説明

インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】 エア加圧方式のインク供給システムに用いるインクカートリッジのシール部材の信頼性向上、カートリッジの挿入ストロークに対する設計自由度の向上、ユーザーの取扱い性向上を達成させる。
【解決手段】エアシール及びインクシールをカートリッジ側に配し、且つ記録装置とのシールを径方向のシールとした構成を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録に用いられるインクを貯留したインクカートリッジおよび該インクカートリッジが着脱自在に装着され該インクカートリッジに対して空気圧を印加してインク供給を可能にする接続部材を備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、コンシューマー系に用いられる比較的印刷ボリュームが少ないタイプや、オフィスや業務用に提供される比較的大量の印刷に対応したものまで幅広い製品がある。
【0003】
この中で、大量印刷に対応するインクジェット記録装置には、インクカートリッジの交換頻度低減のために大容量のインクカートリッジが用いられる。この手のインクカートリッジは記録装置の内部などに据え置く構成が採用されている。そして、このような記録装置では、インクカートリッジと記録ヘッド(もしくは記録ヘッドと連結したサブタンク)とをインク供給チューブで連結してインクを供給している。
【0004】
また、オフィスや業務用の大量印刷を目的としたインクジェット記録装置では、印刷速度の向上が求められる。
【0005】
インク供給チューブを用いたインクジェット記録装置では、供給チューブ内の圧力損失が高まるため、安定してインクを供給するためには圧力損失を低減する構成が必要となる。この印刷速度の向上を図る構成として、たとえばインクカートリッジ内に貯留されたインクに対して圧力を作用させて強制的に記録ヘッドに向うインクの流れを発生させ、サブタンクに対して必要十分なインクを補給する構成がある。圧力を作用させる手法として例えば、インクカートリッジをインクジェット記録装置に装着することで密閉構成とし、このインクカートリッジに対して加圧された空気を印加するものが知られている。
【0006】
一般には、インク供給に係る構成と、加圧に係る構成を個別に設けて、それぞれを独立してインクカートリッジと連結させる構成が知られている。
【0007】
これに対して、インク供給に係る構成と加圧に係る構成とを一体的に備えた構成が特許文献1に提案されている。
【0008】
特許文献1の構成について図を参照して以下簡単に説明する。図11に示されるようにインクジェット記録装置110には、キャリッジ111に搭載された記録ヘッド112と後述するインクカートリッジ150から供給されたインクを保持するサブタンク113が備えられている。また、装着部117を備えており、ここにインクカートリッジ150が着脱可能に装着される。さらに、装着部117にはインクカートリッジ150が装着された際にインクカートリッジ150のインク供給体と連結される接続部材120が配されている。この接続部120には、インク導出路125とインク導出口(不図示)、及びエア導入路122とエア導入口121が備えられている。そして、接続部材120は、記録ヘッド112のサブタンク113と連結してインクを供給するためのインク路を構成するインクチューブ116と連結している。また、エア導入口121は、インクカートリッジ150からサブタンク113にインクを圧送するための加圧エアを発生させるエアポンプ114に繋がれたエア路を構成するエアチューブ115とエア導入路122を介して連結している。
【0009】
そして、インク導出路125とエア導入路122及びエア導入口121を取り囲むようにエアシール171を備えている。このエアシール171には、インクカートリッジ150と接続部材120とが接続された際にインクカートリッジ150の開口部153の周囲に密着して、その内部空間をシールするための弾性体で構成されたリップ状周縁を備えている。
【0010】
このようなインクジェット記録装置110に装着されるインクカートリッジ150は、図12に示されるように、筐体151内にスパウト162とインク収納体161で構成されるインク収納体ユニット160が収納されて構成される。このインク収納体161は、可撓性のフィルムを用いて袋状に構成したインク袋である。一方、スパウト162には、インクジェット記録装置110の接続部材120のインク導出路125を構成する針状の管が連結するインク供給口167を備えた弾性体から構成されるインクシール163を備えている。また、インク収納体ユニット160は、筐体151の規制部材155に対してスパウトの一部が利用されてガタツキを有して組み付けられている。さらに、筐体151にはインク収納体ユニット160が配置された状態でインク供給口167を露出する開口部153が備えられている。この開口部153とガタツキによる間隙を介してインクカートリッジ150の空間部154は外部と連通する。
【0011】
図12に示されたインクカートリッジ150を図11に示されたインクジェット記録装置110に装着した状態を図13に示す。インク導出路125がインクカートリッジ150のインク供給口167から挿入されてインク収納体ユニット160のインク収納体161内に貯留されたインク140と連通する。同時に、エアシール171が開口部153の周囲に対して押圧されて当接し、エアシール171の当接部分(リップ部)171aが変形をともなった状態で開口部153を塞ぐ。これによって、インクカートリッジ150の内部空間で構成される空間部154はエア導入口121と連通する以外は密閉された状態となる。この状態でエアポンプ114が動作されて空気が送り込まれることでインクカートリッジ150内が加圧されてインク収納体161が圧縮され、記録ヘッド112のサブタンク113にインク140が圧送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】2004−306496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、エアシール171がインクジェット記録装置110に設けられた構成では、インクカートリッジ150の交換回数が増えると、エアシール171の材料特性が劣化し加圧インク供給を実施するための密閉を構成することが困難になる。つまり、特許文献1のような構成ではエアシール171の弾性変形が大きく、経時によりクリープしやすい。この場合、加圧力がリップ部171aから外部に逃げてしまうように事態が起こりえる。このような事態を抑制するには、エアシール171に対して記録装置寿命中の耐久性が求められることになり材料選択やシール性を確保するための形状等の制約がある。
【0014】
また、エアシール171とインクカートリッジ150の開口部153とは正対した状態でインクカートリッジ150を挿入するように構成されている。そのため、リップ部171aに対してインクカートリッジ150を突き当てて装着を完了する構成であり、インクカートリッジ150の装着ストロークに対して追従性が低い。ストロークに対するシール追従性を高めるために、シール構造全体を稼動させたり、シール形状を大きくするなどの対策が考えられるが構造の複雑化に伴うコストアップや、設計形状の自由度の低下が懸念される。
【0015】
なお、特許文献1に開示される構成では、そもそもエアによる加圧時にエアシール171のリップ部171aに対して外に広がるような方向に圧力が作用する。そのため、弾性体で構成されたリップ部171aが圧力に負けて筐体から離れて加圧力が逃げてしまう可能性がある。
【0016】
さらには、インクカートリッジ150の開口部153が大きく開口しており、且つインク供給口167が開口部153の近接位置で開口部153から臨んでいる。そのため、インク供給口167にユーザーが触れやすくインクカートリッジ150の着脱操作時にインクで手を汚してしまう可能性がある。
【0017】
これらの課題を解決するために本発明者等は、装着によって変形をするシール構造をインクカートリッジ側に配置し、インクジェット記録装置のエア導入口とインク導出口が連結する部分の構造を見直した結果本発明をなすに至ったものである。
【0018】
本発明は、シール部材の信頼性向上、インクカートリッジの挿入ストロークに対する設計自由度の向上、インクカートリッジの取扱い性向上を図ることができるインクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は上述の目的を達成するために、加圧インク供給の構造を根本的に見直しなされたものであり、本発明のインクカートリッジは、開口部を備えた筐体と、該筐体内に備えられインクを収納した可撓性のインク収納体と、該インク収納体に付設されインクの供給に係わるインク供給体とを備え、記録装置に備えられた接続部材に対して着脱可能にされており、装着されインク供給体と接続部材とが接続された状態で前記筐体と前記インク収納体との間にエアを導入してインク供給するインクカートリッジにおいて、
前記インクカートリッジの前記接続部材の挿抜経路の下流側には第1シールを、上流側には第2シールを備えており、
前記第1シールは、前記接続部材の先端側に備えられたインク導出口と、該インク導出口と前記接続部材の基部との間に配され外部から送られたエアをインクカートリッジ内に導入するエア導入口との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものであり、
前記第2シールは、前記エア導入口と前記接続部材の基部との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものとして構成され、
前記第1シ−ルと前記第2シールとの間には、前記筐体と前記インク収納体との間の空間に連通する間隙を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明のインクジェット記録装置は、開口部を備えた筐体と、該筐体内に備えられインクを収納した可撓性のインク収納体と、該インク収納体に付設されインクの供給に係わるインク供給体と、を備えたインクカートリッジと、
前記インク収納体内のインクを記録ヘッドに導出するインク導出口を備えたインク導出路と、前記インクカートリッジの前記筐体と前記インク収納体の間の空間部にエアを導入するエア導入口を備えたエア導入路とを備えた接続部材と、該接続部材が配され前記インクカートリッジが装着される装着部と、前記インク導出路と連通して記録ヘッドにインクを供給するインク路と、前記エア導入路と連通しエアを送り出すエアポンプと、を備えた記録装置と、
を備え、前記インクカートリッジが前記装着部に装着された状態で前記インクカートリッジ内にエアが導入されて加圧インク供給がなされるインクジェット記録装置において、
前記接続部材には、その先端側に前記インク導出口が備えられ、このインク導出口と前記接続部材の基部との間に前記エア導入口が備えられて構成され、
前記インクカートリッジには、前記接続部材の挿抜経路の下流側に第1シールが、上流側には第2シールが備えられており、前記第1シールは前記接続部材の前記インク導出口と前記エア導入口との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものであり、前記第2シールは前記エア導入口と前記接続部材の基部との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものとして構成され、前記第1シ−ルと前記第2シールとの間には、前記筐体と前記インク収納体との間の空間に連通する間隙を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成によれば、エア加圧方式を用い、大容量インクカートリッジかつ高速印字に対応する記録装置を構成するに際して、シール性が求められる部材をインクカートリッジとともに交換できるようにすることにより信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0022】
また、インクジェット記録装置との気密性が求められるシール構造を径方向のシールの組合せとすることでインクカートリッジの挿入ストロークに対する設計自由度の向上を図ることが出来る。
【0023】
さらに、インク供給口をインクカートリッジの奥に配したことにより、インクが付着するインク供給口に触れにくくなるためインク付着などの心配なくインクカートリッジに対するユーザーの取扱い性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明が適用されたインクジェット記録装置の一構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明が適用されたインクカートリッジの一構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明が適用されたインクカートリッジの分解斜視図である。
【図4】図1に示されたインクジェット記録装置に図2に示されたインクカートリッジを装着した状態を示す概略断面図である。
【図5】本発明が適用されたインクジェット記録装置の別の構成例を示す概略断面図である。
【図6】本発明が適用されたインクカートリッジの別の構成例を示す概略断面図である。
【図7】図5に示されたインクジェット記録装置に図6に示されたインクカートリッジを装着した状態を示す概略断面図である。
【図8】本発明が適用されたインクジェット記録装置の他の構成例を示す概略断面図である。
【図9】本発明が適用されたインクカートリッジの他の構成例を示す概略断面図である。
【図10】(a)はインクカートリッジが装着された状態の主要部を示す概略断面図である。(b)はインクカートリッジを取外し始めた状態の主要部を示す概略断面図である。(c)はインクカートリッジを取外している途中の状態の主要部を示す概略断面図である。(d)はインクカートリッジの取り外しが完了した状態の主要部を示す概略断面図である。
【図11】従来構成における記録装置の構成例を示す概略断面図である。
【図12】従来構成におけるインクカートリッジの構成例を示す概略断面図である。
【図13】図11に示されたインクジェット記録装置に図12に示されたインクカートリッジを装着した状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明が適用される実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に示されるようにインクジェット記録装置10には、モータによって駆動されるタイミングベルト(不図示)を介し、記録用紙の幅方向である主走査方向に往復移動されるキャリッジ11を備えている。そして、このキャリッジ11には記録ヘッド12と後述するインクカートリッジ50から供給されたインクを保持するサブタンク13が搭載されている。
【0027】
このサブタンク13には記録ヘッド12へと供給されるインクの圧力を調整するための圧力調整機構(不図示)が組み込まれている。サブタンク13で圧力調整する目的としては、キャリッジ11の移動に伴うインク揺動による圧力変動を緩和すること、記録ヘッド12によって行われる記録が良好に実施できるように負圧を適した範囲に調整することにある。圧力調整の機構としては、内部にダンパー機能を発生させるためのダイアフラム弁構成や、圧力変動弁などを設けるのが一般的である。
【0028】
また、インクジェット記録装置10は装着部17を備えている。装着部17に対してインクカートリッジ50は着脱可能にされている。インクカートリッジ50が装着された際にインクカートリッジ50と連結される接続部材20が配されている。この接続部材20には、インク導出路25とエア導入路22とが備えられており、両者は1つの管体26に設けられている。インク導出路25の先端にはインク導出口24があり、一方エア導入路22の先端部にはエア導入口21がある。
【0029】
なお、装着部17の接続部材20が配された側には、インクカートリッジの装着時の挿入方向に対して奥の位置を規定するストッパ18が設けられている。これによって、インクカートリッジ50の装着部17への装着時にインクカートリッジ50がストッパ18に突き当たり装着方向に関する最終装着位置が規定される。
【0030】
接続部材20のインク導出口24は、記録ヘッド12のサブタンク13と連結してインクを供給するためのインク路となるインクチューブ16とインク導出路25を介して連結している。また、接続部材20のエア導入口21は、インクカートリッジ50からサブタンク13にインクを圧送するための加圧エアを発生させるエアポンプ14に繋がれたエア路となるエアチューブ15とエア導入路22を介して連結している。なお、エアポンプ14には不図示の圧力を制御するための圧力センサと圧力調整バルブが備えられている。
【0031】
また、接続部材20を構成する管体26は、基部側の径が太く、エア導入路22の先端にあるエア導入口21を越えた先が一段径が細く構成されており、インク導出路25が伸びて配されている構成となっている。
【0032】
次に、図2を用いて本実施例におけるインクカートリッジ50の構成について説明する。
【0033】
インクカートリッジ50は、インク40を収納するインク収納体61と、そのインク収納体61に接続されたスパウト62と、インク収納体61を収納する筐体51とを主たる構成要素として備えている。スパウト62は、インク40をインクジェット記録装置10に供給するインク供給口67をインク収納体61に設けるための部材である。スパウト62に設けられたインク供給口67には、インクシール(便宜上第1シールと称することがある)63、弁64、バネ65とが組み込まれている。
【0034】
弁64はバネ65によりインクシール63へと押し付けられるように配されており、インクシール63は抜け止めのためのキャップ66によりスパウト62に組み付けられている。なお、インクシール63は中心が開口した環状の構造であり、その外径部をスパウト62に密着させることでインクシール63とスパウト62との気密性を確保している。また、インクシール63のインク収納体61側には、弁64と当接した際にしっかりと密閉するための構造として開口を取り囲むようにリップ状の突起63aを備えている。
【0035】
スパウト62は、さらに係合部62aを備えており、筐体51に設けられた一対の規制部材55と係合してインク袋ユニット60を筐体51に対して位置決め固定する。
【0036】
これらスパウト62、スパウトの係合部62a、インクシール63、リップ状の突起63a、弁64、バネ65、キャップ66を備えた項像対を便宜的にインク供給体68と称する。また、インク供給体68とインク収納体61を組み付けた構成をインク収納体ユニット60と称する。
【0037】
このようにインクシール63をスパウト62に密着させて、且つ、弁64をインクシール63にしっかりと押し付けることでインク収納体ユニット60内外の空間を遮断することができる。本構成により、インク収納体ユニット60内からのインク漏れならびに蒸発等によるインクの変性を抑制することが可能となっている。このインクシール63は、例えばブチルゴム等のゴム材や、エラストマー等の熱可塑性樹脂材など柔軟性のある材料などで構成されている。
【0038】
本例におけるインク袋61は、2枚の長方形状の可撓性のフィルム材を重ね合わせて、その3辺の縁を熱溶着することにより袋状にしたものである。そして、溶着していない残り1辺にスパウト62を差込み、フィルムを熱溶着してインク収納体ユニット60が構成される。
【0039】
インク収納体61を構成するシート材料は、具体的には、ポリエチレンテレフタレート層/接着層/アルミニウム合金層/接着層/ナイロン層/接着層/ポリプロピレン層(内面層)を順に積層して構成されている。このように、中間層としてアルミニウム合金層を配置することによって、気体がインク袋を透過するのを遮断し、インクが蒸発するのを防止することができる。また、層構成にナイロンを加えることで折り曲げや擦れによるフィルムへの穴空きに対する耐性が向上する。内面層と同様に、スパウトも耐インク性に優れるポリプロピレンを主成分とする材料で構成されているので、スパウトとインク袋とを溶着し、漏れがないようにシールすることができるようになっている。
【0040】
インクカートリッジ50は、図3に示されるように、外形が偏平状で最大面積面である一方の側面が開口した容器体51aに対して、インク収納体ユニット60を上述した通り規制部材55にスパウト62の係合部62aを組み付けて固定する。さらに、この容器体51aの開口を覆うフィルム56と、その上から容器体51aの開口を覆う蓋体51bと、をこの順に組み付けることで構成されている。フィルム56は容器体51aと同材質の溶着層を用いた構成となっている。本実施例では、気密フィルムはポリエチレンテレフタレート層/接着層/ポリプロピレン層で構成している。対応する容器体51aおよび蓋体51bもポリプロピレンを主材として構成されている。蓋体51bはフィルム56が剥き出しの状態では物流や取扱い時に穴が空いてしまう可能性があること、また内部を加圧された際に膨張変形することなどからフィルム56の保護、変形抑制の機能を有している。
【0041】
容器体51aの開口を気密する手法としては上記構成に限定したものでは無く、カバーを振動溶着等で気密に組付ける構成でも良く、必要に応じ適宜選択すればよい。
【0042】
本実施例で述べるフィルム溶着を用いた構成は、組付け時の振動等の影響をインク袋に与えない点で、インク漏れ等のリスクを低減できるため望ましいものである。
【0043】
筐体51には、スパウト62のインク供給口67に対応する部位に開口部53がある。この開口部53にはエアシール(便宜上第2シールと称することがある)71が設けられており、エアシール71は、中心が開口した環状の構造で、その外周を筐体51に当接させることで外周部がシールされるようになっている。また、エアシール71は抜け止めのため、中心が開口しているエアシールカバー72により筐体51に組み付けられている。
【0044】
以上の構成により、インクカートリッジ50はエアシール71の開口を除いて実質密閉された構成となる。
【0045】
図2に示されたインクカートリッジ50を図1に示されたインクジェット記録装置10に装着した状態を図4に示す。
【0046】
上記インクカートリッジ50を記録装置10のインクカートリッジ装着部17に装着すると、まず管体26のインク導出路25及び、その先端付近に設けられたインク導出口24がエアシール71の穴を通過し、インクカートリッジ50内に入る。続いてエア導入口21がエアシール71にかかる。管体26はエアシール71の内径よりも少しだけ大きく作られているため、管体26はエアシール71を外側へ押し広げながら挿入され、管体26の外周がエアシール71でシールされる。
【0047】
また、エアシール71を通過した管体26のインク導出路25はインクカートリッジ50に構成されたインク供給口67に挿入される。インク導出路25を構成する管体26の外周部分が前述したエアシール71と同様にインクシール63を押し広げながら挿入されて弁64に当接する。このようにインクシール63を押し広げることでインク導出路25を備えた管体26とインクシール63とのシール性が確保された状態となる。
【0048】
この状態からさらにインクカートリッジ50を押し込むと、管体26により弁64がインク収納体ユニット60の内部に押し込まれ、インク導出路25の先端付近に設けられたインク導出口24がインク収納体61内のインク40と繋がる。なお、インクカートリッジ50の押し込みは、装着部17に設けられたストッパ18によって規制され、それ以上の押し込みはできない構成となっている。
【0049】
すなわち、接続部材20に対するインクカートリッジ50の挿抜経路に関して上流側にエアシール71が、下流側にインクシール63が配置されている。
【0050】
以上のように、インクカートリッジ50をインクジェット記録装置10に装着すると、管体26とエアシール71とによりインクカートリッジ50内部の空間部54が密閉された室として構成され、この空間部54内にインク収納体ユニット60が存在する構成となる。
【0051】
このように構成する事で、インク収納体ユニット60内のインク40に加わる圧力とインク供給口67とに加わる圧力を同等に出来る。そのため、インク導出路25を構成する管体26とインクシール63のシール性を加圧力に耐えるように設計する必要が無く、インク漏れに対する信頼性を高めることが出来る。
【0052】
この構成によるインク供給動作の一例は次のステップにより行なわれる。
エアポンプ14からインクカートリッジ50に気密室として構成された空間部54にエアが供給される。空間部54に供給されたエアによりインクカートリッジ50内は加圧され、インク収納体ユニット60も加圧される。インク収納体ユニット60が加圧されたことにとって加圧されたインク40は、インク導出路25に構成されたインク導出口24を通り、インクチューブ16を介して、キャリッジ11に搭載されたサブタンク13に供給される。
【0053】
インクはサブタンク13を通じて記録ヘッド12に供給され、記録ヘッド12に設けられた複数インク吐出用ノズルから噴射される。
【0054】
この加圧の調整はエアポンプ14内に配置された圧力調整弁、圧力検出器によって行なわれる。圧力調整弁は、加圧された空気圧が所定の値以上に達すると、圧力を開放する構成となっている。具体的にはバネを用いた空気弁などの構造となっており、設定圧力はバネ力で設計可能である。この圧力調整弁を設けることでインクカートリッジ50やインクジェット記録装置10のエアチューブ15に過度の圧力が加わることによる破損を回避する。
【0055】
また、圧力検出器によって加圧された空気圧を検知し、その信号に基づいて記録装置にあるエアポンプの駆動制御を行なう。大気圧の状態からエアポンプにより加圧動作を開始し、気密室が所定の圧力に達したことを検出すると、エアポンプの駆動を停止させる。逆に、気密室が所定の圧力以下に低下した際には、エアポンプによる加圧動作を開始して圧力を高める駆動を行なう。
以上の繰り返しによってインクカートリッジへの加圧量を所定の範囲に維持する。
【0056】
以上説明したように、本発明のインクカートリッジでは、気密を維持する必要のあるシール部材、インクシールならびにエアシールがインクカートリッジ側に設けられているため、変形ストレスのかかるシール部材はインクカートリッジの交換とともに新しくできる。
【0057】
また、インクシールならびにエアシールと記録装置の管体とのシールが、インクシールならびにエアシールの内周面と管体の外周面との周接によってなされるため、インクカートリッジのストロークに対して安定したシール性を確保することが出来る。
【0058】
さらには、インクシールは筐体の外側に配されたエアシールよりも内側に配置され、かつエアシールは記録装置挿入時にエア導入筒と当接する際に押し広げられる構成をとるため、インクカートリッジ単体ではシールの開口径は小さくなっている。
【0059】
以上のようにインクカートリッジの外からインク供給口に非常に触り難い構成であるため、インクカートリッジの取扱い時に、ユーザーが手を汚すなどの不具合を抑制することが出来る。
【0060】
さらには本構成のようにエア導入口とインク導出口をひとつの部品にまとめたエアインク接読ユニット構成とすることで、部品構成の簡素化によって記録装置のコストダウンが可能となる。
【0061】
なお、インクジェット記録装置10の管体26の構成は、本例の構成に限られること無く、本発明の効果が期待できる範囲で各種の変形が可能である。
【0062】
また、上記実施例では、インク供給口にはインクシール、弁、バネからなる構成を用いたが、先のとがった針を用い、圧縮されたゴムに直接差し込む針ゴム方式を用いても良い。
【0063】
また、インク袋のフィルム最内層、スパウトに用いる材料はポリプロピレンに限らず適宜選択すればよい。例えばポリエチレンとする事で低温の衝撃に強い構成となる。勿論フィルム層構成も、インク特性により適宜好きな構成を選択可能である。
【実施例2】
【0064】
図5ないし図7を用いて、実施例2におけるインクジェット記録装置およびインクカートリッジの構成を説明するとともに、これらの装着状態を説明する。
【0065】
本実施例では、特にインクカートリッジのインク供給体68およびシール80の構成が実施例1と相違する。以下、実施例1と相違する構造を中心に説明する。
【0066】
図5に示されるように、インクジェット記録装置の接続部材20は、これを構成する管体26の周囲に対してリブ状の突起23を備えている。これは図6で説明するインクカートリッジ50のインク供給体68のスパウト62およびシール80の構造に対応させているもので、特にエアシール性の信頼性を確保するための構造である。
【0067】
図6はインクカートリッジ50の構成を示している。このインクカートリッジ50のスパウト62は、エアシール領域とインクシール領域の両方を一体的に備えた構成をしており、筐体51に対して直接付設された構成となっている。そして、スパウト62内には、インクシール63(第1シール)とエアシール71(第2シール)とが一体的に構成されたシール80が配置されている。スパウト62およびシール80は、インクジェット記録装置10の接続部材20の管体26の構成にあわせて、インクシール63とエアシール71は段差を有した異なる径で構成されている。エアシール71の径はインクシール63の径より一段大きな径で筒状に伸びた構造となっており、管体26のリブ状突起23と周方向に関して密着するようになっている。
【0068】
シール80のエアシール71とインクシール63との間にシール導通口80aが開口しており、またスパウト62のエアシール領域とインクシール領域との間にスパウト導通口62bが開口している。これらの開口は一致して設けられており、インクジェット記録装置10のエア導入口21から送り込まれる加圧エアを筐体51内に導入するためのエア導通口81となる。
【0069】
なお、スパウト62は筐体51と別体の構成でもよいが、筐体51と一体構成とされてもよい。一体化とするほうが取り付けのための構造の簡略化が図れ、製造の観点から好ましい。この場合には例えば、筐体の両側面を開放し、筐体の左右からスパウト部分にインク袋用のフィルムを貼り合せて、筐体内に直接インク袋ユニットを作製する構成等を採用可能である。
【0070】
以上のインクジェット記録装置10に対してインクカートリッジ50を装着した状態を図7に示す。特に、インクカートリッジ50のエアシール71は、インクジェット記録装置10のリブ状突起23によってエアシール71を外側へ押し広げ、両者のシール性が確保される構成となっている。このようにしてインクカートリッジ50の開口53が密閉され、インクカートリッジ50の筐体51内部に気密に構成できる空間部54が構成される。
【0071】
装着が完了した状態でエア導入口21はエア導通口81と連通することになり、エア導入口21から送り込まれる加圧エアはエア導通口81を通じて気密状態とされた空間部54内に送り込まれることとなる。
【0072】
本実施例のように構成することで、第1の実施例と同様の効果を発揮しつつ、シール部材削減によるコストダウン、組み付け性向上を図ることが可能となる。
【0073】
また、本構成例ではインクジェット記録装置10の接続部材20を構成する管体26にリブ状突起23を配置する構成としたことによって、インクカートリッジ50のエアシール71の内周面に突状リブを設けることなく平坦な面で構成することができた。エアシール71の内周面に突状リブを設ける構成では加工上無理抜きが必要となるが、本構成例ではその必要が無くなるため成形性を犠牲にすることなく、部品の一体化を達成することが出来る。
【実施例3】
【0074】
図8、図9、図10を用いて実施例3を説明する。本実施例では、図8に示されるように、インクジェット記録装置10に配したインク導出口24及びインク導出路25、エア導入口21及びエア導入路22を備えた接続部材20を同一の径の管体26で構成した点で他の実施例と相違する。この同一径の管体26に設けられたインク導出路25のインク導出口24は管体26の先端の近傍の側面に開口して設けられ、エア導出路22のエア導入口21は管体26の途中部分の側面に開口して設けられている。
【0075】
一方、図9に示されるように、インクカートリッジ50は、実施例1と同様にインク供給体68とインク収納体61を君合わせて構成されたインク収納体ユニット60を筐体51内に配し、筐体51にはエアシール71を設けた構成である。しかし、インクカートリッジ50に挿入される接続部材20の管体26がエア導入口21が設けられた個所と、インク導出口24が設けられた個所とにおいて同一径であるため、管体26と当接するエアシール71ならびにインクシール63も同程度の開口形状である。なお、本例では、エアシール71とスパウト62の間の間隙に接触するように空間部54内にインクを吸収して保持するインク吸収体82が配されている。このインク吸収体82は図10(a)〜(d)で示すように、インクカートリッジ50を装着部17から取外す際にインク導出口24の周囲に付着した、あるいはインク導出口24から漏れるインクをエアシール71で拭い去ることを利用して回収するものである。インク吸収体82はインクカートリッジ50が装着部17に装着された状態でエアシール71の重力方向(図9中矢印g)の下に配置される。これにより、管体26から漏れあるいはエアシール71によって拭われ重力に沿って垂れてくるインクを受け止めて回収することができる。
【0076】
図10(a)ないし図10(d)を用いてインクカートリッジをインクジェット記録装置から取外す際の動作、挙動について説明する。
【0077】
図10(a)は、インクカートリッジ50が記録装置10に装着された状態であり、インク導出口24がインク袋内のインク40と連通し、且つ、エア導入口21が筐体51の空間部54に連通している。この状態で加圧エアが送られるとインクが供給される。
【0078】
図10(b)は、インクカートリッジ50を記録装置10から取り外し始めた状態であり、インク供給体68の弁64がインクシール63に当接し、インク収納体61内のインク40と、インク導出口24との導通が遮断された状態である。この状態では、これまでインク40と接触していた管体26の先端領域の周囲には気禄に用いられることのない廃インク41が付着している(図10(b)では管体26の周囲に付着した廃インクは図示していない。)。
【0079】
さらにインクカートリッジを抜き出す動作を継続すると、図10(c)に示されるように、管体26がエアシール71と摺察することによって管体26の周囲に付着していた廃インク41がしごかれることになり、徐々に管体26の先端側に集められる。集合した廃インク41は図10(d)に示されるようにエアシール71からシールの重力方向下に配置されたインク吸収体82に移動し吸収されて回収されて筐体51内に保持される。これによって、エアシール71にインクがリッチに付着した状態でなくなるため、取外されたインクカートリッジ50の取り扱い時にインクがユーザーに付着してしまうおそれが低減する。インクカートリッジの取り外し動作は、インクエンド警告がユーザーに報知された時点で行われる場合に限らず、使用途中で抜き取るように事態が発生してもインク供給口周囲に留まるインク少なくなるのでインクによる汚れのおそれが低減する。
【0080】
このようにインク導出口24備えた管体26の先端部は、インクカートリッジを取り外す際にエアシール71に触れながら抜き取られることとなる。これにより、管体は常にきれいな状態を保つことが出来るので、管体26に付着したインクが乾燥固化などした際の不具合を回避する事が可能となる。
【0081】
また、インクカートリッジ内に拭取られたインクはインクカートリッジとともに交換されるため、拭取ったインクが記録装置内にあふれて不具合をおこすこともない。
【0082】
なお、本実施例では、インクカートリッジ内に吸収体を配することでインクカートリッジ内に拭取られたインクを安定保持する構成で説明した。しかし、インク導出口24部分の管体26の径がシール71の内径と同等に構成しているため、シールによる拭い去り効果が享受できる点がこの構成にとって重要である。筐体内に配置されたインク吸収体82は拭い去ったインクの処理に有効に機能する物であるが必須の構成でなく、これを配さなくてもインク拭取り効果は当然発揮されるものである。
【符号の説明】
【0083】
20 接続部材
21 エア導入口
24 インク導出口
50 インクカートリッジ
51 筐体
53 開口部
61 インク収納体
63 第1シール(インクシール)
68 インク供給体
71 第2シール(エアシール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備えた筐体と、該筐体内に備えられインクを収納した可撓性のインク収納体と、該インク収納体に付設されインクの供給に係わるインク供給体とを備え、記録装置に備えられた接続部材に対して着脱可能にされており、装着されインク供給体と接続部材とが接続された状態で前記筐体と前記インク収納体との間にエアを導入してインク供給するインクカートリッジにおいて、
前記インクカートリッジの前記接続部材の挿抜経路の下流側には第1シールを、上流側には第2シールを備えており、
前記第1シールは、前記接続部材の先端側に備えられたインク導出口と、該インク導出口と前記接続部材の基部との間に配され外部から送られたエアをインクカートリッジ内に導入するエア導入口との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものであり、
前記第2シールは、前記エア導入口と前記接続部材の基部との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものとして構成され、
前記第1シ−ルと前記第2シールとの間には、前記筐体と前記インク収納体との間の空間に連通する間隙を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記第1シール、第2シールは一体的に構成されており、前記第1シ−ルと第2シールとの間に前記筐体と前記インク収納体との間の空間に連通するエア導通口を備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記第1シールは前記インク供給体に備えられ、前記第2シールは前記筐体の開口部に備えられていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記第1シールと前記第2シールは前記第1シールの方が径が小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
前記インクカートリッジを取外す際に前記接続部材が前記第2シールに対して摺察して発生する廃インクを回収するインク吸収体を前記筐体内に備えていることを特徴と請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
開口部を備えた筐体と、該筐体内に備えられインクを収納した可撓性のインク収納体と、該インク収納体に付設されインクの供給に係わるインク供給体と、を備えたインクカートリッジと、
前記インク収納体内のインクを記録ヘッドに導出するインク導出口を備えたインク導出路と、前記インクカートリッジの前記筐体と前記インク収納体の間の空間部にエアを導入するエア導入口を備えたエア導入路とを備えた接続部材と、該接続部材が配され前記インクカートリッジが装着される装着部と、前記インク導出路と連通して記録ヘッドにインクを供給するインク路と、前記エア導入路と連通しエアを送り出すエアポンプと、を備えた記録装置と、
を備え、前記インクカートリッジが前記装着部に装着された状態で前記インクカートリッジ内にエアが導入されて加圧インク供給がなされるインクジェット記録装置において、
前記接続部材には、その先端側に前記インク導出口が備えられ、このインク導出口と前記接続部材の基部との間に前記エア導入口が備えられて構成され、
前記インクカートリッジには、前記接続部材の挿抜経路の下流側に第1シールが、上流側には第2シールが備えられており、前記第1シールは前記接続部材の前記インク導出口と前記エア導入口との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものであり、前記第2シールは前記エア導入口と前記接続部材の基部との間の領域で前記接続部材に対して周接してシールするものとして構成され、前記第1シ−ルと前記第2シールとの間には、前記筐体と前記インク収納体との間の空間に連通する間隙を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1シールと前記第2シールは同一の径であり、前記接続部材の前記エア導入口と前記インク導出口とは同一径の管体に配されており、これによって前記装着部から前記インクカートリッジを取外す際に前記接続部材は前記第2シールに対して摺察して、前記接続部材に付着したインクが拭われて発生した廃インクを回収するインク吸収体を前記筐体内に備えていることを特徴と請求項6に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−224871(P2011−224871A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97077(P2010−97077)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】