説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】吐出安定性及び印字濃度に優れたインクジェット記録用水系インク、該インクに用いるインクジェット記録用水分散体の製造方法及びその精製方法、並びに微粒子群の分散体の製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体と有機溶媒とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、着色剤を含有するポリマー粒子を沈殿させる工程、及び該工程で得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程を有するインクジェット記録用水分散体の製造方法、(2)吐出安定性及び印字濃度に優れるインクジェット記録用水系インク、(3)インクジェット記録用水分散体の精製方法、並びに(4)微粒子群の分散体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インク、そのインクに用いられる水分散体の製造方法及びその水分散体の精製方法、並びに微粒子群の分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
その中でも、印刷物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料系インクを用いるものが主流となってきている。
【0003】
例えば、熱を加えてバブルを発生させてインクを飛ばすサーマル方式に用いる水性インクとして、特許文献1には、顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルを水分散体中に含む水性インクが開示されている。しかし、皮膜形成樹脂成分が、水溶性ポリマーや自己分散ポリマーとしてインク中に溶解し、インクの吐出性が満足できるものではない。
特許文献2には、吐出性を改善するために、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を含む水系インクを膜処理又は遠心分離処理により、水分散体に含有する水溶性ポリマー及び、自己分散性ポリマーを除去する方法が開示されている。しかし、精製効率や生産性が満足できるものではない。
特許文献3には、印字濃度及び耐ブリード性を改善する観点から、着色剤を含有する水不溶性ポリマーを特定の溶解性パラメーターの溶剤で洗浄するポリマーの精製方法が開示されている。しかし、吐出性において満足できるものではない。
また、近年、ヘッドの高精細化により、ノズル径が小さくなり、更には印刷の高速化に伴い、吐出性の更なる向上が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−292143号公報
【特許文献2】特開2003−138176号公報
【特許文献3】特開2006−152270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、吐出安定性及び印字濃度に優れたインクジェット記録用水系インク、該インクに用いられる着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体の効率的な製造方法及び精製方法、並びに微粒子群の分散体の効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体と有機溶媒とを混合し、その混合溶媒の比誘電率を調整して該ポリマー粒子を沈殿させることにより、前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)を提供する。
(1) 下記工程I〜IVを有する、着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程I:ポリマー、着色剤、有機溶媒(A)、及び水を含有する混合物を分散し、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から、有機溶媒(A)を除去して、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程III:工程IIで得られた水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程IV:工程IIIで得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
(2)前記(1)に記載の製造方法により得られる水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
(3)下記工程1及び2を有する、着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体の精製方法。
工程1:着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程2:工程1で得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
(4)下記工程iと工程ii又は工程iiiとを有する、微粒子群の分散体の製造方法。
工程i:ゼータ電位に差のある微粒子群を含む水分散体と、有機溶媒とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群を沈殿させる工程
工程ii:工程iで得られた沈殿物を分離し、これを前記比誘電率(α)より大きい比誘電率の溶媒中に再分散させて、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群の分散体を得る工程
工程iii:工程iで得られた沈殿物を分離除去し、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群の分散体を得る工程
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、吐出安定性及び生産性に優れ、普通紙に印字した際に、高印字濃度の印刷物を与えることができる。
また、本発明の製造方法及び精製方法によれば、インクジェット記録用水系インクに含有させることのできる着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を効率的に製造することができる。さらに、インクジェット記録用水系インク等に使用し得る微粒子群の分散体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができるが、耐水性、分散安定性及び耐擦過性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いることが好ましい。
顔料及び疎水性染料は、水系インクに使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にする必要がある。特に、耐滲み性、耐水性等の観点から、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0009】
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20〜500g/L(25℃)溶解するものが望ましい。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリエント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
前記の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0010】
(ポリマー)
本発明に用いられる着色剤含有ポリマー粒子を構成するポリマーとしては、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である水不溶性ポリマーが好ましい。ここで、溶解量は、ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニルポリマー等が挙げられるが、その分散安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニルポリマーが好ましい。
【0011】
(ビニルポリマー)
ビニルポリマーとしては、(a)塩生成基含有モノマー(以下「(a)成分」ということがある)と、(b)マクロマー(以下「(b)成分」ということがある)及び/又は(c)疎水性モノマー(以下「(c)成分」ということがある)とを含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ということがある)を共重合させてなるビニルポリマーが好ましい。このビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。より好適なビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位、又は(a)成分及び(c)成分由来の構成単位を主鎖として有し、(b)成分由来の構成単位を側鎖として有するグラフトポリマーであり、更に好ましくは(a)成分及び(c)成分由来の構成単位を主鎖として有し、(b)成分由来の構成単位を側鎖として有するグラフトポリマーである。
【0012】
((a)塩生成基含有モノマー)
(a)塩生成基含有モノマーは、得られる分散体の分散安定性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられるが、特にカルボキシ基が好ましい。
塩生成基含有モノマーとしては、特開平9−286939号公報段落〔0022〕等に記載されているカチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0013】
((b)マクロマー)
(b)マクロマーは、着色剤含有ポリマー粒子の分散安定性を高める観点から用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。なお、(b)マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(b)マクロマーの中では、着色剤含有ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0014】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又はヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、それらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が好ましい。
スチレン系マクロマー中におけるスチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー中における芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は、着色剤との親和性を高める観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0015】
(b)マクロマーは、オルガノポリシロキサン等の他の構成単位からなる側鎖を有するものであってもよい。この側鎖は、例えば下記式(1)で表される片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマーを共重合することにより得ることができる。
CH2=C(CH3)−COOC36−〔Si(CH32O〕t−Si(CH33 (1)
(式中、tは8〜40の数を示す。)。
(b)成分として商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)、AS−3(S)等が挙げられる。
【0016】
((c)疎水性モノマー)
(c)疎水性モノマーは、印字濃度の向上の観点から用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はそれらの両方を示す。
【0017】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、前記のスチレン系モノマー(c−1成分)、前記の芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)が挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、前記のものが挙げられる。
(c)成分の中では、印字濃度向上の観点から、スチレン系モノマー(c−1成分)が好ましく、スチレン系モノマーとしては特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。(c)成分中の(c−1)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2)成分としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。(c)成分中の(c−2)成分の含有量は、印字濃度及び光沢性の向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。また、(c−1)成分と(c−2)成分を併用することも好ましい。
【0018】
((d)水酸基含有モノマー)
モノマー混合物には、更に、(d)水酸基含有モノマー(以下「(d)成分」ということがある)が含有されていてもよい。(d)水酸基含有モノマーは、分散安定性を高めるという優れた効果を発現させるものである。
(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0019】
((e)下記式(2)で表されるモノマー)
モノマー混合物には、更に、(e)下記式(2)で表されるモノマー(以下「(e)成分」ということがある)が含有されていてもよい。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (2)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R2は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R3は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜5の1価のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基及びアリールアルキル基、qは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは1〜30の数を示す。)
(e)成分は、吐出性を向上するという優れた効果を発現する。
式(2)において、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
1の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
2O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシトリメチレン墓、オキシプロパン−1,2−ジイル基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルカンジイル基(オキシアルキレン基)が挙げられる。
3の好適例としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜5の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基、炭素数1〜8のアルキル基を有していてもよいフェニル基、好ましくは、フェニル基、ベンジル基が挙げられる。
【0020】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(2)中のqの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテルが好ましい。
【0021】
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、EH−4E、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE600B等が挙げられる。
前記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
ビニルポリマー製造時における、前記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニルポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、特に着色剤との相互作用を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(c)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
(d)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
(e)成分の含有量は、吐出性向上の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
モノマー混合物中における〔(a)成分+(d)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。また、〔(a)成分+(d)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、得られる分散体の分散安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0023】
(ポリマーの製造)
本発明で用いられるポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0024】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0025】
本発明で用いられるポリマーの重量平均分子量は、光沢性及び着色剤の分散安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が特に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定する。
本発明で用いられるビニルポリマーは、(a)塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0026】
塩生成基の中和度は、10〜200%であることが好ましく、さらに20〜150%、特に50〜150%であることが好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0027】
(着色剤含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
本発明の着色剤含有ポリマー粒子の水分散体の製造方法は、次の工程I〜IVを有する。
工程I:ポリマー、着色剤、有機溶媒(A)、及び水を含有する混合物を分散し、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から、有機溶媒(A)を除去して、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程III:工程IIで得られた水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程IV:工程IIIで得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
【0028】
(工程I)
工程Iでは、まず、前記ポリマーを有機溶媒(A)に溶解させ、次に着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。混合物中、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒(A)は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
ポリマーが塩生成基を有する場合、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。前記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては、前記のものが挙げられる。また、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒(A)としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。好ましくは、水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5g以上、更に好ましくは10g以上であり、好ましくは5〜80g、更に好ましくは10〜50gのものであり、特に、メチルエチルケトンが好ましい。前記の有機溶媒(A)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
工程Iにおける混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程Iの分散は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃が更に好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄鋼株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー、TKパイプラインミクサー、TKホモジェッター、TKホモミックラインフロー、フィルミックス〔以上、プライミクス株式会社、商品名〕、クリアミックス〔エム・テクニック株式会社、商品名〕、ケイディーミル〔キネティック・ディスパージョン社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン株式会社、商品名〕、ジーナスPY〔白水化学株式会社、商品名〕、DeBEE2000 〔日本ビーイーイー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を用いる場合に、顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0030】
(工程II)
工程IIでは、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒(A)を留去して水系にすることで、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られたポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒(A)は、実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒(A)の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有するポリマーの固体分が水を主溶媒とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤とポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0031】
(工程III)
工程IIIでは、工程IIで得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、その混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、着色剤含有ポリマー粒子を沈殿させることで、着色剤含有ポリマー粒子を選択的に凝集分離することができる。なお、混合溶媒とは、工程IIで得られた水分散体の分散媒(主として水)と有機溶媒(B)との混合溶媒を意味する。
前記工程IIで得られた水分散体には、着色剤含有ポリマー粒子以外のポリマー成分として、着色剤を含有しないポリマー粒子、遠心分離操作で着色剤から剥がれてくるようなポリマー等が含まれる。また、水系インクにおいて、インク中のビヒクル成分により、ポリマーが着色剤から引き剥がされ、遊離ポリマーとなる場合がある。以下、これらを総称して遊離ポリマーという。サーマル方式のインクジェットプリンターにおいて、インク中に遊離ポリマーの含有量が多いと、加熱されたヒーターの表面やヘッド部分に、遊離ポリマーが付着して、所定のバブルが形成できず、印字曲がりや吐出不良の原因となる。したがって、水系インク中の遊離ポリマーの含有量が少ないことが望ましい。
【0032】
工程IIIでは、混合溶媒は好ましくは均一混合溶媒となり、その比誘電率を調整することで、水分散体中の遊離ポリマーを分散させたまま、着色剤含有ポリマー粒子を沈殿させ、効率良く分離することができる。
ここで、遊離ポリマーが分散したまま、着色剤含有ポリマー粒子が凝集する理由としては、以下のことが考えられる。
すなわち、遊離ポリマーは、分散に用いたポリマーのうち顔料に吸着する能力が低い成分であり、その組成は分散安定性基である、前記(a)成分由来の電荷を有する成分が多いと考えられる。これにより着色剤含有ポリマー粒子よりゼータ電位の絶対値が大きいと考えられる。一方、着色剤含有ポリマー粒子中のポリマーは分散に用いたポリマーのうち顔料に吸着する能力が高い成分であり、その組成は前記(b)及び(c)成分由来の疎水性成分が多いと考えられる。これによって着色剤含有ポリマー粒子中のポリマーは、遊離ポリマーよりもゼータ電位の絶対値が相対的に小さいと考えられる。これらの点から、遊離ポリマーは、着色剤含有ポリマー粒子中のポリマーよりも分散安定性が高くなると考えられる。
着色剤含有ポリマー粒子中のポリマーと遊離ポリマーとの分散安定性の差(ゼータ電位の差)を利用すれば、両者を分離することができる。すなわち、混合溶媒の比誘電率(α)により着色剤含有ポリマー粒子中のポリマーと遊離ポリマーのゼータ電位を制御することによって、遊離ポリマーは分散するが、着色剤含有ポリマー粒子同士が凝集する混合溶媒の比誘電率(α)の境界領域を見出すことができる。その境界を明らかにすることにより、効率良く遊離ポリマーを除去することができると考えられる。
【0033】
この着色剤含有ポリマー粒子同士の凝集は、DLVO理論のホモ凝集であり、「界面電気現象−基礎・測定・応用―」(共立出版株式会社、北原 文雄、渡辺 昌、昭和47年初版発行)に詳細な解説がなされている。一方、着色剤含有ポリマー粒子と遊離ポリマーの凝集は、異粒子間の凝集であり、ホッグ、ハーリー、フュエルステナウ(Hogg,Hearly,Fuerstenau)らの理論で考えられる。
【0034】
混合溶媒の比誘電率(α)の境界領域を見出す方法としては、従来知られている遠心分離法や膜分離法によって強制的に遊離ポリマーの水分散体と着色剤含有ポリマー粒子の水分散体とを分別して単離し、それぞれの水分散体について、有機溶媒を混合して、凝集が起こる溶媒の比誘電率を求め、両比誘電率間の値を、混合溶媒の比誘電率(α)としてよい。分離性の観点から、凝集し易い着色剤含有ポリマー粒子の水分散体が凝集する溶媒の比誘電率を、混合溶媒の比誘電率(α)とすることが好ましい。
あるいは、上記で示した理論に基づいて、系の最適な比誘電率を計算によって求めることによって決定してもよい。
混合溶媒の比誘電率(α)が求めることができれば、既知の有機溶媒の比誘電率から、混合する有機溶媒量を概算で求めることができる。
有機溶媒量=[(混合溶媒の比誘電率(α)×混合溶媒量)−(水の比誘電率×水の量)]/有機溶媒の比誘電率
【0035】
前記工程IIで得られた水分散体と有機溶媒(B)との混合方法としては、着色剤含有ポリマー粒子を効率的に凝集させる観点から、好ましくは有機溶媒(B)を攪拌しながら、有機溶媒(B)に前記工程IIで得られた水分散体を添加する方法が好ましい。
混合条件としては、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは20〜40℃の温度で、10分〜2時間程度、好ましくは30分〜1時間混合を継続し、着色剤含有ポリマー粒子を混合溶媒中に沈殿させる。
攪拌方法としては、例えば、攪拌モーターによって機械的に回転される適当な形状の翼で強力に攪拌する方法や、マグネティックスターラ−用回転子を、マグネティックスターラ−によって攪拌する方法等が挙げられる。この時の回転数は、50〜300rpmが好ましく、80〜250rpmがより好ましく、100〜200rpmが最も好ましい。
【0036】
工程IIIにおいて、混合溶媒の比誘電率(α)は、ポリマーの種類、着色剤の種類及び両者の重量割合等により、好ましい範囲を決めることができるが、一般に、好ましくは27以上、更に好ましくは30以上、特に好ましくは33以上であり、好ましくは62以下、更に好ましくは57以下、より更に好ましくは55以下、特に好ましくは53以下であり、これらの観点から、好ましくは27〜62、更に好ましくは27〜57の範囲であるが、特に好ましくは30〜55の範囲であり、最も好ましくは33〜53の範囲である。
なお、着色剤としてマゼンタ顔料を用いた場合には、その分散性がシアンやイエロー等の他の顔料よりも低いことから、顔料に対するポリマーの吸着量が少ないと考えられ、混合溶媒の比誘電率の好ましい範囲は、他の顔料よりも低い傾向を有する。
混合溶媒の比誘電率(α)が低すぎると、着色剤含有ポリマー粒子と遊離ポリマーの両方が共に沈殿し、一方、比誘電率(α)が高すぎると、その両方が共に分散する。すなわち、この比誘電率が前記の範囲であれば、着色剤含有ポリマー粒子を沈殿させ、遊離ポリマーは分散させ、その両者を容易に分離することができる。
水(比誘電率78(25℃))と、比誘電率が好ましくは5〜40の有機溶媒(B)との混合割合を調整することにより、前述の混合溶媒の好ましい比誘電率(α)となるように調整することができる。両者の混合割合は、分離性の観点から、工程IIで得られた水分散体の水100重量部に対して、有機溶媒(B)は50〜2000重量部が好ましく、100〜1000重量部がより好ましく、100〜500重量部が更に好ましい。なお、溶媒の比誘電率は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0037】
(有機溶媒(B))
有機溶媒(B)は、着色剤含有ポリマー粒子を効率的に沈殿させる観点から、比誘電率が好ましくは5〜40、更に好ましくは5〜35、より好ましくは10〜35であって、水と均一混合物を形成しうる溶媒であることが好ましい。
比誘電率が5〜40の有機溶媒(B)としては、アルコール系溶剤やケトン系溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
アルコール溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール等が挙げられる。これらの中では、特にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノールが好ましい。
【0039】
ケトン溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。
これらの中では、特にアセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
これらの中では、水分散体と容易に混和する観点から、20℃での水100gに対する溶解量が好ましくは5g以上、更に好ましくは10g以上のアルコール及びケトンが好ましい。また、溶媒を除去する観点から、沸点150℃以下のアルコール及びケトンが好ましい。前記の有機溶媒(B)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、前記有機溶媒(A)として前記で例示したアルコール系溶媒及びケトン系溶媒を用いる場合には、有機溶媒(B)と有機溶媒(A)とは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0040】
工程IIで得られた水分散体の固形分(ポリマー及び着色剤の総量)と有機溶媒(B)との重量比〔固形分/有機溶媒(B)〕は、1/70〜1/3の範囲が好ましく、1/50〜1/5の範囲が更に好ましく、1/40〜1/7の範囲が特に好ましい。重量比が前記の範囲内であれば、着色剤含有ポリマー粒子同士は凝集させ、遊離ポリマー同士は分散させ、着色剤含有ポリマー粒子と遊離ポリマーとを効率良く分離することができる。なお、固形分は、実施例記載の方法により、求めることができる。
【0041】
(工程IV)
工程IVは、工程IIIで得られた沈殿物を分離し、水系溶媒中に再分散させる工程である。
工程IIIで得られた沈殿物を分離する方法としては、公知の方法で有れば良く、遠心分離や濾過、フィルタープレス等を行い、遊離ポリマーが存在する上層成分を除去することによって、遊離ポリマーと着色剤含有ポリマー粒子の沈殿物とを分離する方法が好ましい。
遠心分離は、好ましくは500〜10,000rpm、より好ましくは1000〜8000rpmの回転数で、好ましくは1〜60分、より好ましくは5〜30分処理されることが好ましい。分離過程で、若干の有機溶媒が水系溶媒中に混在していてもインク性能を損なわない限り構わないが、該分散処理の前又は後に、公知の方法で有機溶媒を実質的に除去してもよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下が更に好ましい。
【0042】
次いで、水系溶媒中に再分散させる方法としては、得られた沈殿物に水を加え、分散処理する方法が好ましい。分散方法としては、前記工程Iで述べた説明と同じである。水系溶媒とは、実質的に水を主成分とするものであるが、インクで用いられる溶媒、添加剤等が入っていてもよい。また、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体とは、水を主成分とする溶媒中に着色剤を含有するポリマー粒子が分散しているものをいう。
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法によれば、従来の膜分離法や遠心分離よる水分散体の精製方法よりも、遊離ポリマーを効率的かつ実質的に除去することができる。
【0043】
(精製方法)
本発明の着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体の精製方法は、下記の工程1及び2を有する方法であり、下記の工程1及び2は、それぞれ前記工程III及び工程IVに対応する。
工程1:着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程2:工程1で得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
【0044】
本発明の精製方法は、前記した分散安定性の差を利用して、着色剤含有ポリマー粒子と遊離ポリマーとを分離させるための方法である。
工程1に供される着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体は、前記した製造方法の工程I及び工程IIで得られる水分散体であってもよいが、他の公知の酸析などの方法により得られる水分散体であってもよい。水分散体は、水を主成分とする溶媒であるが、本発明の目的を損なわない限り、他の溶媒は残存していてもよい。
精製条件は、前記工程III、工程IVと同じであり、好ましい条件も同一である。
本発明のインクジェット記録用水分散体の精製方法によれば、従来の膜分離法や遠心分離による水分散体の精製方法よりも、遊離ポリマーを効率的かつ実質的に除去することができる。
【0045】
(微粒子群の分散体の製造方法)
本発明の微粒子群の分散体の製造方法は、下記工程iと工程ii又は工程iiiとを有する方法である。
工程i:ゼータ電位に差のある2種以上の微粒子群を含む水分散体と、有機溶媒とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群を沈殿させる工程
工程ii:工程iで得られた沈殿物を分離し、該沈殿物を比誘電率(α)より大きい比誘電率の溶媒中に再分散させて、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群の分散体を得る工程
工程iii:工程iで得られた沈殿物を分離除去し、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群の分散体を得る工程
この方法によれば、ゼータ電位に差のある2種以上の微粒子群を工業的に容易に分離して、目的とする微粒子群の分散体を得ることができる、例えば、着色剤を含有するポリマーの微粒子群と着色剤を含有しないポリマーの微粒子群とを含む分散体から、インクジェット記録用水分散体や水系インク等を効率的に製造することができる。
【0046】
工程iでは、ゼータ電位に差のある2種以上の微粒子群を含む水分散体を用いる。分散媒としては、水を主溶媒とするものが好ましい。また、この水分散体は、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群と小さい微粒子群(以下、総称して「両微粒子群」ということがある)とを含み、その微粒子群の一方が、着色剤を含有するポリマー粒子群であることが好ましく、他の一方が、本質的に着色剤を含有しないポリマー粒子群であることが好ましい。着色剤を含有するポリマー粒子とは前記で説明したとおりである。
微粒子群とは、2個以上の粒子からなるもので、微粒子群のゼータ電位は、実施例に記載の方法で求めることができる微粒子群の平均値である。微粒子群間のゼータ電位の差は、5mV以上が好ましく、10mV以上が更に好ましい。
微粒子群間のゼータ電位に差があることは、まず微粒子群を、遠心分離、膜分離、電気泳動等の公知の方法で分離し、それらの微粒子群のゼータ電位を求めることで確認することができる。
【0047】
微粒子群のゼータ電位の絶対値の範囲は、微粒子群の種類や、両微粒子群の重量割合等によって一概には決められないが、分離性の観点から、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群では、好ましくは15〜70mVの範囲、より好ましくは20〜50mVの範囲であり、一方、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群では、好ましくは0〜15mVの範囲、より好ましくは5〜12mVの範囲である。
両微粒子群の平均粒径は、好ましくは0.01〜0.5μm、より好ましくは0.03〜0.3μm、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。なお、平均粒径は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて、下記条件で測定することができる。
測定条件:温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力、測定濃度 通常5×10-3重量%程度
【0048】
工程iでは、ゼータ電位に差のある2種以上の微粒子群を含む水分散体と、有機溶媒とを混合し、その混合割合を変えることで、混合溶媒の比誘電率(α)を逐一調整し、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群とゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群間の凝集を本質的に起こさず、且つゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群を凝集沈殿させることができる。
あるいは、前述のとおり、従来知られている遠心分離法や膜分離法によって強制的にゼータ電位に差のある微粒子群に分離し、両微粒子群の水分散体について、有機溶媒を混合して、凝集が起こる溶媒の比誘電率を求め、両比誘電率間の値を、混合溶媒の比誘電率(α)としてもよい。分離性の観点から、凝集し易い微粒子群の水分散体が凝集する比誘電率を、混合溶媒の比誘電率(α)とすることが好ましい。尚、凝集し易いとは、ゼータ電位の絶対値が小さいということであり、凝集が起こる溶媒の比誘電率が大きいということである。
なお、3種以上の微粒子群であっても、逐一有機溶媒を混合して、混合溶媒の比誘電率(α)を順に小さくし、凝集が起こる溶媒の比誘電率が大きい微粒子群から順に、凝集させてもよい。あるいは、予めそれぞれを分離し、凝集が起こる溶媒の比誘電率を求め、有機溶媒を混合して、凝集が起こる溶媒の比誘電率が大きい方微粒子群から順に、凝集させることで、同様に分離することもできる。
有機溶媒としては、前記の有機溶媒(B)を用いることができ、混合方法、混合条件、混合溶媒の比誘電率の調整方法等は前記工程IIIを援用することができる。
【0049】
工程iiでは、得られた沈殿物を分離し、該沈殿物を前記比誘電率(α)より大きい比誘電率の溶媒中に再分散させて、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群の分散体を得ることができる。沈殿物の分離、再分散する条件は、前記工程IVを援用することができる。比誘電率(α)より大きい比誘電率の溶媒としては、水が好ましい。比誘電率の差は、3以上が好ましく、5以上が更に好ましい。
工程iiiでは前述の工程iiとは逆に、工程iで得られた凝集物を分離除去し、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群の分散体を容易に得ることができる。
本発明の微粒子群の分散体の製造方法は、従来の遠心分離や膜分離を用いた製造方法と比べて、工業的に容易にゼータ電位に差のある微粒子群を分離でき、目的とする微粒子群の分散体を製造することができる。
【0050】
(着色剤含有ポリマー粒子の水分散体/水系インク)
本発明のインクジェット記録用水系インクは、本発明の製造方法により得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を含有し、水を主媒体とするインクであり、必要により、湿潤剤、分散剤、消泡剤、防黴剤、キレート剤等の添加剤を添加することができる。これらの各成分の混合方法に特に制限はない。
本発明の製造方法により得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体における遊離ポリマーの含有量は、吐出安定性、印字濃度の向上の観点から、好ましくは1.6重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下である。遊離ポリマーの含有量の下限は、0重量%が理想的であるが、生産性の観点から、好ましくは0.0004重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上である。これらの観点から、0.0004〜1.6重量%が好ましく、0.02〜1.2重量%が更に好ましい。
本発明の水系インクにおける遊離ポリマーの含有量は、吐出安定性、印字濃度の向上の観点から、好ましくは0.4重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。遊離ポリマーの含有量の下限は、0重量%が理想的であるが、生産性の観点から、好ましくは0.0001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上である。これらの観点から、0.0001〜0.4重量%が好ましく、0.005〜0.3重量%が更に好ましい。なお、遊離ポリマーの含有量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0051】
インクジェット記録用水分散体及び水系インク中の着色剤含有ポリマー粒子及び水の含有量は、印字濃度の向上、光沢性の向上の観点から次のとおりである。
着色剤含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは2〜12重量%、特に好ましくは2〜10重量%である。
水の含有量は、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは40〜80重量%である。
【0052】
得られる水分散体及び水系インクにおける着色剤含有ポリマー粒子の平均粒径は、印字濃度の向上、光沢性の向上の観点から、好ましくは0.01〜0.5μm、より好ましくは0.03〜0.3μm、特に好ましくは0.05〜0.2μmである。
なお、平均粒径は、前述の大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて、同条件で測定することができる。
【0053】
得られる水分散体及び水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、水分散体としては、好ましくは30〜72mN/m、更に好ましくは35〜72mN/mであり、水系インクとしては、好ましくは20〜60mN/m、更に好ましくは22〜55mN/mである。
水分散体の固形分10重量%における粘度(20℃)は、水系インクとした時に良好な粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。また、水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。また、水系インクのpHは4〜10が好ましい。
【0054】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、普通紙に印字したときに高い印字濃度の印字物を得ることができる。普通紙としては、ゼロックス社製の商品名、ゼロックス4024、キヤノン株式会社製のPB用紙、株式会社リコー製のPPC用紙マイペーパー等の市販の普通紙が挙げられる。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は制限されないが、特にサーマル方式のインクジェットプリンターに好適である。
【実施例】
【0055】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量、溶媒の比誘電率、水分散体に含む遊離ポリマー量及び固形分量は、下記の方法により測定した。
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
下記製造例で得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、溶媒として60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。使用カラムは、東ソー株式会社製、HLC−8120GPCを用いた。
(2)溶媒の比誘電率の測定
溶媒の比誘電率は、LCRメーター(ワイネ ケール:WAYNE KERR社製、6440B)を用いて、AC電圧100mV,周波数10kHz、温度25℃の条件で測定した。
(3)遊離ポリマー量の測定
下記実施例及び比較例で得られた顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分25重量%)を超遠心分離装置(日立工機株式会社製、CP56G)を用い、30,000rpm×3時間(20℃)の条件で超遠心分離し、上澄み液を得た。得られた上澄み液に存在する遊離ポリマー量を下記固形分の測定方法により求めた。なお、表1及び2に示す遊離ポリマー量は、水系インク中における含有量に換算した値を示す。求めた水分散体中の遊離ポリマー量はこの4倍量である。
(4)固形分量の測定方法
着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体の固形分量の測定方法は、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体1gと硫酸ナトリウム(芒硝)10gとを均一に混合し、蒸発皿10.5cm2に均一に広げて、乾燥機で105℃、2時間、−0.07MPaで減圧乾燥させる。
固形分量(重量%)は、(乾燥後の水分散体の重量/乾燥前の水分散体の重量)×100として求めることができる。
(5)ゼータ電位の測定方法
分散体ゼータ電位は、ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELS−Z1)、同機用の標準セル(ディスポタイプ:内容量0.5mL)を用いて、温度20℃で測定した。
【0056】
製造例1(ビニルポリマーの製造)
反応容器内に、スチレン21部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:NKエステルEH−4E、新中村化学工業株式会社製)15部、スチレンマクロマー溶液(数平均分子量3,000、純分50%)10部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.2部を仕込み、窒素ガス置換を十分に行ない、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、スチレン189部、メタクリル酸90部、前記ポリエチレングリコールモノメタクリレート135部、スチレンマクロマー溶液(商品名:マクロモノマー東亜合成株式会社製、AS−3(S)、数平均分子量3,000、純分50%)90部、重合連鎖移動剤として2−メルカプトエタノール1.8部、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル(商品名:V−65、和光純薬工業株式会社製)5部、メチルエチルケトン131部を混合し仕込んだ。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間後、前記重合開始剤4.5部をメチルエチルケトン203部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で1時間熟成させ、水不溶性ビニルポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
前記の方法で測定した重量平均分子量は、40,000であった。
【0057】
実施例1
〔顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造/分散工程(工程I、工程II)〕
前記で得られた水不溶性ビニルポリマーのメチルエチルケトン溶液(固形分濃度を50%に調整したもの)35.3部、メチルエチルケトン60部、水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、滴定用標準液:5N)7部、イオン交換水250部を、ガラス製容器に計量し、高速攪拌分散機(プライミクス株式会社製、T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型)を用い、1500rpmで15分間混合した。
得られた混合物に、マゼンタ顔料(Pigment Red 122、大日精化工業製、商品名:クロモファインレッド)100部を添加し、8000rpmで60分間攪拌した。得られた混合物を更に、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製MF−140K)を用いて、200MPaで19パスで高圧分散処理し、顔料を含有するビニルポリマー粒子を得た。
得られた顔料を含有するビニルポリマー粒子を減圧下、60℃でメチルエチルケトンを完全に除去し、更に一部の水を除去することにより濃縮し、固形分濃度が25%の顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体400部を得た。
【0058】
(両微粒子群のゼータ電位の確認)
前記分散工程で得られた顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体(固形分25%)を遠心沈降管(入目40ml)に15g入れて、遠心分離装置(日立株式会社製、CG56G)を用いて、30000rpm×3時間遠心分離し、上澄み成分9.5gと、沈降物5.5gとに分離した。
この沈降物を20mLのガラス製サンプル管に取り、水20gを加えた後に超音波洗浄器(アイワ医科工業株式会社製、AU−16C)を用いて10分間超音波による再分散操作を行ったところ、沈降物は完全に分散状態を回復した。得られた再分散物をロータリーエバポレータで濃縮して固形分濃度を25%に再調製し、5μmのメンブランフィルターでろ過して、遊離ポリマーを含まない、顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体を得た。得られた顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体の固形分濃度が2%になるようにイオン交換水を加えた。このポリマー粒子のゼータ電位を、前記の方法で測定したところ、−12mV(20℃)であった。
また、前記で得られた上澄み成分を5μmのメンブランフィルターでろ過して、固形分濃度2.0%の遊離ポリマーを得た。この遊離ポリマー(固形分濃度2%)のゼータ電位を前記の方法で測定したところ、−25mV(20℃)であった。
このことから、実施例1の分散工程で得られた顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体には、ゼータ電位に差のある微粒子群が存在することがわかる。
【0059】
〔顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造/精製工程(工程III、工程IV)〕
次に、遠心分離用の1Lアングルローター(日立工機株式会社製、R7AF2)にメタノール(比誘電率33)400部を仕込み、前記分散工程で得られた水分散体200部を滴下投入した。この水分散体とメタノールとの混合溶液を25℃、150rpmで、15分間攪拌して、顔料を含有するビニルポリマー粒子を凝集沈殿させた。
なお、水分散体の固形分とメタノールとの重量比及び混合溶媒の比誘電率を表1に示す。混合溶媒の比誘電率(α)は、前記ゼータ電位を測定するために分離した顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体について、種々の比率で混合したメタノール-水混合溶媒に対して分散及び凝集状態を観察し、顔料を含有するビニルポリマー粒子が凝集を起こすメタノール−水の混合比率を確定し、そのときの溶媒の比誘電率を前記比誘電率計で測定して、本発明において設定すべき混合溶媒の比誘電率(α)とした。
次に高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、himac CR7、温度20℃設定)にアングルローターを投入し、6000rpmで10分間、遠心分離処理を行い、上層の浮遊成分(遊離ポリマーが存在する成分)を廃棄し、下層の固体物をガラス製容器に回収した。
得られた固体物にイオン交換水200部を加えて、高速攪拌分散機を用いて6000rpmで20分攪拌した後、60℃に加熱してメタノールを完全に除去し、得られた水分散体をマイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製、MF−140K)を用いて、150MPa、10パスで高圧分散処理し、再分散された固形分濃度が20%の顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
この水分散体の中の再分散しきれなかった凝集物を前記高速冷却遠心機で6000rpmで10分間処理し、更に前記5μmシリンジフィルター(ザルトリウス製SM17594K、材質:セルロースアセテート)で濾過し、水分散体を得た。
得られた水分散体のゼータ電位を前記と同じ条件で測定したところ、−12mV(20℃)であり、廃棄した浮遊成分(遊離ポリマーが存在する成分)のゼータ電位を前記と同じ条件で測定したところ、−25mV(20℃)であり、遠心分離で分離した値と同じであった。
なお、前記メタノールの比誘電率は、「溶剤ハンドブック」(講談社、浅原 照三他、1976年発行)に記載の値(25℃)を用いた。
【0060】
実施例2〜5(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、メタノールを表1に示す有機溶媒に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の顔料含有ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
【0061】
実施例6(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、マゼンタ顔料をイエロー顔料(Pigment Yellow 74、山陽色素株式会社製、商品名:ファースト・イエロー)に変更し、メタノールをイソプロパノール(比誘電率35)に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の顔料含有ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
【0062】
実施例7(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、マゼンタ顔料を銅フタロシアニン顔料(Pigment Blue 15:4、東洋インキ製造株式会社製、商品名:リオノールブルー)に変更し、メタノールをイソプロパノールに変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の顔料含有ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
【0063】
実施例8(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、マゼンタ顔料をカーボンブラック顔料(Pigment Black 7、キャボットスペシャリティケミカルス社製、商品名:Monarch880)に変更し、メタノールをイソプロパノールに変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の顔料含有ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
【0064】
比較例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1の〔分散工程〕を同様に行い、固形分濃度が25%の顔料を含有する水不溶性ビニルポリマーの水分散体400部を得た。
次いで、実施例1の〔精製工程〕を行わずに、前記の水分散体の中の粗大粒子を前記高速冷却遠心機で6000rpmで10分間処理し、更に前記5μmシリンジフィルターで濾過し、イオン交換水で調整して、固形分濃度が25%の顔料を含有するビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
【0065】
比較例2(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、メタノールをトルエン(比誘電率2)に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の水顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得た。
【0066】
比較例3(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1の分散工程において、マゼンタ顔料100部に代えてイエロー顔料(Pigment Yellow 74、山陽色素株式会社製、商品名:ファースト・イエロー)70部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が25%の顔料含有ビニルポリマー粒子の水分散体を得た。
実施例1の精製工程において、水分散体の固形分/イソプロパノールの重量の比を1/1にし、溶媒の比誘電率を70にした以外は、実施例1と同様の操作を実施した。このとき、系中の分散体は凝集を起こさなかったため、分別操作を実施できなかった。その後、ロータリーエバポレータでイソプロパノールを留去し、固形分を25%に調整した。
【0067】
比較例4(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
実施例1において、メタノール400部をイソプロパール4000部に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度が20%の水顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得た。
【0068】
実施例9〜16及び比較例5〜8(水系インクの調製)
前記実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分含量25%)12.5重量部に、2−ピロリドン4重量部、1,5−ペンタンジオール4重量部、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(川研ファインケミカル株式会社、商品名:アセチレノールE100、平均付加モル数:10)1重量部、イオン交換水 28.5重量部を加えて混合し、1.2μmフィルター(ザルトリウス製、材質:セルロースアセテート)で濾過し、各々の顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体を含む水系インクを調製した。
【0069】
実施例9〜16及び比較例5〜8で得られた水系インクについて、下記に示す吐出安定性および印字濃度を評価した。結果を表1及び2に示す。
(1)吐出安定性
得られた水系インクを市販のヒューレット・パッカード社製のインクジェットプリンター[型番:Deskjet 6840、モード設定:高画質モード、サーマル方式]のブラックヘッド部で、普通紙(商品名:ゼロックス4024、ゼロックス株式会社製)に、ノズル1ラインパターン及びベタ印刷(デューティ100%)を行い、1ラインパターンで印刷される640ノズルの内、吐出曲がりや吐出しなかったノズルの本数を以下の基準で評価した。
◎:吐出不良ノズル5本以下
○:吐出不良ノズル5本以上、10本未満
△:吐出不良ノズル10本以上、50本未満
×:吐出不良ノズル50本以上
【0070】
(2)印字濃度
前記(1)と同じプリンターを用いて、普通紙(商品名:ゼロックス4024、ゼロックス株式会社製)に、ベタ印刷(デューティ100%)を行い、25℃で24時間放置後、印字濃度をマクベス濃度計(グレタグマクベス社製、品番:SpectoroEye)で印字物(5.1cm×8.0cm)の中心及び四隅の計5点を測定し、その平均値を求めた。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1及び表2から、実施例9〜16の水系インクは、比較例5〜8に比べて、遊離ポリマーの含有量が少なく、吐出安定性、印字濃度が優れていることが分かる。比較例2〜4では、遊離ポリマーをほとんど分離することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、吐出安定性に優れ、普通紙に印字した際に、高印字濃度の印刷物を得ることができ、サーマル方式のインクジェットプリンターに特に有用である。また、本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法及び精製方法によれば、前記水系インクに含有させることのできる着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体を効率的に製造することができる。さらに、本発明の微粒子群の分散体の製造方法によれば、ゼータ電位の絶対値に差のある微粒子群を工業的に容易に分離することができ、インクジェット記録用水分散体及びそれを含む水系インクに加え、インク、塗料、医薬品、化粧品、コーティング用組成物等の幅広い分野に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程I〜IVを有する、着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程I:ポリマー、着色剤、有機溶媒(A)、及び水を含有する混合物を分散し、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から、有機溶媒(A)を除去して、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程III:工程IIで得られた水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程IV:工程IIIで得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
【請求項2】
工程IIIの混合溶媒の比誘電率(α)を27〜62の範囲に調整する、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒(B)が、比誘電率5〜40の有機溶媒である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項4】
工程IIIにおいて、工程IIで得られた水分散体の固形分と有機溶媒(B)との重量比〔固形分/有機溶媒(B)〕が、1/70〜1/3である、請求項1〜3いずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項5】
工程IIIにおいて、工程IIで得られた水分散体と有機溶媒(B)との混合方法が、有機溶媒(B)に、該水分散体を添加する方法である、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項6】
着色剤が顔料である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項7】
ポリマーが、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位及び疎水性モノマー(c)由来の構成単位を主鎖に有し、マクロマー(b)由来の構成単位を側鎖に有する、グラフトポリマーである、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
【請求項9】
下記工程1及び2を有する、着色剤を含有するポリマー粒子のインクジェット記録用水分散体の精製方法。
工程1:着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体と有機溶媒(B)とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、該ポリマー粒子を沈殿させる工程
工程2:工程1で得られた沈殿物を分離し、これを水系溶媒中に再分散させる工程
【請求項10】
下記工程iと下記工程ii又は工程iiiとを有する、微粒子群の分散体の製造方法。
工程i:ゼータ電位に差のある、2種以上の微粒子群を含む水分散体と、有機溶媒とを混合し、混合溶媒の比誘電率(α)を調整して、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群を沈殿させる工程
工程ii:工程iで得られた沈殿物を分離し、これを前記比誘電率(α)より大きい比誘電率の溶媒中に再分散させて、ゼータ電位の絶対値が小さい微粒子群の分散体を得る工程
工程iii:工程iで得られた沈殿物を分離除去し、ゼータ電位の絶対値が大きい微粒子群の分散体を得る工程
【請求項11】
ゼータ電位の差が5mV以上である、請求項10に記載の微粒子群の分散体の製造方法。
【請求項12】
微粒子群の少なくとも一方が、着色剤を含有するポリマー粒子群である、請求項10又は11に記載の微粒子群の分散体の製造方法。

【公開番号】特開2008−174719(P2008−174719A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263533(P2007−263533)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】