説明

イオントラップ質量分析におけるイオン極性のための位相補正

【課題】イオントラップに印加する1つまたはそれ以上の電界を調整、または補正するための装置、システムおよび/またはデバイスならびに方法を提供する。
【解決手段】正イオンモードと負イオンモードとの間でのイオントラップの作動の切り替えに適合するように、イオントラップに印加される合成電界を調整するための方法および装置において、合成電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界を含む。合成電界がイオントラップ内の負イオンに付与する力が、合成電界がイオントラップ内の正イオンに付与する力と実質的に同一になるように、1つまたはそれ以上の成分電界の位相が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、イオントラップ装置およびその作動方法に関する。さらに詳細には、本発明は、イオンをトラップし、かつ放出するための合成電界を提供するタイプのイオントラップ装置、および、前記電界を作動の正イオンモードと作動の負イオンモードとの間の切り替えに適合するように調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2005年1月25日に出願された米国仮特許出願第60/646,767号「質量分析におけるイオン極性のための位相補正方法」の利益を主張する。
イオントラップは、イオンの動きの制御が望まれる多数の異なる用途において使用されてきた。特に、イオントラップは、質量分析(MS)システムにおける質量分析または分類計として使用されてきた。イオントラップに基づく質量分析のイオントラップは、電界および/または磁界により形成することができる。本発明の開示は、第1に磁界なしで電界のみにより形成されたイオントラップを対象としている。しかしながら、本明細書において開示され請求された主題は、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)技術に基づいて作動するイオントラップにも用途を見出すことができ、ICR技術はイオンのトラップに磁界を使用し、かつトラップ(またはイオンサイクロトロンセル)からのイオンの放出に電界を使用する。
【0003】
本発明の開示が関する限りにおいて、MSシステムは一般に公知であり、ここでは詳細に説明する必要がない。簡潔に言えば、典型的MSシステムは、サンプル取り入れシステムと、イオン化装置と、質量分析器と、イオン検出器と、信号処理装置と、読み取り/表示手段とを含む。さらに、現代のMSシステムは、典型的には、MSシステムの1個またはそれ以上の部品の機能を制御し、MSシステムにより生成された情報を保存し、分析のための分子データのライブラリーを提供するなどのためのコンピュータまたは他のタイプの電子制御および処理手段を含む。MSシステムはまた、質量分析器を制御されかつ排気された環境で包囲するための真空システムをも含む。設計に応じて、サンプル取り入れシステムの全体または部分と、イオン化装置とイオン検出器もまた、排気された環境内に囲い込まれる。
【0004】
作動時に、サンプル取り入れシステムは少量のサンプル物質をイオン化装置に導入する。このイオン化装置は、設計によってはサンプル取り入れシステムと一体化されていてもよい。イオン化装置は、サンプル物質の成分を正または負イオンのガス流に変換する。これらのイオンは次に質量分析器内に導入される。これとは違って、特に質量分析器がイオントラップを含む場合には、サンプル取り入れシステムは、サンプル物質を直接質量分析器内に導入してもよい。この別の場合において、イオン化源はエネルギービームのようなイオン化手段を質量分析器内に案内し、そしてその後イオンは質量分析器内で形成される。
【0005】
質量分析器は、イオンをそれぞれの質量対電荷比に応じて分離する。「質量対電荷」という語は、しばしばm/z、m/e、m/qまたは単純に「質量」として表し、電荷zまたはeはしばしば1の値を有するものとする。したがって、本開示の目的のために、「m/z比」という語と「質量」という語とは等価として扱われる。質量分析器はm/z比に応じて分解されたイオンのフラックスを形成し、イオン検出器に集められる。イオン検出器は、質量識別されたイオン情報を、信号プロセッサによる処理/調整とメモリ内への保存と読み取り/表示手段による表現とに適した電気信号に変換する。読み取り/表示手段の典型的な出力は、検知されたm/z値でのイオンの相対存在量を示す一連のピークのような質量スペクトルであり、訓練された分析者はこの質量スペクトルからMSシステムにより加工されたサンプル物質に関する情報を得ることができる。
【0006】
多くのイオントラップは、四重極電極形状を有する。四重極構造は、3次元または2次元であってもよい。3次元四重極イオントラップの形状は、z軸と、z軸と直交する径方向r軸とに関して考えられる。3次元の電極構造は、z軸の周囲に回転的に対称である。このタイプのイオントラップは、z軸の周囲に弧を描いて延びるリング状電極(または単に「リング」電極)と、リング電極の上方に位置する頂端キャップ電極と、リング電極の下に頂端キャップ電極と対向して位置する底端キャップ電極とを含む。3次元の電極構造は、z軸に沿った頂端キャップ電極と底端キャップ電極との間の間隔と、r軸に沿った当該内部空間の中心点からのリング電極の径方向の距離とによって一般的に規定される内部空間を規定する。リング電極と頂端および底端キャップ電極とは、典型的にはz軸のまわりの回転双曲面により形成され、すなわち、少なくとも電極の表面は、内部空間に面して双曲線としての形状である。
【0007】
作動において、イオントラップ容積または領域は内部空間内に形成され、その中で選別された質量または質量範囲のイオンが安定的にトラップされ、そこから選別されたイオンが検知または質量分析のために放出されてもよい。典型的にはラジオ周波数(RF)の交流(AC)電圧がリング電極に印加されて、リング電極と端部キャップ電極との間の電位差を生じる。このAC電位が3次元の四重極トラップ電界を形成し、このトラップ電界が、電極アセンブリの中心に向かう3次元の時間依存性回復力を付与する。AC電位の波形のパラメータは変化してもよく、トラップ電界は電気力学的である。イオンの軌道がrおよびz方向に関して束縛を受けるとき、イオンはトラップ電界内に閉じ込められる。イオンが安定してトラップされるかどうかは、しばしばトラッピング、走査、またはマシューパラメータという名称のいくつかのパラメータによって決まり、これらはイオンのm/z比(すなわちより簡単には、質量)、電極構造の形状、すなわちサイズ(たとえば、電極構造の内部容積の中心に対する電極構造の間隔)、ACトラップ電位の大きさ、ACトラップ電位の周波数、そして、もしDC電位がACトラップ電位と組み合わされて印加されるならば、DC電位の大きさを含む。トラップ電圧のパラメータ(たとえば、大きさおよび周波数)の調整を介して、選別された質量のイオンがトラップされた後、放出される。典型的には、端部キャップ電極の1個または両方、および、時にはリング電極が出口開口を有し、この開口を通って放出されたイオンがイオン検知装置に達することができる。端部キャップ電極の一方もまた、イオンをイオントラップに入れるため、およびイオントラップ内でイオンを形成するようにエネルギービームを入れるための開口を有してもよい。設計または特別な実施形態に応じて、頂端キャップ電極と底端キャップ電極とは電気的に相互連結されていてもよく、リング電極は端部キャップ電極の一方または両方と電気的に相互連結されていてもよい。
【0008】
3次元イオントラップに加えて、2次元イオントラップが公知である。たとえば、直線状および曲線状イオントラップが開発されており、そこではトラップ電界は2次元の四重極成分を有し、それはイオントラップの長い内部空間を通って延びる中心直線または曲線軸と直交するx−y(またはr−θ)面内のイオンの動きを束縛する。3次元の電極構造と比較して、2次元電極構造においては、端部キャップ電極は、中心長手軸に沿って延びる1対の対向する頂部および底部の双曲線状電極と置換される。リング電極は、同様に同一軸方向に延びる頂部および底部電極と似た1対の対向する側部電極と置換される。その結果、中心長手軸の周囲に平行に配置された4個の軸方向に長い電極と、1対の対向する電極の一方または両方とが電気的に相互連結されていてもよい。したがって、2次元電極構造は長い内部空間を規定し、その内部で選別された質量または質量範囲のイオンが安定的にトラップされて、そこから選別されたイオンが検知および質量分析のために放出されてもよい。3次元の電極配置と同様に、2次元電極配置の電極の表面は、双曲面形状を有していてもよい。中心長手軸と直交する平面に沿った断面において見ると、2次元電極構造の断面は、3次元電極構造の断面と類似していてもよく、いずれのタイプの電極構造も一般に双曲線状の頂部、底部および側部電極表面により制限されている。直線状および曲線状イオントラップの変形は、円形および楕円形の「レーストラック」形状を含む。
【0009】
2次元イオントラップの場合、イオンの軌道がxおよびy(またはrおよびθ)方向の両方について制限されているとき、イオンは電気力学的四重極電界内に閉じ込められている。回復力がイオンを2次元電極構造の中心軸方向に駆動する。トラップ電界は2次元のみであるため、DC電圧は長い電極構造の軸方向端部領域に印加され、長手軸方向のイオンの動きを制約し、電極構造の軸方向端部からのイオンの望まない脱出を防ぐ。
【0010】
通常、放出されたイオンを質量分析実験の部分として検知するために、2次元および3次元のイオントラップからのイオンを放出する種々の技術が利用されてきた。1つのよく知られた技術は、双極共鳴放出であり、それは典型的には、トラップされたイオンの動きの周波数(すなわちイオンの長期周波数)と共鳴する周波数と対称性とを有する補助的AC電界の印加を含む。たとえば、補助的AC電圧を3次元の電極構造の端部キャップ電極に印加して、軸方向(たとえば、上記z軸)のAC双極電界を形成する。もしz軸に対応するイオンの動きの周波数が補助的AC電圧の周波数に等しければ、そのイオンはAC双極電界からエネルギーを有効に吸収でき、その結果、イオンの軸方向の振動の振幅が増す。もしAC双極電界が充分に強ければ、イオンの運動エネルギーは充分に増加して、トラップ電界から付与された回復力を超え、イオンは軸方向にトラップ電界から放出される。このようにして、イオンは、適切なイオン検出器による検知のためにイオントラップから導かれるか、またはトラップ内イオン検出器により検知されてもよい。補助的AC双極電界に加えて、補助的AC四重極電界が共鳴によるイオン放出に同様に使用されてきており、補助的双極電界と補助的四重極電界との両方の組み合わせもまた同様に使用されてきた。
【0011】
一般に、イオントラップは、正イオンを処理する正イオンモードまたは負イオンを処理する負イオンモードのいずれかにおいて作動するように構成することができる。大抵の市販のイオントラップは、1タイプのイオンモードだけのために、分解能や質量キャリブレーションのような能力の特性を最適化する種々のオートチューンアルゴリズムを使用する。これらのアルゴリズムは典型的には、正イオンモードにおいて実行される。なぜならば、負イオンは一般に生成がより難しく、特にガスクロマトグラフィ器具と連結したイオントラップにおいて、難しいからである。一般に、負イオンモードにおいて実行されるオートチューンアルゴリズムは、ガスクロマトグラフィ器具と連結したイオントラップにおいて非常に問題がある。しかしながら、いったん能力が正イオンモードに最適化されると、負イオンモードに切り替える時、この能力を維持できると有利であろう。同様に、いったん能力が負イオンモードに最適化されると、正イオンモードに切り替える時、この能力を維持できると有利であろう。このことは、とりわけ、一定の電荷を有するイオンがイオントラップ内に存在するときに受ける力は、逆の電荷のイオンが受ける力と等しくあるべきだということを、意味するだろう。もし、正イオンモードと負イオンモードとの間の切り替え時に能力を維持できる手段が提供できなければ、能力は低下するであろう。この問題は、先行技術においては適切に取り扱われていなかった。
【0012】
上記の観点から、作動の正イオンモードと作動の負イオンモードとの間の切り替え時に、イオントラップの能力、特に分解能と質量キャリブレーションとを維持するための手段を提供することは有利であろう。
【特許文献1】米国特許第5,291,017号明細書
【特許文献2】米国特許第5,714,755号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記問題および/または当業者によって観察される他の問題を全体としてまたは部分的に処理するために、下記の実施形態例を介して説明するように、本開示は、イオントラップに印加する1つまたはそれ以上の電界を調整または補正するための装置、システムおよび/またはデバイスならびに方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態によれば、正イオンモードと負イオンモードとの間でのイオントラップの作動の切り替えに適合するように、前記イオントラップに印加される合成電界を調整するための方法が提供される。イオントラップに印加される合成電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界として規定される。イオントラップ内の負イオンに対して合成電界が付与する力が、イオントラップ内の正イオンに対して合成電界が付与する力にほぼ等しくなるように、1つまたはそれ以上の成分電界の位相が調整される。
【0015】
他の実施形態によれば、正イオンモードと負イオンモードとの間でのイオントラップの作動切り替えに適合するように、前記イオントラップに印加される合成電界を調整するための方法が提供される。第1合成電界は、第1合成電界が第1電荷タイプのイオンに作用することについて最適化されるように構成される。第1合成電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界を含む。前記成分電界のうちの少なくとも1つの波形は、第2の合成電界を生成するために再構成され、それによって、イオントラップ内の逆の第2電荷タイプのイオンに対して第2合成電界が付与する力が、第1電荷タイプのイオンに対して第1合成電界が付与する力に実質的に等しくなる。
【0016】
他の実施形態によれば、イオンをトラップするための装置が提供される。この装置は、イオンをトラップするための内部空間を形成する電極構造を含むイオントラップと、合成電界を前記電極構造に印加する手段と、前記合成電界を調整する手段とを含む。合成電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界を含む。前記調整手段は、イオントラップ内の負イオンに対して合成電界が付与する力が、イオントラップ内の正イオンに対して合成電界が付与する力に実質的に等しくなるように、合成電界を調整する手段である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
一般に、「連絡し合う(連通する)」(たとえば、第1要素が第2要素と「連絡し合う」)という語は、本明細書において、2つまたはそれ以上の要素または素子間の構造的、機能的、機械的、電気的、光学的、磁的、イオン的または流体的な関係を示すために使用している。同様に、1つの要素が第2の要素と連絡し合うと書かれていても、さらに他の要素が前記第1および第2要素間に存在するか、かつ/または作動的に関連または係合している可能性を排除しない。
【0018】
本明細書に開示されている主題は、概して、イオン運動に対する制御が所望される種々の用途に利用可能なイオントラップ装置(および/またはシステムおよび/またはデバイス)、および方法に関する。この装置および方法は、正イオンまたは負イオンのいずれかをそれぞれのm/z比に応じて、選別または分類するために特に有用である。したがって、これらの装置および方法は、特に質量分析において有用であるが、このタイプの作業には限定されない。装置および方法の実施形態の例を、図1〜図5を参照して下記に詳細に説明する。
【0019】
図1は、本明細書に開示された方法を実施するために使用することができるタイプの質量分析(MS)装置、つまりシステム100の例を示す。MS装置100は、イオントラップ110を構成する電極構造および関連回路を含んでもよい。図1において、イオントラップ110の断面は、2対の表面が互いに内向きに対向し、それによってイオントラップ空間(領域)を含むのに適したイオントラップ110の中央内部空間112を形成するように配置された、4個の双曲線形状の導電表面により規定されている。図1の視点から、イオントラップ110は、頂部電極122と底部電極124とを含む互いに対向する1対の電極と、2つの側部電極126、128とを含む互いに対向する1対とを含む。しかしながら、図1に示したイオントラップ110の構成は3次元でも2次元でもよい。すなわち、1実施形態において、頂部電極122は上端キャップ電極であってもよく、底部電極124は下端キャップ電極であってもよく、側部電極126、128は物理的に分離した電極ではなく連続リング電極の部分であってもよい。イオントラップ110の内部空間112の幾何学的中心は、点130で示されている。
【0020】
他の実施形態において、頂部電極122は長尺上部電極であってもよく、底部電極124は長尺下部電極であってもよく、側部電極126、128は長尺側部電極であってもよい。これらが延びる方向は、2次元のイオントラップの中心長手軸の方向である。図1の視点からは、中心長手軸は図面の紙面内部に向かっており、点130で示されている。したがって、このタイプのイオントラップ110の内部空間112もまた長手軸130に沿って伸びている。
【0021】
本発明の目的のために、3次元および2次元のいずれかの形状の適用可能性を説明すると、図1に示すイオントラップ110は、頂部電極122(上端キャップ電極または長尺上部電極)と、底部電極124(下端キャップ電極または長尺下部電極)と、側部電極126、128(リング電極または2個の対向する長尺側部電極)とを含むことを特徴とする。便宜上、図1のイオントラップ110は、本明細書において、2次元(たとえば直線状4本のロッド)形状も適用可能との了解のもと、先ず3次元形状の文脈で説明する。
【0022】
3次元形状の場合、1対の対向する頂部および底部電極122、124(上端キャップ電極および下端キャップ電極)は、所望の実施形態に応じて、何らかの適切な手段により電気的に相互連結されていてもよい。2次元形状においては、対向する上部電極122と下部電極124とは何らかの適切な手段により電気的に相互連結されていてもよく、対向する側部電極126、128もまた所望の実施形態に応じて、何らかの適切な手段により電気的に相互連結されていてもよい。
【0023】
本明細書において使用されている「双曲状の」という用語および同様の用語は、略双曲線状の輪郭を含むことを意図している。すなわち電極122、124、126、128、または少なくともイオントラップ110の内部空間112に対し内側に対向するそれらの表面は、完全または理想的な双曲線または双曲面を記述する公知の数学的パラメータ表現に正確に一致してもしなくてもよい。たとえば、電極122、124、126、128またはそれらの内側に対向する表面は、双曲線状の輪郭ではなく円形の輪郭を有してもよい。2次元イオントラップにおいては、双曲線状シートまたはプレートに加えて、電極122、124、126、128は、多くの四重極質量フィルタに見られる円筒状ロッドとして、または平板として構成されてもよい。それにもかかわらず、そのような全ての場合に、電極122、124、126、128は、多くの実施形態に適した方法で効果的な四重極トラップ電界を構成するために使用してもよい。
【0024】
イオントラップ装置110は、イオントラップ110の内部空間112にサンプルイオンを供給または導入するためのイオン化装置140を含む。この文脈において、「供給する」または「導入する」という用語は、適切な内部イオン化技術または適切な外部イオン化技術の使用を含むことを意味する。一般に、内部イオン化は、先ずサンプル取り入れシステムを用いてサンプル物質をイオントラップ110に導入し、次に導入したサンプル物質をイオン化することを包含するが、一方、外部イオン化は、先ずサンプル物質をイオン化し、次にこのイオン化したものをイオントラップ110に導入することを包含する。したがって、いくつかの実施形態においては、気体またはエアロゾル化されたサンプル物質が、たとえば2個の隣接電極の間隙を通じて、直接に、またはガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)、電気泳動、電気クロマトグラフ器具等の他のタイプの分析器具(特に図示せず)の出力として、イオントラップ110内に注入される。これらの実施形態において、イオン化装置140は、イオントラップ110内のサンプル物質をイオン化するのに適した、たとえば電極の1つ(たとえば頂部電極122)の開口を通じて、エネルギーのビームをイオントラップ110内に導く装置であってもよい。エネルギービームは、たとえば、電子ビーム、レーザービーム等であってよい。任意の適切なイオン化技術が使用されてよく、その例として、化学的イオン化(CI)、電子衝撃イオン化(EL)があげられる。化学イオン化が実施される場合には、試薬ガスをイオントラップ110内に導入するために、試薬ガス源(特に図示せず)を使用してもよい。他の実施形態において、イオン化装置140は、サンプル物質を直接または他のタイプの分析器具(たとえば、GCまたはLC)の出力として受け取り、任意の適切なイオン化技術によりサンプル物質をイオン化し、そして得られたイオン流をイオントラップ110内に導入する、イオン化インターフェースまたはイオン源であってもよい。外部イオン化に典型的に使用されるイオン源の例として、大気圧化学イオン化(APCI)装置、大気圧光イオン化(APPI)装置および電気スプレイ(ESI)装置があげられるが、これに限られるものではない。簡略化のために、たとえばレンズ、ゲート、ミラー、多重極電極構造等、イオンエネルギーをイオン化装置140からイオントラップ110内に案内するために必要な部材は、当業者には周知であるため、特に図示していない。MS装置100を1つ以上のタイプの技術を選別できるように設計してもよいこともまた、当業者には理解されるであろう。
【0025】
内部イオン化用または外部イオン化用に構成されていようとも、イオン化装置140の作動は、ガス源およびサンプル物質源と同じく、図1に示されているように任意の電子制御装置またはシステム(すなわち電子制御装置144)によって制御されてもよい。たとえば、エネルギービームのゲーティング(開閉)、サンプル物質流、外部で作られたイオンの流れは、イオントラップ110に対する電界の印加のようなMS装置100の他の操作と同期されてもよい。MS装置100はまた、1つまたはそれ以上の不活性背景ガス源(図示せず)を含んでもよく、この不活性背景ガス源は、トラップされたイオンの振動減衰やイオンの衝突で誘起された解離(CID)の実施等、種々の目的のためにガスをイオントラップ110に導く。これらの追加ガス源の作動もまた同様に電子制御装置144により制御される。
【0026】
一般的に、図1の電子制御装置144は、MS装置100のための電子またはコンピュータ作動システムの簡略化した概略図である。電子制御装置144は、それ自体、当該分野において理解される用語としてのコンピュータ、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、アナログ回路等を含むか、それらの部分であってもよい。データの入手、処理、保存および出力に加えて、電子制御装置144は、MS装置100の1つまたはそれ以上の要素のコンピュータによる制御のような、いくつかの他の機能を実施してもよい。電子制御装置144は、1つ以上の処理要素であるか、またはそれに含まれていてもよい。たとえば、電子制御装置144は、他の1つまたはそれ以上の処理要素と組み合わせた、コンピュータのような主制御要素を含んでもよく、前記処理成分は、さらに特定の機能(たとえば、データ入手、データ処理、要素間の情報送信またはインターフェースタスク等)を実施する。電子制御装置144は、温度、イオントラップ110に印加された種々の電圧(DCおよび/またはRF)、イオン光学電圧、電界強度、走査パラメータ、波形のパラメータおよび合成、周波数ミキシング、クロッキングおよびタイミング、位相ロッキング等、種々の態様の計測的制御を実施してもよい。電子制御装置144は、ハードウエアおよびソフトウエアの両方の特質を有してもよい。特に、電子制御装置144は、1つまたはそれ以上のアルゴリズム、下記の方法および工程、またはそのようなアルゴリズム、方法または工程の部分またはサブルーティンを実施するためのコンピュータによって読み取れるまたは信号を有する媒体において実施される命令を実行するように構成されていてもよい。命令は、任意の適切なコードで書かれてもよく、その一例がCである。電子制御装置144は、MS装置100のユーザーからのコマンドやデータを受け取るための入力インターフェースと、読み出し/表示手段(図示せず)と通信する出力インターフェースとを含んでもよい。
【0027】
MS装置100は、イオントラップ110内の軌道を安定させるように選別された範囲のm/z値のイオンを閉じ込めるための、主、すなわち基本的なトラップ電界の形成に必要であり、同様に、共鳴励起により選別されたm/z値のイオンを放出するための1つまたはそれ以上の補助的電界を形成するために必要な、1個またはそれ以上の電圧源を含んでもよい。図1の例において、MS装置100は、主RF波形生成装置148を含んでおり、この主RF生成装置148は3次元イオントラップ110のリング電極126、128に電気的に接続されてリング電極126、128と上端キャップ電極および下端キャップ電極122、124との間の電位差を生じるか、または、2次元イオントラップ110の長尺の側部電極126、128と頂部電極122と底部電極124とに電気的に接続されて、長手軸130に沿った1個またはそれ以上の点における長尺の側部電極126、128と頂部電極122と底部電極124との間の電位差を生じる。主RF波形生成装置148により印加される電圧信号は、一般に基本形Vsin(ωt+φ)を有するという特徴を有していてもよく、イオントラップ110内に双曲線状のトラップ電界を形成する。図1において、主RF波形は、主RF波形生成装置148とリングまたは側部電極126との間の信号ライン上のEにより示されている。主トラップ電界がイオントラップ110内のイオンを安定的にトラップできるかどうかは、一般に、そのイオンのm/z値、波形の振幅Vおよび周波数ω、ならびにイオントラップ110の物理的大きさによって決まる。電子制御装置144は、主RF生成装置148に連結されて、基本的RF電圧の振幅Vおよび周波数ωを制御してもよい。主RF波形は、典型的には、電子制御装置144に伴うマスタークロックにより生じる。いくつかの実施形態においては、主RF波形は発振器により固定され、他の実施形態においては主RF波形は電子制御装置144の制御の下でデジタル‐アナログ変換器(DAC)により生じる。いくつかの実施形態において、主RF波形生成装置148は、ブロードバンド多重周波数波形生成装置である。いくつかの実施形態において、DC電圧源(図示せず)は、当業者には公知であるように、大きさUのDC電圧成分をトラップ電界に印加するのに使用されてもよい。もしDC電圧源が使用されると、そのときは、イオンをトラップする能力は大きさUによって決まる。
【0028】
MS装置100は、トラップされたイオンの軸方向の共鳴放出を連続的、質量選別的に行なうのに必要な1個またはそれ以上の電圧源を含んでもよい。図1の例において、MS装置100は、補助的で任意のRF波形生成装置152を含んでもよく、このRF波形生成装置152は、3次元イオントラップ110の上端および下端キャップ電極122、124に、または2次元イオントラップ110の長尺の頂部および底部電極122、124に電気的に連結されて、この対向する1対の電極122、124間の電位差を生じる。いくつかの実施形態において、補助的RF波形生成装置152は、ブロードバンド多重周波数波形生成装置である。この例において、補助的RF波形生成装置152は変圧器156を介してイオントラップ110に連結されている。ある実施形態においては、補助的RF波形生成装置152は、変圧器156の1次巻線すなわちコイル157の両端に連結されていてよく、2次巻線すなわちコイル158の中央タップはアースされていてもよい。他の実施形態において、図1に示されているように、1次コイル157の一端は地面に接続され、2次コイル158の中央タップは、下記のように、追加補助的RF生成装置152に接続されていてもよい。補助的RF波形生成装置152により印加される電圧信号は、一般に基本形Vsin(ωt+φ)を有するという特徴を有していてもよく、対向する頂部および底部電極122、124間のイオントラップ110内に双極励起電界を形成する。図1において、補助的RF波形は、補助的RF波形生成装置152と変圧器156との間の信号ライン上のEによって示されている。電子制御装置144は、補助的RF波形生成装置152に接続されて、補助的RF電圧の振幅Vおよび周波数ωを制御してもよい。任意の波形クロックは、電子制御装置144に関連するマスタークロックから導出されてもよい。当業者に理解されているように、たとえば、電子制御装置144を利用して、ソフトウエアプログラムを実行するために任意の波形を作り出してもよく、このソフトウエアプログラムは波形パラメータを計算し、コンテンツがランダムアクセスメモリ(RAM)にロードされた後、デジタル‐アナログ変換器(DAC)にクロックアウトされるデータファイルを作成する。このソフトウエアは、一定のMS実験および正イオンモードまたは負イオンモードのいずれかにおける作動に対するイオントラップ110の能力を最適化するために、波形パラメータを計算するのに使用してもよい。このソフトウエアは任意の適切な公知の有線または無線手段によって電子制御装置144に転送されるかまたはロードされる。本開示の目的のために、このソフトウエアは、図1に概略的に示された電子制御装置144内に配置されていると考えてよい。
【0029】
トラップされた各イオンは、一定の軸または方向に沿った振動の明白な長期振動運動を有しており、それはイオンのm/z比と、同時にイオントラップ110の物理的大きさ(それは典型的には固定されている)と主トラップ電界のトラップパラメータ(振幅Vおよび周波数ω)とによって決まる。任意のトラップされたイオンの長期周波数が補助的RF波形の周波数ωにマッチするならば、双極励起電界からのエネルギーがイオンの関連成分の方向に沿った周期的運動と結合される共鳴状態が存在する。もし双極励起電界が充分に強ければ、イオンの関連成分方向に沿った振動は振幅を増し、イオンがイオントラップ110内のトラップ領域の閉じ込めから脱することができる点に達する。したがって、走査作動を実施することにより、連続するm/z比のトラップされたイオンは、イオントラップ110から共鳴により放出することができる。たとえば、主トラップ電界を一定に保つことができ、その結果、異なるm/z比のトラップされたイオンのそれぞれの長期周波数も同様に一定に保たれ、補助的RF波形の周波数ωを変えることにより放出が行なわれる。このように、連続するm/z比のイオンは、周波数ωと共鳴状態になり、その結果、イオントラップ110から連続的に放出される。それとは異なって、主トラップ電界のパラメータ(振幅Vおよび周波数ω)が変えられている間に双極励起電界を一定に保ってもよく、これによって、異なるm/z比のトラップされたイオンのそれぞれの長期周波数が変わる。このようにして、連続するm/z比のイオンは固定周波数ωと共鳴し、それによって、それぞれの長期周波数が補助的RF波形の周波数ωとマッチして、イオンはイオントラップ110から放出される。共鳴イオン放出によって質量スキャンがなされるとき、四重極トラップ成分の電圧の振幅Vを走査してトラップされたイオンのそれぞれの長期周波数を変えることは、通常好ましい。なぜならば、そのような場合、トラップ電圧の周波数ωと励起電圧の周波数ωとの間の所望の関係を維持することがより容易であるためである。
【0030】
MS装置100の操作の例として、上記に述べた内的または外的イオン化技術の実施により、異なるm/z値のイオンがイオントラップ110内に提供または導入される。四重極トラップ電界がイオントラップ110に印加されて、全てのイオンまたは選別された範囲のm/z値のイオンをトラップする。もし必要ならば、または所望ならば、適切な減衰ガスをイオントラップ110内に導入して、イオントラップ110の中心またはその近くで、イオンの軌道が壊れるか体積が小さくなるようにイオンを熱運動化してもよく、それによって質量分解能が改良される。イオンをある時間の間保存した後、双極励起電界と上記の選別された走査方法とを用いての共鳴放出のような適切な放出技術により、それらの連続的なm/z比に応じてイオンを順次イオントラップ110から放出する。放出されたイオンは、意図した方向(たとえば、印加された励起電界双極子の軸)に沿って移動し、イオントラップ110の1個またはそれ以上の電極(たとえば図1に示した底部電極124)の1つまたはそれ以上の開口(図示せず)を通過する。放出イオンは適切なイオン検出器により収集される。一般に、イオン検出器166は、イオントラップ110からの出力として受け取ったイオンビームを電気信号に変換できる任意の装置であってもよい。図1の例において、イオン検出器166は、イオントラップ110に対して外側に配置されている。外部のイオン検出器の例は、電子増倍管、光電子増倍管またはファラデーカップを利用したイオン検出器を含むが、それらに限定されるものではない。イオン検出器166の極性は、正および負のイオン化のいずれが実施されたかに応じて切り替えできることが、好ましい。イオントラップ110からのイオンは、印加された電界および/またはイオン光学装置として作用する電極構造(特に図示せず)により、イオン検出器166に向かって集束される。電気的または構造的イオン光学装置は、イオンビームを、イオントラップ110から放出される中性粒子および電磁放射から分離し、それによって背景ノイズを減らし、信号対ノイズ(S/N)比を増やすように設計されているのが好ましい。他の実施形態において、イオン検出器166は、イオントラップ110に対して内部に配置されてもよい。すなわち、公知の設計のイオン検出器を、イオントラップ110内の電極構造に組み込むことも、イオントラップ110の内部空間112に配置することも可能である。トラップ内イオン検出もまた、1個またはそれ以上のトラップ電極122、124、126、128それ自体により、イオン運動から電極内に誘発されたイメージ電流を検出することによって実施されてもよい。
【0031】
イオン検出器166がいったんイオンを電子へ変換すると、イオン検出器166により生成される出力信号は、MS装置100によって加工されたサンプル物質に関する情報を得るために、熟練した分析者が解釈できる質量スペクトルを生じるように、任意の適切な手段によって加工されてもよい。図1の例においては、イオン検出器166からの出力は、増幅器170によって増幅されてもよく、増幅器170からの出力は、信号出力保存および加算回路174により保存および加工されてもよい。一方、信号出力保存および加算回路174からのデータは、入力/出力(I/O)処理制御カード178により加工されてもよい。I/O処理制御カード178からの出力は、さらに、電子制御装置144により加工されてもよい。質量スペクトルは、適切な読み取り/表示装置(図示せず)により表示または印刷されてもよい。一般に、データの入手および加工、信号の調節およびスペクトル情報の表示のための構成要素および技術は、当業者には周知であるため、ここではこれ以上詳細に説明する必要はない。さらに、1つまたはそれ以上のこれらの構成要素が電子制御装置144により制御できることは、当業者には容易に理解される。
【0032】
双極励起電界の形成に加えて、追加の補助的RF波形が他の目的のために提供されてもよい。たとえば、図1のイオントラップ110とそれに付随する回路とは、所望ならば、1つまたはそれ以上の補助的励起電界と組み合わされた非対称のトラップ電界を実施するように設計されてもよい。一般的に、非対称のトラップ電界は、トラップ電界の中心がイオントラップ110の幾何学的中心から変位している電界である。非対称トラップ電界の理論と実際の詳細は公知であり、たとえば上記特許文献1および特許文献2に記載されており、これらの特許は本発明開示の譲受人に共に譲渡されている。簡潔に言えば、非対称トラップ電界は、同じ周波数を有する四重極と双極の成分の組み合わせから構成されていてもよい。トラップ電界の四重極成分は、上記の主RFトラップ電界に対応している。トラップ電界の双極成分は、たとえば、変圧器156と頂部電極122と底部電極124との間に相互接続されて概略的に示されている、不等集中パラメータインピーダンスを用いることにより、受動的に形成してもよい。これとは違って、図1に示されている生成装置152のような補助的双極電圧生成装置を用いて、能動的にトラップ双極電界を形成してもよい。これとは違って、トラップ双極電界は、能動的手段および受動的手段の両方により形成してもよい。このような場合のすべてにおいて、トラップ双極電界は、その周波数がトラップされたイオンの長期周波数とマッチしないため、典型的にはそれ自体共鳴励起によるイオンの放出に寄与しない。実際には、内部イオン化の場合のイオン形成段階の間に、または外部イオン化の場合のイオン注入段階の間に、対称トラップ電界をイオントラップ110に先ず印加して、イオンにイオントラップ110の構造的中心に集中する安定した周期的動きをさせることが望ましいであろう。その後に、双極トラップ電界成分の適用により、トラップ電界を非対称にさせてもよい。
【0033】
上記の上記特許文献2に詳細に説明されているように、非対称トラップ電界を使用する場合には、補助的四重極励起電界を使用すると有用である。この代替例は図1に示されており、図1は、MS装置100が、変圧器156の2次コイル158と通じる補助的四重極RF電圧生成装置162を含んでもよいことを示している。したがって、補助的四重極RF電圧生成装置162からの信号を変圧器156の2次コイルの中心タップに印加することにより、四重極励起電界を形成してもよい。このようにして、励起電界の四重極成分はイオントラップ110の頂部電極122と底部電極124とにより印加され、一方、トラップ電界の四重極成分はリング電極126、128と側部電極126、128とにより印加される。トラップ電界は、一般に四重極励起電界周波数を容易に伝達させない同調共鳴回路により提供されるので、これは普通に行なわれる。補助的四重極RF波形生成装置162により印加される電圧信号は、一般に基本形Vsin(ωt+φ)を有することを特徴としてもよい。補助的四重極RF電圧の周波数ωは、好ましくは四重極トラップ電圧の周波数ωとは異なる。図1において、補助的四重極RF波形は、補助的四重極RF波形生成装置162と変圧器156の2次コイル158との間の信号ライン上のEによって示されている。電子制御装置144は補助的四重極RF波形生成装置162に接続されて、補助的四重極RF電圧の振幅Vと周波数ωとを制御してもよい。補助的四重極波形は、それが数えられる数のイオンを独立してトラップするほど強力でないという意味において、典型的には「弱い」ものである。補助的四重極波形は、四重極であり、一般にイオントラップ110の構造的中心130に中心を置いているけれども、補助的四重極励起電界の中心は非対称トラップ電界の中心と一致しないので、トラップされたイオンに対し作用できる。つまり、補助的四重極励起電界の強さは、非対象トラップ電界の中心においてゼロではない。いくつかの実施形態において、補助的四重極RF波形生成装置162は、ブロードバンド多重周波数波形生成装置である。
【0034】
上記の補助的双極励起波形の場合と同様に、補助的四重極励起波形もまた電子制御装置144において実行されるソフトウエアプログラムから生成されてもよい。このソフトウエアプログラムは、コンテンツがランダムアクセスメモリ(RAM)内にロードされた後デジタル‐アナログ変換器(DAC)内にクロックアウトされるデータファイルを形成してもよい。さらに、このソフトウエアは、一定のMS実験に対して、および能動的イオンモードと受動的イオンモードとのいずれにおける作動に対しても波形を最適化できるように、補助的四重極RF電圧の波形パラメータを計算するために使用してもよい。通常、この最適化は能動的イオンモードに対して行われる。
【0035】
非対称トラップ電界を使用する他の実施形態において、補助的励起電圧は、前記の四重極励起成分のみならず、四重極励起成分としばしば同じ周波数を有する双極励起成分も含む。励起電界の補助的双極励起成分は、非対称トラップ電界を形成するのに使用された上記双極成分と同様な方法で、受動的または能動的に形成されてもよい。たとえば補助的双極励起成分は、能動的補助的双極RF波形生成装置152により形成されてもよい。補助的双極励起電界は、それ自体のみの活動ではイオントラップ110からイオンを放出できないほど弱くてもよい。四重極と双極との両方の励起電界成分を使用することにより、質量分解能が強化され、それによって全ての励起電界成分が最小化される。
【0036】
他の実施形態において、励起電界は四重極と双極との両方の成分を含んでよいが、非対称トラップ電界を使用することなく印加される。たとえば、対称トラップ電界は、イオンをトラップした後、双極と四重極との励起電界成分が印加されて、トラップされたイオンがそれぞれの共鳴から連続的にパワー(エネルギー)を吸収する。双極成分が印加されて、質量選別に基づいて共鳴によりイオンを励起する。これらのイオンが双極共鳴からパワーを吸収するにつれて、意図した軸方向に沿ったそれらの振動の振幅が増す。このようにして、イオンは質量選別共鳴四重極電界の中央ゼロ電界から移動でき、その結果、イオントラップ110から放出されるのに充分なパワーを四重極成分から吸収できる。
【0037】
いくつかの実施形態において、周波数ビーティング現象を低減させるため、または他の目的のために、トラップ電界電圧および励起電界電圧のそれぞれの位相をロック(固定)することが望ましい。大きなビート周波数は、特にサンプル物質がGCシステムからの連続流の形で提供されるときには、質量ピークを大きく歪曲させて補正ができないおそれがある。したがって、図1に示されたように、適切な位相ロック回路182を主RF波形生成装置148と補助的双極RF波形生成装置152との間に介在させてよく、かつ追加の位相ロック回路186を主RF波形生成装置148と補助的四重極RF波形生成装置162との間に介在させてよい。
【0038】
上記に説明し、図1に示したようなMS装置100の作動において、イオントラップ110(その波形パラメータ等)は、正イオンモードと負イオンモードとのいずれにおいても機能するように最適化されてもよく、そしてMN装置100は正イオンモードと負イオンモードとの間で切り替える能力を有してもよい。イオントラップ110を正イオンモードに対し最適化することは、負イオンモードに対して最適化するよりも、一般に容易である。しかしながら、イオントラップ110がたとえば正イオンモードに最適化されたという事実は、そのような最適化から得られる能力に関する利益が負イオンモードに切り替えた後にも保持されていることを保証するものではない。たとえば、共鳴イオン放出に対するごとく、基本的トラップ波形に関する補助的波形の位相を重要なものとして、補助的波形を使用する場合、正イオンモードにおける最適化の後の負イオンモードでの作動中に、質量分解能およびキャリブレーションは低下するであろうが、これは、印加された電界によるイオン動きの方向が全ての3次元(x、yおよびz)において逆になるからである。
【0039】
したがって、一実施形態によれば、この開示は、イオントラップ110が一方のイオンモードにおける最適作動に同調された後に他のイオンモードにおいて作動される場合、イオントラップ110(たとえば、図1のイオントラップ110)の電界を調節するための手段を提供する。上記の例に述べたように、電界は1つまたはそれ以上のトラップ電界成分と1つまたはそれ以上の補助的電界成分とを含む合成または結合電界であってもよい。合成電界の1つまたはそれ以上の成分は、双極モーメントや衝突断面等の第2オーダの効果を無視した場合、一定の方向(正または負)と一定の電荷を有するイオンが受ける力が、同一量の電荷を有する逆方向のイオンが受ける力と等しいか、ほぼ等しいように、調節されてもよい。たとえば、イオントラップ110が正イオンモードに同調された後に負イオンモードにおいて作動される場合に、電界は調節されてよく、その結果、負イオンにより経験された力が等しい電荷の正イオンが受ける力と等しいか、ほぼ等しい。
【0040】
本明細書において開示された技術の例は、第1に、電界Eによりイオンに加わる力F=qE(式中、力FおよびEはベクトルであり、qはイオンの電荷)であるということを考慮して説明され得る。Eを2つの周期的で時間に依存する機能E(t)とE(t)との合計とする。例として典型的な実施形態を参照し、周期的機能E(t)とE(t)とを、E(t)=sin(ωt)およびE(t)=Asin(ωtm/n+φ)のシヌソイド(正弦曲線)とする。式中、ωはシヌソイドの周波数であり、mおよびnは2つの実数であり、AはE(t)とE(t)との振幅の比であり、φは位相値である。電荷qposの正イオンにかかる力Fposは任意の方法で最適化されたと仮定すると、1組の2つのシヌソイドE1pos(t)=sin(ωt)とE2pos(t)=Asin(ωtm/n+φpos)とが得られる。たとえば、図2は、ω=3πラジアン、A=1、m=2、n=3である場合のE1posおよびE2posのプロットを示している。E1poとE2posとの合計、すなわちE12posは、太線で示されている。もし負イオンが現在分析されており、同一の電界E1posとE2posとが印加されるとすると、負イオン上の力は正イオン上の力の反対方向である。正イオン上の力と同一方向の力を負イオン上に有することが望ましい。換言すれば、図3に示されているように、Fneg(t)=Fpos(t)、すなわちこれと同等のE1neg(t)+E2neg(t)=−(E1pos(t)+E2pos(t))であることが望ましい。この目的は、E1neg(t)=−E1pos(t)で、E2neg(t)=−E2pos(t)であれば、達成されるであろう。
【0041】
さらに、φposからφnegへの位相シフトと同様に、時間シフトΔtが許容されると仮定する。
したがって、次の式が望まれる。
(1) sin(ω(t+Δt))=−sin(ωt)および
(2) sin(ω(t+Δt)m/n+φneg)=−sin(ωtm/n+
φpos
式(1)は、Δt=(2k+1)π/ω で、kが任意の整数であれば満たされる。例として、k=0、Δt=π/ωとすると、式(1)は次のようになる。
(1a) sin(ωt+π)=−sin(ωt)
k=0とすると 式(2)は、次のようになる。
(2a) sin(ωtm/n+πm/n+φneg)=−sin(ωtm/n+φpos)または
(2b) sin((ωt+π)m/n+φneg)=−sin(ωtm/n+φpos
上式は、2つのサイン関数の引数が(2k+1)πだけ異なっていれば、満たされる。
【0042】
((ωt+π)m/n+φneg)=(ωtm/n+φpos)+(2k+1)π
再整理すると次のようになる。
Δφ=φneg―φpos=π((2k+1)n−m)/n
ただし、k=0、Δφ=π(n−m)/nである。
最終結果は、図4に示されているように、もしE2posがπ(n−m)/nラジアンだけシフトされた位相であり、また、もしE1posとE2posとがπ/ω秒だけ時間的にシフトされるならば、負イオン上の力は元のE1posとE2posとの波形に応じて正イオンが受ける力と等しい。本例において、m=2およびn=3であり、したがって図4の位相シフトはπ(3−2)3、すなわちπ/3であることが理解されるであろう。負イオンモードのためにEサイン関数の引数における調整された位相は、したがって、φneg=φpos+π/3、またはφneg=π/2+π/3である。もし時間シフトΔtが移動すると、その結果は図5に示されており、全電界E12(すなわちE+E)は、ディレイ(遅延時間)を除けば、図3および図4に示された負イオンE12negに対する所望の全電界と同じである。本例において、ω=3πであり、したがって時間シフトΔt=π/ω=π/3π、すなわち1/3ラジアンであることが理解されるであろう。位相シフトそれ自体は、全電界E12において、所望の電界E12negに対してディレイを生じることが理解できる。時間シフトの導入により、ディレイが相殺される。実際には、このディレイは、トラップRF電界の半サイクルなので、実質的には重要でない。結果としての時間シフトは、典型的なトラップRF周波数を1MHzとすると、0.5μ秒である。もし、100μ秒/amu(またはダルトン)の典型的な質量走査速度が使用されると、得られる質量シフトは0.005amuである。この質量シフトは、ディレイの唯一の逆効果であり、すなわち、たとえば質量分解能はディレイによって影響を受けないことに留意すべきである。下記に説明するように、本開示の好ましい1実施形態は、追加ハードウエアがしばしば必要となるので、時間シフトを含んでいない。
【0043】
前に論じたように、作動の一定の段階でイオントラップ110に印加された合成または結合電界は、1つ以上の補助的周期的電界、すなわち複数個の電界Eを含んでよい。上記例のEと同様に、1つまたはそれ以上のこれらの追加電界Eの関連位相も重要であり、正イオンモードと負イオンモードとの切り替え時にそれらの調整が望まれる。ここに述べた処理は、これらの追加電界Eのために繰り返されてもよい。前記開示に関して、それは単に、E(t)に対して行われたように、Eineg(t)と―Eipos(t)とを同等に見なすことを意味するので、その処理は直接的なものである。調整されるべき種々の補助的電界E、E、E、...、Eの目的(たとえば共鳴イオン放出)に応じて、調整後のこれらの電界は、作動の一定の段階の間に、同時にイオントラップ110に印加されてもよい。さらに、これらの電界はシヌソイドの合計として同一の電極に印加されてもよく、またはそれらは異なる電極に印加されてもよい。
【0044】
正イオンモードと負イオンモードの間の切り替え時のイオントラップ110の性能の改良は、図2、図4および5に示された波形の比較から明らかである。波形E(t)=sin(ωt)は主トラップのために用いられ、そして波形E(t)=Ksin(ωtm/n+φ)は、軸方向変調のような補助的目的のために用いられ、さらに波形パラメータ(たとえば、ω、m、n、φ)は正イオンモードに最適化されていると、再度仮定する。もし、波形E(t)またはE(t)のいずれにも調整を加えずに、次にイオントラップ110を負イオンモードに切り替えると、その結果は、たとえば、約0.3amuのオーダの質量シフトであろう。さらに、質量分解能および性能の他の態様に悪影響を及ぼすだろう。他方、もしπ(n―m)/nの位相シフトを負イオンモードのための波形E(t)に導入して図5に示したようにE2neg(t)=sin((ωt+π)m/n+φneg)=sin(ωtm/n+φpos+π(n−m)/n)とすると、質量シフトはほぼ除去される。この例のように、実際の適用においては、結果は約0.01のオーダの質量シフトであろうが、このオーダの質量シフトは、大抵の適用に対して比較的重要性をもたないことが分かるだろう。すなわち、時間シフト(図5)を含まない位相の調整は、多くの適用においては、質量キャリブレーションに悪影響を及ぼすとは考えられない。換言すれば、図5に示されたような補助的波形に対する調整は、大抵の適用において充分である。さらに、もし、波形E(t)およびE(t)に時間遅延Δtを導入して時間シフトを含み、図4に示したようにE1neg(t)=sin(ω(t+Δt))およびE2neg(t)=sin((mω(t+Δt)/n+φpos+π(n−m)/n)とすると、この例の結果は、約0.01amuのさらなる改良となるだろう。質量シフトは一定であるので、それは同調アルゴリズムの必要なしに補償することができる。したがって、図4のように位相シフトと時間シフトとの両方の導入が、理想的なケースとして考えられ、実施されてよいが、全ての適用において必ずしも必要でないであろう。
【0045】
前記技術が、MS適用において使用されるイオントラップの操作に適用できることは理解できる。前記MS適用において、波形Eはトラップ電界の生成に使用される主RF波形に対応し、波形E、E、E、...、Eは、共鳴放出のような目的の、他の電界の生成に使用される補助的波形に対応している。一実施形態によれば、イオントラップを有するMS装置(たとえば上記に説明し図1に示したMS装置100およびイオントラップ110)の作動時に、1つまたはそれ以上の補助的波形Eのための最適値は、正イオンについて決定される。図1の場合、調整されるべき補助的波形Eは、双極RF波形Eと四重極RF波形Eとを含んでもよい。図1のMS装置100の文脈において前に論じたように、最適化されたパラメータは、任意の波形生成装置からの出力がコンピュータデータファイルに命令されるように、ソフトウエアによって計算されてもよい。ソフトウエアとデータファイルとの使用は、負イオンモードに切り替えるための波形Eの調整を容易にする。なぜならば、位相シフトのような調整は、適切な置換データファイルを作ることにより実施できるからである。すなわち、前に正イオンのために構成した波形Eiposを、調整すべき各波形Eiposの位相に位相シフトπ(n―m)/nを加え、所望ならば時間シフトΔtを加えて再計算することにより、負イオンのための波形Einegを形成してもよい。元の波形EiposRAMの異なる点で開始することにより新しい波形Einegを作ることもできる。たとえば、正イオン波形Ei+がRAMにおいて360個の位置を占めるとすると、生成はメモリロケーション0から開始する。m=2,n=3の例において、60度(すなわち−30度)の位相シフトのために、対応する負イオン波形Einegは、メモリロケーション60から波形生成を開始して生成できる。メモリロケーション359がDACに送られた後、波形はメモリロケーション0まで包み込んで連続することが分かるであろう。また、この技術は時間シフトを示しているので、時間シフトが位相シフトに一意的に関わることができるシヌソイダル成分を含む波形に対してのみ有効である。
【0046】
これとは異なる例として、補助的波形Eの変更に加えて、メインRF生成装置の波形Eがシフトされてもよい。しかしながら、多くの実施形態において、この例は好ましくない。前記したように、補助的波形Eはしばしばソフトウエア内で生成された後、DACによって作られる。したがって、このような場合の補助的波形は、単にDACにより作られたデータを処理することによりシフトできる。他方、主トラップ電界を形成する波形のRF位相は、しばしば発振器により固定されるが、この場合、この位相をシフトするには追加ハードウエアを要するであろう。しかしながら、RF位相がDACにより形成される場合に、たとえば、このRF位相を変えることは便利であろう。これとは違って、トラップ電界および補助的波形の位相シフトは、図3から分かるように、各個々の波形の反転、すなわち180度位相シフトにより実行される。
【0047】
他の例として、補助的波形Eの位相は、主RF生成装置の波形Eの位相をシフトするか、またはシフトせずに、ハードウエアに基づく技術を用いてシフトされてもよい。この場合も、この方法は、上記ソフトウエアに基づく技術に比べて好ましくない。なぜならば、上記ソフトウエアに基づく技術は追加ハードウエアを必要としないためである。
図6は、イオントラップに印加されるべき合成電界を、正イオンモードと負イオンモードとの間での作動切り替えに適するように調整する方法の一実施形態例を示す。ブロック610において、イオントラップに印加された合成電界は、複数成分電界であると規定される。この成分電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含んでもよい。ブロック620において、1つまたはそれ以上の成分電界は調整されて、イオントラップ内の負イオンに対し合成電界により付与された力が、イオントラップ内の正イオンに対し合成電界により付与された力とほぼ同一になる。好ましくは、調整は、1つまたはそれ以上の合成電界の位相に対してなされる。この方法は、ここに述べた第1合成電界を構成するために使用されてもよく、この電界は第1電荷タイプ(正または負)のイオンに対し作用するように最適化されている。この調整は、少なくとも1つの成分電界の波形を再構築して、第2合成電界を形成してもよく、その結果、第2合成電界がイオントラップ内の反対方向(負または正)の第2電荷タイプのイオンに対し付与する力が、第1合成電界が第1電荷タイプ(正または負)のイオンに対し付与する力とほぼ同じであるようになる。
【0048】
本明細書において開示した装置および方法は、全体として上記に述べ、かつ例として図1に示したMSシステムにおいて実施できる。しかしながら、本発明の主題は、図1に示した特定のMS装置100または図1に示した特定の回路構成に限定されない。さらに、本発明の主題は、MSに基づく適用に限定されない。
実際には、いくつかのイオントラップは、6極または8極の電界成分のようにより高いオーダの多重極電界成分を形成していることは理解されるであろう。いくつかの場合に、より高いオーダの電界が考えられるか、または少なくとも望ましい。なぜならば、それらの電界は、改良された質量分解能やイオンの共鳴放出のような利点を得るのに使用することができるからである。より高いオーダの電界は、たとえば対向する電極間の間隔を広げるか、または完全な双曲線輪郭から逸脱するように電極の表面を形作ることなどによる、電極構造の非理想物理的特性から得てもよい。より高いオーダの電界はまた、あるトラップ電界双極子のように、あるタイプの電界成分の適用から得てもよい。本明細書において開示された本発明の原理は、物理的に固有の手段または電気的手段により製造されたか否かにかかわらず、より高いオーダの電界成分を含むイオントラップに適用されてもよい。
【0049】
前記のように、本明細書において開示されかつ請求された主題はまた、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)に基づいて作動するイオントラップにも適用してもよい。イオンサイクロトロン共鳴(ICR)は、イオンをトラップするのに磁界を用い、トラップ(またはイオンサイクロトンセル)からイオンを放出するのに電界を用いる。ICR技術を実施する装置および方法は、当業者には周知であるため、ここではさらに詳細に説明する必要はない。
【0050】
ここに開示した装置および方法は、また、タンデムMS(MS/MS)適用およびマルチMS(MS)適用と組み合わせて使用されてもよいことは理解されるであろう。たとえば、所望のm/n範囲のイオンはトラップされて、「親」イオンと衝突するための適切な背景ガス(たとえば、ヘリウム)を用いて周知の手段によりCID処理を実施されてもよい。たとえば、質量選別不安定放出、共鳴放出等の適切な放出技術により、他の所望でないイオンを放出して、選別されたm/n比の親イオンをイオントラップ内に分離することができる。得られたフラグメント、すなわち「娘」イオンは、次に質量分析されて、この処理をイオンの連続生成のために反復してもよい。一般に、MS/MSおよびMSの適用は、当業者には周知であるため、本明細書ではさらに詳細に説明する必要はない。
【0051】
本明細書において開示された実施形態に適用された周期的電圧は、シヌソイド波形に限定されないこともまた理解されるであろう。一般的事項として、本明細書において教示された原理は、三角(鋸刃)波、四角波等の他のタイプの周期的波形にも適用できる。
さらに、本発明の詳細の種々の態様は、本発明の範囲から逸脱することなく変更できることは理解されるであろう。さらに、上記記述は単に説明目的のためのものであって、限定目的のためのものではなく、本発明は特許請求の範囲によって限定される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態例による3次元または2次元イオントラップ概略断面図および関連する回路図である。
【図2】イオントラップに印加された電界波形の時間変化プロット図であり、波形は操作の正イオンモードに最適化されている。
【図3】操作の負イオンモードに適した合成電界波形の時間変化プロット図である。
【図4】操作の負イオンモードに位相調整された電界波形の時間変化プロット図である。
【図5】操作の負イオンモードに位相調整および時間調整された電界波形の時間変化プロット図である。
【図6】本明細書に開示された合成電界の調整方法を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正イオンモードと負イオンモードとの間でのイオントラップの作動の切り替えに適合するように、イオントラップに印加される合成電界を調整する方法であって、
前記イオントラップに対して印加される合成電界を、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界として規定するステップと、
前記イオントラップ内の負イオンに対して前記合成電界が付与する力が、前記イオントラップ内の正イオンに対して前記合成電界が付与する力に実質的に等しくなるように、1つまたはそれ以上の前記成分電界の位相を調整するステップとを含む方法。
【請求項2】
調整が、少なくとも1つの前記補助的電界の位相を調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの補助的電界が双極励起電界または四重極励起電界である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたはそれ以上の補助的電界が複数の励起電界を含み、調整が全ての前記励起電界のそれぞれの位相を調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
調整が、前記トラップ電界の位相を調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
調整が、前記トラップ電界の位相と少なくとも1つの前記補助的電界の位相とを調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
調整が、前記1つまたはそれ以上の調整された成分電界を前記イオントラップに印加するために使用されるハードウエアを再構成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
調整が、前記1つまたはそれ以上の調整された成分電界を前記イオントラップに印加するために使用されるソフトウエアにおけるデータを再計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの前記補助的電界が励起電界であり、当該方法はさらに、前記励起電界を前記調整された合成電界の成分として前記イオントラップに印加し、それによって1つまたはそれ以上の異なる質量のトラップされたイオンを、共鳴放出により前記イオントラップから放出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
調整されるべき少なくとも1つの前記成分電界が、式sin(ωtm/n+φ)、式中、ωは波形の周波数、tは時間、mおよびnは任意の2つの実数、φは波形の位相角で与えられる周期関数を含む波形により少なくとも部分的に規定され、調整は、式±π((2k+1)n−m)/n、式中、kは任意の整数である、によって与えられる値を減じることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記合成電界の前記成分電界が、それぞれの周期的波形により少なくとも部分的に規定され、調整は、さらに、前記周期的波形から時間シフトを除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
正イオンモードと負イオンモードとの間でのイオントラップの作動の切り替えに適合するように、イオントラップに印加される合成電界を調整する方法であって、
第1電荷タイプのイオンに作用することについて最適化するように前記第1合成電界を構成するステップであって、前記第1合成電界は、少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界を含んでいるステップと、
少なくとも1個の前記成分電界の波形を再構成して第2合成電界を形成し、それによって前記イオントラップ内の逆の第2電荷タイプのイオンに対して前記第2合成電界が付与する力が、前記第1電荷タイプのイオンに対して前記第1合成電界が付与する力に実質的に等しくなるステップとを含む方法。
【請求項13】
調整の前に、前記イオントラップは前記第1電荷タイプのイオンに作用するための第1作動モードに設定され、かつ前記第1合成電界は前記第1作動モード中の前記イオントラップに印加されるように最適化され、
当該方法はさらに、
前記イオントラップを前記第2電荷タイプのイオンに作用するための第2作動モードに切り替えることと、
前記第2合成電界を前記第2作動モード中の前記イオントラップに印加することとを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1作動モードは正イオンモードであり、前記第1電荷タイプのイオンは正イオンであり、前記第2作動モードは負イオンモードであり、前記第2電荷タイプのイオンは負イオンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1作動モードは負イオンモードであり、前記第1電荷タイプのイオンは負イオンであり、前記第2作動モードは正イオンモードであり、前記第2電荷タイプのイオンは正イオンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
イオンをトラップする、内部空間を形成する電極構造を含むイオントラップと、
前記電極構造に合成電界を印加する手段であって、前記合成電界は少なくとも1つのACトラップ電界と1つまたはそれ以上の補助的AC電界とを含む複数の成分電界を含む手段と、
前記合成電界が前記イオントラップ内の負イオンに付与する力が、前記合成電界が前記イオントラップ内の正イオンに付与する力と実質的に同一になるように、前記合成電界を調整する手段と
を含む、イオントラップ装置。
【請求項17】
前記調整手段は1つまたはそれ以上の前記成分電界の位相を調整する手段を含む、請求項16に記載のイオントラップ装置。
【請求項18】
前記調整されるべき1つまたはそれ以上の成分電界は、それぞれの周期的波形により少なくとも部分的に規定され、かつ前記調整手段は、少なくとも1つの前記波形が前記イオントラップに印加される時間を調整する手段をさらに含む、請求項17に記載のイオントラップ装置。
【請求項19】
前記調整手段は、前記合成電界の1つまたはそれ以上の周期的波形を生成するのに使用される回路を含む、請求項16に記載のイオントラップ装置。
【請求項20】
前記調整手段は、前記合成電界の1つまたはそれ以上の周期的波形を生成するのに使用されるソフトウエアを含む、請求項16に記載のイオントラップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−529219(P2008−529219A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552174(P2007−552174)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/001062
【国際公開番号】WO2006/081075
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】