説明

イオン性化合物

【課題】燃焼の危険性が低い新規イオン性化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):
(NPR12)n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価の陰イオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜15を表す]で表されるイオン性化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規イオン性化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1992年のWilkesらの報告以来、常温で液体であり、イオン伝導性に優れた物質として、イオン液体が注目を集めている。該イオン液体は、陽イオンと陰イオンが静電気的引力で結合しており、イオンキャリア数が非常に多く、更には粘度も比較的低いため、イオンの移動度が常温でも高く、従って、イオン伝導性が非常に高いという特性を有する。また、イオン液体は、陽イオンと陰イオンのみで構成されているため、沸点が高く、液体状態を保持できる温度範囲が非常に広い。更に、該イオン液体は、蒸気圧が殆どないため、引火性が低く、熱的安定性も非常に優れている(非特許文献1及び2参照)。
【0003】
これら様々な利点を有するため、イオン液体は、昨今、非水電解液2次電池や電気二重層キャパシタの電解液への適用が検討されており(特許文献1及び2参照)、特に、電気二重層キャパシタの電解液にイオン液体を用いた場合には、イオン液体が電気二重層を形成するためのイオン源としても機能するため、別途支持電解質を添加する必要がないという利点もある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−111294号公報
【特許文献2】特開2004−146346号公報
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., 144 (1997) 3881
【非特許文献2】「イオン性液体の機能創成と応用」,エヌ. ティー. エス,(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上述のイオン液体は、常温で液体であるために通常有機基を含んでおり、燃焼の危険性があることが分った。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、燃焼の危険性が低い新規イオン性化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、環状ホスファゼン化合物に1級、2級又は3級のアミンを結合させた構造の新規物質が、イオン性を有すると共に、燃焼の危険性が非常に低いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明のイオン性化合物は、下記一般式(I):
(NPR12)n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価の陰イオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜15を表す]で表されることを特徴とする。
【0009】
本発明のイオン性化合物の好適例においては、前記一般式(I)中のnが3又は4である。
【0010】
本発明のイオン性化合物において、前記一般式(I)中のR1は、少なくとも一つが前記一般式(II)で表されるイオン性置換基で、その他がフッ素であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼の危険性が低い新規イオン性化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のイオン性化合物は、上記一般式(I)で表されることを特徴とする。式(I)の化合物は、リン−窒素間二重結合を複数有する環状ホスファゼン化合物の一種であると共に、R1の少なくとも一つが上記式(II)のイオン性置換基であるため、イオン性を有する。そして、ホスファゼン骨格を有するため、燃焼時に分解して、窒素ガスやリン酸エステル等を発生し、該窒素ガスやリン酸エステル等が燃焼の進行を抑制するため、燃焼の危険性が低い。また、上記イオン性化合物がハロゲンを含む場合、万が一の燃焼時にはハロゲンが活性ラジカルの捕捉剤として機能し、燃焼の危険性を更に低減する。更に、上記イオン性化合物が有機置換基を含む場合、燃焼時に炭化物(チャー)を生成するため酸素の遮断効果もある。
【0013】
上記一般式(I)中のR1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基であり、但し、少なくとも一つのR1は、上記一般式(II)で表されるイオン性置換基である。ここで、R1におけるハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等が好適に挙げられ、これらの中でも、フッ素が特に好ましい。また、R1における一価の置換基としては、アルコキシ基、アルキル基、アリールオキシ基、アリール基、カルボキシル基、アシル基等が挙げられる。上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、プロポキシ基等や、二重結合を含むアリルオキシ基やビニルオキシ基等、更にはメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられ、上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基等が挙げられ、上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、上記アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基等が挙げられる。なお、上記一価の置換基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていることが好ましく、ハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等が好適に挙げられる。
【0014】
上記一般式(I)のnは、3〜15であり、原料物質の入手容易性の観点から、3〜4が好ましく、3が特に好ましい。
【0015】
上記一般式(II)で表される置換基は、−NR23とXとが主として静電気的引力によって結合してなる。そのため、式(II)のイオン性置換基を有する式(I)の化合物は、イオン性を有し、液体の場合は、イオン液体となり、一方、固体の場合は、イオン結晶となる。
【0016】
上記一般式(II)中のR2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素であり、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよい。ここで、R2における一価の置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、上記アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、複数のR2が互いに結合して環を形成する場合において、3つのR2のいずれか2つが結合して形成する環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等のアザシクロアルカン環や、該アザシクロアルカン環のメチレン基がカルボニル基に置き換わった構造のアザシクロアルカノン環等が挙げられ、3つのR2が結合して形成する環としては、ピリジン環等が挙げられる。なお、上記一価の置換基中の水素元素は、ハロゲン元素等で置換されていてもよい。
【0017】
上記一般式(II)中のX-は一価の陰イオンを表す。式(II)のX-における一価の陰イオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-、(CF3SO2)2-、(C25SO2)2-、(C37SO2)2-、(CF3SO2)(C25SO2)N-、(CF3SO2)(C37SO2)N-、(C25SO2)(C37SO2)N-等が挙げられる。
【0018】
上記式(I)のイオン性化合物において、R1は、少なくとも一つが上記式(II)のイオン性置換基であるが、イオン性化合物の不燃性の観点から、その他がフッ素であることが好ましい。
【0019】
本発明のイオン性化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、下記一般式(III):
(NPR32)n ・・・ (III)
[式中、R3は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR3は塩素であり;nは3〜15を表す]で表される環状ホスファゼン化合物と、下記一般式(IV):
NR23 ・・・ (IV)
[式中、R2は、上記と同義である]で表される1級、2級又は3級のアミンとを反応させることで、下記一般式(V):
(NPR42)n ・・・ (V)
[式中、R4は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR4は、下記一般式(VI):
−N+23Cl- ・・・ (VI)
(式中、R2は上記と同義である)で表されるイオン性置換基であり;nは上記と同義である]で表されるイオン性化合物(即ち、上記一般式(I)で表され、上記一般式(II)中のX-がCl-であるイオン性化合物)を生成させることができる。
【0020】
更に、上記一般式(V)で表されるイオン性化合物の塩素イオンは、適宜他の一価の陰イオンと置換することができ、例えば、上記一般式(V)で表されるイオン性化合物と下記一般式(VII):
+- ・・・ (VII)
[式中、A+は一価の陽イオンを表し、X-は一価の陰イオンを表す]で表される塩(イオン交換剤)とを反応(イオン交換反応)させることで、上記一般式(I)で表されるイオン性化合物を生成させることができる。
【0021】
なお、上記一般式(III)で表される環状ホスファゼン化合物と上記一般式(IV)で表されるアミンとを単に混合するだけでも、上記一般式(V)で表されるイオン性化合物を生成させることができるが、生成した式(V)のイオン性化合物が不安定で単離が難しいことがあるため、水相及び有機相からなる二相系に、上記一般式(III)で表される環状ホスファゼン化合物と、上記一般式(IV)で表されるアミンとを加え、反応させて、上記一般式(V)で表されるイオン性化合物を生成させることが好ましい。この方法では、式(III)の環状ホスファゼン化合物及び式(IV)のアミンは有機相に主として存在し、一方、生成する式(V)の化合物はイオン性を有するため主として水相に存在する。そのため、水相と有機相とを分離した後、水相の水を公知の方法で乾燥させることで、式(V)のイオン性化合物を単離することができ、単離された式(V)のイオン性化合物は、大気下でも安定に存在する。なお、式(V)のイオン性化合物を単離することなく水溶液として使用できる用途には、式(V)のイオン性化合物を含む水相をそのまま使用することもできる。
【0022】
上記一般式(III)において、R3は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR3は塩素である。ここで、式(III)中のR3が塩素である部分に式(IV)のアミンが付加するため、出発物質である式(III)の環状ホスファゼン化合物の骨格のリンに結合する塩素の数を調整することで、式(V)のイオン性化合物中の式(VI)で表されるイオン性置換基の導入数をコントロールすることができる。
【0023】
上記一般式(III)のR3において、ハロゲン元素としては、塩素の他に、フッ素、臭素等が好適に挙げられ、これらの中でも、塩素及びフッ素が好ましい。一方、R3における一価の置換基としては、R1における一価の置換基の項で例示したものを同様に挙げることができる。また、式(III)において、nは3〜15であり、入手容易性の観点から、3〜4が好ましく、3が特に好ましい。
【0024】
上記一般式(III)で表される環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(III)中のR3が総て塩素である市販のホスファゼン化合物を出発物質として、総ての塩素をフッ素化剤によりフッ素化した後、目的とする塩素置換部位にアルコキシ基やアミン基等を導入した後、HClやホスゲン等の塩素化剤により再び塩素化を行う方法や、使用する式(III)中のR3が総て塩素である市販のホスファゼン化合物に対して導入するフッ素の当量を計算した上で、必要量のフッ素化剤を添加する方法等で合成することができる。ここで、再塩素化における塩素化剤やフッ素化におけるフッ素化剤の使用量や反応条件を変えることで、式(III)のR3における塩素数をコントロールすることができる。
【0025】
上記一般式(IV)において、R2は、上記一般式(II)中のR2と同義で、それぞれ独立して一価の置換基又は水素であり、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、該R2は互いに結合して環を形成してもよい。式(IV)のR2における一価の置換基としては、式(II)のR2における一価の置換基の項で例示したものを同様に挙げることができ、また、式(IV)の3つのR2のいずれか2つが結合して形成する環及び3つのR2が結合して形成する環としては、式(II)の3つのR2のいずれか2つが互いに結合して形成する環及び3つのR2が結合して形成する環の項で例示したものを同様に挙げることができる。式(IV)で表されるアミンとして、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等の環状3級アミン、ジメチルアニリン等のジアルキル置換アニリンやピリジン等の芳香族3級アミン、アニリン等の芳香族1級アミン等が挙げられ、これらの中でも、3級アミンが好ましい。
【0026】
上記一般式(V)において、R4は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR4は、上記一般式(VI)で表されるイオン性置換基である。R4におけるハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。なお、式(IV)のアミンの使用量等を調整することで、R4の一部を塩素とすることができる。一方、R4における一価の置換基としては、R1における一価の置換基の項で例示したものを同様に挙げることができる。また、式(V)中のnは3〜15であり、原料の入手容易性の観点から、3〜4が好ましく、3が特に好ましい。
【0027】
上記一般式(VI)において、R2は、上記一般式(II)中のR2と同義で、それぞれ独立して一価の置換基又は水素であり、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、該R2は互いに結合して環を形成してもよい。式(VI)のR2における一価の置換基としては、式(II)のR2における一価の置換基の項で例示したものを同様に挙げることができ、また、式(VI)の3つのR2のいずれか2つが結合して形成する環及び3つのR2が結合して形成する環としては、式(II)の3つのR2のいずれか2つが互いに結合して形成する環及び3つのR2が結合して形成する環の項で例示したものを同様に挙げることができる。
【0028】
式(V)のイオン性化合物の製造にあたって、式(IV)のアミンの使用量は、目的とするアミンの導入量に応じて適宜選択でき、例えば、式(III)の環状ホスファゼン化合物中のR3における塩素1molあたり、1〜2.4molの範囲が好ましい。
【0029】
また、式(III)の環状ホスファゼン化合物と式(IV)のアミンとの反応における反応温度は、特に制限されるものではないが、20℃〜80℃の範囲が好ましく、室温でも十分に反応が進行する。また、反応圧力も特に限定されず、大気圧下で実施することができる。
【0030】
上記水相及び有機相からなる二相系において、有機相に使用する有機溶媒としては、水に対して混和性が無く、式(III)の環状ホスファゼン化合物と式(IV)のアミンを溶解できるものが好ましく、具体的には、クロロホルム、トルエン等の極性の低い溶媒が好ましい。また、上記水相及び有機相の使用量は、特に限定されるものではなく、水相の体積は、式(III)の環状ホスファゼン化合物1mLに対して0.2〜5mLの範囲が好ましく、有機相の体積は、式(III)の環状ホスファゼン化合物1mLに対して2〜5mLの範囲が好ましい。
【0031】
上記一般式(VII)において、A+は一価の陽イオンを表し、X-は一価の陰イオンを表す。式(VII)のA+における一価の陽イオンとしては、Ag+、Li+等が挙げられる。また、式(VII)のX-における一価の陰イオンとしては、Cl-以外の一価の陰イオン、具体的には、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-の他、(CF3SO2)2-、(C25SO2)2-、(C37SO2)2-、(CF3SO2)(C25SO2)N-、(CF3SO2)(C37SO2)N-、(C25SO2)(C37SO2)N-等のイミドイオンが挙げられる。ここで、A+がLi+である場合、X-としてはイミドイオンが好ましい。小さなイオン半径を有するLi+とは対照的に、上記イミドイオンは大きなイオン半径を有するため、陽イオンと陰イオンとのイオン半径の違いによる影響(ソフト・ハード塩基・酸の関係)で良好に反応し、置換反応が進むからである。一方、A+がAg+である場合は、ほぼ総ての陰イオンを使用することができる。式(VII)の塩としてAg+-を使用した場合、AgClが沈降するため、不純物の除去も簡単に行うことができる。
【0032】
式(I)のイオン性化合物の製造にあったって、式(VII)の塩の使用量は、式(V)のイオン性化合物の塩素イオンの量に応じて適宜選択でき、例えば、式(V)のイオン性化合物の塩素イオン1molあたり、1〜1.5molの範囲が好ましい。
【0033】
また、式(V)のイオン性化合物と式(VII)の塩との反応における反応温度は、特に制限されるものではないが、室温〜50℃の範囲が好ましく、室温でも十分に反応が進行する。また、反応圧力も特に限定されず、大気圧下で実施することができる。
【0034】
上記式(V)のイオン性化合物と式(VII)の塩との反応は、水相で行うことが好ましい。なお、上記式(V)のイオン性化合物と、式(VII)で表され且つA+がAg+である銀塩との反応では、副生成物として塩化銀が生成するが、該塩化銀は、水に対する溶解度が非常に低いため、反応を水相で行う場合、副生成物の分離が容易となる。上記水相の体積は、特に限定されるものではないが、式(V)のイオン性化合物1mLに対して2〜5mLの範囲が好ましい。
【0035】
上記式(I)のイオン性化合物の製造方法は、通常水相で行われ、式(I)のイオン性化合物を水相から単離する場合は、水相の水を公知の方法で蒸発させればよい。なお、式(I)のイオン性化合物を単離することなく水溶液として使用できる用途には、式(I)のイオン性化合物を含む水相をそのまま使用することもできる。
【0036】
上述した本発明のイオン性化合物は、室温(25℃)で液体の場合、電気二重層キャパシタ用電解液、リチウムイオン電池用電解液、色素増感型太陽電池用電解液、有機合成用の反応溶媒、有機化合物の抽出溶媒、磁性流体等として利用することができ、一方、室温(25℃)で固体の場合は、塩として使用することができ、液体及び固体のいずれの場合においても、高い不燃性を有し、使用用途の燃焼の危険性を著しく低減することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(合成例1)
水 5gとクロロホルム 5gからなる二相系を調製し、該二相系にトリエチルアミン 5mLと、上記一般式(III)で表され、式中のnが3であって、6つのR3のうち1つが塩素で且つ5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 5mLとを順次滴下した。該二相系をスターラーで撹拌すると、反応に伴って発熱が観測された。3分間の撹拌の後に、水相を採取し、水を蒸発させたところ白色結晶が生成し、更に減圧乾燥して白色結晶 0.2g(収率 53%)を得た。得られた白色結晶は、クロロホルム、メタノール、アセトニトリルに対して不溶で、水に対して可溶であった。得られた白色結晶を重水に溶解させて、1H-NMRで分析したところ、該白色結晶は、上記一般式(I)で表され、式中のnが3であって、6つのR1のうち5つがフッ素で且つ一つが−N+(CH2CH2)3Cl-であることを確認した。生成物の1H-NMRの結果を図1に、31P-NMRの結果を図2に、反応スキームを下記に示す。
【0039】
【化1】

【0040】
(合成例2)
水 15mLとクロロホルム 15mLからなる二相系を調製し、該二相系にN-メチル-2-ピロリドン 5mLと、上記一般式(III)で表され、式中のnが3であって、6つのR3のうち1つが塩素で且つ5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 5mLとを順次滴下した。その後、該二相系を冷却しながら撹拌すると、クロロホルム相に白色結晶が沈殿した。常温に戻して撹拌すると該白色結晶は消えた。なお、クロロホルム相は、反応前は無色であったが、反応後は白濁した。ピペットを用いて水相を採取し、エバポレートした後、真空ポンプを用いて水を留去したところ、白色結晶 5.1g(収率 74%)を得た。得られた白色結晶を重水に溶解させて、1H-NMRで分析したところ、該白色結晶は、上記一般式(I)で表され、式中のnが3であって、6つのR1のうち5つがフッ素で且つ一つが上記一般式(II)で表されるイオン性置換基で、式(II)中のX-がCl-で、R2の一つがメチル基で、他の二つのR2が互いに結合して窒素原子と共に2-アザシクロペンタノン環を形成しているイオン性化合物であることを確認した。生成物の1H-NMRの結果を図3に、31P-NMRの結果を図4に、反応スキームを下記に示す。
【0041】
【化2】

【0042】
(合成例3)
水 15mLとクロロホルム 15mLからなる二相系を調製し、該二相系にピリジン5mLと、上記一般式(III)で表され、式中のnが3であって、6つのR3のうち1つが塩素で且つ5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 5mLとを順次滴下した。その後、該二相系を冷却しながら撹拌すると、クロロホルム相に白色結晶が沈殿した。常温に戻して撹拌すると該白色結晶は消えた。なお、クロロホルム相は、反応前は無色であったが、反応後は白濁した。ピペットを用いて水相を採取し、エバポレートした後、真空ポンプを用いて水を留去したところ、白色結晶 5.2g(収率 57%)を得た。得られた白色結晶を重水に溶解させて、1H-NMRで分析したところ、該白色結晶は、上記一般式(I)で表され、式中のnが3であって、6つのR1のうち5つがフッ素で且つ一つが−N+55Cl-であることを確認した。生成物の1H-NMRの結果を図5に、31P-NMRの結果を図6に、反応スキームを下記に示す。
【0043】
【化3】

【0044】
(合成例4)
水 15mLとクロロホルム 15mLからなる二相系を調製し、該二相系にアニリン5mLと、上記一般式(III)で表され、式中のnが3であって、6つのR3のうち1つが塩素で且つ5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 5mLとを順次滴下した。その後、該二相系を冷却しながら撹拌すると、クロロホルム相に白色結晶が沈殿した。常温に戻して撹拌すると該白色結晶は消えた。なお、クロロホルム相は、反応前は無色であったが、反応後は白濁した。ピペットを用いて水相を採取し、エバポレートした後、真空ポンプを用いて水を留去したところ、白色結晶 4.8g(収率 54%)を得た。得られた白色結晶を重水に溶解させて、1H-NMRで分析したところ、該白色結晶は、上記一般式(I)で表され、式中のnが3であって、6つのR1のうち5つがフッ素で且つ一つが−N+265Cl-であることを確認した。生成物の1H-NMRの結果を図7に、31P-NMRの結果を図8に、反応スキームを下記に示す。
【0045】
【化4】

【0046】
(合成例5)
水 15mLとクロロホルム 15mLからなる二相系を調製し、該二相系にジメチルアニリン5mLと、上記一般式(III)で表され、式中のnが3であって、6つのR3のうち1つが塩素で且つ5つがフッ素である環状ホスファゼン化合物 5mLとを順次滴下した。その後、該二相系を冷却しながら撹拌すると、クロロホルム相に白色結晶が沈殿した。常温に戻して撹拌すると該白色結晶は消えた。なお、クロロホルム相は、反応前は無色であったが、反応後は白濁した。ピペットを用いて水相を採取し、エバポレートした後、真空ポンプを用いて水を留去したところ、白色結晶 5.1g(収率 52%)を得た。得られた白色結晶を重水に溶解させて、1H-NMRで分析したところ、該白色結晶は、上記一般式(I)で表され、式中のnが3であって、6つのR1のうち5つがフッ素で且つ一つが−N+(CH3)265Cl-であることを確認した。生成物の1H-NMRの結果を図9に、31P-NMRの結果を図10に、反応スキームを下記に示す。
【0047】
【化5】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のイオン性化合物は、電気二重層キャパシタ用電解液、リチウムイオン電池用電解液、色素増感型太陽電池用電解液、有機合成用の反応溶媒、有機化合物の抽出溶媒、磁性流体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】合成例1で得られた生成物の1H-NMRの結果である。
【図2】合成例1で得られた生成物の31P-NMRの結果である。
【図3】合成例2で得られた生成物の1H-NMRの結果である。
【図4】合成例2で得られた生成物の31P-NMRの結果である。
【図5】合成例3で得られた生成物の1H-NMRの結果である。
【図6】合成例3で得られた生成物の31P-NMRの結果である。
【図7】合成例4で得られた生成物の1H-NMRの結果である。
【図8】合成例4で得られた生成物の31P-NMRの結果である。
【図9】合成例5で得られた生成物の1H-NMRの結果である。
【図10】合成例5で得られた生成物の31P-NMRの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
(NPR12)n ・・・ (I)
[式中、R1は、それぞれ独立してハロゲン元素又は一価の置換基で、少なくとも一つのR1は、下記一般式(II):
−N+23- ・・・ (II)
(式中、R2は、それぞれ独立して一価の置換基又は水素で、但し、少なくとも一つのR2は水素ではなく、また、R2は互いに結合して環を形成してもよく;X-は一価の陰イオンを表す)で表されるイオン性置換基であり;nは3〜15を表す]で表されるイオン性化合物。
【請求項2】
前記一般式(I)中のnが3又は4であることを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項3】
前記一般式(I)中のR1は、少なくとも一つが前記一般式(II)で表されるイオン性置換基で、その他がフッ素であることを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項4】
25℃において液体であることを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項5】
25℃において固体であることを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−153868(P2007−153868A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138081(P2006−138081)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】