説明

イオン液体ベースのグリース組成物

本発明は、少なくとも−30℃〜少なくとも180℃の温度に置かれ且つ良好な防食性を有する、耐水性のグリース組成物の製造のためのイオン性液体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、自動車分野、風力発電設備、並びに加工機及び工作機械において使用され且つ水との絶え間ない接触に曝されている、部品の保護処理のためのイオン液体ベースのグリース組成物に関する。特に本発明は、この潤滑剤を備えた部品を酸化及び腐食に対して保護するために、少なくとも−30℃〜少なくとも180℃の温度範囲において使用される、耐水性のグリース組成物に関する。
【0002】
新規なグリース組成物の開発は技術の一般的な発展を伴わなければならず、これは新たな且つより高い要求をグリース組成物に課す。これらの要求は、もはや公知の組成物では満たされない。特にこれらの要求は、加工機及び工作機械における運転液体としての使用の場合、極限運転条件、例えば、高温及び低温、高い回転数に関して、膨大である。
【0003】
潤滑技術でのイオン性液体(以下、IL(=イオン液体)と呼ぶ)の使用は、近年、徹底的に調査されている。イオン性液体は、カチオン及びアニオンから構成され且つ100℃より低い融点を有する材料として定義されている。多くのILは顕著により低い融点を有するので、室温の場合に液体(以下、RTIL(=室温イオン液体)と呼ばれる)として存在する。トライボロジーの分野で、特にRTILはベース油として興味深く、というのも分解のプロセスによる化学的な変化が生じない限り、塩状の化合物は、特に僅かな蒸発を示すのみか又は蒸発を示さない。イオン性液体は極めて低い蒸気圧を有し、不燃性であり、しばしば260℃を上回るまで熱的に安定であり且つ更になお潤滑性がある。
【0004】
Chenggeng Ye、Weimin Liu、Yunxia Chen、Laigui Yu (Chem. Commun. 2001年, 2244-2245頁)はイオン性液体に対する摩擦試験及び摩滅試験を紹介した。トライボロジー試験は、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムテトラフルオロボレート及び1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを用いて実施された。これは試験された化合物が摩擦の良好な低減、良好な耐摩耗性及び高い負荷可能性を有することを示す。
【0005】
日本国特許出願第2005−185718号は、ベースのグリースとしてイオン性液体、増粘剤及び他の添加剤からなる混合物を含む、グリース組成物を記載している。このグリースはローラーベアリング又はボールベアリングに使用される。
【0006】
日本国特許出願第2005−112597号は、電子装置の場合に使用され且つベース油としてのイオン性液体、及び260℃の滴点を有する増粘剤を含有するグリース組成物を開示している。
【0007】
日本国特許出願第2003−376010号は、ベース油の一部としてイオン性液体及び増粘剤を含有する半固体のグリース組成物に関する。このグリース組成物は真空中での適用に適している。
【0008】
日本国特許出願第2005−197958号は、ベース油の一部としてイオン性液体を含有する、ローラーベアリング機のためのグリース組成物に関連する。
【0009】
日本国特許出願第2005−294405号は、プリンター又はコピー機で使用され且つ炭素含有増粘剤、及びイオン性液体を含有するベース油からなる、導電性ベアリンググリースを記載している。
【0010】
上記の刊行物において、電流の導線のために、高い温度で及び/又は真空中での適用のために適していなければならないグリースも提案されている。
【0011】
上記の公知のグリース組成物は、摩擦の観点から次の欠点を有する。イオン性液体の塩の基本構造に基づき、潤滑剤添加剤、例えば、酸化防止剤、減摩剤、防食添加剤、耐摩耗剤、極圧添加剤等は、多くの場合にイオン性液体に不溶性である。しかしながら、多くの摩擦用途は、イオン性液体が特性の改善のためにそのような添加剤を備えることを要求する。しかしながら、新規な添加剤の開発は高い技術的な出費を意味するので、経済的な理由からイオン性液体中で標準添加剤を使用できることが望ましい。
【0012】
更なる欠点は、公知のグリース組成物の用途の場合、水吸収及び/又はイオン性液体による水との反応の傾向があることである。アニオン、例えば、スルフェート、クロリド、ブロミド又はテトラフルオロボレートがイオン性液体中に存在する場合、これらは一般に水溶性のイオン性液体をもたらす。更に、テトラフルオロボレート及びヘキサフロオロホスフェートは水の影響下でフッ化水素酸を形成することができ、これが強力な腐食傾向につながり得る。これはクロリドが存在する場合にも当てはまる。
【0013】
更なる欠点は、疎水性と呼ばれるアニオン、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの使用もまた摩擦の観点から十分な水安定性グリースを提供するのに十分ではないことである。
【0014】
更に公知のグリース組成物の場合、使用されるイオン性液体の低温特性は十分に考慮されていない。例えば、JP2003−376010号において、過冷却された溶融物を形成する傾向が強い、N−アルキルピリジニウムカチオン又はN,N’ジアルキルイミダゾリウムカチオンを有するビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド含有イオン性液体が公知である。1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは、例えば、低い粘度を有し且つ過冷却の傾向が強いイオン性液体であるが;摩擦用途に関する融点は−16℃である(低温DSC測定)。しかしながら、多くの摩擦用途のために、−30℃及びそれ以下まで、良好な流動性が存在することが必要である。イオン性液体、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス−(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは、更に低温で自然発生的に固化し得るという欠点を有し、潤滑された部材の破損を招き得る。
【0015】
例えば、アニオンのトリス(パーフルオロエチル)トリフルオロホスフェートを含有するイオン性液体は、一般に、アニオンとしてビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを含有するイオン性液体よりも低い水の吸収力を示すが、融点は高い。従って、これらのトリス(パーフルオロエチル)トリフルオロホスフェート含有ILは、一般に、低温挙動のために、唯一のベース油として良好な低温挙動を有する潤滑剤に使用するために適していない。
【0016】
本発明の課題は、広い適用温度範囲にわたって使用することができる耐水性の、酸化及び腐食防止グリース組成物を提供することである。
【0017】
この課題は、ベース油としてのイオン性液体、好適な標準添加剤及び増粘剤からなるグリース組成物の使用によって解決される。疎水性アニオンと炭化水素基の高い含量を含むカチオンとが組み合わされたイオン性液体の使用によって、優れた防食性及び卓越した耐水性が達成される。
【0018】
標準添加剤がイオン性液体中で可溶性であることは、この組み合わせによって達成される。炭化水素基の高い含量は、酸化に対する安定性を低下させる。対策として酸化防止剤を添加することができる。標準の酸化防止剤の使用は、グリース組成物の熱安定性/酸化安定性を高める。更に意外にも、油脂は、イオン性液体の部分的に強い酸化にも関わらず、寿命試験の際に、良好な潤滑性状態のままであることが示された。本発明により使用されるイオン性液体は、低温-DSC実験の際に、イオン性液体の粘度の大幅な増大をもたらす、−30℃の温度よりも高い融点又はガラス転移又は他の相転移温度を有していない。
【0019】
グリース組成物で使用される、これらのイオン性液体には、カチオンとして第4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンを含有するイオン性液体が属し、該液体は、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド、特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(パーフルオロアルキル)メチドからなる群から選択される、フッ素を含有するアニオンと組み合わされる。前記アニオンの場合、個々のフッ素原子は、水素と交換されていてもよい。カチオンは十分に長い疎水性の少なくとも8〜25個の炭素原子を有するアルキル鎖、アリール基又はアルキルアリール基を含有し、その際、カチオンのそのような疎水性基の数は少なくとも15〜60個の炭素原子を含まなければならない。比較可能な無極性基、例えば、アリール基又はアルキル化されたアリール基も同様に考えられる。更に、本発明により使用されるイオン性液体は、−40℃を下回るまで粘度を変化させる相転移を有していない。これは、とりわけ、カチオンがわずかな対称性を有すること、即ち、長い及び短い置換基が組み合わされることによって達成される。
【0020】
高度にフッ素化されたアニオンを有するイオン性液体は、一般に高い熱安定性を有するので特に有利である。水吸収能力もまた、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオンの場合、係るアニオンによって顕著に低下させることができる。
【0021】
本発明によるグリース組成物は単独のイオン性液体又は2種以上のイオン性液体からなる混合物を含有することができ、その際、第2のイオン性液体は必ずしも耐水性である必要はない。使用されるイオン性液体の量分布は、第2のイオン性液体5〜25%に対して第1の長鎖イオン性液体少なくとも75〜95%の範囲内である。第2のイオン性液体は、有利には、任意のカチオンの場合、例えば、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド、特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(フルオロアリール)イミド、トリス(パーフルオロアルキル)トリホスフェート、及びフッ素化アルキルスルホネートなどのフッ素化アニオンを含有するイオン性液体、又は代替的に任意のアニオンを有するが、上記の長鎖カチオンを有するイオン性液体からなる群から選択される。
【0022】
更に、本発明により使用されるグリース組成物は、腐食防止剤、例えば、オキサリン、チアゾール、コハク酸ヘミエステル、カルボン酸亜鉛、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カルシウム、スルホン酸バリウム、酸化防止剤、例えば、芳香族アミン、芳香族フェノール、ホスフィット、硫黄含有化合物、例えば、ジアルキルジチオホスフェート、摩耗防止剤及び極圧添加剤、例えば、リン及び硫黄含有化合物、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化した脂肪酸及び脂肪酸エステル、ジアルキルスルフィド並びにジアルキルオリゴスルフィド及びジアルキルポリスルフィド、ホウ酸エステル、摩擦低減剤、例えば、グリセリン−モノ及びジエステル;キレート化合物、ラジカルスカベンジャー、UV安定剤、反応性被膜形成剤として存在する、金属の影響に対する保護剤、粘度調整剤、例えば、ポリイソブチレン、ポリメタクリレート、並びに無機又は有機の固体潤滑剤、例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、二硫化モリブデン及びホスフェートから選択される、通常の添加剤又は添加剤混合物を含有する。
【0023】
増粘剤として、PTFE、ベントナイト、エアロゾル、非水溶性カルボン酸塩及びそれらの混合物、非水溶性スルホン酸塩及びそれらの混合物、尿素、カーボンブラック、グラファイト、金属酸化物、例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛及びそれらの混合物が挙げられる。
【0024】
特に、添加剤はリン及び硫黄含有化合物、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバメート、硫化した炭化水素及び脂肪酸、リン及び硫黄不含の物質、例えば、摩耗防止剤としてのホウ酸エステル及び摩擦低減剤の形で使用され;金属塩、エステル、フェノール、窒素含有化合物、例えば、芳香族アミン、芳香族複素環式化合物、スルホン酸塩、有機酸及び塩は腐食防止剤として使用され、グリセリンモノエステル又はグリセリンジエステルは減摩剤として並びにポリイソブチレン、ポリメタクリレートは粘度調整剤として使用される。
【0025】
本発明により使用される耐水性の潤滑剤組成物は
(a)40〜95質量%のイオン性液体
(b)5〜60質量%の耐水性の増粘剤及び
(c)0.1〜10質量%の添加剤
を含有する。
【0026】
本発明のグリース組成物は、有利には、60〜90質量%のイオン性液体、10〜40質量%の耐水性の増粘剤及び0.1〜10質量%の添加剤を含有する。
【0027】
イオン性液体のカチオンは、第四級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンからなる群から選択され、且つアニオンはビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド、特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロアリール)イミド、トリス(パーフルオロアルキル)トリホスフェートからなる群から選択され、その際、イオン性液体のカチオンは、少なくとも8〜25個の炭素原子を有する長い疎水性アルキル鎖、アリール基又はアルキルアリール基を有し、且つカチオンの全ての疎水性アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基は少なくとも15〜60個の炭素原子を含み且つ<−30℃の融点を有する。有利な添加剤は、アミン性及びフェノール性酸化防止剤、防食添加剤、例えば、アミンホスフェート、複素環式化合物、コハク酸ヘミエステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛及び極圧/耐摩耗性添加剤、例えば、リン及び/又は硫黄担体である。
【0028】
イオン性液体の使用により、本発明による潤滑剤組成物は、少なくとも180℃の高温で使用することができ、更に該潤滑剤組成物は油の電気抵抗の低下により、絶縁破壊による繰り返し流れる電流により、損傷がもたらされる、例えば、電気的導通を有する鉄道車輪用ベアリング、ローラーベアリングで、自動車分野で又は電動機の領域でも使用できる。
【0029】
特に有利なイオン性液体は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、HDPイミドと呼ぶ)であり、該イミドは以下の式(I)により表される:
【化1】

【0030】
本発明のグリース組成物の利点を以下の実施例に基づいて詳説する。
【0031】
実施例
以下で、2種のイオン性液体とそれらのグリース配合物とを相互に比較する。
【0032】
本発明によるグリース組成物は、イオン性液体としてトリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを含有する。
【0033】
比較例において、グリース組成物は、同じアニオンを有し、ブチルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、MBPイミドと呼ばれる)と呼ばれ、次の式(II)により表されるイオン性液体を含有する:
【化2】

【0034】
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは疎水性アニオンに含まれる。MBPイミドは、HDPイミドとは異なり、長いアルキル鎖を有していない。
【0035】
MBPイミドは、−40℃の温度まで単純に冷却した場合、液状のままであるが、DSCにより測定される融点は−6℃である。MBPイミドも、過冷却された溶融物を形成する傾向が強い。
【0036】
メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドと呼ばれる(以下でMoイミドと呼ぶ)、アンモニウムカチオン及び長い炭化水素鎖を有する更なるイオン性液体に基づいて、更に、グリース組成物の有利な特性は、ホスホニウムカチオンの使用に制限されず、アンモニウムカチオンを用いても達成できることが判明した。この化合物は以下の式(III)により表される:
【化3】

【0037】
3種の化合物の物理的データを表1に示す。
【表1】

【0038】
実施例1
MBPイミド及び比較のHDPイミドをベースとしたグリースのDIN51807第1部による耐水性
両方のILを、PTFE粉末でグリースコンシステンシーまで増大させ(撹拌導入、ロール練り)且つ3h/90℃においてDIN51807第1部に相応して試験する。HDPイミドを有するグリース試料は、溶解又は分離の徴候を示さず且つ0(=極めて良い)と評価される。MBPイミドを有するグリース試料の場合、ストリップの分離が生じる。試験媒体である水の冷却後、高温でのMBPイミドの部分的な溶解によって生じる濁りが観察される。従って試験は3(=悪い)と評価される。
【0039】
実施例2
MBPイミド及びHDPイミドの標準添加剤の溶解性
次の3種の防食添加剤を、上記ILの溶解性について試験した:
コハク酸ヘミエステル、オキサゾリン誘導体及び酢酸誘導体。全ての物質は室温で1%までHDPイミドに可溶である。約150℃に加熱した後、オキサゾリン誘導体のみがMBPイミドに溶解するが、冷却の際に再び分離する。
【0040】
実施例3
酸化防止剤の実施例のHDPイミドにおける標準添加剤の効果
1%のp,p’−ジアルキル−ジフェニルアミンを酸化防止剤としてHDPイミド中に溶解させる。混合物は室温での長時間の静置後も透明のままである。表1に記載するような条件下での酸素下のDSC運転の際に、酸化開始は223℃である。従って、この値を添加剤なしのHDPイミドと比較する場合、55℃の上昇がある。
【0041】
実施例4
HDPイミドをベースとするグリース組成物の効果
通常の添加剤を、防食性及び酸化安定性の改善のためにHDPイミドに溶解させる。この場合、これは亜鉛含有の防食添加剤及びアミン性酸化防止剤である。更に不溶性の亜鉛含有の防食顔料を使用する。混合物は、常法によりPTFE粉末でグリースコンシステンシーまで増大させる。混合物について表2に示される試験結果が得られる:
【表2】

【0042】
表2は、本発明によるグリース組成物が、良好な高温及び低温特性、耐水性を有する鋼及び銅の良好な防食性を静的実験でも動的実験でも達成することを示す。
【0043】
本発明による前記グリース組成物を用いて、DIN51807第2部による耐水性試験を実施し、その結果、グリースが極めて良好にベアリングに付着した。
【0044】
実施例5
アンモニウムカチオンを有する耐水性グリース配合物
Moイミドは、常法の後にPTFEでグリースコンシステンシーまで増大させ、その試験結果を表3に示す。
【表3】

【0045】
表3は、カチオンとしてホスホニウムを有するイオン性液体だけでなく、アンモニウムも、耐水性の配合物を可能にすることを示す。
【0046】
この場合に使用されるイオン性液体によって、本発明によるグリース組成物の更なる利点は、炭化水素基により下げられた密度にあり、これが潤滑剤の体積当たりの低い価格をもたらし且つそれにより潤滑させる部材当たりの低い費用をもたらす。
【0047】
実施例6
イオン性液体の混合物の耐水性に関する挙動
両方のILに関して異なる含量を有する混合物がHDPイミド及びMBPイミドから製造される。混合物は約30%のPTFE粉末により濃縮され且つロール練りによって均一化されるので、稠度2に相応する浸透を有するグリースが得られる。グリースはその静的耐水性に関して及び部分的に動的耐水性に関して試験される。この結果を表4に示す。
【表4】

【0048】
DIN51807第2部による耐水性の場合、10%までの質量損失は1=極めて良いと評価される。30%より大きな損失を有する結果は3(乏しい安定性)であると評価される。
【0049】
表4は、摩擦の観点から、MBPイミドのような、不十分な耐水性を示す、イオン性液体との組み合わせが使用される、本発明によるグリース組成物が可能であることを示す。本実施例において、ベース油含量を基準として少なくとも10%の不十分な疎水性ILMBPイミドは、極めて良好な耐水性の維持下で使用される。ベース油割合の25%まで部分的な耐水性が与えられている。等量のイオン性液体のブレンドは、もはや耐水性ではない。臨界混合比もしくは許容可能な混合比は、使用されるイオン性液体に依存しており、従って一般化することはできない。
【0050】
実施例7
この配合物において89%のHDPイミドと10%リチウム−12−ヒドロキシステアラート(石けん増粘剤)とを混合し且つ溶融物中に導入する。冷却後に、1%の通常のアミン性酸化防止剤を添加する。この混合物を、ロールミルを介して数度の強力なロール練りによって均一化する。
【表5】

【0051】
実施例8
HPDイミドの分離部分においてシクロヘキシルアミン及びビス(パライソシアナトフェニル)メタン(MDI)を2:1のモル比で溶解させ且つこれらの溶液を合することによって反応させる。180℃まで加熱した後に引き続き冷却し、1%の典型的なアミン性酸化防止剤を添加し且つグリースを、ロールミルを介してロール練りにより均一化する。
【表6】

【0052】
実施例7及び8は、尿素増粘剤又は石けん増粘剤のいずれかと一緒にイオン性液体を使用することによって、防食及び酸化防止のために保護膜として多様な材料に塗布することができ且つこれらの材料に安定した耐水性を付与する、耐水性の配合物が可能であることを示す。グリース組成物は、運転中の被覆された表面の酸化又は腐食の回避を保証するために、特に自動車分野での適用の際に、水ポンプ軸受、車輪軸受、アーティキュレーテッド・シャフト、クラッチ・レリーズ・ベアリング、セントラルベアリング(センターベアリング)、軸方向ベアリングの場合に、支材、電気機械式ブレーキ、ファンベアリング、ミニチュアベアリング、排気ガスリサイクルシステム、ジェネレータベアリング、ワイパーベアリング等において必要である。更に耐水性のグリース組成物は、風力発電所、メインベアリング、ジェネレータベアリング、ブレードベアリング、アジマスベアリング並びに絶え間なく水との接触に曝される全ての部品及び表面において使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性グリース組成物の使用において、
(a)カチオンが第4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンからなる群から選択され且つアニオンがビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド、特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロアリール)イミド、トリス(パーフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートからなる群から選択されるイオン性液体40〜95質量%、その際、イオン性液体のカチオンが少なくとも8〜25個の炭素原子を有する長い疎水性アルキル鎖、アリール基又はアルキルアリール基を有し、カチオンの全ての疎水性アルキル基、アリール基又はアルキルアリール基が少なくとも15〜60個の炭素原子を含有し且つ−30℃よりも低い融点を有する、
(b)可溶性潤滑剤添加剤0.1〜10質量%及び
(c)少なくとも−30℃〜少なくとも180℃の温度での腐食及び酸化に対する保護処理のための耐水性増粘剤5〜60質量%
からなる耐水性グリース組成物の使用。
【請求項2】
イオン性液体が、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(HDPイミド)、メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Moイミド)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムトリス(パーフルオロエチル)トリフルオロホスフェートからなる群から選択される化合物である、請求項1記載のグリース組成物の使用。
【請求項3】
単独のイオン性液体又は2種以上のイオン性液体からなる混合物を含有し、その際、第2のイオン性液体が必ずしも耐水性である必要はない、請求項1又は2記載のグリース組成物の使用。
【請求項4】
第1の長鎖イオン性液体対第2のイオン性液体からなる混合物が75〜95%対5〜25%の範囲内である、請求項1から3までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項5】
第2のイオン性液体がXXXXからなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項6】
添加剤が、腐食防止剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧添加剤、摩擦低減剤、金属の影響に対する保護剤、UV安定剤、無機又は有機の固体潤滑剤からなる群から選択され、該固体潤滑剤がポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、二硫化モリブデン及びホスフェートから選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項7】
酸化防止剤が芳香族アミン、フェノール又は硫黄担体の群から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項8】
腐食防止剤が芳香族複素環、スルホン酸塩、有機酸及び有機塩の群から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項9】
高圧剤、耐摩耗剤及び摩擦低減剤(耐摩耗性/摩擦調整剤)がホスフェート、硫黄担体、リン及び硫黄含有化合物、ホウ素含有化合物及び複素環式化合物からなる群から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項10】
増粘剤がPTFE、ベントナイト、エアロゾル、非水溶性カルボン酸塩及び/又はそれらの混合物、非水溶性スルホン酸塩及びそれらの混合物、尿素、カーボンブラック、グラファイト、金属酸化物、例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛及び/又はそれらの混合物から選択される、請求項1から9までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項11】
非水溶性増粘剤及び添加剤と組み合わせて使用される、トリアルキルテトラデシルホスホニウムカチオン及び高度にフッ素化されたアニオンからなる化合物をイオン性液体として含有する、請求項1から10までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。
【請求項12】
自動車部材、風力発電所の部材、加工機及び工作機械における、並びに家庭用品における部品の酸化及び腐食の保護処理のための、並びに保護膜の耐水性を改善するための請求項1から11までのいずれか1項記載のグリース組成物の使用。

【公表番号】特表2011−518897(P2011−518897A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502255(P2011−502255)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002051
【国際公開番号】WO2009/121494
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(509350664)クリューバー リュブリケーション ミュンヘン コマンディートゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D−81379 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】