説明

インクジェットプリンタ及びその制御方法

【課題】インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタにおいて、誤操作によって実行されたマニュアルクリーニングによるインク消費量を抑えることが可能なインクジェットプリンタ及びその制御方法を提供する。
【解決手段】クリーニング制御部306は次のマニュアルクリーニング指示を受信したときに前回のテスト印刷から所定時間が経過している場合には、受信したマニュアルクリーニング指示は誤操作による指示であると判断し、インク吸引よりもインク消費量の少ないフラッシング動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを印刷ヘッドのノズルから吐出させて印刷媒体に印刷を行うインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法に係り、特にノズルのクリーニング制御を行うインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドのノズルからインクを吐出して印刷を行うインクジェット方式の印刷装置(以下、「インクジェットプリンタ」という)は、印刷品質を良好に保つため、印刷ヘッドのクリーニング処理が必須である。クリーニング処理では、主に増粘インクおよびインク経路内の気泡の排出を目的として印刷ヘッドをキャッピングした後ノズルからインクを吸引する吸引処理の他、ゴムのワイパーでヘッド表面に付着したインクを拭き取るワイピング処理、スポンジ等を用いて同じくヘッド表面に付着したインクを拭き取るラビング処理等が実行される(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、インクジェットプリンタには、印刷前および定期的なタイミングでプリンタが自動的に行うクリーニングと、ユーザからの指示に応じて行われるマニュアルクリーニングとが設定されている場合が多い。マニュアルクリーニングは、印刷画像にドット抜けが生じていて良好な印刷品質が得られない場合に、自動的に実行されるクリーニングとは別にユーザがプリンタに強制的に実行させるクリーニングであり、プリンタのクリーニングボタンからの指示やプリンタと通信可能に接続されたホストコンピュータのアプリケーションからの指示に応じて実行される。また、一般にマニュアルクリーニングでは、通常の印刷品質に回復させるために必ずインクの吸引処理が行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−358791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクの吸引処理を伴うマニュアルクリーニングが頻繁に実行されると、大量のインクを消費してしまい、画像形成のために使用される実質的なインク量が減少してしまう。特に、プリンタ本体に設けられたクリーニングボタンからのマニュアルクリーニング指示は誤操作によって実行されるケースが考えられる。例えば、直前にマニュアルクリーニングが実行されているにもかかわらずユーザが再びクリーニングボタンを押してしまったり、何かの拍子でクリーニングボタンに物体がぶつかって押されてしまう場合である。プリンタはクリーニングボタンからのマニュアルクリーニング指示があれば必ずインク吸引処理を実行するように設定されているので、このような誤操作が繰返し行われると、インクカートリッジ内のインクが大幅に消費されてしまい、通常想定されている分量の画像印刷を実行することができなくなってしまう。
【0006】
また、短期間のうちにインク吸引が複数回にわたって行われ、大量のインクが消費されると、新しいインクカートリッジに交換して間もなくインクカートリッジ交換表示がされるケースが考えられる。このような場合に、マニュアルクリーニングを指示した憶えがないユーザや、インク吸引によるインク消費量に対する関心が薄く気軽にマニュアルクリーニング指示を与えるユーザ等にあっては、プリンタ自体が故障してしまったのではないかと誤解する場合もある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタにおいて、誤操作によって実行されたマニュアルクリーニングによるインク消費量を抑えることが可能なインクジェットプリンタ及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成により達成される。
(1) インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタであって、
インクを吐出するノズルを備えた印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを駆動する印刷ヘッド制御部と、
ユーザからのクリーニング指示に応じて第1のクリーニングおよび該第1のクリーニングよりもインク消費量の少ない第2のクリーニングの少なくともいずれか一方を行うクリーニング制御部と、
前記印刷ヘッド制御部に印刷を実行させる印刷指示部と、を備え、
前記クリーニング制御部は、前記クリーニング指示を受けた時点が、前回のクリーニングを実行しその後前記印刷を行ってから、所定時間以上経過していれば前記第2のクリーニングを実行し、前記所定時間を経過していなければ前記第1のクリーニングを実行することを特徴とするインクジェットプリンタ。
(2) 前記第2のクリーニングは、前記第1のクリーニングよりもインク消費量が1/1000以下であることを特徴とする(1)に記載のインクジェットプリンタ。
(3) 前記第1のクリーニングは、クリーニング機構によって前記印刷ヘッドをキャッピングして実行されるインク吸引であり、前記第2のクリーニングは、前記印刷ヘッド制御部を介して行われる前記印刷ヘッドからインクを吐出するフラッシング動作であることを特徴とする(1)または(2)に記載のインクジェットプリンタ。
(4) 前記第2のクリーニング実行時、前記クリーニング機構は、前記印刷ヘッドをキャッピングすることなく、インク吸引動作を実行することを特徴とする(3)に記載のインクジェットプリンタ。
(5) 前記クリーニング制御部は、前記クリーニング指示を受けた時点で、前回のクリーニングを実行した後、1度も印刷が行われていなければ前記第2のクリーニングを実行することを特徴とする(1)から(4)のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
(6) インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタの制御方法であって、
ユーザからのクリーニング指示に応じて第1のクリーニングを実行するステップと、
前記第1のクリーニング実行後、印刷を実行させるステップと、
次のクリーニング指示を受けた時点が、前記第1のクリーニングを実行しその後印刷を行ってから、所定時間以上経過していれば前記第1のクリーニングよりもインク消費量の少ない第2のクリーニングを実行し、前記所定時間を経過していなければ前記第1のクリーニングを実行するステップと、を備えたインクジェットプリンタの制御方法。
(7) 前記第2のクリーニングは、前記第1のクリーニングよりもインク消費量が1/1000以下であることを特徴とする(6)に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
(8) 前記第1のクリーニングは、クリーニング機構によって前記印刷ヘッドをキャッピングして実行されるインク吸引であり、前記第2のクリーニングは、前記印刷ヘッド制御部を介して行われる前記印刷ヘッドからインクを吐出するフラッシング動作であることを特徴とする(6)または(7)に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
(9) 前記第2のクリーニング実行時、前記クリーニング機構は、前記印刷ヘッドをキャッピングすることなく、インク吸引動作を実行することを特徴とする(8)に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
(10) 前記クリーニング指示を受けた時点で、前回のクリーニングを実行した後、1度も印刷が行われていなければ前記第2のクリーニングを実行することを特徴とする(6)から(9)のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェットプリンタおよびその制御方法によれば、前回の印刷を行ってから所定時間以内に次のクリーニング指示を受信したときは第1のクリーニングを実行し、その他の時点で次のクリーニング指示を受信した場合には第1のクリーニングよりもインク消費量の少ない第2のクリーニングを実行するように設定されている。したがって、次のクリーニング指示の受信時点によってはインク消費量の少ない第2のクリーニングが実行されるので、クリーニングによるインク消費量を抑えることが可能である。すなわち、全てのクリーニング指示に対して第1のクリーニングを実行していた場合と比べて、クリーニングによる総合的なインク消費量を減少させることができる。
【0010】
また、本発明によればユーザのクリーニング指示に対する認識とは関係なく、クリーニング指示が、所定時間内に受信したクリーニング指示以外の指示であれば、誤操作によるクリーニング指示であると一義的に認定して、インク消費量の少ない第2のクリーニングを実行させるように設定されている。すなわち、印刷を実行してから所定時間以内にクリーニング指示を受信した場合以外では第1のクリーニングが実行されることがなくなる。したがって、総合的にはクリーニング指示を頻繁に受信している場合でも、そのうちの所定時間以内に当てはまらないクリーニング指示に対しては第2のクリーニングを実行するので第1のクリーニングが実行される回数を減少させることができ、クリーニングによるインク消費量を大幅に減少させることが可能である。
【0011】
また、本発明のインクジェットプリンタおよびその制御方法によれば、第2のクリーニングは、第1のクリーニングよりもインク消費量が1/1000以下である。したがって、例えばn回の誤操作によるクリーニング指示があった場合には、全てのクリーニング指示に対して第1のクリーニングを実行していた場合と比べると、誤操作による無駄なインク消費量をn/1000以下に抑えることができる。すなわち、クリーニングによる総合的なインク消費量を減らし、その分のインクを画像形成のための実質的なインクとして使用することが可能となる。
【0012】
また、本発明のインクジェットプリンタおよびその制御方法によれば、第1のクリーニングはインク吸引機構によるインク吸引であり、第2のクリーニングは印刷ヘッドからインクを吐出するフラッシング動作である。したがって、印刷の結果から再度インク吸引を実行する必要があると判断したユーザが、印刷を実行してから所定時間以上経過したときにクリーニング指示を行った場合でも、インクジェットプリンタは誤操作によるクリーニング指示と判断するので、目詰まり解消効果のあるフラッシング動作が実行される。つまり、ユーザが望むクリーニング動作とインクジェットプリンタが実行するクリーニング動作とにずれが生じても、ユーザがクリーニング指示を与えればインクジェットプリンタは何らかのクリーニング動作を実行するので、インクジェットプリンタが故障したかのように誤解される虞がない。
【0013】
また、本発明のインクジェットプリンタおよびその制御方法によれば、第2のクリーニング実行時、印刷ヘッドをキャッピングすることなく、インク吸引動作を実行する。つまり、誤操作によるクリーニング指示であると判断された場合、実際に印刷ヘッドのノズルからインク吸引を行うのではなく、インク吸引を行ったかのように見せかけることができる。したがって、インク吸引によるインク消費量に対する関心が薄く気軽にクリーニング指示を与えるユーザからのクリーニング指示に対しても、インクジェットプリンタは反応し動作を行うので、プリンタが故障したかのように誤解される虞がない。また、実際にはキャッピングをしなければインクは全く消費されないので、誤操作によるクリーニング指示によって無駄なインクが消費されることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるインクジェットプリンタ及びその制御方法の実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態におけるインクジェットプリンタは、インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するプリンタであって、ホストコンピュータと通信可能に接続され、ホストコンピュータから送信される各種コマンドまたは印刷データに応じて印刷を行う。
【0015】
図1は、本実施形態のインクジェットプリンタの二つの前面カバーを開いて内部を示したプリンタの外観斜視図、図2は図1に示したインクジェットプリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図である。
【0016】
(インクジェットプリンタの構成)
まず、本実施形態にかかるインクジェットプリンタ240について説明する。
本実施形態のインクジェットプリンタ240は、複数種のカラーインクを使用して記録媒体としてのロール紙11に画像記録(カラー印刷)を実行し、クーポン券を発券する印刷装置である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ240は、前面上部パネル2a及びケースカバー2bから構成されるプリンタケース2の前面に、左側から順に電源スイッチ3、ロール紙カバー5、装着部開閉カバー7が配置されている。また、電源スイッチ3の上方には、インクジェットプリンタ240やホストコンピュータ220の状態をユーザに通知するLEDランプ6が設けられている。ロール紙カバー5及び装着部開閉カバー7は、下部に設けられた図示せぬヒンジを介していずれも前方に開閉可能に設けられている。
【0018】
ロール紙カバー5を開くと、印刷用紙であるロール紙11を収容した用紙収容部13が開放状態となる。この状態で、ロール紙11の交換が可能になる。一方、装着部開閉カバー7を開くと、カートリッジ装着部15が開放状態になり、カートリッジ装着部15へのインクカートリッジ17の着脱が可能になる。
【0019】
インクカートリッジ17は、カートリッジケース内にイエロー、シアン及びマゼンダの3色のカラーインクパックを一つにパッケージングしたものである。本実施形態のインクジェットプリンタ240の場合は、装着部開閉カバー7の開閉動作に連動して、カートリッジ装着部15内のインクカートリッジ17がカートリッジ交換位置からカートリッジ使用位置にスライド移動する。
【0020】
プリンタケース2内の用紙収容部13の上方には、図2に示すように、インクを吐出するノズルを備えた印刷ヘッド22を搭載したキャリッジ23が装備されている。キャリッジ23は、ロール紙11の幅方向に沿って延在するガイド部材25によって用紙幅方向に移動自在に支持されると共に、ロール紙11の幅方向に延在する無端ベルト26aと、無端ベルト26aを駆動するキャリッジモータ26bとによって、プラテン28の上方をロール紙11の幅方向に往復移動可能になっている。
【0021】
カートリッジ装着部15の上方が、往復移動するキャリッジ23の待機位置となっている。そして、この待機位置の下方には、キャリッジ23の下面に露出する印刷ヘッド22のノズルを覆うキャップ27と、インク経路31やインク供給チューブ33等のインク経路内の気泡や印刷ヘッド22の各ノズル内の増粘インクをキャップ27を介して吸引廃棄するインク吸引機構29とが装備されている。
【0022】
(ホストコンピュータとプリンタとの関係)
次に、図3を参照しながら、本実施形態のホストコンピュータ220とインクジェットプリンタ240との関係について説明する。
図3は、インクジェットプリンタ240とホストコンピュータ220の電気的構成を示すブロック図である。本実施形態のインクジェットプリンタ240は通信可能に接続されたホストコンピュータ220から送信される各種コマンドや印刷データに応じた出力処理を行うように設定されている。
【0023】
図3に示すように、ホストコンピュータ220は、主として、CPU221と、不揮発性メモリであるROM222と、揮発性メモリであるRAM223と、大規模記憶装置としてのHDD224と、入力装置225と、通信インタフェース226とを備えている。ホストコンピュータ220は、CPU221がHDD224に記憶されたオペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムを実行しながら、通信インタフェース226を介してインクジェットプリンタ240に各種コマンドや印刷データを出力することにより、インクジェットプリンタ240を制御する。
【0024】
一方、インクジェットプリンタ240は、主として、CPU241と、書き換え可能な不揮発性メモリであるフラッシュROM242と、揮発性メモリであるRAM243と、通信インタフェース244と、印刷ヘッド22を介してインクをロール紙11に吐出させて画像記録を行う印刷制御部245と、用紙搬送機構246と、印刷ヘッド22と、クリーニング機構248と、クリーニングボタン249とを備えている。インクジェットプリンタ240は、CPU241がフラッシュROM242に記憶されたファームウェアを実行しながら、通信インタフェース244を介してホストコンピュータ220と通信を行うことにより印刷データを受信する。そして、印刷制御部245が各種コマンドや印刷データに基づき、用紙搬送機構246を介してロール紙11を搬送しつつ印刷ヘッド22を駆動してロール紙11への印刷を実行し、クーポンを発券する。
【0025】
クリーニング機構248は、キャップ27、インク吸引機構29等から構成され、印刷ヘッド22のノズルのクリーニングを行う。インクジェットプリンタ240の起動時や、インクカートリッジ装着部15に新たなインクカートリッジ17が装着されたとき等には自動的に印刷ヘッド22をキャップ27によってキャッピングし、インク吸引機構29によってインク吸引を行う。また、ホストコンピュータ220のアプリケーションからクリーニング指示が与えられたときや、ユーザによってクリーニングボタン249からクリーニング指示が与えられたとき等、には強制的にインク吸引を行うように設定されている。
【0026】
(誤操作判断処理の構成)
本実施形態のインクジェットプリンタ240は、ホストコンピュータ220からのクリーニング指示あるいはクリーニングボタン249からのクリーニング指示(以下、これらの指示を「マニュアルクリーニング指示」という。)が誤操作によるクリーニング指示であるかどうかを判断して、誤操作であると判断した時には、インク消費量の少ないクリーニングを行うように構成されている。
【0027】
以下では、インクジェットプリンタ240に与えられたマニュアルクリーニング指示が誤操作であるかどうかをどのように判断し、誤操作である場合に行うマニュアルクリーニング処理と、正しい操作である場合に行うマニュアルクリーニング処理について説明する。
図4はインクジェットプリンタ240の内部処理を示した機能ブロック図である。
【0028】
図4に示すように、インクジェットプリンタ240内には、ホストコンピュータ220から送信される各種コマンドや印刷データを受信する受信部301と、受信部301が受信した各種コマンドや印刷データを一時的に保持する受信バッファ302が設けられている。受信バッファ302によって受信されたデータは、コマンド解析部303によって解析され、制御コマンドの場合は制御コマンドバッファ304にDMA転送等により転送される。制御コマンドバッファ304に一時保存された制御コマンドデータは、主制御部308によって読み出されて、ロール紙カットなど制御コマンドに応じた処理が実行される。
【0029】
誤操作判断処理の観点では、印刷ヘッド制御部305と、クリーニング制御部306と、印刷指示部309と、クリーニング指示受信部310と、印刷イメージ記憶部307と、誤操作判断設定値記憶部311と、タイマー312と、を備えている。
【0030】
印刷ヘッド制御部305はホストコンピュータ220からの印刷コマンドに応じて印刷ヘッド22を駆動させる。クリーニング処理の観点では、インク経路31やインク供給チューブ33等のインク経路内の気泡や印刷ヘッド22の各ノズル内の増粘インクがクリーニングによって排出され、印刷結果にドット抜けが発生しなくなったかを確認するため、後述する印刷指示部309からの指示に応じて、印刷ヘッド22を駆動させてテスト印刷を実行する。なお、以下の説明ではテスト印刷を例に説明するが、これに限るものではない。
【0031】
クリーニング制御部306は、ユーザによるマニュアルクリーニング指示が誤操作によるクリーニング指示であるかどうかを判断して、誤操作であると判断したときにはインク消費量の少ないフラッシング動作(第2のクリーニング)を行い、正しい操作であると判断したときにはインク吸引動作(第1のクリーニング)を行うように指示する制御部である。具体的な誤操作判断処理については後ほど説明する。
【0032】
印刷指示部309は、ユーザからのテスト印刷指示に応じて印刷ヘッド制御部305にテスト印刷を実行するよう指示する。ここで、テスト印刷指示は、必要に応じてユーザからホストコンピュータ220のアプリケーションを介して送信されるケースと、クリーニング実行後に自動的にクリーニング制御部306から指示されるケースとが考えられる。本実施形態では、ユーザから必要に応じて与えられるテスト印刷指示に応じて、テスト印刷を実行するケースを前提に説明する。
【0033】
クリーニング指示受信部310は、クリーニングボタン249からのマニュアルクリーニング指示を受信したかを監視し、受信すると主制御部308を介してクリーニング制御部306にクリーニング処理を行わせる。
【0034】
印刷イメージ記憶部307は、図示せぬ不揮発性の記憶部内に設定された領域であり、ここにはテスト印刷指示に応じて実行されるテスト印刷の印刷イメージを記憶している。この印刷イメージは、ノズルの目詰まりによるドット抜けを容易に見つけることができるように印刷ヘッドに備えられたノズル列に対応したイメージに設定されている。なお、テスト印刷イメージは、印刷イメージ記憶部307に記憶されている印刷イメージに限定されることはなく、ホストコンピュータ220から送信されて図示せぬ印刷バッファに記憶された印刷データをテスト印刷イメージとして用いることも可能である。
【0035】
誤操作判断設定値記憶部311は、フラッシュROM242内に設定された領域であり、ここには誤操作判断処理を行うための誤操作判断設定値を記憶している。ここでは、インクジェットプリンタ240に与えられたマニュアルクリーニング指示が誤操作であるかどうかを判断する基準時間となる所定時間が記憶されている。これについても後ほど詳述する。
【0036】
次に、インクジェットプリンタ240における誤操作判断処理について詳細に説明する。
本実施形態では、クリーニング制御部306は、コマンド解析部303により受信したコマンドがマニュアルクリーニングコマンドであると解析された場合、あるいはクリーニング指示受信部310がクリーニングボタン249からのマニュアルクリーニング指示を受信した場合に、クリーニング機構248を駆動させて印刷ヘッド22をキャップ27によってキャッピングした後、インク吸引機構29によって負圧を与えてインク吸引を行う。そして、インク吸引後、印刷結果にドット抜けが発生しなくなったかを確認するため、印刷ヘッド制御部305を介して印刷ヘッド22を駆動させてテスト印刷を実行し、その後の経過時間をタイマー312を用いて計測し、以降マニュアルクリーニング指示を受信するごとに誤操作判断を行うように構成されている。
【0037】
具体的には、クリーニング制御部306は次のマニュアルクリーニング指示を受信したときに前回のテスト印刷から所定時間が経過している場合には、受信したマニュアルクリーニング指示は誤操作による指示であると判断し、インク吸引よりもインク消費量の少ない(具体的には、インク吸引よりもインク消費量が1/1000である)フラッシング動作を行う。
一方、所定時間が経過しないうちに次のマニュアルクリーニング指示を受信した場合には、ユーザが前回のテスト印刷によってドット抜け確認をした結果、十分なクリーニングが行われていないと判断して、再度マニュアルクリーニング指示を与えたものと認識して、ノズルの目詰まり解消に、より効果的なインク吸引を行う。通常、ユーザはテスト印刷によって十分なクリーニングが行われていないと判断すると、テスト印刷からそれほど時間が経過しないうちに再度マニュアルクリーニング指示を与えるものと考えられる。したがって、所定時間は比較的短時間に設定するのが好ましく、本実施形態では例えば1時間に設定されている。
【0038】
このように、クリーニング制御部306は、所定時間の経過後に受信したマニュアルクリーニング指示を誤操作による指示であると一義的に認識して、インク消費量の少ないフラッシング動作を行うように設定されているので、従来のように全てのマニュアルクリーニング指示に対してインク吸引を行っていた場合に比べ、無駄なインクの消費を抑えることが可能である。なお、クリーニング制御部306は、マニュアルクリーニング指示を受けた時点で、前回のクリーニングを実行した後、1度も印刷が行われていなければ第2のクリーニングを実行するように構成されていてもよい。
【0039】
次に、図5及び図6を参照して、上記で概略説明した誤操作判断処理の具体的な流れを説明する。
図5はインクジェットプリンタ240がマニュアルクリーニング指示を受信した場合に行う誤操作判断処理を説明するためのフローチャートである。図6は、具体的な誤操作判断処理の一例を時間軸上に示した図である。以下、図6の誤操作判断処理の一例に沿って説明する。
【0040】
まず、インクジェットプリンタ240はマニュアルクリーニング指示を受信すると、初回のマニュアルクリーニングを行い、テスト印刷指示を受信すると印刷ヘッド制御部305を介してテスト印刷を実行する(ステップS11,ステップS12)。初回のマニュアルクリーニングでは誤操作であるかを判断することなく、ノズルの目詰まり解消により効果的なインク吸引を実行する。すなわち、クリーニング制御部306がクリーニング機構248を駆動させて印刷ヘッド22をキャップ27によってキャッピングした後、インク吸引機構29によって負圧を与えてノズルからインク吸引を行う。
【0041】
次に、クリーニング制御部306は、タイマー312を用いてその後の経過時間の計測を開始する(ステップS13)。経過時間の計測開始後、次のマニュアルクリーニング指示を受信すると、クリーニング制御部306は前回のテスト印刷(ステップS12)が実行されてから所定時間として設定された1時間が経過したかを判断し、1時間が経過していない場合には、前回のマニュアルクリーニング指示によって実行されたインク吸引だけでは十分にノズルの目詰まりが解消されず再度ユーザがマニュアルクリーニング指示を与えたものと認識して、目詰まり解消により効果的なインク吸引を実行する(ステップS15:No,ステップS16)。
【0042】
インク吸引後、ユーザがノズルの目詰まり具合を確認するためにテスト印刷指示を与え、インクジェットプリンタ240がテスト印刷指示を受信すると、印刷指示部309を介して印刷ヘッド制御部305がテスト印刷を実行して、クリーニング制御部306がタイマー312をリセットする(ステップS17:Yes,ステップS18,ステップS19)。そして、次のマニュアルクリーニング指示が受信されるまで監視する(ステップS14:No)。
【0043】
クリーニング制御部306は次のマニュアルクリーニング指示を受信すると、前回のテスト印刷(ステップS18)が実行されてから1時間が経過したかを判断し、1時間が経過していると判断すると受信したマニュアルクリーニング指示は誤操作によってなされたものと認識して、印刷ヘッド制御部305を介してインク消費量の少ないフラッシング動作を実行する(ステップS14:Yes,ステップS15:Yes,ステップS20)。
【0044】
その後、ユーザからノズルの目詰まり具合を確認するためのテスト印刷指示が与えられず、次のマニュアルクリーニング指示が受信された場合には、前回行われたテスト印刷(ステップS18)から1時間を経過しているのでクリーニング制御部306は印刷ヘッド制御部305を介して再びフラッシング動作を実行する(ステップS17:No,ステップS14:Yes,ステップS15:Yes,ステップS20)。
【0045】
以後、テスト印刷指示を受信すればテスト印刷を実行し、所定時間以内に次のマニュアルクリーニング指示を受信すればインク吸引を実行する(ステップS18,ステップS16)。以降は、繰返し処理が行われる。
【0046】
なお、ステップS20において実行されるフラッシング動作は、印刷ヘッド22をキャッピングすることなくインク吸引動作を実行する、いわゆる「空吸引」に変更することが可能である。フラッシング動作の替わりに空吸引を行うことによって、ステップS15で誤操作によるマニュアルクリーニング指示であると判断された場合には、実際に印刷ヘッド22のノズルからインク吸引を行うことなく、吸引音を発生させるだけなのでインク吸引を行ったかのように見せかけることができる。
【0047】
また、本実施形態では、ステップS16あるいはステップS20でクリーニングを実行後、ユーザからテスト印刷指示が与えられない限りタイマー312はリセットされることがない。テスト印刷指示はユーザの判断でその都度与えられるので、ユーザからのテスト印刷指示がなくテスト印刷が長期にわたって実行されない場合には、クリーニング指示を受信するたびにフラッシング動作しか行わないことが考えられる。このような事態を回避するため、クリーニング実行後にインクジェットプリンタ240の図示せぬ送信部からクリーニング終了通知をホストコンピュータ220へ送信し、ホストコンピュータ220の操作画面にテスト印刷の実行を促すメッセージや、テスト印刷を実行しなければインク吸引ではなくフラッシングを実行する旨のメッセージを表示させるように設定することも可能である。
【0048】
このように、本実施形態のインクジェットプリンタ240は、所定時間が経過したか否かによってマニュアルクリーニング指示が誤操作によって行われたのかを判断している。また、所定時間は、前回のテスト印刷が実行されてから1時間に設定されている。通常、前回のテスト印刷が実行されてから1時間以内に受信したマニュアルクリーニング指示であれば、ユーザが再度のインク吸引が必要と判断して与えた指示であると考えられるので、強力なインクの吸引を実行することでノズルの目詰まりを解消させる。そして、それ以外のタイミングで受信したマニュアルクリーニング指示は全て誤操作による指示として捉え、インク消費量の少ないフラッシング動作あるいは空吸引を行うことで、無駄なインク消費を抑え、通常想定されている分量の画像印刷を実現可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】二つの前面カバーを開いて内部を示した本実施形態のプリンタの外観斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェットプリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図である。
【図3】本実施形態のインクジェットプリンタとホストコンピュータの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】本実施形態のインクジェットプリンタの内部処理を示した機能ブロック図である。
【図5】本実施形態のインクジェットプリンタがマニュアルクリーニング指示を受信した場合に行う誤操作判断処理を説明するフローチャートである。
【図6】具体的な誤操作判断処理の一例を時間軸上に示した図である。
【符号の説明】
【0050】
220・・・ホストコンピュータ、240・・・インクジェットプリンタ、22・・・印刷ヘッド、248・・・クリーニング機構、249・・・クリーニングボタン、305・・・印刷ヘッド制御部、306・・・クリーニング制御部、307・・・印刷イメージ記憶部、309・・・印刷指示部、310・・・クリーニング指示受信部、311・・・誤操作判断設定値記憶部、312・・・タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタであって、
インクを吐出するノズルを備えた印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを駆動する印刷ヘッド制御部と、
ユーザからのクリーニング指示に応じて第1のクリーニングおよび該第1のクリーニングよりもインク消費量の少ない第2のクリーニングの少なくともいずれか一方を行うクリーニング制御部と、
前記印刷ヘッド制御部に印刷を実行させる印刷指示部と、を備え、
前記クリーニング制御部は、前記クリーニング指示を受けた時点が、前回のクリーニングを実行しその後前記印刷を行ってから、所定時間以上経過していれば前記第2のクリーニングを実行し、前記所定期間を経過していなければ前記第1のクリーニングを実行することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記第2のクリーニングは、前記第1のクリーニングよりもインク消費量が1/1000以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記第1のクリーニングは、クリーニング機構によって前記印刷ヘッドをキャッピングして実行されるインク吸引であり、前記第2のクリーニングは、前記印刷ヘッド制御部を介して行われる前記印刷ヘッドからインクを吐出するフラッシング動作であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記第2のクリーニング実行時、前記クリーニング機構は、前記印刷ヘッドをキャッピングすることなく、インク吸引動作を実行することを特徴とする請求項3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記クリーニング制御部は、前記クリーニング指示を受けた時点で、前回のクリーニングを実行した後、1度も印刷が行われていなければ前記第2のクリーニングを実行することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
インクを印刷媒体に付着させて画像を形成するインクジェットプリンタの制御方法であって、
ユーザからのクリーニング指示に応じて第1のクリーニングを実行するステップと、
前記第1のクリーニング実行後、印刷を実行させるステップと、
次のクリーニング指示を受けた時点が、前記第1のクリーニングを実行しその後印刷を行ってから、所定時間以上経過していれば前記第1のクリーニングよりもインク消費量の少ない第2のクリーニングを実行し、前記所定時間を経過していなければ前記第1のクリーニングを実行するステップと、を備えたインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項7】
前記第2のクリーニングは、前記第1のクリーニングよりもインク消費量が1/1000以下であることを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項8】
前記第1のクリーニングは、クリーニング機構によって前記印刷ヘッドをキャッピングして実行されるインク吸引であり、前記第2のクリーニングは、前記印刷ヘッド制御部を介して行われる前期印刷ヘッドからインクを吐出するフラッシング動作であることを特徴とする請求項6または7に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項9】
前記第2のクリーニング実行時、前記クリーニング機構は、前記印刷ヘッドをキャッピングすることなく、インク吸引動作を実行することを特徴とする請求項8に記載のインクジェットプリンタの制御方法。
【請求項10】
前記クリーニング指示を受けた時点で、前回のクリーニングを実行した後、1度も印刷が行われていなければ前記第2のクリーニングを実行することを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−196596(P2007−196596A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19875(P2006−19875)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】