説明

インクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法

【課題】長期での保存安定性に優れ、高濃度で混色及び色滲みのない高画質画像の記録を可能にする。
【解決手段】少なくとも画像を形成するための第1の液体Aと、第1の液体Aと組成が異なる第2の液体Bとから構成され、前記液体Aが、着色剤を形成する複素環残基を有する重合体と顔料とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法に関し、詳しくは、多液を用いて高速に、高画質な画像を形成するのに好適なインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズル等のインク吐出口からインクを液滴で吐出するインクジェット方式は、小型で安価であり、印字媒体に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンタに用いられている。これらインクジェット方式の中でも、圧電素子の変形を利用しインクを吐出させるピエゾインクジェット方式、及び熱エネルギーによるインクの沸騰現象を利用しインクを液滴吐出する熱インクジェット方式は、高解像度、高速印字性に優れるという特徴を有する。
【0003】
現在、インクジェットプリンタにより、普通紙あるいは、プラスチックなど非吸水性の記録媒体にインクを打滴して印字する際の高速化及び高画質化が重要な課題となっている。
【0004】
インクジェット記録は、インク(液体)の液滴を連続的に液滴n1、液滴n2、液滴n3、・・・、液滴nxと吐出し、被記録媒体上に液滴n1、液滴n2、液滴n3、・・・、液滴nxにてラインを形成したり、画像を形成するものであるが、特に打滴後の液滴の浸透に時間が掛かると、画像に滲みが生じやすく、また、隣接するインク液滴n1とインク液滴n2の間で混合が生じ、鮮鋭な画像形成の妨げとなるなど、実用上問題があった。液滴間での混合の際には、打滴された隣接の液滴が合一して液滴の移動が起こるために、着弾した位置からずれ、細線を描く場合には線幅の不均一が生じ、着色面を描く場合には色ムラ等が発生する。
【0005】
画像の滲みや線幅の不均一等を抑制する方法の一つとして、インクの硬化を促進する方法がある。その一つとして、インク溶媒の揮発ではなく放射線によって硬化し固着する技術が提案されている。更には、精密描画性を付与するために、2液式のインクを用い、記録媒体上で両者を反応させるものであり、例えば、塩基性ポリマーを有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有するインクを記録する方法(例えば、特許文献1参照)や、カチオン性物質を含む液体組成物を適用した後、アニオン性化合物と色材を含有するインクを適用する方法(例えば、特許文献2参照)、一方に光硬化型樹脂を、他方に光重合開始剤を含むインクを用いる記録方法(例えば、特許文献3参照)などが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、画像の滲み抑制にはある程度の効果はあるものの、液滴間の混合に起因する線幅の不均一や色ムラ等の解消には不充分であり、また、水性溶媒を含むために乾燥速度が遅い、析出した染料が不均一に分布しやすく画質低下を招く懸念もある。
【0007】
上記に関連する技術として、着色成分として顔料を用い、放射線によって硬化して固着する技術がある(例えば、特許文献4参照)。ここでは、固化するモノマーを含有するインクと顔料分散体を含有するインクの2液のいずれか一方を用いて画素を形成した後に他方で前記画像と同一ポイントに画素を形成し、硬化を紫外線、電子線等を用いて行なうことが記載されている。
また、水と共に反応性モノマーや着色剤等を含有するインク組成物と凝集物を生じさせる凝集剤を含有する凝集溶液とを用い、記録媒体上に前記凝集溶液を付着させた後に前記インク組成物を付着させることが記載されたものがある(例えば、特許文献5参照)。さらに、光重合開始剤を含有する反応液を全面付与した後にモノマー含有のインク組成物を付与し、紫外線照射を行なうことが記載されたものもある(例えば、特許文献6参照)。
【0008】
上記以外に、インクを2種類に分けて互いに重なるように打滴することに関する記載がなされたものがある(例えば、特許文献7参照)。
【特許文献1】特開昭63−60783号公報
【特許文献2】特開平8−174997号公報
【特許文献3】特許第3478495号
【特許文献4】特開平8−218018号公報
【特許文献5】特開2001−348519号公報
【特許文献6】特許3642152号
【特許文献7】特開2000−135781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来の技術のみでは、例えばインク吸収速度の遅い非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体を用いて記録を行なう場合に、高い画像濃度を得ようと隣接する液滴a1、液滴a2を重ねて打滴すると、隣接する液滴同士が非乾燥状態で媒体上に存在している際の液滴間の混合、すなわち隣接する液滴の合一という現象が生じてしまい、それに伴なう線幅の不均一や混色(色ムラ等)などを充分に解消することは困難である。
【0010】
さらに、2液を用いる系では、被記録媒体上で組成の異なる液を混合するため、特に顔料分散剤を用いている際に分散が良好に行なわれていないと混合によるショックにより、混合時点で分散破壊を起こして、画像濃度に影響を与えたり、画像の透明性が損なわれる課題がある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、長期での保存安定性に優れ、高濃度で混色及び色滲みのない高画質画像を記録することができるインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
加えて更に、ドット形状を保持し均質な線幅を有する画像の記録並びに、ベタツキがなく擦過性、耐光性、耐オゾン性に優れた画像の記録の可能なインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することをも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも画像を形成するための少なくとも一種の第1の液体Aと、前記第1の液体Aと組成が異なる少なくとも一種の第2の液体Bとから構成されたインクジェット記録用インクセットであって、前記液体Aが、少なくとも着色剤を形成する複素環残基を有する重合体と顔料とを含有することを特徴とするインクジェット記録用インクセットである。
【0013】
<2> 前記重合体が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体である前記<1>に記載のインクジェット記録用インクセットである。
【0014】
【化1】

【0015】
前記一般式(1)において、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR1−、−OCO−、メチレン基、又はフェニレン基を表し、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは、単結合又は2価の連結基を表す。Pは、着色剤を形成する複素環残基を表す。nは、0又は1を表す。
【0016】
<3> 前記一般式(1)において、Pがキナクリドン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、及びアントラキノンから選ばれる少なくとも一種に由来する基である前記<2>に記載のインクジェット記録用インクセットである。
<4> 前記重合体が、共重合単位として、末端にエチレン性不飽和2重結合を有する重合性オリゴマー(マクロモノマー)に由来の繰り返し単位を更に含むグラフト共重合体である前記<1>〜<3>のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<5> 前記液体Aが、少なくとも重合性もしくは架橋性材料を含む請求項1〜4のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<6> 前記液体Bが、少なくとも重合性もしくは架橋性材料を架橋反応させる重合開始剤を含む前記<1>〜<5>のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<7> 前記液体Bが、親油性溶剤を更に含み、前記親油性溶剤の含有量が液体Bの全質量の50質量%以上である前記<1>〜<6>のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<8> 前記親油性溶剤は、沸点が100℃よりも高い高沸点有機溶媒である前記<7>に記載のインクジェット記録用インクセットである。
<9> 前記液体Bが、着色剤を含有しない、もしくは着色剤の含有量が1%未満である前記<1>〜<8>のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
【0017】
<10> 前記<1>〜<9>のいずれか一つに記載のインクジェット記録用インクセットを用い、第2の液体Bを第1の液体Aで形成される画像と同一もしくは該画像よりも広い範囲に予め被記録媒体に付与しておくことを特徴とするインクジェット記録方法である。
<11> 前記液体Aを少なくとも第1の液滴a1及び液滴a2にて、前記液滴a1と前記液滴a2とを重なり部分をもって打滴することで前記画像を形成する前記<10>に記載のインクジェット記録方法である。
<12> 前記重なり部分における重なり率が10%以上90%以下である前記<11>に記載のインクジェット記録方法である。
<13> 前記液体Bの付与後、前記液体Aの前記液滴a1が打滴されるまでの打滴間隔が5μ秒以上400m秒以下である前記<10>〜<12>のいずれか一つに記載のインクジェット記録方法である。
<14> 前記液滴a1及び液滴a2を含む前記液体Aの液滴サイズが、0.1ピコリットル以上100ピコリットル以下である前記<10>〜<13>のいずれか一つに記載のインクジェット記録方法である。
<15> 前記液体Aの打滴までの間は前記液体Bを液体状に保持する前記<10>〜<14>のいずれか一つに記載のインクジェット記録方法である。
<16> 前記液体A及び/又は液体Bが重合性もしくは架橋性材料を含有し、前記液体Aの打滴後、活性エネルギーを前記画像に与えて重合性もしくは架橋性材料を重合もしくは架橋する前記<10>〜<15>のいずれか一つに記載のインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長期での保存安定性に優れ、高濃度で混色及び色滲みのない高画質画像を記録することができるインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することができる。加えて更に、ドット形状を保持し均質な線幅を有する画像の記録並びに、ベタツキがなく擦過性、耐光性、耐オゾン性に優れた画像の記録の可能なインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のインクジェット記録用インクセット及びこれを用いたインクジェット記録方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、少なくとも画像を形成するための少なくとも一種の第1の液体Aと、第1の液体Aと組成が異なる少なくとも一種の第2の液体Bとから構成され、第1の液体Aに、少なくとも着色剤を形成する複素環残基を有する重合体と顔料とを用いた構成としたものである。
【0021】
インクジェットプリンタにおけるインク吐出口(ヘッド)から被記録媒体の上に、第1の液体Aによる液滴a1、液滴a2、・・・と、第1の液体Aと組成が異なる第2の液体Bとをそれぞれ吐出して所望の画像を形成する場合、液体Aに「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」と「顔料」を用いることで、高い画像濃度を得るために液滴a1と液滴a2との間など液滴間で重なり部分を有するように打滴したときの、打滴された液滴同士が衝突、混合する際のショックで起きる分散破壊を回避できるので、高濃度で透明性に優れ、混色及び色滲みのない高画質な画像の記録が可能である。
また、互いに組成の異なる第1液体Aと第2の液体Bとの2液系に構成するので、ドット形状を保持して均質な線幅を有する画像を記録でき、ベタツキがなく擦過性、耐光性、耐オゾン性にも優れる。
【0022】
以下、本発明のインクジェット記録用インクセットを構成する第1の液体A及び第2の液体Bについて詳細に説明する。
【0023】
第1の液体Aは、少なくとも画像を形成するための組成となるように構成され、第2の液体Bは少なくとも前記第1の液体Aと組成が異なるように構成されており、液体Aには、着色剤を形成する複素環残基を有する重合体の少なくとも一種と顔料の少なくとも一種とが含有される。
【0024】
−着色剤を形成する複素環残基を有する重合体−
着色剤を形成する複素環残基を有する重合体(以下、「本発明に係る特定重合体」ともいう。)は、後述の顔料をはじめ着色剤を用いたときの分散性を良好にする分散剤としても使用される。van−der−waals相互作用により着色剤との親和性の高い複素環残基を有することで、着色剤との間の吸着性が良好であるので、安定な分散物が得られ、画像形成時の打滴の際に分散破壊を起こして、濃度の低下、透明性の低下、及び色混じりや色滲みの発生を防止するのに有効である。したがって、高濃度で透明性に優れた高画質画像を記録することができる。
【0025】
ここでの着色剤としては、有機顔料などの顔料、並びに油溶性染料、水溶性染料などが挙げられ、好ましくは有機顔料である。特に有機顔料としては、具体的にフタロシアニン系、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、チオインジゴ系、キノフタロン系等が挙げられ、本発明に係る特定重合体はこれら着色剤を形成する複素環残基を有している。中でも、キナクリドン系、アントラキノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、不溶性アゾ系が好ましい。
【0026】
前記複素環残基の複素環としては、分子中に水素結合基を少なくとも1つ有するものが好ましく、例えば、チオフェン、フラン、キサンテン、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、キノフタロン等が挙げられる。これらの内、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、アントラキノン、及びフタルイミドが特に好ましい。
【0027】
本発明に係る特定重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。下記繰り返し単位を含む高分子化合物とすることで、着色剤と高分子鎖の間での立体反発効果により分散安定化が可能である。
【0028】
【化2】

【0029】
Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR1−、−OCO−、メチレン基、又はフェニレン基を表し、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。
【0030】
前記R1で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−ヒドロキシエチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基などが挙げられる。R1で表されるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。また、R1で表されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基などが挙げられる。中でも、R1としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
前記Jとしては、−COO−、−CONH−、又はフェニレン基が好ましい。
【0031】
Wは、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、アラルキレン基もしくはアリーレン基、並びにこれらの基もしくはこれらの基の組み合わせと、−NR2−、−NR23−、−COO−、−OCO−、−O−、−SO2NH−、−NHSO2−、−NHCOO−もしくは−OCONH−との組み合わせ等が挙げられ、これらは置換基を有してもよい。
【0032】
前記Wで表されるアルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基等が挙げられ、中でもメチレン基、エチレン基、プロピレン基等は特に好ましい。
前記Wで表されるアラルキレン基としては、炭素数7〜13のアラルキレン基が好ましく、例えば、ベンジリデン基、シンナミリデン基等が挙げられる。
前記Wで表されるアリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基が好ましく、例えば、フェニレン基、クメニレン基、メシチレン基、トリレン基、キシリレン基等が挙げられ、中でもフェニレン基は特に好ましい。
【0033】
前記R2及びR3は各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等が好適に挙げられる。
【0034】
前記Wで表される連結基の中でも、単結合、アルキレン基が特に好ましく、メチレン基、エチレン基、2−ヒドロキシプロピレン基が特に好ましい。
nは、0又は1を表し、好ましくは0である。
【0035】
前記一般式(1)において、Pは、着色剤を形成する複素環残基を表す。着色剤を形成する複素環残基の着色剤及び複素環については、既述の通りであり、好ましい例も同様である。
更には、これらの複素環残基は、用いる顔料に類似する複素環残基であるのが好ましく、具体的には、キナクリドン系顔料に対してはアクリドン、アントラキノン等が特に好適に用いられる。
【0036】
以下、前記一般式(1)で表される繰り返し単位として好ましい具体例(例示単位M−1〜M−17)を挙げる。但し、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
本発明に係る特定重合体は、さらに末端にエチレン性不飽和2重結合を有する重合性オリゴマーを共重合させて、該重合性オリゴマーに由来の繰り返し単位を共重合単位として含むグラフト共重合体であることが特に好ましい。このような末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合性オリゴマーは、所定の分子量を有する化合物であることからマクロモノマーとも呼ばれる(以下、「マクロモノマー」ともいう。)。
【0040】
前記重合性オリゴマーは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分とからなるものである。このようなエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基は、ポリマー鎖の一方の末端にのみ有することが、所望のグラフト重合体を得るという観点から好ましい。
エチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基が好ましく、特に(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0041】
また、このマクロモノマーの分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)で1000〜10000の範囲内であることが好ましく、特に2000〜9000の範囲内が好ましい。
【0042】
前記ポリマー鎖部分は、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、並びに酢酸ビニル及びブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーから形成される単独重合体あるいは共重合体、あるいはポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリカプロラクトンが一般的である。
【0043】
前記重合性オリゴマーは、下記一般式(2)で表されるオリゴマーであることが好ましい。
【0044】
【化5】

【0045】
前記一般式(2)において、R11及びR13は、各々独立に水素原子又はメチル基を表す。
12は、炭素原子数1〜12のアルキレン基(好ましくは、炭素原子数2〜4のアルキレン基であり、置換基(例えば水酸基)を有していてもよく、さらにエステル結合、エーテル結合、アミド結合等がアルキレン鎖中に含まれていてもよい。)を表す。
Yは、フェニル基、又は−COOR14を表す。フェニル基は置換されていてもよく、置換基としては炭素原子数1〜4のアルキル基(例えば、メチル、エチル)などが挙げられる。R14は、炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル、エチル、ベンジル)、又はフェニル基を表す。中でもYは、無置換のフェニル基、又はR14が炭素原子数1〜4のアルキル基である−COOR14が好ましい。
qは、20〜200を表し、好ましくは25〜150であり、30〜100が特に好ましい。
【0046】
前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)の好ましい例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート、ポリ−i−ブチル(メタ)アクリレート、及びポリスチレンの分子末端の一個に(メタ)アクリロイル基が結合したポリマーを挙げることができる。前記重合性オリゴマーのうち、市場で入手できるものとしては、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー(Mn=6000、商品名:AS−6、東亜合成化学工業(株)製)、片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AA−6、東亜合成化学工業(株)製)、及び片末端メタクリロイル化ポリ−n−ブチルアクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AB−6、東亜合成化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0047】
前記重合性オリゴマーは、前記一般式(2)で表される重合性オリゴマーだけでなく、下記一般式(3)で表される重合性オリゴマーも好ましく、これらは後述する重合性もしくは架橋性材料に応じて適宜選択することが特に好ましい。
【0048】
【化6】

【0049】
前記一般式(3)において、R21は、水素原子又はメチル基を表し、メチル基が好ましい。
22は、炭素数1〜8のアルキレン基を表し、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基がより好ましい。
21は、−OR23又は−OCOR24を表す。ここで、R23及びR24は各々独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。R23は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基、又は「炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基」が好ましい。R24は、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。
nは、2〜200を表し、5〜100が好ましく、10〜100が特に好ましい。
【0050】
前記一般式(3)で表される重合性オリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられ、これらは市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよい。
【0051】
前記一般式(3)で表される重合性モノマーは、既述のように市販品としても入手可能であり、市販品としては、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート〔商品名:NKエステルM−40G,M−90G,M−230G(以上、東亜合成化学工業(株)製);商品名:ブレンマーPME−100,PME−200,PME−400,PME−1000,PME−2000、PME−4000(以上、日本油脂(株)製)〕、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350,日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPP−500、PP−800、PP−1000,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー70PEP−370B,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー55PET−800,日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーNHK−5050,日本油脂(株)製)などが挙げられる。
【0052】
本発明に係る特定重合体は、酸性顔料に対して塩基性基を持ったポリマーは酸塩基反応による相互作用を起こしやすくするため、さらに「窒素原子を有するモノマー」との共重合体であることが特に好ましい。
【0053】
本発明に係る特定重合体の好ましい共重合成分としては、窒素原子含有基及びエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとして、下記一般式(4)で表されるモノマーが好ましい。
【0054】
【化7】

【0055】
前記一般式(4)において、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2は、炭素原子数1〜12のアルキレン基を表し、炭素原子数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基が特に好ましい。
1は、−NR34、−R5−NR67、又は塩基性含窒素複素環基を表し、R3、R4、R6及びR7は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、又は炭素数6〜18のアリール基を表し、R5は炭素原子数1〜12のアルキレン基を表す。R3、R4、R6又はR7で表されるアルキル基としては、炭素原子数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましく、また、R3、R4、R6又はR7で表されるアリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましく、炭素数6〜10のアリール基が特に好ましい。R5は、炭素原子数1〜6のアルキレン基が好ましく、特に炭素原子数2〜3のアルキレン基が好ましい。
【0056】
前記X1で表される塩基性含窒素複素環基としては、ピリジル基(特に1−ピリジル基、2−ピリジル基)、ピペリジノ基(特に1−ピペリジノ基)、ピロリジル基(特に2−ピロリジル基)、ピロリジノ基、イミダゾリノ基、又はモルホリノ基(特に4−モルホリノ基)であることが好ましく、ピリジル基、イミダゾリノ基が特に好ましい。
また、m及びnは、各々独立に1又は0を表す。
【0057】
前記一般式(4)で表されるモノマーは、さらに下記一般式(4−2)〜(4−4)のいずれかで表される化合物であることが特に好ましい。
【0058】
【化8】

【0059】
但し、R21は一般式(4)中のR1と同義であり、R22は一般式(4)中のR2と同義であり、X2は一般式(4)中のX1と同義である。
【0060】


【化9】

【0061】
但し、R31は一般式(4)中のR1と同義であり、X3は一般式(4)中のX1と同義である〔好ましくは、X3は−NR3334(但し、R33及びR34は、それぞれに対応する一般式(4)におけるR3及びR4と同義である。)、あるいは−R35−NR3637(但し、R35、R36及びR37は、それぞれに対応する一般式(4)におけるR5、R6及びR7と同義である。)である。〕。
【0062】
【化10】

【0063】
但し、R41は一般式(4)中のR1と同義であり、X4は、ピロリジノ基、ピロリジル基、ピリジル基、ピペリジノ基、又はモルホリノ基を表す。
【0064】
前記一般式(4)で表される化合物のうち好ましい例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1、1−ジメチルメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−i−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエチル(メタ)アクリレート、1−ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチル−2−ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート及びN,N−メチルフェニルアミノエチル(メタ)アクリレート(以上、(メタ)アクリレート類);ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジ−i−ブチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノ(メタ)アクリルアミド、ピペリジノ(メタ)アクリルアミド、N−メチル−2−ピロリジル(メタ)アクリルアミド及びN,N−メチルフェニル(メタ)アクリルアミド(以上、(メタ)アクリルアミド類);2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチルメチル(メタ)アクリルアミド及び6−(N,N−ジエチルアミノ)ヘキシル(メタ)アクリルアミド(以上、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類);及び、ビニルピリジンを挙げることができる。
【0065】
本発明に係る特定重合体は、さらにこれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であることも好ましい態様である。他のモノマーの例として、不飽和カルボン酸(例、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸)、芳香族ビニル化合物(例、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールなど)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステル(例、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸置換アルキルエステル(例、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど)、カルボン酸ビニルエステル(例、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル)、シアン化ビニル(例、(メタ)アクリロニトリル及びα−クロロアクリロニトリル)、及び脂肪族共役ジエン(例、1、3−ブタジエン及びイソプレン)を挙げることができる。これらの中で、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステル及びカルボン酸ビニルエステルが好ましい。
【0066】
本発明の特定重合体は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)から与えられる単位とからなる共重合体、あるいは前記一般式(1)で表される単位と前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)から与えられる単位と「窒素原子を有するモノマー」から与えられる単位とからなる共重合体であることが特に好ましい。
【0067】
共重合体においては、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を、全繰り返し単位の5〜50質量%(特に5〜30質量%)の範囲で有することが好ましい。さらに、前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)から与えられる単位を、全繰り返し単位の30〜80質量%(特に50〜80質量%)、「窒素含有基を有するモノマー」から与えられる単位を、全繰り返し単位の5〜65質量%(特に5〜50質量%)の範囲で有することが好ましい。
さらに、これらと共重合可能な他のモノマーを用いる場合、他のモノマーから与えられる繰り返し単位を、全繰り返し単位の5〜30質量%の範囲で有することが好ましい。
【0068】
本発明の特定重合体の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜200,000の範囲が好ましく、特に10,000〜100,000の範囲が好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリスチレン換算重量平均分子量である。
【0069】
以下、本発明の特定重合体としてグラフト共重合体の例〔例示化合物1)〜22)〕を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0070】
1) 前記例示単位M−1を与えるモノマー/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(10:90質量比)共重合体
2) 前記例示単位M−1を与えるモノマー/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(15:85質量比)共重合体
3) 前記例示単位M−1を与えるモノマー/末端メタクリロイル化ポリカプロラクトン(20:80質量比)共重合体
4) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(10:90質量比)共重合体
5) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(20:80質量比)共重合体
6) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/末端メタクリロイル化ポリカプロラクトン(25:75質量比)共重合体
7) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(10:20:70質量比)共重合体
8) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(15:25:60質量比)共重合体
9) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(8:22:50:20質量比)共重合体
10) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(8:42:50質量比)共重合体
【0071】
11) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/2−ビニルピリジン/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(20:30:50質量比)共重合体
12) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/p−ビニルベンジル−N,N−ジメチルアミン/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(7:43:50質量比)共重合体
13) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/片末端メタクリロイル化ポリn−ブチルメタクリレート(10:10:80質量比)共重合体
14) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/スチレン/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(15:15:70質量比)共重合体
15) 前記例示単位M−4を与えるモノマー/N,N−ジメチルアクリルアミド/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(20:10:70質量比)共重合体、および(5:25:70質量比)共重合体
16) 前記例示単位M−6を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(10:40:50質量比)共重合体
17) 前記例示単位M−6を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(15:15:70質量比)共重合体
18) 前記例示単位M−6を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(10:20:70質量比)共重合体
19) 前記例示単位M−13を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(25:25:50質量比)共重合体
20) 前記例示単位M−13を与えるモノマー/4−ビニルピリジン/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(5:25:70質量比)共重合体
【0072】
21) 前記例示単位M−13を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(10:30:60質量比)共重合体
22) 前記例示単位M−14を与えるモノマー/3−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(15:25:60質量比)共重合体
【0073】
このようなグラフト重合体は、重合性オリゴマー、所望により併用される「窒素原子含有基を有するモノマー」や他のモノマーを、溶媒中でラジカル重合させることにより得ることができる。その際一般に、ラジカル重合開始剤が使用されるが、開始剤に加えてさらに連鎖移動剤(例、2−メルカプトエタノール及びドデシルメルカプタン)を添加して合成してもよい。
【0074】
本発明のインクジェット記録用インクセットには、「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」を1種のみ添加してもよいし、2種以上を併用してもよい。
「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」の、インクジェット記録用インクセットを構成する液体Aにおける含有量としては、顔料の量に対して、1〜100質量%が好ましく、2〜80質量%がより好ましく、5〜50質量%が更に好ましい。該含有量が前記範囲内であると、微細な顔料の分散性及びその安定性がより向上し、鮮明な色調と高い着色力も顕著に向上する。
なお、本発明のインクジェット記録用インクセットには、本発明の効果を損なわない限りにおいて、「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」と共に、顔料を分散させるための公知の分散剤を併用することができる。公知の分散剤の添加量としては、「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」の50質量%以下であることが好ましい。
【0075】
−重合性もしくは架橋性材料−
第1の液体A及び第2の液体Bは、重合性もしくは架橋性材料の少なくとも一種を用いて好適に構成することができ、好ましくは少なくとも第1の液体Aに用いて構成される。重合性もしくは架橋性材料は、後述する重合開始剤などから発生するラジカルなどの開始種により重合もしくは架橋反応を生起し、硬化する機能を有するものである。
【0076】
重合性もしくは架橋性材料としては、ラジカル重合反応、カチオン重合反応、二量化反応など公知の重合性もしくは架橋性材料を適用することができる。少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物、エポキシ系化合物、オキセタン系化合物、オキシラン系化合物、マレイミド基を側鎖に有する高分子化合物、芳香核に隣接した光二量化可能な不飽和二重結合を有するシンナミル基、シンナミリデン基やカルコン基等を側鎖に有する高分子化合物などが挙げられ、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物がより好ましく、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、より好ましくは2個以上有する化合物(単官能又は多官能化合物)から選択されるものであることが特に好ましい。具体的には、本発明に係る産業分野において広く知られるものの中から適宜選択することができ、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物、並びにそれらの共重合体などの化学的形態を持つものが含まれる。
【0077】
特に、カチオン重合性モノマー、ラジカル重合性モノマーとして知られる各種公知の重合性のモノマーが好ましく、具体的には、分子内にアクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、内部二重結合性基(マレイン酸など)等や、エポキシ基、オキセタニル基などを有するものが好ましく、中でも、低エネルギーで硬化反応を生起させ得る点で、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、オキセタニル基を有する化合物が好ましい。
【0078】
前記多官能化合物としては、ビニル基含芳香族化合物、2価以上のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリレート、2価以上のアミンと(メタ)アクリル酸とのアミドである(メタ)アクリルアミド、多塩基酸と2価アルコールとの結合で得られるエステル又はポリカプロラクトンに(メタ)アクリル酸を導入したポリエステル(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイドと多価アルコールとの結合で得られるエーテルに(メタ)アクリル酸を導入したポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を導入するか、あるいは2価以上のアルコールとエポシキ含有モノマーを反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン結合を持つウレタンアクリレート、アミノ樹脂アクリレート、アクリル樹脂アクリレート、アルキッド樹脂アクリレート、スピラン樹脂アクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、不飽和ポリエステルと前記光重合性モノマーとの反応生成物、及びワックス類と前記重合性モノマーとの反応生成物などが挙げられる。
【0079】
中でも、(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、不飽和ポリエステルと前記光重合性モノマーとの反応生成物が好ましく、アクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートが特に好ましい。
なお、本明細書中において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタアクリル酸の双方を取り得ることを示す。
【0080】
前記多官能化合物の具体例としては、ジビニルベンゼン、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,6−アクリロイルアミノヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、2塩基酸と2価アルコールとからなる分子量500〜30000のポリエステルの分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を持つポリエステルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノール(AあるいはS、F)骨格を有する分子量450〜30000のエポキシアクリレート、フェノールノボラック樹脂の骨格を含有する分子量600〜30000のエポキシアクリレート、分子量350〜30000の多価イソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリル酸モノマーとの反応物、分子内にウレタン結合を有するウレタン変性物などが挙げられる。
【0081】
また、単官能化合物として、(メタ)アクリレート、スチレン、アクリルアミド、ビニル基含有モノマー(ビニルエステル類、ビニルエーテル類、N−ビニルアミドなど)、(メタ)アクリル酸などを挙げることができ、(メタ)アクリレート、アクリルアミド、ビニルエステル類、ビニルエーテル類が好ましく、(メタ)アクリレート、アクリルアミドが特に好ましい。
重合性化合物は、無置換でも置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミド基、カルボン酸基などが挙げられる。
【0082】
前記単官能化合物の具体例としては、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、アリルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、2−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチルアクリレート、エステルにポリブチルアクリレート部位を有するアクリレート、エステルにポリジメチルシロキサン部位を有するアクリレートなどが挙げられる。
【0083】
さらに、カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892、同2001−40068、同2001−55507、同2001−310938、同2001−310937、同2001−220526などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが好適である。
【0084】
前記エポキシ化合物としては、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド等が挙げられる。
単官能エポキシ化合物の例としては、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0085】
多官能エポキシ化合物の例としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
これらのエポキシ化合物のなかでも、芳香族エポキシドおよび脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0086】
単官能ビニルエーテルの例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
【0087】
また、多官能ビニルエーテルの例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が挙げられる。
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性、被記録媒体との密着性、形成された画像の表面硬度などの観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0088】
オキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物をさし、特開2001−220526号、同2001−310937号、同2003−341217号の各公報に記載のように、公知オキセタン化合物を任意に選択して使用できる。
オキセタン環を有する化合物としては、その構造内にオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、インク組成物の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、また、硬化後のインクの被記録媒体との高い密着性を得ることができる。
【0089】
単官能オキセタンの例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4−フルオロ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4−メトキシ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0090】
多官能オキセタンの例としては、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3'−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールF(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等の多官能オキセタンが挙げられる。
【0091】
このようなオキセタン環を有する化合物については、前記特開2003−341217公報の段落番号〔0021〕〜〔0084〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物を好適に使用できる。
オキセタン化合物の中でも、インク組成物の粘度と粘着性の観点から、オキセタン環を1〜2個有する化合物を使用することが好ましい。
【0092】
カチオン重合性モノマーは、1種のみを用いても2種以上を併用してもよいが、硬化時の収縮を効果的に抑制する観点からは、少なくとも1種のオキセタン化合物とエポキシ化合物及びビニルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とを併用することが好ましい。
【0093】
重合性もしくは架橋性材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合性もしくは架橋性材料の、第1の液体A及び/又は第2の液体B中における含有量としては、各液滴の全固形分(質量)に対して、50〜99.6質量%の範囲が好ましく、70〜99.0質量%の範囲がより好ましく、80〜99.0質量%の範囲がさらに好ましい。
また、液滴中における含有量としては、各液滴の全質量に対して、20〜98質量%の範囲が好ましく、40〜95質量%の範囲がより好ましく、50〜90質量%の範囲が特に好ましい。
【0094】
−重合開始剤−
第1の液体A及び第2の液体Bは、重合開始剤の少なくとも一種を用いて好適に構成することができ、好ましくは少なくとも第2の液体Bに用いて構成される。この重合開始剤は、活性光、熱、あるいはその両方のエネルギーの付与によりラジカルなどの開始種を発生し、既述の重合性もしくは架橋性材料の重合もしくは架橋反応を開始、促進させ、硬化する化合物である。
【0095】
この重合開始剤は、第1の液体A並びに第2の液体Bの保存安定性を確保する観点から、重合性材料とは別に含有させることが望ましく、本発明においては、第1の液体Aが前記重合性もしくは架橋性材料を含有し、第2の液体Bやそれ以外の液体が重合開始剤を含有する形態が好ましい。
【0096】
重合性の態様において、ラジカル重合もしくはカチオン重合を起こさせる重合開始剤を含有することが好ましく、光重合開始剤を含有することが特に好ましい。
重合開始剤は、光の作用、又は増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸および塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物であり、中でも、露光という簡便な手段で重合開始させることができるという観点から前記光ラジカル発生剤、又は光酸発生剤であることが好ましい。
【0097】
光重合開始剤は、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
【0098】
具体的な光重合開始剤は当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993).や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73.81(1993).や、J.P.Faussier"Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications":Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998).や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996).に多く、記載されている。また、(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)に化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が多く、記載されている。さらには、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990).、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993).、H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990).、I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980).等に記載の、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0099】
好ましい光重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、等が挙げられる。
【0100】
前記(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」J.P.FOUASSIER J.F.RABEK (1993)、p77〜117記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物等が挙げられる。より好ましい(a)芳香族ケトン類の例としては、特公昭47−6416号公報記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特公平1−34242号公報、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号記載のα−アミノベンゾフェノン類、特開平2−211452号公報記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報記載のクマリン類等を挙げることができる。
【0101】
前記(b)芳香族オニウム塩化合物としては、周期律表の第V、VI及びVII族の元素、具体的にはN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、またはIの芳香族オニウム塩が含まれる。例えば、欧州特許104143号明細書、米国特許4837124号明細書、特開平2−150848号公報、特開平2−96514号公報に記載されるヨードニウム塩類、欧州特許370693号、同233567号、同297443号、同297442号、同279210号、および同422570号各明細書、米国特許3902144号、同4933377号、同4760013号、同4734444号、および同2833827号各明細書に記載されるスルホニウム塩類、ジアゾニウム塩類(置換基を有してもよいベンゼンジアゾニウム等)、ジアゾニウム塩樹脂類(ジアゾジフェニルアミンのホルムアルデヒド樹脂等)、N−アルコキシピリジニウム塩類等(例えば、米国特許4,743,528号明細書、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、および特公昭46−42363号各公報等に記載されるもので、具体的には1−メトキシ−4−フェニルピリジニウム テトラフルオロボレート等)、さらには特公昭52−147277号、同52−14278号、および同52−14279号各公報記載の化合物が好適に使用される。活性種としてラジカルや酸を生成する。
【0102】
前記(c)「有機過酸化物」としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、その例としては、3,3',4,4'−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'4,4'−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'4,4'−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'4,4'−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'4,4'−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3'4,4'−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0103】
前記(d)ヘキサアリールビイミダゾールとしては、特公昭45−37377号公報、特公昭44−86516号公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2'−ビス(o,o'−ジクロロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−メチルフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール、2,2'−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4',5,5'−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0104】
前記(e)ケトオキシムエステルとしては、例えば、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0105】
前記(f)ボレート化合物の例としては、米国特許3,567,453号、同4,343,891号、ヨーロッパ特許109,772号、同109,773号に記載されている化合物が挙げられる。
前記(g)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号、並びに特公昭46−42363号の各公報に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0106】
前記(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号、特開昭61−151197号、特開昭63−41484号、特開平2−249号、特開平2−4705号各公報記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号、特開平1−152109号各公報記載の鉄−アレーン錯体を挙げることができる。
【0107】
前記チタノセン化合物の具体例としては、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル)チタニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(メチルスルホンアミド)フェニル〕チタン、ビス(シクロペンタジエニル)ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(N−ブチルビアロイル−アミノ)フェニル〕チタン等を挙げることができる。
【0108】
前記(i)活性エステル化合物の例としては、欧州特許0290750号、同046083号、同156153号、同271851号、および同0388343号各明細書、米国特許3901710号、および同4181531号各明細書、特開昭60−198538号、および特開昭53−133022号各公報に記載されるニトロベンズルエステル化合物、欧州特許0199672号、同84515号、同199672号、同044115号、および同0101122号各明細書、米国特許4618564号、同4371605号、および同4431774号各明細書、特開昭64−18143号、特開平2−245756号、および特開平4−365048号各公報記載のイミノスルホネート化合物、特公昭62−6223号、特公昭63−14340号、および特開昭59−174831号各公報に記載される化合物等が挙げられる。
【0109】
前記(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物の好ましい例としては、例えば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42、2924(1969)記載の化合物、英国特許1388492号明細書記載の化合物、特開昭53−133428号公報記載の化合物、独国特許3337024号明細書記載の化合物等を挙げることができる。
【0110】
また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.29、1527(1964)記載の化合物、特開昭62−58241号公報記載の化合物、特開平5−281728号公報記載の化合物等を挙げることができる。ドイツ特許第2641100号に記載されているような化合物、ドイツ特許第3333450号に記載されている化合物、ドイツ特許第3021590号に記載の化合物群、あるいはドイツ特許第3021599号に記載の化合物群、等を挙げることができる。
【0111】
前記(a)〜(j)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下に示すものが挙げられる。
【0112】
【化11】

【0113】
【化12】

【0114】
【化13】

【0115】
【化14】

【0116】
【化15】

【0117】
【化16】

【0118】
【化17】

【0119】
【化18】

【0120】
なお、重合開始剤は感度に優れるものが好ましいが、例えば、80℃以下の温度で熱分解を起こすものを用いることは保存安定性の観点から好ましくなく、80℃までの温度では熱分解を起こさない重合開始剤を選択することが好ましい。
【0121】
重合開始剤は、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、感度向上の目的で公知の増感剤を併用することもできる。
【0122】
重合開始剤の第2の液体B中における含有量としては、経時安定性と硬化性、硬化速度との観点から、第1の液体A、第2の液体Bを画像形成に必要な最大量を媒体上に打滴した場合、単位面積あたりに塗設された重合性材料に対して、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%が更に好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。なお、含有量が多すぎる場合には、経時による析出や分離が生じたり、硬化後のインクの強度や擦り耐性などの性能が悪化したりすることがある。
【0123】
なお、重合開始剤を第2の液体Bに含有すると共に第1の液体Aに含有させてもよく、この場合には、第1の液体Aの保存安定性を所望の程度に保持できる範囲で適宜選択して含有することができる。
また、重合開始剤は、第2の液体Bに含有せず既述の第1の液体Aに含有させるようにしてもよい。この場合は、第1の液滴中の含有量は、第1の液体A中の重合性もしくは架橋性化合物に対して、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。
【0124】
−−増感色素−−
本発明においては、光重合開始剤の感度を向上させる目的で、増感色素を添加してもよい。好ましい増感色素の例としては、以下の化合物類に属しており、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有するものを挙げることができる。
【0125】
多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)。
【0126】
より好ましい増感色素の例としては、下記一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物が挙げられる。
【0127】
【化19】

【0128】
式(IX)中、A1は硫黄原子またはNR50を表し、R50はアルキル基またはアリール基を表し、L2は隣接するA1及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R51、R52はそれぞれ独立に水素原子または一価の非金属原子団を表し、R51、R52は互いに結合して、色素の酸性核を形成してもよい。Wは酸素原子または硫黄原子を表す。
式(X)中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立にアリール基を表し、−L3−による結合を介して連結している。ここでL3は−O−または−S−を表す。また、Wは一般式(IX)に示したものと同義である。
式(XI)中、A2は硫黄原子またはNR59を表し、L4は隣接するA2及び炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R53、R54、R55、R56、R57及びR58はそれぞれ独立に一価の非金属原子団の基を表し、R59はアルキル基またはアリール基を表す。
【0129】
式(XII)中、A3、A4はそれぞれ独立に−S−または−NR62−または−NR63−を表し、R62、R63はそれぞれ独立に置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基を表し、L5、L6はそれぞれ独立に、隣接するA3、A4及び隣接炭素原子と共同して色素の塩基性核を形成する非金属原子団を表し、R60、R61はそれぞれ独立に水素原子または一価の非金属原子団であるか又は互いに結合して脂肪族性または芳香族性の環を形成することができる。
式(XIII)中、R66は置換基を有してもよい芳香族環またはヘテロ環を表し、A5は酸素原子、硫黄原子または−NR67−を表す。R64、R65及びR67はそれぞれ独立に水素原子または一価の非金属原子団を表し、R67とR64、及びR65とR67はそれぞれ互いに脂肪族性または芳香族性の環を形成するため結合することができる。
【0130】
前記一般式(IX)〜(XIII)で表される化合物の好ましい具体例としては、以下に示す例示化合物(A−1)〜(A−20)などが挙げられる。
【0131】
【化20】

【0132】
【化21】

【0133】
−−共増感剤−−
さらに、感度を一層向上させる、あるいは酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として加えてもよい。
共増感剤の例としては、アミン類、例えばM.R.Sanderら著「Journal of Polymer Society」第10巻3173頁(1972)、特公昭44−20189号公報、特開昭51−82102号公報、特開昭52−134692号公報、特開昭59−138205号公報、特開昭60−84305号公報、特開昭62−18537号公報、特開昭64−33104号公報、Research Disclosure 33825号記載の化合物等が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0134】
別の例としては、チオールおよびスルフィド類、例えば、特開昭53−702号公報、特公昭55−500806号公報、特開平5−142772号公報記載のチオール化合物、特開昭56−75643号公報のジスルフィド化合物等が挙げられ、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等が挙げられる。
また別の例としては、アミノ酸化合物(例、N−フェニルグリシン等)、特公昭48−42965号公報記載の有機金属化合物(例、トリブチル錫アセテート等)、特公昭55−34414号公報記載の水素供与体、特開平6−308727号公報記載のイオウ化合物(例、トリチアン等)、特開平6−250387号公報記載のリン化合物(ジエチルホスファイト等)、特開平8−65779号公報記載のSi−H、Ge−H化合物等が挙げられる。
【0135】
−着色剤−
第1の液体Aは、着色剤として顔料の少なくとも一種を用いて構成される。なお、着色剤は、第1の液体A以外に、第2の液体Bやその他の液体に含有してもよい。
【0136】
着色剤としては、顔料以外には特に制限はなく、公知の水溶性染料、油溶性染料等から適宜選択して用いることができる。中でも、本発明に係る第1の液体A及び第2の液体Bは非水溶性の有機溶剤系に構成されるのが本発明の効果の観点から好ましく、非水溶性媒体に均一に分散、溶解しやすい油溶性染料を用いるのが好ましい。
【0137】
着色剤は、好ましくは第1の液体A中の含有量が1〜30質量%であり、更に好ましくは1.5〜25%であり、特に好ましくは2〜15%である。また、第2の液体B中の含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下が更に好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0138】
以下、顔料及び油溶性染料について詳細に説明する。
〜顔料〜
第1の液体Aは、着色剤として顔料の少なくとも一種を含有する。複数の液の混合時に凝集が生じやすいため効果の点で、顔料を用いることは好ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用できるが、黒色顔料としては、カーボンブラック顔料等が好ましく挙げられる。また、一般には黒色、並びにシアン、マゼンタ、及びイエローの3原色の顔料が用いられるが、その他の色相、例えば、赤、緑、青、茶、白等の色相を有する顔料や金、銀色等の金属光沢顔料、無色又は淡色の体質顔料なども目的に応じて用いることができる。
【0139】
有機顔料としては、色相的に限定されるものではなく、例えば、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロン、もしくはイソビオラントロン系顔料、又はそれらの混合物などが挙げられる。
【0140】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメント・レッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメント・レッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメント・バイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン系顔料、C.I.ピグメント・オレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメント・レッド194(C.I.番号71100)等のペリノン系顔料、C.I.ピグメント・バイオレット19(C.I.番号73900)、C.I.ピグメント・バイオレット42、C.I.ピグメント・レッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメント・レッド192、C.I.ピグメント・レッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメント・レッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメント・レッド209(C.I.番号73905)のキナクリドン系顔料、C.I.ピグメント・レッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメント・オレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメント・オレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン系顔料、C.I.ピグメント・イエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメント・レッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン系顔料、C.I.ピグメント・ブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメント・バイオレット32(C.I.番号12517)、C.I.ピグメント・イエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメント・イエロー181(C.I.番号11777)、C.I.ピグメント・オレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメント・レッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン系顔料、C.I.ピグメント・イエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメント・イエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメント・イエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメント・イエロー128(C.I.番号20037)、C.I.ピグメント・イエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメント・オレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメント・オレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメント・オレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメント・レッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメント・レッド166(C.I.番号20730)、C.I.ピグメント・レッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメント・レッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメント・レッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメント・レッド248、C.I.ピグメント・レッド262、もしくはC.I.ピグメント・ブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合系顔料、
【0141】
C.I.ピグメント・イエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメント・イエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメント・イエロー188(C.I.番号21094)等のジスアゾ系顔料、C.I.ピグメント・レッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメント・レッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメント・イエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメント・イエロー150(C.I.番号48545)、C.I.ピグメント・レッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメント・レッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメント・オレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメント・レッド247(C.I.番号15915)等のアゾ系顔料、C.I.ピグメント・ブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン系顔料、C.I.ピグメント・グリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメント・グリーン36(C.I.番号74265)、ピグメント・グリーン37(C.I.番号74255)、ピグメント・ブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメント・ブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくは15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン系顔料、C.I.ピグメント・ブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメント・ブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム系顔料、C.I.ピグメント・バイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメント・バイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン系顔料、C.I.ピグメント・レッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン系顔料、C.I.ピグメント・レッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメント・レッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメント・レッド264、C.I.ピグメント・レッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメント・オレンジ71、もしくはC.I.ピグメント・オレンジ73等のジケトピロロピロール系顔料、C.I.ピグメント・レッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ系顔料、C.I.ピグメント・イエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメント・オレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン系顔料、C.I.ピグメント・イエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメント・オレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン系顔料、C.I.ピグメント・オレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメント・レッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン系顔料、又はC.I.ピグメント・バイオレット31(60010)等のイソビオラントロン系顔料が挙げられる。
本発明においては、2種類以上の有機顔料又は有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。
【0142】
また、シリカ、アルミナ、樹脂などの粒子を芯材とし、表面に染料又は顔料を固着させた粒子、染料の不溶レーキ化物、着色エマルション、着色ラテックス等も顔料として使用することができる。さらに、樹脂被覆された顔料を使用することもできる。これは、マイクロカプセル顔料と呼ばれ、大日本インキ化学工業社製、東洋インキ社製などの市販品が入手可能である。
【0143】
液中に含有される顔料粒子の体積平均粒子径は、光学濃度と保存安定性とのバランスといった観点からは、10〜250nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは50〜200nmである。ここで、顔料粒子の体積平均粒子径は、例えば、LB−500(HORIBA(株)製)などの測定装置により測定することができる。
【0144】
〜油溶性染料〜
油溶性染料としては、特に制限はなく、任意のものを選択して使用することができる。以下、油溶性染料を色相別に例示する。
イエロー染料としては、例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;カップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物類を有するアゾメチン染料;ベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;ナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などが挙げられ、その他の染料種として、キノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0145】
マゼンタ染料としては、例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;カップリング成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料;アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、オキソノール染料のようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、ナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン系染料、ジオキサジン染料等のような縮合多環系染料等を挙げることができる。
【0146】
シアン染料としては、例えば、インドアニリン染料、インドフェノール染料、あるいはカップリング成分としてピロロトリアゾール類を有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料のようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料、インジゴ・チオインジゴ染料を挙げることができる。
【0147】
前記各染料は、発色原子団(クロモフォア)の一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
【0148】
着色剤は、1種単独のみならず、2種以上を混合して使用してもよい。また、打滴する液滴及び液体ごとに異なる着色剤を用いてもよいし、同一の着色剤を用いてもよい。
【0149】
第2の液体Bには、上記した「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」を、第1の液体Aに含有すると共に好適に用いることができ、好ましくは、sp値が35以下となるように調製される。第2の液体Bは、非水溶性であって、油溶性の有機溶剤系側の性質に調整された状態が好ましい。
【0150】
第2の液体Bのsp値が35以下であると、例えば既述のように重合性もしくは架橋性材料を含む第1の液体A(液滴a1、液滴a2、・・・)との間の親和性が増大し、第1の液滴a1及び液滴a2を互いに重なり部分を有して付与したときの液滴同士の合一を抑止でき、画像の滲み及び画像中の細線などの線幅バラツキの発生を効果的に防止することができる。
【0151】
第1の液体Aの液滴a1、液滴a2、・・・は、重合性もしくは架橋性材料を含んで有機溶剤系に好適に調製でき、有機溶剤系に調製されているときには第2の液体Bと混合しやすく、互いに接触して重なり部分を有するように打滴される第1の液滴a1と液滴a2との間など液滴間の合一を効果的に回避できる。これにより、既述のように、画像の滲み及び画像中の細線などの線幅バラツキの発生を効果的に防止される。
【0152】
第2の液体Bのsp値の調整は、親油性溶剤(高沸点有機溶媒、重合性化合物)などを用いて好適に行なえる。好ましい調整態様の一つとして、親油性溶剤を第2の液体Bの全質量の50質量%以上100質量%以下の範囲で含有する構成とすることができる。親油性溶剤の含有量が前記範囲内であると、sp値を低減して35以下の範囲に調整することができる。
第2の液体のsp値のより好ましい範囲は、30以下であり、特に好ましくは25以下である。
【0153】
sp値は、種々の溶剤、溶質に対して定義されるものであり、溶剤/溶剤間、溶剤/溶質間における溶けやすさを示す値である。この値は、溶剤と溶剤とが混ざり合う場合、溶剤に溶質が溶ける場合のエネルギーの変化から算出されるものであり、本発明で用いたsp値は、具体的には、東北大学 R.L.smithによるsp値計算プログラムにより計算して得られるものである。計算に際しては、25℃を基準とし、炭素原子を含まない化合物を除き、ポリマーやポリエチレン鎖等の構成単位については結合手を持つ飽和の繰り返し単位(例えばスチレンの場合は-CH2-CH(C6H5)-)とし、水(H2O)は47.8として計算される。
【0154】
−親油性溶剤−
親油性溶剤は、画像の滲み及び画像中の細線などの線幅バラツキの発生防止に効果的であると共に、第2の液体のsp値を既述の範囲に調整することができる。
「親油性」とは、水100ccに対して1g以下の溶解性を有する化合物をいう。
【0155】
なお、親油性溶剤は、第2の液体Bに含有すると共にあるいは含有せずに、既述の第1の液体Aに含有することもできる。また、第2の液体B並びに第1の液体A以外の他の液体に含有するようにしてもよい。
【0156】
親油性溶剤としては、高沸点有機溶媒、既述の重合性の化合物(重合性もしくは架橋性材料)などが挙げられ、ノズル固化回避などの観点からは高沸点有機溶剤を用いることが好ましく、また、インクにより形成する膜の膜強度を高める観点からは、既述の重合性もしくは架橋性材料より選ばれる重合性の化合物を用いることが好ましい。
以下、本発明において好適な高沸点有機溶媒について説明する。
【0157】
前記高沸点有機溶媒としては、(1) 25℃での粘度が100mPa・s以下又は60℃での粘度が30mPa・s以下であり、かつ(2) 沸点が100℃よりも高いものが好ましい。
【0158】
前記(1) の粘度条件のいずれをも満たさない高沸点有機溶媒では、粘度が高くなって、被記録媒体上への付与に支障を来すことがあり、前記(2) の沸点条件を満たさない高沸点有機溶媒では、沸点が低くなりすぎて画像記録中に蒸発し、本発明の効果が低下することがある。
【0159】
前記(1) の条件のうち、25℃での粘度は、更に70mPa・s以下の範囲が好ましく、40mPa・s以下の範囲がより好ましく、20mPa・s以下の範囲が特に好ましい。60℃での粘度は、更に20mPa・s以下の範囲が好ましく、10mPa・s以下の範囲が特に好ましい。また、前記(2) の条件については、沸点は150℃以上の範囲がより好ましく、170℃以上の範囲が特に好ましい。また、融点の下限値としては80℃以下の範囲が好ましい。更には、水の溶解度(25℃)が4g以下であるものが好ましく、3g以下の範囲がより好ましく、2g以下の範囲がさらに好ましく、1g以下の範囲が特に好ましい。
【0160】
ここでの「粘度」は、東機産業(株)製のRE80型粘度計を用いて求めた粘度である。RE80型粘度計は、E型に相当する円錐ロータ/平板方式粘度計であり、ロータコードNo.1番のロータを用い、10r.p.m.の回転数にて測定を行なった。但し、60mPa・sより高粘なものについては、必要により回転数を5r.p.m.、2.5r.p.m.、1r.p.m.、0.5r.p.m.等に変化させて測定を行なった。
【0161】
なお、「水の溶解度」とは、25℃における高沸点有機溶媒中の水の飽和濃度であり、25℃での高沸点有機溶媒100gに溶解できる水の質量(g)を意味する。
【0162】
前記高沸点有機溶媒としては、下記式〔S−1〕〜〔S−9〕で表される化合物が好ましい。
【0163】
【化22】

【0164】
前記式〔S−1〕においてR1、R2及びR3は各々独立に、脂肪族基又はアリール基を表す。また、a,b,cは、各々独立に0又は1を表す。
【0165】
式〔S−2〕においてR4及びR5は各々独立に、脂肪族基又はアリール基を表し、R6は、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I以下同じ)、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基を表し、dは0〜3の整数を表す。dが複数のとき、複数のR6は同じでも異なっていてもよい。
【0166】
式〔S−3〕においてArはアリール基を表し、eは1〜6の整数を表し、R7はe価の炭化水素基又はエーテル結合で互いに結合した炭化水素基を表す。
【0167】
式〔S−4〕においてR8は脂肪族基を表し、fは1〜6の整数を表し、R9はf価の炭化水素基又はエーテル結合で互いに結合した炭化水素基を表す。
【0168】
式〔S−5〕においてgは2〜6の整数を表し、R10はg価の炭化水素基(ただしアリール基を除く)を表し、R11は脂肪族基又はアリール基を表す。
【0169】
式〔S−6〕においてR12、R13及びR14は各々独立に、水素原子、脂肪族基又はアリール基を表す。Xは−CO−又は−SO2−を表す。R12とR13又はR13とR14は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0170】
式〔S−7〕においてR15は脂肪族基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリール基又はシアノ基を表し、R16はハロゲン原子、脂肪族基、アリール基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表し、hは0〜3の整数を表す。hが複数のとき、複数のR16は同じでも異なっていてもよい。
【0171】
式〔S−8〕においてR17及びR18は、各々独立に、脂肪族基又はアリール基を表し、R19はハロゲン原子、脂肪族基、アリール基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表し、iは0〜5の整数を表す。iが複数のとき、複数のR19は同じでも異なっていてもよい。
【0172】
式〔S−9〕においてR20及びR21は、各々独立に、脂肪族基又はアリール基を表す。jは1又は2を表す。R20及びR21は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0173】
式〔S−1〕〜〔S−9〕においてR1〜R6、R8、R11〜R21が脂肪族基又は脂肪族基を含む基であるとき、脂肪族基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、また不飽和結合を含んでいても置換基を有していてもよい。置換基の例として、ハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、エポキシ基等がある。
【0174】
式〔S−1〕〜〔S−9〕においてR1〜R6、R8、R11〜R21が環状脂肪族基、すなわちシクロアルキル基であるか、又はシクロアルキル基を含む基であるとき、シクロアルキル基は3〜8員の環内に不飽和結合を含んでよく、また置換基や架橋基を有していてもよい。置換基の例としてハロゲン原子、脂肪族基、ヒドロキシル基、アシル基、アリール基、アルコキシ基、エポキシ基等があり、架橋基の例としてメチレン、エチレン、イソプロピリデン等が挙げられる。
【0175】
式〔S−1〕〜〔S−9〕においてR1〜R6、R8、R11〜R21、Arがアリール基又はアリール基を含む基であるとき、アリール基はハロゲン原子、脂肪族基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0176】
式〔S−3〕、〔S−4〕、〔S−5〕においてR7、R9又はR10が炭化水素基であるとき、炭化水素基は環状構造(例えばベンゼン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環)や不飽和結合を含んでいてもよく、また置換基を有していてもよい。置換基の例としてハロゲン原子、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、エポキシ基等がある。
【0177】
以下に、式〔S−1〕〜〔S−9〕で表される高沸点有機溶媒の中でも、特に好ましい高沸点有機溶媒について述べる。
式〔S−1〕においてR1、R2及びR3は、各々独立して、炭素原子数1〜24(好ましくは4〜18)の脂肪族基(例えばn−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、EH−オクチル、2−エチルヘキシル、3,3,5−トリメチルヘキシル、3,5,5−トリメチルヘキシル、n−ドデシル、n−オクタデシル、ベンジル、オレイル、2−クロロエチル、2,3−ジクロロプロピル、2−ブトキシエチル、2−フェノキシエチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−t−ブチルシクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル)、又は炭素原子数6〜24(好ましくは6〜18)のアリール基(例えばフェニル、クレジル、p−ノニルフェニル、キシリル、クメニル、p−メトキシフェニル、p−メトキシカルボニルフェニル)が好ましい。これらの中でも、R1、R2及びR3は特に、n−ヘキシル、n−オクチル、EH−オクチル、2−エチルヘキシル、3,5,5−トリメチルヘキシル、n−ドデシル、2−クロロエチル、2−ブトキシエチル、シクロヘキシル、フェニル、クレジル、p−ノニルフェニル、クメニルが好ましい。
a、b、cは各々独立に0又は1であり、より好ましくはa、b、cすべて1である。
【0178】
式〔S−2〕においてR4及びR5は、各々独立して、炭素原子数1〜24(好ましくは4〜18)の脂肪族基(例えば前記R1について挙げた脂肪族基と同じ基、ヘプチル、エトキシカルボニルメチル、1,1−ジエチルプロピル、2−エチル−1−メチルヘキシル、シクロヘキシルメチル、1−エチル−1,5−ジメチルヘキシル、3,5,5−トリメチルシクロヘキシル、メンチル、ボルニル、1−メチルシクロヘキシル)、又は炭素原子数6〜24(好ましくは6〜18)のアリール基(例えば前記R1について挙げたアリール基、4−t−ブチルフェニル、4−t−オクチルフェニル、1,3,5−トリメチルフェニル、2,4,−ジ−t−ブチルフェニル、2,4,−ジ−t−ペンチルフェニル)が好ましい。これらの中でも、R4及びR5は更に、脂肪族基が好ましく、特に、n−ブチル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、n−ドデシル、2−ブトキシエチル、エトキシカルボニルメチルが好ましい。
6はハロゲン原子(好ましくは塩素原子)、炭素原子数1〜18のアルキル基(例えばメチル、イソプロピル、t−ブチル、n−ドデシル)、炭素原子数1〜18のアルコキシ基(例えばメトキシ、n−ブトキシ、n−オクチルオキシ、メトキシエトキシ、ベンジルオキシ)、炭素原子数6〜18のアリールオキシ基(例えばフェノキシ、p−トリルオキシ、4−メトキシフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ)又は炭素原子数2〜19のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル)又は炭素原子数6〜25のアリールオキシカルボニル基が好ましい。これらの中でも、R6は更に、アルコキシカルボニル基が好ましく、特に、n−ブトキシカルボニルが好ましい。
dは0又は1である。
【0179】
式〔S−3〕においてArは炭素原子数6〜24(好ましくは6〜18)のアリール基(例えばフェニル、4−クロロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、4−メトキシフェニル、1−ナフチル、4−n−ブトキシフェニル、1,3,5−トリメチルフェニル、2−(2−n−ブトキシカルボニルフェニル)フェニル)が好ましく、これらの中でも、Arは特に、フェニル、2,4−ジクロロフェニル、2−(2−n−ブトキシカルボニルフェニル)フェニルが好ましい。
eは1〜4(好ましくは1〜3)の整数である。
7はe価の炭素原子数2〜24(好ましくは2〜18)の炭化水素基〔例えば前記R4について挙げた脂肪族基、n−オクチル、前記R4について挙げたアリール基、−(CH22−、
【0180】
【化23】

【0181】
〕又はe価の炭素原子数4〜24(好ましくは4〜18)のエーテル結合で互いに結合した炭化水素基〔例えば、−CH2CH2OCH2CH2−、−CH2CH2(OCH2CH23−、−CH2CH2CH2OCH2CH2CH2−、
【0182】
【化24】

【0183】
〕が好ましい。これらの中でも、R7は、更にアルキル基が好ましく、特に、n−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシルが好ましい。
【0184】
式〔S−4〕においてR8は炭素原子数1〜24(好ましくは1〜17)の脂肪族基(例えばメチル、n−プロピル、1−ヒドロキシエチル、1−エチルペンチル、n−ヘプチル、n−ウンデシル、n−トリデシル、ペンタデシル、8,9−エポキシヘプタデシル、シクロプロピル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル)が好ましく、これらの中でも、R8は特に、n−ヘプチル、n−トリデシル、1−ヒドロキシエチル、1−エチルペンチル、8,9−エポキシヘプタデシルが好ましい。
fは1〜4(好ましくは1〜3)の整数である。
9はf価の炭素原子数2〜24(好ましくは2〜18)の炭化水素基又はf価の炭素原子数4〜24(好ましくは4〜18)のエーテル結合で互いに連結した炭化水素基(例えば前記R7について挙げた基、1―メチル−2−メトキシエチル、2−ヘキシルデシル)が好ましく、これらの中でも、R9は特に、2−エチルヘキシル、2−ヘキシルデシル、1―メチル−2−メトキシエチル、
【0185】
【化25】

【0186】
が好ましい。
【0187】
式〔S−5〕においてgは2〜4(好ましくは2又は3)である。
10はg価の炭化水素基〔例えば、−CH2−、−(CH22−、−(CH24−、−(CH27−、−(CH28−、
【0188】
【化26】

【0189】
〕が好ましく、これらの中でも、R10は特に、−(CH24−、−(CH28−、
【0190】
【化27】

【0191】
が好ましい。
11は炭素原子数1〜24(好ましくは4〜18)の脂肪族基、又は炭素原子数6〜24(好ましくは6〜18)のアリール基(例えば前記R4について挙げた脂肪族基、アリール基)が好ましく、これらの中でも、R11は、更にアルキル基が好ましく、特に、n−ブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシルが好ましい。
【0192】
式〔S−6〕において、R12は水素原子、炭素原子数1〜24の脂肪族基(好ましくは3〜20)〔例えばn−プロピル、1−エチルペンチル、n−ウンデシル、n−ペンタデシル、2,4−ジ−t−ペンチルフェノキシメチル、4−t−オクチルフェノキシメチル、3−(2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ)プロピル、1−(2,4−ジ−t−ブチルフェキシ)プロピル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、8−N,N−ジエチルカルバモイルオクチル〕、又は炭素原子数6〜24(好ましくは6〜18)のアリール基(例えば前記Arについて挙げたアリール基、3−メチルフェニル、2−(N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル)フェニル)が好ましく、これらの中でも、R12は特に、n−ウンデシル、8−N,N−ジエチルカルバモイルオクチル、3−メチルフェニル、2−(N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル)フェニルが好ましい。
13及びR14は、水素原子、炭素原子数1〜24(好ましくは1〜18)の脂肪族基(例えばメチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ドデシル、n−テトラデシル、シクロペンチル、シクロプロピル)又は炭素原子数6〜18(好ましくは6〜15)のアリール基(例えばフェニル、1−ナフチル、p−トリル)が好ましく、これらの中でも、R13及びR14は特に、メチル、エチル、n−ブチル、n−オクチル、n−テトラデシル、フェニルが好ましい。
13とR14とが互いに結合し、Nとともにピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環を形成してもよく、R12とR13とが互いに結合し、Nとともにピロリドン環、ピペリジン環を形成してもよい。
Xは−CO−又は−SO2−であり、好ましくはXは−CO−である。
【0193】
式〔S−7〕においてR15は炭素原子数1〜24(好ましくは3〜18)の脂肪族基(例えばメチル、イソプロピル、t−ブチル、t−ペンチル、t−ヘキシル、t−オクチル、2−ブチル、2−ヘキシル、2−オクチル、2−ドデシル、2−ヘキサデシル、t−ペンタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル)、炭素原子数2〜24(好ましくは5〜17)のアルコキシカルボニル基(例えばn−ブトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル、n−ドデシルオキシカルボニル)、炭素原子数7〜24(好ましくは7〜18)のアリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基、クレジルオキシカルボニル基)、炭素原子数1〜24(好ましくは1〜18)のアルキルスルホニル基(例えばメチルスルホニル、n−ブチルスルホニル、n−ドデシルスルホニル)、炭素原子数6〜30(好ましくは6〜24)のアリールスルホニル基(例えばp−トリルスルホニル、p−ドデシルフェニルスルホニル、p−ヘキサデシルオキシフェニルスルホニル)、炭素原子数6〜32(好ましくは6〜24)のアリール基(例えばフェニル、p−トリル)又はシアノ基が好ましく、これらの中でも、R15は、更に炭素原子数1〜24の脂肪族基、炭素原子数2〜24のアルコキシカルボニル基がより好ましく、特に、炭素原子数1〜24の脂肪族基が好ましい。
16はハロゲン原子(好ましくはCl)、炭素原子数1〜24(好ましくは1〜18)の脂肪族基{より好ましくは、アルキル基(例えば前記R15について挙げたアルキル基)、炭素原子数3〜18(更に好ましくは5〜17)のシクロアルキル基(例えばシクロペンチル、シクロヘキシル)}、炭素原子数6〜32(好ましくは6〜24)のアリール基(例えばフェニル、p−トリル)、炭素原子数1〜24(好ましくは1〜18)のアルコキシ基(例えばメトキシ、n−ブトキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ベンジルオキシ、n−ドデシルオキシ、n−ヘキサデシルオキシ)又は炭素原子数6〜32(好ましくは6〜24)のアリールオキシ基(例えばフェノキシ、p−t−ブチルフェノキシ、p−t−オクチルフェノキシ、m−ペンタデシルフェノキシ、p−ドデシルオキシフェノキシ)であり、これらの中でも、R16は、更に炭素原子数1〜24の脂肪族基がより好ましく、特に炭素原子数1〜12の脂肪族基が好ましい。
hは1〜2の整数である。
【0194】
式〔S−8〕においてR17及びR18の好ましい例は、前記R13及びR14における水素原子以外の例と同じであり、これらの中でも、R17及びR18は、更に脂肪族基がより好ましく、特に、n−ブチル、n−オクチル、n−ドデシルが好ましい。但し、R17及びR18は互いに結合して環を形成することはない。
19の好ましい例は、前記R16と同じであり、これらの中でもR19は、更にアルキル基及びアルコキシ基がより好ましく、特に、n−オクチル、メトキシ、n−ブトキシ、n−オクチルオキシが好ましい。
iは1〜5の整数である。
【0195】
式〔S−9〕においてR20及びR21の好ましい例は、結合して環を形成しない場合には、前記R1、R2及びR3と同じであり、これらの中でもR20及びR21は、特に、炭素原子数1〜24の置換又は無置換の脂肪族基が好ましい。
20とR21とが互いに結合し環を形成してもよく、形成される環としては、3〜10員環が好ましく、5〜7員環が特に好ましい。
jは1又は2を表し、好ましくは、jは1である。
【0196】
以下、高沸点有機溶媒の具体例(例示化合物S−1〜S−53)並びに、各高沸点有機溶媒の粘度(25℃及び60℃の環境下、前記手段により測定した値;mPa・s)及び沸点(℃)を示す。
ここで、高沸点有機溶媒の沸点は、減圧蒸留時の沸点から常圧に換算した値である。なお、下記具体例において、沸点の記載のないものは170℃で沸騰しないことが確認されたものであり、25℃における粘度の記載のないものは25℃で固体であることを表す。
【0197】
【化28】

【0198】
【化29】

【0199】
【化30】

【0200】
【化31】

【0201】
【化32】

【0202】
【化33】

【0203】
【化34】

【0204】
【化35】

【0205】
【化36】

【0206】
高沸点有機溶媒は、1種類を単独で用いても、2種以上〔例えば、トリクレジルホスフェートとジブチルフタレート、トリオクチルホスフェートとジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジブチルフタレートとポリ(N−t−ブチルアクリルアミド)〕を混合して使用してもよい。
【0207】
高沸点有機溶媒の前記以外の化合物例、及び/又はこれら高沸点有機溶媒の合成方法については、例えば、米国特許第2,322,027号、同第2,533,514号、同第2,772,163号、同第2,835,579号、同第3,594,171号、同第3,676,137号、同第3,689,271号、同第3,700,454号、同第3,748,141号、同第3,764,336号、同第3,765,897号、同第3,912,515号、同第3,936,303号、同第4,004,928号、同第4,080,209号、同第4,127,413号、同第4,193,802号、同第4,207,393号、同第4,220,711号、同第4,239,851号、同第4,278,757号、同第4,353,979号、同第4,363,873号、同第4,430,421号、同第4,430,422号、同第4,464,464号、同第4,483,918号、同第4,540,657号、同第4,684,606号、同第4,728,599号、同第4,745,049号、同第4,935,321号、同第5,013,639号、欧州特許第276,319A号、同第286,253A号、同第289,820A号、同第309,158A号、同第309,159A号、同第309,160A号、同第509,311A号、同第510,576A号、東独特許第147,009号、同第157,147号、同第159,573号、同第225,240A号、英国特許第2,091,124A号等の各明細書、特開昭48−47335号、同50−26530号、同51−25133号、同51−26036号、同51−27921号、同51−27922号、同51−149028号、同52−46816号、同53−1520号、同53−1521号、同53−15127号、同53−146622号、同54−91325号、同54−106228号、同54−118246号、同55−59464号、同56−64333号、同56−81836号、同59−204041号、同61−84641号、同62−118345号、同62−247364号、同63−167357号、同63−214744号、同63−301941号、同64−9452号、同64−9454号、同64−68745号、特開平1−101543号、同1−102454号、同2−792号、同2−4239号、同2−43541号、同4−29237号、同4−30165号、同4−232946号、同4−346338号等の各公報に記載されている。
【0208】
本発明においては、沸点が100℃よりも高い高沸点有機溶剤が好適であり、更には沸点が170℃よりも高い高沸点有機溶剤が好ましい。
【0209】
親油性溶剤の第2の液体中における添加量としては、該液体の全質量に対して、50%質量以上100質量%以下の範囲が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下が特に好ましい。
【0210】
第1の液体Aは、第2の液体Bとのsp値の差が10以下となるように調製される。第1の液滴a1の打滴前に予め付与される第2の液体Bとのsp値の差が10以下で親和性が高く、後続の液滴a2と接触させて打滴されたときの液滴同士の合一を効果的に防止することができる。好ましいsp値の差は、5以下である。
第1の液体Aと第2の液体Bとの間のsp値の差が前記範囲内であると、互いに溶解しやすく、液滴a1は液滴a2との間よりも液滴Bとの間の方が接触面積が大きいため第2の液体Bとの間で親和性が良好になり、したがって例えば、互いに重なり部分を有して付与される液滴a1、液滴a2、・・・が着色剤を含有する場合に、液滴a1及び液滴a2間で色滲みや混色を起こしたり、着色された線像の線幅バラツキの回避に効果的である。
【0211】
sp値の調整は、後述の親油性溶剤、重合性材料などを用いて好適に調整が可能であり、例えば液滴中の親油性溶剤の割合を高めることでよりsp値を下げることができる。
【0212】
本発明においては、好ましい形態として、
(1)第1の液体Aが重合性もしくは架橋性材料を含み、第2の液体Bが重合開始剤を含む形態
(2)第1の液体Aが重合性もしくは架橋性材料及び着色剤を含み、第2の液体Bが重合開始剤を含む形態
(3)第1の液体Aが重合性もしくは架橋性材料及び着色剤を含み、第2の液体Bが重合開始剤及び親油性溶剤を含む形態
などが挙げられる。
上記において、重合性もしくは架橋性材料は、第1の液体Aに含有すると共に、本発明の効果を阻害しない範囲において第2の液体Bに含有されていてもよく、重合開始剤は、本発明に係る第2の液体Bに含有すると共に、本発明の効果を阻害しない範囲において第1の液体Aに含有されていてもよい。
【0213】
本発明のインクジェット記録用インクセットにおいては、第1の液体A及び/又は第2の液体Bに「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」を含む以外に、第1の液体Aに画像を形成するための重合性もしくは架橋性材料を含有し、第2の液体Bを、液体でのsp値を35以下とすると共に第1の液体Aとのsp値の差を10以下とした構成が好ましい。
特に非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体などの液体吸収性の低い被記録媒体に画像記録を行なうときには、高い画像濃度を得るために、互いに重なり部分を有して付与された隣接の液滴(第1の液滴a1と液滴a2)が乾燥前に媒体上に留まって接触していると、互いに合一して画像の滲みや細線の線幅が不均一になって先鋭な画像の形成性が損なわれやすいが、第1の液滴a1及び液滴a2の打滴前に、予め液体Bのsp値を特定する構成により、液滴a1及び液滴a2が互いに重なり部分を有して付与されても液滴a1及び液滴a2間の合一を抑えて、画像の滲み及び画像中の細線などの線幅バラツキの発生が効果的に防止されるので、高画像濃度の画像解像度を確保しつつ、均一幅で先鋭なライン形成が可能であり、高品質の画像を記録することができる。
【0214】
〈上記以外の成分〉
上記した成分以外に、公知の添加剤などを目的に応じて併用することができる。
〜界面活性剤〜
本発明においては、後述するように、被記録媒体上に目的の大きさのインクドットを形成する観点から、界面活性剤を含有することが好ましく、第2の液体Bが少なくとも1種類の界面活性剤を含有することが好適である。界面活性剤の詳細については後述する。
【0215】
〜貯蔵安定剤〜
本発明に係る第1の液体A、第2の液体B(好ましくは第1の液体Aに)には、保存中における好ましくない重合を抑制する目的で、貯蔵安定剤を添加することができる。貯蔵安定剤は、重合性もしくは架橋性材料と共存させて用いることが好ましく、また、含有する液滴又は液体あるいは共存の他成分に可溶性のものを用いることが好ましい。
【0216】
貯蔵安定剤としては、4級アンモニウム塩、ヒドロキシアミン類、環状アミド類、ニトリル類、置換尿素類、複素環化合物、有機酸、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノエーテル類、有機ホスフィン類、銅化合物などが挙げられ、具体的にはベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ジエチルヒドロキシルアミン、ベンゾチアゾール、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、クエン酸、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル、ナフテン酸銅などが挙げられる。
【0217】
貯蔵安定剤の添加量は、重合開始剤の活性や重合性もしくは架橋性材料の重合性、貯蔵安定剤の種類に基づいて適宜調整するのが好ましいが、保存安定性と硬化性とのバランスの点で、液中における固形分換算で、0.005〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.01〜0.2質量%がさらに好ましい。
【0218】
〜導電性塩類〜
導電性塩類は、導電性を向上させる固体の化合物である。本発明においては、保存時に析出する懸念が大きいために実質的に使用しないことが好ましいが、導電性塩類の溶解性を上げたり、液体成分に溶解性の高いものを用いたりすることで溶解性がよい場合には、適当量添加してもよい。
前記導電性塩類の例としては、チオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などが挙げられる。
【0219】
〜溶剤〜
本発明においては、既述の高沸点溶剤以外の溶剤を用いることができる。溶剤としては、液(インク)の極性や粘度、表面張力、着色材料の溶解性・分散性の向上、導電性の調整、及び印字性能の調整などの目的で使用できる。
なお、溶剤は、非水溶性の液体であって水性溶媒を含有しないことが、速乾性及び線幅の均一な高画質画像を記録する点で好ましいことから、中でも既述した高沸点有機溶媒を用いた構成とするのが望ましい。
【0220】
100℃以下の有機溶剤である低沸点有機溶媒も挙げられるが、硬化性に影響を与える懸念があり、また、低沸点有機溶媒は環境汚染を考慮すると使用しないことが望ましい。使用する場合には、安全性の高いものを用いることが好ましく、安全性が高い溶媒とは、管理濃度(作業環境評価基準で示される指標)が高い溶媒であり、100ppm以上のものが好ましく、200ppm以上が更に好ましい。具体的には、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素などが挙げられ、具体的には、メタノール、2−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0221】
溶剤は一種単独で用いる以外に複数組み合わせて使用することができるが、水及び/又は低沸点有機溶媒を用いる場合には、両者の使用量は各液中0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%が更に好ましく、実質的に含まないのが好ましい。本発明に係る第1の液体A及び第2の液体Bに水を含有すると、経時による不均一化、染料の析出等に起因する液体の濁りが生じる等の経時安定性の点、及び非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体を用いたときの乾燥性の点で好ましくない。なお、実質的に含まないとは、不可避不純物の存在を容認することを意味する。
【0222】
〜その他添加剤〜
さらに、ポリマー、表面張力調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤等の公知の添加剤を併用することができる。
表面張力調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤に関しては、公知の化合物を適宜選択して用いればよいが、具体的には例えば、特開2001−181549号公報に記載されている添加剤などを用いることができる。
【0223】
また、上記のほか、混合により反応して凝集物を生成するか、増粘する1組の化合物をそれぞれ、本発明に係る第1の液体Aと第2の液体Bとに分けて含有することができる。前記1組の化合物は、凝集体を急速に形成させるか、あるいは液を急速に増粘させる特徴を有するものであり、これにより互いに隣接する液滴間の合一をより効果的に抑制することができる。
前記1組の化合物の反応例としては、酸/塩基反応、カルボン酸/アミド基含有化合物による水素結合反応、ボロン酸/ジオールに代表される架橋反応、カチオン/アニオンによる静電的相互作用による反応等が挙げられる。
【0224】
次に、本発明のインクジェット記録方法について詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録方法においては、本発明のインクジェット記録用インクセットを用い、第2の液体Bを第1の液体Aで形成される画像と同一もしくは該画像よりも広い範囲に予め被記録媒体に付与しておくようにする。本発明のインクジェット記録用インクセットを用いることで、打滴された2液各々の液滴同士が衝突、混合する際のショックで起きる分散破壊を回避できるので、高濃度で透明性に優れ、混色及び色滲みのない高画質な画像の記録が可能である。
また、第1の液体Aの打滴前に予め、第2の液体Bを被記録媒体に付与しておくので、第1の液体Aの液滴同士(例えば液滴a1及び液滴a2)が互いに重なり部分を有して付与されても液滴間、例えば液滴a1と液滴a2との間の合一を抑えて、画像の滲み及び画像中の細線などの線幅バラツキの発生が効果的に防止されるので、高画像濃度の画像解像度を確保しつつ、均一幅で先鋭なライン形成が可能であり、高品質の画像を記録することができる。また、ベタツキがなく擦過性、耐光性、耐オゾン性にも優れる。特に液体Bの液体でのsp値が35以下(好ましくは30以下)であって液体Aとのsp値の差が10以下である場合に効果的である。
【0225】
本発明においては、画像を形成するための液体として、第1の液滴a1及び液滴a2を含む第1の液体Aと、これと組成の異なる第2の液体Bとを用いる。ここで、第1の液滴a1及び液滴a2は、単一の第1の液体Aを用いてインク吐出口から打滴される液滴a1、a2、a3、・・・nxにおける液滴であって、好ましくは重なり合って打滴されるものを意味する。打滴が同時である液滴であってもよいし、先行打滴と後続打滴の関係である先行液滴と後続液滴であってもよく、先行液滴と後続液滴であることが好ましい。
【0226】
さらに好ましくは、インクジェットプリンタにおけるインク吐出口(ヘッド)から、第1の液体Aによる第1の液滴a1、液滴a2、・・・を吐出して所望の画像を形成する際に、液体Aによる第1の液滴a1を打滴した後、後続の第1の液滴a2を先行して打滴された液滴a1と重なり部分を有するように打滴する。
【0227】
本発明のインクジェット記録方法においては、既述の第1の液滴a1及び液滴a2を、インクジェットノズル等を用いて打滴するようにし、第2の液体Bについては、必ずしもインクジェットノズルを用いた噴射による付与に限られず、塗布等の他の手段によって付与することができる。
【0228】
次に、被記録媒体上に第2の液体Bを付与する際の付与手段について説明する。なお、第1の液滴a1及び液滴a2(第1の液体A)を打滴する打滴手段については、前記のようにインクジェットノズルを用いた噴射を中心に説明する。以下に、具体例を示す。
【0229】
(i)塗布装置を用いた塗布
塗布装置を用いて、第2の液体Bを被記録媒体上に塗布し、その後に液滴a1及び液滴a2(第1の液体A)をインクジェットノズルにより打滴することによって、画像記録する態様は好適である。
【0230】
塗布装置としては、特に制限はなく、公知の塗布装置の中から目的等に応じて適宜選択することができ、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロットコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、押出コーター等が挙げられる。詳しくは、原崎勇次著「コーティング工学」を参照できる。
また、インクジェットノズルは、特に制限はなく、公知のノズルから目的等に応じて適宜選択することができる。なお、インクジェット記録方式については後述する。
【0231】
なお、第1の液滴a1及び液滴a2(第1の液体A)並びに第2の液体B以外の他の液体を用いてもよく、他の液体については、前記塗布装置による塗布やインクジェットノズルによる噴射など、いかなる方法で記録媒体上に付与してもよく、また、付与のタイミングも特に限定されるものではない。着色剤を含有する場合には、インクジェットノズルでの噴射によるのが好ましく、第2の液体Bを塗布した後に付与することが好ましい。
【0232】
(ii)インクジェットノズルによる噴射
インクジェットノズルによって第2の液体Bを第2の液滴b1、液滴b2、液滴b3、・・・液滴bxにて噴射し、その後に第1の液体Aの液滴a1、液滴a2、液滴a3、・・・液滴axをインクジェットノズルにより打滴することによって、画像記録する態様は好適である。インクジェットノズルについては、前記同様である。
【0233】
この場合もまた、第1の液滴a1及び液滴a2(第1の液体A)並びに第2の液体B以外の他の液体については、塗布装置による塗布や、インクジェットノズルによる噴射など、いかなる方法で被記録媒体上に付与してもよく、付与のタイミングも特に限定されるものではない。着色剤を含有する場合には、インクジェットノズルでの噴射によるのが好ましく、第2の液体Bをノズルから噴射した後に更に噴射して付与されることが好ましい。
【0234】
次に、インクジェットノズルによる噴射の方式(インクジェット記録方式)について説明する。
本発明においては、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式、等の公知の方式が好適である。
なお、インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0235】
前記(i)の付与手段による場合、少なくとも第1の液滴a1及び第1の液滴a2が、予め被記録媒体上に塗布された第2の液体Bの上にインクジェット記録方式によって打滴され、画像形成される。前記(ii)の付与手段による場合は、予めインクジェット記録方式により被記録媒体上に付与された第2の液体Bの上に更に、少なくとも第1の液滴a1及び第1の液滴a2がインクジェット記録方式により打滴され、画像形成される。
【0236】
本発明においては、液滴a1と液滴a2とが重なり部分を有するので、単位長さ当たりの打滴数が増し、より高解像度の画像記録が可能である。このとき、第2の液体Bを被記録媒体上に付与した後、1秒以下の間に第1の液滴a1及び液滴a2を打滴することが好ましい。
【0237】
重なり部分を有して打滴する際の重なり率は、少なくとも液滴a1と液滴a2とが重なって打滴されてから1秒後の重なり率であり、特に第1の液滴a1を打滴した後の第1の液滴a2の打滴から1秒後の重なり部分における重なり率が10%以上90%以下となるように打滴するようにするのが好ましい。より高解像度の画像記録に有効である。
中でも、重なり率は、20%以上80%以下であるのが好ましく、30%以上70%以下であるのが好ましい。
【0238】
前記重なり率とは、隣接する液滴(液滴a1、液滴a2、・・・)が、いかなる割合で重なっているかを示す指標である。記録媒体上に着弾後の液滴の直径をaとした場合、1/2aが重なっている場合には重なり率は50%である。本発明における場合、隣接して打滴された液滴は互いに合一せずに打滴形状を保持しうるが、重なり率は、1滴打滴して1秒後の液滴半径をbとし、隣接打滴間の間隔をcとしたとき、100×(2b−c)/2b[%]で表される。
【0239】
また、第1の液滴a1及び第1の液滴a2の打滴量には、特に制限はなく、記録画像の鮮鋭度に応じて選択できる。一般には、1液滴当たり0.5pl〜10pl程度が好ましい。また、第2の液体Bの付与については、第1の液滴a1及び液滴a2で打滴形成される画像と同一領域もしくは該画像よりも広い領域に付与できれば、特に制限されるものではない。
【0240】
画像記録の際、第1の液滴a1及び第1の液滴a2の1打滴当たりの第2の液体Bの付与量のバランスとしては、液滴a1又は液滴a2の量を1とした場合の第2の液体Bの付与量(質量比)は0.05〜5の範囲が好ましく、0.07〜1の範囲がより好ましく、0.1〜1の範囲が特に好ましい。
【0241】
第1の液滴a1及び液滴a2を含む第1の液体Aは、0.1pL(ピコリットル;以下同様)以上100pL以下の液滴サイズにて(好ましくはインクジェットノズルにより)打滴されるのが好ましい。液滴サイズが前記範囲内であると、高先鋭度の画像を濃度で描写できる点で有効である。また、より好ましくは0.5pL以上50pL以下である。
【0242】
また、第2の液体Bの付与後、第1の液体Aの液滴a1が打滴されるまでの打滴間隔としては、5μ秒以上400m秒以下の範囲内であるのが好ましい。打滴間隔が前記範囲内であると、本発明の効果を顕著に奏し得る点で有効である。打滴間隔は、より好ましくは10μ秒以上300m秒以下であり、特に好ましくは20μ秒以上200μ秒以下である。
【0243】
(液体Aと液体Bの物性)
インクジェット記録方式によって被記録媒体上に噴射される第1の液体A(液滴)並びに第2の液体B(液滴)の物性については、装置により異なるが一般にはそれぞれ、25℃での粘度については、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、10〜80mPa・sがより好ましく、また、第1の液体Aと第2の液体Bとの関係において前記粘度の差(25℃)は25mPa・s以内が好ましい。
【0244】
本発明のインクジェット記録用インクセットに含まれる液体Aと液体Bとは、被記録媒体上に目的の大きさの液体Aドットを形成する観点から、液体Bは界面活性剤を含有することが好ましく、下記の条件(A)、(B)、及び(C)の全てを満たすことが好ましい。
(A)液体Bの表面張力は、インクジェット記録用インクセットに含まれるいずれかの液体Aの表面張力よりも小さい。
(B)液体Bに含まれる界面活性剤のうち少なくとも1種類は、
γs(0)−γs(飽和)>1mN/m
の関係を満たす。
(C)液体Bの表面張力は、
γs<(γs(0)+γs(飽和)最大)/2
の関係を満たす。
【0245】
ここで、γsは、液体Bの表面張力の値である。γs(0)は、液体Bのうち全ての界面活性剤を除いた液の表面張力の値である。γs(飽和)は、液体Bに含まれる界面活性剤のうち1種類の界面活性剤を前記「全ての界面活性剤を除いた液」に添加し、該界面活性剤の濃度を増加させたときに飽和する該液の表面張力の値である。γs(飽和)最大は、液体Bに含まれる界面活性剤のうち、前記条件(B)を満たす全ての界面活性剤に対して求めたγs(飽和)のうちの最大値である。
【0246】
〈条件(A)〉
本発明において、前述の通り、被記録媒体上に目的の大きさの液体Aドットを形成するためには、液体Bの表面張力γsは、インクジェット記録用インクセットに含まれるいずれかの液体Aの表面張力γkよりも小さくすることが好ましい。
さらに、着滴から露光までの間の液体Aドットの拡大をより効果的に防ぐ観点から、γs<γk−3(mN/m)がより好ましく、γs<γk−5(mN/m)が特に好ましい。
また、フルカラーの画像を印字する場合は、画像の鮮鋭性を向上させる観点から、液体Bの表面張力γsは、少なくとも視感度の高い着色剤を含有する液体Aの表面張力よりも小さくすることが好ましく、インクジェット記録用インクセットに含まれる全ての液体Aの表面張力より小さいことがより好ましい。なお、ここで視感度の高い着色剤とは、マゼンタ、または、ブラック、または、シアンの色を呈する着色剤が挙げられる。
また、液体Aの表面張力γkと液体Bの表面張力γsとの値が上記の関係を満たしていても、両者の値が15mN/m未満であるとインクジェット打滴時に液滴の形成が困難になり不吐出が生じる場合がある。一方、50mN/mを超えると、インクジェットヘッドとの濡れ性が悪くなり不吐出の問題が生じる場合がある。したがって、吐出適正の観点から、液体Aの表面張力γkと液体Bの表面張力γsとは、15mN/m以上50mN/m以下が好ましく、18mN/m以上40mN/m以下がより好ましく、20mN/m以上38mN/m以下が特に好ましい。
ここで、前記表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP−Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温20℃、60%RHにて測定した値である。
【0247】
〈条件(B)と条件(C)〉
本発明において、被記録媒体上に目的の大きさのインクドットを形成するためには、液体Bは少なくとも1種類以上の界面活性剤を含有することが好ましい。なお、この場合は、液体Bに含まれる界面活性剤のうち少なくとも1種類は、下記の条件(B)を満たすことが好ましい。
γs(0)−γs(飽和)>1mN/m …条件(B)
さらに、液体Bの表面張力は、下記の条件(C)の関係を満たすことが好ましい。
γs<(γs(0)+γs(飽和)最大)/2 …条件(C)
【0248】
既述のように、γsは、液体Bの表面張力の値である。γs(0)は、液体Bのうち全ての界面活性剤を除いた液の表面張力の値である。γs(飽和)は、液体Bに含まれる界面活性剤のうち1種類の界面活性剤を前記「全ての界面活性剤を除いた液」に添加し、該界面活性剤の濃度を増加させたときに飽和する該液の表面張力の値である。γs(飽和)最大は、液体Bに含有する界面活性剤のうち、前記条件(B)を満たす全ての界面活性剤に対して求めたγs(飽和)のうちの最大値である。
【0249】
なお、前記γs(0)は、液体Bのうち全ての界面活性剤を除いた液の表面張力値を測定することによって得られる。前記γs(飽和)は、液体Bに含まれる界面活性剤のうち1種類の界面活性剤を前記「全ての界面活性剤を除いた液」に添加し、該界面活性剤の含有濃度を0.01質量%ずつ増加させたときに、表面張力の変化量が0.01mN/m以下になったときの該液の表面張力を測定することによって得られる。
【0250】
以下、前記γs(0)、γs(飽和)、γs(飽和)最大 について具体的に説明する。
例えば、液体B(例1)を構成する成分が、高沸点溶媒(フタル酸ジエチル、和光純薬工業(株)製)、重合開始剤(TPO−L、下記の開始剤−1)、フッ素系界面活性剤(メガファック F475、大日本インキ化学工業(株)製)、炭化水素系界面活性剤(スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム)とした場合、γs(0)、γs(飽和)1(フッ素系界面活性剤を添加した時)、γs(飽和)2(炭化水素系界面活性剤を添加した時)、γs(飽和)、および、γs(飽和)最大は、下記の通りとなる。
【0251】
【化37】

【0252】
即ち、γs(0)は、液体Bのうち全ての界面活性剤を除いた液の表面張力値であり、36.7mN/mとなる。また、該液にフッ素系界面活性剤を添加し、濃度を増加させた時の該液の表面張力の飽和値をγs(飽和)1としたとき、その値は20.2mN/mとなる。さらに、同様に該液に炭化水素系界面活性剤を添加し、濃度を増加させた時の該液の表面張力の飽和値をγs(飽和)2としたとき、その値は30.5mN/mとなる。
【0253】
前記液体B(例1)は、前記条件(B)を満たす界面活性剤を2種類含有するため、γs(飽和)は、フッ素系界面活性剤を添加した時(γs(飽和)1)と炭化水素系界面活性剤を添加した時(γs(飽和)2)の2つの値をとり得る。これらから、γs(飽和)最大は、前記γs(飽和)1及びγs(飽和)2のうちの最大値であることから、γs(飽和)2の値となる。
以上より、それらを纏めると下記のようになる。
γs(0)=36.7mN/m
γs(飽和)1=20.2mN/m(フッ素系界面活性剤を添加した時)
γs(飽和)2=30.5mN/m(炭化水素系界面活性剤を添加した時)
γs(飽和)最大=30.5mN/m
【0254】
以上の結果から、液体Bの表面張力γsとしては、
γs<(γs(0)+γs(飽和)最大)/2=33.6mN/m
の関係を満たすことが好ましい。
なお、前記条件(C)については、着滴から露光までの間のインク滴の拡大をより効果的に防ぐ観点から、液体Bの表面張力としては、
γs<γs(0)−3×{γs(0)− γs(飽和)}/4
の関係を満たすことがより好ましく、
γs≦γs(飽和)
の関係を満たすことが特に好ましい。
【0255】
ここで、前記表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP−Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温20℃にて測定した値である。
【0256】
〜界面活性剤〜
本発明においては、前述の通り、被記録媒体上に目的の大きさのインクドットを形成するためには、液体Bは少なくとも1種類の界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明でいう界面活性剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、p−キシレン、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ブチルカルビトール、シクロヘキサノン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、メタノール、水、イソボニルアクリレート、1,6−ヘキサンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートのうち少なくとも1種類の溶媒に対して強い表面活性を有する物質であり、好ましくは、ヘキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソボニルアクリレート、1,6−ヘキサンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートのうち少なくとも1種類の溶媒に対して強い表面活性を有する物質であり、さらに好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソボニルアクリレート、1,6−ヘキサンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートのうち少なくとも1種類の溶媒に対して強い表面活性を有する物質であり、特に好ましくは、イソボニルアクリレート、1,6−ヘキサンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートのうち少なくとも1種類の溶媒に対して強い表面活性を有する物質である。
【0257】
上記に列挙した溶媒に対して、ある化合物が強い表面活性を有する物質か否かは、下記の手順によって判断することができる。
(手順)
上記に列挙した溶媒から1種類の溶媒を選択し、該溶媒の表面張力γ(0)溶媒を測定する。前記γ(0)溶媒を求めた溶媒と同じ液に該化合物を添加し、該化合物の濃度を0.01質量%づつ増加させ、表面張力の変化が0.01mN/m以下になったときの溶液の表面張力γ(飽和)溶媒を測定する。前記γ(0)溶媒と前記γ(飽和)溶媒の関係が、
γ(0)溶媒 − γ(飽和)溶媒 > 1 mN/m
であれば、該化合物は該溶媒に対して強い表面活性を有する物質であると判断する。
【0258】
液体Bに含有する界面活性剤の具体例としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。その他、界面活性剤としては、例えば、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0259】
本発明において、上記のように予め第2の液体Bを付与しておき、その後に第1の液滴a1及び液滴a2を打滴した後には、優れた定着性を得る観点から、エネルギーを付与することで記録画像を固定化する工程を設けることができる。エネルギーの付与により、含まれる重合性もしくは架橋性材料の重合もしくは架橋による硬化反応を促進させ、より強固な画像をより効率よく形成することができる。例えば重合開始剤を含む系では、活性光や加熱などの活性エネルギーの付与により重合開始剤の分解による活性種の発生が促進されると共に、活性種の増加や温度上昇により、活性種に起因する重合性もしくは架橋性材料の重合もしくは架橋による硬化反応が促進される。
エネルギーの付与は、活性光の照射、又は加熱によって好適に行なうことができる。
【0260】
前記活性光としては、例えば、紫外線、可視光線など、並びにα線、γ線、X線、電子線などが使用できる。これらのうち、紫外線、可視光線を用いることがコスト及び安全性の点で好ましく、紫外線が特に好ましい。
硬化反応に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、一般には1〜500mJ/cm2程度である。
【0261】
また、加熱によりエネルギーを付与する場合は、被記録媒体の表面温度が40〜80℃の温度範囲となる条件で0.1〜1秒間加熱することが好ましい。
加熱は、非接触型の加熱手段を使用して行なうことができ、オーブン等の加熱炉内を通過させる加熱手段や、紫外光〜可視光〜赤外光等の全面露光による加熱手段等が好適である。加熱手段としての露光に好適な光源としては、メタルハライドランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、カーボンアーク灯、水銀灯等が挙げられる。
【0262】
本発明においては、第2の液体Bと第1の液体Aとの打滴の間に前記活性光線で硬化させる過程を含むことも可能であるが、第1の液体Aの打滴を開始するまでの間は予め被記録媒体に付与された第2の液体Bを液体状に保持することが望ましく、したがって、全く硬化させない、又は半硬化させることが好ましい態様である。
【0263】
−被記録媒体−
本発明のインクジェット記録方法においては、被記録媒体として、浸透性の記録媒体、非浸透性の記録媒体、及び緩浸透性の記録媒体のいずれも使用することができる。中でも、本発明の効果がより顕著に奏される観点から、非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体が好ましい。
【0264】
液体吸収性の低い記録媒体に画像記録を行なうときには、従来、互いに重なり部分を有して付与された隣接の液滴(インクA及びインクB)が乾燥前に媒体上に留まって接触していると、互いに合一等して画像の滲みや混色、細線の線幅が不均一、画像端部が膨らむことによる端部不均一が起こりやすいが、第1の液体Aで画像が打滴形成しようとする領域と同一もしくは該領域よりも広い範囲に予め、第2の液体Bを打滴しておく構成により、液体Aの液滴同士が互いに重なり部分を有して付与されたときに液滴間の合一が抑えられるので、打滴形成された画像中の細線の線幅バラツキや、格子線のゆがみ、画像端部が膨らむことによる不均一を効果的に防止することができる。これにより、滲みがなく細線品質(線幅の均質性を含む。)が良好で画像端部の均一な高画質画像を記録することができる。また、ベタツキがなく擦過性にも優れる。
【0265】
ここで、浸透性の記録媒体は、10pl(ピコリットル)の液滴を被記録媒体上に滴下した場合に、全液量が浸透するまでの時間が100m秒以下である媒体であり、具体的には、普通紙、多孔質紙などが挙げられる。非浸透性の記録媒体とは、実質的に液滴が浸透しない媒体をいい、例えば合成樹脂やガラス等を用いた媒体が挙げられる。「実質的に浸透しない」とは、1分後の液滴の浸透率が5%以下であることをいう。また、緩浸透性の記録媒体とは、10plの液滴を被記録媒体上に滴下した場合に、全液量が浸透するまでの時間が100m秒以上である媒体をいい、具体的にはアート紙などが挙げられる。非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体の詳細については後述する。
【0266】
浸透性の記録媒体としては、例えば、普通紙、多孔質紙その他液を吸収できる媒体が挙げられる。
非浸透性ないし緩浸透性の記録媒体としては、例えば、アート紙、合成樹脂、ゴム、樹脂コート紙、ガラス、金属、陶器、木材等が挙げられる。また、機能付加の目的で、これら材質を複数組み合わせて複合化した基材も使用できる。
【0267】
前記合成樹脂としては、いかなる合成樹脂も使用可能であるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等、ジアセテート、トリアセテート、ポリイミド、セロハン、セルロイド等が挙げられる。合成樹脂を用いた場合の厚みや形状としては、フィルム状、カード状、ブロック状のいずれでもよく、特に限定されるものではなく、透明又は不透明のいずれであってもよい。
【0268】
前記合成樹脂の使用形態としては、いわゆる軟包装に用いられるフィルム状にして用いることも好ましく、各種非吸収性のプラスチックス及びそのフィルムを用いることができる。プラスチックスフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、PNyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルム等が挙げられる。その他プラスチックスとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などを使用できる。
【0269】
前記樹脂コート紙としては、例えば、透明ポリエステルフィルム、不透明ポリエステルフィルム、不透明ポリオレフィン樹脂フィルム、及び紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体等が挙げられる。特に好ましいのは、紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体である。
【0270】
前記金属としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム、鉄、金、銀、銅、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、シリコン、鉛、亜鉛等、又はステンレス等、及びこれらの複合材料が好適である。
【0271】
また更に、CD−ROM、DVD−ROM等の読み出し専用光ディスク、CD−R、DVD−R等の追記型光ディスク、更には書き換え型光ディスク等を用いることも可能であり、レーベル面側にインク受容層および光沢付与層を付与することもできる。
【0272】
本発明のインクジェット記録方法に用いる第1の液体A(液滴a1、a2、・・・)及び第2の液体B、並びにこれらを構成する各種成分等の詳細については既述の通りである。
【実施例】
【0273】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0274】
(実施例1)
<シアン顔料分散物P−1の調製>
PB15:3(IRGALITE BLUE GLO;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)16g、ビス{[1−エチル(3−オキセタニエル)]メチル}エーテル(OXT−221;東亞合成(株)製)48g、及びBYK−168(ビックケミー社製)16gを混合し、スターラーで1時間撹拌した。撹拌後の混合物をアイガーミルにて分散し、シアン顔料分散物P−1を得た。
ここで、分散条件は、直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間1時間とした。
【0275】
<シアン顔料を含有するインクジェット記録用インク液I−1の調製>
下記組成の成分を撹拌混合し溶解して、インクジェット記録用インク液I−1(比較用の液体A)を調製した。インクジェット記録用インク液I−1のsp値は18、表面張力は32N/mであった。
〈組成〉
・上記のシアン顔料分散物P−1 …3.75g
・ビス{[1−エチル(3−オキセタニエル)]メチル}エーテル …0.825g
・1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]へプタン(Cel3000、ダイセル・サイテック(株)製) …9.675g
・9,10−ジブトキシアントラセン …0.75g
【0276】
sp値は、既述のように、R.L.smith(東北大学)によるsp値計算プログラムにより計算した(25℃)。以下、同様である。但し、炭素原子を含まない化合物は計算から除くと共に、ポリマーやポリエチレン鎖等の構成単位については結合手を持つ飽和の繰り返し単位とし、水は47.8として計算した。
【0277】
<顔料分散剤の合成>
(合成例1)
−モノマー1の合成−
9(10H)アクリドン9.76部及びt−ブトキシカリウム5.6部をジメチルスルホキシド30部に溶解し、45℃に加熱した。これにクロロメチルスチレン15.26部を滴下し、50℃でさらに5時間加熱撹拌を行なった。この反応液を蒸留水200部に撹拌しながら注ぎ、得られた析出物を濾別、洗浄することにより、モノマー1を11.9部得た。
【0278】
−グラフト重合体1の合成−
メチルエチルケトン15部を窒素置換した三口フラスコに導入し、撹拌機(新東科学(株)製;スリーワンモータ)にて撹拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。これに、別に調製した下記のモノマー溶液と開始剤溶液とをそれぞれ2時間かけて同時に滴下した。滴下後、さらにV−65を0.08部添加し、78℃にて3時間加熱撹拌を行なった。そして、得られた反応液をヘキサン1000部に撹拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱、乾燥させることにより、グラフト重合体1(着色剤を形成する複素環残基を有する重合体)を得た。
【0279】
〈モノマー溶液〉
下記成分を混合してモノマー溶液とした。
・上記のモノマー1 ・・・ 3.0部
・末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート・・・21.0部
(AA−6、数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製)
・3−(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド) ・・・ 6.0部
・メチルエチルケトン ・・・45部
【0280】
〈開始剤溶液〉
・2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) ・・・ 0.04部
(V−65、和光純薬(株)製)
・メチルエチルケトン ・・・ 9.6部
【0281】
(合成例2)
前記合成例1で用いた「末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート」をメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(NKエステルM−230G、新中村化学(株)製)に代えたこと以外、前記合成例1と同様にして、グラフト重合体2(着色剤を形成する複素環残基を有する重合体)を得た。
【0282】
(合成例3)
−モノマー2の合成−
N−(2−ヒドロキシエチル)フタルイミド9.56部、トリエチルアミン5.16部、及び酢酸エチル50部を混合して溶解し、40℃に加熱した。これに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI、昭和電工(株)製)7.76部を徐々に滴下し、45℃で更に7時間加熱撹拌を行なった。得られた反応液を酢酸エチルで抽出、水洗、及び飽和食塩水で洗浄した後、乾燥、濃縮させてモノマー2を15.1部得た。
【0283】
−グラフト重合体3の合成−
前記合成例1で用いたモノマー1を上記のモノマー2に代えたこと以外、前記合成例1と同様にして、グラフト重合体3(着色剤を形成する複素環残基を有する重合体)を得た。
【0284】
<シアン顔料を含むインクジェット記録用インク液I−2〜I−4の調製>
前記インクジェット記録用インク液I−1の調製において、シアン顔料分散物P−1の調製に用いたBYK−168を上記より合成したグラフト重合体1、グラフト重合体2、又はグラフト重合体3にそれぞれ代えたこと以外、前記インクジェット記録用インク液I−1の調製と同様にして、シアン顔料を含むインクジェット記録用インク液I−2〜I−4(本発明に係る液体A)を調製した。インクジェット記録用インク液I−2〜I−4のsp値及び表面張力は下記表1に示す。
【0285】
<マゼンタ顔料を含むインクジェット記録用インク液II−1〜II−4の調製>
前記インクジェット記録用インク液I−1及びI−2〜I−4の調製において、シアン顔料分散物P−1の調製に用いたPB15:3を、これと等質量のPV19(Hostaparm RED E5B02、クラリアント社製)にそれぞれ代えたこと以外、前記インクジェット記録用インク液I−1及びI−2〜I−4の調製と同様にして、マゼンタ顔料を含むインクジェット記録用インク液II−1(比較用の液体A)及びII−2〜II−4(本発明に係る液体A)を調製した。インクジェット記録用インク液II−1〜II−4のsp値及び表面張力は下記表1に示す。
【0286】
<顔料を含まないインクジェット記録用インク液III−1の調製>
下記組成の成分を撹拌混合して溶解し、インクジェット記録用インク液III−1を調製した。インクジェット記録用インク液III−1のsp値は19、表面張力は23mN/mであった。
〈組成〉
・ビス{[1−エチル(3−オキセタニエル)]メチル}エーテル ・・・4.18g
・1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]へプタン(Cel3000、ダイセル・サイテック(株)製) ・・・9.02g
・メガファックF475F(大日本インキ化学工業株式会社製) ・・・0.3g
・下記重合開始剤−2 ・・・1.50g
(Irg250、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
【0287】
【化38】

【0288】
<1液型のインクジェット記録用比較インク液I−0、II−0の調製>
下記組成の成分を攪拌混合し溶解して、1液型のシアン顔料を含むインクジェット記録用比較インク液I−0と、1液型のマゼンタ顔料を含むインクジェット記録用比較インク液II−0を調製した。
1)1液型のシアン顔料を含むインクジェット記録用比較インク液I−0
下記組成の成分を撹拌混合し溶解して、シアン顔料を含むインクジェット記録用比較インク液I−0を調製した。比較インク液I−0のsp値は19、表面張力は32N/mであった。
〈組成〉
・上記のシアン顔料分散物P−1 …3.75g
・ビス{[1−エチル(3−オキセタニエル)]メチル}エーテル …0.6g
・1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]へプタン(Cel3000、ダイセル・サイテック(株)製) …8.4g
・前記重合開始剤−2 …1.5g
(Irg250、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
・9,10−ジブトキシアントラセン …0.75g
【0289】
2)1液型のマゼンタ顔料を含むインクジェット記録用比較インク液II−0
前記比較インク液I−0の調製において、シアン顔料分散物P−1の調製に用いたPB15:3を、等質量のPV19(Hostaparm RED E5B02、クラリアント社製)に代えたこと以外、前記比較インク液I−0の調製と同様にして、マゼンタ顔料を含むインクジェット記録用比較インク液II−0を調製した。
【0290】
以下、上記より得られた各インク液のSP値及び表面張力を下記表1に示す。


【表1】

【0291】
<画像記録及び評価>
調製したインクジェット記録用インク液I−1、II−1、及びIII−1をインクジェットプリンタ(東芝テックヘッド(CA3)搭載冶具:打滴周波数:4.8KHz、ノズル数:318、ノズル密度:150npi(ノズル/inch)、ドロップサイズ:6〜42pl(ピコリットル)間を7段階に可変のヘッドを2つ配列し、300npiにしたヘッドセットを4組搭載)に装填し、3つのヘッドセットより各インクを吐出し(42pl)、被記録媒体上の全面に均一に描画し、画像サンプルを作製した。このとき、被記録媒体として、厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:PPL/レーザープリンタ用ゼロックスフィルム OHP FILM、富士ゼロックス(株)製;以下、PETシートという。)を用いた。
【0292】
吐出順は、インクジェット記録用インク液III−1→I−1→II−1の順とし、インク液III−1とインク液I−1とを打滴する際の打滴間隔を400m秒とし、インク液I−1とインク液II−1とを打滴する間隔を400m秒とした。このとき、搬送速度を調節して、インク液III−1については隣接する液滴間の重なり率が5%になるようにし、インク液I−1、II−1については隣接する液滴(液滴a1と液滴a2とを含む本発明に係る液体Aの液滴)間の重なり率が50%になるようにした。
【0293】
なお、重なり率は、既述のように、1滴打滴して1秒後の液滴半径をbとし、隣接打滴間の間隔をcとして100×(2b−c)/2b[%]にて算出したものである。
【0294】
吐出後、メタルハライドランプを用いて365nmの波長にて紫外線量〜500mJ/cm2にて紫外線を照射し、画像サンプルを固定化した。照射は、II−1の打滴後1秒後に行なった。
【0295】
また、上記で用いたインクジェット記録用インク液I−1/II−1を、下記表2に示すような組み合わせI−2/II−2、I−3/II−3、I−4/II−4に変更し、上記した方法と同様にして描画し、画像サンプルを作製した。
【0296】
<評価>
作製した画像サンプルについて、下記の評価を行なった。評価結果を下記表2に示す。
−1.シアン、マゼンタの色混じり−
各画像サンプルを目視により観察し、シアン、マゼンタのインク滴が交じり合った場合を「×」とし、各色のインク滴が独立に存在していた場合を「○」として評価した。
【0297】
−2.シアン濃度の評価−
III−1→I−1、III−1→I−2、III−1→I−3、III−1→I−4を打滴した画像サンプル(すなわち、前記画像サンプルの作製の際にそれぞれII−1、II−2、II−3、II−4の打滴を行なわずに作製した画像サンプル)を作製して、前記画像サンプルと比較し、インク液IIの打滴の有無によるシアン濃度の差〔(インク液IIを打滴したときのシアン濃度)−(インク液IIを打滴しなかったときのシアン濃度)を測定した。シアン濃度の差を下記表2に示す。
【0298】
−3.ベタツキ性の評価−
紫外線の照射直後、画像サンプルの画像面(記録面)を指で触れ、下記の評価基準にしたがって評価した。
〈評価基準〉
A:ベタツキはなかった。
B:若干ベタツキが認められた。
C:著しくベタツキが認められた。
【0299】
−4.耐擦過性の評価−
描画したPETシートについて、紫外線照射後30分経過した後の画像面(記録面)を消しゴムで10往復擦ったときの変化を観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
〈評価基準〉
A:擦過による濃度低下は全くなかった。
B:擦過による濃度低下が僅かに認められた。
C:擦過により著しく濃度が低下した。
【0300】
−5.耐光性の評価−
各画像サンプルに対し、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いてキセノン光(85,000Lux)を1週間照射し、照射前後の濃度をマイクロデンシトメーター(機種名:MICRO−PHOTOMETER MPM−No.172、メーカー名:ユニオン オプティカル(株)製)にて測定して照射後の色素残存率〔%〕を求め、下記の評価基準にしたがって5段階評価した。なお、耐光性の評価は、PETシート上の画像のみについて行なった。
〈評価基準〉
A:色素残存率が90%以上であった。
B:色素残存率が89〜80%であった。
C:色素残存率が79〜70%であった。
D:色素残存率が69〜50%であった。
E:色素残存率が49%未満であった。
【0301】
−6.オゾン耐性の評価−
各画像サンプルをオゾン濃度5.0ppm条件下に1週間保存し、保存前後での画像の濃度をマイクロデンシトメーター(機種名:MICRO−PHOTOMETER MPM−No.172、メーカー名:ユニオン オプティカル(株)製)にて測定して保存後の色素残存率(%)を求め、下記評価基準にしたがって5段階評価した。なお、オゾン耐性の評価はPETシート上の画像のみについて行なった。
〈評価基準〉
A:色素残存率が90%以上であった。
B:色素残存率が89〜80%であった。
C:色素残存率が79〜70%であった。
D:色素残存率が69〜50%であった。
E:色素残存率が49%未満であった。
【0302】


【表2】

【0303】
前記表2に示すように、画像を形成するための液体Aと共に液体Bを用いて描画を行なった場合(本発明)では、良好に2色間の色混じりを回避でき、しかも着色剤を形成する複素環残基を有する重合体を用いることで、重ねて打滴した場合の下側に打滴した色濃度の低下が抑えられ、良好な発色性を示した。
これに対し、インクジェット記録用インク液I−1、II−1のように、分散剤として「着色剤を形成する複素環残基を有する重合体」以外の市販の分散剤を用いた場合(比較例)では、重ねて打滴した場合に、下側に打滴した色濃度が低下してしまい、良好な発色性が得られなかった。
また、インクジェット記録用インク液I−1、I−2、I−3、I−4、II−1、II−2、II−3、II−4、及びIII−1は、ノズルに液を詰めっぱなしにしてもノズル固化が起こらず、吐出安定性の点でも有効であったのに対し、1液型の比較インク液I−0,II−0では、ノズルに液を詰めっぱなしにした場合にノズル固化が生じることが分かった。
【0304】
(実施例2)
実施例1の「インクジェット記録用インク液III−1の調製」において、ビス{[1−エチル(3−オキセタニエル)]メチル}エーテル及び1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]へプタン(Cel3000、ダイセル・サイテック(株)製)を、既述の高沸点有機溶媒S−9,S−15,S−21,又はS−32に代えたこと以外、実施例1と同様にして、顔料を含まないインクジェット記録用インク液(III−2,3,4,5)を調製した。
ここで、S−9,S−15,S−21,又はS−32を用いた各インク液は、sp値はそれぞれ17、22、19、19であり、表面張力はそれぞれ23mN/m、23mN/m、23mN/m、23mN/mであった。
【0305】
インクジェット記録用インク液III−1をIII−2,3,4,5にそれぞれ代えて実施例1と同様にして画像記録及び評価を行なった。評価の結果、実施例1と同様、良好に2色間の色混じりが回避され、重ねて打滴した場合の下側に打滴した色濃度の低下が抑えられ、良好な発色性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも画像を形成するための少なくとも一種の第1の液体Aと、前記第1の液体Aと組成が異なる少なくとも一種の第2の液体Bとから構成されたインクジェット記録用インクセットであって、
前記液体Aが、少なくとも着色剤を形成する複素環残基を有する重合体と顔料とを含有することを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
前記重合体が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体である請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【化1】

〔式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Jは、−CO−、−COO−、−CONR1−、−OCO−、メチレン基、又はフェニレン基を表し、R1は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは、単結合又は2価の連結基を表す。Pは、着色剤を形成する複素環残基を表す。nは、0又は1を表す。〕
【請求項3】
前記一般式(1)において、Pがキナクリドン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、及びアントラキノンから選ばれる少なくとも一種に由来する基である請求項2に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項4】
前記重合体が、共重合単位として、末端にエチレン性不飽和2重結合を有する重合性オリゴマー(マクロモノマー)に由来の繰り返し単位を更に含むグラフト共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
前記液体Aが、少なくとも重合性もしくは架橋性材料を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項6】
前記液体Bが、少なくとも重合性もしくは架橋性材料を架橋反応させる重合開始剤を含む請求項5に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項7】
前記液体Bが、親油性溶剤を更に含み、前記親油性溶剤の含有量が液体Bの全質量の50質量%以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項8】
前記親油性溶剤は、沸点が100℃よりも高い高沸点有機溶媒である請求項7に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項9】
前記液体Bが、着色剤を含有しない、もしくは着色剤の含有量が1%未満である請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセットを用い、第2の液体Bを第1の液体Aで形成される画像と同一もしくは該画像よりも広い範囲に予め被記録媒体に付与しておくことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記液体Aを少なくとも第1の液滴a1及び液滴a2にて、前記液滴a1と前記液滴a2とを重なり部分をもって打滴することで前記画像を形成する請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記重なり部分における重なり率が10%以上90%以下である請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記液体Bの付与後、前記液体Aの前記液滴a1が打滴されるまでの打滴間隔が5μ秒以上400m秒以下である請求項10〜12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記液滴a1及び液滴a2を含む前記液体Aの液滴サイズが、0.1ピコリットル以上100ピコリットル以下である請求項10〜13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記液体Aの打滴までの間は前記液体Bを液体状に保持する請求項10〜14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記液体A及び/又は液体Bが重合性もしくは架橋性材料を含有し、前記液体Aの打滴後、活性エネルギーを前記画像に与えて重合性もしくは架橋性材料を重合もしくは架橋する請求項10〜15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2007−246675(P2007−246675A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71708(P2006−71708)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】