説明

インクジェットヘッド取付機構及びインクジェット記録装置、インクジェットヘッドアライメント装置

【課題】簡易な構成にて高精度にインクジェットヘッドの位置調整が可能なメンテナンス性の良いインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド2に形成された挟持部2a,2bのY軸方向の端面32aに当接し、インクジェットヘッド2を弾性部材によって付勢するY軸方向付勢手段11と、端面32aと対向する端面32bを押圧し、付勢手段11との間にインクジェットヘッド2を挟持しつつ、インクジェットヘッド2の位置を付勢手段11側に移動調整可能なY軸位置調整手段12とを備える。付勢手段11は、インクジェットヘッドの主走査方向と同一のY軸方向に沿ってインクジェットヘッド2を付勢し、Y軸位置調整手段12は、Y軸方向に沿って、付勢手段11による付勢力とは反対の向きにインクジェットヘッド2を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式によりガラス基板等の記録対象物に印字や描画等の記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に、インクジェットヘッドを装置上に位置決め配置するためのインクジェットヘッド取付機構や、この取付機構を用いたインクジェット記録装置、並びに、インクジェットヘッドのアライメント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置では、インクジェットヘッドに設けたノズルからごく微小なインク滴を記録対象物に対して吐出し、所望の印字や画像記録等を行っている。このようなインクジェット記録装置は、記録対象物から離間した状態で記録動作を行うことが可能なため、様々な材質の記録対象物に印字等を行うことが可能であり、幅広い用途に利用されてきている。
【0003】
近年では、他の記録方式に比べて高精細な記録が可能であることから、カラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタや有機EL等の製造にもインクジェット方式が採用され始めている。カラーテレビやパーソナルコンピュータの液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルタでは、非常に細密な画像記録が必要となるため、そこに用いられるインクジェット記録装置も高精度であることが要求され、インクジェットヘッドの位置決め精度も高いレベルが求められている。
【0004】
一方、このようなインクジェット記録方式には、駆動対象の違いにより、次の2通りの方法が存在する。すなわち、インクジェットヘッドを主走査方向に移動させながらノズルより液滴を吐出し、記録対象物に記録を行う方法と、インクジェットヘッドは固定し、記録対象物を移動させながら記録を行う方法が存在する。インクジェットヘッドを走査させる前者の方法は、記録対象物が大きく、インクジェットヘッドが一走査にて記録可能なサイズよりも大きな面積を有する場合に多く採用されている。これは、装置のサイズを小さくできることや、大面積の記録対象物を精度良く移動させる必要がないというメリットがあるためである。
【0005】
記録対象物の幅がインクジェットヘッドにて記録可能な幅よりも広い場合、前者の方法では、まず、インクジェットヘッドを主走査させて記録を行う。その後、インクジェットヘッドを主走査方向(Y軸方向)と直交する副走査方向(X軸方向)に移動させ、これを繰り返すことにより、対象物の幅方向に記録範囲を広げて行く。従って、この方法では、一度の走査で記録可能な面積が大きい程、作業効率が高くなり、そのためには、インクジェットヘッドのサイズを大きくすれば良い。しかしながら、大きなサイズのインクジェットヘッドを高精度に製造するのは難しく、コスト的にも効率的とは言い難い。
【0006】
そこで、従来より、複数のインクジェットヘッドを搭載したヘッドベース(キャリッジとも呼ばれる)を使用し、このヘッドベースをあたかも1つのインクジェットヘッドのように見立てて記録を行う方法が広く行われている。この場合、装置の記録精度を確保するには、ヘッドベースの走査精度を確保することは必須であるが、それのみならず、ヘッドベース上における各インクジェットヘッドの位置精度もまた重要となる。このため、このような装置におけるヘッド位置の調整手段や調整方法に関しても、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−190465号公報
【特許文献2】特開2004−243666号公報
【特許文献3】特開2007−260571号公報
【特許文献4】特開2007−276426号公報
【特許文献5】特許第3831936号公報
【特許文献6】特許第3694600号公報
【特許文献7】特開2000−218771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに関するY軸方向の位置決めは、部品の精度やインク滴の吐出制御によっても対応可能である。これに対し、X軸方向と、インク滴の吐出方向であるZ軸の回り方向(以下、θ方向と呼ぶ)の2つの方向についてのヘッド位置調整は、インクジェットヘッドの取り付け時に機械的に行う必要がある。この2つの方向についての位置調整機構としては、例えば特許文献4には、X軸方向の移動軸とZ軸回りの回転軸とが互いに分離独立した構成が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4等に記載の構成では、ヘッドベース上の全てのインクジェットヘッドに同じ機構を用意する必要がある。このため、ヘッドベースの構造が複雑となる上、ヘッドベース全体の重量も大きくなるという問題がある。ヘッドベースの重量が大きくなると、走査スピードがダウンし、その結果、製造効率が低下する。また、ヘッドベースのイナーシャも大きくなるため、走査−停止の際の衝撃も大きくなり、装置精度が経時的に低下していくおそれがあるという問題もあった。
【0010】
一方、位置調整を行った後、ヘッドベース上にインクジェットヘッドを固定する方法としては、例えば特許文献5〜7に記載されているような接着剤による固定や、締付ネジによる固定、あるいはその両方を用いた方法が一般的である。しかしながら、締付ネジによる固定の場合、固定時のネジ締めトルクによってインクジェットヘッドが動いてしまい、位置精度が低下するおそれがある。これに対し、接着剤による固定は、ネジ締めの欠点は解消されるものの、ヘッドベース上のインクジェットヘッドをたった1つだけ交換する必要が生じた場合も、ヘッドベースごと全部交換する必要がある。このため、数多くの正常なインクジェットヘッドを無駄にしてしまう上に、全てのインクジェットヘッドの位置調整をやり直す必要があるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、簡易な構成でありながら高精度にインクジェットヘッドの位置調整が可能であり、ヘッドの交換・位置調整等のメンテナンス性が良好なインクジェットヘッド取付機構及びそれを備えたインクジェット記録装置、並びにインクジェットヘッドのアライメント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のインクジェットヘッド取付機構は、インクジェットヘッドの第1の面に当接し、前記インクジェットヘッドを弾性部材によって付勢する第1付勢手段と、前記インクジェットヘッドの前記第1の面と対向する第2の面を押圧し、前記第1付勢手段との間に前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置を前記第1付勢手段側に移動調整可能な第1位置調整手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
前記インクジェットヘッド取付機構において、前記第1付勢手段は、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一のY軸方向に沿って前記インクジェットヘッドを付勢し、前記第1位置調整手段は、前記Y軸方向に沿って、前記第1付勢手段による付勢力とは反対の向きに前記インクジェットヘッドを押圧するようにしても良い。また、前記インクジェットヘッドに、前記Y軸と直交するX軸方向に沿って配置された複数個のインク吐出用ノズルを設け、前記ノズルから吐出されるインクの吐出方向を、前記X軸方向及び前記Y軸方向と直交するZ軸方向としても良い。さらに、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、前記第1位置調整手段を、1個のインクジェットヘッドに対し、前記X軸方向に沿って2個配置しても良い。
【0014】
また、本発明のインクジェット記録装置は、前述のようなインクジェットヘッド取付機構を備えることを特徴とする。この場合、インクジェット記録装置を、前述のようなインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジと、前記サブキャリッジが着脱可能なヘッドベースを有する構成としても良い。
【0015】
一方、本発明のインクジェットヘッドアライメント装置は、前述のようなインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジが載置され、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する第1のX軸端面に当接し、前記インクジェットヘッドを弾性部材によって付勢する第2付勢手段と、前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する第2のX軸端面を押圧し、前記第2付勢手段との間に前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置をX軸方向に沿って移動調整可能な第2位置調整手段と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の他のインクジェットヘッドアライメント装置は、前述のようなインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジが載置され、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する2つのX軸端面をそれぞれ押圧する2個の第2位置調整手段を有し、前記第2位置調整手段は、前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置をX軸方向に沿って移動調整可能であることを特徴とする。
【0017】
これらのインクジェットヘッドアライメント装置において、前記X軸方向及び前記Y軸方向と直交する方向をZ軸方向としたとき、前記サブキャリッジ上に配置された前記インクジェットヘッドのノズル面が、前記インクジェットヘッドのZ軸方向下部から視認可能な開口部を設けても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1付勢手段や第1位置調整手段により、高精度にインクジェットヘッドの位置を調整できるので、簡易な構成で高精度にインクジェットヘッドの位置決めを行うことが可能となる。このため、高精度で軽量なインクジェット記録装置を得ることができ、高品質・高スピードの記録処理が可能となる。また、インクジェットヘッドの交換に関しても高いメンテナンス性を実現でき、メンテナンス工数や無駄な廃棄物を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例であるインクジェット記録装置に使用されるヘッドベースの一例を示す上面図である。
【図2】本発明の一実施例であるインクジェットヘッド取付機構の構成を示す上面図である。
【図3】本発明のインクジェットヘッドアライメント装置の一例を示す上面図である。
【図4】本発明のインクジェットヘッドアライメント装置を用いた場合のインクジェットヘッドの位置調整手順を示すフローチャートである。
【図5】インクジェットヘッドを重畳配置した場合のヘッド配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明のインクジェット記録装置に使用されるヘッドベースの一例を示す上面図である。図1に示すように、本発明によるインクジェット記録装置のヘッドベース1にはインクジェットヘッド2を取り付けたサブキャリッジ3が載置される。図1の場合、1つのサブキャリッジ3上にインクジェットヘッド2は3個、ヘッドベース1上のサブキャリッジ3は8個であり、ヘッドベース1上には都合24個のインクジェットヘッド2が搭載されている。ヘッドベース1上には、共に金属にて形成された位置決めブロック4,5が設けられており、サブキャリッジ3は、この位置決めブロック4,5によってヘッドベース1上の所定位置に正確に配置される。
【0021】
位置決めブロック4,5は、搭載されるサブキャリッジ3の個数に応じて複数組(ここでは8組)配置されている。図1の装置では、ブロック4は直方体状になっており、その一面がサブキャリッジ3の図中右側面に当接し、サブキャリッジ3のX軸方向への移動が規制される。一方、ブロック5は、直方体状の本体部5aに当接突起5bが2個突設された形態となっており、当接突起5bがサブキャリッジ3の図中下端面に当接し、サブキャリッジ3のY軸方向への移動が規制される。サブキャリッジ3は、ブロック4,5によって、X軸,Y軸方向の位置決めがなされ、図示しないトグルクランプによって、ヘッドベース1に着脱自在に固定される。
【0022】
このように、本発明のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッド2を直接ヘッドベース1上に搭載するのではなく、サブキャリッジ3を介してヘッドベース1上に取り付ける構成を採用している。このため、例えば、何れか1つのインクジェットヘッド2が故障した場合でも、当該ヘッドが搭載されているサブキャリッジ3のみを交換すれば足り、従来の装置のようにヘッドベース全部を交換する必要はない。
【0023】
従って、あるインクジェットヘッド2が故障した場合、図1の装置では、まず、故障ヘッドが搭載されているサブキャリッジ3をヘッドベース1から取り外し、サブキャリッジ3上の故障したインクジェットヘッド2を良品に交換する。そして、新しいインクジェットヘッド2の位置調整を行った上で、サブキャリッジ3を再びヘッドベース1上に固定すれば修理作業は完了する。このため、インクジェット記録装置のヘッド周りのメンテナンス性を飛躍的に向上させることができると共に、無駄な廃棄品も生ぜず、作業工数や部品コストの削減が図られる。
【0024】
一方、図1のインクジェット記録装置では、サブキャリッジ3の寸法は全て高精度に作成されている。従って、サブキャリッジ3上におけるインクジェットヘッド2の位置を正確に調整しておけば、ヘッドベース1に対するインクジェットヘッド2の位置も正確に決定される。そこで、本発明のインクジェット記録装置では、サブキャリッジ3上にインクジェットヘッド2を正確に配置可能なインクジェットヘッド取付機構を設けると共に、サブキャリッジ3上のインクジェットヘッド2の位置をインクジェットヘッドアライメント装置20にて調整し、サブキャリッジ3上の正確な位置にインクジェットヘッド2を配置する。
【0025】
図2は、本発明の一実施例であるインクジェットヘッド取付機構10(以下、ヘッド取付機構10と略記する)の構成を示す上面図である。図2に示すように、ヘッド取付機構10は、サブキャリッジ3上に設けられており、本発明のインクジェット記録装置では、一対(2個)のヘッド取付機構10がサブキャリッジ3に3対配置されている。ヘッド取付機構10には、サブキャリッジ3上に取り付けられたY軸方向付勢手段11(第1付勢手段)とY軸位置調整手段12(第1位置調整手段)(以下、それぞれ、付勢手段11,調整手段12と略記する)が設けられている。ヘッド取付機構10では、この付勢手段11と調整手段12との間にインクジェットヘッド2が挟持され、サブキャリッジ3上に保持される。
【0026】
付勢手段11は、部材変形によって生じる応力に基づく弾発力を利用し、インクジェットヘッド2をY軸方向に付勢する。付勢手段11には弾性部材が使用され、この弾性部材としては、弾発力の経時変化が少ないバネを用いることが好ましい。図2の付勢手段11では、ピアノ線材を用いた圧縮コイルバネ13の端部に金属球(鋼球)からなるボールプランジャ14を取り付け、これらをサブキャリッジ3上に載置した筒状のケース15内に収容した構成が採用されている。図2に示すように、インクジェットヘッド2の両端部には挟持部2a,2bが形成されており、付勢手段11のボールプランジャ14は、この挟持部2a,2bのY軸方向の端面32a(第1の面)に当接する。これにより、インクジェットヘッド2に対し、圧縮コイルバネ13によるY軸方向の付勢力が付与される。
【0027】
付勢手段11に使用されるバネの材質には特に限定はないが、十分な強度を持つものが好ましく、ピアノ線材の他、例えば、バネ鋼鋼材、硬鋼材、バネ用ステンレス鋼、黄銅、洋白、りん青銅、ベリリウム鋼などを使用しても良い。また、バネの形状としては、コイルバネ、皿バネ、板バネ、ねじりバネなどを用いることが可能であり、バネ形状に合わせて付勢手段11内の構成も適宜変更する。例えば、付勢手段11に皿バネを使用する場合には、ケース15を皿ばねのホルダとし、その内部に1枚又は複数枚の皿ばねを収容する。また、ねじりバネを使用する場合には、サブキャリッジ3上に設けた芯金にねじりバネを装着すると共に、その一端側あるいは一端側に取り付けた押圧部材を挟持部2a,2bに当接させる一方、他端側をサブキャリッジ3の端縁やサブキャリッジ3に設けた切欠、孔等に係止して使用する。
【0028】
また、付勢手段11の弾発力は、インクジェットヘッド2を主走査する際の加速度を考慮して設定される。前述のように、付勢手段11は、インクジェットヘッド2の主走査方向と同じY軸方向にインクジェットヘッド2を付勢する。通常のインクジェット記録装置では、主走査方向の加減速時にインクジェットヘッド2に加わる力は概ね1.0N程度であり、付勢手段11の弾性部材の弾発力としては、5.0N以上であれば利用可能である。従って、付勢手段11の弾性部材としては、10.0N以上の弾発力を持つものが好ましく、本実施例でも10.0N以上のものが使用されている。
【0029】
調整手段12は、インクジェットヘッド2をY軸方向に押圧し、付勢手段11との間にてインクジェットヘッド2を挟持しつつ、インクジェットヘッド2の位置決めを行う調整手段である。当該ヘッド取付機構10では、このような調整機能を有する調整手段12として、図2に示すような、マイクロメータ16を備えたものを使用している。マイクロメータ16は、サブキャリッジ3上に載置されたホルダ17に固定され、シンブル操作に伴って伸縮するスピンドル18を備えている。スピンドル18は、インクジェットヘッド2の挟持部2a,2bのY軸方向の端面32b(第2の面)に当接する。調整手段12は、このスピンドル18によって、インクジェットヘッド2をY軸方向に押圧する。両端面32a,32bは挟持部2a,2bを挟んで対向しており、挟持部2a,2bは、スピンドル18とボールプランジャ14によって挟持される。
【0030】
調整手段12は、マイクロメータ16によってスピンドル18の突出量を適宜調整できる。このため、調整手段12により、インクジェットヘッド2のY軸方向の位置調整を行うことが可能となる。また、図2のように、この調整手段12をインクジェットヘッド2のX軸上の左右端に設けた場合には、左右の調整手段12a,12bの位置調整のバランスによって、θ方向の調整も可能となる。すなわち、例えば、左側の調整手段12aのスピンドル18aを、右側の調整手段12bのスピンドル18bよりも多く突出させると、インクジェットヘッド2は、図2において左側の方が図中上方向となるように傾く(θの右回転方向)。一方、スピンドル18a,18bの突出量を上記とは逆の関係にすれば、右側の方が図中上方向となるように傾く。
【0031】
このようなヘッド取付機構10では、インクジェットヘッド2の固定は、付勢手段11と調整手段12との間にヘッドを挟持することによって達成される。この場合、インクジェットヘッド2のY軸方向の固定は、付勢手段11の弾発力を上記のように設定することにより確実となる。これに対し、X軸方向の固定に関しては、付勢手段11及び調整手段12と、インクジェットヘッド2の挟持面との間の摩擦力のみに頼ることとなる。
【0032】
しかしながら、X軸方向はインクジェットヘッド2の副走査方向であり、主走査方向であるY軸方向と比較すると、走査時にX軸方向に加わる力ははるかに小さい。また、副走査は、主走査に比して走査距離が極端に短い場合が多く、走査スピードを増減させても全体の生産性に与える影響はほとんどない。特に、インクジェットヘッド2のノズル間隔よりもさらに細かな解像度を必要とする超高精細記録の場合は、副走査の距離はノズル間隔以下となることもある。このため、Y軸方向の弾発力によってインクジェットヘッド2を挟持固定する図2のような取付機構であっても、実用上は必要にして十分なヘッド固定が可能である。
【0033】
このように、インクジェットヘッド2は、図2のヘッド取付機構10によって、サブキャリッジ3上におけるY軸方向の位置決めが行われる。一方、インクジェットヘッド2のX軸方向の位置決めは、図3に示したインクジェットヘッドアライメント装置20(以下、アライメント装置20と略記する)によって行われる。図3にアライメント装置20の上面図を示す。図3のアライメント装置20では、向かって左側にX軸方向付勢手段21(第2付勢手段)、右側にX軸位置調整手段22(第2位置調整手段)(以下、それぞれ、付勢手段21,調整手段22と略記する)が設けられている。なお、付勢手段21を省き、左右共に調整手段22を設けてもよい。
【0034】
付勢手段21は、サブキャリッジ3上の付勢手段11と同様に、弾性部材によってインクジェットヘッド2をX軸方向に付勢する。図3の付勢手段21では、ピアノ線材を用いた圧縮コイルバネ23の端部に金属製のロッドプランジャ24を取り付け、これらを箱状のケース25内に収容した構成が採用されている。ケース25は、アライメント装置20のベース板31上に固定される。付勢手段21のロッドプランジャ24は、インクジェットヘッド2の挟持部2aのX軸方向の端面33a(第1のX軸端面)に当接する。これにより、インクジェットヘッド2に対し、圧縮コイルバネ23によるX軸方向の付勢力が付与される。なお、付勢手段21に使用されるバネの材質や形状には、前述同様、特に限定はない。
【0035】
調整手段22もまた、サブキャリッジ3上の調整手段12と同様に、マイクロメータ26を備えている。マイクロメータ26は、ベース板31上に載置されたホルダ27に固定され、シンブル操作に伴って伸縮するスピンドル28を備えている。スピンドル28は、挟持部2bのX軸方向の端面33b(第2のX軸端面)に当接する。調整手段22は、このスピンドル28によって、インクジェットヘッド2をX軸方向に押圧する。調整手段22においても、マイクロメータ26によってスピンドル28の突出量を調整できるため、インクジェットヘッド2のX軸方向の位置調整を行うことが可能である。
【0036】
一方、アライメント装置20では、Z軸方向下部に備えられた図示しないカメラによって、インクジェットヘッド2のノズル面が撮像できるようになっている。このため、アライメント装置20のベース板31とサブキャリッジ3にはそれぞれ、開口部19,29が形成されている。開口部19,29は、インクジェットヘッド2のサイズよりも若干広い大きさとなっており、サブキャリッジ3をアライメント装置20上に配置すると、両開口部が重なるように設けられている。従って、アライメント装置20にサブキャリッジ3を取り付け、装置下方(図3において紙面裏側方向)からインクジェットヘッド2を見ると、ヘッドのノズル面全体を下方側から視認できるようになっている。
【0037】
ここで、インクジェットヘッド2のノズル面には、予め設定された位置にアライメントマークが設けられており、このアライメントマークを装置下方のカメラにて撮像し、その位置合わせを行うことにより、サブキャリッジ3上におけるインクジェットヘッド2の位置決めが行われる。この場合、アライメントマークは、インクジェットヘッド2に設けられた複数のノズルのうちの特定の1つのノズルであっても良い。但し、θ方向の位置調整を行うためには、アライメントマークは2個あることが望ましく、その場合、2つのアライメントマークの何れもが特定のノズルであっても良い。
【0038】
なお、インクジェットヘッド2には、サブキャリッジ3に係止される図示しないストッパが突設されており、インクジェットヘッド2が開口部19,29から脱落しないようになっている。また、当該ストッパは、インクジェットヘッド2のノズル面がサブキャリッジ3に対して水平を保ち、かつ、ノズル面の高さも揃うように設けられている。
【0039】
当該インクジェット記録装置では、このようなヘッド取付機構10やアライメント装置20を用い、次のような手順でインクジェットヘッド2の位置調整を行う。図4は、その作業手順を示すフローチャートである。ここではまず、サブキャリッジ3上にインクジェットヘッド2を仮に固定する。(S10)。次に、このサブキャリッジ3をアライメント装置20に載置する(S20)。そして、アライメント装置20のZ軸方向下部に設けたカメラによって、インクジェットヘッド2のノズル面の画像を撮像し、図示しないモニタに出力する(S30)。
【0040】
この画像から、インクジェットヘッド2のノズル面に設けられたアライメントマークが、予め設定されている目標位置に一致するように、Y軸位置調整手段12とX軸位置調整手段22を操作してインクジェットヘッド2の位置調整を行う(S40)。目標位置とアライメントマークとのズレが閾値以下であるかどうか判断し(S50)、それが閾値を超えている場合にはS40に戻り、改めて位置調整を行う。一方、目標位置とアライメントマークとのズレが閾値以下であり、位置調整が完了したならば、サブキャリッジ3上の全てのインクジェットヘッド2について位置調整が完了したかどうかを確認する(S60)。S60にて、他に位置調整が完了していないインクジェットヘッド2がサブキャリッジ3上にある場合には、S30に戻って位置調整を続行する。
【0041】
そして、全てのインクジェットヘッド2について位置調整が完了した場合は、サブキャリッジ3をアライメント装置20から外し、ヘッドベース1に搭載する(S70)。その際、サブキャリッジ3は、位置決めブロック4,5によってヘッドベース1上に位置決めされ、トグルクランプ等にて固定される。
【0042】
このように、本発明のインクジェット記録装置では、付勢手段11,調整手段12を備えたヘッド取付機構10や、付勢手段21,調整手段22を備えたアライメント装置20を用いてインクジェットヘッド2の位置調整を行うので、簡易な構成で高精度にインクジェットヘッド2の位置調整を行うことができる。このため、高精度で軽量なインクジェット記録装置を得ることができ、高品質・高スピードの記録処理が可能となる。また、インクジェットヘッド2の交換に関しても高いメンテナンス性を実現でき、メンテナンス工数や無駄な廃棄物を低減させることが可能となる。
【0043】
ところで、インクジェットヘッドでは、中央部に位置するノズルと、インク供給経路の末端に当たるノズル両端部近傍に位置するノズルとの間で、インク吐出量にバラツキが生じる場合がある。インク吐出量にバラツキが存在する状態で、カラーフィルタ等の製造を行うと、製品にスジやインクムラが発生するおそれがある。そこで、このようなスジやムラを低減すべく、従来より、ヘッド両端部近傍のノズルからはインクを吐出させず、走査方向に隣接するヘッドを重ね合わせて配置することにより、良好な記録領域を確保する方式が適宜採用されている。
【0044】
図5は、インクジェットヘッドを重畳配置した場合のヘッド配置を示す説明図である。なお、図5では、簡単のため、1列ノズルのヘッドを重畳配置した状態を示している。図5に示すように、インクジェットヘッド41,42は、走査方向(Y軸方向)に隣接して配置される一方、ヘッド41の右端部41Rと、ヘッド42の左端部42Lが、X軸方向に重ね合わされた状態となっている。また、インクジェットヘッド42,43も、走査方向(Y軸方向)に隣接して配置される一方、ヘッド42の右端部42Rと、ヘッド43の左端部43Lが、X軸方向に重ね合わされた状態となっている。インクジェットヘッド41とヘッド43は、X軸方向に隣接するヘッドである。
【0045】
重畳配置方式では、図5のようなヘッド配置とした上で、各ヘッドのノズル44のうち、重畳領域P内に存在し、ヘッド両端部近傍にあるノズル44aを吐出停止状態とする。重畳領域P内では、吐出停止状態のノズル44aに代えて、重畳配置された隣接するヘッドのノズル44bからインクが吐出される。ノズル44bは、重畳領域P内にて、ノズル44aよりも中心側に位置するノズルである。これにより、両端部近傍の吐出停止ノズルの印刷領域は、隣接するヘッドのノズルからインクが吐出され、記録領域が確保される。また、その際、インク吐出量にバラツキが生じ易い両端部近傍のノズルに代えて、より中心に近いノズルによって印刷が行われるため、吐出量のバラツキに起因するスジやムラが低減され、製品品質の向上が図られる。
【0046】
一方、インクジェット記録装置では、インクの変更や印刷対象物の変更により、インクジェットヘッドの重ね合わせ量(重畳領域PのX軸方向の寸法)が変更される場合がある。その場合、従来の装置では、ヘッドベース上に設けた取付治具によって、インクジェットヘッドが位置決め固定されており、装置ごとに重ね合わせ量は一定量に固定されている。このため、重ね合わせ量が変更になった場合には、取付治具も含め、ヘッドベースの大規模な改変が必要となる。
【0047】
これに対して、本発明によるアライメント装置20を用いると、X軸方向のヘッド位置調整は、X軸位置調整手段22によって容易に変更できる。つまり、X軸位置調整手段22におけるマイクロメータ26の設定値を変更するだけで、任意の重ね合わせ量が設定できる。従って、ヘッドベースの加工を行うことなく、アライメント装置20上の調整にて、容易にインクジェットヘッドの重ね合わせ量を変更することが可能となる。
【0048】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施例では、位置決めブロック4,5をブロック状に形成したが、その形状はブロックには限定されず、サブキャリッジ3の移動を規制可能であれば、ピンや壁体など種々の形態が採用可能である。また、サブキャリッジ3をヘッドベース1上に固定する手段は、前述のトグルクランプには限定されず、サブキャリッジ3を着脱可能に固定できる手段であれば、種々の手段を用いることができる。例えば、ヘッドベース1に固定されたボルトをサブキャリッジ3に設けられた孔に通し、ナットで締めて固定する方法も採用可能である。
【0049】
一方、前述の実施例では、ヘッド取付機構10をサブキャリッジ3上に配してヘッドベース1上に設ける構成を挙げているが、ヘッドベース1上に直接ヘッド取付機構10を配しても良い。また、付勢手段11を、バネを用いた機構ではなく、それ自体をゴムや合成樹脂のブロックにて形成した構成とすることも可能である。但し、使用するインクに含まれる溶媒によっては、ゴムや合成樹脂は好ましくない場合もあり、材料の選択には一定の考慮が必要である。さらに、図2では付勢手段11と調整手段12が2対設けられている例が示されているが、付勢手段11はインクジェットヘッド2のX軸方向のほぼ中央部に1つだけ設けても良い。
【0050】
加えて、前述の実施例では、1個のサブキャリッジ3に複数個(ここでは3個)のインクジェットヘッド2を配し、それを位置決めするためのヘッド取付機構10もサブキャリッジ3上に複数個設けた構成を示したが、サブキャリッジ3に搭載するインクジェットヘッド2やヘッド取付機構10の個数は3個には限定されず、適宜選定可能である。すなわち、サブキャリッジ3にインクジェットヘッド2を1個だけ搭載した構成でも良く、この場合、ヘッド取付機構10も1個だけサブキャリッジ3上に設けられる(概ね、図2に示されている部分のみの構成)。
【0051】
また、アライメント装置20でのインクジェットヘッド2の位置決めに際し、ノズル面にアライメントマークを設けることなく、カメラによってノズルそのものを観察してヘッド位置の調整を行っても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 ヘッドベース
2 インクジェットヘッド
2a,2b 挟持部
3 サブキャリッジ
4 位置決めブロック
5 位置決めブロック
5a 本体部
5b 当接突起
10 インクジェットヘッド取付機構
11 Y軸方向付勢手段(第1付勢手段)
12 Y軸位置調整手段(第1位置調整手段)
12a,12b 調整手段
13 圧縮コイルバネ
14 ボールプランジャ
15 ケース
16 マイクロメータ
17 ホルダ
18 スピンドル
18a,18b スピンドル
19 開口部
20 インクジェットヘッドアライメント装置
21 X軸方向付勢手段(第2付勢手段)
22 X軸位置調整手段(第2位置調整手段)
23 圧縮コイルバネ
24 ロッドプランジャ
25 ケース
26 マイクロメータ
27 ホルダ
28 スピンドル
29 開口部
31 ベース板
32a 端面(第1の面)
32b 端面(第2の面)
33a 端面(第1のX軸端面)
33b 端面(第2のX軸端面)
41 インクジェットヘッド
41R 右端部
42 インクジェットヘッド
42L 左端部
42R 右端部
43 インクジェットヘッド
43L 左端部
44 ノズル
44a ノズル(重畳領域P内にてヘッド両端部近傍に位置するノズル)
44b ノズル(重畳領域P内にてノズル44aよりもヘッド中心側に位置するノズル)
P インクジェットヘッド重畳領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドの第1の面に当接し、前記インクジェットヘッドを弾性部材によって付勢する第1付勢手段と、
前記インクジェットヘッドの前記第1の面と対向する第2の面を押圧し、前記第1付勢手段との間に前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置を前記第1付勢手段側に移動調整可能な第1位置調整手段と、を有することを特徴とするインクジェットヘッド取付機構。
【請求項2】
前記第1付勢手段は、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一のY軸方向に沿って前記インクジェットヘッドを付勢し、
前記第1位置調整手段は、前記Y軸方向に沿って、前記第1付勢手段による付勢力とは反対の向きに前記インクジェットヘッドを押圧することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド取付機構。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドは、前記Y軸と直交するX軸方向に沿って配置された複数個のインク吐出用ノズルを有し、
前記ノズルから吐出されるインクの吐出方向が、前記X軸方向及び前記Y軸方向と直交するZ軸方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド取付機構。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、
前記第1位置調整手段は、1個のインクジェットヘッドに対し、前記X軸方向に沿って2個配置されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド取付機構。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のインクジェットヘッド取付機構を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載のインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジと、前記サブキャリッジが着脱可能なヘッドベースを有することを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項に記載のインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジが載置され、
前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、
前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する第1のX軸端面に当接し、前記インクジェットヘッドを弾性部材によって付勢する第2付勢手段と、
前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する第2のX軸端面を押圧し、前記第2付勢手段との間に前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置をX軸方向に沿って移動調整可能な第2位置調整手段と、を有することを特徴とするインクジェットヘッドアライメント装置。
【請求項8】
請求項1〜4の何れか1項に記載のインクジェットヘッド取付機構を備えたサブキャリッジが載置され、
前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向としたとき、
前記インクジェットヘッドのX軸方向に面する2つのX軸端面をそれぞれ押圧する2個の第2位置調整手段を有し、
前記第2位置調整手段は、前記インクジェットヘッドを挟持しつつ、前記インクジェットヘッドの位置をX軸方向に沿って移動調整可能であることを特徴とするインクジェットヘッドアライメント装置。
【請求項9】
前記X軸方向及び前記Y軸方向と直交する方向をZ軸方向としたとき、
前記サブキャリッジ上に配置された前記インクジェットヘッドのノズル面が、前記インクジェットヘッドのZ軸方向下部から視認可能な開口部を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のインクジェットヘッドアライメント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247149(P2010−247149A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65773(P2010−65773)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】