説明

インクジェット用ノズルプレート、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置並びにインクジェット記録方法

【課題】撥水層の耐前処理液性(耐金属塩溶液性)に優れ、前処理液の安定吐出が長期間可能なインクジェット用ノズルプレート並びに該ノズルプレートを用いたインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】インクジェットヘッド21は、ヘッド基板1上に、エネルギー発生手段としてピエゾ素子PEを備えるアクチュエータ部2、液路形成部3及びノズルプレート4を順次設けてなり、ノズルプレート4に、金属塩を含有する水性前処理液を吐出するノズル孔Nzが1列に複数形成されている。ノズルプレート4は、ノズル孔Nzが形成されたノズル孔形成部材41の吐出面を撥水層42で被覆したもので、撥水層42はシロキサン結合(Si−O)を主骨格とするプラズマ重合膜からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に先立ち、金属塩を含有する前処理液を記録媒体に付着させるのに用いるインクジェット用ノズルプレート、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びこれらを用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、記録ヘッド(インクジェットヘッド)のノズルからインクの液滴を吐出させ、紙等の記録媒体に付着させて画像を形成する印刷方式である。インクジェットヘッドは、一般に、図6に示すように、インク滴を吐出するノズルと、該ノズルが連通するインク液路と、該インク液路内のインクを加圧して該ノズルからインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段(アクチュエータ素子などども呼ばれる)を備えており、このエネルギー発生手段を画像情報に応じて駆動させることにより、所定のノズルから液滴化したインクを吐出飛翔させて記録を行なう。
【0003】
このようなインクジェットヘッドにおいては、ノズル孔の形状、精度がインク滴の噴射特性に影響を与えると共に、ノズル孔を形成するノズルプレートの表面特性がインク滴の噴射特性に影響を与える。例えば、図6(b)に示すように、ノズルプレートの表面(吐出面)のノズル孔周縁部にインクが付着して不均一なインク溜り(濡れムラ)が生じると、図6(c)に示すように、インク滴の噴射方向が濡れムラ側に引っ張られて正規の方向から外れる、いわゆる飛行曲がりが発生する。また、このような濡れムラにより、インク滴の大きさにばらつきが生じたり、インク滴の飛翔速度が不安定になる等の不都合も生じる。
【0004】
そこで、従来からノズルプレートの表面を撥水性(撥インク性)を有する撥水層(撥インク層、表面処理層などとも呼ばれる)で被覆して、濡れムラの発生を防止する方法が試みられており、この方法に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭55−148170号公報
【特許文献2】
特開平2−48953号公報
【特許文献3】
特開平4−339656号公報
【特許文献4】
特許第2998281号公報
【特許文献5】
特許第3264971号公報
【0006】
ところで、インクジェット記録用のインクとしては、染料や顔料等の色材を水を主溶媒とする水性媒体中に溶解又は分散させた水性インクが一般的であり、染料インクと顔料インクに大別される。これまで、色再現性や吐出安定性等に優れる染料インクが多用されてきたが、インクジェット記録技術のデジタル写真サービスや商業印刷等への用途拡大により、記録画像の長期保存性が重要視されるようになってきており、染料インクに比して耐水性や耐光性等に優れる顔料インクが使用されるようになってきている。
【0007】
顔料インクを用いたインクジェット記録に関しては、従来から、インクジェット記録に先立って、インクジェットヘッドより金属塩(反応剤)を含有する水性の反応液を吐出させて、記録媒体に付着させることにより、発色性の向上、カラーブリード(カラー画像において、異色の境界部分で色が滲んだり不均一に混ざり合ったりする現象)や印刷ムラ(記録媒体表面の填料やサイズ剤等の不均一な分布に起因すると考えられる画像濃度の不均一性)の防止などを図る方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。この方法は、記録媒体上で顔料インクと接触した反応剤が、インク成分の分散状態を破壊して凝集物を形成し、色材(顔料)が記録媒体中に浸透するのを抑制すると共に、未反応の反応液成分が、記録媒体上で皮膜を形成して色材の記録媒体への定着を促進することにより、高い色濃度で、カラーブリードや印刷ムラのない高品位のインクジェット画像を実現するものと考えられている。
【0008】
【特許文献6】
特開平10−120956号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献6に記載されている反応液の如きいわゆる前処理液は、金属塩を含有しているため、ノズルプレートなどのインクジェットヘッドの各部に少なからず悪影響を及ぼすおそれがある。特に業務用途のインクジェット記録装置は、長時間連続稼働する使用形態が多いため、ノズルプレートのような前処理液と長時間に亘って接触する部分は前処理液の影響を受け易い。特に問題となるのは、上述したノズルプレートの撥水層の腐食である。従来のノズルプレートは、前処理液(金属塩溶液)の吐出を特に考慮されておらず、撥水層の耐前処理液性に乏しいため、長期使用により撥水層が剥離したり、ひび割れ等が生じ、液滴の安定吐出が出来なくなるという問題があった。
【0010】
本発明は、金属塩を含有する水性前処理液を用いたインクジェット記録方法における上記問題点を解決すべくなされたものであり、撥水層の耐前処理液性に優れ、前処理液の安定吐出が長期間可能なインクジェット用ノズルプレート並びに該ノズルプレートを用いたインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明のインクジェット用ノズルプレートは、金属塩を含有する水性前処理液を吐出するノズル孔を備えたインクジェット用ノズルプレートであって、該ノズル孔が形成されたノズル孔形成部材の吐出面が、シロキサン結合(Si−O)を主骨格とするプラズマ重合膜で被覆されていることを特徴とする。このプラズマ重合膜は、前処理液(金属塩溶液)に対する耐性に優れており、前処理液吐出用のノズルプレートの撥水層として使用しても剥離やひび割れを生じ難く、長期間に亘って液滴を安定吐出させることができる。
【0012】
また、本発明のインクジェットヘッドは、金属塩を含有する水性前処理液を吐出するノズル孔を備えたインクジェット用ノズルプレートと、該ノズル孔と連通する液路と、該液路内の該水性前処理液を該ノズル孔から吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段とを備えたインクジェットヘッドであって、該インクジェット用ノズルプレートが、上記インクジェット用ノズルプレートであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記インクジェットヘッドを備えたことを特徴とする。さらに、本発明のインクジェット記録装置は、水性前処理液及び1色以上の水性顔料インクそれぞれに対応した複数のインクジェットヘッドが一体化されてマルチヘッドを構成しているインクジェット記録装置であって、少なくとも該水性前処理液に対応したインクジェットヘッドが、上記インクジェットヘッドであることを特徴とする
【0014】
また、本発明のインクジェット記録方法は、顔料インク凝集能を有する金属塩を含有する水性前処理液を、上記インクジェットヘッドから吐出させて記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、該前処理工程で該水性前処理液が付着した該被記録面の該金属塩による顔料インク凝集反応が有効となる領域内に、1色以上の水性顔料インクをインクジェット方式により吐出させて記録を行う記録工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい一実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の要部の概略斜視図である。図1に示すインクジェットプリンタ10は、紙送りモータ11で駆動されるプラテンローラ12により記録媒体Mを矢標A方向に搬送し、キャリッジ13上に搭載された記録ヘッド20が、記録媒体Mの被記録面に、インクタンク30から供給される水性前処理液及び各色水性顔料インクをそれぞれ吐出した後、これを搬出するようになしてある。キャリッジ13は、キャリッジベルト14を介してキャリッジモータ15に連結されており、ガイドレール16上を摺動して、矢標A方向と直交する矢標B1又はB2方向に往復走査するようになっている。
【0017】
図2は、記録ヘッド20のノズル孔形成面(吐出面)20aの概略正面図である。記録ヘッド20は、水性前処理液及び複数の水性顔料インクそれぞれに対応した複数(本実施形態では6つ)のインクジェットヘッド21〜26を主走査方向(矢標B1又はB2方向)に並列に配置して一体化させたマルチヘッドであり、各インクジェットヘッドのノズル孔形成面(吐出面)には、それぞれ、水性前処理液又は水性顔料インクを吐出するノズル孔Nzが、主走査方向に対して直交方向(副走査方向)に1列に複数形成されている。図2中、21及び26は水性前処理液吐出用のインクジェットヘッドであり、22〜25は、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の水性顔料インク吐出用のインクジェットヘッドである。このように、マルチヘッドの主走査方向の両端のヘッドを、最初に吐出させる水性前処理液用とすることで、双方向(B1及びB2)印字が可能となり印字高速性が上がる。
【0018】
図3は、図2のA−A線に沿う要部拡大断面図であり、図4は、図3に示すインクジェットヘッドの液滴吐出時の様子を説明する図である。尚、以下では、水性前処理液吐出用ヘッドであるインクジェットヘッド21を例にとり、その各部の構成について図3及び図4を参照しながら説明するが、他のインクジェットヘッド22〜26も21と同様に構成されており、下記の説明が適宜適用される。
【0019】
インクジェットヘッド21は、図3に示すように、シリコン材料等で形成されるヘッド基板1上に、アクチュエータ部2、液路形成部3及びノズルプレート4を順次設けた構成となっており、該ノズルプレート4に上記ノズル孔Nzが1列に複数形成されている。液路形成部3には、各ノズル孔Nzと連通する液路31と、インクタンク30から供給される水性前処理液を該液路31に供給するための共通液室32が形成されている。
【0020】
アクチュエータ部2には、各ノズルNz毎に、液路31内の水性前処理液をノズル孔Nzから液滴として吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段として、電歪素子の一つであって応答性に優れたピエゾ素子PEが、液路31に接する位置に配置されている。ピエゾ素子PEは、周知のように、電圧の印加により結晶構造が歪み、極めて高速に電気−機械エネルギーの変換を行う素子(圧電素子)である。このピエゾ素子PEに所定の時間幅の電圧を印加することにより、図4に示すように、ピエゾ素子PEが電圧の印加時間だけ伸張し、液路31の側壁を変形させる。その結果、液路31の容積が収縮し、この収縮分に相当する水性前処理液が液滴となってノズル孔Nzから高速吐出される。
【0021】
液路形成部3の形成材料としては、例えば、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、ニッケル−リン合金、スズ−銅−リン合金(リン青銅)、銅−亜鉛合金(BS)、ステンレス鋼(SUS)等の金属;ポリカーボネイト、ポリサルフォン、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アモルファスポリオレフィン等のプラスチック;セラミックス、シリコン、ガラス等が挙げられる。
【0022】
ノズルプレート4は、ノズル孔Nzが形成されたノズル孔形成部材41の吐出面(ノズル孔形成面、表面)を、撥水層42で被覆したものである。本実施形態では、図3に示すように、吐出面のみならず、更にノズル孔Nzの該吐出面近傍の内壁面も撥水層42で被覆している。このようにノズル孔の内壁面にも撥水層を形成することで、液メニスカス位置が安定し更に吐出安定性が向上する。また吐出面に液が出難くなり、該吐出面の撥水性がより長時間維持される。撥水層42の厚みは、撥水性の長期維持とコストとのバランスなどの観点から、好ましくは200〜800nm(2000〜8000オングストローム)、更に好ましくは300〜600nm(3000〜6000オングストローム)である。
【0023】
ノズルプレート4の厚みは特に限定されるものではないが、通常10〜100μm程度である。また、ノズル孔Nzの直径は、水性前処理液が安定して吐出されるように適宜設定すればよい。
【0024】
ノズル孔形成部材41は、金属、セラミックス、シリコン、ガラス、プラスチック等で形成される。好ましい形成材料としては、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、金等の単一金属;ニッケル−リン合金、スズ−銅−リン合金(リン青銅)、銅−亜鉛合金(BS)、ステンレス鋼(SUS)等の合金;ポリカーボネイト、ポリサルフォン、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、各種の感光性樹脂等が挙げられる。尚、ノズル孔形成部材41と液路形成部3とを熱膨張率が同じ材料で形成することは、ノズルNzと液路31とのずれを確実に防止して吐出安定性を更に高めることができるため好ましい。
【0025】
撥水層42は、シロキサン結合(Si−O)を主骨格とするプラズマ重合膜で形成されており、本発明の重要な特徴の一つとなっている。このプラズマ重合膜は、低分子量のシロキサン(シロキサン結合を有する化合物)を原料とし、これをプラズマ重合させることにより形成されるもので、金属塩に対する耐性に優れており、該金属塩をインク凝集剤として含有する水性前処理液(金属塩溶液)用のノズルプレートの撥水層として最適である。
【0026】
上記プラズマ重合膜の原料として特に好ましいものは、下記化学式(A)〜(D)で表される低分子量のシロキサンである。これらは、常温で液体のシロキサン(液状シロキサン)である。これらの液状シロキサンの1種又は2種以上を混合させたものをプラズマ重合の出発原料として用いることで、耐前処理液性に非常に優れたプラズマ重合膜(撥水層)を形成することができる。
【0027】
【化2】



【0028】
上記プラズマ重合膜(撥水層)の形成は、従来公知のプラズマ重合装置を用いて行うことができる。原料としては、上記液状シロキサンの如き低分子量のシロキサンを気化させたものを原料ガスとして用いる。必要に応じて、この原料ガスにアルゴンやヘリウム等の希ガス、酸素や二酸化炭素等の酸化力を有するガスなどを混合させる。これにより、原料を重合させた状態でノズル孔形成部材に積層することができる。
【0029】
上記プラズマ重合膜(撥水層)を得るための好適なプラズマ重合条件は、次の通りである。真空圧力:13.3〜160Pa(0.1〜1.2Torr)、原料ガス流量:4〜25cc/min.、希ガス(アルゴンガス)流量:10〜150cc/min.、成膜温度:15〜45℃。
【0030】
上記のような原料ガスの高真空条件下において、通常13.56MHz(ラジオ波)の高周波電圧を印加してプラズマ放電させることにより、プラズマ重合反応が行われるが、高周波として、ラジオ波よりも低いキロヘルツオーダーのオーディオ波を用いることもできる。プラズマ重合時の放電出力、重合時間などは、形成するプラズマ重合膜の所望膜厚などに応じて適宜選定すればよい。
【0031】
本発明に係るプラズマ重合膜(撥水層)は、例えば次のようにして形成することができる。
【0032】
図5は、プラズマ重合膜の形成に用いるプラズマ重合装置の概略構成図である。このプラズマ重合装置50は、プラズマ重合反応が行われる真空チャンバ51と、該真空チャンバ51内に原料ガスを供給する原料ガス供給手段60と、アルゴンガスを供給するアルゴンガス供給手段70を備える。
【0033】
真空チャンバ51には真空ポンプ52が接続されており、真空チャンバ51内を減圧できるようになっている。また、真空チャンバ51の内部の底面には、表面にプラズマ重合膜が形成されるノズル孔形成部材41を載置する温度調節可能な処理ステージ53が配置され、更に該処理ステージ53と対向するように、絶縁体54を介して高周波電極55が配置されている。高周波電極55は、高周波電源56に接続されている。高周波電極55の直径は150mm程度であり、処理ステージ53との距離は160mm程度である。尚、真空チャンバ51には図示しない排気ポンプが接続されており、使用後のガスを図示しない排気処理装置に供給することにより、排気可能となしてある。また、真空チャンバ51の壁面は接地されている。
【0034】
原料ガス供給手段60は、液状シロキサンなどの液体原料Lmを収容する容器61と、該液体原料Lmを加熱して原料ガスとするためのヒータ62と、真空チャンバ51と容器61との間を結ぶ原料ガス供給配管63を備えている。容器61内の原料ガスは、真空チャンバ51内の負圧により吸引され、原料ガス供給配管63を通って真空チャンバ51内に供給される。また、原料ガス供給配管63の途中には流量制御弁(Mass Flow制御弁)64が設けられており、真空チャンバ51内に流入するガスの流量を調整できるようになっている。さらに流量制御弁64には、結露防止用ヒータ65が接続されている。
【0035】
アルゴンガス供給手段70は、アルゴンガスが充填されたボンベ71と、該ボンベ71と真空チャンバ51との間を結ぶアルゴンガス供給配管72とを備えている。また、アルゴンガス供給配管72の途中には、原料ガス供給配管63と同様に流量制御弁64が設けられている。
【0036】
このような構成のプラズマ重合装置50を用いて、ノズル孔形成部材41の吐出面(表面)にプラズマ重合膜(撥水層)を形成するに際し、先ず、該ノズル孔形成部材41を、その吐出面を上にして、真空チャンバ51内の処理ステージ53上に配置する。処理ステージ53は、ノズル孔形成部材41自体の温度が室温程度となるように温度調節しておくことが、重合反応の促進の点で好ましい。次に、真空ポンプ52により、真空チャンバ51内を0.1Pa(0.001Torr)程度まで真空引きする。このように真空チャンバ51内を真空引きすることにより、大気中に含まれる水分子等により重合反応が遮断されることがなく、分子量の大きなプラズマ重合膜を形成することができる。
【0037】
また、容器61内に、液体原料Lmとして上記液状シロキサンを収容し、ヒータ62で100℃程度に加熱してガス化させ、原料ガスとする。容器61と真空チャンバ51とは原料ガス供給配管63を介して連通しており、真空チャンバ51内が減圧されることにより容器61内も減圧されるので、液体原料Lmを比較的低温でガス化させることができる。さらに、結露防止用ヒータ65を稼働させて原料ガスを150℃程度の温度に加熱してから、真空チャンバ51内に供給する。一方、アルゴンガス供給手段70により、アルゴンガスも真空チャンバ51内に供給する。
【0038】
そして、高周波電極55により真空チャンバ51内に高周波電圧を印加する。これにより、真空チャンバ51内に導入されたアルゴンガスがプラズマ化され、アルゴンラジカルなどのプラズマ粒子が発生する。このプラズマ粒子が、例えばヘキサメチルジシロキサンやポリジメチルシロキサンのメチル基を切断して重合反応させる。尚、アルゴンガスは分子量が小さく、高周波電極55から放出される電子と衝突し難いため、放電を広げて維持することができる。このような高周波電圧の印加を、通常、数分から十数分間程度行うことにより、ノズル孔形成部材41の吐出面上に薄膜のプラズマ重合膜(撥水層)が形成される。
【0039】
本発明では、プラズマ重合膜形成後、アニール処理を行ってプラズマ重合膜中に残存する液体原料が蒸発させることが好ましい。アニール処理は、不活性ガス中において加温エージングする処理である。このアニール処理により、プラズマ重合膜の膜面強度が向上し、記録用紙との接触や吐出面のクリーニング(ワイピング)に対する耐久性を向上させることができる。アニール処理の温度は150〜400℃程度が好ましい。150℃未満では、液体原料を完全に蒸発させることが出来ない場合があり、400℃超では、プラズマ重合膜が分解するおそれがある。尚、上記温度範囲は大気圧下での温度条件であり、真空状態では下限温度及び上限温度共に低くなると考えられる。
【0040】
次に、上述したプラズマ重合膜を有するインクジェットヘッドを用いた本発明のインクジェット記録方法について説明する。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法は、顔料インク凝集能を有する金属塩を含有する水性前処理液を、上述したプラズマ重合膜を有するインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、該前処理工程で該水性前処理液が付着した該被記録面の該金属塩による顔料インク凝集反応が有効となる領域内に、1色以上の水性顔料インクをインクジェット方式により吐出させて記録を行う記録工程とを備える。
【0042】
上記前処理工程で使用する水性前処理液は、金属塩及び水を必須成分として含有する。
【0043】
上記金属塩は、顔料インク凝集能を有している。この「顔料インク凝集能」には、いわゆる自己分散型顔料を使用した水性顔料インクに対して、該自己分散型顔料自体に直接作用してこれを凝集させる性質も含まれるし、また、自己分散型ではない通常の顔料を分散剤の作用により系中に分散させている水性顔料インクに対して、該分散剤を凝集させる結果として該顔料を凝集させる性質も含まれる。要は、水性顔料インクの種類や組成に拘わらず、これを速やかに凝集させることができれば、上記顔料インク凝集能を有していると言える。
【0044】
金属塩としては、金属イオンと、これに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものが好ましく用いられる。
【0045】
上記金属イオンとしては、例えば、K、Na、Li、Ca2+、Cu2+、Ni、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Fe2+、Zr2+、Al3+、Fe3+、Cr、Zr3+、Zr4+等が挙げられる。
また、上記陰イオンとしては、Cl、NO、I、Br、ClO、CHCOO、F、SO2−、SO2−等が挙げられる。
【0046】
上記カルボン酸イオン(陰イオン)としては、炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸及び炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカルボン酸から誘導されるものが好ましい。
炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ビバル酸、ヘキサン酸等が挙げられる。特に蟻酸、酢酸が好ましい。この炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の飽和脂肪族炭化水素基上の水素原子は、水酸基で置換されていてもよく、そのようなカルボン酸の好ましい例としては、乳酸が挙げられる。
また、炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられ、より好ましくは安息香酸である。
【0047】
本発明で使用する金属塩は、無水物であろうと水和物であろうと構わない。金属塩として特に好ましいものとしては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられる。これらは、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0048】
金属塩の含有量は、使用する金属塩の種類などを考慮して、所定の顔料インク凝集効果が得られるように適宜調整すればよく、特に限定されないが、多すぎると水性前処理液の吐出信頼性に劣るおそれがある。従って、金属塩の含有量は、水性前処理液中、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは2〜8重量%である。
【0049】
また、水性前処理液に含有される水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理された水は、カビやバクテリアの発生を防止して長期保存を可能とする点で好ましい。
【0050】
水性前処理液には、上記金属塩及び水以外に、取扱性、塗布性、記録媒体への浸透性、インクジェット吐出信頼性等を向上させるため、必要に応じ、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の湿潤剤;アルコールやトリエチレングリコールモノブチルエーテル等の浸透剤;各種界面活性剤;その他の添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等を含有させることができる。
【0051】
水性前処理液の組成については上述した通りであるが、物性値については、記録媒体への浸透性や吐出安定性などを確保する観点から、液温20℃における粘度2〜5mPa・s、表面張力20〜38mN/m、pH6.5〜10の範囲にあることが好ましい。各物性値の調整は、上述した各成分の含有量の調整等により行うことができる。
【0052】
上記前処理工程では、このような組成及び物性の水性前処理液を、記録媒体の被記録面に付着させる。該記録媒体としては、インクジェット記録が可能な記録媒体であれば良く、例えば、上質紙、再生紙、コピー用紙、ボンド紙、インクジェット記録用紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、樹脂被覆紙(レジンコート紙)、バライタ紙、板紙、和紙、不織布;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム等が使用できる。
【0053】
上記インクジェット記録用紙は、一般に、紙や樹脂フィルム等の基材(上記記録媒体のうち、インクジェット記録用紙以外のものは、該基材として使用可能)上に、多孔性無機粒子を主成分とするインク受容層を設けた構成となっている。多孔性無機粒子としては、多孔性非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等が好ましく用いられ、その含有量は、インク受容層中、固形分換算で40〜90重量%程度である。インク受容層には、通常、必要な塗膜強度の確保のため、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂も含有される。インクジェット記録用紙は、面質の違いにより、マット調、半光沢調、光沢調、高光沢調などに分類されるが、本発明では何れのインクジェット記録用紙でも好適に使用できる。
【0054】
水性前処理液は、記録媒体の被記録面において、少なくとも次の記録工程で水性顔料インクを付着させる部分(画像形成部分)に付着させる必要があり、該被記録面の全面にベタ打ちすることもできる。水性前処理液の付着量は、金属塩による顔料インク凝集効果をより有効に発揮させて、発色性に優れカラーブリードや印刷ムラの無い高画質・高品位の画像の出力を可能とする観点から、固形分換算で0.05〜5g/m程度が好ましい。
【0055】
一方、上記記録工程は、水性顔料インクを用いた通常のインクジェット記録と同様に、インクジェットヘッド(インクジェット記録装置)を用いて行われる。該インクジェットヘッドは、公知のインクジェットヘッドを用いて行っても良く、前処理工程と同様に上記プラズマ重合膜を有するインクジェットヘッドを用いて行っても良い。
【0056】
本発明で使用する水性顔料インクとしては、インクジェット記録用の公知の顔料インクを特に制限無く使用することができる。インクジェット記録用の顔料インクは、水に顔料系色材を含有させた水性インクであり、通常、保湿や浸透調整等のため、各種有機溶剤や界面活性剤等が更に含有されている。これら各種有機溶剤や界面活性剤等は、上述した水性前処理液と同様のものを用いることができる。また、顔料系色材は、界面活性剤等の分散剤が無添加あるいはごく少量添加の水性媒体中に分散及び/又は溶解が可能ないわゆる自己分散型顔料(表面改質顔料などとも呼ばれる)でも良く、自己分散型ではない通常の顔料でも良い。
【0057】
カラー画像を形成する場合は、2色以上の水性顔料インクを用いる。インクの組み合わせとしては、イエロー、マゼンタ及びシアンの減法混色の3原色に、必要に応じ、ブラック、オレンジ、グリーン等の濃インクやライトシアン、ライトマゼンタ、フォトブラック(ミドルブラック、ライトブラック等)等のいわゆる淡インク等の1種以上を組み合わせた3色〜8色が一般的である。本発明では、特に制限無く任意にインクを組み合わせて用いることができる。
【0058】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、図1に示す上記インクジェットプリンタ10を用いて次のようにして実施することができる。以下、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0059】
インクジェットプリンタ10は、図示しないホストコンピュータから画像データを受信すると、紙送りモータ11及びキャリッジモータ15などを駆動させて、予めプログラミングされたプリンタドライバに従って通常通りインクジェット記録を実行する。
【0060】
記録ヘッド20は、矢標B1方向に走査される場合は、記録媒体Mの被記録面に対し、先ず、インクジェットヘッド21より水性前処理液を所定の吐出量で吐出させて前処理領域を形成していき(前処理工程)、続いて、該水性前処理液が付着した該被記録面の上記金属塩による顔料インク凝集反応が有効となる領域(前処理領域)内に、受信した画像データに基づき、インクジェットヘッド22,23,24,25よりY、M、C、Kの各色水性顔料インクを所定の吐出量で順次吐出させてインクジェット記録を行う(記録工程)。矢標B1方向に走査される場合は、インクジェットヘッド26は使用しない。
【0061】
記録ヘッド20は、記録領域の矢標B1方向の終端に到達し、記録媒体Mが前処理領域の幅に略等しい送り量でプラテンローラ12により矢標A方向に搬送された後、矢標B2方向に走査される。この場合、先ず、インクジェットヘッド26より水性前処理液を所定の吐出量で吐出させて前処理領域を形成していき(前処理工程)、続いて、該水性前処理液が付着した該被記録面の上記金属塩による顔料インク凝集反応が有効となる領域(前処理領域)内に、受信した画像データに基づき、インクジェットヘッド25,24,23,22よりK、C、M、Yの各色水性顔料インクを所定の吐出量で順次吐出させてインクジェット記録を行う(記録工程)。矢標B2方向に走査される場合は、インクジェットヘッド21は使用しない。このような記録ヘッド20の双方向(B1及びB2方向)走査、及び紙送り動作が繰り返されることにより、目的とするインクジェット記録物が得られる。
【0062】
本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明のインクジェット記録方法において、使用する水性顔料インクの種類や数、水性前処理液の吐出(付着)パターン、インクの吐出順序等は上記実施形態に制限されるものではない。また、本発明のインクジェットヘッドにおいて、ノズル孔の数や配置パターンなども任意に設定可能である。
【0063】
また上記実施形態のインクジェットヘッドは、ピエゾ素子(圧電素子)を利用して該圧電素子の変形により生じる液体(インク、水性前処理液)の体積変化により該液体を吐出させる電気−機械変換方式のものであったが、電極などの静電気力発生手段を利用したものでも良く、ヒータなどの電気−熱変換素子を利用したもの(電気−熱変換方式)でも良い。後者の電気−熱変換方式は、電気−熱変換素子により液体中に気体(バブル)を発生させ、この力で該液体を吐出させるインク吐出方式であり、この方式のインクジェットヘッドとしては、例えば、キャノン社製のバブルジェット(登録商標)ヘッドが挙げられる。
【0064】
また上記実施形態では、撥水層42(プラズマ重合膜)を、インクジェットヘッドの吐出面(表面、ノズル孔形成面)のみならずノズルNzの内壁面にも形成したが、これを吐出面のみに形成することもできる。
【0065】
また上記実施形態では、記録ヘッド20(マルチヘッド)を構成しているインクジェットヘッド21〜26の全てを、上記プラズマ重合膜を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドとしたが、水性前処理液吐出用のインクジェットヘッド21及び26のみを該インクジェットヘッドとすることもできる。
【0066】
【実施例】
以下に、本発明の実施例及び本発明の効果を示す試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0067】
〔実施例1〕
厚み50μmのニッケルプレートに電解法によりノズル孔を形成してなるノズル孔形成部材の表面(吐出面)上で、オクタメチルトリシロキサン(前記化学式(B)の化合物)をプラズマ重合させて成膜させた後、窒素雰囲気下で200℃5分間の加温エージング処理(アニール処理)を行い、該表面上に厚み500nm(5000オングストローム)のプラズマ重合膜(撥水層)を形成して、ノズルプレートを作製した。プラズマ重合は下記〈プラズマ重合条件〉に従って行った。
【0068】
〈プラズマ重合条件〉
成膜装置:PAUILAC社製真空プラズマ重合装置、原料(オクタメチルトリシロキサン)ガス流量:約12cc/min.、アルゴンガス流量:60cc/min.、ガス供給方法:容器内に収容された原料の液面上にアルゴンガスを通して真空チャンバ内に供給、ガス供給後の真空チャンバ内の圧力:77.3Pa(0.58Torr)、放電出力:800W、成膜温度:24℃、電圧印加時間:5分間。
【0069】
上記のようにして得られたノズルプレートと、別途作製したポリカーボネート製の液路とを接着し、図1〜図4に示す如き構成のピエゾ駆動型のマルチヘッド(インクジェットヘッド)を作製した。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1において、オクタメチルトリシロキサンに代えて、ヘキサメチルジシロキサン(前記化学式(A)の化合物)を用いた以外は実施例1と同様にして、ノズルプレート及びマルチヘッドを作製した。
【0071】
〔実施例3〕
実施例1において、オクタメチルトリシロキサンに代えて、これと上記ヘキサメチルジシロキサンとの重量比1:1混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、ノズルプレート及びマルチヘッドを作製した。
【0072】
〔実施例4〕
実施例1において、オクタメチルトリシロキサンに代えて、オクタフェニルトリシロキサン(前記化学式(D)の化合物)を用いた以外は実施例1と同様にして、ノズルプレート及びマルチヘッドを作製した。
【0073】
〔実施例5〕
実施例4において、オクタフェニルトリシロキサンに代えて、これとヘキサフェニルジシロキサン(前記化学式(C)の化合物)との重量比1:1混合物を用いた以外は実施例4と同様にして、ノズルプレート及びマルチヘッドを作製した。
【0074】
〔比較例1〕
厚み50μmのニッケルプレートに電解法によりノズル孔を形成してなるノズル孔形成部材の表面(吐出面)に、下記〈メッキ処理〉に従い、厚み500nm(5000オングストローム)のフッ素系高分子共析メッキ膜(撥水層)を形成して、ノズルプレートを作製した。
【0075】
〈メッキ処理〉
・メッキ組成:硫酸ニッケル(NiSO・6HO)240g/l、塩化ニッケル(NiCl
・6HO)45g/l、ホウ酸(HBO)35g/l、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)50g/l。
・メッキ条件:pH4.0〜5.0、メッキ温度60℃、陰極電流密度3A/dm、ゆるやかな機械攪拌。
【0076】
上記のようにして得られたノズルプレートと、別途作製したポリカーボネート製の液路とを接着し、図1〜図4に示す如き構成のピエゾ駆動型のマルチヘッド(インクジェットヘッド)を作製した。
【0077】
〔性能評価〕
実施例1〜5及び比較例1の上記各ノズルプレートについて、耐前処理液性を下記の方法により評価した。また、実施例1〜5及び比較例1の上記各マルチヘッドについて、吐出安定性を下記の方法により評価した。これらの結果を下記〔表1〕に示す。
【0078】
(耐前処理液性の評価)
上記各ノズルプレートを下記組成の水性前処理液中に浸積し、液温60℃で20日間放置した後ノズルプレートを静かに引き上げて、撥水層の状態(撥水性を維持しているか否か/腐食があるか否か)を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:撥水性を維持している。/腐食部分(ボツ点)が観られない。耐前処理液性良好。
B:撥水性を維持している。/直径10μm未満のボツ点が観られる。実用上問題なし。
C:撥水性が失われている。/直径10μm以上のボツ点が観られる。実用に堪えない。
【0079】
(水性前処理液の組成)



【0080】
(吐出安定性の評価方法)
市販の顔料インクジェットプリンタ(「MC2000」セイコーエプソン製)の記録ヘッドを実施例1〜5又は比較例1の上記マルチヘッドに代え、このプリンタを用いて、YMCKの顔料インク(MC2000用のもの)を用いたコンポジットパターン上に上記水性前処理液を打ち込む印字パターンで、OKトップコートNを1000枚印字し、これらの印字面を目視で観察して、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:水性前処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が5箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作3回以内で復帰した。吐出安定性に優れる。
B:水性前処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作5回以内で復帰した。実用上問題なし。
C:水性前処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所を超えており、目詰まりを起こた際にクリーニング動作5回超で復帰した。実用に堪えない。
【0081】
【表1】



【0082】
【発明の効果】
本発明によれば、ノズル孔形成部材の吐出面を被覆する撥水層を、シロキサン結合(Si−O)を主骨格とするプラズマ重合膜としたので、金属塩を含有する水性前処理液(金属塩溶液)を該ノズル孔形成部材のノズル孔より長期間に亘って吐出させても、該撥水層の剥離、ひび割れ、腐食などを起こすおそれがなく、水性前処理液を安定して吐出させることができる。従って、この種の水性前処理液と水性顔料インクを用いて作製されるインクジェット記録物、即ち、画像濃度が高く印刷ムラやカラーブリードのない高画質、高品位且つ高保存性のインクジェット記録物を安定して出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の要部の概略斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置における記録ヘッドのノズル孔形成面の概略正面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う要部拡大断面図である。
【図4】図3に示すインクジェットヘッドの液滴吐出時の様子を説明する図である。
【図5】プラズマ重合膜の形成に用いるプラズマ重合装置の概略構成図である。
【図6】従来のインクジェットヘッドの模式的断面図であり、(a)は正常なインク滴の噴射状態、(b)はノズル孔の周縁部に濡れムラが生じている様子、(c)はインク滴の飛行曲がりを示す図である。
【符号の説明】
1 ヘッド基板
2 アクチュエータ部
3 液路形成部
4 ノズルプレート
10 インクジェットプリンタ
11 紙送りモータ
12 プラテンローラ
13 キャリッジ
14 キャリッジベルト
15 キャリッジモータ
16 ガイドロール
20 記録ヘッド
20a ノズル孔形成面(吐出面)
21〜26 インクジェットヘッド
30 インクタンク
31 液路
32 共通液室
41 ノズル孔形成部材
42 撥水層(プラズマ重合膜)
50 プラズマ重合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩を含有する水性前処理液を吐出するノズル孔を備えたインクジェット用ノズルプレートであって、該ノズル孔が形成されたノズル孔形成部材の吐出面が、シロキサン結合(Si−O)を主骨格とするプラズマ重合膜で被覆されていることを特徴とするインクジェット用ノズルプレート。
【請求項2】
上記プラズマ重合膜は、下記化学式(A)〜(D)で表される化合物の何れか1種又は2種以上をプラズマ重合させて形成されるものであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット用ノズルプレート。
【化1】



【請求項3】
上記プラズマ重合膜の厚みが300〜600nmであることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット用ノズルプレート。
【請求項4】
金属塩を含有する水性前処理液を吐出するノズル孔を備えたインクジェット用ノズルプレートと、該ノズル孔と連通する液路と、該液路内の該水性前処理液を該ノズル孔から吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段とを備えたインクジェットヘッドであって、該インクジェット用ノズルプレートが、請求項1〜3の何れかに記載のインクジェット用ノズルプレートであることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
上記エネルギー発生手段がピエゾ素子を備えていることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項4又は5記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
上記水性前処理液及び1色以上の水性顔料インクそれぞれに対応した複数のインクジェットヘッドが一体化されてマルチヘッドを構成しているインクジェット記録装置であって、少なくとも該水性前処理液に対応したインクジェットヘッドが、請求項4又は5記載のインクジェットヘッドであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
顔料インク凝集能を有する金属塩を含有する水性前処理液を、請求項4又は5記載のインクジェットヘッドから吐出させて記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、該前処理工程で該水性前処理液が付着した該被記録面の該金属塩による顔料インク凝集反応が有効となる領域内に、1色以上の水性顔料インクをインクジェット方式により吐出させて記録を行う記録工程とを備えたことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
上記金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
上記水性前処理液が上記金属塩を0.5〜15重量%含有することを特徴とする請求項8又は9記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2004−106203(P2004−106203A)
【公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−268253(P2002−268253)
【出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】