イオン注入装置及びイオン注入方法
【課題】ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような2次元イオン注入量面内分布を実現するイオン注入方法を提供する。
【解決手段】メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオン注入する注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返すことにより、ウエハ面内全面領域にイオン注入しながら、2次元イオン注入量面内分布を実現する。
【解決手段】メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオン注入する注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返すことにより、ウエハ面内全面領域にイオン注入しながら、2次元イオン注入量面内分布を実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置及びイオン注入方法に関し、より詳しくは、イオン注入装置のイオン注入量制御に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、ウエハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入装置は、イオン源によってイオン化されその後加速されたイオンビームを形成する機能と、そのイオンビームをビーム走査、ウエハ走査、またはそれらの組み合わせにより、半導体ウエハ全面に照射する機能を持つ。
【0003】
半導体製造工程では、ウエハ全面に同一性能の半導体チップを作成する目的から、通常、ウエハ面内に均一な条件を作り込む必要がある。イオン注入工程においても、ウエハの全領域で注入されるイオン注入量が均一になるように、イオン注入装置を制御することが通常である。
【0004】
ところが、いくつかの半導体製造工程では、原理的にウエハ面内に均一な条件を作り込むことが困難になってきている。特に最近、半導体チップの微細化が飛躍的に進んでおり、ウエハ面内に均一な条件を作り込むことの困難性が増すとともに、その不均一性の程度も増している。このような条件下で、それ以外の工程で、ウエハ面内で均一な条件を作り込むと、結果的にウエハ全面に同一性能の複数の半導体チップを作成することができなくなる。例えばイオン注入工程で、ウエハ全領域で通常通りの面内イオン注入量が均一なイオン注入を行うと、結果として生じる、複数の半導体チップの電気的特性が同一でなくなり、同一性能の半導体チップの作成が不可能になる。
【0005】
そこで、他の半導体製造工程でウエハ面内に均一な条件を作り込むことが出来ない場合に、そのウエハ面内ドーズ量不均一性に対応して、イオン注入装置を用いてウエハ全面にイオンビームを照射する工程において、意図的に不均一な2次元イオン注入量面内分布(以下では、「意図的に不均一な」を省略して、単に2次元イオン注入量面内分布と呼ぶことがある)を作成し、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することが考えられる。その際に重要なことは、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンに、共に対応できる機能を有するイオン注入装置及びイオン注入方法でなければならないことである。
【0006】
ウエハ面内に2次元イオン注入量面内分布を作成する方法の例としては、イオンビームによる走査速度及び半導体ウエハの走査速度(メカニカル走査速度)をコントロールする方法が提案されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−86530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のイオン注入方法では、イオンビームによる走査速度及び半導体ウエハの走査速度のみをコントロールしている。この場合、走査速度のコントロール範囲が限られ、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布は実現化できない。
【0009】
特許文献1のイオン注入方法はまた、その目的は1枚のウエハ上にイオン注入量が異なる領域を作成することであり、ウエハ面内に実現化できるイオン注入量のパターンが限られ、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できる2次元イオン注入量面内分布の作成機能を有しているわけではない。
【0010】
本発明の課題は、上記の問題を解消してウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することである。
【0011】
本発明の具体的な課題は、以下の内容を実現できるようにすることである。
【0012】
1.ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化する。
【0013】
2.他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能を有すること。
【0014】
3.他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の2次元不均一形状パターンに対応できる機能を有すること。
【0015】
4.上記ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能と、2次元不均一形状パターンに対応できる機能が、互いに独立に制御できること。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができること。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込む装置に適用される。
【0017】
この発明に係るイオン注入方法の一つは、上記イオンビーム走査機能とウエハ走査機能を備えるイオン注入装置において、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンビームを注入することを特徴としている。
【0018】
さらに、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長は、ウエハ全体の長さ(直径)より短く、かつ連続可変であり、加えて、ビーム走査速度も連続可変にコントロールできることもまた、その特徴の一つである。
【0019】
この発明に係るイオン注入方法では、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンを注入する注入動作を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返し、結果としてウエハ全面にイオンを注入する。
【0020】
この発明に係るイオン注入方法では、必要に応じて、上記メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度に加えて、ウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御し、面内イオン注入量分布の微調整を行う。
【0021】
ここで、この発明に係るイオン注入方法では、必要に応じて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の微調整を行うこともまた、その特徴の一つである。
【0022】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入装置において、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンを注入する装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができる。
【0024】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できるイオン注入方法を得ることができる。
【0025】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能を有するイオン注入装置が実現化できる。
【0026】
本発明によれば、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できるイオン注入方法を得ることができる。
【0027】
本発明によれば、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できる機能を有するイオン注入装置が実現化できる。
【0028】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応でき、かつ、2次元不均一形状パターンに対応できるイオン注入方法を得ることができる。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができるイオン注入方法を得ることができる。
【0029】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能と、2次元不均一形状パターンに対応できる機能を同時に満たすイオン注入装置が実現化できる。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができるイオン注入装置が実現化できる。
【0030】
本発明によれば、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明が適用され得るイオン注入装置の一例の概略構成を説明するための平面図である。
【図2】図1のイオン注入装置のウエハ周りの一例の概略構成を拡大して示す側面図である。
【図3】イオンビーム走査方法とウエハ走査方法について説明するための図である。
【図4】従来行われてきたウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入について説明するための図である。
【図5】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のコントロールについて説明するための図である。
【図6】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハにイオンビームを照射するイオン注入方法について説明するための図である。
【図7】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長の可変性について説明するための図である。
【図8】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図9】ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のみを可変とし、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図10】ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のみを可変とし、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図11】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図12】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図13】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図14】本発明により実際に得られた、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布の一例を示す図である。
【図15】本発明により実際に得られた、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができることを示す、イオン注入量分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ここで、図1を参照して、本発明が適用され得るイオン注入装置の概略構成について説明する。本発明が適用され得るイオン注入装置は、イオン源1から引出電極2により引き出したイオンビームをウエハ7に至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置3、質量分析スリット4、ビームスキャナー5、ウエハ処理室(イオン注入室)(図示省略)を順に配設している。ウエハ処理室内には、ウエハ7を保持するホルダ8を含む機構を備えたメカニカルスキャン装置が配設される。イオン源1から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置されたホルダ8上のウエハ7に導かれる。
【0033】
イオンビームは、ビームスキャナー5を用いてビーム走査方向に走査され、パラレルレンズ6の機能により平行化された後、ウエハ7まで導かれる。本発明が適用されるイオン注入装置では、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハ7をメカニカルに走査して、イオンをウエハ7に打ち込む。図1では、ウエハ7は図面に対して垂直な方向に走査されると考えて良い。
【0034】
図2は、図1のイオン注入装置のウエハ周りの一例の概略構成を拡大して示す側面図である。図2では、イオンビームは図面に対して垂直な面上で走査され、ホルダ8上に保持されているウエハ7に照射される。ホルダ8は昇降装置10により図2の矢印A方向に往復駆動され、その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7もまた、図2の矢印A方向に往復駆動される。すなわち、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハ7をメカニカルに走査することにより、イオンをウエハ7全面に打ち込むことができる。
【0035】
また、このイオン注入装置は、ホルダ8を矢印B方向に回転させる回転装置9が設置されている。その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7もまた、イオンビームに対して回転することになる。つまり、ウエハ7はその中心軸を中心として回転する。昇降装置10は、ウエハ7とホルダ8に加え、この回転装置9も含め、図2の矢印A方向に往復駆動させる。
【0036】
ここで、図3を参照して、イオンビーム走査方法とウエハ走査方法について説明する。図3では、走査されるウエハ7と走査されるイオンビーム、及び昇降装置10のみを記し、ホルダ、回転装置は記していない。この例では、イオンビームは横方向に走査され、ウエハ7は縦方向に走査される。図3に示すように、通常のイオン注入装置では、イオンビームの走査領域はウエハ直径を超え、メカニカルにウエハ7を走査する領域はウエハ7がイオンビーム照射領域(スキャンドイオンビームとして実線で示される領域)を通り抜けるよう制御される。
イオン注入装置の制御系は図示していないが、回転装置9、昇降装置10を含むメカニカルスキャン装置、ビームスキャナー5における、例えばビーム走査速度の制御は、図示しない制御装置により行なわれる。このために、回転装置9の回転角度を検出するセンサー、昇降装置10における昇降位置、昇降速度を検出するセンサー、ウエハ処理室内でイオンビームの計測を行うセンサー等の各種計測装置が設置され、制御装置は、これらの計測装置の計測結果を用いて制御動作を実行する。
【0037】
本発明が適用され得るイオン注入装置は、いままで説明してきたように、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込む装置であるが、ウエハに注入されるイオン注入量を考える際には、イオンビームとウエハとの相対運動が問題となるので、理解の便宜上、あたかもウエハが静止していると仮定し、イオンの注入領域およびビーム走査速度を相対的に考えれば良い。
図4は、従来行われてきたウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入について説明するための図である。図4では、縦方向、横方向とも、ウエハ7全面に亘ってイオン注入領域が広がっていることが理解できる。言い換えると、便宜的なイオンビーム注入領域範囲は、ウエハ形状を包含している。
【0038】
従来行われてきた、標準的なウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入では、ウエハ面上横方向の注入イオン量均一性を確保するために、イオンビームの走査速度はほぼ一定に保たれる。また、ウエハ面上縦方向の均一性を保つために、ウエハの走査速度、つまりメカニカル走査速度は、ほぼ一定に保たれる。
【0039】
ウエハ面内に意図的に不均一な2次元イオン注入量面内分布(前述したように、以下では、「意図的に不均一な」を省略して、単に2次元イオン注入量面内分布と呼ぶ)を作成する方法の例としては、イオンビームの走査速度及び半導体ウエハの走査速度を制御する方法が考えられる。しかし、この場合、それぞれの走査速度の制御範囲が限られ、本発明の課題たる、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することはできない。
【0040】
本発明では、ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハにイオンビームを照射するイオン注入方法を用いるが、まず、図5を参照して、本発明による、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長の制御について説明する。図5では、走査されるウエハ7と走査されるイオンビーム、及び昇降装置10のみを記し、ホルダ、回転装置は記していない。この例では、イオンビームは横方向に走査され、ウエハは縦方向に走査される。
【0041】
既に図3で説明したように、通常のイオン注入装置では、イオンビームの照射領域はウエハ直径を超え、メカニカルにウエハ7を走査する領域は、ウエハ7がイオンビーム照射領域を通り抜けるように制御される。これに対し、本発明では、イオンビームの照射領域は通常のイオン注入装置と同様にウエハ直径を超えるが、メカニカルにウエハ7を走査する領域は、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないように制御される。図5では、ウエハ7が二点鎖線で示す最下位置に到達した場合に、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないように記している。しかし、これは一例であり、ウエハ7が上記とは別の二点鎖線で示す最上位置に到達した場合に、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないようにしても良いし、ウエハ最下位置、ウエハ最上位置とも、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないようにしても良い。
【0042】
ここで、図6を参照して、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンビームを照射するイオン注入方法について説明する。既に図4で説明したように、ウエハ7に注入されるイオン注入量を考える際には、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止していると仮定し、イオンビーム照射領域およびビーム走査速度を相対的に考えれば良いので、図6(a)でも、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止しているとして図示している。
【0043】
既に図5で説明したように、本発明では、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、連続的に変えることが出来るように構成している。従って、図6(a)では、横方向は、ウエハ全面に亘ってイオンビーム照射領域が広がっているが、縦方向はウエハ7の途中部分までしかイオン注入が行なわれていない。言い換えると、便宜的なイオンビーム照射領域の範囲は、ウエハ形状を包含しているわけではない。また、図6(b)で明らかなように、ウエハ横方向に関しては、イオンビームのビーム走査速度Vを連続可変にコントロールできるように構成している。図6(a)では、ウエハ走査領域長がウエハ中心部を越えているように描いているが、これは例示であり、ウエハ走査領域長はウエハ中心部を越えなくても良い。また、図6(b)で明らかなように、ビーム走査速度Vは、ウエハの中央部(ビーム走査範囲の中央部)で谷型(C1、C2、C5で示す)になるように制御(設定)しても良いし、逆にウエハの中央部で山型(C4)になるように制御(設定)しても良いし、ウエハの端部からウエハの中央部にかけて山と谷が複数個存在(C3)するように制御(設定)しても良いし、また、左右非対称でも良い。
【0044】
ここで、図6(c)を参照して、ビーム走査速度Vとイオン注入量Dの関係について述べる。ビーム走査速度Vが大きい場合、当該イオンビーム照射領域で単位時間に注入されるイオン注入量Dとしては、そのビーム走査速度Vに逆比例し小さくなる。本発明において実際に制御しているのはビーム走査速度であるが、その目的はイオン注入量の制御であり、以降、特に明示する場合を除いては、イオン注入量を用いて議論を進める。
【0045】
次に、図7を参照して、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長について説明する。本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長は可変に設定することができる。すなわち、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、ウエハ半径より短く設定しても良いし、ウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定しても良い。
【0046】
本発明によるイオン注入方法では、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長を変えているので、この段階ではウエハ縦方向にイオン注入がなされていない領域と、イオン注入がなされている領域が存在する。この二領域のイオン注入量の大きな差が、後で詳しく説明する、引き続いて行われるイオンビームに対するウエハ回転角を変えながら複数回繰り返す注入方法を実行した後に、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現できる理由である。また、イオン注入がなされている領域では、ビーム走査速度変更に伴い、ウエハ横方向位置に依存して、意図的にイオン注入量に分布を生じさせることができる。この分布が、後で詳しく説明する、引き続いて行われるイオンビームに対するウエハ回転角を変えながら複数回繰り返す注入方法を実行した後に、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができる理由である。
【0047】
本発明では、引き続いて、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返す注入方法を用いる。
図8を参照して、この注入方法について説明する。本発明が適用され得るイオン注入装置は、既に図2で説明したように、ホルダ8を回転させる回転装置9によってホルダ8を設定角度で間欠的に回転させ、その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7を、イオンビームに対して設定角度で間欠的に回転させることができる。しかし、ウエハ7に注入されるイオン注入量を考える際には、イオンビームとウエハ7との相対運動が問題となるので、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止していると仮定し、イオンビーム照射領域が回転していると考えて良い。図8ではウエハ7を静止させて示している。
【0048】
既に図6で説明したように、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いるので、その結果として、1回の注入方法終了時には、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じる。ここで、イオンの注入が行われている領域13では、本発明によるビーム走査速度の制御により、イオン注入量の面内分布11が生じている。本発明では、引き続いてイオンビームに対するウエハ回転角を変え、回転停止後上記の注入動作を行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返す注入方法を用いる。ここで、複数回というのは、2〜n回(nは正の整数)で、ウエハの360度をn分割した設定角度で定義される。図8(b)では、2回目の注入方法を一例として示している。1回目の注入動作でイオンが注入された領域14は斜線でハッチングされて示されている。2回目の注入動作でも、1回目の注入動作と同様にメカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法が用いられるので、2回目の注入動作時にもウエハ7内に、その注入動作の際イオンが注入されていない領域と、注入量の面内分布を持ちながらイオンが注入された領域が生じる。1回目の注入動作と2回目の注入動作とではイオンビームに対するウエハ7の回転角が変化しているので(図8(b)では反時計回り方向に回転)、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域は狭くなっていく。また、イオンが注入されている領域内ではイオン注入量の面内分布がさらに形作られていく。
【0049】
本発明では、これら引き続いて行われる注入動作において、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長は特定回転角度ごとに連続、かつ可変に設定されるが、同一ウエハ走査領域長を用いても良い。また、ビーム走査方向のビーム走査速度も特定回転角度ごとに連続、かつ可変にコントロールされるが、同一のビーム走査速度パターンを用いても良い。
【0050】
これらの注入動作を複数回繰り返すことによって、ウエハ面内全面領域にイオン注入しながら、ウエハ面内に2次元イオン注入量面内分布を実現化することができる。本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をコントロールしているので、最低イオン注入量と最大イオン注入量の比が大きくなるような、意図的に大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができる。具体的には、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができる。
【0051】
本発明によるイオン注入方法をさらに詳しく説明するために、まず、図9及び図10を用いて、ウエハ7を回転させながら、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を説明する。なお、以下、図9から図13までを用いた説明において、各図の(a)〜(d)はウエハ7を90度(設定角度)時計回り方向に回転させ、回転停止後イオン注入を行なうという注入動作を4回繰り返した結果を示し、各図の(e)はウエハ7を45度(設定角度)回転させ、回転停止後イオン注入を行なうという注入動作を8回繰り返した後の注入結果を示しているが、これらは説明のために便宜的に示しているにすぎず、限定を意図するものではない。また、図9から図13までを用いた説明において、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長は、ウエハ回転角に依らず一定であるように書かれているが、これは説明のための便宜であって、限定を意図するものではない。さらに、図9から図13までを用いた説明において、ビーム走査方向のビーム走査速度パターンは、ウエハ回転角に依らず一定であるように書かれているが、これも説明のための便宜であって、限定を意図するものではない。
【0052】
図9では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を示している。この場合、図9(a)から図9(d)で判るように、ウエハ7を90度ずつ時計回り方向に回転させて注入動作を続けるに従って、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域が狭くなってゆく。ウエハ7を設定角度ずつ回転させながら一連の注入動作が終了した時の、ウエハ面内のイオン注入量分布は図9(e)のようになる。ここで重要なことは、図9のようにウエハ走査領域長のみを変更した場合には、一種類の変数のみを変更していることになるので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンとがある一定の関係を持ってしまう。
【0053】
この事情は、図10に示すように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より短く設定し、ウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を用いた場合でも同様である。つまり、図10(a)〜図10(e)は、ウエハ走査領域長がウエハ半径より短く設定されている点を除いて、図9(a)〜図9(e)と同じである。
【0054】
以上をまとめると、図9、図10に示すイオン注入方法のように、仮にウエハ走査領域長のみを変更した場合には、一種類の変数のみを変更していることになるので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンとが互いに関連し、互いに自由に動かせなくなる。他の半導体製造工程のウエハ面内不均一性において、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンは重要な要素であり、それぞれの要求を独立して満たすことが出来ない場合には、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致しなくなる。従って、仮にウエハ走査領域長のみを変更した場合には、本発明が解決しようとする課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、大規模な不均一性を持つ2次元イオン注入量面内分布を実現化することはできない。
【0055】
ここで、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、図8の注入方法において、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。従って、本発明の課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致する。以下、判りやすく説明する。
【0056】
図11では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法を示している。既に説明したように、イオン注入量Dはビーム走査速度Vに逆比例する。従って、図11(a)のイオン注入では、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じ、かつ、イオンの注入が行われている領域13では、ビーム走査速度Vの制御により、ビーム走査範囲の中央付近で、イオン注入量Dが多くなるようなイオン注入量面内分布が生じている。同様の注入動作を、ウエハ7を回転させ、その都度行なうことによって、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域が狭くなっていく。前述したように、図11(a)〜(d)はウエハ7を90度ずつ時計回り方向に順に回転させて合計4回のイオン注入を行なった結果を示し、図11(e)はウエハ7を45度ずつ順に8回回転させながらイオン注入を行なった後のウエハ面内のイオン注入量分布を示している。
【0057】
図12では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より速くした注入方法を示している。既に説明したように、イオン注入量はビーム走査速度に逆比例する。従って、図12(a)のイオン注入では、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じ、かつ、イオンの注入が行われている領域13では、ビーム走査速度の制御により、ビーム走査範囲の中央付近で、イオン注入量が少ないようなイオン注入量面内分布が生じている。図12のメカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、図11と同じ長さにしている。図11(e)、図12(e)において、ハッチングや破線、ドットの有無によるウエハ面内の濃淡はウエハ面内のドーズ量が不均一であること、つまりウエハ面内ドーズ量不均一性を示し、このような濃淡によって形成されるパターンは2次元不均一形状パターンを示す。従って、図11(e)と図12(e)から明らかに判るように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長が同じ長さであっても、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。すなわち、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。
【0058】
図11と図12では、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法と速くした注入方法を比較したが、ビーム走査速度の変更方法はこれに限定されるわけではない。すなわち、ビーム走査速度の変更方法として、その設定速度が段階的に増減する形態、あるいはランダムに増減する形態としても良い。また、図6(b)で説明したように、ビーム走査速度の山と谷の数を変更しても良い。さらに、一般にビーム走査速度のパターンを種々、変更しても良い。
【0059】
図13では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法を示している。ここで、比較のために、図11と図13のビーム走査速度は同一にしている。図11(e)と図13(e)から明らかに判るように、ビーム走査速度が同一であっても、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。既に説明したように、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができるが、図11と図13の比較からもそのことが裏付けられる。
【0060】
図13に示すように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長がウエハ半径より短く設定された場合には、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返す注入動作を実施した後、ウエハ中央部にイオンを注入していない領域が発生する。この領域は、最低イオン注入量がゼロの場合とみなし、そのままイオン注入量が無い領域として、一連の注入動作を終了しても良いし、必要に応じて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の微調整を行っても良い。
【0061】
本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができるが、第三のコントロール要素として、さらにウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御し、面内イオン注入量分布の微調整を行っても良い。この場合、ウエハ7をメカニカルに走査するメカニカル走査速度を制御することによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良いし、ビーム走査の周期を変更、制御することによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良いし、さらに、ウエハ上にイオンビームを照射する時間を間欠的に間引くことによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良い。
【0062】
以上もう一度まとめると、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。従って、本発明の課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致する。
【0063】
勿論、既に述べたように、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化できる理由は、主として、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を変えていることに起因する。従って、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を可変にすることによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現化し、ビーム走査方向のビーム走査速度を可変にすることにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現していると考えることもできる。
【0064】
以上のように、本発明により、ウエハ全面にイオンビームを照射する場合に、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができるイオン注入が可能となる。
【0065】
以下に、本発明により、実際に具体的な課題が解決された一例を示す。
【0066】
図14は、本発明により実際に得られたイオン注入量面内分布の一例を示す。この例では、測定数値が小さいほど実際のイオン注入量はその数値に反比例して多くなっている。図14の例では、ウエハ中央部のイオン注入量が少なく、ウエハ端部のイオン注入量が多くなっている。図14には、ウエハの2次元面内分布の測定数値を2次元的に示す15aとともに、ウエハ面内で直交する2方向上の測定数値分布15b、15cを示している。
【0067】
図14に明らかに示されているように、測定数値の最大値と最小値の比は5倍を超えている。既に説明したように、この測定数値は実際のイオン注入量に反比例しているので、図14の例では、実際のウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比は5倍以上であることが示されている。図14は一例であるが、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現できていることが判る。
【0068】
図15を参照して、本発明により実際に得られたイオン注入量分布の例を示す。図15では、ウエハ内のある直線上の測定数値のプロット16a、16b、16cを表している。図14と同様に、この例でも、測定数値が小さいほど実際のイオン注入量はその数値に反比例して多くなっている。図15の例でも、ウエハ中央部のイオン注入量が少なく、ウエハ端部のイオン注入量が多くなっている。
【0069】
図15のプロット16a、16b、16cは、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を同一にしながら、ビーム走査速度を種々変化させた注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返した注入動作の例である。図15から明らかなように、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合に、その2次元不均一形状パターンを変化させることができる。
【0070】
図15はウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができることの一例である。既に、図11と図13を用いて説明したように、図15に示した状況とは逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができることは言うまでもない。
【0071】
さらに、一般に、図15は、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を可変にすることによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現化し、ビーム走査方向のビーム走査速度を可変にすることにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現化している例であると言える。
【0072】
以上、本発明により、ウエハ全面にイオンビームを照射する場合に、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができることが、実際に示されている。
【0073】
これまで、少なくとも一つの例示的実施形態を説明してきたが、上記説明は、単なる例であって、限定を意図しない。
【符号の説明】
【0074】
1 イオン源
2 引出電極
3 質量分析磁石装置
4 質量分析スリット
5 ビームスキャナー
6 パラレルレンズ
7 ウエハ
8 ホルダ
9 回転装置
10 昇降装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置及びイオン注入方法に関し、より詳しくは、イオン注入装置のイオン注入量制御に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、ウエハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入装置は、イオン源によってイオン化されその後加速されたイオンビームを形成する機能と、そのイオンビームをビーム走査、ウエハ走査、またはそれらの組み合わせにより、半導体ウエハ全面に照射する機能を持つ。
【0003】
半導体製造工程では、ウエハ全面に同一性能の半導体チップを作成する目的から、通常、ウエハ面内に均一な条件を作り込む必要がある。イオン注入工程においても、ウエハの全領域で注入されるイオン注入量が均一になるように、イオン注入装置を制御することが通常である。
【0004】
ところが、いくつかの半導体製造工程では、原理的にウエハ面内に均一な条件を作り込むことが困難になってきている。特に最近、半導体チップの微細化が飛躍的に進んでおり、ウエハ面内に均一な条件を作り込むことの困難性が増すとともに、その不均一性の程度も増している。このような条件下で、それ以外の工程で、ウエハ面内で均一な条件を作り込むと、結果的にウエハ全面に同一性能の複数の半導体チップを作成することができなくなる。例えばイオン注入工程で、ウエハ全領域で通常通りの面内イオン注入量が均一なイオン注入を行うと、結果として生じる、複数の半導体チップの電気的特性が同一でなくなり、同一性能の半導体チップの作成が不可能になる。
【0005】
そこで、他の半導体製造工程でウエハ面内に均一な条件を作り込むことが出来ない場合に、そのウエハ面内ドーズ量不均一性に対応して、イオン注入装置を用いてウエハ全面にイオンビームを照射する工程において、意図的に不均一な2次元イオン注入量面内分布(以下では、「意図的に不均一な」を省略して、単に2次元イオン注入量面内分布と呼ぶことがある)を作成し、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することが考えられる。その際に重要なことは、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンに、共に対応できる機能を有するイオン注入装置及びイオン注入方法でなければならないことである。
【0006】
ウエハ面内に2次元イオン注入量面内分布を作成する方法の例としては、イオンビームによる走査速度及び半導体ウエハの走査速度(メカニカル走査速度)をコントロールする方法が提案されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−86530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のイオン注入方法では、イオンビームによる走査速度及び半導体ウエハの走査速度のみをコントロールしている。この場合、走査速度のコントロール範囲が限られ、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布は実現化できない。
【0009】
特許文献1のイオン注入方法はまた、その目的は1枚のウエハ上にイオン注入量が異なる領域を作成することであり、ウエハ面内に実現化できるイオン注入量のパターンが限られ、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できる2次元イオン注入量面内分布の作成機能を有しているわけではない。
【0010】
本発明の課題は、上記の問題を解消してウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することである。
【0011】
本発明の具体的な課題は、以下の内容を実現できるようにすることである。
【0012】
1.ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化する。
【0013】
2.他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能を有すること。
【0014】
3.他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の2次元不均一形状パターンに対応できる機能を有すること。
【0015】
4.上記ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能と、2次元不均一形状パターンに対応できる機能が、互いに独立に制御できること。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができること。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込む装置に適用される。
【0017】
この発明に係るイオン注入方法の一つは、上記イオンビーム走査機能とウエハ走査機能を備えるイオン注入装置において、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンビームを注入することを特徴としている。
【0018】
さらに、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長は、ウエハ全体の長さ(直径)より短く、かつ連続可変であり、加えて、ビーム走査速度も連続可変にコントロールできることもまた、その特徴の一つである。
【0019】
この発明に係るイオン注入方法では、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンを注入する注入動作を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返し、結果としてウエハ全面にイオンを注入する。
【0020】
この発明に係るイオン注入方法では、必要に応じて、上記メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度に加えて、ウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御し、面内イオン注入量分布の微調整を行う。
【0021】
ここで、この発明に係るイオン注入方法では、必要に応じて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の微調整を行うこともまた、その特徴の一つである。
【0022】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入装置において、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時に制御しながらウエハにイオンを注入する装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができる。
【0024】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できるイオン注入方法を得ることができる。
【0025】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能を有するイオン注入装置が実現化できる。
【0026】
本発明によれば、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できるイオン注入方法を得ることができる。
【0027】
本発明によれば、他の半導体製造工程の2次元不均一形状パターンに対応できる機能を有するイオン注入装置が実現化できる。
【0028】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応でき、かつ、2次元不均一形状パターンに対応できるイオン注入方法を得ることができる。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができるイオン注入方法を得ることができる。
【0029】
本発明によれば、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさに対応できる機能と、2次元不均一形状パターンに対応できる機能を同時に満たすイオン注入装置が実現化できる。例えば、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合にも、その2次元不均一形状パターンを変化させることができ、またその逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができるイオン注入装置が実現化できる。
【0030】
本発明によれば、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明が適用され得るイオン注入装置の一例の概略構成を説明するための平面図である。
【図2】図1のイオン注入装置のウエハ周りの一例の概略構成を拡大して示す側面図である。
【図3】イオンビーム走査方法とウエハ走査方法について説明するための図である。
【図4】従来行われてきたウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入について説明するための図である。
【図5】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のコントロールについて説明するための図である。
【図6】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハにイオンビームを照射するイオン注入方法について説明するための図である。
【図7】本発明による、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長の可変性について説明するための図である。
【図8】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図9】ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のみを可変とし、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図10】ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長のみを可変とし、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図11】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図12】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図13】本発明による、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これを複数回繰り返すイオン注入方式について説明するための図である。
【図14】本発明により実際に得られた、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布の一例を示す図である。
【図15】本発明により実際に得られた、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができることを示す、イオン注入量分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ここで、図1を参照して、本発明が適用され得るイオン注入装置の概略構成について説明する。本発明が適用され得るイオン注入装置は、イオン源1から引出電極2により引き出したイオンビームをウエハ7に至るビームライン上を通るよう構成し、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置3、質量分析スリット4、ビームスキャナー5、ウエハ処理室(イオン注入室)(図示省略)を順に配設している。ウエハ処理室内には、ウエハ7を保持するホルダ8を含む機構を備えたメカニカルスキャン装置が配設される。イオン源1から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置されたホルダ8上のウエハ7に導かれる。
【0033】
イオンビームは、ビームスキャナー5を用いてビーム走査方向に走査され、パラレルレンズ6の機能により平行化された後、ウエハ7まで導かれる。本発明が適用されるイオン注入装置では、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハ7をメカニカルに走査して、イオンをウエハ7に打ち込む。図1では、ウエハ7は図面に対して垂直な方向に走査されると考えて良い。
【0034】
図2は、図1のイオン注入装置のウエハ周りの一例の概略構成を拡大して示す側面図である。図2では、イオンビームは図面に対して垂直な面上で走査され、ホルダ8上に保持されているウエハ7に照射される。ホルダ8は昇降装置10により図2の矢印A方向に往復駆動され、その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7もまた、図2の矢印A方向に往復駆動される。すなわち、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハ7をメカニカルに走査することにより、イオンをウエハ7全面に打ち込むことができる。
【0035】
また、このイオン注入装置は、ホルダ8を矢印B方向に回転させる回転装置9が設置されている。その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7もまた、イオンビームに対して回転することになる。つまり、ウエハ7はその中心軸を中心として回転する。昇降装置10は、ウエハ7とホルダ8に加え、この回転装置9も含め、図2の矢印A方向に往復駆動させる。
【0036】
ここで、図3を参照して、イオンビーム走査方法とウエハ走査方法について説明する。図3では、走査されるウエハ7と走査されるイオンビーム、及び昇降装置10のみを記し、ホルダ、回転装置は記していない。この例では、イオンビームは横方向に走査され、ウエハ7は縦方向に走査される。図3に示すように、通常のイオン注入装置では、イオンビームの走査領域はウエハ直径を超え、メカニカルにウエハ7を走査する領域はウエハ7がイオンビーム照射領域(スキャンドイオンビームとして実線で示される領域)を通り抜けるよう制御される。
イオン注入装置の制御系は図示していないが、回転装置9、昇降装置10を含むメカニカルスキャン装置、ビームスキャナー5における、例えばビーム走査速度の制御は、図示しない制御装置により行なわれる。このために、回転装置9の回転角度を検出するセンサー、昇降装置10における昇降位置、昇降速度を検出するセンサー、ウエハ処理室内でイオンビームの計測を行うセンサー等の各種計測装置が設置され、制御装置は、これらの計測装置の計測結果を用いて制御動作を実行する。
【0037】
本発明が適用され得るイオン注入装置は、いままで説明してきたように、イオンビームをビーム走査方向に走査し、ビーム走査方向にほぼ直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込む装置であるが、ウエハに注入されるイオン注入量を考える際には、イオンビームとウエハとの相対運動が問題となるので、理解の便宜上、あたかもウエハが静止していると仮定し、イオンの注入領域およびビーム走査速度を相対的に考えれば良い。
図4は、従来行われてきたウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入について説明するための図である。図4では、縦方向、横方向とも、ウエハ7全面に亘ってイオン注入領域が広がっていることが理解できる。言い換えると、便宜的なイオンビーム注入領域範囲は、ウエハ形状を包含している。
【0038】
従来行われてきた、標準的なウエハ面内ドーズ量均一性を実現するイオン注入では、ウエハ面上横方向の注入イオン量均一性を確保するために、イオンビームの走査速度はほぼ一定に保たれる。また、ウエハ面上縦方向の均一性を保つために、ウエハの走査速度、つまりメカニカル走査速度は、ほぼ一定に保たれる。
【0039】
ウエハ面内に意図的に不均一な2次元イオン注入量面内分布(前述したように、以下では、「意図的に不均一な」を省略して、単に2次元イオン注入量面内分布と呼ぶ)を作成する方法の例としては、イオンビームの走査速度及び半導体ウエハの走査速度を制御する方法が考えられる。しかし、この場合、それぞれの走査速度の制御範囲が限られ、本発明の課題たる、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化することはできない。
【0040】
本発明では、ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハにイオンビームを照射するイオン注入方法を用いるが、まず、図5を参照して、本発明による、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長の制御について説明する。図5では、走査されるウエハ7と走査されるイオンビーム、及び昇降装置10のみを記し、ホルダ、回転装置は記していない。この例では、イオンビームは横方向に走査され、ウエハは縦方向に走査される。
【0041】
既に図3で説明したように、通常のイオン注入装置では、イオンビームの照射領域はウエハ直径を超え、メカニカルにウエハ7を走査する領域は、ウエハ7がイオンビーム照射領域を通り抜けるように制御される。これに対し、本発明では、イオンビームの照射領域は通常のイオン注入装置と同様にウエハ直径を超えるが、メカニカルにウエハ7を走査する領域は、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないように制御される。図5では、ウエハ7が二点鎖線で示す最下位置に到達した場合に、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないように記している。しかし、これは一例であり、ウエハ7が上記とは別の二点鎖線で示す最上位置に到達した場合に、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないようにしても良いし、ウエハ最下位置、ウエハ最上位置とも、ウエハ7がイオンビーム照射領域を完全には通り抜けないようにしても良い。
【0042】
ここで、図6を参照して、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンビームを照射するイオン注入方法について説明する。既に図4で説明したように、ウエハ7に注入されるイオン注入量を考える際には、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止していると仮定し、イオンビーム照射領域およびビーム走査速度を相対的に考えれば良いので、図6(a)でも、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止しているとして図示している。
【0043】
既に図5で説明したように、本発明では、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、連続的に変えることが出来るように構成している。従って、図6(a)では、横方向は、ウエハ全面に亘ってイオンビーム照射領域が広がっているが、縦方向はウエハ7の途中部分までしかイオン注入が行なわれていない。言い換えると、便宜的なイオンビーム照射領域の範囲は、ウエハ形状を包含しているわけではない。また、図6(b)で明らかなように、ウエハ横方向に関しては、イオンビームのビーム走査速度Vを連続可変にコントロールできるように構成している。図6(a)では、ウエハ走査領域長がウエハ中心部を越えているように描いているが、これは例示であり、ウエハ走査領域長はウエハ中心部を越えなくても良い。また、図6(b)で明らかなように、ビーム走査速度Vは、ウエハの中央部(ビーム走査範囲の中央部)で谷型(C1、C2、C5で示す)になるように制御(設定)しても良いし、逆にウエハの中央部で山型(C4)になるように制御(設定)しても良いし、ウエハの端部からウエハの中央部にかけて山と谷が複数個存在(C3)するように制御(設定)しても良いし、また、左右非対称でも良い。
【0044】
ここで、図6(c)を参照して、ビーム走査速度Vとイオン注入量Dの関係について述べる。ビーム走査速度Vが大きい場合、当該イオンビーム照射領域で単位時間に注入されるイオン注入量Dとしては、そのビーム走査速度Vに逆比例し小さくなる。本発明において実際に制御しているのはビーム走査速度であるが、その目的はイオン注入量の制御であり、以降、特に明示する場合を除いては、イオン注入量を用いて議論を進める。
【0045】
次に、図7を参照して、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長について説明する。本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長は可変に設定することができる。すなわち、ウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、ウエハ半径より短く設定しても良いし、ウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定しても良い。
【0046】
本発明によるイオン注入方法では、メカニカルにウエハを走査するウエハ走査領域長を変えているので、この段階ではウエハ縦方向にイオン注入がなされていない領域と、イオン注入がなされている領域が存在する。この二領域のイオン注入量の大きな差が、後で詳しく説明する、引き続いて行われるイオンビームに対するウエハ回転角を変えながら複数回繰り返す注入方法を実行した後に、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現できる理由である。また、イオン注入がなされている領域では、ビーム走査速度変更に伴い、ウエハ横方向位置に依存して、意図的にイオン注入量に分布を生じさせることができる。この分布が、後で詳しく説明する、引き続いて行われるイオンビームに対するウエハ回転角を変えながら複数回繰り返す注入方法を実行した後に、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することができる理由である。
【0047】
本発明では、引き続いて、ウエハ走査領域長とビーム走査速度を同時に制御するイオン注入を、イオンビームに対するウエハ回転角を変える毎に行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返す注入方法を用いる。
図8を参照して、この注入方法について説明する。本発明が適用され得るイオン注入装置は、既に図2で説明したように、ホルダ8を回転させる回転装置9によってホルダ8を設定角度で間欠的に回転させ、その結果、ホルダ8上に保持されているウエハ7を、イオンビームに対して設定角度で間欠的に回転させることができる。しかし、ウエハ7に注入されるイオン注入量を考える際には、イオンビームとウエハ7との相対運動が問題となるので、理解の便宜上、あたかもウエハ7が静止していると仮定し、イオンビーム照射領域が回転していると考えて良い。図8ではウエハ7を静止させて示している。
【0048】
既に図6で説明したように、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、イオンビームのビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いるので、その結果として、1回の注入方法終了時には、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じる。ここで、イオンの注入が行われている領域13では、本発明によるビーム走査速度の制御により、イオン注入量の面内分布11が生じている。本発明では、引き続いてイオンビームに対するウエハ回転角を変え、回転停止後上記の注入動作を行い、これをウエハ1回転の間に複数回繰り返す注入方法を用いる。ここで、複数回というのは、2〜n回(nは正の整数)で、ウエハの360度をn分割した設定角度で定義される。図8(b)では、2回目の注入方法を一例として示している。1回目の注入動作でイオンが注入された領域14は斜線でハッチングされて示されている。2回目の注入動作でも、1回目の注入動作と同様にメカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法が用いられるので、2回目の注入動作時にもウエハ7内に、その注入動作の際イオンが注入されていない領域と、注入量の面内分布を持ちながらイオンが注入された領域が生じる。1回目の注入動作と2回目の注入動作とではイオンビームに対するウエハ7の回転角が変化しているので(図8(b)では反時計回り方向に回転)、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域は狭くなっていく。また、イオンが注入されている領域内ではイオン注入量の面内分布がさらに形作られていく。
【0049】
本発明では、これら引き続いて行われる注入動作において、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長は特定回転角度ごとに連続、かつ可変に設定されるが、同一ウエハ走査領域長を用いても良い。また、ビーム走査方向のビーム走査速度も特定回転角度ごとに連続、かつ可変にコントロールされるが、同一のビーム走査速度パターンを用いても良い。
【0050】
これらの注入動作を複数回繰り返すことによって、ウエハ面内全面領域にイオン注入しながら、ウエハ面内に2次元イオン注入量面内分布を実現化することができる。本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をコントロールしているので、最低イオン注入量と最大イオン注入量の比が大きくなるような、意図的に大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができる。具体的には、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができる。
【0051】
本発明によるイオン注入方法をさらに詳しく説明するために、まず、図9及び図10を用いて、ウエハ7を回転させながら、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を説明する。なお、以下、図9から図13までを用いた説明において、各図の(a)〜(d)はウエハ7を90度(設定角度)時計回り方向に回転させ、回転停止後イオン注入を行なうという注入動作を4回繰り返した結果を示し、各図の(e)はウエハ7を45度(設定角度)回転させ、回転停止後イオン注入を行なうという注入動作を8回繰り返した後の注入結果を示しているが、これらは説明のために便宜的に示しているにすぎず、限定を意図するものではない。また、図9から図13までを用いた説明において、ウエハをメカニカルに走査するウエハ走査領域長は、ウエハ回転角に依らず一定であるように書かれているが、これは説明のための便宜であって、限定を意図するものではない。さらに、図9から図13までを用いた説明において、ビーム走査方向のビーム走査速度パターンは、ウエハ回転角に依らず一定であるように書かれているが、これも説明のための便宜であって、限定を意図するものではない。
【0052】
図9では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を示している。この場合、図9(a)から図9(d)で判るように、ウエハ7を90度ずつ時計回り方向に回転させて注入動作を続けるに従って、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域が狭くなってゆく。ウエハ7を設定角度ずつ回転させながら一連の注入動作が終了した時の、ウエハ面内のイオン注入量分布は図9(e)のようになる。ここで重要なことは、図9のようにウエハ走査領域長のみを変更した場合には、一種類の変数のみを変更していることになるので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンとがある一定の関係を持ってしまう。
【0053】
この事情は、図10に示すように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より短く設定し、ウエハ走査領域長のみを可変にする注入方法を用いた場合でも同様である。つまり、図10(a)〜図10(e)は、ウエハ走査領域長がウエハ半径より短く設定されている点を除いて、図9(a)〜図9(e)と同じである。
【0054】
以上をまとめると、図9、図10に示すイオン注入方法のように、仮にウエハ走査領域長のみを変更した場合には、一種類の変数のみを変更していることになるので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンとが互いに関連し、互いに自由に動かせなくなる。他の半導体製造工程のウエハ面内不均一性において、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンは重要な要素であり、それぞれの要求を独立して満たすことが出来ない場合には、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致しなくなる。従って、仮にウエハ走査領域長のみを変更した場合には、本発明が解決しようとする課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、大規模な不均一性を持つ2次元イオン注入量面内分布を実現化することはできない。
【0055】
ここで、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、図8の注入方法において、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。従って、本発明の課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致する。以下、判りやすく説明する。
【0056】
図11では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法を示している。既に説明したように、イオン注入量Dはビーム走査速度Vに逆比例する。従って、図11(a)のイオン注入では、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じ、かつ、イオンの注入が行われている領域13では、ビーム走査速度Vの制御により、ビーム走査範囲の中央付近で、イオン注入量Dが多くなるようなイオン注入量面内分布が生じている。同様の注入動作を、ウエハ7を回転させ、その都度行なうことによって、ウエハ7内のイオンが注入されていない領域が狭くなっていく。前述したように、図11(a)〜(d)はウエハ7を90度ずつ時計回り方向に順に回転させて合計4回のイオン注入を行なった結果を示し、図11(e)はウエハ7を45度ずつ順に8回回転させながらイオン注入を行なった後のウエハ面内のイオン注入量分布を示している。
【0057】
図12では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より長くかつウエハ直径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より速くした注入方法を示している。既に説明したように、イオン注入量はビーム走査速度に逆比例する。従って、図12(a)のイオン注入では、ウエハ7内に、イオンを注入していない領域12と、イオンの注入が行われている領域13が生じ、かつ、イオンの注入が行われている領域13では、ビーム走査速度の制御により、ビーム走査範囲の中央付近で、イオン注入量が少ないようなイオン注入量面内分布が生じている。図12のメカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長は、図11と同じ長さにしている。図11(e)、図12(e)において、ハッチングや破線、ドットの有無によるウエハ面内の濃淡はウエハ面内のドーズ量が不均一であること、つまりウエハ面内ドーズ量不均一性を示し、このような濃淡によって形成されるパターンは2次元不均一形状パターンを示す。従って、図11(e)と図12(e)から明らかに判るように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長が同じ長さであっても、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。すなわち、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。
【0058】
図11と図12では、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法と速くした注入方法を比較したが、ビーム走査速度の変更方法はこれに限定されるわけではない。すなわち、ビーム走査速度の変更方法として、その設定速度が段階的に増減する形態、あるいはランダムに増減する形態としても良い。また、図6(b)で説明したように、ビーム走査速度の山と谷の数を変更しても良い。さらに、一般にビーム走査速度のパターンを種々、変更しても良い。
【0059】
図13では、本発明による、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長をウエハ半径より短く設定し、ウエハ走査領域長を可変にするとともに、ビーム走査範囲の中央付近でのビーム走査速度を、他の位置より遅くした注入方法を示している。ここで、比較のために、図11と図13のビーム走査速度は同一にしている。図11(e)と図13(e)から明らかに判るように、ビーム走査速度が同一であっても、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。既に説明したように、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができるが、図11と図13の比較からもそのことが裏付けられる。
【0060】
図13に示すように、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長がウエハ半径より短く設定された場合には、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返す注入動作を実施した後、ウエハ中央部にイオンを注入していない領域が発生する。この領域は、最低イオン注入量がゼロの場合とみなし、そのままイオン注入量が無い領域として、一連の注入動作を終了しても良いし、必要に応じて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の微調整を行っても良い。
【0061】
本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができるが、第三のコントロール要素として、さらにウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御し、面内イオン注入量分布の微調整を行っても良い。この場合、ウエハ7をメカニカルに走査するメカニカル走査速度を制御することによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良いし、ビーム走査の周期を変更、制御することによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良いし、さらに、ウエハ上にイオンビームを照射する時間を間欠的に間引くことによって、メカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御しても良い。
【0062】
以上もう一度まとめると、本発明では、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長と、ビーム走査方向のビーム走査速度を、同時にコントロールしながらウエハ7にイオンを注入する注入方法を用いているので、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができる。従って、本発明の課題たる、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正するという目的に合致する。
【0063】
勿論、既に述べたように、最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現化できる理由は、主として、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を変えていることに起因する。従って、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を可変にすることによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現化し、ビーム走査方向のビーム走査速度を可変にすることにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現していると考えることもできる。
【0064】
以上のように、本発明により、ウエハ全面にイオンビームを照射する場合に、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができるイオン注入が可能となる。
【0065】
以下に、本発明により、実際に具体的な課題が解決された一例を示す。
【0066】
図14は、本発明により実際に得られたイオン注入量面内分布の一例を示す。この例では、測定数値が小さいほど実際のイオン注入量はその数値に反比例して多くなっている。図14の例では、ウエハ中央部のイオン注入量が少なく、ウエハ端部のイオン注入量が多くなっている。図14には、ウエハの2次元面内分布の測定数値を2次元的に示す15aとともに、ウエハ面内で直交する2方向上の測定数値分布15b、15cを示している。
【0067】
図14に明らかに示されているように、測定数値の最大値と最小値の比は5倍を超えている。既に説明したように、この測定数値は実際のイオン注入量に反比例しているので、図14の例では、実際のウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比は5倍以上であることが示されている。図14は一例であるが、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現できていることが判る。
【0068】
図15を参照して、本発明により実際に得られたイオン注入量分布の例を示す。図15では、ウエハ内のある直線上の測定数値のプロット16a、16b、16cを表している。図14と同様に、この例でも、測定数値が小さいほど実際のイオン注入量はその数値に反比例して多くなっている。図15の例でも、ウエハ中央部のイオン注入量が少なく、ウエハ端部のイオン注入量が多くなっている。
【0069】
図15のプロット16a、16b、16cは、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を同一にしながら、ビーム走査速度を種々変化させた注入方法を、イオンビームに対するウエハ回転角を変えながら、複数回繰り返した注入動作の例である。図15から明らかなように、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさが同一である場合に、その2次元不均一形状パターンを変化させることができる。
【0070】
図15はウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさとその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を個別、独立に制御することができることの一例である。既に、図11と図13を用いて説明したように、図15に示した状況とは逆に、2次元不均一形状パターンが同一である場合にも、そのウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさを変化させることができることは言うまでもない。
【0071】
さらに、一般に、図15は、メカニカルにウエハ7を走査するウエハ走査領域長を可変にすることによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現化し、ビーム走査方向のビーム走査速度を可変にすることにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現化している例であると言える。
【0072】
以上、本発明により、ウエハ全面にイオンビームを照射する場合に、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正する目的で、大規模な2次元イオン注入量面内分布を実現することができることが、実際に示されている。
【0073】
これまで、少なくとも一つの例示的実施形態を説明してきたが、上記説明は、単なる例であって、限定を意図しない。
【符号の説明】
【0074】
1 イオン源
2 引出電極
3 質量分析磁石装置
4 質量分析スリット
5 ビームスキャナー
6 パラレルレンズ
7 ウエハ
8 ホルダ
9 回転装置
10 昇降装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをビーム走査方向に走査し、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入方法において、
イオンビームに対するウエハ回転角を可変設定可能とし、
前記ウエハ回転角の設定角度を段階的に変更しながら、各設定角度にてウエハにイオン注入を行うよう構成し、ウエハ1回転の間の複数回の前記イオン注入動作の間に、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変に設定するとともにイオンビームのビーム走査速度の変更を同時に行うことにより、ウエハにイオンを注入して、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長の可変の設定長が、ウエハ直径より短いことを特徴とするイオン注入方法。
【請求項3】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長が、前記設定角度についてその特定角度ごとに連続して可変であるように設定することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項4】
請求項1において、前記イオンビームのビーム走査速度の変更を、前記ウエハ回転角の設定角度についてその特定角度ごとに、連続かつ可変に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項5】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長の可変設定と前記イオンビームのビーム走査速度の変更の二つの制御パラメータを同時に制御することによって、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項6】
請求項5において、前記ウエハ走査領域長を可変に設定することによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現し、前記イオンビームのビーム走査速度を可変に制御することにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現化し、その結果として、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項7】
請求項1において、前記ウエハ回転角の各設定角度でのイオン注入において、非イオン注入領域を形成しながらウエハ面にイオン注入することにより、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような2次元イオン注入量面内分布を実現することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項8】
イオンビームをビーム走査方向に走査し、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入方法において、
イオンビームに対するウエハの回転角を可変設定可能とするとともに、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変設定可能とし、
前記ウエハの回転角の基準とする角度及び該基準とする角度から変更した一以上の設定角度にて、前記ウエハの一端側から設定した前記ウエハ走査領域長までの部分領域面に、ウエハ1回転の間にイオン注入を複数回に分割して行うよう構成するとともに、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハ走査領域長の可変設定とイオンビームビーム走査速度の変更制御とを組み合わせて行うことにより、ウエハにイオンを注入して、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項9】
イオンビームをビーム走査方向に走査するビームスキャナーと、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査するメカニカルスキャン装置を備え、イオンをウエハに打ち込むイオン注入装置において、
前記メカニカルスキャン装置はイオンビームに対するウエハ回転角を可変とする回転装置を備え、
少なくとも前記ビームスキャナー、メカニカルスキャン装置を制御する機能を持つ制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記回転装置を制御して前記イオンビームに対するウエハ回転角の設定角度を段階的に変更しながら、各設定角度にてウエハにイオン注入を行う一方、前記メカニカルスキャン装置を制御してウエハ1回転の間の複数回の前記イオン注入動作の間に、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変に設定するとともに前記ビームスキャナーを制御してイオンビームのビーム走査速度の変更制御を同時に行うことにより、ウエハにイオンを注入するとともに、ウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御して、面内イオン注入量分布の微調整を行うことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項10】
請求項9において、前記制御装置は、前記面内イオン注入量分布の微調整に加えて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の追加の微調整を行うことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項1】
イオンビームをビーム走査方向に走査し、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入方法において、
イオンビームに対するウエハ回転角を可変設定可能とし、
前記ウエハ回転角の設定角度を段階的に変更しながら、各設定角度にてウエハにイオン注入を行うよう構成し、ウエハ1回転の間の複数回の前記イオン注入動作の間に、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変に設定するとともにイオンビームのビーム走査速度の変更を同時に行うことにより、ウエハにイオンを注入して、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長の可変の設定長が、ウエハ直径より短いことを特徴とするイオン注入方法。
【請求項3】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長が、前記設定角度についてその特定角度ごとに連続して可変であるように設定することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項4】
請求項1において、前記イオンビームのビーム走査速度の変更を、前記ウエハ回転角の設定角度についてその特定角度ごとに、連続かつ可変に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項5】
請求項1において、前記ウエハ走査領域長の可変設定と前記イオンビームのビーム走査速度の変更の二つの制御パラメータを同時に制御することによって、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項6】
請求項5において、前記ウエハ走査領域長を可変に設定することによって、大まかな2次元イオン注入量面内分布のパターンを実現し、前記イオンビームのビーム走査速度を可変に制御することにより、詳細な2次元イオン注入量面内分布を実現化し、その結果として、ウエハ面内ドーズ量不均一性の大きさ、及びその2次元不均一形状パターンという、二つの制御量を独立に制御することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項7】
請求項1において、前記ウエハ回転角の各設定角度でのイオン注入において、非イオン注入領域を形成しながらウエハ面にイオン注入することにより、ウエハ面内の最低イオン注入量と最高イオン注入量の比が5倍以上になるような2次元イオン注入量面内分布を実現することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項8】
イオンビームをビーム走査方向に走査し、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査して、イオンをウエハに打ち込むイオン注入方法において、
イオンビームに対するウエハの回転角を可変設定可能とするとともに、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変設定可能とし、
前記ウエハの回転角の基準とする角度及び該基準とする角度から変更した一以上の設定角度にて、前記ウエハの一端側から設定した前記ウエハ走査領域長までの部分領域面に、ウエハ1回転の間にイオン注入を複数回に分割して行うよう構成するとともに、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハ走査領域長の可変設定とイオンビームビーム走査速度の変更制御とを組み合わせて行うことにより、ウエハにイオンを注入して、他の半導体製造工程のウエハ面内ドーズ量不均一性を補正することを特徴とするイオン注入方法。
【請求項9】
イオンビームをビーム走査方向に走査するビームスキャナーと、前記ビーム走査方向に直交する方向にウエハをメカニカルに走査するメカニカルスキャン装置を備え、イオンをウエハに打ち込むイオン注入装置において、
前記メカニカルスキャン装置はイオンビームに対するウエハ回転角を可変とする回転装置を備え、
少なくとも前記ビームスキャナー、メカニカルスキャン装置を制御する機能を持つ制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記回転装置を制御して前記イオンビームに対するウエハ回転角の設定角度を段階的に変更しながら、各設定角度にてウエハにイオン注入を行う一方、前記メカニカルスキャン装置を制御してウエハ1回転の間の複数回の前記イオン注入動作の間に、それぞれの設定角度のイオン注入について、前記ウエハをメカニカルに走査する範囲を規定するウエハ走査領域長を可変に設定するとともに前記ビームスキャナーを制御してイオンビームのビーム走査速度の変更制御を同時に行うことにより、ウエハにイオンを注入するとともに、ウエハをメカニカルに走査する方向のドーズ量分布を制御して、面内イオン注入量分布の微調整を行うことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項10】
請求項9において、前記制御装置は、前記面内イオン注入量分布の微調整に加えて、ウエハ全面にわたる少量のイオン注入量での均一なイオン注入を追加し、面内イオン注入量分布の追加の微調整を行うことを特徴とするイオン注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−4610(P2013−4610A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132216(P2011−132216)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000183196)株式会社SEN (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000183196)株式会社SEN (31)
【Fターム(参考)】
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