説明

インクジェット記録用水性インクセット、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】保存安定性、発色性、噴射安定性に優れ、耐光性、耐オゾン性にも優れ、たとえ退色したとしても、画像の色バランス変化の少ないインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【解決手段】着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含むイエロー、マゼンタ及びシアンインクを含む水性インクセットであって、イエローインクが、特定の構造を有する二種類の染料およびC.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132、C.I.ダイレクトイエロー142からなる群から選択される少なくとも一種の染料染料を含み、マゼンタインクが、特定の構造を有する染料およびC.I.アシッドレッド1、C.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料を含み、シアンインクが、銅フタロシアニン系の染料を含むインクジェット記録用水性インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクセット、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクセットには、一般的に、(1)鮮やかで発色性の良好な画像を与えること;(2)耐光性、耐活性ガス(NO、オゾン等の酸化性ガス、SO等)性、耐水性等の堅牢性に優れていること;(3)インクジェット記録装置に使用される様々な部材と接触しても問題を起こさないこと;(4)保存安定性に優れ、長期間の使用においてもインクジェットヘッドのノズルの目詰まり等を生じにくく、充分な噴射安定性を保つこと;を高いレベルで満足させることが求められている。
【0003】
特に、イエロー、マゼンタおよびシアンの減法混色により自然画像等を表現する際には、インクジェット記録用水性インクセットとして、前記各色のインクの色相が、標準の色相に近く、しかも鮮明であることが強く求められている。また、記録した自然画像等には、良好な発色性と高い光学濃度とを維持できる良好な長期保存安定性が求められている。したがって、耐光性、耐活性ガス性等の堅牢性に充分に優れているだけでなく、色相のバランスが重要である。すなわち、前記各色のインクそれぞれの退色が同程度であることが重要となる。このため、このような観点から構成されたインクジェット記録用インクセットが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−178491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、前記各色のインクのいずれかにおいて耐光性、耐活性ガス性等の堅牢性に問題があり、その結果、記録物の劣化を招く場合があった。
【0006】
一般的にインクジェット記録用水性インクに用いられるマゼンタ染料については、幅広い配合色を得るのに適する色相で且つ鮮やかなものは、耐光性、耐活性ガス性等の堅牢性のレベルが低いことが知られている。他方、耐光性や耐活性ガス性等の堅牢性に優れたマゼンタ染料は、幅広い配合色を出すには不充分な色相であったり、鮮明性に欠けたり、インクジェット記録装置に使用されている様々な部材との接触において問題を起こしやすく、長期安定使用の障害になるという問題があった。
【0007】
また、一般的にインクジェット記録用水性インクに用いられているフタロシアニン系のシアン染料については、マゼンタ染料やイエロー染料に比べ耐光性に優れるという特徴があるものの、染料の溶解性に起因する問題が生じやすい。例えば、シアンインク製造時の溶解不良により製造トラブルの原因となったり、製品保存時や使用時に不溶解物が析出して種々の問題を生じさせることが多い。特に、前記シアン染料の析出によりインクジェットヘッドのノズルの目詰まりや吐出不良を引きおこし、記録画像の著しい劣化を引き起こす等の問題がある。また、前記シアン染料は、オゾン等の活性ガスにより退色しやすく、光学濃度が大幅に低下することも大きな問題となっている。
【0008】
そこで、本発明は、保存安定性、発色性、噴射安定性に優れ、且つ、耐光性、耐オゾン性等の堅牢性にも優れ、たとえ退色したとしても、画像の色バランス変化の少ないインクジェット記録用水性インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、
水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性イエローインクが、イエロー着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記イエロー着色剤が、下記のイエロー染料(Y−1)およびイエロー染料(Y−2)を含み、
前記水性マゼンタインクが、マゼンタ着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記マゼンタ着色剤が、下記のマゼンタ染料(M−1)およびマゼンタ染料(M−2)を含み、
前記水性シアンインクが、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記シアン着色剤が、下記のシアン染料(C−1)を含むことを特徴とする。

イエロー染料(Y−1):一般式(Y−1)で表される染料
イエロー染料(Y−2):C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132およびC.I.ダイレクトイエロー142からなる群から選択される少なくとも一種の染料

マゼンタ染料(M−1):一般式(M−1)で表される染料
マゼンタ染料(M−2):一般式(M−2a)で表される染料、一般式(M−2b)で表される染料、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料

シアン染料(C−1):一般式(C−1)で表される染料

【化1】

一般式(Y−1)において、
、R、YおよびYは、それぞれ、一価の基であり、R、R、YおよびYは同一でも異なっていてもよく、
およびXは、それぞれ、電子吸引性基であり、XおよびXは同一でも異なっていてもよく、
およびZは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、ZおよびZは同一でも異なっていてもよく、
は、水素原子またはカチオンである。

【化2】

一般式(M−1)において、
は、1または2であり、
3つのMは、それぞれ、ナトリウムまたはアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、
は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1〜8のモノアルキルアミノ基である。

【化3】

一般式(M−2a)において、
11は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、
12は、水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であり、
13は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、
14、R15、R16およびR17は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のスルホニル基、置換または無置換のアシル基であり、R14、R15、R16およびR17は同一でも異なっていてもよいが、R14とR15が共に水素原子であることはなく、R16とR17が共に水素原子であることはなく、
およびAは、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が炭素原子である。

【化4】

一般式(M−2b)において、
rは、0、1または2であり、
18、R19およびR20は、それぞれ、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、置換または無置換のカルバモイル基、置換または無置換のスルファモイル基、置換または無置換のアミド基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、置換または無置換のアルキルスルホニル基、置換または無置換のアリールスルホニル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基であり、R18、R19およびR20は同一でも異なっていてもよく、
21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換の脂環基、置換または無置換のヘテロ環基であり、R21、R22およびR23は同一でも異なっていてもよい。

【化5】

一般式(C−1)において、
環A31、A32およびA33は、それぞれ、ベンゼン環、2,3−ピリジン環および3,2−ピリジン環からなる群から選択される少なくとも一つであり、且つ、環A31、A32およびA33の少なくとも一つは、2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、環A31、A32およびA33は同一でも異なっていてもよく、
aは、0≦a≦4を満たし、bは、0≦b≦4を満たし、cは、0≦c≦4を満たし、且つ、a、bおよびcは、0≦a+b+c≦4を満たし、
zは、1≦z≦3を満たす整数であり、
30は、炭素原子数1〜6の直鎖アルキル基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する水性イエローインクは、前記イエロー染料(Y−1)と前記イエロー染料(Y−2)とを組み合わせて用いているので、保存安定性、発色性、堅牢性および噴射安定性のすべての性能に優れる。本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する水性マゼンタインクは、前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)とを組み合わせて用いているので、保存安定性、発色性、堅牢性および噴射安定性のすべての性能に優れる。本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する水性シアンインクは、前記シアン染料(C−1)を用いているので、保存安定性、発色性、堅牢性および噴射安定性のすべての性能に優れる。また、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、たとえ退色したとしても、前記各色の水性インクの退色が同程度であるため、画像の色バランス変化が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、単に「水性インクセット」または「インクセット」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクセットは、水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを含む。
【0013】
(水性イエローインク)
前記水性イエローインクについて説明する。前述のとおり、前記水性イエローインクは、イエロー着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記イエロー着色剤は、前記イエロー染料(Y−1)および前記イエロー染料(Y−2)を含む。
【0014】
前述のとおり、前記イエロー染料(Y−1)は、一般式(Y−1)で表される染料である。
【0015】
一般式(Y−1)において、R、R、YおよびYは、それぞれ、一価の基であり、R、R、YおよびYは同一でも異なっていてもよい。前記一価の基は、水素原子、または一価の置換基である。前記一価の置換基としては、例えば、ハロゲン原子;アルキル基;シクロアルキル基;アラルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;ヘテロ環基;シアノ基;ヒドロキシル基;ニトロ基;アルコキシ基;アリールオキシ基;シリルオキシ基;ヘテロ環オキシ基;アシルオキシ基;カルバモイルオキシ基;アルコキシカルボニルオキシ基;アリールオキシカルボニルオキシ基;アルキルアミノ基、アリールアミノ基等のアミノ基;アミド基;アシルアミノ基;ウレイド基;アミノカルボニルアミノ基;アルコキシカルボニルアミノ基;アリールオキシカルボニルアミノ基;スルファモイルアミノ基;アルキルスルホニルアミノ基;アリールスルホニルアミノ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;ヘテロ環チオ基;スルファモイル基;アルキルスルフィニル基;アリールスルフィニル基;アルキルスルホニル基;アリールスルホニル基;アシル基;アリールオキシカルボニル基;アルコキシカルボニル基;カルバモイル基;ホスフィノ基;ホスフィニル基;ホスフィニルオキシ基;ホスフィニルアミノ基;シリル基;アゾ基;イミド基等があげられる。前記一価の置換基は、さらに置換基を有していてもよい。これらの中でも、好ましい前記一価の置換基は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルキルスルホニル基である。
【0016】
一般式(Y−1)において、前記ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。これらの中でも、好ましくは、塩素原子、臭素原子である。
【0017】
一般式(Y−1)において、前記アルキル基は、置換または無置換のアルキル基を含む。前記置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜30のアルキル基である。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、エイコキシ基、2−クロロエチル基、ヒドロキシエチル基、シアノエチル基、4−スルホブチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルへキシル基、2−メチルスルホニルエチル基、3−フェノキシプロピル基、トリフルオロメチル基等の炭素原子数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基;炭素原子数7〜18の直鎖または分岐鎖アラルキル基;炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルケニル基;炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基;シクロペンチル基等の炭素原子数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルキル基;炭素原子数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルケニル基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−アミルフェニル基等のアリール基;イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;シアノ基;ヒドロキシル基;ニトロ基;カルボキシ基;アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メチルスルホニルエトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、3−tert−ブチルオキシカルボニルフェノキシ基、3−メトキシカルボニルフェニルオキシ基等のアリールオキシ基;アセトアミド基、ベンズアミド基、4−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド基等のアシルアミノ基;メチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルブチルアミノ基等のアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、2−クロロアニリノ基等のアリールアミノ基;フェニルウレイド基、メチルウレイド基、N,N−ジブチルウレイド基等のウレイド基;N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ基等のスルファモイルアミノ基;メチルチオ基、オクチルチオ基、2−フェノキシエチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、2−ブトキシ−5−tert−オクチルフェニルチオ基、2−カルボキシフェニルチオ基等のアリールチオ基;メトキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基等のアルキルスルホニルアミノ基;フェニルスルホニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基等のアリールスルホニルアミノ基;N−エチルカルバモイル基、N,N−ジブチルカルバモイル基等のカルバモイル基;N−エチルスルファモイル基、N,N−ジプロピルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基等のスルファモイル基;メチルスルホニル基、オクチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等のスルホニル基;メトキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基等のヘテロ環オキシ基;フェニルアゾ基、4−メトキシフェニルアゾ基、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ基、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ基等のアゾ基;アセトキシ基等のアシルオキシ基;N−フェニルカルバモイルオキシ基等のカルバモイルオキシ基;トリメチルシリルオキシ基、ジブチルメチルシリルオキシ基等のシリルオキシ基;フェノキシカルボニルアミノ基等のアリールオキシカルボニルアミノ基;N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基等のイミド基;2−ベンゾチアゾリルチオ基、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ基、2−ピリジルチオ基等のヘテロ環チオ基;3−フェノキシプロピルスルフィニル基等のスルフィニル基;フェノキシホスホニル基、オクチルオキシホスホニル基、フェニルホスホニル基等のホスホニル基;フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;アセチル基、3−フェニルプロパノイル基、ベンゾイル基等のアシル基;カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、4級アンモニウム基等のイオン性親水性基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基である前記アルキル基、前記アラルキル基、前記アルケニル基、前記アルキニル基、前記シクロアルキル基および前記シクロアルケニル基は、染料の溶解性および水性イエローインクの安定性を向上させる観点から、分岐鎖を有するものが好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。これらの中でも、好ましい前記置換アルキル基の置換基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、スルホ基(塩の形でもよい)、カルボキシ基(塩の形でもよい)である。
【0018】
一般式(Y−1)において、前記シクロアルキル基は、置換または無置換のシクロアルキル基を含む。前記置換または無置換のシクロアルキル基は、好ましくは、炭素原子数5〜30のシクロアルキル基である。前記置換シクロアルキル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロへキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロへキシル基等があげられる。
【0019】
一般式(Y−1)において、前記アラルキル基は、置換または無置換のアラルキル基を含む。前記置換または無置換のアラルキル基は、好ましくは、炭素原子数7〜30のアラルキル基である。前記置換アラルキル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2−フェネチル基等があげられる。
【0020】
一般式(Y−1)において、前記アルケニル基は、直鎖、分岐、環状の置換または無置換のアルケニル基である。前記アルケニル基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルケニル基である。前記置換アルケニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プレニル基、ゲラニル基、オレイル基、2−シクロペンテン−1−イル基、シクロヘキセン−1−イル基等があげられる。
【0021】
一般式(Y−1)において、前記アルキニル基は、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルキニル基である。前記置換アルキニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基等がある。
【0022】
一般式(Y−1)において、前記アリール基は、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリール基である。前記アリール基としては、例えば、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。
【0023】
一般式(Y−1)において、前記へテロ環基は、5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、それらは更に縮環していてもよい。前記ヘテロ環基は、好ましくは、炭素原子数3〜30の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。前記置換へテロ環基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記へテロ環基としては、置換位置を限定しないと、例えば、ピリジン基、ピラジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、トリアジン基、キノリン基、イソキノリン基、キナゾリン基、シンノリン基、フタラジン基、キノキサリン基、ピロール基、インドール基、フラン基、ベンゾフラン基、チオフェン基、ベンゾチオフェン基、ピラゾール基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、オキサゾール基、ベンズオキサゾール基、チアゾール基、ベンゾチアゾール基、イソチアゾール基、ベンズイソチアゾール基、チオジアゾール基、イソオキサゾール基、ベンズイソオキサゾール基、ピロリジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、イミダゾリジン基、チアゾリン基等があげられる。
【0024】
一般式(Y−1)において、前記アルコキシ基は、置換または無置換のアルコキシ基を含む。前記置換または無置換のアルコキシ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30のアルコキシ基である。前記置換アルコキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、3−カルボキシプロポキシ基等があげられる。
【0025】
一般式(Y−1)において、前記アリールオキシ基は、好ましくは、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールオキシ基である。前記置換アリールオキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等があげられる。
【0026】
一般式(Y−1)において、前記シリルオキシ基とは、好ましくは、炭素原子数3〜20のシリルオキシ基である。前記シリルオキシ基としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基等があげられる。
【0027】
一般式(Y−1)において、前記へテロ環オキシ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のヘテロ環オキシ基である。前記置換ヘテロ環オキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記へテロ環オキシ基としては、例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基等があげられる。
【0028】
一般式(Y−1)において、前記アシルオキシ基は、好ましくは、ホルミルオキシ基、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基である。前記置換アルキルカルボニルオキシ基および前記置換アリールカルボニルオキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等があげられる。
【0029】
一般式(Y−1)において、前記カルバモイルオキシ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のカルバモイルオキシ基である。前記置換カルバモイルオキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記カルバモイルオキシ基としては、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基等があげられる。
【0030】
一般式(Y−1)において、前記アルコキシカルボニルオキシ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルコキシカルボニルオキシ基である。前記置換アルコキシカルボニルオキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルコキシカルボニルオキシ基としては、例えば、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等があげられる。
【0031】
一般式(Y−1)において、前記アリールオキシカルボニルオキシ基は、好ましくは、炭素原子数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基である。前記アリールオキシカルボニルオキシ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールオキシカルボニルオキシ基としては、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基等があげられる。
【0032】
一般式(Y−1)において、前記アミノ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールアミノ基である。前記置換アルキルアミノ基および前記置換アリールアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アミノ基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基、ヒドロキシエチルアミノ基、カルボキシエチルアミノ基、スルフォエチルアミノ基、3,5−ジカルボキシアニリノ基等があげられる。
【0033】
一般式(Y−1)において、前記アシルアミノ基は、好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基である。前記置換アルキルカルボニルアミノ基および前記置換アリールカルボニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アシルアミノ基としては、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基等があげられる。
【0034】
一般式(Y−1)において、前記アミノカルボニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基である、前記置換アミノカルボニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アミノカルボニルアミノ基としては、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基等があげられる。
【0035】
一般式(Y−1)において、前記アルコキシカルボニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルコキシカルボニルアミノ基である。前記置換アルコキシカルボニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルコキシカルボニルアミノ基としては、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ基等があげられる。
【0036】
一般式(Y−1)において、前記アリールオキシカルボニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基である。前記置換アリールオキシカルボニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールオキシカルボニルアミノ基としては、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基等があげられる。
【0037】
一般式(Y−1)において、前記スルファモイルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数0〜30の置換または無置換のスルファモイルアミノ基である。前記置換スルファモイルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記スルファモイルアミノ基としては、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基等があげられる。
【0038】
一般式(Y−1)において、前記アルキルスルホニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ基である。前記置換アルキルスルホニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルキルスルホニルアミノ基としては、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基等があげられる。
【0039】
一般式(Y−1)において、前記アリールスルホニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基である。前記置換アリールスルホニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールスルホニルアミノ基としては、例えば、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等があげられる。
【0040】
一般式(Y−1)において、前記アルキルチオ基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルチオ基である。前記置換アルキルチオ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−へキシルチオ基等があげられる。
【0041】
一般式(Y−1)において、前記アリールチオ基は、好ましくは、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールチオ基である。前記置換アリールチオ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等があげられる。
【0042】
一般式(Y−1)において、前記ヘテロ環チオ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基である。前記置換ヘテロ環チオ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記ヘテロ環チオ基としては、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基等があげられる。
【0043】
一般式(Y−1)において、前記スルファモイル基は、好ましくは、炭素原子数0〜30の置換または無置換のスルファモイル基である。前記置換スルファモイル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記スルファモイル基としては、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基等があげられる。
【0044】
一般式(Y−1)において、前記アルキルスルフィニル基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基である。前記置換アルキルスルフィニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルキルスルフィニル基としては、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基等があげられる。
【0045】
一般式(Y−1)において、前記アリールスルフィニル基は、好ましくは、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基である。前記置換アリールスルフィニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールスルフィニル基としては、例えば、フェニルスルフィニル基、p−メチルスルフィニル基等があげられる。
【0046】
一般式(Y−1)において、前記アルキルスルホニル基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基である。前記置換アルキルスルホニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等があげられる。
【0047】
一般式(Y−1)において、前記アリールスルホニル基は、好ましくは、炭素原子数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基である。前記置換アリールスルホニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールスルホニル基としては、例えば、フェニルスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等があげられる。
【0048】
一般式(Y−1)において、前記アシル基は、好ましくは、ホルミル基、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素原子数7〜30の置換または無置換のアリールカルボニル基、炭素原子数4〜30の置換または無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基である。前記置換アルキルカルボニル基、前記置換アリールカルボニル基、前記置換ヘテロ環カルボニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アシル基としては、例えば、アセチル基、ピバロイル基、2−クロロアセチル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p−n−オクチルオキシカルボニル基、2−ピリジルカルボニル基、2−フリルカルボニル基等があげられる。
【0049】
一般式(Y−1)において、前記アリールオキシカルボニル基は、好ましくは、炭素原子数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニル基である。前記アリールオキシカルボニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基等があげられる。
【0050】
一般式(Y−1)において、前記アルコキシカルボニル基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のアルコキシカルボニル基である。前記置換アルコキシカルボニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基等があげられる。
【0051】
一般式(Y−1)において、前記カルバモイル基は、好ましくは、炭素原子数1〜30の置換または無置換のカルバモイル基である。前記置換カルバモイル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記カルバモイル基としては、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等があげられる。
【0052】
一般式(Y−1)において、前記ホスフィノ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のホスフィノ基である。前記置換ホスフィノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記ホスフィノ基としては、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基等があげられる。
【0053】
一般式(Y−1)において、前記ホスフィニル基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のホスフィニル基である。前記置換ホスフィニル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記ホスフィニル基としては、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基等があげられる。
【0054】
一般式(Y−1)において、前記ホスフィニルオキシ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のホスフィニルオキシ基である。前記置換ホスフィニルオキシ基の置換基としては、例えば、前記アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記ホスフィニルオキシ基としては、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基等があげられる。
【0055】
一般式(Y−1)において、前記ホスフィニルアミノ基は、好ましくは、炭素原子数2〜30の置換または無置換のホスフィニルアミノ基である。前記ホスフィニルアミノ基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記ホスフィニルアミノ基としては、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基等があげられる。
【0056】
一般式(Y−1)において、前記シリル基は、好ましくは、炭素原子数3〜30の置換または無置換のシリル基である。前記置換シリル基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基としてあげたような置換基と同じものがあげられる。前記シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基等があげられる。
【0057】
一般式(Y−1)において、前記アゾ基としては、例えば、フェニルアゾ基、4−メトキシフェニルアゾ基、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ基、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ基等があげられる。
【0058】
一般式(Y−1)において、前記イミド基としては、例えば、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基等があげられる。
【0059】
一般式(Y−1)において、XおよびXは、それぞれ、電子吸引性基であり、XおよびXは同一でも異なっていてもよい。前記XおよびXとしては、例えば、アシル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアリールホスフィニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン化アリールオキシ基、ハロゲン化アルキルアミノ基、ハロゲン化アルキルチオ基、他の電子吸引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基等があげられる。
【0060】
一般式(Y−1)において、前記XおよびXは、好ましくは、炭素原子数2〜12のアシル基、炭素原子数2〜12のアシルオキシ基、炭素原子数1〜12のカルバモイル基、炭素原子数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素原子数7〜18のアリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜12のアルキルスルフィニル基、炭素原子数6〜18のアリールスルフィニル基、炭素原子数1〜12のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜18のアリールスルホニル基、炭素原子数0〜12のスルファモイル基、炭素原子数1〜12のハロゲン化アルキル基、炭素原子数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、炭素原子数1〜12のハロゲン化アルキルチオ基、炭素原子数7〜18のハロゲン化アリールオキシ基、2つ以上の他の電子吸引性基で置換された炭素原子数7〜18のアリール基、窒素原子、酸素原子、またはイオウ原子を有する5〜8員環で炭素原子数1〜18のヘテロ環基である。
【0061】
一般式(Y−1)において、ZおよびZは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、ZおよびZは同一でも異なっていてもよい。前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アルキニル基、前記アラルキル基、前記アリール基および前記ヘテロ環基は、前記R、R、YおよびYにおけるのと同様である。
【0062】
一般式(Y−1)において、Mは、水素原子またはカチオンである。前記カチオンは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたは第4級アンモニウムイオンである。前記カチオンは、好ましくは、Li、Na、K、NH、NRである。ここで、前記RにおけるRは、アルキル基またはアリール基であり、前記R、R、YおよびYにおけるのと同様である。これらの中でも、前記カチオンは、Li、Na、K、NHであることが好ましい。
【0063】
一般式(Y−1)で表される染料の好ましい置換基の組み合わせとしては、置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基であることが好ましく、より多くの置換基が前記の好ましい基であることがより好ましく、全ての置換基が前記の好ましい基であることが最も好ましい。
【0064】
一般式(Y−1)で表される染料の特に好ましい置換基の組み合わせは、つぎの(イ)〜(ホ)を含む。
【0065】
(イ)R、Rは、同一でも異なっていてもよく、好ましくは、置換または無置換の総炭素原子数1〜12のアルキル基、置換または無置換の総炭素原子数6〜18のアリール基、置換または無置換の総炭素原子数4〜12のヘテロ環基であり、より好ましくは、総炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖アルキル基であり、さらに好ましくは、2級または3級のアルキル基であり、最も好ましくは、tert−ブチル基である。
【0066】
(ロ)X、Xは、それぞれ、電子吸引性基であり、同一でも異なっていてもよく、好ましくは、シアノ基、炭素原子数1〜12のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜18のアリールスルホニル基、炭素原子数0〜12のスルファモイル基であり、より好ましくは、シアノ基、炭素原子数1〜12のアルキルスルホニル基である。
【0067】
(ハ)Y、Yは、同一でも異なっていてもよく、好ましくは、水素原子、置換または無置換の総炭素原子数1〜12のアルキル基、置換または無置換の総炭素原子数6〜18のアリール基、置換または無置換の総炭素原子数4〜12のヘテロ環基であり、より好ましくは、水素原子、置換または無置換のアルキル基であり、最も好ましくは、水素原子である。
【0068】
(ニ)Z、Zは、同一でも異なっていてもよく、好ましくは、置換または無置換の総炭素原子数1〜12のアルキル基、置換または無置換の総炭素原子数6〜18のアリール基、置換または無置換の総炭素原子数4〜12のヘテロ環基であり、より好ましくは、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、特に好ましくは、置換アリール基である。
【0069】
(ホ)Mは、好ましくは、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、第4級アンモニウムイオンであり、より好ましくは、水素原子、Li、Na、K、NHである。
【0070】
前記染料(Y−1)の好ましい具体例としては、化学式(Y−1a)〜(Y−1e)で表される化合物があげられる。
【0071】
【化6】

【0072】
【化7】

【0073】
【化8】

【0074】
【化9】

【0075】
【化10】

【0076】
前記イエロー染料(Y−1)の配合量は、特に制限されない。水性イエローインクに前記イエロー染料(Y−1)を含ませることで、耐オゾン性および耐光性を向上させることができる。前記イエロー染料(Y−1)の配合量は、前記水性イエローインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、1.2重量%〜5.4重量%であり、より好ましくは、1.5重量%〜4.5重量%である。
【0077】
前述のとおり、前記イエロー染料(Y−2)は、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132およびC.I.ダイレクトイエロー142からなる群から選択される少なくとも一種の染料である。
【0078】
C.I.ダイレクトイエロー86は、例えば、構造式(Y−2a)で表される染料である。
【0079】
【化11】

【0080】
C.I.ダイレクトイエロー132は、例えば、構造式(Y−2b)で表される染料である。
【0081】
【化12】

【0082】
C.I.ダイレクトイエロー142は、例えば、構造式(Y−2c)で表される染料である。
【0083】
【化13】

【0084】
前記イエロー染料(Y−2)の配合量は、特に制限されない。水性イエローインクに前記イエロー染料(Y−2)を含ませることで、保存安定性を向上させることができる。前記イエロー染料(Y−2)の配合量は、前記水性イエローインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.2重量%〜2.4重量%であり、より好ましくは、0.4重量%〜1.6重量%である。
【0085】
前記水性イエローインクにおける前記イエロー染料(Y−1)と前記イエロー染料(Y−2)との重量比は、イエロー染料(Y−1):イエロー染料(Y−2)=60:40〜90:10であることが好ましい。前記重量比を前記範囲とすることで、保存安定性と、耐オゾン性および耐光性とが、共に極めて良好な水性イエローインクを得ることができる。
【0086】
前記イエロー染料(Y−1)と前記イエロー染料(Y−2)との総配合量は、特に制限されないが、前記水性イエローインク全量に対し、2重量%〜6重量%が好ましい。前記総配合量を前記範囲とすることで、保存安定性、発色性、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性の全てが、極めて良好な水性イエローインクを得ることができる。
【0087】
前記イエロー着色剤は、前記イエロー染料(Y−1)および前記イエロー染料(Y−2)に加え、さらに他の染料および顔料等を含んでもよい。
【0088】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性イエローインク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0089】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性イエローインクの乾燥を防止する湿潤剤および被記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0090】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、へキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0091】
前記水性イエローインク全量に対する前記湿潤剤の配合量(湿潤剤割合)は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0092】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−へキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0093】
前記水性イエローインク全量に対する前記浸透剤の配合量(浸透剤割合)は、例えば、0重量%〜20重量%である。前記浸透剤割合を前記範囲とすることで、前記水性イエローインクの被記録媒体への浸透性を、より好適なものとできる。前記浸透剤割合は、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0094】
前記水性イエローインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0095】
前記水性イエローインクは、例えば、イエロー着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0096】
(水性マゼンタインク)
前記水性マゼンタインクについて説明する。前述のとおり、前記水性マゼンタインクは、マゼンタ着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記マゼンタ着色剤は、前記マゼンタ染料(M−1)および前記マゼンタ染料(M−2)を含む。
【0097】
前述のとおり、前記マゼンタ染料(M−1)は、一般式(M−1)で表される染料である。
【0098】
一般式(M−1)で表される化合物は、3つのMがすべてナトリウムである化合物(ナトリウム塩)であってもよいし、3つのMがすべてアンモニウムである化合物(アンモニウム塩)であってよいし、3つのMの一つまたは二つがナトリウムであり残りがアンモニウムである化合物であってもよい。
前記マゼンタ染料(M−1)は、単一の前記化合物で構成されていてもよいし、2種以上の前記化合物を含む混合物であってもよい。
前記Mは、水性マゼンタインク中で電離して、イオン(NaおよびNHの少なくとも一方)となっていてもよい。
【0099】
前記マゼンタ染料(M−1)の好ましい具体例としては、表1に示すマゼンタ染料(M−1a)〜(M−1e)で表される化合物があげられる。
【0100】
【表1】

【0101】
前述のとおり、前記マゼンタ染料(M−2)は、一般式(M−2a)で表される染料、一般式(M−2b)で表される染料、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料である。
【0102】
一般式(M−2a)において、前記置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキル基である。前記置換または無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
【0103】
一般式(M−2a)において、前記置換または無置換のアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜12のアリール基である。ただし、置換アリール基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換または無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−オクチルフェニル基、メシチル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基、m−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基等のアルキル基;前述と同様のアルコキシ基;前述と同様のハロゲン原子;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基等のアルキルアミノ基;アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0104】
一般式(M−2a)において、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
【0105】
一般式(M−2a)において、前記置換または無置換のヘテロ環基は、好ましくは、5員または6員環のヘテロ環基である。前記置換または無置換のヘテロ環基としては、例えば、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−フリル基、6−スルホベンゾチアゾリル基、6−スルホン酸塩ベンゾチアゾリル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;前述と同様のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0106】
一般式(M−2a)において、前記置換または無置換のスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等があげられる。前記置換スルホニル基の置換基としては、例えば、前述と同様の置換または無置換のアルキル基、前述と同様の置換または無置換のアリール基等があげられる。
【0107】
一般式(M−2a)において、前記置換または無置換のアシル基は、好ましくは、炭素原子数1〜12のアシル基である。ただし、置換アシル基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換または無置換のアシル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、クロロアセチル基等があげられる。前記置換アシル基の置換基としては、例えば、前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0108】
一般式(M−2a)において、AおよびAは、前述のとおり、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。AおよびAの双方が炭素原子である場合が、より優れた性能を発揮できる点で好ましい。AおよびAの炭素原子に結合する置換基としては、例えば、炭素原子数1〜3のアルキル基、カルボキシ基、カルバモイル基、シアノ基等があげられる。
【0109】
前述のとおり、一般式(M−2a)において、R14とR15とは共に水素原子であることはなく、またR16とR17も共に水素原子であることはない。また、一般式(M−2a)において、スルホン酸基若しくはカルボキシ基の置換数が多くなると前記染料の水溶性が向上する傾向があるので、必要に応じてそれらの置換数を調整することが好ましい。
【0110】
前記マゼンタ染料(M−2a)の好ましい態様としては、例えば、一般式(M−2a)において、R11がアルキル基、R12がシアノ基、R13が水素原子若しくは置換または無置換のヘテロ環基、R14が水素原子、置換または無置換のヘテロ環基若しくは置換アリール基、R15およびR16が、それぞれ、置換ヘテロ環基または置換アリール基、R17が水素原子であり、Aが置換されている炭素原子、Aが置換または無置換の炭素原子である態様があげられる。
【0111】
前記マゼンタ染料(M−2a)のより好ましい態様としては、例えば、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13が水素原子またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、R14が水素原子、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているトリアルキルフェニル基(好ましくは、メシチル基)、R15およびR16が、それぞれ、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいモノ、ジ若しくはトリアルキルフェニル基(好ましくは、p−オクチルフェニル基若しくはメシチル基)またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、R17が水素原子であり、Aが置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されてもよい炭素原子である態様である。
【0112】
前記マゼンタ染料(M−2a)の好ましい具体例としては、化学式(M−2a−1)〜(M−2a−6)で表される化合物があげられる。
【0113】
【化14】

【0114】
化学式(M−2a−1)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13がベンゾチアゾール−2−イル基、R14が水素原子、R15およびR16が、それぞれ、p−オクチルフェニル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されている炭素原子である態様である。
【0115】
【化15】

【0116】
化学式(M−2a−2)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13およびR14が、それぞれ、ベンゾチアゾール−2−イル基、R15およびR16が、それぞれ、メシチル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0117】
【化16】

【0118】
化学式(M−2a−3)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13およびR14が、それぞれ、6−スルホナトリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R15およびR16が、それぞれ、3−スルホナトリウム塩メシチル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0119】
【化17】

【0120】
化学式(M−2a−4)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13およびR14が、それぞれ、6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R15およびR16が、それぞれ、2,6−ジエチル−4−メチル−3−スルホリチウム塩フェニル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0121】
【化18】

【0122】
化学式(M−2a−5)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13およびR14が、それぞれ、6−スルホカリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R15およびR16が、それぞれ、3−スルホカリウム塩メシチル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0123】
【化19】

【0124】
化学式(M−2a−6)で表される化合物は、一般式(M−2a)において、R11がtert−ブチル基、R12がシアノ基、R13およびR14が6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、R15およびR16が2,6−ジエチル−4−スルホリチウム塩フェニル基、R17が水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0125】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2a)である場合、前記水性マゼンタインクに前記マゼンタ染料(M−1)を含ませることで、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性を向上させることができる。この場合の前記マゼンタ染料(M−1)の配合量は、特に制限されないが、前記水性マゼンタインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.4重量%〜3.6重量%であり、より好ましくは、0.8重量%〜3重量%である。
【0126】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2a)である場合、前記水性マゼンタインクに前記マゼンタ染料(M−2)を含ませることで、発色性、耐オゾン性および耐光性を向上させることができる。この場合の前記マゼンタ染料(M−2)の配合量は、特に制限されないが、前記水性マゼンタインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.8重量%〜4.8重量%であり、より好ましくは、1.0重量%〜3.2重量%である。
【0127】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2a)である場合、前記水性マゼンタインクにおける前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)との重量比は、マゼンタ染料(M−1):マゼンタ染料(M−2)=60:40〜20:80であることが好ましい。前記重量比を前記範囲とすることで、発色性と、噴射安定性とが、共に極めて良好な水性マゼンタインクを得ることができる。
【0128】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキル基である。前記置換または無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、トリフルオロメチル基、ジメチルアミノメチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
【0129】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のアルコキシ基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルコキシ基である。前記置換または無置換のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基等があげられる。
【0130】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
【0131】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のカルバモイル基としては、例えば、カルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等があげられる。
【0132】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のスルファモイル基としては、例えば、スルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N−エチル−N−フェニルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、p−カルボキシフェニルスルファモイル基等があげられる。
【0133】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のアミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、カルバモイルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、アセチルアミノ基等があげられる。
【0134】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20におけるスルホン酸エステル基としては、例えば、フェノキシスルホニル基等があげられる。
【0135】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のアルキルスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜9のアルキルスルホニル基である。前記置換または無置換のアルキルスルホニル基としては、例えば、ヒドロキシスルホニル基等があげられる。
【0136】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20における置換または無置換のアリールスルホニル基は、好ましくは、総炭素原子数が6〜15のアリールスルホニル基である。前記置換または無置換のアリールスルホニル基としては、例えば、ベンジルスルホニル基等があげられる。
【0137】
一般式(M−2b)において、R18、R19およびR20におけるカルボン酸エステル基としては、例えば、メトキシカルボニル基等があげられる。
【0138】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、総炭素原子数が1〜18のアルキル基である。前記置換または無置換のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基、エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシシクロヘキシルメチル基、1−カルボキシ−2−メルカプトエチル基、1−カルボキシ−2−カルバモイル−エチル基、1−イソプロピル−1−カルボキシメチル基、1,2−ジカルボキシプロピル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
【0139】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換のアルケニル基は、好ましくは、総炭素原子数2〜18のアルケニル基である。前記置換または無置換のアルケニル基としては、例えば、2−メチル−1−プロペニル基、ビニル基、アリル基等があげられる。
【0140】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換のアリール基としては、例えば、3,4−ジカルボキシフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−カルボキシフェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
【0141】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−カルボキシ−2−フェニル−エチル基、1−カルボキシ−2−ヒドロキシフェニルエチル基、4−カルボキシベンジル基等があげられる。
【0142】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換の脂環基としては、例えば、シクロヘキシル基、4−カルボキシシクロヘキシル基等があげられる。
【0143】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23における置換または無置換のヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、前記置換アルキル基の置換基と同じものがあげられる。
【0144】
一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23としては、少なくとも一つが1〜4個のカルボキシ基またはスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環基、アラルキル基若しくはヘテロ環基であってもよい。
【0145】
一般式(M−2b)において、R21およびR22は、それぞれ、水素原子または3置換フェニル基であってもよく、R21およびR22は同一でも異なっていてもよい。ここで、前記3置換フェニル基の三つの置換基は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、総炭素原子数が1〜9の置換または無置換のアルキル基、総炭素原子数が1〜9の置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のカルバモイル基、置換または無置換のスルファモイル基、置換または無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、カルボン酸エステル基であり、前記三つの置換基は、同一でも異なっていてもよい。
【0146】
前記マゼンタ染料(M−2b)の好ましい態様としては、例えば、一般式(M−2b)において、R21、R22およびR23の少なくとも一つが、1〜4個のカルボキシ基またはスルファモイル基で置換されているアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基若しくはシクロへキシル基である態様があげられる。
【0147】
前記マゼンタ染料(M−2b)は、その構造中に、スルホン酸基およびカルボキシ基またはこられの塩を合計で6個以下、好ましくは5個以下、特に好ましくは4個以下有することが好ましい。また、前記マゼンタ染料(M−2b)は、遊離酸型のまま使用してもよいが、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。また、前記マゼンタ染料(M−2b)は、酸基の一部が塩型のものであってもよく、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。このような塩型としては、例えば、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、または有機アミンの塩等があげられる。前記有機アミンとしては、例えば、低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換低級アルキルアミン、カルボキシ置換低級アルキルアミン、炭素原子数2〜4のアルキレンイミン単位を2〜10個有するポリアミン等があげられる。これらの塩型の場合、その種類は、1種類に限られず複数種混在していてもよい。
【0148】
前記マゼンタ染料(M−2b)の好ましい態様としては、例えば、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、カルボキシ基、カルバモイル基、トリフルオロメチル基またはスルファモイル基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、カルボキシ基またはスルファモイル基で置換されてもよいフェニル基またはカルボキシアルキル基であり、
23は、水素原子またはアルキル基である態様があげられる。
【0149】
前記マゼンタ染料(M−2b)の好ましい具体例としては、化学式(M−2b−1)〜(M−2b−5)で表される化合物があげられる。
【0150】
【化20】

【0151】
化学式(M−2b−1)で表される化合物は、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、2−カルボキシフェニル基であり、
23は、水素原子である態様である。化学式(M−2b−1)で表される化合物において、ナフタレン環の3位および6位に位置するスルホン酸は、アンモニウム塩となっている。
【0152】
【化21】

【0153】
化学式(M−2b−2)で表される化合物は、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルバモイル基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、2−カルボキシフェニル基であり、
23は、水素原子である態様である。化学式(M−2b−2)で表される化合物において、ナフタレン環の3位および6位に位置するスルホン酸は、ナトリウム塩となっている。
【0154】
【化22】

【0155】
化学式(M−2b−3)で表される化合物は、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、アゾ基に結合するフェニル基の3位に位置するスルファモイル基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、2−スルファモイルフェニル基であり、
23は、イソプロピル基である態様である。化学式(M−2b−3)で表される化合物において、ナフタレン環の3位および6位に位置するスルホン酸は、エチルアンモニウム塩となっている。
【0156】
【化23】

【0157】
化学式(M−2b−4)で表される化合物は、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するトリフルオロメチル基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、1−カルボキシ−2−メチルブチル基であり、
23は、メチル基である態様である。化学式(M−2b−4)で表される化合物において、ナフタレン環の3位および6位に位置するスルホン酸は、メチルアンモニウム塩となっている。
【0158】
【化24】

【0159】
化学式(M−2b−5)で表される化合物は、一般式(M−2b)において、
rは、0であり、
18は、アゾ基に結合するフェニル基の2位に位置するカルボキシ基であり、
19、R20およびR22は、それぞれ、水素原子であり、
21は、フェニル基であり、
23は、水素原子である態様である。化学式(M−2b−5)で表される化合物において、ナフタレン環の3位および6位に位置するスルホン酸は、アンモニウム塩となっている。
【0160】
C.I.アシッドレッド1は、例えば、構造式(M−2c)で表される染料である。
【0161】
【化25】

【0162】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2b)、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料である場合、前記水性マゼンタインクに前記マゼンタ染料(M−1)を含ませることで、耐オゾン性および耐光性を向上させることができる。この場合の前記マゼンタ染料(M−1)の配合量は、特に制限されないが、前記水性マゼンタインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、1.4重量%〜5.4重量%である。
【0163】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2b)、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料である場合、前記水性マゼンタインクに前記マゼンタ染料(M−2)を含ませることで、発色性を向上させることができる。この場合の前記マゼンタ染料(M−2)の配合量は、特に制限されないが、前記水性マゼンタインク全量に対し、例えば、0.05重量%〜5重量%であり、好ましくは、0.2重量%〜1.8重量%である。
【0164】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2b)、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料である場合、前記水性マゼンタインクにおける前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)との重量比は、マゼンタ染料(M−1):マゼンタ染料(M−2)=70:30〜90:10であることが好ましい。前記重量比を前記範囲とすることで、発色性と、耐オゾン性および耐光性とが、共に極めて良好な水性マゼンタインクを得ることができる。
【0165】
前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)との総配合量は、特に制限されないが、前記水性マゼンタインク全量に対し、2重量%〜6重量%であることが好ましい。前記総配合量を前記範囲とすることで、保存安定性、発色性、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性の全てが、極めて良好な水性マゼンタインクを得ることができる。
【0166】
前記マゼンタ着色剤は、前記マゼンタ染料(M−1)および前記マゼンタ染料(M−2)に加え、さらに他の染料および顔料等を含んでもよい。
【0167】
前記水およびその配合量は、前述の水性イエローインクにおける水およびその配合量と同様である。
【0168】
前記水溶性有機溶剤およびその配合量も、前述の水性イエローインクにおける水溶性有機溶剤およびその配合量と同様である。
【0169】
前記水性マゼンタインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤も、前述の水性イエローインクにおける添加剤と同様である。
【0170】
前記水性マゼンタインクは、例えば、マゼンタ着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0171】
(水性シアンインク)
前記水性シアンインクについて説明する。前述のとおり、前記水性シアンインクは、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記シアン着色剤は、前記シアン染料(C−1)を含む。
【0172】
前述のとおり、前記シアン染料(C−1)は、一般式(C−1)で表される染料である。
【0173】
一般式(C−1)で表される化合物は、環A31、A32およびA33がすべて2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環である化合物であってもよいし、環A31、A32およびA33のうち二つが2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、残り一つがベンゼン環である化合物であってもよいし、環A31、A32およびA33のうち一つが2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、残り二つがベンゼン環である化合物であってもよい。
前記シアン染料(C−1)は、単一の前記化合物で構成されていてもよいし、2種以上の前記化合物を含む混合物であってもよい。
【0174】
前記シアン染料(C−1)の好ましい具体例としては、化学式(C−1a)〜(C−1f)で表される化合物があげられる。
【0175】
【化26】

化学式(C−1a)において、
環A31、A32およびA33は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.0であり、bは、1.8であり、cは、1.2であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0176】
【化27】

化学式(C−1b)において、
環A31およびA32は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、環A33は、ベンゼン環であり、
aは、2.4であり、bは、0.6であり、cは、1.0であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0177】
【化28】

化学式(C−1c)において、
環A31、A32およびA33は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、3.0であり、bは、0.2であり、cは、0.8であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0178】
【化29】

化学式(C−1d)において、
環A31は、ベンゼン環であり、環A32およびA33は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.8であり、bは、0.9であり、cは、1.3であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0179】
【化30】

化学式(C−1e)において、
環A31、A32およびA33は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.1であり、bは、1.3であり、cは、1.6であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0180】
【化31】

化学式(C−1f)において、
環A31およびA33は、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、環A32は、ベンゼン環であり、
aは、0であり、bは、1.8であり、cは、2.2であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0181】
前記シアン着色剤は、前記シアン染料(C−1)のみで構成されていてもよいし、さらに他の染料および顔料等を含んでもよい。前記他の染料としては、例えば、下記のシアン染料(C−2)があげられる。

シアン染料(C−2):一般式(C−2a)で表される染料、一般式(C−2b)で表される染料、C.I.ダイレクトブルー199およびC.I.ダイレクトブルー86からなる群から選択される少なくとも一種の染料

【化32】

一般式(C−2a)において、
Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、
31、R32、R33およびR34は、それぞれ、−SO、−SONRおよび−COからなる群から選択される置換基であり、R31、R32、R33およびR34のすべてが同一であることはなく、R31、R32、R33およびR34の少なくとも一つは、イオン性親水性基を置換基として有し、R31、R32、R33およびR34の少なくとも一つは、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに存在し、Rは、置換または無置換のアルキル基であり、Rは、水素原子、置換または無置換のアルキル基であり、Rは、置換または無置換のアルキル基であり、
kは、0<k<8を満たし、lは、0<l<8を満たし、mは、0≦m<8を満たし、nは、0≦n<8を満たし、且つ、k、l、mおよびnは、4≦k+l+m+n≦8を満たす。

【化33】

一般式(C−2b)において、
Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、
は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムのいずれかであり、
xは、0<x<4を満たし、yは、0<y<4を満たし、且つ、xおよびyは、2≦x+y≦5を満たし、
SO基およびSONH基は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのいずれかに存在する。

【化34】

【0182】
一般式(C−2a)において、前記置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜12の直鎖、分岐鎖または脂環式アルキル基である。前記アルキル基は、染料の溶解性および水性シアンインクの安定性を向上させる観点から、分岐鎖を有するものが好ましく、不斉炭素を有するもの(ラセミ体での使用)が特に好ましい。前記置換または無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等があげられる。
【0183】
一般式(C−2a)において、前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルへキシル基、2−メチルスルホニルエチル基、3−フェノキシプロピル基、トリフルオロメチル基、シクロペンチル基等の炭素原子数1〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基;炭素原子数7〜18の直鎖または分岐鎖アラルキル基;炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルケニル基;炭素原子数2〜12の直鎖または分岐鎖アルキニル基;炭素原子数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルキル基;炭素原子数3〜12の直鎖または分岐鎖シクロアルケニル基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−アミノフェニル基等のアリール基;イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;シアノ基;ヒドロキシル基;ニトロ基;カルボキシ基;アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メタンスルホニルエトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、3−tert−ブトキシカルバモイルフェノキシ基、3−メトキシカルバモイル基等のアリールオキシ基;アセトアミド基、ベンズアミド基、4−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド基等のアシルアミノ基;メチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルブチルアミノ基等のアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、2−クロロアニリノ基等のアニリノ基;フェニルウレイド基、メチルウレイド基、N,N−ジブチルウレイド基等のウレイド基;N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ基等のスルファモイルアミノ基;メチルチオ基、オクチルチオ基、2−フェノキシエチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、2−ブトキシ−5−tert−オクチルフェニルチオ基、2−カルボキシフェニルチオ基等のアリールチオ基;メトキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基;メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基、p−トルエンスルホンアミド基等のスルホンアミド基;N−エチルカルバモイル基、N,N−ジプロピルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基等のスルファモイル基;メタンスルホニル基、オクタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基等のスルホニル基;メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロキシピラニルオキシ基等のヘテロ環オキシ基;フェニルアゾ基、4−メトキシフェニルアゾ基、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ基、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ基等のアゾ基;アセトキシ基等のアシルオキシ基;N−メチルカルバモイルオキシ基、N−フェニルカルバモイルオキシ基等のカルバモイルオキシ基;トリメチルシリルオキシ基、ジブチルメチルシリルオキシ基等のシリルオキシ基;フェノキシカルボニルアミノ基等のアリールオキシカルボニルアミノ基;N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基等のイミド基;2−ベンゾチアゾリルチオ基、2,4−ジフェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ基、2−ピリジルチオ基等のヘテロ環チオ基;3−フェノキシプロピルスルフィニル基等のスルフィニル基;フェノキシホスホニル基、オクチルオキシホスホニル基、フェニルホスホニル基等のホスホニル基;フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;アセチル基、3−フェニルプロパノイル基、ベンゾイル基等のアシル基;カルボキシ基、スルホ基、ホスホノ基、4級アンモニウム基等のイオン性親水性基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基である前記アルキル基、前記アラルキル基、前記アルケニル基、前記アルキニル基、前記シクロアルキル基および前記シクロアルケニル基は、染料の溶解性および水性シアンインクの安定性を向上させる観点から、分岐鎖を有するものが好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。
【0184】
前記シアン染料(C−2a)の好ましい態様としては、例えば、一般式(C−2a)において、R31、R32、R33およびR34が、それぞれ、−SOであり、R31、R32、R33およびR34がそれぞれ有するRのすべてが同一であることはなく、少なくとも一つのRが、イオン性親水性基を有する置換アルキル基である態様である。
【0185】
前記シアン染料(C−2a)のより好ましい態様としては、例えば、一般式(C−2a)において、kは、0<k<4を満たし、lは、0<l<4を満たし、mは、0≦m<4を満たし、nは、0≦n<4を満たし、且つ、k、l、mおよびnは、k+l+m+n=4を満たす態様である。
【0186】
前記シアン染料(C−2a)の好ましい具体例としては、化学式(C−2a−1)〜(C−2a−5)で表される化合物があげられる。
【0187】
【化35】

【0188】
化学式(C−2a−1)で表される化合物は、一般式(C−2a)において、R31がリチウムスルホナトプロピルスルホニル基、R32がN−(2−ヒドロキシプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基であり、kが3、lが1、mおよびnが共に0である態様である。
【0189】
【化36】

【0190】
化学式(C−2a−2)で表される化合物は、一般式(C−2a)において、R31がリチウムスルホナトプロピルスルホニル基、R32がN−(2−ヒドロキシイソプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基であり、kが3、lが1、mおよびnが共に0である態様である。
【0191】
【化37】

【0192】
化学式(C−2a−3)で表される化合物は、一般式(C−2a)において、R31がリチウムスルホナトプロピルスルホニル基、R32がN,N−(ジ(2−ヒドロキエチル))スルファモイルプロピルスルホニル基であり、kが3、lが1、mおよびnが共に0である態様である。
【0193】
【化38】

【0194】
化学式(C−2a−4)で表される化合物は、一般式(C−2a)において、R31がリチウムスルホナトプロピルスルホニル基、R32がN−(2−ヒドロキシプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基、R33がN−(2−ヒドロキシイソプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基であり、kが2、lが1、mが1、nが0である態様である。
【0195】
【化39】

【0196】
化学式(C−2a−5)で表される化合物は、一般式(C−2a)において、R31がリチウムスルホナトプロピルスルホニル基、R32がリチウムカルボキシラトプロピルスルホニル基、R33がN−(2−ヒドロキシプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基、R34がN−(2−ヒドロキシイソプロピル)スルファモイルプロピルスルホニル基であり、k、l、mおよびnが共に1である態様である。
【0197】
一般式(C−2b)において、前記Mは、水性シアンインク中で電離して、イオン(Li、Na、KおよびNHのいずれか)となっていてもよい。
前記水性シアンインクでは、一般式(C−2b)において、xおよびyは、x+y=4を満たしてもよい。
【0198】
前記シアン染料(C−2b)の好ましい具体例としては、化学式(C−2b−1)〜(C−2b−4)で表される化合物があげられる。
【0199】
【化40】

【0200】
化学式(C−2b−1)で表される化合物は、一般式(C−2b)において、Mがナトリウムであり、xが1、yが3であり、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに一つの置換基が存在する態様である。
【0201】
【化41】

【0202】
化学式(C−2b−2)で表される化合物は、一般式(C−2b)において、Mがナトリウムであり、xが2、yが2であり、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに一つの置換基が存在する態様である。
【0203】
【化42】

【0204】
化学式(C−2b−3)で表される化合物は、一般式(C−2b)において、Mがナトリウムであり、xが3、yが1であり、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに一つの置換基が存在する態様である。
【0205】
【化43】

【0206】
化学式(C−2b−4)で表される化合物は、一般式(C−2b)において、Mがアンモニウムであり、xが1、yが3であり、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに一つの置換基が存在する態様である。
【0207】
C.I.ダイレクトブルー199は、例えば、化学式(C−2c)で表される染料である。
【0208】
【化44】

【0209】
C.I.ダイレクトブルー86は、例えば、化学式(C−2d)で表される染料である。
【0210】
【化45】

【0211】
前記シアン染料(C−1)に加え前記シアン染料(C−2)を用いる場合において、前記シアン染料(C−1)の配合量は、特に制限されない。水性シアンインクに前記シアン染料(C−1)を含ませれば、保存安定性、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性を向上させることができる。前記シアン染料(C−1)の配合量は、前記水性シアンインク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、1.4重量%〜5.7重量%であり、より好ましくは、1.6重量%〜4.8重量%である。
【0212】
前記シアン染料(C−1)に加え前記シアン染料(C−2)を用いる場合において、前記シアン染料(C−2)の配合量は、特に制限されない。水性シアンインクに前記シアン染料(C−2)を含ませれば、発色性を向上させることができる。前記シアン染料(C−2)の配合量は、前記水性シアンインク全量に対し、例えば、0.05重量%〜5重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜1.8重量%であり、より好ましくは、0.1重量%〜1.5重量%である。
【0213】
前記シアン染料(C−1)に加え前記シアン染料(C−2)を用いる場合において、前記水性シアンインクにおける前記シアン染料(C−1)と前記シアン染料(C−2)との重量比は、シアン染料(C−1):シアン染料(C−2)=70:30〜95:5であることが好ましい。前記重量比を前記範囲とすることで、保存安定性、発色性、耐オゾン性および耐光性に加え、噴射安定性が極めて良好な水性シアンインクを得ることができる。
【0214】
前記シアン染料(C−1)と前記シアン染料(C−2)との総配合量は、特に制限されないが、前記水性シアンインク全量に対し、2重量%〜6重量%であることが好ましい。前記総配合量を前記範囲とすることで、保存安定性、発色性、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性の全てが、極めて良好な水性シアンインクを得ることができる。
【0215】
前記水およびその配合量は、前述の水性イエローインクにおける水およびその配合量と同様である。
【0216】
前記水溶性有機溶剤およびその配合量は、前述の水性イエローインクにおける水溶性有機溶剤およびその配合量と同様である。
【0217】
前記水性シアンインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤も、前述の水性イエローインクにおける添加剤と同様である。
【0218】
前記水性シアンインクは、例えば、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0219】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、前記3色の水性インクを含むことにより、フルカラー記録に対応可能である。本発明の水性インクセットは、前記3色の水性インクのみで構成されていてもよいし、さらに他の色の水性インクを含んでもよい。前記他の色の水性インクとしては、例えば、水性ブラックインク、水性レッドインク、水性グリーンインク、水性ブルーインク、着色剤濃度が低い水性ライトインク(水性ライトイエローインク、水性ライトマゼンタインク、水性ライトシアンインク、水性ライトブラックインク、水性ライトレッドインク、水性ライトグリーンインク、水性ライトブルーインク等)等があげられる。フルカラー記録により好適に対応可能となることから、本発明の水性インクセットは、水性ブラックインクを含むことが好ましい。
【0220】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクのそれぞれの収納部を有するインクカートリッジであって、前記水性イエローインク、前記水性マゼンタインクおよび前記水性シアンインクが、本発明のインクジェット記録用水性インクセットの水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクであることを特徴とする。本発明のインクカートリッジは、さらに、前記他の色の水性インクの収納部を有してもよい。
【0221】
本発明のインクカートリッジは、1色の水性インクの収納部を有するインクカートリッジが複数集まったインクカートリッジ集合体であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。本発明のインクカートリッジは、各色の水性インクの収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0222】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置について説明する。本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクカートリッジが収容されていることを特徴とする。これを除き、本発明のインクジェット記録装置の構成は、例えば、従来公知のインクジェット記録装置と同様であってもよい。
【0223】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0224】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記イエロー、マゼンタおよびシアンの3色の水性インクが、本発明の水性インクセットの水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクである。前記インクジェットヘッド3は、記録紙等の被記録媒体Pに記録を行う。前記ヘッドユニット4は、前記インクジェットヘッド3を備えている。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0225】
前記被記録媒体Pは、このインクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記被記録媒体Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。すると、前記被記録媒体Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がなされる。前記被記録媒体Pは、その後、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記被記録媒体Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0226】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0227】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0228】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【実施例】
【0229】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例および比較例により限定および制限されない。
【0230】
[水性イエローインクの調製]
インク組成成分(表2)を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、水性イエローインクY1〜Y11およびY12c〜Y16cを得た。なお、表2において、イエロー染料(Y−1a)〜(Y−1e)は、それぞれ、化学式(Y−1a)〜(Y−1e)で表される化合物である。
【0231】
[水性マゼンタインクの調製]
インク組成成分(表3)を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、水性マゼンタインクM1〜M14およびM15c〜M25cを得た。なお、表3において、マゼンタ染料(M−1a)〜(M−1e)は、それぞれ、表1に示すマゼンタ染料(M−1a)〜(M−1e)で表される化合物であり、マゼンタ染料(M−2a−1)〜(M−2a−5)は、それぞれ、化学式(M−2a−1)〜(M−2a−5)で表される化合物であり、マゼンタ染料(M−2b−2)、(M−2b−4)および(M−2b−5)は、それぞれ、化学式(M−2b−2)、(M−2b−4)および(M−2b−5)で表される化合物である。
【0232】
[水性シアンインクの調製]
インク組成成分(表4)を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、水性シアンインクC1〜C21およびC22c〜C29cを得た。なお、表4において、シアン染料(C−1a)〜(C−1e)は、それぞれ、化学式(C−1a)〜(C−1e)で表される化合物であり、シアン染料(C−2a−1)、(C−2a−2)および(C−2a−5)は、それぞれ、化学式(C−2a−1)、(C−2a−2)および(C−2a−5)で表される化合物であり、シアン染料(C−2b−2)および(C−2b−3)は、それぞれ、化学式(C−2b−2)および(C−2b−3)で表される化合物である。
【0233】
【表2】

【0234】
【表3】

【0235】
【表4】

【0236】
[実施例1〜19および比較例1〜11]
〔インクジェット記録用水性インクセットの構成〕
表5および表6に示すように水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを組み合わせて、インクジェット記録用水性インクセットを構成した。
【0237】
〔インクジェット記録用水性インクセットの評価〕
実施例および比較例の水性インクセットについて、(a)保存安定性評価、(b)発色性評価、(c)耐オゾン性評価、(d)耐光性評価、(e)噴射安定性評価および(f)総合評価を、下記の方法により行った。なお、(c)耐オゾン性評価および(d)耐光性評価に用いるサンプルは、つぎのようにして準備した。
【0238】
まず、実施例および比較例の水性インクセットを構成する水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを、それぞれインクカートリッジに充填した。ついで、前記インクカートリッジを、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cに装着した。つぎに、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP71GAに前記水性インクの単色グラデーションサンプルをプリントし、初期OD値1.0の各単色パッチを得た。前記OD値は、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。
【0239】
(a)保存安定性評価
実施例および比較例の水性インクセットを構成する各水性インクを純水によって1600倍に希釈した希釈液の最大吸収ピーク波長における吸光度を、(株)島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計UV3600を用いて測定した。前記吸光度の測定には、セル長10mmの測定セルを用いた。ついで、別途、前記水性インクを密閉容器に入れ、温度60℃の環境下で、2週間保存した。つぎに、前記保存後の前記水性インクを純水によって1600倍に希釈した希釈液の吸光度を、保存前と同様にして、測定した。つぎに、下記式(I)により吸光度減少率(%)を求め、水性インクセットとしての保存安定性を下記の評価基準に従って評価した。なお、前記吸光度減少率が小さいほど、保存安定性に優れていたことになる。

吸光度減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(I)
X:保存前の吸光度
Y:保存後の吸光度

【0240】
保存安定性評価 評価基準
AA:水性インクの吸光度減少率がいずれも5%未満
A :少なくとも一色の水性インクの吸光度減少率が5%以上10%未満であり、残りの水性インクの吸光度減少率が5%未満
C :少なくとも一色の水性インクの吸光度が10%以上
【0241】
(b)発色性評価
実施例および比較例の水性インクセットを構成する水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを、それぞれインクカートリッジに充填した。ついで、前記インクカートリッジを、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cに装着した。つぎに、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP71GAに自然画像サンプル(JIS SCID No.2)をプリントした。この自然画像サンプルを、目視にて観察し、単色または各色を組み合わせた色が充分に表現されているか否かを、下記の評価基準に従って評価した。
【0242】
発色性評価 評価基準
AA:単色および各色を組み合わせた色が充分に表現できている。
A ;単色がそれぞれ、充分に表現できている。
C :単色および各色を組み合わせた色のいずれも充分に表現できていない。
【0243】
(c)耐オゾン性評価
スガ試験機(株)製のオゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、槽内相対湿度60%の条件下に前記各単色パッチを40時間放置した。ついで、前記放置後の前記各単色パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(II)によりOD値減少率(%)を求め、耐オゾン性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐オゾン性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(II)
X:1.0(初期OD値)
Y:放置後のOD値

【0244】
耐オゾン性評価 評価基準
AA:水性インクのOD値減少率がいずれも20%未満であって、各水性インク間のOD値減少率の最大差が20%未満
A :水性インクのOD値減少率がいずれも20%以上30%未満であって、各水性インク間のOD値減少率の最大差が20%未満
C :少なくとも一色の水性インクのOD値減少率が30%以上であるか、いずれかの水性インク間のOD値減少率の差の最大値が20%以上
【0245】
(d)耐光性評価
スガ試験機(株)製のスーパーキセノンウェザーメーターSX75を用いて、槽内温度23℃、槽内相対湿度50%、照度81klxの条件下、前記各単色パッチにキセノンランプ光を100時間照射した。ついで、前記照射後の前記各単色パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(III)によりOD値減少率(%)を求め、耐光性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐光性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(III)
X:1.0(初期OD値)
Y:照射後のOD値

【0246】
耐光性評価 評価基準
AA:水性インクのOD値減少率がいずれも20%未満であって、各水性インク間のOD値減少率の最大差が20%未満
A :水性インクのOD値減少率がいずれも20%以上30%未満であって、各水性インク間のOD値減少率の最大差が20%未満
C :少なくとも一色の水性インクのOD値減少率が30%以上であるか、いずれかの水性インク間のOD値減少率の差の最大値が20%以上
【0247】
(e)噴射安定性評価
実施例および比較例の水性インクセットを構成する水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクのそれぞれについて、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用し、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙W(記録用紙)上に、1億ドット(約3万枚)の連続記録を行った。前記連続記録の結果を、下記の評価基準に従って評価した。不吐出とは、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりし、前記水性インクが吐出されない状態である。吐出曲がりとは、インクジェットヘッドのノズルの一部が目詰まりし、前記水性インクが、前記記録用紙に対して垂直に吐出されず、斜めに吐出される状態である。
【0248】
噴射安定性評価 評価基準
AA:連続記録中において、全ての水性インクに不吐出および吐出曲がりが全くなかった。
A :連続記録中において、少なくとも一色の水性インクに不吐出若しくは吐出曲がりが僅かにあったが、前記不吐出若しくは吐出曲がりが、共に5回以内のパージによって回復した。
C :連続記録中において、少なくとも一色の水性インクに不吐出および吐出曲がりが多数有り、前記不吐出および吐出曲がりが、共に5回のパージでは回復しなかった。
【0249】
(f)総合評価
各水性インクセットについて、前記(a)〜(e)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0250】
総合評価 評価基準
G :評価結果のいずれにもCはなかった。
NG:評価結果のいずれかにCがあった。
【0251】
実施例の水性インクセットの構成および評価結果を、表5に示す。また、比較例の水性インクセットの構成および評価結果を、表6に示す。
【0252】
【表5】

【0253】
【表6】

【0254】
表5に示すとおり、実施例1〜19の水性インクセットは、保存安定性評価、発色性評価、耐オゾン性評価、耐光性評価および噴射安定性評価のすべての結果が、良好であった。さらに、実施例1〜19の水性インクは、退色後の色バランスも良好であった。
【0255】
一方、表6に示すとおり、比較例1の水性インクセットは、水性イエローインクがイエロー染料(Y−2)を含まないため、保存安定性評価の結果が劣っており、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−2)を含まないため、発色性評価の結果が著しく劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、噴射安定性評価の結果が著しく劣っていた。
【0256】
また、比較例2の水性インクセットは、水性イエローインクがイエロー染料(Y−1)を含まないため、発色性評価、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)を含まないため、噴射安定性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0257】
また、比較例3の水性インクセットは、水性イエローインクがイエロー染料(Y−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−2)に代えてC.I.アシッドレッド52を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0258】
また、比較例4の水性インクセットは、水性イエローインクがイエロー染料(Y−2)に代えてC.I.アシッドイエロー23を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−2)に代えてC.I.アシッドレッド289を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っており、噴射安定性評価の結果が劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0259】
また、比較例5の水性インクセットは、水性イエローインクがイエロー染料(Y−1)に代えてC.I.アシッドイエロー23を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)に代えてC.I.アシッドレッド52を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、発色性評価および噴射安定性評価の結果が劣っており、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0260】
また、比較例6の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)に代えてC.I.アシッドレッド289を含むため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、耐オゾン性評価の結果が劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0261】
また、比較例7の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、耐オゾン性評価の結果が劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0262】
また、比較例8の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、耐オゾン性評価の結果が劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0263】
また、比較例9の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0264】
また、比較例10の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)およびマゼンタ染料(M−2)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っており、水性シアンインクがシアン染料(C−1)を含まないため、発色性評価の結果が劣っており、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性イエローインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【0265】
また、比較例11の水性インクセットは、水性マゼンタインクがマゼンタ染料(M−1)およびマゼンタ染料(M−2)を含まないため、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が著しく劣っていた。さらに、水性イエローインクと水性マゼンタインク間、水性マゼンタインクと水性シアンインク間の耐オゾン性評価および耐光性評価におけるOD値減少率の差も大きく、退色後の色バランスが悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0266】
以上のように、本発明の水性インクセットは、保存安定性、発色性、噴射安定性に優れ、且つ、耐光性、耐オゾン性等の堅牢性にも優れ、たとえ退色したとしても、画像の色バランス変化の少ないものである。本発明の水性インクセットの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0267】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性イエローインクが、イエロー着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記イエロー着色剤が、下記のイエロー染料(Y−1)およびイエロー染料(Y−2)を含み、
前記水性マゼンタインクが、マゼンタ着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記マゼンタ着色剤が、下記のマゼンタ染料(M−1)およびマゼンタ染料(M−2)を含み、
前記水性シアンインクが、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、前記シアン着色剤が、下記のシアン染料(C−1)を含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。

イエロー染料(Y−1):一般式(Y−1)で表される染料
イエロー染料(Y−2):C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132およびC.I.ダイレクトイエロー142からなる群から選択される少なくとも一種の染料

マゼンタ染料(M−1):一般式(M−1)で表される染料
マゼンタ染料(M−2):一般式(M−2a)で表される染料、一般式(M−2b)で表される染料、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料

シアン染料(C−1):一般式(C−1)で表される染料

【化1】

一般式(Y−1)において、
、R、YおよびYは、それぞれ、一価の基であり、R、R、YおよびYは同一でも異なっていてもよく、
およびXは、それぞれ、電子吸引性基であり、XおよびXは同一でも異なっていてもよく、
およびZは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、ZおよびZは同一でも異なっていてもよく、
は、水素原子またはカチオンである。

【化2】

一般式(M−1)において、
は、1または2であり、
3つのMは、それぞれ、ナトリウムまたはアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、
は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1〜8のモノアルキルアミノ基である。

【化3】

一般式(M−2a)において、
11は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、
12は、水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であり、
13は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、
14、R15、R16およびR17は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のスルホニル基、置換または無置換のアシル基であり、R14、R15、R16およびR17は同一でも異なっていてもよいが、R14とR15が共に水素原子であることはなく、R16とR17が共に水素原子であることはなく、
およびAは、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。

【化4】

一般式(M−2b)において、
rは、0、1または2であり、
18、R19およびR20は、それぞれ、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基、置換または無置換のカルバモイル基、置換または無置換のスルファモイル基、置換または無置換のアミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、置換または無置換のアルキルスルホニル基、置換または無置換のアリールスルホニル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基であり、R18、R19およびR20は同一でも異なっていてもよく、
21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換の脂環基、置換または無置換のヘテロ環基であり、R21、R22およびR23は同一でも異なっていてもよい。

【化5】

一般式(C−1)において、
環A31、A32およびA33は、それぞれ、ベンゼン環、2,3−ピリジン環および3,2−ピリジン環からなる群から選択される少なくとも一つであり、且つ、環A31、A32およびA33の少なくとも一つは、2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、環A31、A32およびA33は同一でも異なっていてもよく、
aは、0≦a≦4を満たし、bは、0≦b≦4を満たし、cは、0≦c≦4を満たし、且つ、a、bおよびcは、0≦a+b+c≦4を満たし、
zは、1≦z≦3を満たす整数であり、
30は、炭素原子数1〜6の直鎖アルキル基である。
【請求項2】
前記水性イエローインクにおける前記イエロー染料(Y−1)と前記イエロー染料(Y−2)との重量比が、イエロー染料(Y−1):イエロー染料(Y−2)=60:40〜90:10である請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2a)であり、
前記水性マゼンタインクにおける前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)との重量比が、マゼンタ染料(M−1):マゼンタ染料(M−2)=60:40〜20:80である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項4】
前記マゼンタ染料(M−2)が、前記マゼンタ染料(M−2b)、C.I.アシッドレッド1およびC.I.アシッドレッド254からなる群から選択される少なくとも一種の染料であり、
前記水性マゼンタインクにおける前記マゼンタ染料(M−1)と前記マゼンタ染料(M−2)との重量比が、マゼンタ染料(M−1):マゼンタ染料(M−2)=70:30〜90:10である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項5】
前記シアン着色剤が、さらに、下記のシアン染料(C−2)を含み、
前記水性シアンインクにおける前記シアン染料(C−1)と前記シアン染料(C−2)との重量比が、シアン染料(C−1):シアン染料(C−2)=70:30〜95:5である請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクセット。

シアン染料(C−2):一般式(C−2a)で表される染料、一般式(C−2b)で表される染料、C.I.ダイレクトブルー199およびC.I.ダイレクトブルー86からなる群から選択される少なくとも一種の染料

【化6】

一般式(C−2a)において、
Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、
31、R32、R33およびR34は、それぞれ、−SO、−SONRおよび−COからなる群から選択される置換基であり、R31、R32、R33およびR34のすべてが同一であることはなく、R31、R32、R33およびR34の少なくとも一つは、イオン性親水性基を置換基として有し、R31、R32、R33およびR34の少なくとも一つは、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのそれぞれに存在し、Rは、置換または無置換のアルキル基であり、Rは、水素原子、置換または無置換のアルキル基であり、Rは、置換または無置換のアルキル基であり、
kは、0<k<8を満たし、lは、0<l<8を満たし、mは、0≦m<8を満たし、nは、0≦n<8を満たし、且つ、k、l、mおよびnは、4≦k+l+m+n≦8を満たす。

【化7】

一般式(C−2b)において、
Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核であり、
は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムのいずれかであり、
xは、0<x<4を満たし、yは、0<y<4を満たし、且つ、xおよびyは、2≦x+y≦5を満たし、
SO基およびSONH基は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核中の4つのベンゼン環A、B、CおよびDのいずれかに存在する。

【化8】

【請求項6】
前記水性イエローインク全量に対し、前記イエロー着色剤の総配合量が、2重量%〜6重量%であり、
前記水性マゼンタインク全量に対し、前記マゼンタ着色剤の総配合量が、2重量%〜6重量%であり、
前記水性シアンインク全量に対し、前記シアン着色剤の総配合量が、2重量%〜6重量%である請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項7】
水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクそれぞれの収納部を有するインクカートリッジであって、前記水性イエローインク、前記水性マゼンタインクおよび前記水性シアンインクが、請求項1から6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクセットの水性イエローインク、水性マゼンタインクおよび水性シアンインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項8】
インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、請求項7記載のインクカートリッジが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111611(P2011−111611A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272394(P2009−272394)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】