説明

イリジウム−レニウム固体触媒

【課題】 高い触媒活性を有するとともに、反応中における触媒成分の溶出が抑制され、高い触媒活性が長時間持続するイリジウム−レニウム固体触媒を提供する。
【解決手段】 本発明のイリジウム−レニウム固体触媒は、細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素にイリジウム及びレニウムが担持された触媒である。この触媒において、イリジウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、イリジウム(Ir)として0.5〜10重量%であり、レニウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、レニウム(Re)として2〜15重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウム−レニウム固体触媒に関する。より詳細には、二酸化ケイ素(シリカ)にイリジウム及びレニウムが担持されたイリジウム−レニウム固体触媒に関する。この触媒は、例えば、グリセリン等の多価アルコールの水素化反応用触媒として有用である。
【背景技術】
【0002】
イリジウム−レニウム固体触媒の存在下、グリセリンを水素化して、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノールを製造する方法が知られている(特許文献1等)。しかしながら、従来のイリジウム−レニウム固体触媒では、触媒調製中にイリジウムが溶出又は析出したり、該触媒を用いた反応中にレニウムが溶出するため、触媒活性が不十分で、しかも触媒活性が長時間持続しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−275029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高い触媒活性を有するとともに、反応中における触媒成分の溶出が抑制され、高い触媒活性が長時間持続するイリジウム−レニウム固体触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、細孔径が特定範囲にある粒状の二酸化ケイ素にイリジウム及びレニウムを担持した触媒によれば、高い触媒活性が発現するとともに、その高い触媒活性が長時間持続することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素にイリジウム及びレニウムが担持されたイリジウム−レニウム固体触媒を提供する。
【0007】
前記イリジウム−レニウム固体触媒において、イリジウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、イリジウム(Ir)として0.5〜10重量%であり、レニウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、レニウム(Re)として2〜15重量%であることが好ましい。
【0008】
また、前記イリジウム−レニウム固体触媒は、細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素に、該二酸化ケイ素に対して5〜70重量%のイリジウム化合物含有水溶液、及び該二酸化ケイ素に対して5〜70重量%のレニウム化合物含有水溶液を、それぞれ、完全に吸収させて担持させる方法により調製された固体触媒であるのが好ましい。
【0009】
前記二酸化ケイ素の細孔容積は、好ましくは0.7〜3mL/gである。また、前記二酸化ケイ素は、直径0.5mm〜10mmの球形であるのが好ましい。
【0010】
前記イリジウム−レニウム固体触媒は、多価アルコールの水素化反応用の触媒として使用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒は、高い触媒活性を有するとともに、反応に用いた際、触媒成分(特にレニウム成分)が溶出しにくく、高い触媒活性を長時間持続できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒は、細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素(SiO2;シリカ)にイリジウム及びレニウムが担持された触媒である。
【0013】
担体として用いられる二酸化ケイ素の細孔径が10nm未満であると、イリジウム成分を担持する際、該イリジウム成分が担体外に溶出又は析出して、イリジウム担持量にバラツキが生じたり、担体の細孔内に十分な量のイリジウムを担持することが困難となり、所望のイリジウム担持量を有する触媒を安定に得ることができない。また、そのような触媒では、該触媒を用いた反応中に、担持したレニウム成分が溶出しやすく、触媒活性が経時で低下する。一方、二酸化ケイ素の細孔径が50nmを超えると、担体の表面積が極度に小さくなり、十分な反応場が得られないために触媒活性が低下する。
【0014】
担体として用いる二酸化ケイ素は粒状であればその形状は特に限定されないが、取扱性や強度、均質な触媒が得られる等の点から、球形(略球形を含む)であるのが好ましい。二酸化ケイ素の大きさは、例えば、長径[球形の場合は直径(球径)]が0.5mm〜10mm程度、好ましくは1mm〜5mm程度である。二酸化ケイ素の大きさが小さすぎると、触媒固定床型反応器に供することができないため実用面での利用が困難になりやすく、逆に大きすぎると、触媒調製の際に触媒成分の均一な担持が困難になりやすい。
【0015】
前記二酸化ケイ素の細孔容積は、一般には0.7〜3mL/g、好ましくは0.8〜2mL/g、さらに好ましくは0.9〜1.5mL/gである。細孔容積が小さすぎる場合には、触媒活性が低かったり、触媒活性の持続性が低下しやすくなる。また、細孔容積が大きすぎると、触媒の機械的強度が低下しやすくなる。
【0016】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒において、イリジウムの担持量は、担体である二酸化ケイ素に対して、Irとして、0.5〜10重量%、好ましくは1〜6重量%、さらに好ましくは2〜5重量%である。また、レニウムの担持量は、担体である二酸化ケイ素に対して、Reとして、2〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、さらに好ましくは4〜10重量%である。イリジウムの担持量が少なすぎると、触媒活性が低下しやすく、またレニウムの溶出を促進しやすくなり、逆に担持量が多すぎると、金属量当たりの活性が低くなり、高価なイリジウムを用いる面では不利になりやすい。また、レニウムの担持量が少なすぎると、触媒活性が低下しやすくなり、逆に多すぎると、イリジウムの活性点を覆う結果となり、かえって触媒活性が低下する場合がある。イリジウム及びレニウムは、それぞれ、金属単体として担持されていてもよく、金属酸化物等の金属化合物として担持されていてもよい。
【0017】
レニウムとイリジウムの担持比率としては、特に限定されないが、Re/Ir(モル比)として、通常、1/10〜10/1、好ましくは1/2〜7/2、さらに好ましくは1/1〜3/1である。前記の比率が大きすぎると、例えば、本発明の触媒をグリセリンの水素化反応に用いた場合には、1,3−プロパンジオールや1,2−プロパンジオールの選択率が低下し、1−プロパノールや2−プロパノールの選択率が高くなる傾向となる。また、逆に前記の比率が小さすぎると、例えば、本発明の触媒をグリセリンの水素化反応に用いた場合には、1,3−プロパンジオールの選択率は向上するが、触媒活性が低くなり、グリセリンの転化が進みにくくなる。
【0018】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒の調製法としては、特に限定されず、例えば、担体である粒状の二酸化ケイ素にイリジウム化合物含有水溶液を含浸させた後、減圧あるいは常圧で乾燥し、必要に応じて焼成及び/又は水素等による還元処理を施した後、レニウム化合物含有水溶液を含浸させ、減圧あるいは常圧で乾燥し、必要に応じて焼成することにより調製できる。また、その後、必要に応じて、水素等により還元処理してもよい。なお、先にレニウムの担持を行い、次いでイリジウムを担持する方法や、イリジウムの担持とレニウムの担持とを同時に行う方法を採用することもできるが、先にイリジウムを担持し、次いでレニウムを担持する方法が、触媒活性及び触媒活性の持続性の点から好ましい。
【0019】
前記イリジウム化合物含有水溶液としては、公知のイリジウム化合物の水溶液、例えば、塩化イリジウム酸水溶液を使用できる。また、前記レニウム化合物含有水溶液としては、公知のレニウム化合物の水溶液、例えば、過レニウム酸アンモニウム水溶液を使用できる。前記乾燥時の温度としては、例えば、70〜150℃、好ましくは90〜130℃である。また、前記焼成時の温度としては、例えば、400〜750℃、好ましくは450〜600℃である。焼成は、空気雰囲気下、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、水素等の還元性ガス雰囲気下のいずれであってもよい。
【0020】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒としては、二酸化ケイ素担体の細孔にて生じる毛細管現象を利用したいわゆるポアフィリング法により調製されたものが好ましい。より具体的には、前記担体である粒状の二酸化ケイ素に、該二酸化ケイ素の細孔容積よりも少ない量のイリジウム化合物含有水溶液(例えば、該二酸化ケイ素に対して、5〜70重量%、好ましくは8〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%のイリジウム化合物含有水溶液)、及び該二酸化ケイ素の細孔容積よりも少ない量のレニウム化合物含有水溶液(例えば、該二酸化ケイ素に対して、5〜70重量%、好ましくは8〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%のレニウム化合物含有水溶液)を、それぞれ、完全に吸収させて担持させる方法により調製された固体触媒であるのが好ましい。なお、前記「完全に」とは、厳密に100%という意味ではなく、ほぼ完全に吸収されていればよく、例えば容器等に微量の液滴が付着している場合を除外するものではない。
【0021】
イリジウム及びレニウムを担体に担持するときに用いる触媒成分含有水溶液(イリジウム化合物含有水溶液、レニウム化合物含有水溶液)の液量を少なくして、二酸化ケイ素担体の細孔容積よりも少ない量の触媒成分含有水溶液を用い、触媒成分含有水溶液を担体に完全に吸収させて担持させることにより、触媒調製時におけるイリジウム成分等の溶出、析出を防止することができる。また、所定量の触媒成分を設計値通り確実に、しかも均一に担体の細孔内に担持させることができる。このような方法で調製された触媒では、イリジウムとレニウムが担体細孔内表面に均一に分布しているので、IrとReとの相互作用(結合)が確実に起こり、高い触媒活性が得られるだけでなく、該触媒を用いた反応時において、触媒成分、特にレニウム成分の溶出を抑制できるので、そのような高い触媒活性を長時間保持できる。なお、触媒調製時に、触媒成分含有水溶液を多量に用いて担体を浸漬する方法を採用すると、担体の外部にイリジウム等が析出しやすくなり、触媒活性が低下しやすくなる。
【0022】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒は、例えばグリセリン等の多価アルコールの水素化反応用の触媒として好適に使用できる。本発明のイリジウム−レニウム固体触媒を用いた代表的な反応として、グリセリンの水素化(水素化分解)により1,3−プロパンジオール等を得る反応が挙げられる。以下、この反応について説明する。
【0023】
本発明のイリジウム−レニウム固体触媒の存在下でグリセリンと水素とを反応させると、主に1,3−プロパンジオールが生成する。この場合、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノールも同時に生成することが多い。この反応を利用して、グリセリンから1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノールを製造することができる。
【0024】
上記触媒の存在下におけるグリセリンと水素との反応は、特に限定されず、液状グリセリンと水素ガスと上記触媒との三相系(気液固三相系)で進行させてもよいし、グリセリンガスと水素ガスと上記触媒との二相系(気固二相系)で進行させてもよい。中でも、グリセリンの炭素−炭素結合が切断されてエチレングリコール、エタノール、メタノール、メタン等が生成する副反応の進行を抑制する観点からは、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させることが好ましい。
【0025】
なお、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させる場合には、グリセリンを水や有機溶媒などに溶解させたグリセリン溶液を原料として好ましく使用することができる。上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが使用できる。上記の中でも、反応性の観点で、上記グリセリン溶液としてグリセリンの水溶液を使用することが好ましい。
【0026】
上記グリセリン溶液(特に、グリセリン水溶液)におけるグリセリンの濃度(グリセリン溶液100重量%に対する濃度)は、特に限定されないが、20〜98重量%が好ましく、より好ましくは20〜90重量%、さらに好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは60〜80重量%である。グリセリンの濃度が20重量%未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、グリセリンの濃度が98重量%を超えると、粘度が高くなり、操作が煩雑になる場合がある。
【0027】
上記グリセリン溶液には、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分(例えば、アルコール類など)を含有させてもよい。また、上記グリセリン溶液には、例えば、グリセリンの原料に由来する不純物(例えば、長鎖脂肪酸、金属塩、チオールやチオエーテルなどの含硫黄化合物、アミンなどの含窒素化合物等)が含まれる場合があるが、このような不純物は触媒を劣化させるおそれがあるため、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により、できるだけグリセリン溶液から除去することが好ましい。
【0028】
上記グリセリン溶液は、特に限定されないが、グリセリンと、必要に応じて水や有機溶媒、その他の成分とを均一に混合することにより得られる。この場合の混合には、特に限定されないが、例えば、公知乃至慣用の攪拌機などを用いることができる。
【0029】
グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造の方式は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式のいずれの方式によっても実施することができる。
【0030】
グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造を回分方式で実施する場合には、例えば、回分式の反応器に、グリセリン(又はグリセリン溶液)、上記触媒、及び水素(水素ガス)を仕込み、必要に応じて加熱し、攪拌下で反応させることによって実施することができる。
【0031】
グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造を回分方式で実施する場合、反応器へのグリセリンと水素の仕込み量は、特に限定されないが、グリセリンと水素のモル比[水素(mol)/グリセリン(mol)]が、1以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上である。上記モル比が1未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。
【0032】
グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造を回分方式で実施する場合、上記触媒の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、グリセリン100重量部に対し、0.01〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20重量部である。上記使用量が0.01重量部未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、上記使用量が50重量部を超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0033】
一方、グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造を連続方式(連続流通方式)で実施する場合には、例えば、内部に上記触媒を滞留させた流通式反応器の一端に、グリセリン(又はグリセリン溶液)及び水素(水素ガス)を連続的に供給し、他端から上記触媒を含まない反応液を連続的に排出させる方法により、グリセリンと水素の反応を行うことができる。なお、上記流通式反応器における反応は、移動床、懸濁床、固定床など、いずれによっても行うことができる。
【0034】
上記の中でも、グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造は、連続流通方式で実施することが好ましく、特に、1,3−プロパンジオールの選択率及び収率が高く、触媒の分離プロセスが不要である点で、流通式反応器としてトリクルベッド反応器を用いることがより好ましい。なお、上記トリクルベッド反応器とは、固体触媒が充填された触媒充填層を内部に有し、該触媒充填層に対して液体(本発明では、例えば、グリセリン溶液)と気体(本発明では、水素)とを共に、反応器の上方から下向流(気液下向並流)で流通する形式の反応器(固定床連続反応装置)である。
【0035】
上記グリセリンと水素の反応における温度(反応温度)は、特に限定されないが、80〜350℃が好ましく、より好ましくは90〜300℃、さらに好ましくは100〜200℃である。反応温度が80℃未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応温度が350℃を超えると、グリセリンの分解(例えば、炭素−炭素結合の開裂など)が生じやすく、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。
【0036】
上記グリセリンと水素の反応における水素の圧力(反応圧力、グリセリンと水素の反応における水素圧)は、特に限定されないが、1〜50MPaが好ましく、より好ましくは3〜40MPa、さらに好ましくは5〜30MPaである。反応圧力が1MPa未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応圧力が50MPaを超えると、高度な耐圧性を有する反応器が必要となるため、製造コストが高くなってしまう場合がある。
【0037】
グリセリンの水素化による1,3−プロパンジオール等の製造工程には、上述の水素とグリセリンとを反応させる工程のほか、必要に応じてその他の工程が含まれていてもよい。具体的には、例えば、グリセリンを精製したり、グリセリン溶液を調製・精製したりする工程等を含んでいてもよいし、反応により得られた反応結果物(例えば、グリセリン、水素、及びグリセリンの水素化分解物等を含む溶液)を分離したり、グリセリンの水素化分解物を精製する工程等を含んでいてもよい。
【0038】
本発明の触媒によれば、特に硫酸等の鉱酸を使用しなくても、グリセリンを高い反応率で反応させることができ、なおかつ、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に、1,3−プロパンジオールを高い選択率及び収率で生成させることができる。また、反応後の反応液中のレニウム溶出濃度を従来の10%以下に抑えることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
実施例1
(触媒の調製)
球形の二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学社製、商品名「CARiACTQ−15」;球径1.18−2.36mm;細孔径15nm;細孔容積0.99mL/g)を担体とした。上記担体を平底容器に薄く広げ、容器全体を直に加温しながら、塩化イリジウム酸を使用して調製したイリジウム濃度(Ir濃度)4.6重量%の水溶液を二酸化ケイ素の重量に対して20重量%滴下して、完全に吸水させた後、加温により水分を蒸発させた。前記の滴下と乾燥を繰り返し、所定量のイリジウムを担持させた。イリジウムを担持させた担体を110℃で3時間乾燥させた後、上記担体に対し、過レニウム酸アンモニウムの濃度5.3重量%水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥と同様にして行い、イリジウム(Ir)およびレニウム(Re)の量がSiO2に対してそれぞれ3.6重量%、6.9重量%となるように担持させた。乾燥後の担体を、空気雰囲気下(大気中)、500℃、3時間の条件で焼成して、球形シリカ担持イリジウム−レニウム触媒(Ir−Re/SiO2)を得た。
【0041】
(反応)
テフロン(登録商標)製内缶のあるSUS316製オートクレーブとチタン材質の撹拌軸から構成される反応器内の固定籠に上記触媒2.8gを充填した。この反応器内に水を入れ、1MPaの水素を張り込んで、常圧まで排気する水素置換作業を3回繰り返した後、缶内が200℃になった時に、全圧8MPaになるように水素を張り込み、200℃で1時間触媒を還元した。還元後、オートクレーブを冷却、開圧し、グリセロール27重量%及び水73重量%の原料溶液を反応器に入れた。再度1MPaの水素で3回水素置換を行った後、120℃で、12MPaになるように水素を張り込み、撹拌回転数500rpmにて、4時間反応を行った。反応器を氷冷し、反応溶液の分析を行った。分析は、ガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:「GC−2010」、島津製作所製;カラム:FFAP(QUADREX製);検出器:FID)にて行った。
その結果、グリセロールの転化率は40.1%で、各生成物の選択率は1,3−プロパンジオール47.1%、1,2−プロパンジオール15.5%、1−プロパノール24.9%、2−プロパノール12.5%であり、1,3−プロパンジオールの収率は18.9%(触媒1g当たりの収率6.75%)であった。また反応後の溶液中のレニウム溶存濃度は0.25ppm(重量基準)であった。
【0042】
実施例2
(触媒の調製)
担体として、球形の二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学社製、商品名「CARiACTQ−30」;球径1.18−2.36mm;細孔径30nm;細孔容積0.98mL/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作で球形シリカ担持イリジウム−レニウム触媒(Ir−Re/SiO2)を調製した。
【0043】
(反応)
触媒の使用量を2.7gとした以外は実施例1と同様にして反応、及び反応溶液の分析を行った。その結果、グリセロールの転化率は36.6%で、各生成物の選択率は1,3−プロパンジオール42.7%、1,2−プロパンジオール21.3%、1−プロパノール23.3%、2−プロパノール12.8%であり、1,3−プロパンジオールの収率は15.6%(触媒1g当たりの収率5.78%)であった。また反応後の溶液中のレニウム溶存濃度は1.0ppm(重量基準)であった。
【0044】
比較例1
(触媒の調製)
球形の二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学社製、商品名「CARiACTQ−6」;球径1.18−2.36mm;細孔径6nm;細孔容積0.61mL/g)を担体とした。上記担体を丸底容器にとり、湯浴で容器全体を加温しながら、塩化イリジウム酸を使用して調製したイリジウム濃度(Ir濃度)4.6重量%の水溶液を二酸化ケイ素の重量に対して200重量%滴下して、上記担体全体を撹拌しながら浸漬して湿潤させた。加温により水分を蒸発させてイリジウムを担持させた後、さらに該担体を110℃で3時間乾燥させた。次に、上記担体に対し、過レニウム酸アンモニウムの濃度5.3重量%水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥と同様にして行い、イリジウム(Ir)およびレニウム(Re)の量がSiO2に対してそれぞれ3.6重量%、6.9重量%となるように担持させた。乾燥後の担体を、空気雰囲気下(大気中)、500℃、3時間の条件で焼成して、球形シリカ担持イリジウム−レニウム触媒(Ir−Re/SiO2)を得た。
【0045】
(反応)
触媒の使用量を4.0gとした以外は実施例1と同様にして反応、及び反応溶液の分析を行った。その結果、グリセロールの転化率は28.9%で、各生成物の選択率は1,3−プロパンジオール48.1%、1,2−プロパンジオール19.5%、1−プロパノール20.0%、2−プロパノール12.4%であり、1,3−プロパンジオールの収率は13.9%(触媒1g当たりの収率3.48%)であった。また反応後の溶液中のレニウム溶存濃度は12.1ppm(重量基準)であった。
【0046】
比較例2
(触媒の調製)
担体として、球形の二酸化ケイ素(SiO2)(富士シリシア化学社製、商品名「CARiACTQ−6」;球径1.18−2.36mm;細孔径6nm;細孔容積0.61mL/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作で球形シリカ担持イリジウム−レニウム触媒(Ir−Re/SiO2)を調製した。
【0047】
(反応)
触媒の使用量を4.0gとした以外は実施例1と同様にして反応、及び反応溶液の分析を行った。その結果、グリセロールの転化率は37.8%で、各生成物の選択率は1,3−プロパンジオール45.8%、1,2−プロパンジオール19.5%、1−プロパノール22.0%、2−プロパノール12.7%であり、1,3−プロパンジオールの収率は17.3%(触媒1g当たりの収率4.33%)であった。また反応後の溶液中のレニウム溶存濃度は4.6ppm(重量基準)であった。
【0048】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。表1で用いた略号は以下の通りである。また、1,3−PD収率の欄の括弧内の数字は、触媒1g当たりの収率である。
1,3−PD : 1,3−プロパンジオール
1,2−PD : 1,2−プロパンジオール
1−PrOH : 1−プロパノール
2−PrOH : 2−プロパノール
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素にイリジウム及びレニウムが担持されたイリジウム−レニウム固体触媒。
【請求項2】
イリジウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、イリジウム(Ir)として0.5〜10重量%であり、レニウムの担持量が二酸化ケイ素に対して、レニウム(Re)として2〜15重量%である請求項1記載のイリジウム−レニウム固体触媒。
【請求項3】
細孔径が10nm〜50nmである粒状の二酸化ケイ素に、該二酸化ケイ素に対して5〜70重量%のイリジウム化合物含有水溶液、及び該二酸化ケイ素に対して5〜70重量%のレニウム化合物含有水溶液を、それぞれ、完全に吸収させて担持させる方法により調製された請求項1又は2記載のイリジウム−レニウム固体触媒。
【請求項4】
二酸化ケイ素の細孔容積が0.7〜3mL/gである請求項1〜3のいずれか1項に記載のイリジウム−レニウム固体触媒。
【請求項5】
二酸化ケイ素が直径0.5mm〜10mmの球形である請求項1〜4のいずれか1項に記載のイリジウム−レニウム固体触媒。
【請求項6】
多価アルコールの水素化反応用の触媒である請求項1〜5のいずれか1項に記載のイリジウム−レニウム固体触媒。

【公開番号】特開2013−17922(P2013−17922A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151438(P2011−151438)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】