説明

アーク溶接装置

【課題】ケーブルの繋替えを行わずにパルスアーク溶接とショートアーク溶接の両方で高品質な溶接ができるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】一次整流回路3の出力を高周波に変換するスイッチング部11と、スイッチング部11の出力をアーク用電圧に変換する変圧器12と、変圧器12の出力を整流する二次整流回路13と、二次整流回路13に接続された直流リアクトル14と、スイッチング部11を制御する溶接出力制御手段4とを備えたアーク溶接装置1において、一次整流回路3の出力を高周波に変換するスイッチング部21と、スイッチング部21の出力をアーク用電圧に変換する変圧器22と、変圧器22の出力を整流する二次整流回路23と、二次整流回路23に接続され直流リアクトル14より小容量の直流リアクトル24とを備え、溶接出力制御手段4は、スイッチング部11およびスイッチング部21を個別に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源を整流して直流にし、その出力をスイッチング回路により高周波交流にし、変圧器により適宜変圧した後に整流回路にて再度直流とする方式のアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接には、大別して、パルスアーク溶接とショートアーク溶接とがある。
パルスアーク溶接は高電流による高溶着量の溶接が可能であるため、高速の溶接が可能である。しかし、薄板溶接で使用する低電流域では不安定となり、また入熱量が大きいので、この場合は、ショートアーク溶接が用いられる。ショートアーク溶接は、溶接電流はアークにより溶かされたワイヤ先端の溶滴が溶融池表面と接触して母材へ移行する「短絡移行」によって溶接が行われるものである。
そして消耗電極式ガスシールドアーク溶接において、パルスアーク溶接法とショートアーク溶接法(パルス無溶接法)を切り替えることを特徴とするアーク溶接装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−150267号公報
【0004】
図6はこうした従来のアーク溶接装置の構成を示す図で、アーク溶接装置1内の一次整流回路3の入力側に商用電源2を接続し、一次整流回路3の整流出力側にスイッチング部11の入力側を接続している。
そして、スイッチング部11の出力側と主変圧器12の一次側を接続し、主変圧器12の二次側は二次整流回路13の入力側に接続し、この二次整流回路13の出力側の一方に直流リアクトル14の一端を接続し、他方に出力端子16を接続している。
直流リアクトル14には中間タップが施されており、中間タップと出力端子15とを接続して小容量の直流リアクトルを有する出力回路を形成し、直流リアクトル14の終端末とアーク溶接装置1の出力端子17を接続して大容量の直流リアクトルを有する出力回路を形成する。
従来のアーク溶接装置では、直流リアクトル14の中間タップの切り替えにより、直流リアクトル14を小容量または大容量に切り替えて、パルスアーク溶接法とショートアーク溶接法とで異なる容量の直流リアクトルとして使い分けていた。具体的には、パルスアーク溶接法では急峻な電流変化を得るために予めパワーケーブルを出力端子15と出力端子16に繋ぎ、小容量の直流リアクトルを選択し、ショートアーク溶接法では短絡した瞬間の急激な溶接電流上昇を抑制し、またアーク期間においてアーク切れを防止するために予めパワーケーブルを出力端子17と出力端子16に繋ぎ代え大容量の直流リアクトルを選択していた。
また、従来のアーク溶接装置では、溶接状態をパルスアーク溶接状態からショートアーク溶接状態に切り替える制御を行うものが開示されている。図7に示すように予めパルスアーク溶接条件に関し、ワイヤ送給速度下限設定値、平均溶接電流下限設定値及び平均溶接電圧下限設定値を設定しておき、パルスアーク溶接状態にて溶接中にワイヤ送給速度、平均溶接電流検出値及び平均溶接電圧検出値のうち少なくとも一つがその対応する下限設定値を下回った時に、パルスアーク溶接状態からショートアーク溶接状態に溶接状態を切り替えていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術ではパルスアーク溶接法とショートアーク溶接法を使い分ける場合、パワーケーブルをパルスアーク溶接用の出力端子とショートアーク溶接用の出力端子との間で繋ぎ替える必要があり、溶接中にパルスアーク溶接法とショートアーク溶接法を切り替えることはできなかった。
また、特許文献1に記載の発明では、パルスアーク溶接法とショートアーク溶接法をある条件で自動的に切り替えることを特徴とするものであり、溶接性能を向上させるための制御が考慮されていなかった。そのため、パルスアーク溶接法とショートアーク溶接法の両方では高品質な溶接結果が得られず、どちらかの溶接法の溶接性能が犠牲になっていた。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、パワーケーブルの繋ぎ替えを行うことなく、パルスアーク溶接法とショートアーク溶接法の両方で高品質な溶接結果が得られるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1記載の発明は、交流電源を整流して直流とする一次整流回路と、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第1スイッチング部と、前記第1スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第1変圧器と、前記第1変圧器の出力を整流して直流とする第1二次整流回路と、前記第1二次整流回路に接続された愛1直流リアクトルと、前記第1スイッチング部を制御して溶接出力を調整する溶接出力制御手段とを備えたアーク溶接装置において、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第2スイッチング部と、前記第2スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第2変圧器と、前記第2変圧器の出力を整流して直流とする第2二次整流回路と、前記第2二次整流回路に接続され、前記直流リアクトルより小容量の第2直流リアクトルとを備え、前記溶接出力制御手段は、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を個別に制御することを特徴とするものである。
請求項2記載の発明は、交流電源を整流して直流とする一次整流回路と、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第1スイッチング部と、前記第1スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第1変圧器と、前記第1変圧器の出力を整流して直流とする第1二次整流回路と、前記第1二次整流回路に接続され、中間タップを有する直流リアクトルと、前記第1スイッチング部を制御して溶接出力を調整する溶接出力制御手段とを備えたアーク溶接装置において、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第2スイッチング部と、前記第2スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第2変圧器と、前記第2変圧器の出力を整流して直流とし、前記直流リアクトルの前記中間タップに出力する第2二次整流回路とを備え、前記溶接出力制御手段は、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を個別に制御することを特徴とするものである。
【0007】
請求項3記載の発明は、前記溶接出力制御手段は、パルスアーク溶接を行う際に、(1)パルス増加期間およびパルスピーク期間では、前記第1スイッチング部を停止させかつ前記第2スイッチング部を動作させ、(2)パルス減少期間では前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、(3)パルスベース期間では前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とするものである。
請求項4記載の発明は、前記溶接出力制御手段は、パルスアーク溶接を行う際に、(1)パルス増加期間、パルスピーク期間およびパルス減少期間では、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、(2)パルスベース期間では前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とするものである。
請求項5載の発明は、前記溶接出力制御手段は、ショートアーク溶接を行う際に、(1)短絡期間では前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、(2)アーク期間では前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、請求項1〜5記載の発明によると、溶接状態に応じて最適な直流リアクトルを選択して切り替え制御を行うため、パワーケーブルの繋ぎ替えを行うことなく、パルスアーク溶接法でもショートアーク溶接法でも高品質な溶接結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的実施例を図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明のアーク溶接装置に関する構成図である。
アーク溶接装置1は、従来の溶接装置と同様に一次整流回路3、スイッチング部11、変圧器12、二次整流回路13、直流リアクトル14、溶接出力制御手段4を有し、新たにもう一組のスイッチング部21、変圧器22、二次整流回路23、直流リアクトル24を追加した構成である。
スイッチング部11、21は、PWM制御によって溶接電流または溶接電圧のフィードバック値が指令値と同じになるように制御されている。直流リアクトル14、24は各々異なる容量を持つ。例えば、直流リアクトル14は約100uH以上の大きな値、直流リアクトル24は約30uH以下の小さな値を有する。
溶接出力制御手段4は、スイッチング部11、21を制御し、溶接状態に応じてスイッチング部11、21の片方のみを動作させたり両方を動作させたりする。
本発明では、2組のスイッチング部11、21と、容量の異なる直流リアクトル14、24を有し、溶接状態に応じてスイッチング部11、21を制御して、片方のみをスイッチング動作させたり、両方同時にスイッチング動作させたりできる構成とした点が特徴である。直流リアクトルの切り替えに機械的なリレーなどを用いていないので溶接装置のパワー回路部への負担もなく、切り替えによって溶接電流波形にノイズが重畳することもない。さらに、溶接状態に応じて最適な直流リアクトルを選択し切り替え制御しているため、パルスアーク溶接法およびショートアーク溶接法を1台で行え、高品質な溶接結果を得ることができる。
【実施例2】
【0011】
図2は、本発明の第2実施例のアーク溶接装置に関する構成図である。
第1実施例では容量の異なる2つの直流リアクトル14、24を有していたが、第2実施例では直流リアクトル14に中間タップを有し中間タップ切り替えにより容量の異なる直流リアクトルを構成している。それ以外は第1の実施例と同様の構成である。
スイッチング部11、21は、PWM制御によって溶接電流または溶接電圧のフィードバック値が指令値と同じになるように制御されている。直流リアクトル14は中間タップにより異なる容量に切り替わる。例えば、スイッチング部11側の直流リアクトルの容量は直流リアクトル14全体が有効となり100μH以上の大きな値となるが、スイッチング部21側の直流リアクトルの容量は直流リアクトル14の中間タップが有効となり30μH以下の小さな値となる。溶接出力制御手段4は、スイッチング部11、21を制御し、溶接状態に応じてスイッチング部11、21を片方のみを動作させたり両方を動作させたりする。
本発明では、2組のスイッチング部11、21、中間タップを有する直流リアクトル14により容量の異なる直流リアクトルを構成し、溶接状態に応じてスイッチング部11、21を制御して、片方のみでスイッチング動作させたり、両方同時にスイッチング動作させたりできる構成とした点が特徴である。直流リアクトルの切り替えに機械的なリレーなどを用いていないので溶接装置のパワー回路部への負担もなく、切り替えによって溶接電流波形にノイズが重畳することもない。
溶接状態に応じて最適な直流リアクトルを選択し切り替え制御しているため、パルスアーク溶接法およびショートアーク溶接法を1台で行え、高品質な溶接結果を得ることができる。
続いて、本発明によるスイッチング制御のタイミングに関して説明する。
【実施例3】
【0012】
パルスアーク溶接法にて溶接を行う場合は、図3に示すタイミングでスイッチング部11、21を動作させる。図中の溶接電流波形のうち、斜線で描かれた領域は大容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表し、それ以外の領域は小容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表す。SW1は大容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部11のスイッチング信号、SW2は小容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部21のスイッチング信号を表す。
時刻t0においてパルス出力を開始し、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をONさせると共に、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の動作信号SW1をOFFする。大容量の直流リアクトル14側の回路によって流れていた溶接電流が電気エネルギーの放出にしたがって徐々に減少し、最終的に小容量の直流リアクトル24側の回路によって溶接電流が供給されるようになる。
次に、パルスピーク終了部の時刻t1において大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の動作信号SW1をONする。大容量の直流リアクトル14側の回路によって溶接電流が供給され始め、次第に大容量の直流リアクトル14側の回路による溶接電流の割合が増加する。
時刻t2においてパルスベース期間になった時点で、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21のスイッチング信号SW2をOFFする。次のパルス開始部の時刻t3まで、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11のスイッチング信号SW1のみをONする。
【0013】
以上のように、時刻t0から時刻t1までのパルスピーク期間では小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21のみ動作させ、時刻t1から時刻t2までのパルス減少期間ではスイッチング部11とスイッチング部21の両方を動作させ、時刻t2から時刻t3までのパルスベース期間では大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11のみを動作させる。
パルスピーク期間にて大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11を停止させる理由は、スイッチング部11を動作させた場合、溶接電流がベース電流以上まで上昇したときに溶接電流の減少速度が遅いため、パルス波形の減少部が緩やかな曲線となるのを防ぐためである。
また、パルスベース期間にて小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21を停止させる理由は、パルスベース期間で短絡が発生した場合に、スイッチング部21が動作していると小容量の直流リアクトル24が優勢となり、短絡電流が急激に上昇してスパッタが発生するのでそれを防止するためである。
【0014】
以上のように、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の制御をパルス波形のタイミングで適宜切り替えることにより、急峻なパルス電流を生成できると共に、ベース期間での短絡電流の上昇を防止することができ、安定した溶接状態を保つことができる。
なお、本実施例では図1に示す構成のアーク溶接装置に基づき説明したが、図2に示す構成のアーク溶接装置においても、図3に示すタイミングでスイッチング部11、21を動作させることで同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。
【実施例4】
【0015】
パルスアーク溶接法にて溶接を行う場合、第3実施例とは異なり、図4に示すタイミングでスイッチング部11、21を動作させる場合がある。図中の溶接電流波形のうち、斜線で描かれた領域は大容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表し、それ以外の領域は小容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表す。SW1は大容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部11のスイッチング信号、SW2は小容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部21のスイッチング信号を表す。
常時、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の動作信号SW1をONさせておく。時刻t0においてパルス出力を開始し、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をONさせ、パルス終了部の時刻t2まで動作信号SW2をONし続ける。時刻t2においてパルスベース期間になった時点で、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をOFFする。次のパルス開始部の時刻t3まで、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の動作信号SW1のみをONにする。
【0016】
以上のように、時刻t0から時刻t2までのパルス期間は、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21と大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11を両方動作させ、時刻t2から時刻t3までのパルスベース期間は大容量の直流リアクトル24側のスイッチング部11のみを動作させる。第3の実施例と異なり、パルスピーク期間中で大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11を動作させる理由は、溶接出力をスイッチング部11とスイッチング部21で分担させることで、変圧器12および変圧器22の温度上昇を抑制し、300A以上の大電流領域での溶接装置の使用率を向上させるためである。
また、パルスベース期間で小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21を停止させる理由は、パルスベース期間で短絡が発生した場合にスイッチング部21が動作していると小容量の直流リアクトル24が優勢となり、短絡電流が急激に上昇してスパッタが発生するので、それを防止するためである。
第4実施例で開示したスイッチング部の制御方法は、250〜300A以上の大電流域において適用するのが望ましい。
【0017】
以上のように、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の制御をパルス波形のタイミングで適宜切り替えることにより、急峻なパルス電流を生成できると共に、ベース期間での短絡電流の上昇を防止することができ、安定した溶接状態を保つことができる。
なお、本実施例では図1に示す構成のアーク溶接装置に基づき説明したが、図2に示す構成のアーク溶接装置においても、図4に示すタイミングでスイッチング部11、21を動作させることで同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。
【実施例5】
【0018】
ショートアーク溶接法にて溶接を行う場合、図5に示すようにスイッチング部11、21を動作させる。図中の溶接電流波形のうち、斜線で描かれた領域は、大容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表し、それ以外の領域は小容量の直流リアクトルに流れる溶接電流を表す。SW1は大容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部11のスイッチング信号、SW2は小容量の直流リアクトルを有する回路のスイッチング部21のスイッチング信号を表す。
ショートアーク溶接法では、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11の動作信号SW1は常時ONのままである。
時刻t0において、短絡が発生した時点で小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をONする。次に時刻t1においてアークが発生した時点で、小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をOFFし、アーク期間は大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11のみを動作させる。時刻t2において短絡した時点で小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21の動作信号SW2をONする。
【0019】
以上のように、時刻t0から時刻t1までの短絡期間では、スイッチング部11とスイッチング部21の両方を動作させ、時刻t1から時刻t2までのアーク期間では、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11のみ動作させる。短絡期間では、小容量の直流リアクトル24側の回路が有効となるので、急峻な上昇率で溶接電流を上昇させることができる。
一方、アーク期間では小容量の直流リアクトル24側のスイッチング部21を停止させて、大容量の直流リアクトル14側のスイッチング部11のみを動作させることにより、大容量の直流リアクトル14によって短絡の検出が遅れても、溶接電流はそれほど上昇せずスパッタの発生を大幅に抑制することができる。また、大容量の直流リアクトル14に蓄えられた電気エネルギーによって、瞬間的なアーク切れが発生しにくくなり溶接状態が安定する。
なお、本実施例では図1に示す構成のアーク溶接装置に基づき説明したが、図2に示す構成のアーク溶接装置においても、図5に示すタイミングでスイッチング部11、21を動作させることで同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。
【0020】
このように、本発明では溶接状態に応じて最適な直流リアクトルを選択し切り替え制御を行っているため、パルスアーク溶接法およびショートアーク溶接法を1台の溶接装置で高品質な溶接結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
このように、本発明によると、溶接状態に応じて最適な直流リアクトルを選択して切り替え制御を行うため、パワーケーブルの繋ぎ替えを行うことなく、パルスアーク溶接法でもショートアーク溶接法でも高品質な溶接結果を得ることができるので、例えば、消耗電極式ガスシールドアーク溶接装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例を示すアーク溶接装置のブロック図である。
【図2】本発明の第2実施例を示すアーク溶接装置のブロック図である。
【図3】本発明の第3実施例を示すアーク溶接装置の制御タイミングチャートである。
【図4】本発明の第4実施例を示すアーク溶接装置の制御タイミングチャートである。
【図5】本発明の第5実施例を示すアーク溶接装置の制御タイミングチャートである。
【図6】従来のアーク溶接装置のブロック図である。
【図7】従来のアーク溶接装置での溶接法の切り替えの様子を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 アーク溶接装置
2 商用電源
3 一次整流回路
4 溶接出力制御手段
11 スイッチング部
12 変圧器
13 二次整流回路
14 直流リアクトル
15、16、17 出力端子
21 スイッチング部
22 変圧器
23 二次整流回路
24 直流リアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を整流して直流とする一次整流回路と、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第1スイッチング部と、前記第1スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第1変圧器と、前記第1変圧器の出力を整流して直流とする第1二次整流回路と、前記第1二次整流回路に接続された第1直流リアクトルと、前記第1スイッチング部を制御して溶接出力を調整する溶接出力制御手段とを備えたアーク溶接装置において、
前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第2スイッチング部と、前記第2スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第2変圧器と、
前記第2変圧器の出力を整流して直流とする第2二次整流回路と、前記第2二次整流回路に接続され、前記第1直流リアクトルより小容量の第2直流リアクトルとを備え、前記溶接出力制御手段は、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を個別に制御することを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
交流電源を整流して直流とする一次整流回路と、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第1スイッチング部と、前記第1スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第1変圧器と、前記第1変圧器の出力を整流して直流とする第1二次整流回路と、前記第1二次整流回路に接続されて中間タップを有する直流リアクトルと、前記第1スイッチング部を制御して溶接出力を調整する溶接出力制御手段とを備えたアーク溶接装置において、前記一次整流回路の出力を高周波交流に変換する第2スイッチング部と、前記第2スイッチング部の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する第2変圧器と、前記第2変圧器の出力を整流して直流とし、前記直流リアクトルの前記中間タップに出力する第2二次整流回路とを備え、前記溶接出力制御手段は、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を個別に制御することを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項3】
前記溶接出力制御手段は、パルスアーク溶接を行う際に、
(1)パルス増加期間およびパルスピーク期間では、前記第1スイッチング部を停止させてかつ前記第2スイッチング部を動作させ、
(2)パルス減少期間では、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、
(3)パルスベース期間では、前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とする請求項1または2記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
前記溶接出力制御手段は、パルスアーク溶接を行う際に、
(1)パルス増加期間、パルスピーク期間、およびパルス減少期間では、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、
(2)パルスベース期間では、前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とする請求項1または2記載のアーク溶接装置。
【請求項5】
前記溶接出力制御手段は、ショートアーク溶接を行う際に、
(1)短絡期間では、前記第1スイッチング部および前記第2スイッチング部を動作させ、
(2)アーク期間では、前記第1スイッチング部を動作させかつ前記第2スイッチング部を停止させることを特徴とする請求項1または2記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−130512(P2006−130512A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319170(P2004−319170)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】