説明

イオンビーム計測方法、半導体装置の製造方法、及びイオン注入装置

【課題】イオンビームの加速エネルギを推定することが可能なイオンビーム計測方法とイオン注入装置を提供すること。
【解決手段】温度測定用部材14にイオンビーム20を照射した状態で該温度測定用部材14の温度を測定するステップと、上記温度からイオンビーム20の加速エネルギを推定するステップとを有するイオンビーム計測方法による

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム計測方法、半導体装置の製造方法、及びイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体装置の製造工程では、半導体基板にウェル等の不純物拡散層を形成したり、シリコン層に不純物をドープしたりする目的で、イオン注入装置が使用される。
【0003】
そのイオン注入装置は、加速部に加速電圧を印加することによりイオンを加速して半導体基板等に打ち込むというものであり、その注入条件としては加速エネルギとドーズ量が用いられる。
【0004】
このうち、ドーズ量は、イオン注入装置内のドーズカウンタでモニターされており、設定したドーズ量でイオン注入が行われているかどうかを確認することができる。
【0005】
これに対し、加速エネルギは直接的に測定するのが難しいため、市販のイオン注入装置には加速エネルギを測定する機構は設けられていない。そのため、通常は、加速部に印加されている加速電圧を加速エネルギとみなし、イオンの加速エネルギを直接測定することは行われない。
【0006】
しかしながら、イオン注入装置の表示部に誤った加速電圧が表示されることも想定され、実際に表示された加速電圧でイオンが加速されているかどうか不安がある。
【0007】
また、ウェルのように不純物濃度のプロファイルがデバイスに影響を及ぼすような部分では、プロファイルをなるべく正確に管理することが求められており、イオン注入によりウェルを形成するときの加速エネルギを直接測定したいという要請もある。
【0008】
但し、現実には、このような直接測定は行われておらず、ウェル上にトランジスタを形成した後に、そのトランジスタの電気的特性を測定することにより、ウェルの不純物プロファイルを確認するという手法が採られている。
【0009】
しかしながら、これは不純物プロファイルが設計値から外れてデバイスが不良となって初めて加速エネルギの異常を発見するというものであるため、非効率的で、デバイスの歩留まりを低下させる要因となる。
【0010】
このような点に鑑み、下記の特許文献1〜3では、イオン注入時の加速エネルギを測定する方法を提案している。
【0011】
このうち、特許文献1では、2つのセンサ間をイオンパルスが通過する時間から加速エネルギを求めている(段落番号0012)。
【0012】
また、特許文献2では、イオンに印加する電圧をチェックすることにより、加速エネルギの異常を検出している(段落番号0028〜0030)。
【0013】
そして、特許文献3では、イオン注入後のレジストパターンの膜厚から加速エネルギを求めている(段落番号0050)。
【0014】
この他に、本発明に関連する技術が特許文献4〜7にも開示されている。
【特許文献1】特開2000−100372号公報
【特許文献2】特許3358336号公報
【特許文献3】特開2001−307670号公報
【特許文献4】特許2954205号公報
【特許文献5】特開昭57−88661号公報
【特許文献6】特開2000−331952号公報
【特許文献7】特表2005−502174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、イオンビームの加速エネルギを推定することが可能なイオンビーム計測方法、半導体装置の製造方法、及びイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一観点によれば、温度測定用部材にイオンビームを照射した状態で該温度測定用部材の温度を測定するステップと、前記温度から前記イオンビームの加速エネルギを推定するステップとを有するイオンビーム計測方法が提供される。
【0017】
また、本発明の別の観点によれば、ターゲットにイオンビームを照射することにより該ターゲットの構成材料を飛散させ、飛散した該構成材料よりなる膜の積層膜を形成するステップと、最上層の前記膜を形成する前と後での前記積層膜の電気的特性の変化量を測定するステップと、前記電気的特性の変化量から、前記イオンビームの加速エネルギを推定するステップとを有するイオンビーム計測方法が提供される。
【0018】
そして、本発明の他の観点によれば、加速エネルギ測定部をイオンビームに曝し、該イオンビームの加速エネルギを推定するステップと、前記加速エネルギが設計値からずれている場合、イオン注入装置の加速電圧を調節して前記加速エネルギを前記設計値に近づけるステップと、前記設計値に近づけた後の前記イオンビームを用いて、半導体基板に不純物をイオン注入するステップとを有する半導体装置の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の更に他の観点によれば、イオンビームを生成するイオン源と、前記イオンビームを加速する加速部と、前記加速部を出た前記イオンビームに曝される位置に移動して該イオンビームの加速エネルギを推定する加速エネルギ計測部と、前記イオンビームに曝される位置で基板を支持する基板支持部とを有するイオン注入装置が提供される。
【0020】
次に、本発明の作用について説明する。
【0021】
本発明によれば、加速エネルギ計測部をイオンビームに曝すことで、該イオンビームの加速エネルギを直接的に求める。
【0022】
その加速エネルギ計測部では、例えば、温度測定用部材にイオンビームを照射し、その温度測定用部材の温度が測定される。或いは、イオンビームによりターゲットをスパッタし、ターゲットの構成材料よりなる膜の積層膜を形成した後、最上層の膜が形成される前と後での積層膜の電気的特性、例えば抵抗値の変化量を測定する。
【0023】
そのように測定された抵抗値の変化量や温度はイオンビームの加速エネルギを反映しているため、加速エネルギの値を推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、イオンビームの加速エネルギを直接的に推定するので、イオン注入装置の故障によって加速エネルギが誤って表示されている場合等でも、実際の加速エネルギを確認することができ、不適切な加速エネルギでイオン注入を行ってしまう危険性を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係るイオン注入装置の概略図である。
【0027】
このイオン注入装置1は、イオンビーム20を生成するイオン源5を備える。イオン源5は、例えばECR(Electron Cyclotron Resonance)放電によってプラズマを生成するプラズマ生成部2と、そこから電界の作用でイオンビーム20を引き出す引き出し電極4とを備えており、これら引き出し電極4とプラズマ生成部2との間には、直流の引き出し電源3により引き出し電圧VEが印加される。
【0028】
プラズマ生成部2には、目的とするイオンを生成するためのガスや材料が収容される。例えば、p型不純物であるボロンをイオン注入するときには、フッ化ホウ素(BF3)ガス又はジボラン(B2H6)ガスがプラズマ生成部2に収容される。
【0029】
更に、このイオン注入装置1は、磁界の作用によってイオンビーム20の中から特定の質量数のイオン種のみを選択するための質量分析マグネット6を備える。
【0030】
その質量分析マグネット6を通ったイオンビーム20は、加速部9に入り、所定の加速電圧で加速される。
【0031】
加速部9は、多段の電極8を有しており、両端の電極8の間には加速電源7により加速電圧VAが印加される。イオンビーム20は、その加速電圧VAによって加速され、加速部9を出ることになる。
【0032】
加速部9の後段には、複数枚の半導体基板Wを外周縁に沿って保持し、かつモータ19によって回転可能な基板支持部18が設けられる。基板支持部18が回転することで、複数枚の半導体基板Wがイオンビーム20に曝され、各半導体基板Wに対して一括してイオン注入を行うバッチ処理が可能となる。
【0033】
また、基板支持部18はリードネジ16と接続されており、モータ17によりそのリードネジ16を回転することにより、基板支持部18が鉛直方向Aに昇降可能となっている。イオンビーム20の直径は半導体基板Wのそれよりも小さいが、モータ19による回転運動と共に基板支持部18を昇降させることで、各半導体基板Wの全面に一様にイオンビーム20を照射することができる。
【0034】
基板支持部18の回転速度や上下方向への移動量は、制御部15から出力される制御信号D1、D2によってコントロールされる。
【0035】
なお、イオン注入を行う前と後においては、基板支持部18は開口18aを下にして停止し、開口18aにイオンビーム20を通すことで半導体基板Wに不要なイオン注入が行われるのが防止される。
【0036】
ところで、このようなイオン注入装置では、加速電圧VAとして制御部15に表示された電圧でイオンビーム20が加速されるとは限らない。例えば、装置の故障や誤差によって加速電圧VAとは異なる電圧でイオンビーム20が加速される恐れがある。
【0037】
そこで、本実施形態では、加速部9と基板支持部18との間に、そのイオンビーム20の加速エネルギを直接的に計測する加速エネルギ計測部10を設ける。
【0038】
その加速エネルギ計測部10は、鉄板等よりなる温度測定用部材14と、その温度測定用部材14の温度を非接触で測定する温度計13が設けられる。温度計13としては例えば赤外線センサを用いることができる。
【0039】
また、温度測定用部材14は、リードネジ12に接続されており、モータ11によってそのリードネジ12を回転させることで、鉛直方向Bに昇降可能となっている。温度測定用部材14の鉛直方向の移動量は、制御部15から出力される制御信号D3により制御される。
【0040】
また、温度計13による温度の測定結果は、温度信号D4として制御部15に出力される。
【0041】
次に、このような加速エネルギ計測部10を用いたイオンビーム20の加速エネルギの測定方法について説明する。
【0042】
図2は、本実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するための図であって、加速エネルギ計測部10の近傍の拡大図に相当する。
【0043】
また、図3は、そのイオンビーム計測方法について説明するためのフローチャートである。
【0044】
図3の最初のステップS1では、まず、回転していない状態の基板支持部18(図1参照)の開口18aにイオンビーム20を通す。
【0045】
次いで、図2に示すように、モータ11とリードネジ12によって温度測定用部材14を下方に移動し、温度測定用部材14にイオンビーム20を照射する。イオンビーム20が照射された温度測定用部材14は、イオンビーム20の衝突エネルギによって、その温度が上昇する。
【0046】
そして、照射して数秒が経過した後、温度測定用部材14の温度が飽和状態になったタイミングで、温度計13により温度測定用部材14の温度を測定する。
【0047】
次に、ステップS2に移る。
【0048】
本ステップでは、図4に示すような加速エネルギ−温度テーブルを参照する。そして、ステップS1で測定した温度に対応する加速エネルギを求め、その加速エネルギをイオンビーム20が有しているものと推定する。
【0049】
例えば、ステップS1で測定した温度がT1の場合は、該温度T1に対応する加速エネルギE1をイオンビーム20が有していると推定する。
【0050】
この加速エネルギ−温度テーブルは、イオン注入装置1を用いて予め作成されるものであり、制御部15が備える記憶部15aに格納されている。そのテーブルを作成するにあたっては、様々な加速電圧VAでイオンビーム20を加速する。そして、各加速電圧VAにおける温度測定用部材14の温度を、その加速電圧VAに対応した加速エネルギでイオンビーム20を照射したときの部材14の温度としてプロットする。
【0051】
次に、ステップS3に移り、ステップS2により推定された加速エネルギの値が、所定の濃度プロファイルを持ったウェル等の不純物拡散層を形成するのに必要な設計値からずれているかどうかを判断する。
【0052】
そして、ずれていている(YES)と判断された場合には、ステップS4に移行し、加速電圧VAを調節して再びステップS1、S2を行うことにより、イオンビーム20の加速エネルギを設計値に近づける。
【0053】
これに対し、ステップS3においてずれていない(NO)と判断された場合には、イオンビーム20の加速エネルギが設計値であるとみなされるので、本実施形態に係るイオンビーム計測方法の主要ステップを終了する。
【0054】
この後は、イオンビーム20の加速エネルギやドーズ量を変更せずにそのままの状態に維持しながら、リードネジ12とモータ11により温度測定用部材14を上方に引き上げ、イオンビーム20に曝されない位置に温度測定用部材14を退避させる。そして、基板支持部18を回転させることにより、各基板Wに対するイオン注入を開始する。
【0055】
以上説明した本実施形態によれば、図2を参照して説明したように、鉄板等の温度測定用部材14にイオンビーム20を照射し、それにより加熱された温度測定用部材14の温度からイオンビーム20の加速エネルギを推定する。これによれば、イオンビーム20の加速エネルギが直接的に計測されるので、例えば装置1の故障によって加速電圧VAの表示が実際の値からずれていることを発見することができる。したがって、ウェル等の不純物拡散領域を形成するのに不適当な加速エネルギでイオン注入が行われるのを未然に防ぐことができると共に、計測結果に基づいて加速エネルギを調節することで、不純物濃度のプロファイルを設計値に近づけることが可能となり、半導体装置の歩留まり低下を抑制することができるようになる。
【0056】
しかも、温度測定用部材14に非接触でその温度を計測することが可能な非接触式の温度計を温度計13として用いるので、温度計13がイオンビーム20によってダメージを受けるのを防止できる。
【0057】
但し、そのダメージが問題にならない場合は、温度測定用部材14に接触することでその温度を測定する接触式の温度計を温度計13として用いても良い。そのような接触式の温度計としては、例えば熱電対がある。
【0058】
(2)第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0059】
図5は、本実施形態で使用される加速エネルギ計測部10の構成図である。
【0060】
本実施形態では、図5に示されるように、セラミック等の絶縁体よりなる抵抗測定用部材30と、アルミニウム等の導電性材料よりなるターゲット31とを有する。
【0061】
抵抗測定用部材30は、イオンビーム20の上流側が開口された容器状となっており、その底部30aにターゲット31が固着される。そして、抵抗測定用部材30の内側側面30bには2つの導電性ピン32が間隔をおいて設けられ、各導電性ピン32には抵抗計33が接続されている。
【0062】
また、抵抗測定用部材30には第1実施形態で説明したモータ11とリードネジ12が接続されており、モータ11の回転運動によって抵抗測定部材30が昇降可能となっている。
【0063】
次に、このような加速エネルギ計測部10を用いたイオンビーム20の加速エネルギの測定方法について説明する。
【0064】
図6は、本実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するための図であって、加速エネルギ計測部10の近傍の拡大断面図に相当する。
【0065】
また、図7は、このイオンビーム計測方法について説明するためのフローチャートである。
【0066】
最初のステップP1では、まず、回転していない状態の基板支持部18(図1参照)の開口18aにイオンビーム20を通す。
【0067】
次いで、図6に示すように、モータ11とリードネジ12によって抵抗測定用部材30を下方に移動し、ターゲット31にイオンビーム20を照射する。
【0068】
イオンビーム20が照射された部分のターゲット31では、ターゲット31の構成材料であるアルミニウムがイオンビーム20によって飛散し、そのアルミニウムが内側側面30bに堆積する。
【0069】
図6の点線円内に示すように、内側側面30bには、これより以前におけるイオンビーム20の照射によって堆積したアルミニウムよりなる膜40a〜40cの積層膜40が形成されている。そして、今回のイオンビーム20の照射によって、その積層膜40の最上層にアルミニウムよりなる膜40dが新たに形成される。
【0070】
そして、所定時間、例えば60秒間だけこの状態を維持して膜40dの形成を行った後、リードネジ12とモータ11により抵抗測定用部材30を上方に引き上げ、イオンビーム20に曝されない位置に抵抗測定用部材30を退避させる。
【0071】
次に、ステップP2に移行する。
【0072】
本ステップでは、抵抗計33を用いることにより、最上層の膜40dを形成する前と後での2つの導電性ピン32の間の積層膜40の抵抗値の変化量ΔRを測定する。すなわち、最上層の膜40dを形成する前における積層膜40の抵抗値がR1であり、膜40dを形成した後における積層膜40の抵抗値がR2である場合、これらの差R1−R2を変化量ΔRとして求める。
【0073】
続いて、ステップP3に移り、図8に示すような加速エネルギ−抵抗変化量テーブルを参照することにより、ステップP2で求めた変化量ΔRに対応する加速エネルギを求め、その加速エネルギをイオンビーム20が有しているものと推定する。
【0074】
例えば、ステップP2で測定した変化量がΔR2の場合は、該変化量ΔR2に対応する加速エネルギE2をイオンビーム20が有していると推定する。
【0075】
この加速エネルギ−抵抗変化量テーブルは、加速電圧VAを変えてイオンビーム20をターゲット31に複数回照射し、その照射が終わる度に積層膜40の抵抗値の変化量を求め、その変化量を加速電圧VAに応じた加速エネルギと対応させてプロットすることにより予め作成されるものであり、制御部15が備える記憶部15aに格納される。
【0076】
加速エネルギが大きいとそれだけ多くのアルミニウムがターゲット30から飛散するので、飛散したアルミニウムよりなる膜40dの膜厚も増大する。また、導電体である積層膜40は、新たに形成される膜40dの膜厚が厚いほど、各導電性ピン32の間での抵抗値が低減する。従って、加速エネルギと抵抗値の変化量ΔRとの間には相関があり、本実施形態のような加速エネルギの推定が可能となる。
【0077】
このような推定は、積層膜40の抵抗値の変化量を用いたものに限定されない。例えば、最上層の膜40dを形成する前と後における積層膜40の他の電気的特性の変化量、例えば2つの導電性ピン32の間を流れる電流の変化量や、該導電性ピン32間の電位差の変化量に基づいて、加速エネルギの推定を行ってもよい。
【0078】
次に、ステップP4に移り、ステップP3により推定された加速エネルギの値が、所定の濃度プロファイルを持ったウェル等の不純物拡散層を形成するのに必要な設計値からずれているかどうかを判断する。
【0079】
そして、ずれていている(YES)と判断された場合には、ステップP5に移行し、加速電圧VAを調節して再びステップP1〜P3を行うことにより、イオンビーム20の加速エネルギを設計値に近づける。
【0080】
これに対し、ステップP4においてずれていない(NO)と判断された場合には、イオンビーム20の加速エネルギが設計値であるとみなされるので、本実施形態に係るイオンビーム計測方法の主要ステップを終了する。
【0081】
この後は、イオンビーム20の加速エネルギやドーズ量を変更せずにそのままの状態に維持しながら、基板支持部18を回転させることにより、各基板Wに対するイオン注入を開始する。
【0082】
以上説明した本実施形態によれば、図6を参照して説明したように、イオンビーム20でターゲット30をスパッタすることにより、ターゲット30の構成材料よりなる抵抗測定用膜40dを新たに形成し、その抵抗測定用膜40dが形成された積層膜40の抵抗値がイオンビーム20の加速エネルギに依存することを利用して、その加速エネルギを推定する。このように加速エネルギを直接的に計測することで、適切な加速エネルギでイオン注入を行うことができるようになるので、不純物濃度のプロファイルを設計値に近づけることが可能となり、半導体装置の歩留まり低下を抑制することができるようになる。
【0083】
(3)第3実施形態
本実施形態では、第1、第2実施形態で説明したイオンビーム計測方法を半導体装置の製造工程に適用する。
【0084】
図9及び図10は、本実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図である。
【0085】
最初に、図9(a)に示す断面構造を得るまでの工程について説明する。
【0086】
まず、p型シリコン(半導体)基板50に素子分離用の溝を形成し、その溝に素子分離絶縁膜51として酸化シリコン(SiO2)膜をCVD法により埋め込む。このような素子分離構造はSTI(Shallow Trench Isolation)と呼ばれるが、これに代えてLOCOS(Local Oxidation of Silicon)を採用してもよい。
【0087】
次いで、シリコン基板50の表面を熱酸化することにより熱酸化膜52を形成する。
【0088】
その後に、熱酸化膜52の全面にフォトレジストを塗布し、それを露光、現像してレジストパターン53を形成する。
【0089】
次に、図9(b)に示す断面構造を得るまでの工程について説明する。
【0090】
まず、シリコン基板50をイオン注入装置1の基板支持部18にセットする。そして、第1実施形態(図3)又は第2実施形態(図7)に従って、ボロンイオンよりなるイオンビーム20の加速エネルギを推定し、その値がウェルを形成するのに必要な加速エネルギの設計値、例えば300KeVに近づくように加速電圧VAを調節する。そして、基板支持部18を回転させることにより、シリコン基板1に対するボロンのイオン注入を行う。
【0091】
これにより、図9(b)に示すように、レジストパターン53がマスクとなってボロンがシリコン基板50にイオン注入され、設計値に近い不純物濃度のプロファイルを持ったpウェル55が形成される。なお、そのイオン注入におけるドーズ量は特に限定されないが、本実施形態では3×1013cm-2とする。また、熱酸化膜52は、このイオン注入におけるスルー膜として機能する。
【0092】
このようなイオンビームの加速エネルギの推定は、一ロット(25枚)の最初の基板に対してイオン注入をする前に行えばよく、全ての基板に対して行う必要はない。
【0093】
この後に、シリコン基板50をイオン注入装置1から取り出し、レジストパターン53を除去する。
【0094】
次に、図9(c)に示す断面構造を得るまでの工程について説明する。
【0095】
まず、ウエットエッチングにより熱酸化膜52を除去した後、再びシリコン基板50の表面を熱酸化することにより、熱酸化膜よりなるゲート絶縁膜57を厚さ約7nmに形成する。
【0096】
次いで、ゲート絶縁膜57の上に、CVD法によりポリシリコン膜を形成する。そして、フォトリソグラフィとエッチングによりそのポリシリコン膜をパターニングし、ゲート電極58を形成する。
【0097】
続いて、図10(a)に示すように、ゲート電極58をマスクにしながらシリコン基板50にn型不純物としてAs+をイオン注入することにより、ゲート電極58とセルフアライン的にn型ソース/ドレインエクステンション60を形成する。
【0098】
pウェル55の形成工程(図9(b))と同様に、このn型ソース/ドレインエクステンション60もイオン注入装置1(図1参照)を用いて形成される。そして、第1実施形態又は第2実施形態で説明したイオンビーム計測方法を用いることで、イオンビームの加速エネルギを設計値である10KeVに近づけることが可能となり、設計通りの不純物濃度プロファイルを有するn型ソース/ドレインエクステンション60を得ることができる。
【0099】
なお、このイオン注入時のドーズ量は特に限定されないが、例えば6×1015cm-2とされる。
【0100】
次に、図10(b)に示すように、シリコン基板50の上側全面にCVD法により酸化シリコン膜を形成し、その酸化シリコン膜をエッチバックしてゲート電極58の横に絶縁性サイドウォール61として残す。
【0101】
続いて、図10(c)に示すように、ゲート電極58をマスクにしてシリコン基板50にn型不純物、例えばP+をイオン注入して、ゲート電極58の横にn型ソース/ドレイン領域62を形成する。
【0102】
このイオン注入を行うにあたっては、第1、第2実施形態で説明したイオンビーム計測方法でイオンビームの加速エネルギを確認し、その確認結果に基づいて加速エネルギを調節するのが好ましい。その加速エネルギは例えば15KeVであり、ドーズ量は2×1015cm-2である。これにより、設計値に近い不純物濃度のプロファイルを有するn型ソース/ドレイン領域62を形成することが可能となる。
【0103】
ここまでの工程により、ゲート絶縁膜57、ゲート電極58、及びn型ソース/ドレイン領域62等で構成されるMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタTRの基本構造が完成した。
【0104】
この後は、層間絶縁膜や金属配線の形成工程に移るが、その詳細については省略する。
【0105】
以上説明した本実施形態によれば、図9(b)の工程でイオン注入によりpウェル55を形成するときに、第1実施形態又は第2実施形態で説明したイオンビーム計測方法を用い、イオンビームの加速エネルギを直接的に確認する。
【0106】
pウェル55は基板深部に形成されるため、それを形成するときのイオンビームの加速エネルギは、ソース/ドレイン領域62等の他の不純物拡散領域を形成する場合と比較して高い値に設定される。イオンビームの加速エネルギは、このように高い値に設定されるほどばらつき易くなるので、上記のようにしてその値を直接的に確認することで、pウェル55の不純物濃度プロファイルが設計よりも外れるのが防止され、トランジスタTRの電気的特性を設計値に近づけることが可能となる。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本実施形態は上記各実施形態に限定されない。
【0108】
例えば、図1で示したイオン注入装置1はバッチ式であるが、枚葉式のイオン注入装置にも本発明を適用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るイオン注入装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の第1実施形態で使用される加速エネルギ−温度テーブルの模式図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態で使用される加速エネルギ計測部の構成図である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するための図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係るイオンビーム計測方法について説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態で使用される加速エネルギ−抵抗変化量テーブルの模式図である。
【図9】図9(a)〜(c)は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その1)である。
【図10】図10(a)〜(c)は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置の製造途中の断面図(その2)である。
【符号の説明】
【0110】
1…イオン注入装置、2…プラズマ生成部、3…引き出し電源、4…引き出し電極、5…イオン源、6…質量分析マグネット、7…加速電源、8…電極、9…加速部、10…加速エネルギ計測部、11…モータ、12…リードネジ、13…温度計、14…温度測定用部材、15…制御部、16…リードネジ、17…モータ、18…基板支持部、18a…開口、19…モータ、20…イオンビーム、30…抵抗測定用部材、31…ターゲット、32…導電性ピン、40…積層膜、40a〜40d…抵抗測定用膜、50…シリコン基板、51…素子分離絶縁膜、52…熱酸化膜、53…レジストパターン、55…pウェル、57…ゲート絶縁膜、58…ゲート電極、60…n型ソース/ドレインエクステンション、61…絶縁性サイドウォール、62…n型ソース/ドレイン領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度測定用部材にイオンビームを照射した状態で該温度測定用部材の温度を測定するステップと、
前記温度から前記イオンビームの加速エネルギを推定するステップと、
を有することを特徴とするイオンビーム計測方法。
【請求項2】
前記加速エネルギを推定するステップは、加速エネルギと前記温度検出用部材の温度との関係を示すテーブルを参照して行われることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム計測方法。
【請求項3】
ターゲットにイオンビームを照射することにより該ターゲットの構成材料を飛散させ、飛散した該構成材料よりなる膜の積層膜を形成するステップと、
最上層の前記膜を形成する前と後での前記積層膜の電気的特性の変化量を測定するステップと、
前記電気的特性の変化量から、前記イオンビームの加速エネルギを推定するステップと、
を有することを特徴とするイオンビーム計測方法。
【請求項4】
前記加速エネルギを推定するステップは、前記抵抗値の変化量と加速エネルギとの関係を示すテーブルを参照して行われることを特徴とする請求項3に記載のイオンビーム計測方法。
【請求項5】
加速エネルギ測定部をイオンビームに曝し、該イオンビームの加速エネルギを推定するステップと、
前記加速エネルギが設計値からずれている場合、イオン注入装置の加速電圧を調節して前記加速エネルギを前記設計値に近づけるステップと、
前記設計値に近づけた後の前記イオンビームを用いて、半導体基板に不純物をイオン注入するステップと、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記加速エネルギを推定するステップは、前記イオンビームに曝された温度測定用部材の温度に基づいて、前記加速エネルギを推定することにより行われることを特徴とする付記請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記加速エネルギを推定するステップは、前記イオンビームの照射によって飛散したターゲットの構成材料よりなる膜の積層膜の抵抗値が、最上層の前記膜が形成される前と後でどの程度変化するかを測定し、該抵抗値の変化量から前記加速エネルギを推定することにより行われることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
イオンビームを生成するイオン源と、
前記イオンビームを加速する加速部と、
前記加速部を出た前記イオンビームに曝される位置に移動して該イオンビームの加速エネルギを推定する加速エネルギ計測部と、
前記イオンビームに曝される位置で基板を支持する基板支持部と、
を有することを特徴とするイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−48855(P2009−48855A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213502(P2007−213502)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】