説明

インクジェット記録用圧着紙

【課題】インクジェット印刷によって印刷したときの印字画像が優れた鮮明性及び耐水性を発揮することができるインクジェット記録用圧着紙を提供すること。
【解決手段】基紙2とその少なくとも一方の表面に形成された接着層3とを有するインクジェット記録用圧着紙1である。接着層3は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を基紙2に塗工してなる。インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、かつ該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂圧着はがき等に用いられるインクジェット記録用圧着紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人情報の機密性が重要視されるようになり、圧着葉書の需要が高まっている。
このような圧着葉書は、一般に、加圧により接着性を発揮する接着面を有する圧着葉書用紙に必要な情報を印字し、用紙を折り畳んで圧力を加えることにより接着面同士を圧着させ、葉書の形態に構成して作製される。圧着葉書用紙には、印字の鮮明性が要求されると共に、接着面を剥離させたときに、印字画像が転写され難いという品質が要求される。
【0003】
ところで、圧着葉書用紙への印刷には、従来、レーザプリンターが用いられていた。しかし、レーザプリンターを用いて印刷を行う際には、加熱が必要となり、この加熱時に不快臭が発生したり、圧着葉書用紙の圧着性が低下しやすくなるという問題があった。
そこで、近年、水溶性インクを用いたインクジェット印刷が採用されるようになってきた。
【0004】
インクジェット記録用の圧着紙には、圧着紙に当然要求される品質に加えて、インクジェット印刷による水溶液インクの印字の鮮明性及び耐水性に優れること等が要求されている。
このようなインクジェット記録用圧着紙としては、感圧接着剤、微粒子充填剤、及びインク定着剤を含有し、該インク定着剤として4級化率が84%以上のアルキルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物を用いた接着層用組成物を表面に塗工してなるインクジェット記録用圧着葉書用紙が開発されている(特許文献1参照)。
また、コールドシール剤と、微細鉱物粉末と、ポリジメチルアミンエピクロルヒドリン及び/又は変性ジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合物とを含有する塗料からなる接着剤組成物を用いたインクジェット用圧着紙が開発されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−237550号公報
【特許文献2】特開平10−52985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインクジェット記録用圧着紙は、印字の鮮明性や耐水性が未だ十分ではなかった。特にフルカラーで印刷を行った場合には、印字が不鮮明になったり、水に対する耐久性が不十分となり易いという問題があった。
【0007】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、インクジェット印刷によって印刷したときの印字画像が優れた鮮明性及び耐水性を発揮することができるインクジェット記録用圧着紙を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、基紙と該基紙の少なくとも一方の表面に形成された接着層とを有するインクジェット記録用圧着紙において、
上記接着層は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を上記基紙に塗工してなり、
上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、かつ該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有していることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、基紙と該基紙の少なくとも一方の表面に形成された接着層とを有するインクジェット記録用圧着紙において、
上記接着層は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を上記基紙に塗工してなり、
上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させ、更に4級化剤を反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有していることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙にある(請求項2)。
【0010】
上記第1の発明及び上記第2の発明のインクジェット記録用圧着紙において最も注目すべき点は、上記定着剤が上記カチオン性ポリマーを含有している点にある。
即ち、上記第1の発明において、上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有している。
また、上記第2の発明において、上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させ、更に4級化剤を反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有している。
【0011】
そのため、上記第1及び第2の発明のインクジェット記録用圧着紙においては、上記インク定着剤を含有する上記接着層が、インクジェット印刷のインクに対して、優れた鮮明性及び耐水性を発揮することができる。特に、フルカラー印刷に対する鮮明性及び耐水性に優れている。
また、上記インク定着剤は、アミン臭がほとんどない。そのため、上記接着性組成物を上記基紙に塗工して上記接着層を形成する際に、作業環境が悪化してしまうことを防止することができる。
【0012】
このように、上記第1及び第2の発明によれば、インクジェット印刷によって印刷したときの印字画像が優れた鮮明性及び耐水性を発揮することができるインクジェット記録用圧着紙を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のインクジェット記録用圧着紙は、上記基紙と、該基紙の表面に形成された上記接着層とを有する。
上記基紙としては、インクジェット印刷に適用できる種々の紙を採用することができる。
基紙のパルプ原料としては、クラフトパルプ、及びサルファイトパルプ等の化学パルプの晒または未晒パルプ、砕木パルプ、機械パルプ及びサーモメカニカルパルプ等の高収率パルプの晒又は未晒パルプ、並びに新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙及び脱墨古紙等のパルプ等が挙げられる。
【0014】
填料、染料、酸性抄紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系中性抄紙用サイズ剤、及び中性抄紙用ロジン系サイズ剤等のサイズ剤、ポリアクリルアミド等の乾燥紙力増強剤、ポリアミドエピクロロヒドリン等の湿潤紙力増強剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、並びに消泡剤等の添加物を必要に応じて使用することができる。
【0015】
また、上記接着層は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を上記基紙に塗工してなる。
上記接着性組成物(塗工液)を基紙に塗工する塗工機としては、サイズプレス、フィルムプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、カレンダー、バーコーター、ナイフコーター、及びエアーナイフコーター等が挙げられる。また、スプレー塗工機により基紙表面に塗工することもできる。
【0016】
また、上記接着性組成物は、上記感圧接着剤、上記無機充填剤、及び上記インク定着剤の他に、バインダーや助剤等を含有することができる。
具体的には、上記接着組成物に、必要に応じて酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉、及び両性澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール類、及びポリアクリルアミド類等の水溶性高分子、並びに合成高分子ラテックス等を添加することができる。
上記接着性組成物の塗工後には、例えば乾燥を行うことにより、上記接着層を形成できる。具体的には、風乾ないし所定の温度、湿度の雰囲気下に調湿され、製品化される。
【0017】
また、上記接着性組成物は、水などの溶媒に上記感圧接着剤、上記無機充填剤、上記インク定着剤、及び助剤等が溶解及び/又は分散された性状となっていることが好ましい。この場合には、上記基紙への塗工が容易になる。このときの溶媒には、後述の実施例に示すごとく、一般に製造時に水溶液などの溶液状態で製造されるインク定着剤の溶媒を利用することができる他、必要に応じて水等の溶媒を追加して添加することができる。
【0018】
また、上記接着層は、坪量3〜15g/m2で上記接着性組成物の固形分を含有することが好ましい(請求項10)。
坪量3g/m2未満の場合には、上記インクジェット記録用圧着紙が、十分な接着性を発揮できなくなるだけでなく、耐水性及び印字鮮明性を充分に発揮することができなくなるおそれがある。一方、15g/m2を超える場合には、接着力が高くなりすぎて、接着後の剥離が困難になるおそれがある。なお、上記接着性組成物の固形分は、上記接着性組成物を上記基紙に乾燥させ溶媒を蒸発させたときの残存成分である。
【0019】
上記接着層は、上記感圧接着剤100質量部に対して、上記無機充填剤を50〜200質量部、上記インク定着剤の上記カチオン性ポリマーを5〜70質量部含有することができる(請求項9)。上記無機充填剤が50質量部未満の場合には、対ブロッキング性が低下したり、上記インクジェット記録用圧着紙をその接着層同士で接着させたときの接着力が強くなりすぎて剥離が困難になるおそれがある。一方、200質量部を超える場合には、接着力が低下し、剥離し易くなるおそれがある。
また、上記インク定着剤のカチオン性ポリマーが5質量部未満の場合には、上記インクジェット記録用圧着紙が十分な耐水性及び印字鮮明性を発揮することができなくなるおそれがある。一方、70質量部を超える場合には、接着強度が低下し、剥離し易くなるおそれがある。
なお、上記の接着層の配合割合において、上記感圧接着剤の量は、接着成分、即ち乾燥後に残存する成分(溶媒や揮発成分以外の成分)の量であり、上記インク定着剤は、そのカチオン性ポリマーの量、即ち、乾燥後に残存する成分(溶媒や揮発成分以外の成分)の量である。
【0020】
上記感圧接着剤は、常温、常圧では接着性を示さず、加圧により接着性を示す接着剤である。このような感圧接着剤としては、例えば特開2005−105258号公報や特開2006−28706号公報に開示されている接着剤と同様のもの、又は市販のものを採用することができる。
上記無機充填剤としては、例えば特開2005−105258号公報や特開2006−28706号公報に開示されている微粒子充填剤等を採用することができる。
また、上記接着性組成物は、上記感圧接着剤、上記無機充填剤、上記インク定着剤以外にも、例えば特開2005−105258号公報や特開2006−28706号公報に開示されているバインダー樹脂等を含有することができる。即ち、本発明のインクジェット記録用圧着紙において、上記インク定着剤以外の構成は、特開2005−105258号公報や特開2006−28706号公報等の本願出願前に開示されているインクジェット記録用圧着紙と同様の構成にすることができる。
【0021】
また、上記インク定着剤は、上記カチオン性ポリマーを含有し、該カチオン性ポリマーは、上述のように、3級アミン類(a)と、2級アミン類(b)と、エピハロヒドリン類(c)とを反応させて得られるカチオン性重合体である。
【0022】
上記3級アミン類としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、メチルジベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、エチルジベンジルアミン、ジ−n−プロピルベンジルアミン、n−プロピルジベンジルアミン、ジ−n−ブチルベンジルアミン、n−ブチルジベンジルアミン、トリベンジルアミンなどを採用することができる。これらの3級アミン類は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中では、トリメチルアミンが特に好ましい。
【0023】
また、上記2級アミン類としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジベンジルアミン、メチルエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチル−n−ブチルアミン、メチルベンジルアミンなどを採用することができる。これらの2級アミン類は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中では、ジメチルアミンが好ましい。
【0024】
好ましくは、上記3級アミン類はトリメチルアミン、上記2級アミン類はジメチルアミンであることがよい(請求項8)。
これらのアミンは工業的に安価で入手できるため、この場合には、上記インクジェット記録用圧着紙の製造コストを低くすることができる。
【0025】
上記エピハロヒドリン類としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、メチルエピブロモヒドリンなどを採用することができる。これらのエピハロヒドリン類は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を混合して用いることもできる。これらのエピハロヒドリン類の中では、商業的入手の容易性及び反応性の観点からエピクロロヒドリンが特に好ましい。
【0026】
また、3級アミン類(a)と、2級アミン類(b)と、エピハロヒドリン類(c)との仕込みモル比は、a:b:c=1.0:1.2〜5.0:1.8〜5.5、好ましくはa:b:c=1.0:1.5〜5.0:2.0〜5.5である。更に好ましくは、1.0:1.5〜2.5:2.0〜3.0である。この範囲内においては上記インク定着剤が所望の耐水性および印字鮮明性を発揮し、耐水性及び印字の鮮明性に優れた上記インクジェット記録用圧着紙が容易に得られるが、上記範囲を外れると良好な製品製造が困難となる。
特に本発明においては、表1に示すように、(a)、(b)及び(c)のモル比を整数倍とすることが好ましい。現実的には厳密な整数倍でなくとも、その上下20%以内、好ましくは10%以内であれば良好な製品が容易に得られる。2級アミン類(b)のモル数に1を加えたモル数のエピハロヒドリン類(c)を使用するのが、最も一般的である。
【0027】
【表1】

【0028】
また、上記3級アミン類と上記2級アミン類と上記エピハロヒドリン類との反応時に副生成物として生成しうる1,3−ジハロ−2−プロパノールの含有量が上記カチオン性ポリマーに対して300重量ppm以下の上記インク定着剤を採用してあることが好ましい(請求項3)。
1,3−ジハロ−2−プロパノールの含有量が300重量ppmを超える場合には、上記定着剤に毒性が生じるおそれがある。
【0029】
また、上記インク定着剤は、コロイド滴定によって測定される4級化されたアミノ基の割合が全アミノ基に対して90モル%以上である上記カチオン性ポリマーを含有することが好ましい(請求項4)。より好ましくは95モル%以上である。
4級化されたアミノ基の割合が90モル%未満の場合には、上記インク定着剤が所望の耐水性及び印字鮮明性を発揮することができず、上記インクジェット記録用圧着紙の耐水性及び印字の鮮明性が低下するおそれがある。また、上記インク定着剤のポリマーにアミン臭が残り、作業環境が悪化するおそれがある。4級化率を上げるためにはエピハロヒドリンをやや多めに使用すればよい。しかしながら多すぎると、1,3−ジハロ−2−プロパノールの副生量が多くなり問題を生じる。場合によっては、上記第2の発明のように、3級アミン類、2級アミン類及びエピハロヒドリン類の反応後に、追加的に4級化剤と反応させることができる。かかる4級化剤としては、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(四日市合成株式会社製:CTA−65)、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド(四日市合成株式会社製:GTA−80)、メチルクロライド、エチルクロライド、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロマイド等を使用することができる。
【0030】
また、上記カチオン性ポリマーは、ポリマー濃度60重量%水溶液の25℃における粘度が10〜100mPa・sである。好ましくは20〜60mPa・sである。粘度が10〜100mPa・sを外れる場合には、上記カチオン性ポリマーの分子量が小さすぎるかあるいは大きすぎて、上記インク定着剤が所望の耐水性および印字鮮明性を発揮できなくなるおそれがある。なお、上記の粘度はポリマー濃度60重量%で測定されるものであり、たとえばこれを濃度30重量%に換算すると約5〜9mPa・sに相当する。
【0031】
上記インク定着剤は、温度25℃におけるpHが3〜7に調整されていることが好ましい(請求項5)。
pHが7を超えると上記インク定着剤のアミン臭が強くなるおそれがある。一方、3未満の場合には、上記インク定着剤の安定性が悪くなり、例えば長期間保存した場合にその特性が低下し易くなるおそれがある。また、インク定着剤の製造時にpHを3以下にする必要性はほとんどなく、むだに中和剤(酸)の使用量を増やす結果となってしまうおそれがある。より好ましくは、pHは4〜6であることがよい。
【0032】
3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類との反応後のpHの調整には酸を用いることができる。このような酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、ホウ酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、乳酸、クエン酸、マレイン酸、シュウ酸、安息香酸等の有機酸を用いることができる。好ましくは塩酸がよい。また、これらの酸を2種以上組み合わせて用いることもできる。上記の酸において、リン酸類を用いると、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類との反応後のポリマー水溶液を鉄製の容器、タンクに保管する際に防食作用を発揮することができる。したがって、上記インク定着剤は、少なくともリン酸類を含有する酸で上記pHの範囲に調整されていることが好ましい(請求項6)。
また、場合によっては、塩酸によって所望のpH調整を終えたのち、追加的にリン酸類を添加することができる。使用可能なリン酸類としては、上記のほかに次亜リン酸、酸性リン酸塩、ポリリン酸が挙げられる。
【0033】
したがって、リン酸類は、pH調整用として添加することができる他、pH調整には他の酸を用いて、追加的にリン酸類を添加することができる。最終的に上記インク定着剤中にリン酸類が添加されていれば、リン酸類は、上述のごとく防食剤としての役割を果たすことができる。したがって、上記インク定着剤は、防食剤としてリン酸類を含有することが好ましい(請求項7)。
【0034】
上記インク定着剤は、上記カチオン性ポリマーの重量に対して、上記リン酸類を、等モル数のリン酸換算量で100重量ppm以上含有することが好ましい。
100重量ppm未満の場合には、十分な防食剤効果を発揮できなくなるおそれがある。なお、リン酸換算量については、例えばリン酸類としてNH42PO4(式量115)を230重量ppm用いた場合、これを等モル数のH3PO4(式量98)に換算すると196ppmに相当する。
【0035】
次に、上記カチオン性ポリマーの合成方法について更に詳しく説明する。
カチオン性ポリマーの合成法としては、特に好ましくは、3級アミン類と、2級アミン類の混合物を敷液として、これにエピハロヒドリン類を徐々に添加する方法が挙げられる。逆に、エピハロヒドリン類を敷液として、これに3級アミン類と2級アミン類の混合物を添加する方法もある。場合によっては、3級アミン類と2級アミン類を混合物ではなく、それぞれ単独に複数回に分割して添加してもよく、エピハロヒドリン類を分割して使用してもよい。3級アミンと2級アミンは通常30〜60重量%程度の水溶液で用いられ、エピハロヒドリン類は希釈せずにそれ自体で用いられる。従って、反応媒体は通常、水溶媒となり、特別な溶媒を使用することなく実施できるが、必要に応じてアルコール、エステル、エーテルなどの有機溶媒を適宜に混合使用してもよい。
【0036】
反応温度、反応時間には特に制限はないが、要するに未反応原料がほぼ消費されることを目安とすればよい。反応原料の消費は、粘度上昇、pH変化、無機ハロゲンの回収量、ガスクロ分析などにより検出することができる。反応温度としては、通常50〜120℃、好ましくは60〜90℃の範囲から選択される。50℃以下に冷却しながら滴下し、滴下終了後に60℃以上に昇温して熟成反応を行うことも好ましい。反応速度を上げるには高温側が好ましいが、反応温度が上記範囲を超えると反応物の着色が問題となる。反応時間としては、通常1〜24時間、好ましくは2〜20時間程度で行うことができる。特に未反応のエピハロヒドリン類(b)が殆どなくなる時期を選択することが好ましい。未反応の3級アミン類(a)と、2級アミン類(b)も殆ど残存しないことが好ましい。残存すると、得られる耐水性向上剤の臭気が悪くなる。反応は無触媒でも良好に進行するので通常は無触媒下に行われるが、必要に応じてアルカリ(NaOHやKOH)を添加してもよい。
【0037】
上記インクジェット記録用圧着紙は、上記感圧接着剤、上記無機充填剤、上記インク定着剤を含有する上記接着性組成物を上記基紙に塗工することにより製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。尚、%は特に断りがない限り重量%を意味する。
まず、本例において用いるインク定着剤の物性測定について説明する。
【0039】
1.カチオン性ポリマーの溶液粘度
カチオン性ポリマー濃度60重量%の水溶液について、25℃においてB型粘度計を用いて測定し、mPa・s単位で表した。合成したポリマー濃度が60重量%を超える場合は純水で希釈して濃度調節を行う。濃度が60重量%未満の場合(例えば後述の試料e1)は、脱水により60重量%に調整する。
【0040】
2.4級化率の測定法
下記のコロイド滴定法に従った。
(1)試料をpH4(0.5%硫酸で調整)とpH10(1.0%苛性ソーダで調整)に調整する。
(2)トルイジンブルー指示薬を3〜4滴加える。
(3)1/400規定ポリビニル硫酸カリウム溶液(P.V.S.K溶液)で滴定する。(4)終点は青色から赤紫色に変色した点とする。
(5)同時に空試験を行う。
(6)コロイド当量(meq/g)=(A−B)×f×0.0025/S
A:本試験に要した1/400P.V.S.K溶液の量(ml)
B:空試験に要した1/400P.V.S.K溶液の量(ml)
f:1/400P.V.S.K溶液のファクター
S:試料採取量(g)
pH4の測定結果は、全アミンの量を示し、pH10の時は、4級アミンの量を示す。(7)4級化率=pH10のときのコロイド当量/pH4のときのコロイド当量×100
【0041】
3.DCH(1,3−ジクロロ−2−プロパノール)の測定法
ガスクロマトグラフィー分析:内部標準物質を既知量加え溶媒抽出後、キャピラリーGCにて測定し、内部標準法で算出する。
【0042】
4.臭気測定法
カチオン性ポリマー水溶液中のカチオン性ポリマーが一定(0.5g)になるようにビーカーに秤取り、そのビーカーにアルミホイルで蓋をする。次に、120℃のジェットオーブンにて2.5分間加温し、その後アルミホイル部にガス検知管(ガステックス社製:アンモニア用)を突き刺し、濃度(ppm)を測定する。
【0043】
(実施例1)
まず、以下のようにしてインク定着剤を作製する。
即ち、まず、攪拌機、温度計、及び窒素ガス導入管を付した容積1000mlのグラス製オートクレーブに濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30%のトリメチルアミン水溶液を291.0g(トリメチルアミン量:1.477モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン274.0g(2.961モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持した。次いで、温度80℃まで昇温させさらに3時間熟成させた。次いで室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸77.0g及び濃度75wt%のリン酸0.82g(反応後に得られるカチオン性ポリマーに対して730重量ppm)にてpHを5.0に調整し、濃度58重量%で4級化率91%のカチオン性ポリマーを含有するインク定着剤を840.0g得た。これを試料e1とする。本例における収率は99.7%であった。
本例のインク定着剤は、濃度60重量%水溶液(カチオン性ポリマー水溶液)時の粘度が21mPa・sのカチオン性ポリマーを含有している。また、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCH)の含有量は100重量ppm未満であった。なお、pH調整する前の反応物のpHは12であった。試料e1について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表2に示す。
【0044】
次に、実施例1とは異なる仕込み組成でインク定着剤を作製する実施例及び比較例について説明する。
(実施例2)
まず、実施例1と同様のオートクレーブに、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミン水溶液を218.5g(トリメチルアミン量:1.109モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン257.0g(2.777モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸54.5g及び濃度75wt%のリン酸0.92gにてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料e2とする。試料e2におけるカチオン性ポリマーの粘度は、36mPa・sであった。試料e2について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表2に示す。
【0045】
(実施例3)
まず、実施例1と同様のオートクレーブに、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミン水溶液を174.8g(トリメチルアミン量:0.887モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン246.0g(2.659モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸46.2g及び濃度75wt%のリン酸0.87gにてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料e3とする。試料e3におけるカチオン性ポリマーの粘度は、40mPa・sであった。なお、pH調整する前の反応物のpHは10.5であった。試料e3について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表2に示す。
【0046】
(実施例4)
まず、実施例1と同様のオートクレーブに、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミン水溶液を145.7g(トリメチルアミン量:0.739モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン239.0g(2.583モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸38.5g及び濃度75wt%のリン酸0.82gにてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料e4とする。試料e4におけるカチオン性ポリマーの粘度は、48mPa・sであった。試料e4について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表2に示す。
【0047】
(実施例5)
まず、実施例1と同様のオートクレーブに、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン超:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミン水溶液を145.7g(トリメチルアミン量:0.739モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン239.0g(2.583モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸38.5g及び濃度75wt%のリン酸1.6gにてpHを4.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料e5とする。試料e5におけるカチオン性ポリマーの粘度は、48mPa・sであった。試料e5について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表2に示す。
【0048】
(実施例6)
まず、実施例1と同様のオートクレーブに、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミン水溶液を291.0g(トリメチルアミン量:1.477モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン274.0g(2.961モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、濃度35wt%の塩酸77.0gにてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマーの濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料e6とする。試料e6におけるカチオン性ポリマーの粘度は、20mPa・sであった。本例と実施例1との対比から、濃度75wt%のリン酸0.82gを使用しなくとも濃度35wt%の塩酸77.0gのみによってpH5.0の調整が可能であることが分かる。試料e6について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表3に示す。
【0049】
(実施例7)
まず、実施例1と全く同様にして、カチオン性ポリマーの濃度58%、4級化率91%のカチオン性ポリマーの水溶液(実施例1におけるインク定着剤)を製造した。その後、得られたカチオン性ポリマー水溶液に、4級化剤として3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド6.4g(0.022モル)及びグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド4.7g(0.022モル)を加えて、60℃で2時間撹拌処理を行った。このようにしてインク定着剤を得た。これを試料e7とする。試料e7のpHは4.8になり、カチオン性ポリマーの4級化率は99%に達していた。また、溶液粘度は23mPa・sに上昇した。試料e7について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表3に示す。
【0050】
(比較例1)
まず、攪拌機、温度計、及び窒素ガス導入管を付した容積1000mlのグラス製オートクレーブに濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)、濃度30wt%のトリメチルアミンを655.6g(トリメチルアミン量:3.327モル)仕込み、窒素置換後40℃に冷却しながらエピクロロヒドリン307.8g(3.326モル)を2時間かけて導入し、同温度で1時間保持し、更に温度80℃まで昇温させ3時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、塩酸にてpHを5.0に調整し、カチオン性ポリマー濃度が60wt%のインク定着剤を得た。これを試料c1とする。試料c1におけるカチオン性ポリマーの粘度は、15mPa・sであった。試料c1について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表3に示す。
【0051】
(比較例2)
まず、攪拌機、温度計、及び窒素ガス導入管を付した容積1000mlのグラス製オートクレーブに窒素置換後、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)仕込み、40℃に冷却しながら濃度35wt%の塩酸46.2g(0.443モル)を導入した。引き続き、同温にてエピクロロヒドリンを164.2g(1.775モル)を2時間かけて導入し、温度80℃で2時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、塩酸にてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈し、インク定着剤を得た。これを試料c2とする。試料c2におけるカチオン性ポリマーの粘度は、50mPa・sであった。試料c2について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表3に示す。
【0052】
(比較例3)
まず、攪拌機、温度計、及び窒素ガス導入管を付した容積1000mlのグラス製オートクレーブに窒素置換後、濃度50wt%のジメチルアミン水溶液を200.0g(ジメチルアミン量:2.218モル)仕込み、40℃に冷却しながらエピクロロヒドリンを205.0g(2.215モル)2時間かけて導入し、80℃で2時間熟成させた。次いで、室温(25℃)まで冷却させた後、塩酸にてpHを5.0に調整し、さらにカチオン性ポリマー濃度が60wt%になるように純水で希釈しインク定着剤を得た。これを試料c3とする。試料c3におけるカチオン性ポリマーの粘度は、1100mPa・sであった。試料c3について、その作製時における配合(仕込み組成)、pH、ポリマー濃度(濃度60%時)、4級化率、粘度(mPa・s)、臭気、DCH含量を後述の表3に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
(応用実施例)
本例は、実施例1〜7及び比較例1〜3で得られたインク定着剤(試料e1〜試料e7及び試料c1〜試料c3)をそれぞれ用いてインクジェット記録用圧着紙を作製し、その評価を行う例である。
図1〜図4に示すごとく、本例のインクジェット記録用圧着紙1は、基紙2とその少なくとも一方の表面に形成された接着層3とを有する。接着層3は、少なくとも感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を基紙2に塗工してなる。本例において、インク定着剤としては、実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた各試料を用いる。また、本例において、接着性組成物としては、感圧接着剤、無機充填剤、インク定着剤の他に、バインダー及び助剤(分散剤、消泡剤、濡れ剤)を含有する組成物を用いる。
【0056】
本例のインクジェット記録用圧着紙1は、所謂圧着葉書として用いられる。接着層3にインクジェット印刷により印字が施された後、図3及び図4に示すごとく、インクジェット記録用圧着紙1を折り曲げて接着層3同士を重ね合わせ、加圧することにより、接合面を接着させることができる。
【0057】
以下、本例のインクジェット記録用圧着紙の製造方法につき、説明する。
まず、感圧接着剤として、メチルメタクリレートグラフト天然ゴム接着剤(三井物産ソルベントコーティング(株)製の「フルタイトFB672IJ」)を準備し、無機充填剤として、シリカ(東ソー・シリカ(株)製の「ニップジェルAY−603」)を準備し、バインダーとして、部分ケン化型ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製の「NK−05R」)を準備した。また、助剤としては、分散剤(花王(株)製の「エマルゲンA−60」)、消泡剤(サンノプコ(株)製の「SNデフォーマ480」、濡れ剤(第一工業製薬(株)製の「ネオコールSW−C」))をそれぞれ準備した。
【0058】
次に、感圧接着剤の接着成分100質量部に対して、無機充填剤を80質量部、インク定着剤(各試料e1〜e7又は試料c1〜c3)をカチオン性ポリマー量で40質量部、バインダーを25質量部、分散剤を1質量部、消泡剤を2質量部、濡れ剤を2質量部混合し、10種類の接着性組成物を得た。なお、分散剤、消泡剤、濡れ剤の配合量は、感圧接着剤及びインク定着剤と同様に、固形成分の量、即ち乾燥後の残存成分(乾燥時に蒸発する溶媒や揮発成分以外の成分)の量である。これら10種類の接着性組成物は、使用したインク定着剤の種類が異なる点を除いては同様のものである。
【0059】
次に、葉書用紙に、各接着性組成物を塗布し、塗布面を乾燥させた。塗布は、各接着性組成物中の固形分量が坪量で9g/m2となるように行った。このようにして、図1及び図2に示すごとく、基紙2(葉書用紙)の表面に接着層3を形成し、10種類のインクジェット記録用圧着紙1(試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3)を作製した。なお、試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3のインクジェット記録用圧着紙は、それぞれ試料e1〜e7及び試料c1〜試料c3のインク定着剤を用いて作製したものである。各インクジェット記録用圧着紙の組成等を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
次に、本例で作製したインクジェット記録用圧着紙(試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3)について、印字鮮明性及び耐水性の評価を行った。
(印字鮮明性評価試験)
コダック・バーサマークス製のインク、即ちブラック(ブラック#2003)、マゼンダ(マゼンダ#2002)、シアン(シアン#2001)、及びイエロー(イエロー#2014)の各インクをそれぞれ、各試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3にインクジェット印刷によりべた印字し、乾燥後、マクベス濃度計(RD−920)を用いて濃度を測定した。インクジェットプリンターとしては、キャノン(株)製の「PIXUS 560I」を使用した。そして、カチオン性ポリマーとしてジメチルアミンとエピクロロヒドリンの共重合体を含有するインク定着剤を用いて作製した圧着紙(試料C2)の印字濃度を基準(相対値100)として以下に示す5段階評価を行った。その結果を後述の表5に示す。
【0062】
印字鮮明性の評価基準は以下の通りである。
◎ :ジメチルアミン・エピクロロヒドリンよりかなり高い(相対値105超)。
○ :ジメチルアミン・エピクロロヒドリンより高い(相対値101〜105)。
△ :ジメチルアミン・エピクロロヒドリン並(相対値100)。
× :ジメチルアミン・エピクロロヒドリンより低い(相対値95〜99)。
×× :ジメチルアミン・エピクロロヒドリンよりかなり低い(相対値95未満)。
【0063】
(耐水性評価試験)
印字鮮明性評価試験と同様に、各インクを各試料E1〜試料E7及試料C1〜試料C3の圧着紙にインクジェット印刷によりべた印字した。1時間乾燥後、印字後の各試料を25℃のイオン交換水に1分間それぞれ浸漬し、印刷の滲みの有無、及びその状態を肉眼で観察し、以下に示す◎〜××の5段階評価を行った。その結果を後述の表5に示す。
【0064】
耐水性の評価基準は以下の通りである。
◎ :印刷の滲みが発生しない。
○ :印刷の滲みが僅かに発生する。
△ :印刷の滲みがあるが使用上問題ない。
× :印刷の滲みがあり使用上問題あり。
××:印刷の滲みがひどく使用できない。
【0065】
また、本例においては、各インクジェット記録用圧着紙(試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3)について、圧着後の印字画像の転写を調べた。
(転写評価試験)
まず、各インクジェット記録用圧着紙の接着層面における片側半分の領域にインクジェットプリンターによるパターン印字(文字、ベタ)を行った。印字は、20℃、65%RHという条件の室内で、各色のインクを充填したインクジェットプリンター(キャノン(株)製のPIXUS 560I)を用いて行った。次いで、30分間そのまま放置して乾燥させた。次に、印字後の各圧着紙1を接着層3同士が重なるように折り畳んだ(図3及び図4参照)。このとき、印字が施された片側半分の領域と印字が施されていいないもう一方の領域とを均等に重ね合わせた。次いで、ドライシーラーにて接合面を圧着した。その後、接合面を手で剥離して、印字が施されなかった領域へのインクの転写の有無及び度合いを目視にて判定した。その結果を後述の表5に示す。
【0066】
転写の評価基準は以下の通りである。
○ :インクの転写が全く観察されない。
△ :インクの転写が若干認められるが実用上問題ない。
× :インクが転写して実用的ではない。
【0067】
【表5】

【0068】
表5より知られるごとく、試料E1〜試料E7は、印字鮮明性及び耐水性のいずれについても、実用上問題ないレベルであった。これに対し、試料C1及び試料C3は、ブラックインクに対する耐水性に使用上問題があった。また、試料C2は、印字鮮明性及び耐水性について、実用上問題ないレベルではあったものの、試料E1〜試料E7に比べると、明らかに低い特性を示した。なお、印字の転写については、試料E1〜試料E7及び試料C1〜試料C3のいずれもが優れた結果を示した。
【0069】
試料E1〜試料E7と試料C1〜試料C3とが印字の鮮明性及び耐水性において上述のような差異を生じた原因は、インク定着剤にあると考えられる。
即ち、試料E1〜試料E7においては、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、かつ該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有するインク定着剤を用いた。これに対し、試料C1〜試料C3においては、上述の範囲から外れるカチオン性ポリマーを含有するインク定着剤を用いた。
したがって、上記の条件を満足するカチオン性ポリマーを含有するインク定着剤を用いることにより、印字鮮明性及び耐水性に優れたインクジェット記録用圧着紙を構成できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例(応用実施例)にかかる、インクジェット記録用圧着紙の全体を示す斜視図。
【図2】実施例(応用実施例)にかかる、インクジェット記録用圧着紙の断面図。
【図3】実施例(応用実施例)にかかる、インクジェット記録用圧着紙を接着層側を内側にして折り曲げる様子を示す説明図。
【図4】実施例(応用実施例)にかかる、インクジェット記録用圧着紙を折り重ねた状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0071】
1 インクジェット記録用圧着紙
2 基紙
3 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と該基紙の少なくとも一方の表面に形成された接着層とを有するインクジェット記録用圧着紙において、
上記接着層は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を上記基紙に塗工してなり、
上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、かつ該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有していることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項2】
基紙と該基紙の少なくとも一方の表面に形成された接着層とを有するインクジェット記録用圧着紙において、
上記接着層は、感圧接着剤、無機充填剤、及びインク定着剤を含有する接着性組成物を上記基紙に塗工してなり、
上記インク定着剤は、3級アミン類と、2級アミン類と、エピハロヒドリン類とをそれぞれ1:1.2〜5:1.8〜5.5というモル比で反応させ、更に4級化剤を反応させて得られるカチオン性ポリマーであって、該カチオン性ポリマーの濃度60重量%水溶液の温度25℃における粘度が10〜100mPa・sとなる上記カチオン性ポリマーを含有していることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記3級アミン類と上記2級アミン類と上記エピハロヒドリン類との反応時に副生成物として生成しうる1,3−ジハロ−2−プロパノールの含有量が上記カチオン性ポリマーに対して300重量ppm以下の上記インク定着剤を採用してあることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記インク定着剤は、コロイド滴定によって測定される4級化されたアミノ基の割合が全アミノ基に対して90モル%以上である上記カチオン性ポリマーを含有することを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記インク定着剤は、温度25℃におけるpHが3〜7に調整されていることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項6】
請求項5において、上記インク定着剤は、少なくともリン酸類を含有する酸で上記pHの範囲に調整されていることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記インク定着剤は、防食剤としてリン酸類を含有することを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記3級アミン類はトリメチルアミン、上記2級アミン類はジメチルアミンであることを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、上記接着層は、上記感圧接着剤100質量部に対して、上記無機充填剤を50〜200質量部、上記インク定着剤の上記カチオン性ポリマーを5〜70質量部含有することを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項において、上記接着層は、坪量3〜15g/m2で上記接着性組成物の固形分を含有することを特徴とするインクジェット記録用圧着紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−119772(P2009−119772A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297792(P2007−297792)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000180449)四日市合成株式会社 (17)
【Fターム(参考)】