説明

インクジェットヘッドおよびその製造方法

【課題】部材の加工精度や、接着剤硬化のための加熱による反りの個体差に寄らず、接着剤の量の過不足が生じにくく、各インク室の詰まりが生じにくいインクジェットヘッドを提供すること。
【解決手段】圧電基板1に、一方向に互いに間隔をおいて略平行に配置された複数の隔壁と、隣り合う隔壁の間に形成されて、両端が開口する複数のインク溝2と、複数のインク溝2の外側に位置すると共に、一端のみが開口する接着剤吸収溝5とを形成する。複数のインク溝2を覆うように配置されると共に、インク溝2に連通する複数のノズル孔を有するノズルプレートと、複数のインク溝2の一端の開口に連通すると共に、接着剤吸収溝5の上記一端の開口に連通する第1の共通インク室と、複数のインク溝の他端の開口に連通する第2の共通インク室とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関し、例えば、プリンタ等に使用すれば好適なインクジェットヘッドに関する。また、本発明は、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要なインク滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。
【0003】
ここで、ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0004】
しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有している。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難である。また、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなる。
【0005】
このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモード変形を利用したインクジェット方式が提案されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用してインク滴を吐出するものである。この方式は、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0006】
近年はこのシェアモード変形を利用したインクジェットヘッドを産業用途に利用することが盛んに行われている。例えば、インクとして導電部材を吐出することによって配線を描画したり、R,G,Bの各色のインクを吐出することによってカラーフィルタを作製したり、熱硬化性または紫外線(UV)硬化性のインクを吐出することによって、マイクロレンズやスペーサなどのような3次元構造物を作製したり、している。
【0007】
このように使用されるインクも多種多様になっており、例えば有機溶剤を含有して揮発性の高いインクや、強酸性・強アルカリ性のインク、顔料や樹脂成分を含むインク、ビーズなどの微粒子を含有するインク、さらにはこれらを複合したインクなどがある。
【0008】
ここで、ビーズなどの微粒子を含有するインクは、インクの溶媒と含有される微粒子の比重差により、微粒子が沈殿または浮遊し、インク中の微粒子濃度に分布の偏在が発生することがある。ここで、分布が偏った場合、吐出時の液滴中に含まれる微粒子数にばらつきが生じてしまい、製品の性能劣化、不良発生をもたらす。さらには、ノズル孔を目詰まりさせてしまうおそれもある。
【0009】
このような事態を回避するためには、インクジェットヘッド内でインクを循環、撹拌させることによって微粒子の沈殿を防止する必要がある。さらに厳密には、吐出時の液滴中に含まれる微粒子数を安定させて吐出させるためには、上述のインクの循環、撹拌は、インクがノズル孔の直近にある時点においてもなされることが重要である。
【0010】
ノズル孔直近までインクを循環、撹拌させるための技術としては、国際公開WO95/31335(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1の第2図、第3図に示されたインクジェットヘッドでは、圧力発生室は、前側はノズル孔を有するノズルプレートで画定され、後ろ側は振動板で画定されている。そして、この圧力発生室を挟むように圧力発生室の両側に2つの共通インク室が配置されており、これら2つの共通インク室は圧力発生室に連通している。この装置は、一方の共通インク室から他方の共通インク室へ圧力発生室を介してインクを供給するようになっている。このインクジェットヘッドにおいては、ノズル孔のある圧力発生室自体がインクの通り道となるため、ノズル孔の直近までインクを循環することが可能である。また、特許文献1の第4図には、上記インクジェットヘッドを備える記録装置の全体が示されている。この記録装置では、インクカートリッジからインクジェットヘッドを経由してサブタンクへとインクを補充する一方、水頭差を利用して、サブタンクからインクジェットヘッドを経由してインクカートリッジへインクを戻すことも可能になっている。特許文献1の記録装置では、このようにしてインクを循環させている。
【0011】
また、特開2009−34884(特許文献2)には、複数の共通インク室に連通するインク室を有し、かつ、圧電材料のシェアモード変形を利用したインクジェットヘッドが開示されている。
【0012】
インクジェットヘッドには、積層型という方式がある。これは各部材を位置合わせしながら重ね合わせることによってインクジェットヘッドの構造を組み立てるものであり、その一例は、特開平6−183029(特許文献3)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開WO95/31335
【特許文献2】特開2009−34884号公報
【特許文献3】特開平6−183029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載の記録装置は、インクカートリッジとサブタンクとの間でインクがやりとりされる際に、その流通の途上でインクを一方の共通インク室から他方の共通インク室へと圧力発生室を介して供給できて、ノズル孔直近までインクを循環することが可能である一方、インクジェットヘッドが、積層型のインクジェットヘッドであるという欠点がある。
【0015】
積層型のインクジェットヘッドは、特許文献3に記載されているように、基台に振動子を取り付けたものである振動子ユニットと、流路構成部材と、振動板形成部材と、圧力発生室となるべき間隙を形成するためのスペーサと、ノズル孔を有するノズルプレートとの5つの部材から構成されており、それぞれ位置合わせを行ない、重ね合わせることによって組み立てられている。インクジェットヘッドにおいては、ばらつきの少ない着弾精度、吐出性能を実現するためには、ノズル孔と駆動部の相対位置精度がきわめて重要であり、ノズル孔の中心と駆動部におけるインクの通り道の中心とが一致している必要がある。したがって、上記5つの部材は、それぞれについて高精度な位置合わせが要求される。また、1つのインクジェットヘッドを作製するためにはこのような高精度な位置合わせを4回繰り返す必要がある。これは非常に煩雑で労力を要する作業である。また、特許文献3のインクジェットヘッドは、変位量を確保するため積層型の圧電素子を用いていること、インクジェットヘッドを構成する部品点数自体が多いことから、小型化に適さない。さらにこのような組み上げ作業の煩雑さおよび部品点数の多さにより、インクジェットヘッドのコスト削減が難しい。
【0016】
これに対し、非積層型のインクジェットヘッドの例として、特許文献2に記載のシェアモード型のインクジェットヘッドがある。このインクジェットヘッドは、圧電基板と、マニホールド部材と、ノズルプレートとからなる。圧電基板にはチャンネル溝が平行に複数形成されている。これを複数のノズル孔が形成されたノズルプレートで覆うことで、複数のインク室を形成している。また、マニホールド部材には凹部が形成されている。圧電基板とノズルプレートとを組み合わせることで、複数の各インク室の両端に、共通インク室を形成している。このインクジェットヘッドは、構成する部材の点数が少なく、組立の際に高精度な位置決めを必要とするのは、チャンネル溝に形成された圧電基板と、ノズル孔の形成されたノズルプレートとを張り合わせる工程のみであるという利点がある。また、組立工程が容易で小型化にも適しているという利点もある。
【0017】
特許文献2に記載のインクジェットヘッドにおいて、インク流路となる各インク室および共通インク室は、圧電基板と、マニホールド部材と、ノズルプレートとを接着剤を用いて接着して形成している。ここで、接着剤の量が少ないとリークが生じる可能性が増し、多いと余剰の接着剤が各インク室や共通インク室にはみ出す。特に、各インク室は非常に細長いため容易に接着剤で埋まり、インク吐出が出来ない状態となる。各インク室が接着剤で埋まるのは、圧電基板と、ノズルプレートとの接着の際に限らない。圧電基板と、マニホールド部材の接着や、マニホールド部材同士の接着においても、余剰の接着剤が、圧電基板とノズルプレートとで形成される角部や、圧電基板とマニホールドとで形成される角部を伝っていく場合にも発生する。このため、いずれの部材の接着においても、接着剤は過不足のない量が望ましい。
【0018】
しかしながら、それぞれの部材の加工精度や、接着剤硬化のための加熱による反りの程度に個体差があるため、接着剤の充填される隙間の体積は一定でなく、同じ量の接着剤を塗布しても過不足が生じることがある。また、ノズルプレートと他の部材との接着においては、ノズルプレートが薄い樹脂フィルムであり変形が容易であるため、相手の部材の形状にならい易く、接着剤の量に過不足は生じにくい。一方、圧電基板とマニホールド部材の接着や、マニホールド部材同士の接着においては、いずれの部材も相手の部材の形状にならうことがないため、接着剤の量に過不足が生じ易い。このように接着剤の量に過不足が生じ易いため、歩留まり良くインクジェットヘッドを作製することが困難になる。
【0019】
そこで、本発明の課題は、部材の加工精度や、接着剤硬化のための加熱による反りの個体差に寄らず、接着剤の量の過不足が生じにくく、各インク室の詰まりが生じにくいインクジェットヘッドを提供することにある。
【0020】
また、本発明の課題は、そのようなインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、この発明のインクジェットヘッドは、
一方向に互いに間隔をおいて略平行に配置された複数の隔壁と、隣り合う上記隔壁の間に形成されて、両端が開口する複数のインク溝と、上記複数のインク溝の外側に位置すると共に、一端のみが開口する接着剤吸収溝とを有する圧電基板と、
上記複数のインク溝を覆うように配置されると共に、上記インク溝に連通する複数のノズル孔を有するノズルプレートと、
上記複数のインク溝の一端側の開口に連通すると共に、上記接着剤吸収溝の上記一端側の開口に連通する第1の共通インク室と、
上記複数のインク溝の他端側の開口に連通する第2の共通インク室と
を備えることを特徴としている。
【0022】
本発明のインクジェットヘッドによれば、圧電基板の複数のインク溝の外側に接着剤吸収溝が設けられているので、上記共通インク室を形成するために、圧電基板とマニホールド部材とを接着する際、また、マニホールド部材同士を接着する際に、余剰な接着剤が圧電基板とノズルプレートとで形成される角部を伝っていったとしても、その余剰な接着剤を接着剤吸収溝に吸収でき、その余剰な接着剤が各インク室に到達することがない。したがって、接着剤の量を多めに設定しても、各インク室の接着剤詰まりを防ぐことができるから、過不足のない接着剤の量の範囲を広くすることができる。
【0023】
また、上記接着剤吸収溝は、一端のみが開口して、第1の共通インク室にしか連通していないから、接着剤吸収溝が第1の共通インク室および第2共通インク室の両方に連通している場合と比較して、第2の共通インク側から吸収される接着剤の影響を一切受けず、第1の共通インク側から一定量の接着剤を常に吸収することができる。また、一方側から吸収した接着剤が他方の開口側から流出することも防止できる。
【0024】
また、一実施形態では、
上記接着剤吸収溝は、その接着剤吸収溝の開口側から奥側に行くにしたがって上記接着剤吸収溝の深さが浅くなっている。
【0025】
接着剤吸収溝内に気泡が残っていると、加熱硬化が必要な接着剤を使用するために加熱を行った際に、残された空気が膨張して、接着剤吸収溝から吐き出された接着剤がインク溝に流れてこんでしまう可能性がある。
【0026】
上記実施形態によれば、接着剤吸収溝は開口部から奥に向かって断面積が小さくなっているので、接着剤吸収室に流れ込んできた接着剤を、毛細管現象により、奥から順次埋めることができて、接着剤吸収室内に気泡が生成することを抑制できる。したがって、安定して余剰な接着剤を吸収することができる。
【0027】
また、一実施形態では、
上記接着剤吸収溝は、その接着剤吸収溝の開口側から奥側に行くにしたがって上記接着剤吸収溝の幅が狭くなっている。
【0028】
溝の深さを変えるのではなく、幅を開口部から奥に向けて狭くなるようにしても、溝の深さを変えたのと、同様の効果を奏することができる。
【0029】
上記実施形態によれば、接着剤吸収溝は開口部から奥に向かって断面積が小さくなっているので、接着剤吸収室に流れ込んできた接着剤を、毛細管現象により、奥から順次埋めることができて、接着剤吸収室内に気泡が生成することを抑制できる。したがって、安定して余剰な接着剤を吸収することができる。
【0030】
また、一実施形態では、
上記接着剤吸収溝の開口の深さは、上記インク溝の開口の深さよりも深い。
【0031】
上記実施形態によれば、上記接着剤吸収溝の開口の深さが、上記インク溝の開口の深さよりも深いので、余剰な接着剤が、圧電基板とマニホールドとで形成される角部等、インク溝の開口の深さよりも深い箇所を伝っていったとしても、その余剰な接着剤を、接着剤吸収溝で吸収でき、その余剰な接着剤がインク溝に到達することがない。したがって、接着剤によるインク溝詰まりをより効果的に防止することができる。
【0032】
また、本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、
本発明のインクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッドの製造方法であって、
上記圧電基板に両端が開口する上記インク溝を形成する工程と、上記圧電基板に一端のみが開口する上記接着剤吸収溝を形成する工程とを連続して行うことを特徴としている。
【0033】
本発明によれば、圧電基板の両端に開口するインク溝と、圧電基板の一端に開口する溝とを連続して形成するので、圧電基板を加工ステージに設置しなおす手間を省くことができ、インクジェットヘッドの製造にかかる時間を短縮することができる。また、圧電基板を加工ステージに設置しなおすことなく各インク溝と接着剤吸収溝とを形成するので、各インク溝と接着剤吸収溝との位置精度を優れたものにすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のインクジェットヘッドによれば、部材の加工精度や、接着剤硬化のための加熱による反りの個体差に寄らず、接着剤の量の過不足が生じることを大きく抑制でき、かつ、各インク室の詰まりが生じることも大きく抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板に複数のインク溝を形成した状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板に接着剤吸収溝を形成した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板に導電膜を形成した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板の不要な導電膜を除去した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板に分離溝を形成した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板にフレキシブルケーブルを接続した状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板にノズルプレートを接着した状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドが備えるマニホールド部材の斜視図である。
【図9】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板にマニホールド部材を接着した状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造途中の図であって、圧電基板にマニホールド部材を接着した状態を示す部分斜視図である。
【図11】本発明の第2実施形態のインクジェットヘッドの圧電基板に形成された接着剤吸収室を示す断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態の変形例のインクジェットヘッドの圧電基板に形成された接着剤吸収室を示す断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態の更なる変形例のインクジェットヘッドの圧電基板に形成された接着剤吸収溝を示す平面図である。
【図14】本発明の第3実施形態のインクジェットヘッドの圧電基板にマニホールド部材を接着した状態を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0037】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0038】
(溝形成工程)
先ず、アクチュエータ部材である圧電基板1にダイシングブレードを複数回一定方向に走査して、複数の各インク溝2を形成する溝形成工程を行う。圧電部材にはチタン酸ジルコン亜鉛(PZT)を用いた。複数のインク溝2を形成した圧電基板1を図1に示す。図1において斜線部分は、開口部3である。各インク溝2は、後にノズルプレート4で覆うことにより、インクに圧力を伝達してインクを吐出するための各インク室となる。本実施形態では圧電基板1の大きさは、5mm×50mmであり、厚さは、2mmになっている。また、各インク溝2の深さは、300μm、幅は、100μmである。また、各インク溝2のピッチは、200μmであり、溝の数は、200本である。尚、全ての図において、図の簡略化のため、各インク溝2の数や、深さ等は、正確に図示してはいない。各インク溝2の幅は、使用するダイシングブレードの厚みで変えることができ、各インク溝の深さは、ダイシングブレードの切り込み量を変えることにより変更することができる。また、圧電基板1には、各インク溝2の深さ方向の略中央にて、分極方向が相反する2枚の圧電材料があらかじめ接着剤で貼りあわされている。本実施形態では、2mmの圧電基板1は、0.15mmの薄板1aと1.85mmの厚板1bが貼りあわされてなっている。外部より電圧を印加した際に、各インク溝2の薄板部分と、厚板部分とが、反対方向に変形することにより、各インク溝2とノズルプレート4とで囲まれた領域である各インク室の容積を変えることによって、インクを吐出するようになっている。
【0039】
続いて、圧電基板1の複数の各インク溝2の外側にダイシングブレードにより接着剤吸収溝5を形成する。接着剤吸収溝5を形成した圧電基板1を図2にしめす。接着剤吸収溝5は後にノズルプレート4で覆うことにより、余剰接着剤を吸収する接着剤吸収室となる。この接着剤吸収溝5は、各インク溝2とは異なり、圧電基板1の片側にだけ開口している。本実施形態では、接着剤吸収溝5の幅を、1mm、深さを、200μm、奥行きを、2mmとし、図2に示すように、4箇所に接着剤吸収溝5を形成した。
【0040】
なお、本実施形態では、各インク溝2の形成の後に接着剤吸収溝5の形成を行ったが、形成の順序を逆にしても良い。いずれにしても、各インク溝2の形成と、接着剤吸収溝5の形成とを連続して行うことが望ましい。圧電基板1において、各インク溝2と接着剤吸収溝5とは同一面上に、同一方向にダイシングブレードを走査して形成するので、この2つの工程を連続して行うことで、圧電基板1を加工ステージに設置しなおす手間を省くことができ、インクジェットヘッド製造にかかる時間を短縮することができるからである。また、圧電基板1を加工ステージに設置しなおすことなく各インク溝2と接着剤吸収溝5を形成するので、各インク溝2と接着剤吸収溝5との位置精度を向上することができるからである。
【0041】
(導電膜形成工程)
続いて圧電基板1の各インク溝2の内壁に電極となる導電膜を形成するための、且つ、圧電基板1の側面に電極引き出し部となる導電膜を形成するための導電膜形成工程を行う。本実施形態では銅をスパッタ法により成膜した。このとき成膜した銅の各インク溝2の内壁における膜厚は、もっとも薄い部分で0.5μmとなるようにした。導電膜形成工程後の圧電基板1を図3に示す。斜線部が導電膜を形成した部分である。本実施形態におけるスパッタ法による導電膜形成工程では、圧電基板1の各インク溝2を形成した面の裏側の面を除く全面に導電膜を形成し、目的以外の部分にも導電膜を形成した。このとき圧電基板1の各インク溝2が開口する側面に成膜された銅の厚みは1μmであった。各インク溝2の内壁に成膜された銅の膜厚と、各インク溝2が開口する圧電基板1の側面に成膜された銅の膜厚が異なるのは、形状による銅のつきまわりの差によるものである。
【0042】
(導電膜除去工程)
続いて、圧電基板1の各インク溝2を形成した面において導電膜形成工程で形成された不要な導電膜部分を除去するための除去工程を行う。この除去工程は、例えば圧電基板1の上部表面をダイシングブレードで複数回走査することで行うことができる。このとき、圧電基板1の各インク溝2形成面において、隣接する各インク溝2同士が確実に絶縁するように、ダイシングブレードにより圧電基板1の表面もわずかに研削することが好ましい。この除去工程後の圧電基板1を図4に示す。除去工程後の圧電基板1には、各インク溝2および接着剤吸収溝5の内壁と、圧電基板1の側面とに導電膜が形成されている。
【0043】
(電極分離工程)
次に、圧電基板1の側面に形成されている導電膜に対してダイシングブレードを複数回一定方向に走査して分離溝7を形成する分離工程を行う。この分離工程により、各インク溝2にそれぞれ対応した電極引き出し部8を形成した圧電基板1を図5に示す。各インク溝2の内壁に形成された電極6と、電極引き出し部8とは、各インク溝2が開口する圧電基板1の側面において電気的に接続されている。本実施形態では、分離溝7の深さを10μm、幅を50μmとして、各インク溝2が開口する圧電基板1の側面にそれぞれ分離工程を行った。また分離溝7を形成した部分は、各インク溝2の間であり、隣接する各インク溝2の間で電気的に導通することがない位置としている。このような分離工程を、各インク溝2が開口する圧電基板1の側面の両側に行った。両側に分離工程を行うことにより、圧電基板1は対称形となるため、後工程において方向を間違うことはない。また片側の電極引き出し部に損傷があった場合には、反対側の電極引き出し部を使用することができるため歩留まりを向上することができる。
【0044】
(フレキシブルケーブル接続工程)
このようにして加工を施した圧電基板1の電極引き出し部8に導電部材を接続する。図6に導電部材を接続した圧電基板1を示す。本実施の形態では導電部材としてフレキシブルケーブル9を用い、電極引き出し部8との接続はACF接続を用いた。フレキシブルケーブル9の他方の端部はインクを吐出するために、直接または他部材を介して外部電圧印加機構と接続される。本実施形態において、導電部材としてフレキシブルケーブルを使用するのは、フレキシブルケーブルは変形が容易であるため、後工程においてプロセス上使用しやすく歩留まりの低下を抑制できるからであるが、必ずしもフレキシブルケーブルである必要はない。
【0045】
(電極保護膜形成工程)
次いで、圧電基板1の壁面に形成された電極を保護するために、電極保護膜(図示せず)を約10μmの厚さで形成する。この電極保護膜は、その形成工程においては圧電基板1およびフレキシブルケーブル9の露出するあらゆる表面に付着する。したがって、付着させる必要のないフレキシブルケーブル9には、予めマスキングテープなどでマスクすることによって、電極保護膜が付着しないようにする。
【0046】
また、フレキシブルケーブル9と圧電基板1との接続部は、あらかじめ接着剤で補強している。電極保護膜の成膜に伴う洗浄工程、成膜工程等では、被成膜面を保持したりすると、ダストの付着や、汚染の問題があるため、被成膜面以外を保持して作業を行う必要がある。したがって、フレキシブルケーブル9を保持して作業を行うことになるが、接続幅が狭く、付着強度が弱いため、接続部分が剥離し、電気的な導通が得られなくなったり、接続抵抗のバラツキが生じたりすることがある。接着剤による補強を行うことで、電極保護膜の成膜に伴う洗浄工程、成膜工程等に耐え得る付着強度を得ることが出来る。
【0047】
(圧電基板とノズルプレートとの接着)
次に、圧電基板1へノズルプレート4を接着する。ノズルプレート4は、厚さ50μmのポリイミドのシートにより形成されている。ノズルプレート4表面には、予めインクに対して撥液性の薄膜をコーティングする。そして、この状態で、圧電基板1の各インク溝2の形成ピッチと同一になるようにエキシマレーザによりノズル孔10を加工する。ノズルプレート4の外形サイズは、圧電基板1の長さと同等の長さを有し、また、圧電基板1と、後に接続するマニホールド部材11a、11bとを足し合わせた程度の幅を有する。接着剤は、ガラス基板上に接着剤を滴下し、スピンコートにより均一な接着剤層を得た後に、接着剤層に対して圧電基板1をスタンプすることで、表面に接着剤を転写する。スピンコートの回転数、時間により所望の接着剤厚を調整することが可能である。また、ガラス基板上の接着剤層の約半分の厚みが圧電基板1に転写される。接着には、ICチップを基板上に搭載するボンダーマシンを利用し、圧電基板1に形成された各インク溝2と、ノズルプレート4に形成されたノズル孔10との相対位置を合わせ、接着を行う。圧電基板1と、ノズルプレートとの接着後の状態を図7に示す。
【0048】
(圧電基板とマニホールド部材の接着)
続いて、圧電基板1にマニホールド部材を接着する。図8は、マニホールド部材の斜視図である。本実施形態では、マニホールド部材は、2つの部材11a、11bとからなる。マニホールド部材11a、11bは、いずれもPEEK材料を射出成型により形成したものである。マニホールド部材11aには、ノズルプレート4で覆うことで第1共通インク室17aとなるべき段差部12aと段差部12aに連通する流路部13a、およびフレキシブルケーブルとの干渉を避けるための段差部14aが形成されている。マニホールド部材11bには、第2共通インク室17bとなるべき段差部12bと段差部12bに連通する流路部13b、およびフレキシブルケーブルとの干渉を避けるための段差部14bが形成されている。
【0049】
流路部13a、13bは、インクが滞ることなく効率よく流れるように、折れ線部や段差、平面部などが極力少ない形状が好ましい。本実施形態においてはフィルターなどの次に連通する部材まで直線状となっている。
【0050】
段差部14a、14bは、圧電基板1との接着において、フレキシブルケーブル9が通るために形成される。この構造により、フレキシブルケーブル9がインク流路と接触することがなくなり、インクによるフレキシブルケーブル9の溶解、膨潤などを防止する。段差部14a、14bのうち、段差部14bは、フレキシブルケーブル9が通らないが、マニホールド部材11a、11bを対称の形状としておくことで、同一形状の部材を使用することが出来る。
【0051】
接着においては、まず、マニホールド部材11a、11bのそれぞれに、圧電基板1と当接する面に接着剤を塗布する。そして、マニホールド部材11a、11bを圧電基板1に押し当てて固定し、その状態で接着剤を硬化させる。本実施形態においては、エポキシ系接着剤を使用し、80℃にて加熱硬化している。硬化後の状態を、図9に示す。
【0052】
この際、圧電基板1やマニホールド部材11a、11bの寸法精度には個体差があるため、圧電基板1とマニホールド部材11a、11bとの当接面には隙間が生じ、隙間の体積は一定でない。また、本実施形態の様に加熱硬化が必要な接着剤を用いた場合には、加熱により圧電基板1やマニホールド部材11a、11bに反りが生じるが、反りの程度にも個体差があるため、反りに起因する当接面の隙間の体積は一定でない。このように当接面の隙間の体積が一定でないために、マニホールド部材に一定量の接着剤を塗布していたとしても、接着剤の量には過不足が生じる。不足であった場合には、リークが生じるが、リークしている箇所によっては後で接着剤を塗布して修復することは困難である。したがって、接着剤が不足とならないように、あらかじめ充分量の接着剤を塗布しておくことが必要である。一方、接着剤が過剰となった場合には、余剰の接着剤が当接面からあふれることになる。特に、余剰の接着剤が各インク室に流れ込むと、その各インク室はインクを吐出することができなくなり、不良品となる。
【0053】
本実施形態のインクジェットヘッドにおいては、圧電基板1に接着剤吸収溝5が形成されているために、余剰な接着剤が各インク室に流れ込むことを防止することができる。このことを、図10を用いて説明する。
【0054】
図10は、マニホールド部材11a、11bに接着剤を塗布し、圧電基板1に押し当てて固定した状態を示す部分斜視図である。説明のため、ノズルプレート4は図示していない。圧電基板1とノズルプレート4により、各インク室15および接着剤吸収室16a、bが形成されている。余剰な接着剤は圧電基板1とマニホールド部材11a、11bとの当接面の周囲のあらゆる方向からあふれるが、特に矢印18aで示すようにあふれた接着剤は、圧電基板1とノズルプレート4との角部が毛細管の様に働き、各インク室15に到達する可能性が高い。しかしながら、本実施形態のインクジェットヘッドにおいては、接着剤の流れる径路18aの途中に形成された接着剤吸収室16により接着剤が吸収されるため、各インク室15に余剰な接着剤が到達することを防ぐことができる。同様のことが、接着剤吸収室16bにおいても起こる。仮に、2つの接着剤吸収室16a、16bが連通していて、一つの接着剤吸収室として圧電基板1の両側に開口している構造であれば、一方の開口から吸収した余剰な接着剤が毛細管現象により他方の開口に到達してしまい、他方の開口から接着剤を吸収できないということが起こりうる。しかし、本実施形態のインクジェットヘッドのように、接着剤吸収室が圧電基板1の片側にだけ開口している構造とすることにより、他の開口から吸収した接着剤に影響を受けることなく、一定量の接着剤を吸収することができる。
【0055】
(ノズルプレートとマニホールド部材の接着)
マニホールド部材11a、11bと、ノズルプレート4との隙間に対して接着剤を充填し、毛細管力で浸透させることで、ノズルプレート4とマニホールド部材11a、11b間に必要量の接着剤を供給することができる。これにより、第1共通インク室17aと第2共通インク室17bが形成される。ノズルプレート4を、ポリイミドにより作製することにより、毛細管力により浸透する接着剤を、ノズルプレート越しに確認することができ、接着剤の供給状態を確認することができる。尚、図10において、第1共通インク室17aは、接着剤吸収溝5aに対しては、第1の共通インク室として機能する一方、接着剤吸収溝5bに対しては、第2の共通インク室として機能している。また、第2共通インク室17bは、接着剤吸収溝5bに対しては、第1の共通インク室として機能する一方、接着剤吸収溝5aに対しては、第2の共通インク室として機能している。
【0056】
以上の工程により、ノズル直近のインクを積極的に循環可能なインクジェットヘッド25であって、余剰な接着剤が各インク室へ流れ込み、不良品となることを回避して、大量生産可能なインクジェットヘッドを作製することが可能である。インク循環に際しては、流路部13aからインクを供給し、流路部13bからインクを排出するようにしても良いし、逆にしても良い。また、交互に流れる方向が切り替わるようにしてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
本実施形態は、第1実施形態とほぼ同様の構成であるが、接着剤吸収室の形状が異なる。図11は、接着剤吸収室16を溝と平行方向に切断した断面を示す図である。接着剤吸収室16の開口部から奥に向けて、徐々に溝の深さが浅くなるように形成されている。このような構造とすることで、接着剤吸収室に流れ込んできた接着剤は、毛細管現象により、奥から順次埋まっていき、接着剤吸収室内に気泡を残すことがない。接着剤吸収室内に気泡が残っていると、加熱硬化が必要な接着剤を使用するために加熱を行った際に、残された空気が膨張して、接着剤吸収室から吐き出された接着剤が各インク室に流れてこんでしまう可能性がある。本実施形態のインクジェットにおける接着剤吸収室は、室内に気泡を残すことがないので、安定して余剰な接着剤を吸収することができる。
【0058】
図11に示すような接着剤吸収室を形成するには、溝形成工程において接着剤吸収溝5を形成する際に、ダイシングブレードの曲率を利用する方法や、ダイシングブレードの切り込み量を連続的に変えて加工するなどの方法がある。
【0059】
また、図12に示すように、ダイシングブレードの切り込み量を断続的に変えて、階段状に溝の深さをかえるようにしても、同様の効果を奏することができる。
また、溝の深さを変えるのではなく、幅を開口部から奥に向けて狭くなるようにしても同様の効果を奏することができる。
【0060】
図13は、圧電基板1をノズルプレートが貼られる方向から見た部分図である。幅の異なるダイシングブレードを複数使って加工することで、図13に示すような階段状に幅が変化する溝を形成することができる。また、溝の深さと幅を同時に変えて、開口部から奥に向かって徐々に断面積が小さくなるように形成しても同様の効果を奏することができる。
【0061】
(第3実施形態)
本実施形態は第1実施形態とほぼ同様の構成であるが、接着剤吸収室の開口部の底辺の位置が異なる。図14は、マニホールド部材11a、11bに接着剤を塗布し、圧電基板1に押し当てて固定した状態における、部分斜視図である。説明のため、ノズルプレート4は図示していない。接着剤吸収室16の開口部の底辺は各インク室15の開口部の底辺より低くなるように形成されている。このようにすることで、矢印18bで示すような圧電基板とマニホールド部材との角部を流れる余剰な接着剤に対しても、接着剤が各インク室に到達する前に接着剤吸収室が接着剤を吸収することができるので、各インク室の接着剤埋まりをより効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 圧電基板
1a 圧電基板薄板
1b 圧電基板厚板
2 各インク溝
3 開口部
4 ノズルプレート
5,5a,5b 接着剤吸収溝
6 電極
7 分離溝
8 電極引き出し部
9 フレキシブルケーブル
10 ノズル孔
11a,11b マニホールド部材
12a,12b 段差部
13a,13b 流路部
14a,14b 段差部
15 各インク室
16 接着剤吸収室
16a,16b 接着剤吸収室
17a 第1共通インク室
17b 第2共通インク室
18a,18b 余剰接着剤の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に互いに間隔をおいて略平行に配置された複数の隔壁と、隣り合う上記隔壁の間に形成されて、両端が開口する複数のインク溝と、上記複数のインク溝の外側に位置すると共に、一端のみが開口する接着剤吸収溝とを有する圧電基板と、
上記複数のインク溝を覆うように配置されると共に、上記インク溝に連通する複数のノズル孔を有するノズルプレートと、
上記複数のインク溝の一端側の開口に連通すると共に、上記接着剤吸収溝の上記一端側の開口に連通する第1の共通インク室と、
上記複数のインク溝の他端側の開口に連通する第2の共通インク室と
を備えることを特徴とするインクジェット。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記接着剤吸収溝は、その接着剤吸収溝の開口側から奥側に行くにしたがって上記接着剤吸収溝の深さが浅くなっていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記接着剤吸収溝は、その接着剤吸収溝の開口側から奥側に行くにしたがって上記接着剤吸収溝の幅が狭くなっていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記接着剤吸収溝の開口の深さは、上記インク溝の開口の深さよりも深いことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載のインクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッドの製造方法であって、
上記圧電基板に両端が開口する上記インク溝を形成する工程と、上記圧電基板に一端のみが開口する上記接着剤吸収溝を形成する工程とを連続して行うことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−284908(P2010−284908A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141050(P2009−141050)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】