説明

インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置で実行される光硬化型インクを用いた画像の記録において、好適な画像品質とすることができる、新たなインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【解決手段】記録媒体200を搬送する搬送部110と、各色の光硬化型インクそれぞれを吐出する記録ヘッド120K,120C,120M,120Yと、光照射部130とを備えるインクジェット記録装置100で画像を記録するに際し、例えば記録ヘッド120Kから吐出される光硬化型インクの表面張力を、記録ヘッド120C,120M,120Yから吐出される光硬化型インクの表面張力より高くすることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置で光硬化型インクを用いて画像を記録するインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記録媒体へ画像を記録するに際し、インクジェット記録装置が用いられている。インクジェット記録装置は、記録ヘッドに形成されたノズルからインクを吐出して、記録を行うもので、高精度な画像を高速で記録することが容易に行えるという利点を有している。インクジェット記録装置には、ライン型のインクジェット記録装置と、シリアル型(走査型)のインクジェット記録装置とがある。インクジェット記録装置に関し、各種技術が提案されている。
【0003】
例えば、記録媒体の全幅に対応する長さにわたってインク吐出用の複数のノズルを配列させたノズル列を有するフルライン型のインクジェットヘッドを複数色のインクの色別に複数配置し、これら色別の複数のインクジェットヘッドから記録媒体に向けてインクを吐出するとともに、インクジェットヘッド及び記録媒体のうち少なくとも一方を記録媒体の幅方向と略直交する方向に搬送してインクジェットヘッドと記録媒体を相対移動させて記録媒体上にカラー画像を形成する画像形成方法において、インクとして紫外線硬化型インクを用い、複数のインクジェットヘッドによって色ごとに順次インク吐出を行って画像を形成していく際に、インク吐出順で先行する色のインクジェットヘッドから吐出されたインク液滴と、後続のインクジェットヘッドによって吐出される他色のインク液滴とが記録媒体表面上で混合しない程度に、先行するインクジェットヘッドによる着弾インク液滴を半硬化させるべく、後続のインクジェットヘッドによるインク吐出前に、先行するインクジェットヘッドによる着弾インク液滴に対し、線状に配列され選択的に発光制御可能な発光素子群から成る紫外線光源から紫外線を照射する第1の硬化処理を行い、第1の硬化処理における紫外線の照射において、プリントすべき画像の画像データに基づき、発光素子群の各発光素子について1つの発光素子の照射領域内に着弾される液滴量を判定し、その液滴量が多いほど発光素子の発光量を大きくするように、各発光素子の照射領域内に着弾される液滴量に応じて各発光素子の発光量を制御し、最終のインクジェットヘッドによるインク吐出後に、記録媒体上のインク液滴を、硬化インク液滴がハンドリングによって画像劣化が起こらない程度に本硬化させる紫外線を照射する第2の硬化処理を行うことを特徴とする画像形成方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、搬送方向に複数の記録ヘッドが配列されて設置されるとともに、複数の記録ヘッドのうち記録媒体の搬送方向下流側に配置された記録ヘッドに対し、さらに搬送方向下流側に光照射部を備えるライン型のインクジェット記録装置では、各記録ヘッドから吐出された紫外線硬化型インクなどのような光硬化型インクによるインク滴への光の照射のタイミングは、記録ヘッドの配列位置に応じて異なる。具体的に、記録媒体の搬送方向上流側に配置された一の記録ヘッドから一の光硬化型インクが吐出され記録媒体の記録表面にこれが着弾した後、この一の光硬化型インクよるインク滴に光が照射されるまでの時間は、搬送方向下流側に配置された他の記録ヘッドから吐出された他の光硬化型インクが吐出され記録媒体の記録表面にこれが着弾した後、この他の光硬化型インクによるインク滴に光が照射されるまでの時間と比較して長くなる。このような場合、一の光硬化型インクによるインク滴では、記録される画像を構成する例えば細線(ひび割れ、すじ状などの柄)について、好適に記録(表現)することが困難、換言すれば、例えば細線について、好適な画像品質を確保することが困難となることがある。また、先に吐出された一の光硬化型インクによるインク滴の濡れの状態と、後に吐出された他の光硬化型インクによるインク滴の濡れの状態とに差が生じることとなり、好適な画像品質を確保することが困難となることがある。すなわち、好適な画像品質を確保するためには、インク滴の濡れを制御することが重要な要素の一つとなる。
【0006】
この点に関し、例えば、特許文献1のような画像形成方法(インクジェット記録方法)によれば、先に吐出された一の光硬化型インクによるインク滴は、後に吐出される他の光硬化型インクの吐出前に半硬化されるため、各光硬化型インクによるインク滴の濡れの状態を制御することが可能であるとも想像される。しかし、特許文献1のような画像形成方法によれば、この画像形成方法を実行するための画像形成装置(インクジェット記録装置)は、半硬化のための手段を備えなければならず、したがって、装置の大型化の問題が生じてしまう。
【0007】
なお、好適な画像品質を確保するためには、インク滴の濡れを制御することが重要な要素の一つとなることは、ライン型のインクジェット記録装置に限ったことではない。記録媒体の搬送方向に垂直な方向に複数の記録ヘッドを移動させながらインクジェット記録を実行するシリアル型のインクジェット記録装置においても同様である。
【0008】
本発明は、インクジェット記録装置で実行される光硬化型インクを用いた画像の記録において、好適な画像品質とすることができる、新たなインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑みなされた本発明の第1の課題解決手段は、外部装置から入力される画像データによって示される画像が記録される記録媒体を搬送する搬送部と、第1記録ヘッドと、第2記録ヘッドと、光照射部とを備えるインクジェット記録装置で実行されるインクジェット記録方法であって、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、第2種光硬化型インクと比較して表面張力が高い第1種光硬化型インクを、前記第1記録ヘッドから吐出する第1記録工程と、前記第1記録工程の後、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第2種光硬化型インクを、前記第2記録ヘッドから吐出する第2記録工程と、前記第2記録工程の後、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記光照射部から光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0010】
これによれば、第1記録工程で吐出された第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れを遅延させ、光照射部で光が照射されるタイミングにおいて、第1記録工程で吐出された第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れと、第2記録工程で吐出された第2種光硬化型インクによるインク滴の濡れとを制御することができる。例えば、第1種光硬化型インクによるインク滴および第2種光硬化型インクによるインク滴の吐出、着弾から光が照射されるまでの濡れの進行(濡れの状態)をそれぞれ制御することができる。具体的に、画像を構成する例えば細線の記録について、第1種光硬化型インクの表面張力を高めると、第1種光硬化型インクによるインク滴で、第2種光硬化型インクによるインク滴のときより線の太さを細くすることもできる。なお、第1の課題解決手段における「第2種光硬化型インクと比較して表面張力が高い第1種光硬化型インク」によれば、第2種光硬化型インクの表面張力は、第1種光硬化型インクの表面張力と比較して低いこととなる。
【0011】
ここで、記録媒体に記録される画像が、一の光硬化型インクによるインク滴によって表現される細線を含む画像である場合、先に実行される記録工程で、他の光硬化型インクによるインク滴を吐出し、その後の記録工程で、一の光硬化型インクによるインク滴を吐出すると、一の光硬化型インクによるインク滴の濡れの進行を抑制することができるように思われる。しかし、この場合、記録媒体上で濡れた状態にある他の光硬化型インクによるインク滴の上またはこれに一部重複した状態で、一の光硬化型インクによるインク滴が吐出、着弾するため、逆に、一の光硬化型インクによるインク滴の濡れが進行してしまう。したがって、細線を表現するための一の光硬化型インクによるインク滴を、後に実行される記録工程で吐出するインクジェット記録方法では、好適な画像品質の細線を実現することが困難となる場合がある。第1の課題解決手段では、第2種光硬化型インクによるインク滴によって、第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れが進行してしまうといった状態の発生を防止することができる。
【0012】
第2の課題解決手段は、第1の課題解決手段のインクジェット記録方法であって、前記記録媒体は、窯業系サイディング材によって構成されていることを特徴とする。これによれば、窯業系サイディング材による記録媒体を対象として、第1記録工程で吐出される第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れと、第2記録工程で吐出される第2種光硬化型インクによるインク滴の濡れとを制御することができる。なお、インクジェット記録方法が、記録媒体としての窯業系サイディング材の形成工程に続けて実行されるような場合、温度が常温より高い状態にある記録媒体を対象として、インクジェット記録が実行されることがある。このような場合、先に吐出された光硬化型インクによるインク滴は、濡れが進行し易い状態となる。しかし、第2の課題解決手段のインクジェット記録方法によれば、このような場合であっても、第1記録工程で吐出される第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れを遅延させることが可能であり、第1記録工程で吐出された第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れと、第2記録工程で吐出された第2種光硬化型インクによるインク滴の濡れとを制御することができる。例えば、第1種光硬化型インクによるインク滴および第2種光硬化型インクによるインク滴の吐出、着弾から光が照射されるまでの濡れの進行(濡れの状態)をそれぞれ制御することができる。
【0013】
窯業系サイディング材の形成工程に続けてインクジェット記録が行われる作業環境は、一般的に温度が高い。このような作業環境で、水系または溶剤系インクを用いると、これらインクは乾燥し易いため、例えば、インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズル面でインクが乾燥し、ノズル詰まりが発生し易くなる。この点に関し、光硬化型インクは、光の照射によって硬化するため、窯業系サイディング材を対象とした温度が高い作業環境であっても、ノズル詰まりの問題が発生せず、この点において好適である。
【0014】
第3の課題解決手段は、記録媒体を搬送し、外部装置から入力される画像データによって示される画像を、第2種光硬化型インクより表面張力が高い第1種光硬化型インクと、前記第2種光硬化型インクとを用いて、前記記録媒体に記録し、前記画像が記録された前記記録媒体に光を照射するインクジェット記録装置であって、前記記録媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第1種光硬化型インクを吐出する第1記録ヘッドと、前記第1記録ヘッドから吐出された前記第1種光硬化型インクが着弾し、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第2種光硬化型インクを吐出する第2記録ヘッドと、前記第1記録ヘッドから吐出された前記第1種光硬化型インクと、前記第2記録ヘッドから吐出された前記第2種光硬化型インクとが着弾し、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記光を照射する光照射部とを備えることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0015】
これによれば、第1記録ヘッドから吐出された第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れを遅延させ、光照射部で光が照射されるタイミングにおいて、第1記録ヘッドから吐出された第1種光硬化型インクによるインク滴の濡れと、第2記録ヘッドから吐出された第2種光硬化型インクによるインク滴の濡れとを制御することができる。例えば、第1種光硬化型インクによるインク滴および第2種光硬化型インクによるインク滴の吐出、着弾から光が照射されるまでの濡れの進行(濡れの状態)をそれぞれ制御することができる。具体的に、画像を構成する例えば細線の記録について、第1種光硬化型インクの表面張力を高めると、第1種光硬化型インクによるインク滴で、第2種光硬化型インクによるインク滴のときより線の太さを細くすることもできる。なお、第3の課題解決手段における、第1種光硬化型インクおよび第2種光硬化型インクの表面張力の関係は、第1の課題解決手段と同じである。また、第3の課題解決手段は、第1の課題解決手段と同様の機能を得ることも可能で、また、記録媒体として窯業系サイディング材を対象とすると、第2の課題解決手段と同様の機能を得ることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インクジェット記録装置で実行される光硬化型インクを用いた画像の記録において、好適な画像品質とすることができる、新たなインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)はライン型のインクジェット記録装置の平面図であり、(b)はライン型のインクジェット記録装置の側面図である。
【図2】(a)および(b)はシリアル型のインクジェット記録装置によるインクジェット記録を説明する図である。
【図3】(a)および(b)は他のシリアル型のインクジェット記録装置によるインクジェット記録を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を反映した上記課題解決手段を実施するための実施形態について、図面を参照して以下に詳細に説明する。上記課題解決手段は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に説明する各構成(各工程)において、所定の構成(工程)を省略することもできる。
【0019】
(インクジェット記録装置)
インクジェット記録装置100について、図1を参照して説明する。インクジェット記録装置100は、ライン型のインクジェット記録装置である。インクジェット記録装置100は、搬送部110と、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yと、光照射部130とを備える。搬送部110は、コンベアなどによって構成され、設置面112にセットされた記録媒体200を、搬送部110の一端側(図1(a)を正面視したとき左端側)から、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yおよび光照射部130を通過させ、搬送部110の他端側に搬送する(他端側に搬送された記録媒体について、2点鎖線で示す記録媒体200参照)。搬送部110は、記録媒体200を20〜50m/分程度の速度で搬送する。なお、20m/分未満では、インクジェット記録の生産性が低下し、50m/分より速くなると、光硬化型インクの吐出が不安定となる。
【0020】
記録ヘッド120K,120C,120M,120Yは、搬送部110による記録媒体200の搬送方向に隣り合った状態で配列されて設置されている。記録ヘッド120Kは、ブラックの光硬化型インク(光硬化型ブラックインク)を吐出する記録ヘッドであって、記録ヘッド120C,120M,120Yに対して、搬送方向上流側に配置されている。記録ヘッド120Cは、シアンの光硬化型インク(光硬化型シアンインク)を吐出する記録ヘッドであって、記録ヘッド120Kに対して搬送方向下流側で、記録ヘッド120M,120Yに対して搬送方向上流側に配置されている。記録ヘッド120Mは、マゼンタの光硬化型インク(光硬化型マゼンタインク)を吐出する記録ヘッドであって、記録ヘッド120K,120Cに対して搬送方向下流側で、記録ヘッド120Yに対して搬送方向上流側に配置されている。記録ヘッド120Yは、イエローの光硬化型インク(光硬化型イエローインク)を吐出する記録ヘッドであって、記録ヘッド120K,120C,120Mに対して搬送方向下流側に配置されている。すなわち、インクジェット記録装置100では、色濃度の高い色が搬送方向上流側に配置され、色濃度の薄い色が搬送方向下流側に配置されている。
【0021】
インクジェット記録装置100で画像が記録された記録媒体200が、後述するような建築板として用いられる場合、上述したように、光硬化型ブラックインクを吐出する記録ヘッド120Kを、搬送方向の最上流側に配置するとよい。ブラックによる画像形成を、他の色と比較して先に実行することで、建築板における模様として好まれる自然色画像(ひび割れなどを表した模様)を好適に記録することができる。具体的に、ひび割れなどを表すために用いられるブラックの細線を好適に表現することができる。ここで、記録される画像によっては、上記とは異なる配置とすることもできる。例えば、ブラック以外の細線表現が必要な模様の画像である場合、必要な細線の色に対応した色の光硬化型インクを吐出する記録ヘッド(例えば、記録ヘッド120C,120M,120Yのいずれか)が、搬送方向の最上流側に配置されるようにするとよい。
【0022】
記録ヘッド120K,120C,120M,120Yそれぞれには、搬送部110の設置面112に対向するようにノズルが形成されている。ノズルは搬送方向に直交する方向(主走査方向)に、記録媒体200の幅方向の長さに対応して複数個配列され、複数個配列された状態でノズル列を形成する。ノズル列は、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yそれぞれに複数列形成されている。記録ヘッド120K,120C,120M,120Yそれぞれに対応する色の光硬化型インクは、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yそれぞれに形成されたノズルから吐出される。
【0023】
光照射部130は、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yに対して、搬送方向下流側の所定の位置に配置されている。光照射部130は、搬送部110の設置面112に向けて設置された光源を備え、設置面112方向に光を照射する。光照射部130は、光源から発せられた光が外部に照射されることを防止可能なシャッタ機構を備え、このシャッタ機構を開閉させることで、光の照射を開始し停止することができる。光の照射の開始および停止は、シャッタ機構によって実現されるため、光源は、常時点灯状態とされている。
【0024】
光の照射の開始は、例えば、記録ヘッド120Yに対して搬送方向下流側でかつ光照射部130に対して搬送方向上流側の所定の位置に設置された検知センサ(図1で図示を省略)によって、記録媒体200が検知されたことを条件として行われ、これによって、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yで画像が記録された後、さらに搬送部110によって搬送される記録媒体200(記録媒体200の記録表面に着弾した各色の光硬化型インクによるインク滴)に、光が照射される。一方、光の照射の停止は、搬送方向下流側の所定の位置に設置された検知センサ(図1で図示を省略)によって、記録媒体200が光照射部130を通過したことが検知されたことを条件として行われる。光の照射の開始後、所定の時間経過したとき、光の照射を停止する構成とすることもできる。
【0025】
光の照射は、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yそれぞれから吐出された各色の光硬化型インクが、記録媒体200の記録表面に着弾した後、5〜15秒の範囲で開始される。なお、5秒未満では、記録媒体200の記録表面に着弾した光硬化型インクによるインク滴が濡れ広がらない(すじ状の柄になり、品位(表現)が低下する。)。一方、15秒を超えると、記録媒体200の記録表面に着弾した光硬化型インクによるインク滴が濡れ広がりすぎ、柄がぼやけてしまう。光照射部130が、短期間(瞬時)に点灯および消灯することが可能な光源、例えばLEDを光源として採用する場合、シャッタ機構を省略し、照射の開始および停止を、LEDの点灯および消灯によって実現することとしてもよい。
【0026】
インクジェット記録装置100は、この他、例えば、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの光硬化型インクをそれぞれ貯留したメインタンクを備える。各色のメインタンクに貯留された光硬化型ブラックインク、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインクおよび光硬化型イエローインクは、各色毎のインク供給ラインを介して記録ヘッド120K,120C,120M,120Yに供給される。また、インクジェット記録装置100は、自装置内で実行される処理を制御する制御部を備える。制御部は、各種の機能手段を構成する。
【0027】
例えば、制御部は、インクジェット記録装置100に通信可能に接続されたパーソナルコンピュータなどのような外部装置から入力された画像データに対して、ラスタライズなどの処理を実行し、記録データを生成する。また、制御部は、搬送部110による記録媒体200の搬送を制御する。さらに、制御部は、ラスタライズによって得られた記録データにしたがって、記録ヘッド120Kからの光硬化型ブラックインクの吐出と、記録ヘッド120Cからの光硬化型シアンインクの吐出と、記録ヘッド120Mからの光硬化型マゼンタインクの吐出と、記録ヘッド120Yからの光硬化型イエローインクの吐出を制御し、光照射部130からの光の照射の開始および停止を制御する。搬送部110によって搬送される記録媒体200には、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yが配置された順に、光硬化型ブラックインク、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインクおよび光硬化型イエローインクが吐出され、これら光硬化型インクによるインク滴が着弾する。
【0028】
(光硬化型インク)
光硬化型ブラックインク、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインクおよび光硬化型イエローインクは、それぞれ、反応性オリゴマーと反応性モノマーと光重合開始剤と着色材としての無機顔料または有機顔料とを含有する。各色の光硬化型インクは、20〜35mN/mの範囲の表面張力を有する。なお、20mN/m未満では、光硬化型インクの吐出が不安定となり、35mN/mより大きくなると、記録媒体200の記録表面に着弾した光硬化型インクによるインク滴が濡れ広がらない(濡れ性が低下し、すじ状の柄になり、品位(表現)が低下する。)。
【0029】
ここで、各色の光硬化型インクの表面張力は、光硬化型ブラックインクが最も高く、以下、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの順に設定されている。すなわち、光硬化型インクの表面張力は、記録媒体200の搬送方向に対する光照射部130からの距離が大きくなるにしたがい(記録ヘッド120Kが、光照射部130から最も離れた位置に配置され、記録ヘッド120Yが最も近い位置に配置されている。)、大きくなるように設定されている。換言すれば、各色の光硬化型インクの表面張力は、光硬化型イエローインクが最も低く、以下、光硬化型マゼンタインク、光硬化型シアンインク、光硬化型ブラックインクの順に設定されている。すなわち、光硬化型インクの表面張力は、記録媒体200の搬送方向に対する光照射部130からの距離が近くなるにしたがい、小さくなるように設定されている。
【0030】
なお、光硬化型インクとしては、紫外線硬化型インクが例示される。紫外線硬化型インクが用いられるインクジェット記録装置100では、光照射部130から紫外線が照射される。また、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの表面張力を同一値(略同一値含む)とし、光硬化型ブラックインクの表面張力をこれより高くしてもよい。
【0031】
(記録媒体)
インクジェット記録装置100で画像が記録された記録媒体200は、例えば、建築板として用いられる。具体的に、建築物の外壁などの外装材または内装材として用いられる。このような場合、画像が記録される前の記録媒体200(図1で実線で示す記録媒体200参照)は、次のような構造を有する。すなわち、記録媒体200は、基材とシーラーとベースコートとによって形成されている。基材は、例えば窯業系サイディング材からなる。基材は、セメント質と繊維質とを主な原料として、高温・高圧の釜などを用い板状に形成される。基材が形成された後、その表面に、シーラーおよびベースコートが順次塗布などされて形成される。シーラーは、基材とベースコートとの密着性向上および耐水性向上を目的として形成される被覆層であり、水系塗料によって形成される。ベースコートは、アクリル系エマルジョンによって形成された被覆層である。
【0032】
基材の表面にシーラーおよびベースコートが順次形成された後、これが記録媒体200として搬送部110の設置面112にセットされ、ベースコートの表面に、インクジェット層が形成(画像が記録)される。換言すれば、ベースコートを下地として、インクジェット層が記録(画像が記録)される。インクジェット層は、通信可能に接続された外部装置からインクジェット記録装置100に入力される画像データから生成された記録データにしたがい、画像データによって示される画像が記録(模様付け)された層である。インクジェット層に記録された画像は、吐出された光硬化型インク滴によるインクドットによって形成されている。具体的に、光硬化型ブラックインクによるインク滴(ブラックドット)と、光硬化型シアンインクによるインク滴(シアンドット)と、光硬化型マゼンタインクによるインク滴(マゼンタドット)と、光硬化型イエローインクによるインク滴(イエロードット)によって形成されている。
【0033】
なお、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yで所定の画像が記録され、光照射部130で記録媒体200に光が照射され、記録媒体200の記録表面に着弾した光硬化型インクによるインク滴が硬化し、好適なインクジェット層が形成された後、インクジェット層の表面は、トップコートおよび付加価値コート層によって順次被覆される。これによって、最終製品としての建築板が形成される。
【0034】
(実施例)
本実施形態のインクジェット記録装置100で実行されるインクジェット記録方法について、その有効性を確認するために、所定の試験を行った。以下、今回行った試験の結果について、説明する。
【0035】
(有効性確認試験1)
有効性確認試験1は、本実施形態に係るインクジェット記録方法、すなわち、各色の光硬化型インクの表面張力を異ならせた実施例1と、各色の光硬化型インクの表面張力を同一とした、比較例としての比較例1とを対象とし、各色の光硬化型インクによるインク滴が着弾し硬化したインクドットの、記録媒体200の搬送方向と直交する方向のドットサイズを測定した。実施例1および比較例1は、記録媒体200として窯業系サイディング材を用い、また、光硬化型インクとして紫外線硬化型インクを用いた。記録媒体200としての窯業系サイディング材の搬送速度は、40m/分とした。実施例1および比較例1において、各記録ヘッドと光硬化型インク色および表面張力との関係は、表1のとおりである。なお、表1において、記録ヘッドを識別する符号は、図1に示すインクジェット記録装置100の記録ヘッド120K,120C,120M,120Yに対応する。
【表1】

【0036】
表2は、実施例1の結果を示すものであり、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yの全てにおいて、ドットサイズは300μmであった。換言すれば、搬送方向における配列位置に関わらず、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yのそれぞれから吐出された、光硬化型インクによるインク滴の着弾後のサイズは、300μmで一定であった。
【表2】

【0037】
表3は、比較例1の結果を示すものであり、記録ヘッド120Kのドットサイズは390μmで、記録ヘッド120Cは360μmで、記録ヘッド120Mは330μmで、記録ヘッド120Yは300μmであった。すなわち、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yの搬送方向における配列位置が搬送方向上流側から搬送方向下流側になるにしたがい、ドットサイズが30μmずつ小さくなった。換言すれば、搬送方向における配列位置が搬送方向下流側から搬送方向上流側になるにしたがい、ドットサイズが30μmずつ大きくなった。
【表3】

【0038】
以上の結果より、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yの配列位置が記録媒体200としての窯業系サイディング材の搬送方向上流側になるほど、各色の光硬化型インクの表面張力を高くした実施例1では、均一な濡れ性(濡れ性制御)を実現することが可能で、記録媒体200の搬送方向と直交する方向のドットサイズを均一にすることができた。これに対して、比較例1では、均一な濡れ性(濡れ性制御)を実現することができなかった。
【0039】
(有効性確認試験2)
有効性確認試験2は、本実施形態に係るインクジェット記録方法、すなわち、光硬化型ブラックインクの表面張力を、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの表面張力と比較して高くした実施例2と、各色の光硬化型インクの表面張力を同一とした、比較例としての比較例2とを対象とし、各色の光硬化型インクによるインク滴が着弾し硬化したインクドットの、記録媒体200の搬送方向と直交する方向のドットサイズを測定した。実施例2および比較例2は、記録媒体200として窯業系サイディング材を用い、また、光硬化型インクとして紫外線硬化型インクを用いた。記録媒体200としての窯業系サイディング材の搬送速度は、40m/分とし、窯業系サイディング材に、黒のひび割れを含む赤レンガ柄の画像を記録した。実施例2および比較例2において、各記録ヘッドと光硬化型インク色および表面張力との関係は、表4のとおりである。なお、表4において、記録ヘッドを識別する符号は、図1に示すインクジェット記録装置100の記録ヘッド120K,120C,120M,120Yに対応する。
【表4】

【0040】
表5は、実施例2の結果を示すものであり、記録ヘッド120Kのドットサイズは200μmで、記録ヘッド120Cのドットサイズは360μmで、記録ヘッド120Mのドットサイズは330μmで、記録ヘッド120Yのドットサイズは300μmであった。なお、実施例1および実施例2の比較において、より表面張力の高い実施例2の光硬化型ブラックインクによれば、ドットサイズをより微細化することができることが分かる。
【表5】

【0041】
表6は、比較例2の結果を示すものであり、記録ヘッド120Kのドットサイズは390μmで、記録ヘッド120Cは360μmで、記録ヘッド120Mは330μmで、記録ヘッド120Yは300μmであった。すなわち、記録ヘッド120K,120C,120M,120Yの搬送方向における配列位置が搬送方向上流側から搬送方向下流側になるにしたがい、ドットサイズが30μmずつ小さくなった。換言すれば、搬送方向における配列位置が搬送方向下流側から搬送方向上流側になるにしたがい、ドットサイズが30μmずつ大きくなった。
【表6】

【0042】
以上の結果より、窯業系サイディング材に黒のひび割れを含む赤レンガ柄の画像を記録する場合、記録媒体200としての窯業系サイディング材の搬送方向最上流側にひび割れを表現する光硬化型ブラックインクの記録ヘッド120Kを配置するとともに、この光硬化型ブラックインクの表面張力を、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクと比較して高くした実施例2では、黒の細線表現が可能となり、好適な赤レンガ柄の画像を記録することができた。これに対して、比較例2では、黒の細線表現を実現することができなかった。
【0043】
(本実施形態の構成に基づく有利な効果)
本実施形態のインクジェット記録装置100によれば、記録媒体200に着弾した、光硬化型ブラックインク、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインクおよび光硬化型イエローインクによるインク滴それぞれについて、インクジェット記録時の記録媒体200の温度に関わらず、濡れを制御することが可能で、例えば好適な細線を表現することができる。
【0044】
(変形例)
上記では、ライン型のインクジェット記録装置100を例に、本実施形態の構成を説明した。以下、シリアル型のインクジェット記録装置300による場合について、その概略を説明する。なお、以下の説明では、上記の各構成に対応する各構成についての詳細な説明は、省略する。
【0045】
インクジェット記録装置300は、図2に示すように、搬送部310と、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yと、光照射部330とを備える。搬送部310は、コンベアなどによって構成され、設置面312にセットされた記録媒体200を、搬送部310の一端側から他端側に搬送する。
【0046】
記録ヘッド320K,320C,320M,320Yは、搬送部310による記録媒体200の搬送方向に垂直な方向(主走査方向)に隣り合った状態で配列されて設置される。具体的に、図2に示す待機位置から停止位置へ移動するに際し、移動方向(以下、「往路方向」ともいう。)の先頭側から、記録ヘッド320K,記録ヘッド320C,記録ヘッド320M,記録ヘッド320Yの順に配列されて設置される。記録ヘッド320Kは、光硬化型ブラックインクを吐出し、記録ヘッド320Cは、光硬化型シアンインクを吐出するための記録ヘッドである。また、記録ヘッド320Mは、光硬化型マゼンタインクを吐出し、記録ヘッド320Yは、光硬化型イエローインクを吐出するための記録ヘッドである。
【0047】
画像の記録に際し、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yは一体で、搬送部310によって搬送される記録媒体200上を、主走査方向に往復移動する。インクジェット記録装置300では、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが、図2(a)に示すように往路方向に移動するとき、各色の光硬化型インクが、対応する記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから吐出される。すなわち、往路方向への移動の開始にともない、まず、移動方向の先頭に配列された記録ヘッド320Kからの光硬化型ブラックインクの吐出が開始される。その後、記録ヘッド320Cからの光硬化型シアンインクの吐出と、記録ヘッド320Mからの光硬化型マゼンタインクの吐出と、記録ヘッド320Yからの光硬化型イエローインクの吐出とが順次開始される。記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから順次吐出された各色の光硬化型インクのインク滴は、記録媒体200の記録表面に着弾する。
【0048】
記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが、図2(b)に示すように停止位置から待機位置への方向、換言すれば、往路方向とは逆の方向(以下、「復路方向」ともいう。)に移動するとき、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから各色の光硬化型インクは吐出されない。インクジェット記録装置300では、往路方向のみの片方向でのインクジェット記録が行われる。
【0049】
ここで、各色の光硬化型インクの表面張力は、インクジェット記録装置100の場合と同一に設定される。例えば、光硬化型ブラックインクが最も高く、以下、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの順に設定される。また、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの表面張力が同一値(略同一値含む)とされ、光硬化型ブラックインクの表面張力がこれより高く設定される。
【0050】
光照射部330は、複数の記録ヘッド320K,320C,320M,320Yのうち、両端側に設置される記録ヘッド320Kおよび記録ヘッド320Yにそれぞれ設置される。両側に設置された2個の光照射部330からの光の照射は、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが一体で、図2(a)に示すように往路方向に移動するときには行われず、図2(b)に示すように復路方向に移動するときに行われる。なお、光の照射は、光硬化型イエローインクによるインク滴、光硬化型マゼンタインクによるインク滴、光硬化型シアンインクによるインク滴、光硬化型ブラックインクによるインク滴の順で行われ、光が照射された順で各色のインク滴が硬化される。
【0051】
インクジェット記録装置300では、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが停止位置に到達後、復路方向への移動が再開されるまでの停止時間は、往路方向への移動に際し、記録媒体200の記録表面に着弾した各色の光硬化型インクのインク滴の濡れの進行(濡れの状態)が好適な状態となる所定の時間に設定される。停止時間を調整することで、濡れを制御することが可能で、例えば好適な細線を表現することができる。インクジェット記録装置300によっても、インクジェット記録装置100による場合と同様の有利な効果を奏することができる。
【0052】
また、シリアル型のインクジェット記録装置300は、図3に示すようなインクジェット記録装置400とすることもできる。なお、図3に示すインクジェット記録装置400では、インクジェット記録装置300の各構成に対応する各構成について、インクジェット記録装置300に付した符号と同一の符号を付している。インクジェット記録装置300,400において同一の構成についての詳細な説明は省略する。
【0053】
インクジェット記録装置400は、図3に示すように、搬送部310と、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yと、光照射部330とを備える。インクジェット記録装置400において記録ヘッド320K,320C,320M,320Yは、それぞれ2個ずつ配列されて設置されている。具体的には、主走査方向に隣り合った状態で、図3に示す待機位置から停止位置への移動に際し、移動方向(以下、「往路方向」ともいう。)の先頭側から、記録ヘッド320K,記録ヘッド320C,記録ヘッド320M,記録ヘッド320Y,記録ヘッド320Y,記録ヘッド320M,記録ヘッド320C,記録ヘッド320Kの順に配列されて設置される。なお、以下の説明では、往路方向への移動に際し先頭側となる互いに隣り合った4個の、記録ヘッド320Kと記録ヘッド320Cと記録ヘッド320Mと記録ヘッド320Yとの組合せを第1セットといい、これに続く互いに隣り合った他の4個の、記録ヘッド320Yと記録ヘッド320Mと記録ヘッド320Cと記録ヘッド320Kとの組合せを第2セットという。
【0054】
画像の記録に際し、第1セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yと、第2セットの記録ヘッド320Y,320M,320C,320Kとは一体で、搬送部310によって搬送される記録媒体200上を、主走査方向に往復移動する。インクジェット記録装置400では、第1セットおよび第2セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが、図3(a)に示すように往路方向に移動するとき、第1セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから、対応する色の光硬化型インクが吐出される。すなわち、往路方向への移動の開始にともない、まず、移動方向の先頭に配列された第1セットの記録ヘッド320Kからの光硬化型ブラックインクの吐出が開始される。その後、第1セットの記録ヘッド320Cからの光硬化型シアンインクの吐出と、第2セットの記録ヘッド320Mからの光硬化型マゼンタインクの吐出と、第2セットの記録ヘッド320Yからの光硬化型イエローインクの吐出とが順次開始される。
【0055】
第1セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから順次吐出された各色の光硬化型インクのインク滴は、記録媒体200の記録表面に着弾する。往路方向への移動に際し、第2セットの記録ヘッド320Y,320M,320C,320Kからは、対応する色の光硬化型インクは吐出されない。
【0056】
これに対し、第1セットおよび第2セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが、図3(b)に示すように停止位置から待機位置への方向、換言すれば、往路方向とは逆の方向(以下、「復路方向」ともいう。)に移動するとき、第2セットの記録ヘッド320Y,320M,320C,320Kから、対応する色の光硬化型インクが吐出される。すなわち、復路方向への移動の開始にともない、まず、移動方向の先頭に配列された第2セットの記録ヘッド320Kからの光硬化型ブラックインクの吐出が開始される。その後、第2セットの記録ヘッド320Cからの光硬化型シアンインクの吐出と、第2セットの記録ヘッド320Mからの光硬化型マゼンタインクの吐出と、第2セットの記録ヘッド320Yからの光硬化型イエローインクの吐出とが順次開始される。なお、第1セットと第2セットとは、各色の記録ヘッド320K,320C,320M,320Yの配列順が対称であるため、各色の光硬化型インクの吐出順は、往路方向への移動と復路方向への移動とにおいて、同一となる。
【0057】
第2セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yから順次吐出された各色の光硬化型インクのインク滴は、記録媒体200の記録表面に着弾する。復路方向への移動に際し、第2セットの記録ヘッド320Y,320M,320C,320Kからは、対応する色の光硬化型インクは吐出されない。
【0058】
ここで、各色の光硬化型インクの表面張力は、インクジェット記録装置100,300の場合と同一に設定される。例えば、光硬化型ブラックインクが最も高く、以下、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの順に設定される。また、光硬化型シアンインク、光硬化型マゼンタインク、光硬化型イエローインクの表面張力が同一値(略同一値含む)とされ、光硬化型ブラックインクの表面張力がこれより高く設定される。
【0059】
光照射部330は、第1セットおよび第2セットの複数の記録ヘッド320K,320C,320M,320Yのうち、両端側に設置される2個の記録ヘッド320Kの両側にそれぞれ設置される。両側に設置された2個の光照射部330からの光の照射は、進行方向側に配置された一方側の光照射部330から行われる。すなわち、往路方向に移動するとき、光は、第1セットの記録ヘッド320K側に設置された光照射部330からのみ照射される。この際、この光照射部330からの光は、この往路方向への移動の直前の復路方向の移動の際に吐出され着弾した光硬化型インクのインク滴を対象として照射される。一方、復路方向に移動するとき、光は、第2セットの記録ヘッド320K側に設置された光照射部330からのみ照射される。この際、この光照射部330からの光は、この復路方向への移動の直前の往路方向の移動の際に吐出され着弾した光硬化型インクのインク滴を対象として照射される。
【0060】
インクジェット記録装置400では、記録ヘッド320K,320C,320M,320Yを2セット設置し、その両側にそれぞれ光照射部330を設置することで、往路方向および復路方向の双方向でのインクジェット記録および光の照射(インク滴の硬化)が可能となる。これによって、好適なインクジェット記録を実現することができる。
【0061】
インクジェット記録装置400では、第1セットおよび第2セットの記録ヘッド320K,320C,320M,320Yが停止位置または待機位置に到達後、復路方向または往路方向への移動(反対方向への移動)が再開されるまでの停止時間は、その直前の移動に際し、記録媒体200の記録表面に着弾した各色の光硬化型インクのインク滴の濡れの進行(濡れの状態)が好適な状態となる所定の時間に設定される。停止時間を調整することで、濡れを制御することが可能で、例えば好適な細線を表現することができる。インクジェット記録装置400によっても、インクジェット記録装置100,300による場合と同様の有利な効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0062】
100,300,400 インクジェット記録装置
110,310 搬送部
120K,120C,120M,120Y,320K,320C,320M,320Y 記録ヘッド
130,330 光照射部
200 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置から入力される画像データによって示される画像が記録される記録媒体を搬送する搬送部と、第1記録ヘッドと、第2記録ヘッドと、光照射部とを備えるインクジェット記録装置で実行されるインクジェット記録方法であって、
前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、第2種光硬化型インクと比較して表面張力が高い第1種光硬化型インクを、前記第1記録ヘッドから吐出する第1記録工程と、
前記第1記録工程の後、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第2種光硬化型インクを、前記第2記録ヘッドから吐出する第2記録工程と、
前記第2記録工程の後、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記光照射部から光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記記録媒体は、窯業系サイディング材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
記録媒体を搬送し、外部装置から入力される画像データによって示される画像を、第2種光硬化型インクより表面張力が高い第1種光硬化型インクと、前記第2種光硬化型インクとを用いて、前記記録媒体に記録し、前記画像が記録された前記記録媒体に光を照射するインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第1種光硬化型インクを吐出する第1記録ヘッドと、
前記第1記録ヘッドから吐出された前記第1種光硬化型インクが着弾し、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記第2種光硬化型インクを吐出する第2記録ヘッドと、
前記第1記録ヘッドから吐出された前記第1種光硬化型インクと、前記第2記録ヘッドから吐出された前記第2種光硬化型インクとが着弾し、前記搬送部によって搬送される前記記録媒体に、前記光を照射する光照射部とを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143344(P2011−143344A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5792(P2010−5792)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】