説明

インクジェット装置

【課題】凝集や沈降が懸念される固液分散インクをはじめとする各種物性を有するインクにおいても、高精度かつ高安定に吐出可能なインクジェット装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド内圧力を圧力センサにより検出もしくは、吐出情報やインク流量などの条件から算定し、供給インクタンクや回収インクタンクの圧力設定値を可変制御するインク供給回収条件制御手段を設けることで、インクジェットヘッド駆動条件やインク循環流速などに伴うインクジェットヘッド内の圧力変動の影響を抑止し、各種物性を有するインクについても高精度かつ高安定に吐出可能なインクジェット装置を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを媒体に吐出するインクジェット装置に関するものである。より具体的には、インクジェットヘッドによる各種インク材料の安定吐出を可能とする、インクジェットヘッドへのインク供給手段及びインクジェットヘッドからのインク回収手段における各種検出および制御に関するものである。なお、本発明におけるインクとは、紙等の媒体に対して印字を行うものに限定されるものでなく、広く一般流体及び流体中に固体粒子を分散させた固液混合流体も含む。
【背景技術】
【0002】
現在、インクジェット記録装置は、情報処理システムの出力手段として広く利用されている。これらのインクジェット装置は微小な液滴をノズルから吐出させて、紙などの記録媒体上に文字や図形等の印字や描画を行うものである。
【0003】
近年、このインクジェット技術は、回路基板上への金属配線形成やディスプレイ用のカラーフィルタなどをはじめとする産業用の各種製造装置技術として利用されるようになってきた。
【0004】
産業用インクジェット装置では、従来の画像記録用インクとは異なる種々の物性を有するインクを用いた吐出動作が必要となる。さらに、各種産業用製造装置では、従来の画像記録装置とは異なり、非常に大きなサイズへの吐出動作が要求される。たとえば、液晶,プラズマなどのフラットパネルディスプレイ分野に適用される製造装置では、数m角以上の領域への記録が必要となる。
【0005】
インクジェット装置は、インクを貯蔵するインクタンクとインクを調整しながら吐出するインクジェットヘッドと記録媒体上でインクジェットヘッドを移動させるキャリッジを備えている。一般のインクジェット装置では、インクジェットヘッドの上側にインクタンクが備えられており、水頭差でインクが供給されている。
【0006】
産業用の大型インクジェット装置では、インク消費量も多いために、必然的にインクタンクが大きくなる。これに伴って、大容量のインクタンクが必要であり、インクタンクとインクジェットヘッド間の水頭差がインク残量で大きく変化することになる。また、大容量のインクタンクをインクジェットヘッドの上方に配置した場合には、インクジェットヘッドに大きな正圧がかかってしまい、インクジェットヘッドのノズル部からのインク漏出が生ずる。
【0007】
そこで、インクタンクを本体の筐体側に配置する方法やインクタンクを大容量メインタンクと小容量のサブタンクに分け、サブタンクのみキャリッジの上に配置する方法が知られている。しかし、これらの方法を、産業用の大型インクジェット装置に適用した場合には、筐体側に設置したタンクとキャリッジ上のサブタンクやインクジェットヘッドを接続する撓み管の長さが非常に長くなり、撓み管内部に多量のインクを充填しておく必要があり、立上げや停止およびインク交換時に多量のインクを無駄にすることになる。
【0008】
インクタンクをキャリッジの上においた状態で、インクジェットヘッドへの適正なインク圧力を確保する方法として、インクジェットヘッドに接続する第1インクタンクと大容量の第2インクタンクを具備するとともに、インクジェットヘッドに接続する第1インクタンクに負圧発生手段を設けて、インクジェットヘッドに供給されるインクの圧力を調整する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2003−266734号公報
【特許文献2】特開2006−62329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように産業用のインクジェット装置では、従来の画像記録用インクとは異なる種々の物性を有するインクを用いた吐出動作が必要となる。また、より高精度かつより高安定な吐出動作が求められる。
【0011】
インクジェットヘッドで、インクを高精度に吐出するためには、インクを吐出するために設けられた微小口(オリフィス口)における液面の形状(メニスカス)を適正に保持することが非常に重要になる。インクジェットヘッド内の圧力が高すぎるとインクが漏出し、圧力が低すぎるとメニスカスが破壊されて空気を吸い込んでしまう。インクを真直ぐに吐出させるためには、メニスカスがヘッド内に若干凹んだ状態が理想であり、これを安定かつ維持することが高精度かつ高安定な吐出動作のためには必須となる。
【0012】
このような適正なメニスカスの状態を維持するインクジェットヘッド内の圧力は、大気圧に対して数百Pa程度の弱い負圧条件という微妙な設定値となる。また、その必要精度や適正範囲は、使用するインクの条件で変化する。
【0013】
各種物性を有するインクで高精度・高安定な吐出動作を要求される産業用インクジェット装置では、高精度なメニスカスコントロールを行うために、ヘッド内の圧力を高精度に制御することが必要である。
【0014】
しかし、高速で多量のインク吐出を必要とする産業用インクジェット装置では、供給インクタンクからインクジェットヘッドに送られるインク量が多く、これによるインク流速によって生じる圧力低下のために、供給インクタンクの設定圧力よりインクジェットヘッド内の圧力が低下してしまう問題が生じる。また、この圧力低下量は、インクジェットヘッドの駆動条件などにより変化するために、従来の供給インクタンクの設定圧力制御のみによってでは、高精度なインクジェットヘッド内の圧力制御が実現できない。
【0015】
さらに、産業用インクジェット用のインクとしては、溶液中に固体粒子状部材などの分散剤を分散させた固液混合インクなども用いられる。このようなインクは、インクを停滞させると、分散粒子の凝集や沈降などが生じてしまうために、インクを常に一定流速で攪拌、流動させておくことが必要となる。
【0016】
インク内の分散粒子の凝集や沈降を防止するために、インクタンクからインクジェットヘッドへインクを循環供給させる方法が考えられる。この場合、供給インクタンクからインクジェットヘッドへのインク流速はさらに速くなり、さらに大きな圧力変動や低下が生じ、インクジェットヘッド内の圧力コントロールつまりメニスカスコントロールがさらに難しいものとなる。
【0017】
特許文献1,2に記載の方法では、これらの状況下で、十分なインクジェットヘッド内の圧力の制御、つまりメニスカスコントロールができない。
【0018】
本発明の目的は、凝集や沈降が懸念される固液分散インクをはじめとする各種物性を有するインクにおいても、高精度かつ高安定に吐出可能なインクジェット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、インクジェット装置を以下の(1)または(2)に記載した構成とした。
【0020】
(1)インクを吐出するインクジェットヘッドのヘッド内のインク流路における圧力を検出するヘッド内圧力検出手段と、該インクジェットヘッドに配管接続され、インクジェットヘッドにインクを供給する供給インクタンクと、該供給インクタンク内の圧力を設定値に制御する供給インクタンク圧力制御手段と、該ヘッド内圧力検出手段の検出値により該供給インクタンク圧力制御手段の圧力設定値を可変制御するインク供給条件制御手段を備えた。
【0021】
(2)インクジェットヘッドのヘッド内のインク流路における圧力を検出するヘッド内圧力検出手段と、該インクジェットヘッドに配管接続され、インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する供給インクタンクと、該供給インクタンク内の圧力を設定値に保持する供給インクタンク圧力制御手段と、該インクジェットヘッドに配管接続され、インクジェットヘッド内のインクを回収し、その回収したインクを貯留する回収インクタンクと、該回収インクタンク内の圧力を設定値に保持する回収インクタンク圧力制御手段と、該ヘッド内圧力検出手段の検出値により該供給インクタンク圧力制御手段及び該回収インクタンク圧力制御手段の設定値を制御するインク供給回収条件制御手段を備えた。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、上記した(1)又は(2)のインクジェット装置において、ヘッド内圧力検出手段はインクジェットヘッドと配管接続された圧力センサからなり、インクジェットヘッドと該圧力センサ間のインク流速がほぼゼロの状態で圧力を検出するように構成される。
【0023】
また、他の好ましい実施形態では、上記(1)のインクジェット装置において、ヘッド内圧力検出手段は、供給インクタンク圧力制御手段の設定圧力と、インクジェットヘッドにおける単位時間当たりの吐出インク量またはヘッドのインク吐出条件,インクジェットヘッドへのインク供給流量のうち少なくとも1つの値とを用いて、該インクジェットヘッド内の圧力値を算定するものとされる。
【0024】
また、他の好ましい実施形態では、上記(2)のインクジェット装置において、ヘッド内圧力検出手段は、供給インクタンク圧力制御手段と該回収インクタンク圧力制御手段のそれぞれの設定圧力と、インクジェットヘッドにおける単位時間当たりの吐出インク量またはヘッドのインク吐出条件,インクジェットヘッドへのインク供給流量及びインク回収流雨量のうち少なくとも1つの値とを用いて、該インクジェットヘッド内の圧力値を算定するものとされる。
【0025】
また、他の好ましい実施形態では、供給インクタンクからインクジェットヘッドへのインク供給流量もしくは、インクジェットヘッドから回収インクタンクへのインク回収流量の少なくとも一方を検出可能なインク流量検出手段が備えられる。
【0026】
また、他の好ましい実施形態では、回収インクタンクから供給インクタンクに向かってインクを戻すためのインク戻し搬送経路および戻し搬送ポンプが備えられる。
【0027】
また、他の好ましい実施形態では、供給インクタンクと回収インクタンクの少なくとも一方は、タンク内のインク液面高さ,インク液量もしくはインク液重量のうち少なくとも1つを検出可能な検出手段を具備するように構成される。
【0028】
また、他の好ましい実施形態では、インクジェットヘッドに配管接続された供給インクタンク,ヘッド内圧力検出手段,回収インクタンクのうち少なくとも一方の管路に、配管の開閉可能な開閉弁が備えられる。
【0029】
前記した本発明において用いられるインクは、溶液中に固体粒子状部材を分散させた固液混合インクとすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のインクジェット装置は、インクジェットヘッド内の圧力を検出して、供給インクタンクの圧力設定値を可変制御することから、インクジェットヘッド駆動条件変化によるインク流速変動に伴う供給インクタンクとインクジェットヘッド間の圧力低下の影響を受けることなく、安定したインクジェットヘッド内圧力コントロールつまりメニスカスコントロールが可能となる。
【0031】
これにより、凝集や沈降が懸念される固液分散インクをはじめとする各種物性を有するインクを、高精度かつ高安定に吐出可能なインクジェット装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
供給インクタンク、供給インクタンク圧力制御手段、ヘッド内圧力検出手段に加えて、回収インクタンク、回収インクタンク圧力制御手段を備え、さらにインク供給回収条件制御手段を備えたインクジェット装置では、供給インクタンクと回収インクタンク内の設定圧力を独立に可変制御することで、インクジェットヘッド内圧力コントロールとともに、供給インクタンクと回収インクタンクの圧力設定値の差によって、インクジェットヘッドに供給される循環流量コントロールも可能とし、インク内の分散粒子の凝集や沈降防止が効率よくかつ安定に実現する。
【0033】
インクジェットヘッド内の圧力検出手段として、インクジェットヘッドに配管接続された圧力センサを用い、インクジェットヘッドと該圧力センサ間のインク流速がほぼゼロの状態で圧力検出をするように構成することで、インクジェットヘッドと圧力センサ間の圧力損失が無くなり、高精度にインクジェットヘッド内の圧力を検出することが可能となる。
【0034】
さらに、別のインクジェットヘッド内圧力検出手段として、供給インクタンク圧力制御手段及び回収インクタンク圧力制御手段のそれぞれの設定圧力と、インクジェットヘッドにおける単位時間当たりの吐出インク量又はヘッドのインク吐出条件,インクジェットヘッドへの供給流量,回収流量内のうち少なくとも1つの値とを用いて、インクジェットヘッド内の圧力値を算定するヘッド内圧力算定検出手段を設けることで、インクジェットヘッドに圧力センサを設置することなく、インクジェットヘッド内の圧力を算定することができる。
【0035】
このために、供給インクタンクからインクジェットへのインク供給流量もしくは、インクジェットから回収インクタンクへのインク回収流量の少なくとも一方を検出可能ないンク流量検出手段を備えることが望ましい。
【0036】
インクジェットヘッド内の圧力は、供給インクタンクおよび回収インクタンクの圧力設定値に対して、インク流速による圧力変化により決定される。インクジェットヘッドが単位時間に吐出するインク量や供給流量,回収流量を正確に測定することで、供給インクタンクからインクジェットヘッドまでの圧力損失やインクジェットヘッドから回収インクタンクまでの圧力損失の割合から、高精度なインクジェットヘッドの圧力算定が可能となる。これにより、インクジェットヘッドに圧力センサを設ける場合に比較して、装置及び配管構成および各種弁などによるインクの制御が簡略になる。
【0037】
さらに、供給インクタンク及び回収インクタンク内のインク液面高さ,インク液量もしくはインク液重量のうち少なくとも1つを検出することで、インクジェットヘッド内に付加される圧力をより高精度に検出することが可能となる。
【0038】
以下、本発明の具体的な実施形態を図1から図3を用いて説明する。
【実施例1】
【0039】
本実施例では、インク供給系と回収系を有し、ヘッド内圧力検出手段として圧力センサを備えた場合について説明する。
【0040】
図1は、本発明のインクジェット装置におけるインクジェットヘッドとインク供給回収システムの全体構成を説明するための図である。インクジェット装置は、インクジェットヘッド12,インク供給系10,インク回収系15ならびにインク供給回収条件制御手段1からなる。
【0041】
インク供給系10は、インクを格納する供給インクタンク8,インクを攪拌する供給インク攪拌装置9,供給インクタンク内のインク圧力を検出する供給インクタンク圧力センサ6,供給インクタンク内の液面高さを検出する供給インクタンク液面センサ5および供給インクタンク内の圧力を制御する供給インクタンク内圧制御ポンプ7および供給インクタンク圧力センサ6と供給オンクタンク液面センサ5の検出値に基づいて、供給インクタンク内の水頭圧を制御する供給インクタンク圧力制御手段4により構成される。
【0042】
供給インクタンク内の水頭圧とは、インクジェットヘッドのノズル面などを基準としたときの相対的供給水頭圧力を示し、供給インクタンク内の液面の位置が高くなれば大きく、低くなれば小さくなる。供給インクタンク圧力制御手段4の動作としては、供給インクタンク8内の液面高さの変化に応じて、供給インクタンク8内の圧力を、供給インクタンク圧力センサ6と供給インクタンク内圧制御ポンプ7により制御することで、供給インクタンク8内の水頭圧を一定に保つように制御動作する。
【0043】
供給インクタンク8内に設けられた供給インク攪拌装置9は、溶液中に固体粒子状部材を分散させた固液混合インクなどにおいて、分散剤の沈降や凝集を防ぐために設けられている。攪拌しなくとも、インクの特性が変化しないようなインクの場合には、供給インク攪拌装置9を設けなくてもよい。
【0044】
供給インク攪拌装置9は、回転させることでインクを攪拌させるが、回転を早くしすぎるとインク中への気泡発生や供給インクタンク8内の水頭圧制御が不安定となる恐れがある。回転速度は、これらの点を考慮して設定する必要がある。インク物性などによって、インク水頭圧制御やインク吐出動作へ影響を及ぼす場合は、インク水頭圧制御時やインク吐出動作時には、供給インク攪拌装置9を停止させる制御が必要となるケースもある。
【0045】
インク回収系15は、インク供給系10と基本的に同様の構成を有しており、インクを格納する回収インクタンク17,インクを攪拌する回収インク攪拌装置16,回収インクタンク17内のインク圧力を検出する回収インクタンク圧力センサ19,回収インクタンク内の液面高さを検出する回収インクタンク液面センサ20および回収インクタンク内の圧力を制御する回収インクタンク内圧制御ポンプ18および回収インクタンク圧力センサ19と回収インクタンク液面センサ20の検出値に基づいて、回収インクタンク内の水頭圧を制御する回収インクタンク圧力制御手段21により構成される。
【0046】
インク回収系15もインク供給系10と同様の制御により、回収インクタンク17内の水頭圧を一定に保つように回収インクタンク圧力制御手段21により制御動作する。
【0047】
回収インクタンク17内に設けられた回収インク攪拌装置16も、供給インクタンク8内に設けられた供給インク攪拌装置9と同様の考え方での制御が必要であることは言うまでもない。
【0048】
次に、実際の塗布動作について説明する。
【0049】
実際の塗布動作においては、供給インクタンク8の水頭圧設定値Psと回収インクタンク17の水頭圧設定Pcを、Ps>Pcとすることで、インクが供給インクタンク8から回収インクタンク17へ流れ始める。このとき、インクジェットヘッド12内の水頭圧Phは、Ps>Ph>Pcとなる。Phは、供給インクタンク8からインクジェットヘッド12内までの圧力損失やインクジェットヘッド12内から回収インクタンク17までの圧力損失の影響を受ける。これらの圧力損失は、管路構成や流速さらにはインク物性などの影響を受ける。
【0050】
図2は、インクジェット吐出動作をしたときのインクジェットヘッド12内の水頭圧変化を測定した結果の一例である。インクジェットヘッド内の圧力は、吐出動作によって低下するが、その低下度合いは、インクの流量に影響を与える吐出周波数やインクの種類などの影響を受ける。図2中では、低粘度インク,高粘度インク,高粘度固液混合インクにおける吐出周波数3kHzと6kHzでの連続吐出時の水頭差変化を模式的に示した。
【0051】
インクジェットヘッド12内の圧力変化は、インクの吐出精度や動作に影響を与える。特に、インクジェットヘッド12内の圧力がある程度以上低下すると気泡を巻き込むことなどにより、インクの吐出動作が停止するなどの不具合が生じる。
【0052】
図1で示した本発明の構成では、インクジェットヘッド12にインクジェットヘッド内圧力センサ11を具備することで、インクジェットヘッド12内の圧力を直接検出し、インク供給回収条件制御手段1により供給インクタンク圧力制御手段4および回収インクタンク圧力制御手段21の設定圧力を可変制御することで、吐出周波数やインクの種類に関わらず、インクジェットヘッド12内圧力が適正範囲に保持されるように制御することを可能にしている。
【0053】
インクジェットヘッド12に接続されたインクジェットヘッド内圧力センサ11は、インクジェットヘッド12とともに、回収インクタンク17へのインク回収経路の配管とも三方弁14で接続されている。
【0054】
インクジェットヘッド内圧力センサ11は、インク回収経路の配管と接続を遮断し、インクジェットヘッド12とインクジェットヘッド内圧力センサ11間の流速をゼロにした状態で、圧力測定を実施することが望ましい。
【0055】
これは、インクジェットヘッド12とインクジェットヘッド内圧力センサ11間に流速がある場合、その接続経路内の圧力損失により、インクジェットヘッド12内の圧力とインクジェットヘッド内圧力センサ11の検出圧力に差が生じ、正確にインクジェットヘッド12内の圧力が測定できないためである。
【0056】
なお、インクジェットヘッド12とインクジェットヘッド内圧力センサ11間の流速の差が1/0以下であれば、測定精度上はゼロとみなして問題は無く、好ましくは、その差が1/100以下の状態で圧力測定をするのがよい。
【0057】
但し、測定しないときに三方弁11を開放することで、インクジェットヘッド12からインクジェットヘッド内圧力センサ11に供給されるインクを回収することができる。これは、溶液中に固体粒子状部材を分散させた固液混合インクなど、分散剤の沈降や凝集などが懸念されるインクでは重要であり、定期的にインクジェットヘッド12とインクジェットヘッド内圧力センサ11間の流路などのインクを循環回収することが必要である。
【0058】
図1の実施例では、インクジェットヘッド内圧力センサ11を回収経路の配管とも三方弁14で接続した構成としているが、これを供給系経路の配管と三方弁で接続した場合も同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、インクジェットヘッド12へのインクの供給量や循環量は、使用するインクの分散剤などのインク物性や吐出周波数や吐出間隔などの塗布条件により、最適条件が決まる。この最適なインクの供給量・循環量は、供給インクタンクの制御水頭圧Psと回収インクタンクの制御水頭圧Pcの差によって決定される。
【0060】
インクジェットヘッド12へのインク循環量を規定の量に制御しつつ、インクジェットヘッド12内の内圧を適正に保つためには、インクジェットヘッド12に配置されたインクジェットヘッド内圧力センサ11の値を一定保つように供給インクタンク8の設定圧力を可変制御するとともに、適正な循環インク流量となるように、供給インクタンク8と回収インクタンク17の圧力設定値の差が一定となるように制御を行う必要がある。図1の本実施例では、インクジェットヘッド12に設けられたインクジェットヘッド内圧力センサ11の検出値を用いて、インク供給回収条件制御手段1が、供給インクタンク8と回収インクタンク17の設定圧力を独立に可変制御することで実現できる。
【0061】
また、インクジェットヘッド12への供給量や循環量は、供給インクタンク8および回収インクタンク17の液面を検出する供給インクタンク液面センサ5と回収インクタンク液面センサ20による液量の変化や吐出動作の制御情報すなわちインクジェットヘッド駆動情報2から検出および算出することができる。インク供給回収条件制御手段1は、これらの情報により、インクジェットヘッド内の圧力制御とインクジェットヘッドへのインク供給量や循環量の制御を正確にするように構成されている。
【0062】
装置立上げ時や停止時およびメンテナンス時などに、インクジェットヘッド12のノズルなどからのインク漏れを防止するために、インクジェットヘッド12に接続されている供給インクタンク8および回収インクタンク9およびインクジェットヘッド内圧力センサ11などの管路には、開閉弁13が設けられている。
【0063】
装置の立上げ前や立上げ工程などの条件では、基本的にこれらの開閉弁を閉鎖することで、インクジェットヘッドに不適切な圧力が付加されることによるノズルからのインクの漏れや空気の吸い込みなどの不具合を防止する。立上げのみならず、インクジェットヘッドやそのノズルのメンテナンス動作や装置の停止シーケンスなどの動作する場合やそれらの動作モードへの移行時も同様である。
【0064】
メンテナンス動作の一例としては、インクジェットヘッド内圧力センサ11と回収インクタンク17への開閉弁13を閉鎖し、供給インクタンク8の加圧水頭圧を大きくすることで、インクジェットヘッド12のノズルからインクを押出す加圧パージ動作やインクジェットヘッド内圧力センサ11と供給インクタンク8への開閉弁13を閉鎖し、回収インクタンク17の水頭圧を大きく負圧にすることで、ノズルからインクなどを吸出すことでインクジェットヘッド12およびそのノズルのつまりなどを解消する吸引パージなどの動作がある。これらのメンテナンス動作においては、上記のような各開閉弁13の制御動作が必要となる。
【0065】
図1の実施例では、供給インクタンク8から回収インクタンク17にインクを循環させながらインクジェットヘッド12による吐出動作を実施できるように構成しているが、インク吐出時に回収インクタンク17に向けてのインク循環流量をゼロにするように、インク供給回収条件制御手段1によって制御することも可能である。この場合、回収インクタンク17の水頭圧設定値を、インクジェットヘッド12の水頭圧と同じにするか回収インクタンク17への管路の開閉弁を閉鎖する。この様にインク吐出時に回収インクタンク17に向けてのインク循環流量をゼロにすることで、より正確なインクジェットヘッド12内の圧力コントロールが可能となる。
【0066】
また、図1のように、供給インクタンク8から回収インクタンク17にインクを循環させる構成では、インクの利用効率などを考えると、回収インクタンク17に回収されたインクを供給インクタンク8に戻すことが必要である。このために、図1では、回収インクタンク17のインクを供給インクタンク8に戻すためのインク戻ポンプ3を配置している。
【0067】
ただし、このインク戻ポンプ3の動作は、インク供給系10およびインク回収系15の水頭値に影響を及ぼすことから、制御精度が低下する可能性がある。インク吐出時のインクジェットヘッド12内の水頭圧を、より高精度に制御するには、インク供給系10およびインク回収系15の水頭値を高精度に制御することが重要である。より高精度な水頭圧制御が必要な場合には、インク吐出時には、インク戻ポンプ3の動作を停止するなどの制御も必要となる。実際の制御シーケンス詳細については、使用するインク物性やインクジェットヘッド12の吐出条件などを考慮して、それぞれ規定する必要がある。
【0068】
インクジェット装置は、インクジェットヘッドへの初期インク供給を行う装置立上モード,動作情報に従ってインクジェットヘッドを駆動しインクの吐出動作を行わせる記録モード,インクジェットヘッドの洗浄などのメンテナンスを行うメンテナンスモード,装置停止のためにインクジェットヘッド内のインクを回収する装置停止モードなどの複数の動作モードを有する。これらの各モードにおいて、ヘッド内圧力検出手段,インク流量検出手段,供給インクタンク及び回収インクタンクの液量検出手段のうち少なくとも1つを検出し、供給インクタンク,ヘッド内圧力検出手段,回収インクタンクの各接続配管開閉弁,供給インクタンクの設定圧力,回収インクタンクの設定圧力のうち少なくとも1つを可変制御することが必要であり、従って、本発明のインクジェット装置は、このための動作モード制御手段を具備することが望ましい。
【実施例2】
【0069】
図1では、インクジェットヘッド12内の圧力を測定するためのインクジェットヘッド内圧力センサ11が配置されているが、圧力センサを具備しない場合においても、以下の手段により本発明の実施は可能となる。
【0070】
本実施例は、インクジェットヘッド12内の圧力が、インク供給系10やインク回収系15の設定圧力と異なるとともに、変動することに着目してなされたものである。インクジェットヘッド12内の圧力が、インク供給系10やインク回収系15の設定圧力と差が生じるのは、インク供給系管路やインク回収系管路やインクジェットヘッド12内の圧損とそれらを流れるインクの流速によるものである。これらの圧損は、インク物性と管路の性状およびそこを流れる流速に依存する。
【0071】
このため、循環するインク流量,吐出されるインク流量やインク物性変化などから、インク供給系10やインク回収系15の設定圧力に対するインクジェットヘッド内の圧力を算出することが可能である。
【0072】
しかし、インク供給系10やインク回収系15の設定圧力に対するインクジェットヘッド内圧力値は複雑な関数となることから、より正確なインクジェットヘッド内圧力の算定を実現するためには、実際のインク供給系およびインク回収系の設定条件に対するインクジェットヘッド内圧力について、予め多点測定することで、換算マトリックスを作成し、これを参照する方法が有効である。
【実施例3】
【0073】
図1では、インク供給系10とインク回収系15を備えている。この構成は、凝集や沈降が懸念される固液分散インクなど、非常に取扱いが難しいインクを高精度かつ高安定に吐出するのに適する。
【0074】
一液性や低粘度インクなど比較的取扱いの容易なインクにおいては、インクの循環システムなどが不要となる。このような場合、図1の構成におけるインク回収系15は不要となり、インク供給システムの構成が簡単になる。なお、この場合、図1におけるインク供給回収条件制御手段1は、インク供給条件制御手段に置き換えられる。
【0075】
このような構成においても、インク吐出条件において、供給インクタンク8からインクジェットヘッド12へのインク流量に差が生じるために、インクジェットヘッド12内の圧力を一定に保持するような供給インクタンクの設定圧力制御が必要であり、インク供給条件制御手段により、供給インクタンク圧力制御手段4の設定圧力を可変制御する。インクジェットヘッド12内の圧力については、インクジェットヘッド12に配置したインクジェットヘッド内圧力センサ11や吐出流量などから算定する方法のいずれの方法も適用することが可能である。
【実施例4】
【0076】
図3に、本発明のインク供給回収システムを搭載したインクジェット装置の全体構成を示す。
【0077】
ステージ22の上に、それをまたぐ門型のインクジェットヘッドガイドレール26が配置されている。ステージ22上の移動テーブル23は、門型のインクジェットヘッドガイドレール26をくぐる方向すなわちテーブル移動方向29に移動するように構成されている。
【0078】
インクジェットシステム25は、門型ガイドレールに設置され、ステージ22上の移動テーブル23のテーブル移動方向29と直交するインクジェットヘッド移動方向28に移動可能なように構成されている。
【0079】
インクジェットシステム25に搭載されたインクジェットヘッド12は、ステージ22の移動テーブル23上に配置された塗布対象基板24に対して、数百μmのギャップで近接設置する。
【0080】
供給インクタンク8や回収インクタンク17などのインク供給/回収系は、インクジェットヘッド12の上方に配置されており、インクジェットヘッド12とともに、門型のインクジェットヘッドガイドレール26上をテーブル移動方向29と直交する方向に移動する。
【0081】
実際の塗布動作においては、ステージ22の移動テーブル23上に塗布対象基板24を配置し、インクジェットヘッド12を所定の位置へ移動した後に、移動テーブル23を移動しながらインクジェットヘッド12を吐出動作させて塗布を行う。次に、インクジェットヘッド12を次の塗布位置に移動させ、同様の動作を繰返し、移動テーブル23上に固定配置された塗布対象基板24上に、面状塗布動作を行う。
【0082】
図3のステージ22の脇には、本発明のインクジェット装置全体を制御および操作するためのインクジェット装置制御操作ユニット27が配置されている。
【0083】
本実施例の構成では、上記塗布動作中のインクジェットヘッド12内のインク圧力を厳密に調整可能であることから、凝集や沈降が懸念される固液分散インクをはじめとする各種物性を有するインクを、高精度かつ高安定に吐出可能なインクジェット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のインクジェット装置におけるインクジェットヘッドとインク供給回収システムの全体構成の一実施例を示す図である。
【図2】インクジェット吐出動作をしたときのインクジェットヘッド内の水頭圧変化を測定した結果の一例を示した図である。
【図3】本発明のインク供給回収システムを搭載したインクジェット装置の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1…インク供給回収条件制御手段、2…インクジェットヘッド駆動情報、3…インク戻ポンプ、4…供給インクタンク圧力制御手段、5…供給インクタンク液面センサ、6…供給インクタンク圧力センサ、7…供給インクタンク内圧制御ポンプ、8…供給インクタンク、9…供給インク攪拌装置、10…インク供給系、11…インクジェットヘッド内圧力センサ、12…インクジェットヘッド、13…開閉弁、14…三方弁、15…インク回収系、16…回収インク攪拌装置、17…回収インクタンク、18…回収インクタンク内圧制御ポンプ、19…回収インクタンク圧力センサ、20…回収インクタンク液面センサ、21…回収インクタンク圧力制御手段、22…ステージ、23…移動テーブル、24…塗布対象基板、25…インクジェットシステム、26…門型のインクジェットヘッドガイドレール、27…インクジェット装置制御操作ユニット、28…インクジェットヘッド移動方向、29…テーブル移動方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドに配管接続され、該インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する供給インクタンクとを具備するインクジェット装置において、該供給インクタンク内の圧力を設定値に保持する供給インクタンク圧力制御手段と、該インクジェットヘッドのヘッド内のインク流路における圧力を検出するヘッド内圧力検出手段と、該ヘッド内圧力検出手段の検出値により該供給インクタンク圧力制御手段の圧力設定値を制御するインク供給条件制御手段を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドに配管接続され、該インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する供給インクタンクとを具備するインクジェット装置において、該供給インクタンク内の圧力を設定値に保持する供給インクタンク圧力制御手段と、該インクジェットヘッドのヘッド内のインク流路における圧力を検出するヘッド内圧力検出手段と、該インクジェットヘッドに配管接続され、該インクジェットヘッド内のインクを回収し、その回収したインクを貯留する回収インクタンクと、該回収インクタンク内の圧力を設定値に保持する回収インクタンク圧力制御手段と、該ヘッド内圧力検出手段の検出値により該供給インクタンク圧力制御手段及び該回収インクタンク圧力制御手段の設定値を制御するインク供給回収条件制御手段を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェット装置において、該ヘッド内圧力検出手段が該インクジェットヘッドと配管接続された圧力センサであって、該インクジェットヘッドと該圧力センサ間のインク流速がほぼゼロの状態で圧力を検出するように構成されていることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェット装置において、該ヘッド内圧力検出手段が、該供給インクタンク圧力制御手段の設定圧力と、該インクジェットヘッドにおける単位時間当たりの吐出インク量またはヘッドのインク吐出条件,該インクジェットヘッドへのインク供給流量のうち少なくとも1つの値とを用いて、該インクジェットヘッド内の圧力値を算定するものであることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項5】
請求項2に記載のインクジェット装置において、該ヘッド内圧力検出手段が、該供給インクタンク圧力制御手段と該回収インクタンク圧力制御手段のそれぞれの設定圧力と、該インクジェットヘッドにおける単位時間当たりの吐出インク量またはヘッドのインク吐出条件,該インクジェットヘッドへのインク供給流量及びインク回収流量のうち少なくとも1つの値とを用いて、該インクジェットヘッド内の圧力値を算定するものであることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項6】
請求項2に記載のインクジェット装置において、該供給インクタンクから該インクジェットヘッドへのインク供給流量もしくは、該インクジェットヘッドから該回収インクタンクへのインク回収流量のうち少なくとも1つを検出可能なインク流量検出手段を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項7】
請求項2に記載のインクジェット装置において、該回収インクタンクから該供給インクタンクに向かってインクを戻すためのインク戻し搬送経路および戻し搬送ポンプを備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項8】
請求項1に記載のインクジェット装置において、該供給インクタンクのタンク内のインク液面高さ,インク液量もしくはインク液重量のうち少なくとも1つを検出可能な検出手段を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項9】
請求項2に記載のインクジェット装置において、該供給インクタンクと該回収インクタンクのタンク内のインク液面高さ,インク液量もしくはインク液重量のうち少なくとも1つを検出可能な検出手段を備えたことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項10】
請求項1に記載のインクジェット装置において、該インクジェットヘッドに配管接続された該供給インクタンクと該ヘッド内圧力検出手段のうち少なくとも一方の管路に、配管の開閉可能な開閉弁を有することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項11】
請求項2に記載のインクジェット装置において、該インクジェットヘッドに配管接続された該供給インクタンク,該ヘッド内圧力検出手段及び該回収インクタンクのうち少なくとも一方の管路に、配管の開閉可能な開閉弁を有することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のインクジェット装置において、用いられるインクは溶液中に固体粒子状部材を分散させた固液混合インクであることを特徴とするインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−289983(P2008−289983A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136836(P2007−136836)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】