説明

インクジェット描画装置およびこのインクジェット描画方法

【課題】ヘッドにおけるインクの不吐または漏れを抑制し、安定な状態とすることができるインクジェット描画装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るインクジェット描画装置30は、吐出対象へインクを吐出するためのヘッド1およびヘッド1を吐出対象に対し平行な方向に回転させるステージ回転部4を有しており、ヘッド1へ供給されるインクの経路となるインク供給管11がヘッド1に連結されており、インク供給管11にインクの供給量を制御するヘッド弁6が備えられており、ヘッド1とヘッド弁6とが一体として回転する構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット描画装置およびインクジェット描画装置の動作方法に関し、詳細には、インクジェットヘッドを回転させるヘッド回転体を備えるインクジェット描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置や、液晶表示装置の製造工程においては、半導体ウェハやガラス基板上に機能性薄膜を形成する製膜プロセスがあり、そのプロセスを行う装置のひとつとしてインクジェット描画装置が用いられる。このインクジェット描画装置によれば、搬送される記録媒体の上方、かつ搬送方向に直行する方向に配置された数個のインクジェットヘッドから機能性インクが吐出されることによって機能性インクの描画がなされ、薄膜が形成される。
【0003】
また、近年において、描画対象の記録媒体が大型化し、そのような大型の記録媒体に対して描画を行う場合、インクジェット描画装置に備えられる描画を行うヘッドの個数が増加する。すなわち、インクジェット描画装置に備えられるインク流路となるインク供給部、インクの流れを制御する弁、インクを一時的に貯留する小タンク、小タンクへインクを供給する大タンクなどの個数も増加する傾向にある。このため、インクジェットヘッドおよびその周囲の構造は複雑化することとなる。
【0004】
このように部材が増加および複雑化する構成に対し、配管部を減らすことを目的とした塗布装置(インクジェット描画装置)が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された塗布装置は、溶液を供給する溶液タンクに主管路が接続され、この主管路は各ヘッドに接続されている複数の分配管と接続されており、配管部を減らすことができる。
【0005】
また、特許文献2には、メンテナンス部材およびプラテンを備え、これらの配置を切り換える切り替え手段を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット描画装置)が開示されている。このインクジェットプリンタによれば、装置全体の大型化を抑えることができる。
【0006】
また、これら複数化が進むインクジェットヘッドに対し、描画ピッチを狭くする目的や、ヘッド取付け時の誤差を調整する目的で、処理媒体と平行な平面方向に回転させる回転ステージ(ヘッド回転体)が用いられる場合もある。
【0007】
回転ステージは、回転がなされる回転ステージ回転部と、回転ステージ回転部を固定するステージ固定部(回転ステージ固定部)とから構成されている。搭載される搭載物は可能な限り小さく、少ない方が、回転ステージ回転部に掛かる負担が減少し、回転ステージ回転部が回転し易くなる。また回転ステージの外形寸法が小型化でき、ヘッド回転体周囲の設計自由度が増すために、ヘッドのみを回転ステージに搭載させる設計がなされることが一般的である。このような従来のインクジェット描画装置130を図3に示す。同図は、インクジェット描画装置130を示す断面図である。
【0008】
同図に示すように、インクジェット描画装置130は、ヘッド(インクジェットヘッド)101がヘッド固定部102に固定されている。また、ステージ固定部103およびステージ回転部(回転ステージ回転部)104が一体とされており、ステージ固定部103が上側に設けられている。ヘッド固定部102はステージ回転部104に固定されている構成である。
【0009】
さらに、ヘッド弁搭載部105にはヘッド弁106が搭載され、小タンク搭載部108には小タンク107が搭載されている。大タンク110と小タンク107との間にはインクの供給量を制御するための小タンク弁109がインク供給管113を介して設置されており、大タンク内に貯留されたインクは、インク供給管113を介して小タンク107へ、さらに、インク供給管112、インク供給管11を介してヘッド101へ送液される。また、ヘッド弁106には、ヘッド弁106へ電力を供給する電磁弁端子を備える電磁弁端子台部116が、電磁弁配線117を介して接続されている。さらに、ヘッド101には、ヘッド101を制御する吐出用回路基板部114がヘッド配線115を介して接続されている。
【特許文献1】特開2003−88778号公報(平成15年3月25日公開)
【特許文献2】特開2004−9513号公報(平成16年1月15日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来のステージ回転部を備えるインクジェット描画装置では、インクが不吐の状態となる、または、インクが漏れる状態となり、インクの吐出が不安定な状態となるという問題点を有している。
【0011】
具体的には、インクジェット描画装置130では、インク供給管111はステージ固定部103またはステージ回転部104に固定されていない。このインクジェット描画装置130が回転した状態を図4に示す。図4は、図3に示すインクジェット描画装置130が回転した状態を示す全体図である。
【0012】
インクジェット描画装置130では、破線で囲われた一体回転部120が回転されるが、一体回転部が矢印Aの方向へ回転する際、ヘッド弁搭載部105とインク供給管111との位置関係は離れることとなり、さらに回転によってインク供給管111は回転される。このため、インク供給管111には捩れが生じる結果となる。捩れが生じた部分は被圧縮部121として表されている。
【0013】
被圧縮部121からインク供給管111が圧力を受け、その内容積が減少し、押し出されたインクがヘッド101に到達する。ヘッド101におけるインクが乾燥し硬化することによって、ヘッド101を詰まらせ、インクの不吐が生じ得る。不吐が発生すると、描画するエリアにおいてライン状の欠陥となり、非常に大きな問題となっていた。
【0014】
また、押し出されたインクがヘッド101において硬化することなく、ヘッド101から漏れる場合もある。通常、インクが吐出される記録媒体とヘッド101との間隔が狭いため、漏れ出したインクが記録媒体上で引きずられるなどの大きな問題が生じる。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ヘッドにおけるインクの不吐または漏れを抑制し、安定な状態でインクの吐出ができるインクジェット描画装置およびこれを用いたインクジェット描画方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のインクジェット描画装置は、上記課題を解決するために吐出対象へインクを吐出するためのインクジェットヘッドおよび上記インクジェットヘッドを吐出対象に対し平行な方向に回転させる回転ステージを有しており、上記インクジェットヘッドに、インクジェットヘッドへ供給されるインクの経路となるヘッド用インク供給管が連結されており、上記ヘッド用インク供給管にインクの供給量を制御するヘッド弁が備えられているインクジェット描画装置において、上記インクジェットヘッドとヘッド弁とが一体として回転する構造であることを特徴としている。
【0017】
上記の発明によれば、インクジェットヘッドとヘッド弁とが一体として回転するので、両部材に備えられているヘッド用インク供給管をも一体として回転させることができる。すなわち、これらを同一回転体として配置し、回転させることができるのである。
【0018】
このため、上記3つの部材が同一回転体として回転されるので、上記ヘッド用インク供給管の捩れが生じることが抑制される。したがって、インクジェットヘッド内のインクが不要な圧力を受けることを抑制することができる。結果として、インクジェットヘッドがインク不吐の状態となる、または、インクが漏れる状態等を生じ難くでき、インクの吐出を安定して行うことのできるインクジェット描画装置を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では、上記回転ステージは、回転ステージ回転部と、回転ステージ回転部の取付け部材である回転ステージ固定部とによって構成されており、回転ステージ回転部が固定される回転ステージ固定部とによって構成されており、上記回転ステージ回転部は鉛直方向上側に配置されており、上記回転ステージ固定部は鉛直方向下側に配置されていることが好ましい。
【0020】
回転力を生じさせる回転ステージ回転部が鉛直方向上側に配置されていることによって、回転の安定性が増し、より安定してインクの吐出が可能なインクジェット描画装置を提供できる。
【0021】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では、上記回転ステージの水平方向における回転角度を、0°を越えて45°以下の範囲内に制御する制御部を備えることが好ましい。
【0022】
回転ステージの回転角度が最大45°とし、回転ステージの回転角度を所定範囲に留めることによって、第1タンク用インク供給管が捩れることをさらに抑制できるため、インクジェットヘッド内のインクへの圧力変動を低減させることができる。
【0023】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では、インクを貯留する第1タンクを備え、上記第1タンクは、ヘッド弁用インク供給管によって上記ヘッド弁に連結されており、上記第1タンクが上記回転ステージ回転部に備えられていることが好ましい。
【0024】
これにより、第1タンクも回転ステージと一体として回転させることができるので、ヘッド弁用インク供給管において捩れが生じることをさらに抑制することができる。このため、ヘッド回転体が回転した際、回転による圧力を受ける部分は、インクジェットヘッドからさらに遠ざけられるため、インクジェットヘッド内のインクへ不要な圧力を生じさせることをさらに低減させることができる。
【0025】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では、上記回転ステージ回転部に、さらに、インクを吐出させる吐出信号をインクジェットヘッドへ送信する吐出用回路基板部が備えられていることが好ましい。
【0026】
インクジェットヘッドへ送信される吐出信号(電気信号)によるノイズを生じにくくするため、上記吐出用回路基板部はインクジェットヘッドと共に設置されることが好ましい。上記の構成によれば、吐出用回路基板は、インクジェットヘッドと共にヘッド回転体に備えられるので、吐出用回路基板部をインクジェットヘッドと共に配置できる。
【0027】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では、上記回転ステージ回転部に、さらに、上記ヘッド弁へ電力を供給する電磁弁端子台部が備えられていることが好ましい。
【0028】
これにより、上記電磁弁端子台部とヘッド弁とは回転ステージ回転部に備えられ、回転ステージ回転部の回転時には、これらを一体として回転させることができ、電磁弁端子台部およびヘッド弁間の接続安定性が向上する。
【0029】
また、本発明に係るインクジェット描画装置では上記第1タンクにインクを供給する第2タンクが備えられており、第1タンクと第2タンクとは第1タンク用インク供給管によって連結されており、第1タンク用インク供給管には、第1タンク用弁が備えられていることが好ましい。
【0030】
第2タンクが備えられていることによって、インクジェットヘッドへのインクの補充量を増加させることができるため、インクの補充頻度を抑えることができる。
【0031】
本発明に係るインクジェット描画装置のインクジェット描画方法は、回転ステージ回転部に電磁弁端子台部が備えられているインクジェット描画装置のインクジェット描画方法であって、第1タンク用弁を閉弁状態とした後に、上記ステージ回転部を回転させることを特徴とするインクジェット描画方法である。
【0032】
上記インクジェット描画装置は、回転ステージ回転部に第1タンク弁が備えられており、第1タンク弁から、第1タンク、ヘッド弁、インクジェットヘッドまでの間においてインク供給管に捩れが生じることを抑制することができるものである。インク供給管における捩れは、第1タンク用インク供給管において生じ得るが、上記インクジェット描画方法によれば、第1タンク用インク供給管に捩れが生じたとしても、第1タンク用弁を閉弁状態とすることによって、インクの圧力変動がインクジェットヘッド内のインクに伝わることを抑制できる。これにより、インクジェットヘッド内のインクの状態を安定に保つことができ、インクジェット描画装置による安定したインクの吐出を実現することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のインクジェット描画装置は、以上のように、上記インクジェットヘッドとヘッド弁とが一体として回転する構造であるものである。
【0034】
それゆえ、インクジェットヘッドとヘッド弁とが一体として回転するので、両部材に備えられているヘッド用インク供給管をも一体として回転させることができる。このため、インクジェットヘッドを回転させた場合にヘッド用インク供給管に捩れが生じることが抑制される。したがって、インクジェットヘッド内のインクが不要な圧力を受けることを抑制することができる。結果として、インクジェットヘッドがインク不吐の状態となる、または、インクが漏れる状態等を生じ難くでき、インクの吐出を安定して行うことのできるインクジェット描画装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の一実施形態について図1および図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1は、本実施の形態に係るインクジェット描画装置30の斜視図を示している。
【0036】
同図に示すように、インクジェット描画装置30においては、ヘッド(インクジェットヘッド)1がヘッド固定部2に固定されている。また、ステージ固定部(回転ステージ固定部、回転ステージ)3およびステージ回転部(回転ステージ回転部、回転ステージ)4が一体とされており、ステージ固定部3が鉛直方向下側の面に設けられている。また、ヘッド固定部2は回転伝達部2aに固定されており、回転伝達部2aはステージ回転部4に固定されている構成となっている。なお、ヘッド1およびヘッド固定部2はステージ固定部3には固定されていない。ステージ回転部4には、ヘッド弁搭載部5、ヘッド弁6、吐出用回路基板部14および電磁弁端子台部16が配置される構成となっており、ステージ回転部4に掛かる負担が小さくなるよう設計されている。
【0037】
さらに、ヘッド弁搭載部5にはヘッド弁6が搭載され、小タンク搭載部8には小タンク(第1タンク)7が搭載されている。大タンク(第2タンク)10と小タンク7との間にはインクの供給量を制御するための小タンク弁9が設置されており、多量のインクを貯留するための大タンク10内に貯留されたインクは、インク供給管(第1タンク用インク供給管)13を介して小タンク7へ、さらに、インク供給管(ヘッド弁用インク供給管)12、インク供給管(ヘッド用インク供給管)11を介してヘッド1へ送液される。また、ヘッド弁6には、ヘッド弁6へ電力を供給する電磁弁端子を備える電磁弁端子台部16が電磁弁配線17を介して接続されている。さらに、ヘッド1には、ヘッド1を制御する吐出用回路基板部14がヘッド配線15を介して接続されている。
【0038】
ヘッド1は、インクが吐出される部材であり、インクが吐出される部分であるノズルを複数備えている。説明の便宜上、ヘッド1が1つのみ備えられている構成としているが、ヘッド1は複数個備えられていてもよく、ノズルの形成数も特に限定されるものではない。
【0039】
ヘッド1の下方には吐出媒体(図示されず)が配置され、吐出媒体に対してヘッド1のノズルからインクが吐出されることとなる。吐出媒体としては、特に限定されるものではないが、インクジェット描画装置130が、プリンターに備えられる場合には、紙媒体を挙げることができ、液晶、有機ELなどのパネル生産装置に備えられる場合には、パネル用基板を挙げることができる。さらに、DNAチップなどの基板を挙げることもできる。用いられるインクとしては、吐出対象の用途に応じて適宜変更すればよく、印刷用のインク、発光体インク、検査試薬などの試薬などが挙げられる。
【0040】
ヘッド1は、ヘッド固定部2の側面に備えられている。ヘッド固定部2は、円筒形であるステージ固定部3の中央部分に配置されている。ステージ固定部3はステージ回転部4の取付け部材である。すなわち、ステージ回転部4が取り付けられ、これを支持する役割を果たしている。ステージ固定部3の上部には、回転力を生じさせるステージ回転部4が配置されており、ステージ回転部4には回転伝達部2aが備えられている。回転伝達部2aはステージ回転部4と共に一体として回転可能な構成である。ステージ回転部4が回転することによって、回転伝達部2aを回転させ、ひいてはヘッド固定部2およびヘッド1を回転させることができる。なお、ステージ固定部3は回転しない構成となっている。
【0041】
ステージ回転部4は水平方向に回転可能な構造となっており、記録媒体に対して平行な面方向にヘッド1を回転させる部材である。また、ステージ回転部4には、図示しない駆動機構が備えられている。この駆動機構によって、吐出対象に対して、鉛直方向、記録媒体が移動される主走査方向、または、主走査方向に平行して直行する副走査方向へヘッド1が移動され、インクが吐出される点にヘッド1のノズルを移動させることができる。なお、駆動機構はステージ回転部4の回転を制御するインク吐出制御部(制御部)(図示せず)からの制御信号を受信し駆動する。インク吐出制御部としては、CPUなどの公知の制御手段を用いることができる。
【0042】
ステージ回転部4が回転することによって、ヘッド1は水平方向に回転可能であるが、その回転角度は、回転前の位置を基準として、0°を越えて45°以下であることが好ましい。インクジェット描画装置30では、一体回転部20の外部にも、インク供給管12を介して小タンク7等が設置されており、ステージ回転部4が回転するとインク供給管12には被圧縮部21が生じることとなる。ステージ回転部4の回転角度が上記の範囲内であることによって、被圧縮部21にて生じる応力の程度を低減させることができる。これにより、インク供給管12が破損するなどの不具合を未然に防ぐことができる。
【0043】
ステージ回転部4およびステージ固定部3は、ステージ回転部4がステージ固定部3の上方(鉛直方向上側)に配置されていることが好ましい。上記の構成によれば、ステージ回転部4がステージ固定部3の下方に配置されている場合に比べ、ステージ回転部4の回転運動をヘッド固定部2に伝達する必要が生じるものの、ステージ回転部4に搭載される搭載物による荷重はステージ回転部4を押し付ける方向に働くため、ステージ回転部4の回転信頼性を向上させることができる。
【0044】
また、ヘッド弁搭載部5はヘッド弁6を、小タンク搭載部8は小タンク7を搭載し、インクの供給路となるものである。ヘッド弁6および小タンク7がステージ回転部4と一体となっているなど、これらの固定の必要がない場合等には、ヘッド弁搭載部5および小タンク搭載部8は必ずしも必要とはされない。
【0045】
ヘッド1が複数備えられている場合には、ヘッド弁搭載部5およびヘッド弁6を複数備える構成としてもよいし、1組のヘッド弁搭載部5およびヘッド弁6と複数のヘッド1とを連結させてもよい。また、弁であるヘッド弁6および小タンク弁9としては、特に限定されるものでなく、インクジェット描画装置30においては電磁弁が用いられている。
【0046】
小タンク7は、比較的少量のインクを貯留するためのタンクである。また、大タンク10は、小タンク7に供給するための比較的多量のインクを貯留するためのタンクである。インクジェット描画装置30では、小タンク7、すなわち、インク貯留量の少ないタンクをヘッド1の側に設置しているが、小タンク7および大タンク10の設置箇所はこれに限られず、両タンクの配置を変更してもよいし、両タンクのインク貯留量を同等としてももちろんよい。大タンク10は必須の部材ではないが、大タンク10が備えられていることによって、ヘッド1へのインクの補充量を増加させることができ、インクの補充頻度を低減させることができる。小タンク7および大タンク10の構造としては、特に限定されるものではないが、可撓性を有する高分子フィルム等で構成されていることが好ましい。
【0047】
吐出用回路基板部14は、図示しないインク吐出制御部から制御信号を受信し、ヘッド配線15を介してヘッド1へ吐出信号を送信し、ヘッド1からインクを適切なタイミングで吐出させるものである。吐出用回路基板部14はノイズを生じにくくするため、ヘッド1の近傍に備えられることが好ましい。
【0048】
また、電磁弁端子台部16は、ヘッド弁6へ電力を供給する役割を果たしている。また、上記インク吐出制御部から制御信号を受信し、電磁弁配線17を介して、ヘッド弁6を適切なタイミングで開閉する部材でもある。なお、図示しないが、小タンク弁9は、以下に示す電磁弁端子台部を独自に備えており、動作される構成となっているが、電磁弁端子台部16に配線を介して連結されており、これから制御信号を受信できるよう構成されていてもよい。
【0049】
インクジェット描画装置30は、矢印Aの方向へ回転した状態で示されている。上述したように、図4に示す通常のインクジェット描画装置130では、一体回転部120内において被圧縮部121が生じるため、ヘッド101において、インクの不吐または漏れが発生していた。また、ヘッド配線115においても被圧縮部121が生じ、捩れによって図示しない基板部分のコネクタが外れ易くなる状態が生じていた。
【0050】
一方、インクジェット描画装置30では、ステージ回転部4上に、ヘッド弁搭載部5、ヘッド弁6、吐出用回路基板部14および電磁弁端子台部16が搭載物として備えられている。ここで、搭載物とは、ステージ回転部4に備えられている部材を総称するものとする。インクジェット描画装置130では、上記搭載物はステージ固定部3またはステージ回転部4に備えられておらず、インク供給管によってヘッド101と連結されているのみである。
【0051】
インクジェット描画装置30の構成によれば、ステージ回転部4が回転すると、回転伝達部2aを介してヘッド固定部2およびヘッド1が回転され、すなわち、破線で囲まれている一体回転部20の部分が一体として回転することができる。このため、インク供給管11およびヘッド配線15は捩れることがなく、これらにおいて被圧縮部21は生じない。回転による負荷は、インク供給管12にかかることとなり、インク供給管12において被圧縮部21が生じる。
【0052】
このため、被圧縮部21から生じるインクの圧力変動は小タンク7およびヘッド弁6に伝わることとなる。このため、従来のインクジェット描画装置130に比べ、被圧縮部21からヘッド1までの距離が大きくなるので、ヘッド1内のインクが受ける不要な圧力変動を小さくすることができる。すなわち、ノズル先端におけるインクのメニスカスの状態が安定に保持され、ヘッド1のノズルがインク不吐の状態となる、または、ノズルからインクが漏れる状態等を生じ難くでき、インクの吐出を安定して行うことのできる稼動安定性の高いインクジェット描画装置を提供することができる。
【0053】
また、ステージ回転部4には、吐出用回路基板部14も搭載物として備えられている。吐出用回路基板部14がステージ回転部4に備えられていることによって、吐出用回路基板部14およびヘッド1の間に配設されたヘッド配線15がステージ回転部4の回転によって捩れを生じ難くすることができる。すなわち、ヘッド配線15が外れる等することによって、ヘッド1へ吐出信号が送られない状態を回避することができるというメリットがある。
【0054】
ヘッド配線15は、通常、フラットケーブルが用いられ、吐出用回路基板部14に差し込まれるコネクタは抜き差し動作の耐久性が低い。一方、吐出用回路基板部14に配設される一体回転部20の外部から吐出用回路基板部14に接続される図示しない配線は、多芯ケーブルである場合が多く、捩れ等の応力に対する耐久性が比較的高い。本構成によれば、ステージ回転部4が回転した際、被圧縮部21はヘッド配線15では生じず、一体回転部20の外部に位置する多芯ケーブルにおいて生じるため、配線が外れる等により断線が生じる等の不具合を低減することができる。
【0055】
また、ステージ回転部4には、電磁弁端子台部16も搭載物として備えられている。これにより、電磁弁端子台部16およびヘッド弁6の間に配設されている電磁弁配線17に捩れが生じるおそれを低減させることができる。電磁弁配線17は比較的細いケーブルが用いられることが多く、このケーブルは捩れによる応力に弱いため、捩れによって接続が断たれる場合が生じ得る。このため、本構成は電磁弁配線17の接続不良を抑制することができるため、非常に効果的であるといえる。
【0056】
インクジェット描画装置30の動作としては、図示しない吐出用制御部から、ステージ回転部4および電磁弁端子台部16へ制御信号が、吐出用回路基板部14へ吐出信号が送られ、ステージ回転部4の回転、ヘッド弁6の開閉およびヘッド1からのインク吐出が制御される。なお、ステージ回転部4は、上下方向、主走査方向または副走査方向へ移動されることももちろん可能である。
【0057】
図2は、本発明に係るインクジェット描画装置の変形例を示す断面図である。同図に示すインクジェット描画装置40では、上述したインクジェット描画装置30とは異なり、小タンク7、小タンク搭載部8および小タンク弁9がステージ回転部4に搭載物としてさらに備えられている構成である。なお、これらの部材の配置が異なるが、各部材の構成については同じであり、説明を省略する。
【0058】
上記の構成であれば、小タンク弁9を小タンク7の近傍の小タンク搭載部8に配置することができ、これらを含め一体回転部20として、ステージ回転部4によって回転させることが可能である。インクジェット描画装置40を矢印A方向に回転させた場合、小タンク搭載部8と大タンク10との間のインク供給管13において、被圧縮部21が生じることとなる。インクジェット描画装置40では、インクジェット描画装置30の構成に比べ、さらに被圧縮部21をヘッド1から遠ざけることができ、被圧縮部21から生じる圧力変化がヘッド1内のインクにまで影響を与え難い構成である。本構成によれば、インクの不吐またはインクの漏れを最小限に抑えることができ、インクジェット描画装置40による非常に安定したインク吐出を実現することができる。
【0059】
インクジェット描画装置40の動作は、図示しないインク吐出制御部によって、ステージ回転部4が回転され、図示しない電磁弁端子台部からの制御信号によって小タンク弁9が開閉されるが、小タンク弁9が閉弁された後に、ステージ回転部4を回転させる動作手順であることが好ましい。具体的には、インク吐出制御部から制御信号がステージ回転部4に送信されることによって、上記動作がなされることができる。このようなインクジェット描画方法によれば、ステージ回転部4の回転により生じた被圧縮部21によるインクを伝わる圧力が小タンク弁9において伝播することを遮断することが可能である。このため、ヘッド1内のインクへ不要な圧力変動が伝播することを非常に効率よく抑制できる。
【0060】
通常、インクジェット描画装置が、複数のヘッド1を備える場合には、それに伴いインク供給管11およびヘッド配線15等の数も増えるため、ステージ回転部4の回転により悪影響を受けるヘッド1の数が増えることとなるが、特に、インクジェット描画装置40の構成を採用することにより、ステージ回転部4の回転によるヘッド1への悪影響を低減させることができ、インクジェット描画装置のインク吐出における信頼性を大幅に向上させることができる。
【0061】
以下に、上記のインクジェット描画装置30、インクジェット描画装置40および従来のインクジェット描画装置130を用いてインクの吐出を行った結果を示す。インクジェットのノズル数は全てのインクジェット描画装置において64数とし、試験回数nは3回とし、得られた試験結果を表1に示す。不吐率はノズルからインクで吐出されなくなった不吐数から以下の式1に基づき算出した。
不吐率(%)=不吐数/64×100・・・(式1)
各インクジェット描画装置の描画方法としては、矢印Aの方向に40°回転させた後に吐出、矢印Aの反対方向へ35°回転させて吐出という動作を10時間の間繰り返しながら行った。ノズルの直径は0.05mmであり、インクとしてはジエチレングリコールと水の1:1混合液で吐出を行った。
【0062】
なお、インクジェット描画装置40においては、小タンク弁9を閉弁した後に、ステージ回転部4を回転させ、ヘッド1からインクを吐出させた。すなわち、被圧縮部21からの圧力変動がヘッド1内部のインクへ伝播しないようインクジェット描画装置40を動作させた。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、ステージ回転部104を有するインクジェット描画装置130において、不吐率は最低でも14.1%の結果が得られ、インクの不吐の問題は明確に示されている。すなわち、ヘッド101内のインクへ過度の圧力がかかっているものと考えられる。これに対し、インクジェット描画装置30では、不吐数を非常に効率良く低減させることに成功していることが明確に示されている。また、インクジェット描画装置40においては、被圧縮部21をヘッド1からさらに遠ざけることによって、全ての試験において不吐数が0という非常に良好な結果を得ることができた。これらの試験結果から、本発明に係るインクジェット描画装置が安定したインクの吐出を行う上で優れていることが分かる。
【0065】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、インクジェットヘッドが有するノズルにおけるインクの不吐またはインクの漏れを低減させることができるため、インクの吐出を安定して行うことのできるインクジェット描画装置を提供できる。本インクジェット描画装置は、民生用および業務用プリンタ、液晶用および有機EL用等のパネル生産装置、DNAチップなどの基板等の製造に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明におけるインクジェット描画装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明におけるインクジェット描画装置の実施の一実施形態示す斜視図である。
【図3】従来のインクジェット描画装置を示す斜視図である。
【図4】図3における従来のインクジェット描画装置の回転した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ヘッド(インクジェットヘッド)
2a 回転伝達部
3 ステージ固定部(回転ステージ、回転ステージ回転部)
4 ステージ回転部(回転ステージ、回転ステージ回転部)
6 ヘッド弁
7 小タンク(第1タンク)
9 小タンク弁(第1タンク弁)
10 大タンク(第2タンク)
11 インク供給管(ヘッド用インク供給管)
12 インク供給管(ヘッド弁用インク供給管)
13 インク供給管(第1タンク用インク供給管)
14 吐出用回路基板部
16 電磁弁端子台部
30・40 インクジェット描画装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出対象へインクを吐出するためのインクジェットヘッドおよび上記インクジェットヘッドを吐出対象に対し平行な方向に回転させる回転ステージを有しており、
上記インクジェットヘッドに、インクジェットヘッドへ供給されるインクの経路となるヘッド用インク供給管が連結されており、
上記ヘッド用インク供給管にインクの供給量を制御するヘッド弁が備えられているインクジェット描画装置において、
上記インクジェットヘッドとヘッド弁とが一体として回転する構造であることを特徴とするインクジェット描画装置。
【請求項2】
上記回転ステージは、回転ステージ回転部と、回転ステージ回転部の取付け部材である回転ステージ固定部とによって構成されており、
回転ステージ回転部が固定される回転ステージ固定部とによって構成されており、
上記回転ステージ回転部は鉛直方向上側に配置されており、
上記回転ステージ固定部は鉛直方向下側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット描画装置。
【請求項3】
上記回転ステージの水平方向における回転角度を、0°を越えて45°以下の範囲内に制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット描画装置。
【請求項4】
インクを貯留する第1タンクを備え、
上記第1タンクは、ヘッド弁用インク供給管によって上記ヘッド弁に連結されており、
上記第1タンクが上記回転ステージ回転部に備えられていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット描画装置。
【請求項5】
上記回転ステージ回転部に、さらに、インクを吐出させる吐出信号をインクジェットヘッドへ送信する吐出用回路基板部が備えられていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット描画装置。
【請求項6】
上記回転ステージ回転部に、さらに、上記ヘッド弁へ電力を供給する電磁弁端子台部が備えられていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット描画装置。
【請求項7】
上記第1タンクにインクを供給する第2タンクが備えられており、
第1タンクと第2タンクとは第1タンク用インク供給管によって連結されており、
第1タンク用インク供給管には、第1タンク用弁が備えられていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット描画装置。
【請求項8】
請求項7に記載のインクジェット描画装置のインクジェット描画方法であって、
第1タンク用弁を閉弁状態とした後に、上記回転ステージ回転部を回転させることを特徴とするインクジェット描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−125727(P2009−125727A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306634(P2007−306634)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】