説明

インクジェット捺染装置及びインクジェット捺染による捺染物の製造方法

【課題】被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した硬化前のUVインク等を分散乃至除去し、上記問題を改善すること。
【解決手段】搬送装置によって搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてUVインク等を吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたUVインク等に紫外線等を照射して硬化する紫外線等の照射部を備えたインク硬化部と、前記捺染実行部と前記インク硬化部との間に設けられ、生地本体表面の毛羽に接触する毛羽接触部材を備えた毛羽接触処理装置と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクを硬化するインク硬化部を備えたインクジェット捺染装置及びインクジェット捺染による捺染物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アパレル(衣服)メーカーやテキスタイル(布地)メーカーでは、従来から生地本体表面に図柄等をプリントする「捺染」が広く行われている。
従来の捺染は、スクリーンや彫刻ロールを使用した製版を必要とする「スクリーン捺染」や「ローラー捺染」が主流であった。そして、印捺された被捺染材である布に溶融塊を発生させることなく、生地本体表面を平滑にして図柄等を描出させる技術として、下記の特許文献1に示すようなレーザー光線を使用した「布帛表面仕上法」という技術が開発されている。
【0003】
また、捺染ヘッドから吐出されたインクを被捺染材に直接付着させて記録を実行する製版を必要としない下記の特許文献2に示すような染料インクを使用した「インクジェット捺染方法」という技術も開発されている。
この「インクジェット捺染方法」では、熱プレス機やアイロン等からなる加熱圧着手段を使用して被捺染材を加熱圧着させることで、生地本体表面に印捺された染料インクを蒸熱染着するようにしている。
【0004】
被捺染材は布であるため布表面に通常毛羽が存在する。また、起毛処理等によって布表面の毛羽を増やし、この増やした毛羽によって触感を一層柔らかくし風合いを持たせ、更には保温性を高めた布も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100257号公報
【特許文献2】特開2003−293272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記毛羽を有する被捺染材にインクジェット捺染を行うと、捺染ヘッドから吐出されたインク滴の一部が被捺染材の生地本体表面まで到達せずに、前記毛羽に「だま」のように付着して「インクだま」が形成される場合が多い。この「インクだま」は、そのまま乾燥固化させた場合、耐擦性を低下し、色移りの問題を生じさせる。
また、「インクだま」は、生地本体表面から立ち上がっている毛羽に付いているため、本来インクが付着すべき染着位置である生地本体表面の位置より上方に位置することになる。そのため、前記「インクだま」の存在によって捺染物の品質を低下する問題がある。
上記した問題は、染料インクよりも色材粒子の大きな顔料インクにおいて顕著に現れる傾向が見られる。
【0007】
特許文献1や特許文献2の技術は、前記毛羽を有する被捺染材に対する捺染に適用すると、前記立毛状態の毛羽を除去したり、押し潰してしまうので、被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を大きく損ねてしまう問題がある。
前記毛羽を有する被捺染材に対する捺染においては、印捺された図柄や画像等が鮮明に捺染されているだけでなく、被捺染材の素材の持つ肌触りや風合といった感覚がそのまま維持されていることが捺染物の品質を評価する上で重要になってくる。
【0008】
また、近年、水系や溶剤系インク(顔料インク)に代わるインクとして、色成分と紫外線硬化型樹脂を主成分とするUVインクが注目されている。UVインクは、硬化性の樹脂を含むことからインクの粘度が高く、硬化性を具備しない溶剤系や水系のインクと比べて、前記「インクだま」の体積は大きくなる。
従って、前記毛羽に付着した「インクだま」をそのままにしてUV硬化させると、毛羽を有する被捺染材の肌触りの低下は前記水系や溶剤系インクの場合よりも大きいという問題がある。
また、前記毛羽に付着した「インクだま」をそのままにしてUV硬化させると、前記「インクだま」の後ろへの紫外線の到達が、当該「インクだま」の存在によって遮られる。その結果、紫外線が被捺染材の生地本体表面であって前記「インクだま」の後ろの部分には到達しづらくなり、UVインクの硬化不良の問題が生じる虞がある。
【0009】
本発明の課題は、被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した硬化前のUVインク等を分散乃至除去し、上記問題を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様に係るインクジェット捺染装置は、搬送装置によって搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクに紫外線又は電子線を照射して硬化する硬化線照射部を備えたインク硬化部と、前記捺染実行部と前記インク硬化部との間に設けられ、生地本体表面の毛羽に接触する毛羽接触部材を備えた毛羽接触処理装置と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」や「衣服その他の服飾製品」等を意味する。「布地」には、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。
また、「衣服その他の服飾製品」には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファーニチャーの類等の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
【0012】
また、「生地本体表面」とは、被捺染材のうち織り加工、編み加工等が施され、あるいはこれらの加工を施すことなく繊維を絡み合わせることで被捺染材の基本的外観形状を形作っている生地本体における捺染側の面を意味する。
「毛羽」には、前記生地本体表面に起毛によって増やされた毛羽の他、前記織り加工等によって自然に発生する毛羽が含まれる。
【0013】
本態様によれば、被捺染材がインクの硬化領域に到達する前の段階で毛羽に付着した硬化前の例えばUVインク(以下、毛羽に付着したUVインクを「インクだま」と言うこともある)は、毛羽接触部材と接触することによって分散ないし除去される。
これに伴い、毛羽接触部材に接触した後、毛羽に残留している「インクだま」は元の大きさよりも小さくなっており、付着している「だま」の量も少なくなっている。
【0014】
これにより、前記毛羽に付着したUVインクの「インクだま」をそのままにしてUV硬化させると、被捺染材の肌触りの低下は前記溶剤系インクの場合よりも大きいという問題を改善できる。
また、毛羽接触部材は毛羽に接触するだけで、該毛羽を押し潰すような強い圧接力を毛羽に作用させていないので、毛羽接触部材との接触時に一時的に毛羽を傾倒させても、当該毛羽は直ぐに復元して元の立毛状態に戻ることができる。従って、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合もそのまま維持される。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るインクジェット捺染装置において、前記搬送装置、前記捺染実行部、前記インク硬化部、前記毛羽接触処理装置の動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記毛羽接触処理装置による処理動作を「実行する」「実行しない」を選択可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、前記制御部は、前記毛羽接触処理装置による毛羽接触動作を「実行する」「実行しない」のいずれかを選択可能に構成されているので、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を求められる場合にだけ毛羽接触処理装置を作動させ、毛羽を有する被捺染材であっても前記肌触りや風合を然程問題としない捺染である場合等は、毛羽接触処理装置による毛羽接触動作を省くことができるようになっている。これにより、毛羽接触処理装置の動作に伴う制約を受けずにインクジェット捺染を実行することが可能となり、例えば、捺染の高速化を図ることが可能となる。
【0017】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様または第2の態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材と被捺染材の生地本体表面との間隔は、マニュアル操作によって、又は前記制御部の制御信号によって調整可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、被捺染材の毛羽の長さや性状の違い等に対応して毛羽接触部材の当該毛羽に対する接触作用高さを調整することが可能になる。従って、毛羽の長さ等が異なる種々の被捺染材に対応できるようになり、当該被捺染材の毛羽に付着した例えばUVインクを分散する乃至除くのに効果的な接触作用高さになるよう当該毛羽接触部材の取付け位置を調整することが可能になる。
【0019】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材は、前記毛羽に接触して当該毛羽に付着しているインクを除くインク除き部材で構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した硬化前の例えばUVインクを、当該毛羽の立毛状態を維持した状態で除去することが可能となる。
従って、毛羽の立毛状態を維持したまま当該毛羽に付着したUVインクを当該インク除き部材で除去する動作を行うことによって、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を維持したまま、耐擦性低下による色移りの問題の発生を低減することができる。
【0021】
また、前記毛羽接触部材を毛羽に接触する際に、該毛羽を押し潰すような強い圧接力を作用させずに接触させることで、当該毛羽は毛羽接触部材との接触時に一時的に傾倒しても、直ぐに復元して当初の立毛状態に戻ることができる。その状態でインク硬化部によって被捺染材に印捺されたUVインクを硬化することによって、当該毛羽の立毛状態は最終的な捺染物においても維持される。
尚、「毛羽の立毛状態を維持した状態で除去する」とは、立毛状態の毛羽を押し潰す作用を及ぼさずに捺染する意味で使われており、捺染工程で自重等によって毛羽が自然に傾いて立毛姿勢が崩れる程度は「毛羽の立毛状態を維持した状態」に含まれる。
【0022】
本発明の第5の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材は、前記毛羽に付着しているインクに接触することで当該インクを分散させるブラシ体で構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本態様によれば、前記毛羽に付着した「インクだま」は、例えば回転ないし揺動駆動されるブラシ体に接触することで、小粒化することができる。従って、UV硬化後の被捺染材のゴワゴワ感は生じにくい。また、ブラシ体に接触することによって掃き上げられたインクは、生地本体表面ないし外部に分散されるので、捺染画像等の捺染品質にもほとんど影響を及ぼさない。
【0024】
本発明の第6の態様は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材の前記毛羽に対する接触作用高さは、接触開始点から最大接触点に向けて徐々に大きくなり、最大接触点から接触終了点に向けて徐々に小さくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0025】
本態様によれば、毛羽接触部材の毛羽に対する接触強度は、接触開始点から徐々に大きくなって最大接触点で最大になり、その後接触終了点に向けて徐々に小さくなる。
従って、立毛状態にある毛羽の急激な傾倒が防止されて該毛羽は緩やかに無理なく連続的に傾倒姿勢を変化するようになるので、毛羽接触処理後も毛羽の立毛状態はそのまま維持される。また、この接触強度の変化によって毛羽に付着したインクを効果的に分散乃至除去することができる。
【0026】
本発明の第7の態様は、前記第1の態様から第6の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材は、被捺染材の搬送方向と交差する向きに回転軸を有し、被捺染材の搬送方向に所定の回転速度で回転駆動される駆動ローラーによって構成されていることを特徴とするものである。
【0027】
本態様によれば、前述した「緩やかな無理のない毛羽の傾倒姿勢への変化」を簡単な構造で実現できるようになる。
また、毛羽接触部材を成す駆動ローラーの回転方向を被捺染材の搬送方向と同じにすることによって被捺染材に搬送抵抗をかけることなく円滑な搬送を行っている状態で毛羽接触処理を行うことが可能になる。
また、前記駆動ローラーの回転速度を増減することで該駆動ローラーの毛羽への接触強度を適宜調整することが可能になる。
【0028】
本発明の第8の態様は、前記第1の態様から第7の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材は、被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路に対して設けられていることを特徴とするものである。
ここで、「被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路」とは、該捺染側の面が真下を向く水平反転搬送経路と、斜め下方を向く傾斜反転搬送経路の両方を含む意味で使われている。
【0029】
本態様によれば、毛羽接触部材によって毛羽から分散乃至除かれたインクが下方に落下するものが多くなり、被捺染材上に付着するものは少なくなる。従って、毛羽から除かれたインクの被捺染材への再付着を低減できるので、高品質の捺染を実現することができる。
また、前記除かれたインクは、毛羽接触部材を伝って下方に流れ落ちる構造にすることができるため、当該インクの回収が容易になり、毛羽接触部材の接触作用面におけるインクの残留やインクの固着等が防止される。
【0030】
本発明の第9の態様は、前記第1の態様から第8の態様のいずれか1つの態様に係るに係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触部材は、前記被捺染材の生地本体表面に非接触で、前記毛羽に接触するように設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
前記生地本体は、生地の性状から多少のうねりを有し、生地本体表面には必然的に小さな凹凸が存在する。従って、前述した「非接触」の語には、毛羽接触部材が前記生地本体表面に完全に接触していない状態の他、被捺染材の搬送抵抗が問題とならない範囲で僅かに接触しているような状態も含まれる。
【0032】
本態様によれば、捺染画像等の情報が形成されている被捺染材の生地本体表面に対して毛羽接触部材で除去したインクを再付着させることなく、毛羽に付着したインクを効果的に除去することが可能になる。また、前記「非接触」としたことで、所定の搬送方向に搬送されている被捺染材には、毛羽接触部材に因る搬送抵抗は殆んどかからないので、被捺染材の円滑な搬送によって高品質の捺染を実現できる。
【0033】
本発明の第10態様は、前記第1の態様または第2の態様に係るインクジェット捺染装置において、前記毛羽接触処理装置は、インク吸収性を有する柔軟性シートと、該柔軟性シートを前記被捺染材の毛羽に接触しつつ該被捺染材の搬送方向に搬送するシート搬送装置と、を備えていることを特徴とするものである。
【0034】
本態様によれば、シート搬送装置が、インク吸収性を有する柔軟性シートを前記被捺染材の毛羽に接触しつつ該被捺染材の搬送方向に搬送するので、毛羽に付着した例えばUVインクは、柔軟性シートに吸収されて除去される。しかも、該柔軟性シートは、そのインク吸収面の作用位置が被捺染材の搬送方向に徐々に移動するので、インク吸収位置が更新されつつ毛羽に接触することになり、効果的に毛羽からUVインクを吸収除去することができる。
また、上記の通りインク吸収位置が更新されつつ毛羽に接触するので、柔軟性シートを毛羽に軽く接触する状態でUVインクを吸収除去することが可能となり、以って毛羽の立毛状態を維持することができる。
【0035】
本発明の第11の態様は、前記第1の態様から第10の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記捺染実行部の上流側に、被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする立毛処理部を備えていることを特徴とするものである。
【0036】
本態様によれば、立毛処理部によって被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする処理を行って、該毛羽の立毛状態の不揃いが低減された状態で、被捺染材の捺染側の面に向けて例えばUVインクを吐出することが可能となる。従って、毛羽を有する被捺染材の捺染側の面に対するインク滴の着弾において、前記「不揃い」に基づく影響が小さくなる。すなわち、毛羽及び生地本体表面へのインク滴着弾の均一性を高めることができる。
毛羽の量が少なめの被捺染材においては、吐出されたUVインクは毛羽にその進行を邪魔されることが少なくなって殆んどのUVインクは生地本体表面に到達するようになることが期待できる。従って、捺染品質を向上できると共に、毛羽に付着してできるインクだまの数が少なくなり、毛羽接触部材による接触処理の負荷も小さくなり、その処理効果が一段と向上する。
【0037】
本発明の第12の態様に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、被捺染材の捺染領域に供給された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程と、捺染が実行された被捺染材の生地本体表面の毛羽に毛羽接触部材を接触させる毛羽接触処理工程と、前記毛羽接触処理工程後に行われる前記被捺染材に印捺されたインクに紫外線又は電子線を照射して該インクを硬化するインク硬化工程と、を有することを特徴とするものである。
【0038】
本態様によれば、前記各工程の一連の流れの中で、毛羽に付着したインクを硬化前の段階で分散乃至除くことができる。これにより、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を維持したまま、商品価値の高い捺染物を効率良く製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の全体構成の概略を示す側断面図。
【図2】同上、インクジェット捺染装置の捺染領域から硬化領域にかけての領域を拡大して示す側断面図。
【図3】同上、インクジェット捺染装置の捺染領域から硬化領域にかけての領域を拡大して示す平面図。
【図4】同上、毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図(A)と、同図矢視Bで示す部分の拡大図(B)。
【図5】本発明の実施例2に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図(A)と、同図矢視Bで示す部分の拡大図(B)。
【図6】本発明の実施例3に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図。
【図7】本発明の実施例4に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図。
【図8】本発明の実施例5に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図9】本発明の実施例6に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図。
【図10】本発明の実施例7に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図(A)と、同図矢視Bで示す部分の拡大図(B)。
【図11】本発明の実施例8に係るインクジェット捺染装置の毛羽接触処理装置周辺を拡大して示す側断面図。
【図12】本発明の実施例9に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図13】本発明の適用対象である被捺染材を拡大して示す側断面図。
【図14】本発明の捺染実行の制御の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図1〜図4に示す実施例1と、図5に示す実施例2と、図6に示す実施例3と、図7に示す実施例4と、図8に示す実施例5と、図9に示す実施例6と、図10に示す実施例7と、図11に示す実施例8と、図12に示す実施例9と、を例にとって、本発明のインクジェット捺染装置1の構造と作動態様について具体的に説明する。
尚、以下の説明では、最初に図1に基づいて本発明のインクジェット捺染装置1の全体構成の概略について説明し、次いで本発明の特徴的構成である毛羽接触処理装置2の構成とその作動態様について前述した実施例1〜9の9つの実施例を例にとって順番に説明して行く。
【0041】
図1にインクジェット捺染装置1の全体構成の概略が図示されている。また、図13には、インクだまDを分散乃至除去している時の被捺染材Tが図示されている。
図示のインクジェット捺染装置1は、ロール状に巻かれた長尺な布地等の被捺染材Tに対応した構成になっており、搬送方向Aの上流位置に繰出しローラー4を備えた繰出し機構部3、搬送方向Aの下流位置に巻取りローラー14を備えた巻取り機構部13が設けられている。
【0042】
また、前記繰出し機構部3と巻取り機構部13との間には、複数のガイドローラー16が配設された被捺染材Tの搬送経路15が形成されている。当該搬送経路15の上流位置で印捺前の被捺染材Tのしわ取りが図示しないしわ取り機構部によって行われるようになっている。
そして、その下流位置には、前記しわ取りが実行された被捺染材Tを、該被捺染材Tの捺染領域17及び印捺されたインクCの硬化領域19に向けて搬送する搬送ベルト8を備えた搬送装置7が配設されている。
【0043】
また、前記被捺染材Tの捺染領域17には、被捺染材Tの捺染側の面に向けてUVインクCを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッド10と、被捺染材Tの捺染側の面と反対側の被支持面を支持する支持部21と、を備えた捺染実行部9が設けられている。
尚、前記UVインクCは、UV光(紫外線)Lを照射することによって硬化、定着するインクで、ヒーター加熱によって溶媒を蒸発させることによって硬化、定着する溶剤系インクに比べて硬化後のインクだまDの体積変動が格段に小さいという特長を有している。また、UVインクCは、溶剤成分を含んでいないため環境に優しく、UV光(紫外線)Lを照射することによって瞬時に硬化するためインク吸収性の低い被捺染材Tにも印捺することができるという特性を有している。
【0044】
また、前記捺染ヘッド10は、被捺染材Tの搬送方向Aと交差する被捺染材Tの幅方向Bに往復移動可能なキャリッジ23によって一例として保持されている。
また、前記印捺されたインクCの硬化領域19には、被捺染材Tの生地本体25の表面26に付着したUVインクを硬化させる紫外線照射部(硬化線照射部)12を備えたインク硬化部11が配設されている。
【0045】
また、前記被捺染領域17と前記硬化領域19との間の領域には、一例としてインクジェット捺染装置1の左右の支持フレーム37L、37R等を利用して被捺染材Tの毛羽27に付着したインクだまDを分散ないし除去する本発明の特徴的構成部材である毛羽接触部材31を備える毛羽接触処理装置2が設けられている。
尚、ここで、インクだまDとは、図4及び図13に示すように被捺染材Tの生地本体25の表面26に達する前に該表面26から伸びている毛羽27の毛先部等に付着したインクCが「だま」になって残留した部分であり、捺染後の「色移り」の要因になっている。また、UVインクの場合は、硬化したインクだまDは被捺染材Tの肌触りを溶剤系インクよりも低下させる原因にもなっている。
【0046】
そして、このような構成のインクジェット捺染装置1を使用することによって本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法が実行されて、捺染実行品質及び手触り、風合の良い捺染物が得られる。
本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、被捺染材Tの捺染領域17に供給された被捺染材Tの捺染側の面に向けてUVインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程を有する。このように、捺染後のインクCの定着力が強く、色落ちの少ないUVインクCを使用することによって捺染された画像等の鮮明さが長期に亘って持続される。
【0047】
また、本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、捺染が実行された被捺染材Tの生地本体表面26の毛羽27に毛羽接触部材31を接触させる毛羽接触処理工程を有する。
UVインクCは、染料インクに比べてインクだまDになり易い性質を有しているが、本発明では当該毛羽接触処理工程程を有することによって当該インクだまDは硬化前の段階で分散乃至除去される。
【0048】
更に、本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、前記毛羽接触処理工程後に行われる前記被捺染材Tに印捺されたUVインクCに紫外線Lを照射して該UVインクCを硬化するインク硬化工程とを有する。
UVインクCは硬化することで捺染強度が増す。そして、毛羽27に付着していたインクだまDは既に前工程で取り除かれているので、捺染実行品質及び手触り風合の良い捺染物が効率良く製造される。
【0049】
[実施例1](図1〜図4及び図13、図14参照)
本実施例では、前記毛羽接触処理装置2が被捺染材Tの生地本体25の表面26における毛羽27に接触する毛羽接触部材31を備えることによって構成されている。
〔毛羽接触部材〕
そして、実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aでは、毛羽接触処理装置2A(他の実施例と区別する場合に「2A」と記し、区別しない場合は単に「2」と記す)の毛羽接触部材31Aとして、前記毛羽27に付着しているインクだまDに接触した後、インクだまDをかき取って除去する、インク除き部材としての機能も有するブレード状のワイパー55が採用されている。
【0050】
また、前記ワイパー55の下方には、被捺染材Tと前記搬送ベルト8とを挟んで、インクだまDを除去する際の被捺染材Tの下方への撓みを防止する支持部材53の一例である支持ローラ53Aが配置されている。
そして、前記ワイパー55は被捺染材Tの生地本体25の表面26に非接触で、前記毛羽27のインクだまDの付着部位に接触するように設けられている。
【0051】
ここで前記「非接触」の語の中には、前記ワイパー55が前記表面26に完全に接触していない物理的な非接触状態と、前記ワイパー55が被捺染材Tの搬送抵抗とならない範囲で僅かに前記表面26に接触している実質的非接触状態と、の両方の状態が含まれている。
尚、これは前記生地本体25には生地の性状から必然的に多少のうねりが存在し、その表面26には微少な凹凸が形成されていることに起因するものである。
【0052】
更に、本実施例では前記ワイパー55の先端面55aと前記生地本体25の表面26との間に間隔Gが形成されている。そして、該ワイパー55が立毛状態の毛羽27に接触する時の接触作用高さHが当該毛羽27に付着しているインクだまDを除去するのに効果的な高さになるように前記間隔Gの値が設定されている。
また、このようなワイパー55の材料としては、硬質、軟質の合成樹脂、合成樹脂発泡体、ゴム、金属、木材等やこれらの複合材料が適用でき、更に、当該ワイパー55の周囲に吸インク性を有するフェルトやその他の布地等を貼設したものであってもよい。
【0053】
そして、このようにして構成される本実施例に係るインクジェット捺染装置1Aの搬送ベルト8上に被捺染材Tが供給されると、捺染領域17において捺染ヘッド10からUVインクCが吐出されて所定の捺染画像が被捺染材Tの捺染側の面に形成される。
捺染画像が形成された被捺染材Tは、下流に送られ、捺染領域17の下流に設けられている毛羽接触処理装置2Aの毛羽接触部材31Aの一例であるワイパー55に接触することで、当該毛羽27に付着していた硬化前のインクだまDは、かき取られる処理が実行される。
【0054】
インクだまDが除去された被捺染材Tは、更に下流の硬化領域19に送られ、UV光照射装置11から照射されるUV光(紫外線)Lを浴びる。これにより、UVインクCは硬化して捺染画像の硬化、定着が行われる。
そして、このようにして構成される本実施例に係るインクジェット捺染装置1Aによれば、毛羽27を押し潰すような強い圧接力を毛羽27に作用させることなく、「色移り」の生じない鮮明な画像を被捺染材Tの素材の持つ肌触りや風合を損なわせることなく捺染することが可能になる。
更に、前記毛羽27からは、インクだまDが除去されているから体積の大きなインクだまDを硬化することによって生じる肌触りの低下も防止できる。
【0055】
〔制御部〕
毛羽接触処理装置2Aを備えるインクジェット捺染装置1Aにおいて、搬送装置7、捺染実行部9、毛羽接触処理装置2A及びインク硬化部11の動作を制御する制御部5を備えている。そして、前記制御部5は、被捺染材Tが生地本体表面26に毛羽27を有するものである場合に、該毛羽接触処理装置2AによるインクだまDの分散ないし除去の毛羽接触処理動作を「実行する」「実行しない」のいずれかを選択可能に構成されている。
【0056】
図14に示したフローチャートによって、本実施例の捺染実行の制御の一例を説明する。
【0057】
先ず捺染実行部9において被捺染材TにUVインクによる捺染が実行される(ステップS1)。続いて被捺染材Tが毛羽27を有するものであるか否か決定される(ステップS2)。この決定は、制御部5の図示しない情報入力部にユーザーが入力した被捺染材Tに関する情報に基づいて行われる。
従って、被捺染材Tが毛羽27を有するものか否かはユーザーの主観で決定できるようになっており、客観的には毛羽27がある被捺染材Tであっても、例えばユーザーがその毛羽27による前記肌触りや風合を維持する捺染を必要としない、或いは耐擦性を高く求めない場合は、「毛羽なし(No)」としてその後のフローを進めることができるようになっている。
【0058】
ステップS2において「毛羽あり(Yes)」と決定された場合、毛羽27に付着したインクに対して、毛羽接触処理動作を「実行する」「実行しない」のいずれかが選択されるようになっている(ステップS3)。これも、制御部5の前記情報入力部にユーザーが入力した選択情報に基づいて行われる。
【0059】
ステップS3で毛羽接触処理動作を「実行する」が選択されたときは、毛羽接触処理装置2Aによる毛羽接触処理が実行され(ステップS4)、次いでインク硬化部11でUV光が照射されてインク硬化処理が実行される。
一方、ステップS3で毛羽接触処理動作を「実行しない」が選択されたときは、毛羽接触処理装置2Aによる毛羽接触処理が実行されずに(ステップS6)、インク硬化部11によるインク硬化処理(ステップS5)に進む。
【0060】
また、前記ステップS2において「毛羽なし(No)」と決定された場合、毛羽接触処理装置2Aによる毛羽接触処理が実行されずに(ステップS6)、インク硬化部11によるインク硬化処理(ステップS5)に進む。
【0061】
上記制御により、肌触りや風合を維持する捺染を求められる場合にだけ毛羽接触処理装置2Aを作動させ、毛羽を有す被捺染材であっても肌触りや風合を維持する捺染を必要としない場合等は、毛羽接触処理装置2Aによる毛羽接触処理動作を省くことができる。これにより、毛羽接触処理装置2Aの動作に伴う制約を受けずにインクジェット捺染を実行することが可能となり、例えば、捺染の高速化を図ることが可能となる。
【0062】
[実施例2](図5参照)
実施例2に係るインクジェット捺染装置1Bの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、毛羽接触部材31Bとして駆動ローラー35を適用した点で前記実施例1と相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する毛羽接触部材31Bの構成と作動態様とを中心にして説明する。
【0063】
即ち、本実施例では、毛羽接触部材31Bが被捺染材Tの搬送方向Aと交差する被捺染材Tの幅方向Bに沿う向きに回転軸33を有し、被捺染材Tの搬送方向Aに所定の回転速度で回転駆動されるインク除き部材としての機能も有する駆動ローラー35によって構成されている。
そして、このような駆動ローラー35を採用することによって、該駆動ローラー35の前記毛羽27に対する接触作用高さHは、図5(B)に示したように、接触開始点Oから駆動ローラー35下端の最大接触接点Pに向けて徐々に大きくなり、最大接触点Pから接触終了点Qに向けて徐々に小さくなるように設定される。
【0064】
これに伴い、駆動ローラー35の毛羽27に対する接触強度Fは、接触開始点Oから徐々に大きくなって最大接触点Pで最大になり、その後、接触終了点Qに向けて徐々に小さくなる。
従って、毛羽27の急激な傾倒が防止されて毛羽27は緩やかに無理なく連続的に傾斜姿勢を変化させるようになるので、インクだまDの除去後も毛羽27の立毛状態はそのまま維持される。
また、駆動ローラー35の材料としては、前記ワイパー55と同様の材料が適用できる。
【0065】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Bによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、駆動ローラー35の有する周面形状によって毛羽27は無理なく緩やかに姿勢を変化させるので、駆動ローラー35との接触が解除された後は速やかに元の状態に復元するようになる。
【0066】
[実施例3](図6参照)
〔毛羽接触部材〕
実施例3に係るインクジェット捺染装置1Cの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、毛羽接触部材31Cとして回転ブラシ状のブラシ体41Aを適用した点で前記実施例1と相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する毛羽接触部材31Cの構成と作動態様とを中心にして説明する。
【0067】
即ち、本実施例では、毛羽接触部材31Cが被捺染材Tの搬送方向Aと交差する被捺染材Tの幅方向Bに沿う向きに回転軸43を有し、被捺染材Tの搬送方向Aと反対の戻し方向に所定の回転速度で回転駆動される回転ブラシ状のブラシ体41Aによって構成されている。
そして、このような回転ブラシ状のブラシ体41Aを採用することによって、毛羽27に付着したインクだまDは、ブラシ体41Aに接触することによって上方に掃き上げられて被捺染材Tの生地本体25の表面26ないし外部に分散される。
【0068】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Cによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、毛羽27に付着しているインクだまDの体積がブラシ体41Aとの接触による分散によって小さくなっているので、UV硬化後の被捺染材Tの肌触りの低下は生じない。また、ブラシ体41Aの回転速度を上げればインクだまDの分散が活発になり、インクだまDの体積が更に小さくなって被捺染材Tの一層の肌触りの向上が図られる。
【0069】
[実施例4](図7参照)
実施例4に係るインクジェット捺染装置1Dの基本的な構成は、前記実施例3に係るインクジェット捺染装置1Cと同様であり、毛羽接触部材31Dとして平刷毛状のブラシ体41Bを適用した点で前記実施例3と相違する。
従って、ここでは前記実施例3と相違する毛羽接触部材31Dの構成と作動態様を中心にして説明する。
【0070】
即ち、本実施例では、毛羽接触部材31Dが被捺染材Tの搬送方向Aと交差する被捺染材Tの幅方向Bに沿う向きに揺動軸45を有し、被捺染材Tの搬送方向Aに沿う方向に所定の揺動速度で揺動駆動される平刷毛状のブラシ体41Bによって構成されている。
そして、このような平刷毛状のブラシ体41Bを採用することによって、毛羽27に付着したインクだまDは、ブラシ体41Bに接触することによって前後上方に交互に掃き上げられて被捺染材Tの生地本体25の表面26ないし外部に分散される。
【0071】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Dによっても前記実施例3と同様の作用、効果を奏することができる。更に、毛羽27付着しているインクだまDの体積が前記実施例3と同様、ブラシ体41Bとの接触による分散によって小さくなっているので、UV硬化後の被捺染材Tの肌触りの低下は生じない。また、ブラシ体41Bの揺動速度を上げればインクだまDの分散が活発になり、インクだまDの体積が更に小さくなって被捺染材Tの一層の肌触りの向上が図られる。
【0072】
[実施例5](図8参照)
実施例5に係るインクジェット捺染装置1Eの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、毛羽接触部材31Eであるワイパー55(インク除き部材の一例)の配置位置を異ならせた点において前記実施例1と相違している。
従って、ここでは前記実施例1と相違するワイパー55の配設位置と該配設位置に伴う作動態様とを中心に説明する。
【0073】
即ち、本実施例では、ワイパー55が被捺染材Tの捺染側の面が下向きになる図示のような傾斜反転搬送経路15Cに設けられている。或いは図示しない水平反転搬送経路(捺染面が真下を向く経路)に設けられていてもよい。
具体的には、捺染ヘッド10が配置されている水平搬送経路15A、その下流の傾斜搬送経路15Bに連接している一例として図示のような左下がりの傾斜反転搬送経路15Cに対してワイパー55が設けられている。また、被捺染材Tと搬送ベルト8を挟んだワイパー55の対向位置には支持部材53の一例である平板状の支持板53Bが配設されており、前記ワイパー55と支持板53Bとを備えることによって毛羽接触処理装置2Eが構成されている。
【0074】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Eによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に当該毛羽接触部材31Eであるワイパー55によってかき取られたインクCは、当該ワイパー55を伝って下方に流れるように構成することができるため、当該ワイパー55の上方に位置する被捺染材Tに再付着する虞れはなく、インクCの回収が容易になる。
【0075】
[実施例6](図9参照)
実施例6に係るインクジェット捺染装置1Fの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、毛羽接触部材31Fとしてノズル59を適用し、毛羽接触処理装置2Fにクリーニング機構56を適用した点で前記実施例1と相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する毛羽接触部材31Fの構成と、クリーニング機構56の構成と、これらの作動態様とを中心にして説明する。
【0076】
即ち、本実施例では、前記毛羽接触処理装置2Fに対して前記実施例1のワイパー55とは構造を異にする毛羽接触部材31Fとしてのノズル59が設けられている。
該ノズル59は、先端部が基端部よりも小径に形成されている湾曲した偏平なパイプ材によって一例として構成されている。また、前記ノズル59の先端面59aは斜めにカットされていてインクだまDのかき取りが容易かつ確実に行えるように構成されている。
【0077】
また、前記ノズル59の湾曲した軸中心には、毛羽接触処理装置2Fの外部に設けられる吸引ファン等の図示しない吸引手段と接続される吸引路61が形成されている。
従って、前記ノズル59は、毛羽接触部材31Fとしての機能と、該毛羽接触部材31Fに付着したインクCを取り除くクリーニング機構56としての機能を併せ持った構成になっている。
【0078】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Fによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更にクリーニング機構56を設けたことで、ノズル59によってかき取ったインクCはノズル59の先端面59aに残留することなく、順次、吸引路61を通って外部へと排出される。
従って、ノズル59の継続した使用が可能になり、ノズル59の洗浄や交換等のメンテナンスの回数も少なくて済むようになる。
【0079】
[実施例7](図10参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置1Gの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、毛羽接触部材31Gであるかき取り片73の先端面73aと被捺染材Tの生地本体25の表面26との間の間隔Gを調整可能にする調整機構71が毛羽接触処理装置2Gに設けられている点で前記実施例1と相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する毛羽接触部材31Gの構成と、調整機構71の構成と、これらの作動態様とを中心にして説明する。
【0080】
即ち、本実施例では、毛羽接触部材31Gであるかき取り片73を揺動軸72を中心に所定の角度、揺動させることで、かき取り片73の先端面73aの作用位置を異ならせて前記接触作用高さH及び前記間隔Gを調整できるようにする調整機構71が設けられている。
該調整機構71は、毛羽接触部材31Gであるかき取り片73の一部に設けられているラック75と、該ラック75と噛合するピニオン76と、該ピニオン76を正逆転方向に回転駆動するモーター77と、を備えることによって一例として構成されている。
【0081】
また、前記かき取り片73は、一例として湾曲した板状部材によって構成されており、該かき取り片73には前記揺動軸72に対して揺動自在に接続される揺動ブラケット74が一体に設けられている。
また、前記調整機構71の構成部材であるラック75は、前記湾曲したかき取り片73の基端部寄りの外周面に一例として形成されている。
【0082】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Gによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に調整機構71を設けたことで、毛羽27の長さや性状の異なる種々の被捺染材Tに対応して常に効果的な接触作用高さHになるように当該間隔Gを調整することが可能になる。
【0083】
[実施例8](図11参照)
実施例8に係るインクジェット捺染装置1Hでは、その毛羽接触処理装置2Fは、インク吸収性を有する柔軟性シート81と、該柔軟性シート81を前記被捺染材Tの毛羽27に接触しつつ該被捺染材Tの搬送方向Aに搬送するシート搬送装置62とを備えている。
【0084】
シート搬送装置62は、具体的には、ロール状に巻かれた長尺な柔軟性シート81が一例として使用でき、前述した被捺染材T用の繰出しローラー4とは別の繰出しローラー83と、前述した被捺染材T用の巻取りローラー14とは別の巻き取りローラー85と、柔軟性シート81を駆動ローラー35の周面に所定長さ巻き付かせるためのガイドローラー87と、前記柔軟性シート81とを備え、被捺染材Tの搬送速度と同速度に柔軟性シート81を搬送するようになっている。
【0085】
そして、このような構成の毛羽接触処理装置2Fを採用した場合にも、毛羽に付着したインクだまDを効果的に除去することができる。更に、本実施例の場合には、インクだまDの除去は、柔軟性シート81が実質的に担うことになり、柔軟性シート81の長さの範囲で連続的なインクだまDの吸収除去が可能になる。また、すべての柔軟性シート81が繰り出された後は、新たな柔軟性シート81と交換すればよく、駆動ローラー35はほとんどメンテナンスすることなく毛羽接触処理装置2Fを継続して使用することが可能になる。
尚、本実施例では、駆動ローラー35は毛羽27に直接接触しないので、インク除去機能の無い単なる案内ローラーであってもよい。
【0086】
更に本実施例によれば、シート搬送装置62が、インク吸収性を有する柔軟性シート81を前記被捺染材Tの毛羽27に接触しつつ該被捺染材Tの搬送方向Aに搬送するので、毛羽27に付着したインクDは、柔軟性シート81に吸収されて除去される。しかも、該柔軟性シート81は、そのインク吸収面の作用位置が被捺染材Tの搬送方向Aに徐々に移動するので、インク吸収位置が更新されつつ毛羽27に接触することになり、効果的に毛羽27からインクDを吸収除去することができる。
また、上記の通りインク吸収位置が更新されつつ毛羽27に接触するので、柔軟性シート81を毛羽27に軽く接触する状態でインクDを吸収除去することが可能となり、以って毛羽27の立毛状態を維持することができる。
【0087】
[実施例9](図12参照)
実施例9に係るインクジェット捺染装置1Jの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、被捺染材Tの捺染領域17の上流位置に立毛処理領域78を設け、該立毛処理領域78に立毛処理部79が設けられている点で前記実施例1と相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する立毛処理部79の構成と作動態様を中心にして説明する。
【0088】
即ち、搬送ベルト8上に供給される被捺染材Tの中には、毛羽27が倒れていたり、他の毛羽27等と絡んでいるものがある。このような場合に捺染に先立って、予め生地本体25の表面26の毛羽27を立毛状態にするのが立毛処理部79である。
具体的には、図示のような回転ブラシ様の立毛処理部79が一例として採用可能であり、該立毛処理部79を一例として被捺染材Tの搬送方向Aと反対の方向に回転させることによって傾倒状態の毛羽27をかき起こすようにして立毛状態にする。
【0089】
そして、このような構成のインク除去装置2Jを採用した場合にも前記実施例1と同様の作用、効果が発揮される。
更に、本実施例の場合には、立毛処理部79によって被捺染材Tの有する毛羽27を立毛状態にする処理を行って、該毛羽27の立毛状態の不揃いが低減された状態で、被捺染材Tの捺染側の面に向けてインクを吐出することが可能となる。従って、毛羽27を有する被捺染材Tの捺染側の面に対するインク滴の着弾において、前記「不揃い」に基づく影響が小さくなる。すなわち、毛羽27及び生地本体表面26へのインク滴着弾の均一性を高めることができる。
【0090】
毛羽27の量が少ない被捺染材Tにおいては、吐出されたインクは毛羽27にその進行を邪魔されることが少なくなって殆んどのインクは生地本体表面26に到達するようになることが期待できる。従って、捺染品質を向上できると共に、毛羽27に付着してできるインクだめDの数が少なくなり、インク除き部材31Hによるインク除去の負荷も小さくなり、インク除去効果が一段と向上する。
【0091】
[他の実施例]
本発明に係るインクジェット捺染装置1は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
例えば、毛羽接触処理装置2は被捺染材Tの幅方向Bにおけるすべての捺染範囲Sに対応できるように配置する他、部分的な捺染画像を印捺するような場合には、前記捺染範囲Sの一部に毛羽接触処理装置2を配置することが可能である。
【0092】
また、毛羽接触部材31は、前述したように支持フレーム37L、37Rに対して取り付ける他、捺染ヘッド10やキャリッジ23に対して取り付けることが可能である。また、前記捺染範囲Sを一挙に捺染できるキャリッジ23を有しないラインプリンタ用の捺染ヘッド10を備えたインクジェット捺染装置1とすることも可能である。
また、被捺染材Tに同一色で捺染したり、規則性を有しない漠然とした捺染画像を捺染する場合に、インクだまDを分散させる前記実施例3、実施例4に示すような毛羽接触部材31を採用し、別色のインクが混じると品質を損なう写真等や規則的な図柄、模様等を捺染する場合に、インクだまDを捕捉して除去する前記実施例1、実施例2に示すような毛羽接触部材31を採用するというように両者を使い分けることも可能である。
【0093】
また、前記インクだまDを分散させるタイプの毛羽接触部材31を前記実施例5で採用した傾斜反転搬送経路15Cに設けることも可能である。因みにこのようにした場合には、飛散したインクCが被捺染材Tに再付着する割合が極めて小さくなるので、あらゆるタイプの捺染画像の捺染に使用できるようになる。
また、前記インクだまDを分散させるタイプの毛羽接触部材31と併用して、前記毛羽27に付着しているインクだまDに対してエアーを吹き付けて分散させるエアーブロー装置等を設けることも可能である。
【0094】
また、本発明は前記UVインクに代えて、EB(電子線)硬化性を有するインクにも適用可能である。この場合は、前記UV光照射部に代えて、EB(電子線)照射部を用いる。
【符号の説明】
【0095】
1 インクジェット捺染装置、2 毛羽接触処理装置、3 繰出し機構部、
4 繰出しローラー、7 搬送装置、8 搬送ベルト、9 捺染実行部、
10 捺染ヘッド、11 インク硬化部、 12 紫外線照射部(硬化線照射部)、
13 巻取り機構部、14 巻取りローラー、15 搬送経路、
16 ガイドローラー、17 捺染領域、19 硬化領域、21 支持部、
23 キャリッジ、25 生地本体、26 表面、27 毛羽、31 毛羽接触部材、
33 回転軸、35 駆動ローラー、37 支持フレーム、41 ブラシ体、
43 回転軸、45 揺動軸、53 支持部材、53A 支持ローラー、
53B 支持板、55 ワイパー、55a 先端面、56 クリーニング機構、
59 ノズル、59a 先端面、61 吸引路、71 調整機構、72 揺動軸、
73 かき取り片、73a 先端面、74 揺動ブラケット、75 ラック、
76 ピニオン、77 モーター、78 立毛処理領域、79 立毛処理部、
81 柔軟性シート、83 繰出しローラー、85 巻取りローラー、
87 ガイドローラー、T 被捺染材、A 搬送方向、B 幅方向、
C (UV)インク、D インクだま、L UV光(紫外線)、H 接触作用高さ、
O 接触開始点、P 最大接触点、Q 接触終了点、F 接触強度、S 捺染範囲、
G クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置によって搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、
前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクに紫外線又は電子線を照射して硬化する硬化線照射部を備えたインク硬化部と、
前記捺染実行部と前記インク硬化部との間に設けられ、生地本体表面の毛羽に接触する毛羽接触部材を備えた毛羽接触処理装置と、を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記搬送装置、前記捺染実行部、前記インク硬化部、前記毛羽接触処理装置の動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記毛羽接触処理装置による処理動作を「実行する」「実行しない」を選択可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材と被捺染材の生地本体表面との間隔は、マニュアル操作によって、又は前記制御部の制御信号によって調整可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材は、前記毛羽に接触して当該毛羽に付着しているインクを除くインク除き部材で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材は、前記毛羽に付着しているインクに接触することで当該インクを分散させるブラシ体で構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材の前記毛羽に対する接触作用高さは、接触開始点から最大接触点に向けて徐々に大きくなり、最大接触点から接触終了点に向けて徐々に小さくなるように設定されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材は、被捺染材の搬送方向と交差する向きに回転軸を有し、被捺染材の搬送方向に所定の回転速度で回転駆動される駆動ローラーによって構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材は、被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路に対して設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触部材は、前記被捺染材の生地本体表面に非接触で、前記毛羽に接触するように設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記毛羽接触処理装置は、インク吸収性を有する柔軟性シートと、該柔軟性シートを前記被捺染材の毛羽に接触しつつ該被捺染材の搬送方向に搬送するシート搬送装置と、を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記捺染実行部の上流側に、被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする立毛処理部を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項12】
被捺染材の捺染領域に供給された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程と、
捺染が実行された被捺染材の生地本体表面の毛羽に毛羽接触部材を接触させる毛羽接触処理工程と、
前記毛羽接触処理工程後に行われる前記被捺染材に印捺されたインクに紫外線又は電子線を照射して該インクを硬化するインク硬化工程と、を有することを特徴とするインクジェット捺染による捺染物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−112082(P2012−112082A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263794(P2010−263794)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】