説明

インクジェット記録方法及び記録物

【課題】低吸水性の記録媒体に、反応液とインク組成物とを用いて印字を行うインクジェット記録方法において、耐擦性があり、かつ印刷ムラ等の無い記録画像が得られる方法の提供。
【解決手段】記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有するものであり、かつ、前記反応液が、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなるものであり、かつ、前記インク組成物が、水と、着色剤と、樹脂エマルジョン粒子と、を含んでなるものである、インクジェット記録方法及び該インクジェット記録方法によって得られた記録物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及び記録物に関する。さらに詳しくは、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に反応液とインク組成物とを付着させて印字を行う二液を用いたインクジェット記録方法及びその記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、プリンタヘッドからインク小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に着弾させて印刷を行う印刷方法である。この印刷方法は、小型化、高速化、低騒音化、省電力化、カラー化が容易であり、しかも記録媒体に対して非接触印刷が可能であるという特徴もあり、各種画像の記録装置として様々な用途に利用されている。
【0003】
特に産業用としては、フルカラーインクジェット記録方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷や銀塩写真方式にも迫る画像を得ることも可能で、しかも多品種少量部数を印刷する場合には通常の多色印刷を行うよりも安価なこともあり、近年その利用が拡大している。
【0004】
通常インクジェット記録に使用されるインク組成物は、水を主成分とし、これに着色成分及び目詰まり防止の湿潤剤等を含有した低粘度・高含水量の水性インク組成物が一般的である。そのため、記録媒体には、通常、高吸水性のインクジェット専用紙が使用されている。
【0005】
高吸水性のインクジェット専用紙は、微粉末シリカやアルミナ等を原材料とした吸収層を紙表面に設けており、この吸収層により高含水量のインク組成物を記録する場合においても、瞬時にインクを吸収することが可能であって、滲み・カラーブリード等のない良好な印字品質を実現できる。しかしながら、高コストである微粉末シリカやアルミナ等を用いるため、印刷物のさらなるコスト削減を実現したい産業用印刷ユーザーに対しては、用途を狭める障壁となっていた。
【0006】
一方で、安価なメディアとして、低吸水性の記録媒体として塗工紙(印刷用塗工紙、印刷用コート紙、印刷本紙ともいう)等がある。塗工紙は、原紙の両面又は片面に印刷適性の改良を目的として、塗料の一種である塗工カラーを塗布した複合シートであり、専ら印刷用紙としての用途に供されている。塗工紙は、高粘度のインク組成物(低含水インク)や溶剤系インク組成物等を使用する記録方法に使用される。塗工紙は、年間数百万トンという旺盛な需要に支えられ、量産設備も整い、高品質な塗工紙が極めて低コストで供給されている。
【0007】
ところが、高粘度・低含水量のインク組成物は、低吸水性や非吸収性を有する記録媒体に対しても、良好な画像品質を実現できるものの、目詰まり回復性や吐出安定性等の信頼性確保への技術的ハードルが高くなり、かつ、インクジェット記録方法としては、印刷装置・印刷方法が限定されてしまう。また、溶剤系インク組成物は、水に難溶性・不溶性の原材料(例えば、トルエン等の親油性有機溶剤)から構成されるため、優れた画像品質、耐擦性、耐久性、インクの速乾性に優れるが、含有される有機溶剤のある種のものは動植物に対して毒性を示すことがあったり、高揮発性有機溶剤(VOC)による大気汚染によって作業者への健康阻害に多大な影響を与える場合があるため、安全・環境の点において、扱いが不便である。
【0008】
一方、一般的なインクジェット記録で用いられる低粘度の水系インク組成物は、安全性・環境性、及びインクジェット記録方法としての吐出信頼性は確保し易いものの、インクジェット専用紙のような厚い吸収層を設けていない塗工紙等の記録媒体への記録に対しては、その吸水性が極めて乏しいため、滲み・カラーブリード・印刷ムラ等の画質劣化、耐擦性、速乾性の低下等を生じることから、記録媒体としては適さないものと考えられていた。
【0009】
一方、インクジェット記録方法として、最近新たに、多価金属塩溶液を記録媒体に適用した後、少なくとも一つのカルボキシル基を有する染料を含むインク組成物を適用する方法が提案されている(特許文献1)。この方法においては、多価金属イオンと染料とから不溶性複合体が形成され、この複合体の存在により、耐水性がありかつカラーブリードがない高品位の画像を得ることができるとされている。
【0010】
また、少なくとも浸透性を付与する界面活性剤又は浸透性溶剤及び塩を含有するカラーインクと、この塩との作用により増粘又は凝集するブラックインクとを組合せて使用することにより、画像濃度が高くかつカラーブリードがない高品位のカラー画像が得られるという提案もなされている(特許文献2)。すなわち塩を含んだ第1の液と、インク組成物との二液を印字することで、良好な画像が得られるとするインクジェット記録方法が提案されている。
【0011】
また、その他にも二液を印字するインクジェット記録方法が提案されている(特許文献3〜7)。
【0012】
ここで、低吸水性の記録媒体(塗工紙等)へ二液を印字するインクジェット記録方法において、求められる特性としては、以下の点が挙げられる。
【0013】
1)反応液が、塗工紙等の低吸水性の記録媒体に均一に塗布可能であること。
2)反応液とインク組成物が反応して、滲み、カラーブリード、印刷ムラを防止すること。
3)記録物の耐擦性に優れること(記録媒体に対して密着性・接着性に優れること)。
4)記録媒体への塗布後、乾燥しやすいこと。
5)反応液とインク組成物が、経時で特性が劣化しないこと(保存安定性に優れること)。
6)反応液とインク組成物が、インクジェット吐出でき、しかも実使用においてヘッドが目詰まることのないこと。
しかし、従来の技術では、上記の特性を全て満足するインクジェット記録方法は得られていないのが実情であった。特に、反応液の記録媒体に対する均一な濡れ性が低いと、その後に印字するインク組成物の着色成分の濃度分布を生じる、いわゆる印刷ムラが生じやすいという課題があった。また、反応液の濡れ性が均一でない場合、反応液とインク組成物の凝集反応物が不均一な分布を生じ、形成された樹脂皮膜も凹凸を生じることから、擦過時の抵抗が大きくなることで、耐擦性の劣化を生じやすいという課題があった。
【0014】
【特許文献1】特開平5−202328号公報
【特許文献2】特開平6−106735号公報
【特許文献3】特開平3−240557号公報
【特許文献4】特開平3−240558号公報
【特許文献5】特開平9−207424号公報
【特許文献6】特開平10−195404号公報
【特許文献7】特開2001−315425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、シンプルで小型であるというインクジェット記録方式の利点と、安価で優れた印刷適性を有する塗工紙等の記録媒体(低吸水性の記録媒体)と、安全性の高い水性インク組成物とを組み合わせることは、従来から当業界で待ち望まれていたものの、未だ改善の余地がある。
【0016】
従って、本発明は、インクジェット吐出が可能で、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対して、滲み・カラーブリード・印刷ムラ等がない高品位な記録画像と、耐擦性に優れた記録特性とを有するとともに、優れた保存安定性・吐出安定性・目詰まり回復性を有する反応液を用いた、二液を印字するインクジェット記録方法及び記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、鋭意研究の結果、記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有するものであり、かつ、前記反応液が、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなるものであり、かつ、前記インク組成物が、水と、着色剤と、樹脂エマルジョン粒子と、を含んでなるものである、インクジェット記録方法が、前記目的を達成し得ることの知見を得て、本発明に至った。
【0018】
即ち、本発明は以下の構成からなる。
【0019】
(1)記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有するものであり、かつ、前記反応液が、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなるものであり、かつ、前記インク組成物が、水と、着色剤と、樹脂エマルジョン粒子と、を含んでなるものである、インクジェット記録方法。
【0020】
(2)前記多価金属塩が、硫酸塩、硝酸塩及びカルボン酸塩から選択される少なくとも1つである、前記(1)に記載のインクジェット記録方法。
【0021】
(3)前記ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物が、下記式(1)の一般式で表されるポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物である、前記(1)又は(2)に記載のインクジェット記録方法。
【0022】
【化1】

【0023】
(4)前記反応液が、さらに長鎖アルキルグリコールエーテルを含んでなる、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0024】
(5)前記長鎖アルキルグリコールエーテルの反応液中における含有量が10重量%以下である、前記(4)に記載のインクジェット記録方法。
【0025】
(6)前記反応液が、さらに下記式(2)の一般式で表されるジアセチレンテトラオールを含んでなる、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0026】
【化2】

【0027】
(7)前記反応液が、さらに1,2−アルカンジオールを含んでなる、前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0028】
(8)前記反応液が、さらに湿潤剤として多価アルコール及び/又は糖類を含んでなり、該多価アルコール及び/又は糖類の反応液中における含有量が0.1重量%〜10重量%である、(1)〜(7)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0029】
(9)前記インク組成物の着色剤が顔料である、前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0030】
(10)前記反応液及び/又は前記インク組成物が付着した記録媒体を、40℃〜150℃で加熱する工程を含んでなる、前記(1)〜(9)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0031】
(11)前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法によって記録された、記録物。
【0032】
本発明によれば、インクジェット吐出が可能で、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対して、滲み・カラーブリード・印刷ムラ等がない高品位な記録画像と、耐擦性に優れた記録特性とを有するとともに、優れた保存安定性・吐出安定性・目詰まり回復性を有する反応液を用いた、二液を印字するインクジェット記録方法及び記録物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明をその好ましい実施形態に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0034】
本実施形態のインクジェット記録方法は、記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法であって、前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有するものであり、かつ、前記反応液が、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなるものであり、かつ、前記インク組成物が、水と、着色剤と、樹脂エマルジョン粒子と、を含んでなるものである。
【0035】
[記録媒体]
本実施形態のインクジェット記録方法は、記録媒体として、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対して適用する際に有用である。
【0036】
本実施形態において、「低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体」とは、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有する記録媒体をいう。また、本実施形態においては、従来から、凸版印刷、平板印刷(例えば、オフセット印刷)、又は凹版印刷(例えば、グラビア印刷)の印刷用紙として使用されている任意の塗工紙(印刷用塗工紙、印刷用コート紙、印刷本紙ともいう)を用いることができる。この塗工紙には、普通塗工紙、キャスト塗工紙、及びつや消し塗工紙が含まれる。また、JISP0001番号6122で定義されている印刷本紙、JISP0001番号6059で定義されているOKトップコート紙なども含まれる。
【0037】
なお、ブリストー法とは、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及した方法であり、日本紙パルプ技術協会(J'TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は、J'TAPPI No.51「紙、板紙の液体吸収性試験方法」に述べられている。
【0038】
[反応液]
本発明における反応液は、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなる。この「多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体」は、即ち反応剤としての機能を有し、インク組成物中における着色剤、樹脂エマルジョン粒子等の分散及び/又は溶解状態を破壊し、凝集させ得るものである。
【0039】
[多価金属塩]
反応液に用いることができる多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンがあげられる。陰イオンとしては、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、及びCH3COO-などがあげられる。
【0040】
とりわけ、Ca2+又はMg2+より構成される金属塩は、反応液のpH、得られる印刷物の品質という二つの観点から、好適な結果を与える。
【0041】
これら多価金属塩の反応液中における含有量は印刷品質、目詰まり防止の効果が得られる範囲で適宜決定されてよいが、好ましくは0.1重量%〜40重量%程度であり、より好ましくは2重量%〜25重量%程度である。
【0042】
本発明の好ましい態様によれば、反応液に含まれる多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する硫酸イオン、硝酸イオン又はカルボン酸イオンとから構成される。
【0043】
ここで、カルボン酸イオンは、好ましくは炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸又は炭素数7〜11の炭素環式モノカルボン酸から誘導されるものである。炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸などが挙げられる。特に蟻酸、酢酸が好ましい。
【0044】
このモノカルボン酸の飽和脂肪族炭化水素基上の水素原子は水酸基で置換されていてもよく、そのようなカルボン酸の好ましい例としては、乳酸が挙げられる。
【0045】
さらに、炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられ、より好ましくは安息香酸である。
【0046】
[ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体]
反応液に用いることができるポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体は水に可溶で、水中でプラスに荷電するカチオン性高分子である。
【0047】
本発明の反応液に用いられるポリアリルアミン、及び/又はポリアリルアミン誘導体としては、特に限定はなく、公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0048】
このようなポリアリルアミン、及び/又はポリアリルアミン誘導体としては、市販品を用いることができ、例えば、「PAA−HCL−01」、「PAA−HCL−03」、「PAA−HCL−05」、「PAA−HCL−3L」、「PAA−HCL−10L」、「PAA−H−HCL」、「PAA−SA」、「PAA−01」、「PAA−03」、「PAA−05」、「PAA−08」、「PAA−15」、「PAA−15C」、「PAA−25」、「PAA−H−10C」、「PAA−D11−HCL」、「PAA−D41−HCL」、「PAA−D19−HCL」、「PAS−21CL」、「PAS−M−1L」、「PAS−M−1」、「PAS−22SA」、「PAS−M−1A」、「PAS−H−1L」、「PAS−H−5L」、「PAS−H−10L」、「PAS−92」、「PAS−92A」、「PAS−J−81L」、「PAS−J−81」(商品名、日東紡績株式会社製)、「ハイモNeo−600」、「ハイモロックQ−101」、「ハイモロックQ−311」、「ハイモロックQ−501」、「ハイマックスSC−505」、「ハイマックスSC−505」(商品名、ハイモ株式会社製)等を用いることができる。
【0049】
ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体の反応液中における含有量は、印刷品質、目詰まり防止の効果の観点から、0.5重量%〜10重量%であることが好ましい。
【0050】
[カチオン性ポリウレタン]
本発明の反応液はカチオン性ポリウレタンを含んでなる。カチオン性ポリウレタンを含む反応液を用いることで、着色成分を含む凝集反応物を、記録媒体に、より強固に密着、接着させることができ、優れた耐擦性を実現可能とする。
【0051】
本発明の反応液に用いられるカチオン性ポリウレタンとしては、特に限定はなく、公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0052】
例えば、下記の調製(1)〜(2)等により得られるカチオン性ポリウレタンが挙げられ、特にカチオン性ポリウレタンが水に分散された組成物、すなわち水分散物が好ましい。
【0053】
カチオン性ポリウレタンの調製は、(1)ポリイソシアネート(A)とウレタン反応を行うポリオールとしてポリエステルポリオール(B1)を用いると共に、三級アミノ基を有する鎖伸長剤(C)を用いてウレタンプレポリマーを調製し、この三級アミノ基の一部を酸で中和又は四級化剤で四級化してアミン価を1〜40(KOHmg/g)の範囲とすることにより、カチオン性ポリウレタンを組成物の形態で得ることができる。また、(2)ポリカーボネートポリオール(B2)と前記三級アミノ基を有する鎖伸長剤(C)とエチレンオキサイド鎖を50質量%以上含有するポリアルキレンオキサイド(D)とを、前記ポリイソシアネート(A)を用いてウレタンプレポリマーを調製し、前記鎖伸長剤(C)によって導入される三級アミノ基を酸で中和又は四級化剤で四級化することによりカチオン性ポリウレタンを得ることができる。このカチオン性ポリウレタンを水に分散した形態で得ることにより、水分散物として得ることができる。
【0054】
以下、前記調製(1)について説明する。
【0055】
ポリイソシアネート(A)としては、従来から慣用されている脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族等のポリイソシアネートを使用することができる。
【0056】
脂肪族ポリイソシアネートの具体例として、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルぺンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルぺンタン−1,5−ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0057】
脂環族ポリイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0058】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0059】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0060】
これらのポリイソシアネートは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を混合しても用いてもよい。
【0061】
ポリエステルポリオール(B1)は、種々のポリカルボン酸とポリオールとによって構成されるものを使用することができるが、脂肪族二塩基酸及び芳香族二塩基酸からなるジカルボン酸と、脂肪族グリコールとによって構成されるものが、密着性が高くなるという点でより好ましい。前記脂肪族二塩基酸として、例えば、マロン酸、琥珀酸、酒石酸、蓚酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等、或いはこれらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体などを挙げることができる。これらの脂肪族ジカルボン酸は単独又は2種以上併用して用いることができる。また、前記芳香族二塩基酸として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等、或いはこれらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体などを挙げることができる。これらの芳香族ジカルボン酸は単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0062】
脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、プロピレングリコール等が例示でき、これらは単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0063】
分子中に三級アミノ基を有する前記鎖伸長剤(C)は、三級アミノ基をウレタンプレポリマーに導入するために使用される。このような鎖伸長剤(C)としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のN−アルキルジアルカノールアミン、N−メチルジアミノエチルアミン、N−エチルジアミノエチルアミン等のN−アルキルジアミノアルキルアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。これらの三級アミノ基を有する鎖伸長剤(C)は単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0064】
前記調製(1)における鎖伸長剤(C)の添加量は、ポリイソシアネート(A)とポリエステルポリオール(B1)と鎖伸長剤(C)との合計に対して5質量%〜20質量%であることがより好ましい。この鎖伸長剤(C)の添加量が5質量%より少ないと、導入される三級アミノ基が少なくなり、密着性及びインクの耐水性が低下するという傾向が現れる。また、鎖伸長剤(C)の添加量が20質量%より多いと、添加量に見合った密着性及び耐久性を向上させる効果が得られにくくなり、また、このように鎖伸長剤(C)の添加量を高めたウレタンプレポリマーは調製し難くなる傾向がある。
【0065】
本発明においては、ポリイソシアネート(A)と、ポリエステルポリオール(B1)と、分子中に三級アミノ基を有する鎖伸長剤(C)との反応によって生成するウレタンプレポリマーの末端の遊離NCOの含有量は、1質量%〜5質量%の範囲であることがより好ましい。この末端遊離NCOの含有量が1質量%より少ないと、ウレタンプレポリマーの調製が困難となるので好ましくない。また、末端遊離NCOの含有量が5質量%より多いと、得られる水系ポリウレタン樹脂の凝集力が高くなりすぎるため、密着性の点で好ましくない。
【0066】
本発明においては、鎖伸長剤(C)によって導入される三級アミノ基及びその一部を酸で中和又は四級化剤で四級化したカチオン性ウレタンプレポリマーが調製される。三級アミノ基及びその一部を酸で中和する場合には、酸として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸等の有機酸、及び塩酸、燐酸、硝酸等の無機酸を挙げることができる。これらの酸は単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0067】
また、三級アミノ基及びその一部を四級化剤で四級化する場合には、四級化剤として、ベンジルクロライド、メチルクロライド等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸エステル等を挙げることができる。これらの四級化剤は、一種単独で用いる以外に2種以上を併用することができる。
【0068】
上述のように三級アミノ基及びその一部の中和又は四級化は完全には行われず、一部の三級アミノ基のみが中和又は四級化される。中和又は四級化されずに残される三級アミノ基の量は、カチオン性ポリウレタンのアミン価が1〜40(KOHmg/g)となる量であり、このアミン価は、酸による中和又は四級化により調整することができる。
【0069】
次に、前記調製(2)について説明する。
【0070】
調製(2)に用いられるポリイソシアネート(A)は、前記調製(1)で用いられる前記ポリイソシアネート(A)と同様であり、既述した通りである。
【0071】
調製(2)に使用される前記ポリカーボネートポリオール(B2)としては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコール類と、ジフェニルカーボネート及びホスゲンとの反応によって得られる化合物等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0072】
ポリカーボネートポリオール(B2)の添加量は、ポリイソシアネート(A)とポリカーボネートポリオール(B2)と鎖伸長剤(C)とポリアルキレンオキサイド(D)との合計に対して40質量%〜80質量%の範囲であることが好ましい。ポリカーボネートポリオール(B2)の添加量が40質量%より少ないと、得られるウレタン樹脂の耐久性が低下し、また、記録媒体への密着性にも劣る傾向が現れるので好ましくない。また、80質量%より多いと、得られるカチオン性ポリウレタンの凝集力が不十分となり、やはり耐久性が低下するので好ましくない。
【0073】
本発明では、エチレンオキサイド鎖を含有するポリアルキレンオキサイド(D)をポリウレタンの構成成分として使用することができる。このポリアルキレンオキサイド(D)は、印刷されるインクとの親和性を高めるために使用される。このようなポリアルキレンオキサイド(D)として、例えば、エチレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等を挙げることができる。これらのポリアルキレンオキサイド(D)は単独又は2種以上併用して用いることができる。ポリアルキレンオキサイド(D)に於けるエチレンオキサイド鎖の含有量が50質量%より少ないと、インクとの親和性が低下する場合がある。
【0074】
ポリアルキレンオキサイド(D)の添加量は、ポリイソシアネート(A)とポリカーボネートポリオール(B2)と鎖伸長剤(C)とポリアルキレンオキサイド(D)との合計に対して3質量%〜10質量%であることが好ましい。ポリアルキレンオキサイド(D)の添加量が3質量%より低いと、インクとの親和性が不十分となるので好ましくない。また、ポリアルキレンオキサイド(D)の添加量が10質量%より多いと、耐水性が低下するので好ましくない。
【0075】
前記調製(2)において、用いられる鎖伸長剤(C)は前記調製(1)の場合と同様である。
【0076】
前記調製(2)において用いられる鎖伸長剤(C)の添加量は、ポリイソシアネート(A)とポリカーボネートポリオール(B2)と鎖伸長剤(C)とポリアルキレンオキサイド(D)との合計に対して5質量%〜15質量%であることが好ましい。この鎖伸長剤(C)の添加量が5質量%より少ないと、導入される三級アミノ基が少なくなり、密着性が低下する傾向が現れるので好ましくない。また、鎖伸長剤(C)の添加量が15質量%より多いと、添加量に見合った密着性を向上させる効果が得られなくなるので好ましくない。
【0077】
前記調製(2)において用いられる鎖伸長剤(C)によって導入される三級アミノ基及びその一部を、酸で中和又は四級化剤で四級化する場合の酸及び四級化剤は、前記調製(1)の場合と同様である。
【0078】
前記(1)及び(2)の調製において、三級アミノ基及びその一部を中和又は四級化したカチオン性ウレタンプレポリマーは、水に分散される際に必要に応じてポリアリルアミン化合物(D1)を使用して調製してもよい。使用し得るポリアリルアミン化合物として、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、へキシレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド類等のアミノ基を2個以上有する化合物を挙げることができる。
【0079】
前記(1)及び(2)の調製において、更に水酸基数が3個以上のポリオールを添加してもよい。水酸基数が3個以上のポリオールを添加すると、記録媒体に対する密着性を改善することができる。但し、得られるカチオン性ポリウレタンの水への分散性を損なわない範囲で使用することが必要である。このようなポリオールとして、例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、1,4−ソルビタン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を挙げることができ、これらを単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0080】
前記(1)及び(2)の調製において、上述のように三級アミノ基又はその一部を中和又は四級化して得られたカチオン性ウレタンプレポリマーは、次に水に分散され、本発明に用いられるカチオン性ポリウレタン及びその分散物が得られる。
【0081】
カチオン性ポリウレタンは、詳細には特開2002−307811号公報の段落番号[0006]〜[0048]、特開2002−307812号公報の段落番号[0006]〜[0053]に記載の樹脂を用いることができる。
【0082】
カチオン性ポリウレタンとしては、市販品を用いることができ、該カチオン性ポリウレタンの市販品としては、「ハイドランCP−7010」、「ハイドランCP−7020」、「ハイドランCP−7030」、「ハイドランCP−7040」、「ハイドランCP−7050」、「ハイドランCP−7060」、「ハイドランCP−7610」(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、「スーパーフレックス600」、「スーパーフレックス610」、「スーパーフレックス620」、「スーパーフレックス630」、「スーパーフレックス640」、「スーパーフレックス650」(商品名、第一工業製薬株式会社製)、「ウレタンエマルジョンWBR−2120C」、「ウレタンエマルジョンWBR−2122C」(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0083】
カチオン性ポリウレタンの含有量は、反応液中、好ましくは0.5重量%〜15重量%、更に好ましくは1重量%〜10重量%であり、更により好ましくは1重量%〜6重量%である。
【0084】
[ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物]
本発明における反応液は、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物を含んでなる。
【0085】
ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物を含む反応液を用いることで、反応液の表面張力低下による記録媒体への濡れ性向上に寄与し、均一な塗布を可能とする。従って、反応液の後に印字されるインク組成物も均一に印字できることから、印刷ムラの抑制と耐擦性の向上を実現することができる。さらに、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物は浸透剤としても作用する。よって、印刷物の乾燥性の向上をも同時に実現できる利点も有する。さらに、カラー画像においては、異なる色の境界領域での不均一な色混じり、即ちカラーブリードを有効に防止できるとの利点も有する。
【0086】
このポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物としては、下記式(1)に示す化合物が、特に塗工紙等の低吸水性の記録媒体へ塗布した場合、塗布面の凹凸を平滑化・均一化に有効であって、さらなる印刷ムラの抑制と耐擦性の向上を実現できる点で好ましい。
【0087】
【化3】

【0088】
このポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物としては、好ましくは、上記式(1)において、R1〜R7は、独立して、炭素数1〜6のアルキル基、好ましくはメチル基である。j、k及びgは、独立して、1以上の整数であるが、より好ましくは1〜2である。また、p及びqは0以上の整数であるが、但しp+qは1以上の整数であり、好ましくはp+qは2〜4である。
【0089】
また、上記式(1)で表される化合物としては、例えば、j=k+gを満足する化合物が好ましい。また、上記一般式(1)で表される化合物としては、R1〜R7が全てメチル基であり、jが2であり、kが1であり、gが1であり、pが1以上の整数であり、qが0である化合物が好ましい。
【0090】
上記式(1)で表される化合物は市販品を用いることができ、例えば、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、UV3530(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)を使用することができる。
【0091】
このようなポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物は、反応液中に1種又は2種以上を含有することができ、反応液における含有量としては、好ましくは0.05重量%〜3重量%、より好ましくは0.1重量%〜2重量%である。
【0092】
[長鎖アルキルグリコールエーテル]
本発明における反応液は、記録媒体への濡れ性を向上させる目的で、さらに長鎖アルキルグリコールエーテル類を用いることができる。長鎖アルキルグリコールエーテル類としては、アルキル鎖が5〜8、好ましくは、アルキル鎖が6のアルキルグリコールエーテルが挙げられる。
【0093】
このような長鎖アルキルグリコールエーテル類の具体例としては、例えば、エチレングリコールモノn−ペンチルエーテル、エチレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、エチレングリコールモノネオペンチルエーテル、エチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノネオペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノネオペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノn−ペンチルエーテル、プロピレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、プロピレングリコールモノネオペンチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノネオペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノiso−ペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノネオペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノiso−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどを挙げることができ、これらのグリコールエーテル類は、1種のみを添加してもよく、2種以上を混合して添加してもよい。
【0094】
特に、低吸水性の記録媒体に対しての、均一な濡れ性と、塗布後の乾燥性が優れるという点で、エチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルが好ましく、その中でも特に、均一な濡れ性と塗布後の乾燥性と水溶性の点でもっともバランスが良いのがジエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテルである。
【0095】
長鎖アルキルグリコールエーテルの含有量は、反応液中、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、更に好ましくは4重量%以下である。10重量%を超えると、長鎖アルキルグリコールエーテルが蒸発しにくくなり、反応液を記録媒体に塗布した後の乾燥特性が悪くなり、しかも、水溶性が低下するため、反応液中に溶解しにくくなる。
【0096】
[ジアセチレンテトラオール]
本発明における反応液は、記録媒体への濡れ性を一層向上させる目的で、さらに下記式(2)の一般式で表されるジアセチレンテトラオールを用いることができる。
【0097】
【化4】

【0098】
上記式(2)の一般式で表されるジアセチレンテトラオールとしては、例えば、「サーフィノールMD−20」(商品名、Air Products and Chmicals Inc.製)の市販品を用いることもできる。
【0099】
前記ジアセチレンテトラオールは記録媒体に対する反応液の濡れ性向上に大きな効果を有するが、一方、水に溶解しにくく、反応液に含有する際には溶解助剤が必要となる。このジアセリレンテトラオールの溶解助剤としては、前述の長鎖アルキルグリコールエーテル類が有効であり、特にエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルが溶解助剤としての効果と、低吸水性の記録媒体に対する均一な濡れ性と塗布後の乾燥性の点でバランスが良い。
【0100】
前記ジアセチレンテトラオールの含有量は、反応液中、好ましくは0.01重量%〜0.6重量%、更に好ましくは0.05重量%〜0.3重量%である。
【0101】
[1,2−アルカンジオール]
本発明における反応液は、前記長鎖アルキルグリコールエーテル類の溶解助剤と反応液の目詰まり回復性向上の目的で、さらに1,2−アルカンジオールを用いることができる。
【0102】
1,2−アルカンジオールとしては、分枝を有してもよい炭素数5又は6の1,2−アルカンジオールが好ましく、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール,1,2−ヘキサンジオールが挙げられる。特にこれらの中でも1,2−ヘキサンジオールは、長鎖アルキルグリコールエーテルの水への溶解助剤として、さらに反応液の目詰まり回復性向上の点から好ましい。
【0103】
1,2−アルカンジオールは、反応液中、1重量%〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは2重量%〜8重量%である。15重量%を超えると、蒸発しにくくなり、記録媒体に塗布した反応液が乾燥しにくくなる。
【0104】
[多価アルコール類・糖類]
本発明における反応液は、目詰まり回復性向上の目的で、記録媒体への塗布後の乾燥性を低下させない程度で、さらに、湿潤剤を含有することができる。湿潤剤としては、多価アルコール類及び/又は糖類を使用できる。多価アルコール類の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサトリオール等が挙げられる。糖類の具体例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類があげられ、より具体的にはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、n=2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖など)があげられる。具体例としてはマルチトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。
【0105】
湿潤剤の含有量は、反応液中、0.1重量%〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5重量%〜6重量%程度である。この範囲であれば、低吸水性の記録媒体であっても、塗布後の乾燥性を低下させない。
【0106】
[反応液のその他の成分]
本発明における反応液は、主溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0107】
本発明における反応液は、有機アミンをさらに含有することができ、反応液のpHを容易に好適な範囲に調整することができる。有機アミンとしては、三級アミンが好ましく使用できる。三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。なお、本発明による反応液は、そのpHが7〜10、特に7.5〜9であることが好ましい。この範囲にあれば、インクジェット装置の使用部材に対する部材浸食を防止することができる。特にpHが12を超えた範囲にあると、反応液の保存安定性が著しく低下する場合がある。
【0108】
有機アミンの含有量は、反応液中、0.01重量%以上であるが、記録画像を形成する際に記録媒体等の記録面への濡れ性を高めることができ、かつ、インクの吐出安定性、保存安定性、及び高速印刷の観点から、好ましくは0.05重量%〜5.0重量%、より好ましくは0.1重量%〜2.0重量%である。
【0109】
本発明における反応液は、さらに溶解助剤、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を添加してもよい。
【0110】
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
【0111】
溶解助剤の例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類やジエタノールアミン、モルホリンなどのアミン類及びそれらの誘導体、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンなどのピロリドン類及び/又はγ−ブチロラクトンなどのラクトン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類などを挙げることができる。
【0112】
[インク組成物]
本発明におけるインク組成物とは、モノクロ印字を行う場合にはブラックインク組成物を意味し、さらにカラー印字を行う場合にはカラーインク組成物、具体的にはイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、及びシアンインク組成物、更に場合によってブラックインク組成物を意味するものとする。
【0113】
本発明におけるインク組成物は、少なくとも水と着色剤と樹脂エマルジョンとを含んでなる。
【0114】
本発明におけるインク組成物に含まれる水としては、上述の反応液の項で説明した「水」を使用することができる。
【0115】
本発明におけるインク組成物に含まれる着色剤としては、染料、顔料のいずれであってもよいが、インク組成物の不溶化あるいは増粘等の作用によって、インク中の着色成分の浸透を抑制する場合は、水性媒体中に溶解している染料よりも分散している顔料の方が有利である。また、耐光性、耐水性の観点からも顔料の方が好ましい。
【0116】
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。
【0117】
顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等を使用することができる。また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等を使用できる。上記顔料は1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。
【0118】
ブラックインク組成物に使用される顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、三菱化学製の#2300、#900、HCF88、#33、#40、#45、#52、MA7、MA8、MA100、#2200B等、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Specisal Black 6、同5、同4A、同4等を挙げることができ、これらの1種又は2種の混合物として用いてもよい。
【0119】
カラーインク組成物としては、少なくとも、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を含むことが好ましい。カラーインク組成物の顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー等の顔料が例示できる。
【0120】
具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,147,150,153,155,174,180,188,198;C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184,202,207,209;C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38;C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16;C.I.ピグメントブラック1,7等であり、複数の顔料を用いてインク組成物を形成することもできる。特に、前記イエローインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、188から選ばれる少なくとも1種を含み、前記マゼンタインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含み、前記シアンインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0121】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0122】
本発明の好ましい態様によれば、これらの顔料は、分散剤又は界面活性剤で水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインクに添加されるのが好ましい。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。
【0123】
分散剤又は界面活性剤の好ましい例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体が挙げられる。
【0124】
本発明の好ましい態様によれば、これらの共重合体は重量平均分子量が3,000〜50,000程度であるのが好ましく、より好ましくは5,000〜30,000程度、最も好ましくは7,000〜15,000程度である。
【0125】
分散剤の添加量は、顔料を安定に分散させ、本発明による他の効果を失わない範囲で適宜添加されて良い。本発明の好ましい態様によれば、その使用量は顔料:分散剤として1:0.06〜1:3程度の範囲が好ましく、より好ましくは1:0.125〜1:3程度の範囲である。
【0126】
インクへの顔料の添加量は、0.5重量%〜25重量%程度が好ましく、より好ましくは2重量%〜15重量%程度である。
【0127】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は樹脂エマルジョンを含んでなるのが好ましい。ここで、樹脂エマルジョンとは、連続相が水であり、分散相が次のような樹脂成分であるエマルジョンを意味する。分散相の樹脂成分としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、などがあげられる。
【0128】
本発明の好ましい態様によれば、この樹脂は親水性部分と疎水性部分とを併せ持つ重合体であるのが好ましい。また、これらの樹脂成分の粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、150nm程度以下が好ましく、より好ましくは5nm〜100nm程度である。
【0129】
これらの樹脂エマルジョンは、樹脂モノマーを、場合によって界面活性剤とともに水中で分散重合することによって得ることができる。例えば、アクリル系樹脂又はスチレン−アクリル系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステル、又は(メタ)アクリル酸エステル及びスチレンを、界面活性剤とともに水中で分散重合させることによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常10:1〜5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲にあることでより良好なインクの耐水性、浸透性が得られる。界面活性剤は特に限定されないが、好ましい例としてはアニオン性界面活性剤(例えばドデシルベンゼルスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)があげられ、これらを単独又は二種以上を混合して用いることができる。また、アセチレングリコール(オレフィンY、ならびにサーフィノール82、104、440、465、及び485(いずれも商品名、Air Products and Chmicals Inc.製))を用いることも可能である。
【0130】
また、分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水60重量部〜400重量部、好ましくは100重量部〜200重量部の範囲が適当である。
【0131】
また、市販の樹脂エマルジョンを使用することも可能であり、例えばマイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製)などがあげられる。
【0132】
本発明に使用するインクは、樹脂エマルジョンを、その樹脂成分がインクの0.1重量%〜40重量%となるよう含有するのが好ましく、より好ましくは1重量%〜25重量%の範囲である。
【0133】
樹脂エマルジョンは、多価金属イオンとの相互作用により、着色成分の浸透を抑制し、さらに記録媒体への定着を促進する効果を有する。また、樹脂エマルジョンの種類によっては記録媒体上で皮膜を形成し、印刷物の耐擦性をも向上させる効果も有する。
【0134】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は樹脂エマルジョン形態の熱可塑性樹脂を含むことができる。ここで、熱可塑性樹脂とは、軟化温度が50℃〜250℃、好ましくは60℃〜200℃、のものである。ここで、軟化温度という語は、熱可塑性樹脂のガラス転移点、融点、粘性率が1011ポアズ〜1012ポアズになる温度、流動点、樹脂エマルジョンの形態にある場合その最低造膜温度(MFT)のうち最も低い温度を意味するものとする。このような樹脂エマルジョンを含んでなるインク組成物を用いた場合、記録後記録媒体を熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度で加熱する加熱工程を実施するのが好ましい。
【0135】
また、これらの樹脂としては、軟化又は溶融温度以上に加熱され冷却された際に強固な耐水性、耐擦性のある膜を形成するものを選択するのが好ましい。
【0136】
水不溶性の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸エステル、ポリエチルアクリル酸、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン共重合体、フッ素樹脂、フッ化ビニリデン、ポリオレフィン樹脂、セルロース、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン−アクリルアミド共重合体、ポリイソブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ロジン系樹脂、ポリエチレン、ポリカーボネート、塩化ビニリデン樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン、ロジンエステル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0137】
低分子量の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、アルコールワックス、合成酸化ワックス、αオレフィン−無水マレイン酸共重合体、カルナバワックス等の動植物系ワックス、ラノリン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0138】
このような樹脂エマルジョンとして、公知の樹脂エマルジョンを用いることも可能であり、例えば特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報などに記載の樹脂エマルジョンをそのまま用いることができる。
【0139】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物はアルギン酸誘導体を含むことができる。アルギン酸誘導体の好ましい例としては、アルギン酸アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)アルギン酸有機塩(例えば、トリエタノールアミン塩)、アルギン酸アンモニウム塩、等が挙げられる。
【0140】
このアルギン酸誘導体のインク組成物への添加量は、好ましくは0.01重量%〜1重量%程度であり、より好ましくは0.05重量%〜0.5重量%程度である。
【0141】
アルギン酸誘導体の添加により良好な画像が得られる理由は確定できないが、反応液に存在する多価金属塩が、インク組成物中のアルギン酸誘導体と反応し、着色剤の分散状態を変化させ、着色剤の記録媒体への定着が促進されることに起因するものと考えられる。
【0142】
また、本発明に用いられるインク組成物は、無機酸化物コロイドを含んでいてもよい。無機酸化物コロイドの好ましい例としては、コロイダルシリカ、アルミナコロイドがあげられる。これらは、一般的には、SiO2、Al23等の超微粒子を水又は有機溶媒中に分散したコロイド溶液である。市販されている無機酸化物コロイドとしては、分散媒が水、メタノール、2−プロパノール、n−プロパノール、キシレンなどであり、SiO2、Al23等の粒子の粒径が5nm〜100nmであるものが一般的である。また、無機酸化物コロイド溶液のpHは中性領域ではなく酸性又はアルカリ性に調製されているものが多い。これは、無機酸化物コロイドの安定分散領域が酸性側かアルカリ性側に存在するためであり、インク組成物に添加する場合には、無機酸化物コロイドの安定分散領域のpHとインクのpHとを考慮して添加する必要がある。
【0143】
インク組成物中の無機酸化物コロイドの添加量は、0.1重量%〜15重量%となるよう添加するのが好ましく、二種以上の添加も可能である。
【0144】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は有機溶媒を含んでなるのが好ましい。この有機溶媒は、好ましくは低沸点有機溶剤であり、その好ましい例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノールなどがあげられる。特に一価アルコールが好ましい。低沸点有機溶剤は、インクの乾燥時間を短くする効果がある。
【0145】
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明に使用するインク組成物は、さらに高沸点有機溶媒からなる湿潤剤を含んでなることが好ましい。高沸点有機溶媒剤の好ましい例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミンなどがあげられる。
【0146】
これら湿潤剤の添加量は、インクの0.5重量%〜40重量%が好ましく、より好ましくは2重量%〜20重量%の範囲である。また、低沸点有機溶剤の添加量はインクの0.5重量%〜10重量%が好ましく、より好ましくは1.5重量%〜6重量%の範囲である。
【0147】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は糖を含有してなるのが好ましい。糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類があげられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。
【0148】
また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、n=2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖などがあげられる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどがあげられる。
【0149】
これら糖類の含有量は、インクの0.1重量%〜40重量%、好ましくは0.5重量%〜30重量%の範囲が適当である。
【0150】
その他、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤、防かび剤等を添加しても良い。
【0151】
[記録方法]
[インクジェット記録方式]
本実施形態において「インクジェット記録方式」とは、インクジェット記録装置により、反応液及びインク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方式を意味する。具体的に以下に説明する。
【0152】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0153】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0154】
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0155】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0156】
以上のいずれの方式も、本発明の反応液及びインク組成物を用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
【0157】
[二液を印字するインクジェット記録方法]
本発明によるインクジェット記録方法は、前記のインクジェット記録方式を用いて、記録媒体に反応液とインク組成物とを印字する工程を含んでなるものである。
【0158】
反応液とインク組成物を記録媒体に適用する順序としては、いずれが先であってもよく、即ち反応液を記録媒体に付着させその後この記録媒体にインク組成物を付着させる方法、インク組成物を印字した後反応液を付着させる方法、さらに反応液とインク組成物をその射出直前又は直後に混合する方法のいずれも好適に行うことができる。
【0159】
本発明の好ましい形態によれば、反応液を記録媒体に付着させその後この記録媒体にインク組成物を付着させる方法が、滲み、カラーブリード、印刷ムラの抑制という観点において、より好ましい。
【0160】
本発明によるインクジェット記録方法によれば、反応液とインク組成物とが接触することで良好な印字が実現できる。以下は仮定の理論であって、それによって本発明が限定されて解釈されないことを条件にその理由を述べれば次の通りと考えられる。反応液とインク組成物とが接触すると、反応液中の多価金属イオン、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体がインク組成物中の着色剤、樹脂エマルジョンなどの分散状態を破壊し、着色成分、樹脂エマルジョンなどを凝集させる。この凝集物が着色剤の記録媒体への浸透を抑制すると考えられる。これらによって、色濃度の高い、滲み、印刷ムラの少ない画像を実現するものと考えられる。また、カラー画像においては、異なる色の境界領域での不均一な色混じり、すなわちカラーブリードを有効に防止できるとの利点も有する。同時に、反応液中のカチオン性ポリウレタンは、記録媒体に付着した後、インク組成物を包み込む形で樹脂皮膜を形成し、着色剤の記録媒体への密着を促進する効果を有すると思われる。これにより、記録物の優れた耐擦性を実現できると考える。以上の機構はあくまで仮定であって、本発明はこの機構に限定して解釈されるものではない。
【0161】
反応液の記録媒体への付着に関しては、インク組成物を付着させる場所にのみ選択的に反応液を付着させるという方法と、紙面全体に反応液を付着させる方法のいずれの態様であってもよい。前者が反応液の消費量を必要最小限に抑えることができ経済的であるが、反応液とインク組成物双方を付着させる位置にある程度の精度が要求される。一方、後者は、前者に比べ反応液及びインク組成物の付着位置の精度の要求は緩和されるが、紙面全体に大量の反応液を付着させることとなり、乾燥の際、紙がカールしやすい。従って、いずれの方法を採用するかは、反応液とインク組成物との組み合わせを考慮して決定されてよい。前者の方法を採用する場合、反応液の付着は、インクジェット記録方法によることが可能である。
【0162】
また、反応液とインク組成物の塗布時間差は、印字品質という観点から、1sec以下にすることが好ましい。反応液を付着させてから1secを超えた後にインク組成物を印字した場合、反応液が記録媒体内部にまで浸透してしまい、紙表面におけるインク組成物との凝集反応の低下を生じ、滲み・カラーブリード等の画質の向上を得られない場合がある。
【0163】
また、記録媒体に、反応液とインク組成物を記録する方法は、1パス又はマルチパスで記録してもよい。ここで1パスとは、記録ヘッドの1回の走査で、その走査領域に形成すべきドット全てを記録する記録方法のことである。すなわち、反応液とインク組成物が1パスで印字されるということは、記録ヘッド走査領域内に記録すべき反応液とインク組成物のドットが、1回の記録ヘッドの走査で記録を完了するということである。マルチパスとは、記録ヘッド走査領域に記録するドットを、複数回の記録ヘッド走査によって記録する方法である。さらに、1パス記録方法には、記録ヘッドを主走査方向に1回走査してドットを記録した後、副走査方向に記録媒体を記録領域分だけ移動させることを繰り返すことで、画像全体を形成する方法と、記録ヘッドは固定し、記録媒体を走査することで画像を形成する方法などがあるが、いずれも好適に用いることができる。1パスで記録することで高速な印刷が可能となり、記録物の生産性が高まることは当業者には自明であるが、上述のように、反応液が記録媒体内部に浸透する前に、確実に、記録物上にて反応液とインク組成物の凝集反応が生じることから、滲み・カラーブリード等の抑制効果の向上等を実現できる。また、本発明に使用する反応液であれば、記録媒体への濡れ性にも優れるため、少量の反応液で目的を実現できる。
【0164】
本発明の好ましい形態によれば、反応液及び/又はインク組成物が付着した記録媒体に加熱を行うことが好ましい。具体的には、記録媒体に反応液を付着させた後に加熱し、その後インク組成物を印刷する工程、又は、記録媒体にインク組成物を印刷した後に加熱し、その後反応液を印刷する工程、又は、記録媒体に反応液とインク組成物とを印刷した後に加熱する工程、が挙げられる。このような加熱処理を行うことで、反応液及びインク組成物中の水分の蒸発が促され、記録媒体のしわの発生を防ぎ、さらに記録媒体のカールの発生を有効に防止することができる。さらにまた、加熱により、反応液中のカチオン性ポリウレタンの融着を促し、優れた皮膜を形成することが可能となって、記録物の耐擦性がより一層向上する。加熱温度は、40℃〜150℃程度が好ましく、より好ましくは、40℃〜100℃程度である。
【0165】
本発明の好ましい形態によれば、反応液の表面張力が20mN/m〜35mN/mであり、インク組成物の表面張力が25mN/m〜50mN/mであることが好ましい。このインクジェット記録方法によれば、良好な画像が得られる。具体的には、にじみが少ない、印字ムラがない、OD値が高い、耐擦性に優れた印字画像が得られる。また、記録ヘッドの小型化と印字の高速化に関しても好適である。さらに、反応液の表面張力がインク組成物の表面張力よりも低いことが好ましい。このようにすることにより、反応液とインク組成物の付着順序にかかわらず、より一定した高品質の印字が得られる。
【0166】
また、反応液およびインク組成物の20℃における粘度は1.5mPa・s〜15mPa・sの範囲にあるのが好ましく、より好ましくは1.5mPa・s〜10mPa・sの範囲である。また、好適には反応液とインク組成物との粘度をほぼ等しいものとする。例えば一方の粘度が他方の粘度の50%〜200%となるようにする。これによって、反応液およびインク組成物を共にインクジェット記録ヘッドから吐出する場合、記録ヘッド、流路構造、および駆動回路を同一のもとすることができる点で有利である。
【0167】
[インクジェット記録装置]
本発明によるインクジェット記録方法を実施するインクジェット記録装置について以下、図面を用いて説明する。
【0168】
図1のインクジェット記録装置は、インク組成物及び反応液をタンクに収納し、インク組成物及び反応液がインクチューブを介して記録ヘッドに供給される態様である。すなわち、記録ヘッド1とインクタンク2とがインクチューブ3で連通される。ここで、インクタンク2は内部が区切られてなり、インク組成物、場合によって複数のカラーインク組成物の部屋と、反応液の部屋とが設けられてなる。
【0169】
記録ヘッド1は、キャリッジ4に沿って、モータ5で駆動されるタイミングベルト6によって移動する。一方、記録媒体である記録媒体7はプラテン8及びガイド9によって記録ヘッド1と対面する位置に置かれる。なお、この態様においては、キャップ10が設けられてなる。このキャップ10には吸引ポンプ11が連結され、いわゆるクリーニング操作を行う。吸引されたインク組成物はチューブ12を介して廃インクタンク13に溜め置かれる。
【0170】
記録ヘッド1のノズル面の拡大図を図2に示す。100で示される部分が反応液のノズル面100であって、反応液が吐出される第1液吐出ノズル21が縦方向に設けられてなる。一方、101で示される部分がインク組成物のノズル面101であって、インク組成物吐出ノズル22,23,24,25からはそれぞれイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、そしてブラックインク組成物が吐出される。
【0171】
さらにこの図2に記載の記録ヘッドを用いたインクジェット記録方法を図3を用いて説明する。記録ヘッド1は矢印A方向に移動する。その移動の間に、ノズル面100(図2参照)より反応液が吐出され、記録媒体7上に帯状の第1液付着領域31を形成する。次に記録媒体7が紙送り方向矢印Bに所定量移送される。その間、記録ヘッド1は図中で矢印Aと逆方向に移動し、記録媒体7の左端の位置に戻る。そして、既に反応液が付着している反応液付着領域にインク組成物を印字し、印字領域32を形成する。
【0172】
また、図4に記載のように記録ヘッド1において、ノズルを全て横方向に並べて構成することも可能である。この構成は1パス印字の際に好適である。図中で、41a及び41bは反応液吐出ノズル41a,41bであり、インク組成物吐出ノズル42,43,44,45からはそれぞれイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、そしてブラックインク組成物が吐出される。このような態様の記録ヘッドにおいては、記録ヘッド1がキャリッジ上を往復する往路、復路いずれにおいても印字が可能である点で、図2に示される記録ヘッドを用いた場合よりも速い速度での印字が可能である。
【0173】
さらに反応液とインク組成物の表面張力を調節することにより、これらの付着順序にかかわらず、高品質の印字がより一定して得られる。この場合反応液の吐出ノズルを1つとすることもでき(例えば図中で反応液吐出ノズル41bのノズルを省くことができる)、さらなるヘッドの小型化と印字の高速化が達成できる。
【0174】
さらに、インクジェット記録装置には、インク組成物の補充がインクタンクであるカートリッジを取り替えることで行われるものがある。また、このインクタンクは記録ヘッドと一体化されたものであってもよい。
【0175】
このようなインクタンクを利用したインクジェット記録装置の好ましい例を図5に示す。図中で図1の装置と同一の部材については同一の参照番号を付した。図5の態様において、記録ヘッド1a及び記録ヘッド1bは、インクタンク2a及びインクタンク2bと一体化されてなる。記録ヘッド1a又は記録ヘッド1bをそれぞれインク組成物及び反応液を吐出するものとする。印字方法は基本的に図1の装置と同様であってよい。そして、この態様において、記録ヘッド1aとインクタンク2a及び記録ヘッド1a及びインクタンク2bは、キャリッジ4上をともに移動する。
【0176】
さらに、印字がなされた記録媒体を加熱するヒータが設けられてなる、インクジェット記録装置の好ましい例を図6に示す。図6は、ヒータ14を設けた点以外は図1に示したものと同様なものである。このヒータ14は、記録媒体に接触してそれを加熱するものであっても、赤外線などを照射し又は熱風を吹き付けるなど記録媒体に接触せずに加熱するものであってもよい。
【0177】
また、本発明の好ましい態様によれば、インクジェット記録装置は、さらに反応液とインク組成物とを収納し、かつインク組成物及び反応液の量が、インク組成物が先に消費し尽くされるものとされたものが好ましい。
【0178】
また、別の好ましい態様によれば、インクジェット記録装置に用いられるインクタンクが提供される。このインクタンクは、好適には取り替え可能なカートリッジ式であってもよく、さらに好適には記録ヘッドと一体化されたものであってもよい。いずれの態様によっても、反応液とインク組成物とを収納し、かつインク組成物及び反応液の量がインク組成物が先に消費し尽くされるものとされたものとするのが好ましい。
【0179】
なお、この態様とは逆に、反応液がインク組成物よりも先に消費し尽くされるようなものとされると、反応液は透明であることが一般的であるので、消費し尽された時点を知ることが難しくなる。すなわち、反応液が消費し尽くされたことを、印字を観察し、その印字品質が劣化していることで初めて知ることとなり、印字品質の観察を常に使用者に課すこととなる。
【0180】
一方、この態様によるインクジェット記録装置にあっては、インク組成物はそれ自体有色であることから、その消尽を容易に知ることができる。さらに、インク組成物が消費し尽くされる前に反応液がなくなることがないので、安定して二液を印字するインクジェット記録方法を行うことが可能となる。一方、インク組成物及び反応液を収納するタンク部分にセンサー手段などを設けその消費を観察することも考えられるが、この態様にあってはそのような複雑な機構を極めて簡便な仕組みで代替できる点でも価値のあるものといえる。
【0181】
なお、この態様において、複数のインク組成物を用いた場合に、「反応液よりもインク組成物の方が先に消費し尽くされる」とは、いずれか一つのインク組成物が消費し尽くされた時点で依然として反応液が残っている限り、複数のインク組成物の全てが消費し尽くされた時においても反応液が残っていなければならないことを必ずしも意味する物ではないが、複数のインク組成物の全てが消費し尽くされた場合においても反応液が残っているようなものとされるのが好ましい。
【0182】
[記録物]
本実施形態の記録物は、少なくとも上述のインクジェット記録方法を用いて記録媒体上に記録が行われたものである。この記録物は、上述のインクジェット記録方法を用いることにより、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対して、滲み・カラーブリード・印刷ムラ等がなく、耐擦性に優れた品質を示す。
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0183】
表1に示す反応液(1〜15)を用いて、以下の評価1〜8を行った。
【0184】
評価で用いた印刷物は、インクジェットプリンタPX−G930(セイコーエプソン(株)社製)を用いて、記録媒体として、塗工紙の一種である「OKトップコートN」(王子製紙社製)に、360dpiの解像度で印刷して作成した。この「OKトップコートN」のブリストー法による接触開始から20msec1/2までの水吸収量は6ml/m2であった。なお、ブラック及びシアンインク組成物は表2に記載した構成成分により調製した。
【0185】
【表1】

【0186】
【表2】

【0187】
[評価1 塗布性]
前記プリンタを用いて、前記塗工紙に対して、単位面積当りの吐出量が1g/m2となるように反応液でベタ印刷を行った。印刷直後の反応液の塗布状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。A:ムラなく均一に塗布されている。
C:塗布ムラが目立つ。
【0188】
[評価2 滲み]
前記プリンタを用いて、前記塗工紙に対して、吐出量0.5g/m2となるように反応液でベタ印刷を行った後、ブラックインク組成物を用いて吐出量20ng/dotで6ポイントの文字を印字した。25℃で24時間放置後、文字における滲みの発生の有無を調べた。
A:滲みがなく鮮明である。
B:ひげ状の滲みが見られる。
C:文字の輪郭がはっきりしないほどに滲みが発生している。
【0189】
[評価3 カラーブリード]
前記プリンタを用いて、前記塗工紙に対して、吐出量0.5g/m2となるように反応液でベタ印刷を行った後、シアンインク組成物で80%Dutyのパッチを印刷し、同時に、ブラックインク組成物で、このパッチ上に吐出量20ng/dotで6ポイントの文字を印字した。得られた印刷物の、文字の境界部分での不均一な色の混じりの有無を目視にて調べた。
A:色の混じりがなく境界が鮮明。
B:ひげ状の色の混じりが発生した。
C:文字も輪郭もはっきりしないほど色が混じる。
【0190】
[評価4 印刷ムラ]
前記プリンタを用いて、前記塗工紙に対して、吐出量0.5g/m2となるように反応液でベタ印刷を行った後、シアンインク組成物による100%Dutyのベタ印刷を行った。25℃で24時間放置後、印刷物の任意の5点のOD値を、Spectrolino(Gretag社製)を用いて測色し、5つのOD値の最大値と最小値を求め、この最大値と最小値の差を計算して、下記の基準に基づいて評価した。
A:最大値と最小値の差が、0.2未満。
B:最大値と最小値の差が、0.2以上0.4未満。
C:最大値と最小値の差が、0.4以上。
【0191】
[評価5 耐擦性]
前記プリンタに用いられているインクジェットヘッドを備えた図6に示される構成を有する装置を用いて、前記塗工紙に印刷を行った。吐出量0.5g/m2となるように反応液でベタ印刷を行った後、シアンインク組成物による100%Dutyのベタ印刷を行った(サンプルX;加熱無し)。さらに、その後、ヒータ14を通すことで印刷物を70℃に加熱して、別途印字物を作成した(サンプルY;加熱有り)。25℃放置で、印刷5分後と印刷60分後における、サンプルX及びサンプルYの各印字部を指で擦り、印字面の状態と指に付着したインクを目視で観察した。その結果を下記の基準に基づいて乾燥性を含めた耐擦性を評価した。
A:印字面は変化せず、指にインクが付着しない。
B:若干印字面のインクは落ちるが、指にインクが付着しない。
C:印字面のインクが落ち、指にインクが付着する。
【0192】
[評価6 保存安定性]
反応液をガラス瓶に入れ密閉後、それぞれ40℃/2週間放置した。放置後の異物(浮遊物又は沈降物)の有無を目視観察し、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH)の変化について調べ、下記の基準に基づき保存安定性を評価した。
A:異物の発生がなく、物性の変化もない。
B:異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C:異物が発生するか、物性が著しく変化する。
【0193】
[評価7 吐出安定性]
反応液を前記プリンタに充填し、キャラクターやグラフィックが混在する画像をA4紙に連続して印刷した。印刷中に「飛行曲がり」や「抜け」が発生した場合、クリーニング動作を実行する。クリーニング動作を行っても「飛行曲がり」や「抜け」が直らない場合、それまでに印刷した枚数を調べ、下記の基準に基づき吐出安定性の評価を行った。
A:飛行曲がりが復帰しなくなるまでの印刷枚数が10000枚以上。
B:飛行曲がりが復帰しなくなるまでの印刷枚数が5000枚以上10000枚未満。
C:飛行曲がりが復帰しなくなるまでの印刷枚数が5000枚未満。
【0194】
[評価8 目詰まり回復性]
反応液を前記プリンタに充填し、全ノズルが正常に吐出することを確認した後、プリンタを停止し、プリンタヘッドをキャップしない状態で、40℃の環境下で24時間放置した。放置後、再び全ノズルより該反応液が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記の基準に基づき目詰まり回復性の評価を行った。
A:2回以内のクリーニングで全ノズルが回復した。
B:3〜6回のクリーニングで全ノズルが回復した。
C:6回のクリーニングでは全ノズル回復できなかった。
【0195】
以上の各評価の結果を表3に示す。
【0196】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明は、インクジェット吐出が可能で、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対して、滲み・カラーブリード・印刷ムラ等がない高品位な記録画像と、耐擦性に優れた記録特性とを有するとともに、優れた保存安定性・吐出安定性・目詰まり回復性を有する反応液を用いた、二液を印字するインクジェット記録方法及び記録物として、産業上利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】本発明による方法を実施するインクジェット記録装置を示す図であって、この態様においては記録ヘッドとインクタンクがそれぞれ独立してなり、インク組成物及び第1液はインクチューブによって記録ヘッドに供給される。
【図2】記録ヘッドのノズル面の拡大図であって、100が反応液のノズル面100であり、101がインク組成物のノズル面101である。
【図3】図2の記録ヘッドを用いたインクジェット記録を説明する図である。図中で、31は第1液付着領域31であり、32は第1液が付着された上にインク組成物が印字された印字領域32である。
【図4】記録ヘッドの別の態様を示す図であって、吐出ノズルが全て横方向に並べて構成されたものである。
【図5】本発明による方法を実施するインクジェット記録装置を示す図であって、この態様においては記録ヘッドとインクタンクが一体化されてなる。
【図6】本発明による方法を実施するインクジェット記録装置を示す図であって、この態様において画像が記録された後の記録媒体を加熱する加熱手段としてのヒータ14が設けられてなる。
【符号の説明】
【0199】
1,1a,1b…記録ヘッド、2,2a,2b…インクタンク、3…インクチューブ、4…キャリッジ、5…モータ、6…タイミングベルト、7…記録媒体、8…プラテン、9…ガイド、10…キャップ、11…吸引ポンプ、12…チューブ、13…廃インクタンク、14…加熱手段としてのヒータ、21…第1液吐出ノズル、22,23,24,25,42,43,44,45…インク組成物吐出ノズル、31…第1液付着領域、32…印字領域、41a,41b…反応液吐出ノズル、100,101…ノズル面、A…矢印、B…紙送り方向矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有するものであり、かつ、前記反応液が、多価金属塩、ポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体から選択される少なくとも1つと、カチオン性ポリウレタンと、ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物と、を含んでなるものであり、かつ、前記インク組成物が、水と、着色剤と、樹脂エマルジョン粒子と、を含んでなるものであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記多価金属塩が、硫酸塩、硝酸塩及びカルボン酸塩から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記ポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物が、下記式(1)の一般式で表されるポリエーテル変性ポリシロキサン系化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【化1】

【請求項4】
前記反応液が、さらに長鎖アルキルグリコールエーテルを含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記長鎖アルキルグリコールエーテルの反応液中における含有量が10重量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記反応液が、さらに下記式(2)の一般式で表されるジアセチレンテトラオールを含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【化2】

【請求項7】
前記反応液が、さらに1,2−アルカンジオールを含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記反応液が、さらに湿潤剤として多価アルコール及び/又は糖類を含んでなり、該多価アルコール及び/又は糖類の反応液中における含有量が0.1重量%〜10重量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インク組成物の着色剤が顔料であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記反応液及び/又は前記インク組成物が付着した記録媒体を、40℃〜150℃で加熱する工程を含んでなることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法によって記録されていることを特徴とする記録物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−23265(P2010−23265A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184651(P2008−184651)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】