり低かった。参考までに、この系では、17b-エストラジオールは、ERaとKd(nm)=0.13で、ERbとKd(nm)=0.15で結合する。
【0097】
この研究によれば、S-エクオール鏡像異性体のみが、ヒトにおいて報告されている循環エクオールレベルとの潜在的な関連性を有するのに十分な親和性でERと結合することが示される。ERaに対するS-エクオールおよびR-エクオール鏡像異性体の相対的な結合親和性は、17b-エストラジオールと比較して、それぞれ49倍および211倍低かった。しかし、S-エクオール鏡像異性体が、ERbに対して比較的高い親和性をもち、大いにERb選択性であると考えられるのに対し、R-エクオール鏡像異性体は、約100倍低い親和性で結合する。S-エクオールのみが、ヒト血漿および尿に見られるという別々および組み合わされた決定は、2つの鏡像異性体の結合における特異性の点から見ると重要である。
【0098】
e)R-エクオールの生体利用能
終夜絶食した後の健康な成体に20mgの純粋なR-エクオールを経口的に投与した。次の24時間にわたって一定の時間間隔で、血液サンプルを収集し、選択イオンモニタリングを用いる同位体希釈ガスクロマトグラフィー-質量分析によって、エクオールの血漿濃度を求めた。血漿中でエクオールの急速な出現が認められ、8時間後にピーク濃度が認められる。R-エクオールの最終消失半減期は、約8時間であった。エレクトロスプレーイオン化質量分析は、血漿中に存在するエクオールが、R-エクオール鏡像異性体であることを裏付け(データは示さないが要求があれば可能)、それによって、これが、安定であり、腸内でのいずれのラセミ化または後の生体内変換も受けないことを確証した。図2は、R-エクオールの出現/消滅プロットを示す。これらの結果は、R-エクオールが、薬理学的または栄養補給的調製物として投与された場合、非常に生体利用能が高いことを確証する。
<実施例>
必要に応じて、分散統計(ANOVA)、続いてNewman-Keuls post hoc試験の分析によって、データを分析した。有意性は、p<0.05で定めた。曲線当てはめ(curve fitting)、科学的グラフ化(scientific graphing)、および分析は、GraphPad Software(GraphPad Prism 3.0, San Diego, CA)を用いて完成させた。
【実施例1】
【0099】
この実施例は、前立腺サイズおよびホルモン分泌に対するエクオールのin vivoでの効果を実証する。雄のSprague-Dawleyラット(400〜500グラム)を、Charles Rivers Laboratories(Wilmington, MA, USA)から入手する。ラットを、2匹ずつケージに入れ、食物および水に自由に接近できる状態で暗期12時間、明期12時間(0700hで照射)を維持する。
【0100】
到着して1週間後、動物に、ジメチルスルホキシド(DMSO)(賦形剤対照)またはラセミエクオール(0.25mg/kg)のどちらかの皮下(sc)注射(1日1回4日間)を施す。最後の注射の18時間後、動物を断頭で屠殺し、分析のために体幹血(trunk blood)および前立腺を収集する。
【0101】
エクオールを皮下に注射された無処置の雄では、無処置の対照の雄と比較すると、前立腺重量の有意な減少が認められる。さらに、こうした同じ無処置の雄における黄体形成ホルモン(LH)は、対照の治療された雄に比べて、エクオールにおいて有意に増加する。これらの発見を、それぞれ図6Aおよび6Bに示す。これらの効果は、DHTに比べて比較的低レベルのエクオールで認められ、これは、約50%遊離で循環するエクオールと、血清タンパク質と主に結合しているDHTとのタンパク質結合における著しい違いによって説明できる。
【実施例2】
【0102】
前立腺に対するエクオールの効果の他に、ラセミエクオールは、他の組織におけるDHTの影響もブロックし、体重を減少させる。到着して1週間後、無処置の雄に、1日1回7日間、DMSO(対照)またはエクオール(0.5mg/kg)のどちらかの皮下注射を施す。治療後、動物を秤量し、その後断頭で屠殺し、組織を収集する(前立腺、精巣、副精巣、および下垂体)。
【0103】
ラセミエクオールで治療された雄では、対照と比較すると、DHT感受性の副精巣の有意な重量減少が認められる。しかし、ラセミエクオールは、精巣重量または下垂体重量には影響を与えなかった。この比較的に短い治療期間中の体重は、ラセミエクオールと対照処置との間で有意には異ならない。これらの結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

【実施例3】
【0105】
大人の雄のSprague-Dawleyラットを、3グループにランダムに割り当て、DMSO、0.250mg/kg/日のエクオールのラセミ混合物、0.250mg/kg/日のR-エクオール、または0.250mg/kg/日のS-エクオールのいずれかの注射を毎日受けさせた。各注射の総体積は、0.3ccであり、ラットの首筋に皮下投与した。7日間連続の治療の後、ラットを屠殺し、注射期間中の体重増加を求めた。R-エクオールを注射されたラットは、表3に示した通り、対照ラット
と比較して、体重増加が有意に減少していた。
【0106】
【表3】

【0107】
精巣および脳下垂体重量は、この治療では有意には変化しない(データは示さない)。エクオール実験での体重のわずかな減少(約10%)は、Phytoを含まない食餌(非常に低レベルのフィトエストロゲンを含有する食餌)とPhyto-600食餌(600ppmのイソフラボンを含有するフィトエストロゲンを多く含む食餌)を与えられた動物の間に見られる減少と非常に類似している。ラセミエクオール注射を受けた白色脂肪組織沈着の有意な減少(約36%)はまた、食餌による治療研究から得られたデータ一式で見られる減少に匹敵する。これらの発見は、R-エクオールが、体重を調節可能であり、白色脂肪の沈着を有意に減少可能であることを示唆する。
【実施例4】
【0108】
この実施例は、DHTへのエクオールの結合を実証する。ARに対するエクオールの結合親和性を決定および確証するために行われる最初の結合競合研究では、本発明者らは、[3H]DHTの明確な結合が、エクオールの存在下で、エクオールが無い場合よりも多いことを繰り返し観察した。ARがインキュベーションチューブから除去されるというプロトコルのわずかな改変([3H]DHTおよびエクオールのみが残る)により、[3H]DHT反応複合体を含有する溶出液への[3H]DHTの溶出がもたらされた。
【0109】
この現象をさらに調べるために、[3H]DHTのエクオールへの結合を確証する溶出ピークを同定するために、長さ30cmのSephadex LH-20カラムを使用した。図7に示す通り、5mLと9mLの間の溶出分画では、[3H]DHT+エクオールのカラムインキュベーションが適用されるとき、[3H]DHTのピークは、明白である。カラムに[3H]DHT単独が適用されるときには、このピークは、存在しない。さらに、DHTまたはDHT+エクオールが、前立腺上清と共にインキュベートされ、その後この30cmカラムを通過させる場合(図8A)、2つの異なる結合ピークが同定可能である。[3H]DHTの第1のピークは、前立腺においてARと結合したものに相当する。これは、4mlと5mlとの間の溶出分画に見られる。さらに、[3H]DHTのエクオールへの結合と一致する後方のピーク(5mlと9mlの間)が存在する。しかし、エクオールを導入する前に、[3H]DHTを、前立腺上清と共に36時間(平衡まで)インキュベートさせる場合、[3H]DHTの明確な結合は存在しない(図8B)。[3H]DHTと[3H]DHT+エクオール(エクオールは36時間後に加えた)は両方とも、4mlと5mlの間の溶出液において単一のピークを示し、エクオールが、ARに対してDHTと競合せず、既に受容体に結合している[3H]DHTと結合することもないことを示唆している。さらに、[3H]E2、[3H]T、[3H]DHEA、[3H]CORT、および[3H]プロゲステロンを用いて同様の競合および結合研究が行われ、エクオールへの結合がまったく起こらなかった(データは示さない)ので、エクオールのDHTへの結合は、特異的であると考えられることに注目するべきである。[3H]DHTへのエクオールの結合の飽和分析により、1.32±0.4nmで算出された見かけのKdが示される(図9)。
【実施例5】
【0110】
この実施例は、エクオールが、前立腺サイズに対するDHTの影響を調節することに加えて、DHTとin vivoで結合し、LH分泌に対する負の効果をブロックすることを実証する。DHTの長期持続的類似体、すなわちプロピオン酸DHT(DHTP)で治療されたGDX雄は、賦形剤で治療されたGDX対照ラットと比較して、前立腺重量の有意な増加を示す。エクオールを用いる併用治療(DHTP+エクオール)では、DHTPの効果はブロックされるが、エクオールは、図10Aに示す通り、単独では前立腺サイズに影響を与えない。エクオールはまた、LHに対するDHTの負のフィードバック効果をブロックする。GDX雄では、LHは、DMSOを用いた治療と比較して、DHTP治療によって有意に低下する。DHTと組み合わせてエクオールを用いる治療では、LH分泌に対するDHTPの負のフィードバック効果がブロックされる。単独のエクオールは、LHレベルに影響を与えない(図10Bに示す)。
【実施例6】
【0111】
この実施例は、ラセミエクオールの、アンドロゲン感受性の組織に対する効果を実証する。到着して1週間後、イソフルラン麻酔下で、動物を性腺摘出(GDX)し、7日間回復させる。回復後、動物を、次のグループに割り当てる:1)DMSO、2)DHTP(2mg/kg)、3)ラセミエクオール(0.25mg/kg)、または4)DHTPとラセミエクオールの両方。4日間毎日、皮下に注射を施す。動物を断頭で屠殺し、分析のために体幹血および組織を収集する。血漿DHTを測定し、図11に示す。予想通り、DHTPで治療された動物(GDX+DHTP、GDX+エクオール+DHTPグループ)では、血漿DHTの有意な上昇が見られた。血漿DHTは、エクオールとの共治療によって、有意にではなかったが、さらに上昇した。前立腺、精巣、および副精巣を含めた組織を、動物から切除し、脂肪および結合組織を取り除き、秤量し、浸漬によって4%パラホルムアルデヒドに固定し、その後クリオスタットで15μmに切断する。組織切片を、荷電したスライド(Superfrost Plus, Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)に乗せ、23℃に予熱し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、濃度を高くしていくアルコールで脱水し、キシレンで清澄化する。組織切片を、図12および13に示す。H&E染色された前立腺は、GDXと治療の両方による変化を反映する。対照、エクオール、およびDHTPプラスエクオールで治療されたグループの前立腺は、同様の組織像を示す(図12A、B、D)。これらの動物では、前立腺は、非常に小さく、腺の内腔の体積が小さい萎縮腺が特徴である。DHTPで治療された動物(図12C)では、腺は、細胞増殖の徴候を示す。GDX動物に比べて、内腔サイズは増大しており、上皮は、背の高い円柱型である(図12C)。無処置の対照動物(図12E)と比較すると、エクオールで治療された雄の前立腺は、退縮を示し、より密集した萎縮腺からなる(図12F)。対照の雄と比較すると、エクオールで治療された無処置の雄の副精巣の組織像は、内腔の縮小からも分かるように、全体的に、より小さい管を示す(図13)。
【実施例7】
【0112】
Long-Evans雄ラットを、食餌1グラムあたり600マイクログラムのイソフラボン、または600ppmイソフラボンを含有するフィトエストロゲンを多く含む食餌(以後、「Phyto-600」食餌と呼ぶ)か、非常に低レベルのイソフラボンを含有する食餌(以後、「Phytoを含まない」食餌と呼ぶ;約10ppmのイソフラボンを含有する)のどちらかで飼育した(受胎からサンプルを収集するまで一生)。図14に示す通り、Phyto-600食餌を与えた雄のLong-Evansラットは、Phytoを含まない食餌を与えられた動物と比較すると、33、55、または75日齢で、有意に低い体重を示す。55または75日齢の雄において、脂肪組織(腹腔において腎臓のすぐ下から精巣のすぐ上まで切断する)を測定する。どちらの日齢でも、Phyto-600を与えられた動物と比較して、Phytoを含まない食餌を与えられた雄では、白色脂肪組織質量は有意に大きい(図15)。Phyto-600を与えられた雄の体重の減少は、Phytoを含まない食餌を与えられた雄と比較して、約10から15%パーセントで、控え目であるのに対し、同動物からの白色脂肪組織の減少は、約50〜60%であることに注目すべきである。このように、ダイズを与えた動物において、体重に比べて白色脂肪組織の減少が、より大きいことは、ダイズ由来の食餌を摂取しているヒトにおいて見られる一般的な特性でもある(D.B. Allisonら、Eur J Clin Nutr, 2003, 57: 514-522)。この特定の結果は、こうしたデータ一式が
存在するような様々な実験全体を通して、年齢、性別、ラットの系統、または雌のラットが卵巣を切除されたかどうか(ヒトにおける閉経後の状態をシミュレートする)にかかわらず、繰り返し見られた。
【0113】
これらのパラメータが、体重および脂肪組織重量に影響を与える可能性があるかどうか決定するために、食物および水摂取を測定する場合、Phyto-600を与えられた雄は、Phytoを含まない食餌を与えられた動物と比較して、わずかではあるが有意に多い食物(図16A)および水(図16B)摂取を示す。したがって、体重および脂肪組織重量の減少を、食餌治療間の食物/水摂取の変化によって説明することはできない。
【0114】
レプチンは、脂肪組織によって産生されるので(D.A. Sandovalら、J Diabetes Complications, 2003, 17:108-113.)、インスリンレベルと共に、血清レプチンレベルを測定して、これらの代謝ホルモンの変化を求める。図17Aに示す通り、Phyto-600を与えられた雄では、33、55、または75日齢でのレプチンレベルは、Phytoを含まない食餌を与えられた雄と比較して、有意に低下する(これは、こうした同じ動物からの脂肪組織重量で見られる減少と一致する)。また、Phytoを含まない食餌を与えられた雄(図17B)に対して、Phyto-600を与えられた雄では、インスリンレベルは、有意に低下し、これは、2型糖尿病に関係するインスリン抵抗性から防護する効果と一貫性がある(V. Jayagopalら、Diabetes Care, 2002, 25:1709-1714.)。
【0115】
循環イソフラボンレベルが、Phyto-600を与えられた雄および雌と、Phytoを含まない食餌を与えられた雄および雌のラット(75日齢)において異なることを実証するために、本発明者らの研究室で以前に実施した通りのGC/MSによって、血清イソフラボンレベルを求める(K.D.R. Setchell, Am J Clin Nutr 129:1333S-1346S, 1998;およびK.D.R. Setchellら、J Nutr 132:3577-3584, 2002.の方法を参照のこと)。異なる分類のイソフラボンの各場合において、Phyto-600を与えられた雄は、Phytoを含まない食餌を与えられた値と比較して、有意に高いイソフラボンレベルを示す(表4に示す)。Phyto-600を与えられたラットのエクオールレベルが、総フィトエストロゲンレベルの約78%に相当することが、より重要である。
【0116】
【表4】

【0117】
他の代謝ホルモンが、食餌治療によって、あるいは年齢によって変わったかどうか決定するために、血清グルコースおよび甲状腺(T3)レベルを分析する。グルコースレベルは、Phyto-600を与えられた雄では、年齢や血液サンプルの起源[動脈(ART)か静脈(TRUNK)か]に関係なくPhytoを含まない食餌を与えられた値と比較して、(有意にではないが)わずかに高い(図18に示す)。しかし、T3レベルを定量する場合、Phytoを含まない食餌を与えら
れた動物と比較して、Phyto-600食餌を与えられた80または110日齢の雄のLong-Evansラットでは、T3血清レベルが有意に増大する(図19に示す)。これは、ダイズ摂取と共に、甲状腺レベルが増大することを示唆し、これは、甲状腺投薬を減少させた、あるいは食餌におけるダイズ由来の食物の摂取を用いた甲状腺治療の効果が完全に切れた個体の事例証拠と一致する。これは、ダイズ食品の摂取後のヒトにおけるT3レベルの同様の増大の報告とも一致する(Watanabe, S.ら、Biofactors 2000: 12(1-4):233-41)。
【実施例8】
【0118】
この実験では、Phyto-600かPhytoを含まない食餌のいずれかで、雌のLong-Evansラットを飼育する(最初からサンプルを収集するまで一生)。図20に示す通り、Phyto-600食餌を与えられたラットは、Phytoを含まない食餌を与えられた動物と比較して、80日齢で有意に低い体重を示し、Phyto-600を与えられた動物では約12%の体重減少に相当する。Phyto-600を与えられた雄のLong-Evansラットで以前に見られたように、Phyto-600食餌を与えられた雌も、Phytoを含まない食餌を与えられた雌と比較して、脂肪組織重量の有意な減少(約68%)を示した(図21に示す)。
【0119】
雄のラットを用いた結果と同様、80または110日齢のPhyto-600を与えられた雌のラットでは、血清グルコースレベルは、Phytoを含まない食餌治療グループの動物と比較して、有意にではないがわずかに高い(図22に示す)。しかし、Phyto-Phyto-600食餌を与えられた雌では、T3レベルは、110日齢のPhyto-Phytoを含まない食餌を与えられた動物と比較して、有意に高い(図23に示す)。雌におけるT3およびグルコースの結果は、同じ食餌治療にかけられた雄のラットで得られる結果と非常に類似しており、どちらの性別でも同様の健康上の利益を示す。雌のLong-Evansラットにおいて100日齢で収集されたサンプルは、同様の結果(すなわち、Phytoを含まない食餌に対して、Phyto-600食餌の摂取に伴う体重および脂肪組織重量は有意に減少)をもたらす(データは示さない)。
【実施例9】
【0120】
大人の雌のラットを、50から215日齢まで、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌治療に置く。50日齢より前は、動物を、およそPhyto-200ppmのイソフラボンを含有する食餌、または動物供給者に使用されるものなどの同様の食餌で飼育することができる。Phyto-600を与えられた雌は、215日齢で、Phytoを含まない食餌を与えられた雌よりも重さが有意に小さく、約7%の体重減少を示す(図24に示す)。Phyto-600を与えられた雌における215日齢での白色脂肪組織は、Phytoを含まない食餌を与えられた雌のそれと比較して約30%有意に減少する(図25に示す)。同様に、Phyto-600を与えられた雌における血清レプチンレベルは、Phytoを含まない食餌を与えられたものよりも有意に低かった(図26に示す)。Phytoを含まない食餌を与えられた雌に対して、Phyto-600を与えられた雌では、以前に見られたのと同様の程度でインスリンレベルが低下したが、統計学的有意差には到達しなかった(図27に示す)。
【実施例10】
【0121】
この実施例は、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌の、大人の卵巣切除した(OVX)ラットに対する効果を実証する。OVXラットは、閉経後のヒト女性の十分に確立された動物モデルである。さらに、OVXにより、エストロゲンおよびプロゲステロンの皮下注射で、ラットの発情行動を刺激し、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌の効果を決定することができる。大人の卵巣切除したラットに、50日齢まで、およそ200ppmのイソフラボン(「Phyto-200」)のフィトエストロゲン食餌を与える(動物はすべて、およそ40日齢で卵巣切除する)。これらの雌のラットは、50日齢で、日齢および重量をマッチさせ、次の2種の食餌治療のうちの1つに、94日齢まで置く:Phyto-600(黒色棒)またはPhytoを含まない(白色棒)のいずれか。動物を食餌治療に置く前に50日齢で、58日目(食餌治療8日)に、92日齢(エストラジオールの注射の前)で、94日齢(プロゲステロンの注射前で、また94日齢のその6時
間後(発情行動の化学的誘発後)に基準体重を量る(図28に示す)。
【0122】
8日間食餌を摂取した後、Phyto-600を与えられたラットは、Phytoを含まない食餌を与えられたラットと比較して、わずかであるが有意の(約7%の)体重の減少を示した。この体重の減少は、エストロゲンおよびプロゲステロン(ステロイド)注射による発情行動の化学的誘発の前および誘発の間保たれる。
【0123】
94日齢で、発情行動の化学的誘発後に白色脂肪組織を測定すると、Phyto-600を与えられたOVXラットは、Phytoを含まない食餌を与えられたOVXラットと比較して、白色脂肪組織質量が約50%小さく(図29に示す)、これは、実施例9および10における発見と一致する。
【0124】
Phyto-600を与えられたOVXラットの血清レプチンレベルは、Phytoを含まない食餌を与えられたラットと比較して、約30%減少し(図30に示す)、これは、白色脂肪組織質量の減少を反映している。
【実施例11】
【0125】
雄および雌のLong-Evansラットを、50日齢で供給者から購入する。動物はすべて、Phyto-200食餌で飼育する(最初から50日齢まで)。50日齢で、雄および雌のラットを、以前の実施例で述べた、次の4種の食餌治療のうちの1つにランダムに割り当てる:1)約5ppm未満のイソフラボンを含有するAIN-76食餌、2)Phytoを含まない食餌、3)Phyto-200、または4)Phyto-600食餌(先の実施例に記述済み)。AIN-76食餌は、極度に低濃度のイソフラボンを含有し、その処方は、他の3種の食餌と比較してかなり異なる。例えば、スクロース含有量が非常に高く(食餌配合物全体のほぼ50%に近い)、密度が濃く、堅くて白く、ラットが通常の植物由来成分の食餌ほどには喜んで摂取しない可能性がある(すなわち、Phytoを含まない食餌は、その配合物中にトウモロコシおよびコムギを使用し、非常に低レベルのイソフラボンを含有する);Phyto-200またはPhyto-600食餌は、その配合物中に、変動量のダイズミールを使用する。雄のラットは、350日齢(ヒトでは中年に相当)まで、割り当てられた食餌で維持する。雌のラットは、279日齢(ヒトでは中年に近い)まで、その食餌で維持する。食物および水の摂取を測定して、これらのパラメータの体重変化に対する潜在的な影響を決定する。いずれの場合にも、これらの要因は、イソフラボンを含有する食餌(すなわちPhyto-200およびPhyto-600食餌)の摂取に伴う体重の減少に寄与しない(データは示さない)。
【0126】
雄-
112日齢で(約62日間の食餌療法で)、体重を記録する(図31に示す)。Phytoを含まない食餌を与えられた雄が、最も体重が重く、Phyto-600を与えられた雄が、最も体重が軽いのに対し、AIN-76およびPhyto-200食餌の雄は、これらの2つのグループの値の間である。Phyto-600を与えられた雄の体重は、Phytoを含まない食餌を与えられた雄よりも約14%、有意に低かった。
【0127】
同様に、279および350日齢で、雄のラットは、112日齢で認められるのと同様のプロフィールを有する(それぞれ図31と図32に示す)。Phytoを含まない食餌を与えられた雄は、最も重い体重を示し、Phyto-600を与えられた雄は、最も軽い体重を示すのに対し、AIN-76およびPhyto-200食餌の雄は、これらの2つのグループの値の間である。
【0128】
AIN-76を与えられた雄または、Phyto-Phytoを含まない食餌を与えられた雄は、最も高い白色脂肪組織重量を示す(350日齢で測定された)。Phyto-200を与えられた雄は、AIN-76またはPhytoを含まない食餌を与えられたラットと比較して、白色脂肪組織重量の、有意ではない19%の減少を示す。Phyto-600食餌を与えられた雄のラットは、AIN-76またはPhytoを含まない食餌を与えられたラットと比較して脂肪組織質量が有意に低く、およそ40%の
減少である(図34に示す)。
【0129】
血清インスリンレベルとレプチンレベルは両方とも、食餌治療におけるイソフラボンの濃度上昇の関数として、有意に低下する(それぞれ図35と図36に示す)。例えば、Phyto-200またはPhyto-600食餌を与えられた雄は、AIN-76を与えられた雄と比較して、インスリンレベルが有意に低下する。また、Phyto-600を与えられた雄は、Phytoを含まない食餌を与えられた雄と比較して、インスリンレベルのおよそ50%の低下を示す。血清レプチンプロフィールは、インスリンの結果と同様のパターンを示し、Phyto-200またはPhyto-600を与えられた雄は、AIN-76を与えられた雄またはPhytoを含まない食餌を与えられた雄のいずれかと比較して、血清インスリンレベルが有意に低い。Phyto-600を与えられた雄のインスリンレベルは、Phyto-200を与えられた雄と比較して46%低い。しかし、これらの2つの食餌グループの間の差は、有意には達しなかった(p<0.065)。
【0130】
雌-
4種の食餌治療の、雌のラットの体重に対する影響を決定するために、112および279日齢で体重を測定する。112日齢で、Phytoを含まない食餌およびPhyto-200食餌を与えられた雌は、体重が最も重く、Phyto-600を与えられた雌は、最も軽いのに対し、AIN-76食餌グループは、他の3つのグループの値の間である(図37に示す)。Phyto-600を与えられたグループの体重は、Phytoを含まない食餌を与えられた雌およびPhyto-200を与えられた雌と比較して約10%、有意に低い。
【0131】
279日齢で、雌のラットは、食餌治療によって影響を受けるときの体重の変化について、年齢をマッチさせた雄と同様のプロフィールを有する(図38に示す)。Phyto-600食餌を与えられた雌は、AIN-76やPhytoを含まない食餌を与えられたグループと比較して、最も軽い体重を示す。試験された食餌治療グループの中で、Phyto-600を与えられた雌におけるこの有意な体重の減少は、約15%である。
【実施例12】
【0132】
Nobleラットを用いて、近交系のラットが、イソフラボンを多く含む食餌に置かれた場合、Long-Evans動物などの非近交系のラットと同様の体および脂肪組織の変化を受けるかどうかを決定した。近親交配が原因で、Nobleラットは、より脆弱な動物である。例えば、妊娠した雌親は、常に同腹子を産み月までとは限らず、しばしば小さな同腹子を産む。Nobleラットは、加齢と共に、特に生殖路のホルモン依存性器官に自然発生的に腫瘍を生ずるので、20年以上は使用されている。したがって、Nobleラットは、癌研究の分野で広範に研究されている(例えば、R.L. Noble, Prostate carcinoma of the Nb rat in relation to hormones, Int Rev Exp Pathol, 1982, 23:113-159)。
【0133】
雄および雌のNobleラットに、最初から145日齢まで、Phytoを含まない食餌またはPhyto-600食餌のどちらかを与える。Phyto-600食餌を与えられた雄のNobleラットは、145日齢で、Phytoを含まない食餌を与えられた年齢をマッチさせた雄と比較して体重が有意に軽い(図39に示す)。Long-Evansラットについて以前に観察された通り、体重の有意な減少は、Phytoを含まない食餌を与えられた雄と比較して、控え目ではあるが約8%という安定した減少である。さらに、白色脂肪組織質量は、Phyto-600を与えられた雄では、Phytoを含まない食餌を与えられた雄と比較して有意に減少する(図40に示す)。
【0134】
Phyto-600食餌を与えられた雌のNobleラットは、Phytoを含まない食餌を与えられた雌と比較して体重が6%減少する(図41に示す)。白色脂肪組織質量は、Phyto-600食餌を与えられた雌のNobleラットでは著しく減少する(図42に示す)。Phyto-600食餌グループは、Phytoを含まない食餌を与えられたラットと比較して脂肪組織が61%減少する。白色脂肪組織の減少は、Long-Evansラットで見られた減少と同様である。
【実施例13】
【0135】
Phytoを含まない食餌期間を開始する前に、雄のLong-Evansラットに、先の実施例で述べた通りのPhyto-200食餌を与える。これらのラットを、約52日齢で、Phytoを含まない食餌を含有する食餌に置き、3つのグループにランダムに割り当てる。すべてのラットについて、Phytoを含まない食餌での14日後および21日後の基準体重は、同じである(それぞれ図43と図44に示す)。73日齢から、ラットに、賦形剤(ピーナッツオイル)、賦形剤に入れた1ミリグラムのエクオールのラセミ混合物(0.83mg/体重1kg/日)、または賦形剤に入れた5ミリグラムのエクオールのラセミ混合物(4.2mg/体重1kg/日)の1日あたり0.1ccの皮下注射を、3日に1回受けさせた。
【0136】
80および88日齢で、エクオールを注射した両方のグループでは、対照と比較して、体重および平均体重増加量がわずかに減少するが、これらの値は対照とは有意には異ならない(それぞれ図45と図46に示す)。
【0137】
動物が95および101日齢になる時までに、エクオールで治療されたグループでは、体重は、5から9%の範囲で、ほんのわずかにだけ減少する(図47と図48に示す)。しかし、エクオールを注射した動物における平均体重増加量は、95日と101日の両方で、対照値と比較して有意に減少する。体重の差は有意ではないが、脂肪組織沈着は、エクオールで治療されたグループでは、著しく低い。エクオールを注射した101日齢ラットの脂肪組織質量は、対照と比較して、約33%減少する(図49に示す)。
【0138】
エクオール注射に、雄の生殖器官に対する副作用があるかどうか決定するために、これらの動物において、精巣重量を定量化する。エクオール注射を受けた精巣重量においては、有意な変化はなく、注射治療グループの中では、精巣の重量は本質的に同じである(図50に示す)。
【実施例14】
【0139】
50日齢のLong-Evans雄および雌を、それぞれケージに入れ、暗期10時間、明期14時間(1400-0400で照射)を維持する。動物を、食餌グループにランダムに割り当て、次の4種の食餌治療のうちの1つに自由に接近させる:1)AIN-76、2)Phytoを含まない食餌、3)Phyto-200、または4)Phyto-600食餌。これらのラットは、動物を高架プラス迷路で試験し、不安関連の行動を定量化する中間の年齢(雄では約300日齢、雌では約330日齢)まで、この食餌のままにする。その後、血清フィトエストロゲンレベルを、Coward Lら、J Agric Food Chem, 41:1961-1967によって記載されている方法に従ってGC/MSによって定量化する。不安の行動パターンを、食餌治療グループにおける循環イソフラボンレベルの血清プロフィールと、性別ごとに比較する。
【0140】
雄では、不安関連の行動が、用量依存的に現れ、最も高濃度のイソフラボンを与えられた動物は、最も低い不安パラメータを示す。対照的に、AIN-76食餌を与えられた動物は、最も高レベルの不安を示す(図51に示す)。オープンアームに滞留した時間の割合を分析すると、オープンアームへの進入回数のそれと同様のパターンが見られる。特に、Phyto-600を与えられた雄は、オープンアームに滞留した時間の割合が最も高いのに対し、オープンアームで過ごした時間の割合が最も低いのは、AIN-76食餌を与えられた動物で、Phytoを含まない食餌およびPhyto-200の値は、用量依存的な様式で、これらの最大の反応の間である(図52に示す)。
【0141】
発情周期の影響を最小限にするため、高架プラス迷路での試験の前に、12日間連続で、雌の膣スメアを観察し、発情周期に入っているものがいないことを確認する。雌のラットは、不安関連の行動のパターンは、雄のラットで観察されるものと同様である。しかし、
食餌によるイソフラボンの影響は、雄で見られるほど強くはない。しかし、Phyto-600を与えられた雌では、オープンアームへの進入回数(図53)またはオープンアームに滞留する時間(図54)の割合が最も高く、AIN-76を与えられた雌において見られる進入の最も低い割合まで、段々に低下するパターンを示す。
【0142】
行動試験が完了したら、血清フィトエストロゲンレベルを求め、不安関連の行動のパターンと比較する。雄(図55)と雌(図56)の両方で、循環イソフラボンレベルは、不安関連の行動の発現に対応し、循環イソフラボン分子と不安との関連を実証する。これらのデータは、食餌のイソフラボン含有量が、不安に対して有意に影響を与える可能性があることを実証する。
【実施例15】
【0143】
大人の雄のSprague-Dawleyラットに、DMSO、ラセミエクオール(0.250mg/Kg/日)、R-エクオール(0.250mg/Kg/日)、またはS-エクオール(0.250mg/Kg/日)(総体積0.3ccのDMSO中)のいずれかの皮下注射を毎日受けさせる。7日間連続の治療の後、不安関連の行動を定量化するために、動物を、高架プラス迷路で試験する。以下の表5に示す通り、ラセミエクオールまたはR-エクオールを注射された雄は、対照ラットと比較して不安レベルの有意な低下を示す。
【0144】
【表5】

【0145】
これらの発見は、異なる濃度のイソフラボンを含有する4種の食餌による治療を利用して得られる発見と一致し、エクオールが、広範な健康上の利益に対する明白な潜在的可能性をもつ、不安や、気分および抑うつなどの他の神経学的状態の調節における主要な因子であることを実証する。
【実施例16】
【0146】
高コレステロール血症を患う29人の大人に、33mgの総イソフラボンを含有する食餌を、5週間毎日与える。図57は、イソフラボンを含有する食餌を忠実に守り5週間経過した後の、29人それぞれについてのBMIにおいて認められた変化を示す。この期間にわたるBMIの平均減少は、小さいながら、有意である(p=0.01)。これらの結果は、フィトエストロゲンを多く含む食餌が、ヒトにおける体重調節に影響を与えることが可能であることを示唆している。この研究は、体重調節の原因となる成分(1種または複数)、あるいは体重調節の機構は、特定しなかった。平均基準BMI(n=29)は26.6±0.8であり、5週での平均BMI(n=29)は、26.2±0.7である。
【0147】
本発明の様々な実施形態を述べてきたが、本発明のさらなる改変および適合が行われる
であろうことは、当業者には明らかであろう。こうした改変および適合が、本発明の趣旨および範囲内であることは、はっきりと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】S-エクオールおよびR-エクオール鏡像異性体の化学構造を示す図である。
【図2】R-エクオールを健康な成体に経口投与した後の血漿中のR-エクオールの出現/消滅プロットを示す図である。
【図3】光学二色性が特徴である純粋な鏡像異性体標準物と比較した、ダイズ食品を摂取している大人からの尿のサンプルからのエクオール鏡像異性体の溶出液のマスクロマトグラムを示す図である。
【図4】合成された生成物のトリメチルシリルエーテル誘導体のGC-MS分析を示す図である。
【図5】ラセミ混合物からのS-エクオールとR-エクオールのキラル分離のマスクロマトグラムを示す図である。
【図6A】DMSOまたはエクオールを皮下に注射された無処置の雄のラットの前立腺重量を示す図である。
【図6B】DMSOまたはエクオールを皮下に注射された無処置の雄のラットの黄体形成ホルモン(LH)を示す図である。
【図7】[3H]DHT単独ではなく[3H]DHT+エクオールの異なるピークを示す図である。
【図8A】前立腺(A)と共にインキュベートされた [3H]-DHT+エクオールの2つの異なるピークを示す図である。
【図8B】前立腺(B)と共にインキュベートされた[3H]-DHTにおいて単一のピークしか存在しないことを示す図である。
【図9】エクオールの[3H]-DHTへの特異的な結合を示す図である。
【図10A】DMSO、DHT、エクオール、またはDHTとエクオールの両方を皮下注射された性腺摘出された(GDX)雄のラットにおける前立腺重量を示す図である。
【図10B】DMSO、DHT、エクオール、またはDHTとエクオールの両方を皮下注射された性腺摘出された(GDX)雄のラットにおける血漿LHを示す図である。
【図11】DMSO、DHTP、エクオール、またはDHTPとエクオールの両方で治療されたラットにおける血漿DHTレベルを示す図である。
【図12】Trent: DMSO(A & E)、エクオール(B & F)、DHT(C)、またはDHTプラスエクオール(D)のいずれかで治療されたGDX(A-D)および無処置の(E & F)ラットの前立腺におけるエクオールの組織学的効果を示す図である。
【図13】DMSO(A)またはエクオール(B)で治療された無処置のラットの副精巣に対するエクオールの組織学的効果を示す図である。
【図14】イソフラボンを多く含む(Phyto-600)またはフィトエストロゲンを含まない(Phyto-free)食餌のいずれかを与えられた雄のラットにおける体重を示す図である。
【図15】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雄のラットにおける白色脂肪組織質量を示す図である。
【図16A】Phyto-600を与えられた雄のラットにおける食物および水摂取を示す図である。
【図16B】Phytoを含まない食餌を与えられた雄のラットにおける食物および水摂取を示す図である。
【図17A】Phyto-600を与えられた雄のラットからの血漿レプチンおよびインスリンレベルを示す図である。
【図17B】Phytoを含まない食餌を与えられた雄のラットからの血漿レプチンおよびインスリンレベルを示す図である。
【図18】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雄のラット(絶食なし)からの血清グルコースレベルを示す図である。
【図19】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雄のラットにおける甲状腺(T3)血清レベルを示す図である。
【図20】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットの体重を示す図である。
【図21】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットからの白色脂肪組織質量を示す図である。
【図22】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットからの血清グルコースレベルを示す図である。
【図23】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットからの血清T3レベルを示す図である。
【図24】生後50日後、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットの体重を示す図である。
【図25】生後50日後、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットの白色脂肪組織質量を示す図である。
【図26】生後50日後、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットの血清レプチンレベルを示す図である。
【図27】生後50日後、Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられた雌のラットの血清インスリンレベルを示す図である。
【図28】Phyto-600(黒色棒)またはPhytoを含まない食餌(白色棒)食餌のいずれかを与え、その後発情行動誘発レジメンに置いたOVXラットの体重を示す図である。
【図29】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられたOVXラットの白色脂肪組織質量を示す図である。
【図30】Phyto-600またはPhytoを含まない食餌のいずれかを与えられたOVXラットの血清レプチンレベルを示す図である。
【図31】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた112日齢の雄のラットの体重を示す図である。
【図32】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた279日齢の雄のラットの体重を示す図である。
【図33】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた350日齢の雄のラットの体重を示す図である。
【図34】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた350日齢の雄のラットからの脂肪組織質量を示す図である。
【図35】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた350日齢の雄のラットにおける血清インスリンレベルを示す図である。
【図36】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた350日齢の雄のラットにおける血清レプチンレベルを示す図である。
【図37】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた112日齢の雌のラットの体重を示す図である。
【図38】AIN-76、Phytoを含まない食餌、Phyto-200、またはPhyto-600食餌を与えられた279日齢の雌のラットの体重を示す図である。
【図39】Phytoを含まない食餌またはPhyto-600食餌を与えられた145日齢の雄のNobleラットの体重を示す図である。
【図40】Phytoを含まない食餌またはPhyto-600食餌を与えられた145日齢の雄のNobleラットからの白色脂肪組織質量を示す図である。
【図41】Phytoを含まない食餌またはPhyto-600食餌を与えられた145日齢の雌のNobleラットの体重を示す図である。
【図42】Phytoを含まない食餌またはPhyto-600食餌を与えられた145日齢の雌のNobleラットからの白色脂肪組織質量を示す図である。
【図43】エクオール注射を受ける前の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットの基準体重を示す図である。
【図44】エクオールまたは賦形剤注射を受ける前の、3グループのラットのPhytoを含まない食餌での21日後の体重を示す図である。
【図45】エクオールまたは賦形剤注射を受けて7日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットの体重を示す図である。
【図46】エクオールまたは賦形剤注射を受けて15日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットの体重を示す図である。
【図47】エクオールまたは賦形剤注射を受けて22日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットの体重を示す図である。
【図48】エクオールまたは賦形剤注射を受けて28日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットの体重を示す図である。
【図49】エクオールまたは賦形剤注射を受けて28日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットからの脂肪組織質量を示す図である。
【図50】エクオールまたは賦形剤注射を受けて28日後の、Phytoを含まない食餌での3グループのラットからの精巣重量を示す図である。
【図51】4つの異なる食餌を与えられた300日齢の雄のラットの、高架プラス迷路の不安関連の行動(オープンアームへの進入)の回数を示す図である。
【図52】4種の異なる食餌を与えられた300日齢の雄のラットの高架プラス迷路の不安関連の行動(オープンアームでの時間)を示す図である。
【図53】4種の異なる食餌を与えられた330日齢の雌のラットの高架プラス迷路の不安関連の行動(オープンアームへの進入)を示す図である。
【図54】4種の異なる食餌を与えられた330日齢の雌のラットの高架プラス迷路の不安関連の行動(オープンアームでの時間)を示す図である。
【図55】4種の異なる食餌を与えられた300日齢の雄のラットにおける血清イソフラボンレベルを示す図である。
【図56】4種の異なる食餌を与えられた330日齢の雌のラットにおける血清イソフラボンレベルを示す図である。
【図57】イソフラボンを含有する食餌を忠実に守り5週間経過した後の個体について認められたBMIの変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な、有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって、哺乳類において5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制し、アンドロゲンによって仲介される状態を仲介するステップを含む、哺乳類において、アンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態を調節する方法。
【請求項2】
生理学および病態生理学的状態が、良性前立腺肥大症、前立腺癌、男性および女性型脱毛症、顔面および身体の毛、座瘡、皮脂腺からの皮脂の過剰分泌、皮膚の外観、老化防止、光老化防止、皮膚の完全性、皮膚の色素沈着、美白、アルツハイマー病、情動および精神的健康、抑うつ、不安、トゥーレット病、ケネディ症候群、アンドロゲンを含めたステロイド性ホルモン合成および代謝の先天性欠陥、肥満、体重、脂質およびコレステロールレベル、脂質生成、脂質分解、インスリン抵抗性の抑制、血圧、甲状腺機能、ならびに循環器疾患からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エクオールが、少なくとも1mgの鏡像異性のエクオールを含む経口用組成物として投与される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エクオールが、少なくとも0.1%の鏡像異性のエクオールを含む局所用組成物として投与される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エクオールが、本質的にR-エクオール鏡像異性体を含む組成物として投与される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エクオールが、R-エクオールとS-エクオール鏡像異性体の非ラセミ混合物を含む組成物として投与される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって、哺乳類において5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制するステップを含む、哺乳類においてアンドロゲン関連疾患を治療および予防する方法。
【請求項8】
アンドロゲン関連疾患が、良性前立腺肥大症、前立腺癌、男性および女性型脱毛症、顔面および身体の毛、座瘡、皮脂腺からの皮脂の過剰分泌、皮膚の外観、老化防止、光老化防止、皮膚の完全性、皮膚の色素沈着、アルツハイマー病、情動異常および精神的不健康、抑うつ、不安、トゥーレット病、ケネディ症候群、アンドロゲンを含めたステロイド性ホルモン合成および代謝の先天性欠陥、肥満、体重異常、脂質およびコレステロールレベルの異常、過剰な脂質生成、脂質分解、インスリン抵抗性の抑制、高血圧、甲状腺機能、ならびに循環器疾患からなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エクオールが、本質的にR-エクオール鏡像異性体を含む組成物として投与される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
エクオールが、R-エクオールとS-エクオール鏡像異性体の非ラセミ混合物を含む組成物として投与される請求項7に記載の方法。
【請求項11】
エクオールが、少なくとも1mgの鏡像異性のエクオールを含む経口用組成物として投与される請求項7に記載の方法。
【請求項12】
エクオールが、少なくとも0.1%の鏡像異性のエクオールを含む局所用組成物として投与される請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、有意な量の他のいかなるアンドロゲン受容体結合化合物も含まない請求項12に記載の方法。
【請求項14】
遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与し、それによって、哺乳類において5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を調節するステップを含む、哺乳類においてアンドロゲンホルモン活性を調節する方法。
【請求項15】
DHTとARの結合の前に、DHTを鏡像異性のエクオールと接触させることによって、ARへのDHTの結合を妨げる方法。
【請求項16】
接触が、哺乳類においてin vivoで起こる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物、ならびに遊離の5α-ジヒドロテストステロンおよびエストロゲン受容体とそれぞれ結合可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物を哺乳類に投与し、それによって、5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制し、エストロゲン受容体の結合に影響を与えるステップを含む、哺乳類においてアンドロゲン関連状態とエストロゲン関連状態との組み合わせを治療および予防する方法。
【請求項18】
下記のステップを含む、年齢に関連するアンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを調節する方法:
a.哺乳類の内分泌アンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを求めること、
b.5α-ジヒドロテストステロンとエストロゲンのホルモンバランスを調節可能なR-エクオールとS-エクオールの有効量の混合物を哺乳類に投与すること。
【請求項19】
哺乳類においてアンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態を調節するための、遊離のDHTとin vivoで結合させるための鏡像異性のエクオールの使用。
【請求項20】
哺乳類のDHTを鏡像異性のエクオールと接触させることによって、哺乳類においてLHのレベルをin vivoで調節する方法。
【請求項21】
エストロゲン/アンドロゲンの不均衡によって引き起こされるアンドロゲン/アンドロゲン関連障害によって仲介される生理学および病態生理学的状態の診断薬としての鏡像異性のエクオールの使用。
【請求項22】
競合結合アッセイが下記のステップを含む、競合結合アッセイにおけるエクオールの使用:
1)アンドロゲン受容体を提供すること、
2)DHT-鏡像異性のエクオール複合体を提供すること、
3)アンドロゲン結合部分を含む試験物質を提供すること、および
4)DHT-鏡像異性のエクオール複合体と接触および競合させること。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類において、アンドロゲンによって仲介される生理学および病態生理学的状態の治療用の製剤組成物における鏡像異性のエクオールの使用であって、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能な、有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与するステップであって、それによって、哺乳類において5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制し、アンドロゲンによって仲介される状態を仲介するステップを含み、前記生理学および病態生理学的状態が、良性前立腺肥大症、前立腺癌、男性および女性型脱毛症、顔面および身体の毛、座瘡、皮脂腺からの皮脂の過剰分泌、皮膚の外観、老化防止、光老化防止、皮膚の完全性、皮膚の色素沈着、美白、アルツハイマー病、情動および精神的健康、抑うつ、不安、トゥーレット病、ケネディ症候群、アンドロゲンを含めたステロイド性ホルモン合成および代謝の先天性欠陥、肥満、体重、脂質およびコレステロールレベル、脂質生成、脂質分解、インスリン抵抗性の抑制、血圧、甲状腺機能、ならびに循環器疾患からなる群から選択される使用。
【請求項2】
前記鏡像異性のエクオールが、少なくとも1mgの鏡像異性のエクオールを含む経口用組成物として、または、少なくとも0.1%の鏡像異性のエクオールを含む局所用組成物として投与される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記鏡像異性のエクオールが、本質的にR-エクオール鏡像異性体か、または、R-エクオールとS-エクオール鏡像異性体の非ラセミ混合物を含む請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記生理学および病態生理学的状態が、アンドロゲン関連疾患である請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が、有意な量の他のいかなるアンドロゲン受容体結合化合物も含まない請求項1に記載の使用。
【請求項6】
鏡像異性のエクオールによる遊離の5α-ジヒドロテストステロンとの結合が、哺乳類においてin vivoで起こる請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤組成物がさらに、哺乳類におけるエストロゲン関連状態の治療用であり、前記鏡像異性のエクオールが、遊離の5α-ジヒドロテストステロンと結合可能なR-エクオールとS-エクオールとの混合物、ならびに遊離の5α-ジヒドロテストステロンおよびエストロゲン受容体とそれぞれ結合可能なR-エクオールとS-エクオールとの混合物を含み、それによって、5α-ジヒドロテストステロンのアンドロゲン受容体との結合を抑制し、エストロゲン受容体の結合に影響を与える請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記生理学および病態生理学的状態が、年齢に関連するアンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを含み、前記有効量の鏡像異性のエクオールを哺乳類に投与するステップの前に哺乳類の内分泌アンドロゲン/エストロゲンホルモンバランスを求め、5α-ジヒドロテストステロンとエストロゲンとのホルモンバランスを調節するステップを含む請求項7に記載の使用。
【請求項9】
哺乳類におけるin vivoでのLHのレベルが制御される請求項1に記載の使用。
【請求項10】
エストロゲン/アンドロゲンの不均衡によって引き起こされるアンドロゲン/アンドロゲン関連障害によって仲介される生理学および病態生理学的状態の診断薬としての鏡像異性のエクオールの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【公表番号】特表2006−508942(P2006−508942A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548591(P2004−548591)
【出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2003/034441
【国際公開番号】WO2004/039327
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(592246587)コロラド ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (17)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】