説明

インクジェット記録用水性顔料インク

【課題】プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能で、密着性、成膜性、耐薬品性に優れたインクインクジェット記録用水性顔料インクを提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、水を含むインクジェット記録用水性顔料インクであって、前記エマルジョン樹脂として、外層がウレタン樹脂、内層がアクリル樹脂からなるコア−シェル構造のエマルジョン樹脂を含み、前記水溶性化合物がエーテル結合を含む重量平均分子量が5,000〜200,000の高分子化合物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、金属のようなインク非吸収性材料に対する密着性に優れたインクジェット記録用水性顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型又は溶融型の熱転写方式、インクジェット方式などが知られている。これらの中でインクジェット方式は、安価な装置で実施可能であり、かつ、必要とされる画像部のみにインクを吐出して被記録媒体上に直接画像形成を行う方法であるため、インクを効率よく使用でき、ランニングコストが安く、さらに騒音が少ない画像記録方式として優れている。
【0003】
一方、プラスチックや金属等のようなインク吸収性のない材料ないしインク吸収性の低い材料(すなわち、インク非吸収性材料)への印刷には、従来、紫外線硬化型インクが用いられてきた。今日では、グラビア印刷を除き、オフセット印刷、シール印刷、又はスクリーン印刷等のほとんど全ての印刷方式に、紫外線硬化型インクを用いた方式が導入されている。しかしながら、上記の印刷方式は大がかりな装置を要するため、小規模な印刷には適していない。
【0004】
この問題を解決する方法としては、安全性が高く、環境負荷の小さい水性インクを用いるインクジェット方式が挙げられる。また、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能な水性顔料インクについても、多くの提案がなされている(例えば特許文献1)。さらに、疎水性モノマーに由来する構造と、親水性モノマーに由来する構造とを少なくとも含んでなるコアシェル構造を有する樹脂エマルジョンを用いたインク組成物が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−20421号公報
【特許文献2】特開2000−290553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された従来の水性顔料インクは、吐出安定性の向上を図り、表面平滑性の高いアート紙やプラスチックへの密着性を改良したものであったが、特にプラスチックや金属への密着性に関しては、未だ十分とは言えない状況であった。
【0007】
また、特許文献2によれば、インク組成物中に、疎水性モノマーに由来する構造と親水性モノマーに由来する構造とを少なくとも含んでなるコアシェル構造を有する樹脂エマルジョンを用いることにより、目詰まり安定性、吐出安定性、保存安定性などを改良しているが、やはり、プラスチックや金属への密着性に関しては、未だ十分とは言えない状況であった。
【0008】
そこで、本発明は、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷が可能であって、密着性及び耐薬品性に優れたインクインクジェット記録用水性顔料インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、上記目的を達成できるインクジェット記録用水性顔料インクを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
〔1〕顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を少なくとも含んでなるインクジェット記録用水性顔料インクであって、該エマルジョン樹脂は外層がウレタン樹脂及び内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂を含み、該水溶性化合物は5,000〜200,000の重量平均分子量を有するエーテル結合含有高分子化合物を含む、インクジェット記録用水性顔料インク。
〔2〕コア−シェル構造は、ウレタン樹脂とアクリル樹脂の合計質量に対するウレタン樹脂の比率が1〜90質量%である、〔1〕に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔3〕コア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂は、30〜400nmの平均粒子径を有する、〔1〕又は〔2〕に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔4〕ウレタン樹脂は、10,000〜200,000の重量平均分子量を有する、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔5〕ウレタン樹脂は、5〜100℃のガラス転移温度を有する、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔6〕アクリル樹脂は、50,000〜200,000の重量平均分子量を有する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔7〕アクリル樹脂は、−10〜150℃のガラス転移温度を有する、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔8〕エーテル結合含有高分子化合物は、5,000〜200,000の重量平均分子量を有する、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔9〕エマルジョン樹脂は、ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂をさらに含む、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
〔10〕ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂は、アクリルエマルジョン樹脂である、〔9〕に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるインクインクジェット記録用水性顔料インクは、分散安定性に優れ、紙などの吸収性材料に対しては、にじみが少なく高発色である。また、本発明によるインクインクジェット記録用水性顔料インクは、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷が可能であって、密着性及び耐薬品性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による水性顔料インクは、顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を少なくとも含んでなる。
本発明におけるエマルジョン樹脂は、外層がウレタン樹脂及び内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂を含む。本発明において、アクリル樹脂とはメタクリル樹脂をも含む。コア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂の外層(シェル)をウレタン樹脂から構成すると、密着性、耐摩擦性に優れたウレタン樹脂の性質を本発明の水性顔料インクに効果的に活かすことができる。また、コア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂の内層(コア)をアクリル樹脂から構成すると、光沢、耐候性、耐薬品性に優れたアクリル樹脂の性質を本発明の水性顔料インクに効果的に活かすことができる。そして、本発明において外層がウレタン樹脂及び内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂を用いることによって、優れた密着性と耐薬品性とを兼ね備えた水性顔料インクを得ることができる。
【0012】
上記のコア−シェル構造において、ウレタン樹脂とアクリル樹脂の合計質量に対するウレタン樹脂の比率は、インク非吸収性材料への密着の点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらには10質量%以上である。また、上記比率は、耐水性の点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらには20質量%以下である。
【0013】
上記のコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂は、長期保存安定性の点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上の平均粒子径を有する。また、上記平均粒子径は、エマルジョンの沈降性の点から、好ましくは400nm以下、より好ましくは250nm以下である。
【0014】
上記エマルジョン樹脂の外層を構成する適当なウレタン樹脂が有するウレタン結合は、通常、イソシアネート基と、水酸基などの活性水素を有する化合物との付加反応により生成されたものである。ウレタン結合を生成するジイソシアネート基を持つ化合物としては、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。一方、水酸基などの活性水素を有する化合物としては水酸基を2個以上含有するポリオールなどが用いられ、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。本発明においては、耐薬品性、耐水性の点から、ポリエステルポリオール由来のウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0015】
このようなウレタン樹脂は、成膜性や耐薬品性の点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上の重量平均分子量を有する。また、インク粘度の点から、ウレタン樹脂は好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下の重量平均分子量を有する。
また、このようなウレタン樹脂は、耐薬品性、耐水性の点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上のガラス転移温度を有し、成膜性の点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下のガラス転移温度を有する。
【0016】
上記エマルジョン樹脂の内層を構成する適当なアクリル樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等が挙げられる。本発明におけるアクリル樹脂は、好適にはスチレン、アクリル酸、メタクリル酸などに由来する構成単位が含まれるが、それ以外のモノマーに由来する構成単位が含まれていてもよい。このようなモノマーとしては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2−エトキシエチルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−エトキシブチルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレート、メチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレートのような(メタ)アクリル酸エステル誘導体;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸アリールエステル類及び(メタ)アクリル酸アラルキルエステル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ビスフェノールAのような多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのようなマレイン酸ジアルキルエステル等を挙げることができる。これらのモノマーはその1種又は2種以上を上記のスチレン、アクリル酸又はメタクリル酸モノマーと組み合わせて使用することができる。また、これらのモノマーの組み合わせによる樹脂の形態は、ランダム型、ブロック型、グラフト型のいずれであってもよい。
【0017】
このようなアクリル樹脂は、耐薬品性の点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは50,000以上の重量平均分子量を有する。また、成膜性の点から、アクリル樹脂は好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下の重量平均分子量を有する。
また、このようなアクリル樹脂は、耐薬品性の点から、好ましくは−10℃以上、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは30℃以上のガラス転移温度を有する。また、アクリル樹脂は、成膜性の点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは90℃以下のガラス転移温度を有する。
【0018】
上記のコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂として、イオン性基及びアルコキシシリル基を含有するエマルジョン樹脂を用いると、イオン性基によりエマルジョン樹脂の分散安定性が良好となり、またアルコキシシリル基により被記録媒体上での水の蒸発あるいは浸透時に縮合反応が起きて自己架橋し、その結果、記録層の耐久性が向上するので好ましい。このようなイオン性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸などの基が挙げられる。イオン性基及びアルコキシシリル基を含有するエマルジョン樹脂は、少なくともイオン性基を含有する重合性不飽和モノマー、ポリイソシアネート、活性水素基を含有する化合物、反応性官能基及びアルコキシシリル基を含有する化合物を、ウレタン化反応及びラジカル重合反応させることによって得ることができる。
【0019】
上記のようなコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂は、例えば高分子乳化剤法、二段乳化重合法などを含む任意の方法によって製造することができる。本発明においては、好適には、高分子乳化剤法によってコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂を製造することができる。高分子乳化剤法において、水中でシェルとなるウレタン樹脂を合成し、その中にアクリルモノマーのプレエマルション溶液を重合開始剤とともに滴下、重合反応させることによってエマルジョンを得ることができる。この際、ウレタン樹脂が乳化剤の役割を担い得る。
また、このようなコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂としては、市販品を使用することもでき、例えば大成ファインケミカル(株)社製のWEMシリーズや昭和高分子(株)社製のAP−3840Nなどが挙げられる。
【0020】
本発明において、水性顔料インクに含まれるエマルジョン樹脂として、上記のコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂に加えて他のエマルジョン樹脂、とりわけアクリル系、スチレン−アクリル系、アクリル−シリコーン系などのアクリルエマルジョン樹脂を用いることができる。エマルジョン樹脂が、ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂をさらに含むと、水性顔料インクにより更なる耐薬品性を付与し得ると共に、印刷面がべた付いて埃が付着し易くなることや、印刷物をロール巻きする際の貼り付きなどのタック性を改善し得るため、好適である。このような目的で追加するエマルジョン樹脂のガラス転移温度の上限は、通常110℃程度である。
【0021】
ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂を構成する原料としては、スチレン、テトラヒドロフルフリルアクリレート及びブチルメタクリレートを好適に用いることができる。
上記以外の原料として、(α、2、3又は4)−アルキルスチレン、(α、2、3又は4)−アルコキシスチレン、3、4−ジメチルスチレン、α−フェニルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N、N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0022】
また、アルキル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基のジエチレングリコール又はポリエチレングリコールの(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0023】
また、含フッ素、含塩素、含珪素(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、(メタ)アクリル酸等の1官能の他に架橋構造を導入する場合には、(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、1、8−オクタンジオール及び1、10−デカンジオール等の(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリン(ジ、トリ)(メタ)アクリレート、ビスフェノールA又はFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0024】
用いるエマルジョン樹脂の総量は、耐水性、耐薬品性、インク非吸収性材料への密着の点から、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上の量で含まれることが好ましい。また、エマルジョン樹脂の総量は、インクジェット適性の点から、インクジェット記録用水性顔料インク全量に対して好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下の量で含まれることが好ましい。
【0025】
本発明による水性顔料インクに含まれる水溶性化合物は、5,000〜200,000の重量平均分子量を有するエーテル結合含有高分子化合物を含む。水溶性化合物としての高分子化合物がエーテル結合を含むことにより、比較的低い温度で水性顔料インクの塗膜を形成することが可能となる。エーテル結合含有高分子化合物の重量平均分子量が5,000以上、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上であると、得られる水性顔料インクの耐薬品性が良好となる。また、エーテル結合含有高分子化合物の重量平均分子量が200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下であると、水性顔料インクのインクジェット適性が良好となる。
【0026】
エーテル結合を含む重量平均分子量が5,000〜200,000の水溶性高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリイソブチレンオキサイドなどの、ポリアルキレンオキサイド類;及び下記の一般式:

で表されるエーテル構造を有するモノマーAの重合体、モノマーAと酸性基を有するモノマーBと顔料に親和性を有するモノマーCとの間の任意の共重合体等が挙げられる。
【0027】
酸性基を有するモノマーBとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、アクリロイルオキシエチルフタレート、アクリロイルオキシサクシネートなどのカルボキシル基を有するモノマー;アクリル酸2−スルホン酸エチル、メタクリル酸2−スルホン酸エチル、エチルアクリルアミドスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマー;メタクリル酸2−ホスホン酸エチル、アクリル酸2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有するモノマーなどが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基を有するモノマーが特に好ましい。
【0028】
顔料に親和性を有するモノマーCとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルステレン、m−メチルステレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどのスチレン系モノマー;その他、アミノ基含有モノマーや、エチレンなどのα−オレフィン、イタコン酸ベンジルなどのイタコン酸エステル、マレイン酸ジメチルなどのマレイン酸エステル、フマール酸ジメチルなどのフマール酸エステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジル基を有するモノマー、シリコーン系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、メトキシポリエチレングリコールアクリレートなどが例示される。これらの中で、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーやスチレン系モノマーが好ましい。
【0029】
本発明において、水性顔料インクに含まれる水溶性化合物として、上記のエーテル結合含有高分子化合物に加えて、乾燥促進、インクジェットヘッドの吐出安定性の向上、保湿性の付与などの目的で、エーテル結合含有高分子化合物とは異なる水溶性有機溶剤を用いることができる。
【0030】
用い得る水溶性有機溶剤としては、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等;グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2,4−ブタントリオール、2,2’−チオジエタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の高沸点低揮発性の多価アルコール類;及びこれらのモノエーテル化物、ジエーテル化物、エステル化物、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等を例示することができる。その他の水溶性有機溶剤として、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等の含窒素有機溶剤等を用いることもできる。
【0031】
本発明による水性顔料インクは、上記のエマルジョン樹脂と水溶性化合物に加えて、顔料及び水を少なくとも含んでなる。
用い得る無機顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。
【0032】
用い得る有機顔料としては、具体的には、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系の有機顔料などが挙げられる。また、酸性、中性又は塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子などを有機顔料として用いてもよい。
【0033】
シアン色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60などを用いることができる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4のいずれか又は両方が好ましい。
【0034】
マゼンタ色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19などを用いることができる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0035】
イエロー色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントイエロー214などを用いることができる。これらの中でも、耐候性などの点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー213、及びC.I.ピグメントイエロー214からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0036】
ブラック色を有する顔料としては、具体的には、例えば、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF;キャボット社製のモナーク、リーガル;デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス;東海カーボン社製のトーカブラック;コロンビア社製のラヴェンなどを用いることができる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、及びデグサ・ヒュルス社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0037】
また、これらの顔料を、界面活性剤あるいは分散剤により分散安定化した分散顔料、顔料粒子表面に化学反応によって親水性の官能基を導入した自己分散型顔料又はポリマー成分をグラフト処理した顔料、及び顔料の表面を樹脂で完全に被覆することで機能化したカプセル化顔料等の樹脂複合化顔料等として用いてもよい。
【0038】
水性顔料インク全量に対する顔料の含有量は、着色剤としての機能を発現させる量であることが望ましく、十分な印字濃度を得る点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。顔料の含有量が多くなると着色剤としての効果が飽和するだけでなくインクの粘度が上昇するため、顔料の含油量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0039】
本発明による水性顔料インクは、上記の各成分に加えて、インクの表面張力を制御させ、顔料及びエマルジョン樹脂の分散安定性を向上させる等の目的で、界面活性剤、分散剤、消泡剤、防カビ剤、防錆剤など、水性顔料インクに通常配合される任意の成分を含有してよい。
【0040】
界面活性剤としては、とりわけアニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を好適に用いることができる。
アニオン性界面活性剤としては、スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム等のスルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、リン酸エステル塩型、カルボン酸塩型が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0041】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル)などのエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤、フッ素アルキルエステル等の含フッ素系界面活性剤、ポリエーテルシリコーン等の含シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
このような分散剤としては、ジョンクリル(BASF社製)、ソルスパース(ルーブリゾール社製)、BYK(ビックケミー社製)、EFKA(BASF社製)等が挙げられる。また、消泡剤としては、サーフィノール104系、400系、オルフィン(日信化学工業社製)、BYK(ビックケミー社製)、ノプコ(サンノプコ社製)等が挙げられる。また、防カビ剤としては、プロクセル、コートサイド(日本エンバイロケミカルズ社製)等が挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、シクロヘキシルアンモニウムクロライド、2−メルカプトベンゾトリアゾール、ベンゾイルアミノカプロン酸、硝酸カルシウム等が挙げられる。
【0043】
本発明による水性顔料インクは、顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を少なくとも含む各成分を通常の方法で任意に混合することによって製造することができる。具体的には、顔料分散体をビーズミル等で作製した上で、これをビーズと分離し、別容器に入れ、ディスパ等で撹拌した中に、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を投入し、撹拌する方法を好適に採用し得る。
【0044】
本発明による水性顔料インクは、インクジェット記録用水性顔料インクとして好適に用いられる。とりわけ、本発明によるインクインクジェット記録用水性顔料インクは分散安定性に優れており、紙などの吸収性材料に対しては、にじみが少なく高発色であると共に、本発明によるインクインクジェット記録用水性顔料インクは、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷が可能であって、密着性及び耐薬品性に優れた印刷物を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。文中の「部」は、特に断りのない限り質量基準である。

[合成例1]
(水溶性化合物としてのエーテル結合含有高分子化合物の製造)
下記の成分を混合し、モノマー溶液を調製した。

【0046】
これとは別に、窒素導入管を備え付けた反応容器に、イソプロピルアルコール100部を計り込み、窒素シールしながら還流温度まで昇温した。これに、上記のモノマー溶液を2時間かけて滴下し、滴下終了後、還流温度で12時間反応させた。反応後の溶液は、酸価258mgKOH/g、重量平均分子量5,000、ガラス転移温度26℃の共重合体Aを含有する、不揮発分41.2質量%の溶液であった。これを、アンモニアで115%中和し、乾燥させて共重合体Aを調製した。
ここで、共重合体Aは、重合完了時にはイソプロピルアルコール、メチルエチルケトン混合溶媒中に溶解しているため、本発明において使用する場合は、通常、この溶媒を水に置換する。ただし、この共重合体Aは、通常、アクリル酸部分を中和しないと水溶化しないため、カウンターとなる塩基性物質(アンモニア、有機塩基類、無機塩基類(水酸化ナトリウム等)で中和を行う。本実施例では、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンを低圧下で蒸発させて共重合体を半乾燥(水あめ)状態とし、共重合体Aを水中に溶解させるため、アンモニアを中和率(モル)115%溶解した水を投入および攪拌して溶解させ、共重合体Aの水溶液を得た。
【0047】
[実施例1]
(顔料分散体の製造)

【0048】
上記組成の顔料組成物を混合及び撹拌した後、ペイントシェーカ(東洋精機社製)を用いて、φ0.3mmのジルコニアビーズを分散メディアとして60分間分散して、顔料分散体を得た。
【0049】
(水性顔料インクの製造)

【0050】
上記組成のインク化液を混合及び撹拌して、評価用の水性顔料インクを得た。インク物性については、粘度、顔料平均粒子径、表面張力を評価した。
得られた評価用の水性顔料インクを用いて、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(未処理品)上に、バーコータ(#20)により、乾燥後の厚さが4〜6μmとなるように塗膜を形成させ、乾燥後に75℃でキュアして評価用試料を作製した。
【0051】
[実施例2]
実施例1のインク化液の組成において、さらに、ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂としてアクリルエマルジョン樹脂B(ダイセルファインケム(株)製アクアブリッドAST−499、Tg=80℃、固形分40質量%)37.5部を添加し、水を17.5部としたこと以外は実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0052】
[実施例3]
実施例2のインク化液の組成において、水溶性化合物をポリエチレンオキサイド(重量平均分子量20万、明成化学工業(株)製アルコックスR−400)0.2部に変更したこと以外は実施例2と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0053】
[実施例4]
実施例2のインク化液の組成において、水溶性化合物をポリエチレンオキサイド(重量平均分子量6万、明成化学工業(株)製アルコックスL−6)0.5部に変更したこと以外は実施例2と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0054】
[実施例5]
実施例2のインク化液の組成において、水溶性化合物を合成例1で調整した共重合体A3.2部に変更したこと以外は実施例2と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0055】
[実施例6]
実施例4のインク化液の組成において、アクリルエマルジョン樹脂Bをエマルジョン樹脂(ダイセルファインケム(株)製アクアブリッド4635、Tg=50℃、固形分35質量%)に変更したこと以外は実施例4と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0056】
[実施例7]
実施例4のインク化液の組成において、コア−シェル構造エマルジョン樹脂(エマルジョン樹脂A)をコア−シェル構造エマルジョン樹脂(大成ファインケミカル(株)製WEM−031U、内層/外層=アクリル/ウレタン、外層Tg=50℃、平均粒子径100nm、固形分40質量%)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0057】
[実施例8]
実施例4のインク化液の組成において、コア−シェル構造エマルジョン樹脂(エマルジョン樹脂A)をコア−シェル構造エマルジョン樹脂(大成ファインケミカル(株)製WEM−3008、内層/外層=アクリル/ウレタン、外層Tg=20℃、平均粒子径100nm、固形分32質量%)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0058】
[実施例9]
実施例4のインク化液の組成において、コア−シェル構造エマルジョン樹脂(エマルジョン樹脂A)をコア−シェル構造エマルジョン樹脂(大成ファインケミカル(株)製WEM−290A、内層/外層=アクリル/ウレタン、外層Tg=60℃、平均粒子径100nm、固形分32質量%)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0059】
[比較例1]
実施例2のインク化液の組成においてコア−シェル構造エマルジョン樹脂(エマルジョン樹脂A)をウレタン単相のエマルジョン樹脂(大成ファインケミカル(株)製WBR−2019、Tg=30℃、平均粒子径100nm、固形分32質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0060】
[比較例2]
実施例1のインク化液の組成において、水溶性化合物をポリエチレンオキサイド(重量平均分子量25万、明成化学工業(株)製アルコックスR−1000)0.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0061】
[比較例3]
実施例1のインク化液の組成において、水溶性化合物をポリエチレングリコール(重量平均分子量4000、和光純薬(株)製)3.5部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0062】
[比較例4]
実施例1のインク化液の組成において、水溶性化合物をアクリル系樹脂(重量平均分子量154,000、積水化学工業(株)製エスレックP SE−0100)1.0部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0063】
[比較例5]
実施例2のインク化液の組成においてコア−シェル構造エマルジョン樹脂(エマルジョン樹脂A)をアクリル単相のエマルジョン樹脂に相当するアクリルエマルジョン樹脂B(ダイセルファインケム(株)製アクアブリッドAST−499、Tg=80℃、固形分40質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水性顔料インクを得て、評価用試料を作製した。
【0064】
使用材料及び評価用試料を、下記のようにして評価した。

<水溶性化合物の重量平均分子量測定>
Waters社製のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)(alliance2690)を使用し、カラムにShodex SB−803−HQを用い、PEG(低分子量用)とPEO(高分子量用)を標準として、重量平均分子量を求めた。
【0065】
<ガラス転移温度の測定>
エマルジョン水溶液を150℃で2時間乾燥し、脱水して測定用試料とした。この試料を示差走査熱量測定法により、Thermo Plus EVO DSC8230((株)リガク社製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定を行い、ガラス転移温度を求めた。
【0066】
<密着性試験>
碁盤目剥離試験(JIS5600−5−6−1999に準拠)により、評価用フィルムの塗膜の密着性を評価した。試験升目100個に対して、まったく剥がれなかったものを○、剥がれが1〜5個のものを△、それ以上剥がれたものを×とした。
【0067】
<耐薬品性>
エタノールを50%含有する水溶液を綿棒に含浸させ、塗膜面を20回擦って評価した。剥がれなかったものを○、綿棒に付く程度に剥がれたものを△、界面から剥がれたものを×とした。
【0068】
<吐出安定性>
リコー株式会社製のジェルジェットプリンターIPSiO GX e3300を用いて、A4版Xerox P紙にマイクロソフト社のワードのMS明朝文字をスタイル標準サイズ10で2000字/ページの割合で100ページ連続印字した。印字乱れを生じないものを◎、10個所未満印字乱れのあるものを○、10個所以上100個所未満印字乱れのあるものを△、100個所以上印字乱れのあるものを×とした。
評価結果を表1〜表4に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表から明らかなように、本発明による各実施例の水性顔料インクを用いた場合には、各比較例の水性顔料インクを用いた場合に比較して、密着性及び耐薬品性の優れた塗膜が得られ、吐出安定性も優れていた。
これに対して、コア・シェルエマルジョン樹脂を含まないもの(比較例1、5)、水溶性化合物がエーテル結合を含まないもの(比較例4)、水溶性化合物がエーテル結合を含んでいても重量平均分子量が5,000未満のもの(比較例3)は、これを用いて塗膜を作成しても耐薬品性が不十分であった。また、水溶性化合物がエーテル結合を含んでいても、重量平均分子量が20,000を超えるもの(比較例2)は、これを用いて塗膜を作成する際の吐出安定性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷が可能であって、密着性及び耐薬品性に優れたインクジェット記録用水性顔料インクが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、エマルジョン樹脂、水溶性化合物、及び水を少なくとも含んでなるインクジェット記録用水性顔料インクであって、該エマルジョン樹脂は外層がウレタン樹脂及び内層がアクリル樹脂からそれぞれ構成されるコア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂を含み、該水溶性化合物は5,000〜200,000の重量平均分子量を有するエーテル結合含有高分子化合物を含む、インクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項2】
コア−シェル構造は、ウレタン樹脂とアクリル樹脂の合計質量に対するウレタン樹脂の比率が1〜90質量%である、請求項1に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項3】
コア−シェル構造を有するエマルジョン樹脂は、30〜400nmの平均粒子径を有する、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項4】
ウレタン樹脂は、10,000〜200,000の重量平均分子量を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項5】
ウレタン樹脂は、5〜100℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項6】
アクリル樹脂は、50,000〜200,000の重量平均分子量を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項7】
アクリル樹脂は、−10〜150℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項8】
エーテル結合含有高分子化合物は、5,000〜200,000の重量平均分子量を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項9】
エマルジョン樹脂は、ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂をさらに含む、請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録用水性顔料インク。
【請求項10】
ガラス転移温度が50℃以上のエマルジョン樹脂は、アクリルエマルジョン樹脂である、請求項9に記載のインクジェット記録用水性顔料インク。

【公開番号】特開2012−92224(P2012−92224A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240866(P2010−240866)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】