説明

イオン源

【課題】高純度の多価イオンを取り出すことができるイオン源を提供する。
【解決手段】イオン源10は、レーザ13が照射されると電子と陽イオンに電離したプラズマ14を生成するターゲット12と、このターゲット12の電位を陽イオンの出射目標(加速チャンネル18)よりも高く設定する第1電源(第1電圧E1)と、この陽イオンがターゲット12から出射目標(加速チャンネル18)に至る経路上(フィルタ電極15)の電位をターゲット12の電位よりも高く設定する第2電源(第2電圧E2)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザをターゲットに照射して生成させたプラズマからイオンビームを取り出すためのイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを用いるイオン源は、レーザを集光して固体ターゲットに照射し、レーザのエネルギーによりターゲットの元素を蒸発させイオン化してプラズマを生成する。そして、生成したプラズマは、その状態のまま加速器の入口まで輸送された後、電位差によりイオンのみが加速器に引き込まれイオンビームとして出力される(たとえば特許文献1,2参照)。一方において、加速器におけるイオンの加速性は、イオンの質量が小さく価数が大きい程優れている。またレーザを用いるイオン源は、多価イオンの発生に有利であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3713524号公報
【特許文献2】特開2009−37764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、レーザを用いるイオン源から出力されるイオンビームは、多価イオン以外に、質量の大きいクラスターイオンや価数の小さいイオン等の不純物が高比率で含まれている。このため、低純度の多価イオンから成るイオンビームを線形加速器(RFQ)に入射すると、これら不純物により線形加速器が汚染される課題があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、高純度の多価イオンを取り出すことができるイオン源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
イオン源において、レーザが照射されると電子と陽イオンに電離したプラズマを生成するターゲットと、前記ターゲットの電位を前記陽イオンの出射目標よりも高く設定する第1電源と、前記陽イオンが前記ターゲットから前記出射目標に至る経路上の電位を前記ターゲットの電位よりも高く設定する第2電源と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高純度の多価イオンを取り出すことができるイオン源が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るイオン源の第1実施形態を示すブロック図。
【図2】本発明に係るイオン源の第2実施形態を示すブロック図。
【図3】(A)第2電源を機能させない設定とした場合に、イオン源から出射されるイオン電流の価数毎の分布を示すグラフ、(B)第2電源を機能させた設定とした場合に、イオン源から出射されるイオン電流の価数毎の分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すようにイオン源10は、レーザ13が照射されると電子と陽イオンに電離したプラズマ14を生成するターゲット12と、このターゲット12の電位を陽イオンの出射目標(図示では加速チャンネル18)よりも高く設定する第1電源(第1電圧E1)と、この陽イオンがターゲット12から出射目標(加速チャンネル18)に至る経路上(図示ではフィルタ電極15)の電位をターゲット12の電位よりも高く設定する第2電源(第2電圧E2)と、を備えている。
【0010】
イオン化室11は、真空状態の内部にターゲット12を収容し、電位がこのターゲット12と同レベルに設定されている。
このイオン化室11の外部には、レーザ出力部(図示略)が配置され、透明窓を通過してその内部に入射したレーザ13は、透明窓へ入射する前のイオン化室11外、もしくは後のイオン化室11内に設置された集光レンズ(図示略)により集光された後にターゲット12の表面を照射する。
【0011】
照射したレーザ13のエネルギーによりターゲット12の元素が蒸発しイオン化してプラズマ14を生成する。このプラズマ14は、蒸発したターゲット12の元素が陽イオンと電子に電離した状態となっており、全体として電気的に中性になっている。
このプラズマ14には、目的とする多価の陽イオンの他に、質量の大きいクラスターイオンや価数の小さい陽イオン等の不純物が含まれる。
【0012】
プラズマ14中の陽イオンは、価数が大きいもの程又は質量の小さなもの程、大きな初速で、ターゲット12の表面から飛び出す。また、このプラズマ14は、レーザ13がターゲット12に入射した入射点から垂直方向に延びるビーム進行方向Xに向かって、拡散しながら放出される。
【0013】
フィルタ電極15は、このビーム進行方向Xの経路上に、ターゲット12よりも下流側でかつ線形加速器17よりも上流側に設けられている。このフィルタ電極15の形状は、特に限定されるものではなく、筒状、平板形状などをとり、中心にイオンの通過口を有するものであれば良い。
【0014】
イオン源10で発生したプラズマ14は、連通路16を通過して線形加速器17に導入される。イオン化室11と線形加速器17は電位が異なるため、連通路16は電気的に絶縁されている。そして、線形加速器17に導入されたプラズマ14は、電子が分離して、陽イオンが、加速チャンネル18に入射して加速される。
【0015】
図1に示される電源回路において、ターゲット12には、バイアス電圧E0に第1電圧E1が加算されたターゲット電圧(E0+E1)が付与されている。またフィルタ電極15には、ターゲット電圧(E0+E1)よりも、第2電圧E2だけ高いフィルタ電圧(E0+E1+E2)が付与されている。なお、バイアス電圧E0は0Vでも良い。
【0016】
これにより、ターゲット12から放出されたプラズマ14に含まれる陽イオンのうち、質量の大きなクラスターイオン又は価数が小さいイオンは、初速が遅いために、ビーム進行方向Xにおいてフィルタ電極15を越えることができない。このように、フィルタ電極15が配置されることにより、イオン源10から出射される多価の陽イオンの純度を向上させることができる。
また、第2電圧E2を調節することにより、イオン源10から出射される多価の陽イオンの比率や量を調整することができる。
【0017】
また加速チャンネル18には、バイアス電圧E0に高周波電圧E*を重畳した加速電圧(E0+E*)が付与されている。
これにより、加速チャンネル18の入口は、ターゲット12及び加速チャンネル18よりも電位が低く設定されるので、イオン源10から出射される多価の陽イオンは、初速よりも速度を増して加速チャンネル18の入口に入射する。
そして、加速チャンネル18に入射した多価の陽イオンは、さらに加速されることになる。
【0018】
(第2実施形態)
図2に示すように、第2実施形態に係るイオン源10は、ターゲット12と同電位に設定されるとともにこのターゲット12及び出射目標(加速チャンネル18)に対して両端が開口するプラズマ輸送管19を備えている。
なお、図2において図1と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0019】
このようにプラズマ輸送管19が配置されることにより、ターゲット12で生成したプラズマを、拡散させることなく加速チャンネル18の入口に導くことができる。
また、プラズマ輸送管19の経路上には、フィルタ電極15が配置されている。このために、質量の大きなクラスターイオン又は価数が小さいイオンは、プラズマ輸送管19を通過することができないため、イオン源10は、高純度の多価の陽イオンを高効率で出射させることができる。
【0020】
図3を参照して本発明の効果を説明する。
図3(A)は、第2電源を機能させない設定(E2=0)とした場合に、イオン源10から出射されるイオン電流の価数毎の分布を示すグラフである。
図3(B)は、第2電源を機能させた設定(E2≠0)とした場合に、イオン源10から出射されるイオン電流の価数毎の分布を示すグラフである。
【0021】
実験に用いたイオン源10は、第2実施形態に示す構成を有するものであり、グラファイト製のターゲット12を用いている。そして、炭素イオンの飛行時間(TOF;Time of Flight)が、その価数(+1〜+6)に依存して異なる性質を利用し、価数毎のイオン電流の計測値が示されている。なお、イオンの価数が高くなる程、飛行時間が短くなる。
【0022】
図3(A)に示すように、第2電圧E2=0の設定においては、領域(a)に示すように、価数の小さな炭素イオンのイオン電流値が高強度で計測されている。
一方、図3(B)に示すように、第2電圧E2≠0の設定においては、領域(b)に示すように、価数の大きな(多価の)炭素イオンのイオン電流値が高強度で計測されている。
【0023】
以上より、少なくともひとつの実施形態のイオン源10によれば、陽イオンがターゲット12から出射目標(加速チャンネル18)に至る経路上に配置されるフィルタ電極15の電位をターゲット12の電位よりも高く設定することにより、プラズマ14に含まれる陽イオンのうち、質量の大きなクラスターイオン又は価数が小さいイオンをイオン源10のイオン化室11内部に閉じ込めて、外部に出射されるイオンビームにおける多価の陽イオンの純度を向上させることが可能となる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0025】
10…イオン源、11…イオン化室、12…ターゲット、13…レーザ、14…プラズマ、15…フィルタ電極、16…連通路、17…線形加速器、18…加速チャンネル、19…プラズマ輸送管、E0…バイアス電圧、E1…第1電圧、E2…第2電圧、E*…高周波電圧、X…ビーム進行方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザが照射されると電子と陽イオンに電離したプラズマを生成するターゲットと、
前記ターゲットの電位を前記陽イオンの出射目標よりも高く設定する第1電源と、
前記陽イオンが前記ターゲットから前記出射目標に至る経路上の電位を前記ターゲットの電位よりも高く設定する第2電源と、を備えることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記ターゲットと同電位に設定されるとともに前記ターゲット及び前記出射目標に対して両端が開口するプラズマ輸送管を備えることを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記第2電源による印加電圧を調節可能としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン源。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51062(P2013−51062A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187232(P2011−187232)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】