説明

インクジェット記録用インク組成物、これを用いた記録方法及び記録物

【課題】 記録物の十分な定着性が得られ、且つ、高濃度で、吐出安定性や保存安定性の良好なインクジェット記録用インク組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録用インク組成物は、少なくとも樹脂エマルジョンと表面処理型顔料とを含み、前記樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量を1000ppm以下にすることにより、前記課題を解決したものである。また、本発明は、前記インク組成物を使用して記録媒体に画像を形成することを特徴とする記録方法、及び、前記インク組成物を使用して記録媒体に画像が形成されてなることを特徴とする記録物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録物の十分な定着性が得られ、且つ、高濃度で、吐出安定性や保存安定性の良好なインクジェット記録用インク組成物に関する。さらにこれを用いた記録方法及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。インクとしては、一般に各種の水溶性染料を水または水と水溶性有機溶剤との混合物に溶解させたものが使用されている。このような水溶性染料を含むインクにより得られた記録物は耐水性や耐光性に劣ることが一般に指摘されている。
【0003】
これに対して、顔料を水性媒体に分散させて得られたインクは、耐水性及び耐光性に優れる。例えば、顔料を界面活性剤や高分子分散剤を用いて分散させた水性顔料インクが提案されている。また、上記のような界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤がなくても顔料単独で水性溶媒に分散させることができる、表面処理型顔料インクが開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、一般に顔料を使用したインクでは、記録物へのインクの定着性が不十分で、耐擦性が劣るという課題がある。すなわち、顔料を色剤とするインクにより得られた記録物は、色剤成分が記録物表面近くに残り易い。よって、色剤の記録物表面への定着が十分でないと、指で擦った場合やマーカーペン等でマーキングした場合に画像が汚れる等、指触性及び耐擦過性において課題を有する。特に、印字濃度を上げるために顔料濃度を高くした場合や、顔料を浸透させず記録媒体の表面に残存させるように設計した場合、この課題は顕著である。
【0005】
このような記録物への顔料の定着性を改善するため、インク中に樹脂を添加する提案がなされている。この樹脂は結着剤として顔料を強固に記録物上に固定するものと考えられる。このようなインクとして、特定の造膜温度を有する樹脂エマルジョンを含有するインク(例えば、特許文献2及び3)や、コア部とそれを取り囲むシェル部とから成るコアシェル型の樹脂粒子を含有するインク(例えば、特許文献4)等が開示されている。
【0006】
また、顔料を安定に分散させるためにインク中に添加した高分子分散剤、及び樹脂エマルジョンに含まれるモノマーの量を、インク組成物全体の重量に対して1000ppm以下としたインク(例えば、特許文献5)が開示されている。このインクを用いて印字を行うと、記録物への不規則な浸透を起こすことがないため、多様な環境下において、それらの環境変化とは無関係に、一層高画質の画像を安定して得ることができる。また印字中及び印字後に不快臭を発生することもない。
【0007】
しかしながら、この特許文献5に開示されるインクジェット記録用インクは、顔料を、高分子分散剤を用いて分散させた水性顔料インクであり、これらのインクでは、記録物の印字濃度を上げるためにインク中の顔料含有量を増やすと、それに伴いインク粘度も急激に増加してしまう場合があった。また、顔料をインク中に安定に分散させるためには過剰の高分子分散剤が必要であり、気泡発生や消泡性低下のため、吐出安定性が不十分であるという課題があった。
【0008】
また、低分子量の成分(オリゴマー)の含有量を、特定量以下に規定した乳化重合体(例えば、特許文献6)が開示されている。乳化重合体のオリゴマー成分含有量を特定量以下とすることにより、これを塗料や接着剤等に添加した際の、優れた耐久性や耐水性を実現している。しかしながら、この乳化重合体をインクジェット記録用インクへの添加剤として使用することは示唆されていない。さらに、規定されているオリゴマーの分子量及び含有量の上限は比較的大きく、インクジェット記録用インクに適用した場合においては、吐出不安定等の不具合を発生する恐れがあった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−3498号公報
【特許文献2】特開平1−217088号公報
【特許文献3】特開平4−18462号公報
【特許文献4】特開平8−259869号公報
【特許文献5】特開平10−46073号公報
【特許文献6】特開2003−96109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的とするところは、記録物の十分な定着性が得られ、且つ、高濃度で、吐出安定性や保存安定性の良好なインクジェット記録用インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは調査研究の結果、インク組成物が少なくとも樹脂エマルジョンと表面処理型顔料とを含み、前記樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量を、インク組成物全量に対して1000ppm以下にすることにより、前記課題を解決するインクジェット記録用インク組成物を得ることができることを見出した。すなわち本発明の構成は以下の通りである。
(1)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、少なくとも樹脂エマルジョンと、表面処理型顔料とを含み、前記樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量が、インク組成物全量に対して1000ppm以下であることを特徴とする
(2)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記樹脂エマルジョンが、必須共重合成分として、アルキル(メタ)アクリレート類及び芳香族ビニル類から成る群から選ばれる1種または2種以上の単量体を含むことを特徴とする
(3)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記樹脂エマルジョンの含有量が、インク組成物全量に対して、1〜10重量%の範囲であることを特徴とする
(4)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記表面処理型顔料が、顔料表面に存在するカルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料であることを特徴とする
(5)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記表面処理型顔料が、表面処理型カーボンブラックであることを特徴とする
(6)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記表面処理型顔料の平均粒子径が、100〜200nmの範囲であることを特徴とする
(7)本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記表面処理型顔料の含有量が、インク組成物全量に対して、2〜15重量%の範囲であることを特徴とする
(8)本発明のインクジェット記録方法は、インクの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インクとして上記(1)〜(7)のいずれかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いることを特徴とする
(9)本発明の記録物は、上記(8)に記載のインクジェット記録方法によって記録が行われたことを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、記録物の十分な定着性が得られ、且つ、高濃度で、吐出安定性や保存安定性の良好なインクジェット記録用インク組成物が提供される。また当該インク組成物を用いた記録方法及び記録物が好適に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は少なくとも樹脂エマルジョンと表面処理型顔料とを含んでなる。樹脂エマルジョンはインク中の顔料の定着性を向上させて、記録物に、耐擦性に優れた文字や図形等の画像を形成する目的で添加されるものであるが、インク組成物中における分散安定性を確保するため、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンの形態でインク組成物中に配合される。本発明のインクジェット記録用インク組成物に用いる樹脂エマルジョンは、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、共重合成分として、アルキル(メタ)アクリレート類や芳香族ビニル類等の不飽和単量体を、重合開始剤及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0015】
本発明のインクジェット記録用インク組成物においては、樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量が、インク組成物全量に対して1000ppm以下であることを特徴とする。ここで、「オリゴマー」とは、モノマーの繰り返し数(重合度)が2〜20程度のものを指す。分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量が、インク組成物全量に対して1000ppm以下となる樹脂エマルジョンを使用することにより、インク組成物へのモノマー及びオリゴマー成分の混合による、吐出性や保存性の悪化を抑止できる。従って、高い定着性能を確保しつつもインク組成物の系全体としての安定性を向上させることができ、吐出性や保存性の安定なインク組成物を実現できる。また、樹脂エマルジョンを増量した場合にも、インク粘度の大幅な上昇を抑えることができることに加え、インクの泡立ちも抑制することができる。さらに、記録媒体への印字を行った場合には、これらの蒸発による不快臭の発生や有毒ガスの発生が起こらない。
【0016】
ここで、「樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマー」は、種々の理由により、前記樹脂エマルジョン内に混在しているモノマー及びオリゴマーである。例えば、樹脂エマルジョンを調製する際に用いる原料モノマーの一部が未反応のままで樹脂エマルジョン内に残留した未反応モノマー、ほとんど重合が進行せずに完結した状態で樹脂エマルジョン内に残留したオリゴマー等を挙げることができる。
【0017】
分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの含有量が低い樹脂エマルジョンは、そのような樹脂エマルジョンを直接に調製するか、あるいは通常の方法で得られた(分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーを比較的多量に含む)従来の樹脂エマルジョンから、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーを除去することによって調製することができる。
【0018】
分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの含有量が低い樹脂エマルジョンを直接に調製するには、例えば、乳化重合の反応工程で、その反応工程の終了直前に更に重合開始剤を追添加して、モノマー及びオリゴマーを重合させることにより、その含有量を低減させることができる。例えば、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの含有量が低いスチレン−メチルアクリレート共重合体エマルジョンは、スチレンとメチルアクリレートとの共重合反応の最終工程で、ラジカル活性付与剤として過硫酸アンモニウム等の過酸化物を添加させることにより調製することができる。
【0019】
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウムの他にも、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものを用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0020】
また、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーを比較的多量に含む樹脂エマルジョンから、モノマー及びオリゴマーを除去するには、そのエマルジョンを減圧蒸留する方法を利用することができる。例えば、スチレン−メチルアクリレート共重合体エマルジョンから、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーを除去するには、エマルジョンを減圧蒸留させるか、場合によっては、過硫酸アンモニウム等の過酸化物を添加し、窒素雰囲気中で加熱反応させる方法を用いることができる。
【0021】
なお、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマー含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィーによって測定することができる。ガスクロマトグラフィーでの測定装置としては、例えば、ガスクロマトグラフ用検出器としては、水素炎イオン化検出器(FID)を用い、ガラスカラムに、充填剤としてフェニレンオキシド系ポーラスポリマーの吸着剤を、キャリヤーガスとしてヘリウムを使用することができる。
【0022】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記樹脂エマルジョンが、必須共重合成分として、アルキル(メタ)アクリレート類及び芳香族ビニル類から成る群から選ばれる1種または2種以上の単量体を含むことを特徴とする。上記群から選ばれる単量体を共重合成分として用い、且つその種類と比率を任意に調整することで、比較的容易に樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)をコントロールすることができる。これによりインクジェット記録用インクに添加するための樹脂として求められる定着性等の機能を任意にコントロールした状態で付与することが可能となる。
【0023】
本発明に適用できるアルキル(メタ)アクリレート類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。また、芳香族ビニル類の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0024】
本発明のインクジェット記録用インク組成物に用いる樹脂エマルジョンは、以上挙げてきた不飽和単量体以外にも、一般に乳化重合で共重合成分として使用されるものを用いることができる。具体例としては、酢酸ビニル等のビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、ブタジエン、クロロプレン等のジエン類、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N‘−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられる。
【0025】
また、重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。これらの具体例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチレールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0026】
重合反応で用いられる乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂エマルジョンの重合反応においては、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用して良い。
【0028】
連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
【0029】
また中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0030】
本発明において、樹脂エマルジョンの含有量は、本発明のインク組成物全量に対して、好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは2〜5重量%である。樹脂エマルジョンの含有量が1重量%以上、より好ましくは2重量%以上であれば、記録物の定着性をより有効に得ることができる。また、樹脂エマルジョンの含有量が10重量%以下、より好ましくは5重量%以下であれば、インクジェット適正物性値に合わせやすく、さらに良好な吐出安定性や保存安定性、ノズル目詰まり性等の信頼性を向上させることができる。
【0031】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、表面処理型顔料を含んでなることが好ましい。本発明における表面処理型顔料とは、色剤として水性分散液中に含有されるものであり、顔料表面に多数の親水性官能基及び/またはその塩を、直接または多価の基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散及び/または溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散及び/または溶解」とは、顔料が分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいう。ここで「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならない顔料の粒子径をいう。
【0032】
前記表面処理型顔料の表面に結合される親水性官能基としては、カルボキシル基、スルホン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アンモニウム基等が例示できる。
【0033】
本発明の表面処理型顔料は、顔料粒子の表面を酸化および/または物理的/化学的処理な反応処理等によって、表面に上述のような親水性官能基を付与し、水系での分散を行うものである。これらの表面処理の方法としては、例として、空気接触による酸化法、窒素酸化物、オゾンとの反応による気相酸化法、炭酸ガス等酸化物を用いた低温プラズマ酸化法、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、オゾン水溶液等の酸化剤を用いる液相酸化法等の酸化方法、次亜ハロゲン酸またはその塩を用いる湿式酸化法、スルホン酸化物による方法、真空プラズマ処理、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0034】
前記表面処理型顔料を色剤として含有する水性分散液及び水性インク組成物は、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下や発泡がほとんど無く取り扱いが容易である。特に、本発明の必須構成成分である前記樹脂エマルジョンと前記表面処理型顔料とを組み合わせて使用して調製したインクジェット記録用インク組成物は、所望される発色性と定着性、吐出安定性、保存安定性等の諸特性を高いレベルで容易にバランス良く得ることが可能である。
【0035】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、上記の親水性官能基の中でも特に、顔料表面に存在するカルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料を含む。顔料表面に存在するカルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料は、上述した種々の酸化方法により得られるが、本発明においては、次亜ハロゲン酸またはその塩を用いて湿式酸化された表面処理型顔料であることが好ましい。この手法によれば、顔料表面に効率的に、かつ比較的容易にカルボキシル基を付与することができる。次亜ハロゲン酸またはその塩の例としては、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カリウムが挙げられ、次亜塩素酸ナトリウムが反応性の点から特に好ましい。顔料の酸化は、一般に、顔料と、顔料の重量に対して有効ハロゲン濃度で10〜30%の次亜ハロゲン酸塩とを適量の水中に仕込み、5時間以上、好ましくは約10〜15時間、50℃以上、好ましくは95〜105℃で攪拌することにより行う。
【0036】
上記いずれかの方法により得られた、顔料表面に存在するカルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料を含有するインク組成物は、一般的に、記録物を水に浸漬しても顔料は流れ出すことはなく耐水性があり、且つ、記録物の濃度に優れ、高いOD値が得られるという特徴がある。一方、カルボキシル基以外の官能基によって主に分散する表面処理型顔料を含有するインク組成物と比較して、カルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料を含有するインク組成物は、一般的に、やや吐出安定性に劣る傾向がある。但し、本発明の必須構成成分である前記エマルジョンと組み合わせて用いることにより、インクジェット記録用インク組成物として、実使用上問題無いレベルの安定した吐出性を得ることが可能となる。
【0037】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記表面処理型顔料を表面処理型カーボンブラックとすることで、最も好適に使用することができる。表面処理型カーボンブラックの原料となるカーボンブラックとしてはカラー用カーボンブラックとして一般に市販されているものを使用することができる。具体的には、pHによって分類すると酸性カーボンブラック、中性カーボンブラック、塩基性カーボンブラックであり、また製造法で分類すると、ファーネス式カーボンブラック、チャンネル式カーボンブラック、アセチレン式カーボンブラック、サーマル式カーボンブラックのいずれをも用いることが可能である。本発明における表面処理型カーボンブラックは、前記カーボンブラックの分類の中でも特に酸性カーボンブラックを酸化処理して得られたものであることが好ましい。通常カーボンブラックの酸化処理は、原料カーボンブラックを粉砕する工程と、粉砕されたカーボンブラックを酸化する工程が引き続いて、または、ほぼ同時に行われ、両方の工程で酸化剤が必要となる。酸性カーボンブラックは表面にカルボキシル基等の親水性基が多いため、水系媒体になじみやすく粉砕が容易である。そのため、粉砕時の酸化剤が不要であり、酸化処理に使用する酸化剤の量を少なくすることができる。本発明において好適に使用される酸性カーボンブラックの例としては具体的には、#50、MA8、MA100(以上、三菱化学(株)製)など、カラーブラックFW1、FW18、FW200、カラーブラックS170、スペシャルブラック250(以上、デグサ社製)など、ラーベン3500、ラーベン1080、ラーベンC(以上、コロンビアンカーボン社製)など、モナーク1300、リーガル400R(以上、キャボット社製)などが挙げられる。なお、これら記載は本発明に好適なカーボンブラックの一例であり、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0038】
また前記表面処理型カーボンブラックとしては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上、キャボット社製)等が例示できる。
【0039】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、顔料平均粒子径が100〜200nmの範囲であることが好ましく、100〜160nmの範囲であることが更に好ましい。顔料平均粒子径が100nm以上であれば、分散安定性が向上するため良好な保存安定性や吐出安定性を得ることができ、さらに記録物の高いOD値を確保することができる。また、顔料平均粒子径が200nm以下であれば、ノズル目詰まりを防止することができ、さらに顔料の沈降も抑制することができる。
【0040】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、以上述べてきた種々の表面処理型顔料を用いて製造されるものであって、インク組成物全量に対する顔料の含有量が、2〜15重量%の範囲であることを特徴とする。ここでインク組成物中の顔料含有量が2重量%であれば、印字した記録物の高いOD値が確保でき、所望の品質を満足することができる。また15重量%以下であれば、急激なインク初期粘度上昇を起こさないためインクジェット適正物性値に合わせやすく、さらに安定した吐出性や保存性、ノズル目詰まり性等の信頼性を向上させることができる。
【0041】
また、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、溶剤として、水以外に、有機溶剤を併用することもできる。このような有機溶剤としては、水と相溶性を有し、記録媒体へのインク組成物の浸透性及びノズル目詰まり性を向上させると共に、後述する浸透剤等のインク組成物中成分の溶解性を向上させるものが好ましく、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−nプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等のグリコールエーテル類、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0〜10重量%で用いることができる。
【0042】
本発明のインクジェット記録用インク組成物には、印字品質を向上させる点から、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、一般的に使用されるアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤から選択できるが、この中でもノニオン性界面活性剤が特に好ましい。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等が挙げられ、これらを用いることにより、イオン性の界面活性剤と比較して発泡の少ないインク組成物を得ることができる。さらにノニオン性界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤が、発泡がほとんど無いインク組成物を得ることができ、インクジェット記録に用いる場合、特に好ましい。このようなアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、またはこれらの物質それぞれにおける複数の水酸基それぞれにエチレンオキシ基若しくはプロピレンオキシ基を平均1〜30個付加してなる物質等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、「オルフィンE1010」及び「オルフィンSTG」(以上、日信化学工業(株)製)等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、本発明のインク組成物中、好ましくは0.1〜3重量%であり、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0043】
本発明のインクジェット記録用インク組成物には、記録媒体への定着性をさらに向上させて、記録する画像の耐擦性を高めるために、浸透剤を含有させることが好ましい。このような浸透剤としては、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類が好ましく、特に、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが優れた浸透性能と取り扱いが容易であるという点から好ましい。浸透剤の含有量は、インク組成物の浸透性及び速乾性を向上させて、インクの滲み発生を有効に防止できる点で、本発明のインク組成物中、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%である。
【0044】
本発明のインクジェット記録用インク組成物には、ノズル目詰まりを防止して信頼性をより高めるために、水溶性グリコール類を含有させることが好ましい。このような水溶性グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチエングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の二価のアルコールや、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の三価以上のアルコール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。水溶性グリコール類の含有量は、本発明のインク組成物中に好ましくは1〜30重量%である。
【0045】
また、本発明のインクジェット記録用インク組成物には、前記水溶性グリコール類と同様に、ノズルの目詰まり防止のために、防黴剤や防腐剤を含有させることもできる。例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0.01〜0.5重量%で用いることができる。
【0046】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、印字濃度の向上及び液安定性の観点から、そのpHを6〜11とすることが好ましく、7〜10とすることが更に好ましい。インク組成物のpHを前記範囲内とするためには、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ類、アンモニア、トリエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリプロパノールアミン等の炭素数6〜10の3級アミン類等を含有させることが好ましい。pH調整剤は、その1種又は2種以上を、本発明のインク組成物中に好ましくは0.01〜2重量%で用いることができる。
【0047】
本発明のインクジェット記録方法は、インクを微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる方式も使用することができる。
【0048】
その幾つかを説明する。先ず静電吸引方式がある。この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式がある。
【0049】
第二の方式としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0050】
第三の方式は圧電素子を用いる方式であり、インクに圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0051】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインクを急激に体積膨張させる方式であり、インクを印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0052】
以上のいずれの方式も本発明のインク組成物を用いたインクジェット記録方法に使用することができる。本発明のインクジェット記録用インク組成物を適用することにより、いずれのインクジェット記録方式であっても、優れた吐出安定性、ノズル目詰まり性を実現し得る。
【0053】
本発明の記録物は、少なくとも上記インク組成物を用いてインクジェット記録が行われて得られたものである。この記録物は、本発明のインク組成物を用いることにより、高濃度で、且つ、インクの、特にインク中の顔料の定着性が向上し、耐擦性に優れた文字や図形等の画像を形成することができる。また、樹脂エマルジョンの共重合成分モノマーやオリゴマーに起因した、不快臭や有毒ガスの発生が起こらない。
【0054】
(実施例)
以下、本発明のインク組成物について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(樹脂エマルジョンA及びBの調製)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000部及びラウリル硫酸ナトリウム3部を仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム3部を添加し、溶解後、表1に示す各配合量で予め作製したモノマー乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。更に、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの重合反応を進行させるために、過硫酸カリウム1部を追加して1時間攪拌した。得られた樹脂エマルジョンを常温まで冷却した後、それぞれ、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整して、樹脂エマルジョンA及びBを得た。ただし、表1中に示す配合量はすべて重量部として表されている。
【0056】
【表1】

【0057】
(樹脂エマルジョンC及びDの調製)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000部及びラウリル硫酸ナトリウム3部を仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4部を添加し、溶解後、表1に示す各配合量で予め作製したモノマー乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた樹脂エマルジョンを常温まで冷却した後、それぞれ、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整して、樹脂エマルジョンC及びDを得た。ただし、表1中に示す配合量はすべて重量部として表されている。
【0058】
(顔料分散液Aの調製)
市販の酸性カーボンブラック「MA−100」(pH3.5、三菱化成社製)300gを水1000gに良く混合した後、これに次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)500gを滴下して、100〜105℃で12時間撹拌した。得られた分散原液を東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)で濾過し、顔料粒子が洩れるまで水洗した。この顔料ウエットケーキを水3000gに再分散し、電導度2mS/cmまで逆浸透膜で脱塩した。さらに、この顔料分散液(pH=8〜10)を、顔料濃度10重量%に濃縮し、表面処理したカーボンブラックを含んでなる顔料分散液Aを得た。顔料分散液Aを超純水で2,000倍に希釈した後、粒度分布計マイクロトラックUPA−150(日機装株式会社製)で平均粒子径を測定したところ130nmであった。
【0059】
(顔料分散液Bの調製)
市販の酸性カーボンブラック「S170」(デグサ・ヒュルス社製)100g、水溶性樹脂分散剤「ジョンクリルJ62」(ジョンソンポリマー社製)150g、水酸化ナトリウム6g、水250gを混合し、ジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散した。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに水洗した。この顔料ウエットケーキを水5000gに再分散し、電導度2mS/cmまで逆浸透膜で脱塩した。さらに、顔料濃度が15重量%に濃縮し、高分子分散剤を用いてカーボンブラックを分散させた、顔料分散液Bを得た。顔料分散液Bを超純水で3,000倍に希釈した後、粒度分布計マイクロトラックUPA−150で平均粒子径を測定したところ120nmであった。
【0060】
(インク組成物の調製)
インク組成物1〜7について、樹脂エマルジョンA〜D及び顔料分散液A,Bをそれぞれ表2に示す各配合量(いずれも固形分換算)、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、エタノール2部、オルフィンE1010(日信化学工業(株)製)1部、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル3部、1,2−ヘキサンジオール5部、プロキセルXL−2(AVECIA社製)0.3部、次いでpHが7.5になるようにトリエタノールアミンを加え、全量が100部になるように超純水を添加した。この混合液を室温にて2時間攪拌した後、ポリテトラフルオロエチレン製、孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製)により濾過して、インク組成物1〜7(実施例1〜4及び比較例1〜3)の各インク組成物を得た。
【0061】
また、こうして得られたインク組成物1〜7の中の、分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの合計量[ppm]を表2に示す。この値は、樹脂エマルジョンA〜D及び顔料分散液A,B中に含まれる、分子量2000以下の共重合成分モノマー及びオリゴマーの量を、ガスクロマトグラフ5890A(ヒューレットパッカード社製)にて測定し、それらの測定値から、各インク組成物中の合計量を算出したものである。
【0062】
【表2】

【0063】
(インク組成物の評価試験)
調製した実施例1〜4及び比較例1〜3の各インク組成物について、下記の評価1〜4を行った。
<評価1: 定着性(耐ラインマーカー性)>
調製した各インク組成物を、インクジェット記録装置PX−V700(セイコーエプソン(株)製)に充填し、べた及び文字の含まれるパターンを印刷した。得られた記録物を24時間自然乾燥させた後、イエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(ゼブラ社製)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で観察した。その結果を以下の基準に基づいて判定した。
判定A; 同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない場合
判定B; 1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが生じる場合
判定C; 1回の擦りで汚れが生じる場合
<評価2: 吐出性>
調製した各インク組成物を上述のインクジェット記録装置PX−V700に充填し、40℃環境において、べた及び罫線の含まれるパターンを連続印刷した。印刷中にノズルの抜けやインクの飛行曲がり等による印字の乱れがあった場合は、記録装置に付属の復帰動作(クリーニング)を都度行った。連続100ページ内に必要とされた上記クリーニングの回数を計測し、結果を以下の基準に基づいて判定した。
判定A; クリーニングを必要としなかった場合
判定B; 3回未満のクリーニングを必要とした場合
判定C; 3回以上5回未満のクリーニングを必要とした場合
<評価3: 保存性>
調製した各インク組成物60gをそれぞれ100gプラスティックボトルに入れた後、密栓してから70℃環境下で1週間放置した。放置前後の各インク組成物の粘度を振動式粘度計(山一電機(株)製)にて測定し、その変化率から以下の基準に基づいて保存安定性を判定した。
判定A; 放置による粘度変化率が±5%未満である場合
判定B; 放置による粘度変化率が±5%以上±10%未満である場合
判定C; 放置による粘度変化率が±10%を超える場合
<評価4: OD値>
調製した各インク組成物をそれぞれ、オンデマンド型インクジェット記録装置であるPX−V700(セイコーエプソン(株)製)に充填した後、普通紙−はやいモードで100%べた印刷を行った。記録媒体は、中性普通紙としてゼロックスP、ゼロックス4024(以上、富士ゼロックス(株)製)、酸性普通紙としてEPP(セイコーエプソン(株)製)、再生紙としてゼロックスR(富士ゼロックス(株)製)の4種類の紙を用い、記録物を得た。印刷後、記録物を一般環境で1時間放置した後、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてべた部分のOD値を測定した。測定した結果を以下の基準に基づいて判定した。
判定A; OD値が1.30以上である場合
判定B; OD値が1.20以上1.30未満である場合
判定C; OD値が1.20未満である場合
以上、評価1〜4の判定結果を、表2にまとめて示す。
【0064】
表2から明らかなように、本発明の適用範囲内であるインク組成物1〜4(実施例1〜4)は、いずれの評価項目においても、判定AまたはBを与え、記録物の十分な定着性と、高いOD値、安定な吐出性及び保存性をいずれも実現している。一方、インク組成物中に分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーを1000ppm以上含んだ、インク組成物5及び6(比較例1及び2)は、記録物の定着性、及び高いOD値は確保されるものの、吐出性や保存性評価において判定Cを与える結果であった。また、高分子分散剤を用いて分散させた顔料分散液Bを含んだ、インク組成物7(比較例3)は、記録物の定着性、吐出性及び保存性は良好なものの、所望のOD値を満足できず判定Cを与える結果であった。
【0065】
また、実施例のインク組成物中、インク組成物全量に対して樹脂エマルジョンを3重量%含有し、且つ分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量を1000ppm以下とした、インク組成物2及び4(実施例2及び4)は、良好な定着性を与え、OD値も高く、さらに吐出性及び保存性評価においても、いずれも判定Aを与える良好な結果であった。
【0066】
以上詳細に述べてきたように、本発明によれば、記録物の十分な定着性が得られ、且つ、高濃度で、吐出安定性や保存安定性の良好なインクジェット記録用インク組成物が提供される。また当該インク組成物を用いたインクジェット記録方法及び記録物が好適に提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂エマルジョンと、表面処理型顔料とを含むインクジェット記録用インク組成物において、前記樹脂エマルジョンに含まれる分子量2000以下のモノマー及びオリゴマーの量が、インク組成物全量に対して1000ppm以下であることを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
前記樹脂エマルジョンが、必須共重合成分として、アルキル(メタ)アクリレート類及び芳香族ビニル類から成る群から選ばれる1種または2種以上の単量体を含むことを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
前記樹脂エマルジョンの含有量が、インク組成物全量に対して、1〜10重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
前記表面処理型顔料が、顔料表面に存在するカルボキシル基によって主に分散する表面処理型顔料であることを特徴とする、請求項1〜3に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項5】
前記表面処理型顔料が、表面処理型カーボンブラックであることを特徴とする、請求項1〜4に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項6】
前記表面処理型顔料の平均粒子径が、100〜200nmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜5に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項7】
前記表面処理型顔料の含有量が、インク組成物全量に対して、2〜15重量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜6に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項8】
インクの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インクとして請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用インク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット記録方法によって記録が行われたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2006−274026(P2006−274026A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94832(P2005−94832)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】