説明

インクジェット記録ヘッド及びその製造方法

【課題】着弾位置精度が低下することなく、所望のインク滴の径を得ることで、記録結果にヨレやムラといった記録の不具合が発生しないインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】固定パターン同士の間が可動部材の全域に亘って直線的でなく等間隔になるように、正六角形の固定パターンを配列させて可動部材を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドお及びその製造方法の関し、詳しくはノズル内にエネルギ利用の効率化及び液体リフィル動作の円滑化を図る可動部材を備えたインクジェット記録ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日インクジェット記録装置は、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピュータやワードプロセッサ等を含む、複合型電子機器やワークステーションなどの出力機器として多く用いられている。インクジェット記録装置は、記録情報に基づいて、紙、布、プラスチックシート、OHP用シート等の記録媒体に向けて液滴を吐出することで記録を行なう。そしてこのインクジェット記録装置は、低騒音、低ランニングコストで、装置の小型化が容易であり、カラー化も容易であるなどの観点から広く応用されている。
【0003】
インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)は、一般に液体供給方向上流側から吐出口に向う液路が設けられ、その液路に例えば通電に応じ液体に熱エネルギを発生する素子(電気熱変換体)が配されている。そして電気熱変換体の駆動に伴い、電気熱変換体の熱作用部上にある液体に状態変化(膜沸騰による発泡)を生じさせることで、熱作用部より吐出口側に存在する液体を吐出させる圧力を液体に作用させるものである。しかしこの発泡現象自体には指向性がない。従って発泡による圧力は、液路において液体を吐出させる方向だけではなく、液体供給方向上流側にも作用する。この結果、液体供給方向上流側へのエネルギ損失を生じて液体吐出に有効に寄与するエネルギ量が減殺され、液体の吐出速度が減少して記録品位の低下や記録速度の低下を招くことがある。
【0004】
近年では、安定した記録品位で記録を行う要求が高まっており、これは特に産業用途の記録装置において著しい。そこで、特許文献1には、発泡に応じて可動する金属の可動部材を液路内に設け、液体供給方向上流側への泡の成長を規制することにより、エネルギ利用の効率化および液体リフィル動作の円滑化を図る構成が採用されることがある。
【0005】
【特許文献1】特開2007−230194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可動部材が金属であり、可動部材を固定する部材が感光性樹脂で固定されている場合、一般的に可動部材を固定する部材には感光性樹脂が用いられる。そして、感光性樹脂を硬化させる際には熱をかけて硬化させる。この場合、熱をかける際に可動部材と、その可動部材を固定する部材との線膨張係数の差によって可動部材に応力が発生し、強度的に弱い先端部にうねりや反りといった変形が生じることがある。
【0007】
図7(a)から(c)は、従来の記録ヘッドにおける可動部材と、可動部材の台座である樹脂が熱によって膨張する様子を示した図である。(a)は加熱する前の状態であり、台座401の上に可動部材402が乗せられており、可動部材402が樹脂の固定部材403によって2箇所で固定されている。(b)は、熱が加えられた状態であり、台座と可動部材との材質の違いから線膨張率が異なっているため、膨張した際のそれぞれの長さが異なっている。なお、膨張した際の長さの違いが分かりやすいように、可動部材402については、固定部材403で固定された状態(実線)と、固定されていない状態(点線)の両方を併記した。実際には固定部材403で固定されているため実線で示したように可動部材402には反りが発生する。(c)は、加熱後に冷却した状態であり、加熱時に発生した反りは、完全には戻らず、冷却後も可動部材403には若干の反りが残っている。
【0008】
可動部材にうねりや反りなどの変形が生じると吐出効率が落ちて吐出速度の下降や、応答周波数が高速で反応できなくなることがある。その結果、着弾位置精度の低下や、所望のインク滴の径を得ることができなくなることで、記録結果にヨレやムラといった記録の不具合が発生するおそれがある。
【0009】
よって本発明は、着弾位置精度が低下することなく、所望のインク滴の径を得ることで、記録結果にヨレやムラといった記録の不具合が発生しないインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため本発明のインクジェット記録装置は、インクを加熱発泡させて発生する気泡の成長に伴い、樹脂の複数の固定部材で固定された、可動部材を変位させて、前記インクが吐出する方向へ前記気泡の成長を導くことで前記インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドにおいて、前記可動部材を固定する前記固定部材同士の間は、全てが等間隔であり、前記可動部材の一方の端部から対向する他方の端部に到るまでに複数回屈曲していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを加熱発泡させて発生する気泡の成長に伴い、樹脂の複数の固定部材で固定された、可動部材を変位させて、前記インクが吐出する方向へ前記気泡の成長を導くことで前記インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記可動部材を固定する前記固定部材同士の間を、全てが等間隔で、前記可動部材の一方の端部から対向する他方の端部に到るまでに複数回屈曲させて、前記固定部材を配置する工程を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可動部材を固定する固定部材同士の間は、全てが等間隔であり、可動部材の一方の端部から対向する他方の端部に達するまでに複数回屈曲させる。これによって、可動部材にうねりや反りなどの変形が生じることなく、高精度でインク滴を所望の位置へ着弾することができ、記録結果にヨレやムラといった記録の不具合が発生することがないインクジェット記録ヘッドを実現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)の外観図を模式的に示した図であり、図2は、記録ヘッドの一部を拡大し、更に内部構造が分かるように一部を断面にして示した図である。記録ヘッド101は、インクを吐出可能小な複数の吐出口112を吐出口列103として備えており、各吐出口112からインクを吐出して記録を行う。各吐出口112はそれぞれノズル107と連通しており、ノズル107および吐出口112のピッチは、解像度に合わせて固定したピッチで配列されている。各ノズル107にはインク供給路110からインク供給部104を介してインクが供給される。各ノズル107にはヒータ111が備えられており、制御部102から記録に応じた信号を受けて発熱する。ベースプレート105にはノズル107の位置に合わせてヒータ111が固定されており、ヒータ111で発生した熱を放熱する役割も担っている。接続部106は、記録装置と接続される部分であり、記録装置からの信号はこの接続部106を介して制御部102へと送られる。
【0014】
ノズル107は、底面のベースプレート105、両側面のノズル壁108、上面の天板109を接合することにより形成されており、その一方は吐出口112と、他方はインク供給路110と連通して、インク供給路110から吐出口112へとインクを導く。ノズル107内にインクが充填され、ヒータ111が発熱すると、インクはヒータ111の熱によって膜沸騰を起こし発泡する。このようなインクの加熱発泡によりインクは体積変化とともに吐出口112から吐出する。
【0015】
図3(a)から(c)は、ヒータ111の発熱による気泡の発生に伴う可動部材114の変位をそれぞれ示している。ヒータ111が発熱してインクが発泡すると、発生した気泡によって可動部材114の自由端部は押し上げられ、気泡内の圧力の変化を吐出口112側へと導く。このような可動部材114の作用によりインクの吐出効率が向上する。また、発泡により生じる微小な泡も吐出口112側へと導き排出を容易にする効果もある。そして、泡による不吐出やインクの着弾精度ズレの抑制等が可能になり、記録品位を向上させることが可能になる。
【0016】
図4は、可動部材114が、本発明の固定部材(以下、固定パターンともいう)207によって固定されている様子を示した図である。ノズル107の内部には、金属により形成された可動部材114が、吐出口112側を自由端とした片持ち状態で設けられており、その自由端部がヒータ111の上部に来るように配設されている。この可動部材114は、感光性樹脂フィルムを用いてフォトリソグラフィによって形成された台座208の上に接着されている。また、各ノズル107に配されている各可動部材114は、自由端部と反対の方向(片持ちの支持部側)で繋がっているため、全体形状は櫛歯状になっており、その繋がり部はインク供給路110に位置している。
【0017】
可動部材114は、可動部材114の台座208と固定パターン207とによって挟まれる形で保持されている。固定パターン207も台座208と同じように、感光性樹脂フィルムでフォトリソグラフィによって形成される。感光樹脂フィルムによって部材を形成する場合には、フォトリソグラフィによる形成後、硬化させるために熱を加える。
【0018】
図5は、可動部材114と固定パターン207の位置関係を説明するための図であり、固定パターンの一部を取り除いて示している。可動部材114には、熱による膨張を低減するため体積を減らすべく、一定の強度を保持できる範囲で複数の穴303が所定の間隔で設けられている。本実施形態の固定パターン207は、所定の厚さの正六角形(正六角柱)の樹脂を可動部材114上に配列したものであり、正六角形の樹脂同士の隙間304が等間隔になるように配列されている。また、正六角形の樹脂の配列は、可動部材114に設けられた穴303の配置とも関連しており、正六角形の樹脂の角が、穴303に掛かる位置に配列されている。そして、正六角形の樹脂同士の隙間304は、熱によって固定パターン207の膨張や可動部材114の膨張が生じても、隣接する正六角形の樹脂同士が接触しない間隔を有している。また、固定パターン207と台座208とは、可動部材114の穴303の部分において、熱によって溶融固定パターン207および台座208が溶融することで繋がっている。
【0019】
図5のように、等間隔の隙間304で正六角形の固定パターン207を配列したことで、固定パターンの無い部分である樹脂同士の隙間304は、可動部材114の全体に亘って直線的になることがない。また、個々の正六角形の樹脂は小さいため、最長部においても、温度変化による樹脂の変形量は無視することができる量である。
【0020】
このような正六角形の固定パターン207を等間隔で並べて、可動部材114の穴303を介して可動部材114の全体を固定することで、冷却後に発生していた可動部材の反り(図7(c)参照)は大幅に低減することができた。また、固定パターン207の間に溝を設けることで、温度変化による樹脂の変形を極めて少なくし、冷却時に固定パターン207の応力が可動部材114に与える影響を無視できる程度にしている。
【0021】
このように、固定パターン同士の間隔が全て等間隔になるように正六角形の固定パターンを配列させて可動部材を固定する。これによって、可動部材にうねりや反りなどの変形が生じることなく、高精度でインク滴を所望の位置へ着弾することができ、記録結果にヨレやムラといった記録の不具合が発生することがないインクジェット記録ヘッドを実現することができた。
【0022】
なお固定パターン配列の別の例として図6に示すように、所定の厚さの正八角形(正八角柱)の固定パターン601と所定の厚さの正四角形(正四角柱)の固定パターン602とを組み合わせて配置する。固定パターンのこのような配置によっても、固定パターン同士の間が可動部材の全域に亘って直線的でなく等間隔になるように、固定パターンを配列することができる。このような固定パターンの形状および配列によっても、本実施形態の目的を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態のインクジェット記録ヘッドの外観図を模式的に示した図である。
【図2】図1の記録ヘッドの一部を拡大し、更に内部構造が分かるように一部を断面にして示した図である。
【図3】(a)から(c)は、ヒータの発熱による気泡の発生に伴う可動部材の変化をそれぞれ示している。
【図4】可動部材が、本発明の固定パターンによって固定されている様子を示した図である。
【図5】可動部材と固定パターンの位置関係を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態における固定パターン配列の別の例を示した図である。
【図7】(a)から(c)は、従来の記録ヘッドにおける可動部材と、可動部材の台座である樹脂が熱によって膨張する様子を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
101 記録ヘッド
104 インク供給部
107 ノズル
108 ノズル壁
111 ヒータ
112 吐出口
114 可動部材
207 固定パターン
208 台座
303 穴
304 隙間
707 固定パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを加熱発泡させて発生する気泡の成長に伴い、樹脂の複数の固定部材で固定された、可動部材を変位させて、前記インクが吐出する方向へ前記気泡の成長を導くことで前記インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記可動部材を固定する前記固定部材同士の間は、全てが等間隔であり、前記可動部材の一方の端部から対向する他方の端部に到るまでに複数回屈曲していることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記固定部材は、正六角柱であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記固定部材は、正四角柱と正八角柱であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記可動部材には複数の穴が設けられており、前記固定部材は前記穴を利用することで前記可動部材を固定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記穴は、前記固定部材の形状に合わせて設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記固定部材同士の間は、製造工程で加えられる熱で前記固定部材が膨張しても、隣接する前記固定部材が接触しない程度に間隔が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
インクを加熱発泡させて発生する気泡の成長に伴い、樹脂の複数の固定部材で固定された、可動部材を変位させて、前記インクが吐出する方向へ前記気泡の成長を導くことで前記インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記可動部材を固定する前記固定部材同士の間を、全てが等間隔で、前記可動部材の一方の端部から対向する他方の端部に到るまでに複数回屈曲させて、前記固定部材を配置する工程を備えていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−274398(P2009−274398A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130011(P2008−130011)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】