説明

インクジェットヘッドおよびインクジェット装置

【課題】インクジェットヘッドの共通インク室内のインクの圧力を一定にすることで、それに連結する複数のインク室のインクの圧力を一定にし、それにより、各インク室のノズルから液滴として吐出されるインクの量や、吐出速度を一定にすること。
【解決手段】外部からインクを供給するための供給口50を有するインク供給流路10と;外部にインクを排出するための排出口を有するインク排出流路と;前記インク供給流路10および前記インク排出流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室12A〜Cと;前記圧力インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータ13A〜Cと、を有するインクジェットヘッドを提供する。ここで、前記インク供給流路10の流路断面積は、供給口50から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラム20であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド、およびそれを備えるインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、インク供給源からインクを供給される共通インク室と;共通インク室に連通し、かつノズルを有する複数のインク室と;インク室のそれぞれに配置されたアクチュエーター(例えばピエゾ素子)とを有することがある。アクチュエータがインク室内のインクに圧力を与えることで、ノズルからインクが吐出される。
【0003】
インクをノズルから適切に吐出するには、アクチュエータによる圧力を、ノズルからインクを吐出させる力に、効率的に変換することが好ましい。ところが、アクチュエータによる圧力は、ノズルからインクを吐出させる力と、インクを共通インク室にむかわせるための力とに分散されやすいという問題がある(特許文献1を参照)。
【0004】
また、インクジェットヘッドの内部のインクにエアーが混入したり、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりしたりして、適切なインク吐出ができないことがある。そこで、インクジェットヘッドのインクを循環させる(外部からインクジェットヘッドにインクを供給し、インクジェットヘッドからインクを排出する)ことで、エアー混入やノズルつまりを低減させることが提案されている(特許文献2を参照)。インクジェットヘッドのインクを循環させるには、前記共通インク室のインクのみを循環させる態様と、前記共通インク室のインクと前記インク室のインクとを合わせて循環させる態様とがある。
【0005】
図1には、前記共通インク室のインクと前記インク室のインクとを合わせて循環させる態様の例が示される(特許文献2を参照)。インク供給流路100とインク排出流路110とが、共通インク室を構成している。インク室120A〜120Cは、それぞれインク供給流路100およびインク排出流路110と連通している。つまり、インク室120A〜120Cは、連通口160A〜160Cを介してインク供給流路100と連通し;連通口170A〜170Cを介してインク排出流路110と連通している。また、インク室120A〜120Cには、それぞれアクチュエータ130A〜130Cが配置されており、ノズル140A〜140Cが形成されている。
【0006】
図1に示されるように、インク供給口500から供給され、インク供給流路100を流れるインクは、各インク室120A〜120Cに提供される。各インク室120A〜120Cに提供されたインクの一部は、アクチュエータ130A〜130Cの作用により、ノズル140A〜140Cから液滴として吐出され;残りのインクは、インク排出流路110に提供され、インク排出口510から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−126012号公報
【特許文献2】特開2008−254196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、インクジェットヘッド内のインクを適切に吐出するには、アクチュエータの圧力を、ノズルからインクを吐出させる力に効率的に変換させることが重要であるが;さらに、各インク室へのインクの供給量を一定にすること、つまり各インク室のインクの圧力を一定にすることも重要である。各インク室のインクの圧力が一定でないと、各インク室のノズルから液滴として吐出されるインクの量や、吐出速度がばらつくからである。
【0009】
ところが、従来のインクジェットヘッドでは、共通インク室に連通している複数のインク室のうち、共通インク室の供給口付近に連結しているインク室のインクには比較的高い圧力がかかり;一方、共通インク室の供給口から離れた部位に連結しているインク室のインクには低い圧力がかかっていた。これは、共通インク室の供給口付近のインク圧力は比較的高いのに対し、供給口付近から離れるにつれて、徐々にインク圧力が低下するためである。つまり、共通インク室内のインクの圧力が均一でない、という問題があった。
【0010】
そこで本発明者は、共通インク室内のインクの圧力を一定にすることで、複数のインク室のインクの圧力を一定にし、それにより、各インク室のノズルから液滴として吐出されるインクの量や、吐出速度を一定にすることを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、以下に示すインクジェットヘッド、およびそれを具備するインクジェット装置に関する。
[1]外部からインクを供給するための供給口を有するインク供給流路と;前記インク供給流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
[2]外部からインクを供給するための供給口および外部へインクを排出するための排出口を有するインク供給流路と;前記インク供給流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
[3]外部からインクを供給するための供給口を有するインク供給流路と;外部にインクを排出するための排出口を有するインク排出流路と;前記インク供給流路および前記インク排出流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
【0012】
[4]前記ダイヤフラムは、振動可能な金属膜である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
[5]前記インク排出流路の流路断面積は、前記排出口から離れるにしたがって減少している、[3]に記載のインクジェットヘッド。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェットヘッドを具備するインクジェット装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェットヘッドは、インク共通室、好ましくはインク供給流路のインクの圧力を均一にすることができる。よって、インク共通室に連結する複数のインク室内のインク圧力を一定にすることができ、各インク室のノズルから吐出される液滴の量、および吐出速度を一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のインクジェットヘッドにおける、インクの循環を示す模式図である。
【図2】本発明のインクジェットヘッドの第一の態様における、インクの流れを示す図である。
【図3】本発明のインクジェットヘッドの第二の態様における、インクの流れ(循環)を示す図である。
【図4】本発明のインクジェットヘッドの第三の態様における、インクの流れ(循環)を示す図である。
【図5】本発明のインクジェットヘッドの作製例を示す図である。
【図6】図5Cに示される流路フレームの断面図である。
【図7】図5Cに示される流路フレームの作製例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず本発明者は、共通インク室の容量を、供給口付近から離れるにつれて、段階的または徐々に低下させることを検討した。それにより、共通インク室内のインク圧力は均一化されることが見出されたものの;一方で、共通インク室の容量を変化させるだけでは、各インク室のインク圧力を十分には一定にできないことも見出された。そこで本発明者は、さらに共有インク室に連通する各インク室のインク圧力を一定にするために、共通インク室に圧力調整部材として作用する振動板(ダイヤフラム)を設けるにいたった。つまり、共通インク室に設けられたダイヤフラムは、振動することによって共通インク室内のインク圧力を均一化する。
【0016】
本発明のインクジェットヘッドは、供給口を有するインク供給流路と;ノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有する。インクジェットヘッドのインク供給流路には、外部から供給口を通してインクが供給される。
【0017】
第一の態様のインクジェットヘッドでは、インク供給流路に提供されたインクは循環することなく、全てノズルから吐出される(図2参照)。
【0018】
第二の態様のインクジェットヘッドでは、インク供給流路に供給口とともに、排出口も配置されている。そのため、インク供給流路に提供されたインクは、排出口から外部へ排出されることで循環する(図3参照)。
【0019】
第三の態様のインクジェットヘッドでは、供給口を有するインク供給流路とともに、インク排出口を有するインク排出流路を有する。そのため、インク供給流路に提供されたインクは、各インク室を経て、インク排出流路に流れ、外部へ排出されることで循環する(図4参照)。
【0020】
インク室について
本発明のインクジェットヘッドは、複数のインク室(図2〜4の12A〜C参照)を有する。複数のインク室はそれぞれ、インク供給流路(図2〜4の10参照)と連通口(図2〜4の16A〜C参照)を介して連通している。1のインク供給流路に対して複数のインク室を有していればよいが、最大約1000個のインク室を有しうる。また、インク室の数が、2(nは1以上の整数)であってもよい。各インク室に配置するアクチュエータの数も2となりうるため、回路部品の無駄をなくすることができる。
【0021】
また、インクジェットヘッドがインク排出流路(図4の11参照)を有する場合には、複数のインク室はそれぞれ、インク排出流路と連通口(図4の17A〜C参照)を介して連通している。
【0022】
インク室には、インクを吐出するためのノズル(図2〜4の14A〜C参照)が形成されている。通常は、1つのインク室に対して1つのノズルが配置される。インク室内のインクは、後述するアクチュエータ(図2〜4の13A〜C参照)によって圧力を加えられることで、ノズルから液滴として吐出される。ノズルから吐出される液滴の容量は特に限定されず、1〜20plの範囲でありうる。
【0023】
このように、インク供給流路から各インク室にインクが提供され、インク室に提供されたインクはノズルから吐出される。ただし、インク排出流路を有する場合には、吐出されなかった残りのインクは、インク排出流路に提供される。
【0024】
アクチュエータについて
本発明のインクジェットヘッドは、各インク室に配置されたアクチュエータを有する。各インク室に1つまたは複数のアクチュエータが配置される。アクチュエータとは、制御信号を実際の動きに変換する作動装置であって、ヒータ(発熱体)であったり、ピエゾ(圧電素子)であったりするが、ピエゾであることが好ましい。アクチュエータがヒータの場合は、サーマル方式と称され、ヒータが発熱することでインク室内のインク中に気泡を発生させて圧力を加え、インクを吐出させる。そのため、インクの種類によっては、熱によって劣化する恐れがある。一方、アクチュエータがピエゾの場合は、圧電方式と称され、ピエゾが歪むことでインク室の容量を変化させてインクに圧力を加え、インクを吐出させる。
【0025】
アクチュエータであるピエゾは、薄膜ピエゾと積層ピエゾとに分類されうる。薄膜ピエゾは、入力に対する出力応答が速いが、出力が低くなりがちである。そのため薄膜ピエゾは、吐出するべきインク室内のインク圧力や粘度によって吐出がばらつきやすい。そのため、インクの種類によっては適切な吐出ができない場合がある。一方、積層ピエゾは、入力に対する出力応答が遅いが、出力を高めやすい。そのため積層ピエゾは、吐出するべきインク室内のインク圧力に影響を受けにくく、安定した吐出を実現しうる。よって、本発明のインクジェットヘッドのアクチュエーターは、積層ピエゾが好ましい場合がある。
【0026】
また、アクチュエータであるピエゾは、出力形態(歪み方)によって、シェアモードと、プッシュモードと、ベンドモードとに大別されうる。本発明のインクジェットヘッドは、いずれのモードのピエゾを採用してもよい。
【0027】
インク供給流路について
本発明のインクジェットヘッドは、1または複数のインク供給流路を有する。インク供給流路は、外部、例えばインクジェット装置のインクタンクからインクを供給されるためのインク供給口を有する。インク供給流路は、インク供給口を上流側とするインク流路を構成している。インク供給流路には、インクの流れに沿って、前述のインク室が複数連結している。
【0028】
インク供給流路は、インクを外部へ排出するための排出口を有していなくてもよいし(図2参照)、排出口を有していてもよい(図3の51参照)。インク供給流路が排出口を有しない場合には、インクの循環はなされない。また、インク供給流路が排出口を有する場合には、インク供給流路の最も下流側に排出口を配置することが好ましい。
【0029】
インク供給流路に供給されるインク供給量は、特に限定されず、数ml/minであっても、それ以上であってもよい。供給口を通してインク供給流路に供給されたインクは、複数のインク室のそれぞれに分配提供される。
【0030】
インク供給流路の流路断面積は、一定でなく、上流から下流に向かって(インク供給口から離れるにつれて)減少していることが好ましい(図2〜4の10参照)。減少するとは、勾配をもって徐々に減少していてもよいし、段階的に減少していてもよい。インク供給流路の上流側の流路断面積Sは5〜20mmであることが好ましく;下流側の流路断面積Sは2.5〜10mmであることが好ましい。また、Sに対するSの比率(S/S)は1未満であればよいが、0.9〜0.3であることが好ましい。インク供給流路の流路長さは、特に限定されないが、50〜120mmである。
【0031】
本発明のインクジェットヘッドのインク供給流路の壁面の一部は、振動可能な膜(図2〜4の20,20’参照)であることが好ましい。振動可能な膜とは、例えばダイヤフラムである。ダイヤフラムは、例えば、金属膜や樹脂膜などを枠状の部材に貼り付けて、振動できるようにした部材である。
【0032】
ダイヤフラムの振幅量は、約100nm以下に設定されることが好ましい。圧電素子の変位量が、最大200〜300nm程度であるからである。
【0033】
ダイヤフラムは、ヤング率Eと断面2次モーメントIとの積EIが2.9×10−19GPa・m〜6.2×10−15GPa・mの範囲に設定されることが好ましい。ヤング率Eは、物質固有の定数である。断面2次モーメントIは、I=b×h/12(b:膜の幅、h:膜の厚み)にて算出される。
【0034】
ダイヤフラムを構成する金属膜の例には、ステンレス(ヤング率E=190〜220GPa)の膜などが含まれる。ステンレス膜の厚みは、断面2次モーメントの値が1.5×10―20〜2.8×10―16となるように調整されればよく、ステンレス膜の幅が約1mmである場合には、1〜25μm、例えば20μmであればよい。
【0035】
ダイヤフラムを構成する樹脂膜は耐薬品性の高い樹脂膜であることが求められ、例えばポリイミド(ヤング率E=3〜5GPa)や、ポリアリルエーテルケトンの膜などであるが、特に限定されない。
【0036】
インク排出流路について
本発明のインクジェットヘッドは、1また複数のインク排出流路を有しうる(図4の11参照)。インク排出流路を設けることで、インク室内のインクをも循環させることができるので、好ましい。1つのインク供給流路に対して、1つのインク排出流路を有していてもよいし、複数のインク排出流路を有していてもよい。
【0037】
インク排出流路は、外部、例えばインクジェット装置のインクタンクにインクを排出するためのインク排出口を有する。インク排出流路は、インク排出口を下流側とするインク流路を構成している。インク排出流路には、インクの流れに沿って、前述のインク室が複数連結している。
【0038】
インク排出流路には、複数のインク室からインクが提供され、そのインクはインク供給口を通して外部に排出される。
【0039】
インク排出流路の流路断面積は、一定であってもよいが;一定でなく、下流から上流に向かって減少していてもよい(図4の11参照)。減少するとは、勾配をもって徐々に減少していてもよいし、段階的に減少していてもよい。インク排出流路の上流側の流路断面積Sは3〜18mmであることが好ましく;下流側の流路断面積Sは0.5〜8mmであることが好ましい。また、Sに対するSの比率(S/S)は1未満であればよいが、0.9〜0.3であることが好ましい。
【0040】
本発明のインクジェットヘッドは、1)インク供給流路の流路断面を一定にせずに、供給口から離れるにしたがって小さくしていること、2)インク供給流路の壁面の一部を、振動可能な膜としていること、によって特徴付けられうる。それによって、インク供給流路内のインクの圧力を均一にして、各インク室へのインクの提供量を一定にし、各インク室内のインクの圧力を一定にする。その結果、各インク室のノズルから吐出されるインクの吐出スピードおよび吐出量を一定にする。
【0041】
上記メカニズムを、図1と図4とを対比して説明する。図1に示されるように、インク供給流路100に、インク供給口500からインクが供給される。供給されたインクの一部は、まずインク室120Aに提供され、次にインク室120Bに提供され、さらにインク室120Cに提供され、以下同様に各インク室に分配される。したがって、インク供給流路100を流れるインク流量は、徐々に減少していく。そのため、流路断面が一定であるインク供給流路100の内部のインク圧力は不均一となる。つまり、供給口500近傍のインク圧力は高くなり、供給口500から離れるにつれてインク圧力は低くなる。
【0042】
そうすると、インク供給口500近傍に連結されたインク室120Aにはインクが多量に提供され、インク室120Aのインク圧力も高くなり;一方、インク供給口500から離れた部位に連結されたインク室120Cにはインクが少量しか提供されず、インク室120Cのインク圧力も低くなる。
【0043】
このように、インク室120A〜120C内のインク圧力が一定でなくなると、各ノズル140A〜140Cから液滴として吐出されるインクの量および速度も一定でなくなる。つまり、インク室120Aのノズル140Aからは、相対的に、多量のインクが高速で吐出され;インク室120Cのノズル140Cからは、相対的に、少量のインクが低速で吐出される。
【0044】
これに対して図4では、インク供給流路10に、インク供給口50からインクが供給される。供給されたインクの一部は、まずインク室12Aに提供され、次にインク室12Bに提供され、さらにインク室12Cに提供され、以下同様に分配される。したがって、図1での場合と同様に、インク供給流路10を流れるインク流量は、供給口50から離れるにつれて徐々に減少していく。ところが、インク供給流路10の流路断面積は、供給口50から離れるにつれて減少している。したがって、インク供給流路10を流れるインク流量が徐々に減少したとしても、インク供給流路10の内部のインク圧力は均一化される。
【0045】
そのため、各インク室12A〜12Cに提供されるインク量も均一化され、各インク室12A〜12Cのインク圧力も一定となる。その結果、各インク室12A〜12Cのノズル14A〜14Cから液滴として吐出されるインクの量および速度も一定となる。
【0046】
さらに、図4のインク供給流路10の壁面の一部はダイヤフラム20とされている。ダイヤフラム20は振動可能な膜であるため、インク供給流路10の内部のインク圧力が均一でない場合に、インク圧力が高い箇所で拡がることで、インク供給流路10の断面積を拡張することができる。例えば、インク供給流路10の上流側(供給口50近傍)でのインク圧力が高い場合には、上流側のダイヤフラム20が拡張し、図4の20’に示される状態となる。それにより、インク供給流路10の内部のインク圧力はさらに均一化される。
【0047】
以上のメカニズムにより、本発明のインクジェットヘッドのインク供給流路の内部のインク圧力は均一化される。図4を参照して説明したが、同様の構成のインク供給流路を有する図2および図3に示されるインクジェットヘッドについても、同様にインク圧力が均一化される。
【0048】
さらに、図4に示されるように、インク排出流路11の流路断面積を、インク供給流路10の流路断面積と同様に変化させてもよい。インク排出流路には、インク室12Aからのインクが提供され、次にインク室12Bからのインクが提供され、さらにインク室12Cからのインクが提供され、以下同様に各インク室から提供される。したがって、インク排出流路11を流れるインク流量は、排出口51に近づくにつれて徐々に増加していく。そのため、図2に示されるように、インク排出流路11の流路断面積を排出口51に近づくにつれて増加させれば、インク排出流路11内のインク圧力を均一化することができる。
【0049】
さらに、インク供給流路10と同様に、インク排出流路11の壁面の一部をダイヤフラム21としてもよい。ダイヤフラム21により、インク排出流路11内のインク圧力をより均一化することができる。例えば、排出口51近傍でのインク圧力が高い場合には、下流側のダイヤフラム21が拡張し、図4の21’に示される状態となる。
【0050】
前述の通り、本発明のインクジェットヘッドは、インク供給流路の壁面の一部にダイヤフラムを有し;インク排出流路の壁面の一部にもダイヤフラムを有しうる。これらダイヤフラムは、インク供給流路やインク排出流路のインク圧力の均一化とともに、クロストークの抑制にも効果的である。クロストークとは、一のインク室でアクチュエータが作動してインクに圧力を加えたときに、その圧力が反動波となって、他のインク室のインクにも伝播することをいう。ダイヤフラムは、この反動波を吸収することでクロストークを抑制することができる。
【0051】
インクジェットヘッドの製造方法
本発明のインクジェットヘッドを製造する手法は特に限定されない。以下において、インク排出流路を有する第3の態様のインクジェットヘッド(図4参照)の製造例を、図5A〜Dを参照して説明する。
【0052】
本発明のインクジェットヘッドは、複数の板状部材を積層することで製造されうる。板状部材の材質は特に限定されないが、例えばステンレス板である。
【0053】
図5Dに示されるピエゾプレートには、アクチュエータである複数のピエゾ60が配置されている。また、インク供給流路(図5Cの71参照)の供給口70と、インク排出流路(図5Cの81参照)の排出口80とが形成されている。
【0054】
図5Cに示される流路フレームには、1本のインク供給流路71と、2本のインク排出流路81とが形成されている。また、インク供給流路71とインク排出流路81との間には、ピエゾプレートに配置されたピエゾ60が収納されるギャップ61も設けられている。
【0055】
図6Aは、図5Cに示される流路フレームの、インク供給流路71に沿った断面図(X−X線の断面図)である。図6Aに示されるように、インク供給口70から離れるにしたがって、天面72の深さが浅くされている。このようにして、インク供給流路71の流路断面は、インク供給口70から離れるにしたがって減少する。また、図6Aに示されるインク供給流路の天面72は、ダイヤフラムで構成されている。ダイヤフラムが振動できるように、溝73が形成されている。
【0056】
図6Bは、図5Cに示される流路フレームの、インク排出流路81に沿った断面図(Y−Y線の断面図)である。図6Bに示されるように、インク排出口80から離れるにしたがって、天面82の深さが浅くされている。このようにして、インク排出流路81の流路断面は、インク排出口80から離れるにしたがって減少する。また、図6Bに示されるインク排出流路の天面82は、ダイヤフラムで構成されていてもよい。ダイヤフラムが振動できるように、溝83が形成されている。
【0057】
流路フレームは、例えば図7A〜Cに示されるようにして作製すればよい。まず、深さが変化するような流路を形成したハウジング前駆体92(図7A)を用意する。それに溝加工をしてハウジング92’を得る(図7B)。一方、ダイヤフラム93をエッチング加工または、レーザ加工により作製する。ハウジング92’の溝を塞ぐように、ダイヤフラム93を接着して流路フレーム92’’を得る。ダイヤフラム93は、熱拡散接合によって接着されてもよいし、接着剤(UV硬化樹脂など)で接着されてもよい。
【0058】
図5Bに示されるインク室プレートには、流路フレーム(図5C)のインク供給流路71とインク排出流路81とを接続する複数の流路90が配列されている。各流路90の位置と、第1プレートに配置された各ピエゾ60の位置とを一致させる。インク室プレートの流路90がそれぞれ、インク室となる。
【0059】
図5Aに示されるノズルプレートには、インク室プレートの流路90のそれぞれに対応するノズル91が形成されている。
【0060】
各プレートは、接着剤によって貼り付けられたり、溶接によって貼り付けられたりして積層されてもよいが、熱拡散接合(熱圧着)によって積層されていてもよい。
【0061】
インクジェット装置について
本発明のインクジェット装置は、前述のインクジェットヘッドを具備することを特徴とするが、それ以外は公知のインクジェット装置の部材を適宜有する。例えば、インクジェットヘッドを固定する部材や、インクを塗布する対象物を載置して移動するための移動ステージなどを有する。
【0062】
インクジェット装置は、インクジェットヘッドのインクを循環させる場合には、インク循環装置を具備する。インクの循環はポンプなどの駆動圧力で行うが、供給圧力が一定になるように循環タンクを介して循環させることが好ましい。インクジェット装置は、インクジェットヘッドのインクを、装置作動中に絶えず循環させてもよいし;断続的に循環させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のインクジェット装置は、各ノズルから液滴として吐出されるインク量および吐出速度が、ノズルごとに一定にすることができる。よって、インクを塗布される被塗布物に、均一にインクを塗布することができる。そのため、例えば有機ELディスプレイパネルの製造における有機発光材料を塗布形成するための装置として好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0064】
10 インク供給流路
11 インク排出流路
12A、12B,12C インク室
13A,13B,13C アクチュエータ
14A,14B,14C ノズル
16A,16B,16C 連通口
17A,17B,17C 連通口
20,21 ダイヤフラム
20’,21’ 拡張した状態のダイヤフラム
50 インク供給口
51 インク排出口
60 ピエゾ
61 ギャップ
70 インク供給口
71 インク供給流路
72 インク供給流路の天面
73 溝
80 インク排出口
81 インク排出流路
82 インク排出流路の天面
83 溝
90 流路(インク室)
91 ノズル
92 ハウジング前駆体
92’ ハウジング
93 ダイヤフラム
92’’ 流路フレーム
100 インク供給路
110 インク排出路
120A、120B,120C インク室
130A,130B,130C アクチュエータ
140A,140B,140C ノズル
160A,160B,160C 連通口
170A,170B,170C 連通口
500 インク供給口
510 インク排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からインクを供給するための供給口を有するインク供給流路と;前記インク供給流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
【請求項2】
外部からインクを供給するための供給口および外部へインクを排出するための排出口を有するインク供給流路と;前記インク供給流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
【請求項3】
外部からインクを供給するための供給口を有するインク供給流路と;外部にインクを排出するための排出口を有するインク排出流路と;前記インク供給流路および前記インク排出流路に連通し、インクを吐出するためのノズルを有する複数のインク室と;前記インク室のそれぞれに配置されたアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドであって、
前記インク供給流路の流路断面積は、前記供給口から離れるにしたがって減少し、かつ前記インク供給流路の側壁の少なくとも一部は、ダイヤフラムである、インクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ダイヤフラムは、振動可能な金属膜または樹脂膜である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記インク排出流路の流路断面は、前記排出口から離れるにしたがって減少している、請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを具備するインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143331(P2011−143331A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4257(P2010−4257)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】