説明

インクジェットヘッド及びそれを具備するインクジェット装置

【課題】強いインクの吐出力とインクの循環とを両立させた、インクジェットヘッド及びそれを具備したインクジェット装置を提供すること。
【解決手段】圧電アクチュエータを、インク室の振動板とアイランド部材を介して配設し、アイランド部材を、インク供給流路とインク排出流路との間で延び、かつ、アイランド部材のうち、インク供給流路側の一辺の長さW1と、インク供給流路側からインク排出流路側に延びる長さLとは異なるように配置することで解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びそれを具備するインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、入力信号に応じて、任意のタイミングで必要な液量のインクを対象物に向けて塗布することができるヘッドとして知られる。特に圧電(ピエゾ)方式のインクジェットヘッドは、幅広い種類のインクを、高精度に制御しながら塗布することができることから、現在、積極的に開発が行われている。一般的にピエゾ方式のインクジェットヘッドは、インク供給流路と、インク供給流路と連通しかつノズルを有する複数のインク室と、インク室内に充填されたインクに圧力を加えるピエゾ素子とで構成される。そして該圧電素子に駆動電圧を印加することで圧電素子に機械的な歪みを生じさせ、インク流路内のインクに圧力を加えることでノズルからインクを吐出する。
【0003】
例えば、代表的なインクジェットヘッドの構成としては、アクチュエータ(圧電素子)の全面が樹脂膜(インク室の壁面)に設置される構成が知られ、圧電素子の駆動によって、該樹脂膜を押圧し流路に充填されたインクを加圧することで、ノズルからインク滴が吐出される技術がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、インク滴の高密度化を狙う発明として、特許文献2に記載のインクジェット記録ヘッドが知られる。該インクジェット記録ヘッドは、圧電アクチュエータによってSi突起部を押圧し、SiO2膜部を変位して、キャビティ板で形成されるインク加圧室の容積を変化させることでインクノズルからインクを吐出させる技術である(図10)。また、特許文献3〜10には、圧電素子と振動板との間に中継部材と有し、該中継部材は一方向に延び、中継部材は圧電素子の一部と接して配置される旨の技術が開示される。ほか、特許文献11〜21に開示されるインクジェットヘッドも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−096042号公報(図4,段落0079)
【特許文献2】特開平3−015555号公報(第3図,第4図)
【特許文献3】特開2005−262638号公報(図2)
【特許文献4】特開平11−058731号公報(図1,図2)
【特許文献5】特開平4−355147号公報(図1,図2)
【特許文献6】特開平6−064163号公報(図1)
【特許文献7】特開平6−297700号公報(図2,図3)
【特許文献8】特開平6−143573号公報(段落0015)
【特許文献9】特開平8−224874号公報(図1)
【特許文献10】特開2001−010050号公報(図1)
【特許文献11】特開2008−254196号公報
【特許文献12】特開2000−233502号公報
【特許文献13】特開平11−077996号公報
【特許文献14】米国特許出願公開第2008/0238980号明細書
【特許文献15】米国特許第6286938号明細書
【特許文献16】米国特許第7128406号明細書
【特許文献17】特開平07−178899号公報
【特許文献18】特開平02−141243号公報
【特許文献19】特開平10−114081号公報
【特許文献20】米国特許第5956058号明細書
【特許文献21】米国特許第6609785号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のインクジェットヘッドでは、以下のような問題を有することになる。
【0007】
まず、特許文献1に記載の技術は、アクチュエータ(加圧手段)が圧力室の天面を構成している加圧板(振動板)の全面に配置される構成である。そのため、特許文献1のような構成では、ノズルからインクを吐出する際、アクチュエータから圧力室に加わる圧力はノズル部のみならず、圧力室の他の箇所にも伝わり、当該アクチュエータからの圧力をノズル部に集中されないことになる。それ故、特許文献1に記載の技術では、インクをノズルから吐出する際の十分な吐出力を提供することができない。また、上記特許文献1において、アクチュエータの幅(例えば、特許文献1の図4におけるアクチュエータ58の幅)を狭め、ノズル51の直上のみに配置するような構成も考えられるが、単純にアクチュエータを小さくする構成では、それだけでインク室に加わる圧力が低減され、インクの吐出力を下げることに繋がる。
【0008】
又は、上記特許文献1において、アクチュエータの幅を狭め、該アクチュエータに印加する駆動電圧を高めることも考えられるが、駆動電圧を高めるとアクチュエータ自体に熱を有することになり、インク室を流れるインクの温度を高めることにもなり、好ましくない。また、アクチュエータ自体の寿命にも関連することになる。また、アクチュエータの幅を狭め、ノズルの直上のみにアクチュエータを配置する構成では、該アクチュエータを積層させて、所望の吐出力を確保することになるが、アクチュエータが大きなものとなりインクジェットヘッドが大型化することから、好ましい形態ではない。
【0009】
次に、特許文献2には、圧電アクチュエータがSi突起部10を介して振動板7と接続される構成が開示される。同文献に記載の技術は、インク噴射用ノズルの高密度化を図った内容であるため、第3図に開示されるように、Si突起部はインクノズルの対応した位置のみに配置される。すると、図6(b)のように、圧電アクチュエータによってインク加圧室に圧力を加えた際、四方八方に圧力が加わることになり、インク供給側にインクの一部が逆流することになる。それ故、インクノズルからインクを吐出する際の大きな妨げとなる。
【0010】
更に、特許文献3〜10に記載の技術には、インクジェットヘッドにおいて、インクを循環させるという発想は一切ない。特許文献3〜10のように、圧電素子と振動板との間に一方向に延びる中継部材を有し、当該中継部材は圧電素子の一部と接して配置される構造において、ノズルから単にインクを吐出する技術だけでは、例えばインク室の隅部などにインクが滞留したり、インクが固まったりすることがあり、インクジェットヘッドとしては十分な構成ではない。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、強いインクの吐出力と、インクの循環とを両立させた、インクジェットヘッド及びそれを具備するインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のインクジェットヘッド及びそれを具備するインクジェット装置は、以下のような特徴を有するものである。
【0013】
[1]インク導入口からインクが供給されるインク供給流路と、インク排出口にインクを排出するインク排出流路と、前記インク供給流路と前記インク排出流路とを連通し、インクを吐出するノズルを有する複数のインク室と、前記インク室の振動板を変位させ、前記インク室内のインクに圧力を加える圧電アクチュエータと、を備えるインクジェットヘッドである。
【0014】
このヘッドにおける第1の特徴は、前記インク導入口は、前記インク供給流路のうち前記複数のインク室と面さない一端に形成され、かつ、前記インク排出口は、前記インク排出流路のうち、前記複数のインク室と面さない他端に形成される点である。また、第2の特徴は、前記圧電アクチュエータは、前記インク室の振動板とアイランド部材を介して配設され、前記アイランド部材は、前記インク供給流路と前記インク排出流路との間で延び、かつ、前記アイランド部材のうち、前記圧電アクチュエータの表面に配置される前記インク供給流路側の一辺の長さW1は、前記インク供給流路側から前記インク排出流路側に延びる長さLよりの小である点である。
【0015】
この構成により、強いインクの吐出力と、インクの循環とを両立させたインクジェットヘッドを実現することができる。
【0016】
[2]上記[1]において、アイランド部材のうち、インク排出流路側の一辺の長さをW2としたとき、アイランド部材のうちインク供給流路側の一辺の長さW1は、前記長さW2よりも大であると、インク室においてインクの上流側と下流側にインク圧力差を付けることができるので、インク循環の観点でさらに好適である。
【0017】
[3]上記[1]または[2]において、アイランド部材は、インク室に形成されるノズルの直上に配置されてなると、ノズルに対して圧電アクチュエータからのインク吐出力を強めることができるので、インクの吐出力の観点から望ましい。
【0018】
[4]上記[2]または[3]において、圧電アクチュエータのうち、インク供給流路側の一辺の長さをdとしたとき、アイランド部材のインク供給流路側の一辺の長さW1、及び、インク排出流路側の一辺の長さをW2との関係は「d/4<W(W1,W2)≦d」であることを特徴とする。
【0019】
[5]上記[1]〜[5]の何れかに記載のインクジェットヘッドを具備する、インクジェット装置であることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ノズルに対向して配設されたアイランド部材の形状を、アイランド部材のうち、インク供給流路側の一辺の長さと、インク供給流路側からインク排出流路側に延びる長さと異なるものとすることで、強いインクの吐出力を実現することができる。また、ノズルを有するインク室の上流側にインク供給流路を有し、当該インク室の下流側にインク排出流路を備える構造であることから、インクの循環を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1のインクジェットヘッドの斜視図
【図2】実施の形態1のインクジェットヘッドの断面図
【図3】実施の形態1のインクジェットヘッドの上面図
【図4】実施の形態1のインクジェットヘッドを変形させたヘッドの断面図
【図5】インク室と連通するインク供給孔の形状を示す図
【図6】インク室、圧電アクチュエータ、アイランド部との位置関係と、該圧電アクチュエータを駆動させた際のインク流れを示すインクジェットヘッドの上面図
【図7】実施の形態1のインクジェットヘッドの上面図
【図8】実施の形態2のインクジェットヘッドの断面図
【図9】実施の形態3のインクジェットヘッドの断面図
【図10】特許文献2におけるインクジェット記録ヘッドの断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.本発明のインクジェットヘッドについて:
本発明のインクジェットヘッドは、複数のインク室を有するドロップオンデマンド型の圧電式インクジェットヘッドである。ドロップオンデマンド型のインクジェットヘッドとは、入力信号に応じて必要なときに必要な量のインクを塗布することができるインクジェットヘッドとして知られる。特に圧電(ピエゾ)方式のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドは、幅広い種類のインクを、細かく制御しながら塗布することができるものである。また、本発明は、インク室内をインクが流れるインク循環型のインクジェットヘッドである。
【0023】
本発明のインクジェットヘッドは、インク供給流路と、インク排出流路と、複数のインク室と、複数のピエゾ素子とを有する構成である。複数のインク室は、並列に配置され、それぞれのインク室に対応して、ピエゾ素子が配置される。そして、ピエゾ素子、振動板、振動板とピエゾ素子との間に配置されるアイランド部(アイランド部は、振動板および圧電アクチュエータとは別部材でも一体に形成されていても良い)の配置位置を工夫することで、強いインクの吐出力と、インクの循環とを両立させたことを特徴とする。
【0024】
<インクジェットヘッドの基本構成>
以下、インクジェットヘッドの構成部材について説明する。
【0025】
インク供給流路は、外部からインクが供給されるインク導入口を有し、インク室に供給するインクが流れる流路である。インク供給流路に供給されるインク供給量は、特に限定されず、数ml/minであっても、それ以上であってもよい。インク導入口を通してインク供給流路に供給されたインクは、複数のインク室のそれぞれに分配提供される。
【0026】
インク排出流路は、外部にインクを排出するためのインク排出口を有し、複数のインク室から排出されたインクが流れる流路である。
【0027】
インク室は、ノズルから吐出させるインクを収容するための空間である。インク室はインク供給流路、及び、インク排出流路と連通している。1のインク供給流路およびインク排出流路に連通するインク室の最大数は、通常1024個である。
【0028】
インク室とインク供給流路とは、インク供給孔によって接続されている。インク室とインク排出流路とは、インク排出孔によって接続されている。したがって、インク室内ではインクがインク供給孔からインク排出孔まで流れる。これによりインク室内には常に新しいインクが供給される。このように、インク室内に常に新しいインクを供給することで、インク室内のインクのよどみや詰り、気泡の混入などを防止することができる。インク室内のインクの流量は1〜200ml/minであることが好ましい。また、インク室内をインクが流れる方向は、ノズルからインクが吐出される方向(以下、単に「吐出方向」と称す)と同じ(図2参照)であって良いし、インクの吐出方向と略垂直な方向(図4参照)であって良い。
【0029】
インク室は、ノズルを有する。ノズルは、外部と連通し、吐出孔を有する管である。1つのインク室は、1つのノズルを有してもよいし、2以上のノズルを有していても良い。インク室内のインクは、ノズル内部を通り、吐出孔から外部に吐出される。吐出孔の径は、特に限定されず、例えば10〜100μm程度であり、約20μmである。
【0030】
インク室に収容されるインクの種類は、特に限定されず、製造物の種類によって適宜選択される。例えば、製造物が有機ELパネルや液晶パネルである場合、インク室に収容されるインクの例には、発光材料などの有機発光物質を含む溶液や、液晶材料などの高粘度のインクが含まれる。上述のように本発明のインクジェットヘッドは強い吐出力を有するので、高粘度のインクであっても十分に塗布できる。
【0031】
ピエゾ素子は、駆動電圧を含む制御信号を実際の動きに変換し、インク室の壁面(振動板)を変位させる作動装置である。ピエゾ素子に電圧を印加することで、ピエゾ素子の高さが増加し、インク室内のインクに圧力が加わる。これにより、ノズルの吐出孔からインクを吐出され得る。
【0032】
本発明におけるピエゾ素子は、薄膜ピエゾ素子であっても、積層ピエゾ素子であってもよいが、積層ピエゾ素子であることが好ましい。薄膜ピエゾは、入力に対する出力応答が速いが、出力が低くなりがちである。そのためインク供給流路やインク排出流路への吐出力ロスの割合が大きくなりやすい。それ故、インクの種類によっては適切な吐出ができない場合がある。一方、積層ピエゾは、入力に対する出力応答が遅いが、出力を高めやすい。そのため積層ピエゾは、吐出するべきインク室内のインク圧力に影響を受けにくく、安定した吐出を実現し得る。積層ピエゾ素子の高さ(積層方向の長さ)は、通常、100〜1000μmである。
【0033】
積層ピエゾは、ピエゾプレート上にチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)のシートと導電膜とを複数積層して駆動体を作製し、そして駆動体を分割することで作製されればよい。駆動体を分割するには、回転ブレードが組み込まれたダイシング装置を用いればよい。
【0034】
<主要構成部材の位置関係>
以下、本発明のインクジェットヘッドにおける、ノズル、インク室の壁面(振動板)、アイランド部及びピエゾ素子の配置位置について詳述する。
【0035】
ピエゾ素子は、ノズルに対向する位置に配置され、インク室の壁面(振動板)上に設けられる。その際、ピエゾ素子と振動板との間にはアイランド部が配置される。アイランド部は振動板および圧電アクチュエータと別部材であっても良いし、該振動板および圧電アクチュエータを変形させて形成しても良い。アイランド部は一方向に延びる部材である(具体的には、図2及び図4において、紙面に垂直方向に延びる部材である。)。ピエゾ素子は、アイランド部と一部で接しても良いし、全部で接触してもよい(図8参照)。本発明のインクジェットヘッドでは、ノズルの直上にアイランド部が形成されることを基本とする。
【0036】
このようにノズル、振動板、アイランド部およびピエゾ素子を配置することで、強い吐出力と、インクの循環とを両立させることを可能とする。
【0037】
2.本発明のインクジェット装置について:
本発明のインクジェット装置は、前述のインクジェットヘッドを具備することを特徴とするが、それ以外は公知のインクジェット装置の部材を適宜有する。例えば、インクジェットヘッドを固定する部材や、インクを塗布する対象物を載置して移動するための移動ステージなどを有する。
【0038】
インクジェット装置は、インク循環装置(図示せず)を具備する。インク循環装置は、インクに駆動圧力を供給することでインクを循環させる。インクに駆動圧力を供給するには、ポンプを用いてもよいが、圧縮空気を利用して圧力を供給するレギュレータを用いることが好ましい。その理由は、レギュレータを用いることで駆動圧力が一定になり、インクの循環速度が安定するからである。本発明のインクジェット装置では、インクジェットヘッドのインクを、装置作動中に絶えず循環させることが好ましい。
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施の形態により限定されない。
【0040】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1のインクジェットヘッド100の斜視図である。図1に示されるようにインクジェットヘッド100は、インク供給流路101と、インク排出流路102と、複数のインク室110とを有する。また、インク供給流路101はインク導入口103を有する。インク排出流路102は、インク排出口104を有する。
【0041】
図2は、図1に示されたインクジェットヘッド100のA線による断面図である。図3(a)は、図1に示されたインクジェットヘッド100のB線による断面図(上面図)である。
【0042】
図2及び図3(a)に示すように、インク室110は、ノズル111を有する。インク室110は、ノズル111の吐出孔112から吐出させるインクを収容する。また、インク室110は、インク供給孔107を介してインク供給流路101に連通しており、インク排出孔108を介してインク排出流路102に連通している。インク排出孔108は、インク供給孔107よりもノズル側に配置されている。また、インク排出孔108は、後述する積層ピエゾ素子よりもノズル側に配置されている。更に、インク供給孔107およびインク排出孔108は、共にインクの吐出方向Xに沿ったインク室110の壁面に設けられている(図2参照)。
【0043】
また、図2および図3(a)に示すように、インクジェットヘッド100は、インクの吐出方向Xに沿ったインク室110の壁面130(以下、これを「振動板130」と称す)を変位させる積層ピエゾ素子(以下、「ピエゾ素子」とも称する)113を有する。ピエゾ素子113は、インク室110の外側に配置され、振動板130に設けられたアイランド部105を介して設けられている。アイランド部105は、ノズル111を跨ぐように配置されている。
【0044】
次に、図3(a)および図4を参照し、実施の形態1のインクジェットヘッド100の動作について説明する。
【0045】
まず、インクタンクからインク供給流路101にインクを供給する。インクタンク(図示せず)は圧力調節機構(図示せず)を有することが好ましい。インクタンクが圧力調節機構を有することで、インクタンク内のインクが消費され、インクタンク内のインク液面が下がっても、インクタンクからインク供給流路101にインクを一定の圧力で供給することができる。圧力調節機構は、インクタンクの高さを調節し、インク液面の高さを一定にすることで、供給されるインクの圧力を一定にしてもよい。
【0046】
インク供給流路101に供給されたインクは、インク供給孔107を通ってインク室110に供給される。インク室110に供給されたインクは、更にインク排出孔108を通ってインク排出流路102に排出される。このため、インク室110内をインクが流れる。これにより、インク室110内には常に新しいインクが供給される。上述のように、インク排出孔108は、インク供給孔107よりもノズル側に設けられている。また、インク室110内をインクが流れる方向は、インクがノズル111から吐出される方向X(吐出方向X)と同じである。このため、インク室110内のインクには予め吐出方向Xと同じ方向の力が作用している。
【0047】
次に、ピエゾ素子113に駆動電圧を加える。これにより、ピエゾ素子113の高さが増加し、インク室110の容量が縮小し、インク室110内のインクに圧力が加わる。
【0048】
本実施の形態では、ピエゾ素子113は、インク室110の外側に配置されており、インクの吐出方向Xに振動板130を変位させる。このため、ピエゾ素子113の駆動によって、図2に示されたインクの吐出方向Xと同じ方向の力が発生する。また、上述のように、インク室110内のインクには、インクが流れることによって、予め吐出方向Xと同じ方向の力が作用している。このため、インク室110内のインクは、インクに予め作用している方向の力と、ピエゾ素子113が駆動することによって生じた力とが合成した力によって吐出される。
【0049】
このように、本実施の形態によれば、ピエゾ素子113を駆動することによって生じた力以外に、インクがインク室110内を流れることによって予めインクに作用している力をインクの吐出力として利用できるので、吐出力を強くできる。前述の通り、本実施の形態におけるアイランド部105は、インク室110上に設けられ、ピエゾ素子113と振動板130との間に配置され、図3(a)のようにインクが流れる方向(一方向)に延びる部材である。本実施の形態におけるアイランド部105の形状を、図6(a)のようにインク室110にてインクが流れる方向に延びる部材とするメカニズムを以下に説明する。
【0050】
図6(b)は、特許文献2に記載の技術における、アイランド部105(Si突起部)とノズル111との位置関係を示すものであり、前述の通り、ピエゾ素子113(圧電アクチュエータ)によってインク室110(インク加圧室)に圧力を加えた際、四方八方に圧力(図6(b)における矢印)が加わることになり、インク供給側(IN)にインクの一部が逆流することになる。それ故、特許文献2のようなインクジェットヘッドでは、インクノズルからインクを吐出する際の大きな妨げとなる。
【0051】
一方、図6(a)は、インク室110にてインクが流れる方向にアイランド部105が延び、かつ、ピエゾ素子113がアイランド部105を覆って配置される形態を示す。図6(a)に示すアイランド部105の形状でも、ピエゾ素子113が駆動した際、インク室110の上流端(アイランド部105の上流側の端部)で多少なりともインクの逆流が生じることになる。但し、図6(a)のアイランド部105とピエゾ素子113の構成は図6(b)の場合に比べ、インク室110内のノズル111付近での圧力差が高くなり、インク室110内のノズル111付近にインクを供給される力が高まる。
【0052】
具体的には、図6(a)の場合、ピエゾ素子113の歪みによってアイランド部105が押下されるとアイランド部105の形状上、インク室110内のノズル111付近のみならず、インク室110内全域にわたってインク室110が変形する。そして、ピエゾ素子113がもとの状態に戻ろうとした時、インク室110内から流れ出た流量を回復しようと、インク供給流路101から即時にインク室110内にインクが供給される。
【0053】
他方、図6(b)の場合、アイランド部105の形状および配置の関係から、ノズル111付近のみインク室110が変形する。すると、ピエゾ素子113がもとの状態に戻ろうとした場合でも、インク室110内のノズル111付近にはインクが残っているため、上述の図6(a)の場合ほどはインク室110内から流れ出た流量を回復しようとする力は弱い。よって、図6(a)の形態のインクジェットヘッドによって、強い吐出力と、インクの循環とを両立させることを実現できる。
【0054】
このとき、図5に示すように、インク室110に連通するインク供給孔107の形状を変化させることで、ピエゾ素子113の駆動時、インク室110からインク供給孔107側へのインクの逆流を抑えることができる。具体的には、インク供給孔107の少なくとも一部にインク供給孔107の口径が変化する箇所を設けるとよい。また、図示はしないが、インク供給孔107をインク室110に対して屈曲させて連通させる形態でもよい。つまり、屈曲が流体抵抗となり、インク室110からインク供給孔107側へのインクの逆流を抑えることが可能となる。
【0055】
また、上述のように、本実施の形態では、インク供給孔107およびインク排出孔108は、共に吐出方向Xに沿ったインク室110の壁面(符号なし)に設けられている(図2参照)。このため、ピエゾ素子113が駆動することによって生じる力の方向の延長上にインク供給孔107およびインク排出孔108は存在しない。したがって、ピエゾ素子113の駆動によって生じる力は、インク供給孔107およびインク排出孔108に逃げ難い。このため、ピエゾ素子113の駆動によって生じる力のほとんどは、インクの吐出力として用いられる。
【0056】
上述の実施の形態は、図3(a)及び図6に示すような、アイランド部105の全部を覆うようにピエゾ素子113が設けられるインクジェットヘッド100の構成であったが、図7のように、ピエゾ素子113をアイランド部105の一部に設ける構成でも良い。このとき、ピエゾ素子113をアイランド部105の一部のうち、ノズル111の直上に配置することが望ましい。その理由は、ピエゾ素子113を駆動させた際の力がノズル111に向かって作用させることができ、インクの強い吐出力を実現しやすくなるためである。
【0057】
なお、図6(a)及び図7のように、ピエゾ素子113のうちインク供給流路101側(図7において「IN」と表記する側)の一辺の長さをdとし、かつ、アイランド部105のインク供給流路101側の一辺の長さをW1とした際、「d/4<W1≦d」の関係を満たす場合が、特に、ノズル111からの強いインク吐出と、インクの循環を両立させる条件であることを、発明者らは見出した。加えて、アイランド部105のインク排出流路102側(図7において「OUT」と表記する側)の一辺の長さをW2としたとき、上述のピエゾ素子113のうちインク供給流路101側の一辺の長さdとの関係も、「d/4<W2≦d」であると、ノズル111からの強いインク吐出と、インクの循環を両立させることができる。この考えは、後述する実施の形態についても同様に効果を有する。
【0058】
<変形例>
前述の実施の形態1の変形版として、図4に示すようなインクジェットヘッドもあり得る。つまり、実施の形態1のインクジェットヘッドは、インク室110において、インクが流れる方向にノズル111が形成される形態であるが、実施の形態1の変形例として、ノズル111が、インク供給孔107からインク排出孔108に向かって流れるインクと、略垂直な方向のノズルプレート120に形成される形態もあり得る。
【0059】
前述の実施の形態1は、ピエゾ素子113が駆動することによりインク室110内のインクをノズル111(又は、吐出孔112)の方向に押し出す力と、インク供給孔107からインク排出孔108に向かってインクが流れる力と、が重なって、ノズル111からインクを強い吐出力で押し出すことができるものである。これに対して、本変形例の場合には、インク室110のインクは、ピエゾ素子113が駆動することによりインク室110内のインクをノズル111の方向に押し出す力と略垂直方向の流れである。
【0060】
変形例のインクジェットヘッド100の場合、上述の実施の形態1とは異なり、インク室110の始端部において、ノズル111の方向にインクの流れを作る構造(図2では、インク供給孔107からインク室110にインクを供給する際、略直角にインクの流れを変える構造)が不必要であることから、ピエゾ素子113とノズル111(又は、吐出孔112)との距離を短く設計することができる。そのため、本変形例の場合、ピエゾ素子113の駆動によりインク室110内のインクをノズル111から押し出す力は、前述の実施の形態1よりも強くなる。その結果、本変形例のインクジェットヘッド100は、前述の実施の形態1と同程度のインク吐出力を実現することが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態のインク供給流路101において、インク供給流路101の最下流部(図3におけるコーナ部A)は、図3(b)のようにテーパー形状、或いは、図3(c)のように曲面形状であると好適である。その理由は、インク供給流路101からインク室110にインクが流れる際、インク供給流路101のコーナ部でインクが滞留する可能性があるためである。図示はしないものの、同様な考えにより、インク排出流路102の最上流部(図3におけるコーナ部B)においても、テーパー形状、或いは、曲面形状を施す工夫があるとインク流れの観点から良い。
【0062】
(実施の形態2)
実施の形態1は、アイランド部105の形状をインクが流れる方向に延びる形状とし、とりわけ、アイランド部105を矩形形状とした形態を示した。これに対し、本実施の形態は、インク循環の観点から、アイランド部105の形状により特徴を有する形態を示す。
【0063】
図8は、実施の形態2に係るインクジェットヘッド100の断面図である。
【0064】
図3(a)、図6(a)及び図7に示すインクジェットヘッド100と、本実施の形態に示すインクジェットヘッドとの相違点は、アイランド部105が、インク室110におけるインク供給側からインク排出側に向かって、アイランド部105の幅が徐々に狭くなっている点である。ピエゾ素子113の配置については、図8(a)〜(c)に示すような形態がある。
【0065】
図8(a)については、インク室110におけるインクの上流側から下流側に向かって、アイランド部105の幅が徐々に狭くなる形状である。具体的には、アイランド部105の上部(ノズル111が形成される方向とは逆側)に、アイランド部105の全部を覆うようにピエゾ素子113が設けられる形態を示す。図8(b)については、アイランド部105の一部の上部にピエゾ素子113が設けられる形態であり、図8(c)については、アイランド部105と同形状(合同)のピエゾ素子113がアイランド部105の上部に設けられる形態である。
【0066】
なお、図8(b)のようなインクジェットヘッドの場合には、ピエゾ素子113をアイランド部105の一部のうち、ノズル111の直上に配置することが望ましい。
【0067】
本実施の形態のように、アイランド部105の幅を、インクの流れ(上流/下流)に応じて変化させることで、インクの流れ(インクの循環)を円滑なものとできる。つまり、アイランド部105のインク上流側の幅を、下流側の幅よりも広くすることで、インク室110内のインク上流側のインク変量が、インク下流側のインク変量よりも大となり、インク室110内にてインク変量に差が生じるため、インク室110内のインクの流れを円滑にできる。
【0068】
以上のことから、本実施の形態は前述の実施の形態1に比べ、インク循環の観点で、より一層効果を発揮する形態である。すなわち、本実施の形態で示すアイランド部105の形状を前述の実施の形態1に適用すると好適な結果となる。
【0069】
(実施の形態3)
本実施の形態は、上述の実施の形態2の派生になる。つまり、アイランド部105の形状のバリエーションを示すものである。
【0070】
実施の形態2では、アイランド部105の形状を、インク室110におけるインクの上流側から下流側に向かって、アイランド部105の幅が徐々に狭くなる形状を示した。本実施の形態のアイランド部105の形状は、図9に示すように、インク室110におけるインクの上流側から下流側に向かって、アイランド部105の幅が段階的に狭くなる形状としている。なお、図9における3つのバリエーションの説明は省略するが、図8の考えと同様である。
【0071】
前述の実施の形態2との比較では、本実施の形態は、インク循環の観点では同程度の効果に留まるが、前述の実施の形態1と比較した場合には、インクの循環は格段に円滑になる。総じて、本実施の形態で示すアイランド部105の形状を前述の実施の形態1に適用すると好適な結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のインクジェットヘッド及びインクジェット装置では、インクの吐出力が強く、そのうえインクの循環も可能となるため、粘度の高いインクを、被塗布物に安定して塗布することができる。そのため、例えば有機ELディスプレイパネルの製造における有機発光材料を塗布形成するためのインクジェットヘッドとして好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0073】
100 インクジェットヘッド
101 インク供給流路
102 インク排出流路
103 インク導入口
104 インク排出口
105 アイランド部
107 インク供給孔
108 インク排出孔
110 インク室
51,111 ノズル
112 吐出孔
113 ピエゾ素子
120 ノズルプレート
7,130 振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク導入口からインクが供給されるインク供給流路と、
インク排出口にインクを排出するインク排出流路と、
前記インク供給流路と前記インク排出流路とを連通し、インクを吐出するノズルを有する複数のインク室と、
前記インク室の振動板を変位させ、前記インク室内のインクに圧力を加える圧電アクチュエータと、を備え、
前記インク導入口は、前記インク供給流路のうち前記複数のインク室と面さない一端に形成され、かつ、前記インク排出口は、前記インク排出流路のうち、前記複数のインク室と面さない他端に形成されると共に、
前記圧電アクチュエータは、前記インク室の振動板とアイランド部材を介して配設され、
前記アイランド部材は、前記インク供給流路と前記インク排出流路との間で延び、かつ、前記アイランド部材のうち、前記圧電アクチュエータの表面に配置される前記インク供給流路側の一辺の長さW1は、前記インク供給流路側から前記インク排出流路側に延びる長さLよりの小であること、
を特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記アイランド部材のうち、前記インク排出流路側の一辺の長さをW2としたとき、前記長さW1は、前記長さW2よりも大である、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記アイランド部材は、前記ノズルの直上に配置されてなる、請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータのうち、前記インク供給流路側の一辺の長さをdとしたとき、前記アイランド部材の前記インク供給流路側の一辺の長さW1、及び、前記インク排出流路側の一辺の長さをW2との関係は、
d/4<W(W1,W2)≦d、
である、請求項2または3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを具備するインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−228689(P2012−228689A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142631(P2012−142631)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2011−12596(P2011−12596)の分割
【原出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】