説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】記録手段の交換時において、インクの無駄な消費を抑えつつ記録手段の内部に存在するインクを排出させることができ、ユーザ自身が容易に記録手段の交換作業を行うことが可能なインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【解決手段】インク吸引手段8,10によって記録手段1の内部に存在するインクを排出するときには記録手段1を大気連通口34に連通させ、排気動作を行うときには記録手段1を排気手段12,13に連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に記録ヘッドからインクを抜くインク抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録手段としてインクを吐出するノズルが配列されたインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドと称す)を用い、記録媒体上に文字や画像の記録を行う。このインクジェット記録装置は、高密度な画像を高速に記録できると共に、カラーインクを用いることによって安価かつ小型な構成でカラー画像を形成することができるという利点を有する。このため、近年では、プリンタ、複写機及びファクシミリ等に加え、A1版、A0版のような大判のシートに写真調の画像を記録するようなプロッターにまでインクジェット記録装置が使用されている。
【0003】
インクジェット記録装置に用いる記録ヘッドは、ノズルからインク滴を吐出させるための吐出エネルギを発生させるエネルギ発生手段を有している。エネルギ発生手段としては、ピエゾ素子などの電気機械変換素子を用いたもの、ヒータなどの電気熱変換素子を用いたものなどがある。このうち、電気熱変換素子を用いるものは、IC技術やマイクロ加工技術を応用することにより、高密度実装化が容易で製造コストを低く抑えることができるという利点を有している。この電気熱変換素子を用いた記録ヘッドでは、ノズル内のインクを電気熱変換素子によって加熱し、インクに膜沸騰を発生させて気泡を発生させ、その気泡の圧力によってインク滴を外部に吐出する。
【0004】
図6は従来のインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
ここに示すインクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッド1を着脱可能に保持しつつ主走査方向(X方向)に移動するキャリッジ2と、主走査方向と交差する方向(図6では紙面と直交する方向)に記録媒体を搬送する図外の搬送手段などを備える。記録ヘッド1は、柔軟性を有するインク供給チューブ4を介してメインのインクタンク(以下、メインタンク)3に連結されており、記録ヘッド1には、メインタンク3内に貯留されているインクが供給される。
【0005】
また、記録ヘッド1の主走査方向への移動範囲であり、かつ記録動作時の記録ヘッドの走査範囲外における記録ヘッドとの対向位置には、記録ヘッド1のノズルの吐出口が形成された吐出口面を外気から遮断可能なキャップ8が設けられている。このキャップ8は、記録動作停止時において吐出口面に当接して吐出口の周囲を覆い、ノズル内のインクの乾燥、吐出口面への塵埃の付着などを防止する保護部材として機能する。またキャップ8は、記録ヘッド1のノズル内に生じた増粘インクを吸引排出させる、いわゆる吸引回復などにも使用される。吸引回復では、まず、記録ヘッド1の吐出口面1aにキャップ8を当接させる。次いでキャップ8に連結されている吸引ポンプ10を駆動してキャップ8内に負圧を発生させる。この負圧によって記録ヘッド1のノズルから強制的にインクが吸引、排出され、ノズル内にはメインタンク3から供給された吐出に適したフレッシュなインクが充填される。
【0006】
ところで、上記のようなインクジェット記録装置では、記録ヘッド1によって記録動作を行うと、少しずつ記録ヘッド1内に気泡が蓄積される。この気泡は、インクの吐出に伴ってノズルから混入したり、吐出のための加熱によりインク中の溶存空気が析出したりすることによって記録ヘッド1内に蓄積され、これが吐出不良の原因となる。例えば、気泡の蓄積が著しく進行し、記録ヘッド1内のインクが無くなると、記録ヘッドは吐出不能状態に陥る。
【0007】
これに対し、特許文献1には記録ヘッド内に気泡が溜まることによる不都合を解消する技術が開示されている。この特許文献1におけるインクジェット記録装置では、メインタンク(図6ではメインタンク3に相当)から供給されるインクを一時的に貯留するサブタンクが記録ヘッド上に連結されている。また、サブタンクの上部空間には排気チューブおよび排気ポンプが接続されている。このため、記録ヘッドのノズル内に不要な気泡が混入した場合にも、その気泡をサブタンクの上部空間に導いた後、排気ポンプによって排気チューブを通じて外部へと排出することができ、記録ヘッドの内部に気泡が蓄積されるのを回避することができる。
【0008】
また、インクジェット記録装置では、記録ヘッドが寿命に達し、交換が必要になることがある。この場合、交換が必要な記録ヘッドを本体から取り外し、新しい記録ヘッドを装着することで記録装置を継続稼動させることができる。しかし、使用していた記録ヘッドをインクを含んだままの状態で装置本体から取り外すと、記録ヘッド内からインクが漏出し、記録装置本体内などに付着することがある。そのため、インクが充填された状態で記録ヘッドを交換する場合には、取り扱いを熟知した専門家(サービスマン等)に作業を依頼する必要があり、その間、ユーザは記録装置を稼動させることができなくなるという不都合が生じる。従って、ユーザ自身が簡便に記録ヘッドを交換することができ、インクによる装置内の汚損も回避できるようにすることが望まれており、そのためには、記録ヘッドを本体から取り外す前に、記録ヘッド内のインクを除去することが必要となる。
【0009】
図6に示す記録装置において記録ヘッド1内のインクを除去する場合には、まずメインタンク3をインク供給チューブ4から取り外して記録ヘッドを大気に連通可能な状態にし、その後、前述の吸引回復時と同様に、キャップ8と吸引ポンプ10とによってノズルから強制的にインクを吸引し、排出させる。記録ヘッドを大気に連通可能な状態にする理由は、吸引動作によってメインタンク3から記録ヘッド内に新たなインクが導入されるのを避けるためである。また、記録ヘッドには、特許文献1に示されるような排気機構における排気チューブの一端が連結されている場合もある。しかし、排気チューブの他端側はポンプに連結されているため、排気チューブ大気へ開放することは困難になっている。このため、記録ヘッド1を大気に連通可能にするためには、インク供給チューブ4からメインタンク3を取り外すことが必要となる。
【0010】
【特許文献1】特開2000−301737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記方法では、記録ヘッド1内だけでなく、インク供給チューブ4内のインクも全て排出する必要があり、インクが無駄に消費されることとなる。特に、大判の記録装置では、記録ヘッドの主走査方向における移動幅が長く、それに伴ってインク供給チューブ4も長いことから、インク消費量の無駄は一層多くなり、ランニングコストの増大を招くという問題がある。
【0012】
本発明は、記録手段の交換時において、インクの無駄な消費を抑えつつ記録手段の内部に存在するインクを排出させることができ、ユーザ自身が容易に記録手段の交換作業を行うことが可能なインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
すなわち、本発明の第1の形態は、インクの吐出が可能なノズルを有する記録手段を着脱可能に保持すると共に、前記記録手段に対して前記インクを供給するインク供給源を備えたインクジェット記録装置であって、前記記録手段の内部に蓄積された空気を前記記録手段の外部へと吸引し排出させる排気動作を可能とする排気手段と、前記記録手段の内部に存在するインクを前記ノズルを介して外部へと吸引するインク吸引動作を可能とするインク吸引手段と、前記記録手段を大気に連通させるための大気連通口と前記排気手段とを、前記記録手段に選択的に連通させる選択手段と、を備え、前記選択手段は、前記インク吸引手段によって前記記録手段の内部に存在するインクを排出するときには前記記録手段を前記大気連通口に連通させ、前記排気動作を行うときには前記記録手段を前記排気手段に連通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インクを無駄に排出することなく、記録ヘッド内のインクのみを排出することができる。また、取り外した記録ヘッドからインクが漏出することがなくなり、記録ヘッドの交換作業がユーザ自身でも行えるようになる。このため、交換作業をサービスマンなどに依頼していた従来に比べ記録装置の稼動停止時間を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の第1の実施形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。なお、図6に示した従来のインクジェット記録装置と同一もしくは相当部分には同一符号を付す。
図1に示す本実施形態におけるインクジェット記録装置においても、記録ヘッド1は、記録装置の外殻をなす装置本体内に設けられたガイドレール2aに沿って主走査方向(X方向)に移動可能なキャリッジ2に着脱可能に搭載される。但し、本実施形態における記録ヘッド1は、図3に示す後述のサブタンク6と一体的に設けられた構成となっており、キャリッジ2に対する着脱はサブタンク6と共に行われる。なお、本実施形態では、記録ヘッド1とサブタンク6とにより記録手段が構成されている。
【0017】
また、記録装置本体内にはインク供給源としてのメインのインクタンク(メインタンク)3が固定されており、この内部のインクが少なくなったときには新たなメインタンク3に交換する。記録ヘッド1のサブタンク6とメインタンク3とは、インク供給チューブ4によって連結されている。記録動作においてキャリッジ2は主走査方向(X方向)に沿って往復移動するので、そのキャリッジ2の移動を妨げないように、インク供給チューブ4は柔軟性のあるチューブ(例えばシリコンチューブ、ポリエチレンチューブなど)によって構成されている。さらに、メインタンク3には大気連通孔(不図示)が設けられ、メインタンク3の内部は大気と連通している。従って、記録ヘッド1からインクが吐出されるとメインタンク3からはインク供給チューブ4を経てインクが補給されていく。
【0018】
一方、記録ヘッド1の主走査方向への移動範囲であり、かつ記録動作時の記録ヘッド1の走査範囲外における記録ヘッドとの対向位置にはキャップ8が設けられている。本実施形態では、このキャップ8の設けられている位置が記録ヘッド1の主走査方向への移動の基準位置(ホームポジション)となっている。キャップ8は、図外のキャップ昇降機構によって昇降する。上昇時にはキャップ8の周縁部がホームポジションに位置する記録ヘッド1の吐出口が形成されている吐出口面に当接し、吐出口を外気から遮断する密閉空間を形成する。またキャップ8の下降時には、記録ヘッドの移動を妨げない位置に退避する。
【0019】
さらに、キャップ8は吸引チューブ9を介して吸引ポンプ10に連結されている。この吸引チューブ9において、このキャップ8と吸引ポンプ10との間には三方向弁11(第1の三方向弁)が連結されている。三方向弁11の他の連通孔は排気チューブ12に接続されている。吸引ポンプ10の流出口には、廃インクチューブ13が連結されており、吸引ポンプ10から排出される廃インクを図示しない廃インクタンクへと排出する。排気チューブ12は、後述する記録ヘッド1のサブタンク6における排気口14(図3参照)と三方向弁11とを連通させるものとなっている。さらに、本実施形態では、排気口14側の排気チューブ12と、大気連通口34側の排気チューブ12と、大気連通口34のいずれか2つを選択的に連通可能な三方向弁33(第2の三方向弁)が設けられている。なお、本実施形態における三方向弁11,34は、インクジェット記録装置の制御装置からの信号に応じて切換えが可能な電磁弁によって構成されている。また、本実施形態では、上記のキャップ8と吸引チューブ9と吸引ポンプ10とにより記録ヘッド1のノズル5からインクを強制的に吸引するインク吸引動作が可能なインク吸引手段が構成されている。さらに、排気チューブ12と吸引ポンプ10とにより記録ヘッド1の内部に蓄積された空気を記録ヘッド1の外部へと吸引し排出させる排気動作を行う排気手段が構成されている。
【0020】
上記の記録装置で記録を行う場合、記録ヘッド1内の圧力(サブタンク6内の圧力)を負圧(大気圧より低い圧力)に保つ必要がある。この負圧が小さ過ぎると、ノズル5の先端に異物やインクが付着した場合、インクのメニスカスが崩れてインクがノズル5から漏れ出てしまうことがある。また逆に負圧が大き過ぎると、吐出時にインクに与えられるエネルギよりもノズル5内にインクを引き戻す力が強くなってしまい、吐出不良の原因となる。従って、ノズル5内における負圧は、大気圧よりも若干低い一定の範囲に保たれていることが好ましい。
この負圧の範囲は、ノズル5の数、断面積、発熱抵抗素子の性能等により異なるが、例えば、−40mmAq(約−0.0039atm=−0.3923kPa)〜−200mmAq(約−0.0194atm=−1.9613kPa)(ただし、インクの比重≒水の比重とする)の範囲であることが好ましい。
【0021】
そのため本実施形態では、サブタンク6内の圧力に応じて、サブタンク6とメインタンク3との連通、遮断を切換えるよう開閉する弁機構(圧力調整手段)22を、記録ヘッド1(サブタンク6)の接続部24に連結している。図2はこの圧力調整弁22の断面図である。
弁機構22には、図2に示すように、インク流入口26及びインク流出口27にそれぞれ連通した圧力室25と、インク流入口26を開閉する弁体28とが設けられている。弁体28は、支点29bを中心に回動可能に支持された作動レバー29の一端に固定されている。この作動レバー29の回動に伴って、弁体28は、インク流入口26と圧力室25を連通状態にする開弁位置と、インク流入口26と圧力室25を非連通状態にする閉弁位置(図に示す位置)との間で変位可能なように設けられている。弁体28は、作動レバー29の一端部に圧接する閉弁ばね30により、通常は閉弁位置に向う方向(閉弁方向)に付勢されている。
【0022】
また、作動レバー29は、フィルム部材31に接続されており、フィルム部材31が変形すると、それに伴って作動レバー29が変位するようになっている。また、フィルム部材31は、圧力調整ばね32によって外方へ膨張する方向(図では右方向)に付勢されている。従ってこの閉弁ばね30による閉弁方向の付勢力は、圧力調整ばね32による開弁方向の付勢力を減少させるように作用する。
【0023】
このように構成された弁機構22では、圧力室25内の圧力が大気圧より低くなり、その負圧が所定の圧力以下となると、フィルム部材31が圧力調整ばね32の付勢力に抗して、縮小方向(図では左方向)に変形し、弁体28が開弁位置へと移動する。すなわち、フィルム部材31の左方向へと変形すると、作動レバー29は支点29aを中心に図中、反時計方向へと移動し、弁体28が開弁状態に変位する。従って、この弁機構22では、閉弁ばね30のばね定数と圧力調整ばね32のばね定数との関係を適切に設定することにより、圧力室25内の圧力が所定の圧力以下になったときに、弁体28を開弁させるようにすることができる。
【0024】
上記のように構成された弁機構22が、本実施形態のインクジェット記録装置では、図3に示すように、記録ヘッド1に設けられたサブタンク6に連結されている。このため、記録動作によってサブタンク6内に貯蔵されているインク量が減少すると、サブタンク6内の負圧が高まり、弁機構22の圧力室25内のインクが記録ヘッド1へと供給される。圧力室25内のインクが減少して圧力室25の圧力が所定の圧力より低くなると、弁体28は開弁状態となり、インク流入口26側から圧力室25内へとインクが供給される。圧力室25内のインクが増加することに伴い圧力室25の圧力が所定の圧力まで上昇すると、縮小方向へと弾性変形していたフィルム部材31が元の形態に戻るため、弁体28が圧力調整用ばね32の付勢力により開弁位置から閉弁位置へ変位する。これにより、インク流入口26側から圧力室25内へのインクの供給は阻止される。
【0025】
上記のように、本実施形態では弁機構22を用いることにより、記録ヘッド1内のインクが消費されても、記録ヘッド1及びサブタンク6内の圧力を所定の負圧範囲に保つことができる。例えば本実施形態では、圧力室25内の圧力が−150mmAq以下になると弁が開き、インクが記録ヘッド1へと供給されるように構成されている。その結果、記録ヘッド1内の圧力が徐々に上昇し、それに伴って圧力室25の圧力も上昇し、弁が閉じてインクの供給が停止される。このように、インクの消費にともなって、インクが適宜供給されるため、記録ヘッド1内の圧力が所望の負圧内に維持され、ノズル内に適正な状態でメニスカスを形成することができる。
【0026】
ところで、インクジェット記録装置では、記録動作に伴って少しずつ記録ヘッド1内に気泡が蓄積される。この気泡は、インクの吐出に伴ってノズル5から混入したり、吐出のための加熱によりインク中の溶存空気が析出したりして記録ヘッド1内に蓄積され、これが記録ヘッドの吐出不良を発生させる要因となっている。特に、気泡の蓄積が著しく進行し、記録ヘッド1内のインクが無くなると、記録ヘッドは吐出不能状態に陥る。
【0027】
こうした問題を解消するため、本実施形態では、記録ヘッド1上に設けたサブタンクに空気が蓄積されても、廃インクを多量に発生させることなく、このサブタンク6内の空気のみを排出する排気手段が設けられている。
この排気手段について、図3及び図4の縦断側面図を用いて説明する。
記録ヘッド1はインクを吐出するノズル5を有する。また、記録ヘッド1は、インク供給チューブ4より供給されたインクを一時的に貯蔵するサブタンク6と、記録ヘッドケース7とを有する。ノズル5内には吐出エネルギを発生させるためのヒータ、ノズル5にサブタンク6からのインクを供給する液室などが設けられている。サブタンク6はフロート部15とエアバッファ部16の二つの空間に分けられている。フロート部15の中には球状のフロート17が封入されている。フロート17の材質としてはインクよりも比重が小さく、かつインクと反応しにくい材質が選ばれる。例えばポリプロピレンなどがフロート17として用いられる。また、フロート17の材質がインクより比重の大きいものであっても、フロートが中空であり部品全体の比重がインクより小さければよく、要はインクに浮かび得るものであればよい。
【0028】
仕切板18の上部はフロート部15とエアバッファ部16を完全に遮断している。仕切板18の下部には縦方向に連続したスリット19が形成されている。スリット19の幅はフロート17の径のよりも狭く形成されているため、フロート17がエアバッファ部16へ移動するのを阻止する一方で、インクや空気が自由に通過できる構成となっている。フロート部15の上部には円錐状の形状をした円錐部20が設けられ、この円錐部20の頂点に相当するところに、排気口14、排気チューブ12の接続部21が形成されている。
【0029】
一方、エアバッファ部16には、前述の弁機構22のインク流出口27を接続するための筒状の接続部24が設けられ、この接続部24に弁機構22のインク供給チューブ4が接続されている。接続部24はサブタンク6内で下方に向けて突出している。このため、弁機構22の圧力室25内のインクとサブタンク6内のインクとは常に接した状態を保つようになっている。
【0030】
図3は、サブタンク6内の排気を終了した直後の状態を示している。この状態から記録動作あるいは回復動作を実行していくと、インクの吐出動作あるいは排出動作によってノズル5から微小な空気の泡が記録ヘッド内に浸入したり、インク内に溶存していた空気が熱によって析出したりしてサブタンク6内に少しずつ空気が蓄積される。その結果、図4に示すようにサブタンク6内に貯留されているインク面が下がってくる。
【0031】
ここで、サブタンク6の中の空気を排出する排気モードについて説明する。以下、図4に示した状態から排気動作を開始する場合について説明する。
排気動作を開始する場合には、まずキャリッジ2がホームポジションに移動し、キャップ8が上昇して記録ヘッド1の吐出口面1aに当接してノズル5を覆い、ノズル5を外気から遮断する。そして、吸引チューブ9に設けられた三方向弁11によって、キャップ8に連結された吸引チューブ9を吸引ポンプ10及び排気チューブ12から遮断し、かつ排気チューブ12と吸引ポンプ10とを連通させる。さらに、三方弁11を切換えることにより排気口14を排気チューブ12を介して吸引ポンプ10に連通させ、かつ排気チューブ12を大気から遮断する。
【0032】
その後、吸引ポンプ10を駆動すると、排気チューブ12からサブタンク6内の空気が吸引される。このとき、吸引ポンプ10がサブタンク6内の空気を少しずつ吸引すると、サブタンク6内の負圧が高まるため、弁機構22の圧力室25内のインクがサブタンク6へと供給される。その結果、弁機構22のフィルム部材31が変形して弁機構22の弁体28が開弁位置に移動し、インクタンク3からインク供給チューブ4を通って圧力室25及びサブタンク6にインクが供給されてくる。サブタンク6内に存在する空気は、サブタンク6に供給されたインクの容積分だけ排気チューブ12を通ってサブタンク6の外に出ていく。このとき、図4に示す状態では、インクの液面はフロート部17及びエアバッファ部16において均一に上昇していくが、インクの液面がスリット19の最上部まで達すると、フロート部15とエアバッファ部16との中の空気は完全に遮断されるため、それ以降はフロート部15内の空気だけが排出される。空気が排出されてインク面が上昇すれば、それに応じてフロート17も上昇する。
【0033】
フロート17は、インクの液面が仕切板18のスリット19の下端部に達するまでは、フロート部15内で水平方向の位置が定まらないまま上昇してくる。しかし、インクの液面がスリット19の下端部に達すると、その後は円錐部20の仮想頂点に近づくように上昇し、最終的には図3に示すように円錐部20の内面に全周が接触する位置で停止し、排気口14を塞いで排気が終了し、図3の状態に戻る。
【0034】
このように排気動作が行われても、エアバッファ部16の上部は常に空気で満たされる。従って、キャリッジ2が往復移動したときでも、その空気が圧縮、膨張してダンパ的機能を果たすため、サブタンク6内の圧力変動を最小限に抑えることができる。
【0035】
次に本実施形態の特徴の一つである記録ヘッド1内のインク排出動作について説明する。
記録ヘッド1の交換動作が指示されると、記録ヘッド1は回復ユニットのキャップ8の上に移動する。次いで、キャップ8が上昇し記録ヘッド1の吐出口面1aに当接してノズル5の吐出口を覆う。さらに、三方向弁33によって排気口14側の排気チューブ12と大気連通口34とを連通させ、三方向弁33と三方向弁11とは遮断した状態にある。これにより、サブタンク6が大気に開放される。次に三方向弁11によって吸引チューブ9と吸引ポンプ10とを連通させ、これらと排気チューブ12とを遮断した状態にする。その後、吸引ポンプ10を駆動する。吸引ポンプ10が駆動されるとキャップ8内の圧力が下がり、ノズル5から記録ヘッド1内のインクが排出される。キャップ8内に排出されたインクは、三方向弁11、吸引ポンプ10を通過した後、図示しない廃インクタンクに排出される。
【0036】
記録ヘッド1からインクが排出されると、排出したインク量と略同量の空気が三方向弁33に連通している大気連通口34から排気チューブ12及び排気口14を通じて記録ヘッド1内へ流入する。但し、三方向弁33や排気チューブ12における空気の流抵抗のため、三方向弁33に連結されている大気連通口34とサブタンク6の排気口14との間には圧力損失が発生する。そのためサブタンク6内の圧力は大気圧より若干低くなる。
【0037】
図5に、吸引ポンプ10の駆動速度と三方向弁33により排気チューブ12が大気開放された状態での記録ヘッド1のサブタンク6内の圧力との関係を示す。本実施形態の場合、吸引ポンプ10の駆動速度が定格速度の75%付近で、サブタンク6内の圧力が、−150mmAqに達する。従って吸引ポンプ10駆動速度を75%以上にすると、サブタンク6内の圧力が弁機構22の作動圧である−150mmAq以下になる。その結果、弁機構22の弁体28が開弁位置へと移動し、メインタンク3から圧力室25、サブタンク6及び記録ヘッド1内にインクが供給されてしまい、記録ヘッド1及びサブタンク6からのインクの排出動作が行われず、交換作業が困難になる。
【0038】
そこで、記録ヘッド1及びサブタンク6内へのインクの供給を遮断しつつ、記録ヘッド1へのインクを排出させるためには、吸引ポンプ10の駆動速度を75%未満にする必要がある。本実施形態では、吸引ポンプ10の駆動速度を50%として、サブタンク6内の圧力が−150mmAqを下回らないように(負圧が増大しないように)設定している。そのため、記録ヘッド1内のインクを吸引しても、弁機構22は開弁せず、インク供給チューブ4側から新たにインクが供給されることはない。
【0039】
記録ヘッド1内のインクを全て排出することが可能な時間だけ吸引ポンプ10を駆動した後、吸引ポンプ10を停止する。以上により、記録ヘッド1内のインクが全て排出される。その後、三方向弁34を切換えて、排気チューブ12を大気から遮断する。ここで、キャップ8を記録ヘッド1から離間させ、キャリッジ2を移動させて記録ヘッド1を交換可能な位置まで移動させる。次に記録ヘッド1をキャリッジ2から取り外し、新しい記録ヘッド1をキャリッジ2に取り付ける。このとき、取り外した記録ヘッド1及びサブタンク6内にはインクが残留していないため、記録ヘッド1から漏出したインクで装置内などが汚損されることはなくなる。記録ヘッド1が交換された後は、記録ヘッド1へのインク充填動作を行い、記録ヘッド1を記録可能な状態にすることで交換後の動作は完了する。
【0040】
このように、本実施形態によれば、交換作業において記録ヘッド1(サブタンクを含む)からのインクの漏出に注意を払う必要がなくなり、取り外し作業が簡便なものとなる。また、記録ヘッド1からインクを排出させるに際し、従来のようにインク供給チューブをメインタンクから取り外すといった煩わしい作業が不要になり、記録ヘッド1及びサブタンク6から容易にインクを排出させることができる。このため、サービスマンなどに依頼しなくとも、ユーザ自身で容易かつ迅速に交換作業を行うことができるようになり、記録装置の稼働停止時間も大幅に削減される。また、サブタンク6をインク供給チューブ4から遮断した状態で、記録ヘッド1及びサブタンク6内のインクのみを排出でき、インク供給チューブ内に存在するインクを無駄に排出する必要がないため、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態では、サブタンク6内に溜まった空気を排出させる排気動作と、記録ヘッド1に対するインクの吸引回復動作のそれぞれに、同一のポンプを用いるように構成されているため、インクジェット記録装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0042】
(他の実施形態)
上記実施形態では、記録ヘッド1とサブタンク6とを一体に構成したものを記録手段とした場合を例に採り説明したが、記録手段をサブタンクを持たない記録ヘッド単体によって構成する場合にも本発明は適用可能である。すなわち、装置に固定されたメインタンクからインク供給チューブを介して記録ヘッドに直接的にインクを供給するインクジェット記録装置にも本発明は適用可能である。この場合、記録ヘッドには図3に示すような排気口14に相当する開口部を形成し、その開口部に図3に示した排気チューブ(排気流路)を連結すればよい。
【0043】
また、本実施形態では、排気動作と吸引回復動作のそれぞれを、共通のポンプ(吸引ポンプ10)を用いて行うようにしているが、各動作をそれぞれ異なるポンプ(第1のポンプと第2のポンプ)の駆動力によって行うようすることも可能である。この場合にも、交換に先立って記録ヘッド1からインクを排出させることができ、上記実施形態と同様にインクの無駄な消費を抑えてランニングコストを低減することが可能になると共に、交換された記録ヘッドからのインクの漏出を防止することができる。なお、この場合には、ポンプを2つ設ける必要があるが、三方弁11は省略することが可能になり、配管および弁の駆動制御は容易になる。
【0044】
さらに、上記実施形態では、サブタンク6の接続部24にサブタンク6及び記録ヘッド1内の負圧を安定化させるために、一定の負圧が発生した時点で開弁する弁機構22を設けた。しかし、メインタンク3と記録ヘッド1との間に、サブタンク6(または記録ヘッド1)内の圧力に拘わりなくインク供給流路の連通、遮断を切換える切換え弁を設けるようにしてもよい。さらに、連通遮断を切換え得る弁機構を設けず、サブタンク6に(サブタンクを用いない場合には記録ヘッド1に)、インク供給チューブ4を直接、接続するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態における圧力調整弁の断面図である。
【図3】本発明の実施形態における排気手段を示す縦断側面図であり、サブタンク内に空気が蓄積された状態を示している。
【図4】本発明の実施形態における排気手段を示す縦断側面図であり、サブタンク内の排気を終了した直後の状態を示している。
【図5】本発明の実施形態における吸引ポンプの駆動速度と、三方向弁33により排気チューブが大気開放された状態での記録ヘッドのサブタンク内の圧力との関係を示すグラフである。
【図6】従来のインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 記録ヘッド
6 サブタンク
10 吸引ポンプ
11 三方向弁
12 排気チューブ
14 排気口
15 フロート室
16 エアバッファ室
17 フロート
22 圧力調整弁
25 圧力室
26 インク流入口
27 インク流出口
28 弁体
29 作動レバー
30 閉弁ばね
31 フィルム部材
32 圧力調整ばね
33 三方向弁
34 大気連通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの吐出が可能なノズルを有する記録手段を着脱可能に保持すると共に、前記記録手段に対して前記インクを供給するインク供給源を備えたインクジェット記録装置であって、
前記記録手段の内部に蓄積された空気を前記記録手段の外部へと吸引し排出させる排気動作を可能とする排気手段と、
前記記録手段の内部に存在するインクを前記ノズルを介して外部へと吸引するインク吸引動作を可能とするインク吸引手段と、
前記記録手段を大気に連通させるための大気連通口と前記排気手段とを、前記記録手段に選択的に連通させる選択手段と、を備え、
前記選択手段は、前記インク吸引手段によって前記記録手段の内部に存在するインクを排出するときには前記記録手段を前記大気連通口に連通させ、前記排気動作を行うときには前記記録手段を前記排気手段に連通させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク供給源と記録手段との連通、遮断を切換える弁機構をさらに備え、
前記弁機構は、前記インク吸引手段によって前記記録手段の内部に存在するインクを排出するときには前記インク供給源と前記記録手段とを遮断し、前記排気動作を行うときには前記インク供給源と前記記録手段とを連通させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記弁機構は、前記記録手段の内部の圧力が大気圧よりも低い所定の圧力以下であるときには、前記インク供給源と前記記録手段とを連通させ、前記記録手段の内部の圧力が前記所定の圧力より高いときには、前記インク供給源と前記記録手段とを遮断することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク吸引手段は、前記所定の圧力より高く、かつ大気圧より低い圧力で前記記録ヘッドのノズルからインクを吸引することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記排気手段は、前記記録ヘッドに連通する排気チューブと、前記排気チューブに連通可能なポンプとにより構成され、前記排気動作は、前記排気チューブに連通した前記ポンプが前記排気チューブを介して前記記録手段の内部に蓄積された空気を吸引することにより行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク吸引手段は、前記記録手段における前記ノズルの吐出口を覆って外気から遮断するキャップと、前記キャップに連通可能なポンプとにより構成され、前記インク吸引動作は、前記キャップに連通した前記ポンプが前記排気チューブを介して前記吐出口からインクを吸引することにより行われることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記キャップに連通可能なポンプと、前記排気チューブに連通可能なポンプとは、共通のポンプによって構成され、
前記共通のポンプは、第1の三方向弁によって前記キャップと、前記排気チューブとに選択的に連通可能であり、
前記選択手段は、前記記録ヘッドを前記第1の三方向弁と前記大気連通口とに選択的に連通させることを可能とする第2の三方向弁によって構成されることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−143135(P2010−143135A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324127(P2008−324127)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】