説明

イオン交換樹脂の分解方法及び分解装置

【課題】触媒の利用効率を高めてイオン交換樹脂を良好に酸化分解すること。
【解決手段】本発明では、酸化反応を通じてイオン交換樹脂を分解するイオン交換樹脂の分解方法において、励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を用い、この触媒をイオン交換樹脂に付着させる触媒付着工程と、この触媒付着工程に続き、触媒が付着したイオン交換樹脂を溶媒に浸漬させる溶媒浸漬工程と、この溶媒浸漬工程に続き、イオン交換樹脂に付着した触媒に励起エネルギーを付与する触媒励起工程とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂の分解技術に係り、特に、酸化反応を通じてイオン交換樹脂を溶解するイオン交換樹脂の分解方法及び分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属製の構造物は、各種の腐食プロセスを通じて金属イオンを放出しやすい。放出された金属イオンは、構造物の構成元素と反応して構造物を腐食させる原因となる。
【0003】
例えば、火力や原子力を用いる発電プラントは、蒸気タービンの駆動力となる高温高圧の水蒸気を作り出し、又、化学プラントは、化学種の製造プロセスにおいて高温高圧の雰囲気を作り出す。高温高圧の環境は、構造物の腐食による金属イオンの放出に有利な環境となる。そのため、これらのプラントでは、高温高圧水と接触する配管などから溶出してくる金属イオンを除去して水質を維持する浄化システムがプラント健全性を維持するうえで重要な役割を果たしている。そして、このような浄化システムの多くは、主にイオン交換樹脂が浄化機能を担う。
【0004】
ここで、原子力発電プラントに設けられるいわゆる復水の浄化システムにあっては、この浄化システムのイオン交換樹脂に炉水中の放射性核種が多量に捕捉されている。従って、イオン交換樹脂は、その使用後に放射性廃棄物となり、我が国の放射性廃棄物の処分計画に従ってセメント固化にて地下に埋設処分される。今、放射性廃棄物の埋設地及びコスト削減が望まれており、イオン交換樹脂についても放射性廃棄物としての減容を図るべく様々なイオン交換樹脂の分解技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1〜3に記載されるイオン交換樹脂の分解技術は、いずれもイオン交換樹脂をCO、SOx或いはNOxまで分解可能で減容効果に優れる。しかしながら、高温高圧の苛酷条件を用いるものであり、この条件を作り出すための装置コストや取り扱い危険性などにおいて運用面の負担が大きいものとなっている。
【0006】
これに対し、濃硫酸などを用いてイオン交換樹脂を溶解し、高温高圧条件を用いないイオン交換樹脂の分解技術が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この技術では、溶解処理に用いられた処理廃液に濃硫酸が含まれることになる。そのため、処理廃液をセメント固化して地下埋設すると、濃硫酸が地下水と共に地表へ移行して土壌や用水を汚染するおそれがある。
【0007】
かかる背景の下、従来、触媒を用いて酸化反応を促進することにより、高温高圧条件および濃硫酸を用いることなく、イオン交換樹脂を酸化分解する技術が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平3−500264号公報
【特許文献2】特開2001−305287号公報
【特許文献3】特開平11−49889号公報
【特許文献4】特開2003−207595号公報
【特許文献5】特開2003−172797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
酸化反応を利用してイオン交換樹脂を分解させる場合、酸化反応を促進させる触媒の利用効率を高めることにより、高温高圧条件や濃硫酸を用いなくてもイオン交換樹脂を良好に分解でき、もって装置コストや環境負荷を軽減できるようになる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、触媒の利用効率を高めて、イオン交換樹脂を良好に酸化分解できるイオン交換樹脂の分解方法及び分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法では、酸化反応を利用するイオン交換樹脂の分解方法において、励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を用い、この触媒をイオン交換樹脂に付着させる触媒付着工程と、前記触媒付着工程に続き、触媒が付着したイオン交換樹脂を溶媒に浸漬させる溶媒浸漬工程と、前記溶媒浸漬工程に続き、イオン交換樹脂に付着した触媒に励起エネルギーを付与する触媒励起工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るイオン交換樹脂の分解装置では、酸化反応を通じてイオン交換樹脂を分解するイオン交換樹脂の分解装置において、イオン交換樹脂を収容し且つ内側の一部又は全部が紫外線反射体により構成される反応容器と、紫外線の照射を受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を任意のタイミングで反応容器に注入可能に構成される触媒注入管と、イオン交換樹脂が浸漬されるまで且つ任意のタイミングで溶媒を反応容器に注入可能に構成される溶媒注入管と、紫外線を任意のタイミングで発生可能に構成される紫外線発生装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、触媒の利用効率を高めて、イオン交換樹脂を良好に酸化分解できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るイオン交換樹脂の分解装置の実施形態を示す図。
【図2】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(I)を示す図。
【図3】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(II)を示す図。
【図4】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(III)を示す図。
【図5】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(IV)を示す図。
【図6】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(V)を示す図。
【図7】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(VI)を示す図。
【図8】本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法に関わる実験(VII)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法及び分解装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明に係るイオン交換樹脂の分解装置の実施形態を示す図である。
【0017】
本実施形態のイオン交換樹脂の分解装置1は、酸化反応を通じてイオン交換樹脂を分解する装置である。反応容器2は、内側の一部又は全部が紫外線反射体(例えば、アルミニウム板)により構成され、かつ、内部の気密性が維持されるように構成される。この反応容器2には、ガスパージ管3が挿通れており、ガスパージ管3にはガスパージ弁4が設けられている。
【0018】
ガスパージ管3は、ガスパージ弁4が開放された際、反応容器2内部のガスを外部へと引き出すと共に引き出すガスの成分が選択可能に構成される。例えば、反応容器2には複数のガスパージ管3が挿通され、それぞれのガスパージ管3は特定のガス成分のみが選択的に透過できる透過膜を有して構成される。この場合、何れかのガスパージ管3に設けられるガスパージ弁4の開閉度を調節することにより、反応容器2から引き出される各種ガスの量が調節され、もって反応容器2内部に酸化性、還元性又は中性の各雰囲気が作り出される。
【0019】
また、反応容器2には、触媒注入管5及び溶媒注入管6が挿通される。触媒注入管5は、触媒が蓄えられるタンク(図示省略)から操作者が意図する任意のタイミングで触媒を引き出して反応容器2に案内する。この触媒注入管5の触媒出口は、触媒を分散放出可能なスプレイ型のノズルとなっており、触媒を反応容器2内部でシャワー状ないし霧状に散布可能に構成される。一方、溶媒注入管6は、溶媒が蓄えられるタンク(図示省略)から操作者が意図する任意のタイミングで溶媒を引き出して反応容器2に案内する。この溶媒注入管6の溶媒出口も触媒注入管5と同様に、溶媒を反応容器2内部でシャワー状ないし霧状に散布可能に構成される。
【0020】
さらに、反応容器2には排水管7が挿通されており、この排水管7に排水弁8が設けられる。排水管7は、排水弁8が開放された際、反応容器2内部から例えば溶媒由来の水分を排出する。
【0021】
反応容器2の内側(例えば、反応容器2の内壁)には、紫外線発生装置9が設けられ、反応容器2に注入された触媒に対してユーザが意図する任意のタイミングで紫外線を照射可能に構成される。また、反応容器2の内部には紫外線発生装置(図示省略)を内蔵する攪拌器10が設けられ、反応容器2に注入された溶媒を攪拌すると共に触媒に対して任意のタイミングで紫外線を照射する。そして、反応容器2の外側にはヒータ11が設けられ、反応容器2の内部を加熱可能に構成される。
【0022】
次に、イオン交換樹脂の分解方法を説明する。
【0023】
工程1:イオン交換樹脂を例えば機械的に細かく切断し、分解装置1の反応容器2に投入する。また、各ガスパージ管3のガスパージ弁4の開閉度を調節して、反応容器2内部の雰囲気を調節する。
【0024】
工程2(触媒付着工程):工程1に続き、触媒注入管5を用いて反応容器2に触媒を注入する。触媒は、励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成するものを用いる。この触媒は、触媒注入管5を用いてシャワー状ないし霧状にて散布しやすいよう、例えば水と混ぜてコロイド状(触媒ゾル)とすることが好ましい。このとき、触媒はシャワー状ないし霧状にて散布されることから、触媒はイオン交換樹脂の空隙に隈なく付着・浸透する。
【0025】
工程3(触媒濃縮工程):工程2に続き、触媒ゾルの水分を蒸発させてイオン交換樹脂に付着した触媒が濃縮するように、ヒータ11を用いて反応容器2内部を暖めてイオン交換樹脂を乾燥させる。生成する水蒸気は、ガスパージ管3や排水管7を利用して外部へと排出する。
【0026】
工程4(溶媒浸漬工程):工程3に続き、溶媒注入管6を用いて反応容器2に溶媒を注入する。溶媒は水、又は、アルコールやアセトンなどの有機溶媒を用いる。溶媒は、この溶媒にイオン交換樹脂が浸漬されるまで注入する。
【0027】
工程5(触媒励起工程):工程3と同時に又は工程3に続き、攪拌器10を用いて反応容器2内部の溶媒及び触媒が付着したイオン交換樹脂を攪拌する。また、紫外線発生装置9及び攪拌器10に内蔵される紫外線発生装置を用いて反応容器2内部の触媒に紫外線を照射して、酸化作用を増幅させてイオン交換樹脂を分解する。
【0028】
次に、本実施形態の効果を、実験(I)〜(VII)の結果を用いて説明する。なお、各実験は、イオン交換樹脂の分解装置1を用いて行った実証試験である。
【0029】
[実験(I)]
実験(I)は、触媒の効果を確認するために行ったものである。
〔成分条件〕
イオン交換樹脂は、陽イオン交換型のものとした。触媒は、酸化チタン(TiO)のみから構成した触媒(TiO単独触媒)と、酸化チタンの微粒子を基材とし、この酸化チタンに対して0.01wt%の白金(Pt)を添加して構成した触媒(TiO+Pt触媒)との2種類とした。
【0030】
〔処理条件〕
触媒は、触媒ゾルとしてイオン交換樹脂に付着させる。イオン交換樹脂に付着させる触媒の重量は、イオン交換樹脂の重量と同等した。次いで、触媒が付着したイオン交換樹脂を50℃で暖めて乾燥させながら濃縮させる。そして、乾燥したイオン交換樹脂を溶媒に浸漬させ、攪拌しながら人工的の紫外線を照射する処理を2時間行った。
【0031】
図2は実験(I)の結果を示す図である。
図2に示すように、TiO単独触媒を用いた場合と比較し、TiO+Pt触媒を用いた場合は、溶液のpHが小さくなった。このpHの違いは、イオン交換樹脂(官能基)の分解量を反映したものである。つまり、酸化チタンは、紫外線を吸収すると強力な酸化力を発揮することが知られているが、酸化チタンに微量の白金を添加することにより、陽イオン交換型のイオン交換樹脂に対する酸化作用が増幅することが示された。よって、陽イオン交換型のイオン交換樹脂を良好に分解できることが確認できた。
【0032】
[実験(II)]
実験(II)は、触媒の効果を確認するために行ったものである。
〔成分条件〕
イオン交換樹脂は、陰イオン交換型のものとした。触媒は、酸化チタンのみから構成した触媒(TiO単独触媒)と、酸化チタンの微粒子を基材とし、この酸化チタンに対して0.01wt%のコバルト(Co)を添加して構成した触媒(TiO+Co触媒)との2種類とした。なお、処理条件は、実験(I)の処理条件と同様である。
【0033】
図3は実験(II)の結果を示す図である。
【0034】
図3に示すように、TiO単独触媒を用いた場合と比較し、TiO+Co触媒を用いた場合は、溶液のpHが大きくなった。このpHの違いは、イオン交換樹脂(官能基)の分解量を反映したものである。つまり、酸化チタンは、紫外線を吸収して強力な酸化力を発揮することが知られているが、この酸化チタンに微量のコバルトを添加することにより、陰イオン交換型のイオン交換樹脂に対する酸化作用が増幅することが示された。よって、陰イオン交換型のイオン交換樹脂を良好に分解できることが確認できた。
【0035】
[実験(III)]
実験(III)は、触媒の効果を確認するために行ったものである。
〔成分条件〕
イオン交換樹脂は、陽イオン交換型及び陰イオン交換型の2種類とした。触媒は、二酸化スズ(SnO)の微粒子を基材とし、この二酸化スズに対して0.01wt%の白金(Pt)を添加して構成した触媒(SnO+Pt触媒)とした。他の成分条件ならびに処理条件は、実験(I)の成分条件ならびに処理条件と同様である。
【0036】
図4は実験(III)の結果を示す図である。
図4及び図2に示すように、陽イオン交換樹脂については、実験(I)の二酸化チタンに微量の白金を添加した触媒(TiO+Pt触媒)を用いた場合と同等のpHとなった。また、図4及び図3に示すように、陰イオン交換樹脂についても、実験(II)の二酸化チタンに微量のコバルトを添加した触媒(TiO+Co触媒)を用いた場合と同等のpHとなった。すなわち、二酸化スズに微量の白金を添加した触媒は、陽イオン交換型及び陰イオン交換型の両イオン交換樹脂を良好に分解できることが示された。
【0037】
[実験(IV)]
実験(IV)は、触媒の成分がイオン交換樹脂の分解効果に与える影響を確認するために行ったものである。
〔成分条件〕
触媒は、酸化チタンの微粒子を基材とし、この二酸化チタンに対して0.001wt%〜10wt%の白金を添加して構成した触媒(TiO+Pt触媒)とした。他の成分条件ならびに処理条件は、実験(I)の成分条件ならびに成分条件と同様である。
【0038】
図5は実験(IV)の結果を示す図である。
図5において、横軸は二酸化チタンに対する白金の重量割合(添加量)であり、縦軸はイオン交換樹脂の「分解比」である。分解比は、“(二酸化チタンに白金を添加して構成した触媒(TiO+Pt触媒)によるイオン交換樹脂の分解量)÷(二酸化チタンのみから構成した触媒(TiO単独触媒)によるイオン交換樹脂の分解量)”である。
【0039】
図5に示すように、触媒における白金の添加量が増大するほどイオン交換樹脂の分解比(分解効果)は高まるが、白金の添加量が0.1wt%を超えるとその分解効果は飽和する。つまり、白金の添加量を0.1wt%以下に設定することにより、イオン交換樹脂の分解効果と白金の節約効果との両立が図られることが示された。また、白金の添加量が0.001wt%以下であると白金を添加しない場合と同等の分解効果しか得られないことから、0.01wt%以上とするのが好ましいことが示された。
【0040】
[実験(V)]
実験(V)は、触媒の量がイオン交換樹脂の分解効果に与える影響を確認するために行ったものである。
〔成分条件〕
イオン交換樹脂に付着させる触媒の量は、イオン交換樹脂に対して0.01wt%〜100wt%とした。他の成分条件ならびに処理条件は、実験(I)の成分条件ならびに処理条件と同様である。
【0041】
図6は実験(V)の結果を示す図である。
図6において、横軸はイオン交換樹脂に対する触媒の重量割合(触媒量)であり、縦軸はイオン交換樹脂の「分解比」である。分解比は、“(二酸化チタンに白金を添加して構成した触媒(TiO+Pt触媒)を用いた場合のイオン交換樹脂の分解量)÷(如何なる触媒も用いない場合のイオン交換樹脂の分解量)”である。
【0042】
図6に示すように、触媒量が増大するほどイオン交換樹脂の分解効果が高まるが、触媒量が1wt%を超えるとその分解効果は飽和する。つまり、触媒量を1wt%以下に設定することにより、イオン交換樹脂の分解効果と触媒(二酸化チタン及び白金)の節約効果との両立が図られることが示された。また、触媒量が0.01wt%以下であると触媒を用いない場合と同等の分解効果しか得られないことから、触媒量は0.1wt%以上とするのが好ましいことが示された。
【0043】
[実験(VI)]
実験(VI)は、イオン交換樹脂に触媒を付着させる方法の違いがイオン交換樹脂の分解効果に与える影響を確認するために行ったものである。
〔処理条件〕
イオン交換樹脂に触媒を付着させる方法は、触媒ゾルとしてイオン交換樹脂に散布して付着させるもの(スプレイ付着)と、イオン交換樹脂を水に浸漬させてこの水に触媒を注入して付着させるもの(水中付着)との2種類とした。他の処理条件は、実験(I)の処理条件ならびに成分条件と同様である。なお、触媒は、白金添加型のみである。
【0044】
図7は実験(VI)の結果を示す図である。
図7に示すように、イオン交換樹脂に触媒を付着させる方法として、水中付着を用いた場合は、スプレイ付着を用いた場合と比較してpHが小さくなる結果となった。このpH低下の違いは、イオン交換樹脂(官能基)の分解量を反映したものである。
【0045】
つまり、水中付着によると、スプレイ付着と比較し、イオン交換樹脂の分解効果が高められることが示された。なお、各付着方法がイオン交換樹脂の分解効果に与える影響は顕著ではないことから、何れの付着方法を用いてもイオン交換樹脂を十分に分解可能であるといえる。
【0046】
[実験(VII)]
実験(VII)は、触媒に照射する紫外線の強度がイオン交換樹脂の分解効果に与える影響を確認するために行ったものである。
〔処理条件〕
触媒に照射する紫外線は、人工の紫外線照射と太陽光による紫外線照射の2種類とした。他の処理条件ならびに成分条件は、実験(I)の処理条件ならびに成分条件と同様である。なお、触媒は、白金添加型のみである。
【0047】
図8は実験(VII)の結果を示す図である。
図8に示すように、二酸化チタンに微量の白金を添加した触媒(TiO+Pt触媒)については、太陽光の照射開始から2時間が経過した時点でpH=6となり、人工の紫外線を照射した場合のpH=3強(図2参照)と比較して高い値となった。したがって、太陽光は人工の紫外線と比較して紫外線強度が弱いことからイオン交換樹脂の分解の進行速度も緩慢となる。しかしながら、太陽光の照射開始から8時間が経過した時点でpH=5となったことから、人工の紫外線を用いなくとも太陽光を用いてイオン交換樹脂を十分に分解できることが示された。
【0048】
上述のように、本実施形態のイオン交換樹脂の分解方法では、
(1)励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を用い、この触媒をイオン交換樹脂に付着させる触媒付着工程と、この触媒付着工程に続き、触媒が付着したイオン交換樹脂を溶媒に浸漬させる溶媒浸漬工程と、この溶媒浸漬工程に続き、イオン交換樹脂に付着した触媒に励起エネルギーを付与してイオン交換樹脂を分解する触媒励起工程とを備える。
【0049】
すなわち、励起エネルギーを受けて酸化剤を生成する触媒がイオン交換樹脂に付着した後に、その触媒に対して励起エネルギーが付与される。このため、イオン交換樹脂の表面で酸化剤が生成することになり、酸化剤ないし触媒の利用効率が高められる。その結果、高温高圧条件や濃硫酸を用いなくてもイオン交換樹脂を良好に分解でき、もって装置コストや環境負担の軽減が図られる。
【0050】
(2)触媒付着工程では、触媒のコロイド溶液を用い、このコロイド溶液をスプレイ噴射することにより、触媒をイオン交換樹脂に散布にて付着させる。これにより、触媒のコロイド溶液にイオン交換樹脂を浸漬させて触媒を付着させる場合に顕著となる触媒の未利用成分(水中移項成分)が減少し、もって触媒の効率的利用を通じてイオン交換樹脂の分解コストの削減が図られる。
【0051】
一方、触媒付着工程において、触媒のコロイド溶液にイオン交換樹脂を浸漬させることで触媒をイオン交換樹脂に付着させるようにすると、イオン交換樹脂に付着する触媒量が高められ、イオン交換樹脂の分解時間を短縮できる(実験(VI)参照)。
【0052】
(3)さらに、媒付着工程と溶媒浸漬工程の間に、触媒が付着したイオン交換樹脂から水分を取り除く触媒濃縮工程を備える。このため、イオン交換樹脂における触媒の付着量が増加して、(1)の効果が高められる。
【0053】
(4)上記触媒として二酸化チタン(TiO)を用いるため、紫外線照射によりいわゆる光触媒効果を得ることができる。一方、触媒としてSnOを用いると、陽イオン交換型及び陰イオン交換型のいずれのイオン交換樹脂に対しても良好な触媒作用を得ることができ、陽イオン交換型及び陰イオン交換型の両イオン交換樹脂を同時に且つ良好に分解することができる(実験(III)参照)。
【0054】
(5)イオン交換樹脂に付着させる触媒の重量は、イオン交換樹脂の重量の0.1倍ないし10倍とする。これにより、触媒が効率的に消費され、イオン交換樹脂の分解効果と触媒の節約効果との両立が図られる(実験(V)参照)。
【0055】
(6)触媒には白金を混在させるため、陽イオン交換型のイオン交換樹脂に対する触媒の酸化機能が増幅され、(1)の効果が高められる。
【0056】
(7)触媒にはコバルトを混在させるため、陰イオン交換型のイオン交換樹脂に対する触媒の酸化機能が更に増幅され、(1)の効果が高められる。
【0057】
(8)触媒に混在させる白金やコバルトは、イオン交換樹脂の重量の0.01倍ないし1倍とする。これにより、白金やコバルトなどの添加物が効率的に消費され、イオン交換樹脂の分解効果とその添加物の節約効果との両立が図られる(実験(IV)参照)。
【0058】
(9)励起エネルギーとして、紫外線のエネルギーを用いる。このため、触媒として二酸化チタン(TiO)や二酸化スズ(SnO)を用いるとき、これらの化学種のいわゆる光触媒としての機能が効果的に発揮され、(1)の効果が高められる。特に、紫外線のエネルギー源として太陽光を用いると、紫外線発生装置を用意するためのコストが削減できる。
【0059】
また、本実施形態のイオン交換樹脂の分解装置1では、
(10)イオン交換樹脂を収容し且つ内側の一部又は全部が紫外線反射体により構成される反応容器2と、紫外線の照射を受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を操作者が意図する任意のタイミングで反応容器2に注入可能に構成される触媒注入管5と、イオン交換樹脂が浸漬されるまで且つ任意のタイミングで溶媒を反応容器2に注入可能に構成される溶媒注入管6と、紫外線を任意のタイミングで発生可能に構成される紫外線発生装置9とを備える。このため、イオン交換樹脂の分解方法における工程1〜工程5を実行でき、(1)の効果を得ることができる。加えて、反応容器2が紫外線反射体により構成されるので、紫外線の漏れが抑制されて触媒に効率よく紫外線が吸収されるようになり、(1)の効果が高いものとなる。
【0060】
(11)分解装置1は、反応容器2に注入されたイオン交換樹脂の媒体を攪拌する攪拌器10を備える。このため、反応容器2内部の触媒に紫外線が吸収されやすいものとなり、(1)の効果が高いものとなる。
【0061】
(12)紫外線発生装置9は、攪拌器10に設けられる。このため、攪拌器10と紫外線照射装置とが言わば一体的に構成されるので、装置の省スペース化が図られる。また、攪拌器10の攪拌動作に連動して紫外線の発生源が移動するので、反応容器2内部の触媒に対してあらゆる方向から紫外線を照射できるようになる。このため、反応容器2内部の触媒に紫外線が吸収されやすいものとなり、(1)の効果が高いものとなる。
【0062】
以上、本発明に係るイオン交換樹脂の分解方法及び分解装置を1つの実施形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、本実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載の発明の要旨を逸脱しない限り設計の変更や追加等は許容される。
【0063】
例えば、本実施形態では、触媒として二酸化チタン(TiO)や二酸化スズ(SnO)を用いる例を示したが、光触媒となり得る他の化学種、例えば、BaTiO、Bi2、ZnO、WO、SrTiO、Fe、FeTiO、KTaO、MnTiO、SnO、ZrO、CeO、In、Al、MgO、MgFe、NiFe、MnO、MoO、Nb5、SiO、PbO、V、ZnFe、ZnAl、ZnCo及びTaの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。これらの化学種を用いても、二酸化チタン(TiO)や二酸化スズ(SnO)と同様の触媒効果を得ることができる。
【0064】
また、触媒に混在させる添加物は、白金(Pt)やコバルト(Co)に限られず、白金と化学的性質が類似する貴金属、例えば、Ru、Rh、Pd及びIrの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。また、コバルトと化学的性質が類似する遷移金属、例えば、Ni、Fe、Cr及びGaの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。いずれの化学種を用いても、白金(Pt)やコバルト(Co)と同様に触媒機能の強化効果を得ることができる。
【0065】
また、本実施形態では、スプレイ散布により或いは水中にてイオン交換樹脂に触媒を付着させる例を示したが、触媒をイオン交換樹脂に溶射させることによりイオン交換樹脂に触媒を付着させるようにしてもよい。
【0066】
さらに、イオン交換樹脂の溶媒としては、水や有機溶媒の何れか一方或いはその両方を用いることができる。加えて、工程1〜工程5における雰囲気温度は、装置に作用する熱応力などの負荷軽減を考慮して適宜設定でき、例えば100℃未満の雰囲気温度とする。
【0067】
そして、触媒は、紫外線の照射を受けて酸化剤となる化学種を生成するものに限られず、可視光や放射線のエネルギー或いは熱エネルギーを励起エネルギーとし、この励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成するものであれば用いることができる。なお、放射線のエネルギーを励起エネルギーとする場合は、紫外線発生装置に代えて放射線発生装置を用い、熱エネルギーを励起エネルギーとする場合は、紫外線発生装置に代えてヒータを用いるのがよい。
【符号の説明】
【0068】
1……イオン交換樹脂の分解装置, 2……反応容器, 3……ガスパージ管, 4……ガスパージ弁, 5……触媒注入管, 6……溶媒注入管, 7……排水管, 8……排水弁, 9……紫外線発生装置, 10……攪拌器, 11……ヒータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応を利用するイオン交換樹脂の分解方法において、
励起エネルギーを受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を用い、この触媒をイオン交換樹脂に付着させる触媒付着工程と、
前記触媒付着工程に続き、触媒が付着したイオン交換樹脂を溶媒に浸漬させる溶媒浸漬工程と、
前記溶媒浸漬工程に続き、イオン交換樹脂に付着した触媒に励起エネルギーを付与し、酸化作用を増幅させてイオン交換樹脂を分解する触媒励起工程と、
を備えることを特徴とするイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項2】
前記触媒付着工程では、触媒のコロイド溶液を用い、このコロイド溶液をイオン交換樹脂に散布し、又は、このコロイド溶液にイオン交換樹脂を浸漬させることにより、触媒をイオン交換樹脂に付着させることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項3】
前記触媒付着工程と溶媒浸漬工程の間に設けられ、触媒が付着したイオン交換樹脂から水分を取り除く触媒濃縮工程を備えることを特徴とする請求項2に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項4】
前記触媒として、二酸化チタン(TiO)及び二酸化スズ(SnO)の少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項5】
前記イオン交換樹脂に付着させる触媒の重量は、イオン交換樹脂の重量の0.1倍ないし10倍とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項6】
前記触媒に、貴金属及び遷移金属の何れか一方或いはその両方を添加することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項7】
前記貴金属として、Ptを用いることを特徴とする請求項6に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項8】
前記遷移金属として、Coを用いることを特徴とする請求項6に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項9】
前記貴金属及び遷移金属の重量は、各金属の合算重量にしてイオン交換樹脂の重量の0.01倍ないし1倍とすることを特徴とする請求項6ないし請求項8の何れか1項に記載のイオン交換樹脂の分解方法。
【請求項10】
酸化反応を通じてイオン交換樹脂を分解するイオン交換樹脂の分解装置において、
分解の対象とするイオン交換樹脂を収容し且つ内側の一部又は全部が紫外線反射体により構成される反応容器と、
紫外線の照射を受けて酸化剤となる化学種を生成する触媒を任意のタイミングで反応容器に注入可能に構成される触媒注入器と、
イオン交換樹脂が浸漬されるまで且つ任意のタイミングで溶媒を反応容器に注入可能に構成される溶媒注入器と、
紫外線を任意のタイミングで発生可能に構成される紫外線発生装置と、
を備えることを特徴とするイオン交換樹脂の分解装置。
【請求項11】
前記反応容器に注入されたイオン交換樹脂の媒体を攪拌する攪拌器を備えることを特徴とする請求項10に記載のイオン交換樹脂の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−260981(P2010−260981A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114004(P2009−114004)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】