説明

アンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法

【課題】 無希釈では微生物処理が不可能なほど高濃度にアンモニアを含有し、かつ高濃度にCOD成分を含有する排水、特に、ラテックス処理工場において排出する高濃度のアンモニア態窒素と高濃度COD成分を同時に含む排水を希釈することなく処理可能な浄化技術を提供する。
【解決手段】 その浄化技術は、アンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水に第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程、その反応後アルカリ剤を混合して中和し、中和後有機高分子凝集剤を混合して凝集処理を行う第2工程、第2工程における凝集処理後の排水を固液分離する第3工程、及び第3工程によって得られた処理水に塩素イオン源を添加して電解処理することにより、陽極で生成する次亜塩素酸イオンと、アンモニウムイオンとを反応させ、第1工程、第2工程で残留したアンモニア及びCOD成分を更に低減させる第4工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のアンモニア態窒素と有機物由来の高濃度COD成分を同時に含む排水の処理方法に関する。
より詳しくは、天然ゴム・ラテックスをアンモニア水で安定化処理した後に排出される、天然ゴム・ラテックス由来のCOD成分及びアンモニア態窒素成分の両者を含有するタイヤ製造工業において排出する高濃度のアンモニア態窒素と高濃度COD成分を同時に含む排水の処理に好適な排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの樹から採取された新鮮なラテックスは、現地の工場(主として濃縮工場)に搬送されて処理・加工されるが、採取された生のラテックスをそのまま搬送すると時間の経過に伴ってバクテリアが繁殖し、遂には凝固してしまうことになる。
そこで、この凝固を回避する目的で、採取時には薬剤が添加されており、その添加剤は凝固防止剤といわれる(
【非特許文献1】)。
【0003】
それには主としてアンモニアが用いられており、このアンモニア等の凝固防止剤が添加されたラテックスを農園ラテックスという。
このアンモニアのバクテリアに対する殺菌性能については、ラテックスに対して0.35%以上で安定しており、逆に0.1%以下ではバクテリアを増殖させる傾向があるといわれている(
【非特許文献1】)。
【0004】
さらに、この農園ラテックスについては、通常現地の工場で濃縮して濃縮ラテックスが製造されるが、その濃縮方法には、遠心分離法、クリーミング法及び蒸発法等がある。
この濃縮ラテックスは、通常消費地に近い海外の製品製造工場に搬送され、その後製品化されることになるので、その間には変質しないことが必要となり、その保管中のために保存剤が使用されている。
その保存剤にもアンモニアが用いられており、この際に用いるアンモニアは0.2%以上であれば、短期保管の場合には保存効果は発揮できるものの、長期保管の場合には0.7%以上の濃度が必要となる(
【非特許文献1】)。
【0005】
この製品製造工程及び濃縮ラテックス製造工程においては、それぞれ凝固防止剤及び保存剤がラテックス成分から分離され、アンモニア含有排水が排出されることになる。
そのため、この排水中にラテックスが高濃度で同伴することは回避できず、それら工場で排出されたアンモニア含有排水には、高濃度のCOD成分も含有することになる。
その排出されたアンモニア含有排水中のアンモニア濃度については、使用した凝固防止剤及び保存剤と同濃度であると仮定すると、凝固防止剤の場合には3500ppm以上、保存剤の場合には短期保存の際は2000ppm以上、長期保存の際は7000ppm以上ということになる。
【0006】
事実、我々が入手したアンモニアを含有するゴム処理工場における排水では、アンモニアを5000ppm含有しており、このことと符合するものである。
また、この排水中に含有されるCOD成分は2200ppm程度のものであることもわかった。
このような高濃度のアンモニアを含有する場合には、一般的に窒素除去として行われている、好気性と嫌気性処理を組合わせた生物処理では、濃度が高すぎて直接処理することは不可能であると考えられている。
【0007】
そのため、このような高濃度アンモニア含有水を直接(無希釈にて)微生物処理することは不可能であると考えられており、通常は希釈して濃度を低下させた後に微生物処理することになり、その結果処理後の液量が増加するという不都合が生ずることになる。
また、この排水中に含有されるCOD成分は前記したとおり2200ppm程度の高濃度であり、各種無機凝集剤による凝集処理では処理し難いものである。
【0008】
[先行技術文献]
【特許文献1】特許第3524894
【特許文献2】特許第3530511
【特許文献3】特開2003−88871
【特許文献4】特開2003−230883
【非特許文献1】「ラテックス・エマルジョンの最新応用技術」 ケミカル先端技術シリーズ3、第9〜21頁、株式会社 中日社 1991年6月25日発行
【0009】
以上のような状況の下において、最近硝酸態窒素含有廃水を電解により浄化する技術、すなわち、硝酸態窒素をまずアンモニア態窒素に還元し、次いで生成されたアンモニアを同じく生成した次亜塩素酸塩と反応させて窒素とする浄化技術が開発され提案されている。(特許文献1)
本発明者らも、この技術に関し研究開発に鋭意努めており、その結果既にその処理方法及び装置の開発に成功し、特許出願もしている(特願2005−91685号、特願2005−247964号及び特願2005−300531)。
【0010】
そして、この浄化過程においては、電解槽内の陰極において生成したアンモニアが、同じく電解槽内の陽極で発生した塩素が水と反応して生成した次亜塩素酸塩と反応して窒素となり浄化されることになる。
そのようなことから、本発明者らは、その開発に成功した技術硝酸態窒素の浄化技術、及びその浄化過程において副次的に行われるアンモニアを窒素にする浄化技術を実用化すべく、適切な処理対象排水を探していたところ、前記排水の存在に巡り当たったところである。
【0011】
また、本出願人は、公共下水処理場、多くの企業における下水処理において凝集剤として利用されているポリ硫酸第2鉄を開発した発明者が所属していた企業であり、そのポリ硫酸第2鉄を、公共下水処理場、企業に数多く納入し、かつ下水あるいは廃水中のCOD成分の除去に利用した多くの実績を有している。
さらに、そのようなことから、本出願人は各種凝集技術に関し、多くの知見及び実績を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、本出願人の前記した実績及び本発明者の前記体験に基づいて、前記電解によるアンモニアの除去と、凝集によるCOD成分の除去を組み合わせることにより両者を適切に除去すべく鋭意検討したところ、開発に成功したのが本発明である。
すなわち、本発明者らは、凝集の前に特殊な反応を採用することにより、凝集と電解によりアンモニアとCOD成分が特異的に低減することを見出し、それを利用することにより、本発明の開発に成功したものである。
【0013】
したがって、本発明は、無希釈では微生物処理が不可能なほど高濃度にアンモニアを含有し、かつ微生物単独処理では処理不可能なほど高濃度にCOD成分を含有する排水、好適にはラテックス処理工場において排出する高濃度のアンモニア態窒素と高濃度COD成分を同時に含む排水を希釈することなく処理することができ、かつ高度にアンモニア態窒素とCOD成分とを低減することができる浄化技術を提供することを発明の解決すべき課題とするものである。
しかも、効率的に浄化処理することができる浄化技術を提供することも発明の解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を達成するためのアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法を提供するものであり、その方法は、アンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水に第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程、その反応後アルカリ剤を混合して中和し、中和後有機高分子凝集剤を混合して凝集処理を行う第2工程、第2工程における凝集処理後の排水を固液分離する第3工程、及び第3工程によって得られた処理水に塩素イオン源を添加して電解処理することにより、陽極で生成する次亜塩素酸イオンと、アンモニウムイオンとを反応させ、第1工程、第2工程で残留したアンモニア及びCOD成分を更に低減させる第4工程を備えることを特徴とするものである。
【0015】
そして、その処理方法においては以下のことを採用するのが好ましい。
(1)第4工程の電解処理後の処理水を更に微生物処理する第5工程を第4工程に付設すること、
(2)第1工程で処理対象とする当該排水中のアンモニア態窒素濃度が1,000mg/L以上30,000mg/L未満、COD濃度が500mg/L以上30,000mg/L未満であること、
(3)第1工程における、過酸化水素の量を当該排水中のCOD濃度とのモル比でH22(O)/COD=0.5〜1.5、第1イオン源化合物の量をモル比でH22/Fe2+=0.3〜2.0とすること、
(4)第1工程において、アンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水の温度を20℃以上60℃以下として第1鉄イオン源と過酸化水素を添加し、30分間以上20℃以上60℃以下に保持すること、
(5)第1工程において、中和後の排水のpHを5〜9の範囲とし、使用する有機高分子凝集剤をアニオン性又はノ二オン性とすること、
(6)第3工程における固液分離を、フィルター式濾過器により行うこと、
(7)第4工程における電解処理の陽極として、網又は穴あき板を使用すること、
(8)第4工程における電解処理の陽極として、チタン基材表面に酸化ルテニウムもしくは酸化ルテニウムを含む複合酸化物層、又は白金/イリジウム重量比が3/7となるように白金とイリジウムの複合酸化物層を被覆したものを使用すること、
(9)第3工程によって得られた処理水に添加する塩素イオン源化合物量を添加後の処理水における塩素イオン濃度が6g/L以上になるようにすること。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法においては、微生物処理による場合には希釈しなければ処理不可能なほどアンモニアが高濃度であるにもかかわらず、希釈することなく処理可能としたものであり、これにより処理後の排水量を低減することができる。
また、本発明では、第1工程において、アンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水に第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させており、この工程を採用することにより、その後の凝縮処理及び電解処理により、アンモニア態窒素及びCOD成分を顕著に低減することができる。
【0017】
特に、第1工程ではアンモニア態窒素、第4工程の電解処理ではCOD成分を特異的に低減することができる。
すなわち、本発明においては、前記したとおり第1工程において第1鉄イオン源と過酸化水素との反応を採用するものであり、これに代えてポリ硫酸第2鉄を用いた場合と比較すると、凝集処理後アンモニア態窒素が有意に低減する。
なお、第4工程終了後におけるアンモニア態窒素についても、勿論本発明の方が有意に低減している。
【0018】
それに対して、COD成分については、むしろポリ硫酸第2鉄を用いた場合の方が第2工程における凝集処理後は低減しているものの、電解処理を行う最終工程の第4工程終了後は、逆に本発明の方がCOD成分が低減しており、本発明では電解処理工程においてCOD成分の低減に関し特異的な現象が起こっている。
この特異的な現象が出現する理由については、何等解明していないが、現状においては、第1工程で使用した過酸化水素が第4工程においても一部残留し、それがCOD低減に好影響を与えているものと推測している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本発明のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法に関し、発明を実施するための最良の形態を含む各種実施の形態に関し詳述するが、本発明は、この実施の形態によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
その本発明の排水の処理方法の概要を示すと図1に図示するとおりである。
【0020】
本発明の排水の処理方法は、前記したとおりアンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水に第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程、その反応後アルカリ剤を混合して中和し、中和後有機高分子凝集剤を混合して凝集処理を行う第2工程、第2工程における凝集処理後の排水を固液分離する第3工程、及び第3工程によって得られた処理水に塩素イオン源を添加して電解処理することにより、陽極で生成する次亜塩素酸イオンと、アンモニウムイオンとを反応させ、第1工程、第2工程で残留したアンモニア及びCOD成分を更に低減させる第4工程を備えることを特徴とするものである。
【0021】
本発明において処理対象とするアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水については、高濃度のアンモニア態窒素成分と有機物由来の高濃度COD成分を同時に含むものであれば特に制限されることなく使用でき、それには生ゴムを処理して作製される農園ラテックスあるいは濃縮ラテックスを処理する際に排出される高濃度にアンモニア態窒素及びCOD成分を同時に含む処理排水を好適なものとして例示することができる。
なお、前記以外には石油精製あるいは養豚場排水等も例示できる。
【0022】
その排水中のアンモニア濃度については、無希釈のままでは、窒素除去として一般的に行われている好気性と嫌気性処理を組合わせた微生物処理によっては、濃度が高すぎて直接処理することが不可能であると考えられている程度のものであればよく、具体的には、2,000ppm以上のものであればよい。
また、COD成分の濃度については、一般的に採用されている各種無機凝集剤を用いる凝集沈殿処理によっては、排水規制濃度のクリアーが困難、または、添加する無機凝集剤の量が多大となり、発生する沈殿物の量も多大となってその処理も含めると経済的でない程度の濃度であればよく、具体的には1,000ppm程度の高濃度であればよい。
【0023】
本発明における第1鉄イオン源としては、水に溶解して第1鉄イオンを形成することができる化合物であれば特に制限されることなく各種化合物が使用でき、それには硫酸第1鉄、硝酸第1鉄、塩化第1鉄、過塩素酸第1鉄、臭化第1鉄等が例示できる。
なお、この第1鉄イオン源を排水と混合するに当っては、固体化合物のまま、あるいは予め水に溶解して形成した水溶液を用いてもよいが、後者の方が混合し易くてよい。
また、過酸化水素についても特に制限されることなく各種のものが使用でき、それには各種濃度の市販の過酸化水素があるが、各種濃度のものが使用できるが、濃度30〜60%のものが好ましく使用できる。
【0024】
その過酸化水素の使用量は、排水中のCOD濃度とのモル比でH22(O)/COD=0.5〜1.5とするがよく、好ましくは0.75〜1.25がよい。
さらに、第1イオン源化合物の使用量は、過酸化水素とのモル比でH22/Fe2+=0.3〜2.0とするがよく、好ましくは0.8〜1.5がよい。
【0025】
本発明において、排水と、第1鉄イオン源化合物及び過酸化水素とを混合させる態様については特に制限されることなく各種態様が使用でき、例えば大容量の容器に収容されている排水に、第1鉄イオン源化合物と過酸化水素とを添加して攪拌させる態様、容器内に排水と第1鉄イオン源化合物及び過酸化水素とを同時に供給しながら混合する態様、あるいは排水の送液配管中に第1鉄イオン源化合物及び過酸化水素を各々ポンプにて注入する方法等があるが、添加する各薬剤と排水の混合性(反応性)および薬剤の適正添加率の管理の点で大容量の容器に収容されている排水に、第1鉄イオン源化合物と過酸化水素とを攪拌しながら添加するのがよい。
なお、前記態様において、容器に収容されている排水に第1鉄イオン源化合物と過酸化水素とを添加する以外の態様においても混合後は容器に収容されることになる。
【0026】
そのような大容量の容器についても特に制限されることなく各種のものが使用でき、それには コンクリート製角又は丸槽の凝集反応槽あるいは沈降槽等が例示できる。
それらの中では、沈降槽が次工程の第2工程における処理である、中和、中和後の有機高分子凝集剤の混合、その後の凝集処理を同一の容器で行うことができることから好ましい。
【0027】
この容器に収容されている排水に第1鉄イオン源化合物と過酸化水素を添加する際には、排水の温度を20℃以上60℃以下に維持し、その温度範囲を30分間以上維持するのがよく、好ましくは、排水の温度を20℃以上40℃以下に維持し、その温度範囲を60分間以上維持するのがよい。
【0028】
前記第1工程における反応終了後は、まずアルカリを混合して中和する。
この混合は容器に収容されている排水にアルカリを添加して行うのがよく、その際にはアルカリは固体のまま添加してもよいが、水溶液にして添加するのが取り扱い性がよく好ましい。
その中和は、中和後の排水のpHを5〜9の範囲とするのがよく、好ましくは6〜8とするのがよい。
【0029】
前記中和後は、有機高分子凝集剤を混合して凝集処理を行うが、その有機高分子凝集剤についても特に制限されることなく各種のものが使用可能であるが、アニオン性又はノ二オン性ものがよい。
そのアニオン性ものには、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解塩、アルギン酸ナトリウム、セルロースメトキシカルボン酸ナトリウム塩あるいはマレイン酸共重合物が例示できるが、処理安定性と汎用性の点で、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物またはポリアクリルアミドの部分加水分解塩が好ましい。
また、ノニオン性ものには、 ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレン、カセイ化でんぷんが例示できるが、処理安定性と汎用性の点でポリアクリルアミドが好ましい。
【0030】
凝集処理後は、沈降槽等の排水を収容した容器から沈降した凝集物を底部から取り出し、第3工程の固液分離を行い、凝集物と処理水とに分離することになるが、その際に使用する固液分離機についても各種の構造のものが特に制限されることなく使用可能であり、それには遠心分離、真空ろ過、スクリュープレス、あるいはフィルタープレス式濾過器等が例示できるが、フィルタープレス式濾過器が固形物回収率及び固形物含水率低下の点で好ましい。
【0031】
第3工程によって得られた処理水は、塩素イオン源を添加して電解処理することにより、陽極で塩素を発生させ、その発生した塩素が水と反応することにより次亜塩素酸イオンが生成する。
その生成した次亜塩素酸イオンにより、処理水中に残留するアンモニウムイオンを酸化して窒素を生成し、処理水中のアンモニア態窒素を低減するところの第4工程の処理を行う。
その際には、前記次亜塩素酸イオンはCOD成分をも酸化し、処理水中のCOD成分をも低減する。
【0032】
その際に添加する塩素イオン源化合物としては、電解により塩素を発生することができる化合物であれば特に制限されることなく各種のものが使用でき、それには塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、あるいは塩酸等が例示できるが、安価で取り扱い易い点で塩化ナトリウムが好ましい。
その添加量は、添加後の処理水中の塩素イオン濃度が2〜10g/Lになるようにするのがよい。
【0033】
その電解に使用する電解槽についても、電解により塩素を発生し、その塩素により次亜塩素酸塩を生成することができるものであれば、特に制限されることなく各種構造のものが使用でき、それには平行多板型、円筒型、流動床型、固定床型、また給電方法として単極式、あるいは複極式等が例示できるが、安定した処理性能が得られる点で直流単極式の円筒型又は平行多板型が好ましい。
その陽極構造については、発生した塩素が処理水中に容易に放散し次亜塩素酸塩を生成し易いように網又は穴あき板とするのがよい。
【0034】
その際の電極材料については、陰極材料は処理水に対し耐食性を有するものであれば特に制限されることなく、各種のものが使用でき、ステンレス鋼、チタン又はチタン合金、あるいは不浸透性炭素等が例示できるが、価格の点でステンレス鋼がよい。
それに対して、陽極については、前記処理水に加えて、発生した塩素及びそれにより生成した次亜塩素酸塩に対し耐食性を有することが必要であり、それらに対し耐食性を有するものであれば特に制限されることなく、各種のものが使用できる。
それには、寸法安定性電極(DSE)、不浸透性炭素、あるいはフェライト、ホウ素入ダイヤモンド薄膜等が例示できるが、汎用性と有効塩素生成の効率の点でチタン基材表面に酸化ルテニウムもしくはそれを含む複合酸化物層、又は白金/イリジウムの重量比が3/7となるように白金とイリジウムの複合酸化物層を被覆したDSEが好ましい。
【0035】
本発明においては、第4工程までで、アンモニアの含有量を120ppm、CODを160ppm以下に低減することは可能であり、廃水規定値を満たすことはできるが、電気量の使用量が多くなりエネルギー効率が低くなるので、それらの含有量をある程度まで低減した後は、電解処理に代え微生物処理の第5工程を採用した方がエネルギー的には効率的である。
その第5工程を採用する時期については、アンモニア濃度が2,000ppm、COD成分濃度が700ppmの時点がよい。
【実施例1】
【0036】
以下において、本発明の実施例1を示すが、本発明は、この実施例1によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
この実施例1では、表1に示す組成のアンモニア及びCOD成分を含む排水を用いた。
すなわち、アンモニア態窒素(N)5,200mg/L、COD成分2,300mg/L、懸濁物質(SS)350mg/Lを含み、pH7.2の排水を用いた。
【0037】
【表1】

【0038】
この排水1Lに、硫酸第1鉄をFe2+として1,700mg/L、過酸化水素をH22として1,150mg/L添加し、室温(20℃)にて1時間攪拌反応させた。
その後水酸化ナトリウムにてpHを7.6に調製し、アニオン性高分子凝集剤であるアクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物[分子量1,600万:ダイヤフロックAP825B(ダイヤニトリックス(株)製)]を2ppm添加して凝集沈殿を行い、10分間静置した後の上澄水600mlを採取し、この一部について各成分分析を行った。
その結果は表2に示すように、アンモニア態窒素(N):4,529mg/L(原水に対する除去率12.9%)、COD:1,879mg/L(原水に対する除去率18.3%)であった。
【0039】
さらに、同上澄水500mLに対して塩素イオン濃度が6,500mg/LとなるようにNaClを添加した試料を調製し、これを20Aの定電流にて60分間バッチ方式で電解処理を行った。
その結果も表2に示してあり、それによればアンモニア態窒素(N):1,508mg/L(原水に対する除去率71%)、COD:690mg/L(原水に対する除去率70%)の処理水を得た。
なお、その表2には、60分後の結果のみでなく、20分後、40分後の結果も測定して記載してある。
【0040】
【表2】

【0041】
その電解処理に使用した電解槽は、電極間を通過する被処理水を均一に混合できるように構成した円筒型の直流単極式で、円筒型の電極を同心円上に配置したものである。
その電解槽が具備する陽極は、チタン製ラス板基材に2酸化ルテニウムを焼付したDSEで、形状が円筒型であり、陰極はステンレス鋼(SUS304)製のラス板で、形状が円筒型である。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同じ排水500mlを採取し、これに直接塩素イオン濃度6,500mg/LとなるようにNaClを添加して試料を調製し、これを20Aの定電流にて60分間バッチ方式で電解処理を行った。
すなわち、この比較例1では、実施例1で行った、本発明の必要工程である、第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程、凝集処理を行う第2工程及び固液分離を行う第3工程を行うことことなく直接電解処理を行った、
【0043】
その結果は、実施例1と合わせて表2に記載してあり、60分電解後はアンモニア態窒素(N):2,096mg/L(原水に対する除去率59.7%)、COD:1,093mg/L(原水に対する除去率52.5%)の処理水を得た。
なお、この比較例1についても、実施例1の場合と同様に20分後、40分後の結果も測定して表2に記載してある。
【0044】
[比較例2]
表1に示す実施例1と同じ排水1Lに、ポリ硫酸第二鉄をFe3+として、1,700mg/L(ポリ硫酸第二鉄として15,450mg/L)を添加して室温(20℃)にて1時間攪拌反応させ、その後水酸化ナトリウム(NaOH)にてpHを7.6に調製し、アニオン性高分子凝集剤である、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物[分子量1,600万:ダイヤフロックAP825B(ダイヤニトリックス(株)製)]を2ppm添加して凝集沈殿処理を行った。
10分間静置した後に上澄水を少量を採取し、これについて各成分分析を行った。
その結果も実施例1と同様に表2に記載してあり、それによればアンモニア態窒素(N):5,117mg/L(原水に対する除去率1.6%)、COD:1,449mg/L(原水に対する除去率37.0%)であった。
【0045】
次いで、同上澄水500mlを採取し、これに対して塩素イオン濃度6,500mg/LとなるようにNaClを添加した試料を調製し、これを20Aの定電流にて60分間バッチ方式で電解処理を行った。
その結果、アンモニア態窒素(N):2,267mg/L(原水に対する除去率56.4%)、COD:706mg/L(原水に対する除去率69.3%)の処理水を得た。
なお、この比較例2についても、実施例1及び比較例1の場合と同様に20分後、40分後の結果も測定して表2に記載してある。
【0046】
実施例1及び比較例1、2について、電解処理後の処理水の組成が、前記したとおり表2に一覧で記載されており、それによれば、実施例1は、60分電解処理後、アンモニア及びCODの両濃度が一番低減していることがわかる。
すなわち、本発明で採用した第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程に代え、凝集剤であるポリ硫酸第2鉄による処理を行った比較例1に比し、本発明の実施例である実施例1ではアンモニア及びCODの両濃度と低減していることがわかる。
特に、アンモニア濃度については、実施例1が比較例2に比し低減しており、本発明がアンモニア濃度低減に有効であることがわかる。
【0047】
そして、COD濃度については、凝集沈降処理後の濃度は、第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程を採用した本発明の方が、それに代えて凝集剤であるポリ硫酸第2鉄による処理を行った場合の比較例1に比し高く、その低減性能が本発明の方が低いことがわかる。
それにもかかわらず、60分の電解処理後は、本発明に該当する実施例1の方が残留COD濃度が低減しており、第1工程の存在が、第4工程における電解処理のCOD低減に特異的な好影響を与えていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の排水の処理方法の概要を示すフローシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水に第1鉄イオン源と過酸化水素を混合して反応させる第1工程、その反応後アルカリ剤を混合して中和し、中和後有機高分子凝集剤を混合して凝集処理を行う第2工程、第2工程における凝集処理後の排水を固液分離する第3工程、及び第3工程によって得られた処理水に塩素イオン源を添加して電解処理することにより、陽極で生成する次亜塩素酸イオンと、アンモニウムイオンとを反応させ、第1工程、第2工程で残留したアンモニア及びCOD成分を更に低減させる第4工程を備えることを特徴とするアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項2】
第4工程の電解処理後の処理水を更に微生物処理する第5工程を第4工程に付設する請求項1に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項3】
第1工程で処理対象とする排水中のアンモニア態窒素濃度が1,000mg/L以上30,000mg/L未満、COD濃度が500mg/L以上30,000mg/L未満である請求項1又は2に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項4】
第1工程における過酸化水素の量を排水中のCOD濃度とのモル比でH22(O)/COD=0.5〜1.5、第1イオン源化合物の量をモル比でH22/Fe2+=0.3〜2.0とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項5】
第1工程において、アンモニア態窒素とCOD成分とをそれぞれ高濃度で含む排水の温度を20℃以上60℃以下として第1鉄イオン源と過酸化水素を添加し、30分間以上20℃以上60℃以下に保持する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項6】
第1工程において、中和後の排水のpHを5〜9の範囲とし、使用する有機高分子凝集剤をアニオン性又はノ二オン性とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及び高濃度COD成分を含む排水の処理方法。
【請求項7】
第3工程における固液分離を、フィルター式濾過器により行う請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項8】
第4工程における電解処理の陽極として、網又は穴あき板を使用する請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項9】
第4工程における電解処理の陽極として、チタン基材表面に酸化ルテニウムもしくは酸化ルテニウムを含む複合酸化物層、又は白金/イリジウム重量比が3/7となるように白金とイリジウムの複合酸化物層を被覆したものを使用する請求項1ないし8のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。
【請求項10】
第3工程によって得られた処理水に添加する塩素イオン源化合物量を添加後の処理水における塩素イオン濃度が6g/L以上になるようにする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のアンモニア態窒素及びCOD成分を高濃度で含有する排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−301459(P2007−301459A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131552(P2006−131552)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】