説明

インクジェット印刷装置

【課題】本発明の課題は、大容量のインクタンクを搭載し、インクジェットヘッドと大容量のインクタンクを一体にして可動、印字できるインクジェット印刷装置を提供することである。
【解決手段】インク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドとインクジェットヘッドの上部に配置され、大容量のインクを供給するためのインクタンクと、インクタンクとインクジェットヘッドとのインク供給路に配置されたインク室と、インク室に連通し、インクジェットヘッドのノズルに、印字に適した負圧を付与するためのインク室負圧保持手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット印刷装置に係り、特にインクタンク搭載型ヘッドを有するインクジェット印刷装置及びその装置のインク供給方法並びにインク脱気方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクタンク搭載型のヘッドとして、ノズルを水平に配置した水平噴射タイプのものがよく知られているが、この水平噴射タイプのノズルではインクが重力方向に曲がり、用紙に着地したあとのインクが垂れる等の問題があるため、ヘッドを下向きにしたインクジェットプリンタが開発されている。
【0003】
ヘッドを下に向け、ヘッドの上方にインクタンクを配置する場合には、インクジェットヘッドのノズルに適当な負圧を付与するために、インクタンク部を負圧に保持する必要がある。このため、インクタンク内を袋状に形成し、袋の中に板ばね等を仕込んで負圧を作り出す方法、或いはインクタンク内部に連続気孔形のスポンジを詰め込んで負圧を作り出す方法が既に提案されている。
【0004】
しかしながらこれらの方法では、インクの消費量に応じて常に適正な負圧をインクジェットヘッドのノズルに付与することが困難であり、又、産業用の大容量のインクタンクを搭載する構造には不向きである。
【0005】
なお、以下説明する本発明に関連する技術として、特許文献1には、インク交換時に印刷を停止させないでインクタンクを交換する技術が開示されている。また特許文献2には、メインタンクのインク残量が少なくなったときに、残量値が上限値に達していないサブタンクに強制的にインク供給を制御する技術が開示されている。また特許文献3には、気体透過性のある膜を介してインクと対向する空間を大気圧以下に減圧することによりインク中の溶存空気を除去する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−113716号公報
【特許文献2】特開2002−120374号公報
【特許文献3】特開2003−341083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の点に鑑み、インクの消費量及びインク室のインク水位に応じて常にインクジェットヘッドのノズルに適正な負圧を形成させることにより、インクジェットヘッドの上部に大容量のインクを貯溜するインクタンクを搭載し、インクジェットヘッドと大容量のインクタンクを一体にして可動し、印字することができるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、インク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの上部に配置され、大容量のインクを貯溜するインクタンクと、該インクタンクと前記インクジェットヘッドとの間のインク供給路に小容量のインクを貯溜するインク室を備え、該インク室に形成される空気溜り部の負圧を調整するインク室負圧調整手段を設けたことに一つの特徴がある。
【0009】
本発明の他の特徴は、インクタンクを袋状の脱気インク袋として装着し、この脱気インク袋を重力方向に取付けた後、横に倒すことによりインクタンクを構成することにある。
【0010】
本発明の他の特徴は、前記小容量のインクを貯溜するインク室として第1のインク室と第2のインク室を設け、該第1及び第2のインク室のそれぞれに形成される空気溜り部の負圧を調整するインク室負圧調整手段を設けたことにある。
【0011】
本発明の他の特徴は、前記第1のインク室から前記インクジェットヘッドにインクを供給している間に、大容量インクタンクより第2のインク室にインクを充填し、第1のインク室のインク水位が所定レベルより低下したときに第2のインク室からインクジェットヘッドにインクを供給するようにしたインクの供給方法にある。
【0012】
本発明の他の特徴は、前記インク室に形成された空気溜り部に連通する真空ポンプと圧力低減用の圧力調整器とを備え、インクジェットヘッドが非印字状態にあるときに、該インク室を高真空状態に保持して該インク室内のインクを脱気する脱気方法にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクタンクとインクジェットヘッドのインク供給路間にインク室を備え、そのインク室のインク水位に応じて常にノズルに付与される負圧を適正に保持する手段を有するので、インクジェットヘッドのノズルを下向に設けて、インク液滴を重力方向に噴出するような構造とし、なお且つ大容量のインクタンクを搭載したインクジェット装置を提供することが可能となる。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の第1の実施例を示すインクジェット印刷装置の概略構成図である。
【0015】
図1において、サポートガイド13の下端にインク液滴を重力方向に噴出するノズル(図示せず)を複数個有するインクジェットヘッド11、上部にインクタンク81、中央部にインク室31が取付けられている。インクタンク81とインク室31間にはインクタンク側インク管路40が取付けられ、インク室31へのインク供給が可能となっている。インク管路40の途中にはインクの補給を調節できるようインク路開閉用電磁弁32が取付けられている。また、インクタンク81には2個のインクセンサ82及び83が取付けられており、タンク81内のインク85の量を検出することでできるように構成されている。
【0016】
インク室31とヘッド11間にはヘッド側インク管路39が配設され、ヘッドの手前にインク内の異物除去のためのフィルタユニット12が設けられている。また、インク管路39の途中にはヘッド11へのインク供給を調節するためのインク路開閉用電磁弁33が取付けられている。
【0017】
インク室31は第1インク分室34と第2インク分室35の2つの室を有する。この第1インク分室34と第2インク分室35は下方の開放口により連通している。また、第1インク分室34の上部がインク管路40と連通し、第2インク分室35の下部がヘッド側インク管路39と連通している。ヘッド側インク管路39は第1インク分室34に連通していても機能上は問題ないが、ヘッド11から気泡が逆流して第1インク分室34に入った場合、第1インク分室34の上部に溜った気泡が、インク供給の妨げになることが予想されるため、第2インク分室35側に連通する方がよい。
【0018】
第2インク分室35には2個のインクセンサ36、37がそれぞれヘッド11の下面からha、hbの高さ位置に取付けられている。38は第2インク分室35の上部の空気溜りである。この空気溜り38は、チューブ75によりエアバッファ72と連通し、更に真空ポンプ71と連通している。また真空ポンプ71は空気排出用電磁弁76と接続されている。一方、チューブ75の途中で分岐して圧力を調整するための圧力調整器74と該圧力調整器までの管路を開閉するための電磁弁73が取付けられている。
【0019】
次に、上記インクジェットヘッド11のノズル(図示せず)に、印字に好適な負圧を形成するための圧力調整方法について説明する。
【0020】
インクジェットヘッドのノズルを下向きに設けてインク液滴を重力方向に噴出する構造の場合は、静的な状態(電気信号が印加されないとき)において、ノズルからインクが垂れ落ちないように、インクの重力方向に加わる圧力と平衡する負圧をノズルに付与する必要がある。このノズル内のインクが表面張力によって、凹状又は凸状になる現象をメニスカス(meniscus)と称している。
【0021】
通常、印字に好適なメニスカスを形成するには、インクジェットヘッドのノズル面より、インクを供給するインク室のインク水位が10mm〜30mm程度下方に配置されていることが望ましい。しかしながら上述の第1の実施例の場合、インク分室35のインク水位は、インクジェットヘッド11のノズル面より逆にhだけ上方に配置されているため、ノズルに適当な負圧を形成するために真空ポンプ71を設け、空気溜り部38の圧力を適正な負圧に調整している。
【0022】
空気溜り部38に負圧を形成するためには、まずインク室31の上下の電磁弁32、33を閉じることによって、インク85がインクタンク81からインク室31、及びインク室31からヘッド11に流れ込まないようにした後、真空ポンプ71を駆動して、真空ポンプ71に繋がるエアー系の電磁弁73、76を開放する。これによりインク室31内の第2インク分室35の上部の空気溜り部38が負圧になる。本実施例では、真空ポンプ71の吸引能力を考慮して圧力調整器74の調整を行い、空気溜り38部の吸引圧を設定している。図7は、真空ポンプ71の圧力−流量特性の一例を示す。圧力調整は、エアバッファ72にマノメータを取付け、圧力調整器74の開口量を調整することにより行う。
【0023】
前述のように、ノズルに適正なメニスカスを形成するためには、ノズルに付与する負圧を−10mm〜−30mmHO(=−100Pa〜−300Pa)とすればよいから、空気溜り部38の負圧をP、インクの比重をρ、ノズルの面に対するインクの水位をhとした時、
P=−ρ・h−X・・・(1)
とし、X=100〜300PaとなるようにPを制御すればよい。
【0024】
このように空気溜り部38の圧力調整をするためには、センサ36、37の高さha、hbに対して次式(2)、(3)が成立するように設定すればよい。
【0025】
P=−ρ・ha−100・・・(2)
P=−ρ.hb−300・・・(3)
但し、これは圧力調整方法の一例であって、この他にも種々の制御の方法が考えられる。また上記の圧力調整は初回時に一度、圧力調整器74で設定すれば印刷動作時に圧力の自動調整を行わないで済むため、調整作業は極めて容易である。
【0026】
次に、本実施例装置のインク補給の動作を図8を用いて説明する。
【0027】
インクタンク81からインク室31にインク85を補給するためには、インクタンク81側の電磁弁32を開にし、ヘッド11にインクを供給する側の電磁弁33を閉にする。また、第2インク分室35の空気溜り部38は負圧のまま保持しておく方が良いので、電磁弁73、76は開とし、真空ポンプ71はオンにしておく。インクタンク81のインク85はインクタンク81上面と第2インク分室35の水位差により容易にインク室31に流れ込む。
【0028】
インクタンクの水位が低下し、下部のインクセンサ83の位置より下になった場合、インクタンク81へのインク補給を行う必要がある。インク補給は、大容量インク容器(図示せず)からインクタンク81の上部に注ぎ込むことで容易にインク注入が可能である。
【0029】
ついで、ヘッド11の移動動作について説明する。
【0030】
本実施例では、ヘッド11とインクタンク81が一体的に構成されているためサポートガイド13を上下、水平方向に移動させ、メディア(図示せず)の上まで移動させる。図8に示すように、ヘッド11の移動中にはインク室31の上下の電磁弁32、33を閉じ、インクがインクタンク81からインク室31、及びインク室31からヘッド11に流れ込まないようにし、真空ポンプ71をオンし、真空ポンプ71につながるエアー系の電磁弁73、76を開放する。これによりインク室31内の第2インク分室35上部の空気溜り部38が負圧になる。本実施例による構造では、ヘッド11の移動時は、インクタンク81内のインクが揺れても電磁弁32及び33を閉にしているため、ヘッド11のメニスカスの破壊は起きない。
【0031】
次に、印刷動作について説明する。
【0032】
サポートガイド13をメディア位置上部(図示せず)まで移動させ、インクタンク81側の電磁弁32を閉にし、ヘッド11にインクを供給する側の電磁弁33を開にする。また、第2インク分室35の空気溜り部38を負圧のまま保持するため、電磁弁73、76は開とし、真空ポンプ71はオンにしておく。第2インク分室35の空気溜り部38の水位hは、ha>h>hbに保持されているため電磁弁33が急に開放されてもノズルからインク漏れを起こすことなく常時安定したメニスカスを形成できる。
【0033】
印刷を継続し、第2インク分室35の空気溜り部38の水位hが下部のインクセンサ37位置であるhbまで低下すると、インク補給の信号が発生する。このときには、前述のインク補給の動作に戻り、第2インク分室35の空気溜り部38の水位hが、h=haになるまで、インク補給を継続する。インク補給中はヘッド側の電磁弁33を閉じているため印刷は中断する。ただし、インク補給の場所は選ばないため、メディア上でインク補給を行い、インク補給が完了すれば継続して印字を実行することができる。
【0034】
印刷が終了し、次のメディア待ちの場合は、図8の短時間停止中状態になる。各電磁弁32、33、73の状態は印刷中と変わらず、真空ポンプ71もオンのままである。ヘッドは待機位置(例えば、ヘッドのキャッピング位置(図示せず))に移動することも可能である。
【0035】
次に、長期停止中の場合について説明する。
【0036】
ヘッド11が印字されないで長時間放置された場合(例えば、10分以上短時間停止状態におかれた場合)、ヘッド11をヘッドのキャッピング位置に移動させ、インク室31の上下の電磁弁32、33、及び圧力調整器74の手前にある電磁弁73の3個の電磁弁を閉にする。すると、真空ポンプはオンのままのため第2インク分室35の真空度は高くなる。図7に示すように、流量が殆どゼロになるとポンプはほぼ最高真空度まで上がる。本実施例では−50kPa近くまで上げられる。ほぼ真空度が上がったところで、真空ポンプの空気排出用電磁弁76を閉じて直ちに真空ポンプ76をオフすれば第2インク分室35の空気溜り部38が高真空状態で保持されることとなり、第1インク分室34、第2インク分室35内のインクを脱気することが可能となる。ここで、チューブ75は空気透過性が低く高真空でも潰れないようなナイロン樹脂チューブ、或いは内部は耐薬品性の高いチューブとし、外皮にナイロンを用いた2層チューブが好適である。
【0037】
図1において真空ポンプ71の右側に空気排出用電磁弁76を取付けたが、真空ポンプの停止時の密閉性が十分確保できているならば電磁弁76はなくても良い。また、真空ポンプの代わりに吸引ポンプを用い、停止時の密閉性が極めて悪い場合、電磁弁76はポンプの左側に設置すると良い。
【0038】
上記のように第1の実施例によれば、大容量インクタンクとインクジェットヘッドのインク供給路にインク室を設け、インク室の空気溜り部の圧力を適当な負圧に保持する手段を設けたので、インク室のインク水位の変動にかかわらず、常にノズルに適正な負圧を形成することが可能となり、従って、大容量タンクを搭載したインクジェット印刷装置を提供することができる。
【実施例2】
【0039】
次に本発明印刷装置の第2の実施例を図2、図3、図4−1、図4−2、図4−3を用いて説明する。
【0040】
本実施例は、インクタンク81の代わりに袋状の容器を用いてこれにインクを充填する構造を有する。この場合の利点は、インク補充をする時に袋状インクタンクを交換するだけでよいため、ゴミや異物がインク経路内に入ることがないことである。また、密封容器とすることができるため脱気したインクを用いることができるという利点もある。
【0041】
図2は袋状インクタンク91を取付けた図、図3は袋状インクタンク91を取付けた後、横に寝かせた図、図4は袋状インクタンク91と取付け部材92の構造を示した図であり、図1と同じ構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
図2において、袋状インクタンク91を上方より取付け部材92に差し込む。インクタンク91側の電磁弁32とインクタンク取付け部材92の間は、可撓性のホース93で接続する。材質としては、耐インク性の高いプラスチックホースや、蛇腹状のステンレスパイプが用いられる。ついで、図3に示すように袋状インクタンク91を横向きに倒す。袋状インクタンク91を固定するには横方向に延在するサポートガイド13から固定用アーム(図示せず)を伸ばし、インクタンク91の胴体を保持すれば良い。
【0043】
図4−1は、袋状インクタンク91の取付け部材92側の構造を示したものである。袋状インクタンク91は、口部101の内部にスライドロッド102が挿入されており、該スライドロッド102の先端にはタンク内のインク漏れ防止用のO−リング103が取付けられている。なお、スライドロッド102はばね(図示せず)により下向きに押されており、上記O−リング103によりインク漏れを防止している。また口部101の内部には別のO−リング104が挿嵌されている。
【0044】
図4−2は、インクタンクの取付け部材92の構造を示したものである。サポートガイド13の一部に支柱115を立て、取付け部材92の外枠116を支点114で回動自由に支持している。フレーム113の内径はインクタンクの口部101外径より僅かに大きくなっている。また、フレーム113の内部には側面にインク流入口112を有する挿入ピン111が取付けられ、インク流入口112は可撓性のホース93に連通している。
【0045】
図4−3は、袋状インクタンク91を取付け部材92に装着した状態を示したものである。挿入ピン111の側面は袋状インクタンクの口部101の内部に挿嵌されたO−リング104でシールされ、且つインクタンク91内のインクの漏れを防止していたスライドロッド102が挿入ピン111の端部に押されて上方に移動するため、インクはインク流入口112に流入され、ホース93を介してインク室31に供給可能となる。
【0046】
袋状インクタンク91には、図1のようなインクセンサ82、83を取付けるのは困難である。そこで本実施例では、インク補給中に所定時間経過しても第2インク分室35の上部インクセンサ36の位置までインク水位が上昇しなかったときをインクタンク交換時期とする。インクタンク91を交換する時には、2個の電磁弁32、33を閉じ、インクタンク91の固定用アームを外し、インクタンク91を立て、更にインクタンク91を取付け部材92から外す。以下、逆の手順で新しいインクタンク91を取付ける。新しいインクタンク91が取付けられた後は、インク補給を再開し印刷を再実行することができる。
【0047】
第2の実施例によれば、インクタンクを袋状の脱気インク袋として装着可能にしたのでインク補充が容易となり、且つインク経路内を気泡の停留のない状態に維持できるためインク吐出が容易となる。また、脱気インク袋を重力方向に取付けた後、横に倒すことによりインクタンクの取付け時の高さを極力低く抑えることができる。
【実施例3】
【0048】
次に本発明印刷装置の第3の実施例を図5、図9を用いて説明する。
【0049】
本実施例はインクタンク81とヘッド11間に2個のインク室31a、31bを設け、一方のインク室を印字に使用している時には他方のインク室はインクを所定位置まで満たして待機させ、一方のインク室のインクがなくなった時には他方のインク室を開いて印字を継続させるものである。
【0050】
図5において、サポートガイド13の下端にインク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッド11、上部にインクタンク81、中央部に2個のインク室、即ち第1インク室31a、第2インク室B31bが取付けられている。インクタンク81と第1インク室31a及び第2インク室31bとはインクタンク側インク管路40a、40bにより連通され、2個のインク室、31a、31bへのインク供給が可能となっている。インク管路40aの途中にはインクの補給を調節するインク路開閉用電磁弁32aが取付けられている。また、インク管路40bの途中にはインク路開閉用電磁弁32bが取付けられている。
【0051】
第1インク室31aとヘッド11間にはヘッド側インク管路39aが配設され、同様に第2インク室31bとヘッド11間にはヘッド側インク管路39bが配設され、フィルタユニット12の手前で2本のインク管路39aと39bが1本に統合されている。また、インク管路39aの途中にはヘッド11へのインク供給を中断できるよう、インク路開閉用電磁弁33aが取付けられている。同様にインク管路39bの途中にはインク路開閉用電磁弁33bが取付けられている。
【0052】
2個のインク室31a、31bの上部には空気溜り38a、38bが形成されている。これらの空気溜り38a、38bは、1個の真空ポンプ71と空気排出用電磁弁76にチューブ75により連通されている。真空ポンプ71と空気溜り38の間にはエアバッファ72が取付けられている。また、チューブ75の途中に分岐して圧力を調整するための圧力調整器74と該圧力調整器までの管路を開閉するための電磁弁73が取付けられている。
【0053】
次に、図9を用いてインク補給の動作について説明する。インク室2個のうち第1インク室31aにインク供給する場合を例に説明する。
【0054】
インクタンク81から第1インク室31aにインク85を補給するためには、インクタンク側の電磁弁32aを開にし、ヘッド11にインクを供給する側の電磁弁33aを閉にする。第2インク室31b側の2個の電磁弁32b、33bはインク供給しないので閉とする。また、インク室の空気溜り部38a、38bは負圧のまま保持しておく方が良いので電磁弁73、76は開とし、真空ポンプ71はオンにしておく。インクタンク81のインク85はインクタンク上面と第1インク室31aの第1インク分室35aの水位差により容易に第1インク室31aに流れ込む。
【0055】
インクタンク81の水位が低下し、下部インクセンサ83位置より下になった場合、インクタンク81へのインク補給を行う必要がある。インク補給は、大容量インク容器(図示せず)からインクタンク81の上部に注ぎ込むことで容易にインク注入が可能である。このときには、電磁弁32a、33a、32b、33bは全て閉とする。
【0056】
ついで、ヘッドの移動について説明する。
【0057】
図9に示すように、ヘッド移動中には2個のインク室31a、31bの上下の電磁弁32a、32b、33a、33bを閉じ、インクがインクタンク81からインク室31a、31b、及びインク室31a、31bからヘッド11に流れ込まないようにし、真空ポンプ71をオンし、真空ポンプ71に繋がるエアー系の電磁弁73、76を開放する。これによりインク室31a、31b内の第1インク分室35a、35b上部の空気溜り部38a、38bが負圧に保持される。
【0058】
次に、印刷動作について説明する。まず、第1インク室31aを用いて印刷する場合を例にとって説明する。
【0059】
サポートガイド13をメディア位置上部(図示せず)まで移動させ、インクタンク81側の電磁弁32aを閉にし、ヘッドにインクを供給する側の電磁弁33aを開にする。第2インク室31b側の2個の電磁弁32b、33bは閉にしておく。また、第1インク分室35a、35bの空気溜り部38a、38bを負圧のまま保持するため、電磁弁73、76は開とし、真空ポンプ71はオンにしておく。インクは第1インク室31aからヘッドに供給されているため印刷を実行することができる。
【0060】
印刷を継続すると、第1インク室31aの第1インク分室35aの空気溜り部38aの水位hが下部インクセンサ37aの位置hbに低下し、インク補給の信号が発生する。このときに第1インク室31aにインク供給をする前に、ヘッド11にインク供給するインク室を第1インク室31aから第2インク室31bに瞬時に切り替える。切り替え方法は電磁弁33aを閉にすると共に電磁弁33bを開にすることにより行われる。
【0061】
このあと、前述のインク補給の動作に戻り、第1インク室31aの第1インク分室35aの空気溜り部38aの水位hが、h=haになるまで、インク補給を継続する。この様に第1インク室31aのインクがなくなったら第2インク室31b内のインクを使用し、その間に第1インク室31aにインクを充填することでインクタンク81のインクがなくなるまで連続して印刷を実行できる。また、印刷メディアの始端、終端を検出するセンサ(図示せず)を用いて、メディアの終端になったら使用するインク室を切り替えることにより、メディア印刷の途中でインク室の切り替えを行うことによる印刷ミスを防止できる。
【0062】
本実施例は、このインク供給系を使用することにより一度に数千部の印刷を行うような産業用の印刷装置として利用可能である。
【0063】
印刷が終了し、次のメディア待ちの場合は、図9の短時間停止中状態になる。各電磁弁の状態は印刷中と変わらず、真空ポンプ71もオンのままである。ヘッド11は待機位置、例えば、ヘッドのキャッピング位置(図示せず)に移動することも可能である。
【0064】
次に、長期停止中の場合について説明する。
【0065】
ヘッド11が印字されないで長時間放置におかれた場合(例えば、10分以上短時間停止状態におかれた場合)、ヘッド11をヘッドのキャッピング位置に移動させ、2個のインク室31a、31bの上下の電磁弁32a、33a、32b、33b、及び圧力調整器74の手前にある電磁弁73の5個の電磁弁を閉にする。すると、真空ポンプ71はオンのままのため第1インク分室38a、38bの真空度は高くなる。図7に示すように、流量が殆どゼロになるとポンプ71はほぼ最高真空度まで上がる。本実施例では−50kPa近くまで上げられる。ほぼ真空度が上がったところで、真空ポンプ71の空気排出用電磁弁76を閉じて直ちに真空ポンプ71をオフにすれば第1インク室31aの第1インク分室35aの空気溜り部38a及び第2インク室31bの第1インク分室35bの空気溜り部38bが高真空状態で保持されることとなり、第1インク室31a及び第2インク室31b内のインクを脱気することが可能となる。
【0066】
本実施例では、インク室を2個の場合で説明したが、インク供給の都合上インク室を3個以上設ける場合も1個のインク室を待機用にし、残りをヘッドへのインク供給に使用することでほとんど同じ動作で構成できる。また、インク室の数によらずインク室のインクセンサ位置が同じであれば、空気溜り部の負圧条件は同じであり、1個の真空ポンプと圧力調整器で負圧設定が可能である。
【実施例4】
【0067】
次に本発明装置の第4の実施例を図6を用いて説明する。
【0068】
本実施例は、実施例3のインクタンク81の代わりに袋状の容器91にインクを充填した場合である。図は袋状インクタンク91を取付け部材92に取付けた後、横に寝かせたものである。
この場合の利点は、インクを補充する時に袋状インクタンクを交換するだけでよいため、ゴミ、異物がインク経路内に入ることがないことである。また、密封容器とすることができるため脱気したインクを用いてインクタンクがほぼ空になるまで連続印刷を行うことができるという利点もある。
【0069】
第3〜第4の実施例によれば、インクタンクとインクジェットヘッドのインク供給路間にインクジェットヘッドのメニスカスを印字に適した負圧に保持するインク室を2個併設し、それぞれのインク室を負圧保持手段に接続する構成としたので、インクタンク内のインクを使い切るまで連続して印字することが可能になる。
【0070】
また、1個のインク室からインクジェットヘッドにインクを供給中に、他のインク室にインクを充填し所定圧力で保持し、第1のインク室のインク水位が所定位置より低下したときに、第2のインク室よりインクジェットヘッドにインクを供給するため、ヘッドに連続的にインクを供給することが可能になる。
【0071】
また、第1〜第4の実施例によれば、インク室が1インク分室と第2インク分室に区画され、インクタンクと第2インク分室間のインクを開閉するための電磁弁と、第1インク分室とインクジェットヘッドのインクを開閉するための電磁弁と、第1インク分室のインク量を検知するための2個のインク残量センサと、第1インク分室の上部に空気溜り部を有し、空気溜り部に連通する真空ポンプと圧力低減用の圧力調整器と該圧力調整器の管路を開閉する電磁弁とを備えているため、空気溜り部の内圧を任意の圧力に設定することが可能である。
【0072】
また、インクジェットヘッドが非印字状態の時には、インク室の第2インク分室、第1インク分室を高真空状態に保持して該インク室内のインクを脱気することができるため印字再開時にはヘッドに脱気されたインクを供給することができ、微小エアーの残存によるノズル不吐出を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の実施例を示す概略構成図。
【図2】本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の実施例を示す概略構成図。
【図3】図2の袋状インクタンクを倒した状態を示す説明図。
【図4−1】袋状インクタンクと取付け部材の取付け状態を説明するための説明図。
【図4−2】袋状インクタンクと取付け部材の取付け状態を説明するための説明図。
【図4−3】袋状インクタンクと取付け部材の取付け状態を説明するための説明図。
【図5】本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の実施例を示す概略構成図。
【図6】本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の実施例を示す概略構成図。
【図7】真空ポンプの圧力−流量特性図。
【図8】本発明に係るインクジェット印刷装置の動作を説明するための説明図である。
【図9】本発明に係るインクジェット印刷装置の動作を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0074】
11:インクジェットヘッド、13:ヘッドのサポートガイド、31:インク室、32、33:電磁弁、34:第1インク室、35:第2インク室、36、37:インクセンサ、38:インクb室の空気溜り、71:真空ポンプ、73:電磁弁、74:圧力調整器、75:チューブ、76:電磁弁、81:インクタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの上部に配置され、大容量のインクを貯溜するインクタンクと、該インクタンクと前記インクジェットヘッドとの間のインク供給路に設けられた、前記インクタンクに対して小容量のインクを貯溜するためのインク室と、該インク室に連結され、前記インクジェットヘッドのノズルに付与される負圧を調整するインク室負圧調整手段とを備え、前記インクジェットヘッドと前記大容量のインクタンクを一体にして可動し、印字することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1において、前記インクタンクを、袋状の着脱可能な脱気インク袋としたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項2において、前記脱気インク袋は口部を重力方向に向けて取付けた後、横に倒すことにより装着されることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項4】
インク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの上部に配置され、大容量のインクを貯溜するインクタンクと、該インクタンクと前記インクジェットヘッドとのインク供給路に設けられ、それぞれ小容量のインクを貯溜する第1のインク室と第2のインク室と、該第1及び第2のインク室に連結され、前記インクジェットヘッドのノズルに付与される負圧を調整するインク室負圧調整手段とを備え、前記インクジェットヘッドと前記大容量のインクタンクを一体にして可動し、印字することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項5】
インク液滴を重力方向に噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの上部に配置された大容量のインクを貯溜するインクタンクと、該インクタンクと前記インクジェットヘッドとのインク供給路に設けられ、それぞれ小容量のインクを貯溜する第1のインク室と第2のインク室と、第1及び第2のインク室に連結され、前記インクジェットヘッドのノズルに付与される負圧を調整するインク室負圧調整手段を有するインクジェット印刷装置のインク供給方法であって、第1のインク室から前記インクジェットヘッドにインクを供給している間に大容量インクタンクより第2のインク室にインクを充填し、第1のインク室のインク水位が所定レベルより低下したときに第2のインク室からインクジェットヘッドにインクを供給するインク供給方法。
【請求項6】
請求項1において、前記インク室は第1インク分室と第2インク分室とよりなり、前記インクタンクから第2インク分室間に供給されるインクの供給路を開閉するための電磁弁と、第1インク分室から前記インクジェットヘッドに供給されるインクの供給路を開閉するための電磁弁と、第1インク分室のインク量を検知するためのインク残量センサと、第1インク分室の上部に空気溜り部を有し、該空気溜り部に連通する真空ポンプと圧力低減用の圧力調整器とを備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項7】
請求項4において、前記第1及び第2のインク室はそれぞれ第1インク分室と第2インク分室を有し、前記インクタンクから第1及び第2のインク室の第2インク分室に供給されるインクの供給路を開閉するための電磁弁と、前記第1及び第2のインク室の第1インク分室からインクジェットヘッドに供給されるインクの供給路を開閉するための電磁弁と、前記第1及び第2のインク室の第1インク分室のインク量を検知するためのインク残量センサと、第1及び第2のインク室の第1インク分室の上部に空気溜り部を有し、各空気溜り部に連通する真空ポンプと該真空ポンプの圧力低減用の圧力調整器とを備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記第1インク分室上部の空気溜り部の圧力をP、インクの比重をρ、インクジェットヘッドのノズル面から第1インク分室のインクの表面レベルまでの高さをHとした時、
P=−ρ・H−X(Pa)
とし、Xが100〜300の範囲となるように圧力を調整することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項9】
請求項6又は7において、インクジェットヘッドが非印字状態の時には、前記第1及び第2のインク室を高真空状態に保持して該インク室内のインクを脱気することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項10】
インク液滴を噴出するノズルを複数個有するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの上部に配置され、大容量のインクを貯溜するインクタンクと、該インクタンクとインクジェットヘッドのインク供給路間に設けられ、小容量のインクを貯溜するためのインク室と、該インク室の一部に形成される空気溜り部と、該空気溜り部に連通する真空ポンプと圧力低減用の圧力調整器とを備えたインクジェット印刷装置のインク脱気方法であって、前記インクジェットヘッドが非印字状態にあるときに、前記インク室を高真空状態に保持して、該インク室内のインクを脱気することを特徴とするインク脱気方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−44015(P2006−44015A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227387(P2004−227387)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】