説明

インクジェット記録装置、インクタンクおよびデータ通信システム

【課題】 2線シリアル通信のインクタンクと3線シリアル通信の記録ヘッドを同一の通信バス上に接続する場合に、特に、2線シリアル通信の従装置に誤動作を生じないようにする。
【解決手段】 IDが検出された2線シリアル通信のインクタンク(103、113)およびIDが検出されない2線シリアル通信のインクタンク(103、111)のいずれについても、無応答コマンドが実行される(112)。無応答コマンドの実行は、送信データで指定されたクロックの期間無応答となる処理である。これにより、このトランザクションの後に、上記指定された期間3線シリアル通信の記録ヘッドに対する通信が行われても、その通信によって同じバスに接続する2線シリアル通信のインクタンクが誤動作を起こすことを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、インクタンクおよびデータ通信システムに関し、詳しくは、インクジェット記録装置における装置本体とこれに装着されるインクタンクとの間のデータ通信システムであって、異なる通信プロトコルを有する通信従装置を同一の通信線上に並列に接続した場合のデータ通信に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、プリンタや複写機などで用いられるインクジェット記録装置は、高精彩、高画質、高速印刷等の目的で多くの色のインクを用いる。そのため、それらのインクを貯留するインクタンクもそれに応じて複数用いられる。そして、複数のインクタンクを搭載して用いる場合、その装置本体側の制御部は搭載されている各々のインクタンクを識別して、その装置における種々の動作や処理を制御する場合がある。例えば、インク残量や使用履歴などの情報をインクタンクのメモリに書き込み、また、それから読み出すなどの制御を行う。このように、インクジェット記録装置ではその装置本体側と装着されるインクタンクとの間で種々の情報をやりとりするため、データ通信システムが構成されることが多い。
【0003】
なお、インクタンクの識別に関して、インクタンク交換などに伴うインクタンク装着時の誤装着を防止すべく、インクタンクの形状をインクの種類ごとに異なるようにして結果としてインクタンクを識別することが行われている。しかし、このような形態は、インクタンク製造時にインクの種類に対応して形状が異なる複数のインクタンクを用意する必要があり、製造コストが上昇する。
【0004】
上述のデータ通信システムの一構成として、インクタンクに不揮発性メモリを内蔵した情報記憶媒体である電子タグチップを設けるものが知られている。これによれば、インクタンク製造において、インクタンクにインクを充填した後、タグチップの不揮発性メモリに充填したインクの色情報やIDを書き込み、インクタンクを電子的に区別することが可能である。そして、装置本体側は、装着されたインクタンクの電子タグチップからIDを個別に読み出し、どのインクタンクが装着されているかを知ることができる。
【0005】
電子タグチップのIDに限らず、チップから何らかの情報をわずかな端子数で得る手段として、シリアル通信が知られている。さらに、シリアル通信はチップ選択信号、データ信号、クロック信号の3端子で行なう3線シリアル通信と、データにチップの識別情報を載せることにより通信相手を選択する2線シリアル通信とが知られている。多くの標準デバイスが持つ通信方式は3線シリアル通信であるが、インクタンクのような多くのスレーブデバイスを通信線に接続する必要がある場合は、実装容易性を考慮して2線シリアル通信の電子タグとするのが効率的である。特許文献1には、2線シリアル通信によって、スレーブLSI増設に伴うマスタLSI信号ピンの増加を回避した分散処理システムが記載されている。
【0006】
図5および図6は、スレーブデバイス(以下、「従装置」とも言う)としてのインクタンクとマスターデバイスとしての記録装置本体とによって構成される従来のデータ通信システムであって、それぞれ3線シリアル通信および2線シリアル通信のシステムを示す図である。それぞれの従装置には電子タグチップが設けられている。
【0007】
図5において、201〜204は、それぞれ3線シリアル通信機能を備えた電子タグチップが設けられた従装置(インクタンク)を示す。これに対し、205は3線シリアルのマスターデバイス(以下、「通信主装置」とも言う)を示す。これら主装置と従装置とは、同図に示すように通信クロック線251、双方向の通信データ線252、および従装置の数に対応した選択信号線253〜256の3種類の通信線で結ばれる。一方、図6において、301〜304は、それぞれ2線シリアル通信機能を備えた電子タグチップが設けられた従装置(インクタンク)を示す。これに対し、305は、2線シリアルのマスターデバイス(通信主装置)を示す。そして、これら主装置と従装置とは、通信クロック線351と通信データ線352の2種類の通信線で結ばれる。
【0008】
図5と図6から明らかなように、2線シリアル通信で構成した場合のほうが、選択信号線が不要な分、配線数が少なく、実装上有利であり、かつ従装置が増加した場合でも、通信主装置が選択信号を出力する端子を追加する必要がなく、拡張性において自由度の高いシステムとなる。
【0009】
【特許文献1】特開2000−3346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、プリンタなどのインクジェット記録装置において上述のように装置本体側との間で主装置と従装置の関係を構成して通信を行うものは、インクタンクだけでなくインクを吐出する記録ヘッドも同様に従装置として通信を行う。このような記録ヘッドには、そのヘッドの情報が書き込まれた、標準的なEEPROMである不揮発性メモリが設けられていることが多い。
【0011】
この場合、インクタンクと記録ヘッドは、通常、ともにキャリッジ上に装着されて用いられることから、インクタンクの通信線と記録ヘッドにおけるEEPROMの通信線とが共用できると実装上有利となる。しかしながら、標準品であるEEPROMは一般に3線シリアル通信の従装置であり、インクタンクの電子タグは2線シリアル通信であるため、異なる通信プロトコルを有する従装置を同じバス上に接続することになって以下に示すような問題を生じることがある。
【0012】
図7は、2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置を同じ通信線上にバス接続した構成を示す図である。図7において、401〜403は2線シリアル通信機能を持つ従装置であって、例えば電子タグチップを搭載したインクタンクを示している。これに対し、404は3線シリアル通信機能を備えた従装置であって、例えばEEPROMを備えた記録ヘッドを示している。
【0013】
図8は、2線シリアル通信の一般的な動作タイミングを示すタイミングチャートである。図8において、CKはシリアル通信のクロック信号を示し、Dはシリアル通信の双方向のデータ信号を示す。551および552は、それぞれシリアル通信における1つのトランザクションを示す。501は一つの通信トランザクションの始まりを表すSOFコード、502は特定のインクタンクである従装置を指定したIDデータ、503は従装置に対する命令(コマンド)データ、504は命令の処理に必要なデータ、505は命令503に対する従装置の応答データをそれぞれ示す。
【0014】
図9は、上記2線シリアル通信の一つのトランザクションについて、2線シリアル通信の従装置による処理を示すフローチャートである。同図に示すように、従装置は、ステップ601でSOFを検出するまでビットストリームを検査する。SOFを検出すると、ステップ602でIDに相当する位置のビットストリームを解析する。そして、ステップ603でIDが検出された場合は、ステップ604でコマンドに相当するビットストリームを解析する。すなわち、2線シリアル通信の従装置は、SOFを検出し、さらにIDを検出することによって初めて、その従装置が有効となりその従装置に対する主装置からの通信であるとして以下のコマンドに応じた処理を行うものである。換言すれば、SOFを検出しない限り、いずれの2線シリアル従装置も有効とはならず、また、IDを検出しない限り、2線シリアル従装置の中でもそのIDを検出しない装置は有効とならならない。このように、2線シリアル通信の従装置は、総てSOFに同期して動作を行なう。
【0015】
ステップ605でコマンドが検出されると、ステップ606でコマンドを実行し、ステップ607でコマンドに対応した所定の応答処理を行なう。ステップ603とステップ605の判定で検出結果が”N”となる場合は上記ようにその従装置は有効とならず、それぞれステップ608、609、610で、1トランザクション分の時間待機するための待機処理を行ない、次のトランザクションの処理を行なうためのSOFの検出を行なう。
【0016】
一方、図10は、3線シリアル通信の一般的な動作タイミングを示すタイミングチャートである。図10において、CKはシリアル通信のクロック信号、Dはシリアル通信の双方向のデータ信号、CSは通信データ有効期間を表すチップ選択信号をそれぞれ示す。また、751および752はそれぞれ3線シリアル通信の1つのトランザクションを示す。701は主装置からの命令(コマンド)データ、702は上記命令の処理に必要なデータ、703は上記命令701に対する従装置の応答データをそれぞれ示す。図10に示すように、3線シリアル通信ではCS信号によって、1つの従装置が特定されそれぞれのトランザクションが明確に区切られる。つまり3線シリアル通信の従装置は、CS信号によって特定された従装置のみが有効となる。
【0017】
しかしながら、以上説明したような2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置が、図7に示したように同一の通信バス上に接続された構成では、2線シリアル通信の従装置が誤動作を起こす可能性がある。すなわち、図10に示した3線シリアル通信における送信データ702や応答データ703の中に、図8に示した2線シリアル通信のSOF501、ID502、コマンド803と同じビットパターンが存在する場合には、3線シリアル通信の従装置と同じバスに接続する2線シリアル通信の従装置が誤動作を起こす場合がある。すなわち、2線シリアル通信の従装置は、SOF501とそれに続くID502によってそのIDの従装置が有効となる。このため、これらと同じビットパターンが3線シリアル通信の従装置に関する通信の中に存在する場合には、そのIDを持った2線シリアル通信の従装置が有効となって誤動作を起こすことがある。なお、この逆で、3線シリアル通信の従装置が2線シリアル通信の従装置に関する通信によって誤動作を起こすことはない。これは、3線シリアル通信の従装置が、上述したようにCS信号によって有効とされ、2線シリアル通信の従装置に関する通信においては、3線シリアル通信の従装置を選択するためのCS信号が有効化されることはないからである。
【0018】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置を同一の通信バス上に接続する場合に、特に、2線シリアル通信の従装置に誤動作を生じないようにすることが可能なインクジェット記録装置、インクタンクおよびデータ通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そのために本発明では、インクを貯留したインクタンクと該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクタンクおよび記録ヘッドを用いる前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続構造を具え、前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とする。
【0020】
他の形態では、インクを貯留したインクタンクと該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるととともに情報記憶媒体選択信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクタンクおよび記録ヘッドを用いる前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続を、前記インクタンクおよび記録ヘッドが前記インクジェット記録装置の本体側に装着されたときに形成するための信号接続構造を具え、前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行うことを特徴とする。
【0021】
また、インクを貯留したインクタンクであって、該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置で用いられるインクタンクにおいて、該インクタンクは情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択される第1の従装置であり、前記インクジェット記録装置は、前記第1従装置および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択される記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続を、前記インクタンクが前記インクジェット記録装置の本体側に装着されたときに形成するための信号接続構造を具え、前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とする。

【0022】
さらに、情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択される第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択される第2の従装置と、主装置との間で、前記第1従装置と前記第2従装置を共通に接続するバスを含んだ信号接続構造を介して通信を行うためのデータ通信システムにおいて、前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上の構成によれば、第1の従装置に対して所定期間応答を行なわないように指示する無応答データを送信し、その後、第2の従装置に対して通信を行うとともに、第1の従装置は上記無応答データに対応して上記所定期間無応答となる処理を行うので、第1従装置と第2従装置を同一の通信バス上に接続する場合に、特に、その所定期間に行われる第2の従装置に対する通信によって第1の従装置が誤動作を起こすことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを示す斜視図である。同図に示すように、本体カバー1201を開放した状態で示されるプリンタ1200において、ユーザは、記録ヘッドユニット1105およびインクタンク1K、1Y、1M、1C(以下では、これらのインクタンクを同一の符号「1」で示す場合もある)を搭載したキャリッジ1205が移動する範囲およびその周辺を見ることができる。本実施形態においては、本体カバー1201を開けると、キャリッジ1205が自動的に同図に示すほぼ中央の位置(以下、「タンク交換位置」ともいう)へ移動するシーケンスが実行され、ユーザは、このタンク交換位置でそれぞれのインクタンクの交換操作などを行うことができる。
【0026】
本実施形態のプリンタは、記録ヘッドユニット1105に各色のインクに対応したチップ形態の記録ヘッド(不図示)が設けられ、これら各色の記録ヘッドがキャリッジ1205の移動によって用紙などの記録媒体に対して走査を行い、この走査の間に記録媒体にインクを吐出して記録を行うものである。すなわち、キャリッジ1205は、その移動方向に延在するガイド軸1207と摺動可能に係合するとともに、キャリッジモータおよびその駆動力伝達機構によって、上述の移動をすることができる。そして、K、Y、M、Cのインクに対応したそれぞれの記録ヘッドでは、フレキシブルケーブル1206によって、本体側の制御回路から送られる吐出データに基づいてインク吐出が行われる。また、これとともに記録ヘッドはその情報が書き込まれたEEPROMを備え、図7に示した、共通バス接続による3線シリアル通信によってプリンタ本体側と通信することが可能となる。
【0027】
プリンタ1200には、また、紙送りローラや排紙ローラなどの紙送り機構が設けられ、自動給紙装置1202から給紙された記録媒体(不図示)を排紙トレイ1203まで搬送することができる。また、キャリッジ1205には、インクタンクホルダを一体に備えた記録ヘッドユニット1105が着脱自在に装着され、一方、この記録ヘッドユニット1105に対してそれぞれのインクタンク1がカートリッジの形態にて着脱自在に装着される。すなわち、キャリッジ1205に記録ヘッドユニット1105を装着し、さらに記録ヘッドユニット1105にインクタンク1を装着することが可能であり、本実施形態ではインクタンク1は記録ヘッドユニット1105を介してキャリッジ1205に着脱可能である。
【0028】
記録動作では、記録ヘッドが上記の移動によって走査しその間にそれぞれの記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して記録ヘッドにおける吐出口に対応した幅の領域に記録を行うとともに、この走査と次の走査の間に、上記紙送り機構によって上記幅に応じた所定量の紙送りを行うことにより、記録媒体に対して順次記録を行ってゆく。また、上記のキャリッジ移動による記録ヘッドの移動範囲の端部には、各記録ヘッドについてその吐出口が配設された面を覆うキャップなどの吐出回復ユニットが設けられている。これにより、記録ヘッドは所定の時間間隔で回復ユニットが設けられた位置へ移動して、予備吐出などの回復処理を行う。
【0029】
各インクタンク1のタンクホルダ部を備えた記録ヘッドユニット1105には、各インクタンクに対応してコネクタが設けられており、それぞれのコネクタは装着されるインクタンク1に設けられている基板のパッドと接触する。これにより、それぞれのLED1101や情報記憶媒体である電子タグチップ(不図示)とプリンタ本体側との電気接続が形成される。そして、各インクタンクの電子タグチップについては、図7に示した、共通バス接続による2線シリアル通信によってプリンタ本体側と通信することが可能となる。
【0030】
また、各インクタンクのLED1101の制御は、上記のタンク交換位置では、それぞれのインクタンク1についてインク残量が少なくなったとき、その該当するインクタンク1のLED1101を点灯もしくは点滅させる。また、キャリッジの移動範囲において、上述の回復ユニットが設けられた位置と反対側の端部付近には、受光素子を有した第1受光部1210が設けられている。これにより、キャリッジ1205の移動に伴ってそれぞれのインクタンク1のLED1101がこの受光部1210を通過する際にLED1101を発光させ、その光を受光したときのキャリッジ1205の位置に基づいてキャリッジ1205におけるそれぞれのインクタンク1の位置を検出することができる。さらに、LEDの点灯などの制御の他の例として、上記タンク交換位置で、インクタンク1が正しく装着されたときにそのタンクのLED1101を点灯させる制御を行う。これらの制御は、記録ヘッドのインク吐出などの制御と同様、フレキシブルケーブル1206を介して本体側の制御回路からそれぞれのインクタンクに対して制御データ(制御信号)が送られることによって実行される。
【0031】
図2は、本プリンタに関するデータ処理および動作制御を実行する制御回路300の構成を示すブロック図である。同図において、CPU1301は、ROM1303に格納されているプログラムに従い、後述される通信処理を含む処理を実行する。また、RAM1302は、CPU1301による処理実行の際に、ワークエリアとして用いられる。
【0032】
図2において模式的に示されるように、キャリッジ1205に搭載された記録ヘッドユニット1105は、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各インクを吐出するための複数の吐出口が形成されたそれぞれの記録ヘッド1105K、1105Y、1105M、1105Cを備えている。そして、記録ヘッドユニット1105のホルダには、これらの記録ヘッドに対応してインクタンク1K、1Y、1M、1Cが着脱自在に搭載される。なお、インクの色ないしインクタンクの個数はこれらに限られず、また同系色であっても濃度の異なるインクが用いられるものでもよいことは勿論である。
【0033】
それぞれのインクタンク1には、前述したように、電子タグチップ、LED1101、その表示制御回路、および、接触端子であるパッドなどが設けられた基板1100が取り付けられている。そして、インクタンク1が記録ヘッドユニット1105に正しく装着されたとき、上記基板1100上のパッドが記録ヘッドユニット1105においてインクタンク1にそれぞれ対応して設けられたコネクタと接触する。そして、キャリッジ1205に設けられたコネクタ(不図示)と本体側の制御回路1300とはフレキシブルケーブル1206を介して信号接続する。さらに、キャリッジ1205に記録ヘッドユニット1105が装着されることにより、キャリッジ205の上記コネクタと記録ヘッドユニット105の上記コネクタとが信号接続する。以上の接続構成により、本体側の制御回路1300とそれぞれのインクタンク1との間で信号の授受を行うことが可能となる。また、図7に示す共通バス接続による2線シリアル通信および3線シリアル通信のための接続も行われる。
【0034】
記録ヘッド1105K、1105Y、1105M、1105Cにおけるそれぞれのインク吐出の制御についても、同様に、フレキシブルケーブル1206、キャリッジ1205のコネクタ、および記録ヘッドユニットのコネクタを介してそれぞれの記録ヘッドに設けられた駆動回路などが、本体側の制御回路1300と信号接続し、これにより、制御回路1300はそれぞれの記録ヘッドにおけるインク吐出などを制御することができる。
【0035】
キャリッジ1205の移動範囲の一方の端部近傍に設けられる第1受光部1210は、インクタンク1のLED1101からの発光を受けて、それに応じた信号を制御回路1300へ出力する。制御回路1300は、後述のように、この信号に基づき、それぞれのインクタンク1のキャリッジ1205における位置を判断することができる。また、キャリッジ1205の移動経路に沿ってエンコーダスケール1209が設けられるともに、キャリッジ1205にはエンコーダセンサ1211が設けられる。このセンサの検出信号はフレキシブルケーブル1206を介して制御回路1300に入力し、これにより、キャリッジ1205の移動位置を知ることができる。この位置情報は、各記録ヘッド吐出制御に用いられるとともに、インクタンク位置を検出する光照合処理において用いられる。さらに、キャリッジ1205の移動範囲における所定の位置の近傍に設けられる第2発光/受光部1214は、発光素子と受光素子とを有し、キャリッジ1205に搭載されるそれぞれのインクタンク1のインク残量に係る信号を制御回路1300に出力する。そして、制御回路1300は、この信号に基づき、インク残量を検出することができる。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に係る2線シリアル通信の従装置であるインクタンクに設けられた電子タグチップの回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0037】
図3に示すように、2線シリアル通信の従装置は、先ずステップ101で、SOFを検出するまでビットストリームを検査する。すなわち、主装置からの通信が2線シリアル通信の従装置に対する通信であることを検出するまで、ステップ101の処理を続ける。SOFを検出するとステップ102でIDに相当する位置のビットストリームを解析し、ステップ103でIDを検出する。ここでIDが検出された場合は、すなわち、SOFで始まるこのトランザクションの通信が本処理を実行する2線シリアル通信の従装置であるインクタンクに対する通信である場合は、ステップ104でコマンドに相当するビットストリームを解析する。
【0038】
ステップ113では、ステップ104で解析したコマンドが無応答コマンドか否かを判断する。ここで、無応答コマンドないときは、ステップ105でコマンドを検出する。ここで、コマンドが検出されると、ステップ106でその検出したコマンドを実行し、ステップ107でその実行に基づいて主装置に対する応答処理を行なう。
【0039】
またステップ113で無応答コマンドを検出した場合には、ステップ114で主装置に対して無応答コマンドに対する応答処理を行い、その後ステップ112にて無応答コマンドの実行を行う。ここでステップ114における応答処理としては、無応答コマンドを検出したことを主装置に通知し、それを受けた主装置は通信回路上に3線シリアル通信のトランザクションを流す。また他の応答処理として、無応答コマンドを検出した後に主装置に対して何も通知しない場合もある。
【0040】
ステップ103の判定でID検出の結果が”N”となる場合、すなわち、SOFで始まるこのトランザクションの通信が本処理を実行する2線シリアル通信の従装置であるインクタンクに対する通信でない場合、ステップ108で無応答コマンド解析を行い、ステップ111でその結果に基づいて無応答コマンドが検出されるか否かを判断する。ここで、無応答コマンドを検出すると、ステップ112で、無応答コマンドの実行を行う。
【0041】
ステップ111またはステップ113で無応答コマンドを検出したときは、ステップ112で無応答コマンドを実行する。すなわち、SOFで始まるこのトランザクションの通信によって、IDが検出された2線シリアル通信のインクタンクおよびIDが検出されない2線シリアル通信のインクタンクのいずれについても、一律に同じタイミングで次のような無応答コマンドが実行される。無応答コマンドの実行は、具体的には、送信データで指定されたクロックの期間無応答(無効)となる処理である。これにより、このトランザクションの後に、上記指定された期間3線シリアル通信の従装置(本実施形態では、記録ヘッド)に対する通信が行われても、その通信によって同じバスに接続する2線シリアル通信の従装置(本実施形態では、インクタンク)が誤動作を起こすことを防止することができる。
【0042】
ステップ112で無応答処理を実行した後、ステップ109、110で1トランザクション分の時間待機するためのWAIT処理を行なった後、また、ステップ107で応答処理を行った後、次のトランザクションのステップ101のSOFの検出を行なう。
【0043】
図4は、3線シリアル通信の従装置と図3にて上述した処理を行う2線シリアル通信の従装置を同一の通信バスに接続した場合の通信の手順の一例を示すタイミングチャートである。
【0044】
図4において、851は2線シリアル通信の従装置に対する通信タイミングで無応答コマンドを通信しているトランザクション示している。一方、トランザクション851に続くトランザクション852は、3線シリアル通信の従装置に対する通信で、2線シリアル通信の従装置が無応答となっている状態の通信を示している。
【0045】
図4に示すタイミングチャートにおいて、CKは2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置の双方に対する通信クロック、CSは3線シリアル通信の従装置に対する情報記憶媒体選択信号(以下、チップ選択信号とも言う)、Dは2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置に対する双方向のデータ信号をそれぞれ示している。また、801は2線シリアル通信のトランザクションの開始を表すSOFコード、802は特定の2線シリアル通信の従装置を指定したID、803は2線シリアル通信の従装置に対するコマンドをそれぞれ示す。このコマンド803は、無応答命令を内容とするものである。このコマンドは、図3にて上述したように、それぞれの2線シリアル通信の従装置によって、ステップ113またはステップ111において無応答コマンドとして検出される。804は無応答命令の引数としての意味を持つ送信データを示し、無応答となるべきクロック数の情報を含んでいる。805は無応答命令に対する応答データを示す。
【0046】
上記2線シリアル通信の従装置に対するトランザクション851に続く、3線シリアル通信の従装置に対する通信トランザクション852では、その期間CS信号は3線シリアル通信の従装置の一つを選択するレベルとなり、ここではHighとなることで、3線シリアル通信の従装置の一つが選択されている。806は3線シリアル通信の従装置に対するコマンド、807は3線シリアル通信の従装置に対する送信データ、808は3線シリアル通信の従装置からのコマンド806に対する応答データをそれぞれ示す。
【0047】
以上のように、トランザクション852の期間、2線シリアル通信の従装置はいかなる通信データに対しても無応答状態に設定されているため、たとえ3線シリアル通信の従装置に対する通信の送信データ807や応答データ808に2線シリアル通信の従装置のSOFやIDと一致するビット列が存在していてもこの期間には一切応答しない。これにより、2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置を同一の通信バス上に接続する場合に、特に、2線シリアル通信の従装置に誤動作を生じないようにすることができる。
【0048】
(他の実施形態)
なお、上述した実施形態は、従装置としての、インクタンクや記録ヘッドが着脱できる構造のものでこれらを交換して用いることができる形態に係わるものであるが、本発明の適用はこの形態に限られない。記録ヘッドとインクタンクのいずれかあるいは双方が記録装置に対して予め取り付けられたものとして用いられ、ユーザが交換できない形態であっても、広く、チップ選択信号によって選択されて通信が行われる従装置と、チップ選択信号を用いず、IDデータ信号によって選択が行われて通信が行われる従装置とが同一のバスに共通に接続される形態には、いずれのものでも本発明を適用できることは上記の説明からも明らかである。
【0049】
また、インクジェット方式の記録装置に限られないことももちろんである。例えば、熱転写方式のようにインクリボンのカートリッジが色ごとに用いられてそれぞれのカートリッジにタグチップが設けられるような場合にも本発明を適用することができる。
【0050】
さらに、上述の実施形態では、インクタンクが2線シリアル通信を行い、記録ヘッドが3線シリアル通信を行うものとしたが、この例に限られないことはもちろんであり、インクタンクが3線シリアル通信を行い、記録ヘッドが2線シリアル通信を行うものでもよく、あるいはインクタンクと記録ヘッドとの間でこれらが混在していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを示す斜視図である。
【図2】図1に示すプリンタに関するデータ処理および動作制御を実行する制御回路300の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る2線シリアル通信の従装置であるインクタンクに設けられた電子タグチップの回路によって実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】3線シリアル通信の従装置と図3にて上述した処理を行う2線シリアル通信の従装置を同一の通信バスに接続した場合の通信の手順の一例を示すタイミングチャートである。
【図5】従装置としてのインクタンクと主装置としての記録装置本体とによって構成される、従来の3線シリアル通信のシステムを示す図である。
【図6】従装置としてのインクタンクと主装置としての記録装置本体とによって構成される、従来の2線シリアル通信のシステムを示す図である。
【図7】2線シリアル通信の従装置と3線シリアル通信の従装置を同じ通信線上にバス接続した構成を示す図である。
【図8】2線シリアル通信の一般的な動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【図9】図8に示す2線シリアル通信の一つのトランザクションについて、2線シリアル通信の従装置による処理を示すフローチャートである。
【図10】3線シリアル通信の一般的な動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1、1Y、1M、1C、1K インクタンク
1100 基板
1301 CPU
1302 RAM
1303 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留したインクタンクと該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクタンクおよび記録ヘッドを用いる前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続構造を具え、
前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを貯留したインクタンクと該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるととともに情報記憶媒体選択信号によって選択されるインクタンクまたは記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクタンクおよび記録ヘッドを用いる前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続を、前記インクタンクおよび記録ヘッドが前記インクジェット記録装置の本体側に装着されたときに形成するための信号接続構造を具え、
前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1従装置は、クロック信号とデータ信号の2種類の信号それぞれについてシリアル通信を行い、前記第2従装置は、クロック信号、データ信号および情報記憶媒体選択信号の3種類の信号それぞれについてシリアル通信を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
複数の前記第1の従装置のうち前記IDデータで選択された第1従装置のみが、前記無応答データに対して一定期間応答し、その後、前記所定期間無応答となることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数の前記第1の従装置のうち前記IDデータで選択されない第1従装置は、前記無応答データに対する応答を行なわず、その後、前記所定期間無応答となることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記所定期間は通信クロックの数で指定され、前記第1従装置は、通信クロックを計数することによって無応答となる期間を制御することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクを貯留したインクタンクであって、該インクタンクから供給されるインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置で用いられるインクタンクにおいて、
該インクタンクは情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択される第1の従装置であり、
前記インクジェット記録装置は、前記第1従装置および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択される記録ヘッドである第2の従装置と、前記インクジェット記録装置の本体側である主装置との間で通信を行うことができるよう、前記インクタンクと前記記録ヘッドを共通に接続するバスを含んだ信号接続を、前記インクタンクが前記インクジェット記録装置の本体側に装着されたときに形成するための信号接続構造を具え、
前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および
前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とするインクタンク。
【請求項8】
情報記憶媒体を備えるとともにIDデータ信号によって選択される第1の従装置、および情報記憶媒体を備えるとともに情報記憶媒体選択信号によって選択される第2の従装置と、主装置との間で、前記第1従装置と前記第2従装置を共通に接続するバスを含んだ信号接続構造を介して通信を行うためのデータ通信システムにおいて、
前記主装置は、前記信号接続構造を介し、前記第1従装置に対する通信でIDデータ信号の後に前記第2従装置が通信を行う期間を含む所定期間応答を行わない処理を行うための無応答データを送信し、その後、情報記憶媒体選択信号を送信して前記第2従装置に対する通信を行い、および前記第1従装置は、前記無応答データに対応して前記所定期間無応答となる処理を行うことを特徴とするデータ通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−181720(P2006−181720A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374488(P2004−374488)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】