説明

インクジェットヘッドの電気接続構造、電気接続方法およびインクジェットヘッドの製造方法

【課題】支持部材が斜めに挿入されても確実に電気接続することができるインクジェットヘッドの電気接続構造を提供する。
【解決手段】液体が吐出される液体吐出口12と、液体吐出口12に連通する圧力室16を構成する圧力室形成基板18と、圧力室形成基板18の液体吐出口12の反対側に設けられたエネルギー発生素子22と、を有し、圧力室形成基板18のエネルギー発生素子22側には凹部構造82が設けられ、一方の端部がエネルギー発生素子22に接続され、他方の端部が凹部構造22内に配設された基板配線48と、支持部材62に接着され、支持部材配線のパターンが形成されたフレキシブル基板60と、が当接され電気的に接続されたことを特徴とするインクジェットヘッドの電気接続構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドの電気接続構造、電気接続方法およびインクジェットヘッドの製造方法に係り、特に、支持部材を用いて基板側と支持部材側の先端の配線を電気接続するインクジェットヘッドの電気接続構造、電気接続方法およびインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性のフレキシブル基板を用いて電気的な接続を行なう接続構造が知られている。電気的な接続には、フレキシブル基板を支持部材に貼り付けた板状部材を、配線部材保持孔を通して、流路基板側に形成されている配線に電気接続している。この時、支持部材が斜めに挿入されると、位置ずれが生じたり、支持部材の両側に形成される配線の片側の列には電気接続できるが、もう片側はフレキシブル基板が浮いてしまい、高さの関係で接触できずに電気接続ができない、という問題が生じていた。
【0003】
このような問題を解決するため、例えば、下記の特許文献1には、リード電極に接続された可撓性の配線基板と、配線基板が接続された支持部材からなり、支持部材の下端面に緩衝部材(テフロン(登録商標))を設けて均等に押圧することが記載されている。また、特許文献2には、凹凸の嵌合部で電気接続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−255516号公報
【特許文献2】特開2006−281763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている液体噴射ヘッドは、緩衝部材を設けることで、表面の粗さに対応することはできるが、支持部材が傾き、接続すべき端子間の距離が離れた場合には、対応するのが困難であった。無理に接続しようとすると、片側に極端に荷重をかけて押しつぶす必要があるため、流路基板そのものを破壊する恐れがあった。また、特許文献2には、支持部材の傾きに相当するような課題について検討されていなかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、流路形成基板側の配線と支持部材側の先端の配線を確実に電気接続することができるインクジェットヘッドの電気接続構造、電気接続方法およびインクジェットヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、液体が吐出される液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室を構成する圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板の前記液体吐出口の反対側に設けられたエネルギー発生素子と、を有し、前記圧力室形成基板の前記エネルギー発生素子側には凹部構造が設けられ、一方の端部が前記エネルギー発生素子に接続され、他方の端部が前記凹部構造内に配設された基板配線と、支持部材に接着され、支持部材配線のパターンが形成されたフレキシブル基板と、が当接され電気的に接続されたことを特徴とするインクジェットヘッドの電気接続構造を提供する。
【0008】
本発明によれば、圧力室形成基板に凹部を設け、この凹部内にも配線を形成することで、フレキシブル基板が設けられた支持部材を圧力室形成基板に対して垂直に挿入される場合は、通常通り両側の配線に接続される。また、支持部材が斜めに挿入された場合、圧力室形成基板上の凹部に支持部材の先端の一部を接続させることで、他方側の配線も斜めに接続することができるので、支持部材の両側のフレキシブル基板の配線の接続を確実に行なうことができる。
【0009】
なお、エネルギー発生素子としては、圧電素子、サーマル方式におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による、静電アクチュエータなどの各種アクチュエータなど様々なエネルギー発生素子を用いることができる。
【0010】
本発明は、前記フレキシブル基板の少なくとも一部が、前記凹部構造内の基板配線に接続されていることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、圧力室形成基板に凹部が形成されているので、支持部材が斜めに挿入された場合に、フレキシブル基板の少なくとも一部が凹部内部の配線に接続するように配置できるので、他方のフレキシブル基板もエッジ部、あるいは、凹部の外側に設けられた配線とで電気接続することができるので、確実に電気接続することができる。
【0012】
本発明は、前記フレキシブル基板は、前記支持部材の側面、および、圧力室形成基板に当接される面に設けられており、前記基板配線は、前記凹部構造内の側面、および、底面に設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、フレキシブル基板を支持部材の側面、先端、基板配線を凹部構造内の側面、底面に設けることで、斜めに支持部材が挿入されてもいずれかの箇所で電気接続することができる。
【0014】
本発明は、前記支持部材の先端と、前記圧力室形成基板の凹部構造と、の少なくともいずれか一方に直線または曲面のテーパー形状が形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、支持部材の先端と、圧力室形成基板の凹部と、の少なくともいずれか一方をテーパー形状としているので、支持部材が傾いても確実な電気接続をすることができる。また、位置合わせが可能である。
【0016】
本発明は、前記圧力室形成基板に形成された凹部構造の形状が、前記支持部材の先端の形状に略一致することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、凹部構造の形状と支持部材の先端の形状を略同じ形状とすることで、電気接続した際の接触面積を増やすことができる。
【0018】
本発明は、前記支持部材の先端は外側に凸となるR形状を有し、前記圧力室形成基板の凹部構造はテーパー形状であることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、支持部材の先端を外側に凸となるR形状、圧力室形成基板の凹部構造をテーパー形状としているので、支持部材の傾きが大きくなっても凹部構造内に支持部材を入れることができるので、確実に電気接続をすることができる。また、位置合わせを容易に行なうことができる。
【0020】
本発明は、前記圧力室形成基板と、前記基板配線の少なくとも一部と、の間に樹脂層を有し、前記樹脂層に前記凹部構造が形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、圧力室形成基板上の少なくとも電気接続部に樹脂層を有し、この樹脂層に凹部構造を形成しているので、凹部構造の形成を容易に行なうことができる。
【0022】
本発明は、前記圧力室形成基板の凹部構造の長手方向端部の一方に突き当て部を設け、前記支持部材を前記突き当て部に当接することで長手方向に位置合わせをすることが好ましい。
【0023】
本発明によれば、圧力室形成基板に形成された凹部構造の長手方向の端部を支持部材の突き当て部とすることで、支持部材の長手方向の位置合わせを行なうことができる。
【0024】
本発明は、前記突き当て部が、前記凹部構造の長手方向端部のテーパー形状に設けられていることが好ましい。
【0025】
凹部構造の形成を例えばSiの異方性ウエットエッチングにより行なった場合など、凹部の側面部分のみでなく、前面、背面部分にもテーパー形状が形成される。本発明によれば、このテーパー形状に突き当て部を別途設けることで、この突き当て部に支持部材を当接することで長手方向に位置合わせを行うことができる。
【0026】
本発明は、前記支持部材の先端にピンを有し、前記基板の凹部構造内に、前記ピンに対応する位置決定穴を有することが好ましい。
【0027】
本発明によれば、支持部材の先端にピンを有し、圧力室形成基板の凹部構造内にこのピンに対応する位置決定穴を有している。したがって、ピンと位置決定穴が嵌まるように支持部材を接続させることで、支持部材と圧力室形成基板の位置合わせを行なうことができる。
【0028】
本発明は、前記フレキシブル基板と前記電気接続部との接続に導電性粒子を用いることが好ましい。
【0029】
支持部材が斜めに挿入されると、フレキシブル基板と配線とが長手方向の線接触となるため、接触面積が小さくなり、接続の信頼性が低くなることが懸念される。本発明によれば、接続に導電性粒子を用いることにより、電気接続の接触点を増やすことができ、接続の信頼性を上げることができる。
【0030】
本発明は前記目的を達成するために、液体が吐出される液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室を構成する圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板の前記液体吐出口の反対側に設けられたエネルギー発生素子と、を有し、前記圧力室形成基板の前記エネルギー発生素子側には凹部構造が設けられ、一方の端部が前記エネルギー発生素子に接続され、他方の端部が前記凹部構造内に配設された基板配線と、支持部材に接着され、支持部材配線のパターンが形成されたフレキシブル基板と、を、前記支持部材の先端と、前記凹部構造と、を当接させて接合することを特徴とするインクジェットヘッドの電気接続方法を提供する。
【0031】
本発明によれば、支持部材の先端と、凹部構造を当接させて接合しているので、支持部材が斜めに挿入されても、支持部材の側部、凹部構造の側面などで、電気接続することができ、電気接続を確実に行なうことができる。
【0032】
本発明は前記目的を達成するために、上記記載のインクジェットの電気接続方法を用いることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法を提供する。
【0033】
本発明によれば、確実に電気接続を行なうことができるので、インクジェットヘッドの製造方法として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のインクジェットヘッドの電気接続構造によれば、流路形成基板に、内部に形成された凹部を設け、さらに、この凹部内でフレキシブル基板と配線の一部を接続させることで、他方のフレキシブル基板も電気接続することができ、両側を確実に電気接続することができる。したがって、支持部材を斜めに挿入しても、電気接続を確実にすることができ、また、位置合わせも行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】インクジェットヘッドの電気接続構造を示す断面図である。
【図2】支持部材が斜めに挿入された接続構造の例を説明する図である。
【図3】凹部の構成の他の実施形態を説明する図である。
【図4】凹部の構成のさらに他の実施形態を説明する図である。
【図5】支持部材の位置合わせ方法を説明する図である。
【図6】支持部材の他の位置合わせ方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って本発明に係るインクジェットヘッドの電気接続構造、電気接続方法およびインクジェットヘッドの製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0037】
はじめに、本発明の適用例に係るインクジェットヘッドの構造について説明する。図1は、液体吐出ヘッドの断面図である。この液体吐出ヘッド10は、ノズル開口部12を備えたノズル基板14と、該ノズル基板14の上面に接合され、圧力室16の隔壁部17を形成する圧力室形成基板18と、該圧力室形成基板18の上面に接合された振動板20と、振動板20の上面に接合された圧電素子22と、該圧電素子22の上部空間(変位空間)を確保しつつ圧電素子22の上方を覆うとともに、リザーバ24を形成するリザーバ形成基板26と、圧電素子22との電気接続を行なうためのフレキシブル基板60を有する支持部材62を備えている。
【0038】
複数のノズル開口部12にそれぞれ対応するように複数形成されている圧力室16は、圧力室形成基板18による隔壁部17と、ノズル基板14と、振動板20とで囲まれた空間によって形成される。
【0039】
リザーバ24は、不図示の液タンクに繋がる液導入口32から導入された液を一次的に保持(貯留)する液室であり、このリザーバ24から各圧力室16に液が供給される。すなわち、リザーバ24は、複数の圧力室16に対する共通の液保持室(共通液室)となっている。
【0040】
リザーバ形成基板26によって形成されるリザーバ部34に連通する連通部36と、該連通部36を介してリザーバ24から各圧力室16に液を導く個別供給路38は、圧力室形成基板18によって形成される。
【0041】
圧力室形成基板18の上面を覆う振動板20は、圧力室16側に面した弾性膜42と、該弾性膜42の上面に設けられた下部電極44とから構成される。下部電極44は各圧力室16に対応した複数の圧電素子22の共通電極として機能する。なお、本例では、弾性膜42の上に下部電極44を重ねた構造の振動板20を用いているが、かかる構成に代えて、金属製の振動板を用いるなどして、弾性膜42を省略した構造とし、共通電極を兼ねる振動板を採用してもよい。
【0042】
圧電素子22は、下部電極44の上面に設けられた圧電体膜46と、その圧電体膜46の上面に設けられた上部電極48とを備えている。すなわち、下部電極44と、上部電極48と、両電極膜の間に介在する圧電体膜46とによって圧電素子22が構成される。圧電素子22は、各圧力室16ごとに設けられており、上部電極48は各圧電素子22の個別電極として機能する。
【0043】
リザーバ形成基板26のうち、圧電素子22に対向する領域には、各圧電素子22の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部50が設けられている。このように、リザーバ形成基板26は、圧電素子22を外部環境と遮断して、圧電素子22を封止するための封止部材として機能している。
【0044】
圧電素子保持部50によって封止されている圧電素子22のうち、上部電極48の一方の端部は、圧電素子保持部50の外側まで延びており、フレキシブル基板60の配線接続を行なうための接続端子部(電極の引き出し部分)となっている。なお、図1においては、上部電極48を延設することで、配線としているが、他の方法、例えば、上部電極の上に、例えば、金(Au)等からなるリード電極を接続し、他方を圧電素子保持部50の外側に延ばし接続端子部とすることもできる。
【0045】
また、リザーバ形成基板26には、リザーバ形成基板26を厚さ方向に貫通する貫通孔64が設けられている。貫通孔64は、本実施形態では圧電素子保持部50の間に設けられている。そして、各圧電素子22から引き出された上部電極48の端部は、貫通孔64内に露出するように設けられている。
【0046】
圧電素子22との電気接続を行なうフレキシブル基板60は、下端部が上部電極48に接続されるとともにほぼ垂直に立ち上げられて支持部材62の側面に接着されている。本実施形態では、これらの支持部材62、フレキシブル基板60および駆動回路(図示せず)で配線基板が構成されている。
【0047】
さらに、図1に示すように、リザーバ形成基板26上には、封止膜66および固定板68とからなるコンプライアンス基板70が接合されている。ここで、封止膜66は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜66によってリザーバ24の一方面が封止されている。また、固定板68は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板68のリザーバ24に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部72となっているため、リザーバ24の一方面は可撓性を有する封止膜66のみで封止されている。
【0048】
さらに、コンプライアンス基板70上には、保持部材であるヘッドケース74が設けられている。ヘッドケース74には、インク導入口に連通してカートリッジ等のインク貯留手段からのインクをリザーバ24に供給するインク導入路が設けられている。また、ヘッドケース74には、開口部72に対向する領域に凹部が形成され、開口部72のたわみ変形が適宜行われるようになっている。さらに、ヘッドケース74には、リザーバ形成基板26に設けられた貫通孔64と連通する配線部材保持孔78が設けられており、配線部材は、配線部材保持孔78内に挿通されて上部電極48と接続されている。そして、ヘッドケース74の配線部材保持孔78に挿通された支持部材62は、ヘッドケース74と接着剤80を介して接着されている。
【0049】
図1に示すように、支持部材62に貼り付けられたフレキシブル基板60が、圧力室形成基板(流路形成基板)18と接続する箇所には、圧力室形成基板18の隔壁部17が凹部状に形成されている。また、フレキシブル基板との接続部分である上部電極48は、凹部82内部まで接続されている。凹部状に形成することで、支持部材62が垂直に挿入される場合は、上部電極48に接続する。支持部材が圧力室形成基板18に対して傾いて挿入された場合は、図2に示すように、支持部材62の両側に貼り付けられたフレキシブル基板60のいずれか一方を凹部82内の上部電極48と接続させる。他方のフレキシブル基板についても、凹部82の内部あるいは、エッジ部でフレキシブル基板60と接合させることができるので、両側のフレキシブル基板を確実に電気接合することができる。
【0050】
図2に、支持部材の先端(電気接続部分)と流路基板側凹部82の形状の例を示す。なお、図2、3、5、6においては、構成を簡略化するため、圧力室形成基板18と上部電極48のみを示して説明する。
【0051】
図2(a)、(b)は、圧力室形成基板(以下、単に「基板」ともいう)の凹部82および支持部材62先端の形状が四角形状のものであり、(a)は、凹部82より支持部材62の先端が太い場合、(b)は凹部82より支持部材62の先端が細い場合である。また、図2(c)は、基板の凹部82および支持部材62先端の形状が台形形状のものである。また、図2(d)基板の凹部82および支持部材62先端の形状が三角形形状のものである。いずれの形状においても、支持部材62の先端のエッジ部または基板の凹部82のエッジ部が他方の配線に接続させることができる。また、図2(e)は、基板の凹部82および支持部材62の先端がR形状を有するものである。R形状とすることで、基板凹部82と支持部材62の先端がいずれかの位置で接触させることができる。
【0052】
なお、図2(a)〜(e)においては、基板の凹部82の形状と支持部材62の先端の形状が同じものを例示したが、本発明はこれに限定されず、基板凹部82の形状と支持部材62の先端の形状を異なる構成とすることも可能である。このような構成として、例えば、図2(f)に示すように、基板凹部82の形状を台形、支持部材62の先端をR形状とすることができる。
【0053】
電気接続部は、支持部材62の先端(電気接続部分)と基板の凹部82の形状のいずれか、もしくは、両方がR形状、あるいは、基板の凹部82側が、開口部に向かい広がるテーパー形状を有することが好ましい。いずれかをR形状、または、斜面を有する形状とすることで、支持部材62の傾きが大きくても電気接続をすることができる。
【0054】
支持部材62先端と基板の凹部82の形状は、好ましくは、同じ曲率を持つR形状とすることが好ましい。同じ曲率を持つR形状とすることで、支持部材62の傾きに対応できるとともに、接触面積を増やすことができる。しかしながら、凹部をR形状とする、同じ曲率を有するR形状を作成することが困難であるため、図2(f)に示すように、基板18側を、斜面を持つ凹部とし、支持部材62の先端をR形状としてもよい。支持部材62の先端の形状、または、基板の凹部82の形状をR形状とすることで、段差などにより配線が切断されることを防止することができる。
【0055】
また、図2(g)に示すように、支持部材62の先端の形状を台形とR形状を組み合わせた形状とすることもできる。このような形状とすることで、基板18側の凹部82の形状も小さくすることができるので、位置合わせ、支持部材が傾いても電気接続が可能であるという効果を維持したまま、インクジェットヘッドの寸法を小さくすることができる。
【0056】
以上、支持部材先端の形状と基板の凹部の形状について、具体例を挙げて説明したが、本発明はこれらに限定されず、電気接続できるように、加工の寸法精度、接続時の傾きの精度を考慮して、基板凹部の形状および寸法、支持部材先端の形状および寸法、配線の形状および寸法を設計する必要がある。
【0057】
[凹部の形成方法]
凹部の形成方法は、特に限定されず形成することができるが、例えば、エッチング、特に異方性を利用したウエットエッチングにより形成することが可能である。振動板20の材料としてSiOが用いられる場合は、圧力室形成基板18の凹部が形成されない部分にのみSiOをパターニングしておき、振動板20をマスクとして圧力室形成基板18に凹部を形成することができる。圧力室形成基板18と振動板20の材料がともにSiの場合は、圧力室形成基板18上に振動板20を形成した後、圧力室形成基板18と振動板20とを同時にエッチングしても良い。この場合、下部電極44の下層に熱酸化のSiO、もしくは樹脂をスプレーコートするなどの絶縁層を設ける必要がある。
【0058】
その後、圧電体膜46をゾルゲル法あるいはスパッタ法などにより、配線となる金属(上部電極48)をスパッタ法などにより成膜する。配線のパターニングは、凹部による段差があるので、レジストをスプレーコートし露光現像、配線をエッチング、必要に応じてめっきで配線の厚みを厚くすることにより行なうことができる。
【0059】
また、他の凹部の形成方法として、図3に示すように、振動板20上に樹脂層84を形成し、その樹脂層84に凹部86を形成し、樹脂層84の上に配線(上部電極)48を形成することもできる。凹部86の形成は、樹脂層84に感光性のレジスト材料を用い、露光現像条件を調整、あるいは、グレーマスクを用いてテーパーを持つ凹部86を形成することができる。さらに、別の方法として、別に加工した樹脂のシート材料を接合することで凹部を形成することも可能である。樹脂のシート材料85を接合する場合は、図4に示すように、圧力室形成基板18と圧電素子22の間には樹脂のシート材料85を設けず、圧力室形成基板18上に樹脂のシート材料85を設け、その上に配線(上部電極)48を形成することで、凹部86を形成することが好ましい。圧電素子22の下にシート材料85があると圧電素子22の変形が小さくなり効率が悪くなるからである。
【0060】
圧電素子22(下部電極44、圧電体膜46、上部電極48)を製造する方法としては従来と同様の方法により製造することができる。また、凹部への配線形成方法としては、インクジェットを用いて段差部に配線を形成することも可能である。
【0061】
支持部材62の材料としては、圧力室形成基板18と熱膨張率が近いもしくは等しいものを用いることができる。例えば、圧力室形成基板18の材料がSiなら、支持部材62の材料もSi、もしくは、熱膨張率が近いインバー(invar)を用いることが好ましい。
【0062】
また、支持部材62は、保持部材であるヘッドケース74と線膨張係数が同等の材料で形成することが好ましく、例えば、ステンレス鋼Siを用いることができる。支持部材62とヘッドケース74との線膨張係数が近い材料を用いることにより、インクジェットヘッドが熱により膨張・収縮した際に、ヘッドケース74と支持部材との線膨張係数の違いによる反りや破壊を防止することができる。また、線膨張係数が異なる材料を用いると、支持部材が圧力室形成基板18を押圧してしまい、圧力室形成基板18にクラックが発生することが考えられる。
【0063】
支持部材62に貼り付けるフレキシブル基板60の材料としては、ポリイミドが用いられる。フレキシブル基板に形成された配線と圧力室形成基板に形成された配線とを接続する電気接続にはNCP(絶縁性ペースト)、NCF(絶縁性膜)、ACP(異方性導電ペースト)、ACF(異方性導電膜)、半田バンプなどを利用することができる。これらの材料は、NCP、ACPは接続前に電気接続部に塗る、NCF、ACFのシート状のものは電気接続部に貼り付けることができる。半田バンプは電気接続部に形成しておくことで利用することができる。
【0064】
さらに、表面粗さに対応できるように、導電性粒子を含むACP、ACFを用いることが好ましい。導電性粒子を含むACP、ACFを用いることにより、支持部材62と、圧力室形成基板18が接触する際、導電性粒子が潰されて、電気的な接続を行なうことができる。本発明においては、特に、支持部材62が、斜めに挿入された場合に、支持部材62側のフレキシブル基板60と圧力室形成基板18側の上部電極48との接触面積が小さくなるので図2において、図中の奥行き方向に接触しているのみであるので、線接触になる場合があると考えられる。導電性粒子を含ませることにより、電気接続の接触点を増やすことができるので、接続の信頼性を増やすことができる。
【0065】
なお、図では、支持部材62の両側面にそれぞれ1枚ずつフレキシブル基板60を設けているが、特に限定されず、片側の面のみにフレキシブル基板を設けてもよく、両面に2枚以上のフレキシブル基板60を設けることもできる。また、両側面のフレキシブル基板に、連続した1枚の基板を用いることもできる。支持部材の両側面にそれぞれ1枚ずつ設けた場合には、両側面で配線の位置を決定する必要があるが、連続した1枚の基板を用いることにより、このような位置決めを行なうことなく、製造することができる。
【0066】
支持部材62とヘッドケース74の接続は、ヘッドケース74と支持部材62とを、フレキシブル基板60の保持口が設けられた領域で接着剤を介して接着することもできるし、フレキシブル基板60とヘッドケース74とを接着するようにしてもよい。また、リザーバ形成基板26と支持部材62との間の空間をモールド材によってモールドするようにしてもよい。
【0067】
また、図1は、圧力室形成基板18に圧力室16が併設された列を2列設けたものであるが、この場合の列数には特別な制限はない。1列であっても、3列以上であっても構わない。複数列の場合には、少なくとも2列一組を相対向させて設ければよい。
【0068】
また、支持部材62が導電性材料で形成されている場合には、支持部材62を接地するようにしてもよい。支持部材62を接地することで、駆動回路などから発生するノイズをシールドすることができ、ノイズによる駆動信号などへの阻害を抑制することができる。また、支持部材62を接地することで、インクジェットヘッドの移動時に浮きメタルによるノイズの発生を低減することができる。
【0069】
[支持部材の位置決定]
圧力室形成基板18に例えばSiの異方性ウエットエッチングにより凹部を形成すると、図5(b)に示すように、図1の奥行き方向にもテーパー形状が形成される。したがって、図5に示すように、支持部材62の先端にピン90を設けるとともに、圧力室形成基板18側の凹部82にもこのピン90に対応する位置決定穴92を設ける。そして、配線接続時に、このピン90を位置決定穴92に適合させることで、支持部材62と圧力室形成基板18の長手方向(図5(b)の左右方向)の位置決めをすることができる。ただし、支持部材62が傾く可能性があるので、圧力室形成基板18に形成される位置決定穴92は、支持部材62が傾いても、ピン90と位置決定穴92が嵌まるように幅方向に余裕のある形状とすることが好ましい。ピン90の本数は、1本でも複数本であってもよく、設ける位置も図5(b)では、1箇所のみ設けているが、1箇所でも複数個所であってもよい。また、フレキシブル基板60にもピン90に対応する穴を設けることで、支持部材62とフレキシブル基板60の位置決めに用いることも可能である。
【0070】
図6は、支持部材62の位置合わせの別の対応を示したものである。支持部材62の奥行き方向の位置合わせは、図6(a)に示すように、凹部82を形成する際の異方性エッチングにより形成された凹部に突き当て部材94を設置し、この突き当て部材94に支持部材62を当てることで、位置合わせを行なうことができる。また、図6(b)に示すように、テーパー部が形成されない方法により凹部82を形成した場合は、凹部82の端部を突き当て位置として位置決めに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
10…液体吐出ヘッド、12…ノズル開口部、14…ノズル基板、16…圧力室、17…隔壁部、18…圧力室形成基板、20…振動板、22…圧電素子、24…リザーバ、26…リザーバ形成基板、32…液導入口、34…リザーバ部、36…連通部、38…個別供給路、42…弾性膜、44…下部電極、46…圧電体膜、48…上部電極、50…圧電素子保持部、60…フレキシブル基板、62…支持部材、64…貫通孔、66…封止膜、68…固定板、70…コンプライアンス基板、72…開口部、74…ヘッドケース、78…配線部材保持孔、80…接着剤、82、86…凹部、84…樹脂層、85…シート材料、90…ピン、92…位置決定穴、94…突き当て部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出される液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室を構成する圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板の前記液体吐出口の反対側に設けられたエネルギー発生素子と、を有し、
前記圧力室形成基板の前記エネルギー発生素子側には凹部構造が設けられ、
一方の端部が前記エネルギー発生素子に接続され、他方の端部が前記凹部構造内に配設された基板配線と、
支持部材に接着され、支持部材配線のパターンが形成されたフレキシブル基板と、
が当接され電気的に接続されたことを特徴とするインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項2】
前記フレキシブル基板の少なくとも一部が、前記凹部構造内の基板配線に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項3】
前記フレキシブル基板は、前記支持部材の側面、および、圧力室形成基板に当接される面に設けられており、
前記基板配線は、前記凹部構造内の側面、および、底面に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項4】
前記支持部材の先端と、前記圧力室形成基板の凹部構造と、の少なくともいずれか一方に直線または曲面のテーパー形状が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項5】
前記圧力室形成基板に形成された凹部構造の形状が、前記支持部材の先端の形状に略一致することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項6】
前記支持部材の先端は外側に凸となるR形状を有し、前記圧力室形成基板の凹部構造はテーパー形状であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項7】
前記圧力室形成基板と、前記基板配線の少なくとも一部と、の間に樹脂層を有し、前記樹脂層に前記凹部構造が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項8】
前記圧力室形成基板の凹部構造の長手方向端部の一方に突き当て部を設け、前記支持部材を前記突き当て部に当接することで長手方向に位置合わせをすることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項9】
前記突き当て部が、前記凹部構造の長手方向端部のテーパー形状に設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項10】
前記支持部材の先端にピンを有し、前記基板の凹部構造内に、前記ピンに対応する位置決定穴を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項11】
前記フレキシブル基板と前記電気接続部との接続に導電性粒子を用いることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの電気接続構造。
【請求項12】
液体が吐出される液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室を構成する圧力室形成基板と、前記圧力室形成基板の前記液体吐出口の反対側に設けられたエネルギー発生素子と、を有し、
前記圧力室形成基板の前記エネルギー発生素子側には凹部構造が設けられ、
一方の端部が前記エネルギー発生素子に接続され、他方の端部が前記凹部構造内に配設された基板配線と、
支持部材に接着され、支持部材配線のパターンが形成されたフレキシブル基板と、
を、前記支持部材の先端と、前記凹部構造と、を当接させて接合することを特徴とするインクジェットヘッドの電気接続方法。
【請求項13】
請求項12に記載のインクジェットの電気接続方法を用いることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192563(P2012−192563A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56922(P2011−56922)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】