説明

イオン交換材及びこれを用いたイオン交換フィルター

【課題】 繊維表面に固着されたイオン交換性フィラーの脱落を防止し、かつイオン交換性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるイオン交換材を提供する。
【解決手段】 本発明のイオン交換材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたイオン交換性フィラーとを含み、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記イオン交換性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。例えば、熱可塑性合成繊維成分としてポリプロピレンを芯成分(2)とし、湿熱ゲル化繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分(1)とした複合繊維(5)の鞘成分(1)にイオン交換性フィラー(3)を有効に固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換性フィラーを繊維表面に固着したフィラー固着繊維を有するイオン交換材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気清浄機、半導体工業,精密機械工業,写真工業,医薬品製造業などに用いられるクリーンルーム、及び燃料電池等において、空気等のガスや燃料等の液体を浄化するために、様々なイオン交換性能を有する材料が使用されている。
【0003】
例えば、空気清浄機やクリーンルームに好適なイオン交換材として、特許文献1では、ポリプロピレン製不織布を放射線グラフト重合処理して、イオン交換能を有する官能基を導入したイオン交換材が提案されている。特許文献2では、ポリビニルアルコールにカチオン交換体微粒子を混合した繊維にアニオン交換基を導入する両性イオン交換繊維が提案されている。特許文献3では、発泡ポリウレタンの表面及び内部に、粒径が0.3〜1.2mmのイオン交換樹脂粒子を、アクリル系,ウレタン系バインダーで固着してなるフィルターが提案されている。
【0004】
燃料電池に好適なイオン交換材として、特許文献4では、ウレタンフォームなどの三次元構造体に、ウレタン系,アクリル系バインダーを介して吸着性粒子を固着させた流体浄化器が提案されている。特許文献5では、ポリオレフィン又はポリフロオロオレフィンからなる基材フィルターを表面親水化処理した後、イオン交換ポリマーを有機溶媒に溶解させたイオン交換ポリマー溶液を塗布してなるイオン交換性フィルターが提案されている。
【特許文献1】特開平6−142439号公報
【特許文献2】特開2001−239123号公報
【特許文献3】特開2001−181965号公報
【特許文献4】特開2003−297410号公報
【特許文献5】特開2001−313057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、イオン交換性能に優れるものの、放射線グラフト重合設備が大掛かりでありコスト高となるだけでなく、放射線によるグラフト重合処理が繊維内部にまで浸透しているため、瞬間的なイオン交換には不向きであった。
【0006】
特許文献2の方法では、イオン交換性フィラーが繊維樹脂の内部に埋没してしまい、瞬間的なイオン交換能を要求される分野においては十分なイオン交換能が発揮されないという問題があった。
【0007】
特許文献3及び特許文献4の方法では、イオン交換樹脂粒子がアクリル系,ウレタン系バインダーで固着されるため、粒子がバインダー内部に埋没してしまう。その結果、フィルター等の瞬間的なイオン交換能を要求される分野においては十分なイオン交換能が発揮されないという問題があった。さらに、特許文献2では、粒径が0.3〜1.2mmのイオン交換性樹脂粒子を使用しているので、粒子の含有量を多くしないと均一にフィルター全体に固着されないため、安定したイオン交換能が得られないという問題があった。
【0008】
特許文献5の方法では、イオン交換ポリマーを有機溶媒に溶解させたイオン交換ポリマー溶液を作製する必要があり、排気設備等が必要となるだけでなく、周囲の環境への負担も大きいという問題があった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維表面にイオン交換性フィラーを効率よく固着し、その脱落を防止するとともに、瞬間的なイオン交換能を要求される分野にも使用し得るイオン交換材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明におけるイオン交換材の第1の発明は、水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂と、イオン交換フィラーを含むイオン交換材であって、前記フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂がゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【0011】
本発明におけるイオン交換材の第2の発明は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたイオン交換性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するイオン交換材であって、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記イオン交換性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン交換材によれば、イオン交換性フィラーが、繊維または樹脂の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、イオン交換性フィラーを表面に露出させた状態で固着することができる。これにより、繊維または樹脂表面に固着されたイオン交換性フィラーの脱落を防止し、対象流体の流速がはやくても、十分なイオン交換能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のイオン交換材は、湿熱ゲル化樹脂と、イオン交換性フィラーを含み、イオン交換性フィラーがゲル化物によって固着されている。イオン交換材の形態としては、イオン交換材の内部を、気体または液体が通過することが可能な材料であれば特に限定されない。例えば、シート状,中空糸状などの多孔膜、糸,繊維束,繊維塊,不織布,織編物,ネット等の繊維により形成された繊維構造物が挙げられる。特に、不織布は、加工性が高いため、様々な用途へ適用することができる。
【0014】
本発明のイオン交換材において、湿熱ゲル化樹脂とは、水分存在下で、加熱することによってゲル化し得る樹脂のことをいう。ゲル化し得る樹脂とは、50℃以上の温度でゲル化膨潤しゲル化物となって繊維構造物の構成繊維を固定可能な樹脂のことを示す。本発明でいうゲル化物とは、湿熱ゲル化樹脂が湿熱によってゲル化したのち固化した樹脂(固化物)のことを示し、本発明のイオン交換材は、ゲル化物によって、イオン交換性フィラーが固着されている。また、繊維構造物においては、フィラー固着繊維同士及び/又は他の繊維とも接着している。
【0015】
前記湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度は、60℃以上である。より好ましいゲル化温度は、80℃以上である。60℃未満でゲル化し得る樹脂を用いると、ゲル加工の際、ロール等への粘着が激しくなって繊維構造物の生産が難しくなるか、夏場や高温環境下での使用ができなくなる場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0016】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、湿熱によってゲル化でき、他の繊維及び/又は他の熱可塑性合成繊維成分を変質させないからである。
【0017】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、ロール等への粘着によりイオン交換材の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、ロール等への粘着によりイオン交換材の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、イオン交換材の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0018】
湿熱ゲル化樹脂の形態は、パウダー状、チップ状、繊維状等が挙げられる。特に、湿熱ゲル化樹脂は、繊維状であることが好ましい。繊維状の湿熱ゲル化樹脂(以下、「湿熱ゲル化繊維」という)としては、湿熱ゲル化樹脂単独の繊維か、又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分と、他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維(以下、「湿熱ゲル化複合繊維」という。)を用いる。これにより、他の繊維又は少なくとも他の熱可塑性合成繊維成分は、繊維の形態を保ち、かつ湿熱ゲル化樹脂がゲル化されてイオン交換性フィラーを固着させるバインダーとしての作用機能を発揮する。そして、イオン交換性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に固着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。好ましくは、イオン交換性フィラーは露出して固着されている。また、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に固着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって、湿熱ゲル化繊維同士及び/又は他の繊維は固着されている。
【0019】
前記繊維及び前記バインダー樹脂の好ましい組み合わせとしては、
(I)湿熱ゲル化樹脂繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つが挙げられる(以下、「形態(I)〜(IV)」という。)。前記形態(I)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂繊維成分とし、「繊維」を他の熱可塑性合成繊維成分とした湿熱ゲル化複合繊維である。前記形態(II)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化複合繊維とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。前記形態(III)は、「繊維」を湿熱ゲル化複合繊維とし、さらに「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂としこれを混合したものである。前記形態(IV)は、「バインダー樹脂」を前記湿熱ゲル化複合繊維以外の形態を採る湿熱ゲル化樹脂(例えば、湿熱ゲル化樹脂単独の繊維、パウダー状、チップ状)とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。
【0020】
前記形態(I)〜(III)に用いられる湿熱ゲル化複合繊維は、湿熱ゲル化樹脂繊維成分が露出しているかまたは部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。その複合形状は、同心円型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。特に同心円型はイオン交換性フィラーが繊維表面に固着しやすいので好ましい。また、その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割型複合繊維はあらかじめ高圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割された湿熱ゲル化樹脂繊維成分は、湿熱処理によりゲル化し、ゲル化物を形成して他の繊維の表面に付着し、イオン交換性フィラーを固着する。すなわち、バインダーとして機能する。
【0021】
前記湿熱ゲル化複合繊維に占める湿熱ゲル化樹脂繊維成分の割合は、10mass%以上90mass%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、30mass%以上である。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が10mass%未満であると、イオン交換性フィラーが固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が90mass%を超えると、複合繊維の繊維形成性が低下する傾向にある。
【0022】
前記湿熱ゲル化複合繊維における他の熱可塑性合成繊維成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等がある。湿熱ゲル化樹脂繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、溶融紡糸による複合繊維(コンジュゲート繊維)を形成しやすい。
【0023】
また、他の熱可塑性合成繊維成分として、湿熱ゲル化樹脂繊維成分をゲル化させる温度よりも高い融点を有する熱可塑性合成繊維成分を用いることが好ましい。他の熱可塑性合成繊維成分がゲル化物を形成させる温度よりも低い融点を有する熱可塑性合成繊維成分であると、他の熱可塑性合成繊維成分自体が溶融して硬くなる傾向にあり、例えば不織布にしたときに収縮を伴って不均一になることがある。
【0024】
前記湿熱ゲル化複合繊維が繊維構造物に占める割合は、イオン交換性フィラーを固着することのできる量であれば特に限定されないが、ゲル化物によって繊維を固着する及び/又はイオン交換性フィラーを有効に固着するのに要する複合繊維の割合は、30mass%以上であることが好ましい。より好ましい複合繊維の割合は、50mass%以上である。さらに好ましい複合繊維の割合は、65mass%以上である。例えば、繊維構造物において、複合繊維を含むウェブが両表面に存在し、内部に他の繊維が存在している場合、複合繊維を含むウェブにおける含有量のことを指す。
【0025】
前記形態(III)では、前記湿熱ゲル化複合繊維に、さらに湿熱ゲル化樹脂を含有させて複合繊維の表面にゲル化物を形成させることも可能である。これにより、イオン交換性フィラーの固着効果をより向上させることができる。
【0026】
前記形態(II)または前記形態(IV)に用いられる他の繊維としては、レーヨン等の化学繊維、コットン、麻、ウール等の天然繊維等、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単独又は複数成分とする合成繊維等、任意なものを選択して使用できる。
【0027】
前記形態(IV)において、湿熱ゲル化樹脂は、繊維構造物に対して1mass%以上90mass%以下の範囲内で含有させるのが好ましい。より好ましい含有量は、3mass%以上である。より好ましい含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂の含有量が1mass%未満であると、ゲル化物によって他の繊維を固着することが困難となるか、あるいはイオン交換性フィラーを固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂の含有量が90mass%を超えると、繊維形状が消失してフィルム状になるか、あるいはイオン交換性フィラーがゲル化物に埋没することがある。
【0028】
本発明でいうイオン交換性フィラーは、粒子状、短繊維状などの形状のものをいい、空気等のガス中や燃料等の液体中でイオン交換能を有するものであれば特に限定されない。例えば、活性炭,ゼオライト,シリカゲル,活性白土,層状リン酸塩等の多孔質粒子にアルカリ性物質や酸性物質を含ませた多孔質粒子、及びスチレン系,アクリル系,メタクリル系などのカチオン交換樹脂、スチレン系,アクリル系などのアニオン交換樹脂等の有機高分子系イオン交換樹脂などが用いられる。なかでも、有機高分子系イオン交換樹脂は、湿熱ゲル化樹脂、特にはエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂との相溶性がよく、ゲル化物に強固に固着することができ、またイオン交換能が高く、好ましい。
【0029】
前記有機高分子系イオン交換樹脂は、イオン交換基がスルホン酸型であると、イオン交換速度が速いので、瞬間的なイオン交換に有利であり、好ましい。
【0030】
前記イオン交換性フィラーが粒子状である場合、その平均粒子径は、0.01〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.1μm以上であり、さらにより好ましくは1μm以上である。より好ましい平均粒子径は、800μm以下であり、さらにより好ましくは、500μm以下である。平均粒子径が0.1μm未満では、イオン交換性フィラーがゲル化物に埋没することがある。一方、平均粒子径が1000μmを超える場合は、イオン交換性フィラーの比表面積が小さくなり、充分なイオン交換性フィラーの機能、例えばイオン交換効果が得られなくなる場合がある。
【0031】
前記イオン交換性フィラーが短繊維状である場合、その繊維長または繊維断面長のうち大きい方の長さ(以下、短繊維長さという)は、0.1〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい短繊維長さは、10μm以上である。より好ましい短繊維長さは、500μm以下である。短繊維長さが0.1μm未満では、イオン交換性フィラーがゲル化物に埋没することがある。一方、短繊維長さが1000μmを超える場合は、イオン交換性フィラーの比表面積が小さくなり、充分なイオン交換性フィラーの機能、例えばイオン交換効果が得られなくなる場合がある。
【0032】
本発明のイオン交換材が繊維構造物である場合、イオン交換性フィラーの機能性を効率良く発揮させるために、前記イオン交換性フィラーの固着量が繊維構造物1m2あたり2g以上であることが好ましく、10g以上であることがより好ましく、20g以上であることが特に好ましい。
【0033】
本発明のイオン交換材が繊維構造物である場合、その片面或いは両面に、他のシートが積層されていてもよい。その片面あるいは両面に、他のシートを積層することにより、例えば固着が不十分なイオン交換性フィラーの脱落を抑制したり、成型性や接着性を向上させたり、或いは用途によりイオン交換性フィラーの色を隠蔽する効果があるので好ましい。また、他のシートの機能と組み合わせることができる。他のシートとしては、例えば、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法などから得られる不織布、多孔膜などが挙げられる。
【0034】
次に、本発明のイオン交換材の製造方法について説明する。本発明における湿熱処理は、湿熱雰囲気で施される。ここでいう「湿熱雰囲気」とは、水分を含み、加熱された雰囲気のことをいう。前記湿熱処理とは、湿熱ゲル化樹脂を含む多孔膜、またはバインダー樹脂を付与した繊維,湿熱ゲル化繊維成分を含む繊維,又はこれらの繊維を含む繊維構造物(以下、「被処理物」ともいう)に、例えばイオン交換性フィラーを含むイオン交換性フィラー分散溶液を付与した後に加熱する処理、前記イオン交換性フィラー分散溶液を付与しながら加熱する処理のことを示す。加熱の方法は、加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱空気中を貫通させる方法、及び加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。また、別の方法としては、前記被処理物上に、イオン交換性フィラーを付着させて、多孔膜または繊維構造物に水分を付与した後に加熱する処理、予め水分を付与した被処理物上に、イオン交換性フィラーを付着させた後加熱する処理もある。前記付着の方法については、特に限定されず、例えば散布する方法として、篩による方法、電気的に行う方法などがある。
【0035】
湿熱処理する前の繊維構造物(以下、「被処理繊維構造物」ともいう)の製法は、特に限定されるものではなく、不織布の場合、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法などから得られる少なくとも1種類の方法により得られたものが好ましい。
【0036】
前記被処理物には、親水処理を施してもよい。親水処理を施すと、被処理物が疎水性樹脂を含む場合、被処理物に略均一に水分を付与することができる。その結果、湿熱ゲル化樹脂の周囲に略均一に水分が存在して、略均一に湿熱ゲル化されて、イオン交換性フィラーが固着しやすくなる。親水処理としては、界面活性剤処理、コロナ放電法やグロー放電法、プラズマ処理法、電子線照射法、紫外線照射法、γ線照射法、フォトン法、フレーム法、フッ素処理法、グラフト処理法、及びスルホン化処理法等が挙げられる。
【0037】
前記被処理繊維構造物の好ましい目付の範囲は、20〜600g/m2であり、より好ましい目付の範囲は、30〜400g/m2である。目付が20g/m2未満であると、フィラーの固着量が少なくなり、イオン交換能が低くなる傾向にある。目付が600g/m2を超えると、繊維構造物の厚み方向におけるフィラーの分散状態が不均一になりやすく、湿熱ゲル化樹脂の湿熱ゲル化も同様に不均一になりやすい傾向にある。
【0038】
本発明のイオン交換材において、その片面或いは両面に、他のシートを積層する場合、例えば、1)イオン交換性フィラーを付与する前の繊維構造物に他のシートを積層する方法、2)イオン交換性フィラーを繊維構造物に付与した後、湿熱処理をする前に他のシートを積層する方法、3)湿熱処理によりイオン交換性フィラーを繊維構造物に固着した後、他のシートを積層する方法のいずれであってもよい。上記1),2)の方法であれば、他のシートをゲル化物によって接着することもできる。上記3)の方法であれば、熱処理等により一体化することができる。他のシートの目付は、前述した効果等を有していれば特に限定されるものではないが、好ましい目付の範囲は、15〜80g/m2であり、より好ましい目付の範囲は30〜50g/m2である。
【0039】
前記湿熱処理として前記イオン交換性フィラー分散溶液(以下、「フィラー分散溶液」という)を付与した後に加熱する場合、湿熱処理時に被処理物に付与する水分の割合(以下、「水分率」という)は、10〜1500mass%であることが好ましい。より好ましい水分率は、30mass%以上であり、さらにより好ましくは40mass%以上である。より好ましい水分率は、1000mass%以下であり、さらにより好ましくは、900mass%以下である。水分率が10mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、水分率が1500mass%を超えると、湿熱処理が被処理物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー、水槽への浸漬等公知の方法で行うことができる。特に、フィラー分散溶液を被処理繊維構造物に含浸させる方法は、繊維構造物内にフィラーを多く取り込みやすく、好ましい。水分が付与された被処理物は、絞りロール等で圧搾する等の方法で所定の水分率に調整することができる。
【0040】
前記湿熱処理における湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分(以下、両者を併せて「バインダー樹脂」ともいう。)のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱処理温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−40℃以下である。湿熱処理温度がバインダー樹脂のゲル化温度未満であると、イオン交換性フィラーを有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度がバインダー樹脂の融点−20℃を超えると、バインダー樹脂の融点に近くなるため、イオン交換材としたときに収縮を引き起こすことがある。
【0041】
前記湿熱処理を施した多孔膜または繊維構造物(以下、「処理物」ともいう)は、そのまま乾燥処理を行ってもよいし、一旦水洗を行った後、乾燥処理を行っても良いし、一旦乾燥させた後水洗を行いその後で乾燥処理を行っても良い。一旦乾燥させた後、水洗を行いその後で乾燥処理を行う方が、イオン交換性フィラーの固着量が多くなるので都合がよい。
【0042】
前記乾燥処理温度は、処理物が乾燥する温度であれば特に限定されない。また、この乾燥処理時においては、場合により得られた処理物を、幅方向(機台に垂直な方向)に拡幅しながら乾燥処理を行っても良い。幅方向に拡幅することのより、目付の調整や、長さ方向と幅方向の寸法安定性を向上させることができるからである。このようにして、湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されたイオン交換材を得ることができる。
【0043】
前記湿熱処理の方法として具体的には、以下の方法があり、それぞれの製造方法について説明する。
(1)被処理物に、フィラー分散溶液を付与した後、スチーム処理する方法(以下、「スチーム処理法」という)
(2)被処理物に、フィラー分散溶液を付与した後、加熱体に接触させる方法(以下、「加熱体接触法」という)
(3)被処理物を、加熱したフィラー分散溶液に接触させる方法(以下、「加熱液接触法」という)
【0044】
前記スチーム処理法は、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる繊維構造物を、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、スチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂をゲル化したゲル化物を形成してイオン交換性フィラーを固着することができる。スチーム処理の方法としては、例えば、所定の水分率に調整した繊維構造物の上及び/又は下からスチームを吹き付ける方法、スチームを充満させたチャンバー内で繊維構造物を接触させる方法、オートクレーブ等でスチームに晒す方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル加工時に被処理物に対して必要以上に面圧が加わらない。その結果、繊維構造物の場合、繊維形態を維持しながら、イオン交換性フィラーを繊維表面に露出させた状態で固着することができ、繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与えることができる。さらに、繊維構造物は、スチーム処理温度、処理時間等の加工条件を調整することにより、複数本の繊維が膜状に拡がったゲル化物(以下、「膜状ゲル化物」という)で被覆された膜状繊維集束部及び/又は膜状繊維交絡部が形成されることがあり、イオン交換性フィラーを固着する有効面積が増大し、イオン交換能をより向上させることができる。特にスチームを充満させたチャンバー内で繊維構造物を接触させる方法(以下、「パッドスチーマー法」という)は、蒸気吹き出し口より吐出された蒸気が直接繊維構造物に接触することなく、蒸気雰囲気中でスチーム処理できるので、均一に湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化することができる。また、連続運転をする上においても都合がよい。さらに、パッドスチーマー法であれば、加工条件を調整することにより、均一な膜状ゲル化物を形成させることもできるので、特に好ましい。
【0045】
前記スチーム処理法におけるピックアップ率は、10〜1500mass%であることが好ましい。より好ましいピックアップ率は、50〜1000mass%であり、さらにより好ましくは100〜900mass%である。ピックアップ率が10mass%未満であると、フィラーの固着量が少なくなる傾向にあり、ピックアップ率が1200mass%を超えると、水分率も高くなりすぎて、湿熱ゲル化が被処理物の表面と内部で不均一になる傾向にある。なお、ピックアップ率とは、不織布原反の質量に対する水分量とイオン交換性フィラーの量との和に100を乗じた値である。
【0046】
前記スチーム処理法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度は、使用する繊維構造物の目付や固着量により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は、0.1〜75mass%であり、より好ましくは、1〜50mass%である。フィラー濃度が0.1mass%未満であると、フィラーの固着量が少なくなる傾向にあり、フィラー濃度が75mass%を超えると、フィラー同士が凝集して分散性が悪くなり、フィラーの固着が不均一になることがある。
【0047】
前記スチーム処理法におけるフィラー分散溶液の温度は、湿熱ゲル化樹脂がゲル化しない温度であっても、ゲル化を開始する温度であってもよい。イオン交換性フィラーの種類、熱安定性、大きさ、濃度等により、適宜設定すればよい。なお、湿熱ゲル化樹脂がゲル化を開始する温度以上であれば、後述する加熱液接触法と組み合わせることとなり、フィラーをより強固に固着する場合に都合がよい。
【0048】
前記スチーム処理法におけるスチーム処理温度は、被処理物付近の温度が、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、80〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜110℃である。湿熱ゲル化樹脂が前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である場合、最も好ましい範囲は、95〜105℃である。
【0049】
スチーム処理法により処理された処理物は、前述した方法により、必要に応じて乾燥処理及び/又は水洗処理される。また、前記乾燥処理の後、必要に応じて処理物を、一対のプレスロール等でプレス加工を行っても良い。乾燥処理の後に直ちにプレス加工を行うことにより、処理物の柔軟性を維持したままで、イオン交換性フィラーを強固に固着することができる。
【0050】
次に、前記加熱体接触法は、前記被処理物を、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、加熱体に接触させることによって、湿熱ゲル化樹脂をゲル化したゲル化物を形成してイオン交換性フィラーを固着することができる。加熱体に接触させる方法としては、例えば、熱ロールに接触させる方法、熱プレス板に接触させる方法などが挙げられる。かかる方法によれば、瞬時に湿熱ゲル化樹脂成分を湿熱ゲル化することができると同時にゲル化物を押し拡げることができるので、広面積にわたりイオン交換性フィラーを固着することができる。また、かかる方法によれば、湿熱ゲル化したときに、イオン交換性フィラーがゲル化物に押し込まれて、繊維または樹脂表面にイオン交換性フィラーを更に強固に固着させることができる。
【0051】
前記加熱体接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度、フィラー分散溶液を付与する際の水分率、及びピックアップ率は上述したスチーム処理法と同じであり、説明を省略する。
【0052】
前記加熱体接触法が熱プレス板のような面状のものである場合、面圧が0.01〜3MPaであることが好ましい。より好ましい面圧は、0.05〜2.5MPaである。面圧が0.01MPa未満であると、フィラーの固着が不十分となり、フィラーが脱落することがある。面圧が3MPaを超えると、フィラーがゲル化物に埋もれてしまい、有効表面積が低くなる傾向にある。
【0053】
前記加熱体接触法が熱ロールによる圧縮成形処理である場合、熱ロールの線圧は、10〜400N/cmであることが好ましい。より好ましい熱ロールの線圧は、50N/cmである。より好ましい熱ロールの線圧の上限は、200N/cmである。線圧が10N/cm未満であると、フィラーの固着が不十分となり、フィラーが脱落することがある。線圧が400N/cmを超えると、フィラーがゲル化物に埋もれてしまい、有効表面積が低くなる傾向にある。
【0054】
前記加熱体の設定温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。好ましい設定温度の範囲は、60〜140℃であり、より好ましい温度範囲は80〜130℃である。なお、加熱体の場合にゲル加工の温度を設定温度としたのは、以下の理由からである。水分を含んだ被処理物をゲル加工するために設定温度を100℃以上にすると、まず被処理物内の水分が蒸発する。そのとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は設定温度よりも低くなる傾向にある。そのため、厳密にゲル加工温度を特定するのが困難な場合があるからである。したがって、他の繊維又は樹脂の融点が熱処理機の設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しないか、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は他の繊維又は樹脂が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
【0055】
次に、前記加熱液接触法は、被処理物を、加熱したフィラー分散溶液に接触させることにより、湿熱ゲル化樹脂をゲル化したゲル化物を形成してイオン交換性フィラーを固着することができる。被処理物を加熱液に接触させる方法としては、例えば、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法、加熱したフィラー分散溶液を被処理物に噴霧する方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル加工時に被処理物に対して必要以上に面圧が加わらず、ゲル化した湿熱ゲル化繊維又は樹脂の流動性が少ない。そのため、被処理物が繊維構造物の場合は繊維形態を維持しつつ、繊維同士の交点においてゲル化物が膜状に拡げられることなく接着しており、かつイオン交換性フィラーを繊維表面に露出させた状態で固着することができ、繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与えることができる。被処理物が多孔膜の場合も同様に、ゲル化物の流動性が小さく、ゲル化物が必要以上に膜状に拡がらないので、多孔膜の孔を閉塞することがない。また、水分の付与と同時に湿熱ゲル化繊維のゲル化が進行するので、前記フィラー分散溶液中のイオン交換性フィラーの濃度と、前記フィラー分散溶液の温度を調整して、イオン交換性フィラーの固着量を調整すればよい。具体的には、イオン交換性フィラーを含む熱水中(85℃以上)に被処理物を含浸することにより、イオン交換性フィラーを繊維又は樹脂表面に固着することができる。特に、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法は、湿熱ゲル化繊維又は樹脂を均一にゲル化することができ、好ましい。
【0056】
前記加熱液接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度は、上述したスチーム処理法、加熱体接触法と同じであり、説明を省略する。
【0057】
前記加熱液接触法のゲル加工温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましいゲル加工温度の範囲は、85〜120℃であり、さらにより好ましくは85〜100℃である。ゲル加工温度が湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度よりも低いと、フィラーが十分に固着されず、ゲル加工温度が湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、ゲル加工時に収縮を伴うことがある。
【0058】
本発明のイオン交換フィルターは、前記イオン交換材がフィルター材の少なくとも一部分に使用されて成る。イオン交換フィルターの具体的な使用形態としては、例えば、フェルト状、プリーツ状、ハニカム状などが挙げられる。
【0059】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態においては、イオン交換材として不織布を用いた場合について説明する。
【0060】
図1A〜Cは、本発明の一実施形態におけるイオン交換性フィラー固着繊維の断面図である。図1Aは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維5であって、鞘成分1はバインダー樹脂として機能し、鞘成分1の中にイオン交換性フィラー3を固着させた例である。図1Bは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維6であって、鞘成分6の外側にエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂をバインダー4として付着させ、このバインダー4中にイオン交換性フィラー3を混合させた例である。図1Cは、ポリプロピレン8とエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7を多分割に配置した複合繊維9とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7はバインダー樹脂として機能し、その周辺部内にイオン交換性フィラー3を固着させた例である。
【0061】
図2は、本発明の製造方法の一例工程図である。被処理物31を、槽32内のイオン交換性フィラーを含むフィラー分散溶液33に含浸し、絞りロール34で絞り、スチーマー35とサクション36の間で湿熱処理し、そのまま巻き取るか、又は不織布の場合は一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38により圧縮成形し、不織布表面に所定のパターン模様を付与し、その後、巻き取り機39に巻き取る。スチーマー35とサクション36に代えて、上下の熱板を用いて例えば温度150℃、5分間の加圧処理を行ってもよい。他の実施形態としては、スチーマー35なしに一対の加熱ロールのみで圧縮成形する方法、スチーマー35なしに一対の加熱ロール37,37にかけたパターニングキャンバスロール38,38のみで圧縮成形する方法もある。
【0062】
図3は、本発明の一実施形態におけるイオン交換性フィラーが繊維表面に固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真(倍率2000)である。
【0063】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、前記実施形態では、イオン交換材として不織布を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0064】
[実施例1〜8]
本発明のイオン交換材として、以下のものを準備した。
(不織布原反の作製)
鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH、エチレン含有量38モル%、融点176℃)であり、芯成分がポリプロピレン(PP、融点161℃)であり、EVOH:PPが50:50の割合(容積比)である芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm)を準備した。
【0065】
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、表1の目付を有するカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、実施例1〜8に使用される水流交絡不織布原反を作製した。なお、水流交絡不織布原反の比表面積は、0.2m2/gであった。
【0066】
なお実施例8は、フッ素ガス反応器内に不織布原反を入れ、フッ素ガス1vol%、酸素ガス49vol%、窒素ガス50vol%の混合ガスを導入し、反応器内圧力を常圧にし、この状態で約1分間反応させて、親水処理を施した。
【0067】
(イオン交換性フィラーの準備)
イオン交換性フィラーとしては、スチレン系陽イオン交換樹脂:「アンバーライト200CT Na」(オルガノ製、ジェットミル粉砕品、粉砕後の平均粒子径10μm、粉砕後比表面積40.5m2/g)を使用した。
【0068】
(フィラー固着繊維を含有する不織布の作製)
前記不織布原反を、前記陽イオン交換樹脂を表1に示す濃度で含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力で表1に示すピックアップ率を調整した。なお、ピックアップ率とは、不織布原反の質量に対する水分量と陽イオン交換樹脂との和に100を乗じた値である。次いで、水分散液を含浸させた前記不織布原反を、線径:0.3mm、メッシュ数:縦30本/inch×横25本/inchの2枚の平織りのプラスチックネット(縦40cm×横40cm)で挟持して、120℃に加熱した熱板プレス機の間に載置し、表1に示す面圧で、3分間加熱体接触法による湿熱処理をした。得られた不織布を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、本発明のイオン交換材を得た。
【0069】
表1に、実施例1〜8の不織布(イオン交換材)について、不織布原反の目付、フィラー固着不織布(イオン交換材)の目付、陽イオン交換樹脂の固着量、比表面積、及びイオン交換能を示した。
【0070】
【表1】

【0071】
なお、比表面積及びイオン交換能は、以下の方法で測定した。
[比表面積]
比表面積計(トライスター3000形、(株)島津製作所製)を用いて測定した。不織布を3cm×8cm角に切断した後、測定セルに採る。温度60℃で2時間脱ガス処理した後、窒素ガスを用いた多点BET法で測定した。
【0072】
[イオン交換能]
(1)不織布をたて5cm、よこ5cmの大きさに切り取り、100mlの1M塩酸中に60℃、1時間、放置した。
(2)次に、前記不織布を取り出し、イオン交換水で洗浄液が中性になるまで十分洗浄して、熱風乾燥機を用いて80℃で1時間、乾燥した。
(3)乾燥後の不織布の質量M(g)を測定した。
(4)乾燥後の不織布を0.1N−NaOH溶液25mlに入れ、60℃で2時間放置した。ブランクとして、不織布を入れない上記と同じ溶液を準備し、同条件で放置した。
(5)放置後、NaOH溶液から不織布を取り出し、0.1N塩酸で滴定をした。ブランクも同様に滴定し、滴定量の差から不織布が捕捉したNaイオン量(meq/g)を算出した。
【0073】
[結果]
表1に示すとおり、実施例1〜8のいずれの不織布も陽イオン交換樹脂が繊維表面に露出した状態で有効に固着していた。これは、不織布原反の比表面積が0.2m2/gであったものが、フィラー固着後の不織布の比表面積が約20倍以上に増加していることからも解る。さらに、実施例8の不織布は、不織布原反を予め親水処理することにより、親水処理しない不織布(実施例7)に比べ、フィラーの固着量が多くなり、イオン交換能を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のイオン交換材は、ケミカルフィルター、吸着フィルター、ガス,液体浄化フィルター、燃料電池用浄化フィルター等のイオン交換フィルター、燃料電池の固体電解質膜などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態における不織布(イオン交換材)を構成するフィラー固着繊維の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における不織布(イオン交換材)の製造方法の一例工程図である。
【図3】本発明の一実施形態における不織布(イオン交換材)の走査電子顕微鏡平面写真(倍率2000)である。
【符号の説明】
【0076】
1 鞘成分
2 芯成分
3 イオン交換性フィラー
4 バインダー樹脂
5,6,9 複合繊維
7 エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂
8 ポリプロピレン
31 被処理物31
32 槽
33 フィラー分散溶液
34 絞りロール
35 スチーマー
36 サクション
37 加熱ロール
38 キャンバスロール
39 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂と、イオン交換フィラーを含むイオン交換材であって、前記フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂がゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とするイオン交換材。
【請求項2】
繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたイオン交換性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するイオン交換材であって、
前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、
前記イオン交換性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とするイオン交換材。
【請求項3】
前記イオン交換性フィラーは、有機高分子系イオン交換樹脂を含む、請求項1または2に記載のイオン交換材。
【請求項4】
前記イオン交換性フィラーは粒子であり、その平均粒子径は0.01〜1000μmの範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン交換材。
【請求項5】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である、請求項1または2に記載のイオン交換材。
【請求項6】
前記繊維及び前記バインダー樹脂は、
(I)湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つの組み合わせを有する、請求項2に記載のイオン交換材。
【請求項7】
前記繊維及び前記バインダー樹脂は、バインダー樹脂を鞘成分とし、他の熱可塑性合成繊維成分を芯成分とした、鞘芯型の湿熱ゲル化複合繊維である、請求項6に記載のイオン交換材。
【請求項8】
前記イオン交換材は繊維構造物であり、前記湿熱ゲル化複合繊維は繊維構造物中に30mass%以上含んで成る、請求項7に記載のイオン交換材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のイオン交換材が、フィルター材の少なくとも一部分に使用されて成る、イオン交換フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−212582(P2006−212582A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29762(P2005−29762)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】