イオン注入装置、イオンビーム計測装置、及びイオンビームの計測方法
【課題】新たなイオンビーム計測を提供する。
【解決手段】イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる測定ビーム12を発するための測定ビーム源20と、測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に照射された測定ビーム12を検出するための測定ビーム検出器22と、を備える。イオンビーム計測装置10は、例えばイオン注入装置に適用することができる。イオンビーム計測装置10は、イオンビームに関連する出力をイオン注入装置の制御システムに提供するビームモニタであってもよい。
【解決手段】イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる測定ビーム12を発するための測定ビーム源20と、測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に照射された測定ビーム12を検出するための測定ビーム検出器22と、を備える。イオンビーム計測装置10は、例えばイオン注入装置に適用することができる。イオンビーム計測装置10は、イオンビームに関連する出力をイオン注入装置の制御システムに提供するビームモニタであってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム計測装置、イオンビームの計測方法、及びそれらを適用しうるイオンビームの照射装置例えばイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物例えば半導体基板に注入すべきイオン種を含むイオンビームをその被処理物に照射してイオン注入をするためのイオン注入装置が知られている。イオン注入装置には一般に、イオンビームの照射を直接受けてビーム計測をするための計測器、例えばファラデーカップが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−262748号公報
【特許文献2】特開2000−11942号公報
【特許文献3】特開平7−153416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたイオンビームの入射を直に受ける方式のいわば接触式のビーム計測は、計測中に計測器がビームを占有することになるから、計測中は被処理物にイオンビームを照射することはできない。同様に、被処理物にイオンビームを照射しているときに計測をすることもできない。そのため、被処理物への照射処理のスループットを高めることとイオンビームの高頻度の計測によるビーム品質の保証とがトレードオフの関係となってしまう。また、被照射物への照射という本来の目的以外に計測のためにイオン材料が余分に消費されてしまう。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオンビームを対象に照射しながら計測することを可能とする、いわば非接触式の計測を提供すること、あるいはそうした計測を適用したイオンビーム照射装置例えばイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、イオン注入装置である。この装置は、被処理物へのイオンビームによるイオン注入処理を制御するための制御システムと、前記イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射し、前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームに関連する出力を前記制御システムに提供するビームモニタと、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、イオンビーム計測装置である。この装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、前記測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、イオンビームの計測方法である。この方法は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームをイオンビームに照射することと、イオンビームに照射された測定ビームを検出することと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非接触式のイオンビーム計測が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の一構成例を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第1変形例を示す図である。
【図3】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第2変形例を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第3変形例を示す図である。
【図5】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第4変形例を示す図である。
【図6】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第4変形例を示す図である。
【図7】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第5変形例を示す図である。
【図8】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第5変形例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るイオン注入装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図10】第2実施形態に係るイオン注入装置の処理室を示す図である。
【図11】第2実施形態に係るビームモニタの一変形例を示す図である。
【図12】第2実施形態に係る走査シーケンスの一実施例を説明するための図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置に関連する光学素子のための保護装置の一例を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置に関連する光学素子のための保護装置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10の一構成例を模式的に示す図である。イオンビームの入射を直接受ける検出面をもつ接触式の計測器とは異なり、イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12をイオンビーム14に照射することにより非接触式のイオンビーム計測を提供する。言い換えれば、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14の作用した測定ビーム12を検出することにより間接的にイオンビーム14を計測する。イオンビーム14自体の照射を受ける検出器は、イオンビーム計測装置10の必須の構成要素ではない。その測定原理を図1を参照して説明する。
【0013】
イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14を照射するためのイオンビーム照射システム(例えばイオン注入装置や粒子線治療装置)に、イオンビーム14を計測するためのサブシステムとして組み込まれて構成されていてもよい。または、イオンビーム計測装置10は、独立型のいわゆるスタンドアローン型の計測装置として構成されてもよい。
【0014】
図1並びに以下で参照する各図において説明の便宜上、イオンビーム14の進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。後述するようにイオンビーム14を被処理物16に対し走査する場合には走査方向をy方向とし、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向と定義する。イオンビーム14を走査したときにイオンビーム14の中心軸の描く軌跡によって、イオンビーム14の走査面(例えばyz面)が定義される。イオンビーム14は実際にはある大きさのビーム断面をもつから、その大きさの範囲で上下(例えばx方向)に走査面から離れた位置にもイオンビームは照射される。それを考慮に入れると、走査によるイオンビーム14の通過領域は走査面の上下に広がる立体的な領域であると言える。
【0015】
イオンビーム14は被処理物16への照射のために処理室18へと導かれる。一実施例においては、イオンビーム14は被処理物16に連続的に照射される。すなわち、イオンビーム14は、図示しないイオンビーム生成部により所望の目標プロファイル(例えば目標ビーム電流)に従って所望の照射期間連続して生成され被処理物16に照射される。他の一実施例においては、イオンビーム14は、パルスイオンビームであってもよい。
【0016】
イオンビーム計測装置10がイオン注入装置に適用される一実施例においては、被処理物16は半導体基板(例えばシリコンウェーハ)であり、xy面内でイオンビーム14に対し移動可能にまたは静止状態に支持されて処理室18に収容されている。イオンビーム処理のために処理室18は所望の真空状態に保たれており、そのための真空排気装置(例えばクライオポンプまたはその他の真空ポンプ(図示せず))が付設されている。処理室18は例えば真空チャンバまたはプロセスチャンバ等とも呼ばれる。イオン注入装置の場合には処理室18はエンドステーションと呼ばれ、被処理物16はターゲットと呼ばれることもある。
【0017】
なお処理室18に必ずしも被処理物16が収容されていなくてもよく、処理室18は被処理物16に入射すべきイオンビーム14に測定ビーム12を照射するための照射室または計測室として構成されていてもよい。その場合、イオンビーム14の経路に沿って処理室18の下流に被処理物16が配され、処理室18に進入したイオンビーム14は測定ビーム12を経由して処理室18を出射し、被処理物16へと入射してもよい。
【0018】
イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12を発するための測定ビーム源20を備える。測定ビーム12は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる波長または波長域をもつ電磁波である。イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は、イオンビーム14による測定ビーム12の吸収、回折、散乱、反射、及び透過のうち少なくともいずれかを含む。なお、イオンビーム計測装置10で使用される測定のための電磁波は、必ずしもビーム即ち指向性をもつ放射でなくてもよく、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる波長または波長域をもつ電磁波を放射する放射源を備えてもよい。
【0019】
一実施例においては、イオンビーム14によって測定ビーム12に生じる相互作用を大きくするために、測定ビーム12のビームスポット(すなわち測定ビーム12の進行方向に垂直な面によるビーム断面)のうちイオンビーム14に照射される領域の割合を大きくする。好ましくは測定ビーム12のスポット径をイオンビーム14の寸法より小さくすることにより、測定ビーム12のビームスポットの全体がイオンビーム14に照射されるようにする。この場合、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置34において測定ビーム12はイオンビーム14に包含される。
【0020】
一方、測定ビーム12のビームスポットが小径である場合には、イオンビーム14の照射位置精度によっては(例えば図1におけるx方向に)照射位置がずれてイオンビーム14が測定ビーム12から外れることも想定される。よって、一実施例においては逆に、測定ビーム12のスポット径をイオンビーム14の寸法より大きくすることにより、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置34においてイオンビーム14が測定ビーム12に包含されるようにしてもよい。このようにすれば、イオンビーム14の照射位置にいくらかの位置ずれが仮に生じても、イオンビーム14と測定ビーム12との交差状態(即ちビーム計測)を継続させやすくなる。
【0021】
イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12を検出するための測定ビーム検出器22を備える。測定ビーム検出器22は、測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に照射された測定ビーム12を検出するために設けられている。測定ビーム検出器22は、その検出面に測定ビーム12の入射を受けて検出信号S1を出力するよう構成されている。一実施例においては、測定ビーム検出器22は、測定ビーム12を受光または受信するための受光面または受信機を備える。測定ビーム検出器22は、受光または受信した測定ビーム12の例えば強度に関連する検出信号S1を生成する。
【0022】
一実施例においては、測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とは、測定ビーム12が測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に交差して測定ビーム検出器22に入射するよう配置されている。例えば、測定ビーム12が測定ビーム源20からイオンビーム14を通過して測定ビーム検出器22へと直線的なビーム経路をとるように、測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とは、イオンビーム14の入射経路を挟んで互いに向き合って配置されてもよい。あるいは後述するように、イオンビーム計測装置10は、測定ビーム源20から測定ビーム検出器22へと測定ビーム12を伝達するためのビーム光学系24を備えてもよい。
【0023】
図示されるように測定ビーム12はイオンビーム14に直交して照射されてもよいし、あるいは斜めに交差するように照射されてもよい。直交照射の場合にはイオンビーム14の進行方向に比較的コンパクトにイオンビーム計測装置10を配置することが可能となる点で好ましく、斜め照射の場合には測定ビーム12のイオンビーム14への交差長さを大きくすることができるという点で好ましい。
【0024】
一実施例においては、イオンビーム14のビームスポットよりも広範囲に、例えば被処理物16の表面全域または所望のイオンビーム照射領域にイオンビーム14を照射するために、イオンビーム14は少なくとも一方向に走査されてもよい。イオンビーム14の走査のために、イオンビーム走査制御部(図示せず)が設けられていてもよい。例えば図1に矢印28で示されるように、イオンビーム14はy方向に往復移動されてもよい。なおイオンビーム14を走査するとともに、またはそれに代えて、被処理物16がイオンビーム14に対し移動されてもよい。
【0025】
イオンビーム14が走査される一実施例においては、測定ビーム12は、イオンビーム14の走査方向(図1においてはy方向)とイオンビーム14の進行方向(z方向)とにより定まる走査面(yz面)に沿ってイオンビーム14に照射されることが好ましい。測定ビーム12の照射方向が正確に走査面に沿うことは必ずしも要求されない。通常は、測定ビーム12の経路は、走査によるイオンビーム14の通過領域を横断するように定められれば十分である。このようにすれば、イオンビーム14がいずれの走査位置にあるときにも(つまり走査範囲全体にわたって)イオンビーム14に測定ビーム12を照射することができる。すなわち、イオンビーム14の走査移動中に継続してイオンビーム14を計測することができる。
【0026】
イオンビーム計測装置10は、検出信号S1を含む入力信号に基づき計測結果を与えるための演算処理ユニット26を備えてもよい。演算処理ユニット26は、測定ビーム検出器22とは別体に測定ビーム検出器22から検出信号S1を受信可能に設けられていてもよく、例えば公知のパソコン等の演算装置であってもよい。あるいは演算処理ユニット26は、測定ビーム検出器22に一体に搭載されていてもよい。
【0027】
演算処理ユニット26は例えば、検出信号S1に基づきイオンビーム量(例えばビーム電流または注入ドーズ量)の絶対値を演算してもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1に基づきイオンビーム量の基準に対する相対変化量を演算してもよい。演算処理ユニット26は例えば、予め記憶されているイオンビーム量と検出信号S1との関係を表すマップを参照することによりイオンビーム量を求めてもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1またはそこから演算して得た値が予め定められている許容範囲に含まれるか否かを判定してもよい。許容範囲外にあると判定された場合には、演算処理ユニット26は、その判定結果を記憶するか、または警告を出力してもよい。
【0028】
好ましい一実施例においては、測定ビーム源20はレーザ光源であり、測定ビーム検出器22はそのレーザ光を検出可能である検出器(例えばフォトダイオード)である。この場合、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は、イオンビーム14による測定ビーム12の吸収、回折、反射、または散乱である。イオンビーム14への照射位置において測定ビーム12が吸収、回折、反射、または散乱されることにより、イオンビーム14は強度が低下する。イオンビーム14を通過した測定ビーム12の強度は、測定ビーム源20から出た直後に比べて低下する。測定ビーム検出器22は受光した測定ビーム12の強度に応じた検出信号S1を出力する。この測定ビーム12の強度低下はイオンビーム14のイオン密度に相関する。よって、測定ビーム12を検出することによりイオンビーム14の非接触計測が可能となる。物理的な検出素子でイオンビーム14を受光することなく、イオンビーム14を計測することができる。
【0029】
より好ましい一実施例においては、測定ビーム源20として使用されるレーザ光源は、イオンビーム14に含まれるイオン種の吸収波長に一致する波長またはその吸収波長を含む波長域をもつレーザ光を発するレーザ光源である。言い換えれば、波長に応じて定まるレーザ光の光エネルギーがイオンビーム14のイオン種の吸収エネルギーに等しくなるようにレーザ光源が選択される。このとき、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用はイオンビーム14による測定ビーム12の吸収が支配的である。このようにすれば、イオンビーム14への照射前後で測定ビーム12の強度差を比較的大きくすることが可能であり、イオンビーム計測装置10の測定精度を高めることができる。
【0030】
なお、レーザ光の波長はイオンビーム14のイオン種の吸収波長に必ずしも厳密に一致していなくてもよく、実際上ある程度のずれは許容される。イオンビーム計測装置10をイオン注入装置に適用する場合における典型的なイオンビーム14に吸収エネルギーを与えるためには、測定ビーム源20として例えば原子吸光分析法などで用いられている光源が望ましい。
【0031】
また、イオンビーム14による測定ビーム12の回折、反射、または散乱による測定ビーム12の強度変化を測定する態様においては、イオンビーム14の好ましい波長は特定波長または特定の狭帯域には必ずしも制限されない。この場合、測定ビーム12は任意に選択された波長または波長域を有してもよい。
【0032】
一実施例においては、基準となる参照信号S2を生成するために、イオンビーム14には照射されない参照ビーム30を付加することが好ましい。そのために、イオンビーム計測装置10は、参照ビーム30を発するための参照ビーム源と、参照ビーム30を検出するための参照ビーム検出器と、をさらに備えてもよい。参照ビーム源及び参照ビーム検出器はそれぞれ、測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22と同様の構成を備えてもよい。
【0033】
参照ビーム30は測定ビーム12と同一源すなわち測定ビーム源20から放射されてもよい。ビーム源(例えばレーザ光源)から放射されるビームは、仕様の上では均一強度の放射が可能とされていても実際上は時間的にいくらか変動し得る。例えばごく短時間においてビーム強度は揺らぎ得るし、あるいは長期的にもビーム強度は変化し得る。そのため、測定ビーム12と同一源から放射されイオンビーム14を経由しない参照ビーム30と測定ビーム12を対照することにより、そうしたビーム強度の揺らぎまたは経時的変化による計測への影響を軽減または補償することができる。
【0034】
図1に示す一実施例においては、ビーム光学系24は、測定ビーム源20から放射された測定ビーム12から参照ビーム30を分割するためのビームスプリッタ32を備える。ビームスプリッタ32は、測定ビーム12の経路において測定ビーム源20と測定ビーム12のイオンビーム照射位置34との間に設けられており、例えば測定ビーム源20の出射ビームを直接受けるよう測定ビーム源20に対向して配置されている。測定ビーム源20の出射ビームのうち一部が測定ビーム12としてビームスプリッタ32で反射(または透過)され、残りが参照ビーム30としてビームスプリッタ32で透過(または反射)される。
【0035】
ビームスプリッタ32は例えばハーフミラーであり、その場合測定ビーム12と参照ビーム30とは等しい強度をもつ。図示の例では、測定ビーム源20からy方向に出射されたビームの半分がそのままy方向に参照ビーム30としてハーフミラーを直進し、残りの半分が測定ビーム12としてハーフミラーにてz方向に折り曲げられる。もしくはイオンビーム14が照射される前に測定ビーム12と参照ビーム30とで信号が等しくなるように測定ビーム検出器22または演算処理ユニット26で校正を行う。
【0036】
ビーム光学系24は、入射ビームを90度折り曲げて反射するための第1折り曲げミラー36を含む。第1折り曲げミラー36は、ビームスプリッタ32でz方向に折り曲げられた測定ビーム12を再びy方向へと反射するようビームスプリッタ32に対向して配置されている。第1折り曲げミラー36で反射された測定ビーム12は、被処理物16のイオンビーム照射側を直進しイオンビーム14を経由して測定ビーム検出器22に入射する。
【0037】
ビーム光学系24は、入射ビームを90度折り曲げて反射するための第2折り曲げミラー38及び第3折り曲げミラー40を更に含む。参照ビーム30はイオンビーム14を迂回するために被処理物16のイオンビーム非照射側を進む。第2折り曲げミラー38は、ビームスプリッタ32をy方向に直進した参照ビーム30をz方向へと反射するようビームスプリッタ32に対向して配置されている。第3折り曲げミラー40は、第2折り曲げミラー38でz方向に折り曲げられた参照ビーム30を再びy方向へと反射するよう第2折り曲げミラー38に対向して配置されている。第3折り曲げミラー40で反射された参照ビーム30は、測定ビーム検出器22に入射する。
【0038】
このようにしてビーム光学系24は被処理物16を囲む概ね矩形のビーム経路を提供し、その矩形の対角線上に測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22が配置されている。処理室18には気体分子がその真空度に応じた密度で存在する。測定ビーム12はこうした気体分子によっても影響を受け、例えば強度が低下する。ビーム光学系24により、測定ビーム12と参照ビーム30とはビーム源から実質的に等しい距離のビーム経路を経て検出器に到達する。そのため、参照ビーム30を基準として用いることにより、真空中に存在するガスの計測への影響を軽減または補償することができる。
【0039】
なお、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路長さを合わせるための図示のビーム光学系24の構成は例示にすぎないことは明らかであり、種々の構成が可能である。測定ビーム12へのガスの影響が十分に小さいと評価することができる場合には、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路長さは異なっていてもよい。また、十分に均一な強度でビームを放射可能であるビーム源を採用することができる場合には、参照ビーム源は測定ビーム源20とは別個のビーム源であってもよい。
【0040】
参照ビーム検出器は、参照ビーム30の入射を受けて参照ビーム30の例えば強度に関連する参照信号S2を出力するよう構成されている。図示の例においては参照ビーム検出器は測定ビーム検出器22に組み込まれている。測定ビーム検出器22は、少なくとも2つの入出力系統を備えており、そのうち1つにより測定ビーム12を受け付けて検出信号S1を出力し、他の1つにより参照ビーム30を受け付けて参照信号S2を出力する。他の一実施例においては、測定ビーム源20はビームの例えば強度検出機能を有しているか、または測定ビーム源20はビーム検出器を内部または近傍に備えていてもよく、測定ビーム源20またはビーム検出器はその検出信号を参照信号S2として出力してもよい。
【0041】
演算処理ユニット26は、参照信号S2を受信可能に参照ビーム検出器に接続されており、検出信号S1と参照信号S2とに基づいてイオンビーム量を演算してもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1を参照信号S2と対照することによりイオンビーム量に変動が生じたか否かを判定してもよい。演算処理ユニット26は例えば、検出信号S1と参照信号S2との差、または検出信号S1と参照信号S2との比を演算してもよい。こうして得られた信号差S1−S2または信号比S1/S2はイオンビーム量についての相対的な指標を提供する。演算処理ユニット26は、予め定められている許容範囲に演算結果が含まれるか否かを判定してもよい。許容範囲外にあると判定された場合には、演算処理ユニット26は、警告を出力してもよい。
【0042】
イオンビーム14が走査される一実施例においては、演算処理ユニット26は、イオンビーム14の走査のためのイオンビーム走査制御部(図示せず)からイオンビーム14の走査位置を表す走査位置情報の入力を受けるよう構成されていてもよい。演算処理ユニット26は、ある時点におけるイオンビーム走査位置情報とその時点の検出信号S1とを関連付けることにより、検出信号S1の得られたイオンビーム走査位置を特定してもよい。このようにすれば、イオンビーム14に変動が生じた走査位置を求めることができる。
【0043】
イオンビーム計測装置10の動作を説明する。測定ビーム源20から放射された測定ビーム12はビーム光学系24によりイオンビーム照射位置34へと案内される。イオンビーム14に照射された測定ビーム12は測定ビーム検出器22に入射する。測定ビーム検出器22は測定ビーム12の入射を受けて検出信号S1を生成し演算処理ユニット26に出力する。
【0044】
測定ビーム12は主としてイオンビーム14の作用により強度が低下する。また測定ビーム12の強度は測定ビーム源20のビーム放射の安定性及び処理室18におけるガスの存在などの計測系に付随する要因にも影響を受ける。イオンビーム照射位置34に十分な強さのイオンビーム14が存在する場合には、こうした付随的要因に起因するビーム強度低下を上回る強度低下を表す検出信号S1を得ることができる。付随的要因によるイオンビーム強度低下を超えるしきい値を実験的にまたは経験的に予め定めることができる。よって、そのしきい値と検出信号S1とを対照することにより、ビーム強度低下の有無を判定することができる。イオンビーム14の強度が明らかに低下するのは例えば、イオンビーム14が偶発的に点滅または消滅した場合である。よって、少なくともイオンビーム14の偶発的な点滅または消滅を捉えることができる。
【0045】
参照ビーム30もまた測定ビーム源20から放射され、測定ビーム12と実質的に等距離の光路を経て測定ビーム検出器22に入射する。測定ビーム検出器22は参照ビーム30の入射を受けて参照信号S2を生成し演算処理ユニット26に出力する。参照ビーム30は上記の付随的要因の影響を、測定ビーム12と同様に受けていると評価することができる。そのため、参照信号S2を用いることにより検出信号S1から付随的要因の影響を除去することが可能となる。
【0046】
このようにして、第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10によれば、イオンビーム14に相互作用を生じる測定用の放射(例えば電磁波、または光)を使用して、イオンビーム14を被処理物16に照射しながら非接触に計測することができる。一実施例においては、測定用の放射は、測定ビームである。一実施例においては測定用の放射は、電磁波のビームである。
【0047】
ところで、パルスイオンビームについては例えばパルスによって生じるイオンビーム周囲での磁場変化からイオンビームを非接触に検知するという別の手法も考えられる。しかし、連続的に放射されるイオンビームについては磁場が定常化し得るから、そうした検知は必ずしも適さない。イオンビーム計測装置10による計測は、パルスイオンビームに限らず連続的なイオンビーム14にも適用できるという点で特に好ましい。
【0048】
図2は、イオンビーム計測装置10に係る第1変形例を示す図である。図1に示す例においては参照ビーム30を被処理物16のイオンビーム非照射側に迂回させたのに対し、図2には、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路を被処理物16のイオンビーム照射側にとる構成例を示す。なお図1はyz面を示すのに対し、図2はxy面を示していることに留意されたい。
【0049】
図2には、被処理物16へのイオンビーム照射エリア42が示されている。イオンビーム照射エリア42は例えばイオンビーム14(図1参照)の走査範囲を示す。またはイオンビーム照射エリア42は、長手方向(図2においてはy方向)に延びるビーム断面をもつリボン状イオンビーム(または長尺ビームとも呼ばれる)であってもよい。被処理物16は例えば円形の基板であり、その輪郭を破線で図示する。被処理物16は円形基板には限られず、その他の形状例えば矩形の基板であってもよいし、必ずしも板状の部材でなくてもよく任意の三次元形状のイオンビーム照射対象であってもよい。
【0050】
なお、以下ではリボンビームとの対比のために通常のイオンビーム14をスポットビームと呼ぶこともあるが、これはリボンビームとの比較においてビーム断面がスポット状であることを意味するにすぎず、イオンビーム14が特定のビーム断面形状を有することを限定するものではない。
【0051】
この変形例においては、イオンビーム照射エリア42及びイオンビーム進行方向であるz方向により定まるイオンビーム面において測定ビーム12がイオンビームに照射される。イオンビーム面は、スポットビームのビーム径に応じた厚さをもつビーム照射領域である。その一方、参照ビーム30は被処理物16のイオンビーム照射側においてそのイオンビーム面の面外を迂回する。図示されるように、測定ビーム源20から発せられた測定ビーム12は、ビーム光学系24のビームスプリッタ及びイオンビーム照射エリア42を経由して測定ビーム検出器22へと直線的に入射する。また、測定ビーム源20から発せられビーム光学系24のビームスプリッタにて分岐された参照ビーム30は、ビーム光学系24のミラーで反射されて測定ビーム検出器22へと入射する。このようにしても、参照ビーム30を測定ビーム12と同一源から供給するとともに、測定ビーム12と参照ビーム30とを実質的に等しい距離を経て検出器に到達させることができる。
【0052】
また、図示されるように、イオンビーム照射エリア42の長手方向の寸法を被処理物16の当該方向の幅に収めることも可能である。例えば典型的なイオン注入装置においては被処理物16の片側または両側に接触式検出器(例えばファラデーカップ)が設けられており、この接触式検出器にイオンビームを照射することが事実上必須とされている。そのため、イオンビームの照射エリアは被処理物16の幅よりも長くする必要がある。ところが、本発明の一実施例によればそうした制約を受けずにイオンビーム照射エリア42を被処理物16の照射されるべき領域に合わせて小さくすることができる。こうして、本発明の一実施例によればスループットの向上及びイオン材料の消費量低減が実現される。
【0053】
図3は、イオンビーム計測装置10に係る第2変形例を示す図である。既述の実施例においては測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とがイオンビーム14の入射経路を挟んで互いに向き合って配置されているが、本発明の実施例はこれに限られない。測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とはイオンビーム14に関して同じ側に例えば隣接して配置されていてもよい。また、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置は1箇所には限られず、複数箇所であってもよい。
【0054】
図3に示されるように、ビーム光学系24は入射ビームを入射方向と逆向きに反射するための折り返しミラーを備える。測定ビーム源20から出た測定ビーム12はイオンビーム14を通過してビーム光学系24の折り返しミラーに入射する。折り返しミラーでの反射により測定ビーム12は逆方向へと向けられて、再度イオンビーム14を通過する。こうして測定ビーム12は測定ビーム検出器22に入射する。同様にして測定ビーム12の経路を蛇行させることにより、測定ビーム12のイオンビーム14との交差回数をさらに増やすことができる。測定ビーム12のイオンビーム14との交差回数を増やすことにより、測定ビーム12がイオンビーム14から受ける作用を強くすることができる。
【0055】
なお上述のように参照ビームを適用することは本発明においては必須ではないが、この第2変形例に参照ビームを加える場合には、例えば上述の第1変形例と同様にイオンビーム面(例えばyz面)の面外に参照ビームの経路を定めてもよい。参照ビームの経路は例えば、イオンビーム面からx方向に距離Δx離れた平行面内を測定ビーム12と同様に蛇行する経路とすることができる。測定ビーム12から参照ビームを隔てるために、距離Δxは例えばイオンビーム径に相当する距離であることが好ましい。
【0056】
図4は、イオンビーム計測装置10に係る第3変形例を示す図である。測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22の少なくとも一方は、照射室または処理室18の外部に設けられていてもよい。外部に設けられている測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22の少なくとも一方は、測定ビーム12を伝達するための導光部材44により照射室または処理室18に接続されていてもよい。同様に、参照ビーム源及び参照ビーム検出器の少なくとも一方は、参照ビーム30を伝達するための導光部材44を介して照射室または処理室18の外部に設けられていてもよい。導光部材44は例えば、照射室または処理室18の壁面またはその近傍に設けられている受光部(例えば窓部)と、受光部で受光したビームを検出器に導くための光ファイバと、を備えてもよい。
【0057】
図4に示される実施例においては、測定ビーム検出器22及び参照ビーム検出器46が処理室18の外部に設けられている。測定ビーム検出器22と参照ビーム検出器46とは別個の検出器とされていてもよい。こうしてビーム検出器を処理室18の外部に配置し、イオンビーム14から離すことにより、検出信号S1及び参照信号S2に生じ得るノイズの低減が期待される。なお参照ビーム30は例えば図2に示す第1変形例と同様にイオンビーム面の面外に迂回しており、これを模式的に破線で示す。
【0058】
また、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14の入射を受けてイオンビームを計測する接触式の計測器、例えばイオンビーム14のビーム電流を表すビーム電流信号S3を出力するファラデーカップ48を備えてもよい。ファラデーカップ48は例えば、被処理物16の片側または両側に配置される。ファラデーカップ48の出力するビーム電流信号S3は例えば、検出信号S1及び参照信号S2と同様に演算処理ユニット26に入力されてもよい。そのために、イオンビーム14はファラデーカップ48の検出面へと走査されてもよい。接触式の計測器(例えばファラデーカップ48)は、本明細書に記載する他の実施例にも適用してもよい。
【0059】
演算処理ユニット26はビーム電流信号S3を用いて、検出信号S1及び参照信号S2に基づく計測結果を校正してもよい。校正処理は例えば、あるビーム電流範囲にわたってビーム電流信号S3と検出信号S1及び参照信号S2とを予め関連付けることを含んでもよい。演算処理ユニット26はその関係を使用して、検出信号S1及び参照信号S2からイオンビーム14のビーム電流を求めてもよい。なおこの場合、ビーム電流信号S3を用いて校正処理をすることができるから、参照ビーム30及び参照信号S2は省略されてもよい。
【0060】
図5及び図6は、イオンビーム計測装置10に係る第4変形例を示す図である。イオンビーム14がプラズマ状態にあるときイオンビーム14はその電子密度に応じた固有のプラズマ周波数をもつ。このときイオンビーム14は、電離層による電波反射と同様の現象により、照射される電磁波を吸収、屈折、反射、または透過する。例えば照射される電磁波の周波数がイオンビーム14のプラズマ周波数より小さい場合にはその電磁波の少なくとも一部がイオンビーム14により反射され、逆に電磁波の周波数がイオンビーム14のプラズマ周波数より大きい場合にはその電磁波の少なくとも一部がイオンビーム14を透過することができる。
【0061】
よって、測定ビーム源20は、イオンビーム14のプラズマ周波数に応じて反射または透過する指向性をもつ電磁波を発する電磁波源、例えばミリ波源またはマイクロ波源であってもよい。測定ビーム検出器22は、測定ビーム源20の放射する電磁波を受信するための受信機であってもよい。こうした受信機は、図5及び図6に示されるように、測定ビーム12がイオンビーム14に反射して到達する位置及び透過して到達する位置の少なくとも一方に配置される。なお、測定ビーム源20としての発信源と測定ビーム検出器22としての受信機との間に適切な光学系または中継器が設けられていてもよい。既述の実施例と同様に参照ビーム系が付加されてもよい。
【0062】
図5は測定ビーム12がイオンビーム14を透過する状態を示し、図6は測定ビーム12がイオンビーム14に反射される状態を示す。この場合、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は主として、イオンビーム14による測定ビーム12の反射、または透過である。測定ビーム12の周波数は、イオンビーム14の所望の電流密度に相当するプラズマ周波数に設定される。このビーム電流密度は例えば、被処理物16への照射のために有効と許容される範囲から選択され、例えばそうした許容範囲の下限値とされる。測定ビーム12の周波数は例えば10MHz乃至10GHzの範囲から選択される。測定ビーム12のイオンビーム14への入射角度は、イオンビーム14により測定ビーム12の全反射が生じるよう定めることが好ましい。
【0063】
図5に示すように、測定ビーム源20から放射された測定ビーム12は、イオンビーム14に例えば斜めに入射する。イオンビーム14の電流密度に相当するプラズマ周波数が測定ビーム12の周波数よりも小さい場合には、図示されるように、測定ビーム12は測定ビーム検出器22に到達する。測定ビーム検出器22は測定ビーム12の受信強度に応じた検出信号S1を出力する。
【0064】
また、図6に示すように、イオンビーム14の電流密度に相当するプラズマ周波数が測定ビーム12の周波数よりも大きい場合には、測定ビーム12はイオンビーム14により反射される。測定ビーム12の少なくとも一部またはすべてが測定ビーム検出器22には到達しない。よって、測定ビーム検出器22の出力する検出信号S1は図5の状態に比べて大きく低下する。こうして、有効な強度をもつイオンビーム14が照射されているか否かを検出信号S1に基づいて検知することができる。なお、図6に破線で示されるように、測定ビーム検出器22は反射されたイオンビーム14を受ける位置に配置されていてもよい。
【0065】
イオンビーム計測装置10は、プラズマシャワー50を備えてもよい。プラズマシャワー50は、イオンビーム14のビームラインにおいて測定ビーム12のイオンビーム照射位置34よりも上流に設けられていてもよい。プラズマシャワー50は、イオンビーム14のイオンによる電場を中和するために低エネルギー電子をイオンビーム14に供給する公知の構成要素である。プラズマシャワー50を設けることによりイオンビーム14がプラズマ状態にあることを保証することが可能となる。
【0066】
図7及び図8は、イオンビーム計測装置10に係る第5変形例を示す図である。イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14のビームラインに沿って複数の測定ビーム検出器を備えてもよい。言い換えれば、測定ビーム源20はイオンビーム14の進行方向に沿って複数の位置に測定ビームを照射してもよい。そのためにイオンビーム計測装置10は、複数の測定ビーム源20を備えてもよい。イオンビーム計測装置10は、複数の測定ビーム検出器の検出結果からイオンビーム14の輸送効率を計測してもよい。測定ビーム検出器は既述の実施例に関連して述べた測定ビーム検出器22であってもよい(例えば図1参照)。
【0067】
図7に示す一実施例においては、単一の測定ビーム源20から放射された共通のビームがビーム光学系24により、参照ビーム30、第1測定ビーム52、及び第2測定ビーム54に分割される。参照ビーム30はイオンビーム14を迂回し、第1測定ビーム52及び第2測定ビーム54はイオンビーム14に照射される。第1測定ビーム52は第2測定ビーム54よりも下流側でイオンビーム14に照射される。
【0068】
イオンビーム14に照射された第1測定ビーム52、第2測定ビーム54はそれぞれ、第1ビーム検出器56、第2ビーム検出器58により検出される。参照ビーム30は参照ビーム検出器46により検出される。第1ビーム検出器56、第2ビーム検出器58はそれぞれ第1検出信号S1−1、第2検出信号S1−2を出力する。参照ビーム検出器46は参照信号S2を出力する。第1検出信号S1−1、第2検出信号S1−2、及び参照信号S2は演算処理ユニット26に入力される。演算処理ユニット26は入力信号に基づいて計測結果を演算し、必要に応じて出力する。
【0069】
図8に示す一実施例においては、測定ビーム及び参照ビームの組がイオンビーム14のビームライン60に沿って複数設けられている。イオンビーム計測装置10は、第1測定ビーム52及び第1参照ビーム62を与えるための第1ビーム源66と、第1測定ビーム52及び第1参照ビーム62を受け取るための第1ビーム検出器56と、を備える。また、イオンビーム計測装置10は、第2測定ビーム54及び第2参照ビーム64を与えるための第2ビーム源68と、第2測定ビーム54及び第2参照ビーム64を受け取るための第2ビーム検出器58と、を備える。
【0070】
第1ビーム検出器56は第1検出信号S1−1及び第1参照信号S2−1を出力し、第2ビーム検出器58は第2検出信号S1−2及び第2参照信号S2−2を出力する。これらの出力信号は演算処理ユニット26に入力され、演算処理ユニット26は入力信号に基づいて計測結果を演算し、必要に応じて出力する。
【0071】
図9は、本発明の第2実施形態に係るイオン注入装置100の全体構成を概略的に示す図である。図9にはイオン注入装置100の有する代表的な構成要素を示す。また、図10は、第2実施形態に係るイオン注入装置100の処理室112を示す図である。図10には、ビームラインアセンブリ110からビーム入射方向に処理室112を見たときの概略構成を示す。
【0072】
イオン注入装置100は、元素をイオン化してイオンビーム102を生成し基板(例えば半導体基板)104へと照射することにより、基板104にその元素を注入するイオン注入処理を行うための装置である。図1と同様に説明の便宜上、イオンビーム102の基板104への入射方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。z方向は、ビームラインにおけるイオンビーム102の大局的な進行方向を指すものとする。また、後述するようにイオンビーム102を基板104に対し走査する場合には走査方向をy方向とし、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向と定義する。一実施例においてはyz面は水平面であり、x方向は鉛直方向である。
【0073】
イオン注入装置100は、第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10と共通の測定原理を使用してビームモニタ出力を与えるための非接触式のビームモニタ106を備える。よって、ビームモニタ106は、第1実施形態及びその変形例に係る各種のイオンビーム計測装置10のうちいずれかであってもよい。
【0074】
イオン注入装置100は、イオン源108、ビームラインアセンブリ110、及び処理室112を備える。イオン源108は、注入する元素をイオン化するよう構成されている。ビームラインアセンブリ110は、イオン源108にてイオン化されたイオンのうち基板104に注入すべきイオンを質量によって選別するための質量分析器114と、イオンビーム102を輸送し、加速し、整形し、または走査するためのビーム輸送系116と、を備える。質量分析器114の下流側には所定の質量のイオンからなるイオンビーム102をビーム輸送系116へと通過させるための質量分析スリット118が設けられている。
【0075】
また、ビーム輸送系116は、イオンビーム102を少なくとも一方向(例えばy方向)に走査するためのビームスキャナ120を備える。ビームスキャナ120によるイオンビーム102のy方向の走査可能範囲を矢印138で図示する。
【0076】
処理室112は、イオンビーム102をモニタするためのビームモニタ106を備える。ビームモニタ106は、イオンビーム102に測定ビーム130を作用させ、測定ビーム130を検出することによりイオンビーム102をモニタする。ビームモニタ106は、イオンビーム102に関連するモニタ出力を制御システム128に提供する。ビームモニタ出力は検出信号S1を含む。ビームモニタ106は、参照ビーム132に基づく参照信号S2を制御システム128に提供してもよい。ビームモニタ106は、イオンビーム102に測定ビーム130を照射するための測定ビーム源134と、イオンビーム102に照射された測定ビーム130を検出するための測定ビーム検出器136と、を含む。
【0077】
ビームモニタ106は、ビームラインアセンブリ110に設けられていてもよい。イオン注入装置100はビームラインに沿って複数のビームモニタ106を備えてもよい。
【0078】
処理室112は、接触式のイオンビーム検出器(例えばファラデーカップ)122を備えてもよい。イオンビーム検出器122はビーム電流信号S3を制御システム128に出力してもよい。こうした接触式の検出器を設けることは必須ではない。イオンビーム検出器122は、イオンビーム走査方向に基板104に隣接する位置に配置することが好ましい。イオンビーム検出器122は、基板104の片側(図示の場合)または両側に配置してもよい。イオンビーム検出器122は、計測の必要に応じてビームラインに出し入れされる進退可能な検出器であってもよい。
【0079】
また、イオン注入装置100のイオンビーム計測系は、ビームモニタ106及びイオンビーム検出器122に加えて、任意の計測器をさらに備えてもよい。なお、イオン注入装置100は、制御システム128からの制御指令に応じて、またはビームモニタ106を含むイオンビーム計測系の計測結果に基づいて、イオンビーム102をビームラインの中途で遮断するためのビームシャッタ(図示せず)を備えてもよい。
【0080】
また、処理室112は、基板104を支持するための基板支持部124を備える。基板104は基板支持部124に支持されて処理室112に収容されている。基板支持部124は、基板104をイオンビーム102に対し移動させるためのいわゆるメカニカルスキャン系として構成され、基板104を保持するためのテーブルまたはプラテンと、そのテーブルまたはプラテンを移動するための駆動機構と、を含む。メカニカルスキャン系は例えば、イオンビーム進行方向(z方向)及び走査方向(y方向)に垂直な方向(x方向)の走査範囲に基板104を往復移動させるよう構成されている。こうした一方向のビームスキャンとその垂直方向へのメカニカルスキャンとを組み合わせるスキャン方式はハイブリッドスキャンと呼ばれることもある。
【0081】
図10に示されるように、基板104には断面がスポット状のイオンビーム102が照射される。上述のようにイオンビーム102はy方向に走査され、基板104はx方向に機械的に走査される。イオンビーム102の走査範囲138において基板104の両側にイオンビーム検出器122が設けられている。イオンビーム検出器122は、基板104の周縁部外方に走査されたイオンビーム102に計測が制限される。これに対して、ビームモニタ106は、イオンビーム102が基板104の中心部にあるときにもイオンビーム102を計測することができるという点で有利である。
【0082】
図9及び図10に示されるように、ビームモニタ106は、イオンビーム102の走査方向とイオンビーム102の進行方向とにより定まる走査面に沿って測定ビーム130をイオンビーム102に照射する。測定ビーム130の照射方向が正確に走査面に沿うことは必ずしも要求されない。測定ビーム130の経路はイオンビーム102の走査範囲138を横断するように定められていればよい。図示されるように、測定ビーム源134から発せられた測定ビーム130は、測定ビーム検出器136へと直線的に入射する。このようにして、イオンビーム102の走査位置にかかわらず連続的にイオンビーム102をモニタすることができる。
【0083】
一方、参照ビーム132は、ビーム光学系135によりイオンビーム102の走査面外へと測定ビーム130から分岐されて走査面と平行な面を進み、イオンビーム102を経由せずに測定ビーム検出器136へと入射する。イオンビーム102の走査範囲138の手前で参照ビーム132を測定ビーム130から分岐させるために、ビーム光学系135はイオンビーム走査方向において、測定ビーム源134とイオンビーム走査範囲138の末端であるイオンビーム検出器122との間に設けられている。
【0084】
なおイオン注入装置100はハイブリッドスキャン方式には限られない。イオン注入装置100は例えば、一軸方向にビーム断面が延びるいわゆるリボンビームとその直交方向へのメカニカルスキャンとを組み合わせる走査方式を採用してもよい。あるいは、イオン注入装置100は、スポットビームに対しビーム進行方向に垂直面内で2次元にメカニカルスキャンを行う方式を採用してもよい。いずれの走査方式であってもビームモニタ106は適用可能である。
【0085】
図11は、第2実施形態に係るビームモニタ106の一変形例を示す図である。ビームモニタ106は、複数の測定ビーム源134と複数の測定ビーム検出器136とを備えてもよい。複数の測定ビーム源134はイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。イオンビーム照射エリア139は例えばリボン状のイオンビームのビーム断面に相当する領域である。複数の測定ビーム検出器136は、イオンビーム照射エリア139を挟んで複数の測定ビーム源134に対向してイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。複数の測定ビーム検出器136の各々は、対応する測定ビーム源134からの測定ビーム130を受ける位置に配列されている。これにより、イオンビーム照射エリア139に交差する複数の測定ビーム130がイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。
【0086】
ビームモニタ106は、イオンビーム照射エリア139の複数の位置に測定ビーム130を照射する。それら複数の照射位置は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に並んでいる。各照射位置へは、複数の測定ビーム源134のそれぞれから測定ビーム130が照射される。ビームモニタ106は、それら複数位置に照射された測定ビーム130を複数の測定ビーム検出器136により検出する。複数の測定ビーム検出器136はそれぞれ検出信号S1を制御システム128に出力する。このようにして、イオンビーム照射エリア139におけるイオンビームの長手方向分布を得ることができる。
【0087】
複数の測定ビーム130は、図示の例ではスポット状の測定ビームであるがこれに限られず、イオンビーム照射エリア139の長手方向の長さに相当する幅を持つリボン状または長尺の測定ビームであってもよい。それに対応して、互いに分離された複数の測定ビーム検出器136に代えて、リボン状または長尺の測定ビームを包含する検出領域をもつ一次元検出器アレイを設けてもよい。
【0088】
また、計測対象はリボン状のイオンビームには限られず、イオンビーム照射エリア139を走査するスポットビームの計測のために図11に示すビームモニタ106の構成を採用してもよい。複数の測定ビーム源134及び複数の測定ビーム検出器136は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って可動式である測定ビーム源134及び測定ビーム検出器136であってもよい。この場合、可動式の測定ビーム源134及び測定ビーム検出器136は、測定ビーム130とスポットビームとの交差を継続するようにスポットビームの走査に同期して移動されてもよい。
【0089】
図11に示すビームモニタ106は、図9及び図10に示すビームモニタ106に代えて、図9に示すイオン注入装置100に設けられてもよい。あるいは、図10及び図11に示す構成を組み合わせて得られるビームモニタ106がイオン注入装置100に設けられてもよい。すなわち、ビームモニタ106は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って設けられている複数の測定ビーム源134と複数の測定ビーム検出器136とを備え、さらに、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿うビーム経路をもつ測定ビーム系を備えてもよい。
【0090】
図9及び図10に示すイオン注入装置100はいわゆる枚葉式に構成されている。すなわち、イオン注入装置100は、基板支持部124に一度に一枚の基板104が保持され、一枚ずつイオン注入処理が行われる形式である。なお必ずしも一枚ずつの処理に限られるわけではなく、基板支持部124は2枚以上を同時に保持して少なくとも一方向にメカニカルスキャンを提供するよう構成されていてもよい。また、イオン注入装置100は、多数の基板を回転可能なテーブルに載置して回転させながらイオン注入を多数の基板に同時に行ういわゆるバッチ式に構成されていてもよい。
【0091】
図9に示されるように、イオン注入装置100は、イオン源108、ビームラインアセンブリ110、及び処理室112をイオン注入処理のための所望の真空環境に保つための真空排気系126を備える。真空排気系126は例えば、クライオポンプ等の高真空ポンプと、高真空ポンプの作動圧力まで粗引きをするための粗引きポンプとを備える。
【0092】
また、イオン注入装置100は、例えばイオン源108、質量分析器114、ビーム輸送系116、基板支持部124、及び真空排気系126を制御してイオン注入処理を実行するための制御システム128を備える。制御システム128は、検出信号S1、参照信号S2、及びビーム電流信号S3を含むビーム計測系からの入力信号、メモリに保存されている各種データ、及び操作者からの入力指令等に従って、イオン注入装置100を統括的に制御する。制御システム128は、ビームモニタ106のための専用の制御装置であってもよい。
【0093】
制御システム128は例えば、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を含む任意のハードウエアと、各種演算または制御を実行するためのプログラム等のソフトウエアと、を含んで構成される。制御システム128は、操作者からの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段や、他の装置との通信をするための通信手段、ディスプレイやプリンタ等の出力手段を含んでもよい。
【0094】
制御システム128は、ビームスキャンを制御するためのビームスキャン制御部140と、メカニカルスキャンを制御するためのメカニカルスキャン制御部142と、イオンビームモニタ演算部144と、を含んでもよい。ビームスキャン制御部140、メカニカルスキャン制御部142、及びイオンビームモニタ演算部144の少なくとも1つの要素(例えばイオンビームモニタ演算部144)が他の要素とは別個の制御部を構成していてもよい。ビームスキャン制御部140、メカニカルスキャン制御部142、及びイオンビームモニタ演算部144は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSI等のハードウエア、またはメモリにロードされたプログラム等のソフトウエアによって実現される機能ブロックを示す。これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0095】
イオンビームモニタ演算部144は、検出信号S1、参照信号S2、及びビーム電流信号S3を含むビーム計測系からの入力信号に基づいて、ビームモニタ出力を演算する。ビームモニタ出力は例えば、イオンビーム102のビーム電流、または基板104に注入されるドーズ量である。制御システム128は、イオンビームモニタ演算部144によるビームモニタ出力を保存する。あるいは、制御システム128は必要に応じて、ビームモニタ出力を使用してもよいし、外部に出力してもよい。
【0096】
制御システム128は、ビームモニタ出力に基づいて、基板104へのイオン注入処理中にイオンビーム102に変動が生じたか否かを判定してもよい。当該判定結果に基づいて、制御システム128は、当該基板104へのイオン注入処理について警告を出力してもよい。あるいは、制御システム128は、ビームモニタ出力に基づいて、イオンビーム102のビーム電流または基板104に注入されるドーズ量に変動が生じたビーム照射位置を特定してもよい。
【0097】
イオン注入処理は、処理室112へと入射するイオンビーム102の進行方向に垂直な面内の方向のイオンビーム102と基板104との相対移動を含む。この相対移動は上述のように、イオンビーム102及び基板104の少なくとも一方の走査を含む。よって、制御システム128は例えば、ビームスキャン制御部140とメカニカルスキャン制御部142とを協調して動作させることにより、所与の走査シーケンスに従ってイオンビーム102のビームスキャンと基板104のメカニカルスキャンとを制御する。こうしてイオンビーム断面よりも一般には広いイオンビーム照射領域にわたってイオンビーム102を照射することができる。
【0098】
ここで、走査シーケンスとは基板104上の表面全域またはその一部であるイオンビーム照射領域をイオンビーム102により走査するための手順をいう。走査シーケンスは、制御システム128に操作者により直接入力されて与えられてもよいし、所与のイオン注入処理を実現するよう制御システム128により設定されてもよい。
【0099】
図12は、第2実施形態に係る走査シーケンス150の一実施例を説明するための図である。この走査シーケンス150は、以下に詳述するように、本来的には基板104の外側にイオンビーム102を照射する必要のない枚葉式のイオン注入装置100に好適な走査法を表す。例えばハイブリッドスキャン方式の場合、走査シーケンス150のうち一方向(例えばx方向)の走査はイオンビーム102に対する基板104の移動により行われ、他の一方向(例えばy方向)の走査はイオンビーム102のビームスキャンにより行われる。
【0100】
走査シーケンス150は、走査開始位置152から開始され、走査終了位置154で終了する。走査開始位置152から走査終了位置154まで走査シーケンス150が制御システム128により実行されることにより、基板104上のイオン注入領域(例えば基板104の全域、または、基板104の周縁部を除く領域)の全体またはその一部へのイオンビーム照射が完了する。一実施例においては、制御システム128は、基板104上のイオン注入領域の輪郭または境界の内側をイオンビーム照射領域が占めるように設定された例えば蛇行状の走査シーケンス150を実行してもよい。走査シーケンス150の実行中、イオンビーム102はビームモニタ106により継続してまたは間欠的にモニタされることが好ましい。
【0101】
走査シーケンス150は典型的には、第1方向への少なくとも1回の走査移動とその垂直方向である第2方向への少なくとも1回の走査移動とを含む。通常は図示されるように、走査シーケンス150は、第1方向への複数回の走査移動と第2方向への複数回の走査移動とを含み、第1方向への走査移動と第2方向への走査移動とを交互に含む。その結果として、走査開始位置152から走査終了位置154へと蛇行状の走査経路となる。ハイブリッドスキャンの場合、第1方向のビームスキャンと第2方向のメカニカルスキャンとが交互に繰り返されることになる。
【0102】
一実施例においては、制御システム128は、イオンビーム102のビームスキャンによる走査範囲を基板104のメカニカルスキャン中に変更してもよい。すなわち、あるビームスキャンによる走査範囲と、それに続くメカニカルスキャンを経た次回のビームスキャンによる走査範囲と、を異ならせてもよい。各回のビームスキャンの走査範囲は例えば、基板104上のイオン注入領域の走査方向の幅に基づいて設定されてもよい。このようにして決められた走査シーケンス150の一例が図12に示されている。また、制御の簡単のために、ビームスキャンの走査範囲は、基板104上のイオン注入領域の走査方向の最大幅(例えば円形基板の場合、直径)に基づいて固定値に設定されてもよい。
【0103】
図12には比較のために、典型的なイオン注入処理におけるイオンビームの照射領域160を示す。照射領域160は矩形領域となる。図示されるように、基板104に比べて(すなわち走査シーケンス150の占める領域に比べて)、かなり広い範囲にわたってイオンビームが照射されることがわかる。基板104の外側は、イオン注入という本来の目的からすればイオンビームを照射する必要のない区域である。典型的な構成においてこうした区域にも照射されるのは、毎回のビームスキャンでファラデーカップによりビーム電流を計測するために、ビームスキャン長さがファラデーカップの配置に制約され固定されているからである。
【0104】
よって、第2実施形態に係る走査シーケンス150によれば、必ずしもイオン注入を要しない領域を最小化することができる。好ましくは、イオンビームの照射領域をイオン注入領域に一致させることができる。走査シーケンス150の総走査距離を短くすることができるので、イオン注入処理のスループットを改善することができる。イオン注入不要領域への照射が最小化され、イオン材料の消費も抑制される。
【0105】
走査シーケンス150は、イオンビーム検出器122をイオンビーム102が経由する第1走査と、イオンビーム検出器122を経由せずにイオンビーム102が基板104を走査する第2走査と、を含んでもよい。図12においては第1走査の例を破線で示し、第2走査の例を実線で示す。第1走査はビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方、またはそれら両方を含んでもよい。第2走査もまた上述のように、ビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方、またはそれら両方を含んでもよい。
【0106】
そのために、走査シーケンス150は例えば、イオンビーム検出器122を走査範囲に含む相対的に長距離のビームスキャン156と、イオンビーム検出器122を走査範囲に含まない相対的に短距離のビームスキャン158と、を含んでもよい。長いビームスキャン156は、基板104上のイオン注入領域とイオンビーム検出器122とを走査範囲に含むよう走査距離が定められ、短いビームスキャン158は、基板104上のイオン注入領域のみを走査範囲に含むよう走査距離が定められてもよい。走査シーケンス150は、長いビームスキャン156を少なくとも1回含むようにしてもよい。このようにすれば、ビームモニタ106とイオンビーム検出器122とを併用してイオンビーム102を監視しながらイオン注入処理を行うことができる。
【0107】
なお、他の一実施例においては、走査シーケンス150と同様にして、制御システム128は、リボン状のイオンビームのビーム幅を、基板に照射される位置に応じて変化させてもよい。
【0108】
更なる一実施例においては、制御システム128は、イオンビーム102と基板104との相対位置情報とビームモニタ106の出力とに基づいてイオンビーム102の強度に変動が生じた位置を特定してもよい。制御システム128は、ある時点におけるビームスキャン位置情報とその時点のビームモニタ出力とを関連付けることにより、そのビームモニタ出力が得られたビームスキャン位置を特定してもよい。制御システム128は、ある時点におけるメカニカルスキャン位置情報とその時点のビームモニタ出力とを関連付けることにより、そのビームモニタ出力が得られたメカニカルスキャン位置を特定してもよい。こうして得られたビームスキャン位置情報とメカニカルスキャン位置情報とを総合することにより、制御システム128は、ビームモニタ出力に対応する基板104上のイオンビーム照射位置を特定してもよい。このようにすれば、イオンビーム102に変動が生じたイオンビーム照射位置を求めることができる。
【0109】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0110】
イオンビーム計測装置10に関連する光学素子は、例えばイオンビームに含まれるイオンや、イオンビームが照射された物質からのアウトガス等の汚染粒子によって汚染され得る。汚染により光学素子の例えば透過率または反射率等の光学特性が劣化して、計測に影響を与えることもあり得る。
【0111】
そこで、イオンビーム計測装置10は、光学素子を汚染から保護するための保護手段を備えてもよい。保護手段は、汚染粒子に電気的な斥力を作用させ、保護されるべき光学素子への汚染粒子の接近を妨げるよう構成されていてもよい。また、保護手段は、汚染粒子に電気的な引力を作用させることにより汚染粒子を吸着するよう構成されていてもよい。保護手段は、保護されるべき光学素子の近傍に配設された物理的な障壁を含んでもよい。
【0112】
図13は、一実施形態に係るイオンビーム計測装置10に関連する光学素子のための保護装置70の一例を示す図である。ここでは、保護されるべき光学素子の例として第1折り曲げミラー36を挙げる。保護装置70は、第1折り曲げミラー36に電位を与えるためのバイアス電源72を備える。第1折り曲げミラー36に与えられる電位は、第1折り曲げミラー36の周囲の汚染粒子に電気的な斥力を作用させるよう設定される。例えば、第1折り曲げミラー36への陽イオンの接近を妨げるために、バイアス電源72は第1折り曲げミラー36に正の電位を与える。こうして、第1折り曲げミラー36に与えられた電位と共通の電荷をもつ汚染粒子の接近が妨げられ、第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。ミラー表面の反射率の低下を抑えることができる。
【0113】
保護装置70は、第1折り曲げミラー36を囲む筒状部材74を備える。筒状部材74は、第1折り曲げミラー36を経由する測定ビーム12の経路に沿って設けられている。第1折り曲げミラー36は測定ビーム12を垂直に曲げる光学素子であるため、筒状部材74も同様に垂直な折り曲げ部分を有する管路として形成されている。その折り曲げ部分に第1折り曲げミラー36が収容されている。このようにして、筒状部材74は、第1折り曲げミラー36の近傍領域を画定する。筒状部材74は、第1折り曲げミラー36の近傍に配設された汚染粒子に対する物理的な障壁であるとみなすこともできる。
【0114】
筒状部材74は、第1折り曲げミラー36への測定ビーム12の入射のための入口部分76と、第1折り曲げミラー36からの測定ビーム12の出射のための出口部分78と、を備える。入口部分76及び出口部分78は、測定ビーム12に対する透過性を有するよう構成される。例えば、入口部分76及び出口部分78は、物理的に開放されていてもよいし、測定ビーム12に対し透過性を有する透明部材によって閉じられていてもよい。以下では説明の便宜上、入口部分76及び出口部分78を透過部分76と総称することがある。筒状部材74は、少なくとも1つの透過部分76を備える。
【0115】
保護装置70は、筒状部材74の内部への汚染粒子の進入を妨げるための保護部材80と、保護部材80に電位を与えるためのバイアス電源82と、を備える。保護部材80は、透過部分76(例えば、入口部分76、出口部分78、又は入口部分76及び出口部分78の両方)に設けられている。保護部材80は、透過部分76において測定ビーム12に交わる断面の少なくとも一部を占有する。保護部材80を支持するための支持部材として筒状部材74が設けられている。
【0116】
保護部材80は例えば、透過部分76に設けられた金網である。代案として、保護部材80は、透明導電膜を備える透明部材であってもよい。保護部材80の金網または透明導電膜にバイアス電源82は電位を与えるよう接続されている。
【0117】
バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、汚染粒子に電気的な引力を作用させるよう設定される。例えば、保護部材80へと陽イオンを引きつけるために、バイアス電源82は保護部材80に負の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位とは反対の電荷をもつ汚染粒子が保護部材80に吸着され、筒状部材74への汚染粒子の進入及び第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。
【0118】
代案として、バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、保護部材80に向けて接近する汚染粒子に電気的な斥力を作用させるよう設定されてもよい。例えば、保護部材80への陽イオンの接近を妨げるために、バイアス電源82は保護部材80に正の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位と共通の電荷をもつ汚染粒子の保護部材80への接近が妨げられ、筒状部材74への汚染粒子の進入及び第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。
【0119】
図14は、一実施形態に係るイオンビーム計測装置10に関連する光学素子のための保護装置70の他の一例を示す図である。保護されるべき光学素子の例として、図13に示す例と同様に、第1折り曲げミラー36を挙げる。保護装置70は、筒状部材74の中に少なくとも1つの保護部材80を備える。
【0120】
保護部材80は、第1折り曲げミラー36の近傍に設けられた金属板である。保護部材80は、測定ビーム12の経路から外れた場所に設けられている。図示の例では2つの保護部材80が設けられており、1つの保護部材80が入口部分76から第1折り曲げミラー36に向けて延在しており、もう1つの保護部材80が出口部分78から第1折り曲げミラー36に向けて延在している。
【0121】
バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、汚染粒子に電気的な引力を作用させるよう設定される。例えば、保護部材80へと陽イオンを引きつけるために、バイアス電源82は保護部材80に負の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位とは反対の電荷をもつ汚染粒子が保護部材80に吸着される。保護部材80によって、筒状部材74に進入した汚染粒子の第1折り曲げミラー36への付着が抑制される。
【0122】
保護装置70は、電気的に中性の汚染粒子をイオン化するためのイオン化機構84を備えてもよい。イオン化機構84は例えば、ガスをイオン化するための、フィラメントを有する公知のイオン化機構である。イオン化機構84は、筒状部材74の入口部分76または出口部分78に近接して設けられている。電気的に中性の汚染粒子をイオン化機構84によりイオン化することにより、そうした中性の汚染粒子にも保護部材80の電気的な引力または斥力を作用させることができる。
【0123】
保護装置70が、バイアス電源72、筒状部材74、及び保護部材80を備えることにより、第1折り曲げミラー36を汚染から良好に保護することができる。一方、保護装置70の構成をより簡素にすることが望まれる場合には、保護装置70は、バイアス電源72、筒状部材74、及び保護部材80のうちいずれかを備えなくてもよい。例えば、保護装置70がバイアス電源72を備える場合には、保護装置70は、筒状部材74及び保護部材80を必ずしも備えなくてもよい。また、保護装置70が筒状部材74を備える場合には、保護装置70は、バイアス電源72または保護部材80のいずれかを必ずしも備えなくてもよい。
【0124】
保護装置70によって保護されるべき光学素子は、図13及び図14に例示した第1折り曲げミラー36には限られない。保護装置70は、同様にして、測定ビーム12または参照ビーム30のための任意の光学素子を保護してもよい。保護されるべき光学素子は、測定ビーム12をイオンビーム14に照射するための照射室18に設けられている任意の光学素子であってもよい。あるいは、イオンビーム14の経路の近傍に設けられている任意の光学素子であってもよい。
【0125】
よって、保護装置70は例えば、ビームスプリッタ32、第1折り曲げミラー36、第2折り曲げミラー38、第3折り曲げミラー40の少なくとも1つを保護してもよい。測定ビーム12または参照ビーム30のための光学系がレンズを含む場合には、保護装置70は当該レンズを保護してもよい。また、保護装置70は、照射室18の壁面に設けられている窓部を保護してもよい。窓部は、測定ビーム12または参照ビーム30を照射室18の外部から内部へと入射させるための窓であってもよいし、測定ビーム12または参照ビーム30を照射室18の内部から外部へと出射させるための窓であってもよい。窓部は、外部から照射室18の内部を観察するための窓であってもよい。
【0126】
本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置を備える粒子線治療装置が提供されてもよい。この粒子線治療装置は、イオンビームの照射を受ける被照射体を収容するための治療室、または、被照射体をイオンビームに対し支持するための支持台を備えてもよい。粒子線治療装置は、被照射体へのイオンビームの照射処理を制御するための制御システムを備えてもよい。照射処理は、被照射体に対するイオンビームの照射を(または照射位置を)制御することを含んでもよい。粒子線治療装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームをイオンビームに照射し、イオンビームに照射された測定ビームを検出することにより、イオンビームに関連する出力を制御システムに提供するビームモニタを備えてもよい。一実施例においては粒子線治療装置は陽子線治療装置であり、イオンビームは陽子線ビームであってもよい。
【0127】
また、本発明の一実施形態に係る粒子線治療装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備えるイオンビーム計測装置を備えてもよい。上述のイオンビーム計測装置10及びイオン注入装置100に関連して述べた各種の実施例及び変形例は、粒子線治療装置のためのイオンビーム計測装置、及び粒子線治療装置に適用してもよい。その場合、「被処理物」は「被照射体」と読み替えればよい。
【符号の説明】
【0128】
10 イオンビーム計測装置、 12 測定ビーム、 14 イオンビーム、 20 測定ビーム源、 22 測定ビーム検出器、 24 ビーム光学系、 70 保護装置、 100 イオン注入装置、 102 イオンビーム、 104 基板、 106 ビームモニタ、 112 処理室、 122 イオンビーム検出器、 128 制御システム、 130 測定ビーム、 134 測定ビーム源、 150 走査シーケンス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム計測装置、イオンビームの計測方法、及びそれらを適用しうるイオンビームの照射装置例えばイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物例えば半導体基板に注入すべきイオン種を含むイオンビームをその被処理物に照射してイオン注入をするためのイオン注入装置が知られている。イオン注入装置には一般に、イオンビームの照射を直接受けてビーム計測をするための計測器、例えばファラデーカップが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−262748号公報
【特許文献2】特開2000−11942号公報
【特許文献3】特開平7−153416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたイオンビームの入射を直に受ける方式のいわば接触式のビーム計測は、計測中に計測器がビームを占有することになるから、計測中は被処理物にイオンビームを照射することはできない。同様に、被処理物にイオンビームを照射しているときに計測をすることもできない。そのため、被処理物への照射処理のスループットを高めることとイオンビームの高頻度の計測によるビーム品質の保証とがトレードオフの関係となってしまう。また、被照射物への照射という本来の目的以外に計測のためにイオン材料が余分に消費されてしまう。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオンビームを対象に照射しながら計測することを可能とする、いわば非接触式の計測を提供すること、あるいはそうした計測を適用したイオンビーム照射装置例えばイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、イオン注入装置である。この装置は、被処理物へのイオンビームによるイオン注入処理を制御するための制御システムと、前記イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射し、前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームに関連する出力を前記制御システムに提供するビームモニタと、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、イオンビーム計測装置である。この装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、前記測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、イオンビームの計測方法である。この方法は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームをイオンビームに照射することと、イオンビームに照射された測定ビームを検出することと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非接触式のイオンビーム計測が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の一構成例を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第1変形例を示す図である。
【図3】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第2変形例を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第3変形例を示す図である。
【図5】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第4変形例を示す図である。
【図6】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第4変形例を示す図である。
【図7】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第5変形例を示す図である。
【図8】第1実施形態に係るイオンビーム計測装置の第5変形例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るイオン注入装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図10】第2実施形態に係るイオン注入装置の処理室を示す図である。
【図11】第2実施形態に係るビームモニタの一変形例を示す図である。
【図12】第2実施形態に係る走査シーケンスの一実施例を説明するための図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置に関連する光学素子のための保護装置の一例を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置に関連する光学素子のための保護装置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10の一構成例を模式的に示す図である。イオンビームの入射を直接受ける検出面をもつ接触式の計測器とは異なり、イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12をイオンビーム14に照射することにより非接触式のイオンビーム計測を提供する。言い換えれば、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14の作用した測定ビーム12を検出することにより間接的にイオンビーム14を計測する。イオンビーム14自体の照射を受ける検出器は、イオンビーム計測装置10の必須の構成要素ではない。その測定原理を図1を参照して説明する。
【0013】
イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14を照射するためのイオンビーム照射システム(例えばイオン注入装置や粒子線治療装置)に、イオンビーム14を計測するためのサブシステムとして組み込まれて構成されていてもよい。または、イオンビーム計測装置10は、独立型のいわゆるスタンドアローン型の計測装置として構成されてもよい。
【0014】
図1並びに以下で参照する各図において説明の便宜上、イオンビーム14の進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。後述するようにイオンビーム14を被処理物16に対し走査する場合には走査方向をy方向とし、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向と定義する。イオンビーム14を走査したときにイオンビーム14の中心軸の描く軌跡によって、イオンビーム14の走査面(例えばyz面)が定義される。イオンビーム14は実際にはある大きさのビーム断面をもつから、その大きさの範囲で上下(例えばx方向)に走査面から離れた位置にもイオンビームは照射される。それを考慮に入れると、走査によるイオンビーム14の通過領域は走査面の上下に広がる立体的な領域であると言える。
【0015】
イオンビーム14は被処理物16への照射のために処理室18へと導かれる。一実施例においては、イオンビーム14は被処理物16に連続的に照射される。すなわち、イオンビーム14は、図示しないイオンビーム生成部により所望の目標プロファイル(例えば目標ビーム電流)に従って所望の照射期間連続して生成され被処理物16に照射される。他の一実施例においては、イオンビーム14は、パルスイオンビームであってもよい。
【0016】
イオンビーム計測装置10がイオン注入装置に適用される一実施例においては、被処理物16は半導体基板(例えばシリコンウェーハ)であり、xy面内でイオンビーム14に対し移動可能にまたは静止状態に支持されて処理室18に収容されている。イオンビーム処理のために処理室18は所望の真空状態に保たれており、そのための真空排気装置(例えばクライオポンプまたはその他の真空ポンプ(図示せず))が付設されている。処理室18は例えば真空チャンバまたはプロセスチャンバ等とも呼ばれる。イオン注入装置の場合には処理室18はエンドステーションと呼ばれ、被処理物16はターゲットと呼ばれることもある。
【0017】
なお処理室18に必ずしも被処理物16が収容されていなくてもよく、処理室18は被処理物16に入射すべきイオンビーム14に測定ビーム12を照射するための照射室または計測室として構成されていてもよい。その場合、イオンビーム14の経路に沿って処理室18の下流に被処理物16が配され、処理室18に進入したイオンビーム14は測定ビーム12を経由して処理室18を出射し、被処理物16へと入射してもよい。
【0018】
イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12を発するための測定ビーム源20を備える。測定ビーム12は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる波長または波長域をもつ電磁波である。イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は、イオンビーム14による測定ビーム12の吸収、回折、散乱、反射、及び透過のうち少なくともいずれかを含む。なお、イオンビーム計測装置10で使用される測定のための電磁波は、必ずしもビーム即ち指向性をもつ放射でなくてもよく、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14との間に相互作用を生じる波長または波長域をもつ電磁波を放射する放射源を備えてもよい。
【0019】
一実施例においては、イオンビーム14によって測定ビーム12に生じる相互作用を大きくするために、測定ビーム12のビームスポット(すなわち測定ビーム12の進行方向に垂直な面によるビーム断面)のうちイオンビーム14に照射される領域の割合を大きくする。好ましくは測定ビーム12のスポット径をイオンビーム14の寸法より小さくすることにより、測定ビーム12のビームスポットの全体がイオンビーム14に照射されるようにする。この場合、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置34において測定ビーム12はイオンビーム14に包含される。
【0020】
一方、測定ビーム12のビームスポットが小径である場合には、イオンビーム14の照射位置精度によっては(例えば図1におけるx方向に)照射位置がずれてイオンビーム14が測定ビーム12から外れることも想定される。よって、一実施例においては逆に、測定ビーム12のスポット径をイオンビーム14の寸法より大きくすることにより、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置34においてイオンビーム14が測定ビーム12に包含されるようにしてもよい。このようにすれば、イオンビーム14の照射位置にいくらかの位置ずれが仮に生じても、イオンビーム14と測定ビーム12との交差状態(即ちビーム計測)を継続させやすくなる。
【0021】
イオンビーム計測装置10は、測定ビーム12を検出するための測定ビーム検出器22を備える。測定ビーム検出器22は、測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に照射された測定ビーム12を検出するために設けられている。測定ビーム検出器22は、その検出面に測定ビーム12の入射を受けて検出信号S1を出力するよう構成されている。一実施例においては、測定ビーム検出器22は、測定ビーム12を受光または受信するための受光面または受信機を備える。測定ビーム検出器22は、受光または受信した測定ビーム12の例えば強度に関連する検出信号S1を生成する。
【0022】
一実施例においては、測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とは、測定ビーム12が測定ビーム源20から発せられイオンビーム14に交差して測定ビーム検出器22に入射するよう配置されている。例えば、測定ビーム12が測定ビーム源20からイオンビーム14を通過して測定ビーム検出器22へと直線的なビーム経路をとるように、測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とは、イオンビーム14の入射経路を挟んで互いに向き合って配置されてもよい。あるいは後述するように、イオンビーム計測装置10は、測定ビーム源20から測定ビーム検出器22へと測定ビーム12を伝達するためのビーム光学系24を備えてもよい。
【0023】
図示されるように測定ビーム12はイオンビーム14に直交して照射されてもよいし、あるいは斜めに交差するように照射されてもよい。直交照射の場合にはイオンビーム14の進行方向に比較的コンパクトにイオンビーム計測装置10を配置することが可能となる点で好ましく、斜め照射の場合には測定ビーム12のイオンビーム14への交差長さを大きくすることができるという点で好ましい。
【0024】
一実施例においては、イオンビーム14のビームスポットよりも広範囲に、例えば被処理物16の表面全域または所望のイオンビーム照射領域にイオンビーム14を照射するために、イオンビーム14は少なくとも一方向に走査されてもよい。イオンビーム14の走査のために、イオンビーム走査制御部(図示せず)が設けられていてもよい。例えば図1に矢印28で示されるように、イオンビーム14はy方向に往復移動されてもよい。なおイオンビーム14を走査するとともに、またはそれに代えて、被処理物16がイオンビーム14に対し移動されてもよい。
【0025】
イオンビーム14が走査される一実施例においては、測定ビーム12は、イオンビーム14の走査方向(図1においてはy方向)とイオンビーム14の進行方向(z方向)とにより定まる走査面(yz面)に沿ってイオンビーム14に照射されることが好ましい。測定ビーム12の照射方向が正確に走査面に沿うことは必ずしも要求されない。通常は、測定ビーム12の経路は、走査によるイオンビーム14の通過領域を横断するように定められれば十分である。このようにすれば、イオンビーム14がいずれの走査位置にあるときにも(つまり走査範囲全体にわたって)イオンビーム14に測定ビーム12を照射することができる。すなわち、イオンビーム14の走査移動中に継続してイオンビーム14を計測することができる。
【0026】
イオンビーム計測装置10は、検出信号S1を含む入力信号に基づき計測結果を与えるための演算処理ユニット26を備えてもよい。演算処理ユニット26は、測定ビーム検出器22とは別体に測定ビーム検出器22から検出信号S1を受信可能に設けられていてもよく、例えば公知のパソコン等の演算装置であってもよい。あるいは演算処理ユニット26は、測定ビーム検出器22に一体に搭載されていてもよい。
【0027】
演算処理ユニット26は例えば、検出信号S1に基づきイオンビーム量(例えばビーム電流または注入ドーズ量)の絶対値を演算してもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1に基づきイオンビーム量の基準に対する相対変化量を演算してもよい。演算処理ユニット26は例えば、予め記憶されているイオンビーム量と検出信号S1との関係を表すマップを参照することによりイオンビーム量を求めてもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1またはそこから演算して得た値が予め定められている許容範囲に含まれるか否かを判定してもよい。許容範囲外にあると判定された場合には、演算処理ユニット26は、その判定結果を記憶するか、または警告を出力してもよい。
【0028】
好ましい一実施例においては、測定ビーム源20はレーザ光源であり、測定ビーム検出器22はそのレーザ光を検出可能である検出器(例えばフォトダイオード)である。この場合、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は、イオンビーム14による測定ビーム12の吸収、回折、反射、または散乱である。イオンビーム14への照射位置において測定ビーム12が吸収、回折、反射、または散乱されることにより、イオンビーム14は強度が低下する。イオンビーム14を通過した測定ビーム12の強度は、測定ビーム源20から出た直後に比べて低下する。測定ビーム検出器22は受光した測定ビーム12の強度に応じた検出信号S1を出力する。この測定ビーム12の強度低下はイオンビーム14のイオン密度に相関する。よって、測定ビーム12を検出することによりイオンビーム14の非接触計測が可能となる。物理的な検出素子でイオンビーム14を受光することなく、イオンビーム14を計測することができる。
【0029】
より好ましい一実施例においては、測定ビーム源20として使用されるレーザ光源は、イオンビーム14に含まれるイオン種の吸収波長に一致する波長またはその吸収波長を含む波長域をもつレーザ光を発するレーザ光源である。言い換えれば、波長に応じて定まるレーザ光の光エネルギーがイオンビーム14のイオン種の吸収エネルギーに等しくなるようにレーザ光源が選択される。このとき、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用はイオンビーム14による測定ビーム12の吸収が支配的である。このようにすれば、イオンビーム14への照射前後で測定ビーム12の強度差を比較的大きくすることが可能であり、イオンビーム計測装置10の測定精度を高めることができる。
【0030】
なお、レーザ光の波長はイオンビーム14のイオン種の吸収波長に必ずしも厳密に一致していなくてもよく、実際上ある程度のずれは許容される。イオンビーム計測装置10をイオン注入装置に適用する場合における典型的なイオンビーム14に吸収エネルギーを与えるためには、測定ビーム源20として例えば原子吸光分析法などで用いられている光源が望ましい。
【0031】
また、イオンビーム14による測定ビーム12の回折、反射、または散乱による測定ビーム12の強度変化を測定する態様においては、イオンビーム14の好ましい波長は特定波長または特定の狭帯域には必ずしも制限されない。この場合、測定ビーム12は任意に選択された波長または波長域を有してもよい。
【0032】
一実施例においては、基準となる参照信号S2を生成するために、イオンビーム14には照射されない参照ビーム30を付加することが好ましい。そのために、イオンビーム計測装置10は、参照ビーム30を発するための参照ビーム源と、参照ビーム30を検出するための参照ビーム検出器と、をさらに備えてもよい。参照ビーム源及び参照ビーム検出器はそれぞれ、測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22と同様の構成を備えてもよい。
【0033】
参照ビーム30は測定ビーム12と同一源すなわち測定ビーム源20から放射されてもよい。ビーム源(例えばレーザ光源)から放射されるビームは、仕様の上では均一強度の放射が可能とされていても実際上は時間的にいくらか変動し得る。例えばごく短時間においてビーム強度は揺らぎ得るし、あるいは長期的にもビーム強度は変化し得る。そのため、測定ビーム12と同一源から放射されイオンビーム14を経由しない参照ビーム30と測定ビーム12を対照することにより、そうしたビーム強度の揺らぎまたは経時的変化による計測への影響を軽減または補償することができる。
【0034】
図1に示す一実施例においては、ビーム光学系24は、測定ビーム源20から放射された測定ビーム12から参照ビーム30を分割するためのビームスプリッタ32を備える。ビームスプリッタ32は、測定ビーム12の経路において測定ビーム源20と測定ビーム12のイオンビーム照射位置34との間に設けられており、例えば測定ビーム源20の出射ビームを直接受けるよう測定ビーム源20に対向して配置されている。測定ビーム源20の出射ビームのうち一部が測定ビーム12としてビームスプリッタ32で反射(または透過)され、残りが参照ビーム30としてビームスプリッタ32で透過(または反射)される。
【0035】
ビームスプリッタ32は例えばハーフミラーであり、その場合測定ビーム12と参照ビーム30とは等しい強度をもつ。図示の例では、測定ビーム源20からy方向に出射されたビームの半分がそのままy方向に参照ビーム30としてハーフミラーを直進し、残りの半分が測定ビーム12としてハーフミラーにてz方向に折り曲げられる。もしくはイオンビーム14が照射される前に測定ビーム12と参照ビーム30とで信号が等しくなるように測定ビーム検出器22または演算処理ユニット26で校正を行う。
【0036】
ビーム光学系24は、入射ビームを90度折り曲げて反射するための第1折り曲げミラー36を含む。第1折り曲げミラー36は、ビームスプリッタ32でz方向に折り曲げられた測定ビーム12を再びy方向へと反射するようビームスプリッタ32に対向して配置されている。第1折り曲げミラー36で反射された測定ビーム12は、被処理物16のイオンビーム照射側を直進しイオンビーム14を経由して測定ビーム検出器22に入射する。
【0037】
ビーム光学系24は、入射ビームを90度折り曲げて反射するための第2折り曲げミラー38及び第3折り曲げミラー40を更に含む。参照ビーム30はイオンビーム14を迂回するために被処理物16のイオンビーム非照射側を進む。第2折り曲げミラー38は、ビームスプリッタ32をy方向に直進した参照ビーム30をz方向へと反射するようビームスプリッタ32に対向して配置されている。第3折り曲げミラー40は、第2折り曲げミラー38でz方向に折り曲げられた参照ビーム30を再びy方向へと反射するよう第2折り曲げミラー38に対向して配置されている。第3折り曲げミラー40で反射された参照ビーム30は、測定ビーム検出器22に入射する。
【0038】
このようにしてビーム光学系24は被処理物16を囲む概ね矩形のビーム経路を提供し、その矩形の対角線上に測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22が配置されている。処理室18には気体分子がその真空度に応じた密度で存在する。測定ビーム12はこうした気体分子によっても影響を受け、例えば強度が低下する。ビーム光学系24により、測定ビーム12と参照ビーム30とはビーム源から実質的に等しい距離のビーム経路を経て検出器に到達する。そのため、参照ビーム30を基準として用いることにより、真空中に存在するガスの計測への影響を軽減または補償することができる。
【0039】
なお、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路長さを合わせるための図示のビーム光学系24の構成は例示にすぎないことは明らかであり、種々の構成が可能である。測定ビーム12へのガスの影響が十分に小さいと評価することができる場合には、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路長さは異なっていてもよい。また、十分に均一な強度でビームを放射可能であるビーム源を採用することができる場合には、参照ビーム源は測定ビーム源20とは別個のビーム源であってもよい。
【0040】
参照ビーム検出器は、参照ビーム30の入射を受けて参照ビーム30の例えば強度に関連する参照信号S2を出力するよう構成されている。図示の例においては参照ビーム検出器は測定ビーム検出器22に組み込まれている。測定ビーム検出器22は、少なくとも2つの入出力系統を備えており、そのうち1つにより測定ビーム12を受け付けて検出信号S1を出力し、他の1つにより参照ビーム30を受け付けて参照信号S2を出力する。他の一実施例においては、測定ビーム源20はビームの例えば強度検出機能を有しているか、または測定ビーム源20はビーム検出器を内部または近傍に備えていてもよく、測定ビーム源20またはビーム検出器はその検出信号を参照信号S2として出力してもよい。
【0041】
演算処理ユニット26は、参照信号S2を受信可能に参照ビーム検出器に接続されており、検出信号S1と参照信号S2とに基づいてイオンビーム量を演算してもよい。演算処理ユニット26は、検出信号S1を参照信号S2と対照することによりイオンビーム量に変動が生じたか否かを判定してもよい。演算処理ユニット26は例えば、検出信号S1と参照信号S2との差、または検出信号S1と参照信号S2との比を演算してもよい。こうして得られた信号差S1−S2または信号比S1/S2はイオンビーム量についての相対的な指標を提供する。演算処理ユニット26は、予め定められている許容範囲に演算結果が含まれるか否かを判定してもよい。許容範囲外にあると判定された場合には、演算処理ユニット26は、警告を出力してもよい。
【0042】
イオンビーム14が走査される一実施例においては、演算処理ユニット26は、イオンビーム14の走査のためのイオンビーム走査制御部(図示せず)からイオンビーム14の走査位置を表す走査位置情報の入力を受けるよう構成されていてもよい。演算処理ユニット26は、ある時点におけるイオンビーム走査位置情報とその時点の検出信号S1とを関連付けることにより、検出信号S1の得られたイオンビーム走査位置を特定してもよい。このようにすれば、イオンビーム14に変動が生じた走査位置を求めることができる。
【0043】
イオンビーム計測装置10の動作を説明する。測定ビーム源20から放射された測定ビーム12はビーム光学系24によりイオンビーム照射位置34へと案内される。イオンビーム14に照射された測定ビーム12は測定ビーム検出器22に入射する。測定ビーム検出器22は測定ビーム12の入射を受けて検出信号S1を生成し演算処理ユニット26に出力する。
【0044】
測定ビーム12は主としてイオンビーム14の作用により強度が低下する。また測定ビーム12の強度は測定ビーム源20のビーム放射の安定性及び処理室18におけるガスの存在などの計測系に付随する要因にも影響を受ける。イオンビーム照射位置34に十分な強さのイオンビーム14が存在する場合には、こうした付随的要因に起因するビーム強度低下を上回る強度低下を表す検出信号S1を得ることができる。付随的要因によるイオンビーム強度低下を超えるしきい値を実験的にまたは経験的に予め定めることができる。よって、そのしきい値と検出信号S1とを対照することにより、ビーム強度低下の有無を判定することができる。イオンビーム14の強度が明らかに低下するのは例えば、イオンビーム14が偶発的に点滅または消滅した場合である。よって、少なくともイオンビーム14の偶発的な点滅または消滅を捉えることができる。
【0045】
参照ビーム30もまた測定ビーム源20から放射され、測定ビーム12と実質的に等距離の光路を経て測定ビーム検出器22に入射する。測定ビーム検出器22は参照ビーム30の入射を受けて参照信号S2を生成し演算処理ユニット26に出力する。参照ビーム30は上記の付随的要因の影響を、測定ビーム12と同様に受けていると評価することができる。そのため、参照信号S2を用いることにより検出信号S1から付随的要因の影響を除去することが可能となる。
【0046】
このようにして、第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10によれば、イオンビーム14に相互作用を生じる測定用の放射(例えば電磁波、または光)を使用して、イオンビーム14を被処理物16に照射しながら非接触に計測することができる。一実施例においては、測定用の放射は、測定ビームである。一実施例においては測定用の放射は、電磁波のビームである。
【0047】
ところで、パルスイオンビームについては例えばパルスによって生じるイオンビーム周囲での磁場変化からイオンビームを非接触に検知するという別の手法も考えられる。しかし、連続的に放射されるイオンビームについては磁場が定常化し得るから、そうした検知は必ずしも適さない。イオンビーム計測装置10による計測は、パルスイオンビームに限らず連続的なイオンビーム14にも適用できるという点で特に好ましい。
【0048】
図2は、イオンビーム計測装置10に係る第1変形例を示す図である。図1に示す例においては参照ビーム30を被処理物16のイオンビーム非照射側に迂回させたのに対し、図2には、測定ビーム12及び参照ビーム30の経路を被処理物16のイオンビーム照射側にとる構成例を示す。なお図1はyz面を示すのに対し、図2はxy面を示していることに留意されたい。
【0049】
図2には、被処理物16へのイオンビーム照射エリア42が示されている。イオンビーム照射エリア42は例えばイオンビーム14(図1参照)の走査範囲を示す。またはイオンビーム照射エリア42は、長手方向(図2においてはy方向)に延びるビーム断面をもつリボン状イオンビーム(または長尺ビームとも呼ばれる)であってもよい。被処理物16は例えば円形の基板であり、その輪郭を破線で図示する。被処理物16は円形基板には限られず、その他の形状例えば矩形の基板であってもよいし、必ずしも板状の部材でなくてもよく任意の三次元形状のイオンビーム照射対象であってもよい。
【0050】
なお、以下ではリボンビームとの対比のために通常のイオンビーム14をスポットビームと呼ぶこともあるが、これはリボンビームとの比較においてビーム断面がスポット状であることを意味するにすぎず、イオンビーム14が特定のビーム断面形状を有することを限定するものではない。
【0051】
この変形例においては、イオンビーム照射エリア42及びイオンビーム進行方向であるz方向により定まるイオンビーム面において測定ビーム12がイオンビームに照射される。イオンビーム面は、スポットビームのビーム径に応じた厚さをもつビーム照射領域である。その一方、参照ビーム30は被処理物16のイオンビーム照射側においてそのイオンビーム面の面外を迂回する。図示されるように、測定ビーム源20から発せられた測定ビーム12は、ビーム光学系24のビームスプリッタ及びイオンビーム照射エリア42を経由して測定ビーム検出器22へと直線的に入射する。また、測定ビーム源20から発せられビーム光学系24のビームスプリッタにて分岐された参照ビーム30は、ビーム光学系24のミラーで反射されて測定ビーム検出器22へと入射する。このようにしても、参照ビーム30を測定ビーム12と同一源から供給するとともに、測定ビーム12と参照ビーム30とを実質的に等しい距離を経て検出器に到達させることができる。
【0052】
また、図示されるように、イオンビーム照射エリア42の長手方向の寸法を被処理物16の当該方向の幅に収めることも可能である。例えば典型的なイオン注入装置においては被処理物16の片側または両側に接触式検出器(例えばファラデーカップ)が設けられており、この接触式検出器にイオンビームを照射することが事実上必須とされている。そのため、イオンビームの照射エリアは被処理物16の幅よりも長くする必要がある。ところが、本発明の一実施例によればそうした制約を受けずにイオンビーム照射エリア42を被処理物16の照射されるべき領域に合わせて小さくすることができる。こうして、本発明の一実施例によればスループットの向上及びイオン材料の消費量低減が実現される。
【0053】
図3は、イオンビーム計測装置10に係る第2変形例を示す図である。既述の実施例においては測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とがイオンビーム14の入射経路を挟んで互いに向き合って配置されているが、本発明の実施例はこれに限られない。測定ビーム源20と測定ビーム検出器22とはイオンビーム14に関して同じ側に例えば隣接して配置されていてもよい。また、測定ビーム12のイオンビーム14への照射位置は1箇所には限られず、複数箇所であってもよい。
【0054】
図3に示されるように、ビーム光学系24は入射ビームを入射方向と逆向きに反射するための折り返しミラーを備える。測定ビーム源20から出た測定ビーム12はイオンビーム14を通過してビーム光学系24の折り返しミラーに入射する。折り返しミラーでの反射により測定ビーム12は逆方向へと向けられて、再度イオンビーム14を通過する。こうして測定ビーム12は測定ビーム検出器22に入射する。同様にして測定ビーム12の経路を蛇行させることにより、測定ビーム12のイオンビーム14との交差回数をさらに増やすことができる。測定ビーム12のイオンビーム14との交差回数を増やすことにより、測定ビーム12がイオンビーム14から受ける作用を強くすることができる。
【0055】
なお上述のように参照ビームを適用することは本発明においては必須ではないが、この第2変形例に参照ビームを加える場合には、例えば上述の第1変形例と同様にイオンビーム面(例えばyz面)の面外に参照ビームの経路を定めてもよい。参照ビームの経路は例えば、イオンビーム面からx方向に距離Δx離れた平行面内を測定ビーム12と同様に蛇行する経路とすることができる。測定ビーム12から参照ビームを隔てるために、距離Δxは例えばイオンビーム径に相当する距離であることが好ましい。
【0056】
図4は、イオンビーム計測装置10に係る第3変形例を示す図である。測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22の少なくとも一方は、照射室または処理室18の外部に設けられていてもよい。外部に設けられている測定ビーム源20及び測定ビーム検出器22の少なくとも一方は、測定ビーム12を伝達するための導光部材44により照射室または処理室18に接続されていてもよい。同様に、参照ビーム源及び参照ビーム検出器の少なくとも一方は、参照ビーム30を伝達するための導光部材44を介して照射室または処理室18の外部に設けられていてもよい。導光部材44は例えば、照射室または処理室18の壁面またはその近傍に設けられている受光部(例えば窓部)と、受光部で受光したビームを検出器に導くための光ファイバと、を備えてもよい。
【0057】
図4に示される実施例においては、測定ビーム検出器22及び参照ビーム検出器46が処理室18の外部に設けられている。測定ビーム検出器22と参照ビーム検出器46とは別個の検出器とされていてもよい。こうしてビーム検出器を処理室18の外部に配置し、イオンビーム14から離すことにより、検出信号S1及び参照信号S2に生じ得るノイズの低減が期待される。なお参照ビーム30は例えば図2に示す第1変形例と同様にイオンビーム面の面外に迂回しており、これを模式的に破線で示す。
【0058】
また、イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14の入射を受けてイオンビームを計測する接触式の計測器、例えばイオンビーム14のビーム電流を表すビーム電流信号S3を出力するファラデーカップ48を備えてもよい。ファラデーカップ48は例えば、被処理物16の片側または両側に配置される。ファラデーカップ48の出力するビーム電流信号S3は例えば、検出信号S1及び参照信号S2と同様に演算処理ユニット26に入力されてもよい。そのために、イオンビーム14はファラデーカップ48の検出面へと走査されてもよい。接触式の計測器(例えばファラデーカップ48)は、本明細書に記載する他の実施例にも適用してもよい。
【0059】
演算処理ユニット26はビーム電流信号S3を用いて、検出信号S1及び参照信号S2に基づく計測結果を校正してもよい。校正処理は例えば、あるビーム電流範囲にわたってビーム電流信号S3と検出信号S1及び参照信号S2とを予め関連付けることを含んでもよい。演算処理ユニット26はその関係を使用して、検出信号S1及び参照信号S2からイオンビーム14のビーム電流を求めてもよい。なおこの場合、ビーム電流信号S3を用いて校正処理をすることができるから、参照ビーム30及び参照信号S2は省略されてもよい。
【0060】
図5及び図6は、イオンビーム計測装置10に係る第4変形例を示す図である。イオンビーム14がプラズマ状態にあるときイオンビーム14はその電子密度に応じた固有のプラズマ周波数をもつ。このときイオンビーム14は、電離層による電波反射と同様の現象により、照射される電磁波を吸収、屈折、反射、または透過する。例えば照射される電磁波の周波数がイオンビーム14のプラズマ周波数より小さい場合にはその電磁波の少なくとも一部がイオンビーム14により反射され、逆に電磁波の周波数がイオンビーム14のプラズマ周波数より大きい場合にはその電磁波の少なくとも一部がイオンビーム14を透過することができる。
【0061】
よって、測定ビーム源20は、イオンビーム14のプラズマ周波数に応じて反射または透過する指向性をもつ電磁波を発する電磁波源、例えばミリ波源またはマイクロ波源であってもよい。測定ビーム検出器22は、測定ビーム源20の放射する電磁波を受信するための受信機であってもよい。こうした受信機は、図5及び図6に示されるように、測定ビーム12がイオンビーム14に反射して到達する位置及び透過して到達する位置の少なくとも一方に配置される。なお、測定ビーム源20としての発信源と測定ビーム検出器22としての受信機との間に適切な光学系または中継器が設けられていてもよい。既述の実施例と同様に参照ビーム系が付加されてもよい。
【0062】
図5は測定ビーム12がイオンビーム14を透過する状態を示し、図6は測定ビーム12がイオンビーム14に反射される状態を示す。この場合、イオンビーム14と測定ビーム12との相互作用は主として、イオンビーム14による測定ビーム12の反射、または透過である。測定ビーム12の周波数は、イオンビーム14の所望の電流密度に相当するプラズマ周波数に設定される。このビーム電流密度は例えば、被処理物16への照射のために有効と許容される範囲から選択され、例えばそうした許容範囲の下限値とされる。測定ビーム12の周波数は例えば10MHz乃至10GHzの範囲から選択される。測定ビーム12のイオンビーム14への入射角度は、イオンビーム14により測定ビーム12の全反射が生じるよう定めることが好ましい。
【0063】
図5に示すように、測定ビーム源20から放射された測定ビーム12は、イオンビーム14に例えば斜めに入射する。イオンビーム14の電流密度に相当するプラズマ周波数が測定ビーム12の周波数よりも小さい場合には、図示されるように、測定ビーム12は測定ビーム検出器22に到達する。測定ビーム検出器22は測定ビーム12の受信強度に応じた検出信号S1を出力する。
【0064】
また、図6に示すように、イオンビーム14の電流密度に相当するプラズマ周波数が測定ビーム12の周波数よりも大きい場合には、測定ビーム12はイオンビーム14により反射される。測定ビーム12の少なくとも一部またはすべてが測定ビーム検出器22には到達しない。よって、測定ビーム検出器22の出力する検出信号S1は図5の状態に比べて大きく低下する。こうして、有効な強度をもつイオンビーム14が照射されているか否かを検出信号S1に基づいて検知することができる。なお、図6に破線で示されるように、測定ビーム検出器22は反射されたイオンビーム14を受ける位置に配置されていてもよい。
【0065】
イオンビーム計測装置10は、プラズマシャワー50を備えてもよい。プラズマシャワー50は、イオンビーム14のビームラインにおいて測定ビーム12のイオンビーム照射位置34よりも上流に設けられていてもよい。プラズマシャワー50は、イオンビーム14のイオンによる電場を中和するために低エネルギー電子をイオンビーム14に供給する公知の構成要素である。プラズマシャワー50を設けることによりイオンビーム14がプラズマ状態にあることを保証することが可能となる。
【0066】
図7及び図8は、イオンビーム計測装置10に係る第5変形例を示す図である。イオンビーム計測装置10は、イオンビーム14のビームラインに沿って複数の測定ビーム検出器を備えてもよい。言い換えれば、測定ビーム源20はイオンビーム14の進行方向に沿って複数の位置に測定ビームを照射してもよい。そのためにイオンビーム計測装置10は、複数の測定ビーム源20を備えてもよい。イオンビーム計測装置10は、複数の測定ビーム検出器の検出結果からイオンビーム14の輸送効率を計測してもよい。測定ビーム検出器は既述の実施例に関連して述べた測定ビーム検出器22であってもよい(例えば図1参照)。
【0067】
図7に示す一実施例においては、単一の測定ビーム源20から放射された共通のビームがビーム光学系24により、参照ビーム30、第1測定ビーム52、及び第2測定ビーム54に分割される。参照ビーム30はイオンビーム14を迂回し、第1測定ビーム52及び第2測定ビーム54はイオンビーム14に照射される。第1測定ビーム52は第2測定ビーム54よりも下流側でイオンビーム14に照射される。
【0068】
イオンビーム14に照射された第1測定ビーム52、第2測定ビーム54はそれぞれ、第1ビーム検出器56、第2ビーム検出器58により検出される。参照ビーム30は参照ビーム検出器46により検出される。第1ビーム検出器56、第2ビーム検出器58はそれぞれ第1検出信号S1−1、第2検出信号S1−2を出力する。参照ビーム検出器46は参照信号S2を出力する。第1検出信号S1−1、第2検出信号S1−2、及び参照信号S2は演算処理ユニット26に入力される。演算処理ユニット26は入力信号に基づいて計測結果を演算し、必要に応じて出力する。
【0069】
図8に示す一実施例においては、測定ビーム及び参照ビームの組がイオンビーム14のビームライン60に沿って複数設けられている。イオンビーム計測装置10は、第1測定ビーム52及び第1参照ビーム62を与えるための第1ビーム源66と、第1測定ビーム52及び第1参照ビーム62を受け取るための第1ビーム検出器56と、を備える。また、イオンビーム計測装置10は、第2測定ビーム54及び第2参照ビーム64を与えるための第2ビーム源68と、第2測定ビーム54及び第2参照ビーム64を受け取るための第2ビーム検出器58と、を備える。
【0070】
第1ビーム検出器56は第1検出信号S1−1及び第1参照信号S2−1を出力し、第2ビーム検出器58は第2検出信号S1−2及び第2参照信号S2−2を出力する。これらの出力信号は演算処理ユニット26に入力され、演算処理ユニット26は入力信号に基づいて計測結果を演算し、必要に応じて出力する。
【0071】
図9は、本発明の第2実施形態に係るイオン注入装置100の全体構成を概略的に示す図である。図9にはイオン注入装置100の有する代表的な構成要素を示す。また、図10は、第2実施形態に係るイオン注入装置100の処理室112を示す図である。図10には、ビームラインアセンブリ110からビーム入射方向に処理室112を見たときの概略構成を示す。
【0072】
イオン注入装置100は、元素をイオン化してイオンビーム102を生成し基板(例えば半導体基板)104へと照射することにより、基板104にその元素を注入するイオン注入処理を行うための装置である。図1と同様に説明の便宜上、イオンビーム102の基板104への入射方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。z方向は、ビームラインにおけるイオンビーム102の大局的な進行方向を指すものとする。また、後述するようにイオンビーム102を基板104に対し走査する場合には走査方向をy方向とし、z方向及びy方向に垂直な方向をx方向と定義する。一実施例においてはyz面は水平面であり、x方向は鉛直方向である。
【0073】
イオン注入装置100は、第1実施形態に係るイオンビーム計測装置10と共通の測定原理を使用してビームモニタ出力を与えるための非接触式のビームモニタ106を備える。よって、ビームモニタ106は、第1実施形態及びその変形例に係る各種のイオンビーム計測装置10のうちいずれかであってもよい。
【0074】
イオン注入装置100は、イオン源108、ビームラインアセンブリ110、及び処理室112を備える。イオン源108は、注入する元素をイオン化するよう構成されている。ビームラインアセンブリ110は、イオン源108にてイオン化されたイオンのうち基板104に注入すべきイオンを質量によって選別するための質量分析器114と、イオンビーム102を輸送し、加速し、整形し、または走査するためのビーム輸送系116と、を備える。質量分析器114の下流側には所定の質量のイオンからなるイオンビーム102をビーム輸送系116へと通過させるための質量分析スリット118が設けられている。
【0075】
また、ビーム輸送系116は、イオンビーム102を少なくとも一方向(例えばy方向)に走査するためのビームスキャナ120を備える。ビームスキャナ120によるイオンビーム102のy方向の走査可能範囲を矢印138で図示する。
【0076】
処理室112は、イオンビーム102をモニタするためのビームモニタ106を備える。ビームモニタ106は、イオンビーム102に測定ビーム130を作用させ、測定ビーム130を検出することによりイオンビーム102をモニタする。ビームモニタ106は、イオンビーム102に関連するモニタ出力を制御システム128に提供する。ビームモニタ出力は検出信号S1を含む。ビームモニタ106は、参照ビーム132に基づく参照信号S2を制御システム128に提供してもよい。ビームモニタ106は、イオンビーム102に測定ビーム130を照射するための測定ビーム源134と、イオンビーム102に照射された測定ビーム130を検出するための測定ビーム検出器136と、を含む。
【0077】
ビームモニタ106は、ビームラインアセンブリ110に設けられていてもよい。イオン注入装置100はビームラインに沿って複数のビームモニタ106を備えてもよい。
【0078】
処理室112は、接触式のイオンビーム検出器(例えばファラデーカップ)122を備えてもよい。イオンビーム検出器122はビーム電流信号S3を制御システム128に出力してもよい。こうした接触式の検出器を設けることは必須ではない。イオンビーム検出器122は、イオンビーム走査方向に基板104に隣接する位置に配置することが好ましい。イオンビーム検出器122は、基板104の片側(図示の場合)または両側に配置してもよい。イオンビーム検出器122は、計測の必要に応じてビームラインに出し入れされる進退可能な検出器であってもよい。
【0079】
また、イオン注入装置100のイオンビーム計測系は、ビームモニタ106及びイオンビーム検出器122に加えて、任意の計測器をさらに備えてもよい。なお、イオン注入装置100は、制御システム128からの制御指令に応じて、またはビームモニタ106を含むイオンビーム計測系の計測結果に基づいて、イオンビーム102をビームラインの中途で遮断するためのビームシャッタ(図示せず)を備えてもよい。
【0080】
また、処理室112は、基板104を支持するための基板支持部124を備える。基板104は基板支持部124に支持されて処理室112に収容されている。基板支持部124は、基板104をイオンビーム102に対し移動させるためのいわゆるメカニカルスキャン系として構成され、基板104を保持するためのテーブルまたはプラテンと、そのテーブルまたはプラテンを移動するための駆動機構と、を含む。メカニカルスキャン系は例えば、イオンビーム進行方向(z方向)及び走査方向(y方向)に垂直な方向(x方向)の走査範囲に基板104を往復移動させるよう構成されている。こうした一方向のビームスキャンとその垂直方向へのメカニカルスキャンとを組み合わせるスキャン方式はハイブリッドスキャンと呼ばれることもある。
【0081】
図10に示されるように、基板104には断面がスポット状のイオンビーム102が照射される。上述のようにイオンビーム102はy方向に走査され、基板104はx方向に機械的に走査される。イオンビーム102の走査範囲138において基板104の両側にイオンビーム検出器122が設けられている。イオンビーム検出器122は、基板104の周縁部外方に走査されたイオンビーム102に計測が制限される。これに対して、ビームモニタ106は、イオンビーム102が基板104の中心部にあるときにもイオンビーム102を計測することができるという点で有利である。
【0082】
図9及び図10に示されるように、ビームモニタ106は、イオンビーム102の走査方向とイオンビーム102の進行方向とにより定まる走査面に沿って測定ビーム130をイオンビーム102に照射する。測定ビーム130の照射方向が正確に走査面に沿うことは必ずしも要求されない。測定ビーム130の経路はイオンビーム102の走査範囲138を横断するように定められていればよい。図示されるように、測定ビーム源134から発せられた測定ビーム130は、測定ビーム検出器136へと直線的に入射する。このようにして、イオンビーム102の走査位置にかかわらず連続的にイオンビーム102をモニタすることができる。
【0083】
一方、参照ビーム132は、ビーム光学系135によりイオンビーム102の走査面外へと測定ビーム130から分岐されて走査面と平行な面を進み、イオンビーム102を経由せずに測定ビーム検出器136へと入射する。イオンビーム102の走査範囲138の手前で参照ビーム132を測定ビーム130から分岐させるために、ビーム光学系135はイオンビーム走査方向において、測定ビーム源134とイオンビーム走査範囲138の末端であるイオンビーム検出器122との間に設けられている。
【0084】
なおイオン注入装置100はハイブリッドスキャン方式には限られない。イオン注入装置100は例えば、一軸方向にビーム断面が延びるいわゆるリボンビームとその直交方向へのメカニカルスキャンとを組み合わせる走査方式を採用してもよい。あるいは、イオン注入装置100は、スポットビームに対しビーム進行方向に垂直面内で2次元にメカニカルスキャンを行う方式を採用してもよい。いずれの走査方式であってもビームモニタ106は適用可能である。
【0085】
図11は、第2実施形態に係るビームモニタ106の一変形例を示す図である。ビームモニタ106は、複数の測定ビーム源134と複数の測定ビーム検出器136とを備えてもよい。複数の測定ビーム源134はイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。イオンビーム照射エリア139は例えばリボン状のイオンビームのビーム断面に相当する領域である。複数の測定ビーム検出器136は、イオンビーム照射エリア139を挟んで複数の測定ビーム源134に対向してイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。複数の測定ビーム検出器136の各々は、対応する測定ビーム源134からの測定ビーム130を受ける位置に配列されている。これにより、イオンビーム照射エリア139に交差する複数の測定ビーム130がイオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って配列されている。
【0086】
ビームモニタ106は、イオンビーム照射エリア139の複数の位置に測定ビーム130を照射する。それら複数の照射位置は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に並んでいる。各照射位置へは、複数の測定ビーム源134のそれぞれから測定ビーム130が照射される。ビームモニタ106は、それら複数位置に照射された測定ビーム130を複数の測定ビーム検出器136により検出する。複数の測定ビーム検出器136はそれぞれ検出信号S1を制御システム128に出力する。このようにして、イオンビーム照射エリア139におけるイオンビームの長手方向分布を得ることができる。
【0087】
複数の測定ビーム130は、図示の例ではスポット状の測定ビームであるがこれに限られず、イオンビーム照射エリア139の長手方向の長さに相当する幅を持つリボン状または長尺の測定ビームであってもよい。それに対応して、互いに分離された複数の測定ビーム検出器136に代えて、リボン状または長尺の測定ビームを包含する検出領域をもつ一次元検出器アレイを設けてもよい。
【0088】
また、計測対象はリボン状のイオンビームには限られず、イオンビーム照射エリア139を走査するスポットビームの計測のために図11に示すビームモニタ106の構成を採用してもよい。複数の測定ビーム源134及び複数の測定ビーム検出器136は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って可動式である測定ビーム源134及び測定ビーム検出器136であってもよい。この場合、可動式の測定ビーム源134及び測定ビーム検出器136は、測定ビーム130とスポットビームとの交差を継続するようにスポットビームの走査に同期して移動されてもよい。
【0089】
図11に示すビームモニタ106は、図9及び図10に示すビームモニタ106に代えて、図9に示すイオン注入装置100に設けられてもよい。あるいは、図10及び図11に示す構成を組み合わせて得られるビームモニタ106がイオン注入装置100に設けられてもよい。すなわち、ビームモニタ106は、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿って設けられている複数の測定ビーム源134と複数の測定ビーム検出器136とを備え、さらに、イオンビーム照射エリア139の長手方向に沿うビーム経路をもつ測定ビーム系を備えてもよい。
【0090】
図9及び図10に示すイオン注入装置100はいわゆる枚葉式に構成されている。すなわち、イオン注入装置100は、基板支持部124に一度に一枚の基板104が保持され、一枚ずつイオン注入処理が行われる形式である。なお必ずしも一枚ずつの処理に限られるわけではなく、基板支持部124は2枚以上を同時に保持して少なくとも一方向にメカニカルスキャンを提供するよう構成されていてもよい。また、イオン注入装置100は、多数の基板を回転可能なテーブルに載置して回転させながらイオン注入を多数の基板に同時に行ういわゆるバッチ式に構成されていてもよい。
【0091】
図9に示されるように、イオン注入装置100は、イオン源108、ビームラインアセンブリ110、及び処理室112をイオン注入処理のための所望の真空環境に保つための真空排気系126を備える。真空排気系126は例えば、クライオポンプ等の高真空ポンプと、高真空ポンプの作動圧力まで粗引きをするための粗引きポンプとを備える。
【0092】
また、イオン注入装置100は、例えばイオン源108、質量分析器114、ビーム輸送系116、基板支持部124、及び真空排気系126を制御してイオン注入処理を実行するための制御システム128を備える。制御システム128は、検出信号S1、参照信号S2、及びビーム電流信号S3を含むビーム計測系からの入力信号、メモリに保存されている各種データ、及び操作者からの入力指令等に従って、イオン注入装置100を統括的に制御する。制御システム128は、ビームモニタ106のための専用の制御装置であってもよい。
【0093】
制御システム128は例えば、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を含む任意のハードウエアと、各種演算または制御を実行するためのプログラム等のソフトウエアと、を含んで構成される。制御システム128は、操作者からの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段や、他の装置との通信をするための通信手段、ディスプレイやプリンタ等の出力手段を含んでもよい。
【0094】
制御システム128は、ビームスキャンを制御するためのビームスキャン制御部140と、メカニカルスキャンを制御するためのメカニカルスキャン制御部142と、イオンビームモニタ演算部144と、を含んでもよい。ビームスキャン制御部140、メカニカルスキャン制御部142、及びイオンビームモニタ演算部144の少なくとも1つの要素(例えばイオンビームモニタ演算部144)が他の要素とは別個の制御部を構成していてもよい。ビームスキャン制御部140、メカニカルスキャン制御部142、及びイオンビームモニタ演算部144は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSI等のハードウエア、またはメモリにロードされたプログラム等のソフトウエアによって実現される機能ブロックを示す。これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0095】
イオンビームモニタ演算部144は、検出信号S1、参照信号S2、及びビーム電流信号S3を含むビーム計測系からの入力信号に基づいて、ビームモニタ出力を演算する。ビームモニタ出力は例えば、イオンビーム102のビーム電流、または基板104に注入されるドーズ量である。制御システム128は、イオンビームモニタ演算部144によるビームモニタ出力を保存する。あるいは、制御システム128は必要に応じて、ビームモニタ出力を使用してもよいし、外部に出力してもよい。
【0096】
制御システム128は、ビームモニタ出力に基づいて、基板104へのイオン注入処理中にイオンビーム102に変動が生じたか否かを判定してもよい。当該判定結果に基づいて、制御システム128は、当該基板104へのイオン注入処理について警告を出力してもよい。あるいは、制御システム128は、ビームモニタ出力に基づいて、イオンビーム102のビーム電流または基板104に注入されるドーズ量に変動が生じたビーム照射位置を特定してもよい。
【0097】
イオン注入処理は、処理室112へと入射するイオンビーム102の進行方向に垂直な面内の方向のイオンビーム102と基板104との相対移動を含む。この相対移動は上述のように、イオンビーム102及び基板104の少なくとも一方の走査を含む。よって、制御システム128は例えば、ビームスキャン制御部140とメカニカルスキャン制御部142とを協調して動作させることにより、所与の走査シーケンスに従ってイオンビーム102のビームスキャンと基板104のメカニカルスキャンとを制御する。こうしてイオンビーム断面よりも一般には広いイオンビーム照射領域にわたってイオンビーム102を照射することができる。
【0098】
ここで、走査シーケンスとは基板104上の表面全域またはその一部であるイオンビーム照射領域をイオンビーム102により走査するための手順をいう。走査シーケンスは、制御システム128に操作者により直接入力されて与えられてもよいし、所与のイオン注入処理を実現するよう制御システム128により設定されてもよい。
【0099】
図12は、第2実施形態に係る走査シーケンス150の一実施例を説明するための図である。この走査シーケンス150は、以下に詳述するように、本来的には基板104の外側にイオンビーム102を照射する必要のない枚葉式のイオン注入装置100に好適な走査法を表す。例えばハイブリッドスキャン方式の場合、走査シーケンス150のうち一方向(例えばx方向)の走査はイオンビーム102に対する基板104の移動により行われ、他の一方向(例えばy方向)の走査はイオンビーム102のビームスキャンにより行われる。
【0100】
走査シーケンス150は、走査開始位置152から開始され、走査終了位置154で終了する。走査開始位置152から走査終了位置154まで走査シーケンス150が制御システム128により実行されることにより、基板104上のイオン注入領域(例えば基板104の全域、または、基板104の周縁部を除く領域)の全体またはその一部へのイオンビーム照射が完了する。一実施例においては、制御システム128は、基板104上のイオン注入領域の輪郭または境界の内側をイオンビーム照射領域が占めるように設定された例えば蛇行状の走査シーケンス150を実行してもよい。走査シーケンス150の実行中、イオンビーム102はビームモニタ106により継続してまたは間欠的にモニタされることが好ましい。
【0101】
走査シーケンス150は典型的には、第1方向への少なくとも1回の走査移動とその垂直方向である第2方向への少なくとも1回の走査移動とを含む。通常は図示されるように、走査シーケンス150は、第1方向への複数回の走査移動と第2方向への複数回の走査移動とを含み、第1方向への走査移動と第2方向への走査移動とを交互に含む。その結果として、走査開始位置152から走査終了位置154へと蛇行状の走査経路となる。ハイブリッドスキャンの場合、第1方向のビームスキャンと第2方向のメカニカルスキャンとが交互に繰り返されることになる。
【0102】
一実施例においては、制御システム128は、イオンビーム102のビームスキャンによる走査範囲を基板104のメカニカルスキャン中に変更してもよい。すなわち、あるビームスキャンによる走査範囲と、それに続くメカニカルスキャンを経た次回のビームスキャンによる走査範囲と、を異ならせてもよい。各回のビームスキャンの走査範囲は例えば、基板104上のイオン注入領域の走査方向の幅に基づいて設定されてもよい。このようにして決められた走査シーケンス150の一例が図12に示されている。また、制御の簡単のために、ビームスキャンの走査範囲は、基板104上のイオン注入領域の走査方向の最大幅(例えば円形基板の場合、直径)に基づいて固定値に設定されてもよい。
【0103】
図12には比較のために、典型的なイオン注入処理におけるイオンビームの照射領域160を示す。照射領域160は矩形領域となる。図示されるように、基板104に比べて(すなわち走査シーケンス150の占める領域に比べて)、かなり広い範囲にわたってイオンビームが照射されることがわかる。基板104の外側は、イオン注入という本来の目的からすればイオンビームを照射する必要のない区域である。典型的な構成においてこうした区域にも照射されるのは、毎回のビームスキャンでファラデーカップによりビーム電流を計測するために、ビームスキャン長さがファラデーカップの配置に制約され固定されているからである。
【0104】
よって、第2実施形態に係る走査シーケンス150によれば、必ずしもイオン注入を要しない領域を最小化することができる。好ましくは、イオンビームの照射領域をイオン注入領域に一致させることができる。走査シーケンス150の総走査距離を短くすることができるので、イオン注入処理のスループットを改善することができる。イオン注入不要領域への照射が最小化され、イオン材料の消費も抑制される。
【0105】
走査シーケンス150は、イオンビーム検出器122をイオンビーム102が経由する第1走査と、イオンビーム検出器122を経由せずにイオンビーム102が基板104を走査する第2走査と、を含んでもよい。図12においては第1走査の例を破線で示し、第2走査の例を実線で示す。第1走査はビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方、またはそれら両方を含んでもよい。第2走査もまた上述のように、ビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方、またはそれら両方を含んでもよい。
【0106】
そのために、走査シーケンス150は例えば、イオンビーム検出器122を走査範囲に含む相対的に長距離のビームスキャン156と、イオンビーム検出器122を走査範囲に含まない相対的に短距離のビームスキャン158と、を含んでもよい。長いビームスキャン156は、基板104上のイオン注入領域とイオンビーム検出器122とを走査範囲に含むよう走査距離が定められ、短いビームスキャン158は、基板104上のイオン注入領域のみを走査範囲に含むよう走査距離が定められてもよい。走査シーケンス150は、長いビームスキャン156を少なくとも1回含むようにしてもよい。このようにすれば、ビームモニタ106とイオンビーム検出器122とを併用してイオンビーム102を監視しながらイオン注入処理を行うことができる。
【0107】
なお、他の一実施例においては、走査シーケンス150と同様にして、制御システム128は、リボン状のイオンビームのビーム幅を、基板に照射される位置に応じて変化させてもよい。
【0108】
更なる一実施例においては、制御システム128は、イオンビーム102と基板104との相対位置情報とビームモニタ106の出力とに基づいてイオンビーム102の強度に変動が生じた位置を特定してもよい。制御システム128は、ある時点におけるビームスキャン位置情報とその時点のビームモニタ出力とを関連付けることにより、そのビームモニタ出力が得られたビームスキャン位置を特定してもよい。制御システム128は、ある時点におけるメカニカルスキャン位置情報とその時点のビームモニタ出力とを関連付けることにより、そのビームモニタ出力が得られたメカニカルスキャン位置を特定してもよい。こうして得られたビームスキャン位置情報とメカニカルスキャン位置情報とを総合することにより、制御システム128は、ビームモニタ出力に対応する基板104上のイオンビーム照射位置を特定してもよい。このようにすれば、イオンビーム102に変動が生じたイオンビーム照射位置を求めることができる。
【0109】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0110】
イオンビーム計測装置10に関連する光学素子は、例えばイオンビームに含まれるイオンや、イオンビームが照射された物質からのアウトガス等の汚染粒子によって汚染され得る。汚染により光学素子の例えば透過率または反射率等の光学特性が劣化して、計測に影響を与えることもあり得る。
【0111】
そこで、イオンビーム計測装置10は、光学素子を汚染から保護するための保護手段を備えてもよい。保護手段は、汚染粒子に電気的な斥力を作用させ、保護されるべき光学素子への汚染粒子の接近を妨げるよう構成されていてもよい。また、保護手段は、汚染粒子に電気的な引力を作用させることにより汚染粒子を吸着するよう構成されていてもよい。保護手段は、保護されるべき光学素子の近傍に配設された物理的な障壁を含んでもよい。
【0112】
図13は、一実施形態に係るイオンビーム計測装置10に関連する光学素子のための保護装置70の一例を示す図である。ここでは、保護されるべき光学素子の例として第1折り曲げミラー36を挙げる。保護装置70は、第1折り曲げミラー36に電位を与えるためのバイアス電源72を備える。第1折り曲げミラー36に与えられる電位は、第1折り曲げミラー36の周囲の汚染粒子に電気的な斥力を作用させるよう設定される。例えば、第1折り曲げミラー36への陽イオンの接近を妨げるために、バイアス電源72は第1折り曲げミラー36に正の電位を与える。こうして、第1折り曲げミラー36に与えられた電位と共通の電荷をもつ汚染粒子の接近が妨げられ、第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。ミラー表面の反射率の低下を抑えることができる。
【0113】
保護装置70は、第1折り曲げミラー36を囲む筒状部材74を備える。筒状部材74は、第1折り曲げミラー36を経由する測定ビーム12の経路に沿って設けられている。第1折り曲げミラー36は測定ビーム12を垂直に曲げる光学素子であるため、筒状部材74も同様に垂直な折り曲げ部分を有する管路として形成されている。その折り曲げ部分に第1折り曲げミラー36が収容されている。このようにして、筒状部材74は、第1折り曲げミラー36の近傍領域を画定する。筒状部材74は、第1折り曲げミラー36の近傍に配設された汚染粒子に対する物理的な障壁であるとみなすこともできる。
【0114】
筒状部材74は、第1折り曲げミラー36への測定ビーム12の入射のための入口部分76と、第1折り曲げミラー36からの測定ビーム12の出射のための出口部分78と、を備える。入口部分76及び出口部分78は、測定ビーム12に対する透過性を有するよう構成される。例えば、入口部分76及び出口部分78は、物理的に開放されていてもよいし、測定ビーム12に対し透過性を有する透明部材によって閉じられていてもよい。以下では説明の便宜上、入口部分76及び出口部分78を透過部分76と総称することがある。筒状部材74は、少なくとも1つの透過部分76を備える。
【0115】
保護装置70は、筒状部材74の内部への汚染粒子の進入を妨げるための保護部材80と、保護部材80に電位を与えるためのバイアス電源82と、を備える。保護部材80は、透過部分76(例えば、入口部分76、出口部分78、又は入口部分76及び出口部分78の両方)に設けられている。保護部材80は、透過部分76において測定ビーム12に交わる断面の少なくとも一部を占有する。保護部材80を支持するための支持部材として筒状部材74が設けられている。
【0116】
保護部材80は例えば、透過部分76に設けられた金網である。代案として、保護部材80は、透明導電膜を備える透明部材であってもよい。保護部材80の金網または透明導電膜にバイアス電源82は電位を与えるよう接続されている。
【0117】
バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、汚染粒子に電気的な引力を作用させるよう設定される。例えば、保護部材80へと陽イオンを引きつけるために、バイアス電源82は保護部材80に負の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位とは反対の電荷をもつ汚染粒子が保護部材80に吸着され、筒状部材74への汚染粒子の進入及び第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。
【0118】
代案として、バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、保護部材80に向けて接近する汚染粒子に電気的な斥力を作用させるよう設定されてもよい。例えば、保護部材80への陽イオンの接近を妨げるために、バイアス電源82は保護部材80に正の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位と共通の電荷をもつ汚染粒子の保護部材80への接近が妨げられ、筒状部材74への汚染粒子の進入及び第1折り曲げミラー36への汚染粒子の付着が抑制される。
【0119】
図14は、一実施形態に係るイオンビーム計測装置10に関連する光学素子のための保護装置70の他の一例を示す図である。保護されるべき光学素子の例として、図13に示す例と同様に、第1折り曲げミラー36を挙げる。保護装置70は、筒状部材74の中に少なくとも1つの保護部材80を備える。
【0120】
保護部材80は、第1折り曲げミラー36の近傍に設けられた金属板である。保護部材80は、測定ビーム12の経路から外れた場所に設けられている。図示の例では2つの保護部材80が設けられており、1つの保護部材80が入口部分76から第1折り曲げミラー36に向けて延在しており、もう1つの保護部材80が出口部分78から第1折り曲げミラー36に向けて延在している。
【0121】
バイアス電源82により保護部材80に与えられる電位は、汚染粒子に電気的な引力を作用させるよう設定される。例えば、保護部材80へと陽イオンを引きつけるために、バイアス電源82は保護部材80に負の電位を与える。こうして、保護部材80に与えられた電位とは反対の電荷をもつ汚染粒子が保護部材80に吸着される。保護部材80によって、筒状部材74に進入した汚染粒子の第1折り曲げミラー36への付着が抑制される。
【0122】
保護装置70は、電気的に中性の汚染粒子をイオン化するためのイオン化機構84を備えてもよい。イオン化機構84は例えば、ガスをイオン化するための、フィラメントを有する公知のイオン化機構である。イオン化機構84は、筒状部材74の入口部分76または出口部分78に近接して設けられている。電気的に中性の汚染粒子をイオン化機構84によりイオン化することにより、そうした中性の汚染粒子にも保護部材80の電気的な引力または斥力を作用させることができる。
【0123】
保護装置70が、バイアス電源72、筒状部材74、及び保護部材80を備えることにより、第1折り曲げミラー36を汚染から良好に保護することができる。一方、保護装置70の構成をより簡素にすることが望まれる場合には、保護装置70は、バイアス電源72、筒状部材74、及び保護部材80のうちいずれかを備えなくてもよい。例えば、保護装置70がバイアス電源72を備える場合には、保護装置70は、筒状部材74及び保護部材80を必ずしも備えなくてもよい。また、保護装置70が筒状部材74を備える場合には、保護装置70は、バイアス電源72または保護部材80のいずれかを必ずしも備えなくてもよい。
【0124】
保護装置70によって保護されるべき光学素子は、図13及び図14に例示した第1折り曲げミラー36には限られない。保護装置70は、同様にして、測定ビーム12または参照ビーム30のための任意の光学素子を保護してもよい。保護されるべき光学素子は、測定ビーム12をイオンビーム14に照射するための照射室18に設けられている任意の光学素子であってもよい。あるいは、イオンビーム14の経路の近傍に設けられている任意の光学素子であってもよい。
【0125】
よって、保護装置70は例えば、ビームスプリッタ32、第1折り曲げミラー36、第2折り曲げミラー38、第3折り曲げミラー40の少なくとも1つを保護してもよい。測定ビーム12または参照ビーム30のための光学系がレンズを含む場合には、保護装置70は当該レンズを保護してもよい。また、保護装置70は、照射室18の壁面に設けられている窓部を保護してもよい。窓部は、測定ビーム12または参照ビーム30を照射室18の外部から内部へと入射させるための窓であってもよいし、測定ビーム12または参照ビーム30を照射室18の内部から外部へと出射させるための窓であってもよい。窓部は、外部から照射室18の内部を観察するための窓であってもよい。
【0126】
本発明の一実施形態に係るイオンビーム計測装置を備える粒子線治療装置が提供されてもよい。この粒子線治療装置は、イオンビームの照射を受ける被照射体を収容するための治療室、または、被照射体をイオンビームに対し支持するための支持台を備えてもよい。粒子線治療装置は、被照射体へのイオンビームの照射処理を制御するための制御システムを備えてもよい。照射処理は、被照射体に対するイオンビームの照射を(または照射位置を)制御することを含んでもよい。粒子線治療装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームをイオンビームに照射し、イオンビームに照射された測定ビームを検出することにより、イオンビームに関連する出力を制御システムに提供するビームモニタを備えてもよい。一実施例においては粒子線治療装置は陽子線治療装置であり、イオンビームは陽子線ビームであってもよい。
【0127】
また、本発明の一実施形態に係る粒子線治療装置は、イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備えるイオンビーム計測装置を備えてもよい。上述のイオンビーム計測装置10及びイオン注入装置100に関連して述べた各種の実施例及び変形例は、粒子線治療装置のためのイオンビーム計測装置、及び粒子線治療装置に適用してもよい。その場合、「被処理物」は「被照射体」と読み替えればよい。
【符号の説明】
【0128】
10 イオンビーム計測装置、 12 測定ビーム、 14 イオンビーム、 20 測定ビーム源、 22 測定ビーム検出器、 24 ビーム光学系、 70 保護装置、 100 イオン注入装置、 102 イオンビーム、 104 基板、 106 ビームモニタ、 112 処理室、 122 イオンビーム検出器、 128 制御システム、 130 測定ビーム、 134 測定ビーム源、 150 走査シーケンス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物へのイオンビームによるイオン注入処理を制御するための制御システムと、
前記イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射し、前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームに関連する出力を前記制御システムに提供するビームモニタと、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記ビームモニタは、走査による前記イオンビームの通過領域を前記測定ビームが横断するように前記測定ビームを前記イオンビームに照射することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記イオンビームの入射を受けて前記イオンビームを計測するためのイオンビーム検出器をさらに備え、
前記制御システムは、前記イオンビーム検出器を前記イオンビームが経由する第1走査と、前記イオンビーム検出器を経由せずに前記イオンビームが被処理物を走査する第2走査と、を含む走査シーケンスを実行することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御システムは、前記イオンビームの走査範囲の変更を前記被処理物の機械的走査中に許容することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御システムは、前記イオンビームと前記被処理物との相対位置情報と前記ビームモニタの出力とに基づいて前記イオンビームに変動が生じた位置を特定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記イオンビームは、長手方向に延びる断面形状をもつイオンビームであり、
前記ビームモニタは、前記イオンビームの前記長手方向の複数位置に前記測定ビームを照射し、該複数位置に照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームの前記長手方向分布を前記制御システムに提供することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、
前記測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備えることを特徴とするイオンビーム計測装置。
【請求項8】
イオンビームと測定ビームとの相互作用は、イオンビームによる測定ビームの吸収、回折、散乱、反射、及び透過のうち少なくともいずれかを含み、
前記測定ビーム検出器は、イオンビームに照射された測定ビームの強度に関連する検出信号を出力することを特徴とする請求項7に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項9】
前記測定ビーム源は、イオンビームに含まれるイオン種の吸収波長に一致する波長または当該吸収波長を含む波長域をもつレーザ光を発するレーザ光源を含むことを特徴とする請求項7または8に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項10】
前記測定ビーム源から発せられイオンビームには照射されない参照ビームを、前記測定ビーム源と測定ビームのイオンビーム照射位置との間において測定ビームから分割するためのビーム光学系と、
参照ビームを検出するための参照ビーム検出器と、をさらに備えることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項11】
前記測定ビーム検出器は、測定ビームをイオンビームに照射するための照射室の外部に設けられており、該照射室と前記測定ビーム検出器とが測定ビームを伝達するための導光部材により接続されていることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項12】
前記測定ビーム源は、イオンビームのプラズマ周波数に応じて反射または透過する指向性をもつ電磁波を発する電磁波源を含むことを特徴とする請求項7または8に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項13】
測定ビームをイオンビームに照射するための照射室に設けられた前記測定ビームのための光学素子を汚染から保護するための保護手段をさらに備えることを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項14】
請求項7から13のいずれかに記載のイオンビーム計測装置を備えることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項15】
イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射することと、
前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することと、を含むことを特徴とするイオンビームの計測方法。
【請求項1】
被処理物へのイオンビームによるイオン注入処理を制御するための制御システムと、
前記イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射し、前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームに関連する出力を前記制御システムに提供するビームモニタと、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記ビームモニタは、走査による前記イオンビームの通過領域を前記測定ビームが横断するように前記測定ビームを前記イオンビームに照射することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記イオンビームの入射を受けて前記イオンビームを計測するためのイオンビーム検出器をさらに備え、
前記制御システムは、前記イオンビーム検出器を前記イオンビームが経由する第1走査と、前記イオンビーム検出器を経由せずに前記イオンビームが被処理物を走査する第2走査と、を含む走査シーケンスを実行することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御システムは、前記イオンビームの走査範囲の変更を前記被処理物の機械的走査中に許容することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御システムは、前記イオンビームと前記被処理物との相対位置情報と前記ビームモニタの出力とに基づいて前記イオンビームに変動が生じた位置を特定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記イオンビームは、長手方向に延びる断面形状をもつイオンビームであり、
前記ビームモニタは、前記イオンビームの前記長手方向の複数位置に前記測定ビームを照射し、該複数位置に照射された前記測定ビームを検出することにより、前記イオンビームの前記長手方向分布を前記制御システムに提供することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを発するための測定ビーム源と、
前記測定ビーム源から発せられイオンビームに照射された測定ビームを検出するための測定ビーム検出器と、を備えることを特徴とするイオンビーム計測装置。
【請求項8】
イオンビームと測定ビームとの相互作用は、イオンビームによる測定ビームの吸収、回折、散乱、反射、及び透過のうち少なくともいずれかを含み、
前記測定ビーム検出器は、イオンビームに照射された測定ビームの強度に関連する検出信号を出力することを特徴とする請求項7に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項9】
前記測定ビーム源は、イオンビームに含まれるイオン種の吸収波長に一致する波長または当該吸収波長を含む波長域をもつレーザ光を発するレーザ光源を含むことを特徴とする請求項7または8に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項10】
前記測定ビーム源から発せられイオンビームには照射されない参照ビームを、前記測定ビーム源と測定ビームのイオンビーム照射位置との間において測定ビームから分割するためのビーム光学系と、
参照ビームを検出するための参照ビーム検出器と、をさらに備えることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項11】
前記測定ビーム検出器は、測定ビームをイオンビームに照射するための照射室の外部に設けられており、該照射室と前記測定ビーム検出器とが測定ビームを伝達するための導光部材により接続されていることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項12】
前記測定ビーム源は、イオンビームのプラズマ周波数に応じて反射または透過する指向性をもつ電磁波を発する電磁波源を含むことを特徴とする請求項7または8に記載のイオンビーム計測装置。
【請求項13】
測定ビームをイオンビームに照射するための照射室に設けられた前記測定ビームのための光学素子を汚染から保護するための保護手段をさらに備えることを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載のイオンビーム計測装置。
【請求項14】
請求項7から13のいずれかに記載のイオンビーム計測装置を備えることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項15】
イオンビームとの間に相互作用を生じる測定ビームを前記イオンビームに照射することと、
前記イオンビームに照射された前記測定ビームを検出することと、を含むことを特徴とするイオンビームの計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−8659(P2013−8659A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9189(P2012−9189)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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