説明

インクジェットインク

【課題】保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好なインクジェットインクを提供する。
【解決手段】水溶性樹脂、水不溶性樹脂、顔料、及び、水を含むインクジェットインクであって、該水溶性樹脂の酸価が50以上70未満、該水不溶性樹脂の酸価が、60以上90未満であることを特徴とするインクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクに関し、更に詳しくは、水性のインクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
水性顔料インクジェットインクには、顔料分散剤として、あるいはバインダー樹脂として種々の樹脂を添加することが提案されてきた。
【0003】
水性顔料インクジェットインクは、従来のインクジェット専用紙へのプリントに加えて、非吸収性メディアへのプリントする試みが提案されてきた。
【0004】
本発明者らの検討の結果、非吸収性メディアへのプリントで液よりの発生しない高画質プリントを得るには、記録メディアへの濡れ性の制御や、インクジェットインク粘度の制御が重要であることが判ってきた。
【0005】
本発明者らは、この知見に基づき特定の水溶性樹脂をインクジェットインクに添加することが液よりの発生しない高画質プリントを得るのに効果があること(例えば、特許文献1参照)を発見した。
【0006】
また、本発明者らは、水不溶性樹脂で被覆された顔料を用いることで、非吸収性メディアに高画質で印字でき、画像耐久性も高く、インクジェットインク保存性、射出安定性を高めたインクジェットインクを提案(例えば、特許文献2参照)した。
【0007】
しかしながら、長期間の屋外展示などに使用する場合は、画像を乾布、あるいは水、洗剤、アルコール水溶液などで拭く場合があり、この時画像が取れないようより強い画像耐久性が必要とされる。また、インクジェットインクを長期保存後にもより安定に射出出来る安定性が求められている。
【0008】
また、酸価60〜80の水溶性樹脂を含有するインクジェットインクが開示されているが、(例えば、特許文献3参照)水不溶性樹脂との併用の記載はない。特に、水不溶性樹脂の酸価を特定した記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/105289号
【特許文献2】特開2008−208153号公報
【特許文献3】特開2010−47660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好なインクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0012】
1.水溶性樹脂、水不溶性樹脂、顔料、及び、水を含むインクジェットインクであって、該水溶性樹脂の酸価が50以上70未満、該水不溶性樹脂の酸価が、60以上90未満であることを特徴とするインクジェットインク。
【0013】
2.前記水溶性樹脂の酸価が、前記水不溶性樹脂の酸価より小さいことを特徴とする前記1に記載のインクジェットインク。
【0014】
3.前記水溶性樹脂が、芳香族基含有モノマーとのアクリル共重合体であって、該芳香族基含有モノマーから由来する含有量が、該水溶性樹脂全体の20質量%未満であることを特徴とする前記1又は2に記載のインクジェットインク。
【0015】
4.前記水溶性樹脂が、重量平均分子量が2万以上10万未満のアクリル共重合体であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0016】
5.前記水不溶性樹脂が、芳香族基含有モノマーとのアクリル共重合体であって、該芳香族基含有モノマーから由来する含有量が、該水不溶性樹脂全体の35質量%以上80質量%未満であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0017】
6.前記水不溶性樹脂の少なくとも一部が、前記顔料を被覆していることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0018】
7.前記水不溶性樹脂の含有量は前記顔料の含有量より少なく、前記水溶性樹脂の含有量は前記顔料の含有量より多いことを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好なインクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
(本発明の水溶性樹脂及び水不溶性樹脂)
本発明において、水溶性樹脂とは、イオン交換水への溶解度が10質量%以上のものを言い、水不溶性樹脂とは、イオン交換水への溶解度が2質量%未満のものを言う。なお、溶解度は、25℃から50℃の範囲で1日、撹拌し、不溶物がなく、透明な水溶液が得られる濃度として求めることができる。
【0022】
本発明は、特定の酸価を有する水溶性樹脂と、同じく特定の酸価を有する水不溶性樹脂を併用することで、保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好なインクジェットインクを提供することをできた。
【0023】
水溶性樹脂をインクに添加することで、液より等による画質劣化を抑えることができ、種々の非吸収性メディアにプリントができるようになる。同時に水溶性樹脂は顔料のバインダーとして機能し、画像耐久性も向上させる。水溶性樹脂の添加は画像耐久性を向上させるものの、強い荷重をかけ、画像を乾布、あるいは水、洗剤、アルコール水溶液などで拭く場合画像がはがれることがある。特許文献2では、水不溶性樹脂で被覆された顔料を用いることにより、水不溶性樹脂をインクに持ち込むことで画像耐久性向上を達成している。しかし、強い荷重をかけ、画像を乾布、あるいは水、洗剤、アルコール水溶液などで拭く場合画像がはがれることがあり、まだ不十分である。本発明は、特定酸価の水溶性樹脂、酸価が50以上70未満の水溶性樹脂を用いることで、液よりによる画質劣化を防止し、かつ強い荷重をかけた場合でも耐久性が向上することを見出した。さらに、酸価が50以上70未満の水溶性樹脂と、酸価が60以上90未満の水不溶性樹脂を併用することで、強い荷重をかけた場合でも十分な耐久性を得ることができ本発明に至った。
【0024】
また、水溶性樹脂は、液よりを抑え、画像耐久性を向上させる半面、インク中での顔料分散安定性を劣化させることを本発明者等は見出した。この時、本発明で用いる、酸価が50以上70未満の水溶性樹脂は、酸価70以上の水溶性樹脂に対して顔料分散安定を向上すること見出した。さらに、酸価が60以上90未満の水不溶性樹脂を併用する本発明の構成では、大幅に向上することを見出し本発明に至った。以上のように、酸価が50以上70未満の水溶性樹脂と、酸価が60以上90未満の水不溶性樹脂を併用することにより、初めて、画像耐久性、インク中での顔料保存安定性において十分なレベルの改善を達成することができた。
【0025】
さらに、樹脂を添加したインクでは、ノズルでの樹脂の固化により、目詰まりや、曲がりが発生しやすい。また、このときヘッド表面の洗浄や、フラッシングといったメンテナンス作業をしても完全に回復しないことが多い。本発明の酸価が50以上70未満の水溶性樹脂と、酸価が60以上90未満の水不溶性樹脂を併用した場合、画像耐久性に十分な量の樹脂をインクに添加しているにも関わらず、ヘッド表面の洗浄や、フラッシングといったメンテナンス作業で改善できる。
【0026】
本発明の効果について詳細は不明であるが、以下のように推測している。
【0027】
インクに水溶性樹脂を添加することで、液より等による画質劣化を抑えることできるのは、インクがメディアに着弾直後からの乾燥時に増粘し液よりを防止すると考えている。この時、インク中で水溶性樹脂は高分子鎖が広がりネットワークを構成する必要があり、この時、酸性基の量、すなわち酸価が大きく影響し、酸価は50以上の場合ネットワーク構成が十分可能と考えている。酸価が50未満では樹脂のネットワークが十分広がらず液より防止に寄与できない。一方、水溶性樹脂が画像耐久性を向上させるには、非吸収性メディアや、顔料などに樹脂の疎水部を効果的に疎水結合等で吸着する必要がある。時酸価が70以上では、樹脂がインク中で比較的安定なため十分疎水結合を形成するに至らないため画像耐久性が不足すると考えている。
【0028】
一方、水不溶性樹脂はインク中で何らかの形で分散状態となっている。水溶性樹脂が共存する場合、水不溶性樹脂と水溶性樹脂との相互作用を考慮したインク設計が大変重要である、水不溶性樹脂の酸価が90以上の場合、樹脂の分散安定性自体は高いが、水溶性樹脂と共存する場合、水溶性樹脂の酸性基と相互作用があるためかインクの保存性が不足する。酸価が60未満の場合、水不溶性樹脂の分散性そのものが不足してしまい、インク中での保存安定性も良くない。
【0029】
以上から、水溶性樹脂の酸価が50以上70未満、水不溶性樹脂の酸価が、60以上90未満という特有の組み合わせの時に初めて本発明の効果が発現されたものと考えている。
【0030】
なかでも、水溶性樹脂の酸価が、水不溶性樹脂の酸価より小さいときに、画像耐久性、インク保存性、液より防止効果が大きいこと見出した。
【0031】
前述のように、水溶性樹脂の酸価は主にインク増粘、画像耐久性の観点から好ましい範囲が決まり、水不溶性樹脂の酸価は、分散安定性特に、水溶性樹脂共存下での分散安定性の観点から好ましい範囲が決まるため、本発明の優れた効果を奏したものと考える。
【0032】
(水溶性樹脂)
本発明に係る水溶性樹脂は、樹脂中にノニオン、あるいはイオン性の成分を必要量含有することでイオン交換水への溶解度が10質量%以上の水溶性を有する樹脂である。ノニオン性成分としては、ポリエチレンオキサイドや、ポリアミド等がある。また、イオン性成分としては、アニオン成分とカチオン成分がある。アニオン成分としては、ポリカルボン酸、ポリスルフォン酸の中和物があげられる。中でも、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸の中和物が好ましい。
【0033】
アクリル樹脂は、種々のモノマーを任意に共重合出来るので、酸性成分モノマーを、他の共重合モノマー組成に応じて、水への溶解に対して必要量、共重合することで水溶性樹脂を合成することができ、好ましい。この時の酸成分モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレンスルフォン酸などがあげられる。酸成分モノマーを共重合し、酸成分モノマーに相当する部分の全部あるいは一部をアルカリで中和することで水溶性化を調整することができる。中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等や、アミン類(例えば、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等)を用いることができる。
【0034】
また、水溶性にするために、分子量は10万未満であることが好ましい。
【0035】
水溶性樹脂として、アクリル共重合樹脂を好ましく用いることができる。すなわち、酸価が50以上70未満水溶性アクリル共重合樹脂を好ましく用いることができる。中でも、アクリル酸、もしくはメタクリル酸を少なくとも共重合モノマーとして用いて酸価を50以上70未満に調整した樹脂が好ましい。この場合、樹脂中の酸性基は、全部あるいは一部をアルカリで中和することで水溶性化を調整する。アクリル酸、もしくはメタクリル酸以外の共重合モノマーとしては、種々のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを用いることができ、好ましい。例えば、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルまたはアルキル基の炭素数が2〜8のメタクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸cyclo−ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0036】
アルキル基の炭素数が2〜8のメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸cyclo−ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0037】
また、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族基含有モノマーを共重合することを出来るが、この場合、芳香族基含有モノマーの共重合比率は20質量%未満にすることが好ましい。より好ましくは、芳香族基含有モノマーから由来する含有量が、水溶性樹脂全体の5質量%未満であり、最も好ましいのは実質的に含有しない、若しくは、1質量%未満である。
【0038】
芳香族基は画像光沢を向上させる効果がある半面、液より防止効果が小さく、非吸収性メディアへの接着性も不利である。対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び、酸成分の共重合体は、液より防止効果、非吸収性メディアへの接着性で特に有利であることが判ったためである。
【0039】
最も好ましい態様としては、アクリル酸、もしくはメタクリル酸を少なくとも共重合モノマーとして用いて酸価を50以上70未満に調整し、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルまたはアルキル基の炭素数が2〜8のメタクリル酸アルキルエステルを総量で、5%以上30%未満用いて、残部をメタクリル酸メチルとしたものである。アクリル酸、もしくはメタクリル酸由来の酸性基は、全部あるいは一部をアルカリで中和したもの。全中和したものがさらに好ましい。本発明に係る水溶性アクリル樹脂は、溶液重合で合成することが好ましい。
【0040】
本発明の水溶性樹脂のTgは、画像の耐久性の観点で50℃以上100℃未満が好ましい。水溶性樹脂の重量平均分子量は、2万以上10万未満が、画像耐久性、インク保存性、メンテナンス回復性の観点から好ましい。
【0041】
(水不溶性樹脂)
本発明の水不溶性樹脂は、イオン交換水への溶解度が2質量%未満であり、好ましくは、イオン交換水への溶解度が、1質量%未満のものである。水不溶性樹脂は、水溶性樹脂とは逆に、樹脂中にノニオン、あるいはイオン性の成分を必要以上に含有させないことで、イオン交換水への溶解度が2質量%未満に調整した樹脂である。ここでいう、ノニオン、あるいはイオン性の成分は、上記の水溶性樹脂で説明したものと同義である。
【0042】
本発明において、水不溶性樹脂としてアクリル共重合樹脂を好ましく用いることができる。すなわち、酸価が60以上90未満水溶性アクリル共重合樹脂を好ましく用いることができる。中でも、アクリル酸、もしくはメタクリル酸を少なくとも共重合モノマーとして用いて酸価を60以上90未満に調整した樹脂が好ましい。この場合、樹脂中の酸性基は、全部あるいは一部をアルカリで中和することで水溶性化を調整する。アクリル酸、もしくはメタクリル酸以外の共重合モノマーとしては、種々のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを用いることができ、好ましい。例えば、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルまたはアルキル基の炭素数が2〜8のメタクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸cyclo−ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0043】
アルキル基の炭素数が2〜8のメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸cyclo−ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0044】
また、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族基含有モノマーを共重合することを出来る。
【0045】
中でも、以下の一般式1で表される繰り返し単位を構成することができるアクリル酸エステル、もしくはメタクリル酸エステルを用いることはインク安定性上特に好ましい。
【0046】
さらに好ましくは、一般式1の芳香族基含有モノマーを高分子化合物中に総量として30質量%以上80質量%以下含有することは特に好ましい。
【0047】
一般式1
−(CH−CR(L−L−Ar))−
式中Rは水素原子もしくはメチル基、Lは、−COO−,−CONH−,−OCO−,−NHCO−を表し、Lは2価の連結基を表し、Arは芳香族環を表す。
【0048】
が表す2価の連結基としては、具体的にはアルキレン基(炭素数1−10)、アルケニレン基、(炭素数1−10)、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO−から選ばれる連結基が好ましい。また、前記2価の連結基を2つ以上組み合わせてもよい。特に好ましい連結基はメチレン、エチレン、プロピレン、オキシエチレン、オキシエトキシエチレン基である。
【0049】
Arで表される芳香族環としては、フェニル基、縮環型芳香環化合物、芳香環が縮環したヘテロ環化合物、または2以上のベンゼンが連結した化合物に由来する1価の基が好ましく用いられる。
【0050】
具体的な例としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、トリフェニルメタン、フタルイミド、アクリドン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、ジフェニルメタン、又はカルバゾールに由来する1価の基が好ましい。Arは置換基を有していてもよい。
【0051】
置換基としては、たとえば、アルキル基、アルコキシル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニルオキシ基、ハロゲン基、シアノ基等を挙げることがでる。
【0052】
本発明の水不溶性樹脂として、特に好ましいのはアクリル酸、もしくはメタクリル酸を少なくとも共重合モノマーとして用いて酸価を60以上90未満に調整し、芳香族基含有モノマーを35%以上80%未満用い、残部を他の共重合モノマーを用いたものである。アクリル酸、もしくはメタクリル酸由来の酸性基は、全部あるいは一部をアルカリで中和したものを全中和したものがさらに好ましい。この時、芳香族基含有モノマーとして、一般式1で表されるモノマーを用いたものが最も好ましい。
【0053】
本発明の水不溶性樹脂は、溶液重合あるいは、乳化重合で合成できる。水不溶性樹脂の重量平均分子量は、2万以上20万未満が好ましく、溶液重合法で重量平均分子量を制御したものが好ましい。
【0054】
本発明の水不溶性樹脂のTgは、画像の耐久性の観点、及びインク保存性の観点で50℃以上100℃未満が好ましい。
【0055】
水不溶性樹脂のインクへの添加方法はとしては、限定されない。水不溶性樹脂がインク中に分散されて存在してもよいし、顔料を被覆していてもよい。
【0056】
本発明の水不溶性樹脂は、顔料分散機能を有しており、顔料分散剤としてインク中に添加されていることは好ましい。この場合、顔料への吸着基として、芳香族基含有モノマー由来構造が水不溶性樹脂全体の35%以上80%未満あると、インク保存性が一層向上し好ましい。水不溶性樹脂の芳香族基含有モノマー由来構造といった疎水部分が顔料表面に吸着している方が、インク保存安定性向上に好ましいと考えている。
【0057】
また、画像光沢の面でも芳香族基含有モノマー由来構造が水不溶性樹脂全体の35%以上80%未満である方が好ましい。さらに、芳香族基含有モノマー由来構造が水不溶性樹脂全体の35%以上80%未満あると、水溶性樹脂を使用するときの課題である、耐溶剤性、耐洗剤性を向上する効果が高く好ましい。
【0058】
前記のように水不溶性樹脂は、顔料分散機能を有していることが好ましく、さらに、水不溶性樹脂の少なくとも一部は顔料を被覆していることがインク保存性の観点で特に好ましい。水不溶性樹脂の少なくとも一部は顔料を被覆している様子は、顔料粒子を分離し電子顕微鏡で観察することで判る。
【0059】
水不溶性樹脂で顔料を被覆する方法は、公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、転相乳化法や酸析法の他に、顔料を、重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法から選択することがよい。
【0060】
より好ましい方法としては、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和後、顔料およびイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去、必要に応じて加水し調製する製造方法が好ましい。
【0061】
(水溶性樹脂及び水不溶性樹脂のインク中の含有量)
水溶性樹脂のインク中の含有量は、顔料より多いほうが、液より防止、及び耐擦性の観点で好ましい。
【0062】
濃色インクの場合、顔料濃度は2%から7%の範囲で好ましく用いることができるが、この場合、水溶性樹脂は4%から10%の範囲で用いることが好ましい。
【0063】
顔料と水溶性樹脂の比率に換算すると、顔料の1.2倍以上2倍未満の範囲で用いることが好ましい。
【0064】
淡色インクの場合、顔料濃度は0.3%から1.5%の範囲で好ましく用いることができるが、この場合水溶性樹脂は、1%から10%の範囲で用いることができる。
【0065】
顔料と水溶性樹脂の比率に換算すると、顔料の2倍以上10倍未満の範囲で用いることが好ましい。
【0066】
水不溶性樹脂は顔料より少ないほうが、インク保存性、射出安定性の観点でより好ましい。
【0067】
顔料と水不溶性樹脂の比率に換算すると、顔料の0.2倍以上1倍未満の範囲で用いることが好ましい。
【0068】
以下、本発明のインクジェットインクに好ましく用いることの出来る添加剤について述べる。
【0069】
(有機顔料)
本発明に使用できる顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えばアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。
【0070】
具体的な有機顔料を以下に例示する。
【0071】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0072】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、ピグメントイエロー150、ピグメントイエロー155等が挙げられる。
【0073】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0074】
(無機顔料)
無機顔料としては、白色顔料を好ましく用いることができる。白色顔料はインク組成物を白色にするものであればよく、通常、この分野に用いられる白色顔料を用いることが出来る。このような白色顔料としては、例えば白色無機顔料や白色有機顔料、白色の中空ポリマー微粒子を用いることができる。白色無機顔料としては、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、微粉ケイ酸、合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。特に酸化チタンは隠蔽性及び着色性、分散粒径が好ましい白色顔料として知られている。
【0075】
白色有機顔料としては、特開平11−129613号公報に示される有機化合物塩や特開平11−140365号公報、特開2001−234093号公報に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が挙げられる。白色有機顔料の具体的な商品としては、ShigenoxOWP、ShigenoxOWPL、ShigenoxFWP、ShigenoxFWG、ShigenoxUL、ShigenoxU(以上、ハッコールケミカル社製、何れも商品名)などが挙げられる。
【0076】
白色の中空ポリマー微粒子としては、米国特許第4,089,800号明細書に開示されている、実質的に有機重合体で作られた熱可塑性を示す微粒子などが挙げられる。
【0077】
本発明においては、上述した白色顔料は単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0078】
(分散方法、予備分散方法)
顔料の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各種分散手段を用いることができる。
【0079】
本発明において、顔料分散体の粗粒子分を除去する目的で、遠心分離装置あるいはフィルターを使用することも好ましい。
【0080】
本発明において、水不溶性樹脂の一部もしくは全部を顔料分散剤として用いることができる。水不溶性樹脂を分散剤として用いることでカプセル顔料と言われる水不溶性樹脂が顔料を被覆した状態で分散している顔料分散体を作ることができる。
【0081】
水不溶性樹脂で顔料を被覆する方法は、公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、転相乳化法や酸析法の他に、顔料を、重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法から選択することがよい。
【0082】
より好ましい方法としては、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和後、顔料およびイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去、必要に応じて加水し調製する方法である。
【0083】
分散後の顔料の平均粒子径は、50nm以上300nm以下になるように分散することが好ましい。より好ましくは、50nm以上150nm以下である。
【0084】
(粒子径測定方法)
平均粒子径は、光散乱方式やレーザードップラー方式を用いた市販の測定装置を使用して簡便に計測することが可能である。具体的にはゼータサイザー1000(マルバーン社製)を用いて測定することが好ましい。
【0085】
(有機溶剤)
本発明のインクに用いる有機溶剤について説明する。
【0086】
本発明のインクには低表面張力溶剤を添加することが好ましい。低表面張力溶剤とは、溶剤の表面張力が25mN/m以上35mN/m以下のものである。低表面張力溶剤を添加することで、塩化ビニルシートをはじめ種々の樹脂基材や、印刷本紙などのインク吸収速度が遅い紙支持体に対しても、インク混じりを一層抑えることができ、高画質な印字画像を得られる。低表面張力溶剤は、塩化ビニルなどに対してインクの濡れ性を改善する作用がある。
【0087】
本発明においては、低表面張力溶剤として、グリコールエーテル類もしくはアルカンジオール類を添加することは好ましい。
【0088】
下記に本発明のインクに好適な低表面張力溶剤の一例を示す。なお、括弧内の数値は、溶剤の表面張力(mN/m)を表す。
【0089】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(28.2)、エチレングリコールモノブチルエーテル(27.4)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(31.8)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(33.6)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(32.1)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(25.9)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(28.8)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(30.0)等が挙げられる。
【0090】
また、アルカンジオール類としては、1,2−アルカンジオールあるいは1,3−アルカンジオールが好ましい。例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール(28.1)、1,2−ヘプタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0091】
また、塩化ビニル等の記録媒体を溶解もしくは軟化あるいは膨潤しうる作用を有する溶剤を添加することにより、塩化ビニルと本発明に係る樹脂の接着性がより一層向上し、優れた画像の接着性、耐擦性が得られる観点から好ましい。
【0092】
このような溶剤としては、窒素もしくはイオウ原子を含む環状溶剤、環状エステル溶剤、乳酸エステル、アルキレングリコールジエーテル、アルキレングリコールモノエーテルモノエステル及びジメチルスルフォキシド等が挙げられる。
【0093】
窒素原子を含有する環状溶剤としては、環状アミド化合物、特には5〜7員環が好ましく、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン1,3−ジメチルイミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミドゾリジノン、ε−カプロラクタム、メチルカプロラクタム、2−アザシクロオクタノン等が挙げられる。環状アミド以外の窒素原子を含有する環状溶剤としてはホルミルモルホリン、イオウ原子を含有する環状溶剤としては、環状アミド化合物が好ましく、5−7員環が好ましく、例えば、スルホラン等が挙げられる。環状エステル溶剤としてはγ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンが挙げられ、乳酸エステルとしては、乳酸ブチル、乳酸エチルなどが挙げられる。アルキレングリコールジエーテルとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。アルキレングリコールモノエーテルモノエステルとしては、ジエチレングリコールモノエチルモノアセテートが挙げられる。
【0094】
本発明においては、インクジェットヘッドからのインク射出安定性、メンテナンス性及び形成した画像の光沢の観点から、溶剤の1つとして、水溶性アルカノールアミン類を、インク全質量の0.30質量%以上、2.0質量%以下含有することが好ましく、より好ましくは、0.3質量以上、1.8質量%以下含有することである。本発明に好ましく適用することのできる水溶性アルカノールアミン類としては、N,N−ジメチルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、N−メチルアミノエタノールを挙げることができる。
【0095】
その他には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、等が挙げられる。
【0096】
本発明においては、有機溶剤の使用量はインク全質量の10質量%以上、50質量%以下で好ましく使用できる。
【0097】
(その他のインク添加剤)
〔界面活性剤〕
本発明のインクの界面活性剤として、シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0098】
シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤の添加することにより、塩化ビニルシートをはじめ種々の樹脂基材や、印刷本紙などのインク吸収速度が遅い紙支持体に対しても、インク混じりを一層抑えることができ、高品位な印字画像が得られる。また、低表面張力溶剤と併用することが、特に好ましい。
【0099】
シリコーン系の界面活性剤としては、好ましくはポリエーテル変性ポリシロキサン化合物であり、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK345、BYK347、BYK348などが挙げられる。
【0100】
フッ素系の界面活性剤としては、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部または全部をフッ素で置換したものを意味する。この中でも、分子内にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0101】
フッ素系の界面活性剤のうち、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、またファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。
【0102】
また、非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0103】
シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤と共に、下記に示す界面活性剤を併用することも可能である。
【0104】
例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0105】
本発明のインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、紫外線吸収剤、退色防止剤、蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0106】
(画像形成方法)
次に、本発明に係る画像形成方法について説明する。
【0107】
本発明の水系インクジェット記録インクを用いることで、疎水性記録媒体にインク混じりのない高品位な画像を印字でき、光沢が高く、耐擦性や接着性の高い画像を形成することができる。
【0108】
本発明に係る画像形成方法においては、本発明のインクを用いることに加え、高画質で、耐擦性や接着性の高い画像を形成し、より高速での印字条件にも対応できるようにするため、記録媒体を35℃以上、55℃未満の温度に加熱しながら印字することが好ましい。記録媒体を35℃以上に加熱することにより、本発明のインクの硬化を効率的に発揮させることができ、55℃以下であれば、記録媒体、例えば、塩化ビニルシート等への熱ダメージによる変形を抑制することができ、加えて、インクジェットヘッドでのインク乾燥により射出安定性の低下を抑制することができる。
【0109】
また、加熱しながら印字して画像形成を行った後、印字物を45℃以上、90℃未満の温度で加熱乾燥することを特徴とする。
【0110】
印字後の加熱で乾燥が促進すると共に、本発明に係る樹脂と基材との接着性をより一層向上させることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0112】
実施例1
《樹脂1の合成》水溶性樹脂S−1の合成
〔樹脂1(2−EHA/MMA/MAA)の合成:N,N−ジメチルアミノエタノール塩〕
500ml四つ口フラスコに、メカニカルスターラー、窒素導入管、コンデンサー、滴下ロートをセットし、イソプロピルアルコール185gをフラスコに加え、窒素ガスをバブリングしながら加熱還流した。滴下ロートに、2−エチルヘキシルメタクリレート13g、メタクリル酸メチル79g、アクリル酸メチル8g及び開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5gを混合溶解したものを入れ、約2時間かけ加熱還流させた状態で、滴下した。滴下後、さらに6時間加熱還流し、更に、AIBN0.05gのイソプロピルアルコール溶液を、15分かけ滴下した。この後さらに5時間加熱還流した。
【0113】
反応液を放冷後、溶媒のイソプロピルアルコールを減圧にて留去した。この残渣に、アルカリ中和塩基としてN,N−ジメチルアミノエタノールを酸性基の105%中和量を加えた。仕上がりの固形分濃度は、約15質量%である。
【0114】
上記調製した樹脂1の酸価、ガラス転移温度及び重量平均分子量を、下記の方法に従って測定した。
【0115】
水不溶性樹脂IS−1の合成
4頭フラスコに、窒素導入管、コンデンサー、温度計、滴下ロートを用意した。フラスコに、メチルエチルケトン230gを加え、窒素ガスを導入し、撹拌しながら30分加熱還流した。一方、メタクリル酸ベンジル50g、メタクリル酸メチル42g、メタクリル酸8g、AIBN 0.45gを室温で撹拌混合し溶解した。このモノマー/開始剤混合物を、前記滴下ロートから、2時間かけ滴化した。滴下中は、加熱還流を維持した。滴下終了後、さらに5時間加熱還流した。反応液を放冷後、撹拌しているヘキサン2kg中に少しずつ注加した。アメ状の重合物は、徐々に固化した。十分固化したところで、固体をろ過により得た。重量平均分子量は34000であった。
【0116】
〈酸価の測定〉
樹脂10gを300mlの三角フラスコに秤量し、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50ml加えて樹脂を溶解した。次いで、フェノールフタレイン指示薬を用い、あらかじめ標定された0.1mol/lの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウムエタノール溶液の量から、下記計算式(1)で酸価(mgKOH/g)を求めた。なお、樹脂によって、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50mlに溶解しないものは、エタノール50ml、あるいは、エタノール/純水=1:1の混合溶媒約50mlのどちらか溶解するほうを選択して、他は同じ操作にて滴定を行った。
【0117】
計算式(1)
A=(B×f×5.611)/S
式中、Aは樹脂の酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.1mol/リットル水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Sは、樹脂の質量(g)、5.611は、水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0118】
上記方法により測定した樹脂1の酸価は、46mgKOH/gであった。
【0119】
〈ガラス転移温度(Tg)の測定〉
DSC−7示差走査カロリメータ(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラ(パーキンエルマー社製)を用いてTgを測定した。
【0120】
測定手順として、樹脂1の10.00mgを小数点以下2桁まで精秤し、アルミニウム製パン(KITNO.0219−0041)に封入し、DSC−7サンプルホルダーにセットする。なお、リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
【0121】
測定条件としては、測定温度0〜130℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−Cool−Heatの温度制御で行い、その2nd Heatにおけるデータをもとに解析を行った。なお、測定は窒素気流条件下で行った。
【0122】
ガラス転移温度は、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度とした。
【0123】
上記方法により測定した樹脂1のガラス転移温度は、79℃であった。
【0124】
〈重量平均分子量の測定〉
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0125】
測定条件は以下の通りである。
【0126】
溶媒: テトラヒドロフラン
カラム: 東ソー製TSKgel G4000+2500+2000HXL
カラム温度:40℃
注入量: 100μl
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13のサンプルによる校正曲線を使用した。13のサンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0127】
上記方法により測定した樹脂1の重量平均分子量は、35000であった。
【0128】
同様にして、表1、表2の水溶性樹脂、及び水不溶性樹脂を各々重合して作製した。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
表1、2において、各モノマーの略号は以下の通り
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
MMA:メタクリル酸メチル
MAA:メタクリル酸
n−BA:n−ブチルアクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
St:スチレン
BzMA:ベンジルメタクリレート
2−PhOEtMA:2−フェノキシエチルメタクリレート
実施例2
(顔料分散体の作製)
表3記載の各水不溶性樹脂30g、メチルエチルケトン150g、水不溶性樹脂を100%中和する水酸化ナトリウム、イオン交換水420g、C顔料として、Pigment Blue15:3 (FASTOGEN Blue GNKA−SD DIC製)又は、Bk顔料として、カーボンブラック(Mitsubishi#950 三菱化学製)50gを予備混合し、1lポットに投入し、循環しながら卓上型スターミルミニツエア(アシザワ製)を用いて、ジルコニアYZTボール(0.5φ)を充填率80%で使用し分散した。この分散液を、ロータリーエバポレータを使用して、バス温度45℃にて60分かけ、メチルエチルケトンを留去した。その後、分散液を60℃1日保存後、室温に戻し5μm金属メッシュフィルターにて分散液をろ過した。これにより、顔料固形分濃度10%の分散液を得た。このようにして、顔料を水不溶性樹脂で被覆した顔料分散体を作製した。
【0132】
平均粒子径は、ゼータサイザー1000(マルバーン社製)を用いて測定し、結果を表3に記載した。
【0133】
【表3】

【0134】
実施例3
(インクジェットインクの作製)
表4、表5の記載の各顔料分散体(表3記載の水不溶性樹脂で分散したもの)、水溶性樹脂の組み合わせで、下記処方にてインクC1からC28、インクK1からK4を作製した。
【0135】
顔料固形分3%換算の顔料分散体
水溶性樹脂 5%
1,2−ヘキサンジオール 6%
2−ピロリドン 10%
メチルプロパンジオール 8%
フッ素系活性剤 フタージェント100 0.6%
BYK Dynwet800 0.9%
イオン交換水 残部 (100%になるように)
インクは1μmフィルターにてろ過した。
【0136】
【表4】

【0137】
【表5】

【0138】
表4及び表5で、例えば、インクC1は、水溶性樹脂が、表1に示す比較1で、顔料分散体が表3に示すC−1であり、従って、水不溶性樹脂は表2に示す比較5を表す。
【0139】
(評価)
液より評価
描画装置EB−100、XY−100(コニカミノルタIJ製)に、ピエゾタイプヘッドKM512Mを2ケ搭載し、両方のヘッドにインクC1を導入し、未処理塩ビ上(METAMARK)にシアン画像を描画した。
【0140】
印字の際にはステージを加温し、塩ビ表面温度を50℃に加温して印字した。印字後、50℃で5分後加熱を実施し、インク量を最大200%まで印字してどこで液よりが発生するかを評価した。
【0141】
5:インク量200%でも液より発生しない
4:インク量180%で初めて液より発生
3:インク量160%で初めて液より発生
2:インク量120%で初めて液より発生
1:インク量100%で液より発生
同様に表4のインクC2〜C25について各々評価をした。また、表5のインクC26〜C28及びK1〜K4についても同様に評価をした。
【0142】
保存性評価
調製したインクを密栓瓶に入れ、60℃サーモに20日間保存後、室温に戻したのち平均粒子径を測定し、調液直後の平均粒子径からの変化を評価した。
【0143】
5:粒子径変動が、3%未満
4:粒子径変動が、3%以上7%未満
3:粒子径変動が、7%以上10%未満
2:粒子径変動が、10%以上20%未満
1:粒子径変動が20%以上。
【0144】
射出安定性評価
ピエゾタイプヘッドKM512Mを用いて射出周波数13.3kHz、液滴速度6m/秒 環境条件:温度25℃相対湿度50%RHにてインク保存後のインクの評価を行った。30分連続射出評価後の各ノズルの射出状態を観察した
5:全ノズル(512ノズル)で欠、曲がりが無く安定射出
4:全ノズル(512ノズル)で欠はないが、1%未満のノズルでわずかな曲がりがある
3:全ノズル(512ノズル)で欠はないが、1%以上5%未満のノズルでわずかな曲がりがある
2:5%未満のノズルで欠が発生
1:5%以上のノズルで欠が発生。
【0145】
画像耐久性評価1
上記の液より評価で作製した、シアン100%画像またはブラック100%画像に、綿カナキン3号を用いて荷重900gを掛け往復こすりをして画像濃度低下を見た。
【0146】
5:50往復で欠陥なし
4:40往復未満で画像欠陥がでる
3:30往復未満で画像欠陥がでる
2:20往復未満で画像欠陥がでる
1:10往復未満で画像欠陥がでる。
【0147】
画像耐久性評価2
上記の液より評価で作製した、シアン100%画像またはブラック100%画像に、綿カナキン3号に40%エタノール水溶液を湿らせ、荷重300gを掛け往復こすりをして画像濃度低下を見た。
【0148】
5:30往復で欠陥なし
4:20往復未満で画像欠陥がでる
3:15往復未満で画像欠陥がでる
2:10往復未満で画像欠陥がでる
1:5往復未満で画像欠陥がでる。
【0149】
画像耐久性評価3
上記の液より評価で作製した、シアン100%画像またはブラック100%画像に、綿カナキン3号にアルカリ洗剤を水で希釈したものを湿らせ、荷重200gを掛け往復こすりをして画像濃度低下を見た。
【0150】
5:30往復で欠陥なし
4:20往復未満で画像欠陥がでる
3:15往復未満で画像欠陥がでる
2:10往復未満で画像欠陥がでる
1:5往復未満で画像欠陥がでる。
【0151】
光沢評価
ピエゾタイプヘッドKM512M、描画装置EB−100、XY−100(コニカミノルタIJ製)を用いて、表4及び表5のインクを用いて未処理塩ビ上(METAMARK)にベタ画像(シアン及び黒100%)を描画した。印字の際にはステージを加温し、塩ビ表面温度を50℃に加温して印字した。印字後、50℃で5分後加熱を実施したのち20°光沢を測定した。
【0152】
5:50以上
4:40以上50未満
3:30以上40未満
2:20以上30未満
1:20未満
メンテナンス回復性評価
ピエゾタイプヘッドKM512M、描画装置EB−100,XY−100(コニカミノルタIJ製)を用いて、表4及び表5のインクを用いて未処理塩ビ上(METAMARK)にベタ画像(シアン100%)を描画した。印字の際にはステージを加温し、塩ビ表面温度を50℃に加温して印字した。シアン及び黒100%のベタ印字後、ヘッドにキャップをせず、一定時間待機後、以下のメンテナンス液でヘッドを清浄し、フラッシングしたのち、再度シアン及び黒100%のベタ印字を行った。この時室内環境は、25℃30%であった。
【0153】
メンテナンス液:N,N−ジメチルアミノエタノール2%、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル7%、残部イオン交換水で100%に仕上げた。
【0154】
5:1時間待機後も、欠、曲がりがなく、ベタ画像を描画できた
4:30分以上1時間未満待機後では、欠、曲がりがなく、ベタ画像を描画できた
3:10分以上30分未満待機後では、欠、曲がりがなく、ベタ画像を描画できた
2:10分待機後で、曲がりが発生したが、欠はない
1:10分待機後で、欠が発生して回復してない。
【0155】
得られた結果を表6,表7,表8及び表9に示す。
【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
【表8】

【0159】
【表9】

【0160】
表6,表7,表8及び表9において、例えば、保存性の表で、比較1とC−1の交点はインクC1の評価であって、1であることを表す。表8、表9の空白欄は対応するインクが存在しないので、評価もない。
【0161】
表6,表7に示した結果から、本発明のインクC7〜C9,C12〜14、及びC17〜19は比較の、C1〜C6、C10、C11、C15、C16、C20〜C25に対して、保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好であることが判った。特に、水溶性樹脂の酸価が、水不溶性樹脂の酸価より小さい構成のインクがより効果が大きいことが判る。
【0162】
表8、表9に示した結果から、本発明のインクC26〜28及びK1〜K4は、前記比較インクに対して、保存性が良好で、長期間の保存後にも安定に射出出来るインクジェットインクを提供し、種々の非吸収性メディアにプリントした画像が高い耐久性を有し、かつ、メンテナンスによる回復が良好であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂、水不溶性樹脂、顔料、及び、水を含むインクジェットインクであって、該水溶性樹脂の酸価が50以上70未満、該水不溶性樹脂の酸価が、60以上90未満であることを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記水溶性樹脂の酸価が、前記水不溶性樹脂の酸価より小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記水溶性樹脂が、芳香族基含有モノマーとのアクリル共重合体であって、該芳香族基含有モノマーから由来する含有量が、該水溶性樹脂全体の20質量%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記水溶性樹脂が、重量平均分子量が2万以上10万未満のアクリル共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記水不溶性樹脂が、芳香族基含有モノマーとのアクリル共重合体であって、該芳香族基含有モノマーから由来する含有量が、該水不溶性樹脂全体の35質量%以上80質量%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記水不溶性樹脂の少なくとも一部が、前記顔料を被覆していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記水不溶性樹脂の含有量は前記顔料の含有量より少なく、前記水溶性樹脂の含有量は前記顔料の含有量より多いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットインク。

【公開番号】特開2012−87261(P2012−87261A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237118(P2010−237118)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】