イオン注入装置のウエハ温度補償システム
【課題】 ウエハの温度を補償をすることができるイオン注入装置を提供する。
【解決手段】 本発明のイオン注入装置は、イオンを照射する照射手段と、少なくとも1つのウエハWを保持するディスク112を含む保持手段と、ディスク112に保持されたウエハWの温度情報を非接触状態でサーモパイル122と、ディスク112に保持されたウエハWの熱交換を可能にする冷媒供給部と、サーモパイル112で検出された温度情報に基づきディスク112に保持されたウエハWの表面温度を算出し、算出されたウエハの表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御部とを有する。
【解決手段】 本発明のイオン注入装置は、イオンを照射する照射手段と、少なくとも1つのウエハWを保持するディスク112を含む保持手段と、ディスク112に保持されたウエハWの温度情報を非接触状態でサーモパイル122と、ディスク112に保持されたウエハWの熱交換を可能にする冷媒供給部と、サーモパイル112で検出された温度情報に基づきディスク112に保持されたウエハWの表面温度を算出し、算出されたウエハの表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御部とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置に関し、特にイオン注入装置においてウエハ温度を補償するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、イオン注入は、種々の工程で実施され、例えば、MOSトランジスタのソース/ドレインの拡散領域やポリシリコンゲート電極を形成するときに実施される。例えば、特許文献1は、デバイスの特性を劣化させることなくビーム電流を増加させることができる大電流型イオン注入装置を開示している。また、特許文献2は、イオンビームの発散角やビームの傾きが変化してもイオン注入量を高精度で制御することができるイオン注入装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−213258号
【特許文献2】特開2009−87603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン注入装置におけるウエハの処理方法は、バッチ式と枚葉式に大別することができる。図1(a)は、バッチ式のイオン注入装置の概要を示し、図1(b)は、枚葉式のイオン注入装置の概要を示している。図1(a)に示すように、バッチ式のイオン注入装置は、搬送されてきた複数のウエハWをそれぞれ保持するペデスタルが形成されたディスク1を有する。ディスク1は、例えば1200rpmで高速回転され、かつディスク1にほぼ垂直に、または角度をつけてディスク1に斜めに照射されるイオンビームBのビーム量に応じて縦方向Vにメカニカルスキャンされ、ウエハWへのイオン注入が実施される。この方式は、主に高電流注入装置で採用されている。特に、高電流プロセスにおいて、ウエハWは非常に高温に晒されるため、ウエハWを冷却する必要が生じる。さもなければ、ウエハ上に形成されたレジストパターンが熱によって変形したり、素子の特性が劣化または変動してしまうことがある。このため、ディスク1は、パイプ2A、2Bを介して熱交換器3に連結され、ディスク1で温度上昇された水は、パイプ2Aを介して熱交換器3で冷却され、冷却水がパイプ2Bを介してディスク1へ供給され、ウエハWを冷却するようになっている。また、熱交換器の代わりに、温度調整可能なチーラーを用いることもできる。
【0005】
また図1(b)に示すように、枚葉式のイオン注入装置は、搬送されてきたウエハWを保持するプラテン4を有している。プラテン4に保持されたウエハWは、例えば水平方向HにスキャンされるスキャンビームB、またはスキャンビームBとプラテン4の縦方向Vのメカニカルスキャン制御によりウエハWへのイオン注入が実施される。この方式は、主に中電流注入装置で採用されている。プラテン4はまた上記のディスクと同様に、パイプ2A、2Bを介して熱交換器3に連結され、冷却水またはガスによってプラテン4に保持されたウエハWが冷却されるようになっている。
【0006】
図1(a)および(b)に示すバッチ式および枚葉式のいずれにおいても、ウエハWの温度(熱交換率)は、イオン注入装置の機能の重要な要因であるが、イオン注入装置には、ウエハの温度を常時監視できるようなシステムは備わっていない。バッチ処理方式、枚葉処理方式のいずれも、ペデスタルとウエハWとが密着しまたはプラテンとウエハWとが密着し、両者の間で正常に熱交換が行われていることが大前提となっている。しかしながら、ペデスタルやプラテンが劣化したり、ペデスタルやプラテンにゴミやパーティクルが付着していると、ウエハの接触不良状態が発生し、熱交換が十分でなくなり、全く無効な冷却システムとなり、製品不良を大量に発生させても長期間気づくことができない場合がある。
【0007】
本発明は、このような上記従来の課題を解決するものであり、常時ウエハの温度を監視しまたは補償をすることができるイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイオン注入装置は、基板にイオンを注入するものであって、イオンを照射する照射手段と、少なくとも1つの基板を保持する保持手段と、前記保持手段により保持された基板の温度に関する温度情報を非接触状態で検出する検出手段と、前記保持手段に保持された基板の熱交換を可能にするため前記保持手段に冷媒を供給する供給手段と、前記検出手段により検出された温度情報に基づき前記保持手段に保持された基板の表面温度を算出し、算出された基板の表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御手段とを有する。
【0009】
好ましくは、前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度が前記許容温度範囲外にあると判定したとき、前記照射手段によるイオン照射を中断させる。好ましくは前記許容温度範囲は、イオン注入工程において許容される温度範囲であり、前記制御手段は、許容温度範囲に関する情報をメモリに記憶する。好ましくは前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度に基づき前記供給手段を制御する。好ましくは前記制御手段は、前記供給手段の冷媒の温度および冷媒の供給量の少なくとも一方を制御する。好ましくは前記制御手段は、ダミー用シリコン基板についての温度情報とその表面温度の関係式をメモリに記憶し、前記制御手段は、処理用シリコン基板についての温度情報と前記関係式から処理用シリコン基板の表面温度を算出する。好ましくは前記検出手段は、赤外線センサーを含み、前記温度情報は、前記赤外線センサーが基板から放射された熱に応じて生成した電圧である。好ましくは前記関係式に含まれるダミー用シリコン基板の表面温度は、ダミー用シリコン基板の表面に貼り付けられたサーモラベルから観察された値である。好ましくは前記保持手段は、複数の基板を保持するバッチ処理用の回転可能なディスクを含み、前記ディスクは、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される。好ましくは前記保持手段は、1つの基板を保持する枚葉処理用の保持部材を含み、当該保持部材は、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される。
【0010】
本発明に係るイオン注入装置における基板の温度補償方法であって、基板の表面温度を観察するためのサーモラベルが貼り付けられたダミー用シリコン基板を保持部材に保持し、ダミー用シリコン基板へのイオン注入を行ったとき、ダミー用シリコン基板の温度情報を検出するとともに前記サーモラベルから基板の表面温度を観察し、前記ダミー用シリコン基板の温度情報と観察された基板の表面温度との関係を記憶し、次いで、実際の処理用シリコン基板へのイオン注入を実施するときまたは実施しているとき、処理用シリコン基板の温度情報を検出し、検出された温度情報と前記記憶された関係に基づき処理用シリコン基板の表面温度を算出し、算出された表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定するステップを含む。
【0011】
好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、処理用シリコン基板へのイオン注入を中断するステップを含む。好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、警告を提示するステップを含む。好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度に基づき前記保持部材の温度を制御し、処理用シリコン基板の表面温度が許容温度範囲内になるように処理用シリコン基板の表面温度を補償する。好ましくは温度補償方法はさらに、算出された処理用シリコン基板の表面温度をリアルタイムでディスプレイに表示するステップを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リアルタイムで基板の温度を監視しまたは補償することができるイオン注入装置を提供することができる。これにより、半導体装置の製造バラツキを抑止し、歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、従来のバッチ式のイオン注入装置の概要を示す図、図1(b)は、従来の枚葉式のイオン注入装置の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るイオン注入装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3(a)は、ウエハ保持部のディスクの平面図、図3(b)は、サーモパイル(赤外線センサー)とディスク上のウエハとの関係を示す概略断面図である。
【図4A】本発明の第1の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図4B】本発明の第1の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図5】ダミー用ウエハでサンプリングされたサーモパイルの出力電圧、基板表面温度、ビーム電力の関係を示すテーブルである。
【図6】図5に示すサンプル値からダミー用ウエハの放射率に基づくサーモパイルの出力特性を示すグラフである。
【図7】処理用ウエハで検出されたサーモパイル出力電圧と算出された基板表面温度との関係を示すグラフである。
【図8】イオン注入温度と素子のトランジスタの増幅特性のバラツキを説明する図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面に記載された部材の形状およびスケールは、発明の理解を容易にするために強調されており、必ずしも実際の製品と一致しないことに留意すべきである。
【実施例】
【0015】
図2は、本発明の実施例に係るイオン注入装置の構成を示す概略ブロック図である。本実施例に係るイオン注入装置10は、図2に示すように、半導体ウエハに対してイオンを照射するイオン照射部100、半導体ウエハを保持するウエハ保持部110、ウエハ保持部に保持された半導体ウエハの温度情報を検出する温度情報検出部120、ウエハ保持部110に保持された半導体ウエハの熱交換を可能にするためウエハ保持部110に冷却水や冷却ガスなどの冷媒を供給する冷媒供給部130、種々の情報を表示する表示部140、オペレータからの入力を受け取る入力部150、外部電子装置や外部サーバ等と有線または無線を利用してデータの送受信を行うデータ通信部160、各部を制御する制御部170、制御部170が実行するためのプログラムやその他の情報を記憶するメモリ180を含んで構成される。
【0016】
イオン照射部100は、公知のように、注入するべきイオンを発生するイオン源や、イオン源から発生されたイオンを加速する加速部、加速されたイオンを偏向させる偏向プレートなどを含むことができる。
【0017】
ウエハ保持部110は、複数のウエハをそれぞれ保持するペデスタルが形成されたバッチ処理用のディスク、あるいは枚葉式用のプラテンを含む。以下の説明では、バッチ処理を対象にする。図3(a)に示すように、ディスク112は、導電性の材料を含む円盤状を有し、その円周方向に沿って複数の半導体ウエハWを保持することができる。各ペデスタルには、半導体ウエハWのエッジをクランプする機構が備えられている。ディスク112の回転軸114は、図示しないモータによって回転され、かつディスク112は、縦方向Vに移動可能である。さらに、ディスク112の表面には、位置マーク116が形成され、位置マーク116は、図示しない位置検出センサーにより検出される。これにより、制御部170は、ウエハの回転角度またはペデスタル位置を識別することができる。
【0018】
温度情報検出部120は、好ましくは非接触にてディスク112に保持されたウエハWの温度を測定する。本実施例では、赤外線センサー(サーモパイル)を使用し、ウエハから放射される熱を測定する。一般的に、放射温度計でシリコンウエハの温度を計測することは困難であるとされる。その主な理由は、測定温度領域の放射線波長がシリコンを多く透過してしまうためである。その結果、放射線測定器において、ウエハは半透明な状態となり、被測定物以外の外的エネルギーも測定しまう。さらに、ウエハの温度測定の影響要因には、被測定物の透過率以外に、放射率、測定視野、応答性、分解能などがあるが、特定の要因評価を行えば、安定的な要因が多いため測定には適した環境ともいえる。シリコンウエハの透過に関しても、背面の温度は一定であり、トータルエネルギーとして捕えれば、ウエハの温度を知ることが可能となる。本実施例では、このような要因をもとに、汎用放射線測定器に使用されているサーモパイルモジュールを用いる。
【0019】
図3(b)に示すように、回転されるディスク112の周縁部と対向するようにコ字型のカバー118が取り付けられている。カバー118は、ディスク112を配置するためのチャンバー119を形成する。カバー118の一部には、円筒状の小さい貫通孔118Aが形成され、当該貫通孔118A内にサーモパイル122が設置される。カバー118とチャンバー119内のディスク112を含む環境は、好ましくは真空雰囲気である。サーモパイル122は、図3(a)に示すように、円周上の各ウエハWの測定領域Pを測定するが、貫通孔118Aの径が小さく、サーモパイル122とウエハWまでの距離が短いため、サーモパイル122の視野が狭くなり、測定視野の要因による影響を抑制することができる。ディスク112が回転されると、サーモパイル122は、ディスク112にセットされたウエハWから放射される熱エネルギーを測定し、その熱エネルギーに応じた起電力を出力する。ウエハWの表面とサーモパイル122の表面が平行になるように、サーモパイル122がカバー118に設けられる。
【0020】
さらに本実施例では、サーモパイルの出力電圧とウエハWの基板表面温度との関係を得るためにサーモラベルを用いる。サーモラベルとは、特定温度になると変色を示すものであり、一度、特定温度に到達すると変色は元に戻らない不可逆性である。サーモラベルは、例えば、1度ないし5度のステップ幅で温度を視認または観察することが可能である。サーモラベルは、実際の製品(ウエハW)に貼付することができないので、後述するように、ダミー用ウエハに貼付され、ダミー用ウエハを用いてサーモパイルの出力電圧と基板表面温度との関係を得る。
【0021】
冷媒供給部130は、ディスク112に対して冷却水や冷却ガスを供給する。例えば、冷却供給部130は、パイプを介して冷媒をディスク112へ供給し、ディスク112で熱交換された冷媒をパイプを介して受取る。冷却供給部130は、冷媒の温度を検出する温度センサーや、冷媒の供給量を調整する供給バルブ、および冷媒の温度を調整するための熱交換器を含むことができる。冷却供給部130は、制御部170からの指示により、冷媒の温度や冷媒の供給量を調整することができる。
【0022】
表示部140は、ディスプレイを含み、例えば、半導体ウエハの基板表面温度をリアルタイムで表示したり、イオン注入を実施しているプロセス条件、イオン注入の実施に許容される基板温度、イオン注入プロセスによって製造される半導体デバイスの特性などの情報を表示する。入力部150は、オペレータから種々の情報を受け取り、これを制御部170へ伝える。オペレータは、例えば、イオン注入の開始や終了を指示したり、メモリ180に格納されたプロセス条件の検索や選択をすることができる。
【0023】
データ通信部160は、他の半導体製造装置やコンピュータ装置とデータの送受をしたり、製造プロセスを管理しているサーバとデータの送受をすることができる。例えば、イオン注入装置は、サーバからプロセス条件を受け取ることができ、当該プロセス条件は、イオン注入すべきイオン種、イオンビーム電力、イオン注入において許容される基板表面温度の範囲などの情報を含むことができる。制御部170は、受け取ったプロセス条件に従いイオン照射部100を制御することができる。
【0024】
制御部170は、例えば中央処理装置、マイクロコンピュータ、演算プロセッサ等のデバイスを含み、各部の制御を行う。メモリ180は、イオン注入を実施するうえで必要な情報や制御部170が実行するプログラムなどを格納する。これらの情報は、予め用意されたもの、あるいはデータ通信部160を介して外部から受信されたものである。メモリ180は、例えば、デバイス毎のプロセス条件(イオン注入条件やイオン注入時のウエハの許容温度を含む)を記憶したり、温度情報検出部120により検出された温度情報に基づき基板表面温度を算出するための換算式などの情報を含む。
【0025】
次に、本実施例に係るイオン注入装置の動作について図4A、図4Bのフローを参照して説明する。先ず、ダミー用ウエハをディスク112のペデスタルにセットする(ステップS101)。セットされるダミー用ウエハは1つであってもよい。また、セットされるダミー用ウエハの表面には、特定温度に到達したときに変色するサーモラベルが貼付される。複数のダミー用ウエハがセットされる場合には、それぞれのダミー用ウエハにサーモラベルを貼付することができる。
【0026】
次に、制御部170は、ディスク112を一定の回転速度で回転させ、実際のプロセス条件に従いダミー用ウエハに対してイオン注入が実施される(ステップS102)。制御部170は、メモリ180のプロセス条件を読み出し、イオン照射部100のイオン種、イオンビーム電力など、イオン注入のための照射を制御する。
【0027】
次に、温度情報検出部120は、2段階でダミー用ウエハの温度情報すなわち放射熱に応じて生成された電圧を検出しこれを制御部170へ出力する(ステップS103)。先ず、温度情報検出部120は、ダミー用ウエハへのイオン注入が行われているとき、チャンバー119内で高速で回転されているディスク112上の各ダミー用ウエハの平均的な温度情報を検出する。即ち、バッチ内の温度をサーモパイル122で検出する。次いで、イオン注入が停止されまたは中断され、ディスク112の回転速度が低下し、ダミー用ウエハに追随してダミー用ウエハの個別の温度情報を検出できるようになったとき、ダミー用ウエハの個別の温度情報が検出される。こうして検出された2つのバッチ内の平均的な温度情報とダミー用ウエハの個別の温度情報がそれぞれメモリ180に格納される。
【0028】
他方、オペレータは、ダミー用ウエハの表面に貼付されたサーモラベルから基板表面温度を観察する。この観察は、ディスクが高速回転されているとき、すなわちバッチ内のダミー用ウエハの平均的な温度情報を検出するとき、およびディスクの回転速度が低下されバッチ内の個別のダミー用ウエハの温度情報が検出されときに行われる。ダミー用ウエハを用いた情報のサンプリングは、複数のプロセス条件において実施され、そのときのイオンビーム電力、サーモパイルの出力電圧および基板表面温度などの情報が抽出される。図5は、複数のプロセス条件でサンプリングされたビーム電力(W)、サーモパイルパイルの出力電圧(V)、サーモラベルの基板表面温度(℃)の関係を示すテーブルである。図6は、図5のテーブルに示されたビーム電力、サーモパイル出力電圧、および基板表面温度の関係式を示すグラフであり、左側の縦軸は、サーモパイル出力電圧(V)、右側の縦軸は、サーモラベルの基板表面温度、横軸はビーム電力である。ビーム電力の増加に応じてサーモパイル出力電圧および基板表面温度が増加する線形な関係を得ることができる。図6に示す関係式は、バッチ内の平均的な温度情報とダミー用ウエハの個別の温度情報に基づき作成される。
【0029】
サーモラベルで観察された基板表面温度は、オペレータが入力部150から入力し、制御部170は、サンプリングされた情報から、予め用意されたプログラムに従い、図6に示すような線形の関係式を求めることができ、これをメモリ180に記憶する(ステップS105)。
【0030】
次に、ダミー用ウエハをディスクから取り外し、複数の処理用ウエハをセットする(ステップS106)。制御部170は、ディスク112を一定の回転速度で回転させ、イオン照射部100を制御し、実際のプロセス条件に従い処理用ウエハに対してイオン注入を実施する(ステップS107)。温度情報検出部120は、ダミー用ウエハのときと同様に、2段階で処理用ウエハの温度情報を検出しこれを制御部170へ出力する。先ず、温度情報検出部120は、イオン注入が実施される間、チャンバー119内で高速で回転されているディスク112上の各処理用ウエハの平均的な温度情報を検出する。即ち、バッチ内の温度をサーモパイル122で検出する。次いで、イオン注入が停止されまたは中断され、ディスク112の回転速度が低下し、処理用ウエハに追随して処理用ウエハの個別の温度情報を検出できるようになったとき、処理用ウエハの個別の温度情報が検出される。制御部170は、処理用ウエハの2つの平均的なサーモパイル出力電圧および個別のサーモパイル出力電圧と、ダミー用基板においてサンプリングされたときの関係式から処理用ウエハの基板表面温度を算出する(ステップS108)。
【0031】
図7は、処理用ウエハのサーモパイル出力電圧と算出された基板表面温度との関係を示すグラフである。実際の処理用ウエハは、その表面にレジストパターンなどを形成しているため、ダミー用ウエハと放射率を異にする。つまり、プロセス条件が同一であっても、処理用ウエハで検出されるサーモパイル出力電圧は、ダミー用ウエハで検出されるサーモパイル出力電圧と異なる。このため、処理用ウエハで検出されたサーモパイル出力電圧に該当する基板表面温度をサンプリングされた関係式から算出する。
【0032】
制御部170は、各処理用ウエハの平均的な温度、即ち、バッチ内の温度が、当該プロセスまたは当該プロセスによって製造される半導体装置の許容温度範囲内であるか否かを判定する(ステップS109)。基板表面温度が許容温度範囲内であるとき、イオン注入は、そのまま継続して実施される(ステップS110)。他方、基板表面温度が許容温度の範囲外であるとき、制御部170は、イオン照射部100の動作を停止させてイオン注入を中断し(ステップS111)、表示部140にウエハ温度異常が発生した旨の警告を表示させる(ステップS112)。この警告としては、イオン注入を再開する“WARNING”と、イオン注入を中止する“ALARM”とがある。この“WARNING”と“ALARM”との違いについては、例えば、ある温度(60℃)を境にして、それ以上であれば“ALARM”、それ未満であれば“WARNING”とすることができる。また、併せて、警報を鳴らすようにしてもよい。
【0033】
警告が“WARNING”のときには、オペレータがイオン注入を再開させ(S114)、ステップS109の処理に戻る。他方、警告が“ALARM”のときには、イオン注入処理が中止される(S116)。また、イオン注入が継続されているとき(S110)、規定のイオン注入が終了したかどうかが判定され(S115)、終了していない場合にはステップS109に戻り、終了している場合にはイオン注入が中止される(S116)。
【0034】
イオン注入処理が終了する(ステップS116)と、個別のウエハを認識できる程度にディスク112の回転が下がったときに、ディスク112が回転した状態で各ウエハの表面温度を個別に測定する(ステップS117)。そして、各処理用ウエハの表面温度が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップS118)。表面温度が許容範囲内にあるときには、新たな処理用ウエハをディスク112に装着して、ステップS106からの処理を繰り返す。他方、表面温度が許容温度範囲内にないときには、表示部140にウエハ温度異常が発生した旨の警告を表示させ(ステップS119)、装置を停止させて監視を終了する。
【0035】
好ましくは、上記ステップS118において、制御部170は、ディスク112の位置マーク116を位置検出センサーで検出することにより、どの処理用ウエハの温度が異常かを識別する。これは、位置マーク116が検出されるタイミングと、位置マーク116から各ペデスタルまでの角度によって識別することができる。これにより、バッチ式であっても1枚毎のウエハの温度を監視をすることができる。さらに好ましくは、表示部140は、1枚毎のウエハの基板表面温度をほぼリアルタイムで表示し、オペレータがウエハ温度を確認する。他方、バッチ式において、バッチ内の平均温度を監視または補償するようにしてもよい。
【0036】
本実施例によれば、イオン注入を実施するとき、ウエハの温度を許容温度内に補償することができるため、ウエハに形成される素子や回路の特性のバラツキを抑制し、設計マージン内のデバイスを製造することができる。
【0037】
特に、高電流イオン注入プロセスで、トランジスタの増幅特性(hfeパラメータ)にウエハ温度が大きく起因していることは明らかなっている。これは、熱交換が正常に行えない状態によりウエハ温度が上昇すると、結晶欠陥が増加し、それにより拡散が阻害されることが原因と考えられている。つまりプロセス中のウエハ温度は、製品不良ばかりでなく、品質のバラツキを左右する重要な要素になっている。図8は、ウエハ温度とhfe特性の関係を示す図であり、縦軸は、増幅特性、横軸は、イオン注入時のウエハ温度である。この例では、ウエハ温度が60℃を超えると、hfeパラメータに大きなバラツキが生じ始める。反対に、ウエハ温度が低すぎても(例えば45℃)、歩留まりが低下する。本実施例のようにイオン注入時のウエハ温度を、許容温度範囲内に補償することで、トランジスタの増幅特性のバラツキを抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施例について図9のフローチャートを参照して説明する。上記実施例では、処理用ウエハの基板表面温度が許容温度範囲外になったとき、イオン注入を自動的に中断させるようにしたが、第2の実施例では、処理用ウエハの基板表面温度が許容温度範囲内になるように制御する。
【0039】
先ず、制御部170は、基板表面温度が許容温度範囲外にあると判定すると(ステップS201)、冷媒供給部130を制御し、冷媒の供給量を一定量だけ増加させる(ステップS202)。これにより、ディスク112の冷却が促進され、処理用ウエハの熱交換効率が向上される(ステップS203)。
【0040】
制御部170は、温度情報検出部120からの温度情報に基づき処理用ウエハの基板表面温度を監視し、当該温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS204)。許容温度範囲外であれば、上記ステップS202による冷媒の流量がさらに増加され、さらなる熱交換効率の改善が図られる。第2の実施例によれば、処理用ウエハの基板表面温度を許容範囲内に補償し、連続的なイオン注入が実施されることを可能にする。これにより、スループットの低下が抑制される。第2の実施例の場合、許容温度は、第1の実施例よりも、ある程度のマージンを含んで設定することが望ましい。
【0041】
次に、本発明の第3の実施例について図10のフローを参照して説明する。第2の実施例は、冷媒の流量を調整する例を示したが、ここでは、冷媒の温度を制御する。制御部170は、基板表面温度が許容温度範囲外にあると判定すると(ステップS301)、冷媒供給部130を制御し、冷媒の温度を低下させる。好ましくは、冷媒供給部130において、冷媒の温度を検出し(ステップS302)、次いで、冷媒供給部130に備えられた熱交換器により冷媒の温度を一定温度だけ低下させる(ステップS303)。これにより、ディスクの冷却が促進され、処理用ウエハの熱交換効率が向上される(ステップS304)。
【0042】
制御部170は、温度情報検出部120からの温度情報に基づき処理用ウエハの基板表面温度を監視し、基板表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS305)。許容温度範囲外であれば、上記ステップS303による冷媒の温度を低下させ、さらなる熱交換効率の改善を図る。なお、第3の実施例と第2の実施例とを組み合わせた制御も可能である。
【0043】
上記実施例では、バッチ処理用のイオン注入装置を対象にしたが、本発明は、枚葉式のイオン注入装置にも適用することができる。バッチ式の場合には、非接触式の温度検出手段としてサーモパイルを用いたが、枚葉式の場合には、ウエハを保持するプラテンが回転しないのであれば、プラテン自身に温度検出手段を実装するようにしてもよい。さらに上記実施例では、バッチ式の場合には、バッチ内のダミー用ウエハおよび処理用ウエハの平均的な温度情報を検出して制御する例を示したが、枚葉式の場合には、イオン注入中もサーモパイル(センサ)が温度情報を追随することができるので、チャンバ119内の平均温度を検出する必要はない。従って、枚葉式の場合には、イオン注入中に処理用ウエハの表面温度を監視し、検出した温度に応じて、イオン注入の中断又は中止、或いは、処理用ウエハの冷却温度の制御を行なうことができる。
【0044】
また、バッチ式や枚葉式におけるウエハの保持方法は、機械的なクランプのほかにも、静電チャックやその他の吸着方法を用いることが可能である。さらに、ウエハの放射熱を測定するサーモパイルは、真空雰囲気中に配置させたが、真空だけでなく、特殊なガラス越しに外部から測定することも可能である。
【0045】
上記実施例では、ダミー用ウエハを用いてサーモパイル出力電圧と基板表面温度との関係をサンプリングする例を示したが、両者の関係(例えば、図6のような関係式)が予めわかっている場合には、当該関係式をメモリ180に記憶しておけば、ダミー用ウエハのサンプリングは必ずしも必須ではない。
【0046】
バッチ式、枚葉式とも、監視タイミングを作ることでプロセス中の温度を知ることができる。例えば、イオン注入工程は、イオン注入開始、イオン注入ホールド、イオン注入開始、イオン注入完了、といったサイクルを含むことがあるが、これらのサイクル中のウエハ温度を知ることができる。
【0047】
以上のように、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10:イオン注入装置 112:ディスク
114:回転軸 116:位置マーク
118:カバー 118A:貫通孔
119:チャンバー 122:赤外線センサー
P:測定領域 V:縦方向のスキャン
W:ウエハ
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置に関し、特にイオン注入装置においてウエハ温度を補償するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、イオン注入は、種々の工程で実施され、例えば、MOSトランジスタのソース/ドレインの拡散領域やポリシリコンゲート電極を形成するときに実施される。例えば、特許文献1は、デバイスの特性を劣化させることなくビーム電流を増加させることができる大電流型イオン注入装置を開示している。また、特許文献2は、イオンビームの発散角やビームの傾きが変化してもイオン注入量を高精度で制御することができるイオン注入装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−213258号
【特許文献2】特開2009−87603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン注入装置におけるウエハの処理方法は、バッチ式と枚葉式に大別することができる。図1(a)は、バッチ式のイオン注入装置の概要を示し、図1(b)は、枚葉式のイオン注入装置の概要を示している。図1(a)に示すように、バッチ式のイオン注入装置は、搬送されてきた複数のウエハWをそれぞれ保持するペデスタルが形成されたディスク1を有する。ディスク1は、例えば1200rpmで高速回転され、かつディスク1にほぼ垂直に、または角度をつけてディスク1に斜めに照射されるイオンビームBのビーム量に応じて縦方向Vにメカニカルスキャンされ、ウエハWへのイオン注入が実施される。この方式は、主に高電流注入装置で採用されている。特に、高電流プロセスにおいて、ウエハWは非常に高温に晒されるため、ウエハWを冷却する必要が生じる。さもなければ、ウエハ上に形成されたレジストパターンが熱によって変形したり、素子の特性が劣化または変動してしまうことがある。このため、ディスク1は、パイプ2A、2Bを介して熱交換器3に連結され、ディスク1で温度上昇された水は、パイプ2Aを介して熱交換器3で冷却され、冷却水がパイプ2Bを介してディスク1へ供給され、ウエハWを冷却するようになっている。また、熱交換器の代わりに、温度調整可能なチーラーを用いることもできる。
【0005】
また図1(b)に示すように、枚葉式のイオン注入装置は、搬送されてきたウエハWを保持するプラテン4を有している。プラテン4に保持されたウエハWは、例えば水平方向HにスキャンされるスキャンビームB、またはスキャンビームBとプラテン4の縦方向Vのメカニカルスキャン制御によりウエハWへのイオン注入が実施される。この方式は、主に中電流注入装置で採用されている。プラテン4はまた上記のディスクと同様に、パイプ2A、2Bを介して熱交換器3に連結され、冷却水またはガスによってプラテン4に保持されたウエハWが冷却されるようになっている。
【0006】
図1(a)および(b)に示すバッチ式および枚葉式のいずれにおいても、ウエハWの温度(熱交換率)は、イオン注入装置の機能の重要な要因であるが、イオン注入装置には、ウエハの温度を常時監視できるようなシステムは備わっていない。バッチ処理方式、枚葉処理方式のいずれも、ペデスタルとウエハWとが密着しまたはプラテンとウエハWとが密着し、両者の間で正常に熱交換が行われていることが大前提となっている。しかしながら、ペデスタルやプラテンが劣化したり、ペデスタルやプラテンにゴミやパーティクルが付着していると、ウエハの接触不良状態が発生し、熱交換が十分でなくなり、全く無効な冷却システムとなり、製品不良を大量に発生させても長期間気づくことができない場合がある。
【0007】
本発明は、このような上記従来の課題を解決するものであり、常時ウエハの温度を監視しまたは補償をすることができるイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイオン注入装置は、基板にイオンを注入するものであって、イオンを照射する照射手段と、少なくとも1つの基板を保持する保持手段と、前記保持手段により保持された基板の温度に関する温度情報を非接触状態で検出する検出手段と、前記保持手段に保持された基板の熱交換を可能にするため前記保持手段に冷媒を供給する供給手段と、前記検出手段により検出された温度情報に基づき前記保持手段に保持された基板の表面温度を算出し、算出された基板の表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御手段とを有する。
【0009】
好ましくは、前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度が前記許容温度範囲外にあると判定したとき、前記照射手段によるイオン照射を中断させる。好ましくは前記許容温度範囲は、イオン注入工程において許容される温度範囲であり、前記制御手段は、許容温度範囲に関する情報をメモリに記憶する。好ましくは前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度に基づき前記供給手段を制御する。好ましくは前記制御手段は、前記供給手段の冷媒の温度および冷媒の供給量の少なくとも一方を制御する。好ましくは前記制御手段は、ダミー用シリコン基板についての温度情報とその表面温度の関係式をメモリに記憶し、前記制御手段は、処理用シリコン基板についての温度情報と前記関係式から処理用シリコン基板の表面温度を算出する。好ましくは前記検出手段は、赤外線センサーを含み、前記温度情報は、前記赤外線センサーが基板から放射された熱に応じて生成した電圧である。好ましくは前記関係式に含まれるダミー用シリコン基板の表面温度は、ダミー用シリコン基板の表面に貼り付けられたサーモラベルから観察された値である。好ましくは前記保持手段は、複数の基板を保持するバッチ処理用の回転可能なディスクを含み、前記ディスクは、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される。好ましくは前記保持手段は、1つの基板を保持する枚葉処理用の保持部材を含み、当該保持部材は、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される。
【0010】
本発明に係るイオン注入装置における基板の温度補償方法であって、基板の表面温度を観察するためのサーモラベルが貼り付けられたダミー用シリコン基板を保持部材に保持し、ダミー用シリコン基板へのイオン注入を行ったとき、ダミー用シリコン基板の温度情報を検出するとともに前記サーモラベルから基板の表面温度を観察し、前記ダミー用シリコン基板の温度情報と観察された基板の表面温度との関係を記憶し、次いで、実際の処理用シリコン基板へのイオン注入を実施するときまたは実施しているとき、処理用シリコン基板の温度情報を検出し、検出された温度情報と前記記憶された関係に基づき処理用シリコン基板の表面温度を算出し、算出された表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定するステップを含む。
【0011】
好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、処理用シリコン基板へのイオン注入を中断するステップを含む。好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、警告を提示するステップを含む。好ましくは温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度に基づき前記保持部材の温度を制御し、処理用シリコン基板の表面温度が許容温度範囲内になるように処理用シリコン基板の表面温度を補償する。好ましくは温度補償方法はさらに、算出された処理用シリコン基板の表面温度をリアルタイムでディスプレイに表示するステップを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リアルタイムで基板の温度を監視しまたは補償することができるイオン注入装置を提供することができる。これにより、半導体装置の製造バラツキを抑止し、歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、従来のバッチ式のイオン注入装置の概要を示す図、図1(b)は、従来の枚葉式のイオン注入装置の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るイオン注入装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3(a)は、ウエハ保持部のディスクの平面図、図3(b)は、サーモパイル(赤外線センサー)とディスク上のウエハとの関係を示す概略断面図である。
【図4A】本発明の第1の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図4B】本発明の第1の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図5】ダミー用ウエハでサンプリングされたサーモパイルの出力電圧、基板表面温度、ビーム電力の関係を示すテーブルである。
【図6】図5に示すサンプル値からダミー用ウエハの放射率に基づくサーモパイルの出力特性を示すグラフである。
【図7】処理用ウエハで検出されたサーモパイル出力電圧と算出された基板表面温度との関係を示すグラフである。
【図8】イオン注入温度と素子のトランジスタの増幅特性のバラツキを説明する図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係るイオン注入装置の動作フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面に記載された部材の形状およびスケールは、発明の理解を容易にするために強調されており、必ずしも実際の製品と一致しないことに留意すべきである。
【実施例】
【0015】
図2は、本発明の実施例に係るイオン注入装置の構成を示す概略ブロック図である。本実施例に係るイオン注入装置10は、図2に示すように、半導体ウエハに対してイオンを照射するイオン照射部100、半導体ウエハを保持するウエハ保持部110、ウエハ保持部に保持された半導体ウエハの温度情報を検出する温度情報検出部120、ウエハ保持部110に保持された半導体ウエハの熱交換を可能にするためウエハ保持部110に冷却水や冷却ガスなどの冷媒を供給する冷媒供給部130、種々の情報を表示する表示部140、オペレータからの入力を受け取る入力部150、外部電子装置や外部サーバ等と有線または無線を利用してデータの送受信を行うデータ通信部160、各部を制御する制御部170、制御部170が実行するためのプログラムやその他の情報を記憶するメモリ180を含んで構成される。
【0016】
イオン照射部100は、公知のように、注入するべきイオンを発生するイオン源や、イオン源から発生されたイオンを加速する加速部、加速されたイオンを偏向させる偏向プレートなどを含むことができる。
【0017】
ウエハ保持部110は、複数のウエハをそれぞれ保持するペデスタルが形成されたバッチ処理用のディスク、あるいは枚葉式用のプラテンを含む。以下の説明では、バッチ処理を対象にする。図3(a)に示すように、ディスク112は、導電性の材料を含む円盤状を有し、その円周方向に沿って複数の半導体ウエハWを保持することができる。各ペデスタルには、半導体ウエハWのエッジをクランプする機構が備えられている。ディスク112の回転軸114は、図示しないモータによって回転され、かつディスク112は、縦方向Vに移動可能である。さらに、ディスク112の表面には、位置マーク116が形成され、位置マーク116は、図示しない位置検出センサーにより検出される。これにより、制御部170は、ウエハの回転角度またはペデスタル位置を識別することができる。
【0018】
温度情報検出部120は、好ましくは非接触にてディスク112に保持されたウエハWの温度を測定する。本実施例では、赤外線センサー(サーモパイル)を使用し、ウエハから放射される熱を測定する。一般的に、放射温度計でシリコンウエハの温度を計測することは困難であるとされる。その主な理由は、測定温度領域の放射線波長がシリコンを多く透過してしまうためである。その結果、放射線測定器において、ウエハは半透明な状態となり、被測定物以外の外的エネルギーも測定しまう。さらに、ウエハの温度測定の影響要因には、被測定物の透過率以外に、放射率、測定視野、応答性、分解能などがあるが、特定の要因評価を行えば、安定的な要因が多いため測定には適した環境ともいえる。シリコンウエハの透過に関しても、背面の温度は一定であり、トータルエネルギーとして捕えれば、ウエハの温度を知ることが可能となる。本実施例では、このような要因をもとに、汎用放射線測定器に使用されているサーモパイルモジュールを用いる。
【0019】
図3(b)に示すように、回転されるディスク112の周縁部と対向するようにコ字型のカバー118が取り付けられている。カバー118は、ディスク112を配置するためのチャンバー119を形成する。カバー118の一部には、円筒状の小さい貫通孔118Aが形成され、当該貫通孔118A内にサーモパイル122が設置される。カバー118とチャンバー119内のディスク112を含む環境は、好ましくは真空雰囲気である。サーモパイル122は、図3(a)に示すように、円周上の各ウエハWの測定領域Pを測定するが、貫通孔118Aの径が小さく、サーモパイル122とウエハWまでの距離が短いため、サーモパイル122の視野が狭くなり、測定視野の要因による影響を抑制することができる。ディスク112が回転されると、サーモパイル122は、ディスク112にセットされたウエハWから放射される熱エネルギーを測定し、その熱エネルギーに応じた起電力を出力する。ウエハWの表面とサーモパイル122の表面が平行になるように、サーモパイル122がカバー118に設けられる。
【0020】
さらに本実施例では、サーモパイルの出力電圧とウエハWの基板表面温度との関係を得るためにサーモラベルを用いる。サーモラベルとは、特定温度になると変色を示すものであり、一度、特定温度に到達すると変色は元に戻らない不可逆性である。サーモラベルは、例えば、1度ないし5度のステップ幅で温度を視認または観察することが可能である。サーモラベルは、実際の製品(ウエハW)に貼付することができないので、後述するように、ダミー用ウエハに貼付され、ダミー用ウエハを用いてサーモパイルの出力電圧と基板表面温度との関係を得る。
【0021】
冷媒供給部130は、ディスク112に対して冷却水や冷却ガスを供給する。例えば、冷却供給部130は、パイプを介して冷媒をディスク112へ供給し、ディスク112で熱交換された冷媒をパイプを介して受取る。冷却供給部130は、冷媒の温度を検出する温度センサーや、冷媒の供給量を調整する供給バルブ、および冷媒の温度を調整するための熱交換器を含むことができる。冷却供給部130は、制御部170からの指示により、冷媒の温度や冷媒の供給量を調整することができる。
【0022】
表示部140は、ディスプレイを含み、例えば、半導体ウエハの基板表面温度をリアルタイムで表示したり、イオン注入を実施しているプロセス条件、イオン注入の実施に許容される基板温度、イオン注入プロセスによって製造される半導体デバイスの特性などの情報を表示する。入力部150は、オペレータから種々の情報を受け取り、これを制御部170へ伝える。オペレータは、例えば、イオン注入の開始や終了を指示したり、メモリ180に格納されたプロセス条件の検索や選択をすることができる。
【0023】
データ通信部160は、他の半導体製造装置やコンピュータ装置とデータの送受をしたり、製造プロセスを管理しているサーバとデータの送受をすることができる。例えば、イオン注入装置は、サーバからプロセス条件を受け取ることができ、当該プロセス条件は、イオン注入すべきイオン種、イオンビーム電力、イオン注入において許容される基板表面温度の範囲などの情報を含むことができる。制御部170は、受け取ったプロセス条件に従いイオン照射部100を制御することができる。
【0024】
制御部170は、例えば中央処理装置、マイクロコンピュータ、演算プロセッサ等のデバイスを含み、各部の制御を行う。メモリ180は、イオン注入を実施するうえで必要な情報や制御部170が実行するプログラムなどを格納する。これらの情報は、予め用意されたもの、あるいはデータ通信部160を介して外部から受信されたものである。メモリ180は、例えば、デバイス毎のプロセス条件(イオン注入条件やイオン注入時のウエハの許容温度を含む)を記憶したり、温度情報検出部120により検出された温度情報に基づき基板表面温度を算出するための換算式などの情報を含む。
【0025】
次に、本実施例に係るイオン注入装置の動作について図4A、図4Bのフローを参照して説明する。先ず、ダミー用ウエハをディスク112のペデスタルにセットする(ステップS101)。セットされるダミー用ウエハは1つであってもよい。また、セットされるダミー用ウエハの表面には、特定温度に到達したときに変色するサーモラベルが貼付される。複数のダミー用ウエハがセットされる場合には、それぞれのダミー用ウエハにサーモラベルを貼付することができる。
【0026】
次に、制御部170は、ディスク112を一定の回転速度で回転させ、実際のプロセス条件に従いダミー用ウエハに対してイオン注入が実施される(ステップS102)。制御部170は、メモリ180のプロセス条件を読み出し、イオン照射部100のイオン種、イオンビーム電力など、イオン注入のための照射を制御する。
【0027】
次に、温度情報検出部120は、2段階でダミー用ウエハの温度情報すなわち放射熱に応じて生成された電圧を検出しこれを制御部170へ出力する(ステップS103)。先ず、温度情報検出部120は、ダミー用ウエハへのイオン注入が行われているとき、チャンバー119内で高速で回転されているディスク112上の各ダミー用ウエハの平均的な温度情報を検出する。即ち、バッチ内の温度をサーモパイル122で検出する。次いで、イオン注入が停止されまたは中断され、ディスク112の回転速度が低下し、ダミー用ウエハに追随してダミー用ウエハの個別の温度情報を検出できるようになったとき、ダミー用ウエハの個別の温度情報が検出される。こうして検出された2つのバッチ内の平均的な温度情報とダミー用ウエハの個別の温度情報がそれぞれメモリ180に格納される。
【0028】
他方、オペレータは、ダミー用ウエハの表面に貼付されたサーモラベルから基板表面温度を観察する。この観察は、ディスクが高速回転されているとき、すなわちバッチ内のダミー用ウエハの平均的な温度情報を検出するとき、およびディスクの回転速度が低下されバッチ内の個別のダミー用ウエハの温度情報が検出されときに行われる。ダミー用ウエハを用いた情報のサンプリングは、複数のプロセス条件において実施され、そのときのイオンビーム電力、サーモパイルの出力電圧および基板表面温度などの情報が抽出される。図5は、複数のプロセス条件でサンプリングされたビーム電力(W)、サーモパイルパイルの出力電圧(V)、サーモラベルの基板表面温度(℃)の関係を示すテーブルである。図6は、図5のテーブルに示されたビーム電力、サーモパイル出力電圧、および基板表面温度の関係式を示すグラフであり、左側の縦軸は、サーモパイル出力電圧(V)、右側の縦軸は、サーモラベルの基板表面温度、横軸はビーム電力である。ビーム電力の増加に応じてサーモパイル出力電圧および基板表面温度が増加する線形な関係を得ることができる。図6に示す関係式は、バッチ内の平均的な温度情報とダミー用ウエハの個別の温度情報に基づき作成される。
【0029】
サーモラベルで観察された基板表面温度は、オペレータが入力部150から入力し、制御部170は、サンプリングされた情報から、予め用意されたプログラムに従い、図6に示すような線形の関係式を求めることができ、これをメモリ180に記憶する(ステップS105)。
【0030】
次に、ダミー用ウエハをディスクから取り外し、複数の処理用ウエハをセットする(ステップS106)。制御部170は、ディスク112を一定の回転速度で回転させ、イオン照射部100を制御し、実際のプロセス条件に従い処理用ウエハに対してイオン注入を実施する(ステップS107)。温度情報検出部120は、ダミー用ウエハのときと同様に、2段階で処理用ウエハの温度情報を検出しこれを制御部170へ出力する。先ず、温度情報検出部120は、イオン注入が実施される間、チャンバー119内で高速で回転されているディスク112上の各処理用ウエハの平均的な温度情報を検出する。即ち、バッチ内の温度をサーモパイル122で検出する。次いで、イオン注入が停止されまたは中断され、ディスク112の回転速度が低下し、処理用ウエハに追随して処理用ウエハの個別の温度情報を検出できるようになったとき、処理用ウエハの個別の温度情報が検出される。制御部170は、処理用ウエハの2つの平均的なサーモパイル出力電圧および個別のサーモパイル出力電圧と、ダミー用基板においてサンプリングされたときの関係式から処理用ウエハの基板表面温度を算出する(ステップS108)。
【0031】
図7は、処理用ウエハのサーモパイル出力電圧と算出された基板表面温度との関係を示すグラフである。実際の処理用ウエハは、その表面にレジストパターンなどを形成しているため、ダミー用ウエハと放射率を異にする。つまり、プロセス条件が同一であっても、処理用ウエハで検出されるサーモパイル出力電圧は、ダミー用ウエハで検出されるサーモパイル出力電圧と異なる。このため、処理用ウエハで検出されたサーモパイル出力電圧に該当する基板表面温度をサンプリングされた関係式から算出する。
【0032】
制御部170は、各処理用ウエハの平均的な温度、即ち、バッチ内の温度が、当該プロセスまたは当該プロセスによって製造される半導体装置の許容温度範囲内であるか否かを判定する(ステップS109)。基板表面温度が許容温度範囲内であるとき、イオン注入は、そのまま継続して実施される(ステップS110)。他方、基板表面温度が許容温度の範囲外であるとき、制御部170は、イオン照射部100の動作を停止させてイオン注入を中断し(ステップS111)、表示部140にウエハ温度異常が発生した旨の警告を表示させる(ステップS112)。この警告としては、イオン注入を再開する“WARNING”と、イオン注入を中止する“ALARM”とがある。この“WARNING”と“ALARM”との違いについては、例えば、ある温度(60℃)を境にして、それ以上であれば“ALARM”、それ未満であれば“WARNING”とすることができる。また、併せて、警報を鳴らすようにしてもよい。
【0033】
警告が“WARNING”のときには、オペレータがイオン注入を再開させ(S114)、ステップS109の処理に戻る。他方、警告が“ALARM”のときには、イオン注入処理が中止される(S116)。また、イオン注入が継続されているとき(S110)、規定のイオン注入が終了したかどうかが判定され(S115)、終了していない場合にはステップS109に戻り、終了している場合にはイオン注入が中止される(S116)。
【0034】
イオン注入処理が終了する(ステップS116)と、個別のウエハを認識できる程度にディスク112の回転が下がったときに、ディスク112が回転した状態で各ウエハの表面温度を個別に測定する(ステップS117)。そして、各処理用ウエハの表面温度が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップS118)。表面温度が許容範囲内にあるときには、新たな処理用ウエハをディスク112に装着して、ステップS106からの処理を繰り返す。他方、表面温度が許容温度範囲内にないときには、表示部140にウエハ温度異常が発生した旨の警告を表示させ(ステップS119)、装置を停止させて監視を終了する。
【0035】
好ましくは、上記ステップS118において、制御部170は、ディスク112の位置マーク116を位置検出センサーで検出することにより、どの処理用ウエハの温度が異常かを識別する。これは、位置マーク116が検出されるタイミングと、位置マーク116から各ペデスタルまでの角度によって識別することができる。これにより、バッチ式であっても1枚毎のウエハの温度を監視をすることができる。さらに好ましくは、表示部140は、1枚毎のウエハの基板表面温度をほぼリアルタイムで表示し、オペレータがウエハ温度を確認する。他方、バッチ式において、バッチ内の平均温度を監視または補償するようにしてもよい。
【0036】
本実施例によれば、イオン注入を実施するとき、ウエハの温度を許容温度内に補償することができるため、ウエハに形成される素子や回路の特性のバラツキを抑制し、設計マージン内のデバイスを製造することができる。
【0037】
特に、高電流イオン注入プロセスで、トランジスタの増幅特性(hfeパラメータ)にウエハ温度が大きく起因していることは明らかなっている。これは、熱交換が正常に行えない状態によりウエハ温度が上昇すると、結晶欠陥が増加し、それにより拡散が阻害されることが原因と考えられている。つまりプロセス中のウエハ温度は、製品不良ばかりでなく、品質のバラツキを左右する重要な要素になっている。図8は、ウエハ温度とhfe特性の関係を示す図であり、縦軸は、増幅特性、横軸は、イオン注入時のウエハ温度である。この例では、ウエハ温度が60℃を超えると、hfeパラメータに大きなバラツキが生じ始める。反対に、ウエハ温度が低すぎても(例えば45℃)、歩留まりが低下する。本実施例のようにイオン注入時のウエハ温度を、許容温度範囲内に補償することで、トランジスタの増幅特性のバラツキを抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施例について図9のフローチャートを参照して説明する。上記実施例では、処理用ウエハの基板表面温度が許容温度範囲外になったとき、イオン注入を自動的に中断させるようにしたが、第2の実施例では、処理用ウエハの基板表面温度が許容温度範囲内になるように制御する。
【0039】
先ず、制御部170は、基板表面温度が許容温度範囲外にあると判定すると(ステップS201)、冷媒供給部130を制御し、冷媒の供給量を一定量だけ増加させる(ステップS202)。これにより、ディスク112の冷却が促進され、処理用ウエハの熱交換効率が向上される(ステップS203)。
【0040】
制御部170は、温度情報検出部120からの温度情報に基づき処理用ウエハの基板表面温度を監視し、当該温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS204)。許容温度範囲外であれば、上記ステップS202による冷媒の流量がさらに増加され、さらなる熱交換効率の改善が図られる。第2の実施例によれば、処理用ウエハの基板表面温度を許容範囲内に補償し、連続的なイオン注入が実施されることを可能にする。これにより、スループットの低下が抑制される。第2の実施例の場合、許容温度は、第1の実施例よりも、ある程度のマージンを含んで設定することが望ましい。
【0041】
次に、本発明の第3の実施例について図10のフローを参照して説明する。第2の実施例は、冷媒の流量を調整する例を示したが、ここでは、冷媒の温度を制御する。制御部170は、基板表面温度が許容温度範囲外にあると判定すると(ステップS301)、冷媒供給部130を制御し、冷媒の温度を低下させる。好ましくは、冷媒供給部130において、冷媒の温度を検出し(ステップS302)、次いで、冷媒供給部130に備えられた熱交換器により冷媒の温度を一定温度だけ低下させる(ステップS303)。これにより、ディスクの冷却が促進され、処理用ウエハの熱交換効率が向上される(ステップS304)。
【0042】
制御部170は、温度情報検出部120からの温度情報に基づき処理用ウエハの基板表面温度を監視し、基板表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS305)。許容温度範囲外であれば、上記ステップS303による冷媒の温度を低下させ、さらなる熱交換効率の改善を図る。なお、第3の実施例と第2の実施例とを組み合わせた制御も可能である。
【0043】
上記実施例では、バッチ処理用のイオン注入装置を対象にしたが、本発明は、枚葉式のイオン注入装置にも適用することができる。バッチ式の場合には、非接触式の温度検出手段としてサーモパイルを用いたが、枚葉式の場合には、ウエハを保持するプラテンが回転しないのであれば、プラテン自身に温度検出手段を実装するようにしてもよい。さらに上記実施例では、バッチ式の場合には、バッチ内のダミー用ウエハおよび処理用ウエハの平均的な温度情報を検出して制御する例を示したが、枚葉式の場合には、イオン注入中もサーモパイル(センサ)が温度情報を追随することができるので、チャンバ119内の平均温度を検出する必要はない。従って、枚葉式の場合には、イオン注入中に処理用ウエハの表面温度を監視し、検出した温度に応じて、イオン注入の中断又は中止、或いは、処理用ウエハの冷却温度の制御を行なうことができる。
【0044】
また、バッチ式や枚葉式におけるウエハの保持方法は、機械的なクランプのほかにも、静電チャックやその他の吸着方法を用いることが可能である。さらに、ウエハの放射熱を測定するサーモパイルは、真空雰囲気中に配置させたが、真空だけでなく、特殊なガラス越しに外部から測定することも可能である。
【0045】
上記実施例では、ダミー用ウエハを用いてサーモパイル出力電圧と基板表面温度との関係をサンプリングする例を示したが、両者の関係(例えば、図6のような関係式)が予めわかっている場合には、当該関係式をメモリ180に記憶しておけば、ダミー用ウエハのサンプリングは必ずしも必須ではない。
【0046】
バッチ式、枚葉式とも、監視タイミングを作ることでプロセス中の温度を知ることができる。例えば、イオン注入工程は、イオン注入開始、イオン注入ホールド、イオン注入開始、イオン注入完了、といったサイクルを含むことがあるが、これらのサイクル中のウエハ温度を知ることができる。
【0047】
以上のように、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10:イオン注入装置 112:ディスク
114:回転軸 116:位置マーク
118:カバー 118A:貫通孔
119:チャンバー 122:赤外線センサー
P:測定領域 V:縦方向のスキャン
W:ウエハ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にイオンを注入するイオン注入装置であって、
イオンを照射する照射手段と、
少なくとも1つの基板を保持する保持手段と、
前記保持手段により保持された基板の温度に関する温度情報を非接触状態で検出する検出手段と、
前記保持手段に保持された基板の熱交換を可能にするため前記保持手段に冷媒を供給する供給手段と、
前記検出手段により検出された温度情報に基づき前記保持手段に保持された基板の表面温度を算出し、算出された基板の表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御手段と、
を有するイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度が前記許容温度範囲外にあると判定したとき、前記照射手段によるイオン照射を中断させる、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記許容温度範囲は、イオン注入工程において許容される温度範囲であり、前記制御手段は、許容温度範囲に関する情報をメモリに記憶する、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度に基づき前記供給手段を制御する、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記供給手段の冷媒の温度および冷媒の供給量の少なくとも一方を制御する、請求項4に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記制御手段は、ダミー用シリコン基板についての温度情報とその表面温度の関係式をメモリに記憶し、前記制御手段は、処理用シリコン基板についての温度情報と前記関係式から処理用シリコン基板の表面温度を算出する、請求項1ないし5いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記検出手段は、赤外線センサーを含み、前記温度情報は、前記赤外線センサーが基板から放射された熱に応じて生成した電圧である、請求項6に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記関係式に含まれるダミー用シリコン基板の表面温度は、ダミー用シリコン基板の表面に貼り付けられたサーモラベルから観察された値である、請求項6または7に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記保持手段は、複数の基板を保持するバッチ処理用の回転可能なディスクを含み、前記ディスクは、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される、請求項1ないし8いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記保持手段は、1つの基板を保持する枚葉処理用の保持部材を含み、当該保持部材は、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される、請求項1ないし8いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項11】
イオン注入装置における基板の温度補償方法であって、
基板の表面温度を観察するためのサーモラベルが貼り付けられたダミー用シリコン基板を保持部材に保持し、
ダミー用シリコン基板へのイオン注入を行ったとき、ダミー用シリコン基板の温度情報を検出するとともに前記サーモラベルから基板の表面温度を観察し、
前記ダミー用シリコン基板の温度情報と観察された基板の表面温度との関係を記憶し、
次いで、実際の処理用シリコン基板へのイオン注入を実施するときまたは実施しているとき、処理用シリコン基板の温度情報を検出し、
検出された温度情報と前記記憶された関係に基づき処理用シリコン基板の表面温度を算出し、
算出された表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する、
ステップを含む温度補償方法。
【請求項12】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、処理用シリコン基板へのイオン注入を中断するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項13】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、警告を提示するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項14】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度に基づき前記保持部材の温度を制御し、処理用シリコン基板の表面温度が許容温度範囲内になるように処理用シリコン基板の表面温度を補償する、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項15】
温度補償方法はさらに、算出された処理用シリコン基板の表面温度をリアルタイムでディスプレイに表示するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項1】
基板にイオンを注入するイオン注入装置であって、
イオンを照射する照射手段と、
少なくとも1つの基板を保持する保持手段と、
前記保持手段により保持された基板の温度に関する温度情報を非接触状態で検出する検出手段と、
前記保持手段に保持された基板の熱交換を可能にするため前記保持手段に冷媒を供給する供給手段と、
前記検出手段により検出された温度情報に基づき前記保持手段に保持された基板の表面温度を算出し、算出された基板の表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する制御手段と、
を有するイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度が前記許容温度範囲外にあると判定したとき、前記照射手段によるイオン照射を中断させる、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記許容温度範囲は、イオン注入工程において許容される温度範囲であり、前記制御手段は、許容温度範囲に関する情報をメモリに記憶する、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記算出された基板の表面温度に基づき前記供給手段を制御する、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記供給手段の冷媒の温度および冷媒の供給量の少なくとも一方を制御する、請求項4に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記制御手段は、ダミー用シリコン基板についての温度情報とその表面温度の関係式をメモリに記憶し、前記制御手段は、処理用シリコン基板についての温度情報と前記関係式から処理用シリコン基板の表面温度を算出する、請求項1ないし5いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記検出手段は、赤外線センサーを含み、前記温度情報は、前記赤外線センサーが基板から放射された熱に応じて生成した電圧である、請求項6に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記関係式に含まれるダミー用シリコン基板の表面温度は、ダミー用シリコン基板の表面に貼り付けられたサーモラベルから観察された値である、請求項6または7に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記保持手段は、複数の基板を保持するバッチ処理用の回転可能なディスクを含み、前記ディスクは、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される、請求項1ないし8いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記保持手段は、1つの基板を保持する枚葉処理用の保持部材を含み、当該保持部材は、前記供給手段から供給された冷媒によって熱交換される、請求項1ないし8いずれか1つに記載のイオン注入装置。
【請求項11】
イオン注入装置における基板の温度補償方法であって、
基板の表面温度を観察するためのサーモラベルが貼り付けられたダミー用シリコン基板を保持部材に保持し、
ダミー用シリコン基板へのイオン注入を行ったとき、ダミー用シリコン基板の温度情報を検出するとともに前記サーモラベルから基板の表面温度を観察し、
前記ダミー用シリコン基板の温度情報と観察された基板の表面温度との関係を記憶し、
次いで、実際の処理用シリコン基板へのイオン注入を実施するときまたは実施しているとき、処理用シリコン基板の温度情報を検出し、
検出された温度情報と前記記憶された関係に基づき処理用シリコン基板の表面温度を算出し、
算出された表面温度が許容温度範囲内にあるか否かを判定する、
ステップを含む温度補償方法。
【請求項12】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、処理用シリコン基板へのイオン注入を中断するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項13】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度が前記許容温度範囲外のとき、警告を提示するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項14】
温度補償方法はさらに、前記算出された表面温度に基づき前記保持部材の温度を制御し、処理用シリコン基板の表面温度が許容温度範囲内になるように処理用シリコン基板の表面温度を補償する、請求項11に記載の温度補償方法。
【請求項15】
温度補償方法はさらに、算出された処理用シリコン基板の表面温度をリアルタイムでディスプレイに表示するステップを含む、請求項11に記載の温度補償方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−9007(P2011−9007A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150084(P2009−150084)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(390020248)日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 (219)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(390020248)日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 (219)
【Fターム(参考)】
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